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まえがき 近年パソコンや高速ネットワークの劇的な発達により、誰もが

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まえがき 近年パソコンや高速ネットワークの劇的な発達により、誰もが
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まえがき
近年パソコンや高速ネットワークの劇的な発達により、誰もがテキストだ
けでなく、音声や動画などにたやすくアクセスできる時代が到来した。外国
語教育分野においても、限られた母語話者の発話情報だけが提供されていた
以前とは違い、今はインターネットにアクセスするだけで無料あるいは安値
で種々の言語情報を手に入れることが可能になった。学習者の学習環境を考
えても、教室での授業にとどまらず、手を伸ばせばいくらでも母語話者や母
語話者が作成した外国語教材を手に入れることが可能な状態である。
では、このように学習者が利用する教材や学習環境が変化してきたのに対
し、学校教育は果たしてそれに追いついているのだろうか?
新しいメディアの登場にともなってその学習効果を解明しようとする努力
はなされているものの、技術進歩の速さにより、必要に応じた技術の開発で
はなく開発によって学習の必要性が模索中であるのが現状ではないかと考え
られる。一つの例を挙げるみると、最近 e-learning を取り入れた外国語教育
がいろんな分野で取り入れられている。しかしその実態は、学生はパソコン
に向かい黙々と問題を解き、教師側は学生がどれほど理解しながらやってい
るのかも分からずにただ監督しているという光景も、言い過ぎかもしれない
がまれではないだろう。問題点は e-learning の学習効果がまだ充分に検証さ
れていないことである。
学習者に提供するコンテンツやコンテンツの性質は日々変化を遂げてきた
一方、利用形態をみると、マルチメディア教材の提示や設問に対して学習者
が単なる選択や埋め込みといったインタラクションで答えるという構造はま
だ変わっていない。しかし、実際の人間同士の言語生活をみると、このよう
な一方的な情報提示と意味のないインタラクションの場面はほとんど現れな
い。現実世界をもっとも類似した形で再現しているマルチメディア教材とこ
のインプット方式には大きな隔たりが存在することがわかる。学習者に提示
された情報と学習者からインプットされた情報とのこのような格差を補うた
ii
めには、学習者がインプットする際に単なる回答行為(クリックなど)だけ
ではなく意味のある言語行動(デバイスを媒体とした)を付与しなければな
らないと考えられる。そこで、異なるインタラクションによる学習効果の違
いを調べるため、学習者を①テキストなどマルチメディアを使用しない学習
者群、②マルチメディアを利用するが既存のインタラクション方法を利用す
る学習者群、③インタラクションに意味付けが可能なデバイス(タッチスク
リーン、マルチタッチデバイスなど)を利用した群に分け、学習の観察およ
び学習後の記憶テスト、言語運用テストを行い、マルチメディアの特性とそ
れに対する学習者のインタラクションの関係を明らかにしていかなければな
らない。
本書はマルチメディアを利用して外国語教育についての研究を始めようと
する研究者のためにマルチメディア研究の基本知識を紹介し、マルチメディ
アを外国語教育分野で活用する方法、マルチメディア教材の学習効果につい
ての研究例を紹介することでこれからの研究のガイドとして利用してほしい
と思っている。ただし、マルチメディアはいろんなメディアが複合した性質
をもち、その学習効果の測定にはさまざまな問題が残っているため、本書で
すべてのメディアを網羅することはできないことを断っておきたい。
なお、本書の出版費用の一部は、九州大学大学院言語文化研究院からの補
助を受けている。
2011 年 5 月
李相穆
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第 1 章 序論
1.1 研究の目的
国際化の進展によって多くの日本人が海外で生活し、また多くの外国人が
日本で生活するようになった。このため、外国語学習の必要性が急激に高ま
り、効果の高い学習支援体制の確立が急務となっている。地球規模でのイン
ターネット網の整備とマルチメディア情報の高速な転送が実現している現代
社会の外国語教育は、教科書とテキストベースの授業の体制から大きく変貌
を遂げようとしている。このような状況で、言語の使用のコンテンツとコン
テキストを可能な限り自然なものとして提供するためのマルチメディア教材
の柔軟性を利用した双方向性を持つ外国語教育の重要性は認識されているが、
インターネット環境水準の一様性がまだ確保されていないこと、授業の時間
配分の少なさや、教師の外国語の習得程度、高価な教材などの原因から、学
生が学ぶ教育現場には、上述のような新しい波は、到達するには困難があろ
うと思われるが、このような急速な情報網のグローバリゼーションの進展を
見ると、外国語教育に関しても新たな展開が期待できる時代となっている。
今日の世界がインターネットによってリアルタイムで結ばれるようになり、
場所や時間の制約をうけない学習環境が整いつつある。インターネットは現
在の情報化社会においてもはや日常的なコンピュータネットワークであると
いえよう。インターネットはアクセスできる情報の量と種類が豊富であり、
しかも世界中の情報を検索し入手することが可能となっている。このインター
ネットでの学習環境を応用するのにもっともふさわしいものとして遠隔教育
システムがあるであろう。場所と時間を問わず、サーバへの要求によりオン
デマンドで教育環境を手元のコンピュータに実現することにより、コンピュー
タによる外国語学習のための基盤システムとその上で動作するアプリケー
ション、精選されたコンテンツの製作は、現在の環境で努力することによって、
十分に可能な構想である。
本研究では、インターネットを利用した外国語学習システムの考えには上
述のような背景がある。しかし、ウェブ上での日本語学習は不特定多数の学
習者の自律学習を前提とし、学習効果の測定や教材の適合性にはまだ様々な
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