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発達障害を抱える子どもたちとの向き合い方
発達障害を抱える子どもたちとの向き合い方 ―『ニトロちゃん みんなと違う、発達障害の私』を取り上げて― 進 藤 愛 香 1、1 問題設定 平成 17 年 4 月 1 日に発達障害者支援法が施行された。この中で発達障害について 次のように定義されている。 「この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他 の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳 機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政 令で定めるものをいう。この法律において「発達障害者」とは、発達障害 を有するために日常生活又は社会生活に制限を受ける者をいい、「発達障害 児」とは、発達障害者のうち十八歳未満のものをいう。」(第2条) この条文にあるように発達障害者は日常生活や社会生活のなかで制限を受けてい る。それらの発達障害への受け入れ様が変われば、その制限も軽減されるのではない だろうか。 発達障害という言葉が注目されるようになったのは、ここ数年の間のことである。 書籍などは主に 2004 年以降に出版されたものが多い。その後、前述の通り平成 17 年 4 月 1 日に発達障害者支援法が施行された。発達障害という言葉は最近になって テレビや新聞で目にするようになった。そこでは、発達障害とは何か、発達障害を抱 えている人がどんなことで困っているのかなどが伝えられている。しかし、子育てを している人や教育の関係者でない人には、発達障害という言葉は知っていても、それ が何なのか知っている人は実は少ないのではないかと思われる。 発達障害について知識がない人間の目には、発達障害を抱える人は怠けている、躾 がなっていない、変わっているというふうに映る。発達障害を抱える子どもの親でさ えわが子の障害が理解できず、わがままな子と考えてしまうこともある。発達障害は 脳機能の障害である。決して、本人が怠けようとしたりしているのでなければ、親の 躾のせいでもない。本人自身、周りのペースについていけなかったり、人とうまく付 -(43)- 発達障害を抱える子どもたちとの向き合い方 ―『ニトロちゃん みんなと違う、発達障害の私』を取り上げて― き合えなかったりと大きな悩みを抱えていることも少なくない。しかし、知識のない 人間にはそれがそうとは見えない。 2002 年、帝京大学の大南英明氏を中心に「通常学級に在籍する特別な教育支援 を必要とする児童生徒に関する全国調査」が行われた。これは、全国5地域の公立 小学校(1 ~ 6 年)及び公立中学校(1 ~ 3 年)の通常の学級に 在籍する児童生徒 41,579 人を対象として、学級担任と教務主任等の複数の教員に行った。ここでは、 全体の 6.3%の児童生徒が学習面か行動に著しい困難を示していることが分かっ た。1 クラス 40 人の学級だとすれば、そのクラスの 2 ~ 3 人が特別な教育的支援が 必要だということになる。しかし、教員が発達障害について理解していなければ、そ のような子どもたちを見て、自らの自尊心を傷つけられたと感じてしまうのではない か。そして、その子どもたちを怒り、なんとか努力、改善させようとするのではない だろうか。しかし、その行為が子どもたちにとってマイナスになることは言うまでも ない。子どもに合わない対応をすることで子どもたちの自尊心も傷つけられ、いつま でも苦しい生活をしなければならない。さらに、保護者との関係でも問題が生じる。 わが子の発達障害について理解ある保護者はもちろんわが子に合った対応を望む。し かし、それが理解できていない教員には、その保護者をわがままな親やモンスターペ アレントなどと考えてしまうという誤解も生じかねない。子どもたちだけでなく、保 護者も辛い思いをしなければならない。また、それを理解できていない教員は自分自 身も辛い思いをしなければならない場合も考えられる。それは自分の指導力不足では ないだろうかと自分を責めたり、大変なクラスを受け持つことになってしまったと嘆 いたりするということだ。発達障害を知らないということは、発達障害を抱えている 本人だけでなく、その保護者、教員も辛い思いをしなければならなくなってしまう。 しかし、障害を知ることで、環境が変わり、周囲の対応が変わることで、障害は障 害でなくなる。