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半導体量子ナノ構造を利用した 三角障壁フォトダイオードの超高感度化

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半導体量子ナノ構造を利用した 三角障壁フォトダイオードの超高感度化
The Murata Science Foundation
半導体量子ナノ構造を利用した
三角障壁フォトダイオードの超高感度化
Triangular-Barrier Phototransistors with Quantum Nanostructures for Ultrahigh Responsivity
H25助自12
代表研究者 大 森 雅 登 豊田工業大学 工学研究科 嘱託研究員
Masato Ohmori
Postdoctoral Researcher, Graduate School of Engineering,
Toyota Technological Institute
共同研究者 榊 裕 之 豊田工業大学 教授
Hiroyuki Sakaki
Professor, Toyota Technological Institute
Triangular-barrier photodiodes (TBPs) are unique detectors of high optical responsivity, having
an internal optical gain comparable to that of bipolar photo-transistors. A TBP consists of a sheet
of d-doped acceptor layer embedded in an undoped semiconductor layer, which is sandwiched
by the top and bottom n-type electrodes. The acceptor layer is fully depleted and negatively
charged, creating a triangular potential barrier for electrons, while it serves as a potential well
for holes. The photo-generation of holes and their accumulation in the potential well reduce
the barrier height for electrons and enhance the electron flow, yielding the photoconductive
gain of up to several thousands.
To enhance the responsivity and inhibit the dark current, we have come up with a new TBP,
in which nanowires are embedded in its barrier region. In this device, the photocurrent flows
mainly through nanowires, therefore the dark current flowing over the surrounding barrier can
be neglected. One can also expect that a fixed number of photogenerated holes will enhance
the device current quite efficiently, when these holes are accumulated selectively in the middle
part of Q-rods and lower their local barrier height.
We have fabricated a GaAs-based TBPs, in which self-assembled In(Al)GaAs nanowires are
embedded in its barrier region. Transport study at 100 K has shown that electrons start to flow
mainly through nanowires when a bias is set above a threshold. Upon illumination, photogenerated holes are found to accumulate in the middle portion of nanowire and efficiently lower
the local barrier height, yielding the responsivity as high as 105 A/W at the incident light of 1 fW.
レイなどのイメージセンサとしての利用が多く、
研究目的
そのさらなる高感度化が期待されている。しか
近年、医療や環境計測、自動運転技術など
し、既存のイメージセンサに使用されている半
様々な分野において、単一光子レベルの極微
導体光検出素子自身は、内部増幅機能を持た
弱光を検出できる超高感度光検出器の需要が
