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将来不安と消費者行動
– 研究レポート No.176 October 2003 将来不安と消費者行動 主任研究員 富士通総研(FRI)経済研究所 長島 直樹 将来不安と消費者行動 【 要 旨 】 不安心理と消費に関して両者の関連が繰り返し指摘されるものの、実証研究の蓄積は薄 い。 「将来不安と消費者行動」(長島、2003)は 1,000 人の消費者に対するアンケート調査 に基づいて、不安の内容を整理し、消費との関連を探ったものである。その結果、「不安と 消費の関連が必ずしも直線的なものではない」という結論に達している。本稿では、さら に不安の構造的な理解を試みた上で、いかなる不安がいかなる消費に影響するのか、そし ていかなる消費者においてその影響が顕著なのか、分析している。 結論は以下の通りである。 1.各種の不安を個別に考えるだけでなく、相互の関連に注目すると系統的な理解が可 能になる。5 種類の不安の有無に対して、数量化Ⅲ類を使うと、 「第 1 軸=健康・年 金系不安軸」 、 「第 2 軸=賃金・雇用系不安軸」の2つの軸(次元)を抽出すること ができる。第 1 軸は中高年層で、第 2 軸は若年層において不安度が高い。 2.「不安心理が消費を抑制する」経路は、特に若年層の選択的消費において顕著に観 察される。一方、中高年層ではこの関係は検出されない。また、不安の中では第 2 軸に相当する賃金・雇用系不安が主導的な役割を果たしていることがわかる。 3.不安は消費に直接影響する直接効果のほか、消費パラメーターや政策評価に影響を 及ぼす間接効果を持つ。例えば、不安が期待インフレに伴う消費前倒し効果を減殺 したり、経済政策に対する評価をネガティブにする傾向が見られる。間接効果も若 年層において顕著であり、中高年層には見られない。また、間接効果では直接効果 とは逆に、健康・年金系不安が主導的な役割を果たすことがわかった。 長島 直樹 [email protected] 【 目 次 】 Page Ⅰ.はじめに --------------------------------------------------------------------------------- 1 Ⅱ.将来不安の構造:不安の 5 大要因と 2 つの次元 ------------------------------- 3 (1) 不安の種類と組み合わせ (2) 不安の集約化:数量化Ⅲ類の適用 Ⅲ.不安と消費:不安心理の直接効果 -------------------------------------------------- 8 (1) ダウンサイドリスクと不確実性 (2) キーワードは「賃金・雇用系不安」、「選択的消費」、「若年層」 (3) Rank Logit Model による分析 (4) 共分散構造モデルによる分析 Ⅳ.不安心理の間接効果 --------------------------------------------------------------- 19 (1) 期待インフレ効果への影響 (2) 政策評価への影響 Ⅴ.むすび --------------------------------------------------------------------------------- 24 (参考文献) --------------------------------------------------------------------------------- 26 (補論 1) 共分散構造分析について -------------------------------------------------- 28 (補論 2) 選択的消費と消費全体の関係 -------------------------------------------- 30 (補論 3) アンケート調査における標本の代表性に関する検討 ------------------ 34 Ⅰ.はじめに1 「消費低迷の背後に消費者心理の萎縮がある」と言われて久しい2。しかし、消費と不安 心理に関する実証研究の蓄積は薄い。経済理論では後述のように、リスク、不確実性の側 面から、研究が蓄積されている。しかし、いかなる不安がいかなる消費を抑制しているの か、あるいはいかなる消費者においてその効果が大きいのか、といった問題に対して、経 済理論や経済理論モデルをベースにした実証分析からは、明確な回答が得られていない。 こうした問題意識から、 「将来不安と消費者行動」 (長島、2003b)は 1,000 人の消費者に 対するアンケート調査に基づいて、不安の内容を整理し、消費との関連を探ろうとしたも のであった。その分析結果は以下 3 点である。 1.不安の内容は年齢階層によって特徴がある 2.不安と消費の関連は直線的でない 3.年齢が上がるほど、計画のタイムスパン(タイムホライズン)が長くなる 本稿は、同じアンケート調査の結果を使って、特に上記の 1、2 に関して分析を深めたも のである3。3 は注目すべき結果だが、本稿では扱わない。1 について、長島(2003b)では 各不安を独立に扱っている。しかし、各不安の同居しやすさを考慮しながら系統的に理解 する試みが必要であり、本稿で試行している。また、2 に関しては「不安と消費の関連は直 線的でない」ということでは分析半ばであり、関係を特定したことにはならない。本稿で は、いかなる不安がいかなる消費を抑制し、それがいかなる消費者において顕著に見られ るのかを明らかにしようとしている。 ここで、不安と消費に関する先行研究を経済学分野についてまとめておこう。経済学に 将来不安という概念はなく、ほとんどの場合、所得リスク、あるいは所得の不確実性とい う 概 念 に 置 き 換 え て モ デ ル 化 す る 。 そ し て 、「 リ ス ク の 増 大 に 対 応 し て 予 備 的 貯 蓄 (precautionary saving)が増える」と考える。リスクの内容は、所得変動(所得の分散な ど)のデータに一本化する。なぜリスクが高まったか、あるいは不安の原因は何か、とい った考察は捨象する。行動経済学の分野では、消費・貯蓄行動やそのライフサイクルを心 理的な側面から説明することが試みられるものの、不安原因を比較した分析例は見当たら ない。このため、たとえ不安が消費を抑制することが検証できても、具体的な不安を除去 するための政策含意は考えにくい。 1 本稿の作成にあたり、東京大学の西村清彦教授からいただいた貴重なコメントに感謝したい。ただし、 残された誤りは勿論筆者の責任である。 2 「近年の消費は底堅い」という論調もしばしば聞かれる。しかし、この場合「他の需要項目と比較して」 という意味合いが含まれていると考えるのが自然であろう。金額ベースで前年割れが続く状況を底堅いと は言えない。また、内閣府が消費の強さを判断する際に重視する消費総合指数は、2002 年 9 月以降は緩や かな低下傾向を示しているため、 「消費は全体としては弱含み」と考えるべきであろう。また、 「景気全体 の落ち込みに比して消費の減少率が小さい」ことをもって底堅いとしているのであれば、これは後退局面 一般に見られる現象であり、消費変動の性格を無視した議論である。 3 アンケート調査の概要は長島(2003b)に記したが、本稿の補論 3(p34∼)に再掲する。 1 ここでは、主に新古典派経済学の枠組みに沿った予備的貯蓄に関する研究と、行動経済 学での考え方を簡単に振り返る。まず、予備的貯蓄だが、伝統的な期待効用理論に基づい て、 「不確実性が増大すると予備的貯蓄が増え、現在の消費水準が落ちる」という経路に焦 点を当てる。理論的背景を明確にしているのは、Kimball(1990)で、中心となる概念は慎重 度係数4(coefficient of prudence)である。これに基づく実証研究にはいくつかのヴァリエ ーションがあるが、結論はそれぞれ異なっている。代表的なのは、Dynan(1993)、Merrigan et.al(1996)によるもので、直接、相対的慎重度係数ρを推計する方法である。異時点間最適 化からオイラー方程式を得て、U’(C)について 2 次までテーラー展開すると、消費変動(不 確実性)にかかるパラメーターがρ/2 になる。米国(Dynan, 1993)については 80 年代半 ばまでに関して「予備的貯蓄は無視し得るほど小さい」との結論を得た。英国について、 Merrigan et.al (1996)は「予備的貯蓄は無視できない」という結果を報告している。日 本では Hori et.al(2002)が同じ方法でρを推定し、1998 年以降は「予備的貯蓄動機が強 く働いた」との結論を導いている。 日本に関する実証研究で、古くは小川(1991)があり、この流れをくむ最近の研究は土 居(2001)である。これらの論文は効用理論から出発せず、マクロの貯蓄率関数を定義す る。また、個票でなくマクロ時系列データによって分析する。 「消費動向調査」(経済企画 庁、当時)のマクロデータ(期待所得、期待インフレ、雇用リスクなど)を用いる点でも 小川・土居論文は共通している。前者は「所得リスク→予備的貯蓄」の経路を、後者は特 に 90 年代以降に関して「雇用リスク→予備的貯蓄」の経路が有意であることを示した。 日本に関する最近の研究では、別所(2002) 、村田(2003)がある。ともに効用理論から 出発し、個票データを用いる点で Dynan(1993)の流れをくむ。前者は定式化に Carroll (1997)の Buffer Stock Saving の考え方を採用し、日経レーダーのデータから「雇用不安 →貯蓄増加」を導いた。後者は家計経済研究所のパネルデータから、主に「年金不安→貯 蓄増加(安全金融資産蓄積)」の経路を確認している。 以上のような予備的貯蓄の分析は、効用理論から出発するにせよ、行動原理を特定せず にマクロの貯蓄率関数から出発するにせよ、不確実性を一本化して扱っており、不確実性 や不安の内容まで立ち入らない傾向がある。もちろん、個々には雇用(失業)不安、年金 不安などの変数を個別に取り入れているものの、雇用、年金、賃金、健康などすべてを同 列に並べて比較検討するような実証分析はされていない。