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アウトプレースメントを活用した組織活性化 - Nomura Research Institute
03-NRI/p80-89 02.2.27 10:04 PM ページ 80 NRI NEWS アウトプレースメントを活用した組織活性化 多勢 哲 戦後最悪の失業率を記録している一方で、スキルのミス マッチのため人材が不足している業界や職業もある。こう したなかで、企業と契約して人材の再就職を請け負うアウ トプレースメントサービスが成長している。そのエッセン スは、各人向けのカウンセリングを通じて個人のスキルを 棚卸しし、再教育を行うことである。このノウハウを活用 して、企業は人材のスキルを再整理し、組織を活性化して いくことが重要である。 スマッチが生じているのである。 このミスマッチに対応するため に、人材の再教育などを行い、再 就職を支援するアウトプレースメ ントサービスが注目されている。 ■成長するアウトプレース メントサービス 人材紹介サービスが、求職者を 企業に紹介斡旋して採用した企業 から報酬を得るのに対し、アウト プレースメントサービスは、雇用 ■スキルのミスマッチによる 人材需給ギャップ 節調整値)は過去最高の5.6%、完 主企業から報酬を得てリストラ人 全失業者数は337万人となった。 材の再就職支援を行う。単なる職 企業の破綻、リストラによる希 こうした戦後最悪の雇用環境で 業紹介ではなく、カウンセラーが 望退職、事業再構築に伴う人材再 も、情報サービス業などでは未充 再就職希望者のこれまでの仕事や 配置、経営統合や合併による拠点 足求人数が多く、専門的なスキ 培ったスキル、ライフプランをヒ 統廃合などが進んでいる。このた ルを持った人材が不足している アリングし、履歴書の書き方や面 め、2001年12月の完全失業率(季 (図1、図2)。スキルと需給のミ 接の受け方などを指導し、必要に 応じてスキルアップなどの再教育 を行い、再就職先を紹介する。 図1 職業別の未充足求人状況 最近の企業のリストラ計画は、 50 万人 45 早期退職制度とアウトプレースメ 40 ントのパッケージで実施されるケ 35 生産工程・労務作業者 30 運輸・通信従事者 25 サービス職業従事者 20 ースが増えている。 アウトプレースメントビジネス の大手企業は、日本ドレーク・ビ ーム・モリン(日本 DBM)、ライ 15 販売従事者 10 事務従事者 5 ト・ウェイステーション、ヒュ 管理的職業従事者 ー・マネジメント・ジャパンなど 専門的・技術的職業従事者 の専業会社である。かつては大都 0 2000年 出所)総務省「雇用動向調査」より作成 80 2001年 市におけるオフィスワーカーが主 だったが、近年は地方の工場勤務 知的資産創造/2002年 3月号 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyright © 2002 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. 03-NRI/p80-89 02.2.27 10:04 PM ページ 81 めに、こうしたサービスを利用す 図2 職業別の欠員率 るのが一般的であろうが、ここで 生産工程・労務作業者 は、アウトプレースメントのエッ センスを組織活性化に応用する考 運輸・通信従事者 え方を紹介したい。 サービス職業従事者 アウトプレースメントサービス 販売従事者 における、リストラ対象者のスキ 事務従事者 ル・ノウハウなどのナレッジを再 2001年 管理的職業従事者 整理・再教育し、カウンセリング 2000年 や研修を通じて人材の意識改革と 専門的・技術的職業従事者 0 0.5 1.0 1.5 2.0% 自信を持たせるというアプローチ は、人員整理を行わなくても、自 注)欠員率=未充足人数/6月末の常用労働者数×100 出所)総務省「雇用動向調査」より作成 社内の人事・研修にも活用可能で ある。組織活性化という観点から 者や、外資系企業・大企業だけで 手がけるフェアプレース・コンサ アウトプレースメントを考えてみ なく中小企業へも利用が拡大して ルティング・ジャパンを英国企業 た場合、以下の4つの活用・展開 おり、各社とも拠点の拡大やカウ と合弁で設立している。 方向があるだろう。 ンセラーの増強を行っている。 再就職支援ビジネスの市場は現 (1)社内の意識改革、研修など 人材派遣・紹介企業もアウトプ 在、250億円程度といわれている。 レースメントに力を入れている。 今後は民間企業のリストラが加速 アデコキャリアスタッフは、米国 するだけでなく、第三セクターや 社員のモチベーション向上、問題 のアウトプレースメント大手のリ 特殊法人などもリストラを進めて 意識共有化、意識改革などのため ー・ヘクト・ハリソン社のノウハ いくと想定され、市場規模は今後 に、アウトプレースメントサービ ウを活用して、アウトプレースメ 5年間で、現在の2倍に増えるの スで提供している研修プログラム ントビジネスに参入している。 