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第4章 中国の対外援助政策(PDF 468.51KB/5ページ)
第4章 中国の対外援助政策 本章では、現在推進されている対外援助に関して、その基本政策、各地域に対する援助 政策、法制度の枠組み、そして援助の仕組みを整理する。 1.対 外 援 助と地域政策 1.1 現 在 の対外援助政策 胡 錦 濤 主 席 は 2005 年 9 月 に 開 催 さ れ た 国 連 総 会 に お い て 、 中 国 の 現 在 の 対 外 援 助 政 策 で あ る 「 対 外 援 助 5 原 則 」に 関 す る 報 告 を 行 っ た 。 以 下 そ の 内 容 を ま と め 、コ メ ン ト を 加 える。 「5 原則」では、第 1 に、中国は、国際的発展、協力強化、南北格差の縮小、そして以 上を通じたミレニアム開発目標を達成するために努力するとしている。 第 2 に 、 援 助 国 と 被 援 助 国 は 、 バ ラ ン ス が と れ た WIN-WIN( 両 者 勝 利 ) の 関 係 を 目 指 すべきであるとして、無償・有償資金協力に限らず、企業の参与やタイド案件を肯定すべ きとしている。 第 3 に 、発 展 モ デ ル の 多 様 性 を 尊 重 す べ き で あ る と し て 、二 国 間 で の 合 意 に 対 し て 第 三 国や国際機関が注文をつけることを警戒している。 第 4 に 、枠 組 み の 評 価 、監 督 を 実 施 す る と し て 、援 助 案 件 の 評 価 や 枠 組 み の チ ェ ッ ク に ついては、それを拒否しないとしている。 第 5 に 、国 連 が 国 際 発 展 協 力 を 推 進 す る 自 ら の 機 能 を 強 化 す る べ き で あ る と し て 、開 発 についても、国連中心主義を貫くべきであるとしている。 つまり、国連での取り組みを重視し、国際協力の枠組みについても多様性を認めさせ、 現に推進している中国と途上国の二国間の多様な協力関係、特にタイド案件を今後も継続 するという姿勢を示しているといえよう。 1.2 地 域 政策 上記のような、国連の機能を重視した対外援助の枠組み創出を進めるとともに、中国政 府は、地域ごとの援助政策を準備している。 ①アフリカ ア フ リ カ に 対 し て は 、第 1 に 、2009 年 ま で に 中 国 の 対 ア フ リ カ 諸 国 援 助 額 を 2006 年 の 倍 に す る 。 第 2 に 、 今 後 3 年 以 内 に ア フ リ カ 向 け に 30 億 ド ル の 優 遇 借 款 を 用 意 す る 。 第 3 に 、 中 国 企 業 の 対 ア フ リ カ 投 資 を 促 進 す る た め に「 中 国・ ア フ リ カ 発 展 基 金 」を 設 置する、等の政策を打ち出している。 25 ②アジア ア ジ ア・ ア セ ア ン 7 は 既 に 発 展 し て い る た め 、援 助 国 と 被 援 助 国 と の 関 係 づ く り で は な く、中国とアセアン両地域の自由貿易の活発化による、経済の共同発展が目指されてい る。 実 際 2001 年 11 月 に は「 中 国 と ア セ ア ン の 包 括 的 経 済 協 力 に 関 す る 枠 組 み 協 定 」が 結 ば れており、この協定の実施を通じて、両地域の投資促進と経済交流の活発化が目指され ている。そのほか、資源を有する中東、中国に隣接するインドシナ各国に対する援助政 策が推進されている。 ③ラテンアメリカ ラテンアメリカに対しては、鄧小平がかつて述べた「良好な関係を発展させ、中国・ラ テンアメリカ関係を「南南協力」のモデルにしたい」との路線の下で、良好な関係が形 成されている。 た と え ば 、第 1 に 、メ キ シ コ な ど ラ テ ン ア メ リ カ の 主 要 国 が 中 国 と の 密 接 な 経 済 関 係 樹 立 を 希 望 し て い る 。第 2 に 、ラ テ ン ア メ リ カ 政 府 要 人 や エ コ ノ ミ ス ト の 相 互 訪 問 が 頻 繁 に行われている。 こうした交流の拡大を踏まえ、中国とラテンアメリカの間には、安定した経済援助、経 済交流の関係が形成されている。 2.関 連 法 規 対外援助に係る関連の法規は多数存在する。ここでは基本的な関連法規と、最近制定さ れた主要な法制度を紹介する。 