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私にとって「祖国」とは 金 永武 はじめまして、京都の立命館大学の金永武

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私にとって「祖国」とは 金 永武 はじめまして、京都の立命館大学の金永武
私にとって「祖国」とは
金 永武
はじめまして、京都の立命館大学の金永武と申します。どうぞ宜しくお願いします。
季節の移り変わりは早いものですね。私は季節が変わる度に故郷のことを思い出して胸が一杯
になります。
私が生まれた所は中国吉林省の延吉市という、人口三十五万人ほどの町です。中国の東北部
で北朝鮮に近い所といった方が分かりやすいでしょうか。この町は住民の大半が朝鮮族で日常の
生活は朝鮮語だけで十分です。年をとった人の中には中国語の話せない人も少なくありません。
学校も朝鮮語で授業をしているので、小学校 2 年生から習い始めた中国語は外国語のようなも
のでした。そんな環境の中で生活していたので民族意識も自然と強くなっていきました。
中学校のときは訳もなく、ただ民族がただ違うということで隣の中国人学校の生徒たちとよくけ
んかをしました。今思えばとても情けないことですが、少数民族として自分を守ろうとした意識から
の行動だったと思います。
ところで私は来日前、中国上海にある貿易会社で通訳として働いた事があります。入社して他の
社員と仲良くなるためにいろいろ努力をしましたが、上海語が分からなかったせいか周りの人はな
かなか仲間に入れてくれませんでした。それだけではなく、日本語と朝鮮語の通訳をしていた私の
ことを「外国人」と呼んでいました。私には全く理解できないことでした。中国語で話せば同じ中国
人なのになぜ外国人に思われるのか不思議でした。日常生活の話をする時も「我々」はこうするが、
「あなたたち」はきっと違うんだろうね、などと言われました。その時私は何か差別されたようで不愉
快でした。又、こんな事もありました。ある日、たまたま遊びに来た中国人の友達と一緒にサッカー
の中国韓国戦を見ているとこんな質問をされました。「中国と韓国のどっちを応援するか」と。その
時はすぐに「中国に決まっているじゃないか」と答えましたが、後でいろいろ考えさせられました。普
段、「私は中国人ではない、朝鮮族の人間だ」と言っていたのに、なぜいざとなると朝鮮か韓国で
はなく中国人だと口走るのか自分でもよく分からなくなりました。
今、日本に来て留学生活にも慣れ、いろいろな国からの学生とも仲良くなり、充実した毎日を送
っています。留学生の中でもっとも多いのは中国人と韓国人です。私の取っている留学生課目の
中には中国人と韓国人ばかりの授業もあります。皆、会話は日本語でしますが、どうしても日本語
で表現できない時は母語を使います。そんな時は両方とも話せる私は便利ですが、しかし、それが
逆に私をがっかりさせる事もあります。
ある日、休みの時間に私が中国人留学生と話をしていたところ、韓国人の友達が会ったことの
ない韓国人らしい学生を連れてきて紹介してくれました。そして私の事を中国人だと紹介したので
す。私が朝鮮語で自己紹介するとその場にいた中国人は「彼は中国人ではないよ、韓国人だよ。」
と言いました。すると韓国人の友達は「いや、中国人に間違いない」と言い返しました。出会ったば
かりの韓国人は「中国人でもないし、韓国人でもなければ一体何人ですか」と聞くのでした。私は
「火星人ですよ」と冗談をいい、皆笑ってしまいました。
こういう経験は私だけのものではありませんし、中国人と韓国人だけではなく、日本人に哀しい
経験をさせられることもあります。
数年前のことですが、私のいとこが日本人の女性とつきあっていました。二人の仲はとてもよく、
いとこは結婚を申し込みました。二人の間をよく知っている私はてっきりうまくいくと思っていました。
しかし、彼女の答えは私といとこを唖然とさせました。「一人の男性として大好きだけど、中国人で
も韓国人でもないあなたのアイデンティティが気になって仕方がない」ということでした。実際にはも
っと多くの問題があるかもしれませんが、結婚というものは二人がお互いに愛してさえいれば外の
問題は必ず解決できると私は思います。いとこはその事がショックで大学を卒業せずに帰国してし
まいました。私の心にも大きな傷が残りました。
私は今まで自分が何人だという問題についてあまり深く考えてこなかったのですが、日本に来て
から真剣に考えるようになりました。
今、私は中国人でも韓国人でもないと思います。故郷の人々と独自の文化と社会を作っていき
たいと思います。又、国と国の壁はいつかきっとなくなると信じています。それは遠い未来の事だと
思いますがそれを実現させるためには今から努力が必要だと思います。差し当たって今私にでき
ることは大学で国と国との関係、民族問題について勉強をすることだと考えています。これらの勉
強が私の将来の夢にどのように結びついていくかまだ分かりませんが、とりあえず「人間は平等
だ」という意識をもって行動できるようになるために頑張っていきたいと思います。
以上です。ご清聴ありがとうございました。
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