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高圧水素を充填する複合容器蓄圧器の技術基準に関する検討状況
高圧水素を充塡する複合容器蓄圧器の技術基準に関する検討状況 (一般財団法人石油エネルギー技術センター 自動車・新燃料部) 川付 正明、吉田 剛、小林 拡、川又 和憲、中妻 孝之、岡崎 順二、○主藤 祐功 1.研究開発の目的 1.1 目的 本研究開発は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施す る「水素利用技術研究開発事業」において、東京大学、高圧ガス保安協会、及び石油エネルギ ー技術センターが連携して進めている複合圧力容器蓄圧器の基準整備等に関する研究開発に 関するものである。 水素ステーションに用いられる複合圧力容器蓄圧器(以下「複合蓄圧器」という。)においては、 その評価方法の一つである圧力サイクル試験と実際の使用条件が大きく異なっており、複合蓄圧 器の評価方法の高度化、複合蓄圧器の炭素繊維強化プラスチック(以下「CFRP」という。)の評価 方法の高度化、及び複合蓄圧器の疲労設計方法の高度化などが望まれている。そこで、これらに 係る基準整備等のための研究開発を行い、圧力サイクル試験費用の低減、複合蓄圧器の長寿命 化、複合蓄圧器の製造費用の低減等水素ステーション用複合蓄圧器のライフサイクルコスト低減 を図る。 本研究開発は平成 25 年度から平成 29 年度までの 5 ヵ年計画であり、本稿では平成 27 年度 の進捗状況を報告する。 1.2 研究開発経緯 図 1.1 に 70MPa 級水素ステーションの模式図を示す。70MPa 車載容器を備えた燃料電池自 動車(以下「FCV」という。)に水素を差圧により充塡するためには、より高圧な 80MPa を超える蓄 圧器を必要とする。 図1.1 70MPa級水素ステーションの模式図 図 1.2 に水素用容器の種類と特徴を示す。水素容器にはタイプ1からタイプ4までの種類があ る。タイプ1は金属容器で、その他が複合容器と呼ばれている。タイプ 2 は金属ライナーの胴部を CFRP で巻いたもの、タイプ3はアルミ合金ライナーの全面を CFRP で巻いたもの、タイプ 4 はプラ スチックライナーの全面をそれぞれ CFRP で巻いたものである。特徴として、タイプ1は高圧用の 場合、重量が大きくなるが、長寿命である。タイプ2はタイプ1に比べ重量が小さく、安価とされて いる。タイプ3はさらに重量が小さいが、使用寿命は評価方法によって規定され、タイプ1に比べる と使用可能回数が少ない場合がある。タイプ4は最も軽量であるが、微少ながら水素を透過する 問題がある。 図 1.2 水素用容器の種類と特徴 以前の水素蓄圧器(以下「蓄圧器」という。)の材料は金属に限定されていたため、70MPa 級水 素ステーションでは蓄圧器が厚肉となり大幅なコストアップとなっていた。そのため、金属製蓄圧 器に比べて軽量化とコストダウンが期待でき、車載用高圧水素容器として実績のある複合容器が 使用できる様に技術基準を整備することが必要であった。前事業では設計圧力 110MPa、設計圧 力サイクル数 10 万回のタイプ3中型複合容器の製造を達成し、それを用いた実験結果に基づ き、平成 25 年 2 月に複合圧力容器蓄圧器(以下「複合蓄圧器」という。)の設計、製作、及び検 査方法を纏めたガイドラインを作成し、平成 26 年 9 月 29 日には、高圧ガス保安協会により「圧縮 水素蓄圧器用複合圧力容器に関する技術文書 KHKTD 5202(2014)」(以下「技術文書」という。) が制定された。これにより、現状ではタイプ1とタイプ3が水素ステーションに導入済みである。技 術文書はタイプ4も対象としており、タイプ2は検討が開始されたばかりである。 