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連帳型インクジェットの競演

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連帳型インクジェットの競演
第 2 号 2011 年 9 月 20 日発行
連帳型インクジェット印刷機の競演
連帳型インクジェットの競演
連帳型インクジェット印刷機にフォーカスしてみると、
その歴史は以外と古い。プロダクション向けのインクジ
ェット印刷機は、コンティニュアス方式からスタートして
用紙を利用した通知、広告宣伝、販売促進などに対す
るニーズは未だ大きくあり、インクジェットの高い柔軟性
をもとに新たな可能性が探られている状況である。
富士ゼロックス 2800 Inkjet Color Continuous Feed
Printing System(2800ICCF)
利用した利用明細書などモノクロ中心の通知物の印字
富士フイルムブースで展示され、富士ゼロックス初の
から始まった。しかしながら、モノクロ印字とは言え、大
インクジェット方式が採用されたデジタル印刷機である。
量に可変印字を行うためには無版印刷技術が不可欠で
富士フイルムの i-Vision Wing コンセプトの片翼を担う、
あり、インクジェット技術は必要不可欠なものであった。
データプリント分野に位置付けられている。連続紙を利
その後、家庭用インクジェットプリンタで利用されてき
用した高速出力を可能とし、用紙搬送速度は毎分 200m、
たドロップオンデマンドインクジェット技術をプロダクショ
出力解像度 600×600dpi、水性顔料インクを利用したフ
ン向けに利用する開発が行われ始める。ピエゾ型、サ
ルカラー両面印刷が可能である。利用可能な用紙幅は
ーマル型の2 つの技術により、インクジェットヘッドのラ
6~20.5 インチであり、A4 サイズを二面付けした場合に
イン化、高速、高品質印刷を目指した開発により、2008
両面換算で毎分最大 2,624 ページの出力速度を誇る。
年の drupa にて大日本スクリーン製造の Truepress Jet など
現時点での 600dpi 出力では世界最高水準の出力速度と
数機種の連帳型インクジェット印刷機が出展された。当
なっている。
時の実機デモンストレーションでは、これまでモノクロ印
これまでのデータプリント向けの高速インクジェットプ
字であった通知物関係の印刷物をフルカラー化し、これ
リンタは、両面印刷を行うためには 2 台のプリンタをタン
以外にも新聞印刷などが行われ、大きな期待が寄せら
デム形式で接続することが必要であり、広い設置面積が
れた。特に通知物の印刷においては、フルカラー化と
求められてきた。これに対し本システムは 1 筐体で両面
合わせて、マーケティングの要素を取り込んだ広告の挿
印刷が可能となる構成を採用しており、クラス最小の設
入を行う TransPromo(トランスプロモ)という用語が生ま
置スペースを実現している。また、同一システムで、投
れるなど、市場の大きな変化を予測させた。
資を抑えた毎分 100m モデルを準備、業務拡大に合わせ
ビジネスフォーム印刷市場におけるフルカラー印刷に
て 200 メートルモデルへのアップグレードが可能となっ
関しては、金融関係企業、保険関係企業などが注目し、
ている。本機であるが、その筐体の形状や特徴を見れ
様々な取り組みが行われた。こうしたトランスプロモの流
ば明らかであるが、本機はミヤコシの MJP シリーズの
れは、印刷コストに対して生み出される広告効果に限界
OEM である。また、高い品質を実現するため、写真画
があるという見方と、紙から電子化(Web 通知・Web 閲
像のリアル感、文字の鮮明さを追求した色調整機能を搭
覧など)への動きの中で、現在では一段落したという印
載する。
新開発のプリントコントローラは、同社独自の高速 RIP
また、機器開発の側面から見てみると、インクジェット
処理用アクセラレータを新開発して搭載する。出力速度
技術を利用するかどうかは別として、連帳型の印刷機に
を最大限に活かした高速データ処理を実現し、RIP 処理
は高速用紙搬送という大きな課題がある。インクジェッ
を開始すると同時に出力をスタートできる On-the-fly プリ
トヘッドに接触させないよう、高速に用紙を搬送する技
ントが可能となっている。サポートされるデータ形式は、
術は非常に難しい。そのため、搬送系の設計開発が可
PDF、PostScript などのオープン系データから、基幹系デ