2.1 法 ・ 制度整備の経緯 既 に 見 て き た よ う に 、 中 国 の 対 外 援 助 は 1950 年 に は 既 に 開 始 さ れ て い た 。 た だ し 、 専 ら無償援助であり、かつ極めて政治色の強い目標の下で実施された事業であり、関連の法 や制度は理念的なものにとどまり、実施細則等の整備は遅れていた。資金調達に係る法的 裏付けも厳密ではなかった。 こ う し た 状 況 を 一 変 さ せ た の が 、1990 年 以 降 、中 国 の 国 内 に お い て は 改 革・開 放 路 線 の 深化であり、国際的にはグローバル化の進展であろう。二カ国援助に当たっても、資金調 達、利子、転貸銀行、入札方式、入札資格、返済、評価などについて、厳密で経済的で明 確な制度の裏付けが必要になったのである。 以 下 、 必 要 性 と の 関 係 で 近 年 整 備 さ れ て き た 法 ・ 制 度 を チ ェ ッ ク す る 。( こ こ で は 1990 年 以 降 に 公 布 さ れ た 法 ・ 制 度 に 注 目 す る 。) 26 2.2 法 ・ 制度整備のポイント 1991 年 、 外 経 貿 部 と 財 政 部 は 、「 対 外 経 済 技 術 援 助 プ ロ ジ ェ ク ト の 財 務 管 理 規 定 」 を 公 布した。これは対外援助の際に明確でなかった財務管理について、無償資金であっても管 理を厳密に行うことを要求するものであった。 1997 年 に は「 中 国 対 外 援 助 方 式 概 要 」、1998 年 に は「 対 外 援 助 予 算 資 金 管 理 方 法 」が 公 布され、個人や経験に依拠していたプロジェクト資金管理の厳密化を目指した。 そ し て 、 1998 年 、 商 務 部 、 財 政 部 は 「 対 外 援 助 合 弁 ・ 協 力 プ ロ ジ ェ ク ト 基 金 管 理 規 定 」 を公布し、対外援助に係る合弁事業という新しいスキームについて、試行段階から法・制 度の整備を目指した。 1998 年 6 月 、 財 政 部 公 布 「 対 外 援 助 予 算 資 金 管 理 方 法 」 に 続 い て 、 新 し い 資 金 供 与 の ル ー ト で あ る 中 国 輸 出 入 銀 行 の 関 与 に 関 す る 規 定 が 2000 年 2 月 、中 国 輸 出 入 銀 行 か ら「 中 国輸出入銀行対外優遇借款に関する暫定的規定」として公布された。 以下資金源の多様化、援助方法の多様化に対応して、各種の規定、法、条例、などが整 備されている。例をあげれば以下のとおり。 2004 年 、「 フ ル セ ッ ト 型 援 助 事 業 実 施 企 業 に 関 す る 資 格 認 定 方 法 」 2004 年 、 商 務 部 「 対 外 援 助 条 例 」 起 案 完 了 2006 年 、 商 務 部 「 対 外 援 助 物 資 プ ロ ジ ェ ク ト 管 理 に 関 す る 暫 定 的 規 定 」 2006 年 、 商 務 部 「 対 外 援 助 助 成 項 目 考 察 設 計 標 準 弁 法 ・ 暫 行 」 を 制 定 2006 年 、 商 務 部 「 関 於 対 外 援 助 項 目 評 価 結 果 公 示 和 質 疑 処 理 的 規 定 ( 試 行 )」 こ の う ち 、2003 年 の「 対 外 援 助 条 例 」は 2004 年 に 起 草 を 完 了 し 、以 後 政 府 内 関 係 各 部 門に稟議しているところであり、調整が比較的遅れていると思われる。 3.援 助 の 方式 3.1 援 助 スキームの種類 現在中国政府が用意している①援助スキーム、②その担当部門、③二国間援助か否か、 な ど は 、 図 表 4- 1 の と お り 。 このうち規模が大きい、件数が多い援助スキームは、フルセット型、無償、無利子、優 遇借款、などである。 最近急増したスキームは、プロジェクト合弁事業、債権削減・放棄などである。中国の 援助は主要プレーヤーを中国系企業で固めるという特徴がある。資本金や実績で中小企業 が排除されるため、事業に関与する企業はほとんど国有の大規模企業である。 近年は国連など多国機関への拠出金もやや増加している。 