ないため受光感度が低く、単一光子レベルの
高まっている。中でも、素子を2次元アレイ
極微弱光をイメージ検出することは極めて難し
化したCCDやCMOS、PINフォトダイオードア
い。一方で、内部増幅機能を持つアバランシェ
─ 339 ─
Annual Report No.28 2014
フォトダイオード(APD)は、高い受光感度を
評価を行うことで、極微弱光を高感度に検出
得るために高電圧が必要なことに加え、高画
できイメージセンサに適した素子を開発するこ
素のアレイ化が構造的に難しいなどイメージセ
とを目的としている。
ンサには適さない。
三角障壁フォトトランジスタは、n-p-nバイ
この問題を解決するため、我々はPINやAPD
ポーラトランジスタのp型ベース層をデルタドー
などの既存素子にとらわれない全く新しい光検
ピングとすることで三角ポテンシャル障壁を
出構造として、半導体ナノ細線電流路と三角
持った構造で、光吸収により生じた正孔が三
障壁フォトトランジスタを組み合わせた増倍型
角障壁頂点の薄い領域に蓄積することで障壁
の光検出器を考案した。本研究では、この新
低下効果が高まり、数万という高い光電流増
素子の分子線エピタキシーによる形成と光検
倍率が得られる素子である。これにナノ細線を
出特性の評価を行うことで、極微弱光を高感
導入することで光キャリアの3次元閉じ込めが
度に検出できイメージセンサに適した素子を開
可能となり、より大きな障壁低下効果による増
発することを目的としている。
倍率の向上に加え、電流がナノ細線中だけに
限定して流れることで暗電流低減を図ることが
概 要
できる。
近年、医療や環境計測、自動運転技術など
ナノ細線は自己形成InAs量子ドットを極薄
様々な分野において、単一光子レベルの極微
のGaAsスペーサ層を介して多数積層化した時
弱光を検出できる超高感度光検出器の需要が
に得られるロッド状のナノ構造であり、コラム
高まっている。中でも、素子を2次元アレイ化
ナ量子ドットや量子ロッドとも呼ばれる。この
したCCDやCMOS、PINフォトダイオードアレ
技術は量子ドットの高さを調整することでレー
イなどのイメージセンサとしての利用が多く、
ザや光増幅器の偏光制御を行うために用いら
そのさらなる高感度化が期待されている。しか
れてきた。我々はこれを極細のナノ電流路とし
し、既存のイメージセンサに使用されている半
て活用できると考え、これまで分子線エピタキ
導体光検出素子自身は、内部増幅機能を持た
シー(MBE)による結晶成長と電気伝導特性の
ないため受光感度が低く、単一光子レベルの
評価に取り組んできた。実際にInAs/AlGaAs
極微弱光をイメージ検出することは極めて難し
系材料のナノ細線試料を作製し、ナノ細線中
い。一方で、内部増幅機能を持つアバランシェ
へのオーム性伝導を実証している。このナノ細
フォトダイオード(APD)は、高い受光感度を
線電流路を光検出器に応用することで、従来
得るために高電圧が必要なことに加え、高画
素子にはないキャリアの3次元閉じ込めや局所
素のアレイ化が構造的に難しいなどイメージセ
電気伝導を利用した新しい光増倍機構の実現
ンサには適さない。
が期待される。
そこで我々は、PINやAPDなどの既存素子に
ナノ細線三角障壁フォトトランジスタはMBE
とらわれない全く新しい光検出構造として、半
法を用いてGaAs(100)基板上に作製した。ナ
導体ナノ細線電流路と三角障壁フォトトラン
ノ細線は I n A s 量子ドット上に I n A s 1.1 M L /
ジスタを組み合わせた増倍型の光検出器を考
GaAs 10 MLの超格子を16層積層させることで
案した。本研究では、この新素子の分子線エ
形成し、その超格子層の中間にp型となるカー
ピタキシーによる形成と光検出特性の詳細な
ボンをδドープし上下をn型電極層で挟むことで
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The Murata Science Foundation
三角障壁構造を形成した。試料はフォトリソグ
ラフィーにより10 μm角のメサ状に加工し、上
下にオーミック電極を蒸着し光検出素子を作
製した。素子温度100Kにおける光感度特性の
評価を行った結果、最大で105 A/Wという高い
受光感度が得られ、最小で1.1 f Wの微弱光を
検出することができた。さらにナノ細線を含ま
ない参照用の試料と比較した結果、同感度で
暗電流を約10分の1に低減できていることも分
かり、ナノ細線導入による高性能化を実証した。
さらにナノ細線の材料にAlを導入したInAs/
AlGa As系材料を用いた素子を作製し評価を
行った結果、素子温度100 Kで10 7 A/W、室温
でも106 A/Wを示すなど極めて高い受光感度を
得ており、Alを用いない素子と比べ同感度で暗
電流をさらに低減させることに成功している。
この受光感度は従来の光電子増倍管やアバラ
ンシェフォトダイオードを凌ぎ、さらに1 V以
下の低電圧で動作することと構造が単純でア
レイ化が容易であるという大きな利点から、本
検出器はイメージセンサとして最適な素子と
なっている。今後はInP基板上のInGaAs系材
料にシフトし、需要の高い短波長赤外(SWIR)
領域の超高感度イメージセンサの実現のため
研究を進めていく。
−以下割愛−
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