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EFFECTS OF EXERCISE TRAINING ON

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EFFECTS OF EXERCISE TRAINING ON
ご 挨 拶
事業団創立20周年を記念して昭和59年に発足したこの研究助成制度は、健康
科学に携わる40歳未満の研究者を対象として、広く一般の健康増進に活用でき
る研究に助成を行っております。
そして、公益財団法人への移行を機に、第30回(2013年度)より名称、助成
額、スケジュールなどの制度を大きく刷新いたしました。とりわけスケジュー
ルにつきましては、募集の締め切りを早める一方、成果報告の時期を遅らせる
という変更を行いました。これは、研究期間を長くし、より充実した研究活動
を進めていただきたいという趣旨によるものです。
制度創設以来、第30回までの助成件数は532件、助成総額は 5 億2650万円に
達しました。
斬新で独創的なテーマのご応募を毎年多数いただき、昨今では健康科学研究
の登竜門としての評価を関係各位からいただいております。
このたび、第30回の助成対象として選ばれた研究の成果をまとめ、「若手研
究者のための健康科学研究助成 成果報告書」
として発刊する運びとなりました。
ご高覧ご高評を賜れば幸甚に存じます。
刊行にあたり、選考委員の諸先生、ご後援いただいた日本体力医学会ならび
に明治安田生命保険相互会社、および公募に際しご協力いただいた関係各位に
は心からお礼を申しあげるとともに、今後も一層のご指導とご支援をお願い申
しあげる次第でございます。
平成27年 4 月
公益財団法人 明治安田厚生事業団
理事長 猪 又 肇
選 考 委 員
委員長 鹿屋体育大学学長
福 永 哲 夫
委 員 同志社大学教授
井 澤 鉄 也
委 員 日本女子体育大学教授
定 本 朋 子
委 員 公益財団法人 健康・体力づくり事業財団
下 光 輝 一
委 員 東京都健康長寿医療センター研究所
新 開 省 二
理事長
研究部長
委 員 公益財団法人 明治安田厚生事業団
体力医学研究所所長
永 松 俊 哉
(敬称略・五十音順)
*職務は公募時
目 次
優 秀 賞
指定課題
高齢者における抑うつ傾向と安静時脳糖代謝量の関連性
の解明―運動習慣に着目した検討―
鈴 木 宏 幸 他
1
指定課題
運動トレーニングがメンタルヘルスおよび動脈スティフ
ネスに及ぼす影響―生化学的アプローチによる検討―
赤 澤 暢 彦 他
6
1 回の運動がもたらすメンタルヘルスへの有益な効果は
どの程度続くのか?
安 藤 創 一 他
11
健常高齢者の認知機能低下予防に有効な歩行活動の介入
効果の検討
木 村 憲 他
16
若年急性心筋梗塞患者における「抑うつ」の規定因子お
よび回復期心臓リハビリテーションの効果
熊 坂 礼 音 他
22
循環器生活習慣病における心臓リハビリテーションの抑
うつ不安に及ぼす影響―在宅型運動療法の有効性の検討―
河 野 隆 志 他
28
メンタルヘルスに役立つ唾液中タンパクを用いたメンタ
ルストレスおよびフィジカルストレスの新たな評価法の
検討
花 岡 裕 吉 他
33
日常的な運動量の個体差がモノアミン神経系を介した運
動の抗うつ効果に及ぼす影響の解明
柳 田 信 也 他
39
健常高齢者の認知機能ならびに血漿アミロイド β タンパ
ク42に対する運動・認知二重課題トレーニングの効果
横 山 久 代 他
45
一般課題
朝食摂取頻度と 2 型糖尿病発症との関連―成人男女約
6600人の10年間の追跡研究―
上 村 真 由 他
50
耐糖能異常を有する地域住民への歯周病ケアを含む保健
指導がインスリン抵抗性に及ぼす影響に関する無作為化
比較試験
江 口 依 里 他
57
運動意欲と食リズムのクロストーク―摂食促進ホルモ
ン・グレリンによる自発運動量制御機構の解明―
大 木 剛 他
64
高齢夫婦を対象とした運動教室が運動アドヒアランスお
よび体力に及ぼす長期的な効果―地域在住高齢者を対象
とした 1 年間にわたる長期介入研究―
大須賀 洋 祐 他
69
持久的運動トレーニングは白色脂肪細胞のブライト脂肪
細胞化を促すか
小笠原 準 悦 他
75
定期的運動による動脈硬化症予防の新規分子メカニズム
の解明
奥 津 光 晴
81
認知機能向上を目指した発達期運動効果の解明
木 田 裕 之
87
居住地域環境が高齢者の日常における身体活動に及ぼす
影響
佐々木 幸 子 他
93
社会環境と生活習慣の交互作用が膝・腰痛に及ぼす影響
濱 野 強 他
98
筋の記憶を司るエピジェネティクス制御機構の探索―筋
は若年期の運動習慣を記憶しているのか?―
吉 原 利 典 他
103
(1)
第 30 回若手研究者のための健康科学研究助成成果報告書
2013 年度 pp.1~5(2015.4)
〔優 秀 賞〕
高齢者における抑うつ傾向と安静時脳糖代謝量の関連性の解明
―運動習慣に着目した検討―
鈴 木 宏 幸*
桜 井 良 太*
藤 原 佳 典*
石 井 賢 二**
THE RELATIONSHIP BETWEEN DEPRESSION TENDENCY AND
REGIONAL CEREBRAL GLUCOSE METABOLISM
IN OLDER ADULTS
Hiroyuki Suzuki, Ryota Sakurai, Yoshinori Fujiwara,
and Kenji Ishii
Key words: depression, physical activity, cerebral metabolic activity, FDG-PET, older adults.
前頭前皮質、眼窩前頭皮質、帯状回(前部・後
緒 言
部)、海馬の容量が小さいことが報告されてい
うつ病の前駆症状・基本症状ともいえる抑うつ
る 1,5)。また、Tashiro et al. は脳の糖代謝量を測定
気分は、興味・喜びの喪失や焦燥感、不安感、軽
する FDG-PET(positron emission tomography using
度の睡眠障害・摂食障害などを基本症状とする気
18
分障害であるが、高齢者では二次的に日常生活動
うつ傾向と脳機能変化について検討している。そ
作障害や転倒発生、認知機能障害を引き起こすこ
の結果、抑うつ傾向を有するがん患者では、健常
とから、その予防が重要な課題とされている 。
者に比べて前頭前野、前帯状回の糖代謝量が低く、
このような抑うつに対する予防法・非薬物的治療
特に前頭前野では抑うつ度と有意な相関が認めら
法として、運動が効果的であることが知られてお
れたことを報告している8,9)。以上の先行研究に鑑
り、多くの疫学研究でも運動習慣を有する者ほど
みると、抑うつ傾向が前頭葉機能や海馬機能と密
抑うつ傾向が低いことを報告している
。しか
接な関連があることが推察される。しかしなが
し、運動習慣がどのような機序をもって高齢者の
ら、地域高齢者を対象として脳機能と抑うつの関
抗抑うつに寄与しているかは明らかではない。
連を検討した研究は極めて少なく、運動習慣を考
最近の研究から、抑うつは脳機能の変化と強く
慮した研究となるとほとんど見当たらない。
関連していることが明らかとなっている。Mag-
そこで本研究では、前頭葉を中心とした脳部位
netic resonance imaging(MRI)を用いた研究では、
に着目し、局所脳神経活動を感度よく検出できる
抑うつ患者は健常者に比べて、前頭前野、背外側
脳機能画像測定手法である FDG-PET を用いて、
1)
1,10)
F-fluorodeoxyglucose)を用いて、がん患者の抑
東京都健康長寿医療センター研究所 Research Team for Social Participation and Community Health, Tokyo Metropolitan Institute of Gerontology, Tokyo,
社会参加と地域保健研究チーム
Japan.
東京都健康長寿医療センター研究所 Research Team for Neuroimaging, Tokyo Metropolitan Institute of Gerontology, Tokyo, Japan.
神経画像研究チーム
*
** (2)
高齢者における抑うつ傾向と安静時脳糖代謝量の
件法で回答を得た。外出頻度については、“ 1 日
関連性を明らかにすることを目的とした。この
2 回以上”、“ 1 日 1 回”、“週に 2 ~ 3 回”、“週に
際、本研究では運動習慣を散歩・スポーツ・体操
1 回程度”から回答を得た。この際、先行研究に
の習慣の有無(以後,この設問による回答を運動
従い、 1 日に 1 回以上外出している高齢者を「高
習慣の有無とする)と高齢期の複合的身体活動を
外出頻度高齢者」、1 日に 1 回未満の高齢者を「低
反映する外出頻度 から定義し、どちらの運動関
外出頻度高齢者」と定義した。抑うつ傾向の検査
連生活習慣尺度が高齢者の抑うつ傾向と強く関連
に 関 し て は 日 本 語 版 Geriatric Depression Scale
2)
するかについても合わせて検討した。
研 究 方 法
A.研究参加者
東京都健康長寿医療センター研究所の研究ボラ
(GDS)を用いた。GDS は15の設問(得点換算に
より 0 ~15点に配点)からなる質問紙項目であり、
4 点以下は問題なし、 5 ~ 9 点は抑うつ傾向、10
点以上になると重度の抑うつとみなされる。
C.FDG-PET
ンティアに電話およびはがきを用いて研究参加の
本研究で用いた FDG-PET は、血中にブドウ糖
募集を行った。研究参加者の除外基準は(i)手
の類似化合物である FDG を投与し、FDG の脳取
段的日常生活動作に制限のある者、(ii) 3 か月
り込み量を測定することにより脳糖代謝量を推定
以内に重度の疾患・傷害を経験した者(例えば,
する方法である。FDG の脳内分布は局所の脳糖
心疾患,転倒による骨折など)、
(iii)脳血管障害
代謝量を反映し、FDG 集積の分布は局所脳活動
の罹患歴がある者、(iv)認知機能の低下が疑わ
と極めて高く相関することが知られている。
れ る 者(Mini-Mental State Examination; MMSE <
調査参加者は FDG を静脈注射された後、個室
27)とした。結果、186名(平均年齢±標準偏差
にて開眼仰臥位で45分安静状態を保った。その
= 70.1±6.6,女性91.9%)の高齢者が研究に参加
後、PET スキャナー(SET 2400W, 島津製作所)
した。参加者は FDG-PET を測定するため、 5 時
を用いて 6 分間の撮像を行った。FDG-PET 画像
間以上絶食状態で東京都健康長寿医療センター研
は、SPM 8 (Wellcome Trust Centre for Neuroimag-
究所へ来所した。参加者には、文書にて研究説明
ing)を用いて解剖学的に標準化し、Dr. View soft-
を行い研究参加への同意を得た。なお、本研究計
ware(AJS 社)を用いて標準脳空間上の関心領域
画は東京都健康長寿医療センター研究所倫理委員
(regions of interests; ROI) を 各 参 加 者 の 画 像 に
会によって審査、承認されており(承認番号:健
フィットするように微調整して設定した。ROI
事第1743号)
、研究内容はヘルシンキ宣言に基づ
は、先行研究から抑うつ傾向との関連が多く認め
くものである。
られている 6 部位とし(前頭前野,背外側前頭前
B.質問項目
皮質,眼窩前頭皮質,前部帯状回,後部帯状回,
年齢、既往歴、教育歴、高次生活機能(老研式
海馬)、解析担当者 2 名が直径10 mm の正円の関
活動能力指標)
、運動習慣の有無、外出頻度、抑
心領域を各部位の皮質に敷き詰めるように複数個
うつ傾向について面接および質問紙にて調査し
設定した。脳の糖代謝量は解剖学的な違い(脳の
た。老研式活動能力指標は地域高齢者の高次の生
総容量や身体サイズ)に強く影響を受けるため、
活機能を評価するために作成された尺度であり、
加齢変化が小さく、アルツハイマー型認知症患者
「手段的自立」
、
「知的能動性」
、
「社会的役割」の
でも比較的代謝が保たれる小脳の糖代謝量を用い
下位尺度から構成されている。質問項目は、手段
的な生活活動動作について行うことができるか、
て、各 ROI の値を標準化し、解析値とした。
D.認知機能および運動機能
あるいは行っているかについて尋ね、
“はい”と“い
研究参加者の認知・運動機能特性を明らかにす
いえ”の 2 件法で回答を得た(最高得点は13点)。
るため、MMSE、MoCA-J(Japanese version of Mont-
運動習慣については、散歩・スポーツ・体操の習
real Cognitive Assessment)、握力、歩行速度を測
慣の有無について尋ね、
“ある”と“ない”の 2
定した。MMSE および MoCA-J は複数の認知機
(3)
能ドメインの能力評価から全般的な認知機能を測
結 果
定する面接式検査である(両者ともに30点満点)。
A.調査参加者の抑うつ傾向の特徴
握力はスメドレー式握力計を用いて利き手で 2 回
測定し、大きい値を代表値とした。歩行速度は、
調査参加者の背景一覧を表 1 に示した。本研究
歩行開始 3 m と 8 m の地点にテープで印を付け
表 1 .調査参加者の背景一覧
Table 1.Participants Characteristics.
た11 m の歩行路を参加者が最大努力下で直線歩
行し(早歩き)、 3 m 地点から 8 m 地点の間の
算出した。
Participants
(n = 186)
Variables, mean
(SD)
5 m の歩行時間を測定し、歩行速度(m / 分)を
Female, (
n %)
E.統計解析
運動習慣および外出頻度による抑うつ度の違い
を検討するため、GDS 得点(抑うつ度)を従属
変数とし、運動習慣の有無と外出頻度(高・低)
171
(91.9)
Age
70.1
(6.6)
55-64, n(%)
43
(23.1)
65-74, n
(%)
93
(50.0)
75-89, n(%)
50
(26.9)
BMI
※1
22.2
(3.1)
を独立変数、性別、年齢、老研式活動能力指標得
Systolic blood pressure, mmHg
133.5
(17.9)
点を調整した 2 要因分散分析を行った。次に、抑
Diastolic blood pressure, mmHg
76.4
(11.3)
うつ傾向と安静時脳糖代謝量の関連に運動習慣も
しくは外出頻度がどのように関与しているか明ら
かにするため、GDS 得点を従属変数とし、各脳
MMSE
※2
29.2
(1.4)
MoCA-J ※3
26.7
(2.6)
24.9
(6.9)
Grip strength, kg
128.3
(17.5)
Maximum gait speed, m/min
部位の代謝量と想定される交絡因子を独立変数と
TMIG-IC ※4
12.5
(0.8)
した多重回帰分析を行い、運動習慣もしくは外出
Eduction level
12.9
(2.2)
頻度を調整因子として投入した場合、結果がどの
ように変化するか検討した。この際、各脳部位の
糖代謝量間に極めて高い相関が認められたため(r
> 0.6)
、脳部位ごとに 6 回に分けて多重回帰分析
を行い、第 1 の過誤を防ぐため Bonferroni 補正を
行い、P < 0.008を有意水準とした(0.005/ 6 )。統
計解析は IBM SPSS statistics 20.0を用いて行った。
Having fitness habits, n(%)
115
(61.8)
※5
High frequency of going outdoors, (
n %)
112
(60.2)
GDS ※6
2.55(2.11)
0-4, n(%)
154
(82.8)
5-10, n(%)
32
(17.2)
※1
Body-mass index, ※2 Mini-Mental State Examination, ※3 Japanese version of Montreal Cognitive Assessment, ※4 Tokyo Metropolitan Institute of Gerontology Index of Competence, ※ 5 Older
adults who went out once a day or more, ※6 Geriatric Depression
Scale.
表 2 .GDS ※1 得点を従属変数とした多重回帰分析結果
Table 2.Results of multiple linear regression analysis of GDS ※1.
Model 1
β(95% CI)
Model 2
β
(95% CI)
Model 3
β
(95% CI)
Prefrontal cortex
*
­0.22
(­0.10, ­0.02)
­0.23
(­0.10, ­0.02)*
­0.23
(­0.10, ­0.02)*
Dorsolateral prefrontal cortex
­0.19(­0.09, ­0.01)
­0.21
(­0.09, ­0.01)
­0.20(­0.09, ­0.01)
*
Cerebral regions
Orbitofrontal cortex
­0.23(­0.10, ­0.02)
­0.18
(­0.09, ­0.04)
­0.24
(­0.10, ­0.02)*
Anterior cingulate cortex
­0.15(­0.08, 0.00)
­0.16
(­0.08, 0.00)
­0.16(­0.09, 0.00)
Posterior cingulate cortex
­0.19(­0.06, ­0.01)
­0.17
(­0.06, 0.00)
­0.19(­0.06, ­0.01)
Hippocampus
­0.18(­0.11, ­0.01)
­0.18
(­0.11, ­0.01)
­0.19(­0.11, ­0.01)
Regression analysis was performed separately for each glucose metabolic value because their values were highly correlated with each
other.
Model 1: adjusted for sex, age, education level, BMI ※2, and TMIG-IC ※3.
Model 2: adjusted for sex, age, education level, BMI ※2, TMIG-IC ※3, and frequency of going outdoors.
Model 3: adjusted for sex, age, education level, BMI ※2, TMIG-IC ※3, and fitness habits.
* P < 0.008.
※1
Geriatric Depression Scale, ※2 Body-mass index, ※3 Tokyo Metropolitan Institute of Gerontology Index of Competence.
(4)
参加者のうち、抑うつ傾向(GDS > 4 )を有す
に関連していることが明らかとなった。高齢者の
る高齢者は32名(17.2%)であった。また運動習
抑うつと身体活動量の関連性を検討した横断研究
慣を有する高齢者は115名(61.8%)、高外出頻度
では、身体活動量が高い高齢者ほど抑うつ度が低
の高齢者は112名(60.2%)であった。
かったとする研究がある一方10)、縦断研究では高
運動習慣の有無と外出頻度を独立変数した
齢者の抗抑うつ効果を得るためには高いレベルの
GDS 得点に対する 2 要因分散分析の結果、外出
運動量が必要であることを示唆している7)。本研
頻度に有意な主効果(F1,179 = 5.4, P = 0.021)が認
究では、運動習慣については種類と頻度を問わ
められ、高外出頻度者では有意に GDS 得点が低
ず、その有無に着目した。そのため明確に活動の
いことが明らかとなった。他方、運動習慣に関し
頻度(すなわち身体活動量レベル)を示している
ては有意な主効果は認められず(F1,179 = 0.1, P =
外出頻度に GDS 得点に対する有意な主効果が認
0.900)
、交互作用も認められなかった(F1,179 = 1.7,
められたものと推察される。本研究の結果は断続
P = 0.191)
。
的な運動では抗抑うつ効果が低く(運動習慣があ
B.抑うつ傾向と安静時脳糖代謝量の関連
ると答えた者のうち,35%が低外出頻度者であっ
GDS 得点を従属変数とした多重回帰分析の結
た)、 1 日 1 回は屋外で活動するといった活動的
果を表 2 に示した。結果、前頭前野および眼窩前
な生活習慣が抗抑うつには重要であることを示唆
頭皮質の糖代謝量の低下が GDS 得点増加の有意
している。
な説明変数として認められた。この重回帰分析に
高齢者の抑うつ傾向は前頭前野および眼窩前頭
運動習慣の有無を共変量として投入したところ、
皮質の脳糖代謝量低下と有意な関連があることが
結果に変化は認められなかった。他方、外出頻度
明らかとなったが、高齢者における高外出頻度が
を共変量として投入した結果、眼窩前頭皮質との
もたらす抗抑うつ効果には、眼窩前頭皮質が関与
有意な関連は消失し、前頭前野のみに GDS 得点
している可能性が示唆された。眼窩前頭皮質は報
との有意な関連が認められた。
酬や嫌悪刺激の価値評価および情動・動機づけに
考 察
基づく意思決定に関与している脳部位である3)。
年齢を問わず、うつ病患者では眼窩前頭皮質の容
本研究では、高齢者における抑うつ傾向と脳神
量が減少していることが報告されており4)、生活
経活動を反映する安静時脳糖代謝量の関連性を明
上の価値評価や情動・動機づけに基づく意思決定
らかにし、その関係性が運動習慣や外出頻度に
機能が正常に働いていないことが抑うつ傾向を高
よってどのように変化するか明らかにすることを
めることに関係していると推察される6)。本研究
目的とした。運動習慣の有無と外出頻度を独立変
で確認された、高頻度外出習慣(身体活動)が眼
数とした 2 要因分散分析の結果、GDS 得点に対
窩前頭皮質を介して抗抑うつに貢献する詳細なメ
して外出頻度のみが有意な主効果が認められた。
カニズムについては不明であるが、活動的な生活
ここから、高齢期の抑うつには運動習慣の有無よ
習慣が選択的に眼窩前頭皮質の神経活動や血流動
り外出頻度の高さが関連していることが明らかと
態、神経伝達物質機能(セロトニンなど)を高め
なった。また本研究から、高齢者の抑うつ傾向は
ている可能性が推測される。今後、縦断的な調査
前頭前野および眼窩前頭皮質の脳糖代謝量低下と
に加えて、うつ病発症に強く関与していると考え
有意な関連があることが明らかとなった。しかし
られているセロトニン神経活動を合わせて検討
ながら、外出頻度を共変量とした場合、抑うつ傾
し、包括的に高齢者における運動の抗抑うつ作用
向と眼窩前頭皮質糖代謝量の関連性が消失した。
を検討することが望まれる。
この結果から、高齢者における高外出頻度がもた
らす抗抑うつ効果には、眼窩前頭皮質が関与して
総 括
いる可能性が推察される。
本研究から地域在住高齢者の抑うつには運動習
本研究から外出頻度がより強く高齢期の抑うつ
慣の有無より外出頻度の高さが関連していること
(5)
が明らかとなった。このような高齢者の抑うつ傾
向は前頭前野および眼窩前頭皮質の脳糖代謝量低
下と有意な関連があることが明らかとなったが、
高齢者における高外出頻度がもたらす抗抑うつ効
果には、眼窩前頭皮質が関与している可能性が示
唆された。
atric depression. Biol Psychiatry, 48, 971-975.
5)Ribeiz SR, Duran F, Oliveira MC, Bezerra D, Castro CC,
Steffens DC, Busatto Filho G, Bottino CM
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: Structural brain changes as biomarkers and outcome predictors
in patients with late-life depression: a cross-sectional and
prospective study. PLoS One, 8, e80049.
6)Rive MM, van Rooijen G, Veltman DJ, Phillips ML,
謝 辞
本研究課題を進めるにあたり、ご協力いただきました
関係諸氏に厚く御礼申し上げます。また、本研究への助
成を賜りました公益財団法人明治安田厚生事業団に深く
感謝いたします。
Schene AH, Ruhé HG(2013): Neural correlates of dysfunctional emotion regulation in major depressive disorder.
A systematic review of neuroimaging studies. Neurosci
Biobehav Rev, 37, 2529-2553.
7)Strawbridge WJ, Deleger S, Roberts RE, Kaplan GA
(2002)
: Physical activity reduces the risk of subsequent
参 考 文 献
1)Alexopoulos GS(2005)
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2)Fujita K, Fujiwara Y, Chaves PH, Motohashi Y, Shinkai S
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(2000)
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ral Japan. J Epidemiol, 16, 261-270.
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10)Yoshiuchi K, Nakahara R, Kumano H, Kuboki T, Togo F,
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第 30 回若手研究者のための健康科学研究助成成果報告書
(6)
2013 年度 pp.6~10(2015.4)
運動トレーニングがメンタルヘルスおよび動脈スティフネスに
及ぼす影響 ―生化学的アプローチによる検討―
赤 澤 暢 彦*
及 川 哲 志**
熊 谷 仁**
前 田 清 司*
EFFECTS OF EXERCISE TRAINING ON MENTAL HEALTH AND ARTERIAL
STIFFNESS - INSIGHT FROM BIOCHEMICAL APPROACH Nobuhiko Akazawa, Satoshi Oikawa, Hiroshi Kumagai,
and Seiji Maeda
Key words: aerobic exercise training, arterial compliance, general health questionnaire, stress, corticosteroid.
改善させることが明らかになっている1,6)。すなわ
緒 言
ち、 1 度増大した動脈スティフネスでも運動に
我が国において、ストレスに起因する精神疾患
よって低下することが示されている。更に、運動
は急増しており、がん、脳卒中、心臓病、糖尿病
は不安や抑うつなどの精神的なストレスにも有効
とならぶ「 5 大疾病」として位置付けられている。
である可能性が数多く報告されている5)。これら
特に、中高齢者における精神病床入院患者は増え
のことから運動トレーニングはメンタルヘルスを
続けており深刻な問題となっている。更に、精神
改善させることで動脈スティフネスを低下させて
的なストレスは動脈スティフネスを増大させるこ
いる可能性が考えられる。しかし、健康な中高齢
とが報告されている 。動脈スティフネスの増大
者において、有酸素性運動トレーニングが動脈ス
は、収縮期血圧の上昇、脈圧の開大、左心室の後
ティフネスと精神的なストレスに与える影響を同
負荷増大、
圧反射受容器の低下などを引き起こし、
時に検討した研究は見当たらない。そこで本研究
心疾患の独立した危険因子となる 。これらのこ
では、健康な中高齢者を対象に有酸素性運動ト
とから、精神疾患に罹患する前から中高齢者の精
レーニングがメンタルヘルスおよび動脈スティフ
神的なストレスを軽減させるなどメンタルヘルス
ネスに及ぼす影響を検討することを目的とした。
7)
4)
を管理することによって、動脈スティフネスの増
研 究 方 法
大を抑制することが非常に重要であると考えられ
る。
A.対象者
動脈スティフネスは精神的なストレスだけでな
50歳以上の健康な中高齢者(61 ∓ 1 歳)27名
く加齢によっても増大するが、中高齢者における
を対象とした。被験者は任意に運動トレーニング
有酸素性運動トレーニングは動脈スティフネスを
群(n = 14)とコントロール群(n = 13)の 2 群
*
**
筑波大学体育系
Faculty of Health and Sport Sciences, University of Tsukuba, Ibaraki, Japan.
筑波大学大学院人間総合科学研究科 Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba, Ibaraki, Japan.
(7)
に分かれた。心血管疾患に関連した既往歴がある
~ 2 cm 近位の血管径を解析した。また、血管画
者、心血管疾患に関連した薬を服用している者、
像とは反対側の頸動脈における圧波形を記録し、
喫煙習慣のある者は対象より除外した。また、女
上腕血圧で補正することで頸動脈圧を解析した。
性では、閉経より 2 年以上経っている者を対象に
頸動脈コンプライアンスは以下の式から算出した。
した。実験に先立ち、すべての被験者に対して、
実験の目的と内容について説明し、実験に参加す
頸動脈コンプライアンス=
πD0]
[(D1- D0)/D0]
[
/ 2(P1- P0)
る同意書を得た。なお、本研究は筑波大学体育系
D1:心収縮期最大頸動脈径
の承認を得て実施した(承認番号:体25-127)。
D0:心拡張期最小頸動脈径
B.運動トレーニング
運動トレーニング群は自転車運動およびウォー
P1:心収縮期頸動脈血圧
P0:心拡張期頸動脈血圧
キングを中心とした有酸素性運動を12週間実施し
2 .心拍数および血圧
た。週 2 回は監督下で自転車運動を行い、それ以
安静仰臥位における心拍数および上腕血圧をオ
外は自宅でウォーキングを行った。トレーニング
シロメトリック法にて自動的に測定した(Form
1 週目は運動に慣れるため、比較的低強度(60%
PWV/ABI)。
HRmax)で30分間の有酸素性運動を行った。トレー
3 .血液生化学データ
ニング 2 週目以降は、運動強度を65~80% HRmax、
上腕静脈より採血した血液から、LDL コレス
運動時間を30~60分、運動頻度を週当たり 3 ~ 6
テロール値、HDL コレステロール値、デヒドロ
日に設定してトレーニングを行った。運動介入を
エピアンドロステロン(DHEA-S)、コルチゾー
行わないコントロール群の被験者には介入期間中
ルを測定した。
の身体活動を変えないように指示した。
4 .精神健康調査票
C.測定項目
GHQ60を用いて精神的なストレス状態を評価
すべての測定は室温を調節した静かな部屋で行
した。GHQ は Goldberg により開発された質問紙
われた(24~26℃)
。被験者には、測定開始前12
法で精神障害の疫学調査に使用されている。本研
時間以内のアルコールまたはカフェインを含む飲
究では中川ら3)によって作成された日本語版を使
食および24時間以内の激しい運動を控えさせた。
用した。
20分以上の安静後に、仰臥位にて動脈スティフネ
5 .最高酸素摂取量
スの指標として頸動脈コンプライアンスを評価
VO2peak は自転車エルゴメータを用いた最大運
し、座位にて採血を行った。その後、精神健康
動負荷試験にて測定した。被験者は20 W で 2 分
調 査 票(The General Health Questionnaire 60;
間のウォーミングアップの後、 1 分ごとに10 W
GHQ60)をメンタルヘルスの指標として行った。
ずつ漸増する負荷で疲労困憊になるまで自転車運
また、別の日に最大運動負荷試験による最高酸素
動を続けた。
摂取量(VO2peak)を測定した。これらの測定は12
●
●
D.統計処理
週間の介入前後に行った。
本研究におけるデータを平均値 ∓ 標準誤差で
1 .頸動脈コンプライアンス
示した。運動トレーニング群とコントロール群そ
超 音 波 診 断 装 置(En Vsior, Koninklijke Philips
れぞれにおける各項目の介入の効果を検討するた
Electronics, Netherland)およびトノメトリセンサー
めに対応のある t 検定を行い、両群の群間差を検
(Form PWV/ABI, Colin Medical Technology, Japan)
討するために対応のない t 検定を行った。また、
を用いて得られた頸動脈血管画像と頸動脈血圧か
介入前の値を共変量とした共分散分析を用いて各
ら総頸動脈のコンプライアンスを動脈スティフネ
群における平均値の差を比較した。本研究におけ
スの指標として測定した。総頸動脈血管画像は超
る統計的有意水準を 5 %に設定した。
音波診断装置にリニア型で7.5 MHz のプローブを
装着し、B モード法で記録した。頸動脈洞から 1
(8)
コンプライアンスの変化率はコントロール群の変
結 果
化率より有意に高値を示した(P < 0.05)。また、
12週間の運動トレーニング介入前後の身体的特
運動トレーニング群の GHQ60の変化率はコント
性の変化を表 1 に示す。12週間の有酸素性運動ト
ロール群の変化率より有意に低値を示した(図 2 ,
レーニングにより、体重が低下し、VO2peak は増
P < 0.05)。なお、介入前の値を共変量とした共分
加 し た(P < 0.05)
。 コ レ ス テ ロ ー ル、 血 圧、
散分析を用いて介入前後の変化を比較したとこ
DHEA-S およびコルチゾールの血中濃度に有意な
ろ、頸動脈コンプライアンスおよび GHQ60とも
変化は認められなかった。なお、コントロール群
に有意な差が認められた(P < 0.05)。
●
ではいずれの項目も有意な変化はなかった。
考 察
介入前後における頸動脈コンプライアンスの変
化率を図 1 に示す。運動トレーニング群の頸動脈
本研究において、中高齢者における12週間の有
表 1 .被験者の身体的特性
Table 1.Selected subject characteristics.
Control
Before
n(male/female)
Exercise training
After
Before
After
13(2/11)
14
(2/12)
Age(years)
61 ∓ 2
63 ∓ 1
Height(cm)
161 ∓ 3
158 ∓ 1
Weight
(kg)
58 ∓ 4
58 ∓ 4
60 ∓ 2
59 ∓ 2*
HDL cholesterol
(mg/dl)
62 ∓ 5
60 ∓ 4
60 ∓ 3
61 ∓ 4
LDL cholesterol
(mg/dl)
138 ∓ 6
140 ∓ 6
134 ∓ 8
132 ∓ 10
Systolic blood pressure(mmHg)
121 ∓ 5
120 ∓ 4
122 ∓ 4
122 ∓ 4
74 ∓ 3
Diastolic blood pressure
(mmHg)
74 ∓ 3
72 ∓ 2
DHEA-S(μg/dl)
111.4 ∓ 13.5
103.7 ∓ 12.5
96.6 ∓ 17.8
101.4 ∓ 10.3
74 ∓ 2
Cortisol(μg/ml)
7.7 ∓ 0.7
7.5 ∓ 0.8
6.7 ∓ 0.7
7.5 ∓ 0.6
DHEA-S/cortisol ratio
15.5 ∓ 2.0
14.9 ∓ 1.9
15.3 ∓ 2.7
13.7 ∓ 1.2
(ml/kg/min)
VO2peak
23.1 ∓ 0.9
22.7 ∓ 0.9
21.7 ∓ 0.7
24.5 ∓ 0.8*
●
Mean ∓ SE. HDL; High-density lipoprotein, LDL; Low-density lipoprotein, DHEA-S; Dehydroepiandrosterone salphate, VO2peak; Peak
oxygen uptake. * P < 0.05 vs. Before intervention.
