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B 型星のバルマー吸収線等価幅及び逓減率変換係数算出の試み(観測
B 型星のバルマー吸収線等価幅及び逓減率変換係数算出の試み(観測編、モデル大気編) 藤井 貢 (藤井美星観測所) Be星(B型輝線星 光度階級V~III) においてバルマー系列逓減率を知ることは、その星周圏の物理状態を探る上で重要な手がかりを与えてく ) れる。 ここでは小暮1 に従い、逓減率を求める際に必要とされる、輝線の無いB型星本来の光球吸収線等価幅Wsと逓減率変換係数Gを、観測と P P モデル大気それぞれから求めた結果を示す。 逓減率Dnは Dn = Gn・WE(Hn) / WE(Hβ)で表される (n = α,γ,δ…) また WE = WS – Wob. B B B B B B B B ここでWEは輝線のみの等価幅、 WSは B Wob.は観測された等価幅、Gnは逓減率変換係数 Gn = Ic(Hn) / Ic(Hβ) 輝線の無い本来の光球吸収線等価幅、 B B B Icは放射流束 観測編 U 1. 観測装置 望遠鏡:口径 28cm シュミットカセグレン F/10 (Celestron 社) 分光器:自作 FBSPEC-2 R=約 500 ST-10XME(CCD) 2. 観測 観測に際しGunn et al. 2) Halbedel 3) BSC5 4) の星表より、B型の様々なサブクラスを含み、分光型に輝線記号のないもの、変光星名の付 P P P P P P いてないものを適宜選択する。 また星表により分光型は多少異なる為、 Hipparcosデータ 5)で分光型を統一した。 観測はFlux値が絡むの P P で測光夜に近いクリアーな日に行い、分光標準星観測もオブジェクトに近い地平高度で観測した。 観測したB型星を表 1 に、スペクトルの例 を図 1 に示す。 表 1 観測した B 型標準星 図 1 スペクトルの 1 例 3. 結果 得られた光球吸収線等価幅 Ws を B 型サブクラス別 にプロットしたものを図 2 に示す。また逓減率変換係数 G を B 型サブクラス別にプロットしたものを図 3 に示す。 図2 図3 B 型星サブクラス別等価幅 B 型星サブクラス別逓減率変換係数 G 実線(太)は小暮 1)より、モデル大気に基づいて得られたαを表す 図 2 より求めた Ws の 1 次近似式 Ws (Hα) = 0.58X + 4.46 R2 = 0.62 Ws (Hβ) = 0.95X + 3.17 R2 = 0.77 Ws (Hγ) = 0.99X + 2.50 Ws (Hδ) = 0.88X + 5.13 図 3 より求めた G の 1 次近似式 Gα = - 0.026 X + 0.55 R2 = 0.27 R2 = 0.75 Gγ = + 0.017 X + 1.23 R2 = 0.14 R2 = 0.57 Gδ = - 0 .052 X + 2.31 R2 = 0.20 4. まとめ 光球本来の吸収線等価幅 Ws 及びバルマー逓減率変換係数 G 共に、ばらつきの多い結果となる。吸収線の両翼部がなだらかに大きく広が っているので計測が難しと感じた。またスペクトル自体低分散過ぎるのかもしれない。今回得たスペクトルには、星間赤化補正を施していない。 モデル大気編 U 1. 輝線の無い B 型星本来の光球吸収線等価幅 Ws を求める モデル大気作成のため SPTOOL6)を利用する。 元素組成比は太陽の組成比を、ミクロ乱流速度は 2km/sを採用した。あとパラメータとして有 効温度(Teff)と表面重力加速度 (log g)値が必要である。 この二つのパラメータを求める為 (B-V)値を利用してみる。 1-1. B 型サブクラスに対する(B-V)を求める 横尾 7)より B 型主系列星サブクラスに対する(B-V)値を参考にする。 この表には B4 と B6 の(B-V)値が抜けているので既知の値より 1 次 近似式を求める(図 4)。 得られたサブクラスに対する(B-V)値を表 2 に示す。 図 4 横尾7)より得たB型サブクラスに対する近似式 P 表 2 B型サブクラスに対する (B-V)値 P 1-2. (B-V)値より有効温度(Teff)と表面重力加速度(log g)を求める ) Gray8 より次の近似多項式を利用する。 P P logTeff B (B-V)<1.5 = 3.988 – 0.881(B-V) + 2.142(B-V)2 - 3.614(B-V)3 + 3.2637(B-V)4 - 1.4727(B-V)5 + 0.2600(B-V)6 P B P P 2 P P 3 P 4 P P P 5 log g = 4.25 – 0.3124(B-V) – 0.5022(B-V) + 6.5320(B-V) – 9.9431(B-V) + 5.7581(B-V) – 1.1706(B-V) P P P P P P P P P 6 P P … 1) …2) 得られたグラフと数値を 図 5 表 3 に示す。 