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ブロック警備研究会
今、 「水と安全はタダ」と言う人はいない。しかし、それが常 識である時代はあった。しかし、日本の体感治安は悪くなって いる。原因は色々考えられるが、我々が望むのは安心して暮ら せる社会だ。 自らが何もせず「国家や公的機関に守られているのが当然」 という常識は今の日本にはない。昨今の様々な事件・事案をみ れば警察力だけでは対応しきれていないことはわかるだろう。 常識はその時代ごとに定義はいくらでも変わるし、同様に安全 のあり方も変わってくるのだ。 今は「自分には関係ない」 「危険なことには近づかなければ大 丈夫」だったのが【他人に起きたことは自分にも起きる時代】 【危険が向こうから迫ってくる時代】なのだ。そのことに多くの 人が気付き始めてきてはいるが、ではどうすればいいのか、な かなか実行に移せずにいる。ではどうすればいいのか? これからも警察や警備会社などによる安全の維持、安心の確 保は重要だ。しかし今は、それだけでは守れない、足りない場 所やモノが出てきた。これからは公と私(警察と警備会社)の 中間の考え方、三重目の警備である「ブロック警備」が注目を 集める。ある特定の地域やエリアにおいて、 「単」ではなく「複」 の観点で守った方がより安心・安全である。やり方はその地域 やエリアの風土や文化、目的によって様々な形態があだろう。 この「ブロック警備」研究会は、今実際に各地で、何が行わ れているのか、今後はどうなるのか、などを固定観念にとらわ れず、各人が自由な発想のもとでその可能性を探った。 1 第 1 章 講演内容紹介 P 3 ∼ 日 下 公 人 ( 社 ) ソ フ ト 化 経 済 セ ン タ ー 理 事 長 小田啓二氏 特定非営利活動法人 日本ガーディアン ・エンジェルス 理事長 ン・ 樋 村 恭 一 氏 ( 財 ) 都 市 防 犯 研 究 セ ン タ ー 主 任 研 究 員 江崎徹治氏 警視庁生活安全部生活安全総務課 生活安全対策第二係長 警視庁警部 保井美樹氏 東京大学 先端科学技術研究センター 助手 ブロークンウインドーズ理論って? 第 2 章 ブロック警備とは? P 3 2 ∼ ティッピング・ポイント フレームワーク 資金はどうするの? 第 3 章 各地域で行われている 様々な取り組み P 3 9 ∼ 第 4 章 こんなブロック警備はいかが? P 4 4 ∼ ∼固定観念を取り払いました∼ 第 5 章 研究員が考えるブロック警備 P 5 0 ∼ 2 第1 章 講演内容紹介 3 日下 公人 (社)ソフト化経済センター理事長 交番システムは優れている NYに行った時 「治安が良くなりましたね」と聞いたところ 「ブロッ ク警備のお陰です、日本の交番の真似をしたのです」といっていま した。NYは道路が碁盤の目のようになっていて、あの中をブロック といいます。 そのブロックを町内会にしてお互いにコミュニティー をつくり、 頻繁に集まって相談するようにしたのです。 そして警察官が常駐する交番を置きました。 アメリカはパトロー ル方式が主流です。交番方式は常駐です。パトロールでは限界があ るので常駐がいい、と15年くらい前にアメリカがいいだして、日本 に見学に来たらしいです。 地域コミュニティー警備システムは日本 の方が優れているのです。 何がいいのかと聞くと「顔見知りが一番だ」といいました。アメ リカの警備はビルディング毎に、 顔ではなくIDカードでチェックし ていました。 カードを持っていなければ隣の人でも入れないのです。 チェックは機械でやりますが、その機械が問題です。細工をして機 械を騙すことができ、治安が悪くなっていきます。顔見知りという 点では機械より人間を騙すほうが大変です。 昔のNYは本当に酷かっ たです。店は閉まっていたし、地下鉄は落書きだらけで強盗、恐喝 などがあっても誰も止めなかったのです。 相手より一段上の武器で対応し、 軽犯罪を徹底的に取り締まる 4 そこでジュリアーニ市長はいいました。 「悪い奴より一段上の武器 で対応せよと」 。 相手が素手の時は警棒を、 相手が警棒の時はピスト ルを、 相手がピストルの時はショットガンで対応しなさい」 とね。 こ のようなことをいうと、 日本ではやり過ぎだといわれるでしょう。 今 の日本は一段下で対応せよですからね。でも、それはそれで悪くは ないです。住民がみんなおとなしい時はそれでもいいのですが、住 民が悪くなってきたら仕方がないと思います。 日本はまだこのよう な議論がありませんね。 学識経験者は、 市民がみんな豊かになって教育が普及すれば犯罪 はなくなるといいます。しかし市長は「市民がみんな高卒になる日 や、お金持ちになって立派な紳士・淑女になる日は待っていられな い」といいました。移民はどんどん入ってくるし、犯罪はただちに なくさなければならないのです。さらに市長は「警官は一段上の武 器を持って、歩き回って軽犯罪や落書きを取り締まりなさい。ガラ ス一枚を割っても逮捕せよ、 そこらへんでごろごろ寝転んでいる人 もみんな逮捕せよ」といったのです。 当時は非難轟々だったでしょうね。 みんな が取り締まってもらいたいのは、殺人や強 盗・強姦です。そんな誰でも捕まえられるよ うなことを警察にやってもらっても有難くな い。 日本でも警察の仕事は極悪犯罪を取り締 まってもらいたい、 と思っている人が多いで しょう。しかし市長は断固として「軽犯罪を 取り締まれば重犯罪もなくなる」 といいまし た。 細かいことの積み重ねが大きなことに繋 がるといって、 市長は軽犯罪の取り締まりを 徹底して行ったのです。 そうしたら本当に大犯罪も少なくなりまし た。警官も大増員して歩きまわらせたが、軽犯罪をしそうな人を警 官に採用したといわれました(笑) 。 5 ニューヒーローの誕生 グローバルスタンダードとは共同体を壊すことです。 「これが規則 だ」 「これが標準だ」 「この理屈は世界中に通用する」 「負けた奴は自 己責任だ」ということです。これに一番当てはまるのは経済・金融 の世界です。それが行き過ぎてしまいアメリカで 9.11 事件が起こ りました。 そして、アメリカにはニューヒーローが誕生しました。それは消 防・警察や軍人で、今では英雄となって人気も抜群にあるのです。 「じゃあオールドヒーローは誰ですか」と聞くと、それは「銀行・証 券だ」といいます。こっちはグローバルスタンダードのヒーローで 共同体を破壊する人です。一人勝ちばかりして、貧乏になったのは 自分が悪いと考える人たちです。 貧乏になって救われない人は腹い せになにかします、すると共同体が壊れます。共同体が壊れてしま うと銀行・証券やファンドなんかも、やがて儲からなくなるんです けどね。 共同体精神を見なおそう 共同体をつくって住むとお互いに顔見知りだから、 そんなに法律 や刑務所をつくらなくても、早めに予防できるのです。その人をた しなめるとか、 たしなめられた人も怯んで気をつけるようになりま す。なぜかといえば、村八分や嫌がらせがあるからです。だから共 同体は住みにくいと思った人は東京に出てきます。 それは他人の面 倒をみなくてすむかわりに、 自分の面倒もみてもらえないというこ とです。いいところ、悪いところ、両方あります。 これからはグローバルスタンダード全盛期は終わり、 ローカルス タンダードの時代になるんじゃないでしょうか。 共同体精神が復活 するのです。これはお互いにエチケットやマナー・ルールを守って 暮らしましょう。そして、マナーを守らない人には嫌がらせをしよ う、村八分にするぞと(笑) 。それが嫌なら外国や東京へ行けばいい のです。 これから交番制やブロック警備が世界中で流行するかもし 6 れません。みなさんはどう考えますか? 日本の民度は高い すると日本のコミュニティーがどこまでやれるかが重要になって きます。例えば、市役所や警察の程度がもっと悪くなればどうなる でしょう。 これらの機関があまりにも優秀だから住民が頼りすぎて しまうわけです。 これらの機関の程度が悪かったら自分たちでやる ようになる、という逆説的な考え方もできます。日本は江戸時代以 来、高い民度を維持しています。犯罪者の民度も高いです。犯罪者 がこんなに文明的な国はないと思います。時代劇なんかでも「お上 に迷惑かけてすみません、素直に全部白状します」とかね。 このごろ第一線の判事さんと話すと 「外国人の犯罪は本当に許し がたい。まず犯した犯罪は凶悪無残、はした金を取るためにはどん なことでもする。捕まえても全く反省しない。それで自分の権利ば かり主張して、とことんてこずらせる。こんな犯罪が増えれば、そ のうち日本の警察制度も悪くなる。 もう今までのようにはいかない」 といっていました。 ですからブロック警備を考えるにはその国の犯罪の程度、 住民の 程度、警察の程度、それらを合わせて現実 的に考えましょう。 イデオロギーや道徳的 に訴えて、 よくよく教えればなおるはずだ とか、それはやりすぎだとか、そんな体裁 のいいことばかりいっていられません。 今 後はお金はいくらかけてもいいからしっか りガードしてくれよ、 というお客がでてき ますから、 それはビジネスになりますよ。 7 小田 啓二氏 日本ガーディアン・エンジェルス理事長 窃盗の件数に注目を 今、日本は戦後最悪な犯罪の発生率が続いています。去年、警 察署が犯罪を認知した件数は 273 万件です。国民の 50 人に 1 人 が被害にあった計算になります。中には警察に届け出なかった 件数も考えられるので、実際は相当数になると思います。 先般ニューヨークの警察から関心のあるデータをいただきま した。2000 年にニューヨークは 800 万人、東京都は 1200 万人と して計算した十万人当たりの犯罪種別のデータです。殺人は ニューヨーク 8.5 人に対して東京は 1.3 人、強姦 20.4 人に対し て 2.1 人、強盗は 407 人に対して 8.2 人です。そして私が一番 注目したいのは窃盗です。1542.8 人に対して 2013.1 人というこ とで東京都の方が多いのです。