50
(%)
Control
Control
Exercise training
Exercise training
(%)
30
P < 0.05
40
30
20
10
0
図 1 .介入前後における頸動脈コンプライアンスの変化率
Fig.1.Changes in carotid arterial compliance in response to
intervention.
P < 0.05
20
Changes in GHQ60
Changes in carotid arterial compliance
●
10
0
-10
-20
-30
図 2 .介入前後における GHQ60 の変化率
Fig.2.Changes in GHQ60 in response to intervention.
GHQ; General health questionnaire.
(9)
酸素性運動トレーニングは GHQ60および頸動脈
腎皮質束状層よりコルチゾールなどの糖質コルチ
コンプライアンスを改善させることが示された。
コイドが分泌される。コルチゾールが慢性的に高
すなわち、継続的な有酸素性運動はメンタルヘル
濃度になると免疫機能の低下や海馬の細胞に障害
スを良好にし、動脈スティフネスを低下させるこ
が生じる2)。一方で、副腎皮質の網状層から分泌
とが示唆された。
される DHEA はコルチゾールを調節する働きが
これまでに多くの先行研究により、有酸素性運
あり、コルチゾールの過度な上昇を抑えている。
動トレーニングは動脈スティフネスを低下させる
先行研究では、コルチゾールの上昇と DHEA の
ことが明らかにされている
。著者らは閉経後女
低下やコルチゾールと DHEA の比は、うつ病な
性における 8 週間の有酸素性運動トレーニングに
どの精神障害と関連することが報告されてい
よって動脈スティフネスが低下することを報告し
る 8)。しかし、本研究ではコルチゾール、DHEA
ている1)。更に、Tanaka et al.6)も中高齢男性を対
およびコルチゾール/ DHEA 比いずれも介入前後
象に、12週間の有酸素性運動トレーニングが動脈
で有意な変化は認められなかった。これらのこと
スティフネスを低下させることを報告している。
から、精神状態の改善が動脈スティフネスを低下
本研究においても先行研究同様に、中高齢男性お
させるメカニズムには、これら視床下部-下垂体
よび中高齢女性における動脈スティフネスは12週
前葉-副腎皮質(HPA 系)に関するストレスホ
間の有酸素性運動トレーニングによって改善する
ルモン以外の因子が関与している可能性が考えら
ことが示された。加齢や精神的ストレスによる動
れる。したがって、これら以外のストレスマー
脈スティフネスの増大は心血管イベントのリスク
カーが動脈スティフネスに及ぼす影響についても
を高める。これらのことから、中高齢者の有酸素
検討することが今後の課題であると考えらえる。
1,6)
性運動トレーニングは心疾患のリスクを軽減させ
ることが示唆された。
総 括
本研究では、介入前後における運動トレーニン
本研究は、中高齢者における12週間の有酸素性
グ群とコントロール群の GHQ60の変化率に有意
運動トレーニングがメンタルヘルスおよび動脈ス
な差が認められた。このことは、有酸素性運動ト
ティフネスに及ぼす影響を検討した。運動トレー
レーニングの実施は精神的ストレスを軽減させ
ニング群とコントロール群の GHQ60および頸動
て、メンタルヘルスを良好にする可能性を示唆し
脈コンプライアンスの変化率には有意な差が認め
ている。先行研究においても運動トレーニングは
られた。これらのことから、継続的な有酸素性運
精神的ストレスを軽減させることが報告されてい
動はメンタルヘルスを向上させることで動脈ス
る 。一方、うつ病などの精神疾患は動脈スティ
ティフネスを低下させる可能性が示唆された。
5)
フネスを増大させることが報告されている。すな
わち、メンタルヘルスの悪化と動脈スティフネス
の増大は関係すると考えられている。本研究で
謝 辞
本研究を実施するにあたり、ご協力いただきました参
加者の皆様、共同研究の皆様、運動トレーニング教室の
は、介入前後における頸動脈コンプライアンスの
運営にご尽力いただきました筑波大学前田研究室の皆様
変化率にも両群間で有意な差が認められた。これ
に重ねて御礼申し上げます。更に本研究を遂行するにあ
らのことから、有酸素性運動トレーニングが精神
的なストレスを減らし、メンタルストレスを改善
させることで、動脈スティフネスを低下させてい
る可能性が考えられる。 精神的ストレスの軽減が動脈スティフネスを低
下させるメカニズムについては、本研究からは明
らかにできない。ヒトはストレスを受けると、視
床下部から副腎皮質刺激ホルモンが分泌され、副
たり、多大なる助成を賜りました公益財団法人明治安田
厚生事業団に深く感謝申し上げます。
参 考 文 献
1)Akazawa N, Choi Y, Miyaki A, Tanabe Y, Sugawara J,
Ajisaka R, Maeda S(2012)
: Curcumin ingestion and exercise training improve vascular endothelial function in postmenopausal women. Nutr Res, 32, 795-799.
2)McEwen BS(1998)
: Protective and damaging effects of
stress mediators. N Engl J Med, 338, 171-179.
(10)
3)中川泰彬,大坊郁男(2012):日本版 GHQ 精神健康
DeSouza CA, Seals DR(2000)
: Aging, habitual exercise,
調査票手引(増補版).増補版第 1 版,日本文化科学
and dynamic arterial compliance. Circulation, 102, 1270-
社,東京.
1276.
4)O'Rourke M(1990): Arterial stiffness, systolic blood pres-
7)Tiemeier H, Breteler MM, van Popele NM, Hofman A,
sure, and logical treatment of arterial hypertension. Hyper-
Witteman JC(2003)
: Late-life depression is associated
(4), 339-347.
tension, 15
with arterial stiffness: a population-based study. J Am
5)Reed J, Buck S(2009): The effect of regular aerobic exercise on positive-activated affect: A meta-analysis. Psychol
Sport Exerc, 10, 581-594.
6)Tanaka H, Dinenno FA, Monahan KD, Clevenger CM,
Geriatr Soc, 51, 1105-1110.
8)Young AH, Gallagher P, Porter RJ(2002): Elevation of
the cortisol-dehydroepiandrosterone ration in drug-free patients. Am J Psychiatry, 159, 1237-1239.
(11)
第 30 回若手研究者のための健康科学研究助成成果報告書
2013 年度 pp.11~15(2015.4)
1 回の運動がもたらすメンタルヘルスへの有益な効果は
どの程度続くのか?
安 藤 創 一*
小 見 山 高 明**
畑 本 陽 一***
THE EFFECTS OF A SINGLE BOUT OF EXERCISE
ON MENTAL HEALTH
Soichi Ando, Takaaki Komiyama, and Yoichi Hatamoto
Key words: exercise, mental health, lactate threshold, catecholamine, cortisol.
緒 言
響を及ぼすのかについて推察することを目的とし
た。
身体の健康だけでなく、心の健康であるメンタ
研 究 方 法
ルヘルスを維持することは、年代を問わずクオリ
ティ・オブ・ライフを維持するうえで欠かすこと
A.被験者
ができないものである。これまでの研究から、運
被験者は健康な若年男性 7 名(平均値±標準偏
動が身体に対してだけでなく、メンタルヘルスの
差,身長1.70±0.08 m,体重67.7±6.2 kg,最高酸
維持や改善に対しても有益な効果をもたらすこと
素摂取量(VO2peak)42.6±5.9 ml/kg/min)であった。
が示唆されている4)。運動がもたらすこの有益な
すべての被験者は、実験の参加に対する同意を
効果は、 1 回の運動であってもみられることが期
行った後に実験に参加した。本研究は、福岡大学
待されるが、運動がもたらす有益な効果がどの程
倫理委員会の承認(14-12-01)を受けて行った。
度の時間、継続されるのかについては明らかと
●
B.実験方法
なっていない。そこで、本研究では、乳酸閾値で
被験者は、本実験の前に自転車エルゴメータに
の強度の運動がメンタルヘルスに及ぼす効果がど
よる漸増負荷運動を行い、乳酸閾値に相当する強
こまで継続するのかについて検討することを目的
度および最高酸素摂取量を決定した。漸増負荷運
とした。運動がメンタルヘルスにもたらす効果の
動の運動負荷は、10 W で開始し、 1 分ごとに20
検討には、質問紙による感情状態の評価により
W ずつ増加させた。運動は継続できなくなるま
行った。更に、血中のカテコールアミン(アドレ
で行った。運動中には、 1 分ごとに耳朶から採血
ナリン,ノルアドレナリン,ドーパミン)、脳由
を行い、血中乳酸濃度(ラクテート・プロ TM2,
来神経栄養因子(BDNF)、セロトニン、および
アークレイ,京都)を測定し、乳酸閾値を決定し
コルチゾールの濃度変化を併せて測定すること
た(108±16 W)。
で、運動がどのような機序でメンタルヘルスに影
実験は午前 9 時から開始した。被験者は、空腹
*
**
***
電気通信大学情報理工学研究科
Graduate School of Informatics and Engineering, University of Electro-Communications, Tokyo, Japan.
福岡大学大学院スポーツ健康科学研究科 Graduate School of Sports and Health Science, Fukuoka University, Fukuoka, Japan.
福岡大学スポーツ科学部
Faculty of Sports and Health Science, Fukuoka University, Fukuoka, Japan.
(12)
状態で実験開始の 1 時間前までに研究室に到着
エース R,三和化学研究所,名古屋)を測定した。
し、実験開始まで安静を保った。被験者は、運動
運動終了から 1 時間後、 3 時間後、24時間後の測
前、乳酸閾値強度での30分間の運動終了直後に質
定でも、質問紙に対する回答後に血中乳酸濃度と
問紙による感情状態の評価を行った。併せて、前
血糖値を測定した。静脈からの採血による血中の
腕の静脈から採血を行った。運動後の測定は、運
カテコールアミン濃度(アドレナリン,ノルアド
動終了直後に加えて、運動終了から 1 時間後、 3
レナリン,ドーパミン)、血清 BDNF 濃度、セロ
時間後、24時間後に行った(図 1 )。運動終了か
トニン濃度、コルチゾール濃度の測定は、外注に
ら 3 時間後までは、水の摂取のみ可とした。運動
よる臨床検査にて行った(SRL,東京)。
D.統計検定
終了から24時間後の測定についても、被験者は空
腹状態で行った。
統計検定には、繰り返しのある一元配置の分散
C.測定項目
分析を用いた。多重比較にはダネットの方法を用
本研究で用いた感情の状態を評価する質問紙
いて運動前の値と比較した。有意水準は 5 %とし
は、坂入ら による二次元気分尺度(Two-dimen-
た。
6)
sion mood state; TDMS)および橋本と村上 によ
2)
結 果
る改訂版ポジティブ感情尺度(Mood Check List-
A.RPE、血中乳酸濃度、血糖値、収縮期血圧、
short form 2 ; MCL-S.2 )であった。二次元気分尺
および拡張期血圧(表 1 )
度では、活性度、安定度、快適度、および覚醒度
を評価した。改訂版ポジティブ感情尺度では、快
RPE および血中乳酸濃度は運動終了直後に運
感情、リラックス感、および不安感を評価した。
動前と比較して増加がみられた(それぞれ P <
運動前および運動終了直後には、耳朶から血液を
0.001,P < 0.01)。しかし、運動終了から 1 時間後、
採取し、血中乳酸濃度および血糖値(グルテスト
3 時間後、24時間後には運動前と比較して差はみ
Exercise at LT (30 min)
Post
Pre
1 hour
24 hours
3 hours
Measurements
図 1 .実験のプロトコール
Fig.1.Experimental protocol of the present study.
LT represents lactate threshold. One hour, 3 hours, and 24 hours represent the time after the exercise.
表 1 .RPE、血中乳酸濃度、血糖値、収縮期血圧、および拡張期血圧の変化
Table 1.Alterations in RPE, blood lacatate concentration, blood glucose concentration, systolic blood pressure, and diastolic blood pressure.
Variables
RPE
Pre
6.3 ± 0.5
Post
12.3 ± 2.2 ***
2.5 ± 1.0 **
1 hour
6.4 ± 0.5
3 hours
6.1 ± 0.3
24 hours
6.1 ± 0.3
Blood lactate concentration, mmol/l
1.3 ± 0.4
1.3 ± 0.2
1.1 ± 0.2
1.1 ± 0.3
Blood glucose concentration, mg/dl
80.1 ± 9.0
79.1 ± 4.8
77.0 ± 3.9
75.7 ± 4.8
82.6 ± 5.0
Systolic blood pressure, mmHg
121.6 ± 6.4
122.0 ± 7.2
113.4 ± 7.9
110.3 ± 6.1 *
115.0 ± 9.6
Diastolic blood pressure, mmHg
73.1 ± 7.5
76.4 ± 7.1
68.1 ± 6.6
65.6 ± 6.6 *
69.9 ± 9.4
Values are expressed mean ± SD. *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001 vs. Pre.
(13)
られなかった。血糖値には実験を通して差はみら
運動終了から 1 時間後および 3 時間後には不安感
れなかった。収縮期血圧および拡張期血圧は、運
に低下がみられただけでなく(それぞれ P < 0.05,
動終了から 3 時間後に運動前と比較して低い値を
P < 0.01)、 3 時間後には、安定感が上昇する傾向
示した(それぞれ P < 0.05)
。
がみられた(P < 0.1)。
B.二次元気分尺度(TDMS)および改訂版ポ
C.アドレナリン、ノルアドレナリン、および
ドーパミン(図 2 )
ジティブ感情尺度(MCL-S.2 )
(表 2 )
運動終了直後には、快感情が上昇し(P < 0.01)、
運動終了直後には、アドレナリン、ノルアドレ
活性度にも上昇する傾向がみられた(P < 0.1)。
ナリン、およびドーパミンの血中濃度に上昇がみ
表 2 .二次元気分尺度と改訂版ポジティブ感情尺度により評価した感情状態の変化
Table 2. Affective state assessed by Two-dimension mood state(TDMS)and Mood Check List-short form 2
(MCL-S.2).
Variables
Pre
Post
1 hour
3 hours
24 hours
TDMS
Vitality
4.8 ± 0.9
7.5 ± 1.3 #
5.8 ± 2.0
5.5 ± 2.5
Stability
6.0 ± 3.1
6.3 ± 2.1
7.0 ± 1.6
8.2 ± 0.9
Pleasure
10.8 ± 3.8
13.8 ± 3.2
12.8 ± 2.7
13.7 ± 3.1
8.8 ± 2.8
Arousal
-1.2 ± 2.3
1.2 ± 1.3
-1.2 ± 2.3
-2.7 ± 2.1
-0.8 ± 3.2
4.0 ± 2.1
4.8 ± 2.2
#
MCL-S.2
Pleasantness
2.8 ± 2.8
6.8 ± 1.7 **
4.5 ± 2.9
4.2 ± 2.4
2.7 ± 2.1
Relaxation
4.8 ± 3.8
5.0 ± 3.7
5.5 ± 3.4
6.0 ± 3.0
5.3 ± 3.9
-8.3 ± 3.7
-11.0 ± 1.0
Anxiety
-11.5 ± 1.1 *
-12.0 ± 0.0 **
-10.5 ± 2.3
Values are expressed mean ± SD. P < 0.1, *P < 0.05, **P < 0.01 vs. Pre.
40
Post
1H
3H
30000
20000
24H
***
800
400
**
Post
1H
3H
15
*
5
Post
1H
3H
24H
図 2 .アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンの
変化
Fig.2.Alterations in adrenaline, noradrenaline, and dopamine.
*P < 0.05, ***P < 0.001.
1H
3H
24H
1H
3H
24H
120
100
80
Pre
Post
25
20
15
**
10
5
0
Pre
Post
140
24H
10
Pre
160
60
Pre
20
0
40000
0
Pre
1200
0
50000
10000
Serotonin(ng/ml)
Noradrenaline(pg/ml)
***
80
0
Dopamine(pg/ml)
BDNF
(pg/ml)
120
Cortisol(μg/ml)
Adrenaline(pg/ml)
#
Pre
Post
***
***
1H
3H
24H
図 3 .BDNF、セロトニン、コルチゾールの変化
Fig.3.Alterations in BDNF, serotonin, and cortisol.
**P < 0.01, ***P < 0.001.
(14)
られた(それぞれ P < 0.001,P < 0.001,P < 0.05)。
含めたさまざまなストレスに応答する5)。運動終
運動終了から 1 時間後には運動前の水準まで低下
了後にみられたコルチゾールの低下が、不安感の
し、 3 時間後、24時間後も運動前と比較して差は
低下および安定感の上昇と関係がある可能性が考
みられなかった。
えられる。しかし、コルチゾールは日内変動する
D. 血 清 BDNF、セ ロ ト ニ ン、コ ル チ ゾ ー ル
ことが知られており、特に早朝に高い値を示すこ
とが指摘されている1)。本研究では、午前 9 時に
(図 3 )
血清 BDNF 濃度は運動終了から 1 時間後に安
実験を開始し、運動後はそのまま安静状態を保っ
静時と比較して低下した(P < 0.01)。血中セロト
ていた。そのため、本研究でみられたコルチゾー
ニン濃度は、実験を通して差がみられなかった。
ルの低下が運動だけの効果によるものではない可
一方、血中コルチゾール濃度は、運動前と比較し
能性が考えられる。この点については、今後の検
て、運動直後および運動終了から 1 時間後、 3 時
証が必要である。
間後に低下がみられた(それぞれ P < 0.01,P <
本 研 究 で は、 運 動 終 了 か ら 1 時 間 後 に 血 清
0.001,P < 0.001)
。
BDNF に低下がみられた。この血清 BDNF の低
下は、運動の影響であると考えられる。運動後の
考 察
血清 BDNF の変化は、運動負荷によって違いが
本研究では、運動前と比較して運動終了から24
みられることが報告されている7)。血清 BDNF の
時間後に差がみられた項目は認められなかった。
生理的意義については明らかではないが、本研究
このことは、自転車エルゴメータを用いた乳酸閾
でみられた感情状態の変化に対する影響は大きく
値の強度での30分間の運動の効果は、翌日までは
ないのかもしれない。セロトニンは気分の調節に
継続されないことを示唆している。本研究では、
関与することが示唆されている8)。しかし、本研
運動終了直後には、RPE および血中乳酸濃度が
究の実験条件では、運動により血中のセロトニン
上昇し、血中のアドレナリン、ノルアドレナリン、
濃度に大きな変化はみられなかった。
ドーパミンの濃度にも上昇がみられた。更に、快
本研究では、予備実験として運動を行っていな
感情が上昇し、活性度にも上昇する傾向がみられ
い群に対して、同様の時間経過で改訂版ポジティ
た。これらの変化はすべて、運動終了から 1 時間
ブ感情尺度測定を行ったが、感情状態に変化はみ
後には安静時の水準にまで低下した。したがって、
られなかった。そのため、今回は生化学的解析を
運動による快感情と活性度の変化には、カテコー
行わなかった。しかし、運動が感情状態に及ぼす
ルアミンの一時的な上昇が関与している可能性が
効果をより明確にし、生化学的指標の日内変動を
示唆された。特に、青斑核のノルアドレナリン分
明らかにするためにも、今後は対照群に対する測
泌ニューロンは脳の広範な領域に神経線維を投射
定も必要となることが考えられる。本研究は、被
して覚醒レベルを上昇させ、精神活動や心的状態
験者を若年男性のみに限定して行ったものであ
を全般的に制御していることから 、本研究でも
る。今後は、中高年者や女性などに対しても、同
快感情と活性度の変化に対して大きく貢献してい
様の結果がみられるのかについて検討することが
ることが推察される。
課題であろう。また、本研究ではメンタルヘルス
運動終了から 1 時間後および 3 時間後には、不
の指標については、質問紙により定量化を行った
安感の低下がみられた。また、 3 時間後には、安
のみである。そのため、測定手法としての限界が
定感にも上昇する傾向がみられ、収縮期血圧およ
あると考えられる。更に、今回測定した生化学的
び拡張期血圧もともに低下していた。これらの結
指標は静脈血中から計測したものであり、どこま
果は、運動終了後も運動の有益な効果が継続する
で脳内での濃度を反映しているのかについては更
可能性を示唆している。運動終了から 1 時間後お
なる検討が必要であると考えられる。
3)
よび 3 時間後には、コルチゾールの低下がみられ
た。コルチゾールの機能は多岐にわたり、運動を
(15)
総 括
本研究では、乳酸閾値の強度での30分間の運動
が、メンタルヘルスに及ぼす効果がどこまで続く
ティブ感情尺度(MCL-S.2 )の信頼性と妥当性.健
康科学,33, 21-26.
3)御手洗玄洋総監訳,小川徳雄,永坂鉄夫,伊藤嘉房,
松井信夫,間野忠明監訳(2010):ガイトン生理学.
原著第 11 版,エルゼビア・ジャパン,東京.
のか検討した。その結果、運動直後には快感情や
4)永松俊哉(編)
(2012)
:運動とメンタルヘルス.公
活性度が上昇し、運動終了から 3 時間経過しても
益財団法人明治安田厚生事業団(監修)
,杏林書院,
安定感の上昇や不安感の低下がみられることが示
東京.
された。これらの変化には、血中のカテコールア
ミンやコルチゾールの濃度の変化が関係している
可能性が示唆された。
謝 辞
本研究に助成いただいた公益財団法人明治安田厚生事
業団に深く感謝申し上げます。また、本研究を遂行する
にあたり、ご協力いただきました福岡大学スポーツ科学
部の檜垣靖樹教授ならびに被験者の皆様に厚く御礼申し
上げます。
参 考 文 献
5)Powers SK, Howley ET(2012)
: Exercise Physiology:
Theory and Application to Fitness and Performance, 8th
ed, McGraw Hill, New York.
6)坂入洋右,徳田英次,川原正人,谷木龍男,征矢英
昭(2003)
:心理的覚醒度・快適度を測定する二次元
気分尺度の開発.筑波大学体育科学系紀要,26, 2736.
7)Schmidt-Kassow M, Schädle S, Otterbein S, Thiel C,
Doehring A, Lötsch J, Kaiser J(2012)
: Kinetics of serum
brain-derived neurotrophic factor following low-intensity
versus high-intensity exercise in men and women. Neuro, 889-893.
report, 23(15)
1)Budde H, Machado S, Ribeiro P, Wegner M(2015)
: The
8)Sekiyama T, Nakatani Y, Yu X, Seki Y, Sato-Suzuki I, Arita
cortisol response to exercise in young adults. Front Behav
H(2013): Increased blood serotonin concentrations are
Neurosci, 9, 13.
correlated with reduced tension/anxiety in healthy postpar-
2)橋本公雄,村上雅彦(2011):運動に伴う改訂版ポジ
(3)
, 560-565.
tum lactating women. Psychiatry Res, 209
第 30 回若手研究者のための健康科学研究助成成果報告書
(16)
2013 年度 pp.16~21(2015.4)
健常高齢者の認知機能低下予防に有効な歩行活動の
介入効果の検討
木 村 憲*
安 永 明 智**
FACILITATING DAILY PHYSICAL ACTIVITY, COGNITIVE EXECUTIVE
FUNCTION, AND MENTAL HEALTH AMONG ELDERLY PEOPLE:
A ONE-YEAR INTERVENTION
Ken Kimura and Akitomo Yasunaga
Key words: Physical activity, cognitive function, mental health, elderly people, RCT.
ば、高齢者において運動習慣に影響を受けやすい
緒 言
認知機能は知覚、記憶、注意などの個々の認知モ
近年、それほど高強度の運動習慣がなくても習
ジュールというよりは、それらを包括した遂行機
慣的な歩行活動(散歩,ウォーキングなど)が活
能であることが知られている1)。本研究では高齢
発であることが軽度認知症および認知症予防に有
者の遂行機能に着目し、その評価をするためにタ
効であることが示唆されている
スクスイッチ課題を用いた。
。しかしなが
4,6,7,9)
ら、歩行活動の強度・時間に焦点を当てた介入デ
認知症とうつ症状は密接な関係にあることが知
ザインによる効果検証はこれまで報告されていな
られており、うつ症状の予防は認知症リスク低減
い。本研究は加速度センサー付き歩数計を利用す
に貢献する。更に、認知機能低下ならびにうつ症
ることによって高齢者の日常生活のなかに強度を
状は日常生活の質(健康関連 QOL)の低下に結
加味した定期的な歩行活動を付加する。そして、
びつく。健康関連 QOL の低下を早期に予知し対
1 年間の日常歩行の介入が認知機能に及ぼす効果
処することは、ひいては認知機能を良好に保持す
を検討した。
るための重要なアプローチとなりうる。本研究で
最近の認知神経科学的検証では、認知課題をコ
は、特定の運動習慣を有さない地域高齢者のうつ
ンピュータベース(PC-base)で実行させ、それ
症状と健康関連 QOL の改善に日常的歩行活動の
らのパフォーマンス(反応時間や正答率など)を
介入が有効であるかを重ねて検討した。
検討することによって、健常者の加齢や生活習慣
本研究は、健康な地域在住高齢者を対象として、
が及ぼす認知機能への影響について詳細な検討が
日常生活のなかに一定強度の歩行活動を付加する
なされている
。例えば、認知機能の 1 つである
地域型運動介入を実施した。 1 年間の運動介入が
遂行機能(前頭葉機能)を推し量るタスクスイッ
認知機能、うつ症状、および健康関連 QOL に及
チ課題がある。Colcombe et al. のメタ分析によれ
ぼす効果を検証した。そして、日常的歩行活動の
1,5)
*
東京電機大学工学部人間科学系列
Department of Humanities and Social Sciences, School of Engineering, Tokyo Denki University, Tokyo,
Japan.
文化学園大学現代文化学部応用健康心理学科 Faculty of Liberal Arts and Sciences, Bunka Gakuen University, Tokyo, Japan.
** (17)
強度を加味した運動介入を実施することによって、
たデータを集計した。身体活動パラメータとし
これら心理的健康度の維持・改善に最低限必要な
て、 1 日の歩数、中強度以上(≥ 3 METs)の活
運動強度について検討を行った。
動時間、および中強度未満(< 3 METs)の活動
研 究 方 法
A.対象者と手続き
時間を分析に用いた。
C.認知機能、健康関連 QOL、うつ症状
認 知 機 能 の 全 体 像 の 把 握 に Mini Mental State
千葉県在住、65歳以上、健常者で運動習慣のな
Examination(以下 MMSE と略す)を、遂行機能
い高齢者120名を対象者とした。市報を通じて対
の評価にタスクスイッチ課題を用いた。
象者を募った。日常的身体活動の実態把握と運動
タスクスイッチ課題は、同一課題を連続して実
介入を行う目的で、2013年 7 月から2014年 9 月ま
施している(リピート条件)途中に別の課題が突
での 1 年 3 か月間にわたって、加速度センサー付
然挿入されたとき(スイッチ条件)の正答率、反
歩数計の装着を依頼した。認知機能、うつ症状、
応時間により評価する。本研究ではコンピュータ
および健康関連 QOL のベースライン調査を2013
モニタに呈示される直径 2 cm の円形の反応刺激
年 8 月に、 1 年後(2014年) 8 月同日にフォロー
に対して素早く正確にマウスボタンを押す二者択
アップ調査を実施した。対象者を「低強度歩行活
一の選択反応課題を実施した(方法詳細:安永・
動群」
、
「中強度歩行活動群」、「統制群」の 3 群に
木村(2010),第25回健康医科学研究助成論文集)。
ランダムに振り分け、低強度歩行活動(Low ac-
スイッチ条件の正答率(%)と反応時間(reaction
tivity; LA)群には 3 METs 未満の歩行活動を、中
time; RT)(m 秒)により評価を行った。また、
強度歩行活動(Moderate activity; MA)群には 3
スイッチ RT の個人内標準偏差(intra-individual
METs 以上の歩行活動の時間延伸を目標に 1 年間
variability; IIV)を課題遂行の安定性の指標として
の介入を実施した。すべての対象者に本研究の趣
評価に加えた。IIV は加齢や軽度認知症患者にお
旨を十分に説明したうえで参加に対する同意を得
いて増大することが既に知られている4)。本課題
た。なお、本研究は東京電機大学ヒト生命倫理審
は、パーソナルコンピュータ(E130,Lenovo)
査委員会の承認を得て実施された(承認番号:
を用いて、認知神経科学的実験パラダイムに基づ
25-67)
。
き PC-base(プ ロ グ ラ ミ ン グ ソ フ ト ウ ェ ア E-
B.運動介入と身体活動量の測定
prime)により実施された2)。
本研究で使用する加速度センサー付歩数計(ラ
健康関連 QOL は、Medical Outcome Study 36-Item
イフコーダ GS,KENZ 社製)は歩数だけではな
Short-Form Health Survey(以下 SF-36)によって
く微少運動や強度( 1 ~ 9 METs)を加味した活
評価した(Ware & Sherbourne, 1992,福原 & 鈴鴨,
動時間を最大200日間記録することが可能な腰部
2004)。 う つ 症 状 の 評 価 は、Geriatric Depression
取付型小型機器である。実験協力者は歩行中に目
Scale 短 縮 版(以 下 GDS) の 日 本 語 版(矢 冨 ,
標強度の歩行活動が行われていることを歩数計液
1994)を用いた。
晶モニタで確認することができた。実験協力者は
D.分析方法
2 か月ごとに研究機関に来訪し、歩数計の点検
3 群間の運動介入効果は 2 要因分散分析(時間
(データ収集と電池交換)および歩数計データの
×グループ)により主効果ならびに交互作用の検
フィードバックを受けた。歩行活動群には、前月
定を行った。要因間に交互作用があった場合は、
の目標達成度を確認し、次月の歩行活動について
Bonferroni の多重比較もしくは対応のある t- 検定
無理のない目標設定を提案し、段階的に活動時間
により運動介入の効果の相違を検証した。すべて
が延伸するように励ましを行った。一方、統制群
の分析は、Statistical Package for Social Science 18.0
には歩数計データのフィードバックを行うが具体
(SPSS Inc, Chicago, IL)を用いて実施し、 5 %未
的な歩行活動の目標は設定しなかった。実験協力
者の身体活動量の実態は、この歩数計に記録され
満を有意水準として採用した。
(18)
MMSE 総合得点ならびにタスクスイッチ課題の
結 果
各測定パラメータ(正答率,IIV,RT)について
A.対象者人数
有意な交互作用は認められなかった。同様に健康
本研究は身体活動データの欠損( 1 日の装着時
関連 QOL(SF-36)の各項目と GDS スコアに有
間が 6 時間未満の日)が 1 か月間に21日以上(全
意な交互作用は認められなかった。
装着日数の60%以上)の者やフォローアップ測定
の不参加者を除く107名(男性54名,女性53名)
D.中強度活動時間の増加と認知機能、健康関
連 QOL、GDS への効果
図 2 中段は中強度活動時間が 1 年後に増加した
を最終的な分析対象者とした。
B.日常的身体活動の 1 年間の介入効果
対象者(MA-plus)と減少した対象者(MA-minus)
年間の身体活動は季節によって変動することが
の割合を示す。全体集計の結果、MA-plus は全体
知られていることから 、 3 か月平均を季節代表
の半数(53.3%)を占めていた。また、LA 群の
値として、夏( 7 ~ 9 月)、秋(10~12月)、冬( 1
60%の対象者が MA-plus に含まれた。全対象者
~ 3 月)
、春( 4 ~ 6 月)に分類し、身体活動量
を MA-plus(57名)と MA-minus(50名)にグルー
の変化を比較した。LA 群の歩数と中強度活動時
プ の 再 割 り 付 け を し、 認 知 機 能、 健 康 関 連
間に顕著な増加が認められた(図 1 上・中段)。
QOL、および GDS への効果を検討した。
LA 群の歩数および中強度活動時間それぞれにつ
タスクスイッチ課題の各パラメータに関する 2
8)
いて、多重比較を行った結果、2013年夏に比較し
Step-plus
て2014年春の歩数と中強度活動時間が有意に高い
値を示していたことが確かめられた(図 1 )
。
C.認知機能、健康関連 QOL、GDS への介入
効果
Total(n = 107)
Control(n = 31)
51.4
48.6
38.7
61.3
LA
(n = 35)
MA
(n = 41)
Step-minus
68.6
31.4
46.3
53.7
2 要因分散分析(時間×グループ)の結果、
MA-plus
MA-minus
Step counts
(steps/day)
9000
Control
LA
MA
Total(n = 107)
53.3
46.7
8200
Control(n = 31)
53.7
46.3
7800
LA
(n = 35)
8600
*vs. 13. Snmmer
7400
MA
(n = 41)
40.0
60.0
54.8
45.2
7000
Duration of moderate PA
(min/day)
13.Summer
13.Winter
41
39
Control
LA
14.Spring
14.Summer
*
Total(n = 107)
Control(n = 31)
35
50.5
31
13.Summer
Control
13.Fall
LA
13.Winter
14.Spring
14.Summer
MA
290
280
270
260
250
240
13.Summer
13.Fall
13.Winter
14.Spring
14.Summer
図 1 . 1 年間の身体活動量の変化
Fig.1.The step counts
(top), time spent per day at both moderate
(middle)
and low(bottom)
.