図 5 1)式による Teff と 2)式による log g グラフ 表3 B 型サブクラスに対する Teff と log g 値 1-3. モデル大気作成 B0V~B9Vまでの 10 段階のサブクラスについてSPTOOL6) にてモデル大気を作成を試みる。B9V型HαとHδの例を図 6 に示す。 P P 図6 Hα B9V 型のモデル大気スペクトル Hδ 1-4. ブレンドライン除去 図 6 では他の様々なラインがブレンドされているので IRAF の splot タスク ”x” コマンドを用いブレンドラインを除去する(図 7)。 図7 Hα 図 6 からブレンドラインを除去したモデル大気スペクトル Hδ 1-5. Ws 算出 ブレンドラインを除去したスペクトルから、 B 型星本来の光球吸収線等価幅 Ws を 求める。 測定はIRAFの splot タスク “e” コマンドを利用した。 測定結果を表 4 に示す。 表4 B型(主系列)のサブクラス別 図8 バルマー吸収線等価幅 B 型(主系列)サブクラスに対する、バルマー吸収線等価幅 Ws の関係。2 次近似式を得る。 2. バルマー逓減率変換係数 Gn値を求める ) 2-1. 小暮1 よりバルマー逓減率変換係数Gn値は次のように定義される。 P P Gn = Ic(Hn) / Ic(Hβ) n =α,γ,δ….. Icは放射流束 2-2. 黒体放射強度におけるバルマーライン比をそのまま用いることができないだろうか? 安易過ぎか? 以下黒体放射強度比での Gn 値算出を試みる。 2-3. Gray8)より単位波長あたりの黒体放射強度Bλは次の式で表される。 P P Bλ(T) = (2hc2 / λ5) ・ (1 / (exp(hc/λkT) – 1) ) P P P P P P …3) h はプランク定数、 c は光速、λは波長、 k はボルツマン定数、T は有効温度 2-4. ここで(B-V)値を利用した 1)式で求めた Teff を 3)式に代入し、得られた黒体 放射スペクトルの 1 例を図 9 に示す。 図9 (B-V)値から得られた有効温度 16905K (B5V 型相当)で表した黒体放射スペクトル 2-5. Hα~Hδの各中心波長と B 型サブクラス別有効温度を 5)式に代入し Bλを算出した結果を表 6 に示す。 また算出の Bλを用い Hβとの比をとった結果を表 7 に示す。 表6 黒体放射における Hα・Hβ・Hγ 表7 Hδの強度。 3)式より 黒体放射における Hβに対する Hα・Hγ・Hδの強度比を逓減率 変換係数 G とみなす。 2-6. 表 7 の結果をグラフ化し、B 型サブクラスに対するバルマー逓減率 G 値の 1 次近似式を求めた結果を図 10 に示す。 図 10 黒体放射強度比から求めたバルマー逓減率変換係数G。 薄太ラインは小暮1)より近似式Gα=0.333+6.67x10-3 Xの結果を表す。 P P P P 2-7. 図 10 より求めた Ws の 1 次近似式 Gα = +0.0142X + 0.3324 Gγ = - 0.0241X + 1.4923 Gδ = - 0.0581X + 2.0284 ここで X は B 型の分光サブクラス X (X=1,2,...9) 3. まとめ モデルから求めた Ws, G 値の方が、観測から求めるより良いように思われる。 しかし図 10 においてサブクラスが大きくなるに従い、 小暮1) Gα値とずれが生じた。 (これに関してはスペクトル研究会にて小暮先生より、黒体放射で代用せず、このG値もKuruczの P P モデル大気で算出すべきとコメントを戴いた) 参考文献 1) 小暮智一 著 宇宙物理学講座 4 巻 輝線星概論 2) Gunn,J.E.;Stryker,L.L. ごとう書房 ApJS…52…121G, 1983 Stellar spectrophotometric atlas, Wavelengths from 3130 to 10800A 3) Halbedel, Elaine M. PASP..108..833H, 1996 Rotatinal Velocity Determinations for 164 Be and B Stars 4) The Bright Star Catalogue V 5) Hipparcos catalogue 6) 竹田洋一 SPTOOL 7) 横尾武夫 編 新・宇宙を解く 8) DAVID F. GRAY 現代天文学演習 恒星社 The observation and analysis of stellar photospheres Cambridge Astrophysics Series 20