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4-3. 燃料電池漁船の基本仕様と試設計

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4-3. 燃料電池漁船の基本仕様と試設計
4-3. 燃料電池漁船の基本仕様と試設計
養殖作業船の水素燃料電池漁船を試設計するにあたり、既存船を改造する場合と新船とし
て水素燃料電池漁船の養殖作業漁船を考えた場合について試設計を行った。
4-3-1.
既存船の船体図と機関室配置概要
既存船は、主機関の推進軸によるプロペラ駆動であり、搭載漁労機器は主機関前部駆動の
油圧ユニットの油圧ポンプにより駆動されている。
まず、今回調査した地元造船所(金丸造船所/宮崎県)で建造された養殖作業漁船の一般配
置図(図 4-3-1)と機関室配置図(図 4-3-2)を示す。
図 4-3-1 既存船の一般配置図
- 63 -
- 64 -
4-3-2.既存船の排水量と船速
出航時の排水量は、船首と船尾の乾舷を計測し、造船所から入手した一般配置図をもとに、
線図を作成し排水量計算を行い求めた。また、船体構造を仮定し重量計算を行った計算値と
も一致した。
表 4-3-1 既存船の往航と復航時の排水量による目安船速
項
目
往
航
復
航
出航状態排水量(t)
23.3
12.3
水線長(m)
14.27
14.27
燃料(kg)
688
648
作動油(kg)
270
←
水(kg)
200
←
安全備品(kg)
50
←
人員 6 名(kg)
390
←
漁具&積込み品
150
←
船速(ノット)
9.0
9.6
実測燃料消費量(ℓ)
39.0
38.2
推定出力(kW)
125.3
122.7
備
考
消費率 258g/kWh
上表に示すように実測の燃料消費量から機関出力を推定した。また、同じく実測した船速
と機関回転数から図 4-3-3 と図 4-3-4 の性能カーブを作成した。
性能カーブから定格出力時の既存船の船速は、餌を積載した 11 トンの重量増加に対し 0.6 ノ
ットの低下となる。
図 4-3-3 既存船の往航と復航時の
機関回転数と船速の関係
図 4-3-4 既存船の往航と復航時の
軸出力と船速の関係
- 65 -
4-3-3.
改造時の基本仕様
改造するにあたり、水素燃料電池とリチウムイオン電池からの電源により、推進用電動機
130kW でプロペラを駆動し、油圧ユニット装置を別の電動機 45kW で駆動する方式で改造する
ことにした。改造する際に、予算額でその改造する度合いが変わるものであるが、今回は改
造費用を最低限に抑えるため、漁労機器類の油圧駆動をそのまま採用した。
既存船の仕様と改造する場合の基本仕様を比較すると表 4-3-2 のようになる。
表 4-3-2 既存船を改造する場合の基本仕様
この基本仕様で、水素燃料電池で使用する 70MPa(水素容量 7.17kg・内容積 224ℓ)の水
素燃料ボンベは、改造の場合の一般配置図のとおり設置スペースが無く 5 本しか設置不可で
あった。
実態調査での実測データから、1 日実動操業での燃料消費量が約 59L と積載燃料油量
1,200L から、おおよそ 20 日間分相当の燃料を積載している。
水素燃料電池を搭載した場合を考えると、1 日実動の所用電力が、約 164kW と推量されて
いることから、燃料タンク積載量と同様の 20 日間稼働するには、3,280kW(164kW×20 日
間)の発電が出来る水素のタンク容量が必要となる。
水素燃料電池定格出力と水素消費量の関係近似式(y=13.96x+0.402)から、45,789ℓ/min
(→2,747,340ℓ/h)の標準状態での水素量が必要となる。この必要水素量が 70MPa(水素
容量 7.17kg)のボンベの標準状態での水素容積は、80,304L(7170g÷2g×22.4L)である
から、高圧水素ボンベで勘算すると 34.2 本(2,747,340ℓ/h÷80,304ℓ)となり、約 34 本を
揃える必要が出てくる。ゆえに本来であれば、同等の稼働日数分を確保するには、34 本の高
圧水素ボンベを用意する必要があるが、船内スペースとボンベ重量による排水量増加の影響
を考慮して、改造船は5本の設置としたため、3 日間の操業ごとに水素充填の必要がある。
ちなみに、高圧水素ボンベ1本の重量は、35MPa の 280ℓの高圧水素ボンベが 173kg*と計
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算され肉厚が約2倍になったことから、70MPa のボンベでは重量計算は 284kg**となったの
でこの重量で設定する。充填される水素重量(7.17kg)がボンベ重量に加算され、1 本当た
り約 291kg となる。検討した主要機器の仕様及び寸法を表 4-3-3 にとりまとめた。
*タンク(600φ×1500mm)の内容積 280L より肉厚 33.5mmで、アルミ密度 2.7 と炭素繊維密度 1.8 の密度
構成をアルミ 20%、炭素繊維 80%にて密度 1.98 として、球と円筒の外形容積との体積差から計算を行った。
**内容積 224L(280L×80%)として、肉厚 58.4mmで上述の体積差の密度で計算を行った。
表 4-3-3 改造する場合の養殖作業燃料電池漁船の主要機器の仕様及び寸法
4-3-4.