これが今の日本の現状なのです。 ニューヨーク市民は立ち上がった 70 年代のニューヨークは人間が生活する場ではなかったそう です。一日に何十人も殺され、ものが奪われていました。家の 窓には鉄格子をつけて、ドアには 7 個も補助鍵をつけていたの です。これではどちらが牢屋の中で生活しているかわかりませ ん。 そしてなぜ犯罪が増えたのか理由が二つあげられています。 一つは市民があきらめたことです。普通、市民があきらめれば 警察署に被害届を出さなくなり犯罪の統計の数値は上がらない と考えますが、実際の犯罪の数値は上がったそうです。二つ目 8 は市民が無関心になったことです。無関心社会が犯罪を助長させ たのです。いつも自分には関係ないと見て見ぬ振りをしていたの です。そしていざ自分が犯罪の被害者になった時には、周りの人 も同じように自分に対して見て見ぬ振りをしたのです。 こんな状態をこれ以上見過ごすわ けにはいかない、ということで市 民・行政・警察が立ち上がり、一丸 となって犯罪を減少させる作戦を考 え行動を起こしたのです。これをク ライム・リダクション・プログラム といいます。 ガーディアン・エンジェルスの始まりは マクドナルドの店員による清掃活動から 76 年、そんなニューヨークでマクドナルドのアルバイト店員が 自分のお店の前を掃除し始めました。これがガーディアン・エン ジェルスの始まりです。79 年にはニューヨークの地下鉄をパト ロールすることも始めました。私は 90 年にガーディアン・エン ジェルスの活動に参加しました。当時はみんなで力を合わせて犯 罪をなくそうとする運動が盛んに行われていた時期で、私はガー ディアン・エンジェルスの活動を通してとても貴重な体験をしま した。 ガーディアン・エンジェルスの敵は 市民の無関心です そして私はニューヨークでの経験を基に、95 年に日本ガーディ アン・エンジェルスを設立しました。日本はこのままではかつて のアメリカと同じ運命をたどってしまうと感じたからです。すで に日本には犯罪の温床となる無関心が国民に蔓延していたので す。ガーディアン・エンジェルスは犯罪者と危険を犯してまで戦 うのではありません。犯罪者が敵ではないのです。ガーディアン・ 9 エンジェルスの敵は市民の無関心です。無関心になれば犯罪は絶 対に増えていきます。 これはアメリカにおける学習効果ともいえます。別に隣近所で しょうゆの貸し借りをする必要はありません。他人だから知らな い振りをするのではなく、ちょっとでもいいから自分の身近なと ころからできることをやっていけばいいのです。そうすることに より地域の連帯を高めていけば犯罪抑止につながると思います。 とにかくやるしかないと思い、赤坂でたまたま事務所を貸して 下さる方がいましたので、この街で何か貢献したいと思い、まず 赤坂でごみを拾うことから始めました。最初は「なんだろうこの 人」と変な顔をされました。ごみを拾っているのにたばこの吸殻 を目の前で捨てていくサラリーマンもいて、むなしい思いもたく さんしました。 安心を提供したい ガーディアン・エンジェルスの活動は私たちの身の回りにある 犯罪の機会を奪うことにより、犯罪防止をしていくものです。地 域ぐるみで活動することにより、地域の連帯意識が強まってそれ が連鎖されるようになれば犯罪抑止効果が出てきます。ガーディ アン・エンジェルスは危険を買う活動をするのではなく安全を提 供する活動をしています。そのためには市民に安心感を与えられ なくてはならないと思います。 赤いベレー帽を見たら市民に、「あ、安心だな」と思ってもら えるような活動をしていきたいです。飛行機に搭乗した時にフラ イトアテンダントさんが「あー今日は安心だわ」といってくれ、 さらにパイロットまでもが「ウェルカムガーディアン・エンジェ ルス、みなさま今日はガーディアン・エンジェルスがオンボード しているので安心して下さい」と機内放送してくれたこともあり ます(笑) 。こうなるまでにはアメリカで 10 年かかったそうです。 10 日本でもそのような存在になれるように、まだまだ頑張らなけれ ばならないと思っています。 地域もメンテナンスが必要 外国の例を紹介します。ロンドンのキングスクロスという場所 で麻薬が売られていたり、売春が盛んに行われていました。私も 七年前に行きましたが本当にひどい街でした。それが今年の一月 に行ったら驚くほど治安が改善されていました。それは住民がベ ランダ越しに麻薬を売っている人たちや、売春を行おうとしてい る人たちを目撃したら、そこから笛を吹いて退治し始めたからで す。犯罪を減らすために住民が一丸となったユニークな実績で す。 また、ニューヨークシティーでは固 定資産税を NPO に事業を委託して地域 をメンテナンスしています。車もオイ ル交換しなければ故障するし、ガソリ ンを入れなければ走りません。建物に も清掃員や警備員が必要なように、地 域にもメンテナンスが必要なのです。 日常生活をしていると必ず何かが劣化していくように、ゴミが増 えたり秩序が乱れるとその地域は犯罪が増えていくと考えたから です。 生活安全条例には 市民の活動が伴うことも必要 ガーディアン・エンジェルスでは現在 360 名のメンバーが 17 の 地域で活動しています。例えば柏市では生活安全条例をもって犯 罪の抑止にしようとしました。そこでガーディアン・エンジェル スに声がかかり、活動を始めました。ガーディアン・エンジェル スが市民と一緒になって落書きを消すために、先頭にたって活動 をしたのです。一緒に活動する市民を公募したら 30 人も集まり 11 ました。 最近は各地域で生活安全条例の制定が進んでいますが、ただ条 例をつくるだけでなく、そこに市民の活動が伴わなければならな いと思っています。ですからガーディアン・エンジェルスは人的 な環境づくりの面で貢献できると思います。 現在女性メンバーは二割いますが、もっと女性や子供、お年寄 りの方でも参加できる活動にしたいです。年齢層は 16 歳以上で あれば誰でも参加できますし、最高齢は 80 歳の方もいます。公 務員、警察官、自衛官、サラリーマン、消防士、主婦、先生など の方々に自分にできる範囲で活動していただいています。 最近、街に落ちているごみを 拾ったことありますか? 今、渋谷で毎晩 500 万円くらいの麻薬が売られているといわれ ています。不良外国人が末端価格で 2,30 万円の麻薬をタバコの 箱の中に入れて、階段の踊り場、管理されていない雑居ビルの非 常口などいたるところに置いているの です。非常階段の上には日本刀が隠さ れているケースさえあります。また、注 射器と銀紙に包まれてある大麻樹脂が、 色のついたペットボトルの中に入れら れてごみのように置かれているのです。 今はごみが散らかっていても拾う人 もいないし、関心さえないのでこのようなタバコの箱やペットボ トルを利用した不正薬物売買が行われているのです。街をいつも きれいにしていればこのような考えは出てこないはずです。 挨拶も立派な地域の免疫力 ジュリアーニ前 NY 市長は身近な犯罪を QOL 犯罪といっていま 12 す。クオリティー・オブ・ライフとは生活の質に関わる一番身近 な犯罪という意味で、具体的には自分の車や自転車が盗まれた り、家が泥棒に入られたり、家の前を落書きされたりする犯罪で す。そしてこの芽を地域の力で取り除いていこうといいました。 凶悪犯罪を市民が積極的に食い止めよう、というよりも自分に 身近な生活地域に免疫力をつけて、連帯感をもって犯罪を防ごう というものです。挨拶も免疫力になります。人的な環境づくりを する際に覚えておいていただきたいことは、人の目や声でも十分 に免疫力をつくることができるということです。むしろ地域住民 としてコミュニティーを形成する中でやらなければなりません し、我々の義務や責任ともいえます。 身近なところから今すぐに行動しよう なかなか人は犯罪の被害にあったり嫌な思いをしなければ行動 にうつらないものです。最終的に、もし自分が被害にあった時に 誰も助けてくれない環境にならない前に、今から自分にできるこ とをやっていくことが大切です。個々にできることを地域に広げ ていければ、すばらしい免疫力をもった犯罪に強い街がそこにで きるのです。みんなで力を合わせてやっていくのが一番地域の力 になると思います。 また、今日本の留置所、刑務所、拘置所は受刑者、犯罪者でいっ ぱいです。彼らを社会から押しやろうとしたら刑務所はいくつ あっても足りません。彼らを排除しようとするのではなく、犯罪 を犯す人たちをつくらないようにすることが犯罪を起こさない社 会づくりへの近道だと思います。 ぜひみなさんにも色々な力を借りてご指導をいただき、今後も 活動を広めていきたいと考えています。そのような機会があれば ぜひガーディアン・エンジェルスを呼んで下さい。よろしくお願 いいたします。 13 樋村 恭一氏 (財)都市防犯研究センター 主任研究員 安全・防犯のデザインとは 安全・防犯のデザインとは米国において 1970 年代から試みら れているもので、一般に「環境設計による犯罪予防(Clime Prevention Thruough Environmental Design:CPTED)と呼ばれてい る。CPTED(セプテッド)の概念は C・Ray Jeffery の「人間によっ てつくられる環境の適切な『デザイン』と効果的な『使用』によっ て、犯罪に対する不安感と犯罪発生の減少、そして生活の質の向 上を導くことができる」という考えに基づいている。 また CPTED のアプローチは、物 理的な環境のデザインと使用によ り、人々の行動に対して影響を及 ぼし、空間を活動的に利用し、そ うすることによって、犯罪や損害 の発生を予防することを目的とす るものである。 CPTED の方法としては、まず人 的・物的な被害対象に対する接近 を制約し、犯行の機会を奪うことで、犯罪を「直接的」に減少さ せる「接近制御」がある。この犯罪者アクセスを制御する手段と しては「犯行標的の防備の強化」と「領域性の確保」である。