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災害復旧に貢献する無人化施工技術 - NETISプラス|新技術情報

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災害復旧に貢献する無人化施工技術 - NETISプラス|新技術情報
災害復旧に貢献する無人化施工技術
Evolution of Unmanned Construction System playing important role in the disaster recovery
(財)先端建設技術センター 新田恭士
1. はじめに
めて高度な操作技術が要求される場合があり,作業可能範囲もオペ
わが国は,次々発生する大規模地震災害,風水害,火山災害等に苛
レータの技量に依るところが大きい事も無人化施工の特徴である。
まれてきた。そしていまだ道半ばにある東日本大震災の復興に向け,
本稿では,災害復旧に貢献する無人化施工に着目して,技術概要
過去の災害で培われた「危険区域の無人測量システム,機械の遠隔
と適用事例,技術動向を紹介するとともに,今後の災害対応に向け
制御技術,各種の構造物施工技術」などの様々な技術・ノウハウを
て無人化施工が抱える課題と解決方策について私見を述べる。
結集し活用していくことが必要とされている。
無人化施工は,災害が多発する日本で独自に発展した技術であり,
土石流等による二次災害の危険が想定される範囲内を施工するた
2.災害を契機に発展した無人化施工
①日本初の建設機械遠隔操作(常願寺川出水(S44)
)
めに,安全な場所から建設機械等の遠隔操作により工事を実施する
我が国の土木工事に遠隔操作型の建設機械が導入されたのは,
施工システムである。勿論,災害復旧だけでなく連続作業が制約さ
常願寺川の出水で被災した富山大橋の復旧工事が行われた昭和 44
れるケーソンの圧気作業や,海中土木工事などにも高精度な遠隔操
年(1969 年)に遡る。この工事では,洗掘部の埋め戻し,瀬替え,応
作技術が導入されている。
急橋架設のために河口部に堆積した土砂の掘削,押土にはじめて水
無人化施工は,危険区域での緊急的な施工手段として必要不可欠
中ブルドーザが導入された(写真-1)
。当時の遠隔操作は,無線到
であるが,経済性や施工性(施工効率等)が劣るなど,災害対処にお
達距離が50m 程度の微弱電波を用いた目視操作であり,水中作業
ける運用や適用判断に難しさもある。
のため映像伝送のない状態での操作であったため,ダイバーが搭乗
加えて,モニターを介した施工機械の遠隔操作には,時として極
水中ブルドーザー(1969 年)
して操作することも行われた。
重機オペレーション室
最新の無人化施工の例(2011 年)
写真-1 “水中ブルドーザの遠隔操作”と情報化施工を駆使した”現在の無人化施工”
熊谷組提供
平成5年
(1993年)
~
平成7年
(1995年)
・
・
◆雲仙普賢岳試験フィールド事業
土石流発生後の遊砂池における除石工事
RCC工法による砂防ダムの築造
《カメラを用いた500m程度の遠隔操作、GPSによる測量》
→設計~施工管理、材料、無線マネジメントまでの総合技術確立
平成12年
(2000年)
◆有珠山噴火災害復旧工事
平成13年
(2001年)
◆三宅島噴火災害復旧工事
平成14年
(2002年)
◆砂防堰堤工への適用推進
平成17年
(2005年)
◆ISM工法の無人化の実現
◆ICTの導入促進
・
・
平成18年
(2006年)
・
・
障害物が存在する複雑な地形での超遠隔施工(1km)
コンクリートブロック積上げによる床固工
→ 公共事業への無人化施工の本格的導入
無人50tクレーン開発による砂防堰堤工(北陸地整)
→ 砂防工事への無人化施工の本格的導入
③超長距離無人化施工の実施(有珠山無人化施工(H12)
)
平成 12 年の有珠山噴火災害では,火山噴出物のための遊砂池造
成や流出した橋梁の撤去工事が行われた。特筆すべきは,有珠山で
は,地形が複雑で見通しが確保できないため,雲仙で開発された中
継方式(簡易無線局と特定小電力無線局)に代わり,約2km離れ
たところから中継車を使わずダイレクトに操作できる高出力の建
設無線(特例措置)を用いた超長距離無人化施工が実施された(図