27 図 表 4-1 援 助ス キ ー ム と担 当 部 門 援助スキーム 担当部門 二 国 間 or 多 国 間 等 無利子借款 商務部 二国間 無償 商務部 二国間 債権削減 財政部 二国間 優遇借款 輸出入銀行←中央政府 二国間 輸出信用 輸出入銀行←中央政府 二国間 中国アフリカ開発基金 国家開発銀行 多国間 合弁事業 国有企業←商務部 二国間 フルセット型事業 国有企業←商務部 二国間 技術協力 国有企業←商務部 二国間 物資供与 中央政府・国務院 二国間 ボランティア派遣 中央政府・国務院 二国間 トレーニング受け入れ 中央政府・教育部、人力資源部他 二国間 国際機関への拠出 中央政府・財政部 多国間 労務協力 民間 非援助 請負工事 民間 非援助 (出所)筆者作成 3.2 対 外 援助の実施プロセス 次に、対外援助の実施プロセスを紹介する。ここでは代表的な援助スキームとして、無 償 援 助 、利 子 補 給 優 遇 借 款 、 対 外 援 助 合 弁・ 協 力 プ ロ ジ ェ ク ト 合 弁 、の 3 つ の 実 施 プ ロ セ ス を 紹 介 す る 。( こ の 項 に 関 し て は 、 前 出 、 顧 林 生 『 中 国 の 対 外 援 助 』 を 参 考 に し た ) 無 償援 助 一般に無償援助の案件は次のようなプロセスを経る。 ①被援助国の政府が候補案件を提示し、中国政府は何をどれくらい援助するか検討した 上 で 候 補 案 件 の 実 施 可 能 性 を 考 慮 す る 。通 常 、事 前 に 実 施 さ れ る 実 行 可 能 性 調 査( FS) を 基 に 事 前 調 査 ( FF) が 行 わ れ 、 調 査 内 容 に つ い て 、 備 忘 録 が 作 成 さ れ る 。 ②事前の検討①を踏まえ、被援助国が要請を提出する。中国政府は被援助国政府と政府 間合意書を作成する。 ③政府間合意を経て、正式の調査団が視察し、正式調査を行う。正式調査は「アプレイ ザ ル 」 と 呼 ば れ て い る 。 主 な 調 査 、 確 認 内 容 は 、 1) 事 業 の 目 的 と 必 要 性 、 2) 技 術 、 財 政 、経 済 、社 会 的 観 点 、3)借 入 国 の マ ク ロ 経 済 情 勢 と 債 務 返 済 能 力 、4)実 施 主 体 の 運 営 能 力 と 財 務 体 力 、 5) 中 国 側 企 業 の 資 格 と 実 績 な ど が 、 確 認 の 対 象 と な る 。 ④ 両 国 が 事 業 実 施 で 合 意 し た 場 合 は 、 立 件 の 交 換 公 文 ( CN) の 手 続 き に 進 む 。 28 ⑤商務部は入札などの方法で中国のコンサルタントを選び、被援助国と設計契約を結び、 プロジェクトを設計する。 ⑥商務部は入札などの方法で中国の企業を選び、被援助国と設計契約を結び、プロジェ クトを実施する。 ⑦商務部と被援助国主管部門は検収を行い、プロジェクト引き渡し証明書にサインする。 利 子補 給 優 遇 借款 利子補給優遇借款は、中国政府に指定された金融機関が対外機関に供与する政府援助 (贈与の性格を有する)であり、貸付機関は、中国輸出入銀行である。案件のプロセスは 以下のとおり。 ①被援助国の要請に基づき、中国政府と被援助国政府は、金額、借款条件、貸出銀行など について、政府間枠組み合意書を締結する。 ②商務部と被援助国政府の主管部門は、優遇借款利用の意向のある事業を審査した後、貸 出銀行と転貸銀行に推薦する。 ③優遇借款の利用を要請する企業(合弁、協力企業を含む)は、中国商務部と、被援助国 政 府 の 主 管 部 門 に 事 業 報 告 、 事 業 の FS、 企 業 が 結 ん だ 合 弁 意 向 書 な ど を 提 出 し な け れ ばならない。 ④貸出銀行と輸出入銀行は、①②③で作成された資料に基づき、案件の是非を評価する。 合意された場合、両銀行は借款契約を締結する。 ⑤貸出銀行は企業と転貸契約を結び、企業が返済担保を提出する。企業は転貸された資金 を用いて事業を実施する。 ⑥転貸銀行は契約どおりに元利を返済し関連手数料を支払う。 対 外援 助 プ ロ ジェ ク ト の 合弁 と 協 力 対外援助プロジェクトに係る合弁企業との協力プロセスは以下のとおり。 同事業は、中国企業と被援助国の企業が共同経営の形態で、優遇借款を利用し、事業を 実施するプロジェクトである。 ①中国政府と被援助国政府が許可した実施企業(中国企業及び被援助国企業)が合弁契約 意向書に調印。 ②双方企業は必要な書類を中国商務部と被援助国の主管部門に提出して審査を受ける。 ③商務部と主管部門は事業を審査し、同意後は政府間合意書に調印し、双方企業に政策、 資金面のサポートを行う。 ④合弁事業の実施・協力企業は、両国の主管部門の監督・検査を受ける。 ⑤援助資金は合弁協力事業に用いることができる。 29