つまり、障害と認識することで、適切な治療や教育を受けることがで き、発達障害を抱えていても生き辛さを感じにくくなるということだ。学校教育の中 で発達障害を扱うことの意義はそこにあると考える。 1、2 発達障害とは アスペルガー症候群、ADHD( 注意欠陥多動性障害 )、LD( 学習障害 ) について、文 部科学省は定義は以下の通り定義している。 < 1 > アスペルガー症候群とは アスペルガー症候群とは、知的発達の遅れを伴わず、かつ、自閉症の特徴のうち 言葉の発達の遅れを伴わないものである。(以下は自閉症の定義) 自閉症とは、3 歳位までに現れ、他人との社会的関係の形成の困難さ、言葉の発 -(44)- 達の遅れ、興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害 であり、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。 < 2 > ADHD(注意欠陥多動性障害)とは ADHD とは、年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力、及び/又は衝動性、多動 性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすもので ある。 また、7 歳以前に現れ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機 能不全があると推定される。 < 3 > LD(学習障害)とは 学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、 書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を 示す様々な状態を指すものである。 学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定され るが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が 直接の原因となるものではない。 2、 『ニトロちゃん』に見られる発達障害 2、1 『ニトロちゃん みんなと違う、発達障害の私』について 今回は、『ニトロちゃん みんなと違う、発達障害の私』を分析対象とする。この 本の主人公である「寺田ニトロ」は LD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、 アスペルガー症候群などの発達障害を抱えている。 この本は、 作者沖田×華(おきたばっか)の体験を基に書き下ろされたマンガである。 主な作品舞台が「学校」であることから、発達障害者が抱える「人と関わる障害」が焦 点化されている。この物語は大人になった現在の作者(この作品を描いていた時点の作 者)が、大人になって獲得した発達障害への知見というフィルターを通して自らの過去 を振り返り物語として再構成したものである。 「寺田ニトロ」も作者自身の過去の姿で あると見えるが、それは物語と同じく、作者が大人になって自らの中で再構成した存在 である。そのことは、作者自身も自覚しているため、その主人公に本名でもなければ ペンネームの「沖田×華」でもない「寺田ニトロ」という全く別の名前を付けたと考 えられる。 「ニトロ」 という名付けは、 ニトログリセリンの一般的な爆薬のイメージから、 周囲から問題児扱いされてきたことを表現しているのかもしれない。作品内でも「私」 や「自分」ではなく、 「ニトロちゃん」と三人称で語りを進めている。このことから、 「寺 田ニトロ」とは、 過去の作者とも現在の作者とも異なる存在であるということが分かる。 -(45)- 発達障害を抱える子どもたちとの向き合い方 ―『ニトロちゃん みんなと違う、発達障害の私』を取り上げて― また、作品内で描かれていることのもとになる出来事は作者の過去のなかでも注目 され、選びとられたものである。同じようなことが何度も起こっていたとしても、作 品内ではそのようなことは整理されていると考えられる。それは作者が自らの過去を 作品として構成し直しているからであろう。 発達障害を抱える子どもたちは、今抱えている悩みや困っているということを伝え ることができない。しかし、この作品は発達障害を抱えている作者本人が、子どもの 頃に抱えていた悩みなどをマンガという形で表現する方法を手に入れ、作者の過去の 積み重ねた事柄を表象したものである。