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若年者の肥満

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若年者の肥満
モーニングレポート
若年者の肥満
平成17年 9月27日
川崎医科大学
糖尿病内分泌内科 ・河田 理絵子
・田中 佳人
・林 秀行
・山谷 清香
・渡邉 逸郎
指導
松田昌文
症例 18歳 女性
【入院目的】糖尿病の原因・合併症の精査、教育
【現病歴】
2004年春の学校健診にて尿糖を指摘されたが再検にて
尿糖陰性で経過観察となった。2005年の学校健診にて再
度尿糖指摘され近医受診しFPG241mg/dl, HbA1C 8.9%
であり糖尿病と診断され当科に紹介された。7月29日糖
尿病の精査・教育目的で入院した。
【既往歴】生後11ヵ月に副耳摘除術。知能障害はない。
月経:初経は10才で、月経周期は1∼2ヵ月と不順。月経
困難あり。
服薬:定期的服薬を続けたことはない。
体重変動:16歳58kgから18歳60kg、最大は入院前62kg
【家族歴】糖尿病:母,祖父 高血圧:父 心筋梗塞:祖父
【入院時現症】
身長 146.5cm, 体重 60kg , BMI 28kg/m2, 肥満度 22%, 腹囲 91cm
血圧 118/70mmHg, 脈拍 70/min 整, 体温 36.5℃
顔面:痤瘡、頚部:甲状腺の腫大なし、胸部:呼吸音正常,心雑音なし
背部:バッファローハンプ 下腹部:皮膚線条
四肢:外反肘,短指趾, 腋毛・恥毛脱落なし,中心性肥満なし
【検査所見】
末梢血:WBC 13380/µL (Neu.63%, Eos.2%, Bas.0%, Mon.2%, Lym.33%)
RBC 479x104/µL, Hb 14.5g/dl, Ht 42.9%, Plt. 37.3x104/μL
生化学:TP 8.1g/dl, Alb 4.7g/dl, Glb 3.4g/dl, T bil 0.3mg/dl, AlP 302U/L,
γGTP 25U/L, LDH 137U/L, ChE 525U/L, ALT 25U/L, AST 19U/L,
Crn 0.31mg/dl, BUN 9mg/dl, UA 5.2mg/dl, Amy 53U/L, CRP 0.21mg/dl,
TG 801mg/dl, T-chol 272mg/dl, HDL-chol 41mg/dl, RLP-chol 17.1mg/dl,
FPG 181mg/dl, HbA1C 9.1%, 抗GAD抗体 <1.3U/ml, 抗IA-2抗体<0.4U/ml,
抗インスリンレセプター抗体 (−)
電解質:Na 139mEq/L, K 4.9mEq/L, Cl 99mEq/L, Ca10.0mg/dl P3.5mg/dl
尿所見:蛋白 +/-, 糖 3+, アセトン −, 潜血 -, 赤血球 2/HPF, 白血球 2-5/HPF.
尿中CPR 93.5μg/日, 尿中Alb 88.9mg/g-cr.
便潜血:オルトトリジン − グアヤック −
〈心電図〉
安静時:正常範囲
double Master : 正常範囲
〈CVR-R〉 安静時: 2.6% 過換気時: 4.6%
〈神経伝達速度〉 正常範囲
〈タッチテスト〉
右足底拇趾: 3.61 右基部: 3.61 右外側: 3.61
左足底拇趾: 3.61 左基部: 3.61 左外側: 3.61
〈胸腹部単純X-P〉異常所見なし
〈腹部超音波検査〉
bright liverを認める以外は異常所見なし
〈腹部CT〉皮下・腹腔内脂肪過多、脂肪肝
胸腹部X線
四肢X線
R
L
2,5指の中節骨の短縮
4指の中手骨の短縮
R
腹部CT
L/Sp:0.62, 皮下脂肪面積:253cm2, 腹腔内脂肪面積:135cm2
【Problem list】
#1 糖尿病
#2 肥満
#3 脂肪肝
#4 高脂血症
#5 月経不順
#6 白血球上昇
#7 低身長,短指趾
【Problem】
#1 糖尿病
1型糖尿病は否定的。2次性の可能性を
検討する必要がある。
インスリン分泌が充分あり,インスリン抵
抗性,即ち肥満が病因として大きな比重を
占めると考えられる。また,遅延型インスリ
ン分泌が存在すると考えられる。介入は食
事(1400kcal/日),運動療法,食後追加イ
ンスリン分泌の補充を考える。若年であり,
教育が特に重要である。
肥満とは・・・
| 体脂肪が異常に蓄積した状態である。
一般的にはBMI≧25を肥満とする
BMI=体重[kg]/(身長[m])2
肥満度=(体重−標準体重)/標準体重