ではないかという見方もある。再 をパーツとして活用することがで パソナキャリアアセットも再就 就職が実現した再就職援助計画対 きる。また、社内での人材再配置 職支援サービスを提供しており、 象者に、1人当たり30万円を限度 を円滑にするための、再教育のツ 別途、大企業の人材を自社に出向 に支給するという政府の再就職支 ールとしても活用可能だろう。 する形で受け入れ、そこから受け 援会社活用給付金も、市場の成長 (2)人材ごとのナレッジデータ 入れ企業に業務受託という形で送 を後押しするとみられる。 ビスも、アウトプレースメントを 人員整理を行わない場合でも、 ベースを作成・活用する り込むという人材交流システムも 展開している。またスタッフサー のツールとして活用する 人材ごとに、スキルなどのナレ ■組織活性化への応用 ッジを棚卸し整理してデータベー 人員整理を円滑に進めていくた ス化し、人材再配置などの際に情 アウトプレースメントを活用した組織活性化 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyright © 2002 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. 81 03-NRI/p80-89 02.2.27 10:04 PM ページ 82 報を活用することにより、社内人 こでも意識改革プログラムなどを る。これまで培ってきたスキルや 材の有効活用に結びつけることも 活用することができるだろう。 経験と異なるものを再教育により 重要である。社員同士が互いのナ また、製造ラインを受託するフ 身につけるのは容易ではないた レッジを共有化するためにナレッ ルキャストファクトリーが、大手 め、再教育ノウハウの有無がサー ジデータベースを活用するだけで メーカーの工場勤務経験者を工程 ビス展開の鍵といえよう。 なく、社員が自分のナレッジを見 管理などの責任者として派遣し、 直す契機として活用可能であり、 工場の請負社員を指導するとい ントサービス・プレーヤーにもい さらに人材再配置を行う際にも、 うサービスを行っているように、 えることであり、今後は再教育が ポジション別に適正なスキルを持 OBや再雇用希望人材を活用した 極めて重要になってくるだろう。 った人材を配置するために活用す アウトソースビジネスへと展開す また、こうしたノウハウは個人 ることができる。 る方向も有望であろう。 (3)OBの活用による事業展開 を図る 退職者が専門家として非常勤な どでアドバイスを行っている企業 も見られるようになってきたが、 高齢化が加速するわが国では、 これは既存のアウトプレースメ 向けにも展開可能であることにも 注目すべきである。今後、人材の OBの優れたナレッジを安価に活 流動化は加速していき、転職を通 用することの意義は大きい。 じてキャリアアップを希望する人 (4)自らアウトプレースメント サービスを行う 材や、150万人(1997年時点、労 働省政策調査部推計)といわれる ここでは自社OBなどを組織化し トヨタ自動車がリクルートと共 て、そのナレッジを活用するビジ 同で、定年前後の自社技能工を対 ネスを考えたい。 象に再就職支援を行う事業を開始 個人から報酬を得るモデルにな ある大手製造業では、技術者出 するなど、特に大企業では、何ら るが、特にフリーターの場合は、 身のOBを中心にした人材派遣会 かの形で自社社員を対象にした再 人数の増加により年金制度などに 社を設立し、社外への人材派遣で 就職支援を行っている。このノウ 大きな影響を与える可能性がある 成功している。成功の要因は、 ハウや実績を蓄積することによ ことも指摘されており、社会的に OBのナレッジが中小企業などで り、アウトプレースメントサービ も意義が大きいため、今後の政策 必要とされていたこと、OBのコ スを社外に提供していくことも可 動向を注目する価値があろう。 ストが相対的に安いことによる。 能であろう。 特に大企業の場合、OBは経済 この場合、企業のネットワーク 的インセンティブの優先順位が低 を活用して求人情報へアクセスす い。一方で長時間勤務などを嫌気 ることも重要だが、多数の人材の する傾向がある。このためOBが アウトプレースメントを行う場合 積極的に仕事に取り組むような意 には、マッチングノウハウだけで 識改革が必要となってくるが、こ なく、人材の再教育が不可欠とな 82 フリーターの就職支援への展開可 能性も出てくる。 『NRI Research NEWS』 2002年3月号より転載 多勢 哲(たせあきら) 経営情報コンサルティング部上級コン サルタント 知的資産創造/2002年 3月号 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyright © 2002 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.