* Significant difference at the P < 0.05 level resulting from
post hoc test comparing with baseline
(13. Summer).
PA; physical activity.
MA
(n = 41)
LA-minus
49.5
46.3
LA
(n = 35)
33
300
LA-plus
vs. 13. Snmmer
MA
37
310
Duration of low PA
(min/day)
13.Fall
53.7
62.9
41.9
37.1
58.1
図 2 .介入 1 年後に身体活動量が増加した群(-plus)と減
少した群
(-minus)
の分布状況
(含有率)
Fig.2.The proportions of participants in each group: Control,
Low Activity, Moderate Activity.
Upper figure shows proportion of participants who increased
their steps(Step plus)and those who decreased their step
(Stepminus)throughout 1-year. Middle figure shows the proportion
of participants who increased
(MAplus)and decreased
(MA-minus)their time spent doing moderate PA throughout 1-year. Bottom figure shows the proportion of participants who increased
(LA-plus)and decreased
(LA-minus)
their time spent doing low
PA throughout 1-year.
PA; physical activity.
(19)
要因分散分析(時間×グループ)の結果、正答率
を LA-plus(54名)と LA-minus(53名)にグルー
に統計的に有意な交互作用が検出された。t- 検定
プ の 再 割 り 付 け を し、 認 知 機 能、 健 康 関 連
の結果、MA-plus において 1 年後の有意な改善効
QOL、および GDS への効果を検討した。
果が認められた(図 3 A)
。
健康関連 QOL(SF-36)の各項目の 2 要因分散
健康関連 QOL(SF-36)の各項目に関する 2 要
分析(時間×グループ)の結果、
「日常的役割(精
因分散分析(時間×グループ)の結果(表 1 )、
「身
神)」に有意な交互作用が検出された。t- 検定の
体機能」
、
「日常的役割(身体)」、
「日常的役割(精
結果、LA-plus において 1 年後の有意な改善効果
神)
」それぞれについて統計的に有意な交互作用
が認められた。MMSE、タスクスイッチ課題、お
が検出された。t- 検定の結果、MA-plus において
よび GDS に関して有意な主効果と交互作用は認
1 年後の有意な改善効果が認められた(図 3 B・
められなかった。
C・D)
。MMSE と GDS に関して有意な主効果と
考 察
交互作用は認められなかった(表 1 )
。
E.低強度活動時間の増加と認知機能、健康関
連 QOL、GDS への効果
本研究は、歩数計を用いることにより地域在住
高齢者の歩行活動を促進させる試みを実践した。
図 2 下段は低強度活動時間が 1 年後に増加した
興味深いことに、歩行活動を促した LA 群および
対象者(LA-plus)と減少した対象者(LA-minus)
MA 群の 1 年後の身体活動実態は条件設定と異な
の割合を示す。全体集計の結果、LA-plus は全体
る結果を示した。LA 群は過半数(62.9%)の対
の半数(50.5%)を占めていた。また、LA 群の
象者が低強度身体活動時間の延伸に成功し、加え
62.9%の対象者が LA-plus に含まれた。全対象者
て、過半数(60%)が中強度活動時間の延伸を示
86
MA-minus(n = 43)
84
82
80
MA-plus(n = 45)
*
A
78
76
74
72
70
68
66
SF-36 Physical functioning(score)
Task-switch correct response rate
(%)
した。この結果は、歩数計の貸与と定期的な結果
94
92
90
*
B
歩行活動の促進に有用であることを示している。
88
一方、MA 群は中強度活動時間の延伸を目標とし
86
たものの目標達成者は半数に満たなかった
84
(45.2%)。この理由の 1 つとして、高い目標設定
82
MA-minus(n = 43)
80
MA-plus(n = 48)
78
Baseline
フィードバックならびに目標設定が地域高齢者の
1-year
followup
Baseline
1-year
followup
に伴う継続意欲の低下が考えられる。運動習慣の
ない高齢者に、運動介入の初期の段階で、強度を
加味した目標を設定することは、逆に不利益を生
じさせる可能性が示唆された。むしろ、強度を加
100
*
94
92
90
88
86
C
MA-minus(n = 43)
MA-plus(n = 48)
84
82
80
78
Baseline
1-year
followup
SF-36 Role Emotional(score)
SF-36 Role Physical(score)
96
98
96
94
MA-minus(n = 43)
MA-plus(n = 48)
D
*
とが、運動習慣のない高齢者には効果的で、同時
に中強度以上の活動時間の延伸にも貢献するのか
もしれない。
92
90
LA、MA 群への 1 年間の運動介入は、認知機能、
88
健康関連 QOL、ならびにうつ症状に明確な効果
86
84
82
味しない歩数や活動時間を目標として設定するこ
を示さなかった。そこで、日常的身体活動(歩行
Baseline
1-year
followup
図 3 . 1 年間の運動介入の効果:中強度歩行活動時間の
増加群(MA-plus)と減少群(MA-minus)の比較
Fig.3.Comparison of the Task-switch test(A)and SF-36
scores(B, C, D)which shows the effects of the 1-year intervention for the MA-plus and MA-minus groups.
* Significant difference at the P < 0.05 level resulting from post
hoc test between MA-plus and -minus in 1-year followup.
活動)の向上とその効果を直接検討する目的で、
1 年後に中強度活動時間が延伸した群(MA-plus)
と短縮した群(MA-minus)に全対象者を再割り
付けし分析を加えた。その結果、MA-plus のタス
クスイッチ課題(遂行機能)に有意な改善効果が
認 め ら れ た(図 3 A)。 更 に、FS-36(健 康 関 連
(20)
表 1 . 1 年間の運動介入が認知機能とメンタルヘルスに及ぼした影響:中強度歩行活動時間の増加群(MA-plus)と減少群
(MA-minus)の比較
Table 1.Effects of the 1-year intervention on cognitive function and mental health: MA-plus and MA-minus groups.
Baseline
MMSE
MMSE(score)
Mean
(SD)
1-year followup
MA-minus
(n = 43)
MA-plus
(n = 47)
MA-minus
(n = 43)
MA-plus
(n = 47)
28.4
(2.0)
28.3
(2.2)
28.7
(1.5)
28.9
(1.5)
Baseline
Task-switch test
1-year followup
Time × G
F
P
0.425
0.516
Time × G
MA-minus
(n = 43)
MA-plus
(n = 45)
MA-minus
(n = 43)
MA-plus
(n = 45)
F
P
Correct response rate Mean
(%)
(SD)
69.4
(21.3)
69.8
(20.5)
72.4
(19.7)
80.7
(18.1)
6.600
0.012
IIV in RT
(msec)
Mean
(SD)
68.7
(20.6)
64.2
(17.2)
70.1
(21.3)
63.4
(13.5)
0.186
0.668
RT(msec)
Mean
(SD)
617.9
(44.2)
616.2
(57.1)
605.5
(39.6)
600.0
(54.4)
0.368
0.546
Baseline
SF-36
1-year followup
MA-minus
(n = 43)
MA-plus
(n = 48)
MA-minus
(n = 43)
MA-plus
(n = 48)
Time × G
F
P
Physical functioning
Mean
(SD)
87.0
(10.8)
88.9
(7.6)
83.3
(13.4)
91.4
(7.0)
10.794
0.001
Role Physical
Mean
(SD)
83.7
(24.8)
88.2
(17.7)
78.8
(23.5)
92.8
(12.2)
4.028
0.048
Bodily Pain
Mean
(SD)
75.2
(25.3)
81.0
(21.4)
65.7
(27.8)
73.7
(21.7)
0.136
0.713
General Health
Mean
(SD)
66.5
(21.6)
67.8
(17.3)
61.7
(24.7)
66.1
(17.8)
0.693
0.407
Vitality
Mean
(SD)
70.5
(19.1)
76.0
(13.5)
67.7
(15.8)
74.2
(12.6)
0.083
0.773
Social Functioning
Mean
(SD)
91.0
(19.4)
90.9
(16.7)
89.0
(17.7)
93.5
(14.1)
1.313
0.255
Role Emotional
Mean
(SD)
89.6
(19.0)
89.9
(18.5)
86.0
(20.3)
95.0
(11.5)
5.262
0.024
Mental Health
Mean
(SD)
81.3
(13.6)
81.4
(15.2)
81.0
(14.4)
84.5
(13.3)
1.416
0.237
Baseline
GDS
Mean
(SD)
1-year followup
Time × G
MA-minus
(n = 38)
MA-plus
(n = 40)
MA-minus
(n = 38)
MA-plus
(n = 40)
F
P
1.3
(1.4)
1.0
(1.3)
1.8
(2.5)
1.1
(1.7)
1.026
0.314
IIV in RT; Intra-individual variability in RT, RT; reaction time.
QOL)の「身体機能」、
「日常的役割(身体)」、
「日
これまでの先行研究においても中強度以上の身
常的役割(精神)」それぞれについて、MA- plus
体活動が及ぼす認知機能への効果は知られてい
に有意な改善が示された(図 3 B・C・D)。一方、
る 4,5)。 健 康 関 連 QOL に 関 し て も、Yasunaga et
1 年後に低強度活動時間が延伸した群(LA-plus)
al. は、日本人の健常高齢者を対象に、客観的に
と短縮した群(LA-minus)の比較では、LA-plus
測定された身体活動量と SF-36で測定された健康
群の有意な改善効果は健康関連 QOL の「日常的
関連 QOL の関係を横断的に分析した結果、中強
役割(精神)
」のみであった。
度以上の身体活動が多いほど健康関連 QOL が良
(21)
好であることを報告している10)。これらの積極的
2)Davidson MC, Amso D, Anderson LC, Diamond A
効果が、本研究のような日常的歩行活動の介入デ
(2006)
: Development of cognitive control and executive
ザインによって確認されたことは非常に興味深
い。低強度活動時間の延伸が及ぼす効果は極めて
functions from 4 to 13 years: evidence from manipulations
of memory, inhibition, and task switching. Neuropsychologia, 44(11), 2037-2078.
小さく限定的であることから、認知機能やメンタ
3)Dishman RK, Berthoud HR, Booth FW, Cotman CW,
ルヘルスといった心理的健康度を包括的に維持・
Edgerton VR, Fleshner MR, Zigmond MJ(2006)
: Neuro-
改善するためには、日常生活のなかで少なくとも
, 345-356.
biology of exercise. Obesity, 14(3)
3 METs 程度の歩行活動を延伸することが重要で
あるものと考えられる。
総 括
本研究は、部分的ではあるものの、歩数計を利
用した地域高齢者への運動介入が中強度活動時間
の延伸に貢献することが示された。更に、日常生
活で中強度程度の歩行活動を付加することによる
認知機能と健康関連 QOL への積極的効果が確認
された。このような歩数計を利用した運動介入
は、運動習慣のない(運動教室やスポーツ活動に
興味のない)地域高齢者に身体活動を促す支援策
の 1 つして有益なアプローチと考えられた。
謝 辞
本研究の実施にあたり、ご協力いただきました関係諸
4)Kimura K, Yasunaga A, Wang LQ(2013)
: Correlation between moderate daily physical activity and neurocognitive
variability in healthy elderly people. Arch Gerontol Geri, 109-117.
atr, 56(1)
5)Kramer AF, Hahn S, Cohen NJ, Banich MT, McAuley E,
Harrison CR, Colcombe A(1999)
: Ageing, fitness and
neurocognitive function. Nature, 400, 418-419.
6)Laurin D, Verreault R, Lindsay J, MacPherson K,
Rockwood K(2001)
: Physical activity and risk of cognitive impairment and dementia in elderly persons. Arch
Neurol, 58, 498-504.
7)Tierney MC, Moineddin R, Morra A, Manson J, Blake J
(2010)
: Intensity of recreational physical activity throughout life and later life cognitive functioning in women. J
, 1331-1338.
Alzheimers Dis, 22(4)
8)Togo F, Watanabe E, Park H, Shephard RJ, Aoyagi Y
(2005)
: Meteorology and the physical activity of the
elderly: the Nakanojo Study. Int J Biometeorol, 50(2),
83-89.
氏に厚く御礼申し上げます。また、本研究への助成を賜
9)Weuve J, Kang JH, Manson JE, Breteler MM, Ware JH,
りました公益財団法人明治安田厚生事業団に深く感謝い
Grodstein F(2004): Physical activity, including walking,
たします。
and cognitive function in older women. JAMA, 292(12),
参 考 文 献
1454-1461.
10)Yasunaga A, Togo F, Watanabe E, Park H, Shephard RJ,
1)Colcombe S, Kramer AF(2003)
: Fitness effects on the
Aoyagi Y(2006): Yearlong physical activity and health-
cognitive function of older adults: a meta-analytic study.
related quality of life in older Japanese adults: the Nakano-
Psychol Sci, 14, 125-130.
, 288-301.
jo Study. J Aging Phys Act, 14(3)
第 30 回若手研究者のための健康科学研究助成成果報告書
(22)
2013 年度 pp.22~27(2015.4)
若年急性心筋梗塞患者における「抑うつ」の規定因子および
回復期心臓リハビリテーションの効果
熊 坂 礼 音*
藤 原 玲 子**
稗 田 道 成**
荒 川 鉄 雄*
野 口 輝 夫*
小 西 治 美**
中 西 道 郎**
後 藤 葉 一**
RULE FACTOR OF “DEPRESSION” AND THE EFFECT OF CARDIAC
REHABILITATION IN THE YOUNG PATIENTS WITH
ACUTE MYOCARDIAL INFARCTION:
RETROSPECTIVE COHORT STUDY
Leon Kumasaka, Michinari Hieda, Harumi Konishi, Reiko Fujiwara,
Tetsuo Arakawa, Michio Nakanishi, Teruo Noguchi,
and Yoichi Goto
Key words: depression, cardiac rehabilitation, acute myocardial infarction.
緒 言
研 究 方 法
我々は、急性心筋梗塞(AMI)患者の約 1 / 4
A.対象者および研究デザイン
が抑うつを有し、我が国においても AMI 後の「抑
2006年 1 月 1 日から2014年10月31日までに、国
うつ」は無視できない問題であることを報告し
立循環器病研究センターに入院し、心臓リハビリ
た 。急性期治療の進歩により AMI 患者の死亡
テーション(心リハ)を行い、心リハ開始時に抑
率は低下、社会復帰は容易になった。しかし、軽
うつの評価および運動耐容能検査が可能であった
症とみなされる若年者には、心理的ストレスによ
AMI 患者356人が対象となった。抑うつ評価およ
る円滑な社会復帰不能例が存在する。我が国にお
び運動耐容能検査は、心リハ開始時と心リハ 3 か
いて、若年 AMI 患者における「抑うつ」の実態
月時に行った。患者は、若年群(60歳以下,n =
は未解明である。
108)、中高年群(61~70歳,n = 125)、高齢群(71
本 研 究 は、 ス テ ン ト 治 療 時 代 に お け る 若 年
歳以上,n = 123)の 3 群に分類した。外来通院
AMI 患者の「抑うつ」の頻度とその規定因子を
中止または、仕事復帰にて心リハ 3 か月時に運動
明らかにし、包括的心臓リハビリテーションの効
耐容能検査のフォローアップができなかった症例
果を検証することを目的とした。
は、28例(若年群 7 例,中高年群 8 例,高齢群13
3)
例)であった。また、心リハ 3 か月時に抑うつ評
*
**
国立循環器病研究センター心臓血管内科
国立循環器病研究センター循環器病リハ
ビリテーション部
Department of Cardiovascular Medicine, National Cerebral and Cardiovascular Center, Osaka, Japan.
Department of Cardiac Rehabilitation, National Cerebral and Cardiovascular Center, Osaka, Japan.
(23)
価ができなかった症例は17例(若年群 4 例,中高
エルゴメータ負荷による Cardio Pulmonary Ex-
年群 6 例,高齢群 7 例)であった。
ercise test(CPX)によるガス分析結果を用いて、
抑 う つ の 評 価 は、self-rating depression scale
嫌気代謝閾値(anaerobic threshold; AT)、最高酸素
(SDS)を用いた 。本邦では福田らにより40未満
摂取量(peak VO2)、VE/VCO2 slope、peak respira-
は「抑うつ状態はほとんどなし」
、40台で「軽度
tory exchange ratio を心リハ開始時と心リハ 3 か月
の抑うつ性あり」
、50以上で「中等度の抑うつ性
時に測定した。
5)
あり」と判定されている 。そのため、本研究で
1)
●
C.心臓リハビリテーション内容
は心リハ開始時 SDS 40以上を示す患者を「抑う
心臓リハビリテーション室にて施行した。 1 回
つ傾向群」
(n = 231)とした。この抑うつ傾向群
の運動内容は warm up(下腿三頭筋ストレッチ,
のなかで、SDS 50以上の高値を示した患者を「抑
ハムストリングスストレッチ) 5 分、室内トラッ
うつ状態群」とした(n = 107)
。
ク歩行30分、エルゴメータ20分、cool down(下
次に、患者を抑うつの有無で比較するため、
腿三頭筋ストレッチ,ハムストリングスストレッ
SDS 50をカットオフとして分類を行った。前記
チ) 5 分の計60分である。目標心拍数は、心リハ
の「抑うつ状態群」
(n = 107)と、SDS 50未満の
参加 1 週間後施行の CPX 結果から、Karvonen 法
2 群に分類し、SDS 50未満を「非抑うつ状態群」
にて係数0.4~0.6もしくは、AT レベルにより設定
(n = 249)とした。その後、年齢群ごとに抑うつ
した。外来心リハ週 1 ~ 3 回通院と、目標心拍数
状態群、非抑うつ状態群を分類した(若年群:抑
に合わせた歩行運動による在宅運動を指導した。
うつ状態群 n = 37,非抑うつ状態群 n = 71,中高
疾患・冠危険因子・生活について、集団講義と個
年群:抑うつ状態群 n = 33,非抑うつ状態群 n =
別指導を行った。
92,高齢群:抑うつ状態群 n = 37,非抑うつ状態
D.データの解析
群 n = 86)
。
まず、心リハ開始時データにて解析を行った。
今回の研究においては SDS 40をカットオフと
若年群、中高年群、老年群に分け、SDS から年
した抑うつ傾向群と抑うつ傾向群以外との比較は
齢群別に抑うつ傾向、抑うつ状態の頻度を解析し
行わなかった。
た。更に、SDS に対しての相関を、心筋梗塞の
本研究は、患者の診療録をもとにした後ろ向き
重症度、採血項目、職業の有無、同居人の有無を
観察研究である。本研究は国立循環器病研究セン
説明変数としてロジスティック回帰分析を行っ
ター倫理委員審査(承認番号:M25-106)の承認
た。これより若年患者における「抑うつ」規定因
を得ている。
子を調査した。
B.評価・観察項目
次に、心リハ前後の「抑うつ」変化を比較した。
1 .抑うつ評価
心リハへの積極的参加群と非積極的参加群におい
抑うつに関しては、SDS 質問紙にて評価した。
て「抑うつ」に対する外来心リハ効果を比較した。
心リハ開始時と、心リハ 3 か月時の評価を行った。
また、若年 AMI 患者の「抑うつ」改善に関連す
2 .患者背景
る要因として、患者背景因子・心機能・運動耐容
1)社会背景
能・家族サポート、職業の有無の関与を解析した。
同居人・職業の有無を心リハ開始時に調査を
「抑うつ」と臨床所見の関連性についても解析し
行った。
た。統計解析として、症例全体のなかで、
「抑うつ」
2)一般検査
の改善の規定因子・関連に関してロジスティック
年齢、性別、身長、体重、BMI、体脂肪率、冠
回帰分析を行った。各年齢群、心リハ積極的参加
危険因子の有無、心筋梗塞重症度・合併症にかか
群、非積極的参加群内の変化に対しては対応のあ
わる採血、心臓カテーテル検査、心エコー検査か
る t 検定を行った。各年齢群による 3 群間の比較
ら測定を行った。
は、一元配置分散分析を行った。統計解析は、
3)運動耐容能検査
SAS Institute Inc 製 JMP®11を用いて行った。
(24)
価および運動耐容能検査が可能であった356人に
結 果
おいて、年齢群ごとに心リハ開始時の背景を比較
A.対象者の背景・若年者の特徴
した。若年者において有職者が多く、独居が多い
2006年 1 月 1 日~2014年10月31日に、心リハを
傾向にあった(表 1 )。peak CK(IU/l)は高値であっ
実施した AMI 患者で心リハ開始時に抑うつの評
た(P < 0.001, 表 1 )。若年群、中高年群、高齢群
表 1 .患者背景
Table 1.Baseline Characteristics.
yr ≦ 60
n = 108
60 < yr ≦70
n = 125
70 < yr
n = 123
P
76 ∓ 4
< 0.0001
Age
53 ∓ 6
66 ∓ 3
Gender: Male, (
n %)
103(95)
101
(81)
BL(cm)
169 ∓ 6
BW(kg)
70 ∓ 11
BMI(kg/m )
97
(79)
0.0009
164 ∓ 8
160 ∓ 8
< 0.0001
62 ∓ 9
58 ∓ 9
< 0.0001
24 ∓ 3
24 ∓ 3
22 ∓ 3
< 0.0001
Killip grade 1/2/3/4
83/3/3/1
96/9/3/4
100/5/3/5
0.61
Forrester classification 1/2/3/4
2
32/2/0/0
33/1/3/1
28/0/1/1
0.42
Duration of hospitalization
(days)
17 ∓ 18
20 ∓ 20
20 ∓ 17
0.39
Days from admission to CR
12 ∓ 13
13 ∓ 23
13 ∓ 13
0.89
Employment, (
n %)
99(92)
65
(52)
21
(17)
< 0.0001
Cohabiter, (
n %)
91(84)
119
(95)
111
(90)
0.062
3(3)
11
(9)
15
(12)
0.02
HTN, n(%)
63(58)
80
(64)
88
(72)
0.13
HLP, (
n %)
84(78)
92
(74)
80
(65)
0.52
OMI, n(%)
Coronary risk factor
Smoking, n: never/past/current
28/18/64
49/32/44
59/38/26
< 0.0001
DM, n: none/IGT/DM
69/9/29
63/14/47
71/20/30
0.06
Obesity, (
n %)
52(48)
36
(29)
26
(21)
< 0.001
Labo data and Echocardiography
peak CK(IU/l)
3804 ∓ 2617
2617 ∓ 2212
2600 ∓ 2166
0.0003
T-Cho(mg/dl)
166 ∓ 31
164 ∓ 34
152 ∓ 30
0.0008
LDL(mg/dl)
106 ∓ 26
102 ∓ 29
92 ∓ 26
0.0003
TG(mg/dl)
138 ∓ 53
126 ∓ 59
106 ∓ 42
< 0.0001
c mg/dl)
HbA1(
6.3 ∓ 1.2
6.2 ∓ 0.9
6.1 ∓ 0.7
0.23
105 ∓ 25
0.76
Glu(mg/dl)
107 ∓ 36
BNP(pg/ml)
108 ∓ 29
145[81-211]
178
[149-207]
261
[214-308]
Cr
(mg/dl)
1.0 ∓ 1.3
1.1 ∓ 1.3
1.1 ∓ 1.0
0.93
EF
(%)
46 ∓ 10
46 ∓ 8
46 ∓ 9
0.80
0.0025
Depression
SDS ≧ 40, n(%)
73(68)
76
(61)
82
(67)
0.49
SDS ≧ 50, (
n %)
37(34)
33
(26)
37
(30)
0.43
1655 ∓ 377
1267 ∓ 304
1016 ∓ 277
< 0.0001
75 ∓ 14
77 ∓ 15
76 ∓ 15
0.71
1.27 ∓ 0.1
1.24 ∓ 0.1
1.21 ∓ 0.1
Exercise capacity
peakVO(ml/min)
2
●
peakVO(%predict)
2
●
peakRER
0.0005
BL; body length, BW; body weight, BMI; body mass index, CR; cardiac rehabilitation, OMI; old myocardial infarction, HTN; hypertension, HLP; hyperlipidemia, DM; diabetes mellitus, IGT; impaired glucose torelance, CK; creatine phosphokinase, LDL; low-density lipoprotein; TG; triglyceride, Glu; serum glucose, BNP; brain natriuretic peptide, Cr; serum creatinine, EF; ejection fraction, SDS; self-rating
depression scale, peakVO2; peak oxygen consumption, %predict; rate of predictive value, peakRER; peak respiratory exchange ratio, yr;
years old.
●
(25)
で抑うつ傾向の頻度(%)は、68 vs. 61 vs. 67であっ
37.3 vs. 29.1 vs. 17.3 と 若 年 群 に 多 か っ た(P <
た(表 1 )
。 抑 う つ 状 態 の 頻 度(%) は、34 vs.
0.05)。一方、運動習慣では週 3 回以上の割合(%)
26 vs. 30であった(表 1 )
。抑うつ傾向群、抑う
は71.2 vs. 75.8 vs. 73.0と有意差はなく、週 5 回以
つ状態群ともに年齢群間の有意差は認めなかった
上の割合(%)も53.4 vs. 49.5 vs. 46.1と運動習慣
では有意差を認めなかった。
(表 1 )
。抑うつ状態群、非抑うつ状態群の比較に
2 .運動耐容能
おいては、各年齢群共通の特徴は認めなかった。
B.心リハ施行後の状態
患者全体で peakVO2(ml/min)(1306→1427, P
●
1 .心リハ参加回数・在宅運動習慣
< 0.0001)の改善を認め、若年群(P < 0.0001)、
入院中の心リハ(回)は年齢群ごとに若年群か
中高年群(P < 0.0001)、高齢群(P < 0.0001)と
ら平均5.9 vs. 6.4 vs. 5.5で有意差は認めなかった。
い ず れ の 群 で も 改 善 が み ら れ た(表 2 A)。
一 方、 3 か 月 間 心 リ ハ(回) は 14.8 vs. 18.4 vs.
peakVO2改善率(%)は、年齢によらず一定の改
19.1で若年群が、中高年群・高齢群と比較して有
善が得られた(12 vs. 12 vs. 10, ns)。
意に少なかった(P < 0.001)
。
3 .抑うつ評価・抑うつと運動耐容能改善
心リハ 3 か月時の在宅運動習慣について、 1 週
心リハ 3 か月時、非抑うつ状態群を含めた患者
間に 3 時間以上の割合(%)は年齢群ごとに、
全 体 で は、SDS の 低 下 は 認 め な か っ た(表
56.7 vs. 60.7 vs. 48.2と有意差はなかったが、 1 週
2 B)。抑うつ状態群(n = 107)の SDS(絶対値)
間に 5 時間以上の運動を行っている割合(%)は
は全体で有意に改善し(56.3→51.3, P < 0.001)、
●
表 2 .心リハ 3 か月時の運動耐容能
(A)、SDS 評価(B)
Table 2.Exercise capacity
(A), Depression(SDS)
(B)afte 3 months CR.
A Exercise capacity
(separated by age: After 3 months CR)
peakVO(ml/min)
2
●
PeakVO(%predict)
2
●
peakRER
≦ 60 yr
n = 101
60 < yr ≦70
n = 117
70 < yr
n = 110
P
1822 ∓ 438
1393 ∓ 320
1100 ∓ 294
< 0.0001
84 ∓ 16
85 ∓ 16
83 ∓ 17
1.26 ∓ 0.1
1.25 ∓ 0.1
1.21 ∓ 0.1
≦ 60 yr
n = 104
60 < yr ≦70
n = 119
70 < yr
n = 116
P
44.4 ∓ 10.2
42.2 ∓ 10.0
43.8 ∓ 10.0
ns
0.69
0.0005
B Depression(SDS)
(separated by age: After 3 months CR)
SDS
peakVO2; peak oxygen consumption,%predict; rate of predictive value, peakRER; peak respiratory exchange ratio, CR; cardiac rehabilitation, SDS; self-rating depression scale, yr; years old.
●
A
SDS(points)
P < 0.0001
P < 0.001
58
P < 0.05
SDS(points)
P < 0.01
P < 0.0001
52
P = 0.08
51
56
50
49
54
48
52
47
46
50
45
44
48
46
B
43
yr ≦ 60
(n = 37)
60 < yr ≦ 70
(n = 33)
baseline
after 3M CR
70 < yr
(n = 37)
42
yr ≦ 60
(n = 73)
60 < yr ≦ 70
(n = 76)
baseline
70 < yr
(n = 82)
after 3M CR
図 1.抑うつ状態患者(A)、抑うつ傾向患者
(B)
(開始時)
における心リハ後の SDS 変化
Fig.1. SDS change in CR patients with depressive state
(A)or depression tendency
(B).
3M; 3 months, CR; cardiac rehabilitation, SDS; self-rating depression scale, yr; years old.