さらに、効用理論に基づくほと んどの研究は、不確実性に対する反応の結果が鈍くても、それが「不確実性→予備的貯蓄 増加」の経路を否定するものなのか、関数の特定化など分析の前提が間違っている(ある いは強すぎる)のか不明である。期待効用理論やその実証への応用については、行動経済 学で繰り返し批判的に検討されている。 行動経済学の立場では、期待効用理論に対して reference point effect、framing effect な U(C)(C:消費水準)を個々の効用関数とし、−U’’’ /U’’を絶対的慎重度係数、−C*U’’’ /U’’を相対的慎重 度係数と定義する。 4 2 どを根拠に、その有効性を疑問視することが多い(Kahmeman et.al(1979)、Rabin(1998) など) 。まず、効用が消費レベルによってのみ決まるのは不自然であり、他者や過去との比 較が重視されると考える。したがって、資源制約下での加法的期待効用の最大化(max Et[∑ (1+δ)-jU(Ci,t+j)]) という行動原理は、前提として無理があるだけでなく、現実の説明とし ても大きなずれを生むと批判する(Thaler, 1980) 。効用関数の存在は仮定してもよいが、 その時々で最適化するのは安定的な効用関数ではないという指摘(Akerlof, 2002)もある。 また、time inconsistency(時間選好率δの可変性)もしばしば取り上げられる(Rabin, 1998, Thaler, 1990) 。つまり、将来になるほどδは小さくなるというものである。特に、 不確実性や将来不安は将来予想に関わる現在の心理なので、時間選好率、タイムホライズ ンと大きな関わりを持っている。こうした考え方が正しければ、効用理論から出発する予 備的貯蓄の実証分析の結果は、分析の枠組みそのものが危ういことになってしまうため、 割り引いて考えざるを得ない。 行動経済学に基づく消費・貯蓄動向の説明もしばしば行なわれている。その中で重要な 概念は心理的勘定(mental account)である(例えば、Thaler, 1990 など)。つまり、 「現 在所得、資産所得、将来所得(年金など)は心理的な勘定が異なるため、消費の原資として互 いに代替可能ではない」と考える。また、「主観的割引率は近い将来は大きいが、遠い将来 になるにしたがって小さくなる」とし、time consistency を仮定する新古典派のフレームワ ークを批判する。このような概念を使って、 「退職後に消費を急減させる」状況を説明する (Akerlof, 2002)。しかし、行動経済学の考え方においても、将来不安の内容を比較検 討する、あるいは不安内容ごとに消費への影響を推定する、という研究は見当たらない。 本稿の構成は以下の通りである。まず、Ⅱ節において将来不安の内容とそれらの相互関 連を探り、不安の構造を系統的に理解することを試みる。次に、Ⅲ節で「不安が消費を抑 制する」現象がどのような文脈で起こるのか検討する。 「いかなる属性を持った消費者のい かなる不安がいかなる消費を抑制するのか」という点を中心に分析する。Ⅳ節では、不安 が及ぼす間接的な影響を考察する。不安が消費を直接的に抑制するほか、消費パラメータ ーに作用する効果、及び政策評価が不安の大小によっていかに変わってくるか、という点 を分析する。最後にⅤ節で結論を整理する。 Ⅱ.将来不安の構造:不安の 5 大要因と 2 つの次元 (1)不安の種類と組み合わせ アンケートでは将来の経済的不安の有無を尋ねており、 「不安がある」との回答に対して は、理由を 7 つに分けて選択(複数回答可)してもらっている。不安の内容に関して、年 齢層別に明確な特徴が現れるのは長島(2003b)で明らかになった通りである(図表 1) 。 また、消費者が抱いている上位 5 つの不安(雇用、賃金、健康、増税、年金)のパター ンを並べてみると(図表 2) 、1つの不安を指摘する消費者は全体の 4 割弱に上る。その中 では、賃金、健康、年金、雇用の順に指摘する割合が多く、増税不安を単独で指摘する割 3 合は小さい。したがって増税不安は従属的である。 (図表 1) 年齢層別にみた不安内容 0.7 賃金不安 雇用不安 健康不安 年金不安 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 20代 30代 40代 50代 60代 合計 (注)増税不安は年齢による差異が小さいため、グラフから除外している。詳細は下表参照。 20代 30代 40代 50代 60代 合計 不安なし 雇用不安 賃金不安 業績不安 健康不安 天災不安 増税不安 年金不安 7.0% 22.6% 62.3% 19.6% 29.1% 8.5% 29.6% 16.6% 8.9% 27.6% 55.7% 18.7% 31.0% 4.4% 33.0% 23.6% 8.0% 35.8% 46.8% 18.4% 32.8% 5.0% 27.9% 27.4% 11.9% 28.7% 39.1% 21.3% 35.6% 9.9% 23.3% 40.6% 8.0% 4.5% 3.0% 16.4% 46.3% 17.9% 28.9% 56.2% 8.7% 23.9% 41.4% 18.9% 35.0% 9.1% 28.5% 32.9% (図表 2) 不安の組み合わせパターン:32 通りのうち上位を抜粋 雇用 賃金 健康 増税 ○ 年金 観測数 構成比(%) 165 16.4 138 13.7 91 9.0 ○ 73 7.3 65 6.5 ○ 46 4.6 37 3.7 ○ 34 3.4 ○ 32 3.2 ○ 21 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 4 2.1 不安数 観測数 構成比(%) 5 23 2.3 4 58 5.8 3 147 14.6 2 225 22.4 1 388 38.6 0 165 16.4 合計 1006 100.0 複数の不安を指摘する消費者も全体の 4 割強に達し、 (健康、増税、年金) 、 (雇用、賃金) 、 (健康、年金)、(増税、年金)の組合せが上位にくる。雇用と賃金が結びつきやすく、残 り 3 つ(健康、増税、年金)が結びつきやすいことがわかる5。この結果を、年齢層別の不 安内容と照合して考えると、若年層は(雇用、賃金)、中高年層は(健康、増税、年金)の 組合せ、あるいは各々の組合せ中の部分集合を選択しやすいのではないか、と推測される。 (2)不安の集約化:数量化Ⅲ類の適用 各不安の結びつきやすさ(同居性)をもう少し分析的に扱うために、上位 5 種の不安に 関して、数量化Ⅲ類を適用して集約化を試みた(図表 3)。第 1 軸(次元 1)は健康、増税、 年金との関連が強く、第 2 軸(次元 2)は賃金、雇用との関連が強い。増税不安は従属的不 安であるため、第 1 軸を健康・年金系不安と呼ぶことにする。各次元の意味付けは明瞭で あり、5 つの不安が 2 つの次元に集約されたと見てよいであろう。寄与は次元 1、2 でそれ ぞれ 29.6%、24.3%、累積寄与は 53.9%でやや低く見えるが、数量化Ⅲ類における次元の 寄与は過小評価されており6、50%以上の累積寄与が得られればまずまずである。 (図表3)5大不安から2つの次元を抽出 1.0 不安小 不安なし 賃金 不安あり 0.5 健康 雇用 年金 増税 0.0 不安大 年金 増税 不安小 健康 不安なし -0.5 賃金 -1.0 不安あり 横軸:次元1縦 軸:次元2 雇用 単位:標準偏差 -1.5 -1.5 -1.0 -0.5 不安大 0.0 0.5 1.0 図表 2 の不安数 0(16.4%)は、上位 5 つにいずれも○をつけなかった回答者の割合である。ほかに、天 災(地震・その他災害) 、会社業績に対する不安を加えると、いずれにも○をつけなかった回答者は 10.2% まで減少し、約 9 割の消費者が、いずれかの不安を抱えていることがわかる。また、 「不安はない」という 選択肢に○をつけた“積極的なゼロ不安”は 8.7%であった。 6 例えば、足立(2003)は、等質性分析の留意点として以下のように指摘している。 「採用した次元の解が もとのデータの情報をどの程度表し尽くしているかを示す有効な指標が現時点では用意されていない。よ り正確には、主成分分析の累積寄与率のような解の十分さを表す指標が数量化分析でも定義されるが、こ れが不当に低い値を示すため、あまり役に立たない。こうした点を改善する研究はあるが、実用化前の状 5 5 (注) 数量化Ⅲ類によるカテゴリー得点は以下の通りである。 (図表3にプロットした座標に対応している) 次元1 次元2 雇用不安 不安なし 度数 766 0.084 0.395 不安あり 240 -0.268 -1.260 賃金不安 不安なし 590 0.108 0.642 不安あり 416 -0.154 -0.910 健康不安 不安なし 654 0.378 -0.212 不安あり 352 -0.703 0.393 増税不安 不安なし 719 0.501 0.069 不安あり 287 -1.254 -0.172 年金不安 不安なし 675 0.518 -0.134 不安あり 331 -1.056 0.274 数量化Ⅲ類によって、上記のようなカテゴリー得点とは別に、各サンプルにも各次元の 得点をつけることができる。以後、健康・年金系不安軸である次元1の得点を得点1、賃金・ 雇用系不安軸である次元2に対する得点を得点2と定義する。年齢層別に平均得点をプロッ トしたのが図表4である。健康・年金系不安を示す次元1は若年層で高得点(不安小)だが、 年齢を経るにしたがって、不安が強まってくる。一方、賃金・雇用系不安を反映する次元 2は、若年層ほど不安が強く、年齢を経るにしたがって不安感は和らぐ。この結果は、集 計表から推測した結果に合致している。 (図表4)年齢層別の不安得点 1.00 次元2(不安小) 60代 0.80 0.60 0.40 0.20 50代 次元1 0.00 (不安小) -0.20 40代 20代 30代 -0.40 -0.25 -0.20 -0.15 -0.10 -0.05 0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 (注)単位は標準偏差。