-3)
。このことは,雲仙で培った技術が更なる発展を遂げる契機と
なった。
《GPSによる無人測量、ブルドーザ排土板自動制御》
◆超長距離の無人化施工の実証実験(雲仙)
図-1 無人化施工技術の発展
②本格的無人化施工の開発(雲仙普賢岳試験フィールド事
業(H5)
)
雲仙普賢岳噴火後の平成 5 年に国土交通省(旧建設省)が実施し
た「試験フィールド制度(写真-2)
」を契機に,土木技術,機械技
術,通信技術,情報処理技術が効果的に融合した実用的な工法と
して「無人化施工」が確立するに至った。モニター映像により遠隔
操作する方式は「雲仙方式」とも呼ばれる。
図3 中継方式(上)と直接方式(下)の違い
試験フィールド制度では,100m以上の遠隔操作,2~3m程度の礫
の破砕,一時的な温度 100℃,湿度 100%を公募条件とする緊急除石
④無人化クレーンでの砂防堰堤構築(北陸地方整備局(H14
工事が実施された。
~)
)
さらに,現地発生土にセメントを混合した CSG(Cemented Sand
白山砂防(柳谷上流砂防堰堤群)事業における砂防堰堤工事では
and Gravel)工法や,土砂型枠を用いて貧配合のコンクリートを敷
50t吊無人ラフテレーンクレーンによる砂防堰堤工事の施工が行
き均し , 振動ローラで締め固める RCC ( Roller Compacted
われた。土工,円筒型枠ブロックの設置,コンクリート打設,締固め,
Concrete)工法が導入された(図-2)
。
打継面処理の一連の作業が全てクレーンの遠隔操作により実施さ
れ,以前は無人エリアでは不可能であった施工が実現した。
また,現地で発生した掘削土砂を活用するISM工法(原位置撹
拌混合固化工法)の無人化施工も行われ,法面からの落石や小規模
な斜面崩壊が起きやすい危険性の高い河床部での作業の安全性向
上と建設発生残土の減少が図られた。
写真-2 雲仙普賢岳試験フィールドでの施工状況
写真-3 無人ラフテレーンによる砂防堰堤の構築 国交省提供
図-2 RCC による砂防ダム堤体の建設方法
⑤分解空輸型油圧ショベルの開発(東北地方整備局(H22)
)
新潟県中越地震での天然ダムの経験から,迅速に分解・空輸・組
操作室は,光ケーブルが接続する国土交通省事務所内に設置され,
緊急時における準備時間の短縮が可能である(写真-4)。
立可能な油圧ショベルの開発が行われた。開発された油圧ショベル
この実証試験では,公共ブロードバンドや長距離無線 LAN 等の通
は,油圧配管や電気配線の着脱が簡易化されヘリコプター輸送時の
信方式の適用検証に加え,伝送遅延や画像劣化が及ぼす影響等につ
バランスを考慮した分割設計に対応し,国土交通省各地方整備局に
いて検証がなされた。
災害対策用機械として順次配備が進められている。平成 23 年台風
12 号によって奈良県内で発生した河道閉塞に対処するため中部地
方整備局から,遠隔操作可能な分解空輸型油圧ショベルが災害派遣
されている。
⑥ネットワーク型無人化施工の実証(九州地方整備局
(H23)
)
九州地方整備局は,大規模火山災害時の対応を想定し約30km
の遠隔地から光ファイバーを用いた遠隔操作の適用性を検証した。
既設の光ファイバー網と無線 LAN の組合せることで,精細(1Mbps)
なカメラ映像20台分の同時伝送が可能となり,油圧ショベルの高
精度な操作が可能であることが確認された。特定小電力無線が抱え
写真-4 遠方の国土交通省事務所内に設けられた操作室
る混信の心配がなく,高い信頼性が確認された。
表-1 無人化施工システムの実現方式
大
別
直接目視による無人化施工
施工方式
映像伝送システムを用いた無人化施工
直接操作方式
モニター操作方式
ネットワーク型操作方式
オペレータが遠隔操作式建設機械 オペレータがカメラの捉えた遠隔操作式建設機械の映像をモニターで見ながら遠隔操作
を直接目視しながら遠隔操作する。
する無人化施工。
●直接方式
システムイメ
概
要
ージ
中継局
施工状況を撮影
メッシュ LAN
移動カメラ車
特定小電力無線(操作)
簡易無線50GHz(映像)
特定小電力無線
操作室(オペレータ)
遠隔操作式建設機械
オペレータ
遠隔操作式建設機械
(車載カメラ搭載)
●中継方式
光ケーブル
中継車(中継局)
操作室(オペレータ)
操作室(オペレータ)
適用の目安
