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大阪府キャンプ協会 第三回キャンプサ
2008 年度日本キャンプ協会BUC対象事業 2008 社団法人日本キャンプ協会 キャンプアカデミー (大阪府キャンプ協会 第三回キャンプサロン) 主催:(社)日本キャンプ協会 主管:大阪府キャンプ協会 協力:近畿ブロック支部協会プロジェクト 関西野外活動ミーティング実行委員会 ごあいさつ 日本キャンプ協会キャンプアカデミーが、大阪府キャンプ協会との共催により、多くの参加者の方々 にお集まりいただき開催出来ましたことを深く感謝申し上げます。 1975(昭和 50)年に始まったこのキャンプアカデミーは、27 年間で、53 期、延べ約 350 名の講師に よる講義(座)が展開され、3,000 名におよぶ受講生が聴講する、まさにキャンプ指導者のための「理論 と実践の学びの場」でした。 今回のテーマ「発達障がいについて考える」は、キャンプが永遠に追い求めている“キャンプでの対 象理解を深める”ための、現在の最大のキーワードの一つと言えるのではないでしょうか。 この切り口で開催されました本アカデミーの記録をこの度、報告書にまとめさせていただきました。 より多くの方々にお読みいただき、今後のキャンプ活動の実際の場面での有効なテキストとしてお役 立ていただければ幸いです。 最後になりましたが、講師を務めていただきました諸先生方、そして共催いただきました大阪府キャ ンプ協会の関係者の皆様に篤くお礼を申し上げます。 ありがとうございました。 社団法人日本キャンプ協会 会 長 野 澤 巖 も く じ ・ごあいさつ ・【第1回】『発達障がいとは ∼その種類や特徴∼』・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 ・【第2回】『発達障がい児の理解 ∼キャンプでどう受容れるか∼』・・・・・・ 20 ・【第3回】『発達障がい児と共に ∼キャンプ活動での事例から∼』・・・・・・ 28 ・ 資料編 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45 「障がい」のひらがな表記について 大阪府は 2008 年度より「害」の字をできるだけ用いないこととしており、 この報告書でも法令等を除き「障がい」と表記しています。 平成20年10月27日(月)19時∼21時 【第1回】 『発達障がいとは ∼その種類や特徴∼』 桃山学院大学 教授 郭 麗月 (児童精神科医・社団法人日本キャンプ協会 理事) 発達障害者支援法の成立 今、ご紹介にあずかりました郭です。社会福祉を学ぶ学生に教えている のですが、元々は医者です。元々は、と言いましたが、今も医者です。精神 科医をしており、大学では医学や精神医学を教えています。その中でも特に 児童思春期というものを自分の専門分野として、相談にのってきたという経 緯があります。 今日のテーマの発達障がいの子どもたちのことも、もう 30 年余りお付き 合いをしてきています。今、私がお付き合いしてきた中で一番年齢がいって いる方は 40 歳代になっておられて、長いお付き合いになっています。そういう事も少し踏まえながら、 どういう人を発達障がいと言っているのか、どういう特徴を持っているのかという事をお話させていた だこうと思っています。 発達障がいという言葉は、私が駆け出しのころはまだそういう呼ばれ方をしていませんでした。主に 病院で拝見する子どもさんというのは、自閉症というような名前であったりとか、それから微細脳細胞 損傷と呼ばれたりしていました。そういう呼び方も最近のことかもしれません。 日本ではいろんな福祉対応策、政策がある中で、例えば身体障がいの方は身体障害者福祉法がありま したし、知的な問題をお持ちの方は学習障害福祉法(従来は精神薄弱者福祉法)などですが、今、それ は精神障がいと合わせて障害者自立支援法という法律などで 3 障がい統一した支援策に移行したわけで すけれども、そういうものからもはみ出してしまう人たちがいました。学校での教育も、それから学校 を終えて社会に出てからも、本当は色んな支援を必要としているのに、つまり障がいがあるのに、そう いった支援の対象からはずれてしまうという方達です。 それが広汎性発達障がい、自閉症と呼ばれた人達のグループなんですが、そういう方達の中でも、特 に学習障がいがあまり強くない方々は、学習障害者福祉法の対象にならないというような事があったり、 さらには、AD/HD−注意欠陥/多動性障がいとか、その他類似する学習障がいとか、言語だけが落ち 込んでいる子どもだとかになってきますと、従来の支援法の中ではうまく対応ができないという事でし た。発達障害者支援法と言うのは、そういう発想の中で、いわば対象から外されていた子ども達を支援 する法律を作ろうという事になって、私と同じ様な仕事をしている、愛知県辺りの児童精神科医ですと か、その周辺の先生方がかなり働きかけをなさって出来上がってきました。そこで初めて発達障がいと 言う言葉が正式に出てきたわけです。 今日、お見せするスライドの中に、この障害という言葉の表記が、「害」というままになっているの やら、そうでないひらがなの「がい」、当用漢字ができる前の障害を表す「碍」などいろいろ混じって いるかとは思いますが、大阪府は 2008 年度から「障害」の「がい」をひらがなで表示することになり、 公式文書は全部これに切り替わっていますので、できるだけそういうふうにしていますが、法律なんか -1- は昔のままで、「障害」の「害」という字のままになっているものも入っております。まずそのことを ご了解下さい。 その発達障害者支援法ですが、これは 2004 年に超党派といいますか、議員立法で国会を通過したも のですけれども、その最初に発達障がいというのはどういう障がいを指すのかという定義があります。 「自閉症・アスペルガーとその他の広汎性発達障害」、 「学習障害」、 「注意欠陥/多動性障害」という言 葉が入っていますので、発達障害者支援法の定義に基づくと、この 3 グループの人たちを発達障がいと 呼んでいます。場合によっては、軽度発達障がいなど「軽度」という言葉がついていたりする事もあり ます。ただ軽度というのを付けるとちょっと語弊があります。学習障がいは軽いかも知れないけれども 社会的な面ではいろいろしんどい問題を抱えておられるという方達も少なくないので、軽度というもの を付けてしまうと、社会的な面も含めて軽いというふうに取られがちなので、あまり最近は軽度という のは付けなくなり、発達障がいという言葉でくくる様になってきています。 さらに、発達障害者支援法は厚生労働省管轄になるわけですが、発達障害者支援法とほとんど相前後 して、文部科学省の特別支援教育が始動しました。そこでもやはり今までの学習障がい、いわゆる特殊 教育と呼ばれるものの対象だった人にプラスして、発達障がいのこういったタイプの人達を加えて、特 別支援教育という形で改変していくというのが文部科学省の考え方です。二つの省はそれぞれ別に動い たのですが、ほとんど同時期にこういったものをスタートさせたという事です。 発達障がい、知的障がいの関係 知的障がい 広汎性発達障がい 注意欠陥・多動性 障がい 学習障がい 次に、学習障がい、広汎性発達障がい、注意欠陥/多動性障がい、知的障がいというのがどういう位 置づけにあるのかというのを視覚的にお見せできたらと思って、図を書いてみました。分かりにくいか もしれませんが、注意欠陥/多動性障がいの人、それから広汎性発達障がいの人でも学習障がいを一緒 に併せ持っている人、知的障がいのところと被っているグループの人もおられるし、また広汎性発達障 がいの特徴、学習障がいの特徴を、プラスして持ってられるとか、それから注意欠陥/多動性障がいが 主だけども学習障がいもお持ちだとかいろんなパターンがあるということです。医者の診断基準という のがあって、DSM とか ICD とかが今使われていますが、そこでは広汎性発達障がいと注意欠陥/多動 性障がいは、独立したものであるという扱いになっています。ですから両方の特徴がある場合には広汎 -2- 性発達障がいを第一として診断をしなさいというような、但し書きがついています。それに則とれば、 広汎性発達障がいの方をとりますが、臨床的にというか、実際に見ていますと、やはり広汎性発達障が いだけでは説明できないような多動とか注意の問題が激しい人もおられ、やはり医者、私たちの様な児 童精神科医の中でも、広汎性発達障がいと多動という問題が合併しているという判断をせざるを得ない タイプの方もいらっしゃるという事なので、多少ですけれども、重なっているだろうと、ちょっと頭の 中で描いていただくといいかと思います。 自閉症のはじまり それでは、それぞれのグループについて少し説明をさせて頂こうと思います。 まず広汎性発達障がいですが、英語で、 「pervasive developmental disorders」ということで、 「PDD」 という言い方をします。本を読まれると PDD という表現で出てくるかと思いますので、ちょっと覚え ておくといいと思います。 これは歴史的な事を言いますと、まず自閉症という概念があり、1943 年が歴史的には始まりという 事になっています。これはレオ・カナーというアメリカの精神医学者、ジョン・ホプスキン大学の方で すが、その方が 11 人の情緒的に交流が取りにくい子ども達の症例というのを、1943 年に発表されます。 それから翌年にオーストリアのアスペルガーという小児科医が、彼は非常に独特の対人関係や、独特の 物への興味を示す、4 人の子どもの症例というのを発表しました。それが自閉症の研究の始まりになっ ています。ですから、まだわずか 50 年の間の出来事なんです。もちろんそれまでもそういうお子さん がいなかったわけではないのですが、1943 年頃は、学習障がいとか精神障がいとか、発達障がいとか ごちゃごちゃになっていました。大人の精神障がいのいろいろな病名の定義みたいなものがやっと成立 され始めたところで、子どもはまだまだよく分からないまま、いろいろな実証が一緒になったところな んですね。 その中で自閉症という言葉が出てきます。これは余談になるかもしれませんが、後になってレオ・カ ナーがこの子たちに自閉症という名前を付けたんですが、それがそもそもちょっと間違いの始まりで、 自閉という言葉は大人の統合失調症、昔は精神分裂病と言われた病気の主要な症状の一つに「自閉」、 自ら閉じこもるという概念がありました。レオ・カナーがこの自閉という言葉をここに持ってきたのは、 その一番早い発症がこの自閉症の子どもたち、大人の統合失調症の一番若年版ということを頭の中で考 えられておられたのではないかというのが定説なんです。それで自閉症という言葉をお付けになったん だろうと。そのために、昔の児童の精神医学の教科書ですと、自閉症というのは子どもの精神病という 欄に分類されており、教育の対象ではない、医療の対象、治療の対象だという考え方をされていた時代 が、ずいぶん長くありました。 広汎性発達障がいの 3 つの特徴 そういう歴史があって、広汎性発達障がいという自閉症の症状を含むこのグループを広く捉えようと いうのが今の考え方になっています。この中心の症状についても、レオ・カナーの頃から色々紆余曲折 があったのですが、今世界的に統一されてこの広汎性発達障がいの人の中心症状というのは、次の 3 つ だと言われています。 A.社会的相互作用の質的障がい B.言語性・非言語性のコミュニケーションの障がい C.想像的活動の質的障がい -3- という様な、分かったような分からないような日本語なんですが、これを三つ組症状といい、この三つ がきちんと揃っている方を自閉症と呼びましょうという感じなんです。さらに年齢的には3歳未満で発 症するということです。 最近はさすがにそういう表現は少なくなってきていますが、少し前ではドラマなんかで間違いで使わ れて「私はあの、えー小学校の 4 年生の時の事があって自閉症になりました」なんてセリフが堂々と出 てきた時期もありました。ですが、そういうものではなく、3 歳以前というかなり幼い時期からその特 徴が既に出ていると考える事になっています。 この中身についてひとつずつ話を進めていこうと思っていますが、ちょっと参考にして頂きたい冊子 をご紹介致します。 これは「ええやん ちがっても」というもので、ご存じの方もいらっ しゃるかと思いますが、大阪府のこころの健康総合センターの HP から ダウンロードできるようになっています。小さな冊子ですが、絵がいっ ぱい描いてあって、一目で色々な特徴が分かりやすいように、かなり良 くできた本だと思います。大阪府の色々なところから予算を引っ張って きて何冊か作り、関係のところにお配りをしたのですが、そんなに沢山 作れなかったものですから、その代わりにこの HP からそのままそっく りダウンロードして、プリントアウトできるようになっています。もし 皆さんがまたそれぞれのところにお戻りになって、この障がいについて 説明をする時に参考として見せるものがないだろうかと思われたら、是 非こういうものをご利用頂いたらいいの ではと思っています。今日もこの中の絵を見ながら説明したいと思います。 また、続編があり、「ええやん ちがっても」の青年・成人版というこ とで、最近もう一冊出ております。先の冊子が小学生くらいまでの子ども さんの事を中心にまとめてありましたので、大きくなったこういうタイプ の人達の特徴についてもという事で、似たような表紙ですけれども、これ も同じようにダウンロードできますので、是非ご利用頂けたらと思います。 社会的相互作用の質的障がい まず、一つ目の特徴です。社会的相互性の質的障がいと呼ばれるもので、人との付き合い方に独特な ものがあります。あまり人に関心がない、同じ広汎性発達障がいのグループの中にいても、軽い方から、 その特徴が際立っておられる方までやはりかなり幅がありますので、皆が皆同じという事ではないんで すが、人との付き合い方が独特だというのはわりと大きくなられたり、それから知的に高い方でもやは りどこかにそういうものが見られるというのは共通しています。小さい頃で一番よく言われるのは、人 と目が合わないとか、人と遊ぶよりも物と遊んでいる方が好きだとか、あやしてもあんまり笑わなかっ たとか、テレビさえ見せておけば、黙って一人でじっとしていたとか、乳児期からそういう特徴がある という方が多いのですが、昔のことだからそのへんはあまりはっきりしていない人もおられるかもしれ ません。 ちょっと大きくなりますと、一般的には今度は子ども同士で遊びだします。例えば、公園に連れて行 -4- くと、普通の発達をされている子どもさんだと、砂場で何人かの子どもが遊んでいると、当然、子ども がいる方に興味を示して寄って行って、すぐには入れなくても、うろうろその周りをまわっている内に 何かのきっかけで一緒に遊びだす、というような事が起こってくると思うんです。ところが、この子ど もさん達はあんまり子どもがいるところには目を向けないで、たーっと端の方にある溝に走って行って、 そこに黙々と石を投げ続けるとか、公園の生け垣の葉っぱを一つ一つ引きちぎりながら歩いたり、じー っと蟻の行進だけを眺めているとか、普通の子どもさんが興味を持つようなところに寄っていかないと いうところがあり、人との付き合いよりも、自分の独特の興味の方に寄っていきます。さらに幼稚園と か保育園へ行き出すと、集団遊びができない、集団での行動が取れないでお遊戯の時にはみ出してしま うとか、先生が「さあ本を読んであげましょう」と言うと、どこかへ出て行ってしまうとか、そういう ような事で気づかれることが多いのです。その年齢で気づかなくても、さらに小学校に入ってもやはり 自分一人で動くことの方が得意で、人とペースを合わせて動くことが苦手です。少し機能の高い広汎性 発達障がいの子どもさんだと、授業中の方がいいという子がいます。授業中だと何をしたらいいかとい うのが先生の指示でわかるのですが、遊びの時間とかお昼休みの時間というのがもの凄く苦手で、何を していいか分からない。さあ皆運動場に出て行きなさいって言われるとしょうがなく出て行くけど、ど うしていいかわからないから端っこの方を走ってたいら、ボールがガツンッと当たったとか。そんな目 にあっていることがありまして、遊び時間が嫌いという子が結構いたりします。 それから、言葉を獲得するレベルになっても、人とのコミュニケーションの意味合いが分からない。 次のコミュニケーションのところにもかかってくるのですが、私たちは必ずしも言葉だけでコミュニケ ーションをとっていなくて、口で言っている言葉とその時の表情だとか、語調なんかで気持ちを伝えて いる事が多いんです。だから裏腹の表現をする事ってありますよね。例えば「これ触ってもいい?」― 「いいけど……」と言われたら「あかん」という意味だという、そのへんがよく分かりにくくて、いい って言われたからと触ってしまって後で怒られたり。そういうところがあって、言葉以外の表現で指示 しているものがなかなか読み取れない、という事もあります。場の雰囲気ですよね。葬式でみんながし んとしているのに、一人だけケラケラ笑ってしまったりとか。その場ではどうしなければいけないかが、 いわば阿吽の呼吸で伝えられるようなことというのがとても苦手なわけです。 それからさっきの様に言葉の裏の意味がわかりませんから、冗談がわからない。この前「アホ」と「バ カ」という話を学生とした時に、 「やっぱり大阪の人はアホって言うよな」という話でしたが、 「アホや なあんた」と言っても、別にそんなに悪気がないというのはその繋がりの中でわかるんですが、こうい うタイプの方は「アホやなあんた」と言われたら、すごく酷い事を言われたと怒りだしたりします。そ ういうちょっとしたニュアンス、冗談というのが全然通じないという所があります。私が診ていた方で、 もう仕事もされてたんですけども、社員旅行の席でちょっと悪さを社員たちがして、社長が少し脅かす というか、まあ軽く「誰やこんな悪いことしたんは。今晩は晩飯抜きやぞ」と言ったら、後で宴会場で みんなが食べている時に一人だけ食べないので、「どうしたんだ」と聞いたら「食べたらあかん」って 言われたからと、一人箸をつけなかったということがありました。そんな風に言葉通りの意味しかなか なか通じないような事があります。ですから少し仲間外れというか、みんなの中で浮いてしまう、今 KY という言葉がはやっていて、空気読めない子はどうしてもいじめられるみたいな雰囲気があります。 別に空気が読めなくてもある程度はいいと思いますが、そんな風潮の中ではどうしてもこの子たちは浮 き上がってしまって、どちらかというといじめとか、からかいとかの対象になってしまいがちだという ところがあります。 -5- コミュニケーションの障がい それからコミュニケーションが取りにくい子どもの問題です。 これはまず言葉が出にくいことがあって、発達の過程を見てみますと、言葉の出が遅かったとか、出 始めてもなかなか会話にならなかったとか、難しいことはしゃべるのに普通の会話が出来ないなんてい う子がいたりします。独特な言葉の発達みたいなものがある人が多くて、なかには人としゃべらないま まの子ども、単語が出なかったり、出てもほとんど会話に使わない、使えないという子どももいます。 だから、言葉の問題は社会生活を営む上でかなり大きな要素になります。 後でお話しますが、アスペルガータイプの方はほとんど言葉に問題はないんです。言葉の発達では引 っかかってこないんです。ところがさっき言った常識が通じないというあたりでかなり引っかかってき ます。ですから、しゃべれるけれど会話のキャッチボールが出来ないとか、表情などを読み取る事が出 来ないという様な、やや高度な会話の問題、コミュニケーションの問題がここで出てくる人がいます。 しかし不思議な事に、なぜだかは知らないんですが、よくしゃべる、しゃべれる広汎性発達障がいの 方がいます。そういう子は大阪にいても標準語の子が多いんですが、なんでだろうと思ったりします。 普通は親、兄弟、周囲の友達がしゃべっている話し言葉を聞いて覚えていくのですが、そういうのでは 覚えにくいことがあるみたいで、一番この人達に分かりやすいのは NHK のアナウンサーのしゃべり方 らしいのです。きちんとしたイントネーションで、きちんとした言葉でしゃべるのが一番受け取りやす いみたいで、そういう意味では決められた台詞の様な言葉を覚えるのが得意な子どもが多いです。私が 見ていた子どもでも、もうどう考えても、お父さんも、お母さんも、兄弟もみんな生粋の大阪人で、も うべたべたの大阪弁でしゃべってはるんですが、本人だけが「それがどうしたのか」などと言って学校 でからかわれたりして、本当に不思議な子がいました。