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多電極型ペニングトラップを用いた多価イオンの陽電子
多電極型ペニングトラップを用いた多価イオンの陽電子冷却の開発 新垣 恵 A,B, 小島 隆夫 A, 大島 永康 A,B, 毛利 明博 A, 山崎 泰規 A,B 理化学研究所原子物理 A, 東京大学大学院総合文化 B 原子物理で興味をもたれている超低速(衝突エネルギー~1eV)の衝突実験を行うため にはエネルギーがそろったビームが必要である。しかし、各種のイオン源から得られる多価 イオンビームは数十 eV のエネルギー幅をもっているため、超低速実験で利用することはで きない。そこで、イオン源で作られた多価イオンをトラップに蓄積し、陽電子冷媒によって冷 却し、エネルギーのそろった(冷えた)ビームとして取り出す装置の研究開発を行っている。 冷却のプロセスは次のようになる。1)電子をトラップに閉じ込め、磁場中でのシンクロトロ ン放射により、冷たい電子プラズマを作る; 2)さらに陽電子を入射し、冷たい電子プラズマ との衝突、シンクロトロン放射を経て冷たい陽電子プラズマを作る; 3)トラップから電子プラ ズマのみ排出し、その後多価イオンを入射する; 4)多価イオンを陽電子冷却する; 5) 冷え た多価イオンをビームとして引き出す。上記の過程 4)を多成分プラズマの平衡化のプロセス として見積もると、ソレノイド磁場 5T の条件下で、108 個の陽電子を蓄積すれば、106 個の 2keV/q の Ar8+を入射後約 5 秒で 100meV 以下に冷却できる。 トラップの中心部には 23 個のリング状電極群があり、ビーム軸に沿って自由な形のポテン シャルを印加できる。この電極群を超伝導ソレノイドが取り囲んでおり、軸に平行な磁場を形 成している。通常のペニングトラップと同様に、荷電粒子は軸方向にはポテンシャル障壁で、 動径方向には磁場で閉じ込められる。実験で用いられる多価イオンは ECR 型イオン源で作 られ、トラップまで輸送される。また、トラップの上流には電子銃と、陽電子源が設置済みで あり、電子、陽電子は多価イオンに先立ってトラップに蓄積される。 これまでに装置のセットアップ、電子銃 からトラップへ E×B ドリフトでの電子輸送、 トラップ中での電子プラズマ形成などを行 ってきた。蓄積された電子プラズマは 104sec 以上のライフタイムを実現している (図 1)。現在は、各種入射条件下での蓄積 電子数、電子プラズマの寿命などを解析 中である。 Electron signals (µ µVsec) 1.5 1 lifetime : 1.5× ×104 sec 0.5 0 1000 2000 Confinement Time (sec) 図 1. 蓄積した電子プラズマを閉じ込め時間を変えて 放出し、下流のファラデーカップで電子信号を計測し た。縦軸の読みが放出された電子数に比例する。 また、多価イオンの冷媒となる陽電子蓄 積のための大強度低速電子源の開発も 着々と進んでおり、固体 Ne モデレータを 用いた低速陽電子ビームの生成効率は、 世界最高率に達している。