(26)
各年齢群において、SDS 改善(心リハ開始時・
SDS 評価可能であった37例のうち、抑うつ状態
3 か 月 時 の 値 の 差) は 同 等 で あ っ た(若 年 群
継続(心リハ 3 か月時 SDS ≧ 50)と非継続群(心
57.1 → 51.1, 中 高 年 群 56.1 → 49.8, 高 齢 群
リハ 3 か月時 SDS < 50)は、それぞれ、抑うつ
55.8→52.8)
(図 1 A)。抑うつ傾向群(n = 231)
状態継続群(n = 21)、非継続群(n = 16)であった。
においても心リハ 3 か月時の SDS(絶対値)は
その 2 群にて比較した結果、心リハ開始時の心筋
全体で有意に改善し、
(49.7→46.8, P < 0.0001)、
梗塞の重症度、採血結果、職業・同居人の有無の
各年齢群で SDS の改善は同等であった(若年群
背景因子では有意差を認めなかった。また、心リ
50.7 → 47.6, 中 高 年 群 49.2 → 45.2, 高 齢 群
ハ 3 か月時 CPX 評価可能であったのは33例で
49.3→47.7)
(図 1 B)
。
あった。peakVO2(絶対値)が心リハ開始時と比
●
心リハ 3 か月時 peakVO2改善率(%)は、各年
較して増加している群を改善群(n = 24)、同値
齢群内で〔若年群:抑うつ状態群 8 vs. 非抑うつ
もしくは低下している群を非改善群(n = 9 )と
状態群12(ns)
,中高年群:13 vs. 10(ns),高齢
し、心リハ 3 か月時の SDS を比較した。結果、
群 9 vs. 7 (ns)
〕で、抑うつの有無によらず同等
改善群において SDS が改善傾向にあった(改善
であった。一方で、peakVO2 改善率(%)と心リ
群 SDS < 50: 54.2% vs. SDS ≧ 50: 45.8%,非改善
ハ 3 か月時 SDS は逆相関の関係にあった(r = 0.11,
群 SDS < 50: 22.2% vs. SDS ≧ 50: 77.8%,P = 0.10)
。
●
●
P < 0.05)
。
考 察
心リハ参加による SDS への影響を解析した。
外来心リハ参加回数中央値16回にて積極的参加
A.年齢別抑うつ頻度
群、非積極的参加群に分け、心リハ 3 か月時 SDS
AMI・冠疾患患者において抑うつは、死亡を含
を比較したが、心リハ開始時抑うつ傾向群では改
めた予後規定因子である4)。しかしながら、我が
善が得られず(積極的参加群47.5 vs. 非積極的参
国の AMI 後抑うつの規定/改善予測因子に関して
加群46.2, ns)
、抑うつ状態群でも改善は認めな
十分な検討はなされていない。
かった(52.0 vs. 50.7, ns)
。運動習慣では、 3 回/
我が国の AMI 後抑うつ合併について、Shiotani
週以上の運動ありおよびなし群において、抑うつ
et al. の報告2)によると SDS ≧ 40の患者は42%で
傾向群(あり46.0 vs. なし49.3, P < 0.05)、抑うつ
あったのに対し、今回、年齢群によらず60%以上
状態群(あり49.7 vs. なし54.9, P < 0.05)と 3 回/
とやや高い傾向にあった。各年齢群において抑う
週以上の運動あり群が有意に SDS は低かった。
つ状態合併率は同等であり、peakVO2の改善は、
しかし、運動習慣と ΔSDS(SDS 変化量)に関連
抑うつの有無にかかわらず同等であった。これよ
は認めなかった。
り、AMI 後抑うつは、年齢によらず問題であり
患者背景によって、心リハ 3 か月時 SDS との
若年であっても介入が必要な頻度であることが示
関連を調べた結果、
「同居人あり」のほうが「なし」
された。
より心リハ 3 か月時 SDS が低値であった(あり
●
B.心リハと抑うつの関係
43 vs. なし46,P < 0.05)
。
今回、心リハ参加と抑うつへの影響について解
4 .若年抑うつの特徴
析を行った。抑うつ傾向群、抑うつ状態群の両者
心リハ開始時のデータにおいて、若年群におい
において、心リハ 3 か月時 SDS が有意に改善し
て抑うつ状態群(n = 37)と非抑うつ状態群(n =
ていることは、抑うつに対する心リハの安全性と
71)について比較を行った。抑うつ状態群は無職
効果を示唆する所見である。抑うつ傾向群、抑う
が多い傾向
(14% vs 4 % , P = 0.08)、入院期間(日)
つ状態群ともに週 3 回以上の運動習慣は、心リハ
が長い傾向にあった(21 vs 15, P = 0.09)。しかし、
3 か月時 SDS 低値を示した。しかし運動習慣は
心リハ開始時運動耐容能、採血結果には有意な差
ΔSDS の規定因子とはならなかった。もともと運
を認めなかった。
動習慣がある患者の SDS が低い可能性、抑うつ
若年抑うつ状態群において、心リハ 3 か月時に
にて運動できない患者において SDS 高値の可能
(27)
性は排除できない。しかし抑うつ傾向群・抑うつ
あり、信頼のおける結果であると考える。
状態群の SDS 改善への関連の可能性を示したこ
総 括
とは意義があり、リスク評価に反映できると考え
る。一方で外来心リハ積極的参加群、非積極的参
AMI 患者における抑うつ合併率は、若年、中
加群での分類では、抑うつ改善に差は認めなかっ
高年、高齢群において同等であり、若年 AMI 患
た。理由として、通院手段の有無や、職場復帰に
者においても重要な問題であった。患者全体にお
より通院困難となる症例があること等の影響が考
いて、週 3 回以上の運動習慣、同居人の存在がな
えられ、運動療法継続との関連が十分でなく、有
い患者群は心リハ 3 か月時 SDS が低値であった。
意差が出なかったものと考えられる。
また、心リハ 3 か月時 SDS は peakVO2 改善率と
また、患者背景によって、心リハ 3 か月時 SDS
逆相関にあった。家庭生活における精神的サポー
との関連を調べた結果、「同居人あり」のほうが
トの有無と身体的不自由さが退院後の抑うつ状態
「なし」より心リハ 3 か月時 SDS が低値であった。
に影響があることが示唆された。若年患者の心リ
これは、家庭生活における精神的サポートの有無
ハ 3 か月時の抑うつ状態改善も、同様に運動耐容
が、退院後の抑うつに影響があることを示唆する。
能の改善・運動習慣と相関していた。これらの結
また、CPX による運動耐容能検査結果は、心リ
果から、心リハ参加による身体的能力・生活習慣
ハ開始時の運動耐容能に依存しないが、peakVO2
の改善が抑うつ状態からの脱却に寄与している可
改善率は心リハ 3 か月時 SDS と逆相関にある結
能性が示唆された。
●
●
果から身体的不自由さの改善と、抑うつが影響を
謝 辞
及ぼし合うことが推察された。
C.心筋梗塞後若年群抑うつ状態患者の特徴
本研究課題に対しまして、公益財団法人明治安田厚生
若年群において SDS ≧ 50の抑うつ状態群(n =
事業団に多大なる助成を賜りました。深く感謝申し上げ
37)と非抑うつ状態群(n = 71)について比較を
ます。
行った。若年抑うつ状態群は無職が多い傾向にあ
り、入院期間(日)が長い傾向にあった。しかし、
運動耐容能や、各採血結果、心筋梗塞重症度等で
参 考 文 献
1)福田一彦,小林重雄(1983)
: SDS(うつ性自己評価
尺度)
.三京房,京都.
は有意な差を認めなかった。この結果から、患者
2)Shiotani I, Sato H, Kinjo K, Nakatani D, Mizuno H,
の抑うつの評価には社会背景の把握が必要であ
Ohnishi Y, Hishida E, Kijima Y, Hori M, Sato H; Osaka
り、また、入院期間が長い患者においても注意が
Acute Coronary Insufficiency Study(OACIS)Group
必要であることが示唆された。
若年抑うつ状態群内において、心リハ 3 か月時
(2002)
: Depressive symptoms predict 12-month prognosis
in elderly patients with acute myocardial infarction. J
Cardiovasc Risk, 3, 153-160.
peak-VO2の改善群と非改善群を比較すると、心リ
3)Suzuki S, Takaki H, Yasumura Y, Sakuragi S, Takagi S,
ハ 3 か月時 SDS < 50である割合(%)は、改善
Tsutsumi Y, Aihara N, Sakamaki F, Goto Y(2005)
: As-
群54.2、非改善群22.2であったことから、若年
sessment of quality of life with 5 different scales in pa-
●
AMI 患者における抑うつからの復帰に関しては、
運動耐容能の改善、社会的安定が重要であり、心
リハの重要性が示唆される結果となった。
D.研究の限界
本研究は単施設後ろ向き観察研究であり、心リ
ハ非施行の対照群がないことの限界は認める。し
かし、AMI において、心リハは必須の加療であ
るため対照群との研究は不可能であった。一方で
積極的参加群、非積極的参加群での考察は可能で
tients participating in comprehensive cardiac rehabilitation
after acute myocardial infarction. Circ J, 69, 1527-1534.
4)Ye S, Muntner P, Shimbo D, Judd SE, Richman J,
Davidson KW, Safford MM(2013): Behavioral mechanisms, elevated depressive symptoms, and the risk for
myocardial infarction or death in individuals with coronary
heart disease: the REGARDS(Reason for Geographic and
Racial Differences in Stroke)study. J Am Coll Cardiol, 61
(6)
, 622-630.
5)Zung WW(1965): A self-rating depression scale. Arch
Gen Psychiatry, 12, 63-70.
第 30 回若手研究者のための健康科学研究助成成果報告書
(28)
2013 年度 pp.28~32(2015.4)
循環器生活習慣病における心臓リハビリテーションの抑うつ不安に
及ぼす影響 ―在宅型運動療法の有効性の検討―
河 野 隆 志*
前 田 貴 記**
THE IMPACT OF CARDIAC REHABILITATION ON DEPRESSION
AND ANXIETY IN PATIENTS WITH CARDIOVASCULAR
DISEASES AND LIFESTYLE-RELATED DISEASES
Takashi Kohno and Takaki Maeda
Key words: rehabilitation, depression, cardiovascular diseases.
Fit を用いて在宅型心臓リハビリテーションを行
緒 言
い、運動耐容能に加えて、抑うつや不安などの精
循環器疾患と抑うつなどの精神疾患が高率に併
神状態に対する影響を評価することを目的とする。
発し、併発すると予後を悪化させることは、国際
研 究 方 法
的に高いエビデンスで確認されている5,9)。循環器
疾患に合併する抑うつへの介入として、薬物療法
A.対象者
や精神療法の組み合わせが行われてきたが、近年
2013年12月から2014年12月までに、慶應義塾大
は心臓リハビリテーションの効果が注目されてい
学病院において初回 ST 上昇型急性心筋梗塞のた
る。心臓リハビリテーションが、運動耐容能およ
め冠動脈インターベンションによる治療を受けた
び長期予後を改善することが報告されてきた
連続25症例を抑うつ不安に関するスクリーニング
が
のための観察研究の対象とした。そのうち同意の
、精神的な効果を及ぼして生活の質をも改善
7,8)
する可能性が示唆されている
。しかしながら、
3,10)
得られた13名を在宅型心臓リハビリテーションの
外来での心臓リハビリテーション施設は充足して
運動介入研究の対象とした。心不全に対して運動
おらず、退院後心臓リハビリテーションを継続す
療法を施行されたことがある症例、認知症や精神
る体制の確立は急務である。
疾患の既往がある症例は除外した。本研究は慶應
家庭用ゲーム機 Wii の健康管理用ゲームソフト
義塾大学医学部倫理委員会の承認を得て行われた
である Wii Fit は、自宅で容易に操作することが
でき一定の運動効果をもつことが既に実証されて
いるが、その心臓リハビリテーションにおける効
(承認番号:20130354,20130390)。
B.プロトコール 1 (急性心筋梗塞症例の抑う
つ・不安評価)
果は不明である。本研究では、循環器生活習慣病
25症例を対象として、患者背景因子(年齢,性
患者、特に急性心筋梗塞患者を対象として Wii
別,身長,体重,BMI,既往歴,梗塞部位,薬物
*
**
慶應義塾大学医学部循環器内科 Division of Cardiology, Keio University School of Medicine, Tokyo, Japan.
慶應義塾大学医学部精神神経科 Department of Neuropsychiatry, Keio University School of Medicine, Tokyo, Japan.
(29)
療法)に加えて、以下の尺度を用いて抑うつ・不
れ、医学的監視下で安全性を確認した後に施行さ
安の評価を行った。
れた。それぞれのプログラムは 4 種類のパターン
1)Hospital Anxiety and Depression Scale
から構成されており、 1 日に 1 パターンの運動を
行い、 4 つのパターンを順番に繰り返し、 1 週間
(HADS)
1,2)
HADS-Anxiety(HADS-A) お よ び HADS-De-
に最低 5 日は行うよう指導した。運動強度・時間
pression(HADS-D)に分けて評価。
に加えて自覚的運動強度(Borg 指数)を記録した。
2)Patient Health Questionnaire-9
(PHQ-9)
メモリ型パルスオキシメータを使用して、運動中
先行研究を参考にして、有意な抑うつ・不安を
の酸素飽和度・心拍数変化を確認し運動の安全性
有する症例として HADS-A および HADS-D 8 点
を確認した。評価尺度として以下を用いた。
以上 、PHQ-9 10点以上 を有する頻度を検証した。
1)HADS
C.プロトコール 2 (在宅型心臓リハビリテー
2)PHQ-9
4,6)
2)
6)
3)最大酸素摂取量(VO2max)
ションの安全性検証および治療効果)
●
急性心筋梗塞症例のうちで、運動の導入が困難
主要評価項目は、抑うつ・不安スコアとして退
な症例は除外し、退院前に研究への協力を要請し
院後 3 か月、ならびに 6 か月に評価を行う予定で
参加の同意を得られた13例を対象として、心肺運
あったが、研究期間内に退院後 6 か月までの結果
動負荷試験で運動耐容能を評価した後に、在宅型
が得られた対象者が半数未満であり、今回の報告
心臓リハビリテーション施行
(在宅型心臓リハビ
では、退院前および退院後 3 か月までの結果につ
リ)群と通常治療(コントロール)群の 2 群に無作
いて検討を行うこととした。
D.統計処理
為割り付けを行い比較検討した。在宅型心臓リハ
ビリテーションは、心肺運動負荷試験結果に基づ
データは平均±標準偏差で示した。メンタルヘ
く運動処方をした後に、Wii Fit による2.0、2.5、3.0、
ルス関連尺度および運動耐容能の経時的変化は、
3.5、4.0 METs の運動療法プログラムから選択さ
対応のある t 検定で比較した。在宅型心臓リハビ
Age(years)
63.4 ∓ 13.5
Height
(cm)
166.2 ∓ 7.3
Weight
(kg)
71.9 ∓ 13.9
Body mass index
(kg/m )
25.9 ∓ 3.6
2
Gender, male/female
23/2
Comorbidity, (
n %)
8~
(16)
HADS-A
4 ~ 7(32)
15
(60)
Hypertension
(32)
8
Diabetes Mellitus
17
(68)
Dyslipidemia
Smoking
(32)
8
Cerebrovascular diseases
(12)
3
HADS-D
8~
(24)
0 ~ 3(48)
4 ~ 7(28)
12
(48)
Anterior infarction
Medication after admission, (
n %)
10 ~(12)
β-blocker
25
(100)
ACE-inhibitors/ARBs
22
(88)
Statins
25
(100)
Calcium antagonists
~ 3(52)
PHQ-9
(4)
1
HADS-A
4.2 ∓ 3.7
HADS-D
4.0 ∓ 3.1
PHQ-9
3.8 ∓ 3.6
図 1 .対象者特性
Fig.1.Participant characteristics.
5 ~ 9(24)
0 ~ 4(64)
score(%)
(30)
リテーションの効果判定は、二元配置分散分析(群
スコアである HADS-D が 8 点以上の症例は 6 名
(24%)、PHQ-9が10点以上の症例は 3 名(12%)
×時期)を用いて検討した。
それぞれ認めた。
結 果
B.心筋梗塞後の抑うつ、不安、運動耐容能の
経時的変化
A.急性心筋梗塞症例における抑うつ・不安の
評価
運動療法による介入研究への協力を要請し参加
プロトコール 1 における対象者背景を図 1 に示
の同意を得られた13症例を対象として、退院前
す。平均年齢は63.4±13.5歳で、10名(40%)が
(ベースライン)と退院後 3 か月における質問表
70歳以上であった。不安スコアである HADS-A
評 価(HADS-A,HADS-D,PHQ-9) お よ び 心 肺
が 8 点以上の症例は 4 名(16%)認めた。抑うつ
運動負荷試験(VO2max)を用いた運動耐容能評価
4
4
3
3
2
1
0
PHQ-9
P = 0.166
0
3 months
3
2
1
1
Baseline
*
4
2
Baseline
(n = 13)
3 months
0
.
VO2max
P < 0.001
40
5
*
ml/(kg・min)
5
HADS-D
P = 0.012
score
5
score
score
HADS-A
P = 0.162
●
Baseline
(n = 13)
30
20
10
0
3 months
Baseline 3 months
(n = 13)
(n = 13)
図 2 .抑うつ、不安、運動耐容能の経時的変化
Fig.2.Serial change of depression, anxiety, and exercise capacity.
* Means significant difference between groups.
A
施行日
6 月30日
7月1日
7月2日
7月5日
7月6日
7月7日
7月9日
7 月10日
7 月11日
7 月12日
7 月14日
7 月20日
7 月22日
プログラム
番号
1
2
3
4
1
2
3
4
1
2
3
4
1
開始前
SpO2
98%
98%
98%
97%
97%
97%
97%
98%
97%
98%
98%
96%
98%
開始前
脈拍
65
63
66
67
66
65
64
66
69
68
76
74
76
中断
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
終了後
SpO2
98%
98%
98%
98%
98%
98%
98%
98%
98%
98%
97%
98%
98%
終了後
脈拍
68
83
78
74
75
69
77
76
70
83
87
81
85
Borg
指数
11
11
11
11
11
11
11
11
11
11
11
11
11
B
Exercise group
Control group
Group effect
Period effect
Interaction
effect
Baseline
3 months
Baseline
3 months
HADS-A
4.2 ∓ 3.5
3.5 ∓ 3.1
3.8 ∓ 2.9
3.2 ∓ 2.7
ns
ns
ns
HADS-D
4.5 ∓ 3.4
1.7 ∓ 1.7
2.4 ∓ 2.4
1.7 ∓ 1.8
ns
ns
ns
PHQ-9
3.3 ∓ 2.6
1.8 ∓ 2.2
3.8 ∓ 3.9
2.1 ∓ 2.6
ns
ns
ns
14.2 ∓ 1.9
25.1 ∓ 4.7
15.6 ∓ 5.9
23.6 ∓ 9.0
ns
0.007
ns
Questionnaires
Physical activity
VO2max
●
図 3 .在宅型心臓リハビリテーションの効果
Fig.3.Effect of rehabilitation on anxiety, depression, and exercise capacity.
(31)
を行い、その経時的変化を図 2 に示す。HADS-A
に少数例での検証にとどまっている点があげられ
および PHQ-9は、ベースラインと比較して退院
る。高齢者比率が高いため運動介入がそもそも難
後 3 か月で低下する傾向を認めたが統計学的有意
しく在宅型心臓リハビリテーションに対する同意
差は認めなかった。ベースラインと比較して、退
を得られず、無作為割り付け前に多数の症例が脱
院後 3 か月に HADS-D および VO2max は有意に改
落した(12名,48%)。第 2 にアドヒアランスの
善した。なお、死亡、心血管イベント(心不全,
問題である。生活習慣病を対象とした本研究では、
虚血性心疾患)は観察期間中には認めなかった。
特に高齢者でアドヒアランスが十分に確保できな
●
C.在宅型心臓リハビリテーションの効果
い点が明らかとなった。退院後 2 ~ 4 週後までは
コントロール群 7 名、在宅型心臓リハビリ群 6
比較的良好なアドヒアランスが確保できるが、そ
名に無作為割り付けを行った。在宅型心臓リハビ
の後に週に 5 日のリハビリを継続することが難し
リ群の 2 名は自宅でリハビリをせずに初回外来時
く、何らかの工夫が必要と考えられた。第 3 に、
に脱落と判定し、コントロール群 9 名(在宅型心
本研究の対象患者群は、平均的に自然経過でメン
臓リハビリ脱落例含む)と在宅型心臓リハビリ群
タルヘルスの状態が改善する集団であり、介入効
4 名で比較検討した。在宅型心臓リハビリテー
果を検討するうえでの難しさが示唆された。以上
ションを施行した症例の実際の記録例を図 3 A に
の問題点からも、現時点で在宅型心臓リハビリ
提示する。リハビリ中に中止が必要となる心拍数
テーションの循環器疾患における効果を無効と結
上昇(運動時140拍 / 分以上)や酸素飽和度低下
論付けるのは難しく、引き続きの症例蓄積に加え
(SpO2 90%以下)は認めなかった。コントロール
て、他の循環器疾患への適応の拡大、特に慢性的
群および在宅型心臓リハビリ群ともに、運動耐容
に精神的問題を抱えていることが予想される重症
能の改善は認めたが、HADS-A、HADS-D および
心不全症例などを対象に今後も有効性を検証する
PHQ-9の変化は両群間で差を認めなかった(図
必要があると考えた。
3 B)
。
総 括
考 察
循環器生活習慣病のなかでも急性心筋梗塞にお
本研究は急性心筋梗塞患者を対象として、抑う
ける在宅型心臓リハビリテーションの効果につい
つ・不安の併発を検証するとともに、在宅型心臓
て検討した。精神的問題に対する効果は明らかに
リハビリテーションを導入して、患者の精神状態
されなかったが、少数例での検討である点、アド
に影響を及ぼすか否かを検討した。退院前の質問
ヒアランスが十分に確保できなかった点、自然経
表調査では、25名中 6 名(24%)で HADS-D が
過でメンタルヘルスが比較的改善しうる集団で
8 点以上、 3 名(12%)で PHQ-9が10点以上を
あった点などが問題として明らかとなった。以上
認めた。急性心筋梗塞患者が精神的問題を抱える
の問題点を踏まえて、今後も在宅型心臓リハビリ
ことは普遍的なものであり、潜在的なうつ状態の
テーションの有効性を検証することが必要と考え
患者が一定数存在することが想定された。うつ状
た。
態が心疾患患者の生存率低下に関与するとさ
れ
、メンタルヘルスには十分に留意する必要が
5,9)
あり、質問表を用いたスクリーニングが必要であ
謝 辞
本研究に対して助成を賜りました公益財団法人明治安
田厚生事業団に深く感謝申し上げます。また、本研究を
ると考えられた。
遂行するにあたり御助言いただきました、慶應義塾大学
運動介入が抑うつ改善および予後に良い影響を
医学部循環器内科 香坂俊特任講師、田村雄一助教、勝
与えることが近年報告されているが 3,10)、我々が
俣良紀助教に厚く御礼申し上げます。
用いた Wii Fit による在宅型心臓リハビリテー
参 考 文 献
ションによる介入では明らかな効果が確認できな
1)Barczak P, Kane N, Andrews S, Congdon AM, Clay JC,
かった。しかしながら本研究の問題点として第 1
Betts T(1988): Patterns of psychiatric morbidity in a
(32)
genito-urinary clinic. A validation of the Hospital Anxiety
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2013 年度 pp.33~38(2015.4)
メンタルヘルスに役立つ唾液中タンパクを用いたメンタルストレス
およびフィジカルストレスの新たな評価法の検討
花 岡 裕 吉*
村 瀬 陽 介*
清 水 和 弘**
渡 部 厚 一*
曽 根 良 太*
河 野 一 郎*
宮 本 俊 和*
NEW METHOD FOR EVALUATING THE MENTAL AND PHYSICAL
STRESS USING SALIVARY PROTEIN TO MAINTENANCE AND
IMPROVEMENT OF MENTAL HEALTH
Yukichi Hanaoka, Kazuhiro Shimizu, Ryota Sone, Yosuke Murase,
Koichi Watanabe, Ichiro Kono, and Toshikazu Miyamoto
Key words: mental stress, physical stress, secretory immunoglobulin A, human beta defensin 2, saliva.
緒 言
ニング症候群のアスリートには免疫機能の低下が
認められるだけでなく、うつ状態や意欲の減退な
過度なメンタルストレス(精神的ストレス)は、
どの精神的な不調が出現するようになり抗うつ剤
身体にさまざまな不調を引き起こすことが知られ
などを処方されるケースも報告されている。一
ている。その 1 つに免疫機能の低下が挙げられ
方、適度な運動は、免疫機能を高め、上気道感染
る。免疫系は神経系および内分泌系と相互に作用
症の罹患リスクを低下させることが報告されてい
し生体の恒常性を維持しているが、過度なストレ
る。更に、気分転換やリラックス効果を引き起こ
スを慢性的に受けることで胸腺やリンパ節が萎縮
し、精神的ストレスの解消効果をもつとされてい
し、免疫機能の低下が引き起こされると考えられ
る。先行研究において、運動はうつ病の症状を緩
ている。実際に、精神的ストレスを強く感じてい
和させることや6)、うつ病の治療として薬物療法
る者ほど、上気道感染症への罹患率が高いことが
と同等の効果を有することが報告されている。更
報告されている 。
に、精神的ストレスを強く感じる者が身体活動量
過度なフィジカルストレス(身体的ストレス)
を高めることで、精神的ストレス状態の改善とと
もまた、身体に悪影響を及ぼすことが知られてい
もに上気道感染症の罹患リスクが低下することが
る。過度な運動は免疫機能を低下させ、上気道感
報告されている3)。これらのことより、身体的ス
染症の罹患リスクを高めると報告されている1)。
トレスと精神的ストレスは密接にかかわり、免疫
更に、過度な運動の繰り返しはオーバートレーニ
機能に影響すると考えられる。
ング症候群を招くおそれがある。オーバートレー
近年、唾液を用いてストレス状態や免疫機能の
2)
*
**
筑波大学大学院人間総合科学研究科 Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba, Ibaraki, Japan.
国立スポーツ科学センター
Japan Institute of Sports Sciences, Tokyo, Japan.
(34)
評価を行うことで、健康の維持・増進に役立てる
表 1 .被験者のプロフィール
Table 1.Characteristics of subjects.
という試みが進められている。唾液は採取方法が
容易であり、感染リスクが低く、非侵襲性である
ことから幅広い対象に用いることができる。唾液
中に存在する分泌型免疫グロブリン A(Secretory
immunoglobulin A; SIgA)は、病原体の侵入を防ぎ、
上気道感染症の予防に機能する。唾液 SIgA はス
n
11
Age
(years)
23.9 ∓ 0.8
Height(cm)
172.9 ∓ 0.6
Body mass(kg)
73.1 ∓ 3.7
Body fat
(%)
19.0 ∓ 1.7
Body mass index(m2/kg)
24.4 ∓ 1.2
(ml/kg/min)
Vo2max
40.4 ∓ 2.2
●
トレス指標として従来から研究されており、急性
の精神的ストレス負荷によって高まり、高強度運
All values are described as mean ∓ SE.
動による急性の身体的ストレスによって低下する
ことが報告されている。β ディフェンシン2(hu-
ンキ宣言」の趣旨に従い、かつ「筑波大学体育系
man beta defensin 2; hBD2)は、幅広い免疫スペク
研究倫理審査委員会」の承認を得て実施した(承
トルを有しており上気道感染症を引き起こすウイ
認番号:体25-97)。
ルスに対する有効性も示されている。これまで、
B.測定の手順
hBD2に関する身体的および精神的ストレスの応
本研究では、クロスオーバー方式を用いて、対
答を調べた研究は非常に少ないが、高強度運動に
象者に定常運動負荷テストを行う Exercise(Ex)
よって低下することや 、精神的ストレスを強く
実験(身体的ストレス負荷)と、計算作業負荷テ
感じる者と感じていない者との間に差がないこと
ストを行う Calculate(Cal)実験(精神的ストレ
が示されている 。したがって、唾液 SIgA は精
ス負荷)と、定常運動負荷テストも計算作業負荷
神的ストレスおよび身体的ストレスに対して応答
テストも行わない Rest 実験の 3 実験を行った。
を示すが、唾液 hBD2は精神的ストレスによる影
測 定 は、 介 入 前(pre: 11:30)、 介 入 直 後(post:
響は受けない可能性がある。これが明らかになる
12:30)、介入終了 1 時間後(post 1h: 13:30)の計
と、唾液 hBD2の観察により生体に影響するスト
3 回行った。なお、実験中は自由飲水とした。
8)
4)
レスの種類を分別して評価でき、一般やアスリー
C.定常運動負荷テスト
トの体調管理に大いに貢献できる可能性がある。
対象者は、75%VO2max 負荷で60分間の自転車ペ
しかし、唾液 hBD2に対する身体的・精神的スト
ダリング運動を行った。なお、このテスト時には
レスの影響に関する研究は非常に少なく、新規の
運動強度を75%VO2max 負荷に保つため、 5 分ごと
ストレス指標とするためには不明な点が多い。
に VO2を測定し適宜運動強度を調節した。
したがって本研究では、唾液 hBD2に注目し、
●
●
D.計算作業負荷テスト
高強度運動および計算作業に対する応答を調べる
対象者は、内田クレペリン精神検査(日本・精
ことで、唾液 hBD2のメンタルストレスおよび
神技術研究所,東京)を用いて計算作業負荷テス
フィジカルストレス評価の有用性について検討す
トを行った。簡単な一桁の足し算を15分間、 5 分
ることを目的とする。
間の休憩をはさみ、計 3 回行った。
研 究 方 法
A.対象
E.測定項目
1 .唾液の採取方法および唾液関連指標の測定
唾液採取:対象者は座位安静の状態で、ミネラ
若年成人男性11名を対象とした(表 1 )。対象
ルウォーターを用いて口腔内を洗浄した後、滅菌
者は日常において高強度運動を習慣的に行ってお
綿(SALIVETTE, SERSTED 社 , ドイツ)を120回( 1
らず、服薬および喫煙の習慣はない。また対象者
秒間に 1 回の割合)咀嚼し、分泌された唾液を滅
に対して、事前に研究の趣旨、実験方法、起こり
菌綿に吸収させた。その後、遠心分離機で滅菌綿
うる危険性および参加の任意性について説明し、
から唾液を分離させた。SIgA 濃度タンパク補正値
文書による参加の同意を得た。本研究は「ヘルシ
(SIgA/TP, ng/mg)は、Enzyme-Linked Immunosorbent
(35)
Assay(ELISA) 法 で 測 定 し た SIgA 濃 度(µg/
で有意差ありとみなした。
ml)を総タンパク濃度(mg/ml)で除して算出した。
結 果
hBD2濃度タンパク補正値(hBD2/TP, pg/mg)は、
hBD2濃度
(pg/ml)
を市販の ELISA キット
(β-Defensin
A.唾液データ
2, Human, ELISA Kit, Phoenix Pharma 社,ドイツ)
表 2 に各実験の唾液分泌量、唾液 SIgA タンパ
で測定した後に、総タンパク濃度(mg/ml)で除
ク補正、hBD2タンパク補正、コルチゾール濃度
して算出した。なお唾液中総タンパク濃度の定量
の変動について示した。唾液分泌量の変動におい
に は、 測 定 キ ッ ト(Pierce 660nm Protein Assay
て 3 群間に交互作用がみられた。各群内において
Kit, Thermo SCIENTIFIC 社,USA)を用いて測定
は、Ex 群において運動前と比べて運動終了直後
した。唾液中コルチゾール濃度(μg/dl)の定量
に有意な低下がみられた。SIgA タンパク補正の
には、市販の ELISA キット(Cortisol EIA Kit, Sa-
変動において 3 群間に交互作用がみられた。各群
limetrics 社,USA)を用いた。
内においては、Ex 群において運動前と比べて運
2 .心理状態の調査
動終了直後に有意な低下がみられ、運動終了直後
心理プロフィール検査(profile of mood states;
と比べて運動終了 1 時間後に有意な増加がみられ
POMS, 金子書房 , 東京)を用いて、緊張-不安、
た。hBD2タンパク補正の変動において 3 群間に
抑うつ-落ち込み、怒り-敵意、活気、疲労、混
交互作用がみられた。各群内においては、Ex 群
乱の気分尺度を評価した。
において運動前と比べて運動終了直後に有意な低
F.統計処理
下がみられた。コルチゾール濃度の変動において
各測定値は、平均値±標準誤差で示した。運動
3 群間に交互作用がみられた。各群内において
前後の変数の比較には繰り返しのある二元配置分
は、Ex 群において運動前と比べて運動終了直後
散分析を用い、Bonferroni/Dunn の post hoc テスト
に有意な増加がみられ、運動終了直後と比べて運
を用いて多重比較を行った。二元配置分散分析は
動終了 1 時間後に有意な低下がみられた。
有意水準5.0%未満、post hoc テストは1.67%未満
表 2 .唾液データの変化
Table 2.Change in saliva data.
Pre(11:30)
Post(12:30)
post 1h(13:30)
Rest
2.71 ∓ 0.53
2.73 ∓ 0.58
2.88 ∓ 0.58
Calculate
2.82 ∓ 0.67
2.87 ∓ 0.61
†
Saliva flow rate
(ml/2min)
Exercise
2.92 ∓ 0.63
*
2.48 ∓ 0.48
2.78 ∓ 0.61
2.00 ∓ 0.37
Rest
91.7 ∓ 6.8
92.0 ∓ 6.6
Calculate
98.6 ∓ 9.0
107.3 ∓ 10.5
Exercise
88.5 ∓ 10.8
55.6 ∓ 7.0*
72.5 ∓ 7.9*#
Rest
3.56 ∓ 0.26
3.48 ∓ 0.40
3.48 ∓ 0.38
Calculate
3.25 ∓ 0.41
3.49 ∓ 0.49
3.95 ∓ 0.61
Exercise
3.52 ∓ 0.57
1.90 ∓ 0.30*
2.85 ∓ 0.31
Rest
0.22 ∓ 0.04
0.24 ∓ 0.04
0.16 ∓ 0.02
Calculate
0.22 ∓ 0.02
0.19 ∓ 0.02
†
SIgA/protein(ng/mg)
89.5 ∓ 6.6
94.3 ∓ 9.3
†
hBD2/protein(pg/mg)
†
Cortisol concentration
(μg/dl)
Exercise
0.30 ∓ 0.06
All values are described as mean ∓ SE.
*
: P < 0.0167 vs. pre, #: P < 0.0167 vs. post, †: P < 0.05 interaction.
0.67 ∓ 0.12
0.17 ∓ 0.02
*
0.38 ∓ 0.06#
(36)
表 3 .POMS の変化
Table 3.Change in profile of moods.