能なメーカーを中心に印刷機が拡大している様子も伺
ータまでと幅広く、印刷市場からデータプリントまで柔軟
える。IGAS2011 で競演した連帳インクジェット印刷機を
に対応する。
見ていきたい。
なお、米国ゼロックスも IPEX2010 にて連帳型インクジ
ェット印刷機を発表し注目を集めている。こちらは
■ビジネスフォームから商業印刷まで高速・高品質なフ
drupa2008 で参考出展された米国ゼロックス製のプリント
ルカラー印刷を実現するモデル
ヘッドを利用し、
インクジェット印刷機は、drupa2008 の後、その品質、
キヤノンブースでは 2010 年に買収したオランダのオセ
の連帳型インクジェット印刷機 Oce ColorStream3500 が出
展された。同機は、トランザクション、トランスプロモ、
おり、コダック Versamark(当時は Scitex VersaMark)を
象がある。
キヤノン Oce ColorStream3500
インクを利用
てきた。これにより、当初ビジネスフォーム印刷市場向
する。そのため、
けとして位置付けられてきた印刷機は、そのターゲット
今回の出展さ
市場をダイレクトメール、チラシなど商業印刷市場へと
れた 2800ICCF
拡大し、バリアブル(可変情報)印刷という従来からも
とは全く異な
つデジタル印刷固有機能の利用と合わせて新たな市場
る機種となっ
拡大を進めている。Web 化の流れとは競合するものの、
ている。
Copyright © 2011 Yasuo Miyamoto / Value Machine International Inc., All Rights Reserved.
に対応したインクジェット印刷システムである。毎分 75m
の印刷速度と 21.25 インチ(約 540mm)の印刷幅を誇る。
シングルユニットとして、A4 換算で毎分 505 ページの出
力が可能なほか、2 台目を追加してツイン構成とするこ
とで、2 倍の生産性を実現する。ツイン構成にはいつで
もアップグレードが可能なほか、従来の直列構成に加え、
L 型、H 型の構成にすることが可能である。L 型、H 型
に構成することで、片面システムとしても両面システムと
しても使用することができ、投資対効果の高いシステム
構成を実現している。オセはミヤコシの MJP シリーズを
JetPress ブランド
で OEM 販売し
ているが、本機
はオセ独自の
開発によるもの
である。出展で
は 2 基のプリン
トエンジンを L
型に連結したモ
L 型連結の Oce ColroStream3500
デルとして紹介された。
品質面では、オセ社独自の DigiDot テクノロジーを採
用している。物理解像度は 600dpi ながら、マルチレベ
ルでのドット・モジュレーションを搭載し、高品質な印刷
品質を実現する。インクのドロップサイズおよびマルチレ
ベル・ドット・モジュレーションを変化することにより、
見事な画像品質と滑らかな階調を表現可能である。同
機では、トップレベルの寿命を誇る印字ヘッドとともに、
印刷・クリーニング・メンテナンスを極めて容易かつス
ムーズに行えるよう設計されており、1 ヶ月で 400 万~
2,400 万枚のフルカラーイメージの生産を容易に可能と
し、ピーク時には印刷量を 3,000 万イメージまで増やす
ことが可能である。
また、第三世代型 Oce SRA MP コントローラーにより、
業界標準のワークフローと確実に組み合わせることが
可能である。厳しい内容の注文に応えるための連続デ
ータプロセッシングや高速フルカラー印刷のデータ速
度を簡単かつスムーズに実行することができる。25 年以
樹脂ベースの
速度を年々向上させ、利用可能な印刷媒体を増加させ
ダイレクトメール、書籍、マニュアルなど、多様な用途
上にわたる高速 AFP/IPDS コントローラー開発の経験
を生かして開発された最新型のコントローラーは、AFP
カラーテクノロジーの最新の進歩だけなく、組み込まれ
ている Adobe PDF Print
Engine2.5 を使用した PDF 印刷
にも対応している。こうした周辺ワークフローシステムの
整備により、印刷業からデータセンターまで幅広い市場
出展された 2800ICCF
とユーザに受け入れられるシステム構成となっている。
T350 である。
ミヤコシ MJP20E
大日本スクリーン製造
Truepress Jet520EX モノクロ
IGAS にて初出展となったフルカラーインクジェットの
最新機であり最大印刷サイズを誇るモデルである