ま た CPTED では住民と犯罪者の意識と行動に影響を及ぼして「間接 的」に犯罪を減少させるために、人的・物的な被害対象に住民の 目が自然と行き届くような環境の形成を目指す「監視性」のアプ 14 ローチがある。 街路照明を改善する、住居周辺の死角をなくす、戸外の活動が 目に入るよう住居の窓からの見通しを良くするなどが、このアプ ローチである。犯罪を間接的に減少させる手段としては、また、 住民の間の交流を活発にし、近隣の一体感を高めることを通し、 最終的に犯罪を減少させることを目指す「領域性」のアプローチ がある。共同住宅の一棟当たりの戸数を減らす、公共スペースの 維持管理を向上させるなどが、このアプローチの例である。 欧米における CPTED 理論の発展の系譜 アメリカにおける CPTED の発展においては Jane Jacobs の 1961 年の著書である「アメリカ大都市の死と生」が理論的な先駆けと なった。Jane Jacobs は、住宅地の犯罪を減少させる設計指針と して 3 項目を挙げている。 ①住民による監視が強まるよう建物を街路に面して配置する ②公共空間と私的空間を明確に区別する ③公共空間を利用度の高いエリアに隣接して配置する その後、Oscar Newman は Jane Jacobs の構想を受け継ぎ、著 書「守りやすい住空間」で次のように提示した。 a 領域性の確保 住民に管理可能な単位に空間を分割し、自己の領域に対する住 民の責任感を高める b 自然監視の強化 犯罪が発生する危険性のある場所に、住民の目が自然と行き届 くようにする c イメージの向上 犯罪者を引き寄せ、住民自身にも自己否定的なイメージを抱か せるような、画一的で殺風景な外観を避ける d 環境の配慮 犯罪の脅威のない安全な地区に隣り合うように配置する。 建築や都市計画の分野だけでなく、刑事司法の分野にも強いイン 15 パクトを与え CPTED の発展の基礎になった。 イギリスにおける「環境設計による犯罪防止」は Designing out Crime または Secured by Design とも呼ばれている。この建 築・都市計画的視点からの試みの大部分は 1980 年代後半に集中 し、その後はマニュアル化され完成された犯罪抑止手法として警 察における CPTED のスペシャリストの警察官が必要に応じて犯罪 予防の観点から助言を行っている。彼らの役割は①環境設計から の防犯指導②新しく建てられる家屋の防犯住宅設定である。 日本における CPTED の系譜 ①コミュニティーの強化(1960 年頃から) 日本では強力な警察力を背景に、町内会・自治会のコミュニ ティー防犯活動が中心だった。1963 年の「全国防犯協会連合会」 の設立はその象徴をなすものである。 ②個体の強化(1980 年頃) 1980 年に警察庁が錠前の「優良型式認定規則」と「住宅用開き 扉錠の認定基準」を制定し、はじめて公的に犯罪者が侵入しに くい錠前の統一された基準が示された。さらに共用部分の施錠 に係わる防犯対策と避難対策の両立を図るため、警視庁と東京 消防庁が「避難階段又は屋上に通じる戸の施錠に関する指導基 準」を取り決めた。 ③ CPTED のはじまり 1979 年に警察庁で「都市における防犯基準策定のための調査」 が実施された。これが日本における「環境設計における犯罪防 止」手法の研究のはじまりである。この研究では、都市工学的 視点により都市犯罪の現状・犯罪発生要因・対策のあり方と検 討し、環境設計による「安全なまちづくり」実現の為の都市情 報の収集の整理を目的としたものである。 CPTED の近年の動向 1997 年∼ 98 年にかけて建設省(当時)と警察庁が合同で防犯 16 対策の視点から「安全・安心まちづくり手法調査」を実施した。 公営住宅においては 1998 年に公営住宅整備指針を改正した際に、 住戸の基準として防犯に係る規定が加えられた。また「公共住宅 企画設計指針」が同じく 1998 年に建設省より発表された。2000 年に警察庁は「安全・安心まちづくり推進要綱」を定めた。その 後、国土交通省と警察庁は 2001 年に「防犯に配意した共同住宅 に係わる設計指針」をまとめ、都道府県・関係団体等に通知する と共に、それらの活用・周知に努めるよう要請した。 安全・防犯のデザインに向けて課題と問題点 欧米で発展した CPTED も日本に取り入れられて約 20 年が経過 している。これまでの研究において日本に適応した CPTED の手法 の構築がなされてきたが、日本に適応しているとは思えない。 ①物的環境要素と犯罪発生の因果関係が不明確 空間的・物的環境が欧米とは大きく異なり、犯罪の発生頻度が 欧米に比べて少ないことから、日本の環境の中で物的環境と犯 罪の関係を定量的に検証することが困難であること。また、こ れらの因果関係は犯罪者の心理的要素に大きく依存するもので あり、犯罪手口により異なり、普遍的な因果関係を決定できな いこと。そのことから犯罪者は意識的にも無意識的にも犯行を 行い易いデザインの空間を選択することを前提に議論しなけれ ばならない。 ②他のアーバンデザインとのバランスが困難 都市には様々な機能やデザインが求められているが「安全・防 犯のデザイン」が他の機能やデザ インと矛盾したりすることもある。 また「安全・防犯のデザイン」に 対しての費用対効果のバランスが 要求される。 17 江崎 徹治氏 警視庁生活安全部生活安全総務課 生活安全対策第二係長 警視庁警部 警視庁管内の犯罪の認知件数は平成8年に約23万5千件でしたが、 それから増加傾向にあって平成 12 年は約 29 万 1300 件、平成 13 年 も若干増加しています。 犯罪の認知件数とは警察官が届け出を受け たり被害を現認したもので、警察が知り得た犯罪の件数です。した がって実際発生した犯罪の件数は、 統計よりもっと多いと思います。 今年も8月末現在で3%ほど昨年を上回っています。 全国的には平成 12 年は 244 万件で平成 13 年は 272 万件くらいです。つまり警視庁 管内より全国の方が伸び率は高いのです。 これは犯罪が地方へ拡散 しているといえます。 検挙率は警察が犯人を検挙した 数を認知件数で割った数字です。 平成 6 年は 42%で最高の検挙率で した。最近は認知件数の増加とは 逆にどんどん低下していて、昨年 は 25,7%で今年は 24%台まで落 ちています。これはあくまでも統 計上の数字であって、その内訳は 約85%が泥棒で、さらにその3割が自転車泥棒です。ですから統計 はあくまでも目安であって、 その中身の全てをあらわしているとは いえません。一概に検挙率が落ちているからといって、検挙した件 数が少ないというわけではないのです。 最近は少年の犯罪が多発しています。 日本では 「少年の健全育成」 という面で、 よほど重大な犯罪でなければ勾留の延長や警察署留置 18 は認められていません。 少年警察活動要綱で極めて軽微で古い犯罪 については必要以上に捜査しないこと、とされています。ですから 検挙率は少年の犯罪の全てを反映しているとはいえないのです。 し かし、 明らかに犯罪は増えているし検挙率は下がっています。 このような犯罪が増加した傾向は三つあると思います。 一つは来 日不良外国人の犯罪が増加したことです。 都市部から地方へ犯罪が 拡散傾向にあるというのもそのた めだと思います。かつて被害対象 は同じ国同志など自分の仲間が対 象でしたが、 今その対象は日本人 に向けられています。平成12年に ピッキング犯罪が多発しました が、最初の頃は捕まえると約 9割 が中国人でしたが、最近は 7 割く らいに減りました。残りの 2 割は 日本人で、日本人が中国人に使わ れているケースもあります。また 最近、金庫をまるごと持っていくケースも多いのですが、これも多 くは来日不良外国人の組織的犯罪だといわれています。 二つ目は少年犯罪の増加と凶悪化です。 第二次ベビーブーム以降、 総人口に占める20歳未満の少年の割合は昭和25年に45.7%でした が、少子化によって平成12年は20.6%にまで落ち込んでいます。と ころが同年齢層の人口千人当たりの検挙人員人口比を見ると、 少年 と成人の刑法犯の検挙人員がまるっきり逆転しています。 成人の刑 法犯の検挙人員とその人口比は戦後一貫して減少していますが、 少 年の刑法犯は比較的高い数値のまま推移しているのです。 平成12年 には成人の場合 1.8 人に対して、少年は 14.9 人です。成人の 8.3倍 にもなるのです。 三つ目は住民同志のコミュニティーの希薄化です。 泥棒が用心す 19 るのは人の目だそうです。 今でも地方の町や下町にいくと何だこの 人、 という目で見られるところもありますが、 これが都心のマンショ ンなどでは隣に誰が住んでいるかさえ分からないです。 実際に泥棒 が犯行を思いとどまったのは人にじろじろ見られたとか、 声を掛け られたとか、警察官に会ったなどの理由があります。泥棒は意外と ナイーブでげんをかつぐものです。 これは泥棒がそんなに危ない橋 を渡らなくても狙うところはたくさんあるよ、 という裏返しともい えます。 最近は特に金庫ごともっていく荒っ ぽい手口が増えているといいましたが、 連中は機械警備が入っていても平気で す。なぜなら仕事を5分以内で終わらせ るからです。 金庫破りの現場に行くとあ と数メートルで金庫を外に出せるところ なのに、 そのまま金庫が放置されている 場合もあります。また、事務所荒らしが 減少傾向にありましたが、今年は 10% 近く増えています。 警察も手を緩めていませんが、 連中も警察の上をいく手口でくる 場合があります。 連中は3ヶ月ごとに犯罪の手口を変えてきます。 そ れにものすごい学習能力をもっています。これが危ないですよ、と いった頃には連中はもう違う手口でやってくるのです。 マンションでの侵入盗の場合、約半分がピッキングです。それが 最近他の手口に移行してきました。それはガラス破りです。外国人 がガラス破りをするようになったのです。また、無締まりによる被 害も増えています。もしかしたら、この中にはまだ我々が把握して いない、発見していない手口があるのかもしれません。