操作距離が 0~50mかつ直接目視 · 直接方式の場合
・操作距離が 50~300m
操作が可能
かつ障害物がない
· 中継方式の場合
・操作距離が 0~50m
かつ直接目視操作が不可能
・操作距離が 50~300m
かつ障害物がある
・操作距離が 300~600m
主な 操作電
波及び免許
主な 映像伝
送電波及び
免許
―
特定小電力無線
・無線局免許・・・不要
・無線従事者免許・・・不要
50GHz 簡易無線
・無線局免許・・・必要
・無線従事者免許・・・不要
· 操作距離が 600m 以上
· 数10kmでも対応可能
5GHz 帯無線 LAN(IEEE802.11j)
※操作信号と映像信号をひとつの電波
で送信する。
・無線局免許・・必要(無線登録)
・無線従事者免許・・必要(第三級陸上特
殊無線技士以上)
3.現在の無人化施工技術
れ,50GHz 帯簡易無線局や 2.4GHz 帯小電力データ通信システム無線
無人化施工の適用に際しては,立入禁止区域の大きさ等の現場条
局(OFDM 方式)が採用されている。直進性の高い 50GHz 帯簡易無
件に応じて,遠隔操作を「直接目視」あるいは「映像システム」を
線局は,アンテナ同士を常時対向させる必要からジャイロと角度計
使い分ける必要がある。直接目視操作は,設備がシンプルで導入し
により対向を維持する自動旋回台が用いられる。この装置の開発に
やすい反面,建設機械の死角により操作効率が低い。他方,映像シス
より,搭乗時のオペレータの視野に近い映像の提供が可能となった。
テムは設備が複雑になるが施工効率が向上する。現場条件と実施方
式の関係について表-1に示す。
3.1 遠隔操作式機械の種類,施工実績
無人化施工を適用する際は,現場条件に応じて使用機械や通信
システムを選定する必要がある。火山対策から発展したため,遠隔
操作機械も土工機械が多く機種・規格は限られている。バックホウ
は,比較的,規格がそろっているが,それ以外の機種は台数が限られ
ているのが現状である(表-2)。
遠隔操作機械は,国内保有台数が限られていることから,長距離輸
送が必要となる場合が多く,大きさ・最大重量などの輸送制限を考
慮する必要がある。特に運搬機械は,重ダンプトラックか不整地運
搬車に限られる。無人化施工の実績がある工種を表-3に示す。
写真-5 自動旋回台に搭載されたカメラ
表-2 主な遠隔操作式建設機械一覧
機 種
ブルドーザ
バックホウ
重ダンプトラック
不整地運搬車
振動ローラ
移動カメラ車
通信中継車
規 格
62t 級
43t,32t 級
21t,16t 級
0.25~4.0m3 級
77t,45t 級
32t 級
10t,11t
11t 級
2t,4t 級
6t,12t 級
備 考
水陸両用
湿地
アーティキュレート
ダム用
3.3 無線通信
無人化施工では,機械遠隔操作や映像伝送等に様々な無線通信が
使われている。無線の選定は,通信の内容,必要距離,現場条件(見
通し等),連続性の有無等を考慮する必要がある。表-4に,無人化
施工で使用される無線の種類を示す。なかでも出力の大きい
400MHz 実験局と 2.4GHz 実験局(建設無線,デジタル建設無線)の
各方式は,建設無人化施工協会が公益目的での使用認可を受けてお
り,2008 年の岩手宮城内陸地震において東北地方整備局実施の緊
急工事でも使われた。また同協会は,2000 年の有珠山噴火では,郵
表-3 無人化施工の実績がある工種
政省から出力 2W(到達距離:10km)の緊急措置として使用認可を
受け遠距離からの無人化施工を実施した。
多くの無人化施工では,遠隔操作に特定小電力無線(429MHz 帯),
映像伝送に簡易無線(50GHz 帯)が使用されている。しかし通信距
離や伝送能力に制約があるため,一部の先駆的企業により,携帯電
話網等を用いた効率的な長距離遠隔操作技術の研究開発が行われ
ている。また,前述のとおり国交省は,10台以上の高精度映像を用
いた重機遠隔操作について光ケーブルと無線 LAN(11j メッシュ
3.2 無人化施工に必要な設備
無線LANによるカメラ車の映像
無人化施工では,以下の設備が用いられる。特に映像設備の配置
や映像の品質は,施工効率や安全面に大きく影響する。
①映像設備(移動カメラ,車載カメラ,固定カメラ等)
②無線設備(操作,データ伝送)