Pre(11:30)
Post(12:30)
post 1h(13:30)
Rest
36.1 ∓ 1.4
35.5 ∓ 1.5
35.3 ∓ 1.4
Calculate
37.6 ∓ 1.5
38.6 ∓ 1.5
36.1 ∓ 1.6
Exercise
36.0 ∓ 1.2
37.3 ∓ 1.3
36.8 ∓ 1.7
Rest
40.5 ∓ 1.1
40.5 ∓ 1.3
40.3 ∓ 1.1
Calculate
39.8 ∓ 0.8
41.2 ∓ 1.6
40.5 ∓ 1.1
Exercise
40.0 ∓ 0.8
41.6 ∓ 1.3
41.1 ∓ 1.3
Rest
39.6 ∓ 2.0
39.2 ∓ 2.2
39.2 ∓ 2.2
Calculate
40.5 ∓ 2.2
41.2 ∓ 2.0
39.5 ∓ 2.0
Exercise
38.3 ∓ 1.1
40.7 ∓ 2.0
38.5 ∓ 1.5
42.5 ∓ 3.3
41.1 ∓ 3.3
39.9 ∓ 3.0
Tension-Anxiety
Depression
Anger-History
Vigor
Rest
Calculate
Exercise
Fatigue
44.2 ∓ 3.8
*
38.7 ∓ 3.9*
*
39.2 ∓ 3.2
39.7 ∓ 3.6
42.9 ∓ 4.0
36.7 ∓ 3.1
38.3 ∓ 2.2
37.4 ∓ 2.4
†
Rest
Calculate
Exercise
36.6 ∓ 1.9
45.5 ∓ 2.4
*
37.6 ∓ 1.7#
36.8 ∓ 1.7
50.9 ∓ 2.6
*
43.8 ∓ 2.0*#
44.3 ∓ 2.0
44.0 ∓ 1.4
37.2 ∓ 2.0
Confusion †
Rest
Calculate
45.0 ∓ 1.2
49.5 ∓ 1.7
Exercise
44.2 ∓ 1.4
45.6 ∓ 1.6
43.5 ∓ 1.5
*
45.3 ∓ 1.1#
45.5 ∓ 1.8
All values are described as mean ∓ SE.
: P < 0.0167 vs. pre, #: P < 0.0167 vs. post, † : P < 0.05 interaction.
*
B.POMS
表 3 に各群の POMS スコアの変動を示した。
考 察
疲労および混乱の項目において 3 群間に交互作用
本研究では、唾液 hBD2の身体的および精神的
がみられた。活気について、Cal 群において計算
ストレスに対する一過性の応答を調べた。唾液
前に比べて計算終了直後と計算終了 1 時間後に有
hBD2は高強度運動による身体的ストレスによっ
意な低下がみられた。Ex 群においては、運動前
て低下し、計算作業負荷による精神的ストレスの
と比べて運動終了直後に有意な低下がみられた。
影響は受けないことが示唆された。このことから、
疲労について、Cal 群において計算前と比べて計
唾液 hBD2はストレス指標として有用である可能
算終了直後に有意な増加がみられ、計算終了直後
性が考えられる。
と比べて計算終了 1 時間後に有意な低下がみられ
先行研究において、高強度運動の継続は安静時
た。Ex 群においては、運動前と比べて運動終了
の hBD2を低下させると考えられている。Usui et
直後と運動終了 1 時間後に有意な増加がみられ、
al. は、エリートマラソン選手の安静時の hBD2分
運動終了直後と比べて運動終了 1 時間後に有意な
泌は一般成人と比べると低いことを示してい
低下がみられた。混乱について、Cal 群において
る8)。また我々の研究において、継続的な高強度
計算前と比べて計算終了直後に有意な増加がみら
トレーニングによって安静時の hBD2分泌が低下
れ、計算終了直後と比べて計算終了 1 時間後に有
することを確認している。本研究では、一過性高
意な低下がみられた。
強度運動によって唾液 hBD2が低下したことか
(37)
ら、hBD2は身体的ストレスに対して応答するこ
より SIgA は一時的に上昇し、慢性的な精神的ス
と が 示 さ れ た。hBD2 の 分 泌 に は Interleukin-17
トレスで低値状態を維持することが示されてい
(IL-17)や Interleukin-23(IL-23)の作用が強くか
る。したがって、唾液 SIgA および hBD2の応答
かわる。先行研究において、高強度・長時間の運
を組み合わせることで精神的ストレスの状態を段
動後に血漿および尿中の IL-17および IL-23が低
階的に評価できる可能性がある。今後は、急性の
下することが報告されており 、これらのサイト
精神的ストレスの負荷方法や強度別の検討、更に
カインの低下が hBD2分泌の低下に影響した可能
慢性的な精神的ストレスに対する SIgA および
性が考えられる。更に hBD2の分泌は、コルチゾー
hBD2の応答について詳細に検討することが必要
ルによって抑制されることが報告されている。本
である。
研究では、運動後に唾液コルチゾール濃度の有意
先 行 研 究 に お い て、 一 過 性 の 高 強 度 運 動 が
な増加が認められた。
SIgA 分泌を低下させることが示されており、本
Forte et al. は、精神的ストレスを強く感じて
研究においても先行研究と同様の結果が得られ
いる者と感じていない者との間に唾液 hBD2濃度
た。SIgA は、IgA 産生 B 細胞から放出された二
の有意な差がみられなかったことを報告してい
量体 IgA に多量体免疫グロブリン受容体(poly-
る。また動物実験において、通常ゲージで飼育し
meric immunoglobulin receptor; pIgR) が 結 合 し て
たマウスと、 5 × 5 mm のたわみ線でできたゲー
分 泌 さ れ る。 ま た、B 細 胞 に よ る IgA 産 生 や
ジで日常的に精神的ストレスを負荷して飼育した
pIgR 発現は、Th 細胞によるサイトカインの調節
マウスの歯肉中 hBD2発現に差はみられないこと
を受けている。先行研究において、高強度運動は
も報告されている 。本研究では、計算作業負荷
唾液 SIgA 濃度の低下とともに顎下腺中の pIgR
による唾液 hBD2分泌への影響はみられなかった
発現の低下や、顎下リンパ節中の Th 細胞の減少
ことから、hBD2は精神的ストレスに対して応答
を招くことが報告されている。本研究において
しない可能性が示された。本研究では、POMS テ
も、高強度運動によるこれらの SIgA 調節系の機
ストを用いて計算作業負荷前後の心理的変化につ
能低下が生じた可能性が考えられる。今後は、
いて評価した。Cal 群は、活気の低下、および疲労、
SIgA および hBD2の身体的・精神的ストレスに対
混乱の上昇がみられた。これらのことより、本研
する応答について、動物モデルを用いて、組織中
究において行われた計算作業負荷は被験者の主観
のサイトカインや免疫細胞の関与について調べる
的な心理状態に影響を及ぼす十分な負荷量であっ
ことで、ストレスに対する免疫応答をより詳細に
たと推察できる。したがって、唾液 hBD2は身体
検討できると考える。
8)
4)
5)
的ストレスに対しては応答するが、精神的ストレ
スに対しては応答しない可能性が示された。
総 括
先行研究において、計算負荷ストレスによる精
本研究では、唾液中の hBD2に着目し、メンタ
神的ストレス負荷は唾液 SIgA 分泌を一時的に高
ルストレスおよびフィジカルストレスに対する応
めることが報告されている。本研究では、Cal 群
答について検討した。その結果、唾液 hBD2はメ
において計算前と比べて計算直後に SIgA の有意
ンタルストレスの影響は受けず、フィジカルスト
な変動はみられなかった。しかし、計算終了直後
レスによって低下したことから、メンタルストレ
の SIgA は計算終了 1 時間後に比べて高値を示す
スとフィジカルストレスの区別に有用な指標とな
傾向にあることや(P < 0.0256)
、POMS の活気の
る可能性が示された。
項目の低下や疲労・混乱の項目が計算前と比べて
計算後に増加していることより、精神的ストレス
は負荷されたが唾液 SIgA に顕著な変動をもたら
すほどの負荷ではなかった可能性が考えられる。
しかし先行研究では、計算作業負荷や緊張などに
謝 辞
本研究を遂行するにあたり、多大なご協力をいただき
ました被験者の皆様に御礼を申し上げます。また、多大
な助成を賜りました公益財団法人明治安田厚生事業団に
深く感謝申し上げます。
(38)
参 考 文 献
1)Cannon JG(1993): Exercise and resistance to infection. J
Appl Physiol, 74, 973-981.
2)Cohen S, Doyle WJ, Skoner DP(1999)
: Psychological
stress, cytokine production, and severity of upper respiratory illness. Psychosom Med, 61, 175-180.
3)Fondell E, Lagerros YT, Sundberg CJ, Lekander M, Bälter
M, Tsukinoki K(2014): Effects of stress on mouse
β-defensin-3 expression in the upper digestive mucosa.
Yonsei Med J, 55, 387-394.
6)泉水宏臣,肥田裕久,藤本敏彦,永松俊哉(2011):
精神疾患患者への運動療法―デイケア施設における
実践からの提言―.体力研究,109, 9-16.
7)Sugama K, Suzuki K, Yoshitani K, Shiraishi K, Kometani
T(2012)
: IL-17, neutrophil activation and muscle damage
O, Rothman KJ, Bälter K(2011): Physical activity, stress,
following endurance exercise. Exerc Immunol Rev, 18,
and self-reported upper respiratory tract infection. Med Sci
116-127.
Sports Exerc, 43, 272-279.
8)Usui T, Yoshikawa T, Orita K, Ueda SY, Katsura Y,
4)Forte LF, Cortelli SC, Cortelli JR, Aquino DR, de Campos
Fujimoto S(2012)
: Comparison of salivary antimicrobial
MV, Cogo K, Costa FO, Franco GC(2010)
: Psychological
peptides and upper respiratory tract infections in elite mar-
stress has no association with salivary levels of β-defensin
athon runners and sedentary subjects. J Phys Fitness Sports
2 and β-defensin 3. J Oral Pathol Med, 39, 765-769.
Med, 1, 175-181.
5)Kawashima R, Shimizu T, To M, Saruta J, Jinbu Y, Kusama
(39)
第 30 回若手研究者のための健康科学研究助成成果報告書
2013 年度 pp.39~44(2015.4)
日常的な運動量の個体差がモノアミン神経系を介した
運動の抗うつ効果に及ぼす影響の解明
柳 田 信 也*
久 保 田 夏 子**
EFFECTS OF DAILY AMOUNT OF SPONTANEOUS RUNNING ON
MONOAMINERGIC SYSTEMS AND ANTIDEPRESSANT
EFFECTS OF PHYSICAL EXERCISE
Shinya Yanagita, Natsuko Kubota
Key words: spontaneous running, daily amount of physical exercise, monoamine, antidepression.
緒 言
日常的な自発運動量の増加、すなわち運動習慣の
形成とうつ病をはじめとした精神疾患予防の関係
うつ病などの精神疾患の予防や改善方法の確立
性を解明していく意義は深いと考えられる。
は、21世紀の中心的な健康課題である。日常的な
そこで我々は、自発運動量の異なる動物モデル
運動が、このツールとして有用であることは明ら
を用い、その差を生み出す脳内メカニズムを探索
かであるが、どのような運動がより効果的である
してきた。その結果、日常的な自発運動量の少な
かという点については不明な点が多い。特に、抑
い低活動群では高活動群よりも脳内セロトニン量
うつや抗不安効果を得るための適切な運動量や強
が有意に高いことがわかった。これらのラットモ
度についての共通見解は全く得られていない。
デルを用いた実験的検討から、日常的な自発運動
2011年に発表された21世紀における国民健康づく
量の低下を生み出す要因として、脳内セロトニン
り運動(健康日本21) の最終答申によって、我
量が重要な役割を果たしていることが示唆され
が国の国民における日常的な運動習慣や運動量は
る。脳内のセロトニン量は、うつ病や不安、スト
過去10年間で有意に変化していないことが明らか
レス関連疾患の発症と密接に関係していることは
になった。日常的な身体活動・運動量が低い者
よく知られていることから、日常的な運動量の多
は、活発な者と比較して循環器疾患やがんなどの
寡はセロトニンをはじめとした脳内モノアミン神
非感染性疾患の発症リスクが高いばかりでなく、
経系を介して、運動の抗うつ・抗不安効果に影響
精神疾患と身体不活動の関係性も示唆されてい
を及ぼす可能性が高いと考えられる。そこで、本
る。 こ れ ら の 疫 学 研 究 に よ る 知 見 を 踏 ま え、
研究ではラットを用い、日常的な自発運動量の個
WHO は、高血圧、喫煙、高血糖に次いで、身体
体差が運動による抗うつ・抗不安作用に及ぼす影
不活動を全世界の死亡に対する第 4 の危険因子で
響について、セロトニン前駆体によって脳内セロ
あるとする認識を発表した 。これらのことから、
トニン量を変化させる薬理学的検討、およびうつ
4)
6)
*
** 東京理科大学理工学部 Faculty of Science and Technology, Tokyo University of Science, Chiba, Japan.
東京理科大学総合研究機構 Research Institution for Science and Technology, Tokyo University of Science, Chiba, Japan.
(40)
様行動、不安様行動などの行動学的検討から明ら
れたラットに対し、セロトニン前駆体( 5 -HTP)
かにすることを目的とした。
を腹腔内に投与した。投与量は60 mg/kg であり、
1 日 2 回(明期と暗期の開始時)のスケジュール
研 究 方 法
で投与を行った。また、コントロールとして、
A.実験動物
HR 群の半分の個体には生理食塩水を同量、同方
実験には、Wistar 系の雄ラットを用いた(n =
32)
。 3 週齢のラットをランニングホイール付の
法で投与した。
D.うつ・不安様行動の測定
ケージ(Lafayette inst. 製)もしくは通常のプラス
自発運動量がうつ様行動および不安様行動に及
チックケージ(コントロール群)で飼育した。飼
ぼす影響を検討するために、それぞれの行動を
育環境は、12時間ごとの明暗サイクル、環境温
HR 群と LR 群で比較検討した。うつ様行動の指
23℃が保たれ、水と餌は自由摂取とした。すべて
標としては、強制水泳を用い、ラットは連続する
の実験は、東京理科大学動物実験倫理委員会の規
2 日間において初日は15分間、 2 日目は 6 分間、
定に基づき承認、実施された。
円形の水槽内を泳ぎ、移動時間および不動に至る
B.自発運動量のスクリーニング
時間を計測した。不安様行動としては、オープン
すべてのラットは、それぞれのケージで 4 週間
フィールドテストおよび高架式十字迷路テストを
飼育された。ランニングホイール付ケージで飼育
用い、オープンフィールドテストにおいては、ラ
されたラットの走行量について、ケージに付属さ
インクロス数、中央侵入回数、移動距離を指標と
れているデジタルカウンターで測定し、飼育開始
し、高架式十字迷路においては、オープンアーム
3 週間の走行量によって高活動(HR)群と低活
およびクローズドアームの滞在時間とオープン
動(LR)群にスクリーニングした。スクリーニ
アーム侵入回数を指標として測定を行った。
ングの基準は、まず、すべての個体のランニング
E.脳内モノアミン量の測定
ホイールによる自発運動量を平均し、その平均値
5 -HTP 投与によって、脳内セロトニン量が実
+0.5標準偏差以上の走行量を示したラットを HR
際に変化したかどうかを検討するために、先行研
群に分類し、平均値-0.5標準偏差以下の走行量
究と同様の 8 部位(前頭前野:PFC,尾状核:
のラットを LR 群とした。また、その中間の走行
CPu,側坐核:NAc,視床下部室傍核:PVN,海
量の個体は分析から除外した。
馬:Hipp, 扁 桃 体 中 心 核:CeA, 腹 側 被 蓋 野:
C.セロトニン前駆体の投与
VTA,背側縫線核:DRN)をマイクロディセク
本研究では薬理的に脳内セロトニン濃度を変化
ションし、ホモジナイズサンプルについて高速液
させた場合の自発運動量の変化を解析した。 3 週
体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてモノア
間のスクリーニング期間終了後に HR 群に分類さ
ミン量の定量を行った。
F.統計解析
(m)
コントロール群、HR 群および LR 群の行動デー
16000
タおよび脳内モノアミン量について一元配置の分
散分析を行い、主効果が認められた場合には多重
12000
Distance
比較検定を行った。また、HR 群に対する 5 -HTP
投与の影響については、5 -HTP を投与されたラッ
8000
トと生理食塩水を投与されたラットの 2 群間にお
4000
0
いて t 検定を用いて平均値の差の検定を行った。
1W
2W
Weeks
3W
4W
図 1 .自発運動量の推移とスクリーニング
Fig.1.Daily amount of spontaneous running distance and screening.
本研究における統計的有意水準は 5 %とした。
(41)
ある暗期の自発運動量に注目してみると、生理食
結 果
塩水を投与された群に比べ、有意に自発運動量が
A. 5 -HTP 投与による自発運動量の変化
低い値を示すことが明らかとなった(P < 0.05,
図 2 D)。
図 2 に、HR 群のラットにおける 5 -HTP 投与
B. 5 -HTP 投与によるセロトニン量の変化
による自発運動量の変化を示した。統計的に有意
な差は認められないものの、 5 -HTP を投与され
5 -HTP 投与後の脳内各部位のセロトニン量を、
た期間(自発運動開始後23日以降)において、投
生理食塩水を投与されたラットと比較した結果、
与された個体の自発運動量が低下する傾向が認め
セロトニン量自体には両条件間で有意な差は認め
られた(図 2 A・B・C)。更に、ラットの活動期で
られなかった(図 3 A)。しかしながら、 5 -HTP
C)
12000
1400
saline/HR
5-HTP/HR
10000
10000
Daily WR distance
(m)
B)
n=5
n=7
8000
8000
6000
6000
4000
4000
2000
2000
0
2-
9-
16-
0
23-
D)
Average WR distance
(m/phase)
12000
Average WR distance
(m/hour)
A)
8000
saline/HR
5-HTP/HR
1200
7000
9-
16-
1000
5-HTP/HR
5000
800
4000
600
3000
400
0
23-
*
6000
2000
1000
200
2-
saline/HR
0
1:00
13:00
14:00 injection
Light
Dark
図 2 .5-HTP 投与による自発運動量の変化
Fig.2.Changes of spontaneous running distance after 5-HTP injection.
A: daily individual data, B: daily mean data, C:changes during dark phase, D: mean data light and dark phase.
*: P < 0.05 vs. light phase.
A)
0.09
Serotonin level
(ng)
0.08
0.07
C)
B)
saline/sed
5-HTP/sed
saline/HR
5-HTP/HR
0.1
0.2
14
0.18
12
0.16
0.14
0.06
10
0.12
0.05
0.1
0.04
0.08
0.03
0.06
0.02
0.04
0.01
0.02
0
0
PFC
CPu
NAc
PVN
Hipp
CeA
VTA
DRN
8
6
4
2
PFC CPu NAc PVN Hipp CeA VTA DRN
0
図 3 .5-HTP 投与による脳内セロトニンおよび代謝産物量の変化
Fig.3.Changes of 5-HT and metabolate after 5-HTP injection.
A: 5-HT, B: 5-HTP, C: 5-HIAA/5-HT.
40
35
LR
HR
30
25
20
15
10
5
0
図 4 .強制水泳テストにおけるうつ様行動
(不動時間)
Fig.4.Depression-like behaviors in forced swim test (immobility time).
PFC CPu NAc PVN Hipp CeA VTA DRN
(42)
A)
B)
300
*
250
LR
HR
200
90000
80000
*
70000
60000
50000
150
40000
100
30000
20000
50
10000
0
0
C)
D)
12
16
10
8
6
4
2
0
14
12
10
8
6
4
2
0
図 5 .オープンフィールドテストによる不安様行動
Fig.5.Anxiety-like behaviors in open field test.
A: total line crossed, B: total traveling distances, C: number of into center, D: time spent in center.
*: P < 0.05 vs. LR.
を投与された個体におけるセロトニン代謝産物
が、HR 群のほうが LR 群よりも傾向として低い
(5 -HIAA)およびセロトニン代謝回転(5 -HIAA
値を示すことが明らかとなった(データ未掲載)。
量 / 5 -HT 量)は、すべての脳部位において有意
に亢進していた(P < 0.05,図 3 B・C)。このこと
考 察
から、 5 -HTP 投与によって脳内のセロトニン量
本研究では、日常的な自発運動量の多寡が抑う
は一過性に増加したものの、そのほとんどが代謝
つや不安状態に影響を及ぼすものであるかどうか
されてしまったことが示唆される。
について、先行研究を発展させる形として、セロ
C.高活動群と低活動群におけるうつ様・不安
様行動の比較
1 .うつ様行動(強制水泳テスト)
トニン前駆体投与による脳内セロトニン量増加の
影響およびその脳内の変化がうつ様行動および不
安様行動に及ぼす影響について検討を行った。
強制水泳テストにおける HR 群と LR 群のうつ
ランニングホイールによる自発運動は、げっ歯
様行動の比較を、少数例(n= 2 )ながらも行っ
類を用いた運動の効果を検証する実験系における
た結果、不動時間において両群間に顕著な差は認
代表的な手法として広く普及している。一方で、
められなかった(図 4 )
。
これまでの研究において、その自発運動量には非
2 .不安様行動(オープンフィールドテスト)
常に大きな個体差が認められることが明らかと
不安様行動の指標であるオープンフィールドテ
なっている5)。我々は、この特徴的な個体差を利
ストにおける総ラインクロス数において、HR 群
用し、日常的な自発運動量の異なる動物モデルの
の値が LR 群よりも有意に高い値を示していた(P
確立を試みてきた。いくつかの実験的検討の結
< 0.05,図 5 A)
。更に、総移動距離においても同
果、およそ 3 週間で走行量には明確な個体差が出
様に HR 群のほうが LR 群よりも有意に高い値で
始めること、および積算した走行量の平均値を基
あった(図 5 B)
。中央侵入回数および総中央滞
にし、平均値±0.5標準偏差でスクリーニングす
在時間においては、両群間で有意な差は認められ
ることで統計的に有意な差がみられる群分けが可
なかった(図 5 C・D)
。
能となることを明らかにした。また、日常的な自
3 .不安様行動(高架式十字迷路テスト)
発運動量の多い高活動群では脳内のドーパミン量
オープンフィールドテストにおいて、HR 群と
が有意に高い値を示し、自発運動量の少ない低活
LR 群で不安様行動の発現に有意な差が認められ
動群では脳内セロトニン量が有意に高い値を示す
たため、その妥当性を検討するために高架式十字
ことを報告している。この結果は、日常的な身体
迷路テストにおける不安様行動についても検討を
活動量の増加を制限する要因として、セロトニン
行った。その結果、検体数が少なく(HR: n = 5,
神経系の働きが関与することを示唆する。そこで、
LR: n = 3 )統計的な解析は行えないものの、不
本研究では、この自発運動量の低下とセロトニン
安様行動の指標であるオープンアーム滞在時間
神経系の関係性をより明らかにするために、先行
(43)
研究において脳内のセロトニン量を高めることが
高活動とストレス感受性の関連が示唆される。こ
明らかとなっている 5 -HTP 投与を高活動ラット
の点については、ドーパミン量の薬理的操作や自
に施し、高活動ラットの自発運動量が減少するか
発運動量の異なる動物モデルを用いたストレス負
どうかを検討した 。その結果、 5 -HTP 投与に
荷実験などを行うことによって、より詳細に解明
よって確かに高活動を呈するラットの自発運動量
していくことが望まれる。
が減少し、その減少はラットの活動期である暗期
また、将来的なヒトへの応用を考慮した場合、
においては非常に顕著なものであることが示され
可能な限り非侵襲的な方法で脳内モノアミン量の
た。この結果は、日常的な自発運動量を制御する
変化を試みる必要性がある。そこで本研究では、
因子として、セロトニン神経系は重要な役割を果
セロトニン合成に必要なアミノ酸であるトリプト
たしているという仮説をより強く支持するもので
ファンの食餌摂取(申請書では飲水摂取としてい
ある。脳内のセロトニン神経系は、不安や抑うつ
たが,摂取量の規定が困難であるため変更)によ
と深くかかわり、その神経機能の亢進は精神的な
る自発運動の変化および脳内モノアミン量の変化
安定と関連することがよく知られている。本研究
について検討した。しかしながら、消化吸収およ
の結果と併せて考えると、低活動ラットは、生活
び脳への輸送の問題を解消するには至らず、トリ
環境下における不安や抑うつ状態が低いレベルで
プトファン摂取による有意な変化は現在までのと
維持されている可能性が考えられる。
ころ認められていない。
そこで、本研究では、高活動ラットと低活動
本研究の結果においては、日常的な自発運動量
ラットにおける不安様行動およびうつ様行動の比
の個体差は抑うつ状態と関連しない可能性が示唆
較を行い、日常的な自発運動量と不安やうつなど
された。しかしながら、不安様行動には顕著な影
の 精 神 状 態 と の 関 係 性 を 検 討 し た。 オ ー プ ン
響がみられ、日常的な不安やストレスの繰り返し
フィールドテストと高架式十字迷路テストにおけ
がうつ病の発症とは密接に関連することを考える
る不安様行動は、高活動群と低活動群では有意に
と、より長期間の実験的検討を行うことによって
異なる値であり、低活動群のほうが不安の程度が
うつ様行動にも影響が及ぶ可能性は否定できな
低いことが明らかとなった。この結果からも、や
い。それゆえ、日常的な自発運動量と抑うつ効果
はり日常的な自発運動量の少ない個体の安定した
に関する研究の更なる発展が望まれる。
1)
心理状態が示唆される。いくつかの先行研究にお
いて、自発運動を数週間行うことによって、セロ
総 括
トニン神経系の機能に変化が起こり、抗うつ・抗
本研究の結果から、自発運動量の個体差はセロ
不安効果が得られることが明らかとなってい
トニン神経系を介した抑うつや不安などの精神状
る
。本研究の結果は、これらの先行研究の結果
態と関連することが示唆された。日常的な運動が
を補完するものであり、自発運動によるこれらの
心身の健康増進に重要であることはいうまでもな
心理的効果には、運動量の影響が及ぶ可能性を示
いことであり、その増加を図るためには日常生活
すものであると考えられる。この原因は明確には
における適度なストレスが必要なのかもしれない。
2,3)
わからないものの、うつ病や不安症の発症には慢
性的なストレスが関係することから、高活動群と
謝 辞
低活動群では飼育環境下におけるストレス感受性
本研究は、公益財団法人明治安田厚生事業団 2013 年度
やストレス解消をする能力に違いがあるかもしれ
若手研究者のための健康科学研究助成を受け遂行された。
ず、その解消方法としての運動に対する欲求や報
ここに記して、関係各位に深謝申し上げます。
酬価が異なるのかもしれない。我々は、自発運動
量の多い高活動群では、ドーパミン量が多いこと
が明らかとしており、ドーパミン量はストレス負
荷時に代償的に上昇するものであることからも、
参 考 文 献
1)Baumann MH, Williams Z, Zolkowska D, Rothman RB
(2011): Serotonin(5-HT)precursor loading with 5-hydroxy-l-tryptophan(5-HTP)reduces locomotor activation
(44)
produced by(+)-amphetamine in the rat. Drug Alcohol
(2-3), 147-152.
Depend, 114
2)Greenwood BN, Foley TE, Day HE, Campisi J, Hammack
SH, Campeau S, Maier SF, Fleshner M(2003): Freewheel
,
forced cessation of exercise. Behav Brain Res, 233(2)
314-321.
4)厚生労働省健康日本 21 評価作業チーム(2011):「健
康日本 21」最終評価.
running prevents learned helplessness/behavioral depres-
5)Tarr BA, Kellaway LA, St Clair Gibson A, Russell VA
sion: role of dorsal raphe serotonergic neurons. J Neurosci,
(2004)
: Voluntary running distance is negatively correlat-
23
(7), 2889-2898.
3)Greenwood BN, Loughridge AB, Sadaoui N, Christianson
JP, Fleshner M(2012): The protective effects of voluntary
exercise against the behavioral consequences of uncontrollable stress persist despite an increase in anxiety following
ed with striatal dopamine release in untrained rats. Behav
, 493-499.
Brain Res, 154(2)
6)World Health Organization(2010): Global recommendations on physical activity for health.
(45)
第 30 回若手研究者のための健康科学研究助成成果報告書
2013 年度 pp.45~49(2015.4)
健常高齢者の認知機能ならびに血漿アミロイド β タンパク42に
対する運動・認知二重課題トレーニングの効果
横 山 久 代*,** 岡 﨑 和 伸*,** 今 井 大 喜*,**
鈴 木 明 菜*
竹 田 良 祐*
山 科 吉 弘*
Nooshin Naghavi *
宮 側 敏 明*,**
THE EFFECT OF COGNITIVE-MOTOR DUAL-TASK TRAINING ON
COGNITIVE FUNCTION AND PLASMA AMYLOID β PEPTIDE
42/40 RATIO IN HEALTHY ELDERLY PERSONS
Hisayo Yokoyama, Kazunobu Okazaki, Daiki Imai, Akina Suzuki,
Ryosuke Takeda,Yoshihiro Yamashina, Nooshin Naghavi,
and Toshiaki Miyagawa
Key words: attention, amyloid peptide, exercise, executive function.
緒 言
する。主成分となるアミロイド β タンパク(Aβ)
40ならびに Aβ 42の老人斑への沈着には後者が優
認知機能障害は高齢者の日常生活の自立を困難
先されるため、脳脊髄液中 Aβ 42/40比は AD 進展
にするだけでなく、転倒の危険因子としても確立
の指標として注目を集めている5)。より検査が容
している。かつて Lundin-Olsson et al.6)が、
“Stops
易な血漿 Aβ 42/40比の AD 進展予測因子としての
walking when talking”という単純明快な方法で示
有用性も示唆されている4)。
したように、高齢者では、複数の対象への注意の
以上の理由から、我々は二重課題トレーニング
分散が苦手な場合に転倒しやすくなる。反対に、
が Aβ の代謝を変化させることで認知機能を改善
運動は高齢者の認知症発症・進展リスクを低下さ
するという仮説を立てた。本研究では、認知機能
せる 。認知機能の改善に有効な運動の種類や頻
障害のない健常高齢者において、高次脳機能と血
度については十分に分かっていないが、上記の理
漿 Aβ 40、Aβ 42濃度に対する認知・運動二重課
由から、高次脳機能を高めうる二重課題トレーニ
題トレーニングの効果について検討した。
3)
ング、すなわち、認知課題と運動課題を同時にこ
なすような運動の効果について検証する必要があ
る。
研 究 方 法
A.対象と研究デザイン
認知症の最多原因疾患であるアルツハイマー病
運動習慣のない65歳以上の男女を対象とし、慢
(AD)は、神経細胞外への老人斑の沈着を特徴と
性疾患や明らかな認知症を有する者は除外した。
* **
大阪市立大学大学院医学研究科運動環境生理学 Environmental Physiology for Exercise, Osaka City University Graduate School of Medicine, Osaka,
Japan.
大阪市立大学都市健康・スポーツ研究センター Research Center for Urban Health and Sports, Osaka City University, Osaka, Japan.
(46)
Applicants for
participation
(n = 30)
Screening
Excluded
(n = 3)
reasons:
•
refused to participate
(n = 2)
•
judged to have pre-existing cognitive
dysfunction
(n = 1)
Enrollment &
Randomized(n = 27)
Assigned to single task(ST)
training group(n = 14)
Assigned to dual task(DT)
training group(n = 13)
12-week intervention
Drop out(n = 1)
Drop out(n = 1)
reason:
unable to keep up
with the program
Analyzed(n = 13)
reason:
lack of motivation
Analyzed(n = 12)
図 1 .研究デザインのフローチャート
Fig.1.Flow chart on the study design.
研究プロトコールは大阪市立大学医学部倫理委員
構成され、総得点(100点満点)と、 8 つに分類
会の承認を得て実施され(承認番号:2719)
、全
される各認知領域、すなわち、記銘と再生、長期
参加者から文書による同意を得た。応募者のスク
記憶、見当識、注意力、言語流暢性・言語理解、
リーニング(2014年 3 月)からデータ解析(同 7
語想起、視空間認知、抽象概念の得点を評価した。
月)までの流れを図 1 に示す。試験を完遂した単
更に、視覚情報処理速度を TMT(脳年齢計 ®,
課題
(ST)群13名、二重課題
(DT)群12名、計25名
エルク)で評価した。
にてデータ解析を行った。
B.運動プログラム
D.その他の項目
体脂肪率と下肢筋量は体組成分析計で、大腿四
両群それぞれ別室で、 1 回 1 時間、週 3 回の運
頭筋力はストレインゲージダイナモメータで評価
動を12週間にわたり実施した。 1 回のセッション
した。運動能力として最大一歩幅、タイムドアッ
は、指あそび(15分)、レジスタンス運動(RE,
プアンドゴー(TUG)、開眼片脚立位を測定した。
25分)
、有酸素運動(AE,10分)、ストレッチ(10
早 朝 空 腹 時 の 血 漿 Aβ 40・Aβ 42 濃 度 を 市 販 の
分)で構成された。DT 群のセッションでは、RE
ELISA キット(和光純薬工業)で測定した。
と AE に認知課題を同時に課した(例: 1 ケタの
引き算を行いながらの腿上げなど)。
C.3 MS とトレイルメイキングテスト(TMT)
E.統計解析
群ならびに介入の効果について、繰り返しのあ
る 2 元配置分散分析を用いて検討した。各項目の
認知機能を日本語版 Modified Mini-Mental State
平均値の群間比較には対応のない t 検定を使用し
examination
(3MS)で評価した。試験は15の質問で
た。各群での介入による変化は対応のある t 検定
(47)
B.認知機能の変化(表 2 )
を用いて評価した。有意水準は P < 0.05に設定し
介入後、 3 MS の総得点は両群で改善し、介入
た。
×群の交互作用を認めた(P = 0.002)。各認知領
結 果
域について、注意力(P = 0.003)と抽象概念(P
A.体組成、身体機能、運動能力における変化
= 0.049)の 2 領域に有意な介入×群の交互作用
介入後、BMI は両群で減少、大腿四頭筋力と
を認めた。注意力は DT 群でのみ改善し、介入後
最大一歩幅は両群で増加し(表 1 )、介入後の数
の注意力(P = 0.008)、抽象概念(P = 0.038)に
値に差はなかった。その他の項目については両群
おける得点は DT 群で大きかった。TMT につい
で変化を認めなかった。
ては、両群で変化を認めなかった。
表 1 .12週間の運動介入前後における対象の臨床的特徴、体組成、筋力ならびに運動能力
Table 1.Clinical characteristics, body composition, muscular strength, and motor ability, before and after a 12-week intervention.
