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甲第26号証

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甲第26号証
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日本生物地理学会会報
第四巻第 2004 年 12 月 20 日
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ゲンジボタルの発光パターンに及ぼす温度環境の影響
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照美 1 ・石) 1 秀之 l ・安達政伸 1 ・干場英弘 2
目立市中成沢 4-12・ i
茨城大学大学院理工学研究科
東京都板橋区高島平 1-9-1
大東文化大学第一高等学校
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(要約)
ゲンジボタルの発光パターンに及ぼす温度環境の影響を東日本型(秋田,福島から運搬)と西|
日本型(徳島,福岡から運扱)で調査した.ベンチレーターを用いて温度を変化させて調査したと
ころ,全体としてどの地域からの個体も高温環境 (25 0 C)に近づくにつれ発光間隔が短くなり‘低
温環境(l 5 0 C)に近づくにつれ長くなり,地域による個体差はむしろ認められなかった温度環境
がホタルの発光パターンに及ぼす影響は地域差異よりも大きいと考えられ,今後の詳細な確認
実験が待たれる.
連絡先:阿部宣男, hOlaru-~be@ ll1 v f. biglob己 .ne.jp
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ゲンジボタルの発光パターンに及ぼす温度環境の影響
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1860) は,栃木県栗山村から 1989 年にホタル
ホタルの発光パターンは,雌雄間のコミュ
飼育施設に導入し,累代飼育をしているもの
ニケーションの手段として知られている.日
である.
本に生息するゲンジボタルにおいて,その発
計測方法
光パターンは,現在 2 つのタイプとその中間
クリル製シャーレ(幅 20 Cffi ,高さ 20 cm) に
型の存在が報告されている (Ohba , 1984; 大場,
それぞれのホタル(雌雄混合)を入れ,ベンチ
1988). すなわち,西日本に生息する 2 秒間隔
レータで,温度を 15 0 C から 25 0 C まで温度を
で発光するタイフ\東日本に生息する 4 秒間
上昇させその後, 25 0 C から 15 0 C まで温度を
隔で発先するタイフ\およびその境界地域に
下降させた時(以下,“上昇下降測定円とする)
見られる 3 秒間隔で発光するタイプである.
と,この逆の温度変化,すなわち 25 0 C から
近年,この地域による発光パターンの相違を
15 0 C まで温度を下降させその後,再び 25 0 C
遺伝子レベルで確認する試みがなされ,ミト
まで温度を上昇させた時(以下,“下降上昇測
コンドリア COII 遺伝子の各地域における相
定"とする)のホタルの発光パターン(明滅間
違が調査されてきた(鈴木, 1
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隔の変化)を撮影・測定し,各温度での明滅
2002). その結果,発光パターンの地域性と矛
間隔の平均と信頼区間を求めた.このアクリ
盾しない見解が出ているが,地域によるぱら
ル製シャーレ内は, 6 つの小部屋に独立して
つきもあり,また上記遺伝子は発光を詞節す
分割され,雌雄の組み合わせ匹数は,常時 1: 5
る遺伝子とは独立しているため,遺伝子解析
である.したがって,雌雄を区別して計測を行
による発光パターンの地域性解明とは直接に
うことができる.なお,湿度は,いずれも 80-
結びつかないと考えられる.
95% の条件下で調査した.