やっぱり言葉の習得の仕方のどうも筋道が違う ようです。 だから、しゃべれるけれども独特のイントネーションでしゃべったり、自分の興味があることだけを 一方的にしゃべり続けるみたいなところがあります。以前、すごく有名な某国立大学を出たというアス ペルガーの方が相談にみえた事がありました。彼が何で来たかといいますと、成績は優秀でいらっしゃ るので、一流企業に勤められると思われていて、まあ勇んで、それこそインターネットで調べあげて面 接を受けに行かれるんです。就職活動ですね。でも全部ボツで、何でだろうと来られたんですね。どう も周りからあんたちょっとアスペルガーかもよって言われたからそれも合わせて見てくださいという ことでした。 面接に行ってどんな風にしゃべっているのか聞いたら、「こないだも一件行ってきたんですけど、ダ メでした」と。「御社の経営状況は…」と一時間ぐらい、とうとうと面接官の前でしゃべり続けて、し かも如何にあんたとこの経営がまずいかという話を、わーっと披歴して帰ってきたとのことでした。非 常に優秀な方なんだけどそれがどういう意味をもたらすのか、就職試験という場ではどういう事を言っ た方がいいのかというのがあまり分かってらっしゃらない。あれだけ調べて色々研究して行ったのにな んで僕を採ってくれないんでしょうねと、真顔でおっしゃっていましたけども、そういう所があります。 想像力の障がい 最後の想像力の問題というところです。いろんなイメージをもつというのがとても下手なところがあ ります。決まりきったものを覚えて記憶するという様なことは優れていて、本当に一回辞書を読むと全 部入ってしまうみたいな人とか、時々すごい名人がいます。来年のカレンダーもそろそろ出ますが、出 てくると3日間位じっとめくって見ている子がいて、3日後位にお母さんが来年の何月何日は何曜日っ -6- て聞くと、ぱぱぱっと答えてくれる、もう全部カレンダーが頭にばさっと入っているようなすごい子が います。過去5年のデータが全部入っている子がいたのですが、ちょっとからかってというか、彼の記 憶を混乱させるような質問(私はあまり興味ないので、きちんと調べたことはないですが、何年かする と同じ日が同じ曜日になる時があったりするらしいです)で、何年何月何日は何曜日かと聞くと、コン ピューターがヒューズしたみたいに考え出して、でも、それは何月何日と一緒だから…と、わーっと混 乱されたことがありました。時々精密機械が混乱するみたいですが、そういう風に羅列してあるものを 覚えるような事は独特の才能を持ってらっしゃるんです。ところが私たちから見ればとても簡単な、イ メージするとか、全く新しい経験とか、新しい場所に行くという様なことがものすごく苦手です。 たぶんキャンプなんかでもそうだと思いますが、何回かやるとここで何するというのが分かって落ち 着いていますが、最初何にも分からない所へ連れて行かれようとすると、パニックを起こしてしまうと いう事があります。それを一生懸命言葉で「何々があるから大丈夫よ」とか、「あの人と一緒だから大 丈夫よ」と説明をしても頭に入ってこない。そういうのはとても苦手で、言葉で説明をするよりも直接 見せたり、絵を描いたり、写真を見せたりという形で補ってあげないと、イメージが頭に浮かびにくい。 この人たちの脳構造について、今いろんな学者が研究していらっしゃいますが、多分これは記憶をする 装置が私たちとは違うみたいです。私たちの記憶の仕方とこういうタイプの方々の記憶の仕方がどう違 っているかというのがだんだん分かってきています。ですから、小さいころは何々博士という子がいま すね。例えば昆虫図鑑は全部覚えているとか、車の写真ならぱっと見ただけで全部分かるとか。私が診 ていた子では大阪の南の方のどこそこのだんじりというのが写真を見ただけで全部分かるとか、そうい ういろんな特技があり、自分の興味のある事はすごくよく知っているというところがあります。 その他の特徴としての感覚過敏 それから、さきの 3 つの中には入らないのですが、とてもよくあることなので、もう一つプラスアル ファとして理解してください。感覚が非常に独特で、その中でも一つとても鋭敏な領域があって、例え ば、音に対して鋭敏で、ちょっとした音にもの凄く反応してしまって耐えられないとか、ある種の匂い が絶対ダメだとか、ある種の映像が絶対ダメだとかいう事があって、よくもめます。運動会の時のピス トルのバーンという音がダメな子がいて、その子のためにその年の運動会はバーンとやらずにスタート するように工夫した小学校の事例が、この前学会で報告されていましたが、そんな風にある種の音だけ、 ある種の感触だけ、ある種のものだけがどうしてもダメというところがあります。 ところがある種の感覚が鋭敏なので、ある種の音がダメな子でもとても耳が鋭敏ですので、色々な音 が聞き分けられるという特技を持っていることもあります。ウルトライントロクイズみたいにできるん です。例えばクラシックの何番の何とかっていうのを全部覚えている子がいて、「ジャン」と鳴っただ けでわかる。こういう感覚過敏性みたいなものが、大きくなっていろんな能力に活きてくるという場合 もあります。私の診ていた子どもで小さい頃からものすごく色彩感覚が敏感で、大人になった今も非常 にきれいな色彩の作品をつくっています。 ですから、そういう様な子はやはり入り方のモードがちょっと違うというところが、なかなか理解し てもらいにくいです。感覚過敏な人達にとって苦しくなるような音や臭いというのが、他の人たちにと ってはどうでもないことだったりするものですから、学校でもどうしてもわがままだとか、何でそんな 事が我慢できないのとかって言われて、非常に苦痛に感じるという事があるようです。 他にも、よく T シャツのタグを切ってしまう子がいます。首筋にものが触るのが嫌で、全部切ってし まったり食いちぎってしまう子がいます。そういうのも発達障がいの感覚過敏です。 -7- その他の特徴2・記憶の仕方 それからさっきの記憶の話について、またこれも参考にして頂いたらいい書物の一つですが、ミネル ヴァ書房から出ている「不思議だねシリーズ」というのがあります。いろんな障がいを持った子ども毎 に絵本仕立てになっていて、大人が読んでも十分中身のある解説が後ろに付いています。どちらかとい うと、同じ年ごろの子どもたちにこの人たちの事を理解してもらうために描かれています。AD/HD と か自閉症、アスペルガーだとか、あと学習障がい、てんかんというように、たくさんのシリーズで出て います。その中の高機能自閉症、アスペルガーの子たちの中にある絵なんですが、どうもこの人たちは さっき言ったみたいな独特のものの覚え方をしていて、写真を撮るみたいにパシャってシャッターを切 った感じでものを覚えていくと。私たちはどちらかと言うと、物語にしてものを覚える、つまり物事に 意味付けをしていくわけです。例えば、今この会場にいろんな方がいらっしゃいますが、私は多分どな たがどこにおられたなんてことは、ほとんど明日になったら忘れていると思います。場面を絵として覚 えているのではなくて、キャンプ協会でこんなお話をしました、そこにたくさんの方が来ておられまし たという覚え方をしている。ところが、このタイプの方たちはそうじゃなくて、この場面がパシャっと 写真を撮るように、後ろにあんな絵が描いてあったとか、時計があそこにあったとかを綺麗に覚えてい たりします。そういう独特の物事の捉え方というのがあるみたいです。 感覚の話をさっきしましたけれども、これもその子によって多少違うんですが、やはり耳から入るよ りも圧倒的に目から入る方が強いです。たまに音の方が強いという人もいますが、たいがいは目から入 るものの方がやっぱり強くて、視覚に訴えるやり方でものを覚える方がスムーズにいく。ですから、絵 カードとか、いろんなサインだとかというのを示してあげた方が、行動がスムーズになるというのはそ のあたりに理由があるわけです。 愛知県にあります広汎性発達障がい・学習障がいの会「アスペの会」が出しておられる親御さん向け の冊子があります。この子たちは周りの風景をどう見ているか、さっきパシャって全体を撮るんだと言 いましたけど、それとは逆に、興味のあるものがある場合には周りのものは全部吹っ飛んでしまうとい うところがあります。だから、公園でブランコがあって「ブランコに乗りたい」と思ったら、そこに他 の子どもがいるとか、障害物があるとかというのが全部吹っ飛んでしまって、ブランコに向かって突っ 走っていく。そうすると、周囲の子どもを突き飛ばしたり、自分がつまずいて転んだりみたいな事が起 こるんですが、ほとんど他のことは目に入っていないという感じらしいです。 それをどういうふうに理解したらいいかというと、1.5 リットルとか 2 リットルの大きいペットボト ルの口の下を切って、大きな穴から周囲を見るという様な事をやって頂くと、如何に周りを見ていない かがよく分かります。 そんなシュミレーションをお母さんたちにしてもらったりしているグループがあります。 学習障がいがあるかないかも 広汎性発達障がいの話を 3 つの特徴を中心にお話をしてきましたが、このグループにもいろんなタイ プの人たちが一緒のグループに分類されています。三つ組症状をきれいにそろえている昔ながらの自閉 症と呼ばれるグループの人たちを自閉性障がいなんて言い方もしますが、自閉症と言われるもの、それ からさっき言ったみたいに殆どその言語性の問題、言葉の獲得ということについては、少なくとも表面 的には問題を呈せずにきた人たちのグループがあって、それがアスペルガーという名前で呼ばれていた りしています。 -8- その他、非常に最重度の体の症状も併発するレット症候群だとか、いろんなグループに、下位分類と いいますが、広汎性発達障がいでも非常に学習障がいが重い人から、軽い人までさまざまなタイプがあ るという事になります。 最初にお話しました発達障害者支援法でも、知的な遅れがないタイプの方たちを、主としてターゲッ トにしていますし、特別支援教育あたりでもひとつポイントになっているのは、学習障がいがなくて普 通学級にいる、でもこういう特徴を持った人たちにどういうふうに対応してあげると上手くいくのかと いう話がよくできています。キャンプに参加されて、皆さんがその対応に苦慮されているタイプの方の 中にもこういう人たちがいらっしゃるのではないかと思います。高機能広汎性発達障がいと括って言う のですが、そういう診断名は実はないんです。これはあくまでも便宜上付けた名前で、その知的な遅れ がない広汎性発達障がいの人たちということで IQ70 または 85 以上という様な括りをしています。70 と 85 というのは、どうしてこんなに差があるのかというと、IQ を測る年齢によってちょっと違ってき ます。小学校入学前に 70 位の子どもさんでも、さっき言った記憶のいい方がいますと、学校に行って 文字を覚えたり、記憶したらクリアできる項目があります。その辺りで IQ としてはぐっと伸びてきて、 80 以上になるケースもあるので、70 位で切ってもいいんじゃないかということです。 でも、取りあえず正常範囲以上という大まかなところで理解してください。先ほど言った 3 つの症状 はきれいにそろっている子どもでも、IQ 的には正常域に到達する高機能自閉症という方もいらっしゃ いますし、言葉の問題がないアスペルガーの人たちも高機能のグループに入ります。それから非定型自 閉症というのは3つが全部きれいにそろってなくて、そんなにこだわりもなく、想像性の問題も強く出 てこないというような、その中で高機能という括りでこのグループの人たちを高機能広汎性発達障がい と言っているということです。 アスペルガー症候群 そのアスペルガーですが、スウェーデンのジルバーグという人が疫学調査、どれ位のそういうタイプ の子がいるかというのを、一般の小学生にアンケート調査をされた時に作った質問紙の日本語訳があり ます。(ジルバーグの質問紙) いくつかの特徴がありますので見てもらうと、大人びている、ませているというのがあります。これ は妙に主観的なんですが、大人びているというのは、先ほど標準語でしゃべると言いましたが、妙に難 しい言葉で、理屈っぽくしゃべる子が多くて、これがまたみんなに嫌がられてしまう特徴になっていま す。私が診ていた一番知能が高い子は、国語の時間に詩をみんなで勉強していたとき、先生が「氷が溶 けたら何になるか」と聞いて、みんなが「春になる」と答える予定だったんですが、その子が「氷は溶 けたら水になるんだよ」って延々とぶち上げて、国語の授業が物理の授業になってしまったんです。湖 の氷が溶けると周辺地域全体が温かくなって、だから、氷が溶けたら田圃の雪も小川の氷もみんな水に なって、それが摂氏 4 度でどうのこうのって言い始めて止まらなくなって、先生が非常に困ったという エピソードを聞かされたことがありますが、そういう非常に理屈っぽい事を言ったりします。それから 変わり者っていう表現があって、自分の得意な分野ではとうとうと述べるのに、一方ですごく子どもっ ぽいところがあり、どうしてもものが譲れなくて「絶対渡さない」って泣き叫んでみたりとか、他の子 たちから見ると、チグハグな子ども、何か変わった子っていうふうに見られてしまうところがあります。 これもある人とない人とがありますが、独特のハイトーンで「僕はねー」みたいなしゃべり方をする 子がいたり、ちょっと特徴のあるしゃべり方とか、必要以上に大声でしゃべるっていう子もいます。先 生と二人だけだから小さい声でしゃべろうねって言わないと、すごく大きな声で、内緒話もできない。 -9- 「内緒なんですけどね」なんて大声でしゃべりだしたりする様な、その場に合わせたトーンを出せない ところがあります。 それから共感性の欠如というのがありますけれども、なかなか相手の気持ちが読めないというのは、 こういう非常に機能の高いアスペルガーの人にもあります。よく小学校のクラスでみんなの総スカンを 食らってしまうのは、自分がわーって泣いた時はみんなにかまって欲しいんだけど、他の子がわーって 泣き出したらケラケラ笑っている。相手が泣いているにも関わらず、その状況を面白がってしまって顰 蹙を買うというような事があったりします。なぜ相手が泣いているか、なぜ困っているかとか、その辺 がなかなか分からないという所があります。 また無意識に人を困らせるような発言というのがあります。子どもながらに、こんな時この人にこん な事を言ったらあかんよなっていうのはなんとなく察するものなんですが、この人たちはつかつかっと 寄ってきて「おじさん、何で禿げてんの?」とか言ってしまったりして、大人を慌てさせたことがあり ました。私が診ていた女の子は、電車の中で誰が見てもその筋の方と分かる人が足をどかっと広げて座 っていた時、みんな見て見ぬふりをしていたら、つかつかっと寄って行って「おっちゃんそんな座り方 したらあかんで」。お母さんは顔面蒼白になってどうしようかと思ったという話がありました。平気で 相手を見ずにしゃべってしまうみたいな事があったりします。 視線の異常ということも問題になります。なかなか目が合わなくて、結構よくしゃべるようなタイプ の人でも、視線を合わせてしゃべりにくい人がいます。これもまた某有名私立大を出たアスペルガーの 人が昔相談にみえまして、仕事はちゃんとできているはずなのに上手くいかないのはなんでだろうと。 上司に聞いたら、「君はしゃべる時、目を見ないだろう。あれは相手に失礼だよ」と言われたから、そ れからは目をみるように努力をしたんです。それから次はじーっと相手の目を見てしまうと。私はそれ ではまずいと思って時々ちらっと見ましょうと言った事がありました。何気なく視線を合わしてにっこ りするみたいなことが、なかなかうまくできないというところがあります。 また全員ではないですが、非常に不器用な方が多く、宇宙の果てではこういうことが起こっていると いうような事をペラペラしゃべる割には、靴の紐が結べなかったりとか、ちょっとした手先の事が上手 くできなかったり、これもまた他の子のいじめの対象になってしまうようなところがあります。 高機能発達障がい 高機能の人でもいくつかの問題を持っています。さっき言ったみたいな言葉の理解の問題です。言葉 の外側の意味や間接的な話だとか、そういう曖昧な表現がとっても苦手です。 たとえば私の診察室で、お母さんと私がいろいろ話さないといけない事がありますと、待ってる子ど もさんは飽きてきますから、「いつ終わんの?いつ終わんの?もう帰ろうよ」って始まるわけです。そ の時に「もうちょっと待ってね」と普通なら言うんですが、これがだめなんです。「もうちょっとって いつ?もうちょっとっていつ?もうちょっと経ったから帰ろう」などと、ずっと言われ続けて全然話が できない。こういう時には「あの時計の針が 15 に来るまで待ってて下さい」という言い方をするとピ タッと黙ってくれるんです。15 分が 16 分になったらまた騒ぎ出すんですが、15 分まではちゃんと待っ てくれるというところがあります。 私たちは気付かずに、日頃の会話の中で、 「ちょっとあれ」とか、 「もうちょっと待ってて」とか、 「ち ゃんとしといて」とかいうしゃべり方は、しょっちゅうしています。でも、その場で「ちょっとあれや っといて」と言ったら、まああの事だろうとか、そういうのが阿吽の呼吸で分かるわけですが、この人 たちはそれがダメです。きちんとした言い方、 「15 分」のように具体的で確実な事を言わないと、だめ - 10 - なんです。大学生でも最近こういった人がよくいまして、例えばゼミの先生が部屋を訪れた学生に対し て「今お客さん来てるからちょっとそこで待っててな」とか「ちょっと今はダメね。後でね」と言ったら、 ずっと戸口のところで待っていたという話を聞いたことがありました。それはやっぱり「30 分してから もう一度来なさい」というふうにきちんと言ってあげないといけないんですね。そういう曖昧表現を出 来るだけしない様にとか、間接的な、こっちの気持ちを察してちょうだい的な表現では通じないんです。 例えば、今私が「ちょっと暑いですね」と言ったとしたら、きっと係りの人が立って窓を開けて下さる だろうと期待をして言っているわけです。普通の会話ってそういうものですよね。「暑いよね、暑くな い?」って聞いたら、「アッ、そうだ」となりますよね。ところがこういったタイプの方は、「いえ暑く ありません」という返事が返ってきて、そこで終わりなんです。 それで腹を立てるのではなくて、言う人が「私は今暑いので、そこの窓を開けて下さい、5 センチほど」 と具体的に言ってあげるのが親切です。そうしたら、「分かりました」と、スッと立って、正確に 5 セ ンチ開けて下さいます。具体的に指示を出さない方が悪いわけです。そう思っていただくと、上手くこ の人たちと付き合えます。 相手の立場に立って さっきの社会的な面の問題ですね。人の気持ちが分かりにくいということです。要するに人の気持ち っていうのは、立場を変換して考えるというところから始まるわけです。自分がその立場だったらそう だろうっていう事、その入れ替えがなかなかできないところがあります。「あなたが私の足を踏んでい るから痛いのよ」と言ったら「私は痛くありません」という答えが返ってきたという笑い話があります けれども、まさにこの世界です。私が診ていた子で、イライラすると、人の二の腕をつまみに行くとい う変な癖のある子がいまして、「イライラするの、イライラするの」と言って、ギューって抓りにくる んです。あまりに痛いから、ある時その子の二の腕ちょっと摘まんで「痛いか」って聞いたら「痛い」 って。「そうでしょ、あたしがあなたを抓ったら痛いから○○ちゃんが私を抓ったら痛いねんよ」と言 ったら「痛くない」と言われました。 その簡単な立場の変換がなかなか分かってもらえない。だから、それがもうちょっと抽象的な、こう いう事を言ったら相手はどう思うだろうかとか、この場で何かをしたらあの人はどう感じるだろうかと かということが、もう本当に読めないです。 ついこの間もご夫婦でご相談にお見えになったのは、ご主人の方がそういうタイプの方でした。お仕 事はちゃんとお出来になるのですが、奥さんがもう離婚を考えたくなるくらい、日々ストレスだとおっ しゃるんです。どんな事が起こるか聞くと、これまでいろいろ言って、この頃は気を遣われるようには なってきた。ところがある時両手が塞がっているところへ、そのご主人がコーヒーを運んできてくれた。 ご親切にお砂糖とミルクもちゃんと添えて置いてくれた。よくできているのですが、両手が塞がってる ので、それを入れることも飲むこともできなくて。入れてと言ったんだけど気づいてもらえなくて、つ いに奥さんが頭にきて思わずガーンとやっちゃったんですって。