ST group
baseline
post
baseline
post
intervention
group
intervention
× group
1/12
-
1/11
-
-
-
-
(M/F)
Gender
P
DT group
Age
(years)
74.2 ∓ 3.4
-
74.2 ∓ 4.3
-
-
-
-
Education
(years)
12.0 ∓ 1.8
-
11.9 ∓ 1.7
-
-
-
-
SBP
(mmHg) 144 ∓ 15
137 ∓ 22
138 ∓ 18
140 ∓ 16
0.504
0.779
0.274
DBP
(mmHg)
82 ∓ 11
84 ∓ 12
79 ∓ 7
0.163
0.849
0.163
BMI
(kg/m2) 21.7 ∓ 2.9
21.3 ∓ 3.0a
24.2 ∓ 4.5
23.8 ∓ 4.2a
0.001
0.105
0.629
Body fat
(%)
26.4 ∓ 6.6
25.3 ∓ 5.8
30.5 ∓ 6.6
30.2 ∓ 5.4
0.273
0.074
0.544
Leg muscle mass
(kg)
8.2 ∓ 1.6
7.7 ∓ 1.5a
9.1 ∓ 2.2
9.0 ∓ 1.9
0.075
0.146
0.200
Quad. muscle strength (kg)
24.1 ∓ 6.6
28.5 ∓ 6.2a
24.9 ∓ 6.5
28.8 ∓ 7.4a
<0.001
0.824
0.755
97.3 ∓ 14.6
107.7 ∓ 12.1
94.4 ∓ 15.8
100.0 ∓ 16.1a
<0.001
0.349
0.210
(cm)
MSL
82 ∓ 7
a
b
TUG
(sec)
5.82 ∓ 1.38
5.54 ∓ 1.00
5.84 ∓ 1.31
5.93 ∓ 1.10
0.442
0.664
0.138
Single-leg standing
(sec)
71.7 ∓ 48.3
83.3 ∓ 46.8
68.2 ∓ 43.3
78.8 ∓ 42.4
0.084
0.816
0.939
All values are presented as n or mean ∓ SD. a: P < 0.05 within the group. b: P < 0.05 between the groups.
M; male, F; female, SBP; systolic blood pressure, DBP; diastolic blood pressure, BMI; body mass index, MSL; maximal step length,
TUG; Timed Up & Go test.
表 2 .The Modified Mini-Mental State examination(3MS)とトレイルメイキングテスト(TMT)の結果
Table 2.The results of the Modified Mini-Mental State examination(3MS)and the Trail-Making Test(TMT)
.
ST group
(full marks) baseline
P
DT group
post
baseline
post
intervention
group
intervention
× group
3MS total scores
(100) 90.6 ∓ 2.2
93.0 ∓ 2.5a
89.3 ∓ 1.7
97.8 ∓ 0.5a
<0.001
0.501
0.002
Registration & recall
(21) 20.0 ∓ 0.5
20.7 ∓ 0.2
18.8 ∓ 0.8
20.6 ∓ 0.3
0.009
0.242
0.229
Long-term memory
(5)
a
5.0 ∓ 0.0
4.8 ∓ 0.2
4.9 ∓ 0.1
5.0 ∓ 0.0
0.448
0.448
0.113
Temporal & spatial orientation (20) 18.8 ∓ 0.9
18.5 ∓ 1.1
18.4 ∓ 0.8
19.8 ∓ 0.3
0.246
0.701
0.105
5.7 ∓ 0.4
5.5 ∓ 0.5
5.1 ∓ 0.5
7.0 ∓ 0.0a,b
0.010
0.392
0.003
Verbal fluency & understanding (21) 20.5 ∓ 0.1
20.4 ∓ 0.2
20.3 ∓ 0.3
21.0 ∓ 0.0a,b
0.012
0.808
0.162
Attention
(7)
Word retrieval
(10)
8.3 ∓ 0.6
9.5 ∓ 0.3
9.6 ∓ 0.2
9.8 ∓ 0.1
0.011
0.073
0.078
Visuospatial skills
(10)
9.9 ∓ 0.1
9.7 ∓ 0.3
9.7 ∓ 0.1
10.0 ∓ 0.0a
0.547
0.766
0.110
Abstract meaning
(6)
2.5 ∓ 0.5
3.5 ∓ 0.4
2.6 ∓ 0.4
4.7 ∓ 0.3
<0.001
0.280
0.049
TMT(seconds)
-
69.6 ∓ 10.9
78.0 ∓ 15.4
70.2 ∓ 4.8
71.0 ∓ 3.7
0.334
0.568
0.257
a
a
a,b
All values are presented as mean ∓ SE. a: P < 0.05 within the group. b: P < 0.05 between the groups.
(48)
ST group
Registration
& Recall
4
DT group
12
5
5
4
5
Long-term
memory
4
Temporal
&
Spatial
orientation
5
4
3
3
3
3
2
2
2
2
Total score
1
1
1
1
*
0
0
0
0
-1
-1
-1
-1
10
8
5
6
4
3
4
5
Verbal fluency
&
Understanding
4
Word retrieval
5
4
5
Visuospatial
skills
4
3
3
3
2
2
2
2
2
1
1
1
1
0
0
0
0
0
-1
-1
-1
-1
Attention
*
Abstract
meaning
図 2 .両群における12週間の運動介入による3MS の得点の変化
Fig.2.The absolute changes in the scores of 3MS following the 12-week intervention in both groups.
The absolute changes in the scores of“attention”
(1.9 ∓ 0.5 vs -0.2 ∓ 0.4, P = 0.004, 95% CI 0.75-3.39)
as well as in
the total score
(8.5 ∓ 1.6 vs 2.4 ∓ 0.9, P = 0.004, 95% CI 2.25-9.98)
were greater in the DT group than in the ST group.
The horizontal bars represent means ∓ SE. *: P < 0.01.
plasma Aβ 42/40 ratio
1.0
ST group
DT group
= 0.007,DT 群:前14.5±0.9 pmol/l,後20.5±1.9
0.6
0.2
0.0
両群で介入後血漿 Aβ 40濃度は増加し(ST 群:
前14.4±1.1(SE)pmol/l,後20.5±1.8 pmol/l,P
0.8
0.4
C.Aβ 40、Aβ 42の変化
*
*
pmol/l,P = 0.002)、血漿 Aβ 42濃度は減少した(ST
群: 前 8.0 ± 1.3 pmol/l, 後 3.0 ± 0.6 pmol/l,P =
0.003,DT 群: 前 8.0 ± 1.5 pmol/l, 後 5.0 ± 1.1
pmol/l,P = 0.170)。
0 wk 12 wk
0 wk
12 wk
図 3 .運動介入前後における血漿アミロイド β タンパク
(Aβ)
42/40比
Fig.3.Plasma amyloid β peptides
(Aβ)42 / 40 ratio before and
after the intervention.
Significant decreases in Aβ 42/40 ratio were found in both
groups following the training
(ST group: 0.63 ∓ 0.13 to 0.16 ∓
0.03, P = 0.001; DT group: 0.60 ∓ 0.12 to 0.25 ∓ 0.06, P =
0.044), although the post-intervention value was not different
between the groups.
介入後、Aβ 42/40比は両群で低下した(ST 群:
前0.63±0.13(SD),後0.16±0.03,P = 0.001,DT
群:前0.60±0.12,後0.25±0.06,P = 0.044,図 3 )。
群の主効果、介入×群の交互作用は、いずれにお
いても認めなかった。
考 察
本研究の結果より、認知・運動二重課題トレー
ニングは高齢者の認知機能の改善においてより有
介入による 3 MS の総得点の変化量(8.5±1.6
益であるが、血漿 Aβ 42/40比はトレーニングの
vs. 2.4±0.9, P = 0.004)に加え、注意力における
タイプにかかわらず低下したことから、その優位
得点の変化量(1.9±0.5 vs. -0.2±0.4, P = 0.004)
性は Aβ 代謝の変化を直接的には介さないことが
は DT 群で大きかった(図 2 )
。
示唆された。
他の生活習慣病や心血管疾患と同様、身体活動
(49)
は認知症発症予防の鍵を握る。過去の介入研究に
としての有用性や運動による認知機能改善にかか
おいても、運動が認知機能や脳の形態、特に海馬
わるメカニズム究明のために、今後の研究結果の
容積に好影響をもたらすことが報告されてい
蓄積が待たれる。
る 。運動の認知機能改善効果に関するエビデン
2)
スは集積してきており、二重課題トレーニングの
有益性を示した本成績は、より認知機能改善効果
の高い運動プログラム構築に寄与するものとなっ
た。
参 考 文 献
1)Adlard PA, Perreau VM, Pop V, Cotman CW(2005)
: Voluntary exercise decreases amyloid load in a transgenic
model of Alzheimer's disease. J Neurosci, 25, 4217-4221.
2)Erickson KI, Voss MW, Prakash RS, Basak C, Szabo A,
最も基礎的な高次脳機能である注意力に対し
て、過去にも運動による改善効果が示されてき
た。各領域の課題遂行に必要な海馬の部位や、運
動で活性化される脳の領域に不均一性が存在す
る ことは、運動の効果が各認知領域で異なるこ
7)
とを説明しうるが、DT 群のプログラム内容、す
なわち注意力の切り替えを要する多くの課題を含
めたことも、特に注意力の改善をもたらした可能
性がある。
Chaddock L, Kim JS, Heo S, Alves H, White SM, Wojcicki
TR, Mailey E, Vieira VJ, Martin SA, Pence BD, Woods
JA, McAuley E, Kramer AF(2011): Exercise training increases size of hippocampus and improves memory. Proc
Natl Acad Sci U S A, 108, 3017-3022.
3)Etgen T, Sander D, Huntgeburth U, Poppert H, Forstl H,
Bickel H(2010)
: Physical activity and incident cognitive
impairment in elderly persons: the INVADE study. Arch
Intern Med, 170, 186-193.
4)Graff-Radford NR, Crook JE, Lucas J, Boeve BF,
Knopman DS, Ivnik RJ, Smith GE, Younkin LH, Petersen
当初、DT 群で自然経過による血漿 Aβ 42/40比
RC, Younkin SG(2007)
: Association of low plasma Abe-
の低下が緩徐になると予測したが、血漿 Aβ 42/
ta42/Abeta40 ratios with increased imminent risk for mild
40比は両群で等しく低下した。このことは、二重
課題トレーニングによる広範な認知領域での改善
は、Aβ 代謝を介さないことを示唆する。運動は
cognitive impairment and Alzheimer disease. Arch Neurol,
64, 354-362.
5)Jensen M, Schroder J, Blomberg M, Engvall B, Pantel J,
Ida N, Basun H, Wahlund LO, Werle E, Jauss M,
アミロイド前駆タンパクの代謝を修飾するとされ
Beyreuther K, Lannfelt L, Hartmann T(1999): Cerebro-
る が、 2 種のアミロイドタンパク、Aβ 40と Aβ
spinal fluid A beta42 is increased early in sporadic Alz-
1)
42の代謝や、バイオマーカーとしての役割におけ
る相違点も含め、今後の検討が必要である。
総 括
認知・運動二重課題トレーニングは単課題ト
レーニングと比べ、高齢者のより広範な認知機能
領域を改善する点で有益であること、その改善効
果は Aβ 代謝の変化を直接的には介さないことが
示された。血漿 Aβ 濃度の AD のバイオマーカー
heimer's disease and declines with disease progression.
Ann Neurol, 45, 504-511.
6)Lundin-Olsson L, Nyberg L, Gustafson Y(1997)
:“Stops
walking when talking”as a predictor of falls in elderly
people. Lancet, 349, 617.
7)Rosano C, Venkatraman VK, Guralnik J, Newman AB,
Glynn NW, Launer L, Taylor CA, Williamson J, Studenski
S, Pahor M, Aizenstein H(2010)
: Psychomotor speed and
functional brain MRI 2 years after completing a physical
activity treatment. J Gerontol A Biol Sci Med Sci, 65, 639647.
第 30 回若手研究者のための健康科学研究助成成果報告書
(50)
2013 年度 pp.50~56(2015.4)
朝食摂取頻度と 2 型糖尿病発症との関連
―成人男女約6600人の10年間の追跡研究―
上 村 真 由*
王 超 辰*
八 谷 寛*,** 李 媛 英**
江 啓 発*
大 塚 礼***
玉 腰 浩 司****
THE ASSOCIATION BETWEEN FREQUENCY OF BREAKFAST
INTAKE AND TYPE 2 DIABETES MELLITUS INCIDENCE
AMONG ABOUT 6600 MIDDLE-AGED JAPANESE MEN
AND WOMEN IN 10 YEARS FOLLOW-UP STUDY
Mayu Uemura, Hiroshi Yatsuya, Yuanying Li, Chaochen Wang,
Chifa Chiang, Rei Otsuka, and Koji Tamakoshi
Key words: breakfast, diabetes mellitus, cohort study, Japan.
欠食との関連を調べたうえで、それらの要因を考
緒 言
慮して、朝食欠食と追跡期間中の T2DM の関連
朝食欠食が、インスリン感受性の低下と関連す
を調べた。
ることが報告されている 。しかし、朝食欠食と
1)
研 究 方 法
2 型糖尿病(T2DM)の発症の関連についてのコ
ホート研究の結果は一致せず、日本人での検討も
十分されていない
A.対象者
2002年に35~66歳の某自治体職員男女を対象と
。
3-5)
2013年の国民健康栄養調査によると、日本人男
した。生活習慣アンケートおよび健診成績の使用
性の14.4%、女性の9.8%が朝食を欠食している 。
に対して同意した男女6648名のうち、分析に必要
朝食摂取の習慣は変容が可能であり、朝食欠食と
な変数に欠損のない4631名(男性3600名,女性
T2DM の因果関係を探ることの公衆衛生学的意義
1031名)を分析対象者とした。なお、本研究は、
は大きい。
名古屋大学医学部生命倫理審査委員会の承認を得
本研究では、中高年の日本人男女を対象とした
て実施した(承認番号:504-4)。
2)
前向きコホートにおいて、食習慣や喫煙、飲酒等
の生活習慣、仕事の状況や心理社会的要因と朝食
名古屋大学大学院医学系研究科国際保健医療
学・公衆衛生学
**
藤田保健衛生大学医学部 公衆衛生学
***
国立長寿医療研究センター長期縦断疫学研究
(NILS-LSA)活用研究室
****
名古屋大学大学院医学系研究科看護学専攻
*
B.T2DM 発症の確認
T2DM 発症は、職場で毎年実施される健診で
Department of Public Health and Health Systems, Nagoya University Graduate School of Medicine,
Nagoya, Japan.
Department of Public Health, Fujita Health University School of Medicine, Aichi, Japan.
Section of Longitudinal Study of Aging, National Institute for Longevity Sciences(NILS-LSA), National
Center for Geriatrics and Gerontology, Aichi, Japan.
Department of Nursing, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan.
(51)
FBG 値が初めて126 mg/dl 以上となった場合、あ
外した場合、追跡期間 3 年未満での T2DM 発症
るいは、2004年、2007年、2011年に実施した自記
者を除外した場合についても分析した。
式の病歴調査で T2DM の治療開始について申告
すべての統計解析は SPSS Statistics for Windows,
があった場合とした。
Version 22.0を用いて行い、統計学的有意水準は P
C.朝食の摂取頻度
朝食の摂取頻度については、自記式生活習慣ア
ンケートで、
「必ず毎日食べる」
、
「ほぼ毎日食べ
< 0.05とした。
結 果
るがときどき食べない」、
「週 3 ~ 5 日食べる」、
「週
対象者の9.6%が、朝食欠食者であった。朝食
1 ~ 2 日食べる」、「食べない」の 5 段階で調査し
欠食者は、朝食摂取者に比べ、アルコールの摂取
た。本研究では、
「週 3 ~ 5 日食べる」
、
「週 1 ~
量が多く、現喫煙者の割合が高かった。更に、ス
2 日食べる」
、「食べない」と回答した者を朝食欠
トレスを強く感じている者の割合が高く、夜勤者
食者とした。
の割合も高かった(すべて P < 0.05,表 1 )。
D.統計解析
主成分分析により 4 つの因子を抽出した(表
朝食欠食と食事・栄養素摂取状況、飲酒や喫煙
2 )。第 1 因子は、緑黄色野菜やその他の野菜の
などの生活習慣、仕事の状況、心理社会的要因等
高摂取により特徴付けられるため、野菜パターン
との関連は、一元配置分散分析およびカイ二乗検
と名付けた。第 2 因子は、洋菓子や和菓子、果物
定によって調べた。
の高摂取により特徴付けられるため間食パターン
食品や飲料の摂取量は、BDHQ(brief-type self-
と名付けた。第 3 因子は、パンやスパゲッティ、
administered diet history questionnaire)から推定し、
肉類や加工肉の高摂取と米飯や味噌汁の低摂取に
密度法によりエネルギー調整した。そして全項目
より特徴付けられるため洋食パターンと名付け
の摂取量を用いて主成分分析を実施し、食事パ
た。第 4 因子は、魚介類や、そば、うどんなどの
タ ー ン を 導 出 し た。 抽 出 因 子 数 は、 固 有 値 や
高摂取により特徴付けられるため、魚介類・日本
scree プロット、因子の解釈のしやすさから決定
麺パターンと名付けた。
し、各食事パターンの因子得点を個人ごとに算出
朝食摂取状況と食事パターンとの関連を検討し
した。各食事パターンスコアの三分位により対象
たところ、朝食欠食者は、野菜パターンの者や間
者を 3 群に分け、クロス集計により朝食摂取状況
食パターンの者の割合が低く、洋食パターンの者
との関連を検討した。
の割合が高かった(表 3 )。
朝食摂取状況と T2DM 発症の関連性の検討に
8.9年の追跡期間中に、285名(男性231名,女
は、Cox 比例ハザードモデルを用いた。調整変数
性54名)が T2DM を発症した(粗発症率:8.2/1000
として、年齢、性別、総エネルギー摂取量、喫煙
人年)。朝食を「必ず毎日食べる」と回答した者
状況、アルコール摂取量、余暇の身体活動、仕事
を基準とした、朝食を「ほぼ毎日食べるがときど
時の身体活動、糖尿病の家族歴、食べる速さ、自
き食べない」、「週 3 ~ 5 日食べる」、「週 1 ~ 2 日
覚ストレス、睡眠時間、勤務形態、満腹摂取、各
食べる」、「食べない」と回答した者の T2DM 発
食事パターン変数、body mass index(BMI)、fast-
症 HR は、順に1.06(0.73-1.54)、2.08(1.21-3.58)、
ing blood glucose(FBG)値を用いた。解析結果は、
1.33(0.80-2.22)、2.11(1.19-3.73)であったが(表
朝食を「必ず毎日食べる」と回答した者を基準と
4 )、欠食日数に応じて T2DM 発症 HR が高くな
し、
「ほぼ毎日食べるがときどき食べない」、「週
る線形傾向性は明確ではなかった。
3 ~ 5 日食べる」、「週 1 ~ 2 日食べる」、「食べな
朝食欠食者は、朝食摂取者に比べ、T2DM 発症
い」と回答した者の T2DM 発症ハザード比(HR)
HR が有意に高値であった(粗発症率:13.9/1000
と95%信頼区間(95% CI)として表した。次いで、
人年 vs. 7.5 /1000人年,Crude HR: 1.85)。その他
朝食摂取者を基準とし、朝食欠食者の T2DM 発
生活習慣や心理社会的要因、各食事パターンスコ
症 HR と95% CI も算出した。また、夜勤者を除
アを調整すると、関連性はやや減弱する傾向が認
(52)
表 1 .ベースライン時(2002年)の朝食摂取状況による対象者の生活習慣、心理社会的要因などの特徴
Table 1.Participants' demographic, lifestyle, and psychosocial factor characteristics according to breakfast consumption status at baseline, Aichi, 2002.
Breakfast eatersa
n
Breakfast skippersb
4188
P valuec
443
Men, %
78.2
73.8
Age, year
47.8
(7.1)
46.0
(6.8)
< 0.001
Body mass index, kg/m2
22.9
(2.8)
22.9
(3.0)
0.78
Fasting blood glucose, mg/dl
d
Family history of diabetes mellitus, yes, %
92.3(92.0 - 92.6)
0.04
92.5
(91.5 - 93.4)
0.74
14.8
17.4
0.14
Current
26.7
44.9
< 0.001
Former
23.4
14.2
Never
49.9
40.9
Leisure-time physical activity, ≥ 3 days/week, %
75.5
84.2
< 0.001
61.6
< 0.001
Smoking status, %
Sleep duration, < 7 hours/day, %
Total energy intake, kcal/day
52.9
1942
(538)
1740
(553)
< 0.001
13.6
(19.2)
18.1
(26.4)
Very fast
11.4
12.9
Relatively fast
35.8
37.9
Medium
38.5
35.2
Slow
12.6
12.4
Satiation eater, %
61.2
59.1
0.24
5.3
7.7
< 0.01
< 0.001
Alcohol consumption, g/day
< 0.001
Eating speed, %e
Work-time physical activity, yes, %
0.67
Work schedule, %e
Without shift work or night shifts
84.6
78.3
With shift work but without night shifts
1.9
1.4
Without shift work but with night shifts
6.8
7.9
With shift work including night shifts
4.9
11.3
Very much
11.0
13.8
Much
40.1
39.7
Ordinary
43.8
39.1
4.9
6.8
Perceived stress, %e
Little
0.02
Values are reported as mean
(standard deviation)
or percentage.
Breakfast eater was defined as those having breakfast eating frequency of‘every day or almost every day with occasional skips'.
b
Breakfast skipper was defined as those having breakfast eating frequency of‘3-5 days/week, 1-2 days/week, or none'.
c
Obtained from ANOVA and Chi-square test for continuous and categorical variables, respectively.
d
Geometric mean
(95% confidence interval)
.
e
Proportions in each category do not add up to 100% when there were missing data.
a
められたが、結果は変わらなかった(Model 2
HR: 1.65)
。更に、BMI や FBG 値を調整しても結
考 察
果は変わらなかった(Model 3 HR: 1.70)。また、
中高年の日本人男女において、朝食欠食者は朝
こ の 関 連 は、 夜 勤 者 を 除 外(HR: 1.88, 95% CI:
食摂取者に比べ、現喫煙者が多く、飲酒量が多い
1.29-2.75)
、追跡期間が 3 年未満の T2DM 発症例
など、好ましくない生活習慣を保有していること
を除外した分析においても認められた(HR: 1.95,
が認められた。この関連は、男女ともに同様に認
95% CI: 1.26-3.02)
。
められた。また、朝食欠食者は、ストレスを強く
(53)
表 2 .各食事パターンに対する各食品の因子負荷量
Table 2.Factor loading of each food item for each dietary pattern.*
Western dietary
pattern
Seafood and Japanese
noodle pattern
―
―
―
―
0.18
―
―
―
0.18
―
―
―
―
0.18
Small fish with bones
―
―
―
0.18
Dried fish, salted fish
―
―
―
0.25
Oily fish
―
―
―
0.21
Vegetable pattern
Snack pattern
Chicken
―
Pork and beef
―
Ham, sausages and bacon
Squid, octopus, shrimp and clam
Non-oily fish
―
―
―
0.19
Green leafy vegetables
0.17
―
―
―
Cabbage and chinese cabbage
0.15
―
―
―
Carrots and pumpkins
0.17
―
―
―
Other root vegetables
0.16
―
―
―
Cakes and cookies and biscuits
―
0.23
―
―
Japanese sweets
―
0.25
―
―
Rice crackers and Japanese style pancakes
―
0.21
―
―
Citrus fruits including oranges
―
0.17
―
―
Strawberries, persimmons and kiwi fruit
―
0.15
―
―
Other fruits
―
0.17
―
―
Breads
―
―
0.15
―
Buckwheat noodles
―
―
―
0.17
Japanese wheat noodle
―
―
―
0.20
Spaghetti, macaroni
―
―
0.16
―
Rice
―
―
-0.25
―
Miso soup
―
―
-0.19
―
Beer
―
-0.15
―
―
*Factor loading less than ∓ 0.15 is shown by“―”. Food items with factor loading less than ∓ 0.15 are excluded
(low-fat milk and yoghurt, full-fat milk and yoghurt, liver, canned tuna, potatoes, eggs, tofu, natto, salted green and yellow vegetable pickles, other salted
vegetable pickles, raw vegetables used in salad, radishes and turnips, tomatoes and tomato ketchup, mushrooms, seaweeds, ice cream,
mayonnaise and salad dressing, instant noodles and Chinese noodles, green tea, black and oolong tea, coffee, cola and sweetened soft
drinks, fruit juice and vegetable juice, sake, shochu and shochu mixed with water or a carbonated beverage, whisky, and wine)
.
感じている者や夜勤者が多いことも認められ、仕
の交絡要因の調整後も、朝食欠食は追跡期間中の
事の状況や心理社会的要因が朝食欠食と関連して
T2DM 発症と統計学的に有意な正の関連を示した。
いることが示唆された。更に、朝食欠食者では、
本研究結果は、追跡後の FBG 値が110 mg/dl 以
パンや肉類、加工肉の摂取が多く、米飯や味噌汁
上で定義した耐糖能異常または T2DM をエンド
の摂取が少ない洋食パターンを保有している者の
ポイントとした日本の先行研究とも一致した結果
割合が高く、緑黄色野菜やその他の野菜などを多
と考えられた7)。
く摂取する健康的な食事パターンを保有している
本 研 究 に お い て、 朝 食 摂 取(欠 食) 頻 度 と
者の割合が低いことから、朝食摂取習慣と食品選
T2DM 発症の間の、量反応関係は明確ではなかっ
択の間にも関連があることが示唆された。
た。この結果は、米国の白人男女と黒人男性にお
朝食欠食は、仕事の状況、心理社会的要因、そ
いて、朝食摂取頻度と T2DM 発症の間に段階的
して食事パターンと関連することが示唆された
な負の関連を認めた CARDIA 研究の結果とは一
が、これらの変数および朝食欠食に関連する生活
致しなかった5)。その理由は不明であるが、米国
習慣、ベースラインの BMI や FBG 値を含む種々
の他の研究では、量反応関係の検討はされていな
(54)
表 3 .朝食の摂取状況と各食事パターンとの関連
Table 3.The association between breakfast intake and each dietary pattern.
Breakfast eatersa
Breakfast skippersb
P valuec
T1(Low)
31.7
48.8
< 0.001
T2
33.7
30.0
T3(High)
34.6
21.2
T1(Low)
32.4
42.4
T2
33.7
30.0
T3(High)
34.0
27.5
T1(Low)
34.6
21.2
T2
33.0
36.8
T3(High)
32.4
42.0
33.7
29.6
T2
33.3
33.6
T3(High)
33.3
36.8
Vegetable pattern
Snack pattern
< 0.001
Western dietary pattern
< 0.001
Seafood and Japanese noodle pattern
T1(Low)
0.15
Values are reported as percentage.
Breakfast eater was defined as those having breakfast eating frequency of‘every day or almost every day with occasional skips'.
b
Breakfast skipper was defined as those having breakfast eating frequency of‘3-5 days/week, 1-2 days/week, or none'.
c
Obtained from Chi-square test.
a
表 4 .朝食摂取状況による 2 型糖尿病発症率およびハザード比
(2002~2011年)
Table 4.Incidence rates and hazard ratios of type 2 diabetes mellitus incidence according to breakfast consumption, Aichi, 2002-2011.
Frequency of eating breakfast
n of cases/N
Every day
Almost every day with
occasional skips
3-5 days/week
1-2 days/week
None
204/3648
35/540
15/121
17/197
14/125
16.6
11.4
15.4
Crude incidence rate
7.4
8.4
Crude HR(95% CI)
(
1 reference)
1.13
(0.79-1.62)
a
2.25
(1.33-3.80) 1.54
(0.94-2.53) 2.08
(1.21-3.58)
Model 1b HR(95% CI)
1.14
(0.79-1.64)
1.99
(1.15-3.42) 1.49
(0.90-2.48) 2.06
(1.18-3.60)
Model 2c HR(95% CI)
1.12(1.09-3.26)
1.88
(1.09-3.26) 1.43
(0.86-2.38) 1.92(1.09-3.39)
Model 3d HR(95% CI)
1.06
(0.73-1.54)
2.08
(1.21-3.58) 1.33
(0.80-2.22) 2.11(1.19-3.73)
n of cases/N
Crude incidence rate
Breakfast eaterse
Breakfast skippersf
239/4188
46/443
7.5
Crude HR(95% CI)
Model 1b HR(95% CI)
Model 2 HR(95% CI)
c
Model 3d HR(95% CI)
13.9
1.85
(1.35-2.54)
1(reference)
1.74
(1.25-2.43)
1.65
(1.18-2.31)
1.70
(1.22-2.38)
CI; confidence interval, HR; hazard ratio, n; number, N; number of participants.
a
Crude incidence rate
(per 1000 person-years).
b
Model 1: Adjusted for age, sex, total energy intake, smoking status, alcohol consumption, leisure-time physical activity, work-time
physical activity, family history of diabetes mellitus, eating speed, perceived stress, sleep duration, work schedule, and satiation eater.
c
Model 2: Model 1 + score of each dietary pattern.
d
Model 3: Model 2 + body mass index + fasting blood glucose
(Log-transformed)
.
e
Breakfast eater was defined as those having breakfast eating frequency of‘every day or almost every day with occasional skips'.
f
Breakfast skipper was defined as those having breakfast eating frequency of‘3-5 days/week, 1-2 days/week, or none'.
(55)
かった3,4)。
済的要因が比較的均一な中高年日本人公務員を対
朝食欠食が T2DM 発症をきたすメカニズムと
象としているが、不明または調査されていない交
して、第一に、朝食欠食者で報告されている昼食
絡要因があるかもしれない。しかし、朝食欠食が
後の血糖値およびインスリン値の有意な高値が挙
不健康な生活習慣と関連していることや、他の生
げ ら れ る。 短 期 的 な 高 血 糖 状 態 の 指 標 で あ る
活習慣や仕事の状況、心理社会的要因に独立して
1,5-anhydroglucitol 値 が、HbA1c 値 に 独 立 し て
T2DM と関連することが示されたことから、朝食
T2DM 発症と有意な関連を示すとする報告も存在
を欠食しないような生活習慣を身に付けること
することから、朝食欠食によって引き起こされた
は、T2DM 予防に有用になるかもしれないと考え
代謝上の変化が累積することによって、T2DM リ
られた。
スク上昇に繋がったかもしれない 。第二に、朝
6)
総 括
食欠食により昼食などの食事摂取量が多くなる可
能性がある。本研究対象者の総エネルギー摂取量
中高年の日本人男女において、朝食欠食は T2DM
は、朝食摂取者で1942 kcal/day、朝食欠食者で
のリスクを高めうることが示された。この関連は、
1740 kcal/day であり、朝食欠食者は朝食摂取者に
他の生活習慣や仕事の状況、心理社会的要因、ベー
比べ、 1 食当たりのエネルギー摂取量が多いこと
スラインの BMI および FBG 値を考慮しても変わ
が推測された。これは食後の血糖値とインスリン
らなかった。
値に、より過大な反応を引き起こし、結果として
謝 辞
T2DM の発症と関連したかもしれない。最後に、
他の生活習慣の残余交絡の可能性である。本研究
では、多くの生活習慣を調整しているが、朝食欠
食者は T2DM 発症リスクの上昇に繋がる他の生
活習慣や行動特性を有するのかもしれない。
本研究の限界として、第一に、再現性が確認さ
本研究に対し研究助成を賜りました公益財団法人明治
安田厚生事業団に深く感謝申し上げます。また、本研究
を遂行するにあたりご指導を賜りました名古屋大学医学
系研究科国際保健医療学・公衆衛生学 青山温子教授、本
研究にご協力をいただいた愛知職域コホート研究対象者
の皆様、健康管理部門の皆様に感謝いたします。
れた質問票を用いているが、朝食摂取頻度は自己
参 考 文 献
申告によるもので、朝食の内容に関する定義や朝
食前の空腹時間に関する解釈は主観的評価に基づ
いていることがある。しかし、朝食の内容や時間
が均一でないと想定される夜勤者を除外した分析
でも、同様の関連が認められた。また、朝食の栄
養素構成に関する情報がないため、朝食摂取と
T2DM の関連において、朝食の質の効果を評価で
きなかった。次に、主成分分析では、主観的な判
断により、抽出する因子の数の決定や食事パター
1)Farshchi HR, Taylor MA, Macdonald IA(2005)
: Deleterious effects of omitting breakfast on insulin sensitivity and
fasting lipid profiles in healthy lean women. Am J Clin
Nutr, 81, 388-396.