ここでは図 l に示したようなア
我々は,ゲンジポタルの光のゆらぎと人の
ゲンジポタルの撮影は, 6 月上旬から下旬
感性を分析する退程(稲垣ほか, 2001; 阿部ほ
にかけて,ヘイケボタルの撮影は 7 月中旬か
か , 2003a; 阿部ほか、 2003b) で\上記 2 程の発
ら下旬にかけて,ホタル飼育施設において行
光パターンを識別することが難しいという事
った.1'最影には,デジタ lレビデオカメラ(シャ
実に遭遇した.したがって,本研究では,統計
ープ製 VL-PD7 ,京セラ製 DV-L200) を用い,
解析や画像解析を援用して,ホタルの発光パ
カメラは照射を弱めた赤外線暗視モード(ナ
ターンがその生息環境,特に温熱環境から受
イトショット)に設定した.時間分解能は,
ける影響を実験的に明らかにすることにした
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0s 巴c である.なお,正確な輝度データ採取
の妨げとなり得るピデオカメラの自動機能は
材料と計測方法
作動しないよう予め設定したすなわち,ホタ
ルの明滅に伴う自動露出補正機能の誤作動
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材料研究対象であるゲンジポタル (Luciola
が生じないようホワイトバランスを固定し,
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1854) は,東京都板橋区
また暗闇においてはオートフォーカスが正確
立エコポリスセンターホタル飼育施設(以下,
に機能しないことから手動焦点調節に切り換
ホタル飼育施設)で累代飼育している個体
え,パンフォーカス昂影とした.以上の工夫に
(1989 年に福島県大熊町から移入)の他,秋田
より,ホタルの淡い光の明 i戒を正確に撮影す
県本荘市,徳島県阿波池田町,福岡県北九州
ることが可能となった.なお,一連の計測で
市のそれぞれの地域からホタル飼育施設に成
は,湿度も同時に計測した.
虫を輸送したものである.比較として測定し
画像処理法
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ホタルの発光にはフラッシュ発光,刺激弱
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s1.実験装置の概略図.
光,微光,飛刻時の発光(矢島, 1978; Ohba ,
1983) などいくつかの様式が報告されている
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タルの明滅の一連の動画像を,動画像処理ボ
が,これら調査では小型のアクリル容器と言
ードを介してコンビューターに取り込んだ.
う閉鎖環境での詞歪であったため,容器内で
この際,動画像の時間分解能が 30 fralη 巴Is 己C
雌雄が発光したすべてのパターンを一括して
であることから,サンプリング周波数を 30 Hz
対象とし,温熱環境の変遷や地理的差異がホ
とし,総数 1024 f
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e(時間にして 34 , 1 sec 間)
タルの明滅間隔に及ぼす全体の傾向を調査す
の酉像を取り込んだ.この計測条件は,ホタ
るに至っていない.
ルの明滅持続時間による生態的な要因を考
慮したものである.次に,コンピューターに耳え
結果及び考察
り込んだ動画像は,画像濃度変位量解析シス
テム((株)ライブラリー製, Gray-va132) によ
ゲンジボタルの温度変化
図 3 は,板橋区
り画像処理し,発光パターンの輝度変動に関
ホタル飼育施設で採取したゲンジボタ jレ(雌
する時系列データを構築した.その後,得ら
雄混合)をベンチレータに入れ,上昇下降測
れた時系列データから発光パターンの明滅間
定を行った時の明滅間隔の変化をまとめたも
隔を測定し,温度上昇時と下降時の各温度で
のである, 25 0 C 時はほぼ l 目 5 s巴c 周期で明滅し,
の平均と信頼区間を求める.この時,信頼区
1SOC 時は 2 , 0-2 , 7 s巴c 周期で明滅した.図 4 は,
間は 95 %とした.すなわち,ホタルの発光パ
下降上昇測定の結果を示したものである.
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ゲンジボタルの発光パターンに及ぼす温度環境の影響
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Figs3-10. 温度上昇下降,下降上昇時の各温度におけるゲンジボタルの明滅間隔. 3. 温度上
昇→程度下降,生息地:板橋. 4. 温度下降→温度上昇,生息地:板橋. 5. 温度上昇→温度
下降,生息地:徳島. 6. 温度下降→温度上昇,生息地:徳島. 7. 温度上昇J 温度下降,生息
地:北九州. 8. 温度下降→温度上昇,生息地:北九'l"Ii .9. 温度上昇→温度下降,生息地:秋
田. 10. 程度下降→温度上昇,生息地:秋田.
