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男子尿性器膣 トリコモナス感染症の現況 ― 最近10年 間の変遷を中心に
昭 和62年10月20日 1149 男子 尿 性器 膣 トリコモ ナ ス感 染 症 の現 況 ― 最 近10年 間 の変 遷 を 中心 に ― 東海大医学部泌尿器科学教室(主任:河村信夫) 河村 信夫 田中 元章 稲土 博右 木下 英親 Key words: 川嶋 (昭和62年5月8日 受 付) (昭和62年8月11日 受 理) Trichomonas vaginalis infection, male urogenital organ, current declining status, nongoncoccal uethritis 要 旨 昭 和50年 の 東 海 大 学 病 院 開 設 以 来 のT.vaginalis(TV,膣 し た.主 敏文 と して 淋 菌 性 尿 道 炎(GU: Gonococcal Urethritis)の 患 者 が 対 象 に な った が,昭 ト リ コ モ ナ ス)の 男 性 か ら の検 出 率 を検 討 Urethritis),非 淋 菌 性 尿 道 炎(NGU: 検 出 率 よ りも 明 らか に減 少 し て い る こ とが 認 め られ た.産 婦 人 科 的 に もT.vaginalisの い る と い わ れ て お り,数 字 的 に も明 らか な 差 が み られ,さ ら に減 少 の 傾 向 も認 め られ る.そ の 実 態 を 報 告 し,原 文 腺 炎,副 睾 丸 炎 の患 者 を 対 照 に した.性 経 験 を 有 男 子 尿 中 に膣 ト リコモ ナ ス(Trichomonas nalis Donne,以 下TVと vagi- 略 記)が 検 出 され る場 合 の あ る こ と,そ れ がSTDと して の 意 義 を もつ こ とが 多 い こ とに つ い て は,従 来 か ら何 度 か発 表 し し な い も の は 除 い た.検 サ ー ジ後 尿(以 下PM後 尿 中 か らの 検 出 率 が 非 常 に 低 下 し て き て い る.そ の 原 因 は婦 人 科 的TV感 染 の減 少 に よ る と思 わ れ る. 体 は尿 又 は前 立 腺 マ ッ 尿 と略 記)を 用 い,す べ て 培 養 法 に よ り判 定 し,尿 沈 渣 中 の み にTVが 見 られ た も の は 除 外 した. て きた1)∼5).しか し な が ら昭 和50年 代 の 後 半 か ら 結 最 近 約10年 間 のTV検 す.こ の うちTV陽 果 出 結 果 をTable 1に 示 性 者 の 検 査 所 見 をTable 2に 示 す. 我 々 は 東 海 大 学 病 院 開 院 以 来,TVを よ り検 査 し て きた が,そ 培 養法 に の検 出 率 の減 少 の 傾 向 を 昭 和61年6月30日 迄 の泌尿器 科受診男子患 者の う transmitted disease, 略 記)又 は そ の 疑 い の あ る患 者,前 立 別刷 請 求 先:(〒259-11)伊 Isolation specimen of T. vaginalis of patients from the with STD or (1975.2-1986.6) の 東 海 大 学 病 院 の 開 院 以 来, ち 性 行 為 感 染 症(Sexually 1 its suspicion 材 料 と方 法 昭 和50年2月16日 Table different 認 め るの で 報 告 す る. 以 下STDと 感 染 は減 少 して 因 に つ い て 考 察 し た. 序 TVの Nongonococcal 和30年 代 後 半 か ら40年 代 の は じめ に か け て の 同 様 な 疾 患 か ら の 勢 原 市望 星 台 東 海 大 学 医学 部 泌 尿器 科 学 教 室 河村 信夫 感 染 症 学雑 誌 1150 Table 考 2 Patients す で に 公 表 し て あ る 如 く,昭 で あ っ た1)2)4)6) .Table T.V. Infection 和30年 代 後 半 か ら 出 率 は2 3は,そ れ らの結 炎 を 中 心 と したSTDは 確 実 に 増 加 して い る7). こ の よ うな 低 下 傾 向 は 産 婦 人 科 的TV感 本 邦 で は み られ て い な い.ま 55年 以 後 の 検 出 率 は 昭 和40年 近 の東 海 大 学 病 院 の デ ー タで はTable 以 前 に 比 し,p< 染で は 一 般 に み とめ られ る と い うが,数 値 的 な 発 表 は 果 をabstructし た も の で あ る. 一 般 泌 尿 器 科 患 者 につ い て 統 計 的 に 見 る と昭和 0.01で 第10号 と こ ろ が この 間 に淋 菌 性 尿 道 炎 や 非 淋 菌 性 尿 道 案 40年 代 前 半 の 男 子 尿 か ら のTV検 ∼3%位 list with Urogenital 第61巻 尿 か らの検 出 率 は,古 た 女 子 の カテ ー テ ル くは4%位 で あ った が,最 4の 如 く, や は り減 少 し て い る. 有 意 差 を 持 っ て 減 少 し て い る. この よ うな減 少 を きた した 原 因 と して の 次 の 如 Table 3 different Isolation specimen of T. vaginalis of patients from the with STD or き もの が 考 え られ る. 1. 抗 カ ン ジ ダ薬 の 普 及 2. 配 偶 者 の 同 時期 同 期 間 治 療 の一 般 化 its suspicion (1964-1966) 3. Metronidazole, Tinidazole等 強力 な薬剤 の 普及 4. 強 力 な新 種 抗 菌 薬 の 開 発 5. 出 産 の減 少 し か し新 し く開 発 さ れ た 抗 菌 薬 の 中 で 抗TV 力 を示 す も の は な い. 