注意が必要 です。 またバールを使ったドア錠破りも増えることが予想されます。 20 1 戸建て住宅の場合ガラス破りは昨年は 60%くらいです。1 戸建 て住宅の防犯対策は防犯ガラスが効果的です。 ピッキングによる被 害は0.6%くらいで、 ガラス破りが圧倒的に多いのです。 ピッキング 対策については一般の家庭でも指紋照合とか虹彩認識などバイオメ トリクスの時代がくると思います。 新宿歌舞伎町は他の地域の何倍もの警察官を投入してもなかなか 犯罪が減らない地域です。 警察がなぜ歌舞伎町に街頭防犯カメラシ ステムを採用したかといえば、 近年犯罪が多発して検挙率が低下し ており、犯罪の「国際化」 「凶悪化」 「巧妙化」 「組織化」 「スピード化」 「ハイテク化」に対応するためです。これは石原都知事が「東京の治 安を抜群に良くするための方法を提案しなさい」 といったところか ら始まりました。そこで警察は「安全安心まちづくり」という施策 を打ち出しました。 このような事例は海外ではCPTEDともいわれ、 70 年から80年代にかけて行われていた施策です。 ようやく日本でも安 全安心まちづくりという言葉が定着してきました。 これは東京構想 2000という知事の長期ビジョンにも入っています。 今まで警察はパトロールの強化や地域住民との安全活動など、 ソ フト面を中心に活動してきました。 しかし、 このままではマンパワー の限界がきてしまいます。そこで、ソフト面に加えてハード面も考 えるようになりました。 その一環で国土交通省と警察庁が共同住宅 にかかわる防犯設計もしました。今、警察はハードとソフトの中間 に位置する生活安全条例を支援してい ます。 この動きは全国的に広がってい ます。例えば豊島区の生活安全条例 は、たくさんの人が集まる建物、共同 住宅、ホテル、映画館など建築確認を しにきた時、 警察に防犯上の対策につ いて指導を受けなさい、 という条項が あります。去年の 12 月に制定されて からすでに百件くらいの防犯指導がな 21 されています。 街頭防犯カメラやスーパー防犯灯などハード面での取り組みも行 われています。新宿歌舞伎町にはカメラが 50 個所設置してありま す。もちろん夜間でも映ります。カメラは都市の美観を損なわない ように設置しました。カメラは新宿 警察と警視庁につながれており、新 宿警察ではモニター要員が24時間監 視しています。このようなシステム が効果的に運用されるためには「モ ニター要員がいなければ意味が無い」 と、 イギリスのロバート・ナイツとい う元ロンドン警視庁の方もいってい ます。キーパーソンはこのモニター 要員なのです。 運用して6ヶ月たちますが新宿署管内では路上犯罪が前年同期比 約3%減少したのに対して、 歌舞伎町では約12%も減少しました。 ま た、北海道から沖縄までスーパー防犯灯が設置されています。防犯 灯には通報装置とカメラがついていて、 通信回線で警察につながっ ています。 相互通話もできますので人がいない交番より効果がある 場合もあります。各地区で運用5ヶ月が経ちましたが、最小で15% 最大40%の路上犯罪が減少しました。 防犯カメラを設置する際の問題点は、 日本は非常にインフラ整備 が遅れていることです。ライフラインがめちゃくちゃです。どこに 何が埋まっているのかわからず、埋設図がない場合もあります。再 開発地域などでも共同溝さえありません。 電柱などに架設できれば 費用を抑えることができますが、 電柱がない場合はそうはいきませ ん。また、通信事業者の回線を使用するにも新規の設定料や回線使 用料の他、 メンテナンス料や保険料もかかります。 22 歌舞伎町の他にも民間によって銀座や新宿東口、 武蔵野市ダイア 商店街、小岩や新小岩、新橋などは街頭防犯カメラを設置済み、ま たは導入予定です。 そしてこのような動きはほとんどの県に広がる と思います。 BID (ビジネス環境改善組織)は行政が関与しないと思い勝ちです が、そうではなくて、行政もその一員として関与します。むしろ積 極的に関わっていく場合もあります。日本で一番古いBIDは防犯協 会だと思います。警察署ごとに防犯協会があり、50年前から活動が 続いています。地区防犯協会の活動はまさしく日本のBIDだと思い ます。 地区防犯協会を中心に商店街や自治会などの独自ボランティ ア組織を結成して環境浄化活動を展開しているからです。 環境浄化 とは街をきれいにして悪い風俗を取り除く、 という活動です。 それから歌舞伎町のように防犯カメラが設置されたことに伴って、 防犯団体ができた例がけっこうあります。 そこが自主防犯活動を展 開しているのです。 新宿地区ではセキュリティーネットという目の マークのステッカーが色々なお店に貼られています。 カメラだけで なく我々も見ていますよ、 ということです。 また、他のBIDとして東京都が独自に行っている事業である汐留 の再開発地域では、街づくり協議会が組織されています。品川の東 口の再開発地域は企業が中心となっています。 いずれにしても企業 と住居が一体化している街づくりです。 そ れが実現すれば日本で最初の本格的なBID になると思います。 このように街が企業と 協力して自主防犯やBIDなどの動きは、今 後も広まっていくと思います。 23 保井 美樹氏 東京大学 先端科学技術研究センター 助手 1.アメリカの BID 制度とは BID とは、Business Improvement District の略です。主に商 業地域において、 資産所有者や商業者が地域の発展を目指して必要 な事業を行うための組織化と財源調達の仕組みを指し、 資産所有者 の発意による自発的なタウンマネジメントの取り組みが制度化され たものです。例えばニューヨーク州の場合で言えば、資産所有者の 半数または面積の半分以上の人が合意すれば、 BIDを設立・解散する ことができます。 BIDが発展した背景には、 アメリカにおける受益者負担の発展があ ります。あれだけの広大な国土を200年くらいの間につくってきた アメリカにおいては、道路や下水道などの基盤整備は、基本的に市 民の受益者負担で行なわれてきました。 このような考え方が発展し てできたのが BIDといえます。 アメリカには、現在までに700とも1000とも言われる数のBIDが 設立されています。景気のよかった90年代に急増しましたが、かと いって景気が悪くなったのでBIDを廃止して、その事業は市に任せ よう、という動きは今のところ見られません。むしろ、事業が安定 してきた結果、 今ではそれぞれの地区の声を代表する主体として成 長しています。 2.BID の財源 BIDの制度は、 州によって異なりますが、 例えばニューヨーク州で は、BID の主な財源は、地域内の資産所有者に課される負担金であ 24 り、その額は市が課す財産税の 20%以内、資産評価額の 2%以内の 額と制限されております。 具体的な負担金の計算方法及び金額は、 法 律に基づきつつ、 受益と負担が一致するように地区内で決定しなけ ればならない、と定められています。負担金の徴収は、地区管理組 合に代わって、 市政府が固定資産税の徴収にあわせて行っています。 厳密に言えば、 市が、 特定の地区には、 プラスアルファの行政サー ビスを提供する。しかし、その代 わりに応分の負担を徴収する・・ という仕組みになっているのです。 ただし事業の運営は市が直接では なく、契約に基づいて特定の NPO に委託し、その NPO が実施すると いう仕組みになっているのです。 このような制度的裏付けを得たことで、 BIDは安定した事業ができ るようになりました。現在まで NY 市内の 44 箇所に BID が設立され ており、その総事業費は約10億円から500万円、その広さは商店街 のメインストリートだけといったところから何百ブロックといった 広いものまで様々です。 3.BID の設立手続き・組織 BID をつくる過程は、第一段階として地域で BID 設立案が出され てから地区計画策定までの 「地区内における協議期間」 。 第二段階は 「行政に申請して承認されるまでの期間」。第三段階は「運営準備段 階」と、大きく3つに分けられます。全体で早ければ1年くらい、平 均で 18 ケ月から 2 年を要すると考えられています。 BIDの運営主体は、州のNPO法に基づく民間非営利団体であり、法 律に定められる地区管理組合 (District Management Association) です。ここでいう NPO は、基本的に誰でも参加できる日本の NPO と は異なり、会員制のNPOです。アメリカの場合には、NPOとはいって も会員を限定した形態もあり得ますので、地区内の資産所有者に 25 よって構成される地区管理組合が、 NPOによって法人化されることが 可能です (日本だと組織形態は中間法人に近いかもしれません) 。 BIDの意思決定機関は、地区管理組合の代表組織である理事会で す。不動産所有者が多いのですが、NY州法では、住居系や業務系の テナントが地区にいる場合には彼らも含めなければならないことに なっています。NY市の場合は、これらの人たち以外に市長や市会計 検査官、区長、地区から選出された議員本人やその推薦者が加わっ ています。 理事会に対して責任を負っている地区管理組合の日々の 業務を行う責任者として、 地区支配人が有給かつフルタイムで雇用 されています。 4.BID の活動内容−ブロック警備活動を中心に BID の事業は主に環境美化(清掃等)、治安維持(警備)、消費者 マーケティング(イベントの企画・開催等)、ビジネス活動の向上・ 維持(新事業を呼びこむために資金的支援等)、公共空間の規制(路 上販売の管理等) 、 福祉サービス (ホームレス支援に対する施策提案 や援助等)などで、活動は多岐にわたります。最初の 3 つの事業は 多くのBIDが実施しているのですが、 それ以外の事業は、 地区によっ て異なり、 それぞれが個性を発揮しています。 