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Ⅰ.小笠原諸島を世界自然遺産に登録するために

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Ⅰ.小笠原諸島を世界自然遺産に登録するために
Ⅰ.小笠原諸島を世界自然遺産に登録するために
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はじめに
平成 15 年5月、環境省と林野庁が設置した、「世界自然遺産候補地に関する検討
会」は、知床、小笠原諸島、琉球列島の3地域を世界自然遺産の登録基準に合致する可
能性が高い地域として選出しました。小笠原諸島については、多くの固有種・希少種が
生息・生育し、特異な島嶼生態系を形成している点が評価されたものです。しかし、移
入種対策を早急に講じる必要があるほか、最も重要な地区の一部は未だ十分な保護担保
措置がとられていないことから、その解決は喫緊の検討課題であるとされました。
東京都では世界自然遺産への登録の推進に向けて「小笠原諸島における世界自然遺産
登録に関する推進会議およびプロジェクトチーム(PT)」を平成 15 年 10 月に設置し
ました。PTでは、移入防止しくみづくり分科会、移入動物対策分科会、移入植物対策
分科会、保護担保措置分科会、環境配慮指針分科会の5分科会に分かれて解決すべき課
題等の検討を進め、その結果を推進会議に報告しました。この報告書は、その内容を取
りまとめたものです。
なお、国は平成16年 1 月、知床を日本で3番目の世界自然遺産地域として登録推
薦をしました。
また、この報告書をとりまとめるにあたり、多方面の方々より貴重なご意見や資料
のご提供を賜りました。この場をお借りして、お礼申し上げます。
1-2
小笠原諸島における自然の現状と対策
(1)小笠原諸島の生物相の特徴
小笠原諸島は東京の約 1000 ㎞南方に位置する亜熱帯の海洋島です。小笠原諸島の成
立は 6000 万年前といわれていますが、島として生物が住みつくようになってからは
500 万年くらいとされています。生物の種類数は多くありませんが、隔離により独自の
進化が進み、固有種の割合が高いのが特徴です。植物の固有種率は 36.9%、繁殖鳥類
の固有種率は 39%、昆虫の固有種率は 31.0%にのぼります。
(2)人為による自然の攪乱による生態系の変貌、固有種の絶滅
小笠原への人の移住は 1830 年代に始まり、明治時代の開拓、返還後の復興事業など
を経てきました。小笠原のような海洋島は、移入種の侵入に対して大きな影響を受けや
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すい特徴をもっています。たとえば、開拓による農地化や植林、オガサワラグワなどの
伐採、ヤギ・ブタ・ウシなど家畜の放牧など様々な人為に伴い、固有の生態系の攪乱が
行われてきました。その中で、固有鳥類や固有植物が絶滅したり、絶滅に瀕する生物も
多くなっています。
(3)希少動植物の保護事業、植生回復事業
小笠原諸島におけるこのような状況を踏まえ、東京都では、昭和 61 年度よりムニン
ツツジ、ムニンノボタンなどの絶滅危惧植物の保護増殖事業、平成 12 年度よりアカガ
シラカラスバトの保護増殖事業、平成6年度より聟島列島を中心としたヤギの排除と植
生回復事業などを行ってきました。
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小笠原諸島の生態系・固有生物保護のための移入種対策
(1)国の移入種対策について
環境省は、平成 14 年 8 月に、移入種に関する問題の現状整理と対応の基本的方向を
「移入種(外来種)への対応方針について」(野生生物保護対策検討会移入種問題分科
会)としてまとめました。さらに平成 15 年 12 月には、「移入種対策に関する措置の在
り方について」(中央環境審議会野生生物部会移入種対策小委員会)が中央環境審議会
から答申されました。「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律
案」は平成 16 年 3 月 9 日に閣議決定され、平成 16 年 6 月 2 日に法律として公布されま
した。施行される一年以内に、特定外来生物被害防止基本方針の策定や特定外来生物等
の指定リストの作成がなされることとなっています。(図Ⅰ−1)
(2)小笠原諸島の移入種対策の進め方
国が検討している対策は国外からの悪影響のある外来種の導入、定着の予防に力点が
置かれています。また、既に野外に定着し問題を生じている外来種については計画的に
防除実施できる仕組みを考えています。小笠原諸島においては、その地理的・生態的な
特殊性を考慮する必要があるため、東京都がさらに厳密な移入種の予防策と駆除策を検
討することとしました。その上で、国や村、NPO など関係機関と役割分担を図り、連携
していく必要があります。
Ⅰ-2
(3)移入種のカテゴリー分けについて
国の移入種のカテゴリー(案)(平成 14 年8月)は国外から国内への移入を前提と
していることから、これを参考として小笠原版の移入種のカテゴリー(案)を作成しま
した。(図Ⅰ−2)
(図Ⅰ−1)特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律の概要
Ⅰ-3
(図Ⅰ―2)小笠原諸島における移入種のカテゴリー(案)
小笠原諸島にいる生物種
Ⅱ移入種
(定着)
Ⅲ移入種
(未定着)
Ⅰ在来種
侵略種
侵略種
小笠原に未導入の生物種
Ⅳ未導入種
侵略種
カテゴリー
Ⅰ
Ⅱ
在来種
移入種(定着)
Ⅱ−侵
Ⅲ
侵略種
移入種(未定着)
Ⅲ−侵
Ⅳ
侵略種
未導入種
Ⅳ−侵
侵略種
小笠原の在来種(固有種や他地域にも分布する自生種)
小笠原に定着している移入種(侵略種を除く)
小笠原に定着しており、小笠原で生物多様性への影響等が
報告されている、あるいは懸念される移入種
小笠原に導入されているが、定着していない移入種(侵略
種を除く)
小笠原に導入されているが定着はしていない移入種で、生
物多様性への影響等が報告されている、あるいは懸念され
る移入種
小笠原にはまだ入っていない全ての種(侵略種を除く)
小笠原以外で生物多様性への影響等が顕著に確認されてい
て、小笠原での利用によって影響が生じる恐れの高い種及
び種群
注) 定着:移入種が新しい生息地で継続的に生存可能な子孫を作ることに成功していること
注) 侵略種(侵略的移入種):移入種のうち、導入又は拡散した場合に生物多様性を脅かす種
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