図表5、図表6も同じ。 態である。以上の事情、及び視覚的に把握できるという数量化分析の効用を活かすという理由から、2 次 元解が報告されることが多い」 6 所得階層別に得点を平均してみると(図表 5)、低所得者層で得点 1 が低い(健康・年金 系不安が強い) 。中間所得者層になると、次元 1 の得点が急上昇する半面、次元 2 の得点は 低所得者層よりも低くなる、つまり雇用・賃金系不安は低所得者よりも深刻である。高所 得者層は、中間所得者層と比べて得点 1 はほとんど変わらない。しかし、得点 2 は大幅に 改善している。 (図表 5)所得階層別の不安得点 0.35 次元2 0.30 (不安小) 低所得者層 0.25 0.20 0.15 高所得者層 0.10 0.05 次元1 (不安小) 0.00 -0.05 -0.10 -0.15 -0.20 -0.05 中間所得者層 -0.04 -0.03 -0.02 -0.01 0.00 0.01 0.02 年齢層別に分けた上で、所得階層ごとにプロットすると(図表 6)、得点 1 が最も高得点 なのは 20 代高所得者層になる。若い富裕層が、健康・年金不安と縁遠いのは頷ける。得点 1 の最低は 30 代低所得者層で、60 代以上に不安が強い。結婚、出産などライフステージの 変化が、所得が限られている中で起こることによって、健康・年金不安が高まるのではな かろうか。また、フリーターの増加も背景にあるかもしれない。30 代になってもフリータ ーにとどまることによって、20 代では気にしなかった年金等に対する不安が急速に頭をも たげてくる可能性は否定できない。 得点 2 の高得点は 60 代に固まっている。60 代は退職者が半数以上を占めており、リタ イアした後には賃金・雇用不安から解放されるのは当然だろう。逆に、得点 2 が低いのは、 若い世代(20∼40 代)の中間所得者層である。50 代も中間所得者層は低くなっている。そ して、すべての年齢帯で共通なのは、中間所得者層は低所得者層よりも得点 2 が低いこと である。つまり、図表 5 で観察された次元 2 に関する低所得者層、中間所得者層の逆転現 象は年齢をコントロールしても一般的に成立するのである。中間所得者層の賃金・雇用系 不安が低所得者層よりも大きいという事実は、不安が必ずしも現在の所得レベルと平行し ないことを物語っている。例えば、不安が過去からの変化にも依存し、中間所得者層内で 7 は他の階層に比べて所得変動が激しい、という可能性も考えられる7。 (図表 6)年齢層・所得階層別の不安得点 1.0 低所得者層 60代 次元2 0.8 中間所得者層 高所得者層 0.6 50代 0.4 40代 0.2 次元1 0.0 高所得者層 30代 -0.2 -0.4 20代 -0.6 -0.6 -0.4 -0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 Ⅲ.不安と消費 ―― 不安心理の直接効果 ―― 本節では、不安と消費の関連について探る。いかなる文脈で、不安が消費を抑制するの か――より具体的には、「いかなる消費者のいかなる不安がいかなる消費を抑制するのか」 という問題に焦点を当てる。まず、準備としてダウンサイドリスクと不確実性に関して、 本稿での扱いを説明する。次に、OLS を手がかりにキーワードを抽出する。この結果、賃 金・雇用系不安、選択的消費、若年層というキーワードが現れる。つまり、 「若年層の賃金・ 雇用不安は彼らの選択的消費を抑制しているのではないか」という推測が可能になる。こ れを検証するために、2 つの分析を実行する。1 つは具体的な選択的消費項目と考えられる 娯楽・自己研鑽消費支出の増減に関して Rank Logit Model を推定し、不安の大小による消 費増減確率の変化を計測する。今 1 つは、より広範に基礎的消費、選択的消費を同時推定 する共分散構造モデルを使用し、現在の経済状況と不安心理が消費態度に与える影響を比 較する。これらの分析によって、推測したキーワードの正しさを検証する。 7 また、堺屋太一氏はその著書「豊国論」 (1989)の中で、興味深い指摘を行なっている。中間所得者層の 将来不安に関して、1 つの側面を説明していると思われる。ただし、現在はもう少し状況が深刻になって いる可能性がある。以下は「豊国論」 (p196)より引用。 「日本人の圧倒的多数が『将来の心配』をするの は、現在に深刻な心配事がないからだ。現在に深刻な心配事があれば、遠い将来の心配などしている余裕 はない。こういう状態の人、つまり現在に深刻な心配事がなく、将来に心配のある人は、大体において『中 流』意識になる。現在に深刻な心配がある人(中略)は『下層』の意識になる。そして、現在も心配がな ければ将来も心配しないという自身満々の人は、自分は『上流』だという気になるものだ」 。 8 (1) ダウンサイドリスクと不確実性 「不安が消費を抑制する」というときの不安と、経済学で「不確実性は予備的貯蓄を増 やす」というときの不確実性は同じだろうか。不安と不確実性は相互に関連しているもの の、別の概念と考えるべきではないだろうか。 アンケートでは次のように質問している。 「将来的に家計の収入が急減してしまうような 不安がありますか。あるとすれば、その理由は何ですか」 。理由の選択肢(複数回答)は、 ①雇用不安、②賃金・ボーナス減の不安、③会社業績・仕事量減少の不安、④健康に対す る不安、⑤地震など災害に対する不安、⑥増税など負担増の不安、⑦年金給付が減少する 不安――となっている。 “収入(所得)が急減する不安”はダウンサイドリスクと考えるの が適当であり、確率分布の分散など“ばらつき”で定義されるリスク、確率分布自身の不 可知性を表す不確実性8とは区別すべきであろう。 アンケートには将来の所得変動性に関する質問も設けている。それは、 「将来の所得は安 定しているとお考えですか」との質問に対して 5 段階の選択肢「①大いに安定する、②や や安定する、③どちらとも言えない・わからない、④やや変動しやすくなる、⑤大いに変 動しやすくなる」から 1 つ選択してもらっている。これを仮に不安定性と呼ぶことにする。 ダウンサイドリスクを示す不安と不安定性は別概念だが、両者は相互に関連していると考 えてもよさそうである。しかし、分布を調べてみると、両者の関連は統計的に有意でなく、 ほぼ独立であることが判明した。図表 7 が示すように、得点 1,2 をそれぞれ大中小で 3 等 分して、上記の変動性(①∼⑤の 5 段階)の分布が異なるか否かをみると、健康・年金系 不安(得点 1 に対応) 、賃金・雇用系不安(得点 2 に対応)とも、不安の大小の違いによる 所得不安定性の分布に違いは検出できなかった。 したがって、消費を被説明変数とするとき、説明変数に不安と不安定性の両者を含むこ とは同じ意味の変数を重複して入れること、つまり redundant にはならないばかりでなく、 多重共線性(multicollinearity)も問題にならないと思われる。よって、以下の分析では随 時、不安と不安定性が説明変数として併存することになる9。 ただ、不安をダウンサイドリスクと考えることは良いとしても、上記のような質問から 定義した不安定性を、経済学で使われるリスク、不確実性と結びつけるには、なお検討の 余地がある。例えば、将来所得の信頼区間を尋ね、区間平均をレベル予測値、区間幅を不 確実性とする、などの方法も考えられる。この点については、今後の検討課題としたい。 ただ、本稿の分析から得られる結論において、主導的な役割を果たすのは、ダウンサイド リスクとして捉えられる不安であって、変動性を示す不安定性ではない。この点は、分析 結果の提示とともに次第に明らかになる。 8 この意味で使われる不確実性は、厳密には Knightian uncertainty。通常、不確実性(uncertainty)と いうとき、リスク(分散・変動性の大きさ)と同じ意味で使われることも多い。 9 なお、得点 1(健康・年金系不安得点) 、得点 2(賃金・雇用系不安得点)は数量化Ⅲ類の計算方法より、 常に無相関(各次元は直交基底)となるため、両変数間に多重共線性の問題は生じない。 9 (図表 7)不安と不安定性 ―― 得点 1(健康・年金系不安)の大小と不安定性 ―― 60 50 40 得点 1(健康・年金系 30 不安の度合)3 分割 Dimension1:3分割 パーセント 20 不安大 Dim1:不安大 不安中 10 Dim1:不安中 0 Dim1:不安小 不安小 大いに安定 わからない まあ安定 大きく変動 やや変動 将来所得の安定性 ―― 得点2(賃金・雇用系不安)の大小と不安定性 ―― 60 50 40 得点 2(賃金・雇用系 30 不安の度合)3 分割 Dimension2:3分割 パーセント 20 不安大 Dim2:不安大 10 不安中 Dim2:不安中 0 不安小 Dim2:不安小 大いに安定 わからない まあ安定 大きく変動 やや変動 将来所得の安定性 (注) 不安の大きさ(3分割)による不安定性(所得変動性)の差は上記の双方のケースとも 有意水準5%で統計的に有意でない。 10 (2) キーワードは「雇用・賃金系不安」、「選択的消費」、「若年層」 「いかなる消費者のいかなる不安がいかなる消費を抑制するのか」について手がかりを 得るため、家計の消費支出額を可処分所得、金融資産保有額、得点 1(健康・年金系不安度)、 得点 2(賃金・雇用系不安度) 、不安定性ダミーの 5 変数によって回帰(OLS)を行なって いる。この結果、符号の向きを整理したのが、図表 8 である。 説明変数はすべて共通である。得点 1,2 は、解釈のしやすさを考慮して、不安の大きい 消費者・家計の点数が大きくなるように数量化Ⅲ類で得られた符号を逆転している。まず 消費金額合計を被説明変数とすると、可処分所得、金融資産保有額、得点 1 がプラス、得 点 2 がマイナス、不安定ダミーは統計的に有意でない。消費に対してマイナスに作用する のは得点 2、つまり賃金・雇用系の不安となる。一方、健康・年金系不安を示す得点 1 は消 費水準と同方向(プラス)の関係になる。 