そしたら、ガーンとやったことにご主 人が反応されて、反対にボールをバーンとぶつけて凄いバトルになったという話です。うちへ来てその 話をされて、 「じゃあその時はどうしたらよかったんだろうね」という話をしたことがありました。 そういうところがあって、相手がこんな状況だったらきっとこうだろうなっていうのを読み取るって いうのが、とってもしんどいなっていうことがあります。 厳密なデータ処理 - 11 - それからデータ処理が苦手です。さっきの 15 分までっていったら 15 分までじゃないとダメで、一分 でも遅れたらダメみたいなところがあります。原則主義で、原則どおりでないと、もの凄く嫌だという ところです。 私の所に来た高校生くらいの年齢の子の話です。例えば、(大阪と東京では反対らしいですけれど) エスカレーターでは片方に寄って、急ぐ方が抜けられるようにする、そういうルールが暗黙の内にあり ます。それは彼もわかっていて、ちゃんとそうしなければいけないと教えてもらっているので、自分は そうします。ところが彼にすればけしからん奴らがいて、二人並んでべちゃべちゃしゃべりながら、譲 ろうとしなかったということがあると、あんなやつは絶対許せない、ぶっ飛ばしてやるとか言って息巻 いているわけです。 確かにそれはルール違反ですけど、ぶっ飛ばすとかぶっ殺すとかいう様な話ではない。でもそういう 自分が正しいと覚えたルールに沿ってない人がいると、なんかすごく許せない。例外は許せないという ところがあるのです。 他にも知的にかなり障がいのある子どもだったのですが、特別支援学校に通っていて、そこの学校の 体操服は皆同じ型で、学年によって同じ色でという決まりがあるわけです。だから、体操服をちゃんと 着なさいと日頃先生に言われているわけで、着ないといけないと思っていた。そこに転校してきた子が いたんです。ところが転校したての子だから、体操服をまだ持ってなかったので、前の学校の体操服を 着て出てきたら、「お前はなんていうやつだ、規則を守らないのか」と言って、女の子をぶっ飛ばして しまって大ごとになった子がいました。 彼にしてみたらその子がルール違反で、自分は正しいんだという事です。なかなか事情を分かってく れなくて困ったことがありました。そういう決まった事は曲げられないみたいなところがあります。 再び感覚異常 最後は感覚の問題です。これはさっき言ったみたいに、知的に高くなってもその独特の感覚のこだわ りみたいなものを捨て切れないところがあります。電車の中でいろんな音に耐えられないと言われるア スペルガーのかなり年齢の高い人がいました。「どうしてんの?」と聞いたら、ウォークマンを付けて 外の音を遮断して、やっと電車の中に座っていられるとか。他にも耳栓をしている人がいたりします。 診察室に入ってきても耳栓してるんです。「声聞こえへんやん」と言うと、「いいえ聞こえます」って。 「いや、それなら耳栓していても意味ないのと違う?」と聞くと、「でも、なんか耳栓してると、ちょ っと気持ちがほっとするんです」と、自分で感覚遮断をして対応しています。逆に言うと、そういう事 をしてあげるとちょっと落ち着くのかもしれないなっていうところがあります。 これはさっきのお友達シリーズでもよくあるような場面ですが、皆が掃除を始めたのに、一人だけ本 に熱中していることがありました。掃除組の一人が「早く掃除しようよ」と声をかけると、「掃除?掃 除って何したらいいの?」という反応です。掃除という言葉ではダメで、「ほうきを持ってここを掃き ましょう」と言わないといけないわけで、うろうろしていたら、「おい、早くしろ」と後ろからパーン とやられて、パニックになりました。背後から急に触られることが、もの凄く苦手な人が多くて、ちょ っと触っただけなのに、本人はバーンとどつかれたって訴えてきて、友達に聞くと、「いや、後ろから チョンと突いただけやのにびっくりしたんや」という話になるんです。こういう事が起こってしまうと、 瞬間にパニックになって、バケツをひっくり返したりなんかして、そんな時に限ってそこへ先生が現れ る。すると、さらにまた「○○君こんなところで暴れて」という話になってしまいます。なぜ彼がこう いう状況に陥ったのかということ、ちょっとした組み合わせでそうなったということを考えてあげない - 12 - と、その場面だけを見て、「またこんなことして」と対処されると、本人は全く納得がいかなくて、困 惑してしまいます。 これもキャンプであるかもしれません。ルールのあるボールゲームみたいなのはとても苦手な子がい ます。ドッジボールをどこへ投げていいのか分からない、特にあの錯そうする状況で、敵味方を見分け たり、状況を読んでどこにボールを投げるのが一番いいかみたいな事をするのがとっても苦手で、「投 げろー」とみんなに言われて、思わず味方に投げてしまいます。こういう事をする子と遊んだら、分け わからんって言って放り出される事になったりするわけです。 どう対応したらいいかというと、やっぱり見通しがつくように、ここは何をするところだとはっきり してあげること、本人にとってとても分かりやすいということが原則です。ですから、ここは何々をす るところ、着替えるところみたいな、ちょっとした仕切りをしたり、置くものではっきりと分かるよう にしてあげると、そこではこういう事をしたらいいんだと、見通しが付いて動きやすくなります。 キャンプでは一つずつ、これはできるんじゃないかと思うことを丁寧にトライしてほしいです。 それから、さっきの感覚過敏の事ですが、こちらが大したことじゃないと思っていることでも、本人 がとっても辛いと思っている事があったりします。また、ケガをしても平気な顔してる、痛がらない。 反対にちょっとした事で痛い、痛い、しんどいとか、わーってわめきだす。さっき言ったみたいに、わ がままと捉えられがちなんですけれど、それはリアルに彼らの感覚であるわけですから、その事を理解 してあげて欲しいと思います。 だから、初めての体験でパニックになるような嫌がり方をする時は、一旦それは中止して様子を見て、 段階的にやっていく方法で、彼から見て怖いという体験をさせないようにしましょう。 また後で出てきますが、こういうことが積み重なってくると、外へ行ったり、みんなの中に入ると嫌 な事を無理強いされてとっても辛い、怖い目にあうみたいなイメージを持ってしまうところがあって、 それで学校が嫌いになって引きこもったりとか、集団の中に入るのをとても嫌がったりという事になっ て、その辺りで非常に問題を残してくる子どもさんがいるので、気を付けて欲しいと思います。 人との関わりの中で自尊感情を育む 人との関わりが社会的なルールの理解の仕方を教えてくれるという事なんです。 高機能の子ですが、いつも受付の前にじーっと立ってる子がいます。本人に悪気は全然ないのですが、 じっと立っていますので、受付さんとしては邪魔なわけです。「ちょとどいて」と言ってしまったもの だから、「あーそうですか」って素直に返事して、今度は診察室の前にじっと立っていて、私が出よう と思ったら扉がガーンって当たったんです。本人はじーっと立ったままで、今度は中に入ってきたから、 「あそこに立っていると、出て行く人が出て行けません。だから扉の前とか受付の前には立たないで下 さい。いる場所がなければ廊下に出てもいいよ」という事を説明をすると、「分かりました」と。だか ら、こういう時にはこうするというルールをきちんと教えてあげると、やってくれるというところがあ ります。 「わからない」とか、 「何でそんなことしてんの」というような事を言われると、何をしていい かわからなくなってしまいます。 それから、叱り方とか注意の仕方ですが、なるべく肯定的な表現をして、怖がらせない、嫌な思いを させないようにという事です。その子が言うべきセリフ、「こういう時にはこういう言い方をすると伝 わるよ」ということを教えてあげる事、不適切な表現しかできない子、自分の言いたい事がきちんと伝 わらない言い方をする子がいますので、「そんな言い方したら分かれへんよ」というような抽象的な表 現ではなく、「何々が欲しければ、何々を下さいという言い方をしましょう」と、教えてあげる事が大 - 13 - 事かと思います。 一番大事なことは3つのグループに共通していえますが、自尊感情が大切です。いろんな特徴を持っ ていて社会的にマイナス面はあっても、自分は自分で、それでいいんだよという事、自分でもできるこ とがある、自分ががんばればやれるようになる事があるということを分からせてあげるという事が大事 です。この子たちはからかわれたりいじめられたりという経験がどうしても多くなりますので、それが 本人にとって嫌な記憶として残らないように気をつけてあげる事がとても大事になります。 パニックの対処 反対にだめな事はきちっとダメっていうことも大切です。だめだと言ったときにパニックが起こると 私たちは困らされます。気をつけて接してもハプニングは起こるわけです。いったい何でパニックにな っているのかという事を、アスペの会の冊子の中から引用すると、よくあるのは、思い込んでいた事が 拒否されたり否定されたりした時。それから、自分で対処できない状況に置かれた時。予想を超える過 剰な刺激を受けた時。後ろからポンとされたり、ギュッと抱きしめられたりとか、分からない所に連れ て行かれるとか。 パニックにもいくつかのパターンがあります。ガンガンと自分の頭や顎を叩いたり、壁にバーンとぶ つかっていったりする自傷行動的なもの、周囲にいる人にかみついたり体当たりしたりする他害行動的 なもの、動作が止まってしまう、動かなくなるようなもの、ただただ泣き叫ぶもの、アスペルガーの子 に多いのですが、暴言を吐くというのもあります。突如周りに対して罵倒しまくって、かえって周りを 怒らせてしまうのですが、凄い言葉が出てくるんです。本人はあまり深い意味で使っていないのですが、 ぶっ殺してやるみたいな事を平気で言います。あと、キャーとかキーとかの奇声を出すこともあります。 対処方法としては、周りにいる人がどうしたのとか、黙りなさいとか、エスカレートして声を荒げる と、ますますこの子たちは興奮してしまいます。だから、まず落ち着いて行動する。それから刺激の少 ないところに行くことです。ちょっとした陰につれて行くとか、その刺激から外してやるということが 必要です。学校や授産施設のようなところでは、よく○○ちゃんのクールダウンのコーナーとか、狭い 部屋を作っているところがありますが、そういう決められた閉鎖的な場所では随分落ち着く子がいます。 パニックになった時に静かな空間でしばらくじっとして、さあ行こうって言うと、気持ちを落ち着け られる事があります。 あと好きなものですね、特に感触なんかで好きなもの。柔らかいものなんかを触っているとほっとす るとか、好きな音を聞くと落ち着くとか、中には食べるっていう子もいますけれども、その子が安心す るようなものを与える。だからその○○ちゃんのクールダウンコーナーには、好きな毛布が置いてある とか、好きなぬいぐるみが置いてあるとか、プチプチ(エアパッキング)が置いてあって、それをプチ プチやっていると落ち着いてくるんです。 それは何でもいいんですが、できたら戸外に持ち出せるようなコンパクトな物に切り替えていってあ げると、キャンプでもやりやすくなるのかなと思います。あるいはキャンプなどの場面では、もう一つ 全く別の場面に誘導してしまう。さっきまであんなにギャーって騒いでいたのが、嘘のようにケロリと して、ぱっと切り替わることがあります。もちろんその子の好きな事とか気に入った事とかでないとダ メですけれど。 パニックを起こしたからといって彼の要求を受け入れてしまったり、妥協するのではなく、そういう 場合はクールダウンして落ち着いてから言う必要があります。ダメな事はダメな事、しなければならな いことはしなければならない事として伝える。そして、もう一度何があってどうなってこうなって、こ - 14 - うしないでこうすれば良かったね、という様な事をちゃんと伝えるとか、言葉だけでは難しい子は絵に 描いたり、文字で書いてあげたりして、何が起こって次はどう対処したらいいかというのを、落ち着い てから伝えていくことが大事です。 今まで話したことのまとめみたいなものですが、威圧的な言葉をかけない、出来るだけ予測可能なス ケジュールを見せる、環境の調整をして苦手な感覚から遠ざけるなどが必要です。言葉だけでは分かり にくいところがありますので、いろいろ視覚的なものや、きちっとした表現方法で理解を助けること、 自分からの表現の仕方を身に付けさせていくという辺りです。上手くそういう対応がされなくて、度重 なっていじめられたり、嫌な思いばかりが続くような事があると、周囲に対して恐怖感とか、場合によ っては怒りや敵意を持ったりします。また自尊感情が低くて、自分はダメなんだ、どうせ僕なんかやっ たって怒られるだけや、みたいな感情を持たせてしまうと、思春期以降、成年期以降にいろいろな精神 症状が出てくる事があります。 最近、よくフラッシュバックなどの症状で診察を受けに来る人が増えています。広汎性発達障がいと いうことではなくて、精神科にこられてからよくよく調べてみると、ベースに広汎性発達障がいがあっ たという方が結構いらっしゃったりします。 出てきた症状が強い場合はお薬を使ったり、いわゆる精神科の治療を受けて頂くという事をするんで すが、広汎性発達障がいがベースにある場合は、その事をご本人がわかって、どうやったら上手く対応 できるかということに本人を導かないと、なかなか対症療法だけでは上手くいかないのです。 注意欠陥/多動性障がい(AD/HD) 次に注意欠陥/多動性障がいの事をお話します。注意欠陥、つまり注意の問題と多動、衝動的な行動 というのが、この子たちの中心症状になります。英語で Attention Deficit/ Hyperactivity Disorder というので、一般的に日本でも AD/HD と呼ばれています。これは 7 歳未満で既にその特徴が出てき ます。7 歳というのは、就学の時期です。それより前にそういう事が出てきているということです。 オーストリアの精神科医が描いた絵本の中に、ばたばたフィリップちゃんという子が出てきます。マ ザーグースみたいな感じで韻を踏んだ詩の様なものがついた文章ですが、食卓に向ってお母さんが「フ ィリップちゃん食事の時はじっとしないとダメだよ、バタバタしないのよ」と言う、ところがフィリッ プちゃんは椅子をばったんばったん揺らしてなかなか止めようとしない。ついには揺らしすぎてひっく り返りそうになって、テーブルクロスにつかまったらばっしゃんと全部ひっくり返っちゃっいました、 というようなお話です。それから上の空ハンスという、しょっちゅう空の鳥とかを見て歩いている子、 全然前を見ないで歩いていて崖の下に落ちたり、水の中にはまったりということばっかりしているハン ス君のお話です。 この本は精神科の医者が、自分の子どもたちに向けて書いたという絵本です。こういう事をしちゃい けないよっていうニュアンスの絵本なんです。それが 1865 年、1800 年代中ごろのお話です。ですから、 もうその頃にはこういう非常に注意がそれやすい子とか、行動が落ち着かない子というのが注目されて いたということです。例えば具体的に、自分に言われた事を聞いていないとか、最後までやり切れなく て、途中で止めて他のことをしだすとか、よく物を無くすとか。 こういう事を言いますと、皆さんもどうですか。自分を振り返ってみるといくつかはあるんじゃない かと思います。けれど、これはあくまでその人の年齢とか、状況とかに不釣り合いな位という但し書き が付いているので、多少のこうした行動があっても AD/HD だとは限りません。また程度の問題もあ ります。物を無くすといっても、いくら持たせても帰ってくる時には文房具が全部無くなっていて、す - 15 - っからかんになってしまっている。また次の日持って行ったら、無くなって帰ってきて、どこに置いた かと聞いてもさっぱりわからない。そうなってくると、ちょっと問題だなという事になってくるんです。 しかし、たまに落とすくらいは、誰にでもありますので問題はないんです。 多動というのは、しょっちゅうどこかもぞもぞ動いているだとか、じっと座っていられないとかいう 事ですが、そういうことも誰にでも多少あります。しかし、衝動性、これは結構問題になります。さき ほど、ブランコを見て飛び出していくという話がありましたけれど、AD/HD の子どもは、道路に車が 来ているのに平気で飛び出してしまうとか、高いところに登って落ちるとか、よく怪我をしたりします。 こういう事が AD/HD の特徴です。 この人たちにどう対応したらいいか。最終的は「そこにいてもいいんだよ」という、あるいは「君は そのままでいいんだよ」という、自尊心を回復させることが目標です。 注意の障がいというのは転動性といいます。黒柳徹子さんが窓ぎわのトットちゃんという本を書かれ ました。読まれた方もいらっしゃると思いますが、授業中でも外でチンドン屋さんの音が聞こえたら、 パーっと窓際へ飛んで行って「わー、チンドン屋さん来てる」という事を書いてますが、授業中だから ということは分かっていても、ちょっと別のものが目に入ったり、耳に入ったりすると、もうそっちへ 飛んでいってしまって、こっち側は忘れてしまっているというようなタイプで、これは小さな子だった ら誰にだってあります。それが大人になっても変わらずに残ってしまうことがあります。 実は AD/HD は子どもの病気だと思われていました。だから、ある程度の年齢になると、ばたばた 動き回るようなことは減ってくるので治ると考えられていたのですが、そうではなくて、結構大人にな ってもこういう特徴を持っている人がいます。大人の AD/HD っていうのがここ 2、30 年話題として 上がってくるようになりました。 「片付けられない女たち」という本が出た後、TV がセンセーショナル に取り上げて、ごみ屋敷といわれる、ゴミ箱の様な部屋で片付けられない人がいると、ちょっとおもし ろおかしく取り上げた時期がありました。ちょっとブームになって、私たちのところにも大人の女性が たくさん診察にみえたんです。でも本当にこういうタイプだなっていう人はそんなに沢山はいらっしゃ いませんでした。 その中に一人、男性の方がいらっしゃいました。一般に、簡単な発達検査をして、注意力の問題を客 観的に見てみるテストをするのですが、この方はちゃんとできました。どちらかというと IQ の高い方 でしたが、後でお話を聞きますと、 「もの凄く努力したんです」とおっしゃるんです。 「何を努力したん ですか?」と聞くと、例えば、この計算をして下さいとか、この図形と同じものを選んでください、と いう様なテストをするんですが、これに集中しようと思っても、ひょっと横を見るとテスターがストッ プウォッチを持っています。それが気になる。ストップウォッチを置くと横に消しゴムが置いてあって、 これはどこの消しゴムやろうとか、その横にボールペンがあると、これはどこ製のボールペンで何色や ろうとか、どんどんどんどん気になってくるんだそうです。それで、必死にテストに注意を向けて、な んとか無事終わったんだと、後で教えて下さいました。その方が何でご相談にみえたかと言うと、デザ イン関係のお仕事をされていて、デザインのアイデアはすごく沢山出てきて、クライエントさんにも買 われている方なんですが、「これでいきましょう」と決めて、素材を決めて、なんとかをして、で、最 後に見積書を書かなければならない。そこがダメなんだそうです。見積書なんていうのは一晩もあれば 十分書けるんだそうですが、それが三日三晩かけてもなかなか書けない。それはなぜかと言うと、さっ きみたいに見積書を書き出すんだけれども、横の時計が気になって、横の消しゴムが気になって、その 内本棚に目が行って、それを見つめていると 2、3 時間たっていて、あーっていうのを三日三晩やって、 必死でなんとか仕上げると間違いがいっぱいあって。そういうので困っている、という話でした。 - 16 - そういう注意がそれるのは、ある種の薬を使うと、少し抑えることができるという事を聞いて、精神 科にお見えになりました。皆さんが接しておられる子どもさんの中にも、服薬をしている子がいると思 います。そんなの効くの?と思ってらっしゃる方もあると思いますが、効くタイプの子にはもう不思議 なくらい効きます。書く字が全然違ってきます。注意がそれている時に書いていると、枠からはみ出し て、大きいのやら小さいのやら、こんがらがった字を書いている子が、薬を飲んだ時にはきれいに枠に 入った字を書く位違ってきます。このタイプにもサブタイプがあって、きちっと効くタイプの方とあん まり効かないタイプの方と、いろいろいらっしゃるので全員がそうではないのですけれど。 先の大人の方は、そういうことも調べてこられまして、ちゃんと見積もりを書くためにその薬は飲め ないだろうかという相談でした。