③移動カメラ車,移動中継車
現場
④遠隔操作室
⑤施工支援設備(情報化施工関連機器含む)
公共BBによるショベル車載カメラの映像
映像の伝送には,遅延が少なく高品質であることが要求さ
写真-6 公共 BB による映像通信試験
表-4 無人化施工で使用される無線の種類
無線種類
操 作 用
映 像 用
情報化
施工用
免許要否
到達距離※4
出力
429MHz 特定小電力無線
×
300m
10mW 以下
5GHz無線LAN
要
800m
250mW 以下
1.2GHz特定小電力
×
300m
10mW 以下
2.4GHz小電力データ通信システム
×
1,000m
10mW/MHz 以下
小エリア無線局(簡易無線局)(348MHz)
要
1,000m
1W
400MHz実験局(建設無線)※1
要
5,000m
1W
2.4GHz無線LAN
×
1,000m
10mW/MHz 以下
50GHz簡易無線
要
10km
30mW
5GHz無線LAN
要
800m
250mW 以下
2.4GHz実験局(建設無線)※2
要
2,000m
1W
2.4GHz実験局(デジタル建設無線)※3
要
2,000m
500mW
2.4GHz小電力データ通信システム
×
1,000m
10mW/MHz 以下
2.4GHz小電力データ通信システム(OFDM無線)
×
500m
10mW/MHz 以下
422MHz特定小電力
×
500m
10mW 以下
2.4GHz小電力データ通信
×
1,000m
10mW/MHz 以下
LAN)の有効性を確認するとともに,光ケーブルと回折効果のある公
共ブロードバンド無線を組み合わせた長距離遠隔操作技術(ネット
ワーク型操作方式)の適用性を検証している(写真-6)。
3.4 情報化施工技術の先駆的導入
カメラからの二次元映像により機械操作を行う無人化施工では,
オペレータによる空間把握が難しく,施工効率低下や操作精度低下
が生じやすい。品質や施工効率の向上を図るため,建設無人化施工
マシンガイダンス画面
協会参加各社等が,先駆的に GPS 等の測量システムを活用したマシ
ンガイダンス(MG)やマシンコントロール(MC)といった各種の情報
化施工技術の開発導入に取組んできた。
出来形精度が求められる箇所には,ブルドーザの排土板を自動で
コントロールし,効率よく規定の高さに仕上げる排土板制御システ
ム(図-4)が導入された。このシステムを使用することにより,現
地での丁張を必要としない敷均し作業と有人以上の敷均し精度の
確保が可能であり,現場条件にもよるが作業効率が従来の 1.5 倍程
度向上した事例もある。また,作業箇所全面の敷均し標高を色別表
示により確認することもできる。
写真-7 油圧ショベルのマシンガイダンス導入例
情報化施工を適用する際は,通常は建設機械の運転席で使用する
システムを操作室で使用できるように,情報化施工のデータを操作
室と建設機械の間で無線通信させるための改造が必要となる。
4.無人化施工が抱える課題
今や技術的には,30km 以上離れた場所から情報化施工技術を駆
使した施工が可能であるが,災害対応に適用する場合の課題は多い。
以下に幾つかの課題を紹介する。
4.1 作業着手までの準備時間
無人化施工特有の機材調達が必要であり,無人化施工の実施を決
めてから着工まで,カメラ無線機材の設定や特殊車両通行許可申請
図-4 RCC 工法における排土板制御システム概要図
等を含めて最短で 10 日程度を要する。有珠山の噴火当時は,当局の
判断は迅速だったものの,機材の調達も含めて着手に1ヶ月を要し
壊が発生すれば,大規模土石流が下流閉塞箇所の連鎖崩壊を引き起
た。関係者の意識が高まりH22年の鹿児島県南大隅の深層崩壊で
こす危険を抱えており、無人化施工等の安全確保策を講じる必要が
は,無人化施工の実施決定から 10 日後の工事着手を実現している。
あった。国土交通省は越流による天然ダム決壊を防ぐために,上流
4.2 オペレータの減少
を監視しつつ、慎重にポンプ排水を実施しながら洗掘対策を行った。
斜面等の悪条件下で無人化施工に対応できるオペレータは国内
同時に応急対策として,天然ダム頂部に排水管と排水路を施工した。
に 20 人程であり減少傾向にある。技能習得機会としての無人化施
水路設置作業は,地すべり土塊上において有人作業で行われた。上