例えば、NY 市ダウンタウン地区の BID は、経済振興に力を入れてきた BID で、 ウォールストリートが不況に陥った80年 代末から90年代初めに、市と連携して金 融からIT関連のスタートアップ企業を誘 致するための施策を積極的に実施しまし た。また、同じく NY 市のグランド・セン トラル地区の BID は、年間予算が1000 万 ドルで広さが 640 万平米あり金額、広さ とも全米最大なのですが、地区内のデザ インの統一に力を入れており、独自にデ ザインガイドラインを策定して、同じタ 26 イプのストリートファニチャーを入れたり、 ガイドラインに基づい てファサード指導を行ったりして、 地区イメージの改善に成功しま した。 多くのBIDが力を入れており、この研究会にも関係あることとし て、セキュリティー関連の事業が挙げられます。これは、主に警察 を補完するような形で行われており、通常、BIDは、地区の中の警備 活動や道案内などをしたり、 街灯の設置や警察と連携するための仕 組みをつくったりしています。 治安維持に関連して面白い 事例を、幾つか挙げましょ う。いずれも NY 市の事例で すが、まず、マンハッタンの グランド・セントラルBIDは、 「セキュリティー・アライア ンス」 という官民連絡協議組 織をつくっています。 メンバーはBID警備隊、鉄道警察、個別ビルの警備部、NYPDです。 また、同じくマンハッタンのダウンタウン地区のBID では、交番を BID側の費用で設置して、警官の常時配備を求め、BIDの警備員と警 官が連携しやすい環境をつくったというようなこともあります。 こ れらの取組みにおいては、いずれも警察とBID間の連携を高めるこ とが目指されており、 それによって地区の治安をより向上させよう としていると言えるでしょう。 このような BIDにおいては、それぞれの警備範囲、何かあったと きの連絡方法などを予め決めることで、警察、BID警備員、私的警備 員の役割分担をして、 公共空間と私的空間の警備の間に連携が生ま れています。グランド・セントラル BID では、警察から BID への出 向プログラムなどもあるようです。但し、このような取組みは面白 いと考えられる一方で、公平に町の警備を行うべき警察が、お金に 27 つられて特定の地域に厚くサービスを提供するようなことをしてよ いのか、という議論もあります。 その他の取組みとして、タイムズ・スクエア BID では、市政府や 市裁判所と連携して、 軽微な犯罪者のみを扱うコミュニティ裁判所 を設置しました(刑罰は地区内でのボランティア活動) 。BIDが取締 りの主眼としているのは大きな犯罪ではなく、 クオリティー・オブ・ ライフ クライムといわれるスリや詐欺行為、 売春など、 路上にいて その街の雰囲気を害すとか治安を低下させる軽微な犯罪です。 これ を効果的に取り締まる手段として、司法・行政との協力によって設 けられたのが、この裁判所です。コミュニティ裁判所は、NYだけで なく、 全米の主要都市のダウンタウンに設けられるようになってい ます。 5.BID を巡る課題と日本への示唆 これまで述べてきたように、 資産所有者の要請に応えて様々な事 業を実施するBIDは、地区レベルの経済的社会的な活性化のツール として大変効果的であると考えられてきました。しかし、資産所有 者が経済的な利益を優先して行う地域管理を行う中では、 様々な問 題も起きてきます。 例えば、グランド・セントラル BID では、ホームレスへの職業訓 練事業が行われており、 彼らを訓練生としてBIDが雇用することで、 彼らの社会復帰を促進するという取組みを行っていましたが、 訓練 生という名目の元で法定賃金を 下回る賃金で使っているという 実態が明らかになり、訴訟に発 展したり(BID 側が敗訴した)、 B I D が設置したホームレス・ シェルターで虐待が判明して、 やはり訴訟沙汰になったりした 28 こともありました。このホームレスに関する一連の事件から、集客 力や資産価値を高めることを目的として事業を行うBIDが、それと は目的を異にする社会的な事業をするのはいかがなものか、 という 議論が巻き起こりました。 また、BIDが地元の主導による仕組みでありながら、実際には、資 産所有者という一部の主体によって動かされていることから、 地域 住民など他の立場の意見が反映されないという問題も起きています。 皆様もお分かりの通り、 必ずしも資産所有者と住民の意見はいつも 一致するわけではありません。またBID は、財源を出せる人がある 程度集積しており、 BID設立に合意できることが条件になっており、 その意味では、財政的に余裕のある地域だけができる、という仕組 みと言えます。 そのことから、 結果的に、都市の中で基盤整 備、公共サービスのレベルに 格差がでてしまうことも危惧 されています。 BID のような仕組みは、日 本でも可能だと思います。も ちろん、法律も人々の考え方 も異なりますから、アメリカ のBIDをそのまま日本へもってくるのではなく、その考え方を生か しながら、 日本に合う方法を探っていく必要があります。 BIDのよう な話になると、その必要性は分かるが、地元でお金を出してまで治 安維持や清掃をやることは難しい、という意見を聞きます。一義的 には、それらの責任は行政にある筈で、なぜ地元でお金を出してま でやらなければならないのか、という意識が背景にあります。アメ リカは自立しているから、ということを言われる訳ですが、アメリ カも最初はそうだったのだと思います。 アメリカでBIDが生まれた頃は、ほとんど街が死んでしまったよ 29 うな状況で、どうしようもなくなった状況を目前に地域が立ち上 がったのです。日本も行政に頼っていられない状況になれば、地域 がやらざるを得ないのではないでしょうか。 そういう状況になって いる地域も多いと思います。 制度的な問題は、いろいろあります。例えば、NY州ではたった半 分の合意で BID が設立されますが、全員一致或いは 4 分の 3 の合意 が普通である日本では、 半分の合意というのは難しいでしょうから、 BIDのような仕組みを取り入れると、 設立までの合意形成の手続きが より難しくなるでしょう。 また、BIDは会員制NPOで、 全ての資産所有者によって 構成されており、構成員に は負担金の支払い義務が課 されます。しかし日本のNPO は原則として誰でも参加で きるものですから、BIDのよ うな組織をつくるには、も う少し工夫が必要になりま す。 最近、日本でも、やる気のある人たちが組織をつくって、地域で 色々な事業をやるというケースがいくつか出てきました。 地域とし てもっとやっていかなければならない、 と気概を持った人は実は多 いと思います。 そのような自立した取組みを支援する仕組みとして、 BID型の手法は興味深いものと思います。 30 ★ブロークンウインドーズ(割れた窓ガラス)理論★ 犯罪学仮説としてハーバード大学の学者が唱えた仮説。実験は NY のブロンクスにあるスラム街とカリフォルニアのパワルトとい う中流階級の住宅街で行われた。まず両方の街に、ある車を駐車 して放置しておく。スラム街の車は 3 時間ほどで車の窓ガラスが 割られ、二日間でほぼ自動車全体の各部品が盗まれ丸裸の状態に なってしまった。ところがパワルトに放置されていた車は 10 日 も何もタッチされることなくそのままの状態だった。 ところが実験している学者の手によっ てその車の窓ガラスをハンマーで割って そのままにしていたところ、スラム街で 起こった状況と全く同じように二日間で 丸裸同然の状態になってしまった。 この実験によれば、犯罪を未然に防ぎ 食い止めるには、その割れた車のガラスを「誰がなおすのか」と いうことで、割れたガラスをそのままにしてすぐになおさない と、もっと酷い結果になってしまうという結論が出た。つまり犯 罪そのものを導く可能性とは、何もしないで放っておくとさらに 犯罪は進んでしまう、ということで全てが連鎖反応を起こして拡 大していくことが判明した。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ NY では殺人事件の背景には強盗、売春、薬物売買、落書きや汚 いゴミが散乱している環境悪化などがあげられた。そこでの対策 は街にゴミ箱を増やし、清掃局の人員を倍増し街全体の美化運動 に力を入れることから始めた。それまで地下鉄の車輌にも多くの 落書きがあったが、キャンペーンを実施して落書きを消していっ た。その結果、NY の犯罪が減少し、殺人事件が 7 年間で 67%まで 下がるなど、その結果は目に見えて改善されていった。 31 ◆◆◆ブロック警備とは?◆◆◆ ●ブロック警備は 地域のストークホルダーが共同体意識や社会的起業に基 づき、安全性向上を通じて地域と共同体の復活と成長を 目指す活動である と当研究会は考えた。 →なお、ここでいう地域のストークホルダーとは地域住民だけで はなく、通勤・通学・買い物客・観光客・商店主・地主・企業な ど、その土地のファンやインターネット上の来街者など地域に関 心または利害をもつ広範な人々を指す。 ●ブロック警備をするとどうなる? ・共同体精神の復活と育成 →地域に住む人と来る人が地域を愛するようになる ・地域開発になる →地価や集客力など経済価値向上・福祉や文化の価値向上 ・社会的起業が盛んになる →ブロック警備を 5 年後の成長産業へ そうしたら僕らも金持ち父さんになれる! ・当然、治安が向上しブロック警備地域がブランド化する 33 ●何でブロック警備なの? 今の日本は共同体意識がなくなって治安が悪化してきた。 今こそ共同体を見直すべきである。これからは地域を意識 したゆるやかな共同体社会が必要になる。 →日本人は共同体精神を潜在的にもっている (日本人の DNA) ・アメリカ=銃社会 ・イギリス=監視(サーベイランス)社会 ・日本=共同体社会 →それぞれの国には文化の違いがありそれぞれに防犯機能 (抑止力)がある 日本はハード社会へ移行するのではなくソフト社会へ移行 研究会風景 34 ●ティッピング・ポイント? ・強固に見えるシステムも正しいポイントを押すと 僅かな力で傾く(ティップする)事を意味している ・あるアイデアや流行、社会的行動が敷居を越えて一気に 流れ出し、野火のように広がる劇的瞬間のこと →マルコム・グラッドウェルが同名の処女作で提唱した概念筆者 はある現象がティッピング・ポイントに至る指針としてその条 件を以下の三原則にまとめた。 