2、3 行目で、基礎的消費と選択的消費に分けて推計すると、2 種類の不安の作用が明確 に分かれる。基礎的消費、選択的消費と区分しているのは、アンケートの中で、回答者に 主観的に割り振ってもらった割合に基づく数字で、ここでは特定の消費項目と対応させて いるわけではない。 2 行目の基礎的消費をみると、所得、資産、得点 1 がプラスである。所得や資産のパラメ ーターがプラスなのは当然だが、健康・年金系の不安が大きいほど消費が増える結果にな っている。これは、逆の因果関係を考えるのが自然であろう。例えば、「子供の教育費など が増えるようなライフステージに入ると、健康・年金など以前にはあまり感じなかったよ うな不安に対して急速に敏感になる」といったことはありそうなことである。 3 行目の選択的消費では、得点 1 の影響が消え、得点 2 がマイナスに作用している。つま り、「賃金・雇用系不安は選択的消費を減らす」ことになる。「不安が消費を減らす」スト レートな関係であり、こちらの関係を特定することが主目的なので、選択的消費に関して 年齢階層別に回帰した結果が図表 8 の下方の表である。 20 歳から 44 歳までの若年層と、45 歳から 69 歳までの中高年層の分類では、若年層にお いて、選択的消費は得点 2 のマイナス影響を受ける。中高年層では選択的消費も所得と資 産で決まってしまう。10 歳刻みで回帰しても得点 2 のパラメーターがマイナスになるのは 20 代と 30 代だけである。不安定性ダミーは 40 代においてだけ選択的消費にマイナスに働 くが、全体として影響は小さい。 以上、 「不安が消費を抑制する」という文脈で、キーワードを確認してみると、得点 2 で 示す賃金・雇用系不安、選択的消費、そして若年層となる。すなわち、「若年層で賃金・雇 用不安が大きいと、彼らは選択的消費を減らすように行動する」と推測される。 こうしたキーワードを確認するために、2 つの分析を実行した。1 つは、特定の選択的消 費項目に関して詳しく見ることである。具体的には娯楽・自己研鑽関連の消費支出増減に 関して、Rank Logit Model を推定し、不安の増加に伴う消費増減確率の変化を計測した。 11 今 1 つは基礎的消費・選択的消費を包括的かつ同時的に推定することで、こちらは共分散 構造モデルを使っている。 (図表 8)消費を説明する回帰分析結果:いかなる不安が消費を抑制するか (注)所得は可処分所得(過去 1 年間の家計全体の金額) 、資産は金融資産保有額(家計全体での現保有額) 被説明変数 消費金額合計 基礎的消費金額 選択的消費金額 サンプル 全体 全体 全体 所得 + + + 資産 + + 被説明変数 選択的消費金額 〃 〃 〃 〃 〃 〃 サンプル 20∼44歳 45∼69歳 20代 30代 40代 50代 60代 所得 + + + + + + + 資産 説明変数 得点1 + + 得点2 − 不安定ダミー − 説明変数 得点1 得点2 − 不安定ダミー + − − − + を示す。消費金額、基礎的消費金額、選択的消費金額、可処分所得もすべて家計単位で尋ねている。ま た、上記の回帰モデル推計では、これらの変数には自然対数値、得点とダミーは水準値を使用している。 得点 1 は次元 1 不安の得点(得点が高いほど健康・年金系不安が強い) 、得点 2 は次元 2 不安(得点が高 いほど賃金・雇用系不安が強い) 、不安定ダミーは先に定義した不安定性、つまり将来所得に関する不安 定性の 5 段階を「やや不安定」と「大いに不安定」をまとめて 1、それ以外はゼロとしたダミー変数に 変換し、回帰分析に対応している。得点 1,2 に関しては、解釈のしやすさを理由に、図表 3∼6 の得点の 符号を逆にしている。 (3) Rank Logit Model による分析 ここでは、一般に選択的消費項目と考えられることの多い娯楽・自己研鑽支出関連10につ いて Logit 分析を行なう。アンケートでは、いくつかの消費項目に関して過去 1 年の支出額 をその前年に比べて「(A) 大いに増やした、(B) やや増やした、(C) 不変、(D) やや減らし た、(E) 大きく減らした」の 5 段階で尋ねている11。5 段階のままでも分析は可能だが、確 率変化の意味をより明確にするため、 「①増やした、②不変、③減らした」の 3 段階に集約 10 特定の消費項目が基礎的か選択的か一概に断定できないのは勿論である。アンケートでは、いくつかの 消費分野について、 「たとえ価格が 10%高くても購買を諦めないのは、当該消費分野の何%ぐらいか」と いう質問をしている。この結果、全サンプル平均で、食料品 43.1%、衣料品 22.6%、子供の教育費 36.8% などと比較して、娯楽・自己研鑽は 19.5%と他の分野よりも低い。この比較は、娯楽・自己研鑽消費の価 格弾性値が高いことを示唆しており、この意味で娯楽・自己研鑽消費は他の消費項目と比較して“選択的” であると言えそうである。 11 先の、選択的消費額、基礎的消費額とは別の質問項目である。 12 12した後、Rank Logit Model を適用している。推定するモデルは、 Pr(Qi ≤ k ) = exp(δ k − β ' Z i ) 1 + exp(δ k − β ' Z i ) (k=1:消費増加、k=2:消費不変、k=3:消費減少) (Qi:家計 i の消費態度、δk:Qi=k,k+1 の閾値、Zi:説明変数ベクトル) とし、δk, βの推定値を求め、上記の確率(累積帰属確率)に換算する。説明変数ベクト ル Zi は、可処分所得(自然対数値)、得点 1、得点 2、不安定性ダミーとしている。得点 1, 2 は不安の大小に 2 分割し、解釈を容易にしている13。 推計結果は図表 9、10 のようになる。図表 9 でサンプル全体についてみると、不安や不 安定性が大きくなければ、娯楽・自己研鑽関連消費の増加確率は 24%、減少確率14は 25% である。しかし、不安や不安定性が大きいグループは、消費増加の確率が低下し、消費減 少の確率が上昇する。不安 2(賃金・雇用系不安)の影響が大きいこともわかる。例えば、 不安 2 だけが大きいケースでも、消費増加の確率は 17%まで低下し、消費減少の確率は 33% まで上昇している。 若年層、中高年層に 2 分すると、若年層では不安 1,2、及び不安定性がともに娯楽・自 己研鑽関連の消費にマイナスの影響を与える。一方、中高年層では不安 2 だけが同分野の 消費抑制に働く。不安 2 の影響を比較すると、不安の存在によって消費増加の確率が大幅 に減少するのは若年層である。 10 歳刻みで 20∼60 代をみると、特徴がさらに鮮明になる(図表 10) 。「若年層で不安の 影響が大きい」ことを見てきたが、20 代では不安 2 だけが有意である。不安 1 や不安定性 の影響が現れるのは 30 代である。40 代は不安 2 と不安定性の影響が見られる。ただ、20 ∼40 代では不安 2 の影響が一貫して現れている。50 代以上では不安や不安定性は娯楽・自 己研鑽消費の増減に影響しない。 以上、娯楽・自己研鑽消費という特定分野について言えば、「若年層における不安心理の 顕著な影響」、「賃金・雇用系不安の主導的な役割」という点で、先に推測したキーワード の妥当性が確認された15。 (A)と(B)を①、(C)を②、(D)と(E)を③に対応させている。 例えば、 「不安得点が 1 標準偏差上がると、消費増加の確率が x%下がる」という解釈はあまり実用的で ないし理解も困難である。それよりも、不安 1,2 の得点をそれぞれ 2 分割し、 「不安が大きいグループでは 消費増加確率が y%低下し、消費減少確率が z%増加する」とする解釈がわかりやすいであろう。 14 Rank Logit Model の推定パラメーターからは「①消費増加」または「②消費不変」の確率(累積確率) Pr(k≦2) が計算されるのみだが、 「③消費減少」の確率は、1−Pr(k≦2)として計算できる。このように、 消費増減の確率がすべて比較できる点で、5 段階でなく、3 段階のモデルを選択している。5 段階モデルで は選択肢の両端、すなわち「大いに増やす」確率と「大きく減らす」確率の変化を比較することだけが可 能である(Greene, 2003 pp738 など) 。 15 ここで、 「娯楽・自己研鑽関連消費の増減が消費全体の増減に対してどの程度影響力があるのか」という 疑問が生じるのは当然であろう。この点に関しては、次項で扱う共分散構造モデルによる検証を行なって いる。便宜的に食料品、衣料品、子供の教育費、医療費の増減殻から抽出した第一因子を基礎的消費、住 宅関連、情報通信関連、耐久消費財、娯楽・自己研鑽関連消費から抽出した第一因子を選択的消費とする。 まず、選択的消費に対する娯楽・自己研鑽消費の寄与を標準化パス係数でみると、若年層(20∼44 歳)は 娯楽・自己研鑽が 0.60 と 4 消費項目中最大、中高年層(45∼69 歳)では同分野が 0.51 と耐久消費財(0.71) に次いで 2 番目である。そして、構成概念(潜在変数)で表現される選択的消費が「消費全体の増減」 (観 12 13 13 (図表 9)Rank Logit Model の推定結果と消費増減の確率変化(若年層と中高年層) <パラメータ推定値> <不安の有無に伴う帰属確率の変化> (消費増減確率) 全サンプル 推定パラメーター -4.933 -2.681 -0.568 0.248 0.436 0.299 t値 4.831 2.654 3.521 1.978 3.468 2.239 p値 0.000 0.008 0.000 0.048 0.001 0.025 推定パラメーター 閾値:α1 -4.443 閾値:α2 -2.265 ln(家計可処分所得) -0.526 不安1が大きい** 0.377 不安2が大きい*** 0.566 将来所得が不安定** 0.380 t値 2.749 1.411 2.018 2.182 3.125 1.984 p値 0.006 0.158 0.044 0.029 0.002 0.047 t値 4.448 2.788 3.375 0.032 2.249 0.771 p値 0.000 0.005 0.001 0.973 0.025 0.441 閾値:α1 閾値:α2 ln(家計可処分所得) 不安1が大きい** 不安2が大きい*** 将来所得が不安定** 全サンプル 不安なし 不安1だけ大きい 不安2だけ大きい 不安1、2ともに大きい 加えて将来所得が不安定 消費増加 消費減少 24% 25% 20% 29% 17% 33% 14% 39% 11% 47% 若年層:20∼44歳 若年層:20∼44歳 不安なし 不安1だけ大きい 不安2だけ大きい 不安1、2ともに大きい 加えて将来所得が不安定 消費増加 消費減少 30% 21% 23% 28% 20% 32% 14% 40% 11% 47% 中高年層:45∼69歳 閾値:α1 閾値:α2 ln(家計可処分所得) 不安1が大きい 不安2が大きい** 将来所得が不安定 推定パラメーター -6.188 -3.810 -0.729 -0.006 0.461 0.148 中高年層:45∼69歳 不安なし 不安2が大きい 消費増加 消費減少 16% 32% 11% 43% (注)パラメーター推定は最尤法。