この作品はありのままの真実ではない。しか し、発達障害を抱える本人が描いた表象だからこそ感じられるリアリティーがある。 加工、再構成がされるということは保護者や教員の手記や記録にも言えることであっ て、そこには本人が描くものとは違ったリアリティーが存在する。まず発達障害を抱 える子ども自身に焦点を当てるためにこの作品を分析対象とする。 また、この本が事実やデータの列挙ではなく、過去の表象であることから、その表 象から描かれた出来事の意味を分析するということは日本文学科ならではの作業であ ると考える。 2、2 「ニトロちゃん」の分析 「ニトロちゃん」には人とうまくコミュニケーションをとることに関する障害が多 く見られる。この作品舞台が主に学校であるため、人との関わりあいは必須である。 このことから人と関わる問題に焦点が当てられているのではないかと考える。具体的 な例を挙げると、自分のこだわりに友人をむりやり付き合わせて友人を怒らせたり、 人からの言葉を字義通り受け取り会話が成立しなかったり、友人に一方的に話しかけ て相手の話をまったく聞かなかったりすることなどである。 ここでは、「ニトロちゃん」がどのような障害を抱えているのか、どのような制限 を受けているのかなどを分析しながら、周囲の対応についての考察を進めていく。こ の作品中で読み取れる発達障害の事例は 49 例あったが、今回はその中でも特徴的な 例を挙げて紹介する。 エピソード番号1(幼児期) 本文 生まれた時のニトロちゃんは、4000 グラムの元気な女の子。 母「安産でよかったわー。」 女の人「抱かせて、抱かせてー。」 (女の人がニトロちゃんを抱くと、ニトロちゃんが泣き出してしまう) 女の人「あらら。よく泣くねー。」 -(46)- 母「抱っこ好きじゃないみたい。」 (場面は家に移る) 母「あっ!? もう一人でトイレしてるー!!」 (ニトロちゃんが一人でおまるに座っている) 人に触られるのは嫌いだけど、他の子よりも成長が早いくらいニトロちゃんは良い子。 事例の分析と対応についての考察 障害を知らなければ、変わっている赤ちゃんと思われがちである。しかし、これは 触れられることに敏感であるというアスペルガー症候群の特性だと考えられる。嫌 がるときには無理に抱かず、どのような抱き方なら嫌がらないか観察しながら、人 に触れられることに慣れさせる。 エピソード番号5(小学校1年生) 本文 先生「お道具箱配りまーす。 」 ニトロ「わーカワイイー。これ私のー?」 先生「ニトロちゃんのお道具箱よ。 」 と聞いてニトロちゃんは家に持ち帰ってしまいました。 (本当は学校に置いておくもの) しばらくして 先生「またお道具箱忘れたの?」 ニトロ「はい。 」 先生「あれは学校で使うものなの!! なくしたの?」 ニトロ「全部あるけどもったいないから家用にしました。遊ぶために使ってます。 」 先生「あれは学校用なのっ、持ってきなさい!!」 ニトロ「でも私のものでしょ? 別のお道具箱買ってきます。 」 ニトロちゃん、入学して 1 週間で担任を困らせる。 事例の分析と対応についての考察 障害を知らなければ、わがままな子、おかしな子と思われてしまいそうである。し かし、これは、お道具箱は学校で使うものという暗黙(当たり前)のルールが理解 できないというアスペルガー症候群の特性である。ここでは、「夏休みまでは学校 で使って、夏休みはお家で遊ぶのはどうかな?」「お家に持って帰っても良いけど、 学校で使う時には持ってきてね。」など具体的に提案し、ニトロちゃん本人を納得 させるという工夫が必要である。しかし、それでも納得できないようであれば、ニ トロちゃんが言うように新しいものを買わなければならないのかもしれない。新規 に買うのではなく、卒業生などから貰うという方法もあるかもしれないが、こういっ たことは保護者と相談しなければならない。また、ここで教員は感情的になってし まっているが、必要以上に感情的になったり困惑したりする必要はないと考える。 「これは障害なのだ。」と理解し、冷静に対処することが求められる。 -(47)- 発達障害を抱える子どもたちとの向き合い方 ―『ニトロちゃん みんなと違う、発達障害の私』を取り上げて― エピソード番号6(小学校1~2年生) 本文 今日も学校。毎朝公園に集まって集団登校で行きます。 女の子「ねー班長ー、ニトロちゃんが来ませーん。 」 班長「もー!!早くこっち来てー。 」 ニトロちゃんは必ず道路にある石を踏んで歩きます。 なぜならそれが「ニトロちゃんのルール」だから。 