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八田経編株式会社 - 一般財団法人海外産業人材育成協会
たてあみ 経編でタイと日本を結ぶ 八田経編株式会社 次に、受入研修及び専門家派遣の両制度の利用事例として、 明治 20 年代の輸出羽二重 * の生産以降繊維産業が盛んな福 井県鯖江市にて昭和 24 年に創業し、以来経編生地の開発・ 製造を手掛けている八田経編株式会社をご紹介します。 同社は 2013 年 5 月、タイのチャチェンサオ県バンパコン 郡(バンコクから東に約 47km)に 51%出資の SIAM HATTA CO., LTD. を設立し、タイ工場立上げ前の同年 8 月からリー ダー候補のタイ人スタッフ 2 名を受入れ、経編生地製造技術 の研修を行いました。さらに、工場立上げ時の 2014 年 2 月 からは社員を専門家として派遣し、フォローアップ等の指導 を行っています。 本 社 福井県鯖江市中野町 115-10 今回は、タイ進出の経緯や両制度を利用された成果につい 設 立 1965 年 2 月(創業 1949 年) て、代表取締役社長の八田嘉一郎様にお話を伺いました。 資 本 金 4,500 万円 *輸出用に織られた広幅の薄手の羽二重。羽二重とは、1本の経糸を細 従業員数 82 名(2015 年 12 月現在) 事業内容 経編生地の開発・製造 い 2 本にした織物。 まず、御社の事業概要について教えてください。 金メダリストである高橋尚子さんや野口みずきさんが履いた 当社は経編生地の開発・製造を シューズにも採用されました。本社及びあわら市に合わせて 行っています。経編(タテアミ)と 月産 9,000 反の生産能力を持つ工場を有しており、他にも高 は耳慣れない言葉かもしれませんの 級衣料ブランドやデパートのアパレル向けの衣料用生地や自 で少し説明しますと、生地というも 動車用のシート生地などを手掛けています。 のは織物と編物に、編物はさらに緯 また、当社の強みは、お客様の要望を経編生地で表現でき 編(ヨコアミ)と経編に分類されま る開発力にあると考えています。そのため、開発スタッフに 13 名を配置し、開発機も量産機と同じものを 8 台ほど備えて す。緯編がループをヨコ方向に進め 八田代表取締役社長 ながら編地を形成していく一方、経 います。また、2 万点を超える生地を展示するサンプル室を 編はループをタテ方向に連続して編み上げていきます(図 1 有し、様々な用途向けの生地をより早く企画・提案すること 参照) 。経編生地は柔らかくて伸縮性があり、 自動車用シート、 が可能です。 シューズ、 下着、 カーテンなど様々な用途に使用されています。 また、2 列のニードルを持つ経編機「ダブルラッセル」を使う なぜタイに進出されたのでしょうか。 と、立体的な生地を作り出すことができます。この機械から 当初からタイに進出しようと考えていたわけではありませ 製造されるシューズのアッパー部(甲を包む部分)のメッ ん。タイへの進出は、国内主要取引先のタイ子会社から「外 シュ生地は当社の主力商品で、オリンピック女子マラソンの 注先製品の品質が悪くて困っているので、外注先ローカル企 業に技術指導をしてくれないか。 」との依頼を受けたことが 図1 織物 きっかけでした。この依頼を受けて技術指導に行ったところ、 編物 緯編(ヨコアミ) 最新の設備ですばらしい機械を使っているにもかかわらず、 経編(タテアミ) 品質は当社よりかなり低かったのです。この一件で当社の品 質の優位性を確信したことや、同ローカル企業から技術サ ポートを依頼されたことが、タイ進出の直接的な背景です。 当社のタイ工場にはダブルラッセル機を 2 台、荒い編み目 から細かい編み目までの生地が作れるトリコット機を 5 台導 入し、シューズ用メッシュ生地と自動車用シート生地をそれ 8 HIDA JOURNAL ぞれの機械で製造しています。現状は自動車シート生地生産 までに苦労しまし の割合が高く、国内主要取引先のタイ子会社向けに納品して たが、編立工程の います。