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E-Learning 実態調査報告書

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E-Learning 実態調査報告書
平成 15 年度 文部科学省委託
専修学校先進的教育研究開発事業
E-Learning 実態調査報告書
「専修学校における E-Learning 推進リーダーの育成」
教育プログラムの開発プロジェクト
はじめに
企業や学校での e ラーニング活用はすさまじい勢いで伸びている。専修学校の通信制導入
の動きや、これからの教育を考えると各学校とも e ラーニングの導入は不可欠なものと考
えている。しかし、e ラーニングを導入するにあたり何から手を付けどのように進めて行け
ば良いか、また教育効果はどの程度あるのかなど不明な点が多い。「e ラーニングを推進す
るリーダー」の命を授かった方が戸惑うケースが多々見受けられる。知りたい情報を解説
しているマニュアルや教材で適切なものも見当たらない。ベンダー主導の導入は費用がか
さみ、その学校にフィットするシステムとならないケースもあるようだ。
本プロジェクトは実際に導入から運用までの一連の流れをケーススタディ形式で理解を深
めて、e ラーニングを推進するリーダーに役立つ内容となっている。実際に学校への e ラー
ニング導入を通して、その全内容を解説している。これから e ラーニングを導入する学校
は是非、本プログラムを役立てていただきたい。
このプログラムを作成するにあたり、インストラクショナル・デザイン(CRI 技法)を導入
している JTB 様、学校法人ホンダ学園様、e ラーニング導入校の星城大学様を視察し参考と
させていただいた。ご協力をいただいたことに心より感謝したい。
最後に、本プログラムの作成にかかわった各委員の皆様、アドバイスをいただいた各企業
の皆様に謝意を表する。
2004 年 3 月
「専修学校における E-Learning 推進リーダーの育成」教育プログラムの開発プロジェクト
事務局
E-Learning 実態調査報告書
iii
目次
はじめに .......................................................................................................................... III
1.
実態調査の概要 ........................................................................................................... 2
2.
視察目的...................................................................................................................... 3
3.
視察報告内容............................................................................................................... 6
3.1 学校法人ホンダ学園視察 .......................................................................................... 6
3.1.1 中山常務理事ご挨拶........................................................................................... 6
3.1.2 六角屋校長ご挨拶 .............................................................................................. 7
3.1.3 新学習方式(CRI 技法を取り入れた学習)への取り組み ............................... 7
3.1.4
CRI 技法導入現場の授業見学 .......................................................................... 17
3.1.5 質疑応答........................................................................................................... 23
3.2
JTB 視察 ................................................................................................................ 26
3.2.1 鈴木センター長ご挨拶 ..................................................................................... 27
3.2.2 戸村講師からのご説明 ..................................................................................... 28
3.2.3 現場見学中の質疑応答 ..................................................................................... 35
3.2.4 受講者へのインタビュ−.................................................................................. 36
3.2.5 コースの運営管理に関する説明....................................................................... 41
3.2.6
CRI 技法による研修設計、運営の説明............................................................ 42
3.2.7 研修設計・運営と e ラーニング導入までのプロセス....................................... 45
3.2.8 受講者が現場で e ラーニングの講師になる ..................................................... 48
3.2.9 学習システム環境は本物の端末使用................................................................ 48
3.2.10
FIT・e ラーニングトライアル実施報告−2001 年の 11 月から 3 月まで ...... 48
3.2.11
実施評価と反省 .............................................................................................. 49
3.2.12
サポートの重要性 .......................................................................................... 49
3.2.13
アンケート ..................................................................................................... 50
3.2.14
学習環境の分析.............................................................................................. 51
3.2.15
問題の改善について....................................................................................... 51
3.2.16
アンケート総括.............................................................................................. 52
3.2.17
受講者の制限 ................................................................................................. 52
E-Learning 実態調査報告書
iv
3.3
星城大学視察........................................................................................................ 61
3.3.1 星城大学変化の背景(事務局長ご挨拶)......................................................... 62
3.3.2
e -University の概要(学内見学) .................................................................. 63
3.3.3 実現への軌跡・取り組み.................................................................................. 66
3.3.4 複数教室での運営事例 ..................................................................................... 68
3.3.5 質疑応答・その他ヒントなど .......................................................................... 74
4.
総括 ...........................................................................................................................80
4.1
CRI 技法と e ラーニング........................................................................................ 80
4.2
e ラーニング導入アプローチの方法 ....................................................................... 81
4.3
CRI 技法の効果測定 ............................................................................................... 82
4.4 講師の役割について ............................................................................................... 82
4.5 学習環境の整備 ...................................................................................................... 83
4.6 今後の課題.............................................................................................................. 83
4.7 リーダーシップ ...................................................................................................... 84
E-Learning 実態調査報告書
v
平成 15 年度
「専修学校における E-Learning 推進リーダーの育成」教育プログラムの
開発プロジェクト委員
委員長
徳重
稔
学校法人麻生塾
田原
博
麻生情報ビジネス専門学校
佐藤
進
アイビーテクノカレッジ
竹中
智
穴吹情報専門学校
島崎
俊英
中央情報経理専門学校
浦山
昌志
株式会社 IP イノベーションズ
佐藤
信也
株式会社 イー・コミュニケーションズ
藤嶋
徳喜
TAC 株式会社
本河 俊樹
株式会社日本テクノス
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vi
実態調査の概要&目的
1. 実態調査の概要
e ラーニングが、やや過熱気味に教育担当者や教育教材販売業者から取り上げられ、試験的
に多くの学校や企業で導入が試みられてきた。その中には、失敗もあれば、成功もある。
今回は、特に専修学校における e ラーニング導入の成功の鍵となる要素を調査するために、
先駆的に興味深い取り組みを行っている団体のうちから 3 つの団体を選択して訪問した。
e ラーニングと非常に親和性の高いと思われる CRI (Criterion Referenced Instruction:基
準達成型研修技法) 技法を現場に取り入れている学校、企業が、その手法を導入したプロセ
スや苦労話、そして秘訣などを詳細にレポートする。
また、e ラーニング導入の段階で、各団体がどのように悩み、そして学習効果の向上のため
に工夫しているさまざまな手法も明らかにする。
今回の報告にある大学では、非常に短期間に学内全体を e-University 化している。圧倒的
ともいえるリーダーシップで、みごとに学校の校風までも変えてしまった手法をレポート
し、e ラーニング導入の際の重要な視点について考察する。
今回、報告する団体は、次の 3 つの団体である。
(1)
ホンダ学園・・CRI 技法の導入、e ラーニングへの取り組み
大阪狭山市(専門学校編)
(2)
JTB 能力開発・・CRI 技法の導入、e ラーニングへの展開
東京都多摩市(企業研修部門編)
(3)
星城大学・・全キャンパス e-University の特徴と実現のプロセス
愛知県東海市(大学編)
今回訪問した 3 団体は、いずれも非常に積極的に独自の教育アプローチで成功を勝ち得て
いる団体である。
本報告書が、
全国の専修学校の e ラーニング導入に多くのヒントと示唆を与えるとともに、
e ラーニング導入における成功のきっかけとなることを確信する。
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2. 視察目的
本報告書では、e ラーニング導入において、コンテンツ開発と教育手法に多大な影響を及ぼ
す CRI 技法を取り入れた 2 つの団体と e ラーニングを導入している 1 つの団体を視察し、
現場での教育手法と導入状況を本報告書にまとめるとともに、e ラーニング導入における成
功要因、そして今後の課題などを本報告書に盛り込み、現在 e ラーニング導入を検討して
いる団体や企業の参考になる情報を提供することを目的としている。
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3
視察報告内容
3. 視察報告内容
3.1 学校法人ホンダ学園視察
アジェンダ
(1)
中山常務理事ご挨拶
(2)
六角屋校長ご挨拶
(3)
新学習方式への取り組み
(4)
CRI 技法導入現場の授業見学
(5)
質疑応答
米津様引率
羽田様、米津様ご対応
写真 3-1
3.1.1
米津様
写真 3-2
中山常務理事ご挨拶
本学園は、27 年前の昭和 51 年に本田宗一郎が設立した学校である。
昭和 51 年に関東でシステム工学科(開発、製造、コンピュータ)、昭和 56 年に関西で3つ
の学科(1級、2 級整備士など)を創設した。
CRI 技法に関しては、ここ数年前から取り組んできた。
授業以外に、QC サークル等自ら考えるような教育を心がけている。
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6
今後、e ラーニングを授業にどう生かすかという課題に取り組むつもりである。
現在の目標としては、以下のことを達成する。
・マティリアルの標準化
・教える人によらない、品質向上を図る
・効率性を高める
・モノ作りとバーチャル学習のバランス
3.1.2
六角屋校長ご挨拶
現在 700 名の学生が在籍している。
国土交通省のしばりがあって、年間 1800 時間の学習が義務付けられているが、ホンダ学園
ではプラスアルファで合計 2400 時間の学習時間を確保している。
CRI 技法の導入に関しては、5 年前の 1998 年から企画に入り、本格的な実施は 3 年目にな
る(図 3-2 参照)。CRI の最終イメージから判断すると、現時点の実施状況は完成には程遠
いかもしれないが、完成に向けて次ステップへの検討を行っているところである。
3.1.3
新学習方式(CRI 技法を取り入れた学習)への取り組み
(米津氏による学園紹介)
この学校のスローガンは「自主・自立」である。
3.1.3.1 学習の特徴(図 3-1 参照)
(1)
小グループ学習制導入による協調性の醸成
(2)
学習モジュール選択の仕組み
(3)
ディスカッションを多く導入
(4)
講師は HONDA の現場のエンジニアを登用
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(5)
自主・自立の学習システム
(6)
IT 能力向上・・・情報収集能力を磨く
(7)
海外研修の実施・・・見聞を広める
3.1.3.2 学習システムの説明
ホンダ学園としての研修スタイル
(1)
背景
学びのスタイルが変化.