標準体重は年齢、性別、身長で決まる値
| 肥満と肥満症との違いは・・・
医学的な介入が必要なものが肥満症
小児肥満症の判定基準
5歳0ヶ月以降の肥満児で下記のいずれかの条件を満たすもの
・A項目を1つ以上有するもの
・肥満度が50%以上で、B項目の1つ以上有するもの
・肥満度が50%未満でB項目の2つ以上有するもの
A.肥満治療が特に必要となる医学的問題
高血圧/睡眠時無呼吸など肺換気障害/2型糖尿病・耐糖能障害
/腹囲増加・臍部CTで内臓脂肪蓄積
B.肥満と関連の深い代謝異常など
肝機能障害/高インスリン血症/高コレステロール血症/高中性脂
肪血症/低HDLコレステロール血症/黒色表皮症/高尿酸血症
(小児適正体格検討委員会)
「肥満症」診断(成人)
内臓脂肪蓄積判定基準
BMI≧25
あり
肥満
肥満による健康障害
または
内臓脂肪蓄積
あり
肥満症
なし
非肥満
スクリーニング検査
ウエスト周囲径計測
・男性≧85cm
・女性≧90cm
腹部CT検査
内臓脂肪面積100cm2以上
内臓脂肪蓄積
肥満症
肥満症診察のポイント
| 二次性肥満の除外
| 肥満の重症度とそれに伴う合併症の評価
①2型糖尿病、耐糖能異常 ②脂質代謝異常
③高血圧 ④高尿酸血症 ⑤冠動脈疾患
⑥脳梗塞 ⑦睡眠時無呼吸症候群
⑧脂肪肝 ⑨整形外科的疾患:変形性関節症、腰椎症
⑩月経異常
二次性肥満
・ 内分泌性
Cushing症候群、インスリノーマ、Poly cystic ovary (PCO) 症候群、
甲状腺機能低下症、性腺機能低下、偽性副甲状腺機能低下症など
・ 視床下部性
Froehlich症候群、Kline-Levin症候群、脳腫瘍など
・ 遺伝性
Bardet-Biedl症候群、Prader-Willi症候群、Alstrom症候群など
・ 薬剤性
向精神薬、副腎皮質ホルモン、SU薬、インスリンなど
病歴聴取のポイント
| 家族歴
| 既往歴(薬剤、外傷、手術
など)
| 肥満し始めた時期・体重増加の速さ
| 摂食の様子
| 身体所見
顔貌、身長、体重、体型、皮膚所見、
知的障害、脳神経症状、性器発育不全、
月経異常、眼所見、指趾所見 など
有用な検査
| 血液検査
ホルモン、負荷試験、ミネラル、血糖
| 画像検査
頭部CT、トルコ鞍撮影、骨X線
腹部超音波、 MRI、腹腔鏡
| 遺伝子検査
染色体
など
当症例の鑑別で特に問題となる疾患
・Cushing症候群
①中心性肥満,満月様顔貌,buffalo hump(肩の瘤状の脂肪沈着),
赤色皮膚線条,多毛,ざ瘡,高血圧,糖尿病,骨粗鬆症,無月経
②血中コルチゾール値の上昇と日内変動消失,尿中17‐OHCS増加,
デキサメサゾン抑制試験の反応性低下
③CT・MRI(下垂体・副腎),副腎シンチ,血管造影
・Poly Cystic Ovary Syndrome(PCOS)
①若年婦人に多い,生理不順/無月経,不妊,多毛,男性化徴候
②両側卵巣の多嚢胞性
・偽性偽性副甲状腺機能低下症
①特徴的な身体的特徴
Cushing 症候群
1.症候
満月様顔貌、高血圧、中心性肥満、buffalo hump、月経異常、
皮膚線条皮下溢血、筋力低下、にきび、多毛、浮腫、糖尿、骨粗
鬆症、精神障害、沈着、成長遅延(小児)
2.検査所見
1)コルチゾール過剰分泌の証明
2)ACTH分泌抑制の証明
3)デキサメタゾン抑制試験でコルチゾール分泌が抑制されない
4)メチラポン試験で尿中17-OHCSまたは血中11-デオキシコルチ
ゾールの増加がみられない
5)画像診断による副腎病変の証明
3.除外規定
1)クッシング病によるものは除く
2)異所性ACTH産生腫瘍または異所性CRH産生腫瘍によるもの
は除く
3)ACTHまたは糖質コルチコイドの投与によるものは除く
Poly cystic ovary syndrome
臨床症状
● ①月経異常(無月経・希発月経・無排卵周期性)
②男性化(多毛・ニキビ・低音声・陰核肥大)
③肥満
④不妊
|
内分泌検査所見
● ①LH基礎分泌高値・FSH正常範囲
②LH-RH負荷試験に対し、LH過剰反応・FSHほぼ正常
③エストロン/エストラジオール比の高値
④血中テストステロンまたはアンドロステンジオン高値
|
卵巣所見
● ①超音波で、多数の卵胞のう胞状変化
②内診または超音波で、卵巣の腫大
③開腹または腹腔鏡で卵巣白膜肥厚や表面隆起
④組織検査で内莢膜細胞層の肥厚増殖および間質細胞層の増生
|
●を必須項目として、それらをすべて満たす場合、PCOSと診断。その他は参
考項目として、必須項目の他に、参考項目を全て満たす場合、典型例とする。
偽性偽性副甲状腺機能低下症