以上を踏まえて、調査研究課題として以下の項目を抽出し、本研究開発を実施している。 ①タイプ3複合蓄圧器の疲労試験(常温圧力サイクル試験)における試験圧力媒体の種類及 び試験温度等が疲労寿命に及ぼす影響(平成 26 年度に終了) ②タイプ3複合蓄圧器の疲労試験(常温圧力サイクル試験)における試験圧力範囲が疲労寿 命に及ぼす影響 ③タイプ4複合蓄圧器の疲労による損傷モードの確認、疲労特性の評価、実証 ④タイプ2複合蓄圧器の評価方法の確立(平成27年度より開始) 2. 研究開発の内容 差圧充塡式水素ステーションにおける蓄圧器は使用年数 15 年および使用サイクル数 55 万回 程度使用されることが見込まれている。また、図 2.1 に差圧充塡式水素ステーションにおける水素 充塡の解析例に示す様に、低圧バンク(蓄圧器 1)、中圧バンク(蓄圧器 2)、及び高圧バンク(蓄 圧器 3)の組み合わせによるバンク切り替えが効率的であると考えられている。すなわち蓄圧器は ほぼ空の状態から満充塡の状態を繰り返して充塡と放出を行うのでは無く、圧力変動の小さい充 塡(以下「部分充塡」という。)を繰り返し行うことが想定されている。例えば、図 2.1 において蓄圧 器 1 は 80~50MPa、蓄圧器 2 は 80~70MPa、蓄圧器 3 は 80~78MPa といった圧力範囲を繰り 返して充塡と放出を行う。 蓄圧器の充塡・放出 100 蓄圧器1 蓄圧器2 蓄圧器3 部分充塡 空から 満タンの 充塡 圧力(MPa) 80 蓄圧器圧力 蓄圧器圧力 60 40 充塡時間 208s 20 車載容器 充塡圧力 0 0 50 100 150 時間(秒) 200 250 図 2.1 差圧充塡式水素ステーションにおける水素充塡の解析例 (水素圧力 80MPa 蓄圧器×3 本使用) そのため CFRP 複合構造を有する複合蓄圧器に部分充塡を適用して疲労寿命を評価するた めの課題、必要データ等を抽出する。また、疲労特性の確認は試験片及び試験容器等を用いて 応力範囲、平均応力、最大応力等の影響を評価して行う。さらに、必要に応じて関連技術の調査 を行い、部分充塡を想定した複合蓄圧器の設計、試験、検査、運転管理等の手法の高度化を検 討する。 2.1 タイプ3複合蓄圧器の評価方法の高度化 タイプ3複合蓄圧器の各種圧力範囲における疲労寿命データを取得し、蓄圧器の実使用条件 における評価方法の確立を目指す。疲労寿命データは最初に設計圧力 45MPa、内容積 30L、及 び目標疲労寿命 10 万回の小型容器を用いて常温圧力サイクル試験により取得した。図 2.2 に 常温圧力サイクル試験時の小型試験容器の外観を示す。小容量の小型容器を用いたのは効率 化を図るためである。また、最高使用圧力を 65MPa として、これを圧力 100%と設定した。 実ステーションにおける使用条件である低圧バンク、中圧バンク、及び高圧バンクを模した 3090%、50-90%、70-90%等の圧力範囲において平均応力、応力範囲、最大応力等を変更した場合 の疲労特性を確認した。また、試験容器の発生応力等を明らかにするため、連携する東京大学 生産技術研究所にて有限要素法を用いた解析を行った。さらに必要に応じて、タイプ3複合蓄圧 器のライナーに使用する材料試験片(アルミニウム合金 A6061-T6 等)を用いた疲労試験等を実 施し、材料特性を検証した。 常温圧力サイクル試験は、必要に応じて容量 80-100L の中型容器や水素ステーション用蓄圧 器を想定した容量 300L 級の大型容器を用いて実施し、各種圧力範囲における疲労寿命データ を取得する。これにより容器の大型化により発生する不確定要素を抽出し、平均応力、応力範 囲、最大応力等と疲労寿命との相関への影響を確認する。 