MJP20E は、同社のインクジェットプリンティングシステム
T400 は、用紙幅 42 インチ(有効印刷幅 1,060.4mm)を
同機は、全世界で 300 台以上の出荷実績を誇り、フ
である MJP シリーズのラインアップにおけるエントリーモ
もつ最大の連帳タイプのインクジェット印刷機である。搬
ルカラーの連帳型インクジェット印刷機では最大シェア
デルの位置付けとなっている。
送速度は毎分 600 フィート(183m)であり、5,236ppm の
を持つ同社の Truepress Jet520 シリーズにおいて、モノク
印刷速度をもつ。本シリーズのインクジェット印刷機は
ロ専用機として構成されたモデルである。品質、安定性
Pitney Bowes でも OEM 販売される。
などはフルカラーモデルで確立されたものを踏襲する。
最も高速なハイエンドモデルには MJP20F がある。ピ
エゾドロップオンデマンド方式を採用した印刷システム
であり、最大 543mm 幅の用紙に対し、水性顔料もしく
タイプ
出展機はシングルエンジン構成のモデルである。最大
は水性染料インクを利用して最大 1,200×1,200dpi の解像
■出版・新聞印刷など新市場を目指したフルカラー・
520mm 幅での片面印刷もしくは、同社独自の SED(Single
度と、最大毎分 330m の印字速度を有する。また、解像
モノクロ印刷モデル
Engine Duplex)方式により最大 250mm までの用紙幅に両
度と印刷速度には5 つの異なるモードをもち、最大解像
連帳型インクジェットも、様々な分野や市場を目指し
度 1,200×1,200dpi では毎分 50m での印刷を、また 600×
たアプローチが数多く行われている。drupa2008 の当初
帳票、小ロット
360dpi で最高速の 330m での印刷を実現する。1 つのプ
から想定されていた新聞印刷分野では、小ロット、低コ
の書籍の制作
リントタワー内に 2 基のプリントモジュールを搭載し、独
ストでの印刷可能性が追求され、タブロイド判や国内新
など、モノクロ
自の用紙搬送を採用することで、ワンパスで両面印刷を
聞サイズに対応できる新聞印刷用フルカラーインクジェ
タイプに特化し
行うことができる。設置スペースの問題を解消し、オペ
ット印刷機が今回登場した。小ロットという観点を含め、
た様々なアプリ
レータ負担も軽減する。また本機のプリントヘッドモジュ
個別内容印刷、地域情報印刷などの高付加価値化、さ
ケーションに対
ールは 5 色構造となっており、プロセスカラーの 4 色イ
らには現地印刷などの利便性追求などを訴求しながら
応することが可
ンクに加え、特色もしくはアンカー剤、MICR インクなど
市場参入が進むものと見ることができる。
能である。
を搭載することができる。これにより、印字面での付加
また、出版市場も同様である。すでに米国のペーパ
価値ばかりでなく、多様な印刷媒体への対応が可能と
ーバック書籍などは、一部インクジェットによる生産が行
なる。
われており、最適部数の印刷、在庫最小化などを目的
今回出展された MJP20E は、標準速度毎分 100m で、
面印刷が可能となっている。バリアブル印刷を駆使した
出展された Truepress JetEX モノクロタイプ
Kodak Prosper 1000 Press
とした流れは、出版社を中心に視野に入っているものと
drupa2008 で発表された Kodak Stream インクジェットテ
ローボリュームデマンドに対応する。MJP20F 同様にオリ
思われる。この分野は、電子書籍という新たな流れに
クノロジーを搭載したモノクロ連帳インクジェット プリ
ジナルの紙通しを採用することで全幅(A3)表裏印刷を
注目が集まっているが、小ロットあるいはデマンドに応じ
ンティングシステムであり、IGAS2011 において国内初登
1 タワーで実現できる。印刷色数は表裏 1 色~6 色両面
て出版するというスタイルは、出版業界における次のス
場となった。本機も第 1 号で紹介済みではあるが、出
印刷までに対
テップとして期待が持てる市場であると考えられる。
版関係というカテゴリでは
応し、ニーズに
コンティニュアスインクジェット技術の開発で 40 年以
合わせた色数
東京機械製作所 TKS JETLEADER 1500
上の実績を持つコダックの技術とノウハウの粋を結集し
で使用可能な
本機は東京機械製作所が 100 年以上にわたって培っ
て開発された画期的な Stream インクジェットテクノロジ
構成となって
た輪転印刷機製造技術を利用し開発された新聞印刷向