今はもう法律で大人には処方できなくなったのですが、その頃はまだ できたので、じゃあ見積書を書く間だけ飲むという形で限定的に使ってみますかということで、薬をお 渡ししました。また診察に来られて、一晩できれいに見積書が書けましたと。「あーそれは良かったで すね」と私も喜んだのですが、その割には浮かない顔をしておられたので、「どうされたんですか」と 聞いたら、アイディアが浮かばなくなったと言うのです。普通だったら連続的に行くような注意の先が、 AD/HDの彼はひょいっと飛ぶ、その先に彼のアイディアがあったようなのです。 それを考えると、子どもにそれを飲ませていいのかなって思います。その子ども本来のある面をちょ っと抑え込んでいるのかも知れないなって思ったりもします。子どもは飲んだらどうなったということ をなかなか教えてくれないんですが、ある子どもに「飲んだらどうなるの」と聞いたら、「しーんとな る」と言いました。 「しーんとなったらどうなの」と聞いたら、 「先生の言う事は聞こえるけど、面白く ない」と言いました。 そういう事がありますので、注意を集中させるような時に、お薬を使う事もありますけれど、できる だけ刺激を少なくして、短時間に集中してやるということが大切です。 この子たちがよく親に叱られるのは、「宿題しなさい」と言われてやり始めるんですが、例によって 周りが気になる。隣でテレビの音がしてる、お姉ちゃんがあっちでなんかやってる、台所からいい匂い がしてきた、とかいうことがあると、こんがらがってなかなか前に進めない。10 分か 20 分してお母さ んが見に来ると、 「一つもやってないじゃないの」と怒鳴られるわけです。 「最後までやらないとご飯食 べさせませんよ」などと言われると、もうダメですね。終わるまでって言われるといつ終わるか分から ない、いつ終わるかわからない事を我慢することなんてできなくて、「もう宿題なんかやだー」となっ て、親子げんかが始まるというのがよくあるパターンです。短時間、5 分とか 10 分とかでできる課題 をパッと与えて、ちゃちゃっとやったら、終わりにして休憩を入れ、また次の課題をやるみたいな短期 間勝負をした方が向いています。それが時間の統制という話です。 彼らは活動エネルギーが高いですから、しっかりと体を動かさせてやるのも大事だと思います。それ から、先ほども言った様に、バーンと他の子どもを突き飛ばしたりなど衝動的な行動をした時には、周 囲から怒られるわけですが、なぜそうしたのかを聞いてあげる。「あそこのあれに早く行きたかったか ら走って行ったんだ」と言ったらそれは認めてあげる。「早く行きたかったんだね、早く遊びたかった んだね、分かった。だけど、その時に周りを見ないで走って行くとけがをしたり、周りの人を傷つけた りするから、見てから走るんだよ」というような、キチンとした説明が必要です。 「あんた何してるの」 という様な叱られ方をまずされると、本人には何がいけなかったのかわからないまま、不満だけが残っ てしまいます。 自己コントロールということも彼らには学んで欲しいことです。衝動的な子というのは攻撃的になり やすくて、ちょっと何か言われたら手を出してしまう。手を出した方が負けで、先生に叱られるという - 17 - のが結構多いんです。カーッとなった時に自分に気付かせるような事をするトレーニングをしたり、よ くやるのは深呼吸しろとか、冷たい水を飲みなさいとか、とにかく手が出そうになったら先生の所に行 こうとか、感情の処理の仕方を覚えさせる事も必要です。 それから学習面に問題がある子どもも多いのです。IQ は決して低くないし、勉強はやればできるん ですが、注意がそれてしまうことで、どうしても先生の話が半分しか聞けていないとか、ノートが半分 しか取れていないということで、二次的に学習が進まないという事があります。学習が進まないと、分 かるまで頑張ろうというのは苦手で、ぱっとわかってぱっと終わりたいというところがありますから、 学習意欲を削がないように、順番にできることからしていくとか、さっきの話のように、少しずつやっ て成果を出して、それを認めていくというやり方がいいんだろうと思います。 怒られちゃうんですね、この子たちは。いつでも怒られる。「また」とか言われるんです。お母さん たちはこういう子どもを持たれると、朝から晩まで叱ってる事が多くて、意図的に今日は 5 つほめまし ょうというように、お母さん方にお願いする事があります。そういう感情面の落ち込みをどう減らすか ということが大切です。 学習障がい(LD) 最後に LD の話です。学習障がいといいますが、文部科学省の定義では「聞く」 「話す」「読む」「書 く」 「計算する」 「推理する」の 6 分野の内の特定の分野が困難だということなんですが、医者の立場か ら言わせますと、これはあまりにも広すぎます。こうすると、学習でつまずいているほとんどの子が入 ってしまうので、当然高機能の広汎性発達障がいの子もこの中に入ってしまって、広汎性発達障がいの 特徴を注意してもらえずに、学習技術の問題として取り扱われてしまい、上手くいかない時があります。 文部科学省の LD は学習障がいの Learning Disabilities という言い方の LD で、医学的には Learning Disorders で、Learning Disabilities と Learning Disorders で呼び方の違いがあります。二つとも大体 同じ内容を持っているのですが、読字障がいとか計算障がいとか書字障がいというような独特のあるス キルだけが上手くいかない、そういうものに限定して医学的には LD(学習障がい)と呼びます。読字 障がいというと、読むという事に関してだけが非常にしんどい人に限定されそうですが、そうでもあり ません。何日か前の NHK テレビでの学習障がいの番組をご覧になった方いらっしゃいますか。あれは かなり突っ込んだことをやっていましたが、あの番組に例として出ていた方は建築のお仕事をされてい て、3D みたいな立体構造が頭の中だけで描けるすばらしい能力を持ってる人なんですけれど、普通の こういう文章が読めない。声に出して読むという事になるとガタガタになってしまい、それで小さい頃 から苦労されているという事をおっしゃっていましたが、まさにそういう方を医学的には学習障がいと 呼ぶんです。だから、国語が苦手で国語の点数が悪いみたいな話になると、その結果としてそうだとい う事はあり得るかもしれませんけれども、国語の点数だけが悪いからというのはちょっと曖昧すぎるな って。そこでそういう人たちはどうなっているのかというお話なんです。発達障がいの診断基準 DSM Ⅳのさらに改訂版というのが出ていますが、そこに診断特徴としてあげられていて、学習上の問題があ るというだけでなくて、学業成績または日常生活、さっきのテレビの方の様に文字を読んで生活をする という事に非常に支障をきたしているという事が、前提になっています。単にちょっと成績が悪いとい う話とはちょっと違うということです。その方の様に立派にお仕事はされているんですが、学習障がい というのは基本的には成年期まで残っているというものを指すという事です。 この人たちがどんな風に文字を見ているか、例えば、こんな風に見えているんだろうと思います。こ のようにダブって見えてしまってちゃんと字が読み取れないとか、左右が反対になっている鏡文字、文 - 18 - 字を習いたての子どもが「く」を反対側に描いたり、「し」のはねを反対側にしたり、「ち」と「さ」の 区別がついてなかったり「シ」と「ツ」わからなかったりという子は結構います。だけど書いているう ちにだんだんと正しい書き方になるんですが、この人たちはいつまでたっても正しい書き方に変わって くれない。書く時も逆になりますし、読む時もそうです。ずーっと読んで行の下まで行って、左の行の 上まで行かない人がいて、一つ飛んだりとか元にもどったりとかして、本を読むことが出来なくて変な 読み方になったりする。 それから、文字の一つひとつは読めるんだから、ゆっくり文字を追いかけていけば読めるのだけれど、 私たちは普通そういうように文字を追いかけていかないんです。文章を読む時、1 行目を読んでいると きに、目はもう 2 行目にいってるんです。声と目が同じところになくて、頭の中で読んでいるわけです。 そういう事ができなくて、「第・一・章・で」みたいな読み方じゃないと読めない、そうなると文章の 意味を捕えながら読むということがとても難しくなってくるんです。 LD というのは世界的にあります。文字が読めないとか書けないとか、アメリカではそういうディス レキシア(Dyslexia)とかディスグラフィア(Dysglaphia)という読字障がいとか書字障がいは有名 な人でもたくさんいます。例えば、皆さんよくご存じのトム・クルーズが読字障がいというのは有名な 話で、彼は台本が読めないそうです。全部読んでもらって録音して覚えるというのは有名な話です。 ロサンゼルスに行った時に、「あの外科医の先生は文字書けないよ」という場面に出会いました。す ごく有能な外科医なんですが、手術の記録は口述筆記してもらったり、タイプだったら打ち込めるんだ そうです。 英語圏だとか、アルファベット文字を使う人たちの中には LD は結構多いという話です。昔は日本語 圏ではこういうディスレキシアみたいな例は少ないと報告されていました。確かに頻度からいうと少な いです。それはなぜかというと、日本語は表意文字である漢字と表音文字であるひらがなを混ぜて使う ので、全部アルファベットの文字の様に無意味な音だけがつながっているというだけじゃない。なので、 まだ捉えやすいのではないかといわれています。そういう研究も随分されていて、昔考えていたほど少 なくはないという結論が出てきました。 その話をボストンのディスレキシアをやっている先生と話をした時に、「じゃあ日本人の子どもが英 語を習い始めた時にディスレキシアの子が見つかるんじゃないか」と言われ、あっそうかと思っていた ら、一人出会いました。国語なんかは全然大丈夫でやれる子が、英語が始まったとたんにアルファベッ トが綴れないっていう子に。やっぱりこういう子がいるんだなと思いました。計算もそうです、計算が とことんできないという様な子を医学的には学習障がいと基本的には呼びます。 こういう子どもたちにはやはりスキルです。スキルの問題なので、例えば「行」が飛ぶ子には下敷きに 穴をあけたようなものを作って、一行ずつずらしながら読むとか、升目を大きくしてやって、そこに収 まる様に字を書く練習をするだとか、そういうスキル上の手助けをすることで、ずいぶんカバーされる のではないかといわれています。 最後に、実際の子どもというのはこんなにきれいにグループが分かれているわけではなく、PDD の 子だったら多動があったり、AD/HD の子でディスレキシアみたいな症状が重なっていたり、学習障が いも少しあったりと、いろんなものが混じり合って子どもたちは存在するので、一人ひとりの子どもは やっぱり違うんです。だから、こういう各グループの特徴を頭に置かれた上で、その目の前の子どもが 一体どんな特徴を持っているかを見ていただきたいなと思います。 最終目標はその子が自分はここにいていいんだと思える様な対応をしていただくことだと思ってお ります。 - 19 - 平成20年11月17日(月)19時∼21時 【第2回】 『発達障がい児の理解 ∼キャンプでどう受容れるか∼』 桃山学院大学 教授 石田 易司 (社団法人日本キャンプ協会 常務理事) 私とキャンプ 私はキャンプの話をすることが何よりうれしいという人間です。今日のよ うに、キャンプの話をするときに、わくわくしている自分がまたうれしい。 私のバックグラウンドはアサヒキャンプという団体です。大学1年の時に ボランティアのカウンセラーになり、キャンプがしたくて卒業後朝日新聞に 入り、アサヒキャンプのディレクターを 25 年しました。その後現在の桃山 学院大学に移って 10 年の、合わせて 40 年間、キャンプをしてきました。 学生ボランティア時代、社会人の時代の 40 年をとおして、キャンプ人間 のすばらしさを感じることがいっぱいありましたが、95 年の阪神淡路大震災のときが印象に残っていま す。救援に行かなければと、飛び出したのですが、こうしたときに私たちキャンプ人間はいつでも出て 行けます。何もなくても生活に困らない技術があります。寝袋やコンロなどの道具も持っています。キ ャンプとボランティアは近い存在ですから、ボランティアとして仕事の仕方もわかります。キャンプは 組織で動いていますから、組織者(オーガナイザー)としての役割も果たせます。わたしもすぐに仲間を 募って神戸に向いました。市役所に近いビルで床の上にダンボールを敷き、寝袋で寝るという生活を半 年過ごしました。そんなことがすぐに出来る人間って素敵だと思いませんか。 今日、話をする発達障がい児のキャンプもそうですが、アサヒキャンプというのは、朝日新聞の社会 貢献活動として実施していたキャンプです。けれど、新聞社といえども株式会社で、他の新聞社と競争 しているわけですから、利益をそのまま社会に還元するという側面も持ちながら、朝日新聞のイメージ を高めるとか、もっと直接的にひとりの読者を獲得するとか、記事に反映するとか、利益追求の側面も 併せ持っていました。 ですから、ニュースになるキャンプをすることも要求されていたわけです。いつも社会の動きをにら みながら、社会の問題をキャンプを通して解決する、そのことで新聞社の利益につながるということを 強いられていたわけです。ですから、従来の青少年を育成するキャンプというイメージからは多少離れ たキャンプに、年に一つや二つは取り組まなければなりませんでした。私にとっては青少年の健全育成 のためのキャンプも障がい児キャンプも同じイメージだったのですが、世間はそうは取っていなかった ように思います。その結果、次の表のような多様なキャンプをアサヒキャンプでは実施しています。 ・ 1953 肢体不自由児キャンプ ・ 1953 生活保護児キャンプ ・ 1958 知的障がい児キャンプ ・ 1960 非行少年キャンプ ・ 1961 ぜんそく児キャンプ ・ 1971 公害地区の子どものキャンプ - 20 - ・ 1972 サリドマイド児キャンプ ・ 1978 自閉症児キャンプ ・ 1981 不登校児キャンプ ・ 1983 在日ベトナム難民子どもキャンプ ・ 1983 中国帰国者キャンプ ・ 1985 ハンセン病療養所キャンプ ・ 1992 学習障がい児キャンプ ・ 1993 認知症高齢者キャンプ ・ 1993 精神障がい者キャンプ 私は 1968 年にアサヒキャンプのカウンセラーになり、4 年間学生ボランティアとして活動し、73 年 から 98 年までキャンプディレクターをしました。ですからこのキャンプの大半を、責任を持って実施 していたのです。 初めての発達障がい児 はっきり発達障がいといえる子どもたちとのふれあいは、76 年に始めた障がい児と健常児の統合キャ ンプ「フェローシップキャンプ」が最初です。もう 30 年以上も前になります。肢体不自由児や知的障が い児、聴覚障がい児などさまざまな障がい児の中に、重度の自閉症児がいました。何もしないでずっと 海を見ているだけの「ふねくん」と、何かをしようというとすぐ奇声を発する「ぎゃーくん」の二人でし た。しかし、彼らは障がい児 4 人、健常児 4 人の 8 人のグループに入って、一人のカウンセラーが対応 できたので、キャンプの運営の中で特に支障になりませんでした。 ところがそのフェローシップキャンプの 2 年目、ノブくんという重度の自閉症児はとても大変で、そ れまでのアサヒキャンプの長い歴史や、障がい児キャンプの方法を根本的に変えてしまうくらい、大き な衝撃を私たちに与えました。 このキャンプをしていたアサヒ志摩キャンプセンターというキャンプ場は、三重県の英虞湾の中の離 島でした。賢島港から出てきた船が私たちのキャンプ場に着くなり、ノブくんは一番に船を降りてきて、 岸壁に自分のリュックサックを放り投げると、すぐに走り出しました。 事前の説明会でもそんな子どもであることは保護者から聞いていませんでしたし、対応する体制が出 来ていなかったので、私のすぐ横にいた 1 年生のカウンセラー、カンペイくんという名前でしたが、彼 に追いかけて安全を確保するように指示を出しました。それがカンペイくんの不幸の始まりになるとは、 誰も想像すらしていませんでしたが(笑)。 ノブくんはそれから 4 泊 5 日の間、ずっと走り続けていました。多動という行動障がいです。一食も 食べませんでした。私たちが作ったものは食べずに、お茶と木の皮や草の葉を食べて過ごしました。一 睡もしませんでしたし、ほとんど泣いていました(感情障がい)。言葉は「お母さん待ってる」「近鉄特急乗 って帰る」だけ。自分の進路に人がいるとその人を叩いたり、噛み付いたり、つばを吐いたり(他害)。キ ャンプ側から言うと、さまざまな問題行動がありました。 先ほど、一睡もしないといいましたが、カンペイくんはその彼に付き合って、初日はほとんど徹夜で キャンプ場の中を歩き回っていました。さすがに、二日目は寝るだろうと、高を括っていたのですが、 二日目も三日目も彼は眠りませんでした。カンペイくんはキャビンの入り口に寝て、出て行くときに蹴 ったり、踏んだりすれば目を覚ますだろうと思っていたのに、ノブくんはちゃんと跨いで出て行きまし た。キャンプにはロープがたくさんあるので、お互いの身体をロープでつないでも、カンペイくんが寝 - 21 - 静まったのを確認して、ロープをほどいてノブくんは出て行きました。最後の夜、カンペイくんは蚊取 り線香やランプなどの火の気を全部出して、とうとう入り口の戸を釘で打ちつけて寝たのですが、窓の 網戸を破ってノブくんは出て行きました。入り口が閉まっているので、カンペイくんは追いかけること も出来なかったのです。 私たちはこれでノブくんにはキャンプは無理だと思ったのですが、カンペイくんは違って、ノブくん には「いろんなことを理解する力がある」ということを理解したのです。つまり、重度の自閉症児でも キャンプの可能性があると。 先ほどノブくんは「食事はしない」けれど「お茶を飲む」といいました。カンペイくんはこのことに 注目して、食事のたびに食堂テントにノブくんを連れて行き、みんなのお茶をやかんからコップに入れ る役を彼に指示したのですが、これは毎日ちゃんと果たしていました。彼には食事と木の皮の区別はつ かなかったのですが、お茶はお茶として認識していたのです。 こんなこともありました。ずっとノブくんを追いかけていたカンペイくんが疲れ果てて追いかけるの を止めたら、ノブくんはカンペイくんが来るのを待つということにカンペイくんは気付きました。キャ ビンなどの角を曲がると姿が見えなくなるのですが、そうすると、ノブくんはカンペイくんが来るのを 待っているというのです。 それなりに関係が出来てくると、何も出来ないと思っていたノブくんが、カンペイくんを他の人と区 別できるとか、理解できれば指示に従うことが出来るとか、待つとか、いろんなことができることにカ ンペイくんが気付くのです。 ストレングス視点という言葉で最近言われるようになりましたが、障がい児の出来ないことに注目す るのではなく、出来ること、強み、可能性に注目しようというのです。キャンプは時間があります。具 体的に物や生活を前にしてする活動です。重度の障がい児でもそういう可能性をいっぱい持っています。 この間、お母さんには「何かあればこちらから電話しますから、心配しないで任せてください」といっ ていたのですが、「絶対うちの息子は問題を起こして、迎えに来てくれ」という電話がかかってくるに 違いないと、5 日間の食事を買って電話機の前にずっと座っていたというのです。携帯電話などない時 代の話です。 発達障がい児にとってのキャンプの意義 キャンプが終って、カウンセラーたちが評価の会をします。みんなは、ノブくんが楽しんでいないこ と、泣いてばっかりだったこと、他人に迷惑をかけすぎていること、安全が保障されないことなどを理 由に、翌年以後の自閉症児のキャンプに受け入れを拒否しました。組織の責任者も同じように「NO」 といいました。そこでカンペイくんがみんなに話しかけました。次のような話です。 4 日目の午後、ノブくんがカンペイくんのそばに寄ってきて、汗臭い、汚い腕に自分の爪を立てて、 垢をこすり付け、カンペイくんの前に手を出してきたというのです。カンペイくんは離れてもノブくん に危険がないのを実感していたので、私のところへ相談に来たのです。「意味がわからない」というので す。 