そして学校の前にある文房具店に入り、店にある「匂い消しゴム」を全種類嗅いでか ら登校します。 こうしないと気持ちよく学校に行けないのです。 事例の分析と対応についての考察 障害を知らなければ、集団行動のできない自分勝手な子と思われがちである。この 場合の「ニトロちゃんのルール」とは、こだわりであり、アスペルガー症候群の最 もよく知られている特性の一つであると言える。こだわりは極力尊重してあげたい が、この事例のようにほかの子どもたちに迷惑がかかってしまっている場合にはこ だわりも徐々にコントロールしていく必要がある。具体的な行動の言葉で、登校時 にはどのように振る舞うべきかを示す。ほかの子どもがいないときにこだわりをコ ントロールすることに慣れるための訓練をしていくという方法も考えられる。 エピソード番号14(小学校1~2年生) 本文 母「これは?」 (母がニトロちゃんに漢字が書いてある紙を見せる) ニトロ「しょうゆ。 」 漢字は読めるのです。 ニトロ「駱駝、檸檬。 」 どんな難しい字でも。 母「じゃあひらかなで「れもん」って書いて。 」 (ニトロちゃんは「ねもん」と書く) 母「「れ」と「ね」は違うってさっきも言ったでしょ!! お母さんが書くから見てて。 これと同じ字を書きなさい。」 ニトロ「えーと…」 母「マスの中にちゃんと書くのよ。そうそう書いていってー。」 ニトロ「え~とえ~と。」(字を書く手が止まる) 母「横に書いてあるのを写せばいいだけでしょっ!!」 事例の分析と対応についての考察 漢字は読めるけれど、字を書くことになれば、ひらがなを書くことさえ難しい。 -(48)- 障害を知らなければ、不器用な子、努力の足りない子と思われがちである。しかし、 これは視知覚機能が未熟で目で見たことをうまく手を動かして表すことが苦手とい う、LD の特性の一つであると考えられる。字を書くときは大きなマスに書いたりす る。また、視知覚機能のトレーニングのために、身体を使って字を書く(腕を大き く動かし、空に字を書く)練習方法もある。 エピソード番号21(小学校3年生) 本文 ニトロちゃんは S ちゃんたちのことを「たまに遊んでくれる友達」だと思っています。 公園に誘われた時は S ちゃん「じゃあいくよー。 」 ニトロ「うん。 」 S ちゃん「ガマンごっこスタート!いーち、にー。 」 (ニトロちゃんを遊具に乗せてすごいスピードでその遊具を回す) S ちゃん「次はロボットごっこしよーよ。 」 ニトロ「うん。 」 (S ちゃんがニトロちゃんの頭をたたく) ニトロ「いてっ。 」 S ちゃん「だめじゃんロボットだから痛くないでしょ。 」 ニトロ「あ、そっか。 」 S ちゃん「それいーち、にー。 」 (さらにニトロちゃんの頭をたたく) ニトロ「痛ーい~。 」 本当は「ニトロをたまにいじめる友達」だったのだが本人は分かっていません。 事例の分析と対応についての考察 ニトロちゃんは友達がいない寂しさから、Sちゃんたちのような友達でも嬉しいと 思ってしまっているのではないかと考えられる。教員は、日常的ないじめを見逃さ ないように生徒たちを見ておかなければならない。周囲の子どもたちにも発達障害 を理解してもらい、ニトロちゃんにとって過ごしやすい集団を作る必要がある。そ して、ニトロちゃんには「嫌なことは嫌だと言っても良いんだよ。」「辛いことは我 慢しなくても良いんだよ。」と伝える。また、ここではニトロちゃんがいじめられ ていることを理解していないことも問題であるので、「嫌なことを強要するのは友 達ではないんだよ。」「嫌なことを我慢してまで友達でいる必要はないんだよ。」と 友達について考えさせることも必要である。 -(49)- 発達障害を抱える子どもたちとの向き合い方 ―『ニトロちゃん みんなと違う、発達障害の私』を取り上げて― エピソード番号25(小学校5~6年生) 本文 (席に着いたままゆらゆら体を揺らす) 先生「何だ?トイレか?」 ニトロ「……」 ニトロ (( いいえ癖なんですー。)) 「しゃべらなくても他の人には通じている」ニトロちゃんはそう思い込んでいました が、もちろんそんなはずはありません。 先生「寺田っ!! 何で無視してるんだ!?」 ニトロ (( えっ?なんで急に怒るの? )) 先生「ふざけてんのか!! え?」 男の先生にどなられたことがないのでびっくりして思考回路が止まる。 ニトロ「……」 先生「あーもういい!!」 事例の分析と対応についての考察 障害を知らなければ、落ち着きのない子、きちんと返事のできない子と思われがち である。