2)厚生労働省(2014):平成 25 年国民健康・栄養調査
報告.
3)Mekary RA, Giovannucci E, Cahill L, Willett WC, van
Dam RM, Hu FB(2013)
: Eating patterns and type 2 diabetes risk in older women: breakfast consumption and eating frequency. Am J Clin Nutr, 98, 436-443.
ンの名前付けを行っている。しかし、本研究で抽
4)Mekary RA, Giovannucci E, Willett WC, van Dam RM,
出された食事パターンは、日本人における先行研
Hu FB(2012)
: Eating patterns and type 2 diabetes risk in
究で抽出された食事パターンと類似していた。更
men: breakfast omission, eating frequency, and snacking.
に、 本 研 究 で は、 1 回 の FBG 値 測 定 に よ っ て
T2DM 発症を定義した。この定義は、疫学研究に
おいてよく採用されているが、HbA1c 値または経
口ブドウ糖負荷試験結果を併せて用いることがよ
り理想的である。最後に、本研究結果からは、因
果関係について断言できない。本研究は、社会経
Am J Clin Nutr, 95, 1182-1189.
5)Odegaard AO, Jacobs DR, Steffen LM, Van Horn L,
Ludwig DS, Pereira MA(2013)
: Breakfast frequency and
development of metabolic risk. Diabetes Care, 36, 31003106.
6)Selvin E, Rawlings AM, Grams M, Klein R, Steffes M,
Coresh J(2014)
: Association of 1,5-Anhydroglucitol with
(56)
diabetes and microvascular conditions. Clin Chem, 60
(11)
, 1409-1418.
7)Sugimori H, Miyakawa M, Yoshida K, Izuno T, Takahashi
E, Tanaka C, Nakamura K, Hinohara S(1998)
: Health risk
assessment for diabetes mellitus based on longitudinal
analysis of MHTS database. J Med Syst, 22, 27-32.
(57)
第 30 回若手研究者のための健康科学研究助成成果報告書
2013 年度 pp.57~63(2015.4)
耐糖能異常を有する地域住民への歯周病ケアを含む保健指導が
インスリン抵抗性に及ぼす影響に関する無作為化比較試験
江 口 依 里*
西 岡 信 治** 三 好 規 子***
丸 山 広 達**** 古 川 慎 哉*** 斉 藤 功*****
谷 川 武****
EFFECT OF PERIODONTAL TREATMENT ON IMPAIRED GLUCOSE
TOLERANCE: A RANDOMIZED CONTROLLED TRIAL
Eri Eguchi, Shinji Nishioka, Noriko Miyoshi, Koutatsu Maruyama,
Shinya Furukawa, Isao Saito, and Takeshi Tanigawa
Key words: impaired glucose tolerance, periodontal treatment, 75g Oral glucose tolerance test,
bleeding on probing, randomized controlled trial.
ン抵抗性や感受性等への効果について、無作為化
緒 言
比較試験(RCT)の手法を用いて検討した報告は
歯周病と糖尿病との関連について、歯周治療を
見当たらない。また、糖尿病は発症した時点で膵
行うことにより糖尿病患者における血糖値
、
β 細胞機能が健常時の 3 ~ 5 割まで低下すること
HbA1c 値 、空腹時インスリン値やインスリン抵
が報告されており、耐糖能異常が判明した時点か
抗 性 を 示 す HOMA-IR(homeostasis model assess-
らの歯周治療と保健指導が糖尿病の発症を予防す
ment index for insulin resistance)等を改善し 、代
るために必要であると考えられるため、耐糖能異
謝に関しても改善する可能性がある と報告され
常者に対する研究の必要性は高い。
ている。一方で歯周治療を実施しても 2 型糖尿病
そこで本研究では、2011~2012年に愛媛大学が
患者の HbA1c 値を改善しなかったという報告
東温市において実施した詳細健診(東温スタディ)
4,6)
6)
7)
2)
3)
もある。これらの研究は対象が 2 型糖尿病患者で
受 診 者 の う ち、75g ブ ド ウ 糖 負 荷 試 験(75g
あり、投薬等の治療介入を受けているため、歯周
OGTT)により耐糖能異常と判定された者につい
治療のみの効果について評価できていないことが
て、歯周治療の介入が、耐糖能異常者のインスリ
考えられる。
ン抵抗性などに及ぼす影響について、RCT の手
これまでに、糖尿病境界型である耐糖能異常者
法を用いて検討することを目的とした。
のみを対象として歯周治療の介入によるインスリ
*
**
***
****
*****
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科公衆衛生学
Department of Public Health, Okayama University Graduate School of Medicine, Dentistry, and
Pharmaceutical Sciences, Okayama, Japan.
愛媛大学大学院医学系研究科糖尿病内科学
Department of Molecular and Genetic Medicine, Ehime University Graduate School of Medicine,
Ehime, Japan.
愛媛大学大学院医学系研究科疫学・予防医学
Department of Epidemiology and Preventive Medicine, Ehime University Graduate School of
Medicine, Ehime, Japan.
順天堂大学大学院医学研究科公衆衛生学
Department of Public Health, Juntendo University Graduate School of Medicine, Tokyo, Japan.
愛媛大学大学院医学系研究科地域システム看護学 Department of Community Health Systems Nursing, Ehime University Graduate School of
Medicine, Ehime, Japan
(58)
期介入群の 1 名、後期介入群の 2 名が都合により
研 究 方 法
途中離脱し、解析対象は前期介入群37名、後期介
A.対象者
入群34名の計71名となった。
東温市在住の30~79歳の一般住民男女で、愛媛
両群に対して 1 ~ 6 か月に運動指導と栄養指導
大学が2011~2012年に実施した詳細健診に参加し
を行うと同時に「前期介入群」に対して歯周治療
た924名のうち、糖尿病境界型と判定された185名
介入を行い、 7 ~12か月に「後期介入群」に対し
のなかで、要治療と診断された者とその時点で既
て歯周治療介入を行った。ベースライン時、 6 か
に内服治療を受けている者を除き、この研究への
月後、12か月後、両群に対して歯周病検査、血液
参加を希望した74名(平均年齢66.5 ∓ 7.64歳)を
検査、その他の検査を実施した(図 1 )。
対象とした(図 1 )
。
C.測定項目
B.研究デザイン
1 .歯周病検査
対象者(n=74)を 1 ~ 6 か月に歯周治療と歯
1)ポケットの深さ(PPD)
科保健指導を実施する「前期介入群」(n = 38,
コンタクトプローブ(日本歯研工業株式会社製)
解析対象 n = 37)と、 7 ~12か月にそれらを実施
を使用して、事前に WHO が提唱する地域歯周疾
する「後期介入群」(n = 36,解析対象 n = 34)に
患指数の標準化プログラムに準じてキャリブレー
無作為割り付けしたクロスオーバー無作為化比較
ションを行った 2 名の測定者により 1 歯に付き 6
試験を2011年10月~2013年12月にかけて行った
点を計測した。
(愛媛大学医学部倫理委員会承認番号:疫23- 6 ,
UMIN000014585)。研究実施中、 7 ~12か月に前
Toon Health Study*
Normal
(n = 673, 72.8%)
2)プロービング時の出血(BOP)
歯周病検査時の出血を 1 歯 4 か所(近心,頬側,
(n = 924)
(2011 ~ 2012)
Impaired glucose
tolerance
(n = 185, 20.0%)
Diabetes mellitus
(n = 66, 7.1%)
Candidates for this Study(n = 74)
(Randomization)
Baseline
Previous term intervention
group(n = 38)
Later term intervention
group(n = 36)
Health guidance(Nutrition, Exercise)
Periodontal treatment
6 months
Dropout
(n = 1)
12 months
Examination**(n = 74)
Drop out
(n = 2)
Periodontal treatment
Examination**(n = 71)
図 1 .研究デザイン
Fig.1.Design of the Study.
*
Toon Health Study : This cohort study was initiated in 2009 to characterize the risk factors for cardiovascular disease in Toon City.
**
Examination: HbA1c, hs-CRP, 75g OGTT, probing pocket depth
(PPD)
, bleeding on probing
(BOP)
.
(59)
遠心,舌側)測定し、出血点の合計数から出血箇
応のないt検定を用いて比較した。また介入期に
所の割合を計算し、口腔内の炎症を評価した。
おける各指標の相関関係を検証するため、Pear-
BOP =(出血点合計数/残存歯数× 4 )
×100(%)
son の相関分析を行った。有意水準は P < 0.05と
3)唾液検査
し、統計解析には SAS 9.4(SAS Institute Inc)を
健診会場において専用の無糖ガムを 5 分間咀嚼
用いた。
させ、採取した唾液すべてを専用容器に入れた。
結 果
採取した唾液は冷蔵保存し、同日中に検査した。
乳酸脱水素酵素(LDH)値は標準化対応法により、
A.対象者の特性
遊離ヘモグロビン値は免疫測定法により測定した。
ベースライン時の「前期介入群」
(n = 37)と「後
2 .血液検査
期介入群」(n = 34)の特性を表 1 に示す。平均
食後10時間以上の空腹時採血により、HbA1c
年齢はそれぞれ66.3 ∓ 7.47歳と66.9 ∓ 8.11歳、男
(NGSP)値、空腹時血糖値・インスリン値、血
性の割合は37.8%と38.2%、BMI は23.3 ∓ 3.34 kg/
清中の高感度 C 反応性蛋白(hs-CRP)値、総コ
m2 と23.7 ∓ 2.96 kg/m2 であった。すべての指標で
レステロール値などを測定した。空腹時採血直後
両群の間に有意な差は認めなかった(表 1 )。
に、75 g のグルコース溶液(Toleran G)を摂取し、
B.介入期と非介入期の差
1 時間後、 2 時間後の採血により血糖 1 時間値・
介入期と非介入期の各指標の変化量の平均値 ∓
2 時間値、インスリン 1 時間値・ 2 時間値を測定
標準偏差(SD)を表 2 に示す。歯周病の指標で
し た。 そ れ に よ り、 イ ン ス リ ン 抵 抗 性 を 示 す
ある BOP と PPD は、ともに介入により有意な改
HOMA-IR、膵 β 細胞機能を示す HOMA-β(homeo-
善を認めた(P < 0.001)。しかし、その他の指標
stasis model assessment index for pancreatic beta-
の変化量には有意な差を認めなかった(表 2 )。
cell function)、インスリン感受性を示す Matsuda
C.介入期の BOP の高低による変化量の差
Index の値を算出した。
介入期の BOP を中央値で BOP < 37(n = 36)
(A:
3 .その他の検査
介入開始時に口腔内出血の割合が低いグループ)
身 長 お よ び 体 重 を 測 定 し て body mass index
と BOP ≧ 37(n = 35)(B:介入開始時に口腔内
(BMI)を計算した。安静時の上腕血圧は 2 回測
出血の割合が高いグループ)の 2 グループに分け、
定し、 その平均値を使用した。
D.歯周病介入治療
そのグループごとの各指標の介入期における変化
量の平均値 ∓ SD を表 3 に示す。この 2 つのグ
「前期介入群」に対しては 1 ~ 6 か月、「後期介
ループを比較すると BMI、空腹時インスリン値、
入群」に対しては 7 ~12か月に歯科医師による歯
HOMA-IR、HOMA-β、Matsuda Index においてそ
石除去と歯根面研磨(スケーリング・ルートプ
れぞれ A グループでは、B グループと比較して
レーニング:SRP)と歯周病予防効果のある含嗽
有意な改善を認めた(P < 0.05)(表 3 )。
剤よる含嗽指導を行った。保存不可能な歯は抜歯
D.BOP、BMI 変化量と各指標の相関
した。
E.統計処理
介入期における BOP と BMI 変化量に対する各
指標の変化量の相関を表 4 に示す。BOP と BMI
両群のベースライン時における各指標を対応の
変化量は有意ではないものの、正の相関の傾向を
ない t 検定にて比較した。次に両群を合わせた歯
認めた(図 2 a)。BOP と血糖 2 時間値との間には、
周治療介入時を介入期(n = 71)
、非介入時を非
有意な正の相関があった(図 2 b)。また BMI の
介入期(n = 71)として、各指標の変化量につい
変化量は HbA1c 値、HOMA-IR、HOMA-β、血糖
て対応のあるt検定を用いて比較した。更に介入
2 時間値、空腹時インスリン値、インスリン 1 時
期において介入開始時の歯周病の程度により、介
間値・ 2 時間値と有意な正の相関を認め、Matsu-
入効果が異なる可能性を考え、介入期を BOP の
da Index とは有意な負の相関を認めた(P < 0.05)
中央値で 2 群に分けて、各指標の変化量の差を対
(表 4 )。
(60)
表 1 .前期介入群と後期介入群におけるベースライン時の各指標の平均値と割合
Table 1.Means and proportions of each facter at baseline for the previous and later term intervention groups
(n = 71)
.
Age(years)
Previous term intervention
group(n = 37)
Later term intervention
group
(n = 34)
Mean ∓ SD
Mean ∓ SD
66.3 ∓ 7.47
*
Male sex(%)
66.9 ∓ 8.11
P value
0.73
37.8
38.2
0.97
Body mass index(kg/m2)
23.3 ∓ 3.34
23.7 ∓ 2.96
0.58
Waist circumference
(cm)
86.5 ∓ 8.15
87.0 ∓ 7.25
0.79
c NGSP)(%)
HbA1(
5.66 ∓ 0.26
5.70 ∓ 0.29
0.60
*
Fasting serum glucose
(mmol/l)
5.2(5.0­5.5)
5.2
(5.0-5.8)
0.72
*
1h serum glucose(mmol/l)
9.6(8.5­11.4)
10.1
(8.7-11.0)
0.82
8.7(8.1­9.8)
8.5
(8.2-9.7)
0.51
5.67(3.9­8.4)
5.7
(4.2­8.6)
0.50
*
2h serum glucose(mmol/l)
Fasting serum insulin
(μU/ml)*
*
1h serum insulin
(μU/ml)
47.9(31.8­71.1)
46.9
(31.5­99.8)
0.43
2h serum insulin
(μU/ml)*
53.2(41.6­70.3)
61.4
(42.1­94.9)
0.13
HOMA-IR
1.5 ∓ 0.81
1.7 ∓ 1.19
HOMA-β
71.1 ∓ 34.7
77.6 ∓ 43.79
0.49
6.5 ∓ 3.67
6.6 ∓ 5.74
0.94
Matsuda Index
0.50
Systolic blood pressure(mmHg)
130.4 ∓ 18.5
133.2 ∓ 20.92
0.55
Diastolic blood pressure
(mmHg)
77.4 ∓ 10.8
79.6 ∓ 12.22
0.42
hs-CRP(mg/dl)
Total cholesterol, mg/dl
Habitural ethanol intake
(%)*
*
Current smoker(%)
*
Habitural exercise
(%)
0.16 ∓ 0.51
0.08 ∓ 0.15
0.36
209.2 ∓ 26.4
207.6 ∓ 24.9
0.79
50.0
52.9
0.80
7.9
2.9
0.36
60.5
55.9
0.69
24.4 ∓ 5.6
No. of existing teeth
24.4 ∓ 4.5
0.94
Bleeding on probing
(BOP)(%)
31.5 ∓ 18.6
31.1 ∓ 15.6
0.91
Mean pocket depth
(mm)
3.36 ∓ 0.62
3.23 ∓ 0.34
0.26
LDH in saliva(U/l)
443 ∓ 271
519 ∓ 454
0.40
Hemoglobin in saliva
(μg/dl)
2.55 ∓ 10.0
7.91 ∓ 20.5
0.17
c NGSP; National Glycohemoglobin Standardization Program). HOMA-IR; homeostasis model asHbA1c; hemoglobin A1(
sessment index for insulin resistance. HOMA-β; homeostasis model assessment index for pancreatic beta-cell function. hsCRP; high sensitivity C-reactive protein. LDH; lactate dehydrogenase. * : medians
(interquartile range)
or proportion.
考 察
上昇させ、そのヘモグロビンが炎症性サイトカイ
ン で あ る TNF-α、IL- 1 β、IL- 6 、IL- 8 な ど の 放
本研究では、RCT の手法を用い、歯周治療介
出を誘発する1)ことが報告されている。本研究に
入を実施したところ、介入開始時の口腔内出血が
おいては、歯周治療介入により、空腹時インスリ
少ない群において多い群と比較して糖尿病指標に
ン 値、HOMA-IR、HOMA-β、Matsuda Index の 糖
対する介入効果が大きいことが明らかになった。
尿病指標が口腔内出血の少ない群で、多い群と比
これまでの研究において、口腔内の血液中に含
較して改善したが、もともと口腔内出血の多い者
まれる鉄が、最も病原性の高い歯周病菌の 1 つで
では、歯周治療介入後の出血により、更に Pg 菌
ある P.gingivalis(Pg 菌)の栄養素であり、口腔
の数と病原性が増加し、炎症性サイトカインの更
内の出血により Pg 菌が増殖するとともに、その
なる放出を引き起こすことが、耐糖能の改善を妨
病原性も高まるという報告 や、歯周炎における
げる要因となっている可能性が考えられた。この
出血が、歯肉溝浸出液でヘモグロビンのレベルを
ことは、介入開始時の口腔内出血が低いほど、血
5)
(61)
表 2 .介入期と非介入期における各指標の変化量
Table 2.Changes in each measurement before and after the intervention and non-intervention periods.
Amount of change
intervention
(n = 71)
non-intervention
(n = 71)
Body mass index(kg/m2)
­ 0.36 ∓ 0.81
­ 0.27 ∓ 0.65
Waist circumference
(cm)
P value
0.50
­ 0.60 ∓ 4.40
­ 0.62 ∓ 4.99
0.96
c NGSP)(%)
HbA1(
0.01 ∓ 0.21
0.01 ∓ 0.27
0.96
Fasting serum glucose
(mmol/l)
0.01 ∓ 7.74
0.06 ∓ 0.46
0.61
1h serum glucose(mmol/l)
0.66 ∓ 40.1
­ 0.18 ∓ 1.99
0.06
2h serum glucose(mmol/l)
0.14 ∓ 36.5
­ 0.59 ∓ 2.28
0.12
Fasting serum insulin
(μU/ml)
0.06 ∓ 2.17
0.05 ∓ 2.29
0.97
1h serum insulin
(μU/ml)
2.81 ∓ 28.9
­ 1.03 ∓ 29.9
0.51
2h serum insulin
(μU/ml)
6.63 ∓ 35.1
0.14 ∓ 29.6
0.31
HOMA-IR
0.04 ∓ 0.61
0.01 ∓ 0.61
0.78
0.22 ∓ 26.7
0.84
HOMA-β
­ 0.78 ∓ 24.0
Matsuda Index
­ 0.43 ∓ 2.85
hs-CRP(mg/dl)
­ 0.02 ∓ 0.34
0.04 ∓ 0.26
BOP(%)
­ 37.0 ∓ 17.5
­ 24.5 ∓ 15.4
< 0.001
Mean pocket depth
(mm)
­ 0.6 ∓ 0.32
0.14 ∓ 0.27
< 0.001
LDH in saliva(U/l)
­ 88.1 ∓ 232.3
­ 65.7 ∓ 281.0
0.50
Hemoglobin in saliva
(μg/dl)
­ 1.36 ∓ 10.3
­ 2.36 ∓ 15.8
0.70
­ 0.18 ∓ 3.9
0.73
0.22
表 3 .介入開始時の BOP の値について層別した介入前後の各指標の変化量
Table 3.Changes in each measurement before and after the intervention stratified by baseline BOP levels.
Baseline BOP levels
< 37(n = 36)
≧ 37
(n = 35)
P value
Body mass index(kg/m2)
­0.60 ∓ 0.88
Waist circumference
(cm)
­1.4 ∓ 4.48
0.25 ∓ 4.20
0.11
c NGSP)(%)
HbA1(
0.02 ∓ 0.19
­0.01 ∓ 0.23
0.61
­0.01 ∓ 0.48
0.38 ∓ 0.7
0.66
0.61 ∓ 2.5
1.9 ∓ 3.6
0.86
Fasting serum glucose
(mmol/l)
1h serum glucose(mmol/l)
2h serum glucose(mmol/l)
­0.11 ∓ 0.65
0.01
0.29 ∓ 1.8
2.2 ∓ 4.1
0.07
Fasting serum insulin
(μU/ml)
­0.57 ∓ 1.84
2.31 ∓ 3.6
0.01
1h serum insulin
(μU/ml)
­0.27 ∓ 31.6
25.9 ∓ 44
0.37
2h serum insulin
(μU/ml)
4.60 ∓ 37.6
32.7 ∓ 77
0.62
0.20 ∓ 0.65
0.03
HOMA-IR
­0.12 ∓ 0.52
HOMA-β
­6.72 ∓ 27.2
5.33 ∓ 18.7
0.03
0.32 ∓ 2.14
­1.19 ∓ 3.29
0.03
Matsuda Index
hs-CRP(mg/dl)
0.027 ∓ 0.13
­0.071 ∓ 0.46
0.23
Mean pocket depth
(mm)
­0.58 ∓ 0.25
­0.57 ∓ 0.39
0.85
LDH in saliva(U/l)
­84.8 ∓ 234
­120.9 ∓ 282
0.56
1.05 ∓ 3.85
­3.84 ∓ 13.8
0.05
Hemoglobin in saliva
(μg/dl)
糖 2 時間値が改善しやすい結果が得られたことに
よって HbA1c 値が改善した先行研究とは異なっ
ついても当てはまると考えられる。
た2,4,6,8)。このことは、本研究の対象者が糖尿病境
本研究においては、全体では、歯周病指標に対
界型のみであること、歯周病の重症度が低い者が
する介入効果は認められたものの、糖尿病指標に
多いことに起因している可能性が考えられた。
対する介入効果は認められず、歯周治療介入に
(62)
表 4 .介入期における BOP および BMI 変化量と各指標の変化量との相関
Table 4.Correlation between BOP and the change of BMI, and the changes of each factor at intervention period.
BOP
Changes of each facter
BMI
HbA1c
HOMA-IR
HOMA-β
BMI
r
P value
r
P value
0.22
0.06
1
­ 0.10
0.41
0.30
0.012
0.043
0.72
0.40
< 0.001
0.135
0.26
0.25
0.034
Matsuda Index
­ 0.15
0.20
­0.38
0.001
Fasting serum glucose
­ 0.001
0.99
0.19
0.10
1h serum glucose
0.077
0.53
0.21
0.07
2h serum glucose
0.35
0.003
0.27
0.02
Fasting serum insulin
0.089
0.46
0.41
< 0.001
1h serum insulin
0.039
0.75
0.24
0.047
2h serum insulin
0.15
0.20
0.38
0.001
Mean pocket depth
0.03
0.81
­0.08
△BMI
△ 2h serum glucose
r = 0.22
P = 0.06
1.5
r = 0.35
P = 0.003
150
1
100
0.5
0
-0.5 0
0.53
20
40
60
80
100
0
-1
-1.5
0
20
40
60
80
100
-50
-2
-2.5
-3
50
-100
BOP
図 2 a.BOP と BMI 変化量の相関
Fig.2a.Correlation between BOP and the change of BMI.
Δ BMI; change of BMI.
BOP
図 2 b.BOP と血糖 2 時間値変化量の相関
Fig.2b.Correlation between BOP and the change of 2h serum
glucose.
Δ 2h serum glucose; change of 2h serum glucose.
参 考 文 献
総 括
投薬等の治療介入を受けていない耐糖能異常者
において、歯周治療開始時の口腔内出血が少ない
者では、多い者に比べて歯周治療介入の糖尿病関
1)Bodet C, Chandad F, Grenier D(2007)
: Hemoglobin and
LPS act in synergy to amplify the inflammatory response.
J Dent Res, 86, 878-882.
2)Engebretson S, Kocher T(2013)
: Evidence that periodon-
連指標の改善への効果が認められやすい可能性が
tal treatment improves diabetes outcomes. J Periodontol,
示唆された。
84, S153-S169.
3)Engebretson SP, Hyman LG, Michalowicz BS, Schoenfeld
謝 辞
本研究に対し助成をいただいた公益財団法人明治安田
厚生事業団に深く感謝申し上げます。また本研究の実施
にあたり貴重な助言をいただきました西田亙先生(にし
だわたる糖尿病内科)、大澤春彦教授(愛媛大学大学院医
学系研究科)に深謝申し上げます。最後に、本研究にご
協力いただいた東温スタディ関係者の皆様に厚くお礼申
し上げます。
ER, Gelato MC, Hou W, Seaquist ER, Reddy MS, Lewis
CE, Oates TW, Tripathy D, Katancik JA, Orlander PR,
Paquette DW, Hanson NQ, Tsai MY(2013)
: The Effect of
nonsurgical periodontal therapy on Hemoglobin A1c levels
in persons with type 2 diabetes and chronic periodontitis: a
randomized clinical trial. JAMA, 310, 2523-2532.
4)Evanthia L, Panos NP(2011): Diabetes mellitus and periodontitis: a tale of two common interrelated diseases. Nat
Rev Endocrinol, 7, 738-748.
5)Janina PL(2010)
: Metal uptake in host-pathogen interac-
(63)
tions: role of iron in Porphyromonas gingivalis interactions
sistance and metabolic control after periodontal interven-
with host organisms. Periodontology 2000, 52, 94-116.
tion in patients with type 2 diabetes and chronic periodon-
6)Preshaw PM, Alba AL, Herrera D, Jepsen S, Konstantinidis
A, Makrilakis K, Taylor R(2012)
: Periodontitis and dia-
titis. Intern Med, 50, 1569-1574.
8)Teeuw WJ, Gerdes VEA, Loos BG(2010)
: Effect of peri-
betes: a two-way relationship. Diabetologia, 55, 21-31.
odontal treatment on glycemic control of diabetic patients:
7)Sun WL, Chen LL, Zhang SZ, Wu YM, Ren YZ, Qin GM
a systematic review and meta-analysis. Diabetes Care, 33,
(2011): Inflammatory cytokines, adiponectin, insulin re-
421-427.
第 30 回若手研究者のための健康科学研究助成成果報告書
(64)
2013 年度 pp.64~68(2015.4)
運動意欲と食リズムのクロストーク
―摂食促進ホルモン・グレリンによる自発運動量制御機構の解明―
大 木 剛*
田 尻 祐 司*
御 船 弘 治**
滿 園 良 一*** 児 島 将 康****
CROSSTALK BETWEEN VOLUNTARY EXERCISE AND EATING
RHYTHM: A PUTATIVE MECHANISM RELATED TO
GHRELIN, AN EATING PROMOTION HORMONE
Tsuyoshi Ohki, Yuji Tajiri, Hiroharu Mifune, Ryoichi Mitsuzono,
and Masayasu Kojima
Key words: obesity, voluntary exercise, eating rhythm, ghrelin.
だけではなく、摂食促進作用、脂肪蓄積など代謝
緒 言
系に対するさまざまな作用がみられる。定刻に給
定期的な運動習慣は生活習慣病の予防や治療に
餌されている動物が給餌の直前に活動性を高める
おいて有効である。肥満はインスリン抵抗性を惹
現 象 は、 食 物 予 期 活 動(food anticipatory activity;
起し、糖尿病、高血圧など多くの生活習慣病の原
FAA)と呼ばれており、グレリンが FAA におい
因となる。肥満者には“食行動のずれとくせ”す
て中心的な役割を果たしているという報告もあ
なわち食リズム異常がしばしば認められる 。こ
る3)。したがって、自発活動量や体内エネルギー
の 特 徴 的 な 食 行 動 の ず れ は“む ち ゃ 喰 い 障 害
代謝の日内リズムの恒常性に摂食促進ホルモンの
5)
(binge eating)
” と表現され,肥満治療を困難な
5)
グレリンが関与している可能性が考えられる。
ものとしている大きな原因である。一方、肥満治
本研究はグレリンの摂食・代謝リズムや自発運
療に定期的な運動指導を取り入れることによりそ
動量を制御するメカニズムおよび両者のクロス
の後自主的に運動を継続できるケースにときどき
トークにおけるグレリンの役割を明らかにするこ
遭遇するが、この動機付けにかかわる要素に関し
とを目的とする。
ての研究はほぼ皆無である。
グレリンは、1999年に Kojima et al.2)によりラッ
研 究 方 法
トおよびヒトの胃から発見された28個のアミノ酸
動物実験は「久留米大学における動物実験に関
からなるペプチドであり、その生理活性として強
する指針」に従い、臨床研究は「久留米大学倫理委
力な成長ホルモン(GH)分泌促進作用を有する
員会」の承認を得て実施した(承認番号:14131)。
*
**
***
****
久留米大学医学部内分泌代謝内科
Division of Endocrinology and Metabolism, Kurume University School of Medicine, Fukuoka, Japan.
久留米大学医学部動物実験センター
Institute of Animal Experimentation, Kurume University School of Medicine, Fukuoka, Japan.
久留米大学健康スポーツ科学センター Institute of Health and Sports Science, Kurume University, Fukuoka, Japan.
久留米大学分子生命科学研究所
Department of Molecular Genetics, Institute of Life Sciences, Kurume University, Fukuoka, Japan.
(65)
A.野生型 SD ラットを用いた実験
成分と交感神経と副交感神経活動によって影響を
4 週齢の雄性 SD ラットを 4 群に群分けし、16
受ける LF 成分を抽出し、LF / HF 比を交感神経活
週齢までの12週間以下の条件で飼育した。
動の指標とした。ActiHRR を24時間装着し、HF
① CD-S 群:コントロール食(CD: 10 kcal% fat,
成分、LF 成分および LF / HF 比を観察した。また、
D12450B, EPS 益新)にて飼育。② CD-Ex 群:CD
QOL 評価として SF-366)を施行した。
D.統計解析
にて飼育。 6 週齢時から隔週 3 日間、回転かご付
きエネルギー代謝測定用チャンバー(小動物用エ
JMP Pro version 11(SAS Institute)を用いて解
ネルギー代謝測定システム,アルコシステム)に
析した。 2 群間の比較は、対応がない場合は Stu-
移して自発運動を行わせた。③ HFD-S 群:高脂
dent's t-test、対応がある場合は Paired t-test により、
肪食(HFD: 60 kcal% fat, D12492, EPS 益新)にて
4 群間の比較は One-way ANOVA with Tukey's HSD
飼育。④ HFD-Ex 群:HFD にて飼育。CD-Ex 群と
test により検定した。危険率 5 %未満を有意とし
同様に 6 週齢時から隔週 3 日間自発運動を行わせ
た。
た。16週齢の時点で上記エネルギー代謝測定シス
結 果
テムにより各群の活動リズムおよびエネルギー
A.高脂肪食下の食リズム異常と自発運動の効
代謝を測定し、実験動物用マイクロ X 線 CT 装置
果およびグレリンの関与
(R_mCT2, リガク)により体組成を測定した後に
屠殺し、血漿・胃組織のサンプルを採取した。グ
表 1 に示すとおり、HFD-S 群は16週齢におい
レリン動態は既報 に従い、血漿・胃組織中グレ
て最も体重が重かったが、自発運動導入(HFD-Ex)
リン濃度を RIA にて測定、また胃底部組織内の
により CD-Ex 群とほぼ同等の体重を示した。同
グ レ リ ン お よ び そ の 活 性 化 酵 素(GOAT) の
様 の 傾 向 は 16 週 齢 の 内 臓 脂 肪 に も 認 め ら れ、
mRNA を RT-PCR 法にて測定した。
HFD-S 群でみられた増加は自発運動により有意
7)
B.グレリンノックアウトマウスを用いた実験
に減少していた。一方、皮下脂肪に関しては自発
12週齢の雄性 C57BL/6J マウスおよびグレリン
運動による有意の効果は認めなかった。
ノックアウト(GKO)マウス において、上記エ
図 1 に示すとおり、ラットはおもに暗期に著明
ネルギー代謝測定システムを用いて摂餌行動(摂
な活動量の増加を示し、明期の活動量は極めて少
餌量や活動量)やエネルギー代謝を測定した。
ない(図 1 A)。HFD-S においては通常認められ
4)
C.肥満患者を対象とした臨床研究
ない明期の活動量の増加を認め、活動リズムの異
久留米大学内分泌代謝内科に入院した肥満を有
常が示唆される。しかしながら、自発運動の導入
する患者 8 例(男 2 例,糖尿病 6 例,50.8 ∓ 16.8歳,
により、このリズム異常はほぼ完全に正常化した
BMI 34.9 ∓ 10.3,mean ∓ SD) に 対 し て、Acti-
(図 1 D)。
HR4 (CamNtech 社製)を用いて24時間の自律神
HFD-S 群においては 1 日の総摂餌量のみなら
経活動を評価した。心拍の周期変動の周波数成分
ず明期の摂餌量の割合が著明に増加していた。こ
のうち副交感神経活動によって影響を受ける HF
の摂餌パターンのリズム異常は、自発運動の導入
®
表 1 .16週齢 SD ラットの体重および体脂肪分布
Table 1.Body weight and body fat distribution in SD rats at 16 weeks old.