ソフトウェア SPSS Advanced Models を使用した。不安、及び不安定 性関連の変数で、***は有意水準 1%、**は 5%、*は 10%で統計的に有意であることを示す。これらの 有意なパラメーターが得られた不安関連変数についてのみ、帰属確率の比較を行なっている、また、い ずれも、家計可処分所得の平均近傍(グループごとの平均)における確率変化を示している(図表 10 も 同様) 測変数)に対する影響をみると、若年層では 0.56 と基礎的消費の 0.35 を上回っている。一方、中高年層 は 0.33 で、基礎的消費の 0.52 よりも影響力が小さい。したがって、共分散構造モデルから推測されるこ とは、 「若年層については娯楽・自己研鑽関連消費が選択的消費の大きなウェイトを占め、選択的消費の増 減が消費全体の増減を左右している」ということである。一方、 「中高年層にとっては選択的消費項目の中 で娯楽・自己研鑽関連消費は耐久消費財に次いで重要であるものの、消費全体の増減は選択的消費よりも、 むしろ基礎的消費によって左右される」ことを示唆している。このモデルに関しては、補論 2(p30∼)に 掲載している。 14 (図表 10)Rank Logit Model の推定結果と消費増減の確率変化(10 歳刻みの年齢層別) <パラメータ推定値> <不安の有無に伴う帰属確率の変化> (消費増減確率) 20代 推定パラメーター 0.514 2.589 0.218 0.379 0.507 0.223 t値 0.158 0.787 0.400 1.329 1.675 0.698 p値 0.875 0.431 0.689 0.184 0.094 0.485 推定パラメーター -7.308 -5.126 -0.969 0.576 0.559 0.630 t値 2.690 1.909 2.205 2.030 1.889 1.845 p値 0.007 0.056 0.027 0.042 0.059 0.065 推定パラメーター -4.981 -2.649 -0.486 0.208 0.509 0.950 t値 1.784 0.956 1.110 0.718 1.700 3.128 p値 0.074 0.339 0.267 0.473 0.089 0.002 推定パラメーター 閾値:α1 -7.667 閾値:α2 -5.187 ln(家計可処分所得) -0.949 不安1が大きい 0.080 不安2が大きい 0.293 将来所得が不安定 0.075 t値 3.451 2.385 2.777 0.277 1.011 0.259 p値 0.001 0.017 0.005 0.782 0.312 0.796 t値 2.839 1.787 2.296 0.190 0.055 0.473 p値 0.005 0.074 0.022 0.850 0.954 0.636 閾値:α1 閾値:α2 ln(家計可処分所得) 不安1が大きい 不安2が大きい* 将来所得が不安定 20代 不安なし 不安2が大きい 消費増加 消費減少 31% 22% 14% 43% 30代 閾値:α1 閾値:α2 ln(家計可処分所得) 不安1が大きい** 不安2が大きい* 将来所得が不安定* 30代 消費増加 消費減少 不安なし 32% 19% 不安1だけ大きい 21% 30% 不安2だけ大きい 21% 29% 不安1、2ともに大きい 13% 43% 加えて将来所得が不安定 8% 58% 40代 閾値:α1 閾値:α2 ln(家計可処分所得) 不安1が大きい 不安2が大きい 将来所得が不安定*** 40代 不安なし 不安2が大きい 加えて将来所得が不安定 消費増加 消費減少 28% 20% 19% 30% 6% 59% 50代 60代 閾値:α1 閾値:α2 ln(家計可処分所得) 不安1が大きい 不安2が大きい 将来所得が不安定 推定パラメーター -6.373 -3.941 -0.804 -0.057 -0.034 -0.147 15 不安、不安定性関連変数について * 10%水準で有意 ** 5%水準で有意 *** 1%水準で有意 (4) 共分散構造モデルによる分析 前項は、特定の選択的消費項目に関する年齢階層別の分析によって、年齢層による差異 と賃金・雇用系不安の重要性・主導性を確認した。ここでは、より包括的な影響経路を考 え、基礎的消費・選択的消費を同時に推定する。これによって、OLS 推計で断片的に推測 した「不安 2(賃金・雇用系不安)」 、「選択的消費」、「若年層」といったキーワードを確認 する16。 ① 2 種類の不安の影響比較:モデル1 まず、図表 11 のようなパス図で表現されるモデル(モデル 1)について、不安が選択的 消費、基礎的消費に与える影響を同時に推計する。所得、資産は現在の経済状況として潜 在変数にまとめている。図表 11 は若年層(20∼44 歳)について推計したもので、数字は 標準化パス係数を示している。不安 2(図中では、不安度得点:次元 2)が選択的消費を抑 制するのは OLS の結果と同じである。また、不安の変数はいずれも選択的消費にマイナス である。 図表 12 は若年層と中高年層で標準化パス係数を比較したものである。若年層(20∼44 歳)についてみると、不安 1,2 ともに選択的消費にはマイナス、基礎的消費にはプラスに 働いているが、不安 1 の選択的消費に対するパラメーターは有意でない。また、現在の経 済状況は、選択的消費よりも基礎的消費に対して大きな影響する様子もわかる。さらに、 選択的消費に対して、不安 2 と現在の経済状況が与える影響を比較すると、前者は後者の 半分ほどの影響力を持っていることも観察できる。 中高年層(45∼69 歳)についてみると、不安 1,2 とも選択的消費に対するパラメータ ーがマイナスになるなど、パラメーターの符号は若年層と概ね共通している。しかし、不 安関連のパラメーターはすべて統計的に有意でない。一方、現在の経済状況のパラメータ ーは基礎的消費、選択的消費いずれに対しても若年層のパラメーターよりも大きい。した がって、中高年層においては将来不安よりも現状が消費に対して大きな影響力を持つと想 像される。また、中高年層においても若年層同様、現在の経済状況の影響は選択的消費よ りも基礎的消費に対して大きい。 16 共分散構造分析の数式を用いた表現は補論 1(p28∼)に簡単に示す。 16 (図表 11)モデル1:若年層(20∼44 歳)対象 □:観測変数 e3 e4 ln(家計可処分所得) ln(家計金融資産額) 1.25 ○:潜在変数(うち、e★★ は誤差変数) 3.07 .15 現在の 経済状況 ln(選択的消費額) -.04 e9 -.08 不安度得点:次元1 .09 .07 .09 .21 不安度得点:次元2 ln(基礎的消費額) e13 .09 (数字は若年層の標準化パス係数) (図表 12)標準化パス係数(パラメーター推定値)の比較 若年層(20∼44歳) 現在の経済状況 次元1の不安度 次元2の不安度 ln(cons1) ln(cons2) 選択的消費 基礎的消費 パラメータ パラメータ 0.153 *** 0.208 *** -0.048 0.067 ** -0.081 ** 0.090 *** 中高年層(45∼69歳) 現在の経済状況 次元1の不安度 次元2の不安度 ln(cons1) ln(cons2) 選択的消費 基礎的消費 パラメータ パラメータ 0.271 *** 0.314 *** -0.059 0.020 -0.032 -0.025 (注)***1%水準で有意、**5%水準で有意、*10%水準で有意を示す。 パラメーター推定は最尤法。ソフトウエア Amos(Version4.02)を使用。 17 ② 不安心理を一括して構成概念とするモデル:モデル 2 先に検討したモデル 1 では、各消費種別に対するパラメーターが不安 1,2 とも同符号に なる傾向が見られたので、不安を 2 種類に分ける必然性は感じられない。ここでは、不安 1, 2 及び将来所得の安定性17を一括して潜在変数として扱うモデル 2 を推定する。この結果か らも、 「若年層における選択的消費が不安心理によって抑制される」様子が確認できる。 (図表 14)モデル 2:若年層(20∼44 歳)が対象 e3 ln(家計可処分所得) e4 ln(家計金融資産額) 3.15 .07 ln(選択的消費額) e9 .14 現在の 経済状況 -.20 .08 -.05 .20 将来に対する 心理要因 .00 ln(基礎的消費額) .64 e6 将来所得の安定性 .17 e7 不安度得点:次元1 e8 不安度得点:次元2 .20 (数字は標準化パス係数) 17 5 段階による。Ⅲ(1)「ダウンサイドリスクと不確実性」の項を参照 18 e13 <標準化パス係数の比較> 若年層(20∼44歳) 現在の経済状況 不安心理 ln(cons1) ln(cons2) 選択的消費 基礎的消費 パラメータ パラメータ 0.136 *** 0.197 *** -0.199 *** 0.003 中高年層(45∼69歳) 現在の経済状況 不安心理 ln(cons1) ln(cons2) 選択的消費 基礎的消費 パラメータ パラメータ 0.267 *** 0.307 *** 0.024 0.079 (見方は図表 11 と同じ) Ⅳ.