..新しい時代にふさわしい教育が必要になってきた
「与えられる」
→
「求める」教育へ変化
「教えられる」
→
「学びとる」教育へ変化
「個」の確立と「公」の理解、参画、創造
本田宗一郎の大切にしていたもの
教育環境要件の転換・・・学生が主役
「閉ざされた環境」
→ 「開かれた環境」教育へ変化
「プロダクトアウト」教育
→
「マーケットイン」教育
↓
先生の評価を取り入れている
(2)
応募者数の推移
18 歳人口の減少に比例しておらず、健闘している。
平成 12 年度から、施策の実施により応募者数は増加している。
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図 3-1 次世代教育システム概念
画一的な教育から新施策として(図 3-1 参照)
・ 自主的に学ぶ能力別学習システム
・ 部、同好会、もの創りの活性化
・ 個性、興味に応じた選択授業の充実
・ 企業現場を模した模擬社会
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(3)
実現までの経過
97年
98年
99-01年
02−03年
教育改善の
取り組み
CRI への
CRI
内部
受講
勉強会
取り組み
試行
第1次
第2次
実施
実施
図 3-2 実現までの経過
3.1.3.3 新学習方式の目的
(1)
従来の先生主導の授業から、学生主役の学習スタイルに変革。
(2)
学習項目の設定から学習進捗まで自分でコントロールし、自主性や積極性を育
む。
(3)
作業をグループで行わせ、協調性を養う。
3.1.3.4 特徴
(1)
2−4 名の小グループで実施する。
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(2)
ルールに基づいて、自由にモジュールを選んで進める(図 3-3 参照)。
(3)
自分の理解度に合わせて、自分のペースで進み、自己評価を行う(図 3-4 参照)。
(4)
各モジュール終了後、グループ毎に講師が理解度チェックを行う(図 3-4 参照)。
(5)
理解度チェックは学生個別に行う場合もある。
(6)
新学習システムの進め方では、コースマップという CRI 技法でいうコースマッ
プと同様のものを使用する(図 3-3 参照)。
図 3-3 コースマップ
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図 3-4 学習の流れ
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3.1.3.5 新学習システムの成果
ホンダ学園では、同時期に 2 つの学習方式を実施・比較しその効果を測定した。結果の数
値から見て、新学習方式(CRI)が効果的であることが証明された(図 3-5 参照)。
(1)
学習効果の向上
成績優秀者が増加し、成績不振者が低減した。
図 3-5 新学習システムの成果
図 3-5 のグラフが示すように、新学習システムでは、60 点以下が存在していない。
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(2)
学習姿勢の変化
アンケート結果:約 70%が積極的に学習できたと回答(図 3-6 参照)
理由の内訳:
51%
セルフペースで学習できる
35%
積極的にできた
14%
協調して学べた
図 3-6 学習の成果 1
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(3)
①
教材の使用効率向上
スキルの向上率アップ
従来方式に比べて 20%の時間を短縮できた(図 3-7 参照)。
短縮できた時間をオプション学習に割り当てた。
図 3-7 学習の成果 2
②
教材数の低減
(ここでいう教材とは、現場実習用の車体やパーツを指す)
従来227個
→
65個
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これは、同時に 3 つのグループがそれぞれ違うことをやることにより、1/3 の
教材数に低減できた(コスト削減に寄与)。
③
教室/実習場の効率アップ
3.1.3.6 課題と今後の取り組み
(1)
学習効果の測定を継続的に行う必要あり
個人およびグルーピングの効果検証
最終的には就職先企業からの評価をフィードバック
(2)
積極的な取り組みを維持すること
魅力あるコンテンツ・モジュールの開発・アップデートを研究
タイムリーな学習モジュールの改善
(3)
教育指導・育成スキルの向上
講師の役割が変わった
コーチ
の役割が重要になってきた
ファシリテータ
(4)
e ラーニングへの移行
4−5 年前から検討
現場と現実とのマッチング必要
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3.1.4
CRI 技法導入現場の授業見学
(1)
モジュール単位の学習を行うために用意された車両
写真 3-3 実習現場
(2)
各モジュールが準備されている棚
写真 3-4 実習現場
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(3)
各モジュールに基づきグループでの打合せ
写真 3-5 グループ内打合せ
(4)
グループ別の作業進捗管理表
写真 3-6 作業進捗管理表
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(5)
学習のためのコースマップ
写真 3-7 コースマップ
(6)
進路日程ガイド
学習モジュールと作業予定が記載されている。
写真 3-8 進路日程ガイド
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(7)
進捗管理表&コースマップ
写真 3-9 進捗管理表&コースマップ
(8)
学習指示の書かれた指示書
写真 3-10 学習指示書
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(9)
車両を使用しての実習現場
写真 3-11 実習現場
(10)
単品での実習現場
写真 3-12 実習現場
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(11)
ビデオ学習
不明な点は教師が指示せず、先ず、ビデオを見て対応を検討する。
写真 3-13 ビデオ学習
(12)
校内情報掲示板
写真 3-14 校内情報掲示板
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注記:原田氏(NECインターナショナルトレーニング研修サービス部):
CRI 技法は、いろんな適用レベルがあって、これといった制限はない。CRI の考案者であるメ
イガーの定義によれば、パフォーマンスが変わればいいとのことである。対面授業 e ラーニン
グに有効なことは認められている。
目標と目標が求めているパフォーマンス、行動条件に一番あっている学習デリバリ方法でぴっ
たりあったものを採用する。受講対象者の特性をよく考えた提供の仕方を検討しなければなら
ない。ホンダ学園様のように CRI を導入している例としては、素晴らしい。CRI 技法も進化し
ているので、あまり固定観念を持たずに検討していけばいいと思う。
3.1.5
質疑応答
Q:受講者・学生のグループ分けはどのようにしている?
A:入学して1年生の前期以降になると、伸びる学生、手をかけなければならない学生
がはっきりしてくるので、その特性に応じた対応ができるようにしている。
Q:坊主頭の学生がいた。グループの中でルールを作っていたのに、それに違反したの
で自ら罰則として坊主にしたとのことで衝撃を受けた。校則ではなく、自分たちで
自主的なコミュニティを作って、自ら作ったルールに基づいて自律的に統制をする
形になっているとのことである。このような文化を形成するために、特に気をつけ
てやっていらっしゃることがあるのか?
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写真 3-15 校内情報掲示板
A:年代に関わらず、人間はもともと自分たちの意志に基づいて行動したいと考えてい
るが、どのようにやればいいか、という手法を全く教えられないで 18 年間きたと
いうのが現実だと思う。
そこで、授業とは別に、QC サークルとして自由なテーマを設定して、それに基づ
いてルールを作り行動を規制していくという仕組みを作っている(写真 3-15 参
照)。
中でも車に関わる仕事に就職するため、交通ルールについては非常に重要視して
いる。学校としては、神経質なくらい模範を示さなければならないという姿勢を
貫いている。
そのため、どうしたらルールを守れるか、もしくは守れなかったとき、自分たち
で決めたことをどのように第三者に表現していくかを入学したときから徹底して
考えている。
Q:そのような課外活動は実際の授業に影響を与えているか?
A:実際に影響はあると思われる。授業は OJT 的な意味合いがあると思うので、それ
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だけでは学生は育成できない。学園全体として、QC とかイベントとか全てを通し
て教育していると考えている。CRI だからということではない。
Q:マナー、挨拶について非常に感心している。これについての教育はやっておられる
のか?
A:CRI 技法に関係なく、学校の方針である。学校の創設者である本田宗一郎の「技
術者であるまえに社会人であれ」という精神に基づいていて、人間性を磨いた形で
社会に奉仕しなければならないということを教えている。この学校の方針になって
いる。言葉遣いとか、礼儀などを重んじている。
Q:ここまで徹底していらっしゃるのはめずらしい。
A:入学してすぐに、CRI で挨拶訓練をしなさいというモジュールを入れてある。学
生はびっくりするが、そこから少しずつやるようになっていく。形から入ると自分
のものになっていく。
Q:寮は個室?
A:学習のグループとは全く関係なく、2人部屋になっている。個室がいいのかどうか
は迷っている。
A:基本的には個室にしない方がいいと思う。個人的な悩みを打ち明けられる場所があ
るのは大切であるが、他者との関係をどうとるかということが、不得手な学生が増
えている。だから挨拶もできない、怒られるとふてくされて話もしなくなるなど、
子供と一緒みたいな状況。だからそのようなコミュニケーションを学ぶ場が必要だ
と思う。
A:人間関係の中で、我慢することも大切だから1年間くらいはいい経験だと思われる。
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3.2 JTB 視察
アジェンダ
(1)
(2)
(3)
実務研修の経過と課題(会場:フォレスタ東館
①
センター長ご挨拶(写真 3-16 参照)
②
実務系研修の体系と CRI 適用コース
③
CRI 技法による開発プロセス
④
教材の作成
⑤
研修の運営・研修の効果
⑥
e ラーニングの導入など
研修実 409)
CRI 技法による「FIT 研修」の見学(会場:フォレスタ西館
①
教材、教室環境、学習状況見学
②
受講者へのインタビュー
他
質疑応答
見学ご対応:JTB 能力開発センター
講師
戸村
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充男様
TRIPS 研修室)
写真 3-16
3.2.1
鈴木センター長ご挨拶
私共は、JTB 能力開発という会社であるが、JTB のいわゆるグループ会社の 1 つである。
もともと JTB 本社には、教育研修部という社員研修を主に行っている組織があった。それ
が 4 年前にアウトソーシングということで、グループ会社の 1 つである能力開発に委託さ
れた。従って、能力開発というのは、組織が複雑になっている。
ここにあるのは、もともとあった昔の本社組織そのものである。大塚の方に本社があり、
そこでいわゆる社外関係の研修等を請け負っている。他に通信教育や旅行業関係の諸々の
教材製作等を行っている会社である。
こちらの施設は 1992 年の 12 月にできて 10 年ちょっと経っているが、主に JTB 及び JTB
グループの社員研修を実施している。昨今は、講義形式の研修から共に学ぶという形の研
修に徐々に変わってきている。その一貫として、CRI 技法を利用した研修コースを導入し
ている。今日見ていただく研修は必ずしも皆様のイメージどおりに進んでいるのかどうか
はわからないが、一応私共なりに理解をし、私共なりにこだわった形で、もう 3 年くらい
やっている。この研修では、海外旅行、今はやりの個人旅行を売るために、一番必要な基
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礎の部分を 3 日間かけて学んでいる。
その他にも、CRI を部分的にでも導入しているものを含めると、大体、全部で 6、7 種類の