工の工事件数が少ないことに加え,公共工事の競争が激しく,技能
流からの土石流に襲われる危険性が伴うものであったが,時間的制
習得意欲があっても,定期的かつ継続的に工事に従事することが困
約に加え洗掘から確実に表面保護を実施する必要等から無人化施
難な状況にある。
工の採用は現実的でなかったと思われる。
4.3 無人化施工実施判断(危険予見)の難しさ
無人化施工は,着手までに時間がかかることに加え,工事内容や
規模が制約される。天然ダムなど緊急性が高い場合,「二次災害の
危険性」と「無人化施工による実施可否」について,責任者は難し
い判断を迫られることになる。
1996 年の蒲原沢土石流災害は,災害復旧工事に従事していた作
業員を土石流が巻き込み,14 名が死亡する大惨事となった(写真-
8)
。
「土石流発生を予測できたのに,請負業者に安全管理の指導を
しなかった不作為の過失がある」として遺族は国等を提訴。国側は
「土石流の発生は予見できなかった。
」と反論し,無人化施工の導入
が進むと共に,工事現場における安全管理のあり方を見直す契機と
なった。二次災害防止の観点から無人化施工は有効であるが,緊急
を要する対策工事における遅れは許されない。
写真-9 新潟県中越地震により芋川で発生した河道閉塞
(高さ 31.1m・最大長 260m・最大幅 123m)
(2)オペレータが確保できない場合
斜面のように足場条件が悪いところでの遠隔操作は,重機が転倒
し損壊するリスクを伴う。奥行き感のないカメラ映像のみを頼りに
操作を行うオペレータには,空間把握と高度な操作技能が要求され
る。例えば,油圧ショベルの操作でも”平地での掘削・旋回操作
“と”斜面上に坂路を造成しながら行う掘削操作(写真-10)”
では,難易度が格段に異なる。地元建設業者が担い手となる災害対
応では、オペレータの確保が困難な場合が多い。
写真-8 蒲原沢土石流災害 (http://www.kasen.net より)
4.4 無人化施工実施が困難なケース
(1)時間的制約がある場合
無人化施工は,対応可能工種であっても現場条件によっては作業
効率が低くなるため、有人作業で実施するケースも考えられる。
新潟県中越地震では,震源近くの芋川に5箇所の河道閉塞が発生
した。写真-9に示すケースでは,天然ダムの上下流で水位差が
30m 以上あり,上流部での土砂崩壊などで,ひとたび越流による決
写真-10 災害対処の現場は重機転落
の危険と隣合せである。
5.日本の防災技術を高めるために取組むべきこと
5.1 技能の継承と人材育成に機会の提供を
5.4 新技術の積極的導入
(1)官民連携によるネットワーク型無人化施工の普及推進を
遠隔操作による施工効率は,土工の場合で搭乗操作の6 割程度
防災技術として取組むべき課題として、工事着手の迅速化と施工
と言われている。無人化施工に対応できるオペレータは、数少
効率の改善が重要である。無人化施工では、工事区域まで遠隔操作
ないにも関わらず技能習得のチャンスが少ない。大規模な深層
型重機や無人化施工設備を調達・輸送にかかる時間に加え、カメラ
崩壊が発生した南大隈町の災害復旧工事では、泥濘化した悪条
設備や無線通信設備、操作室の設営に時間を要する。火山災害は、
件下での施工であったが、雲仙や有珠山で経験を積んだ熟練オ
危険区域が広範囲に及ぶ可能性があることから、事前に監視カメラ
ペレータが有人作業と変わらない速さで作業を競い早期の避難
や光ファイバーが敷設されている場合は、これを利用して庁舎から
勧告解除を実現した。彼らが持つ高度技能を継承していくため
短時間で無人化施工の立上げが可能となる。国土交通省では、危険
にも、全国規模で技能習得を可能とするフィールド(国の直轄
箇所の監視などに光ファイバーの整備が進んでおり、これら既存イ
工事)を継続的に提供していくことも、広域防災を担う国の重
ンフラを有効利用するための IP(インターネットプロトコル)の
要な責務である。
利活用方法(ルール)の整備、建設機械側インターフェースの標準
5.2 高度技能保持者に対する技能認定を
無人化施工を必要とする災害復旧工事では、難易度の高い作
化など官民を挙げた環境整備が急務である。
(2)操作性を改善する効果的インターフェースの開発を
業が要求されることが多い。写真-10に示すような足場の悪
先に高度技能を有するオペレータの育成が急務であることに触