不安心理の間接効果 前節では、不安心理が消費抑制に繋がる経路に焦点を当てて分析を行なった。しかし、 不安心理は消費パラメーターの大小に影響を及ぼしたり、政策評価に影響したりすること も考えられる。本節は、こうした「不安の間接効果」について考察する。網羅的な分析は 今後の課題とするが、「いかなる消費者のいかなる不安について間接効果が大きいか」に関 して、示唆的な観察結果を提示したい。 (1) 期待インフレ効果への影響 アンケートでは、 「物価上昇が予想されるとき、消費を前倒しするか否か」 、つまり消費 の期待インフレ効果について質問している。このようなパラメーターは不安の大小で変化 するであろうか。消費パラメーターに対する不安心理の影響を全般的に考察するには、よ り広範で詳細な分析を必要とする。ここでは、期待インフレ効果についてのみ探ることに する。注意すべきことは、期待インフレ効果も言わば消費の心理効果であり、不安に伴う 心理効果が他の心理効果の大小に影響するか否かを探っていることになる。もしも違いが 検出されれば、 「不安心理の間接効果が認められる」という解釈が成立するであろう。 図表 15 は不安 1,2 の大小で 2 分割し、それぞれ期待インフレに対する反応が異なって いるか否かを描いたものである。これを見る限り、 「若年層では不安心理が期待インフレ効 果を抑制する」 (不安が大きいと期待インフレの消費前倒し効果が減殺され、むしろ悪影響 の方が出やすくなる)と推測される。 19 (図表 15)不安の大小と期待インフレ効果:若年層(20∼44 歳) ―― 得点 1(健康・年金系不安)の大小と期待インフレ効果 ―― 80 60 40 Dimension1:2分割 パーセント 20 Dim1:不安大 Dim1:不安小 0 悪影響 好影響 中立 不明・その他 期待インフレへの反応 ―― 得点 2(賃金・雇用系不安)の大小と期待インフレ効果 ―― 80 60 40 Dimension2:2分割 パーセント 20 Dim2:不安大 Dim2:不安小 0 悪影響 好影響 中立 不明・その他 期待インフレへの反応 (注)不安の大小による差は、得点 1 では 0.007、得点 2 では 0.001 の有意確率で有意。しかし、45∼69 歳の中高年層では不安の大小による差は、得点 1、2いずれのケースも統計的に有意でない。アンケー トでは、物価上昇が予想される状況でどんな対応をとるか尋ねている。悪影響は「予定していた消費の 取りやめ・再考など」 、好影響は「消費の前倒し」 、中立は「消費予定や時期の変更なし」に対応してい る。 20 前節で娯楽・自己研鑽消費の増減を説明する際に用いたような、Rank Logit Model によ る分析を行なってみると(図表 16)、若年層においては不安が大きいと悪影響(購入取りや めなど) 、不安が小さいと好影響(消費前倒し)の確率が高まる。不安 1(健康・年金系不 安)の効果が大きいこともわかる。一方、中高年(45∼69 歳)では、不安の大小による違 いは検出されない。 (図表16)期待インフレ効果と不安心理:Rank Logit Modelによる推計パラメーター <若年層> 閾値:α1 閾値:α2 家計の可処分所得 不安1が大きい 不安2が大きい パラメーター推定値 1.334 1.669 0.001 0.751 0.484 p値 0.001 0.000 0.075 0.005 0.055 <中高年層> 閾値:α1 閾値:α2 家計の可処分所得 不安1が大きい 不安2が大きい パラメーター推定値 1.622 2.450 0.001 -0.061 -0.391 p値 0.000 0.000 0.009 0.812 0.150 (注)期待インフレに対する反応を「悪影響」「中立」「好影響」の 3 つに分かれる質的な(discrete)被 説明変数とし、不安要因を含む説明変数に対して以下のモデルで回帰した。 p k = e z /(1 + e z ), z = α k − Σβ i xi (pk はカテゴリー1∼k までに入る累積帰属確率) αk(閾値)及びβiを最尤法により推定。ソフトウエア SPSS Advanced Modelsを使用した。被説明変数 は消費の期待インフレに対する反応(質的変数:1=悪影響(消費計画再考など)、2=中立(消費時期・ 金額に影響なし)、3=好影響(消費前倒し))説明変数は、不安次元1、2の得点(高低で半数ずつ2 分割)、及び家計の可処分所得(連続変数)とした。若年層は20∼44歳、中高年層は45∼69歳。 若年層に関して不安の大小でどの程度期待インフレ効果が変化するか、推計パラメータ ーを使って計算すると図表17のようになる。これによると、期待インフレが悪影響(消費 計画の再考)を及ぼす確率は、不安が小さい場合は69.3%だが、不安1(健康・年金系不安) が大きいと82.7%に、不安2(賃金・雇用不安)が大きいと78.5%まで上昇する。双方の不 安が大きいと88.6%に跳ね上がる。また、期待インフレが好影響(消費前倒し効果)を与え る確率を考えると、不安がない場合は、24.1%だが、不安1が大きいと13.0%、不安2が大 きいと16.3%まで下がる。双方の不安が大きいと8.4%まで下落する。以上は若年層に関す 21 るものである。中高年層では有意な推計パラメーターが得られないため、確率変化に関す る解釈はできない。 (図表17)不安の大小による期待インフレ効果の違い <若年層> 不安1 なし 不安1 だけ大きい 不安2 だけ大きい 不安1 、2ともに大きい 悪影響の確率 69.3% 82.7% 78.5% 88.6% 好影響の確率 24.1% 13.0% 16.3% 8.4% 以上から、若年層では不安があると期待インフレの好影響(消費前倒し効果)が出にく くなることが示唆される。また、不安 1 の効果が大きいことも特徴である。若年層の不安 1、 すなわち健康・年金系不安は彼らの多くにとって「長期的な不安」である。 「遠い将来に対 する長期的な不安が期待インフレ効果を抑制する」と解釈できる。また、不安が消費パラ メーターに影響することによって、結果として消費の変動を激しくしている可能性もある。 実際、1996 年以降、消費金額の変動幅はそれ以前と比べて大きくなっている(図表 18) 。 (図表 18)消費の変動性の推移 消費金額の変化 (前年比%、変化幅 percentage points) 10 消費支出 変化幅トレンド 8 6 4 2 0 -2 消費支出:家計調査の勤労者世帯(消費支出、前年比%) 変化幅トレンド:上記データの対前期比(絶対値、4四半期移動平均) -4 03 02 01 00 99 98 97 96 95 94 93 92 91 90 89 88 87 86 85 84 83 82 81 -6 (2) 政策評価への影響 不安の大小は様々な政策に対する考え方(政策評価)に影響する、という意味でも間接 効果を観察することができる。例えば、インフレ目標のような政策が実効性を有するため には、政策に対する信認がキーになる。インフレ目標に限らず、経済政策の政策効果が各 22 経済主体がその政策をどう受け取るかによって異なることは、一般的に指摘されている。 このため、不安が政策への信認を損なっていることがわかれば、やはり不安心理による間 接的なマイナス効果として問題視しなくてはならない。 実際に、 「若年層の不安 1(健康・年金系不安)はいずれのマクロ政策に対しても評価を 引き下げる(ネガティブな評価を下す)ように作用する」ことが観察された。アンケート では、①インフレ目標政策、②ハードランディング(不良債権処理の加速と銀行への強制 的な公的資金注入・経営者交代と直接税減税・失業対策のポリシーミックス)、③ソフトラ ンディング(銀行のバランスシートを毀損しない範囲での不良債権処理と公共投資の大幅 追加及び中小企業への資金繰り対策というポリシーミックス)――の 3 つの政策について、 評価をたずねている。図表 19 は、これらの政策について「デフレ圧力がさらに強まる」と いう評価を下した若年層の割合を示すものである。不安 1 が大きいと、3 つの政策いずれに 対しても評価がネガティブになる様子がわかる。 (図表 19)不安 1 の大小と「デフレ圧力が強まる」という評価 (%) 14 <インフレ目標> <ハードランディング> <ソフトランディング> 12 有意確率=0.017 有意確率=0.000 有意確率=0.005 10 8 6 4 2 0 不安1が大 不安1が小 不安1が大 不安1が小 不安1が大 不安1が小 同様に上記 3 つの政策に関して、 「自分の所得にも結局はマイナスになる」という評価を する割合を示したのが図表 20 である。ハードランディング政策に対しては、統計的な有意 な差は検出されなかったが、他の 2 政策については、やはり不安が大きいほうがネガティ ブに評価する比率が有意に高かった。 こうしたネガティブ評価が高まる現象は、若年層に限られる。また、若年層でも不安 1 に限られる。したがって、 「消費パラメーターや政策評価に対して不安が影響する」背景と なっているキーワードは「若年層」、 「不安 1(健康・年金系不安)」である。 23 (図表 20)若年層の不安 1 の大小と「自分の所得にマイナス」という評価 (%) 25 <インフレ目標> <ソフトランディング> 20 有意確率=0.018 有意確率=0.001 15 10 5 0 不安1が大 不安1が小 不安1が大 不安1が小 「不安が大きいといずれの政策に対してもネガティブな評価を下す」という観察結果は 「不安心理は懐疑心を増幅する」という当然の心理的事実の反映と見ることもできよう。 一方、先に述べたように、若年層の不安 1(健康・年金系不安)とは、多くの場合、彼らに とっての長期的不安を意味している。長期的不安が個々人の悲観的性格に依拠していると すれば、長期的不安も政策に対する懐疑心も、背後には悲観的性格がある、と考えられる 可能性もある。こうした心理間相互の関係については、さらに深い研究を待たなくてはな らない。 Ⅴ.