CRI を活用した研修というのをやっている。今日見ていただくのは、その中でも、ほとん
ど完全に端から端まで CRI という形になっているものである。しかも 3 日目なので、人に
よっては、ほとんど終わっているというような人もいるかもしれない。内輪の研修なので、
どこまでお役に立てるかわからないけれども、それなりにがんばっているということで見
ていただき、逆に何か私共にご教示いただけることがあれば教えていただきたいと思う。
3.2.2
戸村講師からのご説明
今日ご覧いただく研修は FIT 研修という。FIT は Free Independent Travel の略で、日本
語でいうと「観光性個人旅行」である。自由な旅行をされたい方のために、航空機を選び、
ホテルを選び、列車を選び、自由な組み立てで作る。こういうお客様に対応するための知
識とスキルを身に付ける研修講座である。
写真 3-17
(1)
見学の流れ
①
IT 研修の概要説明(写真 3-17 参照)
②
研修ルームに移動して、実際の研修内容を見学
③
受講生にインタビュー
④
海外旅行に関する研修の体系説明
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⑤
CRI 技法の適用説明
⑥
CRI コースの開発するプロセス説明
⑦
教材作成のやり方
⑧
研修の運営
⑨
研修の効果
⑩
e ラーニングの導入ストーリー
(2)
FIT 研修の概要
次の写真は、今回の FIT 研修のコースガイドである(写真 3-18 参照)。
写真 3-18 FIT 研修コ-スガイド
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図 3-8 コースマップ
図 3-8 は FIT 研修のコースマップである。1 つずつのタマゴ形のモジュールが、
レッスンと呼ぶ学習単位である。個々の学習単位にそれぞれ目標が設定されて
いて、学習終了時にその目標が達成されたかどうかのスキルテストを実施する。
視察時のある受講生は、右から 2 列目のRの列車をトライする項目の学習を行
っていた。早い人では個人旅行の手配、見積もりができるという最後のレッス
ンに到達していた。
図 3-9 は、FIT 研修ではどのように研修コースを進めているのかの流れを記述
したものである。
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図 3-9 コースの進め方
①
研修の進め方
集合研修で効率的に、またわからない人がわかる人に相談できるように、
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学習単位は学ぶ順番を指定してある。それは効率的に学ぶためである。そ
して、学習は全部セルフペースである。
FIT 研修では、講師の講義が 2 回だけある。講義は、最初の A−0(図 3-8
参照)で、手配用語を説明するというセッションである。テキストは日本
語で書いてあるが、受講生にはその意味がわからないので、その使い方、
あるいはコツ、事例を含めて講義している。
次の AT(図 3-8 参照)の講義であるが、これは国際航空運賃の仕組み、ル
ールを説明するセッションである。これが書かれているマニュアルはある
が、その日本語は読めても意味がわからない。従って、これをわかりやす
く解説して進めている。講義では、なぜそうするのか、現場ではどういう
ことが起きているのかなど、全部、事例を添えて話す。この 2 つの学習単
位だけに講義がある。その他は全くない。そして、自己ペースによる学習
をし、学習したらスキルテスト、アンサーシートで自己チェック、そして
講師を呼んで修了認定ということを繰り返す学習内容になっている。
②
研修現場の見学
FIT 研修は、全て CRI 方式で行っている。
CRI 技法を活用した FIT 研修の特徴は、研修が学習単位になっていて、この
学習単位にはそれぞれ達成すべき目標が書いてある。それを学んだら、対応
するテストをやるという紹介がしてある。コースマップと各学習モジュール
は完全に一致している。
教材については、受講生がコースガイドを読んで、その中から必要な教材を自
分で探す。研修ルームにある教材は支店に設備してあるものと同じものであ
る。
E-Learning 実態調査報告書
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写真 3-19 スキルテストの説明
スキルテストはモジュールごとに用意されている。たとえば、A-0(図 3-8 参
照)の学習が終わると、A-0 のテストを解いて、提出する。このように全ての
モジュールテスト(スキルテスト)をクリアしていく。学習をすすめる条件
としては、最初は何も参照しないで独力で解く。分からなかったら、あらゆ
る教材を使って解答する。
FIT 研修の各モジュールの学習後のスキルテストのようにコンピュータを使
って答えなければいけないものもある。アンサーシートを参考にして、モデ
ル回答に従って自己評価する。そして、間違っているものがなぜ間違ったの
か、どこが不正解なのか、それを自分自身で明らかにしていく。
クリアできたら、スキルテストシートをコーチの机の上に出しておく。講師は
これを見ると、その人の学習状態が大体わかる。間違いは赤でマーキングす
る。
スキルテストの中には、クラスメートをお客様と仮定して、鉄道パスの選び方、
使用方法を説明しなさいというテストがある。この場合、クラスメートに自
分が決めた鉄道パスの選び方を説明して、クラスメートから評価を受ける。
また、実際の支店の状況と同じ実習用テキストが用意してある。これを使う
ことによって、講師がひとつずつ「このボタンを押してください」という説
明なしで実習を全部できるようしてある。
コンピュータの実習では、講師が手取り足取りというのは一切ない。講師が各
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受講生のところに行くのは、マシンがハングして動かなくなったとか、画面
が暗くなって見えなくなったとかいう場合で、学習内容に関する問い合わせ
はほとんどない。
今回見学した研修には、コーチが2人クラスの中に入っていた。1名は、受講
生として参加している講師である。この研修ではコンピュータを使用できな
いとコーチングできないので、コーチにもコンピュータの操作をより慣れて
もらうことを意図していた。講師は 20 名までひとりで担当するが、理想的に
は 10 名程度が適切のようである。やはり対象人数によりコーチングの濃さが
違ってくる。研修を進める前に研修におけるルールの説明を行う。そこで「こ
のクラスでは、主体性、自立性を尊重する。自ら考え行動しなさい。講師は
学校形式で教えることはありません」と宣言する。
写真 3-20 FIT 研修
受講生の中で業務経験者には、経験を活かしてサポートしてもらう。そのため、
席順には非常に注意する。
図 3-10 のように、3 列で 1 グループのような席次に組み立てる。
中央に業務経験の長い人を配置し、その両脇に経験の少ない、もしくは経験の
ない人をつける。経験の多い人は、両脇から質問されることに回答し、レベ
ルを上げていく。
質問は学習しているその場でする。課題が終わって、講師に提出すると、講師
E-Learning 実態調査報告書
34
がチェックして、その人のところに戻す。その時に「質問はありますか」と
尋ねる。わからない人はそこで必ず質問する。だから、修了認定するときは
必ず質問がクリアされているということになる。
3列1組で、真中の席に業務経験が長い人が座る。その
両脇には経験が少ない人を配置し、分からないところは
なるべく同列の3人で解決できるようにする。
図 3-10 受講席次
3.2.3
現場見学中の質疑応答
Q:先ほど、受講者が自分で調べてもわからなければ、支店に電話できるとのことでし
た。しかし、支店の方も忙しいので、何で教室の方で全部解決してくれないのかと
苦情になりませんか?普通順番としては、教室ですべて解決してから、それでも分
からなかったら支店に電話するというパターンかと思いますが。
A:
「普段どうしているの」と、
「普段のとおりしなさい」と言います。実際に支店に電
話する人はほとんどいません。たとえば、これは「セーバー」という航空機座席予
約のシステムですが、必ずヘルプデスクの電話がありますから、そこに電話しなさ
いと指導します(現場で行っているのと同じ)
。
E-Learning 実態調査報告書
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Q:個人的に早く終わった人はどうするのですか
A:私は、どんどん帰しています。目標を達成したわけですから、研修は終了です。今
日は午前中に帰った人が 1 人います。
Q:受講時間は何時まででもいいのですか。
A:今の若い人たちは時間を限定しないといつまでもやりますが、、講師は 18 時まで
しかいません。そこで 18 時で終わりだと最初に宣言します。そうしないと、受講
生はだらだらとやります。
また各学習単位に標準時間があって、大体計算して 3 日で終わるようにしてあり
ます。今までこれを実行して卒業できなかった人はいませんと、最初に言います。
そうすると、受講者たちは、お昼しか休み時間をとらず、ずっと勉強しています。
だから、大変な集中力です。講師が強制的にコーヒーブレイクをいれないといけ
ないほど、そのくらいに集中しています。これは従来の学校型スタイル、講義ス
タイルなら、
「寝るな」と言っても寝ます。ここは「休め」といっても休みません。
A:だから、我々講師は完全にコーチなのです。受講生が選手、プレイヤーですね。プ
レイヤーはどんどん一人で育っていきます。だから気付くとか、発見するというの
は一番多い研修です。基本をこちらが提供するだけで、後はどんどん進んでいく。
終わった人にインタビューしてみましょうか。
3.2.4
受講者へのインタビュ−
Q:この研修はいかがですか?
A:新入社員なので、入社してから今までいろんな研修を受けさせていただいたのです
が、今回の研修が一番効率が良くて、一番身に付いた研修じゃないかと思います。
E-Learning 実態調査報告書
36
写真 3-21 受講生へのインタビュー
Q:今まで、どんな研修を受けられましたか。
A:「トリップス」という端末操作自体を学ぶ研修ですとか、私は海外旅行課なので海
外旅行の実務研修とか、いろいろな基礎的なことを学んでくる研修などです。
今回の研修では自分のペースで進めますし、基本的なことから予約をとるまでの
一連の流れを、全部、自分のペースで学ぶことができたのですごくよかったかな
と思います。
Q:今までの研修と全く違うと思いますけれども、慣れるまでは違和感とかありました
か。どちらかというと、今までは対面授業といいますか、受ける方ですよね。こち
らはどちらかというと、自分から進んでやるというものですから、そういう感覚を
持たれましたか?
A:最初はありました。でも自分がやらないと、他の人から置いて行かれてしまう講習
なので、その分頑張ってやろうと思いました。
E-Learning 実態調査報告書
37
Q:最初のコーチの動機付けというのが、結構大きいのですか。
A:そうですね。
−別の受講生にもインタビュー。
Q:どうですか。この研修に関しまして。
A:半年しか勤務に携わっていないのですけれども、今まで何となくやってきたところ、
知識がとびとびだったところが、今回の研修でしっかり埋まって、クリアになった
ので、大変ありがたかったです。
写真 3-22 受講生へのインタビュー
Q:今までは対面授業、先生から教えてもらう授業だったと思うのですけれども、これ
はどちらかというと逆だと思うのですが。
A:はい、そうですね。非常にやりやすかったです。
Q:やりやすかったですか。すんなりと。
A:すんなり。違和感はなかったです。
E-Learning 実態調査報告書
38
Q:コーチの教え方とかも普通の授業とは違うと思うのですが、この辺はいかがですか。
A:普通の授業は本当に受け身なので、すごくたくさん与えられるものはあるのですが、
その中で自分が吸収できるものは少ない感じです。ただ、今回は多すぎず、ちょう
どいい量を教えて下さったから、それを丸々全部のみこむことができました。
Q:消化不良を起こしていないというような感じですか。
A:そうです。そういう意味です。ですから、勉強してストレスになることも全くない
ですし、そういったバランスがすごくよかったと思います。
Q:ただコーチがさっきおっしゃっていましたけれども、コーヒーブレイクをとらずに
延々と集中してやるそうですね。やっぱり集中してしまいますか。
A:ああ、もうこんな時間かというような…
写真 3-23 受講生へのインタビュー
Q:多分、隣の方とはこの研修で初めてお会いになったと思うのですけど、すんなり質
問できる環境、雰囲気というのはできていたのか、自然とそうなっていたのか、特
に新人の方だとなかなか質問しづらいのかなと思いますが、いかがでしょうか?