私もその行為の意味はわからなかったのですが、ずっと人を拒否していたノブくんがカンペイくんに 手を差し伸べたことがとても大切なこと、その大切な行為に対して、カンペイくんが無視をすると、せ っかく出来た関係がつぶれてしまうかもしれないということを伝えました。 しばらくして、カンペイくんが大喜びで駆け戻ってきました。意味がわかったというのです。その意 味は「この垢を食べろ」ということだというのです。どうしてわかったのか聞いて見ると、どう見ても、 - 22 - 垢を食べろという感じだったので、食べてみた、それを確かめるために、自分の垢を爪でこそいで、ノ ブくんの前に差し出してみると、彼も自然にそれを食べたというのです。 彼の喜びは、垢を通してコミュニケーションがとれ、共感できたということでした。さっきにも書い た、やかんのことや、待っていることなども話して、みんなにはダメなことだけしか見えなかったかも しれないし、今年は急に彼と一緒にキャンプすることになったから準備は不十分だったけれど、今から、 彼との人間関係をつくり、彼を理解する(アセスメント)態勢をつくり、彼にふさわしい活動を作り出す ことが出来れば、今年以上にいろんなことができるはずだ、とみんなに訴えたのです。 カウンセラー仲間たちはそれからノブくんの家族はもちろん、精神科医、臨床心理士、情緒障がい児 短期療育施設、知的障がい者施設、大学など、分担してさまざまなところを訪問し、専門家の話を聞い てきました。そのことごとくが「NO」だったのです。例えば、自閉症児が入所している情緒障がい児 短期療育施設では、鍵から鍵の場面が続くのです。閉鎖的な空間に閉じ込めることで多動児の安全を守 っていたのです。なのに、キャンプはあまりにも開放的で、安全について全く無防備だというのです。 多動児自身の安全だけでなく、スタッフの安全、一緒に活動する子どもの安全、そのどれもが守れない というのです。 原因も、治療法も、教育法もわからない自閉症児を素人が集まってわいわい言っても、何の意味もな い、専門家が科学的に処遇しても今のところその方法がないというのです。当時、日本中の専門家が自 閉症児に対してはどうしようもないと思っていたのです。 それならばと、私たちは海外にも目を向けました。「役に立つかどうかわからないけれど」と言いな がら、非指示的なカウンセリングを考え出したカール・ロジャースの論文にこんなのがあるといって説 明してくれたのは、京都府教育委員会のカウンセラー、日高正宏(現神戸学院大)さんでした。 ある精神病院で入院患者が 4 階の窓の外に出て、飛び降りて自殺すると言っている場面で、専門家の 医師や看護師は全く無力で、手をこまねいているより仕方がなかった。ところが、窓ガラスを拭く掃除 のおばさんが、「掃除の邪魔だからさっさと中に入って」と言うと、彼はおとなしく中に入った、という 話です。精神の問題は、まだまだ専門家にもわからないことがいっぱいあって、この場合たくさんの専 門家の説得より、掃除婦の一言が患者の心に響いたというのです。素人が果たす役割もあるということ です。 また、服部祥子(現大阪国際大学)さんはアメリカからとても分厚い手紙をくれました。彼女はもとも と精神科医でしたが、夫のアメリカ転勤に合わせて、仕事を辞めて、子どもと一緒にアメリカで暮らし ていたのです。当時「少年補導」という雑誌(現少年育成)にアメリカでの子育ての様子を連載されていま した。その服部さんに私たちは手紙を書いたのです。自閉症児をボランティアが対応している例とか、 自閉症児キャンプの例がないかという手紙です。 しばらくたって、厚い手紙が帰って来ました。「いろいろ探してみたけれど、私たちが望むような事 例は見つけることが出来なかった。私はアメリカではただの保護者でしかないけれど、精神科医という 経歴を尊重して、学校は私をあてにし、学校の運営に関わることを求められた。アメリカという社会は 専門家の専門性も大切にするけれど、市民が自分に出来ることで社会の問題の解決にあたる市民社会で もある。だから、専門家が「NO」といっても、ボランティアに出来ないと諦めてしまうことはよくない だろう」という内容でした。 この二つの事例というよりも、そこまでして自閉症児の問題に関わろうとする若者たちに組織が共感 してくれたのだと思います。もう一年、自閉症児を受け入れてやってみようということになりました。 これで、自閉症児のキャンプは継続することになり、1978 年からは自閉症児だけを集めたキャンプ - 23 - が継続して実施できることになりました。 日本だけでなく、世界的にも珍しい自閉症児のキャンプがこうして日本で始められたのです。 この後、ノブくんは一日 20 キロほども歩く冬の移動キャンプや、2 キロを泳ぐ遠泳などにも参加で きるようになりました。そんなことがあるわけがないと言い張るお母さんの目の前で彼は 2 キロをクロ ールでも平泳ぎでもない、まるで魚が泳ぐように体をくねらせるだけで泳ぎきったのです。 キャンプを通して自閉症児の可能性がいっぱいあることをノブくんは証明してくれました。また、私 たちはそれまで集団に焦点をあてていたキャンプを、はっきり個人にあてなおすことができるようにな りました。社会の問題の困難に、キャンプを通して立ち向かうことができるようになりました。先日 11 月 12 日の朝日新聞(大阪)に出ていた認知症高齢者のキャンプなどはこういう視点から生まれてきま した。 特別支援教育 2007年から障がい児の教育の制度が変わり、特別支援教育というものが始まりました。いろんな 意味があるのでしょうが、従来の養護教育というもの、特殊教育というものから大きな変化がありまし た。この特別支援教育のいくつかの特徴は ① 分離教育から統合教育へ ② 個人別の指導の強調 ③ 発達障がい児も対象に ④ 地域の社会資源の活用 という4点にあると私は思います。つまり、従来、養護学校や養護学級というものを中心にしていた障 がい児教育を、普通学校の普通学級にまで広げたのです。その原因は今日のテーマの発達障がい児にあ ります。彼らの大半は養護学校や養護学級でなく、普通学校の普通学級に通い、場合によっては障がい 児であることすら親も本人も理解していない子どもたちでした。そうした彼らも普通学級の中で、でも、 個別に支援計画を立てて、専門家による教育を可能にしました。しかし、学校の中にはそんなにたくさ んの専門家がいるわけではありませんし、従来学校というのはとても閉鎖的な存在でしたから、地域の 社会資源を十分に活用できているとは思えません。そこに、教師でない専門家、精神科医や臨床心理士、 さらに個別支援のための学生ボランティアなどを取り入れようというのです。教師の中にコーディネー ターを置いて、専門家のチームを作ろうと いうのです。そのバックには、施設福祉か ら地域福祉、在宅福祉への流れの変化があ りました。ノーマライゼーションやインク ルージョンということが世界的な障がい 者福祉の流れなのです。 少し端が切れて見にくい部分もありま すが、最近の調査で、この特別支援教育の ための体制がどれだけ出来ているかを示 したグラフです。(右グラフ)見ていただ いたらわかるように、小学校、中学校では 比較的進んでいますけれど、高校ではほと ノーマライゼーション 2008.10 んど体制作りが出来ていません。また、校 - 24 - 内委員会は出来ていますが、肝心の個別の計画や専門家チームがあまりできていません。法律が出来て 1 年半、試行期間もありましたから、数年前から言われているのに、まだまだ態勢は不十分です。従来 の養護教育とどこが変わったの?と問われて、いや、ほとんど変わっていないという学校がほとんどだ ともいえます。 発達障がい、発達障がいと大きな声でいわれて、子どもを持つ親たちは不安になっているのに、学校 教育の世界はほとんど対応できていないというのが現状だと言っても過言ではないでしょう。しかし、 少しずつ態勢が整ってきているというのも間違いのない事実です。 そういう親の不安の中で、誰が発達障がいの子どもを、あるいは親の不安を引き受けるのかという問 題があります。 またこれまで、障がい児教育の場と非障がい児(健常児)教育の場が分離されていて、私たちのキャ ンプ場に来るのは健康な子どもたちが中心でしたから、障がいや病気の子どもをキャンプ場で見ること は稀でした。けれど、ノーマライゼーション、教育の場では統合教育(コーエデュケーション)といい ますが、それが実現されれば、小学校や子ども会でキャンプに行くということになると、そこには必ず 障がい児も一緒に来るということになります。障がい児だから断るということが出来なくなるというこ とです。来た子どもがどんな子どもでも引き受けて、彼らにとっていい体験ができる準備をしておかな ければならないということになります。さまざまな調査で 5 パーセントから 6 パーセントの発達障がい 児がいるといわれています。従来の知的障がい児や視覚障がい児なども 2%弱いますから、100 人に 8 人くらいは障がいのある子どもがいるという計算になると思います。一クラスに2∼3人です。これは もう少数の問題だからといって無視できる数字ではないと思います。障がい児を受け入れられないキャ ンプ場は、学校や子ども会がキャンプ地として選ばないということになるでしょう。 ですから、私たちの都合に関わらず、否応無しに子どもの団体は障がいの子どもがいるのがあたり前 です。 一方、子どもたちを支援する人は学校の先生だけではありません。キャンプカウンセラーやキャンプ ディレクターというのは、地域福祉の考え方では立派なソーシャルワーカーなわけですから、まず、顕 在的、潜在的な地域生活のニーズを理解し、実現させるという姿勢を持たなければなりません。 今年、ある一人の発達障がい児を私たちのキャンプで受け入れたのですが、彼がキャンプから家に帰 って、その様子を親が見て、同じような障がいを持つ子どもたちの親に話したところ、「来年は 20 人分 のスペースをつくってください」と言って来られました。つまり、潜在的なニーズはあったわけですが、 彼らは行けると思っていなかった。障がいが重いから無理だと諦めていたわけですが、一人に可能性が 見つかると、それが一気に 20 倍に膨れ上がったわけです。 そうしたニーズを掘り起こすことから、ニーズを満たすために態勢を整える必要があります。今のま ま「出来ないからうちは受け入れません」ではすまない社会になってきています。地域で、私たちがし ていることを障がいがあっても同じように出来るようにしようというのがノーマライゼーションの考 え方ですし、国連障害者権利条約の精神です。特に公共の施設とか、公から助成金をもらって実施して いるキャンプなどでは、障がいを理由に参加を断るということが出来ない社会になっていますし、民間 でも障がい児を受け入れられない団体は、外部からの評価を受けると、ダメな団体という評価を受け、 利用者が来なくなる可能性もあります。私たちキャンプの人間こそ積極的にそういう困難に立ち向かっ ていく、その態勢を作り出すことが求められています。 端的にいえば、障がい児のキャンプをキャンプの専門家だけで実施することには無理があります。キ ャンプの組織に、子どもの教育、医療、心理などの専門家を巻き込まないと、こういうキャンプは難し - 25 - いのが一般的です。例えば、カウンセラーのトレーニングや、現場でのカウンセラーミーティングでの スーパーバイズとか、本当に大変な子どもへの直接的な対応、親への説明会などの場面では必ず専門家 が必要です。 次に、キャンプに来た人を個別に支援することが求められます。障がいはさまざまですから、一つの パターンを覚えれば、誰にでも対応できるというものではありません。アセスメントというのですが、 事前のアンケートや聞き取りをしっかりして、安全について、参加者のニーズの充足について、主催者 や担当するカウンセラーの目指すものについてなど、どのような態勢を作ればそれが可能になるのかを 見極めなければなりません。 社会福祉の考え方の変化 社会福祉そのものの考え方も変化しています。先にノーマライゼーションやインクルージョンという 言葉を使いましたが、障がい者を取り巻く環境がこの 20 年くらい、大きく変化しています。 例えばこの図を見てください。(右 図1) 国連の機関であるWHOが障がいというもの を整理しました。病気と障がいは違うという ことや、問題はノーマライゼーションの考え 方に沿って参加できているかどうかが問題に なるという点、その原因が個人だけの問題で はなく、環境にも問題があるという指摘です。 環境が整えば、障がい者も参加できる、環境 を整えて、障がい者にも参加できるようにす ることが大切だという考え方です。 1981 年の国際障害者年を契機に、世界的に 障がいを正しく理解し、障がい者を私たちの社会・地域に受け入れようという考え方が広がってきまし た。 次の表(右参照)はそうした社会の変化 をまとめたものですが(大阪教育大学新崎国 弘作成、石田が改変)、①専門家だけでなく、 みんなで、②自分から進んで、③問題を抱 える人中心に、④その人の持っている能力 を生かして、⑤みんながよりしあわせに、 ⑥施設に入らないで地域生活も、というよ うな特徴を持つ社会になっていることをあ A.従来の福祉の考え方 法律による福祉 法的根拠(憲法25条「生存権の保障) 対象限定的な福祉 弱者救済 サービス提供者主体 分野別・対象別(施設福祉) スペシフィック(深く狭く) 公的サービス中心(平等・公平) 問題解決型(医学モデル) らわしています。 B.新しい考え方 自発的な福祉 法的根拠憲法13条「幸福追求権) 共同参画型福祉 福祉の社会化、社会の福祉化 当事者主体(自己決定、支援) 地域福祉の推進 ジェネリック広く、つなぐ専門性 フォーマルとインフォーマルの連携 ストレングス視点(エンパワメント) 社会福祉の考え方の変化 当然、発達障がい児もこの考え方に沿っ て教育され、社会生活が送られるようにならなければなりません。 支援者の役割は、 「してあげる」とか「奉仕する」というのではなく、「当事者の問題解決能力を強化 すること」「制度や資源を温かく人間らしい運用をすること」「社会的なシステムと課題を抱える人をつ なぐこと」「新しい方法を開発すること」にあるのではないでしょうか。 - 26 - キャンプの可能性 キャンプは、従来の教育の中心的な課題である知識や認知については十分役割を果たすことはできな いかもしれません。けれど、本当に大人になって社会の中で生きる力を育むには、これほど適した場は ありません。 キャンプは体験という意味で様々な子どもたちに学習の機会を提供します。障がいがあってもなくて もです。「小集団」をベースにしますから「対人関係を育む力」を身に付けることが出来ますし、社会や集 団の持つ「規範や価値観」も習得することが出来ます。多少の困難を伴った生活を共にしますから「社会 的な有用感や感動体験」を得ることができます。その元になる「問題や困難を解決する力」を身につける ことが出来ます。そして、「人や環境を本当に大切だと思う気持ち」も育みます。体験学習というのは 知識先行型の学校の学習とは違うことを学びます。 またキャンプは結果を評価する場合もありますが、過程を大切にしています。時間もたくさんありま すから、支援者は待つことが出来ます。失敗をやり直すことも出来ます。発達障がい児が大人になった ときに必要な力を、体験を通して学ぶことができる場がキャンプなのです。 キャンプは元来、そのスタートから社会の問題にチャレンジしてきました。目的というところにウエ イトを置いた活動が、一般に行われているレジャーのためのキャンプと私たちのしている組織キャンプ を大きく分けるポイントになるのではないでしょうか。 1861 年に実施したといわれる近代的な組織キャンプのスタートのウイリアム・ガンのキャンプも、ダ ッドレーのYMCAキャンプも都会の中の自然をなくした青少年のために、人間らしさを回復するため に行われたキャンプです。 組織キャンプはさまざまな特徴を備えていますが、私が強調したいのはこの「目的志向」ともうひと つ、「簡便性」です。キャンプは身軽です。必要な条件設定が、施設がない分、身軽に出来ます。例えば 喘息の子どものキャンプなら、ハウスダストといわれるじゅうたんやカーテン、家具に付くほこりが大 きな問題ですから、テントをはじめとする家具のない空間での生活が大切です。プログラムとして皮膚 や気管系を鍛える水泳がいいということですから、海辺やプールのある施設がいいということになりま す。ぜんそく児のキャンプはいまや医学界も厚生労働省も認め、日本中で実施されています。 認知症のお年寄りも、普段、介護者の都合でベッドでの生活を強いられている人が多いのですが、高 齢者はもともと畳での生活をしていました。また、温泉などがあれば、より豊かなプログラムが組め、 和風の温泉旅館をサイトとして使ってもいいわけです。 こうした特徴を持つキャンプを、発達障がい児のために活用していただければと思います。具体的な 方策は次の時間にみんなで考えたいと思います。 - 27 - 平成20年12月 【第3回】 『発達障がい児と共に (事例報告) (進行) 8日(月)19時∼21時 ∼キャンプ活動での事例から∼』 NPO 法人キャンピズ 奈良YMCA NPO 法人チャイルズ 京都YMCA 総主事 石田 易司 (桃山学院大学 教授) 金山 好美 (学校心理士、特別支援教育士) 伊藤 弥生子(重度発達障がい児の親) 神崎 清一 (日本キャンプ協会 常務理事) 神崎:今回は 3 回目の講座です。第 1 回目は児童精神科医の郭麗月さんから、医学的 に発達障がいについて、その状態や対応の仕方などの説明をしていただきました。2 回目は日本キャンプ協会常務理事の石田易司さんからキャンプというものが、発達障 がいのような障がい児を始め、さまざまな社会の問題の解決にとても有用な方法であ るということをうかがいました。今回は具体的な発達障がい児のキャンプの運営につ いて 3 人の方から話を伺いましょう。 最初は、前回も報告いただいた石田さんから、今度は立場を変えてNPO法人キャンピズの代表とし て、発達障がい児のキャンプの運営について、話していただきます。 <NPO 法人キャンピズ 石田 易司 (桃山学院大学 教授)> キャンピズのスタート 私たちはキャンピズ(CAMP WITH)というNPOを作って、さまざまな 障がいのある人のキャンプを実施しています。認知症高齢者、精神障がい者、知的 障がい者、身体障がい者、視力障がい者などが対象です。当然、自閉症など発達障 がいの参加者もたくさんいます。 日本キャンプ協会も 2002 年に将来計画を策定したときに、 「社会貢献」という言葉を使って、単にキ ャンプをするというだけでなく、また、健康な青少年だけがキャンプの対象ではなく、社会の様々な問 題、課題に対して、キャンプという方法を使って、その解決のために活動しようと言っています。キャ ッチフレーズも「CAMPING FOR ALL」です。 そうした社会の流れや、元来 19 世紀半ばの近代的な社会福祉のスタートに合わせて起こったキャン プのスタートを考えても、ディモックがレクリエーション強調期、教育強調期、社会性強調期とキャン プの目的が変化してきたことを指摘したことを考えても、キャンプやグループワークはもともと社会の 動きと連動して、社会の問題を解決するために存在していたといってもいいでしょう。 キャンピズは、1998 年、大阪市教育委員会の主催で実施した、障がい者の野外活動支援ボランティア 養成講座の参加者を母体に作られました。その講座の大阪市の担当者が、学生時代に筋ジストロフィー の青年の介助ボランティアをしていたのですが、常々「キャンプをしたいね」と言っていたのに、方法 も判らず、支援ボランティアもおらず、実現しないまま彼は亡くなってしまったという経験を持ってお られました。自分がその立場になったら、ぜひそうした活動を支援するボランティアの養成をしたいと 願っておられたようなのですが、僕はその時「そんな講座をしても 10 人も人が集まらない」と言い切 - 28 - りました。1998 年というのはそういう時代でした。 しかし、ふたを開けてみると、50 人の募集に対して 80 人を超える応募があったのです。部屋の大き さの関係で、泣く泣く抽選で 50 人に絞らざるを得なくて悔しい思いをしました。また、この講座は毎 月 1 回、6 か月にわたる講座だったにもかかわらず、その 6 か月間、ほとんど脱落する人もいなく、最 終回の、実際の障がい者と一緒のキャンプに参加してくれました。講座の最終日に受講生たちが「この ままで終わらず、実際に支援するグループを作って、活動を継続しよう」と言い出し、グループを作っ たことでキャンピズは始まりました。 キャンピズの活動 2002 年にはNPO法人になり、活動が定着、充実してきました。今年(2008 年)のキャンプは次の ような内容です。 ① グループキャンプ:年間 8 回、同じメンバー、同じ場所で同じ活動をし、社会性を養う。1 泊と デイがある。6 チーム。 ② 夏季キャンプ:伊賀ステップキャンプ(10 泊、4 泊、2 泊)、淡路のんびりキャンプ(5 泊)、潮岬 イルカキャンプ(4 泊)、敦賀交流キャンプ(2 泊) ③ 依頼キャンプ:大阪市ぜんそくキャンプ(3 回)、大阪府障がい者キャンプ(2 回)、ベネッセ (2 回)学研(1 回)。 これらのキャンプにはディレクターやカウンセラーを派遣しました。 ④ 冬季キャンプ:乗鞍スノーキャンプ(2 泊)、オーストラリアキャンプ(11 泊) ⑤ その他キャンプ:わくわくキャンプ(精神障がい者・四万十川 2 泊)シニアキャンプ(認知症高 齢者、信太山 1 泊)、間崎島プロジェクト(1泊、限界集落) 今年は 60 回を超えるキャンプが実施できるまでになりました。夏休みなどの長期休暇だけでなく、 ほとんど年間を通して行っています。予算も 1000 万円を超えましたし、メンバーも対象の障がい者が 120 人、ボランティアスタッフは 150 人にもなっています。それぞれのキャンプに意味がありますが、 特にグループキャンプは私たちの障がい者キャンプに対する姿勢をよくあらわしていると思います。同 じメンバー、同じスタッフ、同じキャンプ場で、毎回ほとんど同じプログラムを実施しています。つま り、彼らの多くは変化に弱く、さまざまなソーシャルスキルを習得するために時間がかかるという特徴 を持っています。失敗もたくさんします。そうしたスキルの習得にゆっくり時間をかけて、失敗しても 取り戻すことができる環境を整備することが大切だと思って、こうしたほぼ毎月1回のキャンプを継続 して実施しています。 全体的には目的や対象はキャンプごとに異なり多様ですが、主に参加者の自尊感情を育みながら、仲 間づくりや社会性の養成を図っています。また、対象の障がい者の成長だけが目的でなく、活動に参加 することによって、障がい者を理解し、支援する若者が育ってくれることも願っています。つまり、2001 年にWHOが言ったように、障がい者の問題は障がい者個人の抱える問題が要因であるだけでなく、社 会、環境の側の要因もあるということです。 今回のテーマに合わせて言うと、発達障がい者だけのキャンプもしていますが、さまざまな障がい者、 障がいを持たないメンバー、いろんな人が参加するキャンプを多く実施しています。個人の要因にもよ りますが、発達障がい児だけのキャンプがいい時と、いろんな人の中で必要な能力を伸ばしていく方が いい場合があります。自閉症などは本人も家族も障がいを自覚していますが、発達障がいの場合、それ - 29 - を受容していない人の方が多いのが現状です。 たとえば、健常児のキャンプも実施していますが、その中に軽度発達障がいの子どもが参加してきま す。彼の場合はAD/HDだったのですが、どこへいっても受け入れられず、学校でも友人ができない。 先生もまともに対応されておらず、放ったらかされて、いじめられたり、一人で歩き回ったりして学校 生活を過ごしています。しかし、本人も家族もそんなものだと思っている節がありました。発達障がい というのは現状ではそれくらい理解されていません。 ところがキャンプが終わって、保護者がびっくりするくらい彼がよくしゃべるようになり、陽気にな ったというのです。 たくさんの元気な仲間の中でも、そのことを理解して、適切な支援をしてくれるカウンセラーを信頼 することで、大切にされている自分、できる自分を実感することで、彼は明らかに自尊感情を育んでい ったのです。明確に障がい児だというレッテルを張らずに、自尊感情が育まれるなら、その方がいいに 違いありません。軽度発達障がい児というのは、元来、知的には障がいがないのですから、知的なとこ ろにちゃんと訴えることができれば、彼らはそのうちに自分の障がいを個性や能力として正しく理解で きるようになると思います。 キャンプの組織 キャンピズが主催するキャンプでは、一つのキャンプの参加者は多くても 20 人までにしています。 いろいろな障がい者の状況を一人のキャンプ長が理解し、把握するにはこの 20 人が適正な人数だと思 っています。また、たくさんの人数になると、ついつい一人ひとりが見えなくなってしまいがちです。 だから、いいキャンプをしているというためには、多様な障がい者 20 人が限界の人数だと思っていま す。参加者一人ひとりを個別化して支援できる限界です。 平均してスタッフは 25 人。学生ボランティアが 20 人余りと、キャンプ長など社会人が 2∼3 人です。 キャンプ長は社会福祉やレクリエーションの大学・専門学校教員や、福祉施設職員、福祉や教育を勉強 している大学院生などです。普段は医師や心理士の同行は求めていません。もちろん、ボランティアで 参加してくれる専門家がいれば大歓迎ですが、どこからも助成金をもらわずにスタートしたので、1 泊 5万円などの謝礼を出すことはできません。 組織は普通のキャンプと同じですが、 強いて違うところを上げれば、必要な参 加者にはマンツーマンの介護スタッフ (パーソナルカウンセラー)をつけると ころなど、たくさんのボランティアがい ることぐらいでしょう。最初の頃は医師 や心理士が必要だと思っていましたが、 このマンツーマンのスタッフをつけるこ とで、事故や病気がほとんどないことが 経験的にわかったので、現在は必ず必要 だとは思いません。また、医療や心理の 専門家が答えを出せるとは限らないこと がキャンプにはたくさんあり、スーパービジョンの意味がボランティアリーダーに対する支持的、教育 的な意味に集約されてきて、私たちの組織自体にそうした方法論の積み重ねがあるので、専門家がそん - 30 - なに必要なくなったということもあります。 ただし、初めての障がい者キャンプや、キャンプの目的が参加者の教育、治療的な意味を強調するな ら、教育や心理の専門家は必要だと思います。 障がい者キャンプの運営 経費的には、場所やプログラムにもよりますが、1泊1万円から1万5千円と交通費を参加者からも らって、それで運営しています。グループキャンプは交通費込みで1泊1万5千円です。実際には、10 泊の伊賀キャンプでは 8 万円で、1 泊あたりの単価は最も安いのですが、イルカキャンプは 4 泊で 10 万 円ももらっています。イルカと泳ぐためにはお金がかかるのです。 これで、ボランティアの必要経費もNPOとしての事務経費も賄っています。助成金をもらっていな いのは、それがないと運営できないのではNPOとして自立できないと思ったからです。10 年たって、 だんだん経済的な見通しができてきたので、今年は伊賀キャンプのバス代やわくわくキャンプの経費、 間崎島プロジェクトやオーストラリアキャンプの学生参加費などをいくつかの団体から助成してもら いました。 キャンプでは発達障がい児は様々な問題を起こします。安全や人間関係、生活などの問題です。その 問題解決に切り札はありません。解決のポイントは①事前の情報提供(特に視覚情報)、②アセスメン ト、③試行錯誤(問題があることが当然と考える)、④ミーティングとレコードです。これらの詳細は、 後で金山さんが詳しく話してくださることになっています。 つまり、体験することで、私たちも参加の子どもたちも学んでいくのです。カウンセラーといっても 学生のボランティアです。完全に何でもできるというわけではありません。できなくてもやってみると いうことが大切です。失敗することが大切です。失敗させないで楽しい体験だけを提供する短いキャン プも大切ですが、私たちは何回も繰り返す、長く体験することで、失敗しながら学んでいくという方法 を中心にしています。キャンプは実際に体験できます。具体的に、実感を以て自分のこととして学ぶこ とができます。また、小さな社会の出来事ですから、他人事ではありません。発達障がい児にとって欠 けている「想像力」を補う最もいい方法だと思っています。 問題があることが当然と考えているといいましたが、私たちスタッフが受け入れても、他のメンバー や社会が許さない問題もあります。安全について意識できない子ども、自傷や他害など怪我につながる こと、コミュニケーション能力に欠け、集団活動が困難な子ども、食事や排泄などの日常生活が自分で 出来ないことなどです。基本的にはこれらのメンバーにはマンツーマンのパーソナルカウンセラーをつ けることにして、安全や日常生活を支援しながら、グループ活動を支援するようにしています。 私たちだけではできないこともたくさんあります。地域やそのキャンプ場にある、また、キャンプ実 施組織などの様々な社会資源を活用することが必要です。足らない自分を意識しながら、いろんな人の 協力でキャンプを成り立たせていくことが大切です。シュワルツは「媒介」ということこそグループワ ーカーに大切なことだと言っています。何もかも自分でできるわけではない、だから組織で体制を作っ て補い合いながらキャンプするのです。それが組織キャンプです。 参加者は発達障がいに限っていません。発達障がい児だけのキャンプもしていますが、一般的なキャ ンピズのキャンプには誰が来てもいいと思っています。小学生のキャンプはいわゆる健常児といわれて いる子どもと障がい児といわれている子どもを一緒にしています。発達障がいの子どもは必ずしも診断 を受けていると限りません。だから、障がい児と一緒に、だれでもといった時に、そのような子どもが たくさん参加してきます。障がい児だとは思っていないけれど、学校生活に困難を抱えていることを本 - 31 - 人も親もそれなりに自覚しているという子どもです。私たちはあえて障がい児扱いせずに、というより、 手帳を持っていたり、診断を受けた子どもでも、先ず子どもであるということからスタートしたいと思 っています。問題が出てきた時点でそれにどう対応するかということを考えたいと思っています。当然 アセスメントしますし、ディレクターはそのことを理解しているのですが、キャンプカウンセラーには 障がいということを強調して意識しないようにしてほしいなと思っています。障がい者というラベルを 張り付けてもろくなことになりません。それより、一人ひとりのいい点を見つめ、自尊感情を育むこと の方が大切だと思っています。 神崎:次に具体的な発達障がい児への対応を奈良YMCAの、というより全YMCAの中でも最も先駆 的に発達障がい児のキャンプに取り組んでいる金山好美さんから、お話を聞きたいと思います。金山さ んはスクールカウンセラーで特別支援教育士でもあります。 <奈良YMCA 金山 好美 (学校心理士、特別支援教育士)> YMCAのキャンプ YMCAの発達障がい児のキャンプを紹介しますが、先に組織のことなどを 石田さんが報告されているので、具体的にこういうようにやっているという実 際のキャンプカウンセリングを中心に報告します。 YMCAでは様々な対象のキャンプを実施していますが、発達障がい児のキ ャンプを「らぽーる」と呼んでいます。知的には遅れはないけれど、学習面で躓いたり、友人との人間 関係がうまくいかない子どもたちにバランスの取れた発達をサポートすることを目的にしています。一 般的にいわれる軽度発達障がい児が中心です。学校で計算ができないといわれたり、友達とよくケンカ をする、ルールを守れない、先生によく叱られる、じっとしていることができない、自分をコントロー ルすることが難しく、すぐキレるなど、様々な行動上の問題を持っている子どもたちです。アスペルガ ー症候群とか学習障がい、AD/HDなどと医師から診断されている子どもたちです。お母さんが心配 してこられた場合は、医師の診断がなくても、私たちでテストをし、この「らぽーる」の範疇だと思っ た子どもは受け入れています。また、障がい児であるということが大切ではなく、本人や保護者が困っ ているということを支援したいわけですから、保護者と相談をしながら、私たちのやろうとすることに 共感していただければ、参加していただくということにしています。 基本的には知的障がいのない軽度発達障がいと対象を限定していますが、実際には線引きをして排除 することが難しい子ども、知的に遅れている子どもやIQが130もあるような天才タイプで自閉性が 極端に強い子どももいます。天才タイプのアスペルガー症候群の子どもは知的には優れていますから、 学習することで、知的に理解し、アスペルガーの持っている問題を解決することも可能です。 対人関係に問題のある子どもはYMCAが日常的に実施しているソーシャルスキルトレーニングプ ログラムに参加することを勧めていますし、お母さんが学習面で不安を抱えておられれば、学習支援プ ログラムに参加してもらっています。キャンプで彼らの持っている問題をすべて解決することは難しい ことなので、日常活動と合わせて、彼らの持っている問題に向かっていこうと思っています。 私は社会性に欠ける子どもの担当で、主として月 1 回のデイキャンプの運営を担っています。デイで すが、キャンプです。夏季には2泊のキャンプをしています。 - 32 - YMCAキャンプの目的は次の通りです。リーダートレーニングのハンドブックから取ってきました。 私もYMCAで最初から発達障がいを担当していたわけでなく、サッカーや一般の子どもキャンプに携 わりながら、10年少し前から発達障がいの勉強をしてきました。ベースにYMCAキャンプそのもの の考え方があります。 ★自然の生活に適応する能力を育成する ★良い習慣を育て、実践させる ★健康のための知識と経験を与える ★生活を豊かにする技術を学び、創造力を養う ★良き友人を見出す機会を与え、友情を深める方法を学ばせる ★民主的なグループ体験を通して社会における責任感を養う ★神の恵みを知らしめ、感謝の心を養う 「らぽーる」でのカウンセリングの実際 この「らぽーる」でも同じように考えています。キャンプですから、学ぶことはたくさんあるのです が、先ず楽しいキャンプということを考えています。子どもたちも同じようにキャンプを楽しみたいと 思っているようなのですが、実際には、なんでこの説明が伝わらないのだろうとか、どうして人の話が 聞けないのだろうかと思うような場面が続きます。約束は忘れてくれますし、毎日の生活の中で「コラ ーッ!」という場面もたくさんあります。順序立てて考えられないし、私たちが熱心に勧めても、 「いら ん」の一言で終わってしまう場面もたくさんあります。順番を守れないとか、話している最中に「はい、 はい、はい」としつこく質問してきて、結果的に人の邪魔をしていることもあります。しかし、キャン プはあくまでキャンプで、子どもたちにとっては楽しみの場です。教育の場でもあるのですが、学校で はありません。この目的がこれらの子どもたちに適切なのかと迷ったこともありましたが、初めてこう した子どもたちに出会った時、キャンプがうまくいけば、必要な社会性も十分養われるということを実 感しました。 ですから、これらの子どもたちにも楽しい体験ができるという方法をずっと考えてきました。あくま で「楽しい」体験ということを私は忘れたくありません。 そのために、プログラムを進めていく時には、こうした行動特性を持つ子どもたちでもうまくできる ということを大切に考えています。どうしたら忘れ物をしなくなるか、どうしたら人の話をちゃんと聞 けるようになるか、ということを具体的に考えました。うまくできなくて、問題場面ばかりが出てくる と、カウンセラーも楽しくありません。川遊びをしているとき、3時になったら集合ということを言っ ても忘れて川から上がってこないとか、テントに戻って服を着替えるのに、脱いだ服をそのままにして 忘れてしまう、というような具体的な問題を起こさないようにするために、脱いだ服をすぐに洗って、 しぼって、乾かして、ビニル袋に入れるというようなことを、最初から手順を示して理解してもらうた めにどうしたらいいかということです。示した手順通りにすればうまくいくのです。だから、どこに問 題があるのかということを理解しなければなりません。そして、対応策を練っておくのです。 キャンプでは話を聞く場面がたくさんあるのですが、おそらく彼らは学校でも話が聞けなくて叱られ ています。だから、話を聞くということの大切さを理解してもらいたいと考えました。話を熱心に聴い てくれれば、私たちも彼らを高く評価できますし、安心できます。関係ができます。リーダーと楽しく 遊ぶベースができます。それ以上に子ども同士で遊ぶことが大切です。みんなで遊ぶ楽しさを味わって ほしいと思います。子どもは邪魔する行動をよくとるのですが、それは邪魔してやろうと思ってしてい - 33 - るのではなく、一緒に遊びたいと思ってとる行動が、他の子どもには邪魔になっていることが多いので す。わざとやっていると思うと、プログラムは進んでいきません。こういうことをするとみんなが迷惑 しているということを彼らに示せばいいのです。 また、達成感を味わうことも大切です。うまくいった体験を体で感じたい。飽きっぽいのも発達障が いの子どもの特徴ですから、継続して、長く繰り返すことも大切です。これが子ども同士の活動の支援 です。 結果的にも、またできなかったとか、また忘れているとか非難する言葉を出しがちですが、これをど う減らすかということを考えました。グループ活動が苦手な子どもはグループからすぐ離れていきます。 ここだけを取り上げてどこかへ行ったことを非難するのではなく、なぜ彼はグループと一緒にいること が苦手なのかという原因を考えることが大切です。子どもの行動特性から悪い循環になってしまいます から、原因をいつも見つめたいと思っています。グループから離れることが悪いと思っているのは、グ ループ活動を大切にしている大人の考えで、子どもたちにとって、したいことをすることはけして悪い ことではありません。わからないのです。それを非難しても、子どもの心に伝わりません。出ていきや すいことを理解しながら、グループに入れる条件は何なのかということのアイデアを出すことが必要で す。指導者の工夫の大切さです。私たちも褒められた時には頑張ろうと思うものです。 そのための先行条件として ★本人がわかる指示を出す ★そのために順序立てて説明をする ということをカウンセラーは意識しています。コミュニケーション能力に問題のある子どもが多いので、 ちゃんとわかることが大切です。TEACCHプログラムでいう構造化ということと、ビジュアル化し た指示ということです。 実際の行動では、 ★話を聞くという行動を理解する ★みんなで遊ぶことの楽しさを味わう ★どんな行動がそれらを阻害しているのか、人との関係を具体的な行動で教える という 3 つの基本を持っています。当たり前に思っているこういうことが、彼らにはとても難しいこと なのです。それがうまくいかないので、仲間外れになったり、大人から叱られているのが彼らの毎日な のです。 そして、後続条件として ★最後までできた達成感を味わう ★がんばったら「いいことがある」という体験を持つ ★習慣性を付けていくシステムを作る つまり、学習理論、行動理論といわれる方法です。オペラント条件付けとも言われていますが、人は 成功体験に基づいて行動を習慣化させていくという考え方です。キャンプにはこういうことを実践する ための資源がいっぱいあります。 では、もう少し具体的に説明しましょう。先行条件が整わなかったら彼らは失敗をします。だから、 まずここで支援をします。コミュニケーション力、特に聴く力が弱い子どもですから、漫然と伝えても 伝わらないことが多いので、本人の目をしっかり見つめて、個別に伝えることや、絵や写真、あるいは カウンセラー自身がモデルになって視覚的に伝えるということです。内容を反復して彼らの言葉で伝え なおしてもらうことも有効です。 - 34 - うまく伝わらなくて、行動がメンバーの期待から逸脱すると、叱られる、無視される、けんかになる など、結果がマイナスになります。反対にいい支援ができて、うまく内容が伝わると、グループ活動が うまくいき、仲間に認められたり、カウンセラーにほめられます。オペラント条件づけというのは、う まくいく、ほめられる、つまり、自分の行動がプラスの方向に強化されると、繰り返します。こうして 習慣化していくのです。 こうした先行条件の介入の方法として、次のようなことをカウンセラーに伝えています。 ★取り組む前に見通しを持たせる。活動の案内を必ず事前に送って、読んでもらうようにしています。 スケジュールや活動内容を必ず事前に伝えて、見通しが立てられるようにしています。 ★聴覚教示+視覚教示。タイムスケジュールは口で言うだけでなく、必ず掲示しています。各回のキャ ンプのしおりでは約束事を明示しています。途中で帰りたいと言い出す子どもでも、「今日の解散は 何時やった?」と問い直すと、頭に入っているスケジュールを思い出して、終了まで頑張ろうという 気になることもあります。