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s11-12. 福度上昇下降,下降上昇時の各温度におけるヘイケポタルの明滅間関. 1 1.温度
上昇→温度下降,生息地:板橋. 12. 温度下降→温度上昇,生息地:板橋.
グラフ下部の up , down は,それぞれ温度を上昇したときおよび下降したときに発光が確
認された個体の延べ数を表す.
15 0 C 時は 3.5-3.6 sec 周期で明滅し, 25 0 C 時は
ものである. 2
50C時はほぼ1. 6 sec 周期で明滅
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5sec 周期で明減した.
し, 15 0 C 時はほぼ 2.5-3.5 sec 周期で明滅した.
図 51 ま,徳島県池田町で採取した西日本型
図 6 は,このホタルを下降上昇測したもので
のゲンジポタル(雌雄混合)をベンチレータ
ある. 25 0 C 時は 1.6-2.3 sec 周期で明滅し,
に入れ,上昇下降測定を行った結果を示した
15 0 C 時は約 3 .4 sec周期で明滅した.
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ゲンジボタ Jレの発光パターンに及ぼす温度環境の影響
図 7 は,北九州で採取した西日本型のゲン
をベンチレータに入れ,上昇下降測定を行っ
ジボタル(雌雄混合)をベンチレータに入れ,
た結果を示したものである .25 0 C 時は O.ι 1. 0
上昇下降測定を行った結果を示したものであ
sec 周期で明滅し , 15 0 C 時は 0.9- 1. 1 sec 周期
50C
る. 25 0 C 時はほぼ 2.0 s己c 周期で明滅し, 1
で、明滅した.図 12 は,下降上昇測定を行った
c周期で‘明滅した.図 8 は,下降
e
時は 2.5-3.8 s
c周期で、明滅
e
結果である • 15 0 C 時は 0.8-2.3 s
上昇測定の結果を示したものである. 15 0 C 時
し, 25 0 C 時はほぼ 0.5 sec 周期で明滅した.こ
は 3.6-4 .1 sec 周期で明滅し, 25 0 C 時は1. 7- 1. 9
の測定において , 15 0 C 時に 0.8-2.3 sec 周期と
sec 周期で明滅していることがわかる.
変化が大きかったのは,観察された個体数が
図 9 , 10 は,秋田で採取した東日本型のゲン
2 と少なかったことに起因すると考えられる.
ジポタル(雌雄混合)をベンチレータに入れ,
しかしながら,へイケボタルも,ゲンジポタル
それぞれ,上昇下降測定,下降上昇測定を行
と同様に,温度が上昇すると徐々に発光間隔
25 0 C
が短くなり,逆に温度が下降すると発光間隔
った結果を示したものである.前者では,
時はほぼ1. 5 sec 周期で明滅し,
15 0 C
時は 2.8-
0sec 周期で明滅した.また,後者では J5 0 C
.
3
時は 2.8-3.6 s 巴 c 周期で明滅し , 25 0 C 時は
が長くなることから,発光パターンは,温熱環
境に大きく影響を受けることがわかる.
ゲンジポタルとへイケボタ jレの発光パター
ンを比較したとき,過去の報告通り(大場,
4sec 周期で明滅した
2.
7
.
1
以上の結果から,ゲンジボタルは,温度が
1979) ,へイケボタルの方が発光間隔は短かっ
上昇すると徐々に発光間隔が短くなり,逆に
た.また,ヘイケポタルにおいては,その発光間
温度が下降すると発光間隔が長くなることが
隔への温度の影響がゲンジボタルのそれより
判明した.このことからも,発光パターンは,
小さいようである.このことは,ヘイケボタル
温熱環境に大きく影響を受けることが判断で
の方が元々の明滅パターンが早いことに原因
きる.
しているのであろう.