ーを搭載する。 オフセットクラスの出力品質と高速印刷
いる。最高解
けインクジェット印刷機である。インクジェット印刷部の
を低コストで実現するとともに、中ロット、大ロットの印
像 度 は 600 ×
みならず、後加工ユニットまでを自社製で構成できるこ
刷を高速に低コストで実現することが可能である。
600dpi、最高速
とも大きな特徴である。単に連帳型インクジェット印刷機
対応用紙は 45~175gsm の塗工紙、微塗工紙、上質
を新聞印刷用途にも利用するというアプローチとは大き
紙、各種インクジェット用紙など幅広い。最大印字幅は
く異なり、新聞印刷のためのインクジェット印刷機である。
622.3mm、色の鮮明度と耐久性に優れた水性顔料インク
2009 年の JANPS(新聞製作技術展)に参考出展された
を採用し、最大毎分 200m の印刷速度を誇る。
度は毎分 175m
出展された MJP20E
である。
HP Color Inkjet Web Press シリーズ
かわら版第 1 号でもお伝えしたが、フルカラー機では
モデルに改良を加え、本年 4 月に発表が行われた。
記者会見では、A5 サイズ 112 ページの冊子を 2,000
水性顔料インキを利用したドロップオンデマンドインク
冊生産する実例が発表され、1 冊あたり 8.85 円、生産
ジェット方式を採用し、解像度 600×600dpi、用紙搬送速
時間(後加工を除く)はわずか 59 分であった。コダッ
ヒューレット・パッカードは、フルカラー輪転タイプの
度は毎分最高 1500m の速度を誇る。輪転機製造で培っ
クでは従来の輪転印刷機とのコスト比較についても分
インクジェットプレスとして、HP Color Inkjet Web Press シリ
たシャフトレスモーターの採用により、給紙から後加工装
析を進めていることから、実例で示された A5、2,000 冊
ーズを発表しており、9 月 16 日に国内販売することを発
置までの安定用紙走行を実現している。対応用紙厚は
程度というボリュームであってもインクジェットに優位性
表した。同機は 2008 年の drupa において参考出展され
46~81.4gsm、幅 210~546mm の用紙を利用することが可
があるというこ
た高速連帳タイプのインクジェットプレスである。同社の
能となっており、ブランケット判やタブロイド判など様々
とではなかろう
SPT(Scaleable Print Technology)により、インクジェット
なサイズの新聞印刷に利用できる。国内新聞サイズ(546
か。出版市場も
ヘッドをライン状に接続することで、ワイド幅の連帳印刷
×406.5mm)に換算すると、8 ページで毎時 5,535 部、
小ロット化の波
を可能とする。シリーズには印刷速度、用紙幅により 4
40 ページでは 1,107 部を印刷可能である。
の中にあり、ビ
大きな話題であるため、再度掲載したい。
つのモデルがある。用紙幅 20.5 インチ(520.7mm)、毎
基本構成は給紙部、印刷部、紙面監視部、折り部、
ジネスのチャン
分最大 61m のフルカラー印刷もしくは毎分最大 122mの
セクション集積部、チョッパー部から成っている。オプシ
スは広がって
モノクロ印刷が可能である T200、用紙幅 30 インチ、1,200
ョンで巻取紙自
いるものと思わ
× 600dpi で 毎
動紙継ぎ、自動
れる。
分最大 122m で
紙通し機構、紙
フルカラー印
面監視装置を
本号では drupa2008 からの一つの流れとして連帳型イン
刷が可能な
装備することが
クジェットを取り上げてみた。この 3 年で多くのメーカー
T300、用紙 幅
でき、シート出
の参入と多様な市場への提案が行われていることが見
30 インチで毎
しも可能となっ
て取れる。次号では、インクジェット技術の産業用途や
分最大 183m で
ている。
特殊印刷へのアプローチについてまとめてみたい。
会場ではパネルとビデオで紹介された
フルカラー印
刷が可能な
出展された Kodak Prosper 1000 Press
出展された印刷サンプル
Copyright © 2011 Yasuo Miyamoto / Value Machine International Inc., All Rights Reserved.
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第2号
了
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