図2.2 常温圧力サイクル試験時の小型試験容器の外観 2.2 タイプ4複合蓄圧器の評価方法の高度化 タイプ4複合蓄圧器の各種圧力範囲における疲労寿命データを取得し、蓄圧器の実使用条 件における評価方法の確立を目指す。疲労寿命データは最初に設計圧力70MPa、内容積36L、 及び目標疲労寿命10万回の小型容器を用いて常温圧力サイクル試験により取得した。また、設 計圧力70MPaを圧力100%と設定した。疲労による損傷モード及び部分充塡効果の確認を行うた め、まずは0-100%、0-125%、60-125%等の圧力範囲において試験を実施した。 常温圧力サイクル試験は、必要に応じて中型容器(80-100L)や大型容器(300L)を用いて実 施し、各種圧力範囲における疲労寿命データを取得する。 2.3 タイプ2複合蓄圧器の評価方法の確立 タイプ2複合蓄圧器の技術基準整備のため、各種圧力範囲における疲労寿命データを取得 し、蓄圧器の実使用条件における評価方法の確立を目指す。疲労寿命データは最初に設計圧 力35MPa、内容積20L、及び目標疲労寿命10万回の小型容器を用いて常温圧力サイクル試験 により取得する。また、設計圧力35MPaを圧力100%と設定した。疲労による損傷モードの確認を 行うため、まずは0-100%、0-125%、60-125%等の圧力範囲において試験を実施する。 常温圧力サイクル試験は、必要に応じて中大型容器(100-200L程度)を用いて実施し、各種 圧力範囲における疲労寿命データを取得し、評価方法原案の妥当性を検証する。なお、タイプ 2複合蓄圧器ではライナーの材料としてクロムモリブデン鋼(以下「クロモリ鋼」という。)の使用が 見込まれるが、クロモリ鋼の水素脆性に関しては、「水素ステーション用金属材料の鋼種拡大に 関する研究開発」と連携して検討する。 3.平成27年度研究開発の結果 3.1 タイプ3小型複合容器評価試験 図3.1にタイプ3小型試験容器のライナー胴部内面に掛かる応力範囲と圧力サイクル数の関 係を示す。ライナー胴部内面に掛かる応力は連携する東京大学生産技術研究所にて弾塑性解 析し、応力範囲を算出した。なお、応力範囲の数値は圧力範囲0-100%の時の平均応力との相 対比として無次元化した。 図3.1 ライナー胴部内面に掛かる応力範囲と圧力サイクル数の関係 * 応力範囲は圧力範囲0-100%の時の平均応力との相対比として無次元化した。 現状の技術文書の疲労試験方法に相当する圧力範囲0-100%の場合に得られた圧力サイク ル数に対して、上限の圧力を90%以下とした圧力範囲では応力範囲が減少するとサイクル数は 増加する傾向を示し、疲労寿命が延長する傾向を確認できた。一方、上限の圧力を100%とした 圧力範囲では応力範囲が減少してもサイクル数は顕著な増加を示さなかった。 これらの結果を元に技術文書の疲労試験方法について追加案を作成した。表3.1に疲労試 験に関する技術文書の現状と追加案の要旨を示す。現状の技術文書の疲労試験方法(5.2.3.1 疲労試験 a)試験の方法)では、「疲労試験は、設計圧力の10%以下から設計圧力以上の圧力 範囲で、毎分10回以下で圧力サイクルを負荷する。」としている。追加案では、現状の文章に続 けて「又は、金属ライナー製複合圧力容器の疲労試験は、設計者が規定する通常使用される状 態での最低の圧力以下から常用の圧力以上の圧力範囲で、毎分10回以下で圧力サイクルを負 荷する。ただし、最初に設計圧力の10%以下から設計圧力以上の圧力範囲で設計者が任意に 設定するサイクルを負荷する。」を追加するものとした。 表3.1 疲労試験に関する技術文書の現状と追加案の要旨 現状 追加案の要旨 KHKTD5202 5.2.3.1疲労試験 a)試験の方法 2)疲労試験は、設計圧力の10%以下から設計圧力以上の圧力範囲で、毎分 10回以下で圧力サイクルを負荷する。 (現状の文章に続けて)又は、通常使用される状態での最低の圧力以下か ら常用の圧力以上の圧力範囲で圧力サイクルを負荷する。 ただし、最初に設計圧力の10%以下から設計圧力以上の圧力範囲で設計 者が任意に設定するサイクルを負荷する。 なお、KHKTD5202の解説(5.5.2.3 設計確認試験の注意点)には以下の注 意点を記載する。また、技術データを添付して内容を補強する。 ・想定される耐圧試験、保安検査、および他設備対応のための脱圧に相当す る負荷のサイクル数を設計者が任意に設定し、疲労試験の最初に設計圧力 の10%以下から100%圧力サイクルを実施する。 ・蓄圧器の最低圧力をLOW ALARM等で管理する。 ・疲労試験の合格基準には、試験時の漏れ箇所についての規定は無いが、 漏れ箇所と評価点が一致し、そこでのき裂進展計算が必要となる。 また、技術文書の解説(5.5.2.3設計確認試験での注意点)に以下の注意点を追加するととも に、技術データを添付して技術文書の内容を補強するものとした。 ・上記、蓄圧器は通常使用以外に、製作時の耐圧試験、保安検査、及び他設備対応のため 脱圧することが想定される。これらに相当するサイクル数を設計者が任意に設定し、疲労試 験の最初に最も負荷の高い設計圧力の10%以下から100%圧力サイクルを実施する。例えば 脱圧1回あたり5サイクル(ガスパージを含む)を15年毎年とすると計75回、余裕を見て100回 とし、これに試験数n=4の場合、安全係数Kn=3.0を掛けた300回を最初に負荷する。 ・圧縮水素スタンドにおいて、蓄圧器は通常使用される状態で最低の圧力をLOW ALARM 等で管理すること。 ・合格基準には、疲労試験時の漏れ箇所についての規定は無いが、「5.2.2.2金属ライナー の破裂前漏洩の確認」において、“評価点はライナーの応力分布を考慮して適切な位置”と あることから、漏れ箇所と評価点が一致し、その位置におけるき裂進展計算が必要となる。 3.2 タイプ4小型複合容器評価試験 図3.2にタイプ4小型試験容器において試験容器に負荷する圧力範囲と想定される圧力サイ クル数の関係を示す。現在の技術文書の疲労試験方法に相当する圧力範囲0-100%の場合に 得られる圧力サイクル数に対して、圧力範囲が減少するとサイクル数は増加し、圧力範囲が増 加するとサイクル数は減少する傾向を示すと想定しており、現在も試験継続中である。 100 0-125% 圧力範囲(MPa) 80 0-100% 60 40-125% 60-125% 40 20 10,000 100,000 圧力サイクル数 1,000,000 図3.2 試験容器に負荷する圧力範囲と想定される圧力サイクル数の関係 4.まとめ 1)タイプ3小型複合容器評価試験 ・部分充塡を想定した圧力範囲を適用して応力範囲が減少するとサイクル数は増加する傾向 を示し、疲労寿命が延長する傾向を確認できた。 ・「通常使用する状態での最低圧力以下から常用圧力以上の範囲で圧力サイクルを負荷す る。」とした技術文書追加案を作成した。 2)タイプ4小型複合容器評価試験 ・圧力範囲が減少するとサイクル数は増加する傾向を示すことを想定して、現在試験を実施中 である。 3)今後の予定 ・タイプ3では、実機相当の中型・大型容器の評価を行い、技術基準追加案の妥当性を確認 するとともに、同追加案の要望を行う。 ・タイプ4では小型容器の評価により傾向を確認し、技術基準追加案を検討する。また、中大 型容器の評価を行い、追加案の妥当性を確認する。 ・タイプ2では小型容器の評価を開始するとともに、技術基準案の検討を行う。 謝辞 以上の発表に関する技術開発成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合 開発機構(NEDO)からの委託事業の結果得られたものである。