時間にこだわる子どももいるので、反対にスケジュール通りにいかないと 不安になることもあります。でも、アウトドアのキャンプの活動はそんなに時間どおりにいかないこ ともたくさんあります。だから、集合や解散のように、絶対変更しない時間は四角で囲っています。 それ以外の時間は多少の変更があることを事前に伝えています。そうした区別も必要です。 キャンプでは口で言っていることが多いのですが、文字にして、しおりや掲示で示すことが必要です。 ★プログラムを継時的に考える。あまり使われない言葉ですが、「この順番にすれば、自分でできる」 と感じられるように動機づけることです。先に構造化という言葉を使いましたが、同時にいろんなこ とをしなければならないときや、先の見通しがつかないことが彼らは苦手です。だから、私たちが無 意識に複雑なことをしていることを細かく一つひとつに区切って、分解して彼らにわかるようにする ことが大切です。例えば「川に入るよ」というと、待つことができなくて、服を着替えるとか、安全 についての注意を聞くとかができずに、一直線に川に向かっていく子もいます。食事をする場面でも、 みんなが座るのを待つとか、手を洗うとかができない子もいるのです。たくさんの人と一緒に食事を するためには手順やルールがあることを示すことが必要です。順番に並んでなどを絵カードにして示 すことも必要です。 ★褒めるための約束づくり。学習理論では強化といいますが、褒めることが大切です。ところが何を褒 められたのかわからないということもあるわけですから、これをこういう風にしようと、最初から約 束をしておき、つまり、目的を明確にし、そのとおりできて、仲間がそれを認める場面をたくさん作 ってやることです。また、約束どおりにすればうまくいくという体験が大切です。まさにオペラント 条件づけです。暗黙のルールなどは分からない子どもが多いのですが、それをきちんと言語化してお くこと、また、否定的な約束「○○をしてはいけない」というより、「××をしよう」というチャレ ンジをするための約束の方が彼らには受け入れられやすいということも知っておいてほしいと思い ます。キャンプファイアーで長そで長ズボンというのは定番のルールだと思いますが、暑い夏の夜に このルールは彼らには理解しがたいルールです。とても嫌がります。強制しようとすると、彼らはパ ニックになります。だから、「昨日の夜は蚊がいっぱいいたね」とか「野外料理するときも暑いけれ ど、長ズボンをはいたね。あれは火のそばに寄るからだね」という風に理由を明確にすると比較的理 解されやすいものです。懐中電灯も「ファイアー中は使ってはいけない」といっても、必ずぱちぱち する子どもが出てきます。使ってはいけないという否定的な約束より、「これは帰り道の真っ暗な時 に使おうね」という肯定的な約束が効果的です。 もっと具体的に話しましょう。たとえば、他人の話が聞けないという子どもがいます。人の話を聞く - 35 - という態度を習慣化するために、カウンセラーは次のようなことをメンバーと約束します。 ★話をしている人の方向に体を向ける ★話をしている人の目を見る ★話を聞くときはおしゃべりしない ★質問があるときは終わってから手を挙げる そして、話の内容が伝わっているかどうか、彼に確認するために、内容を繰り返し言ってもらい、ち ゃんと理解していれば褒める、というようなことを習慣化するということです。 忘れ物をしないためにも、こんな約束をします。 ★始まる前に、必要なものがあるかどうかチェックする(チェック表があるといい) ★使い終わったものはすぐに元の所にしまう ★忘れ物をしたら、リーダーやお友達に「忘れた」「貸して」と優しく言い、了解をもらってから使う くどくて、面倒くさいのですが、うまくいったら、彼らには自信になります。 行動中には次のようなことをカウンセラーの指針にしています。 ★子どもの行動を「見る」のではなく「観る」 。ぼんやり、何となく集団を見ているのではなく、1 人ひ とりを意識して観ることが必要です。 ★良い行動には即時強化していく。褒めるのですが、時間がたって、何を褒められたのか本人がわから ないということを避けるために、いい行動ができたときすぐに褒めることが大切です。 ★子どもの「言葉でない言葉」を読み取って、子ども同士の関係を翻訳していく。子どもは自分の行動 の意味を理解しにくいものです。何となくわかっていても、他人に説明することは難しいのです。そ ういう行動を言語化してやることが必要です。何度も言いますが、軽度発達障がいの子どもは知的に はノーマルなので、論理的な説明が分かりやすいのです。 ★怒ってしまいたくなるときは、必ず原因に注目して考えて、新しい角度からの関わりを試みる。子ど もの出来ないこと、嫌なことが目につきだすと、同じことを何度も、しかもだんだんエスカレートし て叱ってしまいがちです。叱られてばかりでは楽しくありません。 ★注意しようと思うときは、ユーモアを交えて穏やかに伝える。叱ってばかりだと、自尊感情は育まれ ません。原因を見つけて修正することが大切です。 ★その場にいない保護者にも安心してもらえるように、子どもたちに接する。自分の子どもがキャンプ 中、叱られてばかりというのでは親は安心して子どもを預ける気にはなりません。また、親にも日常 の中で同じように接してもらうことが大切ですから、自分たちのやっていることを親に説明できる行 動をとる必要があります。 最後に後続条件を整理しておきましょう。 ★良い行動はすぐ褒める ★「良い/悪い」行動は自己評価+他者評価で決める。自分でいいと思うことでも周囲には邪魔になっ ていることもあります。周囲の仲間の反応をちゃんと見られるように支援しましょう。 ★失敗したことは「次に失敗しないためにどうしたらいいのか」という意識をつける。原因を言語化す る習慣です。仲間とけんかしたり、カウンセラーに叱られるのは本人も嫌なことです。「次に頑張ろ うね」という言葉が大切です。 ★好循環システムを作る。うまくいき出すと、どんどんうまくいくようになるものです。長い期間、彼 らと一緒にいると、お母さんの日常がそうであるように、いらいらして叱りたくなるようなことが山 - 36 - ほどありますが、ちょっとのんびりと、キャンプですべてのことが解消されるわけもないのですから、 悪いところには多少目をつぶって、彼らのいいところを少しでも見つけてやるのです。テントの入口 の靴がバラバラになっているのを整理していたとか、食事の列を待つことができたとか、一つでも二 つでも、よかったことを見つけて褒めることが大切です。 現実には社会的に不器用な子どもが多く、遊ぼうという代わりに遊びたい人を叩いたりするとか、 褒められてうれしいのに、わざとそれを無視するとかいうことがたくさんあります。その叩いたこと を遊びたいことの代わりなのだということを通訳することが大事です。冗談が通じにくいということ も彼らの特徴です。みんなが面白くて笑っていても、それが何で笑っているのかわからない、極端に は自分が笑われているのではないかと疑ったりすることもよくあります。通訳する力が大切ですね。 ただ叱るのではなくユーモアも大事にしてください。 そのために、 ★約束事を明確にしましょう ★褒められたことを明確にするために、シールなどの具体的なご褒美も有効です。YMCAではこのシ ール1枚を5円で換金できるようにしています。継続してキャンプに来ることや、自分で稼ぐことを 目的にして、いい方向に自分を向ける動機づけになります。1年間継続すると、1000円とか20 00円分のシールがたまります。自分で稼いだお金ですから、子どもたちはとても喜びます。 ★これらの約束を守ることは難しいことなので、全部守れなくても、一つでも守れたらいいと納得する ★失敗しても次にチャンスがあることを伝えて支援する キャンプは僕らのエネルギー 簡単な調査ですが、私たちの キャンプの結果、緩やかな上昇 カーブですが、明らかに子ども たちの社会性は向上していま とが必要でしょう。 80% ウンセラーそのものを強化す る仕組みも必要です。 Ⅴ自己他者認知 Ⅴ自己他者認知 Ⅲ非言語的コミュニケーション Ⅲ非言語的コミュニケーション 80% 60% 60% 40% 40% 20% 20% 0% 指導者も専門家ばかりがや るわけではありませんので、カ Ⅱ言語的コミュニケーション Ⅱ言語的コミュニケーション Ⅳ情緒的行動 Ⅳ情緒的行動 100%100% す。(右グラフ) こうしたことを繰り返すこ Ⅰ集団参加行動 Ⅰ集団参加行動 キャンプ前 0% プレ事後 メイン事後 ポスト事後 図1.キャンプ参加者の社会性チェックリストの結果 キャンプ前 プレ事後 メイン事後 ポスト事後 図1 Fig..1 参加者の保護者による社会性チェックリストの結果 彼らの未熟な部分を補い、支援していくために組織が必要です。ディレクターや専門家によるスーパ ービジョンです。 子どもたちの笑顔やカウンセラーのいい関わりを正しく評価することです。ディレクターも子どもの 行動とカウンセラーの行動を真剣に「観る」必要があります。また、「あの時こうだった」という過去 を非難するより、「今」を認めることが大切です。評価の軸がぶれないように、ディレクターとカウン セラーの価値観や方法の共通基盤を持つことも大切です。事前の研修が大切ですし、目的を共有するこ とが大切です。そして、うまくいかないことも当然あることを理解し、工夫する楽しさを感じられるよ うにすることです。出来ないことが悪いのではなく、難しいことをしているわけですから、出来ないこ ともたくさんあるのが当然で、一緒にどうするかを工夫することが面白いと思えるといいですね。そう - 37 - いう意味で毎回の活動の後のミーティングが重要です。 キャンプをすることで、参加する子どもはもちろんですが、カウンセラーも私たち自身も変化、成長 できると実感することが、次につながるエネルギーになるのだと思います。 神崎:では、具体的にそうしたキャンプに参加された子どもさんの保護者である伊藤弥生子さんのお話 を聞きたいと思います。伊藤さんご自身は障がい児の母親ですが、発達障がい児を支援するNPO法人 チャイルズのメンバーでもあります。 <NPO 法人チャイルズ 伊藤 弥生子(重度発達障がい児の親)> 石田:伊藤さんの話を聞く前に、参加していただいたキャンプの様子を少し整理しておきましょう。7 人の発達障がい児の参加です。25 歳の女性Nさんは自閉症としては重度ですが、会話も成り立ちますし、 知的にもそんなに重度ではありません。私たちのキャンプにも何度も参加していますし、私たちにも慣 れています。音楽が好きで、ハンサムな男性も好きです。自分の生活は自分でできますし、いい指示さ えできれば、仲間と一緒に様々なことができます。今年の夏はほかのキャンプに参加を希望していたの ですが、日程的に合わないので、このキャンプの参加になりました。 他のメンバーは全員、キャンプは初めての参加の小中学生の男子です。今日発題していただける伊藤 さんの長男の伊藤文也くんは、典型的なアスペルガー症候群の3年生の男の子です。穏やかな生格で、 言葉も十分発達していますが、こだわりが強く、場の空気が読めない点では自閉傾向は重度です。 このキャンプのスタッフですが、CD、PD、MDの3人のディレクターは経験豊かですが、ディレ クター以外はほとんどがスタッフとして初めてのメンバーです。つまり、初めてのメンバーでも組織さ えしっかりしていれば、発達障がい児のキャンプはそんなに難しいものではありません。組織ですから、 個々のカウンセラーの能力より、組織体としてのトータルな能力が問われます。 私たちが配慮したのは次のような点です。 ① スタッフの事前の研修の充実。2 ヶ月ほど、週に一度の話し合いをしました。 ② 2 泊 3 日という短い日程。スタッフが初めてなので長いキャンプの運営は難しいという判断をしま した。 ③ 移動時間2時間余と公共交通の利用。長い移動は旅行をするという意味ではいいのですが、疲れま すし、乗り換えが多いと危険や緊張が多くなります。 ④ キャンプ場ではなく、お寺の利用。初めてのメンバーが多いので、キャンプ的な生活やプログラム の負担を少なくする。 ⑤ 事前の説明会と写真での情報提供。見通しをつけ、参加者の不安を少なくする。 ⑥ 地域の人の参加と協力。スタッフの経験不足を補い、子ども達に多様な人間関係を。 経験の少ないスタッフでの運営というのはとても難しいものですが、事前の研修を充実させることで、 方法や価値観など共通基盤を作ること、プログラムの運営や生活に負担をかけず、子どもたちとの接触 に焦点をしぼった活動を可能にしました。 事前の研修の中心は、プログラムづくりと発達障がいの理解、個々のメンバーの理解が中心です。参 加者の支援に集中して活動できるように、野外活動の難しいところはなるべく省略しました。たとえば、 お風呂はドラム缶を使ったのですが、薪で火を焚くのではなく、温水器からホースでお湯を引いて使用 - 38 - しました。メンバーが初めてドラム缶のお 風呂に入ることを支援することに集中した かったからです。 場所もキャンプ場でなく、お寺を借りま した。テントは面白いのですが、立てる大 変さ、狭い空間を使う難しさ、雨や気温の 変化に対応する難しさなどの困難を伴って います。その点お寺は非日常の場でありな がら、メンバーにもスタッフにも日常生活 に近い生活技術で、毎日が成り立ちます。 そういう意味で、生活の負担をなるべく 少なくするために、お寺の近所の人々の協 力を最大に活用させていただきました。食 事作りは檀家のご婦人に一緒に作ってもら いました。キャンプファイアーなどのアク ティビティは近くの小学生と一緒にさせて もらいました。自分たちの食べる食材の野 菜採りなどもさせていただきました。他に も漁船に乗せてもらって近くの海を遊覧する予定でしたが、これは雨で中止になりました。たくさんの 人の協力があって、このキャンプは成り立っているのです。 また、個々の参加者の理解のためのアセスメントと、参加者にキャンプやスタッフを理解してもらう ための事前説明会をしました。アセスメントシートでの理解と、直接メンバーに会い、保護者から詳細 をうかがいました。そして写真や スケジュール表を使って、参加者 にキャンプを理解してもらう努力 もしました。不安を取り除いて、 期待を大きくすることが大切だか らです。 いつも言っていますが、キャン プの最大の強みは参加者に合わせ た条件設定が可能だということで す。生活経験の少ない、また、変 化に対する対応力の弱い発達障が いの子どもたちに、自然とのふれ あいや、冒険、非日常性あふれた アクティビティや生活を提供する ためには、キャンプ場よりもお寺 が最もいいと思ったのです。 敦賀市というのはちょっと距離 があるけれど、乗り換えなしでい - 39 - ける便利なところです。彼らの最大の困難は人間関係であることを考えると、少人数で、一人ひとりを スタッフ全員が理解すること、そして、組織全体でメンバーを理解し、温かい雰囲気を作ることが大切 です。また、多様な人とのふれあいをどう設定するかということに心を配りました。キャンプ長、プロ グラムディレクター、マネジメントディレクターは経験豊かなスタッフを当てました。具体的には、キ ャンプ長は福祉系大学の教員を、PD、MDは福祉系大学の 4 年生が担当しました。スタッフはほとん どが初めてでしたが、7 人の大学生が 7 人のメンバーと一緒に活動するようにしました。けれど、マン ツーマンということではありません。人間関係を大切にするために、小集団にして、7 人を 4 人のスタ ッフで見て、残りの 2 人は地元の小学生担当、一人がマネジメントスタッフになりました。 いつも一緒のコアのメンバー、ちょっと距離をおいて生活を支えてくれる大人たち、場面ごとに関わ る活動に必要な人たちという 3 層の構造です。このように人間関係をうまくやるためのソーシャルスキ ルを、楽しい体験を通して学び、自信をつけようというものです。 では、発達障がい児を支援するNPO法人チャイルズの活動、文也君のキャンプでの様子と、キャン プに参加させるお母さんの気持ちをうかがいたいと思います。 伊藤:初めて子どもをキャンプに参加させました。親の手元から離すことも初 めてでした。きっかけはチャイルズのボランティア講座でキャンプの話を聞い たことでした。子どものことは自分でずっと面倒を見なければと思い込んでい ましたし、実際に私たちがチャイルズの活動をしていても、同じ障がい児を持 つ親がお互いにほかの子どものお世話をする程度で、宿泊を伴った活動に子ど もを預けるという発想はありませんでした。しかし、今うちの子どもは小学校 3 年ですが、いずれ親から離さなければならないということは意識していましたから、チャンスだと思い ました。これを逃してはならないと、その場で申し込みました。子どもは知的障がいを伴った自閉症児 です。自閉の程度がとても重度で、じっとしていることができませんし、こだわりも強い子どもです。 ただ、知的な障がいの程度は軽いので、会話は成り立ちます。しかし、よほど配慮して彼の気持ちを汲 み取ろうと努力しないと、彼の言おうとしていることがちゃんとつかめません。また、こちらの気持ち がよっぽど落ち着いていないと、イライラしてしまうような会話です。 一人っ子ということもあり、自分もキャンプをしたことがないので、この話を聞かないと、我が家で キャンプの機会はなかったと思います。知らない人たちと知らないところに宿泊を伴って行くなんてと んでもないと思っていました。友達からキャンプの話を聞いたりして、本人はやりたいという気持ちも あったと思いますし、親としてもやらせたいという気持ちもありましたが、とても心配でした。 チャイルズの親の勉強会で、子どもの自立ということを聞いていて、来年は高学年になるので子離れ の必要性は感じていました。けれど、パニックになったらどうしようとか、自分の思いをちゃんと伝え られないから、辛くなるのではと、そんな時はどうしようとか、まず心配が先にたち、無理だと親が思 い込んでいました。 けれど、この講習会での講師の話は信じてみようかなと少しは思えました。講師は石田さんだったの ですが、この話を聞いていなければ、絶対キャンプに参加する可能性はなかったと思います。 前日、楽しみにはしていたと思いますが、きっと不安もあって、夜は 2 時間くらいしか寝ていなかっ たと思います。荷物も何を入れればいいのかわからず、とにかく心配が先にたったので、新大阪に集合 したときには一番の大荷物に見えるくらい、いっぱいの荷物になりました。 例えば、私が心配だったもので、携帯電話も持たせました。不安になったら電話しておいでといった - 40 - のですが、一度もかかってこなくて、いえ、一度だけかかってきたのですが、「これから花火をする」 と、とても楽しそうでした。それから一度もかかってきませんでした。 デジタルカメラも持たせて、リーダーに写真を 撮ってもらうことをお願いしました。キャンプ後、 彼の話を聞きながら、いっしょにアルバムを作り ました。この写真がなければ、彼が嫌がるくらい いろんなことを質問攻めにして、うるさいなと思 われたと思います。 子どももキャンプの後、毎日毎日アルバムを見 ていました。よほどキャンプが楽しかったのだと 思います。次のキャンプも「絶対に行く」と言っ ています。 「次にキャンプに行けば、俺はもう帰っ てこない」とか言っていました。 できなかったこともたくさんあったと思うので すが、楽しそうに無事に帰ってきて、子どもを見 キャンプ終了後 作成したアルバム 直したというか、自分の意思をきちんと伝えるこ ともできたのではないかとか、子どものことを信用できるようになりました。 子ども自身もキャンプ後は何でも自分でしたがって、これまでの、私がいないと無理だという感覚か ら、もしかしたら彼は自分でできるのかもしれないと思えるようになりました。 自閉症の子どもは見通しがつかないと不安で不安でしたかがないという特性があって、何度も何度も 質問をしてきます。キャンピズではキャンプの前のプレキャンプでお寺の様子などを写真できちんと示 してくれて、スケジュールもわかっていて、子どもなりに見通しが立って、参加することに不安がなか ったように思います。 質疑応答・感想 参加者1:発達障がい者支援センター「アクト大阪」の支援を受けています。17 歳ではじめて自閉症児 だということが分かりました。アスペルガー症候群です。不登校になったことでさまざまな機関に相談 をして、障がいが分かったのです。高校は何とか卒業できたのですが、キャンプというものにもっと早 く出会っていればと、この講習会に参加して残念でなりません。仲間同士が交わることが大切だと思う のですが、結果的には、お互いに相手の特性が分からないまま交わって、学校がうまくいかなかったこ とも後悔しています。