1. 少数者の原則→ある現象が爆発的に広がるにあたって決定的な 役割を果たす人。20:80 の法則より少ない人数で大きな変化が 導かれる。次の 3 つに分類される。 ・媒介者(コネクター)→友人や知人をつくる並外れたコツを知 り、口コミの輪を大きく広げる能力を持つ人。 ・通人(メイヴン)→情報を収集し、それを他人に伝えたがり、無 償で人の役に立つ手伝いをする人。 ・セールスマン→他人の行動を変える強い影響力を持っていて、 説得する能力を持つ人 2. 粘りの要素→記憶に残り行動を促す感染力の強いメッセージ。 アルコールやニコチンなど依存物質が長く体内に留まっている 方が依存症になりやすいように、情報やアイディアが粘着する ことで人の行動を変えやすい。 3. 背景の力→感染が起こる時や場所の条件・状態。環境や風景が 一時的に人格そのものを変えると主張。グラッドウェルによる と割れ窓理論も背景の力に含まれる。 35 ◎どこを押せばよいか? 当研究会ではティッピングポイントの要素も組み込んでシステ ムシンキングの拡張ループ・バランスループを使うことで小さな 力で大きな変化をおこすポイントを特定した。ティッピングポイ ントは犯罪抑止に対する妨害の排除である。つまりは犯罪急増の 拡張ループを改善し犯罪抑止の拡張ループとした。 36 ◆◆◆各地域で行われている様々な取り組み◆◆◆ ・スーパー防犯灯(緊急時、防犯灯のボタンを押すと、ベルが鳴っ て赤色回転灯、カメラが作動。映像が警察署に送られ、イン ターホンでやりとりができる。24 時間稼動のビデオ付き) →大阪府 東京都他 ・防犯モデルマンション制度 防犯モデル駐車場制度 「引ったくり防止ネット」無料配布 →東大阪市 ・新聞配達員防犯に協力 「不審な人を見たらすぐ 110 番」 →田園調布署の呼びかけで支援組織発足 ・下校時の監視や夜間の地域巡回 →京王線明大前駅の明大前商店街振興組合 ・足の速い署員を「ポリスランナー」に任命 →大阪府警泉南署 ・軒先の灯り(門灯や通りに面した部屋の照明)で夜道の守り →神戸市西区 ・「凶行から子供を守ろう」母親が買い物袋に黄色い腕章付けて → PTA が自主パトロール 新宿 ・民間警備会社に地域の巡回を委託 →神戸市須磨区南落合小学校区 愛知県警(刺殺事件をうけて) ・ガーディアン・エンジェルスの活動 →渋谷、六本木、柏市他 →広島県内の犯罪情報に謝礼金制度「ダイヤル V」 40 ・地域主導で美化運動「くりん 2002」立ち上げ 落書き、ごみ →環境悪化の渋谷・外苑地区 商店街、企業、NPO が一体 ・歩きたばこ禁止条例 環境美化 →千代田区他多数検討中 ・エンジェル隊 街角や路上でのたばこやゴミのポイ捨て阻止 →神戸市 ・ブルーキャップ 吉祥寺駅周辺で客引きやキャッチセールスな どのつきまとい行為の防止 →武蔵野市 ・住民グループが「安全・安心マップ」作成 →愛知県春日井市 ・生活安全条例 →豊島区 建築時に安全性を配慮、警察へ相談義務等 ・暴走族追放条例 →暴走族厳罰化へ広島市他全国 186 自治体が制定 ・「しゃれた街づくり条例」 住宅密集地の再編に住民の声 →東京都 ・イタリア街構想 地権者が共同で管理会社設立 (地権者が年間約 10 億円の維持管理費を分担) →汐留地区街づくり協議会 官民共同で街並みの維持管理を担当 する NPO 設立予定 ・監視カメラ →警視庁、歌舞伎町から渋谷(センター街)池袋(西池袋 1 丁目) 41 へも拡大 商店街独自で設置も進む 銀座並木通りなど 防犯カメラ維持費 区が全額負担→住民が自主的に設置 →江戸川・JR 小岩駅周辺 「なりすまし防止カメラ」が稼動 →宮崎市役所市民課の窓口に設置 警察直結、盛り場に設置義務付け →マレーシア クアラルンプール ・高齢者「見守り」組織化 近隣住民が協力、安否確認 →千代田区 ・学校の安全対策 緊急時の通報改善 緊急時に職員室や警察へ連絡できるシステム 職員室や事務室から来訪者の確認ができるシステム →池田小学校 事件受け専門家会議 施設 整備で報告 ・ 「大阪府安全なまちづくり推進会議」設立 →市町村、事業者、府民、地域団体等の代 表者で構成 ・犯罪に強い住宅開発へ官民会議 →カギやガラスの業界団体が参加 ・カメラ付き携帯で犯行パチリ 現場から「画像 110 番」 →大阪府警 メール機能も活用 ・「どすこい」夜警団結成 治安悪化に対応 →伊勢ノ海部屋 江戸川区 ・地域の犯罪学校で教えて 警視庁が要請 「お父さん、うちの近所でドロボーの被害が増えているんだっ 42 て」。これからは、食卓で子供から情報を教えてもらうことに なるかも― →治安悪化の歯止めを検討している警視庁は、都内の全小中学校 の授業や朝礼などの場で、地域で起こった犯罪や身近な犯罪な どを話題にしてもらうよう、教育委員会などを通じて働きかけ ていくことにした。 ・警察官にファーストフード店で外食命令 →英バーミンガムの警察本部、防犯対策で ・警察官のアルバイト公認 退職増加への 対策、治安悪化の不安へ対応 →豪ニューサウスウェールズ ・セキュリティー完備住宅 →(パリ)オートロック式の正面玄関、周 囲を囲む柵には警備員と監視カメラ付き。 住人は出入りする人間を自宅のモニターに映し出し、「好ましか らぬ人物」を見極めることができる。建物に入るには ID バッジ を提示するか、さもなくば住人の招待が必要。 ・犯罪抑止へ、警察官が「手紙作戦」窃盗や暴行、麻薬などの犯 罪を繰り返すグループに →英国 43 ◆◆◆こんな取り組みはいかが?◆◆◆ ∼固定観念を取り払いました!∼ ●もてもてブロック警備 例えば武蔵野・吉祥寺はドラマやフォークソング、漫画やアニメ にたびたび登場し日本中にファンを持っている。薄く緩やかなこ の人たちの武蔵野市への思いを集約すれば田舎以上の強力な共同 体が出来上がるのではないか。 武蔵野市有縁の芸術家・文化人・タレントなどの膨大な蓄積が ネットワークの力を引き出す原動力になる。 武蔵野市有縁のテレビマンに陸のライフセーバーやガーデアン・ エンジェルスをもっとかっこよくしたような青年たちが吉祥寺を 舞台に活躍するドラマを作らせて(Vシネマ可)、受け皿となる NPO を用意しておけば、ブロック警備の実働部隊にも不自由しな いと考える。 ●ブロック警備は失業対策! ブロック警備に失業発生防止の機能を組み込めたらホームレスや 荒れた若者や、生活苦から犯罪に走るヒトの発生が抑えられるの ではないかと期待する。安全安心街づくりは失業と倒産の防止に なる。 ●ブロック警備はお金持ちを呼び込む 世界一安全安心な日本に、更に安全なエリアをブロック警備でつ くり世界のお金持ちに住んでもらう。ブロック警備の実施主体 は、移住してきたお金持ちからたくさんお金をもらって、周辺地 域の安全性も同時に高めていく。東京だったら都心部の外人租界 に加えて武蔵野市・三鷹市が候補地。 45 ●ブロック警備は大道芸にお任せ? ストリートミュージシャンやパフォーマーと一緒になって、地域 の安全を向上させる Plan。例えば人通りがとぎれいやすい通りや 公園で客寄せを行って人の目による防犯を行う。防犯イベントで はなくエンターテイメントの提供そのものをブロック警備にして しまう。そうすれば、警備をすればするほ ど地域の魅力や集客力が高まると思う。 また動作を止めてマネキンのフリをしてい るパフォーマーに「ヒトの視線によるブ ロック警備」をしてもらって、 「人形のフリ をしたモニター要員」のイメージを流布さ せた後でマネキン人形を幅広く設置する。 低コストで広い範囲での防犯効果が得られ るのではないか。人形にランダムにモニ ター用のカメラを組み合わせてもよい。 ●振り向けば警備員 学校の先生も OL も銀行員も駅員さんも学生さんも宅配便も警備 会社からの派遣社員。危ないヒトが学校に入ってきても大丈夫。 宅配便がパトカー代わりで留守宅も安心。現行犯逮捕で痴漢行為 やセクハラもなくなる。警備会社の学生社員の存在で少年犯罪も なくなる。そこまでいかなくても、何人か警備員がいる、とする だけでも効果あり! ●「恋人ができる街角のブロック警備計画」 ブロック警備+恋人の出来る携帯電話で安全安心×ワクワクウキ ウキ町作りの提案。町ゆく人々の携帯電話がモニター用カメラに なる。町が巨大なパーティー会場になるとともに好ましからざる 来客は排除される訳で、これで警備もソフト化になる。 46 仕組み 1.デバイス →カメラ付き携帯電話+ブルートゥースユニット ブルートゥースユニットの機能 →ブロック警備団体で認定を受け暗号化された下記のマッチング データをもとに P2P 技術により街角やホールや大型店で自動マッ チングを行う。 a)隠すところは隠した自分のプロフィール b)友達探し・恋人探し・仲間さがし c)相手に求める条件 2.中継ネットワーク →ブロック警備団体で中継アンテナを設けネットワークを張り巡 らす。ブルートゥースの出力を下げ中継ネットワークに依存させ る(どこにヒトを集めるかを設計する)。 このネットの中では通話料無料。ただし、援助交際などの反社会 的内容はチェックされる。このネットワークをベースに各人のカ メラ付き携帯を安全安心モニターに使う。 3.社会的仕組み →ブロック警備団体が参加者の身元確認を行い、中継アンテナを 設ける。明るい交際の場を設けることで治安の悪化を防止する。 また、特定の町に行けば確実に出会いがある(例:吉祥寺)とす ると若者(今時は中高年も)があつまり町が活気づき、商店が活 況を呈し映画館や喫茶店やホテルが満員になり、地価とテナント 料と下宿代があがり土地持ち・家持ちが儲かる。 システム開発費については、ブロック警備団体と地方自治体が組 んでマッチングサイトをつくり、この会員への販売見込みをもと に捻出する。 