ホタル飼育施設では,上記のホタルの他に,
発光パターンの温熱環境による変遷
以上の
青森県弘前市(東日本型) ,福岡県北九州市
結果から,ホタルの発光パターンは,採集場
(西日本型)から輸送したゲンジボタルと‘施
所や雌雄に関わらず、周囲温度に大きく影響
設で飼育しているゲンジボタルをそれぞれ別
を受けることが示された.ホタルは,温度が上
5cm)
のプラスチック容器 (20 cmX 40cmX 2
昇すると徐々に発光間隔は短くなり,逆に温
に入れて同じ室内(1 8-21 oC に調節)に並べ
度が下降すると発光間隔は長くなることか
て,同時明滅の発光パターンを観察したそ
ら,発光パターンは温熱環境に大きく影響を
の結果,これら 3 地域からのホタルは,同じ温
受けることが判断できる.また,ホタ Jレの明滅
度条件下では同調して発光した.また,これ
間隔は,温度を上昇させてから下降させた場
らのホタルを同じ容器に入れたところ,交尾
合と下降させてから上昇させた場合のいずれ
も行われ,それぞれの子孫をも残している(阿
においても,温度を上昇させた時と下降させ
部ほか,投稿準備中) .プラスチック容器内で
た時では同一温度でも明滅間隔に差が生じ
の同時明滅は,野外などでの同時明滅とほぼ
る.すなわち,温度を下降させた時の方が同
同じ現象であると考えられ,発光パターンと
一温度でも明滅間隔が長くなる傾向にある.
温熱環境の変化の関係は,地理的差異と関連
して重要な関係であると考える.
へイケボタルの温度変化
まとめ
図 11 は,ホタル
飼育施設で採取したヘイケポタル(雌雄混合)
本研究で測定したのは,シャーレという限
-80-
阿部宣男・稲垣照美・石川秀之・安達政伸・干場英弘
ー誌
.
定空間で測定し求愛行動に現れる明滅現象
「感性情報計測と福祉応用 J .感性工学研究論
文集, 3 ・ 41-50.
とは必ず、しも一致していないが,こうした j昆
度の発先パターンへの影響は飛刻時にも現れ
稲垣照美・犬塚浩二-安久正紘・赤羽秀朗・阿
部宣男, 200 1.ホタルの発光パターンにおける
るものと思われる.このことから,各地でみら
l !fn ゆらぎ現象と癒し効果.日本機械学会論文
れる発光間隔の遣いは,地域による周囲気温
の違いによる可能性がある.一般に自然界で
集 C 縞, 67: 3
6
5
37
2
.
大場信義, 1979. ホタ Jレの発光パターンと活動習
性予報.神奈川県博物館協会会報, 41: 1
9
.
は,日没後,温度が下がる傾向にある時に上
昇下降条件下で発光するものと考えられる.
しかしながら,今回のような比較的短時間の
温度変化条件下における実践が,どの程度自
然界の現象を再現できているのかに関して
r--、
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は,今後の重要な研究課題である.
Ohba , N. , 1
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yMuん 32: 23-33 , p
.
l8
.
一一一一(大場信義), 1988. ゲンジポタル. 1
9
8p
p
.
文一総合出版,東京.
謝辞
鈴木浩文, 1999. 多摩地域におけるゲンジボタル
集団の遺伝的多様性と保全対策. 2
6pp. 東京
本報告を提出するにあたり,故酒井清六博
士にご尽力を賜った.深謝の意を表する次第
である.
引用文献
阿部宣男・稲垣照美・石川秀之・松井隆文・安
ホタル会議(編).
Suzuki , H. , Sato , Y
.& Ohba, N. , 2
0
0
2
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.Evol. , 2
2
:
1
9
3
2
0
5
.
矢島稔, 1978. ホタルの日周活動と発光信号ーゲ
久正法 , 2003a. ホタルの光と人の感性について
ンジボタ Jレの場合.インセクタリウム 15 (
6
)
:
「発光現象のゆらぎ特性J.感性工学研究論文集,
1
2
1
9
.
1 ・ 35 -4 4.
阿部宣男・稲垣照美・木村尚美・松井隆文・安
久正紘 , 2003b. ホタルの光と人の感性について
¥
_
/
-8
1-
(2004 年 10 月 16 日受理)
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