A:はい。大変質問しやすい環境でした。更にお隣にいらっしゃる社員の方だけではな
E-Learning 実態調査報告書
39
く、講師の方が 3 人、中に入ってくださっていたので、いつでもわからないところ
は聞ける環境にはありました。
Q:自分より遅れている人から質問がくれば、自分のペースが崩れるので嫌がるという
ことはないのですか。
A:研修の最初に席を決める際に、一列 3 人掛けだったのですけれども、中央席に FIT
経験年数が一番長い方、一番の初心者はこの席という分け方を講師の方がして下さ
ったのですね。その際に説明として、わからなかったら真ん中の人に聞きましょう
という設定がされてあったので、大変質問もしやすかったです。ただ普通に座って
隣だったわけじゃなくて、最初にわからなかったらその人に聞いてくださいという
設定でやってくださったので、質問はしやすかったです。
Q:周りの人に競争意識というのは出てきますか。たとえば、あなたは早かったからよ
かったかもしれないけど、他の人がパッと終わって自分が遅れたら、消化不良でも
まぁいいかって、すぐに試験を受けるとか、そういう危険性はないですか。
A:最初に、講師から早く終わればいいということではないという説明があったので…
…逆に最初に終わったら、「本当にちゃんとやったの」って聞きますよと事前に説
明がありましたから、理解しないといけないという気持ちもあります。
Q:今までリタイアした人がいないという、そういう部分でプレッシャーとかはありま
せんでしたか。そういうお話を講師の方がされたと思うのですが。
A:対面型で講師が説明をして、それを聴き取っていくだけの講習だったら、わからな
くても先に進んでしまうし、多分自分でも消化不良を起こしてしまうこともあった
と考えられます。でも今回の研修では、まず自分でやって、わからなければ隣の人
や先生に聞けます。遅れていても、今日はここまでというものではなくて、最終的
に 3 日間で全体が終わればいいというものだったので、終わらなかったらどうしょ
うという思いは、やっているときにはありませんでした。
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40
Q:この研修が終わると、自主性が出てくるとか、主体性が出てくるとか、自分で何か
チャレンジしようというような意識が高まるといわれているのですが、仕事に対す
る姿勢等はそういうものは変わったような気がしますか。
A:あることに対しても、今までは一通りの調べ方しか知らなかったのに、いくつもの
方法を教わり、ご案内をする方法が増えたのでそれは明日からでもすぐ使えると思
います。
写真 3-24 各受講生の進捗状況の説明
3.2.5
コースの運営管理に関する説明
コーチは、受講生の進行状況を個人進捗表で管理する。各自の名前と学習タイム、終了時
間を記入していく。一番早かった組に丸を、一番遅かった組を四角で囲んでいる。大体、
平均でどのくらいで完了しているのかが一覧できる。1日目の終了では全然差が出ていな
いが、2日目からは経験によって進捗が違ってくる。進捗の早い人はここ、遅い人はここ
というようにはっきり分かる。しかしながら、進捗に差が出てもそれぞれの満足度は高い。
なぜなら納得して学習を進めているので、個々人にとっては最適のスピードで進んでいる
わけである。
遅い人には講師側から直接「今、どんな状態?サポートいりますか?」と打診する。しか
し「大丈夫です」と本人が言ったらほうっておいてあげる。ほうっておいてもダメだった
ら、更に突っ込んで状況を見極める。これで全体の進行状況を常につかんでいる。
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3.2.6
CRI 技法による研修設計、運営の説明
最初に、JTB の海外旅行の実務教育体系を説明する。
写真 3-25 スキル階層図
JTB の能力開発センターで海外旅行の実務教育として、CRI 技法による教育体系が作られ
た。まず、海外旅行の販売に関して求められるスキルを全部洗い出した。たとえば、海外
旅行の企画書(JTB でいえばルック、JAL パックでいえばアイル)があるとすれば、それ
が売れるというときに求められる最大のスキルは何か、その求められるスキルを構成する
スキルは何か、またこのスキルの前に必要なものは何か、それを全部洗い出した。それが
写真 3-25 のスキル階層図である。すなわち、海外個人旅行が販売できるというのは、どう
いうスキルから構成されているかを全部洗い出してスキル階層図にしているわけである。
これがここでの教育の全てのベースになる(写真 3-26 参照)。
E-Learning 実態調査報告書
42
写真 3-26 スキル階層図の説明
その次に、海外旅行の実務マニュアルを製作した。これまで、こんなマニュアルはなかっ
た。今までどうしていたかというと、講師がそれぞれの思いで資料を作っていた。
そこで、実務マニュアルを作成し、新入社員がこれ 1 冊あれば半年間は仕事ができるとい
うマニュアルを作ることを考えた。つまり参考書である。教科書ではなくて参考書を作り
たかったのである。
「新入社員が読んで、説明なしでわかり、実務ができる」、それを作ったのである(写真 3-27
参照)。これにもこだわりがある。見開き1ページで完結するようにしてあり、仕事の流れ
が全部説明してある。左のページはチャートにして、仕事はどうやって流れているのか、
その解説を右に付けて、見てわかりやすいようにした。
E-Learning 実態調査報告書
43
写真 3-27 海外旅行実務マニュアル
スキル階層図と海外旅行の実務マニュアルを基に 4 つの研修を実施している。研修が進む
につれスキル階層図(写真 3-25 参照)の一番下からどんどんスキルが上がってくる。
①
海外実務基礎研修。これは新入社員に、入社してすぐに受けてもらう研修で
ある。対象は、初めて海外旅行を担当する社員である。仕事の流れと仕組み
がわかり、企画商品を販売できる知識とスキルを研修する。これが CRI 技法
で行われる。
②
ヨーロッパの鉄道研修。ヨーロッパの鉄道の日程が作れる。鉄道のパスが選
べて、ご案内ができる。
③
見学した FIT 研修は、海外自由旅行、海外個人旅行である。航空、ホテル、
そしてトランスファーというのは移動であるが、その移動手段の手配、見積
もりができる。これが CRI 技法で実施されている。
④
スキル階層図(写真 3-25 参照)の中でお客様のご要望がわかるというスキル
がある。お客様のご要望はどうやってつかむかというスキルの習得を研修で
やっている。コンサルティング営業の基礎、つまりご要望を聞く、商品を選
ぶ、選んだ商品を提案する、話すというスキルを全部ロールプレイでやって
いる。それにより、どんどんスキルアップできるようにしている。教材は全
部実務マニュアルである。
E-Learning 実態調査報告書
44
研修コースは社内資格とリンクさせてある。JTB には、2 つの資格制度がある。最初に受
験するのが、トラベルコーディネーターB 級というものである。これの目標は何かというと、
お客様のご要望に基づき、正確に案内、手配ができるという入門レベルである。これはお
およそ入社1年目で受験する内容になっている。そして、その上の上級がトラベルコーデ
ィネーターA級である。これは、お客様のニーズを把握し、最適な商品を選び、そして提
案するというレベルである。この資格制度と研修を全てリンクさせている。このようにし
て、研修にばらつきがないように、あるいはそのステップアップが見えるようにしてある。
写真 3-28 実習現場
今回見学した FIT 研修は、大体、実務経験が半年くらい経ってから受講するとちょうどい
い研修である。そして、この研修の全てのベースにあるのがスキル階層図である。
3.2.7
研修設計・運営と e ラーニング導入までのプロセス
JTB が FIT 研修、CRI 技法による研修設計・運営と e ラーニング導入までをどう行ったか
について解説する。
戸村講師は、97 年にこの研修センターに赴任し、99 年に海外旅行研修の担当になった。そ
E-Learning 実態調査報告書
45
して作ったのが、販売店で使う実務マニュアルである。これが今でも現場で使われている。
それは社員に支持されていることの証である。少しずつ改訂を経ながら、常に新入社員が
読んでわかり、説明なしに業務ができる内容になっている。
そして、99 年の 11 月に CRI 技法を知り、NEC でそのエッセンスを習得し、翌年 4 月に
FIT 研修を CRI で実施した。そのとき最初に作ったのがスキル階層図である。
このスキル階層図を研修とリンクさせている。たとえば、スキル階層図の中に航空機の手
配ができるスキルがあると、このスキルのブロックを個々にレッスン単位にしている。こ
れはホテルの手配ができるというスキルについても同様である。学ぶものは全部コースマ
ップの中に集約されている。そして、学習の順番は基本から応用へと上がっていく。
この学習方法の長所として、学習内容の経験者は、知っていることについて確認レベルで
どんどん先に進めることである。初心者の場合は、学習内容を 1 つずつ丁寧に学習できる。
標準時間は決めてあるけれども、受講者によって全部違う。実際、結果アンケートで「知
っていることは確認レベルでできたけど、知らないことは時間をかけてじっくりできた、
それがよかった」と述べている。
CRI の研修が安定していった 2000 年の 12 月に社会経済性本部から、e ラーニングの提案
があり、FIT 研修を移行しようと試みた。以下に e ラーニング導入までの経緯を紹介する。
①
社会経済性本部の担当者に FIT 研修そのものを全期間、聴講取材してもらっ
た。このコースにはそれぞれの学習単位の目標が設定されていて、達成でき
たかどうかのテストがある。また必要な教材が示されている。学習は自己学
習でやる。これはそのまま e ラーニングでできるということを確信した。
②
既存のプラットフォームを使って、Web 教材を製作
製作したのは講師が講義をやっている海旅販売 FIT 研修のコースマップ(図
3-8 参照)にあるシーン A−0 と、規則を語るシーン AT(国際航空運賃の
体系と仕組み、ルールの基本)の 2 つだけ。その他には講義は一切なし。
③
11 月に社内発表
④
12 月に FIT 研修、e ラーニングのトライアルを開始
講師の FIT 研修を e ラーニングに移行するにあたっての発想は、このフォレ
スタで実施している研修をそのまま Web で実施するという発想である。教材
作り変えましょうという発想は全くない。
E-Learning 実態調査報告書
46
集合研修だと、研修施設にはマシンが 20 台しかないので、1 回に最大 20 名
しか受講できない。研修所は年間 250 日以上稼動しているので、コースも増
やせない。そこで増やすためのいい手段が、この e ラーニングだったわけで
ある。コンピュータは支店にあるので、支店でこのトレーニングができると
いう発想もあった。
⑤
教材はテキスト、テストは記述式
もう 1 つは、コンピュータに頼らない e ラーニングを目指している。画面を
見続けて勉強するというのは不可能であるから、教材は全部、集合研修と同
じ活字教材である。e ラーニングで、画面にこういう勉強してくださいという
指示が出た後はスイッチを切って学習してもらう。受講者はここにいるのと
同じように、これを読みながらこのマニュアルで勉強している。スキルテス
トも、全部記述式である。Web 上の自動採点はしてない。なぜかというと、
海外個人旅行だから、答えが何百通りもあるからである。
たとえば、格安航空券のお客様が「成田からボストンまで行きたい。一番安い
航空会社で手配してください」と言ってくる。そうすると、Aさんは成田―
シカゴ―ボストン、ユナイテッド航空を選ぶかもしれない。Bさんは成田―
ニューヨーク―ボストン、ノースウエストを選ぶかもしれない。いろんな答
えが出てくる。従って、いろんな答えが出せるためには記述式しかないわけ
である。
⑥
最初の説明が大切
初めてのことであるから、FIT ラーニングの仕組みを説明する必要があった。
受講者に対する利便性、それからコストのこと、個別指導などコースのメリ
ットを強調する。現在のインターネット配信スピードを考慮して、受講者が
最も学習しやすい方法で教材をそろえている。具体的には、受講者の皆さん
はインターネットから配信される画面を、長時間見続けて学習する必要はな
い。教材は事前に送付されるので、画面をプリントアウトする必要はない。