この巨大お見合いパーティー会場となった町をしきる清く楽しく 47 頼もしい存在としてブロック警備要員を位置づけ、人気投票やら 清掃パオーマンスやら救急活動(丘のライフセーバー)のコンテ ストを行って「ブロック警備でモテモテ」状態をつくりだす。 ブロック警備の実行部隊のリーダーや活動のプランナーは積極的 に地元商店街と交流させ「ブロック警備で若女将・若旦那」の道 を開いていく。ブロック警備の基本的フレームワークにこの仕組 みを組み込めば、自治体財政の改善と地域資産の向上・ひいては 不良債権の解消を進めることが出来る。 ●コンビニが警備拠点 いざ、警報や異常があった際に、コンビニから駆け付ける。駆け 付ける人は警備教育を受けた店員や NPO・ボランティア、求職中 の人、警備会社からの派遣社員など。警察や警備員が到着する前 に状況確認をする。警備会社が自治体などから委託を受けて、シ ステムの提供や警備教育などのコンサルティングを行う。失業対 策にもなる。 ●経済特区で実験!日本初!株式会社の「警察」設立 ∼地域警察、民営化への第一歩∼ このたび「コミュニティポリス株式会社」&「㈱民間交番研究所」 の 2 社が設立された。マンパワーと機械を複合した最新システム による「民間交番」網。運営の主体は CP 社。 民間だから儲けにつながることは積極的に何でもやる。従来型の 警備に加え、市民「防犯診断」「防犯相 談」出張サービスなども。もちろん営 業は 24 時間。緊急通報・対処センター の体制も万全。 また、犯罪以外でも、クラシアン的 サービス(設備異常から福祉関係の緊 急対処業務まで)、宅急便の受付等々 も、いろいろな業務を一括して請け負 うそうだ。サービス料金タイプは、S ラ 48 ンクと A、B、C ランクの 4 種類。A ランク契約者には、フルスペッ クの警備サービスにて応える。C ランクのうち、高齢者等、一定 の対象者には、自治体の補助金が出て無料。もちろん S ランクは VIP 級で指定のボディガード付き。 なお、このたび特区のエリア内限定ということで厳しい使用制限 つきではあるが、警備員には、護身用拳銃の携帯が認められる。 日本初で各方面にて論議を呼びそうである。 ⃝先着で 5 台、ご注文の「ブロック警備」には、 最新式警備ロボッ ト一年間無料貸与 ○今回募集エリアの個人契約の申込者、先着 100 名さまに限り、 入会金無料 などの初回特典を打ち出すなど、地域限定での共同契約のせい か、従来型の「警備」料金より格段に安く提供される模様。 「安全 安心なまち」を保障する「市民に身近な第二の警察」として定着 するのか、全国的に注目をあつめている (ソフト化経済新聞 03.4.1)。 49 私が考えるブロック警備 50 ◆◆◆私が考えるブロック警備◆◆◆ 鈴木 一三 綜合警備保障(株) 私の考えるブロック警備とは、エリア・人・システム(ルール、 情報機器等)がトライアングル的に構成されたものであり、子供 の遊びであるかごめかごめのように集まった人と人が手をつない でエリアを確立する 当然、手をお互い結ぶ事により安全に対してみんなの意識がひ とつになり自分達で守る為の運用方法(ルール)が形成され、そ こに目的をもった強力な連帯力が芽生える。しかし、人の意識が 高まり安全を自分達で協力し守ろうとする組織を形成しても、ど のような方法で運用するかが難しいところである。 そこで、効率の良い高いレベルの運用体制を形成する為に情報 の共有化・デットスペースのカバー・異常があった時の対処策を 大きなテーマとして検討していく必要があると思う。 第一に情報の共有化については、ブロック警備のエリア居住者 に情報伝達手段として L モード対応電話機の設置を義務付け、犯 罪状況(各地域の犯罪発生の情報)・予防策・警備活動内容等を 配信する。また、ケーブル TV によるブロック警備回覧版を 24H 放 送するなどして警備に関する情報を共有化できるようにする。 第二にデットスペースの問題については、機械警備の委託・カ メラの設置・スーパー防犯等の設置等にてカバーしそのシステム で得た情報も L モード・ケーブル TV 等にて配信する。 第三に異常を覚知した時の対処については、警察通報を第一優 51 先としブロック内の連絡網を利用した連携による集団的威嚇を 狙った体制を確立する。 尚、ブロック警備地域において警備会社による護身術・警備に 必要な法律(刑法・刑事訴訟法)等の教育を定期的に行なうよう なルール化も合わせて確立する。 以上、運用の大きな 3 項目のテーマを克服する事により、レベ ルの高いブロック警備を形成する事ができる。 52 ◆◆◆私が考えるブロック警備◆◆◆ 日比野 昌司 山武ビルシステム(株) ・New York 安全宣言!犯罪天国 日本!? 1984 年に New York の地下鉄に乗ったことがありますが、昼間で も怖い感じで、脇道は人どおりがなく不気味だった印象を持って います。そんな町が、東京より安全だなんて信じられない。事実、 軽犯罪件数では東京の方が多い。最近は、外国人犯罪、シャベル カーでの金庫泥棒、自動車窃盗団など犯罪形態が変化し、安全ボ ケしているわけにもいかなくなった。警察の検挙率も大幅に減少 し、不安でたまらない。 ・生活者が主役!警察でも警備会社でもない第 3 勢力登場! 警察にはもっと IT を活用し検挙率 80% を達成し抑止効果を高め てほしい。スピードが遅いと自動車窃盗団すら捕まえられない。 そして、サイバー上の犯罪対応を強化する必要がある。警備会社 には yahooBB 並の料金で警備を普及させてもらいたい。前者だけ では安全は買えない。生活者空間の特性にあった安全確保を実現 する第 3 の網が必要です。 ・第 3 の網(ブロック警備) 生活空間(買い物に行く、学校に行く、会社に行くなどの活動の 空間)の安全確保は、警察頼みでは実現しない。彼らは刑事・民 事・自治体などの境界のグレーゾーンには立入らない。だから、 安全を必要としている生活者が主役となって、生活空間(ブロッ ク)を共有する人とともに安全対策活動をする仕組みを作ること 53 が必要なわけです。子供が通学途中で危険な目にあっても、住民 の眼で対策を検討し、警察、行政を巻き込んで問題解決をするわ けです。 ・必殺請負人「安全安心請負い会社」 活動を継続的に実行するために、特定個人の私物化排除、活動の 透明性確保の点で会社形態が望ましい。活動資金の捻出が課題で あるが、案を提示したい。 (1)既存資金の利用 自治会費、子供会費、PTA 会費、行政から自治体への協力金の 50% を本活動に回す(千世帯で 5 ∼ 600 万円)。 (2)独自事業 公共料金の検針請負事業(ボランティアにやってもらう)、交番 の請負事業、コンビニ交番事業、危険・犯罪情報を携帯で知らせ るサービス事業、公園の清掃請負事業など、生活に関連した事業 を行う。 今後は、スタートアッププロジェクト(ソフト化経済セン ター?日本財団?)を起こし 、地方自治体と提携しモデル事業 を実行する時期にきていると思う。 54 ◆◆◆私が考えるブロック警備◆◆◆ 山本 芳裕 武蔵野市 ∼ブロック警備は単立できない。 施策のベストミックスにより地域の安全は確保される∼ ブロック警備はかつて犯罪の巣窟と化し、人々が真剣に身の危 険を感じたニューヨークであったからこそ、自発的に生じてきた ものと考える。 一方、日本で犯罪が増えたといっても、日常的に身の危険を感じ るほどではない。さらに人口の流動性が高く、他人の干渉を嫌う住 民の多い日本の都市部では、 コミュニティをベースとした住民の自 発的ブロック警備は、 「誰が費用を出すか?」 「誰が労力を提供する か」等の点で合意形成をしがたい。フリーライダーがいては持続的 活動になりえない。 しかし、これ以上の犯罪の発生を防ぐためには、 「抑止力」として 有効な対策が緊急の課題であり、 自発的な動きが期待できない状況 では、行政の役割が重要である。行政にとっても「安全の確保」は、 福祉の向上に繋がるだけでなく、他都市との差別化が図れれば、富 裕層の転入増やそれに伴う地価上昇等で、 住民税や固定資産税の増 収をもたらす魅力的な施策である。 そこで、 「ブロック」の概念を「全市域」と「小学校区」と「街区」 に分け、各段階での警備を考える。 55 1. 「全市域レベル」では、第一に都市基盤整備として、犯罪心理 学を活用した「犯罪を起こしにくい」の形成(個人の財産形成に対 する補助も対象とする) 、 第二に実施施策として、 巡回パトロールの 実施、防犯灯の設置、第三に市民への啓発施策として「防犯教育の 実施」や元の泥棒などによる防犯診断、第四にネットワーク施策と して、防犯活動を行うNPO・警察との情報交換及び協働、第五に長期 的視野にたって、小中学校における「道徳教育の実施」 、第六に情報 戦略として「防犯強化市」であることのPR。 2. 「小学校区レベル」では、PTAなどへの地域警戒活動への補助金 の支出。 3. 「街区レベル」では、街区内の各家庭がホームセキュリティ加 入時の費用補助(先着順で、街区内の戸数の7%まで) 、街区内の半 数が同意した場合の防犯カメラの設置。 防犯の発生は失業など経済的要因が背景にある。 これまで日本の 犯罪発生率が低かったのは、 経済成長と低失業率が大きく寄与して いたと考えられる。従って、適切な経済政策や不法滞在の外国人摘 発などがブロック警備の前段にあることは言うまでもない。 56 ◆◆◆私が考えるブロック警備◆◆◆ 萩原 功 クレスコ・イー・ソリューション(株) 女房鉄砲仏法、ブロック警備に重要なモノ はこの忘れられた諺に全て含まれています。 女房鉄砲仏法とは「女は殺気だった空気を和らげ、鉄砲は腕力 の強いものを押さえ仏法は人の心を正しく教えこの三つによって 世は安泰となる」との意味です。鉄砲にあ たる屈強な警備員や監視装置、仏法にあ たる意識改革はよく議論されていますが、 女性に象徴される空気を和らげる存在が 共同体復活への足がかりとしてのブロッ ク警備には重要なのではないでしょうか。 力押しの行き着くところは欧米で急増 している金持ち向けのゲーティング・コミュニティーであり、そ れはブロックを要塞化することで地域を分断し破壊します。