事前に子どもの特性を理解することの大切さを感じました。 参加者 2:キャンプのリーダーです。多動の子どもを追いかけまわって、疲れきってしまいました。こ ういう子どもの場合どのように触れ合うのがいいのでしょうか。 金山:やはりその子がどんな子かということを知ることが大切です。その子が追いかけられることをど のように思っているかです。普通なら、追いかけられたら悪いと思うのでしょうが、自閉症の子どもの 中には、追いかけられることを喜んでいる子もいます。追いかければ追いかけるほど楽しんでいるので す。こういう場合は追いかけることはよくありません。私なら、様子を見ながらですが、逃げても無視 - 41 - したり、なぜ逃げているかをしっかり見たいと思います。むやみに追いかけることはよくないと思いま す。 石田:徹底的に逃げる子どもがいました。後でわかったのですが、GPSを持って参加していたのです。 元来多動が激しくて、家でも手を焼いておられたのです。親が疲れきっていて、何とか誰かに支援して もらいたかった様子でした。しかし、それを言うとキャンプに連れていかないと言われると困るので、 そのことをきちんと私たちに伝えてくれませんでした。結果的には 1 時間ほど行方不明にしてしまった のですが、彼のような場合は絶対に目を離すことができませんし、追いかける必要もあると思います。 でも、これはまれな例です。それからまもなく 2 年になりますが、彼はキャンプで行方不明になること はありません。状況がよく分かって、キャンプにいることが楽しくなったからです。 参加者 3:発達障がい児のキャンプのニーズはたくさんあるのに、実際にはほとんど参加していません。 キャンプはどのようにして広報されているのでしょうか。 石田:一般的には無いでしょう。私たちもマスコミを通じて広く情報を出せればいいとは思いますが、 すごく手間をかけたことをしているので、たくさんの人に対応できないのが現実です。キャンピズは若 いボランティアが 150 人もいるので対応できていますが、それでも広報して広く募集するということに はなりません。今回は、募集の方法がまずくて、このキャンプの参加者がいなかったので、お勧めでき たのですが。 参加者 4:石田さんと話しているうちにこの人ならと思えて任せたということがありましたが、保護者 としては安心のポイントはどんなところでしょう。 伊藤:うちの場合はキャンプの場所がキャンプ場でなく、お寺だということに安心を感じました。トイ レも風呂も選択肢がたくさんあって、彼ができることを選択できたからです。キャンプらしくないこと に共感したのです。キャンプ場というのは、虫が多いとか、暑いとか、ドラム缶の風呂とか、しゃがむ 和式のトイレとか、知らない人には不安がある場合が多いと思います。 また、事前のアセスメント表が安心の材料になりました。とても細かいところまで記入させられたの で、書くときはたいへんだったのですが、こんなことまで配慮していただけるのかと思うと、とても安 心できました。 保護者として、私もチャイルズに入っていたのでこういう情報が入ったのですが、自分の子どもがキ ャンプに参加できるとは思えなかったので、親も障がいをちゃんと開示して、社会参加する必要がある と思います。 石田:広報を広くできない理由として、初めて迎える子どものなかで、さっきのGPSの子どものよう にとんでもない子もいますので、きちんとアセスメントに応えてくれ、プレキャンプにも参加してくれ る人で、また、対応するキャンプの組織は、キャンプについては専門家でも、障がいについては専門家 ではないということを理解していただけないと困ります。 アセスメントは本当に伊藤さんに嫌がられるくらい細かく書いてもらっています。そうしてお互いに 信頼できることが大切ですね。事故が起こることを本当に心配していますから。 信頼関係が大切です。さっきの逃げた子どもの場合、GPSだけでなく、自宅では玄関のほかは窓も 扉もみんな鉄格子をはめて、入り口を一つだけにして、徹底して彼が外に出て行かないようにしている ということを行方不明になってから聞きました。それでは困るのです。 人手で解決をしようと努力していますが、人では解決できないこともあります。事故の可能性はいつ もあると思っています。私たちは参加費をたくさんいただいて、スタッフは全員がボランティアなので 成り立っていますが、公立のキャンプ場や公的な団体の参加費ではとてもやっていけないと思います。 - 42 - キャンプは安い経費でできるというのではなく、キャンプも良いものをしようとすれば、お金がかかる ということを理解していただかなくてはなりません。 参加費だけでは限界がありますから、公的な介護保険のように、制度として参加を保障される必要が あるでしょう。 金山:YMCAでも普段の学習教室とかでの触れ合いがあって、保護者とYMCAの間に信頼関係があ るから、キャンプも成り立っているのだと思います。YMCAも広く地域全体への情報提供はないので すが、YMCAは社会的に信頼のある団体ですから、自閉症協会の人から依頼があったりして、リーダ ーを連れてキャンプをしに行きます。そういう意味では、日頃から社会参加されているという中で情報 が入ってくるのではないでしょうか。 このキャンプを国立曽爾少年自然の家で実施しているのですが、こういう野外活動施設との関係も大 切でしょうね。国立の施設はホームページもあるので、情報は流れているのですが、現実に保護者がキ ャンプを目的にホームページを開くということはないでしょう。だから、やはり口コミでしょうね。障 がい児の保護者同士のつながりが大切でしょうね。 参加者 4:NPOです。手探りで発達障がいのキャンプをしたのですが、この時もキャンピズの協力を 得ました。具体的なキャンプの方法をキャンプ協会が分かりやすく提供してくれたらいいですね。 うちの子どもも障がい児で、初めてキャンプをしたとき、4 日間、ずっと泣いていたようです。帰れ るということが分かるまで、ずいぶん不安な思いをしたと思います。親としてもっとできたことがあっ たのかなと思いました。 金山:具体的な指示がとおらない場合、子ども目線に立つということが大切です。子どもの目線という のがなんなのかということなのですが、私たちはたくさんの子どもを見ているので、経験上、見通しが つくようになりました。 例えば、川遊びに行くとします。食堂での食事が暑くて暑くて、一時も早く水に入りたいと、誰もが 思っていました。ところが、水着に着替えて、川辺に来てから、私たちは安全だとか、時間だとかの説 明をします。そんな私たちに、「俺はすぐに川に入りたい」と子どもは抗議をします。時にはこちらを 無視して川に入っていきます。私たちはルールを守ろうという意識とか理性で行動する訳ですが、本当 は私たち自身も暑いという思いでした。 食事の時に先に説明しておくとか、先に一度は川に入れて、落ち着いてから説明するとか、裸になっ ている子どもの立場で考えることを忘れているのです。何ですぐ川に入れてくれないんだという思いが 当然です。 こうした失敗を重ねながら、話し方などを学習しています。 石田:子どもの目線や立場を考えると、ルールよりも子どもの感情を優先したいとは思います。けれど、 現実にはそんなにいつでも臨機応変には対応できません。また、こういう子どもにもルールというもの を分かってほしいという気持ちも持ってキャンプをしています。ルールを分かってくれればいいけれど、 レディネスのない子どもにそんなことを期待はしないほうがいい。ワールドという言葉があるように、 そこにいる人たちがみんな発達障がいを理解して、子どもの立場に沿いたいと思うようになるために、 時間や繰り返しが必要だと思います。初めて会った子どもに 1 回で理解させようと思うことに無理があ るのです。 17 歳までアスペルガーであることが分からなかったという話がありました。障がいをなるべく隠して おきたいというのが気持ちかもしれませんが、たくさんの人に話しても相手が理解してくれないという 不幸もあります。GPSのお母さんが隠しておきたかった気持ちです。私たちは常にそういうことがあ - 43 - ることを理解し、少しずつこのキャンプを広げていけたらなと思います。 ここにたくさんの人が発達障がい児のキャンプをしようと集まっておられる訳ですから、一人でも受 け入れるようにしていただければいいなと思います。もし機会がなければ、YMCAやキャンピズに加 わっていただければと思います。ただし、私たちはとてもトレーニングに力を入れていますので、準備 に時間がかかります。社会人の人がすぐに参加できるとは思いませんので、忙しい人には難しいかもし れませんね。 伊藤:自閉症の子どもがキャンプに参加できる機会はほとんどないと思いますので、ぜひ機会を広く作 っていただくことを節に願います。 金山:たいへんなことと楽しいことがあるとすれば、たいへんなことのほうが多いのが、また、危険な こともたくさんあるのが現実です。でも、子どものユニークさは触れ合っていてとてもおもしろいし、 子どもとしてのキャンプに参加する願いは障がいがあってもなくても同じだし、キャンプに対する期待 も同じです。その同じ思いを受け入れられるようにしたいと思っています。 キャンプでうまくできたことが彼らの自信になれば、応援していきたいと思っています。 石田:どこで発達障がいの子どもがキャンプをするのかを考えたとき、社会の中の組織としてのキャン プの弱さを思います。ぜひキャンプで発達障がい児と触れ合って、彼らの自立に力を貸していただけれ ばと思います。キャンプをすることが最終の目的でなく、彼らといっしょに暮らせる社会を作ることこ そ、本当の目的だと思います。 自閉症の子どものキャンプをした人はみんなその魅力にとらわれます。先に話が少し出てきた発達障 がい者支援センターのアクト大阪にも私たちといっしょにキャンプをしていたメンバーが、自閉症児の 魅力に取り付かれて、それを仕事にしています。ぜひ、皆さんといっしょにそういう社会作りのために キャンプを活用できればと思います。 - 44 - 2008 年度日本キャンプ協会BUC対象事業 2008 社団法人日本キャンプ協会 キャンプアカデミー (大阪府キャンプ協会 第三回キャンプサロン) “子どもが変わった”と言われて久しい昨今、キャンプにおいても様々な形で障がいを持つ人々を受容れ、 そして、従来にも増して支援していく試みが進められています。 日本キャンプ協会では、『キャンプに関連する新しい社会事象・取り組みを学ぶ』ことを狙いに、 「キャンプアカデミー」を開催しておりますが、今回は発達障がいについて考え、 ご参加の皆さん方と「キャンプにおける対象理解」を深めていきたいと思います。 内 容 【第1回】 『発達障がいとは ∼その種類や特徴∼』 児童精神科医 郭 【第2回】 『発達障がい児の理解 桃山学院大学 教授 石田 (事例報告) ところ 易司 (社団法人日本キャンプ協会 常務理事) ∼キャンプ活動での事例から∼』 NPO 法人キャンピズ 奈良YMCA NPO 法人チャイルズ (進行) 京都YMCA 総主事 き (社団法人日本キャンプ協会 理事) ∼キャンプでどう受容れるか∼』 【第3回】 『発達障がい児と共に と 麗月 石田 易司 (桃山学院大学 教授) 金山 好美 (学校心理士、特別支援教育士) 伊藤 弥生子(重度発達障がい児の親) 神崎 清一 (日本キャンプ協会 常務理事) 【第1回】平成20年10月27日(月)19時∼21時 【第2回】平成20年11月17日(月)19時∼21時 【第3回】平成20年12月 8日(月)19時∼21時 大阪府立青少年会館 3階 研修室 (JR環状線「森ノ宮」駅より西へ500m、地下鉄「森ノ宮」駅より西へ300m) 参加費 各1回受講 一般2,000円 キャンプ協会会員・学生1,000円 (全3回受講 一般5,000円 キャンプ協会会員・学生2,000円) 主催:(社)日本キャンプ協会 主管:大阪府キャンプ協会 協力:近畿ブロック支部協会プロジェクト 関西野外活動ミーティング実行委員会 お申込み・お問合せ 大阪府キャンプ協会 〒540-0003 TEL 大阪市中央区森ノ宮中央 2-13-33 06-6942-5146 FAX06-6942-2448 財団法人大阪府青少年活動財団 内 E-mail [email protected] ☆裏面の参加申込書にご記入の上、FAXでお申込みいただけます。 45 大阪府キャンプ協会 2008 FAX 社団法人日本キャンプ協会 06−6942−2448 キャンプアカデミー(大阪府キャンプ協会 第三回キャンプサロン) ふりがな お名前 男 ・ 女 ( 一 般 ・ キャンプ協会会員 ・ 学 生 ) 日本キャンプ協会会員№ ( )才 D1 ・ D2P ・ D2M ・ I − 連絡先(TEL) 所属団体名 または 学校名 ご参加の回 (参加されるすべての回に○をつけてください) ・第1回(10/27) ・第2回(11/17) ・第3回(12/8) *ご記入いただいた情報は、事業運営上必要な事務に使用いたします。 また、今後キャンプ協会各種事業のご案内を送付させていただくことがあります。 □ 今後事業案内を希望しません ご不要の方は右記によりお申し出ください。 会場は・・・大 阪府立青少年会館 JR 環状線「森ノ宮」駅下車・西へ 500m 大阪市中央区森ノ宮中央 2-13-33 TEL:06-6942-5146 地下鉄中央線・長堀鶴見緑地線「森ノ宮」駅下車・西へ 300m ※駐車場あります(有料) 至大阪 京 橋 京阪電車 天満橋 JR東 西線 N 天満橋 大手前 地 下 鉄 谷 町 線 大阪城公園 大阪 府庁 地 下 鉄 長 堀 鶴 見 緑 地 線 大阪城公園 JR 大 阪 環 状 線 馬場町 ピース大阪 NHK 至本町 谷町4丁目 国立病院 中央大通り 地下鉄中央線 難波宮跡 大阪府立 青少年会館 至天王寺 日生球場跡 約800m 森ノ宮 森 ノ 宮 大阪府立青少年会館 至阿部野 至天王寺 46 至深江 橋 キャンプアカデミー 参加者名簿 № 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 氏名 赤木 功 浅井 麻里 網 富美子 大谷 友貴 大塚 菜美 大手 まゆみ 大野 美佳 岡田 智世 奥 遥香 奥山 希三子 小椋 才子 角森 片岡 弘尚 加藤 結 加藤 玲子 加茂 侑子 木野 朱理 木村 一紀 小泉 いと子 小谷 幹子 小寺 隆史 後藤 聖司 小西 浩嗣 菰口 麻実 坂本 真由美 坂本 倫太郎 櫻井 章絵 佐古 武彦 佐藤 眞史 清水 睦 清水 玲子 菅原 益美 鈴木 忠範 園田 美代子 高瀬 宏樹 武村 尚史 田中 俊輝 田中 みゆき 田中 里奈 千葉 麻衣 1回目 10/27 ○ 2回目 11/17 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 3回目 12/8 ○ ○ ○ ○ ○ ○ № 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 氏名 筒井 美佐子 富岡 美千子 冨山 浩一 仲島 真悠子 永田 裕宜 中西 眞季 永野 愛子 中野 泰孝 中村 彰利 中村 茂高 永吉 宏英 西川 正人 西村 英毅 西村 優子 野崎 典子 野沢 俊索 野村 祥吾 拝郷 弘実 浜口 由利子 林 健児郎 廣瀬 仁識 藤井 佐奈 藤井 恒輝 藤原 鈴子 堀 直樹 前原 卓磨 南 勝久 宮野 亮 三輪 幸加 森本 真由美 山下 幸子 山田 直 山本 優 山本 亮司 吉川 史浩 吉本 浩基 脇田 麻未 1回目 10/27 ○ ○ ○ ○ 3回目 12/8 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 講 師 第1回 郭 麗月 (社)日本キャンプ協会理事 ・桃山学院大学 第 2 回・第 3 回 石田 易司 (社)日本キャンプ協会常務理事 ・桃山学院大学 第3回 金山 好美 奈良 YMCA 第3回 伊藤 弥生子 NPO 法人チャイルズ 第3回 神崎 清一 (社)日本キャンプ協会常務理事 ・京都 YMCA 今井 正裕 (財)大阪府青少年活動財団・大阪府キャンプ協会 高橋 裕美子 大阪府キャンプ協会 松島 由佳里 (財)大阪府青少年活動財団 スタッフ 47 2回目 11/17 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 敬称略 50 音順 日本キャンプ協会「キャンプアカデミー」を主管して 日本キャンプ協会が主催する「キャンプアカデミー」事業を大阪府キャンプ協会(キャンプサロン)との共 催で開催し、その主管の任を担えましたことに感謝申し上げます。 本事業「キャンプアカデミー」は、1975(昭和 50)年に第1回(第1期)が開催され、2001(平成 13)年 に第 53 回(53 期)をもって終了するまで、27 年間全 53 期に渡って開催されたキャンプ指導者のためのセミ ナーです。開始当初は初級者レベルを想定した基礎的な実技やノウハウ伝授に関するものが多く、当時まだ十 分な資料、書物なども出回っていない頃に実施されたその特徴は、 ・東京での開催、 ・毎週金曜日の夜開催のシリーズ、 ・講義と 2 泊 3 日実習のセット ・日本を代表する野外活動・野外教育・レクリエーションの専門講師による講座 などであったと聞いております。(日本キャンプ協会 35 周年記念誌p32∼p43 参照) 1995(平成7)年からは、本部と同時に支部での開催も行われるようになり、大阪においては 1999(平成 11)年、第 50 期の記念すべきアカデミーを開催したご縁があります。 時を経て、 「キャンプに関連する新しい社会事象・取組みを学ぶ」ことを狙いに、2008(平成 20)年、まだ 夏のキャンプ活動の余韻の残る、残暑の厳しい9月に、「キャンプでの対象理解を深める」ために、“発達障が い”をメインテーマにキャンプアカデミーの開催をしてはどうか、とのお話が大阪に寄せられました。 日本キャンプ協会の理事を務められる郭麗月先生が児童精神科医で、且つ桃山学院大学の教員をされておら れることからトントン拍子で企画が進み、全三回のシリーズとして実施することとなりました。 “子どもが変わった”と云われて久しい昨今、キャンプにおいても様々な形で障がいをもつ人々を受容れ、 そして従来にも増して支援していく試みが進められている中、 ・ 大阪を会場に、・月一回、月曜日の夜開催の三回シリーズ ・ “発達障がい”について、その種類や特徴からキャンプでの受容れまで幅広く学ぶ ことを、コンセプトに事業を実施いたしました。 応募は予想を上回り、毎回 50 名超の方々が受講されました。今回のアカデミーのテーマが時機を得ていた のでしょうか、学びの機会を探されていたのでしょうか。いずれにしても、関心の高さが伺えました。 中でも特徴的であったことは、参加者の多くが野外活動指導者、関係者ではなく、野外活動には縁遠いが、 障がいを持っている方々を支援する、また関わっておられる方々の受講が多いことでした。 キャンプ場面での“対象の理解”の側面からのアプローチを意図した本事業でしたが、“障がい者(児)”の 周辺におられる方々の、活動を広げようとするための社会の情報収集や視野を広げるための熱心なアプローチ に驚きました。予想外の嬉しい反応でした。 同時に、ますます「キャンプでどのように受容れていくのか」が問われる社会状況になってきたこと、その 責務を日本協会がどのように果たしていくのか、が問われていることを実感いたしました。 多くの方々と根気よく、着実にキャンプの普及と、そのための指導者養成に取組んでいくことの重大さを改 めて認識いたしました。 最後になりましたが、今回のアカデミー開催にあたり、奈良YMCAの金山好美さん、NPO 法人チャイル ズの伊藤弥生子さんはじめ、ご支援、ご協力をいただきました講師の皆様に感謝申し上げます。 参加者の皆様、スタッフの方々、そして会場となりました大阪府立青少年会館の方々はじめ多くの関係者の 皆様、ありがとうございました。 大阪府キャンプ協会 事務局 48 今井 正裕(財団法人大阪府青少年活動財団) キャンプアカデミー (大阪府キャンプ協会 第 3 回キャンプサロン) 「発達障がいについて考える」 2009 年 10 月 社団法人 日本キャンプ協会 〒151-0052 東京都渋谷区代々木神園町 3-1 国立オリンピック記念青少年総合センター内 TEL 03-3469-0217 FAX 03-3469-0504 大阪府キャンプ協会 〒536-0025 大阪市城東区森之宮 1-6-102 大阪府森之宮庁舎2F (財)大阪府青少年活動財団内 TEL 06-6167-1200 FAX 06-6167-1201 49