原糸(ポリエステル糸)を仕入れ、当社のタイ工場 基礎となる①ビー で編機に均一なテンションで経糸(たていと)を供給するた ム仕掛け、②糸通 めの整経という準備工程(整経工程)と、編機を使っての編 し、③編付、④編 立という製造工程(編立工程)を行ってから、他社において 立管理データ収集 染加工、縫製、製品完成という流れになるので、当社での品 の各項目につい 質の優劣がその後の工程に大きく影響します。高品質の生地 て、現地スタッフ を供給することで、タイ国内の自動車産業のサプライチェー のみで編機を稼働 ンの強化にも寄与できているのではないかと思います。 させられるレベルにまで指導できたので、大変評価していま 受入研修では、どのような研修を行ったのでしょうか。 作業は細かい熟練を要する す。指導中は、日本で研修したアートさんとピンさん 2 名が 中心になって活躍してくれました。 HIDA のことは、前述の国内主要取引先から紹介されて知 現在、整経工程リーダーのアートさんは 6 名の部下、編立 りました。タイ工場の稼働前に、整経工程と編立工程のリー 工程リーダーのピンさんは10 名の部下をそれぞれ指導してく ダー候補 1 名ずつ計 2 名を受入れて研修を行いました。2 名 れています。アートさんは工場内物流も管理しており、今で とも IT 分野からの転職者で繊維や編機に関しては素人でした は工場の段取りはほぼアートさんの仕切りで行われています。 が、人柄が良く信頼のおけるリーダー候補として当社専務取 締役兼現タイ法人社長が採用を決めました。 2 名とも日本は初めてで、最初は関西研修センターで 6 週 現在、二人目の専門家を派遣していますが、どのよ うな指導を行っていますか? 間の一般研修コースに参加しました。一般研修で日本語の基 川崎専門家の指導と帰国した研修生の活躍もあって、通常 礎、日本の文化、日本人のメンタリティなどを学んだことは のオペレーションは現地スタッフのみでできるようになり、 後の実地研修や帰国後の仕事において役立っていると思いま 量産体制を軌道に乗せられるようになりました。今回はさら す。当社に来てからの実地研修では、 編物生地製造のオペレー なるレベルアップとして、不良率削減や生産性向上を図るこ ションはもちろんのこと、帰国後リーダーとして管理業務を とによる省電力化を目指し、コスト削減を実現させるため、 担当するので、より時間をかけて工場内全体の物流管理や工 村上専門家を派遣しています。1 反当たりの電力使用量が 程管理なども学びました。 11%削減できる見込みです。 専門家派遣では、どのような指導を行ったのでしょうか。 先日も現地を視察してきたところですが、未だ問題はあり ます。しかし、人は問題の対処法を覚え、未然に問題を防ぐ 専門家派遣は、タイ工場に機械を搬入して立上げるタイミ よう想像力が培われるものですので、その問題を解決する過 ングに合わせて制度を利用しました。派遣された川崎専門家 程こそが大事です。ある程度の失敗は必要で、人材育成には の話によると、編機の経験もないスタッフを指導し、生産をゼ 時間がかかると実感しています。 ロの状態から軌道に乗せることは非常に困難だったようです。 しかしながら、日本では容易に調達できる設備や器具もない タイで、限られた条件や道具だけで指導を進めることは、日 本では経験することのできない貴重な体験となったそうです。 立上げ当初は、現地スタッフの品質に対する考えが甘く、 その考えを修正するのに時間がかかり、5S と QC を確立する 最後に、タイでの事業についての今後の課題と抱負 をお聞かせください。 まだ課題が多く日本からのフォローは必要ですが、いずれ は黒字化を実現し、経営的に自立してほしいと考えています。 また、ダブルラッセル機とトリコット機はロットが大きい のが悩みですが、様々な生地の開発が可能です。今はシュー 「ダブルラッセル」で編 み上げたメッシュ生地 を使ったランニング シューズ ズ用メッシュ生地、衣料用生地と自動車用シート生地を主に 製造していますが、産業資材・先端素材など他の分野に受注 を多様化させることも必要です。人材育成の面ではもう1 名 くらい日本で学ばせたいという希望もありますが、当面は日 本で研修したリーダー 2 名が中心となって部下を指導しなが ら、自主的に工場を運営していってほしいと期待しています。 ダブルラッセル機 本日はありがとうございました。 No.8 SPRING 2016 9