地域 が特定のサイン(乱雑やとげとげしさ)を発していれば人は犯罪 に走りやすくなります。地域の空気を和らげる出会いの機会やイ ベントを取り込むこみ、ソフトで経済原則の沿ったブロック警備 の仕組みを築いていければと考えます。 このような仕組みを取り込む上で綿密な連携や協力が必要な事 から重要とあるのが政治との協調や行政との連携です。この連携 と協調とを欠けばイベントなどの実施は困難となります。従って 57 ブロック警備団体は政治的には中立でありつつ政治家から支援さ れ行政から頼られる存在にならなければなりません。ブロック警 備は犯罪抑止や魅力向上による地域の資産価値の上昇を証券化・ 債権化して資金調達を行い、活動資金に当てる仕組みを持ってい ます。 この証券や債券を地域でシェアすれば資産家以外の地域住民も ブロック警備による地域の資産価値向上のメリットを享受できま す。このためブロック警備に参加し協力する政治家は支持され当 選しやすくなり、ブロック警備と連携する行政は評価されるよう になります。 支持や評価がブロック警備への政治や行政の連携を深め、連携 が深まれば支持され評価される善い方向への循環が始まることが 期待されます。 58 ◆◆◆私が考えるブロック警備◆◆◆ 小沢 孝司 綜合警備保障(株) 「ブロック」という言葉を国語辞典で調べてみると、様々な意 味が存在します。調べた辞書には載っていませんでしたが、今回、 私は人の集まりをブロックと定義しました。 ところで、ブロック警備研究会では、従来の「警備」よりも「ブ ロック警備」の方が優れているという結論を出す必要があります。 そこで私は、1 人よりも人が集まって協力した方が効率よく安全 が確保でき、さらに、それで警備会社が儲かるようなビジネスモ デルを提案したいと思います。 昨今、水と安全がタダという時代ではなくなりました。そこで みなさん、警備会社を頼りましょう。と言っても、四六時中、家 の近くを巡回してくれるわけじゃないですよね。個人的にボ ディーガードを雇えば別ですけど、それはコストがかかりすぎま す。そこで、近所の人を巻き込んで(お金を出し合って)、警備会 社と顧問契約をするのです。警備会社は何をしてくれるかという と、いつでも契約者の方の防犯相談に乗ってあげるわけです。そ れは直接会って話してもいいですし、電話や電子メイルでもいい のです。とにかく契約者は気軽に防犯のプロに相談することがで きます。場合によっては家に出かけて防犯アドバイスもします (これは追加料金を頂きたいところですが…)。 さらには、定期的に防犯に関する講習会を開くわけです。その 59 講習会というのは、警備員を育成するプログラムになっていて、 何回か参加すると契約者全員がプチ警備員になるわけですよ。警 備会社独自の資格を作って、プチ警備員と認定した場合はステッ カーを配布します。それを家に貼れば、この家にはプチ警備員が いるということで泥棒も敬遠すると思います。それに、近所に教 育されたプチ警備員がたくさんいたら少し安心できますよね。 また、警備会社は防犯機器のレンタルも行います。例えば、従 来は警備会社の監視センターに通報していたアラームを近所の契 約者にも通報できるようなシステムをレンタルします。事件が起 きたときに、警備員が駆けつけるよりも近所の人の方が早く到着 する場合がありますから。 どうでしょうか。警備会社と顧問契約してプチ警備員を育てる という案は。 60 ◆◆◆私が考えるブロック警備◆◆◆ 東 雅之 アレス東京(株) 「ブロック警備」を考え、これに参加することは、新しい形の 「市民の義務」を果たすことになる。日本国民の三大義務は、「納 税、教育、勤労」だけれども、もうひとつ、 「市民」としての新し い義務と責任ある活動の試み、それが、「ブロック警備」なのだ。 そもそもヨーロッパを起源とする市民社会では、「自らが家族 や社会を外敵から守る」ことは、市民の基本的な義務であり、責 任であったはずだ。その成員たる市民にとっては、それは自明の ことだった。その流れを継承するアメリカは、その考えがもっと も徹底している。個人が,わが身を守るためには、銃器の使用さ えも当然の権利なのだ。 かつて日本も、地域共同体のなかで、家族やみんなで協力して 守っていた。つまり、そこに暮らす住民自身が自らの生活空間を 自然に“警備”していたのだ。島国で単一民族である日本社会に は、たとえば、不審者を自然に監視したり、連帯意識でつながっ たりと、明らかに日本的な意味での犯罪抑止のシステムがあった のだ。それは、私たちの貴重な財産だった。そして優秀な警察と 連携して、私たちは世界一安全な社会を謳歌してきた。 ところが、戦後、経済発展とともに大きく変貌した日本社会は、 個人の尊重を掲げ、より民主的な市民社会を標榜し、発展した。 同時に私たちは、日本的な共同体社会の崩壊を容認しつつも、 「公 の」安全は、全面的に警察に依存し、 「私の」安全は、もっぱら個 61 人の努力や警備会社等に委ねられた。それでも、私たちの身近な 生活は、これまで蓄積された防犯ストックのおかげで、総じて平 穏で、殊更に「安全の維持は市民の義務」などという必要はなかっ た。安全は、いつも誰かが保障してくれたのだ。 ところが、時代は進み気が付くと、戦後最大の犯罪件数の発生 である。まちでは少年犯罪やストーカー、あちこちで外国人犯罪 者たちのやりたい放題。気づいたら、持っていたはずの「防犯ス トック」も、ほとんど使い果たしてしまったようだ。そして、い よいよ真剣に犯罪から、わが身をそして家族をどうやって守るの か?に思いを巡らしたときに、私たちは、やはり共同体のなかの 一員であることに気づくのである。 そして、あらためて居住区で、商店街で、その町全体で、地域 全体で、守った方がずっと安全で安心だ、そうでなければ守れな いことに思い至るのだ。そこに、「みんなで守る」という DNA が 働き、「ブロック単位で守る」という概念が、復権するのだ。 つまり、「ブロック警備」は、“自分たちで安全を守る活動”の 再構築の作業なのである。そして自己責任社会に向けて、現代的 な意味での安全で安心な「まちづくりのプログラム」ともいえる。 さらに「ブロック」を国家に広げれば、それは生きた安全保障 を学ぶことでもあるのだ。すなわち、「ブロック警備」の創造は、 「防犯」そして「防衛」という、私たち日本人が、忘れてきた宿題 を果たすこと、子供たちに、安全という財産を残すことなのであ る。 62 ◆◆◆私が考えるブロック警備◆◆◆ 納谷 聡 (社)ソフト化経済センター ∼ブロック警備は新しい共同体精神や 相互信用社会の再構築を促す∼ ブロック警備はその地域を愛する心が集まれば実施することが できる。地域を愛することができなければ人々は去り、やがてそ の地域は廃れていく。規模ややり方、結束力の強弱はその地域の 風土や文化によって様々な形態になるだろう。ブロック警備はこ れじゃなければダメだ、ということはない。まずは隣の住民と始 めてもいい。「何か不自然なことがあればお互い安全保障を結ぼ う」と。現に各地で様々な取り組みが今始まっている。 ブロック警備によって安心・安全を得てもいいし、ボランティ アなどで自己実現も可能だし、さらに事業を興してお金持ちにな ることだってできるのだ。これは共同体精神がキーワードである 新しい社会が創造されたといえる。その動きが出てきたことを見 逃してはいけない。 警備に求めるのは「抑止力」と「被害の拡大防止」だ。そこで 重要なのはやはり「人」だと思う。今はマンパワーから機械や監 視カメラなどのハードの比重が高まり、効率よく警備をするよう になってきている。それは「抑止力」にはなるが、「被害の拡大 防止」には疑問が残る。身に危険が迫っている時は、とにかく誰 かに来てもらいたいのである。それは隣近所の人でもかまわな い。数分の違いが結果を大きく左右する。ブロック警備は緩やか な共同体精神により「抑止力」と「被害の拡大防止」の両方をカ 63 バーできる。 そこで警備会社としてはまず、一企業、一個人の単位にカスタ マイズされた警備システムだけでなく、地域を限定することで可 能となるサービスを考えれば幅が広がるのではないか。地域を単 位で考えるのだ(基本料金が毎月入ってくる)。さらに警備も画 一的でなく最初はベーシックなプランからオプションをつけてい き、超ハイグレードな警備も提供できるようにする。例えば・・・ 1.「安心・安全まちづくり会社」を設立する。 2.ある地域の夜間巡回を行うだけのプランなどで契約し、まず はその地域に入りこむ。採算があわない場合はボランティア、自 治組織結成のコンサルティングを行う。さらに警備実施要領の教 育などを実施する。そこから機器販売や機械警備、ホームセキュ リティーにつなげていく。料金は一地域 20 世帯以上は地域限定 団体割引とする。もしくは半年間無料など。 3.地域限定でまずは基本料金を設定し、さらにその地区で緊急 出動サービス(有料)を実施する。今は自前でセンサーとカメラ をリンクさせて自分に画像を送る人も増えている(自家警備)。 などブロック警備の考えから派生するサービスや商品はまだまだ ある! おわりに 今まで「警備会社」という立場から「安全」を考えていた私にとっ て、この研究会は今までと違った視点から安全を考えるきっかけ になりました。頭の堅くなった私にとって新鮮で重要な研究会で した。忙しい中講演を引き受けていただいた講師の方々、日々の 業務があるにもかかわらず、一緒に活動していただいた研究員の みなさまに支えられました。感謝いたします。 64 ◆ブロック警備研究会 メンバー 東 雅之 アレス東京(株) 日比野 昌司 山武ビルシステム(株) 萩原 功 クレスコ・イー・ソリューション(株) 山本 芳裕 武蔵野市 鈴木 一三 綜合警備保障(株) 小沢 孝司 綜合警備保障(株) 越智 栄人 京王電鉄(株) 納谷 聡 (社)ソフト化経済センター ◆編集・発行 (社)ソフト化経済センター TEL:03 − 3580 − 1131 ◆発行日 2003.3.6