偽性副甲状腺機能低下症は・・・
①症状、所見
Albright s徴候
(低身長、肥満、円形顔貌、中手骨、中足骨の短縮と皮下の骨化、精神
遅延)
②低Ca、高P血症
③Ellisworth-Howard試験
c-AMP反応(−)、リン酸反応(−)
偽性偽性副甲状腺低下症では・・・
①血清Ca, P正常
②Ellsworth-Howard試験
c-AMP反応(+)、リン酸反応(+)
※偽性偽性副甲状腺機能低下症は、偽性副甲状腺機能低下症患者/家
族のなかでAlbright’s徴候を有するが、Ca代謝異常を含め内分泌異
常を示さないものとする。
【入院後経過】
2次性肥満の鑑別
薬物の服薬はなく,内分泌性・視床下部性の疾患
をまず考えた。頭部CTで異常所見はなく,内分泌
ホルモンの基礎値のデータより,Cushing症候群,
PCOSについて鑑別が必要と思われた。
デキサメタゾン負荷試験,LH-RH負荷試験などで両者
は否定的であった。特徴的な身体的な特徴
(Albright s徴候)より偽性偽性副甲状腺機能低下
症を疑い関連する検査としてEllsworth-Howard試
験を施行した。更に,遺伝的疾患について検索が
必要であるが,遺伝子は46XYであり,単一遺伝子
疾患としてあてはまるものはなかった。
〈内分泌ホルモン基礎データ〉
GH 3.7 ng/ml, ソマトメジンC 299 ng/ml
LH 42.5 mIU/ml, FSH 7.4 mIU/ml (黄体期)
ACTH 71.7 pg/ml
コルチゾール 18.3µg/dl, DHEA-S 1770 ng/ml
テストステロン 0.63 ng/ml, E2 100 pg/ml
TSH 1.22µIU/ml, FT3 2.67 pg/ml, FT4 1.09 ng/dl
Whole-PTH 17.9pg/ml
FPG 130 mg/dl, インスリン 9.3µU/ml, HOMA-R 3.0
〈デキサメタゾン負荷試験〉
1 mg負荷後 → コルチゾール 0.6µg/dl (正常3µg/dl以下)
〈LH-RH負荷試験〉
LH (mIU/ml)
FSH (mIU/ml)
負荷前
1.2
0.6
後30分
28.1
60分
28.3
1.8
1.8
〈Ellsworth-Howard試験〉 U1
U2
U3
U4
U5
U6
P(mg/hr)
1.2
2.3
6.4
36.8 28.4 16.1
サイクリックAMP(nmol/hr) 211 197
202 6740 221
193
U1,U2,U3,U4,U5,U6は時間尿でU4分画の前にPTH100単位投与
P:U4+U5-(U2+U3)=56mg, cAMP: U4-U3=6.5 µmol, U4/U3=33.4
(正常P: U4+U5-(U2+U3)>35mg, cAMP:U4-U3>1µmol, U4/U3>10)
頭部CT
骨盤部MRI
両側卵巣に嚢
胞あり右卵巣
はやや腫大。
【入院後経過】
Diet
1400 kcal
Aspart insulin
4U x 3
NPH insulin
4U
Metformin
750 mg
Nateglinide
270 mg
Bezafibrate
200 mg
BW (kg)
FPG (mg/dl)
HbA1C (%)
T-chol (mg/dl)
HDL-chol (mg/dl)
TG (mg/dl)
WBC
ALT
7月29日
60
181
9.2
272
41
801
13380
24
8月2日
8月9日
169
215
41
334
10160
171
40
153
11170
8月23日
58
109
7.8
134
43
118
8800
19
9月24日
58
NA
6.3
139
41
175
9540
12
肥満への介入
原疾患の治療
| 食事・運動療法(生活習慣改善)
| 肥満症の合併状態に対する治療
| 薬物治療
|
Metformin:不妊への効果,脂肪肝改善
Mazindol:視床下部に作用する中枢性食欲抑制薬.
BMI≧35 に適用され、投与期間は、3ヶ月以内とする
Orlistat:脂肪の吸収阻害による膵リパーゼ阻害薬、未発売
など
この症例のMessage
1. 若年者の内分泌代謝異常を伴う肥
満では、2次性肥満の鑑別が必要
である。
2. 肥満に合併した肥満症を評価する
必要がある。
3. 原因疾患のある場合はその治療が
必要である。
4. 肥満や内分泌代謝異常に対する介
入に薬物治療を行う場合がある。
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