改造船の重量比較と船速推定
既存船を燃料電池漁船に改造する場合は、主機関を撤去して、水素燃料電池やリチウムイ
オン電池および電動機を積込むように、不要となる機材・機器類を撤去して、新たに必要な
機材・機器類を搭載する必要がある。搭載重量の増減が排水量に関係して船速に影響を及ぼ
すので、改造時には重量の増減を把握しておく必要がある。
既存船と改造船の重量の増減を検討した結果、往航時の状態で、改造した場合の方が全体
で 1,333kg 重くなった。その内訳は、船体部におけるモータ台(機器用)と高圧水素タンクの
台で+130kg、推進部における推進モータや減速機、機器用モータ、高圧水素タンク、燃料
電池スタック、リチウム電池、コントロールボックス等で+1,855kg、艤装部における増減は
無いものの、搭載物で、燃料の A 重油と水素ガスの重量差で、652kg 減の計算結果であった。
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往航時と復航時の排水量の増減は、搭載した餌の 11 トン分と燃料の A 重油と水素ガスの
消費重量の差異が関係している。復航時のみの比較では、改造後の方が 1,380kg 重い。
また、重心位置については、往航時、復航時ともに後方に移動することが計算された。
既存船と改造船の搭載機材・機器類や餌積み込み時の往航状態と復航状態での重量および
重心前後位置の計算表を表 4-3-4 に、往航と復航時の排水量の比較を表 4-3-5 に整理した。
表 4-3-4 既存船と改造時の重量重心の計算表
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前述したように改造による重量増加は、約 1.3 トンで、推進部の高圧水素タンク(1,420kg)、
リチウム電池(340kg)による増加分が大きい。これによる船速低下は 0.1 ノット未満と推定さ
れる。表 4-3-5 に既存船と改造船の各部位における重量比較と復航時と往航時における排水
量を整理した。その結果、推定船速を表 4-3-6 に示すとともに、既存船の往航時(黒線)と改造
した場合の往航時(赤点線)とを比較した船速と機関回転数の関係を図 4-3-5 に示す。
表 4-3-5 既存船と改造船の部位での重量比較と往航、復航時の排水量比較
表 4-3-6 既存養殖船の改造の場合の往航時と復航時の推定船速
排水量 (t)
往航時
復航時
24.7
13.7
軸出力 (kW)
船速 (ノット)
121
8.9
9.5
図 4-3-5 既存船と改造船の往航時の船速と機関回転数の関係
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4-3-5.
既存船と改造船の重心について
既存船と水素燃料電池漁船に改造した場合における、重心位置について前述の表 4-3-4 の
重量重心計算表より、表 4-3-7 に整理した。重心位置は、改造した場合に前後位置(MG)は、
既存船より往航時で後方に 0.12m、復航時で 0.11m 後方に移動する。重心高さ(KG)は、既存
船より、改造した場合の方が重量が約 1.3 トン重くなったので、0.01m 低くなり、復航時で
は、餌の 11 トンが無くなり、全体での排水量が減ったなか、1.3 トン増の重量が影響して、
0.03m 低くなる計算結果となった。
また、重心からメタセンターまでの距離を示すGM値(横メタセンター高さ)については、
往航時における既存船が 3.20mに対し改造船では 3.06mとなり、復航時では、既存船の 5.29
mに対し改造船は 4.96mとなり、数値が小さくなっていることより、改造船の方が、排水量
が増加した影響により GM 値が小さくなったが、いずれの状態においても十分な安定性を有
している。
表 4-3-7 既存船と改造船の重心
4-3-6.
改造要領図
つぎに既存の養殖作業船を水素燃料電池船に改造した場合の一般配置図を図 4-3-6 に、
機関室配置図を図 4-3-7 に示す。
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