ガイダンスや解説のみ画面で確認学習したら、インターネットをオフにして、
送付された教材によりセルフペースで学習してもらう。
e ラーニングは単なる機械、道具だと思ってやっている。e ラーニングは何でもできるとス
ーパーなものだと思っている人や、easy の E だと思っている人がいる。
実はその誤解を防ぐ必要があって、e ラーニングはセルフペースの学習であり、学習の確認、
E-Learning 実態調査報告書
47
共有する、サポートする、特にこのサポートが重要だと思う。
3.2.8
受講者が現場で e ラーニングの講師になる
JTB 能力開発センターの講師は、受講者ごとの学習進捗を個別にサポートする。また職場
では、FIT 研修を受講、修了した皆さんに気軽に質問してくださいと言っている。集合研修
に来た人は全部学んでいて、その人が職場にいるわけだから、わからなかったらその人に
聞いてくださいと講師は提案している。
3.2.9
学習システム環境は本物の端末使用
システム上の流れは JTB 独自のものである。支店で利用する端末は JTB のインターネット、
普通のパソコンである。実習で利用する端末、トリップスセーバーは航空会社の予約端末
である。トリップスキープランは JTB の航空予約端末だが、完全に現場主義で本物を使っ
ている。そしてトリップスの実習以外は全部、自宅で学習可能である。その場合はインタ
ーネット接続のパソコンがあれば可能である。この中で最も重要なものは支店のサポート、
受講者の環境作りで、これらは不可欠である。
このような段取りで CRI 技法が定着してきた FIT 研修をそのまま e ラーニングに置き換え
た。よって、プログラム作りには時間がかかっていない。
3.2.10
FIT・e ラーニングトライアル実施報告−2001 年の 11 月から 3 月まで
FIT 研修では、トリップス端末を 1 人 1 台使用して、実習を主体とした研修を行っている。
各学習単位は達成すべき目標が設定されており、実習は全てトリップスを利用して、実践
的に行い、目標を達成していく。目標を達成したかどうか、学習単位ごとにスキルテスト
が実施される。研修スタイルはマニュアルや実習教材を整理し、自己ペースによる基準達
成型研修として行い、理解でき、実施できるまで学習するように設計されている。この方
法は受講者にも好評を得ていて、ここ 2、3 年、受講者が増えており、定員をオーバーする
ケースが多く発生している。この問題を解決するために、支店のインターネット接続パソ
コンとトリップスを使った e ラーニングを構築したということである。だから、集合研修
では処理しきれない人数を一度に、現場にある機器を使って教育できる。
E-Learning 実態調査報告書
48
3.2.11
実施評価と反省
2001 年の 12 月にスタートして、当初は 12 月、1 月、2 月の 3 ヶ月で受講人数 43 名、30
名が修了、修了率は 70%であった。
運営については、受講者からの質問には 48 時間以内に対応した。システムについての問合
せが主で、自宅パソコンからアクセスできないなどで、現在この問題は全部解決されてい
る。学習内容に関する問合せは 1 件もなかった。理由は、テキストである実務マニュアル
がよくできているためだということである。
システムについての問合せについては、
受講者
→
講師
→
社会経済性本部
→
受講者
の流れで、原則メールにて対応した。
緊急には全部電話で対応した。学習の進捗チェックは受講者からスキルテストが送信され
た翌日には、講師が採点し、フィードバックした。これには毎朝 1 時間から 2 時間かかっ
た。記述式なので対応は大変である。受講者同士のコミュニケーションをとることができ
る Web の会議室を作ったが、実際の利用は極めて少なかった。
3.2.12
サポートの重要性
e ラーニングを実施する場合は、受講者をサポートしないと修了できない。e ラーニングは、
限りなくアナログだからコミュニケーションが不可欠である。コンピュータ学習にしたか
らといって、自動的に学習してはくれない。そこで受講者に対して、学習の促進レターを
ファックスで送った。この手段を選択した理由は、Web にもアクセスしない人がいたから
である。メールなどのメッセージを送っても開けてくれないと読まないし、見られないか
らである。
だから、受講者が絶対に読む方法とすれば、それはファックスだった。電話は JTB の場合
には使わない。「今、カウンターで接客中でございます。営業中でございます」ということ
になるので、ファックスにした。
12 月に、まずアクセス状況の確認をした。教材が到着してもアクセスしない人がかなり見
E-Learning 実態調査報告書
49
受けられた。まず、教材を開けさせて、アクセスさせること、これが 12 月のポイントであ
った。
1 月に学習状況を確認、メールアドレス登録、そしてイエローカード 1 が発行されている。
進捗状況がわかるから、
あなたは 1 つもやっていませんよというイエローカードを出した。
2 月にイエローカード 2 を発行した。
自宅パソコンからアクセスできない受講者には救済措置をとった。スキルテストシートを
ファックスで送ってもいいというものである。したがって、Web にアクセスしなければ受
講できないということは全くない。このように運営側が柔軟に対応しないと学習を継続で
きない。
研修所のトレーニングルームを開放したが、端末利用者はなかった。未修了者に対して、3
月 20 日締め切りのファイナルインフォメーションをした。このように受講者に対して毎月
通常は「何かの」働きかけをやっている。この働きかけがないと、修了率は極めて悪いの
が現実である。
3.2.13
アンケート
修了した人の学習の仕方をアンケートから集約した。
計画的にやっている
1 回に 3 から 4 単位を集中してやっている
トリップス、コンピュータは支店で、その他の学習は自宅でうまく計画してやっ
ている
集中して最短 12 日間で終わった人がいた。目標達成の意志が強い、自分との約束を守って
実行できる意志の強い人が修了している。
未修了者の状況は次のとおりである。
1 単位も修了してない人、Web に全くアクセスしていない
あるいはアクセスしたがうまくつながらなかったので、それっきり
よって、最初のアクセスは絶対につながるようにしないとだめである。アクセスは簡単な
E-Learning 実態調査報告書
50
方が良い。途中で諦めたケースとして、トリップス端末(支店にあるコンピュータ)を使
わなくてもできる単位だけ終わったらそれで終了してしまった人、あるいは支店にあるコ
ンピュータを使用する段階で挫折した人がいた。この理由は、忙しかった、使いたかった
けれどもコンピュータが空かなかった等等である。
3.2.14
学習環境の分析
年明け以降、海外旅行業務が忙しくなってきたため、支店の業務量が増大し、トリップス
端末が思うようには使えない状況が続いた。これが学習を阻害した理由として、結構多い。
実践スタイルで研修を構築しているが、その実務環境のコンピュータが思うように使えな
かった。
ほとんどの受講者は自宅でも学習している。これはスキルテストの送信が週末の夜間に行
われていることから、想像できる。修了者は大変な努力をしていると思う。
一方、支店内でのオン・ザ・ジョブトレーニングが行われていないのは課題である。わか
らないことを、まず支店の経験者に聞く、Web で質問する、FIT 研修修了者に聞くなど、
ルールと仕組みを作ってあるが、実際には、個々人は孤独な学習をしている。
e ラーニングを成功させる大きな要素は支店の学習環境作りであるといえる。つまり、所属
の課長がよく理解している。そして使用するコンピュータを使えるように配慮しているな
どである。トリップス端末を使う実習主体の研修であるが、支店では業務でコンピュータ
を使っており、思うようには利用できない状況がアンケートからもうかがえる。それが受
講者の負担になっていると思う。
3.2.15
問題の改善について
支店においてコンピュータ端末を計画的に使用できるような工夫、仕組み作りが必要であ
る。トリップス端末を使用する学習単位の学習内容、所用時間を検討する必要がある。こ
れを受けて、現在では支店のコンピュータを使う実習時間を少なくしてある。それから、
実習内容をシンプルにしてある。
自宅パソコンからアクセスすることができなかったケースが多かった(現在、解決済み)
ことと、受講する曜日、時間帯により、通信スピードが遅い場合があった。また 2、3 年前
E-Learning 実態調査報告書
51
までは、JTB 内のネットワークの関係でスピードが遅くなることもあったが、現在これら
の問題はほぼ改善されている。e ラーニングで講義を配信するときは、サーバを絶対に止め
てはいけない。受講者はすぐに研修をやめてしまう。
受講者とコーチのコミュニケーションを構築すること、継続すること。これがすごく重要
である。だからアナログ的だと思う。支店のサポート体制の構築―これは学習環境である。
学習環境を整えること、資源(コンピュータ端末、FIT 受講経験者、学習者に与えられた時
間など)をうまく活用をすることが大切である。
3.2.16
アンケート総括
受講者の 9 割以上の方が役立ったと評価している。e ラーニングの特徴である自己ペースで
の学習が可能という点については、半数が評価している。また、e ラーニングは将来的な学
習形態であるという認識も高い。Web へのアクセス不具合が予想以上に多かったのだが、
これは学習意欲をそいでしまう。コンピュータ端末利用、利便を含め、職場でのサポート
体制の確立が求められるということである。
3.2.17
受講者の制限
2002 年の e ラーニングでは、受講者の前提として、基礎知識とスキルが既にあり、パソコ
ン操作ができる人とした。最初のトライアルの時に e ラーニングは easy のEだと思ってエ
ントリーした人がいたが、キーが打てない。だから、レポートが作成できないために、記
述式のコースについてこれない。従って最低でも初歩的なパソコン操作ができる人に限っ
た。さらに受講に必要なコンピュータ端末と学習環境が整っている人、つまり支店の理解
と協力が得られる支店の人に受講を制限した。
FIT コースは、全くの素人が来ると、にっちもさっちもいかない。ところが、集合研修では
完全に 1 対 1 で見るから救える。e ラーニングだと、これは厳しいことが、経験からわかっ
た。このように全てが、記述式の e ラーニングに一番向いているのは、自分で全て考えて、
自分で行動できて、責任が持てるような人たちである。お店のカウンターにはどういう人
が来るかわからないから、全部、記述式のテストにしてあり、このレベルでないと役にた
たないコースになる。
今度、この海外旅行実務研修を e ラーニングで実施するが、これは基礎レベルなので、テ
E-Learning 実態調査報告書
52
ストは全部 Web 上で選択式である。すいすい答えられるようにしてある。この FIT はすい
すい答えられない。コンピュータを打って探して、自分で構築して、つまり注文住宅なの
である。だから、これはある程度の知識、スキルがある社員に向いている。ここは知識、
スキルがない人たちだから、どんどん基本を教えながら、選択式のスキルテストでいいと
思う。それを今年スタートした。
これが CRI と出会って、研修を構築して、全体の教育体系を作って、それから e ラーニン
グに置き換えたのである。一概に e ラーニングという 1 つの括りにしてしまうのは危険で
ある。対象者は誰かということが大事である。
研修には集合研修と OJT と e ラーニングと、その他にたくさんの方法がある。その人に合
った最も効果的なものを選んで行えばいいと思う。
集合研修は FIT、フォレスタマラソンである。3 日間でこのコースを走り切ってくださいと
いう目標を設定する。それぞれの進み方は違うが、3 日目には全員がゴールする。それはち
ゃんと給水地点があったり、コーチがいたり、隣の人に聞いたりもでき、道路はこのマラ
ソンランナーのために整備されている、つまりコンピュータは 1 人に 1 台用意されている
わけである。どうぞ走り切ってくださいという環境設定ができている。
OJT というのは、クラブチームのようなものである。今日のトレーニングは3時からとす
ると、リーダーがこれを引っ張っていくわけである。頑張れない人でも頑張って走ってし
まう。そして何とかなる。でも、クラブチームはトレーニングする前に仕事をしているわ