しかし、体を揺らすという部分には ADHD の特性の一つが出ていると考え られる。また、それ以下の部分は、言葉にしなくては人には自分の気持ちは伝わら ないということが理解できていない、つまり、社会的(暗黙)のルールが分からない、 というアスペルガー症候群の特性だと考えられる。ここで、教員はいきなり怒鳴っ ているが、まず、名前を呼んで注目させ、「今は先生の話を聞く時間です。」と具体 的な行動の言葉で示す。また、誰かが話していて、みんなが聞かなければならない ような場面では、話す前に鈴を鳴らし、それが話を聞く合図だと決めておくという 方法もある。 エピソード番号37(小学校5~6年生) 本文 給食中に……ニトロ「わーい♥コロッケ大好き~」 ニトロ (( こういう時のことわざは……あれ?何だっけ?思い出せない……早く食べ て調べてみよう!! )) ニトロ「ごちそーさん」(急いで教室を飛び出し図書室へ) ニトロ「あった!! 猫に木天蓼」 キーンコーンカ―ンコーン ニトロ「もう昼休み終わり?本読んでるとあっという間だなー ん?」 (教室に戻ると皆が席についていて静まり返っている) ニトロ (( え?何これ?昼休みだったのに……)) 先生「やっと全員そろったな 合掌!!」 児童「ごちそうさまでした!!」 -(50)- この時初めてあいさつなしで飛び出したことに気付いたニトロちゃん ニトロ「後の祭り」 事例の分析と対応についての考察 障害を知らなければ、ルールの守れない子と思われがちである。しかし、ここは自 分の世界に没頭してしまう、気になることがあると落ち着いて座っていられないと いうアスペルガー症候群の特性が見られる。このような場合は、行動する前後に自 分の行動を言語化、視覚化して確認させる。これを繰り返すことでセルフモニタリ ング力(自分を客観的に観察し、行動を制御する力)を身につけることができる。 3、まとめと展望 以上の分析をしながら喚起されたのは、作者沖田×華がこの作品を通して読者に投 げかけているやり場の無かった思いである。それは、障害に対する周囲の、特に教員 の無理解が、いかに不幸な現実を生んでいるのかという問いかけになっている。この 作品の構造は、「ニトロちゃん」の考え方と教員の考え方の間に生じるズレの繰り返 しになっている。ここに、作品の中心的主題があると考えられる。発達障害を抱える 当事者と周囲がコミュニケーションをとることの難しさが問題化されているのであ る。では、周囲の理解とは何であろうか、それは、発達障害を抱える当事者の思いや 感じ方をリアリティーをもって想像することであろう。リアリティーをもって想像す るために、創作作品の存在意味は大きい。 今回は「ニトロちゃん」の事例に対する対処の考察までとなったが、今後はこの「ニ トロちゃん」の分析をもとに、発達障害を抱える子どもたちと向かい合うための基本 的な姿勢や、その子どもたちの観察方法などのあり方なども考え深めていく。また、 保護者との連携や進路などの対処の方法にも考察を拡げ、分析対象としても保護者や 教員の手記や記録などまで含めて考えていくこととしたい。 -(51)- 発達障害を抱える子どもたちとの向き合い方 ―『ニトロちゃん みんなと違う、発達障害の私』を取り上げて― (対象テキスト) 沖田×華『ニトロちゃん みんなと違う、発達障害の私』(光文社、2010 年) (参考資料) 平岩幹夫『発達障害 子どもを診る医師にしっておいてほしいこと』 (金原出版、2009 年) 加藤信昌『ササッとわかる「大人のアスペルガー症候群」との接し方』 (社講談社、2009 年) 品川裕香『LD・ADHD・アスペルガー症候群気になる子がぐんぐん伸びる授業 すべての子どもの個性が光る特別支援教育』(集英社、2006 年) 『LD・ADHD・アスペルガー症候群気になる子がわくわく育つ授業 成功事例編』(集英社、2009 年) 佐藤 暁『発達障害のある子の困り感に寄り添う授業―通常の学校に学ぶ LD・ ADHD・アスペの子どもへの手立て』(学習研究社、2004 年) 『見て分かる困り感に寄り添う支援の実際―通常の学校に学ぶ LD・ ADHD・アスペの子どもへの手立て』(学習研究社、2006 年) 広瀬宏之『図解 よくわかるアスペルガー症候群』(ナツメ社、2008 年) 文部科学省ホームページ http://www.mext.go.jp/ (「通常学級に在籍する特別な教育支援を必要とする児童生徒に関する全国調査」、発 達障害についての定義) -しんどう・あいか 日本文学科四年生- -(52)-