抗 カ ン ジ ダ カ を 持 つ 薬 剤 は し ぼ し ば 抗TV力 昭和62年10月20日 1151 Table も有 して い る.今 4 Yearly change of STDs at Tokai 日,各 種 膣 坐 剤 が 薬 効 再 評 価 な どで減 少 し て行 き,抗 カ ンジ ダ剤 が 広 く一 般 産 婦 人 科 的 治 療 に使 わ れ る こ とが 多 くな って 来 て い る 研 究. 2)河 の上 昇 に も つ な が るか ら と考 え られ る. 分娩 の 減 少 は,な るべ く大 き な病 院 で の分 娩 の 風 習 を 生 ん で い る と の こ とな ので,医 分 娩 時 に 感 染 す るTV症 原 性 に妊 婦 と考 え られ る. 治 療 に つ い て は,特 チ ニ ダ ゾ ー ル の よ うな 強 力 な 抗TV力 を持 つ も の で,臨 床 効 果 も非 常 に よ く この よ うな薬 剤 の 普 及 もTV感 染 を 少 な くし て い る と考 え られ る8). 実 際 に は これ らの原 因 が 複 合 して 減 少 が認 め られ る よ うに な った もの と考 え る. この論文の内容 は第46回 日本寄生虫学会東 日本大会に於 いて発表 した. 文 献 1) 河村信夫: 泌尿器科領域における トリコモナスの 15-24, 第2報. 日泌 尿 会 誌, 60: 25-28, 前 立 腺 の ト リ コ モ ナ ス 症. 635-644, 1973. 要, 1969. 1969. 臨 泌, 27: prisoners 25: (英文) 泌紀 in a reformatory. 1023-1026, 1979, 5) Bauer, H.: Zur haufihkeit and Bedeutung der Urogenitalen Trichomoniasis in der dermatovenerologischen Praxis. Med. Welt, 00: 2161 - 6) 2166, 1960. 木村 哲: の 研 究. め,本 邦 で は 配 偶 者 治 療 も徹 底 して 来 て い る.こ の と き男 性 に 用 い られ るの は メ トロ ニ ダ ゾー ル, 60: 河 村 信 夫: male に産 科 婦 人 科 で 同 時 同 期 間 治 療 とい う こ とが キ ャ ン ペ ー ン さ れ た た 日泌 尿 会 誌, 泌 尿器 科 領 域 に お け る ト リコモ ナ スの 4) Kawamura, N. & Kinoshita, H.: The incidence of trichomonas vaginalis infections and the length of asymptomatic infections among 例 も減 っ て き て い る し, そ の よ うな感 染 の 危 険 を 生 ず る 回 数 もへ っ て い る Hospital 第1報. 村 信 夫: 研 究. 3) とい う.膣 坐 薬 剤 挿 入 処 置 を 行 う こ とが 診 療 点 数 TVの University 7) 川 嶋 敏 文, 信 夫: 泌尿 器 科 領 域 に お け る膣 トリコ モナ ス 日 泌 尿 会 誌, 日原 徹, 56: 中島 455-475, 登, 東 海 大 学 病 院 に お け るSTDの 川 医 学 会 雑 誌, 14: 28-32, 1965. 星 野 英 章, 河村 現 況. 神奈 1987. 8) Austin, T. W., Smith, E.A., Darwish, R., Ralp, E. D. & Pattison, F.L.M. : Metronidazole in a single dose for the treatment of trichomoniasis: Failure of a 1-g singic dose. Brit. J. Vener. Dis., 58 : 121-123, 1982. 9) Kawamura, N.: Metronidazole and tinidazole in a single large dose for treating urogenital infections with trichomonas vaginalis in men. Brit. J. Vener. Dis., 54: 81-83, 1978. 感 染 症 学 雑誌 1152 The Current Status of Trichomonas Urogenital vaginalis Organ Infections of the 第61巻 第10号 Male Nobuo KAWAMURA, Motoaki TANAKA, Toshifumi KAWASHIMA, Hiroaki INATSUCHI & Hidechika KINOSHITA Department Urology, Tokai University, School of Medicine, Isehara, Japan The isolation of Trichomonas vaginalis has been declining steadily during the past decade. Particularly the recent five years have seen a statistically significant decrease as compared with more than a decade ago. The most important single factor in this decrease appears to be a declining frequency of Trichomonas vaginalis infections in the field of obstetrics and gynecology. Today, it appears that Trichomonas vaginalis is assuming less and less importance as a causative agent of nongonococcal urethritis.