けである。仕事をした後、トレーニングをしている。
e ラーニング、これは孤独な 1 人トレーニングである。これは己に勝つことができる人じゃ
ないと無理である。特に我々がやっているものは、e ラーニングは 8 時間以上仕事をした後
に、さあご自身でどうぞというものだから、かなり強い意識がないとできない。継続でき
ない。だから、走り切るというのは大変なことだと思う。だからこそ環境がとても大事だ
と思う。
競合に勝つためには、社員を早急に教育する必要があるのだが、いままでの研修では限界
がある。そこで提案したのはこの OJT である。今、この FIT コースプログラムをそっくり
支店でやってもらおうというのをやっている。そのコーチを誰がやっているかというと、
ここで研修を修了した人がやっている。だからクラブチームの発想である。
次に、CRI 技法を用いた研修と e ラーニングの実施に関して、見学者と講師の間で交わさ
れたQAを紹介する。
E-Learning 実態調査報告書
53
Q:こちらの方では自分たちでこうした方がいいのじゃないか、CRI の中でこうした方
がいいのじゃないかという部分では結構あったのですか。それとも忠実に CRI を
そのまま実現したのでしょうか。
A:実施は CRI の基本にかなり忠実だと思います。
Q:これを見てもそのままじゃないですけれども、本当に理想を実現させているという
形ですよね。
Q:CRI を適用していく中で、どうも合わないという部分は特になかったわけですよね。
A:基本的にはないです。次の問題はしゃべりすぎという講師の問題です。NEC さん
では、講師をマネージャーと呼んでいます。講師が研修の最初にいつも言うのは、
プレイヤーとコーチということです。プレイヤーからアドバイスを求められたとき
だけ、コーチがアドバイスしますという姿勢なのです。たとえば、ある受講者から
質問がくると、講師はここから本来の路線を逸脱していくのです。自分の経験を話
したり、関係のない話題にそれたり、でも受講者はそんなことを聞いてはいないの
です。
従って講師は聞かれたことにしっかり答えます。「アドバイスは必要ですか」と尋
ねて、「お願いします」と言われたときだけです。残念ながら、古いタイプの講師
は「これも教えなくてはいけない。これも、これも……そうだ、これも」と収拾が
つかなくなるのです。ですからスキル階層図に戻って、ここで求めるスキルは何な
のかを見直さないといけない。講師はこのコース目標に掲げられていること以外は
しゃべらないということです。残念ながら、一部の講師はこの基本に加えて話に花
を咲かせます。その結果、終了時間が遅くなったりする傾向があります。ところが
受講者から見ると、知りたいこと、必要なことだけをきちんと与えてくれた方がス
ムーズに進んでいます。
だから、理想的には CRI 技法とコーチングテクニックが合体したら最強のものに
なると思います。
Q:補足ですけれども、CRI ではコースマネージャーといっていまして、コースマネー
ジャーは必要なときしか、教えてはいけないのです。教えるという概念がないので
す。コーチなのですよね。
A:講師は教えなくちゃいけないという観念にとらわれています。会社も何を教えたの
E-Learning 実態調査報告書
54
かと聞きます。しかし我々のスタンスは、受講者にどれだけ役立ったかです。だか
ら、この講師というものを捨てることから始めればいいんじゃないでしょうか。
講師は、最初のオリエンテーションのときに、このセンターでは講師とは呼ばない
でくださいと言っています。プレイヤーとコーチです。そしてニックネームで呼ん
でくださいと。研修は、
“楽しくなくては研修ではない”というのが持論です。
「い
やぁ楽しかったです」と感想文に書かれたら、最高の講師への褒賞です。
Q:CRI はやはり新しい教育手法だと思うのです。それを JTB さんの中に導入すると
きには、いろんな反発とかがあったと思うのですが、その辺りはどういうふうにク
リアしていったのでしょうか。
A:勢いですね。最初は勢いです。こんな新しい試みについて現場は信じませんから、
勢いでやっつけていくのです。それから受講感想に書かれる受講者の声で押してい
きました。「こういう研修を受けたかった」というお客様の声を全面に出していき
ました。そうしたら、
「CRI っていいじゃない。実務教育は CRI に全部しろよ」と
トップが言い始めたのです。まずお客様から動かすのがポイントです。
A:できることをもっとシンプルに考えてあげれば、できる、できると好循環になる。
これが FIT コースの CRI なのです。最初から、
「FIT って難しいのだぞ」
「どうだ、
ほら、わからないだろ」といったら、受講生はいやになってしまいます。
この実務マニュアルは、新入社員が読んでわかるレベルで書いてありますが、実際
の業務ではこれだけでは問題解決しません。それをどういうふうに処理してあげる
かというと、より詳しい資料はこれを見なさいと参照を提示しています。つまり、
この基礎レベルでまかなえない知識、情報はここにあるよと書いています。そうす
ることによって、この実務マニュアルをシンプルにしてあります。そうすると、と
てもわかりやすいのです。
Q:マニュアルの作成はどのくらいの期間でやられたのですか。
A:多分、1 ヶ月くらいだったと思います。これも勢いです。
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55
Q:それだけに集中なさったのですか。
A:いえ、そういうヒマはないので、仕事をしながらです。
マニュアル作成に1年もかけていたら、つぶれてしまいます。CRI を構築する時も
シンプルであること、集中して作ることです。
Q:現時点の CRI を活かしているコースの中で、実務研修以外のコースみたいなもの
というのは存在しますか。
A:今のところないです。
Q:やはり知識研修といいますか、実務じゃなくて技術など知識を身につける部分とい
うのは、ハードル的にどうなのでしょうか。
A:CRI というのは無限だと思います。よくマネジメント研修をやっている人は、これ
は無理だといいます。でも絶対にそんなことはないと思います。マネジメントもス
キル階層図に分解できると思います。それをしていないだけです。
日本ではすぐに型を決めたがけれども、どんな方法でもかまいません。研修は目標
が達成されることが重要です。その目標というのが基準なのです。基準がないから、
研修によって、または講師によってばらつきが出ます。CRI 技法による研修の最
大のメリットは、講師によるばらつきがないということです。これは最大の効果だ
と思います。講師はみんな熱い思いを持っていますから、自分のやり方がベストだ
と思っています。そして、それを見事に正当化してしまう人たちが多いのです。
Q:今日の教室の中に確認テストがあったと思いますが、時間を早く終わったら、その
基準を達成したということで、その分野における応用問題とかはもう全然ないので
すか。
A:ありません。
Q:それじゃあ、もう次のステップに。
A:はい。
Q:以前、CRI を実施したあるお客様では「帰してはいけない」と言われました。早く
終わっても、やっぱり就業時間が決まっているので、帰さないでくださいと。それ
でこちらは、早く終わる人のために余分に問題を準備しなければならなくなりまし
E-Learning 実態調査報告書
56
た。
A:ご本人が受講者だったら、「目標達成したら終わりなのでは?」となりますね。だ
から、返さないで縛りつけるというのは旧来型の研修です。目標は達成したのです
から。
Q:それも 1 ついいと思ったのですけど、1 つの問題だけで本当にクリアなのかという
ので、いくつかの応用事例を繰り返し経験させるというのも意味があるはずですが。
A:だから、テストは繰り返し内容を問うように作られています(図 3-11 参照)。前の
内容をクリアしないと次ができないようになっています。どこかで繰り返していま
す。
前の演習内容と次の
演習内容がダブルよ
うな問題の作り方。
問題2
問題1
図 3-11 問題内容のオーバーラップ
Q:関わりがあるわけですね。
A:そうです。だから、屋根瓦状にテストを設定しておけば、充実感があります。たと
えば、今やっているのは前回の問題の応用バージョンであり、これを応用すればい
いのだとかがわかるわけです。この矢印は全部つながっているので、いきなり途中
からは答えられないようになっています(図 3-11 参照)。結果としてコツコツと積
み上げてきた人が、早くゴールします。
E-Learning 実態調査報告書
57
それはコース設計の仕方だと思うのですね。問題の作り方です。
そして終わったら帰してあげたほうがいいと思います。弊社でも帰すなって言って
いるのですけど、自己研修していればいいわけですから。そうすると、
“よかった、
楽しかった研修”というのは、また来たくなるのです。もし拘束して、もう 2 度と
行かないと受講者が思ったらどうですか。
Q:教材とかガイドラインの作り方なのですが、ずっとこれを 3 年やっておられて、い
ろんな修正を加えられて完成に多分近づいていると思うのです。私が講師をしてい
たときにも、20 人いたら 20 回同じようなことを聞かれることがあって、それらを
コースガイドとかあるいは注意事項に反映していったのですけど、そういうふうな
ことは何かありましたか。
A:それは 2 種類あると思います。①それはマニュアルに入れるべきものと、②マニュ
アルに入れてはいけないものです。いろんな質問が出ますが、これは絶対に基礎と
して知っておかなければいけないもの、それは翌年、全部マニュアルに入れていま
す。ところが、そのレベルによって必要とされる前提知識、スキルがあります。そ
れについては、朝とかコーヒーブレイクのセッションに、ワンポイントアドバイス
を入れているのです。「じゃあ、これからホテルの手配でコツを話すからね。コツ
…こういうお客様が来たらこういうふうに案内して。ヨーロッパのホテルは夫婦で
行くとダブルになるよ、どうして」と、そういうコツを話していくわけです。そう
すると、なるほどねと。ただ、それは使い分けています。基礎レベルの受講生には
どんなにいい情報を与えても、あまり理解できない。個人個人との質問のやり取り、
フィードバックのときに必要な情報だけを提供しています。そうすると、ほかの受
講生も横で聞いているのです。これがいいのですね。
あとは講師自身が楽しむことです。コーチが一番楽しまなくてはいけないと思うの
ですよ。
A:講師たちはこれをやることによって、すごく毎日勉強させてもらっていますね。あ
りがたい商売ですよ。だから、講師が「講師です」と出ると、受講者は絶対に情報
を出しません。そういうものだと思います。「えー、そんなことがあったのだ、あ
りがとうね」と。だから、いつも対等だと思います。
私たちは、このコースをお客様の研修でも同じようにやっているのです。全然、抵
抗ないです。これが複数の企業であっても、多分問題ないと思います。最初のオリ
E-Learning 実態調査報告書
58
エンテーションでの紹介の仕方次第です。
ですから、最初に「主体性、自主性を尊重します」と、どの研修でも講師は必ずそ
う言うのです。そうしないと、若い人たちは「何を教えてくれるの」という態度で
すから。最初に「講師は何も教えません」と宣言します。宣言するのが一番いいで
す。ここに全部書いてありますと。だから、受講者と講師というふうになると、売
り手と買い手です。勝負事になってしまいます。だから、受講者と講師は対等で、
同じ目標に向かって進んでいくのだということを、最初のシーンで作ってあげない
といけません。これを教えてくれなかったじゃないとか、受講感想に教えてほしか
ったとか書くわけですね。それはオープンな関係になっていないのです。講師とい
うタイトルをなくしてしまえば、一番いいのです。最初に「何か質問はありません
か」ときいて「大丈夫です」となったら、
「じゃあ質問していいですか」と言って、
その受講生の答えられるレベルでどんどん質問します。
Q:そうすると、その質問の内容にはたいがい答えられるということですよね。
A:そうです。あるいは受講生はちゃんと答えを持っています。「えー、わからない」
と言ったら、「じゃあ、どうやったらそれは調べられるかな」と、多分そこがコー
チングテクニックだと思います。
たとえば、今日やっている研修で、違う考え方の答えを出す人がいますよね。違う
じゃないって言ったら、もういやになってしますから、
「それはどういう考え方で、
この日程を作ったの」と質問するわけです。