い斜面での復旧工事では、遠隔操作型重機を調達できても、施
れたが、写真-12は、遠隔操作経験のないオペレータによる操作
工会社がオペレータを確保できないために作業を断念したケー
を支援する技術開発の取組みである。複眼のカメラ映像を3次元映
スもある。
像として与えるとともに、斜面作業で生じる重機の傾斜・衝撃・振
災害時の無人化施工に対応できる高度技能を有するオペレー
動等をオペレータに伝えるシステムを開発した。遠隔操作経験の無
タを平常時から評価(認定)することにより,国や自治体の防災
いオペレータによる実証試験で20%の作業効率向上が確認され
協定などで積極的に活用することが可能となるはずである。ま
たところである。すでに土木研究所等においても基礎的研究が進め
た技能評価基準は、若手技能者の技能習得目標として、あるい
られており、国が保有する機材を活用して、これら成果に積極的に
は人材育成効果の指標としての活用が期待される。
検証の機会が与えられることが期待される。
写真11:1割勾配の2m盛土からの降りる操作風景。無人化
施工特有の経験と空間把握能力が求められる。
5.3 災害発生後の導入判断の迅速化
無人化施工の実施判断は、先ず危険が想定される立入禁止区域の
写真-12 未経験者を支援する VR システムへの取組 大林組提供
6.おわりに
範囲を設定することが重要である。平成23年5月1日に「土砂災
本稿では災害対策の観点から無人化施工技術を紹介したが,雲仙
害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律の一
普賢岳から 20 年経過してもなお、災害対策技術として更なる発展
部を改正する法律」が施工されたことに伴い、天然ダムや火山噴火
が期待される分野である。コストや調達時間、オペレータの確保な
を原因とする土石流により被害が予想される範囲を推定する手法
どの課題にも触れたが,とりわけ高度な無人化施工技能者の育成確
(土砂災害防止法に基づく緊急調査実施の手引き)を国土交通省が
保は急務であり,先端建設技術センターにおいても,解決策の提案に
示した。これにより災害発生後の迅速な被害範囲の推定が期待され
取組んでいるところである。しかし,育成機会を広く均等に提供す
るが、同時に緊急対策必要箇所における技術的側面から実施の可否
ることは容易でないことからも,一般オペレータによる操作を可能
を迅速かつ適確に判断するための体制が必要である。
とする技術開発に強く期待する。
東日本大震災の被災地でも無人化施工は採用され,遠隔操作,映像
伝送などの要素技術も復旧工事や災害復旧ロボットの開発に生か
されたが、無線の混信など技術的課題は山積している。
今後も研究開発を推進し,無人化施工技術の向上を継続すること
で,様々な分野で無人化施工やその要素技術が活かされることを期
待する。
最後に建設無人化施工協会技術委員会,土木研究所に対して厚く
お礼申し上げる。
【参考文献】
1)建設機械等による災害対処・復旧支援について(提言)
建設
機械等による災害対処・復旧支援に関する懇談会
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/kensetsusekou/kondankai/saigaifukkyuu_kon/kon
dankai_index.htm 2007.2
2)大規模な河道閉塞(天然ダム)の危機管理に関する提言
http://www.mlit.go.jp/river/sabo/index.htm 2009.3
3)災害復旧における遠隔操作式建設機械の現状と最新の工事事例
猪原幸司他 建設機械 2005.5
4)無人化施工の推移と展望 建設無人化施工協会 技術委員会建
設の施工企画 2006.11
5)第 24 回建設用ロボットに関する技術講習会テキスト 土木学
会 平成 19 年 5 月
6)雲仙普賢岳火山砂防事業における無人化施工の最新技術 建設
無人化施工協会 技術委員会 2011.10
●Author;
Mr. Yasushi Nitta
Senior Counselor, Advanced Construction Technology
Center
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