むすび これまでの分析からわかったことを整理すると、以下 3 点にまとめることができる。 1.各不安を個別に考えるだけでなく、相互の関連に注目すると系統的な理解が可能に なる。5 種類の不安の有無に対して、数量化Ⅲ類を適用すると、 「第 1 軸=健康・年 金系不安軸」、「第 2 軸=賃金・雇用系不安軸」の2つの軸(次元)を抽出すること ができる。第 1 軸は中高年層で、第 2 軸は若年層で不安の度合が大きい。また、所 得階層別にみると、中間所得者層の賃金・雇用系不安が低所得者層よりも強いなど の特徴がみられる。 2.「不安が消費を抑制する」という現象がどの文脈で生じているのか、探ってみると、 「若年層が不安心理を持っていると、彼らは選択的消費を抑制する」という経路が 顕著である。また、その際に重要な役割を演じるのは賃金・雇用関連の不安であり、 健康・年金関連の不安はこの文脈では主導的な役割を演じていない。 24 3.不安は消費に直接影響するほか、消費パラメーターや政策評価に影響するという意 味で間接効果を持つ。間接効果も若年層において顕著であり、中高年層では検出さ れない。例えば、若年層では不安心理が大きいと期待インフレによる消費前倒し効 果が減殺される。また、不安が大きいと経済政策に対しても評価がネガティブにな りがちである。その際に重要な役割を演じるのは、直接効果とは逆に、若年層にと って長期的不安とも言える健康・年金関連の不安である。賃金・雇用関連の不安は この文脈では主導的な役割を演じていない。 以上の分析結果から、以下のような政策的インプリケーションが得られる。 1.不安を解消することによって消費を増やすには、若年層の賃金・雇用不安を除くのが 効果的である。実際の雇用情勢を改善し、賃金環境を改善するのが王道であることは 間違いない。しかし、景気循環に依存しない制度的な方策もあり得る。例えば、大阪 大学の大竹文雄教授は低所得フリーターから脱出できるチャンスを広げるような仕組 み作りが急務であるとしている。具体的には転職を容易にするような制度設計、能力 開発の機会拡充を通じて、労働市場の流動性を高めることを提案している。 2.不安心理の間接的な悪影響を緩和する、つまり政策効果を高めたり政策への信任を高 めるなら、若年層の長期的不安(健康・年金系不安)の軽減が必要である。このため には年金・医療保険制度がサステナブルであると認められるような改革が不可欠であ ろう。この意味では、最近議論されているような年金積立金の取り崩し、国庫負担の 引き上げといった施策は、現行の給付水準維持に偏しており、若年層の不安を増幅す る可能性すらある。包括的に維持可能性を模索することが必要である。 3.消費という観点からは、中高年層の不安を過大に考える必要はない。所得や資産を所 与とする中で、中高年層の消費促進を図るには、もっとニーズ・ウォンツに合った商 品・サービスを供給するする必要があろう。また、団塊世代など平均的に高所得者に 関しては、期待インフレ効果が大きいこともわかっている(長島、2003a) 。 以下5点を今後の課題とする。 1.経済的不安以外の“漠然とした不安”をどのように理解し、モデル化できるか検討す る。例えば、戦争やテロが消費抑制につながるのは周知の事実である。 2.不安構造の把握を数量化Ⅲ類以外の方法、例えば潜在クラス分析等の適用可能性を試 す。別の手法で本稿と同様の結論が得られれば、その結論はよりロバストになる。 3.「基礎的消費の増加が不安1を増幅する」という推測に関して、分析モデルに基づく因 果関係の検証が必要であろう。 4.「ダウンサイドリスク」と区別されるべき「不確実性」の調査法が課題として残る。 5.不安心理の間接効果、特に消費パラメーターへの影響について、所得効果、価格効果 なども含めて検討の余地が大きい。 25 <参考文献> 予備的貯蓄に関するもの ・ Carroll, C. (1992) “The Buffer Stock Theory of Saving: Some Macroeconomic Evidence” in Brookings Papers on Economic Activity 2 edited by Brainard, W. and Perry, G. pp61-156 ・ Carroll C. and Summers, L. “Consumption Growth Parallels Income Growth: Some New Evidence” in Bernheim, d. and Shoven, J. ed. “National Saving and Economic Performance” NBER Project Report, The University of Chicago Press ・ Caballero, R. (1990) “Consumption Puzzles and Precautionary Savings” Journal of Monetary Economics 25 pp113-136 ・ Dynan, K. (1993) “How Prudent Are Consumers?” Journal of Political Economy, Vol.101 No.6, pp1104-1113 ・ Hori. M, and Shimizutani, S.(2002)”Are Japanese Consumers More Prudent in the 1990s? Evidence from Japanese Micro Data” in ”Micro Data Studies on Japanese Household Consumption” ESRI Discussion Paper No.15 ・ Kimball, M. (1990) “Precautionary Saving in the Small and in the Large” Econometrica, Vol.58, No.1, January 1990, pp53-73 ・ Merrigan, P. and Normandin, M. 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「潜在変数を伴う構造方程式モデル(Structural Equations with Latent Variables)」 (Bollen, K.A, 1989.)という考え方もある。以下、前田(1995)にしたがって、簡単に数 式表現を記す。 まず、観測変数 x は潜在変数 ξ , η と測定誤差εの線形和に分解されると仮定する。これ は測定方程式、 x = µ x + Kη + Λξ + ε -----①( µ x は母平均ベクトル、 K , Λ は係数行列) で表現される。ここで x は nx 個の観測変数を並べた変数ベクトル、 K は j 番目の内生的潜 在変数 η j から i 番目の観測変数 xi への影響力をあらわす母数κij を要素とする行列、Λ は k 番目の外生的潜在変数 ξ k から xi への影響力をあらわす母数λij を要素とする行列である。 上記の測定方程式中の 2 種類の構造的潜在変数 ξ ,η の関係式は以下の構造方程式、 η = B * η + Γξ + ζ -----② −1 で表現される。ここで、 B = ( I − B*) の存在を仮定すると、②式は η = BΓ ξ + Bζ -----③ と書き換えられる。 以上の式において、η , x はモデルによって生成する変数なので内生変数、ξ , ε , ζ はその原 因を特定せずにモデルに導入される変数なので外生変数と分類する。また、すべての潜在 変数 (ξ ,η , ε , ζ ) の期待値は 0 と仮定する。すなわち、 E (ξ ) = 0, E (η ) = 0, E (ε ) = 0, E (ζ ) = 0 である。また、外生変数c=(ε’,ξ’,ζ’)の共分散行列 Σ c には ∆ 0 0 Σc = 0 Φ 0 0 0 Ψ を仮定する。以上の仮定のもとで、③を①に代入して、平均偏差ベクトルの積の期待値を とると、観測変数間の母共分散行列 Σ x は 7 つの母数行列、 K , Λ, B, Γ, Φ , ∆, Ψ により Σ x = ( KBΓ + Λ )Φ( KBΓ + Λ ) ′ + ( KB )Ψ ( KB ) ′ + ∆ と構造化される。 28 ここで、7 つの母数行列の要素すべてが自由母数であるわけではなく、それらのうち多く は値が 0 に固定された固定母数である。 自由母数は識別される範囲内で分析者が指定する。 自由母数の数を p とすると、モデルの自由度 df は df = nx (nx + 1) / 2 − ρ となる。つまり自由度は共分散行列 Σ x の非冗長な要素の数と自由母数の差になる。 7 つの母数行列の自由母数を 1 列に並べたベクトルを θ とし、母数の関数としての共分散 行列を ∑ = ∑(θ ) 、標本共分散行列を S とすると、最尤法推定で最小化する適合度関数 fML は f ΜL = tr (∑(θ ) −1 S ) − log Σ(θ ) −1 S − nx ) tr ((W ( S − Z (θ ))) 2 ) となる。モデルの説明力は、適合度 GFI = 1 − などで点検する。 tr ((WS ) 2 ) 29 <補論2> 選択的消費と消費全体の関係:脚注 15(p13)に関連して 選択的消費が不安の大小によって影響を受けるとして、消費全体への影響まで敷衍する には選択的消費と消費全体の関連を特定する必要がある。以下は共分散構造モデルによっ て、両者の関係を推測するものである。 <モデル 1:各消費項目の増減と消費全体の増減の関連(偏相関)を調べるモデル> ・ この結果、関連娯楽・自己研鑽消費と消費全体との関連が強いのは若年層であることがわ かる。 ① 若年層:20∼44 歳 支出額増減:子供の教育費 支出額増減:医療費 .16 支出額増減:食料品 .08 .39 支出額増減:衣料品 .17 支出額増減:消費全体 .13 .14 e1 支出額増減:住宅関連 .08 .36 支出額増減:情報通信 支出額増減:耐久消費財 支出額増減:娯楽・自己研鑽 30 ② 中高年層:45∼69 歳 支出額増減:子供の教育費 支出額増減:医療費 .14 支出額増減:食料品 .09 .40 支出額増減:衣料品 .17 支出額増減:消費全体 .10 .11 e1 支出額増減:住宅関連 .16 .21 支出額増減:情報通信 支出額増減:耐久消費財 支出額増減:娯楽・自己研鑽 (推定パラメーターは標準化係数、①、②いずれの場合もすべて 5%水準で有意) 31 <モデル 2:潜在変数を含むモデル化> ・やはり、若年層において娯楽・自己研鑽消費の消費全体への影響が大きいことがわかる。 娯楽・自己研鑽消費の選択的消費分野への寄与、及び選択的消費分野の消費全体への寄 与がともに若年層において大きい。 ① 若年層:20∼44 歳 e2 子供の教育費:増減 .34 e3 医療費:増減 .24 .73 基礎的消費 関連の増減 食料品:増減 .65 e4 衣料品:増減 .35 e5 e1 支出額増減:消費全体 e6 .56 住宅関連:増減 .29 e7 情報通信:増減 耐久消費財:増減 .43 .44 選択的消費 関連の増減 .60 e8 娯楽・自己研鑽:増減 e9 (推定パラメーターは標準化係数、すべて 5%水準で有意) 32 .84 ② 中高年層:44∼69 歳 e2 子供の教育費:増減 .37 e3 医療費:増減 .14 基礎的消費 関連の増減 .72 食料品:増減 .73 e4 衣料品:増減 .52 e5 e1 支出額増減:消費全体 e6 .33 住宅関連:増減 e7 .48 情報通信:増減 耐久消費財:増減 .47 選択的消費 関連の増減 .71 .51 e8 娯楽・自己研鑽:増減 e9 (推定パラメーターは標準化係数、すべて 5%水準で有意) 33 .65 <補論3> アンケート調査における標本の代表性に関する検討 社会調査の流儀に従えば、アンケートの実施に先立って住民基本台帳からのサンプル抽 出から始めるべきだが、本調査は消費者モニターを母集団としている。そこからのサンプ ル抽出になるため、標本の代表性に関する検討が必要である。このようなケースで広く採 用されている検討方法は、調査で得られた標本の特性を点検し、他の代表的な調査の標本 特性と大きく異なっていなければ偏りは少ないと判断することである。もし、異なってい ればその理由を吟味し、結果の解釈に際して留意することが必要になる。しかし、本調査 では母集団の特性も明らかになっており、その要約は図表 1 に示される。年齢、所得、職 業等、国勢調査などと比較して際立った隔たりはない。母集団は東京、大阪といった大都 市及びその周辺における平均的な家計、消費者を表しているといってよさそうである。 次に、こうした母集団から抽出したサンプルの特性を少し詳しく点検してみよう。回答 者の年齢区分は 20∼60 代まで、それぞれ約 200 サンプルに制御(層別抽出)しているので、 ここでは、家計の世帯人数、所得、資産についての分布特性を示す。世帯人数は 1∼9 人ま で最頻値 4 人を中心に分布しており、平均は 3.65 人である。これは、例えば日本銀行の金 融広報中央委員会による「家計の金融資産に関する世論調査」 (2001 年)の 3.6 人とほぼ一 致する結果である。また、家計調査には含まれない、単身世帯も含まれている。 (図表 1)アンケート調査における母集団特性 年齢構成 家計年収の分布 男性 0∼5歳 6∼11歳 12∼14歳 15∼17歳 18∼19歳 20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳以上 計 女性 0∼5歳 6∼11歳 12∼14歳 15∼17歳 18∼19歳 20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳以上 計 未婚 既婚 合計 2,222 0 2,222 2,580 0 2,580 976 0 976 740 0 740 405 3 408 1,122 527 1,649 143 3,788 3,931 45 3,149 3,194 26 1,549 1,575 37 878 915 29 374 403 8,325 10,268 18,593 2,095 0 2,095 2,397 0 2,397 900 0 900 693 2 695 411 4 415 1,250 951 2,201 167 4,531 4,698 52 2,690 2,742 38 1,453 1,491 29 806 835 25 537 562 8,057 10,974 19,031 総計 16,382 21,242 37,624 万円/年 300未満 300∼500 500∼700 700∼1,000 1,000以上 不明 人数 10,242 965 2,511 3,044 1,897 1,507 318 同居人数 % 100.0 9.4 24.5 29.7 18.5 14.7 3.1 全体 1人 2人 3人 4人 5人 6人 7人 8人 9人 人数 10,242 248 1,575 2,540 3,707 1,447 522 185 16 2 % 100.0 2.4 15.4 24.8 36.2 14.1 5.1 1.8 0.2 0.0 職業状況の分布 全体 男性 女性 人数 % 人数 % 人数 % 全体 37,624 100.0 18,593 100.0 19,031 100.0 フルタイム雇用者 10,999 29.2 9,486 51.0 1,513 8.0 自営業 1,366 3.6 929 5.0 437 2.3 農林漁業 37 0.1 18 0.1 19 0.1 373 1.0 316 1.7 57 0.3 自由業 2,401 6.4 37 0.2 2,364 12.4 パート等 7,862 20.9 416 2.2 7,446 39.1 無職 学生・乳幼児 14,389 38.2 7,343 39.5 7,046 37.0 不明 197 0.5 48 0.3 149 0.8 34 (図表 2)家計年収の分布 (図表 3)年齢区分ごとの所得階層構成比 年齢4区分 と 所得階層:低中高 のクロス表 年齢 4区 分 20・30代 40代 50代 60代 合計 度数 年齢4区分 度数 年齢4区分 度数 年齢4区分 度数 年齢4区分 度数 年齢4区分 の% の% の% の% の% 低所得者層 106 27.1% 13 6.7% 19 9.9% 85 43.8% 223 23.0% 所得階層:低中高 中間所得者層 高所得者層 268 17 68.5% 4.3% 138 43 71.1% 22.2% 109 63 57.1% 33.0% 86 23 44.3% 11.9% 601 146 62.0% 15.1% 合計 391 100.0% 194 100.0% 191 100.0% 194 100.0% 970 100.0% 図表 2 は家計の年収の分布を示している。構成比が最も大きい区分は 550∼750 万円で、 70 歳以上の高齢者世帯を含めていないため、各種調査よりも若干高めである。ただ、対応 する年齢階層に限れば、全国消費実態調査、家計調査などとほぼ等しい。上記の金融広報 中央委員会の調査も最頻値 500∼700 万円であり、本調査と類似した分布になっている。図 表 3 は年齢区分ごとの所得分布を示したものである。低所得者層は家計の年収が 400 万円 未満、中間所得者層は 400∼950 万円、高所得者層は 950 万円以上を意味している。全体 では、低所得者層 23%、中間所得者層 62%、高所得者層 15%である。50 代までは年齢階 層が上がるにしたがって高所得者の割合が増え、60 代で低下する。こうした観察、及び分 布は代表的な社会調査と共通している。 また、家計の年収は 50 代で最高になるものの、税や社会保障を差し引いた後、世帯人数 35 で割った「1 人当たりの可処分所得」を考えると、60 歳以上の方が高くなるという指摘も ある。本調査の標本分布によってこれを確認してみよう。図表 4 によって確かに指摘の事 実は確かめられる。ただ、50 代と 60 代の差は他の年齢階層どうしの差に比べて小さい。ま た、平均値ではなく中央値で見ると 50 代が高くなる(図表 5) 。これは 60 代の中に、かけ 離れた高所得者がある程度存在するためであり、このことは年齢階層が上がるにしたがっ て、分布のばらつき(標準偏差)が大きくなることから理解できる(図表 6)。こうした事 実から、購買力は 50 代がピーク、という言い方は概ね正しいであろう。 金融資産の分布は図表 7∼9 のようになる。 年齢階層別にみると、 高齢になるほど平均値、 中央値、ばらつきともに大きくなることが確認できる。 以上、確かめてきたような傾向は各種調査によっても確認されることであり、本調査の 母集団が特に傾向的な偏りを持っていないことがわかる。すなわち、世帯人数、所得、資 産といった指標から、本調査のサンプルは一般的な消費者を表しており、標本の代表性を 保っていると言える。 (図表 4)1 人当たり可処分所得の平均値 220 200 1人当たり可処分所得の平均値 180 160 140 120 100 20・30代 40代 50代 60代 年齢4区分 (図表 5)1 人当たり可処分所得の中央値 170 160 1人当たり可処分所得の中央値 150 140 130 120 110 20・30代 40代 50代 60代 年齢4区分 36 (図表 6)1 人当たり可処分所得の標準偏差 160 1人当たり可処分所得の標準偏差 140 120 100 80 60 40 20・30代 40代 50代 60代 年齢4区分 (図表 7)金融資産額の平均値 1600 1400 1200 金融資産額︵万円︶ の平均値 1000 800 600 400 200 20・30代 40代 50代 60代 年齢4区分 (図表 8)金融資産額の中央値 1000 800 金 融資 産額︵ 万円 ︶ の中央値 600 400 200 0 20・30代 40代 50代 60代 年齢4区分 37 (図表 9)金融資産額の標準偏差 1800 1600 金融資産額︵ 万円︶ の標準偏差 1400 1200 1000 800 600 400 20・30代 40代 50代 60代 年齢4区分 38