「こうこうこうです」「なるほどそういう考え方もあるのだね。じゃあ、ちなみに
ユナイテッドだったらどうなる」と示唆を与えます。絶対に受講生の回答を否定し
ません。
Q:お聞きするとここまでやるには、
1 年のプロジェクトでもしなければと感じました。
A:いいえもっと短期に仕上げた方がいいと思います。1 年経ったら、世の中は変わっ
てしまいます。e ラーニングは、3 ヶ月あるからできるだろうっていったら、とん
でもないです。みんなが取り組むのは最後の 2 週間です。皆さんも通信教育の経験
があると思いますけどね。
E-Learning 実態調査報告書
59
Q:CRI 技法を取り入れた研修の日程というのは、今回は 3 日間ですが、それ以上の日
程、5 日間、1 週間、10 日間とかはいかがでしょうか。
A:CRI の本来の考え方からいえば、これを学ぶためには何日間必要だからやらなくて
はいけないということなのです。ところが企業ではそんなことをいっていられませ
んので、人を出すという現場のことを考えたら、最大 3 日間だと思います。ですか
ら、この 3 日間でクリアできることだけを絞り込むのです。だから、あれもこれも
入れていないのです。FIT 研修では、全てをやっているわけではないのです。求め
られるスキルの中で、緊急で重要なものは何なのか絞り込んでいます。
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60
3.3 星城大学視察
写真 3-29 星城大学正門
アジェンダ
(1)
事務局長ご挨拶
(2)
学内見学
e-University の概要
(3)
質疑応答
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61
写真 3-30 星城大学の概要説明
3.3.1
星城大学変化の背景(事務局長ご挨拶)
(1)
星城大学は、平成 14 年 4 月に開学したが、名古屋石田学園として、もともと
60 年以上の歴史をもち中学から大学まで一貫して教育を行い、人材育成を手が
けてきた。
(2)
昨今の少子化に伴い 2 年前には前身である名古屋明徳短期大学の入学生は 45 人
(卒業 38 人)で、文字通り大学の存続自体が危うい場面であった。
(3)
定員枠を割り込む大学が増える中で、この大学のように学生を集め活気を呈し
ているところは少ない。
e-University を実現した e ラーニングシステムが学生を集めたキーなのかどう
かの議論は別の機会に譲るが、学園全体を変革していったプロセスは、今後同
じような立場の学校にとっては非常に参考になると思われる。
E-Learning 実態調査報告書
62
3.3.2
e -University の概要(学内見学)
(1)
キャンパス自体は、もともとアカデミックな作りになっているが、無線 LAN を
校舎内に張り巡らし、授業の様子をどこからでも自分のノートパソコンで見ら
れるようにしてある。
また、教員がテキストを学内のサーバにアップロードしていて、学生は事前に
資料を見ることができるようになっている。
写真 3-31 e-University の概要説明
(2)
教員は、パワーポイントを使って講義をしている。
これまで教員が使っていたノートや資料をオリジナル教材として、デジタル化
した。
そうしないと、統計資料など非常に分厚くなってしまい、印刷するコストもか
かる。内容もアップデートされるので、電子ファイルでの提供は非常にメリッ
トがあると思われる。
すべての科目で大学オリジナルの教材を一気に作ったことは非常に驚きである
とともに、その効果は絶大である(テキスト費用のコストダウン、バージョン
アップなどメンテナンス性の向上、学習コンテンツのモジュール再構成による
新規教材開発の可能性)
。
E-Learning 実態調査報告書
63
(3)
テキストはすべてデジタル化されていて、講習に必要な資料はすべてサーバに
収めてある。
データ形式:
(4)
パワーポイントファイル、Word ファイル、
Excel ファイル、PDF ファイル等
一部英語の教材として、MP3 ファイル形式もあり
音声として何度も聞くことができるようになっている。
すべて学習をバーチャルで行うのではなく、教室の授業には出席を義務付けて
いる。すべての講義はシステム上に録画されていて、アーカイブになっている
ため、すぐにでも呼び出して閲覧も可能である。しかし、学校では何をもって
出席とするかどうかの判定があり、ともすれば学校へこないこともありうるた
め、現在は出席するように義務付けている。
システム的には、既に学外からも受講は可能になっているが、何をもって出席
とするかという非常に難しい問題があるので、現在は学外からの閲覧は良いが
受講は認めていない。
但し、体調をくずして登校できない学生に対して、将来、家からも講義に参加
できるようなことも検討されている。
(5)
無線 LAN は Cisco の Aironet 端末を 80 台配備している。当初は相当の投資金
額がかかったが、キャンパス内のどこからでもアクセスすることが可能である。
200 人教室で最大 190 人でのアクセスを無難にこなしている。
オンラインテスティングは、学生ごとに異なる出題も可能であり、勉学意識を
刺激するような工夫がこらされている。
無線 LAN により、食堂でも、図書館でも、校庭からでも自由に参照が可能であ
るため、教室内にとらわれない学習が可能となる。
このように、IT リテラシーの教育がいきとどいた学生が社会人のなかに入って
いくことを考えると、非常に楽しみである。
E-Learning 実態調査報告書
64
(6)
教員からの連絡、事務からの連絡、先生へのレポート提出などはすべてメール
による。また、LMS として日立の HIPLUS を利用していて、ほとんどカスタ
マイズなしで使用している。
(7)
画期的な FD(Faculty Development)体制の構築
授業を完全に公開しており、学内の他の教室からすべての授業の閲覧が可能で
ある。もちろん無線 LAN にて、学内どこでも閲覧ができる。
星城大学では非常にユニークなシステムを導入している。これは、リハビリテ
ーション学部の学生が意欲さえあれば、経営学部の授業を受けることができる
というものである。
(単位認定される。但し、卒業単位には含まれない。)
各教員の授業も他の教員から閲覧が可能であり、これまで閉鎖性の高かった授
業のやりかたについても一石を投じる出来事である。
情報をオープンにすることにより、そこで切磋琢磨的に講義の質が向上できる
という仕組みである。
通常、大学における授業公開(授業参観)は、タブー視されているところがあ
り(某国立大学の授業担当マニュアルに記載)
、このような試みは非常にめずら
しいと言える。
テキスト、講義ノートも、サーバ(共用パソコン)から自由に取り出せて教員
相互間でも自由に閲覧できる。教員同士でレベルの掌握、進捗確認、内容重複
などのチェックができる。このようにして、質の向上、均一化を図っている。
(8)
授業は自動的にデジタル収録
講義は原則として、パワーポイントなどのソフトを使って実施される。学生は
通常教室内に設置してあるプロジェクタのスクリーン、PC を使って受講する。
各講師は授業を行いながら、全員に一斉にインターネット検索を行わせたり、
独自に準備した統計資料を見せながら講義を進めたりしていく。
データもアップデートされるし、膨大な分析資料を全員分コピーすることは現
実上不可能である。それがこのキャンパスのシステムでは可能になっており、
ネットワークの機能を十二分に生かした学習の仕組みになっている。配布する
ダウンロード資料は、PDF 媒体にて提供されるものも多く、著作権を意識した
E-Learning 実態調査報告書
65
作りになっている。
録画された講義はいつでも参照できるために、講義が終了したあとでも復習に
効果を発揮する(写真 3-32 参照)。
写真 3-32 講義終了後の資料のダウンロード
このシステムは多数の個々人の学習データを瞬時に、処理、整理、蓄積するこ
とができるので、その特性を活かして、オンラインでの試験・アンケート・出
欠・資料閲覧状況などを実施し、学生一人一人の理解度、到達度、満足度など
を把握している。
その意味では、機能豊富な分析ツールとしても利用率が高い。
3.3.3
実現への軌跡・取り組み
(1)
電子授業配信教室
写真 3-32 の教室では、講義の録画配信、受信が可能になっている。
E-Learning 実態調査報告書
66
写真 3-33 e ラーニング対応教室
見かけは一般の教室と変わりがないが(写真 3-33 参照)
、無線 LAN が配備さ
れて学生は常に学習リソースにアクセスできるような環境にしてある。
(2)
講師卓の操作パネル
教室の AV 機器の制御から各教室の状況モニターまで可能(写真 3-34 参照)。
写真 3-34 教室操作パネル
E-Learning 実態調査報告書
67
画像は RGB と Video 信号の2系統を伝送している。大画面に投影したときに
Video 信号だと詳細が見えにくいため、プロジェクタに RGB 出力信号を送り込
んでいる。
写真 3-35 教室操作パネル
教室の操作パネル(写真 3-35 参照)から1階、2階部分の教室の講義状況を
確認・操作できる。
タッチパネルにより他の部屋からの質問もボタンひとつで受けられるようにな
っている。
3.3.4
複数教室での運営事例
実際には講師は1名ではなく、下図(図 3-12 参照)のように各教室にもサブ講師が配備さ
れる。これによりサブ講師はメイン講師の教え方を学ぶこともでき、その教室での質問は
その場で回答することもできる。
講義配信用教室
講義受信用教室1
サブ講師
メイン講師
講義受信用教室2
講義受信用教室3
図 3-12
複数教室との連携による運営
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68
(1)
天井に取り付けられた CCD カメラおよび音響スピーカー
写真 3-36 CCD カメラ&音響スピーカー
(2)
HIPLUS のユーザ画面
写真 3-37 HIPLUS ユーザ画面
さまざまなコースが既に搭載されてある。この画面(写真 3-37 参照)は英語
のリスニングの講座らしいが、教材の 1 つとして、1 つずつのレッスンが MP3
のファイルに変換されている。学生はこれらをダウンロードして、オフライン
で何度も試すことができる。
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69
(3)
キャンパス内で PC を自由に操作する学生の皆さん
写真 3-38 オープンスペースで自習中の学生
(4)
キャンパスの教室に取り付けられた無線 LAN のアンテナ
写真 3-39 廊下に設置された無線 LAN アンテナ
E-Learning 実態調査報告書
70
(5)
学生が入学したときに購入する PC
大容量バッテリー標準で7−8 時間稼動可能(写真 3-40 参照)。教室内には AC
ケーブルは基本的に持ち込まない。
写真 3-40 学生入学時に購入する PC
PC の購入は、台数が多いため学校が直接メーカーと交渉しソフト込みで格安価
格を設定している。
(6)
学内での学生の作品展示
写真 3-41 学生の作品展示
E-Learning 実態調査報告書
71
デザインなど本格的に学んだ訳ではないが、リハビリテーション学部生も経営
学部生もわずかな教育期間にもかかわらず立派なコンテンツ(写真 3-41 参照)
が作れるようになっている。
(7)
サーバールーム(1)
キャンパスはまだ 1、2 年生しかいないため、台数的にはあまり多くない。10
数台(写真 3-42、3-43 参照)。このうち VOD のサーバだけで4台ある。
しかしこれを業者に任せず 1 人で管理されていて、しかもメインの仕事ではな
いというのは驚くべきことである。
写真 3-42 サーバールーム(1)
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(8)
サーバールーム(2)
ネットワーク機器がずらりとならぶ。この1年半の間、丸1日止まったという
ことはない。
写真 3-43 サーバールーム(2)
(9)
サーバールーム(3)
写真 3-44 サーバールーム(3)
E-Learning 実態調査報告書
73
3.3.5
質疑応答・その他ヒントなど
Q:コンテンツの作り方について何かポリシーは?
A:一から十まで懇切丁寧に作る方が良いという考え方と、あまり丁寧に作りすぎると
学生は話を聞かなくなるという意見もある。
↓
学ばせたい内容にもよるのではないか。
Q:学生の報告書などをすべて電子ファイルで提出というのは無理がないか?
A:手書きでもよいことにしているが、電子ファイルでの提出が 100%。手書きはいな
くなった。
Q:e ラーニングを組み合わせた上手な講義運営としての秘訣は?
A:講義の最初に問題を出すことを宣言。講義をきちんと聞いていれば答えられるよう
な問題を出題する。90 分の講義後に、そのような問題を出して、答えられればこ
れを出席代わりにしている先生もいらっしゃる。
Q:講師は保守的だから、テキストの電子化などに消極的なのでは?
A:もしテキストがデータで配布されない場合、「先生の授業では資料を配布しない
の?」と学生に突き上げられる。これにより、講師側もやらざるを得ない状況に追
い込まれている。
Q:一度資料をつくると講師は毎年それをつくることもないので楽ができる?
A:全く逆で、先輩から前年の資料をもらうこともあって、資料が全然アップデートさ
れておらず、昨年のまま使っていると不評になる。
E-Learning 実態調査報告書
74
Q:e-University にしたことによる副次効果は?
A:学生自身がバーチャルな組織をつくり、販売士、秘書検定などの資格試験対策の情
報を共有・交換するようになってきている。
Q:HIPLUS の掲示板機能は利用していますか?
A:以下の理由で現在は利用させていない。
個人攻撃がネット上で始まると収拾がつかなくなる。
講義に対しての批判が集中すると学校運営にも影響がでる
(来期 19 個のゼミが始まるが、うわさや批判が先行して学生が集まらなく
なる可能性がないともいえない。)
Q:講義映像の収録は誰かがマニュアルで行っている?
A:全部自動で撮影し、サーバにアップしている(HITACHI のコンテンツマネージャ)
。
Q:コンテンツオーサーリングツールのアップロード機能は高価だが1つのサーバのみ
でいいか?
A:先生が数十 MB のコンテンツをアップするのにいちいちメディアに焼いて持ってい
くのは不便なため、研究室からアップロードできるようにしてあげるのが必須であ
る。
Q:インターネットへのアクセスコントロールは?
A:学生が自由にできるようにしてあり、規制はかけていない。
E-Learning 実態調査報告書
75
Q:PC を購入することに対しての経済的な負担について、保護者のほうからの反応は?
A:ここ2年ほどは特に買わないという人はいない。ただ2件のみ分割でという方はい
たが。95%以上が購入する。70%以上がプリンタも同時購入。
Q:大容量バッテリーをつけると重くなるので学生は嫌がるのでは?
A:これがないと学習にならないとあきらめてきちんと持ち運んでいる。
Q:学校側でロッカーなどを用意しないといけないのでは?
A:星城大学では用意していない。
Q:保守はどのように?
A:外部に委託しないで、1 人で見ている。緊急トラブルのみ外部と契約し対応してい
ただいている。バックアップも含めてすべて内部での作業。
Q:学生の PC が突発的に壊れたら?特に試験のときなど。
A:常に代替機を全学生数の 1-2%用意してある。トラブルの時はこれを貸し出す。
Q:先生の意識を変えるためにしたことは?
A:先ず学校が破綻しそうになっていたから、おのずと危機感は高まりつつあった。更
に任期5年制を導入した。採用時に、期限付きの雇用に対して同意書を交わすよう
にしている。これにより緊張感が生まれてきた。
E-Learning 実態調査報告書
76
Q:どのようにしてこんな困難な状況下で成功されているのか?
A:トップのリーダーシップが大切。それから古い体質を打ち破るには、外の血を入れ
ることが必要である。
以上、e-University のみで星城大学が復活したわけではなく、それまでに大変な努力と緻
密な戦略があったことを知った。ここには、e ラーニング関連のことしか報告できなかった
が、大変考えさせられる事例であったことは間違いない。
E-Learning 実態調査報告書
77
総括
4. 総括
3団体を訪問し調査した結果をもとに、e ラーニング導入を成功へ導くアプローチについて
まとめる。
4.1 CRI 技法と e ラーニング
JTB、ホンダ学園が CRI 技法を採用していて成果をあげているのが非常に特徴的である。e
ラーニングはもともと自己学習的な要素を多分にもっているため、自立的に勉強するとい
う風土がまず必要になる。この部分は、CRI 技法のベースとなる考え方に合致していて非
常に親和性が高いということが予想されたが、今回の訪問でそれが確証された。
CRI 技法には、その導入についていろいろなステップがあるが、上記2団体の実現方法は
違っても、彼らはその技法のやり方を徹底的に学んだあと、独自に学びの場で実現してい
ったのである。
CRI 技法では、ID(Instructional Design)が重要視されるが、実現されている姿を見る
と ID にのっとってそのエッセンスを見事に結び付けていると言える。
成功の鍵①
CRI 技法は、e ラーニングと親和性が高い。この技法をベースに、e ラーニングを導入
すると成功しやすい。
成功の鍵②
CRI 技法を採用しない場合でも、確立された ID(Instructional
づいて、教育コース設計などを策定するべきである。
E-Learning 実態調査報告書
80
Design)手法に基
4.2 e ラーニング導入アプローチの方法
e ラーニング導入のアプローチにおいては、導入そのものが目的ではなく、学習者の能力を
総合的に引き上げ、教育効果をあげることが重要である。この視点からすると、今回訪問
した団体は、非常に効率的に、しかも割り切って導入を実行している。
たとえば、JTB はすべてを e ラーニング化しようとせず、e ラーニングは道具と割り切って、
教育体系の一部分だけを e ラーニング化している。
職場でいろいろなお客様に対応することを考えれば、短期にしかも効果的に人材を育成す
るには実地が一番と経験的に理解しているからである。
そこで、教育人数を大幅に増やせるように前段のところを e ラーニング化したり、職場の
端末を使って、職場で自己学習ができるコースにしてみたりと、工夫している。
ホンダ学園でも、CRI 技法を完全に理解しているが、現実の実習部分を最も重要視してい
るために、実習部分を学習に多く取り入れている。
ID 手法を取り入れた学習方法で使えるものは、すべて e ラーニングに取り入れたいが、現
実に教材作成に時間がとれない教官にとって、どうすればいいかの示唆を与えてくれる。
成功の鍵③
e ラーニングは学習のための道具の 1 つとして割り切る。e ラーニングを導入するのが
目的ではなく、e ラーニングを使って学習効果をあげるポイントを見出し、先ず一部分
でも準備にあまり時間を掛けずに実施してみること。
成功の鍵④
e ラーニング実現のために、教材作りは大きなテーマであるが、ID 手法に 100%のっ
とらなくても、現在使用している教材を簡便に利用できる方法を考えること。
E-Learning 実態調査報告書
81
4.3 CRI 技法の効果測定
訪問時、受講生にインタビューして得た返答内容や、実際に効率向上の数値としてホンダ
学園から提示された内容を検討してみると、はっきりと学習効果が上がっていることが認
められる。
もともと「学ぶ」ということは、自ら行動して知識を獲得するプロセスを意味する言葉で
あり、CRI 技法はこの考え方によくマッチしている。
成功の鍵⑤
CRI 技法の効果
・ 自分のペースで学習できるのでよい(効率性、効果など)
・ 隣同士や講師がよくサポートしてくれるので分かりやすい
・ 教材の有効利用が可能
・ 学習の基準が明確なので、講師によるばらつきが少なくなる(品質安定)
4.4 講師の役割について
くしくも講師の役割については、同じような言葉が各訪問団体から聞かれた。すなわち何
でも教えていた講師、先生という立場から、リーダー、ファシリテータとしての役割への
変化である。CRI 技法やその手法を活用した e ラーニングになると自律学習が最も重要視
されるが、講師は、すべて手取り足取り教えてはいけないのである。
気付きをあたえたり、ガイドしてあげたり、逆に教えなかったり、受講者の状況に応じて
コーチのように振舞うことが大切と教えられた。また、学習する環境を作り出し、そのク
ラスやコースが最も受講者にとって最適な学びの場になるようにしなければならないファ
シリテータとしての役割を担っていると考えられる。
成功の鍵⑥
講師はコーチ、ファシリテータとして振舞う。コーチングのトレーニングを受けるべ
きである。また、受講者のバックグラウンド(前提知識)、理解度、気質などを読み取
り、最も効果的な対応を図るように求められる。
E-Learning 実態調査報告書
82
4.5 学習環境の整備
e ラーニング成功のためには、先ず e ラーニングを展開できる環境面での整備が重
要である。
星城大学が一気に学校全体を e ラーニングキャンパスにしたように、ハード、ソ
フト面の環境充実が大切である。
先ず、ネットワークがつながらない、つながりにくいという状況をつくらないよ
うにしなければならない。また、サポートの方も準備して、そのようなクレーム
に対応できる体制を組まなければならない。そうしないと受講者は、サーバに全
くアクセスしないようになる。
成功の鍵⑦
環境面整備にはきちんと注力する。快適につながる、快適に動作することを確認し、
さらに保守サポート体制も準備すること。
4.6 今後の課題
e ラーニング導入がまだ十分とは言い切れず、いろいろな面での検討課題が残っているのも
現実である。たとえば、
(1)
学習効果の測定を更に徹底的に行う必要
個人およびグルーピングの効果検証
学習を終えてしばらく経ってからの評価をフィードバック
(2)
コンテンツ開発に関しての検討が必要
魅力あるコンテンツ/モジュールの開発/アップデートを研究
タイムリーな学習モジュールの改善
E-Learning 実態調査報告書
83
成功の鍵⑧
学習のパフォーマンスをあげるために、何をしなければならないか。これを継続的に検
討していくことが将来にわたって必要。学習効果の測定、コンテンツ開発、修正など。
4.7 リーダーシップ
今回取材した団体に共通するポイントであるが、e ラーニング学習などこれまでと違った新
しい学習方式を推進する時には、非常に抵抗が大きいため強力なリーダーシップが要求さ
れる。
受講者、学生側と学校や企業など、今までの学習方式に何十年も慣れているところは、そ
の古い体質を脱却することができない。
そこでプロジェクトを推進するリーダーには、使命感、情熱、周りを巻き込む強い影響力
や指導力が要求される。星城大学などは、大学の経営危機さえも乗り切るような強大なリ
ーダーシップの元で、見事に e-University への変貌を遂げている。これら 3 つの団体はそ
れぞれ、受講者の好反響などを味方につけて、プロジェクトを推進している。
成功の鍵⑨
強力なリーダーシップにより、情熱をもってプロジェクトを推進すること。短期にい
い結果をもたらすような、しかけを作ること。
本報告書に記載されている訪問団体からのひとつひとつのアドバイスや報告書でまとめら
れている内容が実際の e ラーニング導入現場に対して有効な示唆を与えると確信している。
E-Learning 実態調査報告書
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平成 15 年度
文部科学省委託
専修学校先進的教育研究開発事業
E-Learning 実施調査報告書
平成 16 年 3 月 1 日
発
行
初版第 1 刷発行
「専修学校における E-Learning 推進リーダーの育成」
教育プログラムの開発プロジェクト
「専修学校における E-Learning 推進リーダーの育成」教育プログラムの開発プロジェクト
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