BW(g)
Visceral fat
(mm )
3
Subcutaneous fat
(mm )
3
CD-S
CD-Ex
HFD-S
HFD-Ex
656.4 ∓ 37.0
523.5 ∓ 62.0
757.1 ∓ 53.4 a, b
582.9 ∓ 33.2 d
21239 ∓ 2778
20351 ∓ 3108
26520 ∓ 2509 c
21097 ∓ 3280 e
7005 ∓ 1386
5658 ∓ 589
9735 ∓ 2304
7607 ∓ 2147
c
CD; chow diet(10 kcal% fat)feeding group, HFD; high fat diet(60 kcal% fat)feeding group, S; sedentary group, Ex; exercise group.
Values are presented as means ∓ SD.
a
P < 0.05 vs. CD-S, bP < 0.0001vs. CD-Ex, cP < 0.05 vs. CD-Ex, dP < 0.001 vs. HFD-S, eP < 0.05 vs. HFD-S.
(66)
B
60
50
50
Act count / min
Act count / min
A
60
40
30
20
10
0
40
30
20
10
0
L
D
L
D
C
L
D
L
D
L
D
D
Act count / min
Act count / min
D
60
60
50
40
30
20
10
0
E
L
D
L
30
20
10
F
25
20
g / 12 hr
**
6000
40
0
$
10000
8000
50
D
12000
Act count / 12 hr
L
15
*
10
4000
*
2000
0
L D
CD-S
L D
†
L D
CD-Ex
HFD-S
L D
HFD-Ex
†
5
0
L D
CD-S
L D
CD-Ex
L D
HFD-S
L D
HFD-Ex
図 1 .16週齢 SD ラットの活動量と摂餌量
Fig.1.Locomotor activity and voluntary wheel-running activity in SD rats at 16 weeks old.
Locomotor activity per minite during 48 hours
(A: CD-S, B: CD-Ex, C: HFD-S, D: HFD-Ex). Twelve hour-averaged locomotor activity
(E)
and food consumption
(F)during dark and light periods, respectively.
Values are expressed as the means ∓ SD. L: Light period, D: Dark period. *P < 0.001 vs. CD groups and †P < 0.05 vs. HFD-S during
light period, **P < 0.001 vs. CD groups and $P < 0.01 vs. HFD-S during dark period.
A
B
20
$, †, ##
***
10
0
内活性型グレリン濃度は CD 群に比べて有意に低
**
1
下していたが、自発運動の導入により血症グレリ
0.5
CD-S
0
CD-Ex HFD-S HFD-Ex
D
2
2
1.5
*
#
1
CD-S
CD-Ex HFD-S HFD-Ex
$$, ††
1
##
0.5
0.5
CD-S
CD-Ex HFD-S HFD-Ex
0
CD-S
ン濃度の有意の改善を認めた。この傾向はグレリ
ンおよびグレリン産生能(GOAT mRNA)の結果と
もほぼ一致していた。
††
1.5
arbitrary units
arbitrary units
図 2 に示すとおり、HFD-S 群の血漿および胃
1.5
C
0
により部分的にではあるが抑制された。
2
†
pmol / mg tissue
fmol / ml
30
CD-Ex HFD-S HFD-Ex
図 2 .16週齢 SD ラットにおけるグレリン動態
Fig.2.Plasma and stomach ghrelin contents, ghrelin and
GOAT mRNA levels in the stomach mucosa in SD rats at 16
weeks old.
Plasma(A)and stomach(B)concentrations of active ghrelin.
The expression levels of ghrelin
(C)
and GOAT
(D)
mRNA.
Values are expressed as the means ∓ SD. *P < 0.05, **P < 0.01,
***
P < 0.001 vs. CD groups. $P < 0.01, $$P < 0.001 vs. HFD-S.
†
P < 0.05, ††P < 0.001 vs. CD-S. #P < 0.05, ##P < 0.001 vs. CDEx.
B.食リズムおよび活動リズムにおけるグレリ
ンの役割
自発活動量や体内エネルギー代謝の日内リズム
制御機構としてのグレリンの役割を明らかにする
目的で、GKO マウスの活動リズムを野生型と比
較した(図 3 )。野生型では SD ラットと同様に、
自発活動は主に暗期においてのみ認められたが、
GKO マウスでは上記の HFD-S ラットと同様に明
期の活動量が著明に増加していた。呼吸商は、野
生型では明期に低下し暗期に上昇する明瞭なリズ
ムを呈するが、GKO マウスではこのリズムが破
(67)
A
60
1.2
50
1
40
0.8
30
0.6
20
0.4
10
0.2
Act count / min
1.4
0
RQ
70
0
L
D
L
D
60
1.4
50
1.2
1
40
0.8
30
0.6
20
RQ
Act count / min
B
0.4
10
0.2
0
0
L
D
L
D
図 3 .12週齢野生型(A)
および GKO
(B)
マウスの活動量と呼吸商
(RQ)
Fig.3.Locomotor activity and respiratory quotient(RQ)in C57BL/6J mice(A)and GKO mice
(B)at 12 weeks old.
Locomotor activity per minite
(bar)and RQ(line)during 48 hours.
綻していた。
C.肥満患者における自律神経概日リズムの特
徴
考 察
今回の研究により以下の結果が得られた。① 2
24時間を夜間( 0 時~ 6 時)、朝( 6 時~12時)、
週間の内の 3 日間の自発運動の導入により HFD
昼(12時~18時)、夕(18時~24時)に分け、夜
による体重や内臓脂肪量の増加を有意に抑制する
間と昼の HF 成分、LF / HF 比を比較した。LF / HF
ことが可能であった。② HFD 群では、活動や食
比については全例で夜間睡眠中の有意な低下が認
リズム異常をきたしており、自発運動の導入によ
められ、夜間2.81 ∓ 4.29に対して昼5.14 ∓ 7.28で
りこれらの異常が改善した。③ HFD 群ではグレ
あった(P < 0.01)
。HF については対象患者 8 例
リン産生が低下しているが、自発運動の導入によ
のうち 5 例では夜間469.9 ∓ 713.1 ms に対して昼
り CD 群 と ほ ぼ 同 じ レ ベ ル ま で 改 善 し た。 ④
110.9 ∓ 343.8 ms であり、夜間に有意の上昇が認
GKO マウスでは HFD-S と同様の活動量やエネル
められたが(P < 0.01)
、 3 例では夜間95.3 ∓ 198.4
ギー代謝のリズム異常が認められた。⑤肥満患者
ms に対して昼104.6 ∓ 288.0 ms と上昇が認められ
では夜間の副交感神経活動が減弱しており、QOL
なかった(P = 0.43)。また、SF-36の結果では HF
低下との関連が示唆された。
成分の上昇が認められた 5 例は認められなかった
HFD 群では通常は認められない明期における
例に比べて心の健康に関する点数が88.0 ∓ 5.7%
活動の増加や摂餌量の増加を認めており、食リズ
vs. 55.0 ∓ 13.2%と有意に高値(P < 0.01)であり、
ムを始めとする生活リズムの乱れを示唆する所見
全体的健康感においても55.2 ∓ 11.7% vs. 38.3 ∓
であると考える。この現象はヒトの肥満における
5.8%と有意差はないものの高い傾向にあった(P
夜間摂食などの食リズム異常、いわゆる“むちゃ
= 0.06)
。
喰い障害(binge eating)”5)に近似した状態であり、
2
2
2
2
肥満者の食リズム異常と運動の関連を研究するた
めに非常に適したモデルであるといえる。興味深
(68)
いことに、 2 週間に 3 日間の運動習慣の導入によ
総 括
り、肥満状態でみられた生活リズムの乱れは完全
に消失し、明期の摂餌行動もほぼ認めなくなっ
肥満の形成には総エネルギー摂取量のみならず
た。したがって、HFD-Ex 群において認められた
食リズムの是正が重要である。本研究の結果よ
体重や内臓脂肪減少の理由として、運動による単
り、定期的な運動習慣が肥満者に多く認められる
なるエネルギー消費量の増加以外に、生活リズム
生活リズムの異常を是正し、同時に肥満を是正す
の是正が大きく関与した可能性が考えられる。
る可能性が考えられた。今後メタボリックシンド
HFD 肥満において血漿・胃内グレリン濃度お
ロームなどにおける生活習慣指導において、単な
よび GOAT mRNA は低下しており、自発運動に
る食事・運動の内容に対する指導以外に時間栄養
よりこれらの指標は回復した。肥満時や高脂肪食
学的観点から新しい指導概念(食事のタイミング
負荷時にグレリンの機能が低下し 、グレリンの
や規則性,運動の時間帯への配慮など)を導入す
摂食促進作用が抑制されているにもかかわらず過
ることにより、一層効果的な介入が可能となるこ
食などの食行動異常が認められるメカニズムに関
とが期待される。
1)
してはいまだ不明の点も多い。今回の研究におい
謝 辞
て、GKO マウスでは明期の自発活動量が増加し
本研究は公益財団法人明治安田厚生事業団第 30 回若手
エネルギー代謝の日内リズムに乱れが生じている
研究者のための健康科学研究助成の支援を賜りました。
ことが明らかとなった。したがって、グレリンは
ここに記して感謝申し上げます。
食行動を含めた活動リズムの形成において重要な
参 考 文 献
役割を果たしており、HFD 負荷による肥満状態
1)Briggs DI, Enriori PJ, Lemus MB, Cowley MA, Andrews
ではグレリン分泌異常とともに摂餌パターンの異
常をきたした可能性が高いと考える。自発運動導
入によりグレリン分泌異常が是正され、それとと
もに摂餌パターンの正常化を介して肥満の是正に
つながったと考える。しかしながら、運動による
グレリン正常化の機序や関連する分子などは今回
の研究では明らかにされておらず、今後の詳細な
実験の結果が待たれる。
ZB(2010)
: Diet-induced obesity causes ghrelin resistance
in arcuate NPY/AgRP neurons. Endocrinology, 151, 47454755.
2)Kojima M, Hosoda H, Date Y, Nakazato M, Matsuo H,
Kangawa K(1999): Ghrelin is a growth-hormone-releasing acylated peptide from stomach. Nature, 402, 656-660.
3)LeSauter J, Hoque N, Weintraub M, Pfaff DW, Silver R
(2009)
: Stomach ghrelin-secreting cells as food-entrainable circadian clocks. Proc Natl Acad Sci U S A, 106,
13582-13587.
予備データではあるが、肥満者を対象とし自律
4)Li E, Chung H, Kim Y, Kim DH, Ryu JH, Sato T, Kojima
神経活動を評価した研究の結果、夜間睡眠中の副
M, Park S(2013)
: Ghrelin directly stimulates adult hippo-
交感神経活動の上昇を認めない例が約半数存在
campal neurogenesis: implications for learning and memo-
し、肥満者における自律神経活動リズムの乱れが
QOL の低下とともに認められた。今後これらの
対象患者において、グレリンと自律神経活動のリ
ry. Endocr J, 60, 781-789.
5)Marcus MD, Wildes JE(2014): Disordered eating in
obese individuals. Curr Opin Psychiatry, 27, 443-447.
6)McHorney CA, Ware JE Jr, Raczek AE(1993)
: The MOS
ズムの関連を詳細に調査するとともに、運動習慣
36-Item Short-Form Health Survey(SF-36): II. Psycho-
の導入によるグレリンや自律神経活動リズムの変
metric and clinical tests of validity in measuring physical
化および QOL の変化を観察し、肥満の改善への
関与を実臨床のなかで評価する予定である。
and mental health constructs. Medical Care, 31, 247-263.
7)Mifune H, Nishi Y, Tajiri Y, Masuyama T, Hosoda H,
Kangawa K, Kojima M(2012)
: Increased production of
active ghrelin is relevant to hyperphagia in nonobese spontaneously diabetic Torii rats. Metabolism, 61, 491-495.
(69)
第 30 回若手研究者のための健康科学研究助成成果報告書
2013 年度 pp.69~74(2015.4)
高齢夫婦を対象とした運動教室が運動アドヒアランスおよび
体力に及ぼす長期的な効果
―地域在住高齢者を対象とした 1 年間にわたる長期介入研究―
大 須 賀 洋 祐*
鄭 松 伊*
田 中 喜 代 次*
LONG-TERM EFFECTS OF EXERCISE INTERVENTION FOR OLDER
MARRIED COUPLES ON EXERCISE ADHERENCE
AND PHYSICAL FITNESS
Yosuke Osuka, Songee Jung, and Kiyoji Tanaka
Key words: older married couples, exercise adherence, physical fitness.
ソーシャルサポート(人々が生活上の危機に瀕し
緒 言
たときに,周囲の人々との間で交換される手段
加齢に伴う体力の低下は、日常生活動作の困難
的・表出的援助)が着目され、特に家族や友人か
性を助長し、高齢期における生活の質を悪化させ
ら提供されるサポートの有効性が報告されてい
る要因となりうる。体力の低下に歯止めをかけ、
る1)。
日常生活動作を可能な限り保持することが肝要で
高齢期では、配偶者と過ごす時間が増加するた
ある。これまでの多くの研究から、運動実践は、
め、個人の運動実践率は、配偶者のそれと関連す
体力の維持・回復に有効であり、運動の長期化
ることが報告されている7)。したがって、配偶者
は、日常生活動作の障害リスクを抑制すると報告
との関係を上手く利用して運動習慣を形成するこ
されている 。
とで、運動アドヒアランスとそれに付随する体力
このように運動の習慣化による恩恵が明らかに
は長期にわたり維持できるかもしれない。
されているにもかかわらず、我が国の高齢者の運
しかし、配偶者との関係を利用した運動教室を
動習慣率は、依然として50%に満たない 。多く
開催し、教室終了後も運動アドヒアランスや体力
の高齢者が、運動習慣の重要性を認識しているも
を長期にわたり維持できるかについて検討した研
のの、運動実践に対する主体的な姿勢(運動アド
究は少ない。
ヒアランス)を維持できないのが実情であろう。
本研究の目的は、高齢夫婦を対象とした運動教
高齢者が、運動習慣を長期にわたり維持できるよ
室を開催し、教室期間終了から半年間(追跡期間)
うな創意工夫のある取り組みが必要である 。
の運動アドヒアランスと半年後の体力に及ぼす影
運動習慣の規定要因は、多くの先行研究によっ
響について明らかにすることとした。
6)
3)
5)
て明らかにされてきた
* 。近年、その 1 つとして
2,4)
筑波大学体育系 Faculty of Health & Sport Sciences, University of Tsukuba, Ibaraki, Japan.
(70)
B.運動教室
研 究 方 法
運動習慣の獲得を目的に、90分/回、 1 回/週、
A.対象者
計 8 週間の運動教室を開催した。教室プログラム
対象者は、茨城県の県南地区に在住する65歳以
は、準備運動、主運動(筋力運動とウォーキング)、
上の高齢者とした。参加の受け付けは、夫婦ある
整理運動で構成した。筋力運動は、下肢の筋力運
いは、単独とし、配偶者と参加した者を夫婦群、
動 6 種目とし、すべて自重負荷による方法で実践
単独で参加した者を単独群とした。研究の適格基
するよう求めた。反復回数は、 1 セット15~20回
準は、図 1 に示したとおりである。すべての対象
とした。ウォーキングは、20~40分/ 回とし、そ
者に、研究説明の機会を設け、研究の目的や調査
の日の体調に合わせて、各自でウォーキング時間
内容を説明し、測定や運動教室の参加を随時拒否
を設定するよう促した。主運動の強度は、自覚的
できることを口頭で説明した。また、測定データ
運動強度が「ややきつい~きつい」となるよう指
の使用に関する説明を行い、書面にてデータ使用
示した。主運動を実践した場合は、運動日誌に記
に関する同意を得た。本研究は、筑波大学体育系
録するよう促した。夫婦群は、配偶者と運動教室
研究倫理員会の承認を受けている(承認番号:体
に参加するよう求め、自宅でも可能な限り配偶者
25-108)
。
と運動するように求めた。追跡期間中は、参加者
の自己管理期間とし、研究主催者から運動継続の
Eligibility criteria
1. Aged between 65 years old and more older.
2. Not restricted form exercising by a doctor.
3. Without frequency-exercise habits.
4. Not support-dependent on a Japanese long-term care insurance system.
Non-couple group
Applicants
n = 95
Couple group
Applicants
n = 122
Excluded subjects
(n = 50)
●With regular exercise(n = 34)
●Participated in other clinical trial
(n = 16)
Excluded subjects(n = 34)
●With regular exercise(n = 16)
●Participated in other clinical trial(n = 18)
Dropped out
(n = 2)
●Lumbosacral strain(n = 1)
●Injurious fall(n = 1)
Included subjects
n = 61
Included subjects
n = 72
Baseline measurement
Dropped out
(n = 4)
●Time issue
(n = 2)
●Hospitalization
(n = 2)
8-week intervention
One session per week and home exercise
Absent(n = 4)
●Hospitalization
(n = 1)
●Time issue(n = 3)
Post-intervention measurement
Dropped out(n = 4)
●Time issue
(n = 2)
●Hospitalization
(n = 2)
Dropped out
(n = 1)
●Feeling burden
(n = 1)
Absent(n = 4)
●Hospitalization
(n = 1)
●Time issue(n = 3)
Follow-up measurement
Analyzed subjects
n = 59
Analyzed subjects
n = 68
(34 couples)
図 1 .研究対象者のフローチャート
Fig.1.Flow chart of the study participants.
Absent(n = 13)
●Physical deconditioning
(n = 8)
●Time issue
(n = 5)
(71)
に該当する者)の割合」から評価した。ウォーキ
ための動機付けを一切行わなかった。
C.測定項目
ング非習慣者の定義は、「平均実践頻度が、 2 回/
主要評価項目は、運動アドヒアランスとし、追
週未満の者」とし、筋力運動非習慣者の定義は、
跡期間の平均運動実践頻度を求め、「運動非習慣
「平均実践頻度が、12セット/週( 6 種目を 2 セッ
者(ウォーキング非習慣者かつ筋力運動非習慣者
ト/週)未満の者」とした。副次評価項目として、
表 1 .ベースライン時における研究対象者の特徴
Table 1.Characteristics of the study population.
P for difference
Characteristics
n
Non-couples
n
Couples
Age
59
71.9 ± 5.2
68
69.5 ± 3.8
0.004
Body mass index
59
23.5 ± 3.3
68
23.7 ± 3.6
0.667
Gender, men/women
59
11/48
68
34/34
Hypertension
59
20
(33.9)
68
28(41.2)
0.465
Diabetes
59
(11.9)
7
68
(
9 13.2)
1.000
Heat disease
59
(10.2)
6
68
(4.4)
3
0.301
Respiratory disease
59
(6.8)
4
68
(2.9)
2
0.415
Osteoporosis
59
(1.7)
1
68
(7.4)
5
0.215
Hyperlipidemia
59
11
(18.6)
68
10
(14.7)
0.635
Osteoarthritis
59
(
7 11.9)
68
(
3 4.4)
0.186
Low back pain
59
11
(18.6)
68
14
(20.6)
0.826
Sholder pain
59
13
(22.0)
68
(
8 11.8)
0.153
Hip pain
59
(
7 11.9)
68
(2.9)
2
0.080
Knee pain
59
14
(23.7)
68
13
(19.1)
0.664
< 0.001
Medical history
Joint with pain
Senior fitness test
8-foot up-and-go, sec
59
5.4 ± 0.6 68
5.5 ± 0.8 0.765
Chair stand, numbers/30sec
59
14.9 ± 2.2 68
13.8 ± 2.5 0.011
Arm curl, numbers/30sec
59
21.2 ± 4.6 67
20.0 ± 2.9 0.104
Chair sit-and-reach, cm
58
9.6 ± 10.6
68
7.6 ± 13.0
0.368
Back scratch, cm
59
-6.5 ± 11.2
67
-8.4 ± 10.9
0.328
6-minute walk, m
59
539.9 ± 63.0
68
537.6 ± 69.7
0.841
Family, score
59
29.8 ± 10.5
68
33.8 ± 10.7
0.035
Friends, score
59
30.7 ± 10.6
68
24.8 ± 10.5
0.002
Exercise instructor, score
59
24.0 ± 11.7
68
22.6 ± 12.0
0.505
Exercise social support
Data were shown as means and standard deviations or (
n %)
. P values were calculated using a student t test for the continuous variables
and a χ-square test for the discrete variables.
Walking
Strength exercise
Non-couple group
Couple group
4.0
2.0
0.0
-2.0
Week
1-4
Week
5-8
Week
9 - 12
Week
13 - 16
Week
17 - 20
Week
21 - 24
Week
25 - 28
Non-couple group
70.0
sets/week
numbers/week
6.0
Week
29 - 32
Couple group
50.0
30.0
10.0
-10.0
Week
1-4
Week
5-8
Week
9 - 12
Week
13 - 16
Week
17 - 20
Week
21 - 24
図 2 .32週間にわたる単独群と夫婦群の運動実践頻度の比較
Fig.2.Comparisons of exercise frequency in 32 weeks between the couple and non-couple groups.
Data were shown as means and standard deviations.
Week
25 - 28
Week
29 - 32
(72)
ト)は、質問紙から評価した9)。
体力と運動ソーシャルサポートを評価した。体力
D.統計解析
は、5 項目のパフォーマンステスト8)から評価し、
運動ソーシャルサポート(家族からのサポート,
夫婦群と単独群のベースライン情報の比較に
友人からのサポート,運動指導者からのサポー
は、χ2 test と Student t test を用いた。夫婦群と単
表 2 .ベースライン時から追跡調査時までの体力・運動ソーシャルサポートの推移比較
Table 2.Comparisons of change pattern in physical fitness, exercise social support from baseline to follow-up between the couple and
non-couple groups.
n
Non-couple group
n
Couple group
P ‡ for interaction
59
5.4 ± 0.6
68
5.5 ± 0.8
0.145
Physical fitness
8-foot up-and-go, sec
Baseline
Post-intervention
5.1 ± 0.7*
5.0 ± 0.8*
Follow-up
5.1 ± 0.7*
5.2 ± 0.7*
Chair stand, numbers/30sec
Baseline
59
14.9 ± 2.2
68
13.8 ± 2.5
Post-intervention
16.4 ± 2.3*
16.1 ± 2.0*
Follow-up
16.9 ± 3.0*
15.9 ± 2.6*
0.023
Arm curl, numbers/30sec
Baseline
59
21.2 ± 4.6
67
20.0 ± 2.9
Post-intervention
22.9 ± 4.3*
23.2 ± 3.3*
Follow-up
22.4 ± 4.4*
22.1 ± 3.2* †
0.036
Chair sit-and-reach, cm
Baseline
58
9.6 ± 10.6
68
7.6 ± 13.0
Post-intervention
12.0 ± 9.9*
10.6 ± 12.6*
Follow-up
12.1 ± 10.2*
9.8 ± 12.7*
0.185
Back scratch, cm
Baseline
59
­6.5 ± 11.2
67
­8.4 ± 10.9
Post-intervention
­5.1 ± 11.2*
­5.2 ± 10.5*
Follow-up
­5.7 ± 10.6
­6.8 ± 10.6* †
0.383
6-minute walk, m
Baseline
59
539.9 ± 63.0
68
537.6 ± 69.7
Post-intervention
575.5 ± 65.7*
578.3 ± 56.9*
Follow-up
566.1 ± 75.7*
576.8 ± 65.5*
0.996
Exercise social support, score
Support from family
Baseline
59
29.8 ± 10.5
68
33.8 ± 10.7
Post-intervention
29.4 ± 12.9
39.5 ± 9.8*
Follow-up
30.0 ± 12.0
38.8 ± 7.3*
0.015
Support from friends
Baseline
59
30.7 ± 10.6
68
24.8 ± 10.5
Post-intervention
30.7 ± 12.8
22.3 ± 13.4
Follow-up
31.4 ± 10.4
25.4 ± 13.8
0.055
Support from exercise instructor
Baseline
Post-intervention
Follow-up
59
24.3 ± 11.3
68
34.7 ± 9.9*
27.9 ± 14.0
22.6 ± 12.0
0.221
35.6 ± 7.5*
†
23.5 ± 14.1†
Data were shown as means and standard deviations. *: significantly difference with baseline
(P < 0.05)
. † : significantly difference with
post-intervention
(P < 0.05). ‡ : P values were calculated using a repeated measure analysis of covariance adjusted by age and sex.
(73)
独群の運動非習慣者の割合の比較には、χ2 test
chair stand と arm curl に有意な交互作用がみられ
を用いた。教室期間と追跡期間における体力・運
た。家族からの運動ソーシャルサポートは、教室
動ソーシャルサポートの経時変化は、反復測定に
期間中、夫婦群で有意に向上し、追跡期間も維持
よる分散分析を適用した。交互作用は、性・年齢
していた。運動指導者からの運動ソーシャルサ
を共変量とした共分散分析から検討した。欠損値
ポートは、教室期間中に両群で有意に向上したも
の 補 完 は、baseline observation carried forward を
のの、追跡期間中に両群で有意に低下した。家族
行った。すべての統計処理には統計解析ソフト
からの運動ソーシャルサポートには、有意な交互
IBM SPSS Statistics Version 21を用い、統計的有意
作用がみられた。
水準は 5 %とした。
結 果
A.対象者のフロー
考 察
本研究は、「配偶者と運動教室に参加した高齢
者の運動アドヒアランスと体力は、一人で参加し
運動教室は、単独群61名、夫婦群72名で開始さ
た場合と比べて、いずれも高く維持できる」とい
れ、体調不良や入院等の理由のために単独群 6
う仮説を検討すべく、追跡期間中の運動非習慣者
名、夫婦群 4 名が途中離脱した。教室の出席率は、
の割合と体力の推移を比較した。その結果、夫婦
単独群が84.1%、夫婦群が93.2%であった。追跡
群のウォーキング非習慣者の割合は、単独群と比
期間中に単独群 1 名が途中離脱した(図 1 )。
較して27.5%有意に低値であった。運動非習慣者
B.ベースライン情報の比較
の割合に、統計的な有意差はみられなかったもの
ベースライン時の基本的特徴を単独群と夫婦群
の、追跡期間中の夫婦群の平均運動実践頻度は、
で比較した結果、年齢、性、chair stand、家族・
単独群と比較して、高い状態で維持されていた
友人からの運動ソーシャルサポートに有意な群間
(図 2 )。追跡期間中の夫婦群の上肢の筋力と柔軟
差がみられた(表 1 )
。
C.運動実践頻度の推移と運動非習慣者の割合
の比較
性は、有意に低下したものの、ベースライン値と
比較して依然として有意に維持していた。その他
の項目は、半年後も維持できていた。
単独群と夫婦群の平均運動実践頻度の推移を、
Wallace et al. は、中年夫婦32名と非夫婦32名を
図 2 に示した。追跡期間における夫婦群のウォー
対象に、12か月間にわたる運動プログラムへの平
キング非習慣者の割合(47.1%,n = 32)は、単
均出席率と脱落率を比較した結果、平均出席率は、
独群(74.6%,n = 44)と比較して有意に低値で
夫婦群のほうが非夫婦群よりも10%以上有意に高
あった(P = 0.002)。夫婦群の筋力運動非習慣者
く、脱落率は、夫婦群のほうが非夫婦群よりも 7
の割合(20.6%,n = 14)は、単独群(28.8%,n =
倍以上低いと報告している10)。また、運動プログ
17)と比較して低値であったものの、有意な差は
ラムからの脱落理由として最も多かった回答は、
みられなかった(P = 0.282)。夫婦群の運動非習
「配偶者からのサポートの欠如」であったと指摘
慣者の割合(16.2%,n = 11)も、単独群(27.1%,
している10)。本研究の結果から、運動指導者から
n = 16)と比較して低値であったものの、有意な
のサポートは、追跡期間中に両群で有意に低下し
差はみられなかった(P = 0.133)
。
たものの、夫婦群の家族からのサポートは、追跡
D.体力・運動ソーシャルサポートの推移と交
互作用(表 2 )
期間中も維持していた。運動教室が終了するとと
もに、運動指導者からのサポートがなくなること
両群の体力は、教室後、すべての項目で有意に
から、単独群では一人で運動習慣を維持していく
向上した。夫婦群の arm curl および back scratch
ことが難しい状況に置かれる一方で、夫婦群では、
は、追跡期間に有意に低下したものの、ベースラ
配偶者からのサポートが強化され、運動習慣を維
イン値と比較した場合、依然として有意に高値で
持しやすい状況に置かれていると考えられる。こ
あった。共分散分析から交互作用を検討した結果、
のような理由から、夫婦群のウォーキング非習慣
(74)
者の割合は、単独群と比較して有意に低値であっ
参 考 文 献
たと考えられる。この点については、Wallace et
1)Horne M, Tierney S(2012)
: What are the barriers and fa-
al. の研究結果を支持するものと考えられる。
cilitators to exercise and physical activity uptake and ad-
体力については、下肢の筋力や全身持久力を中
herence among South Asian older adults: a systematic re-
心に、追跡期間も維持できていた(ベースライン
と比較して有意に高値であった)ものの、両群と
もすべての項目が低下傾向にあった。運動実践頻
度が全体を通して低下傾向にあることが影響して
いると考えられる。また、半年後における夫婦群
の上肢筋力・柔軟性は、教室終了後と比較して有
意に低下していた。これは、上肢の筋力や柔軟性
の維持を目的とした運動プログラムを提供しな
かったことが要因であると考えられる。男性は女
性と比較して上肢の筋力が低下しやすいことが報
告されており、夫婦群は単独群と比較して男性の
割合が有意に大きいため、夫婦群で顕著に低下し
たと考えられる。
view of qualitative studies. Prev Med, 55, 276-284.
2)Koeneman MA, Verheijden MW, Chinapaw MJ, HopmanRock M(2011): Determinants of physical activity and exercise in healthy older adults: a systematic review. Int J
Behav Nutr Phys Act, 8, 142.
3)厚生労働省(2012)
:平成 24 年国民健康・栄養調査.
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-1090
4750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/
0000032813.pdf
4)McArthur D, Dumas A, Woodend K, Beach S, Stacey D
(2014): Factors influencing adherence to regular exercise
in middle-aged women: a qualitative study to inform clinical practice. BMC Womens Health, 14, 49.
5)Morey MC, Pieper CF, Crowley GM, Sullivan RJ, Puglisi
CM(2002): Exercise adherence and 10-year mortality in
chronically ill older adults. J Am Geriatr Soc, 50, 1929-
総 括
追跡期間中における夫婦群のウォーキング非習
慣者の割合は、単独群と比較して約28%有意に低
値であった。配偶者と運動教室に参加すること
で、ウォーキング習慣を維持するための互助関係
1933.
6)Nelson ME, Rejeski WJ, Blair SN, Duncan PW, Judge JO,
King AC, Macera CA, Castaneda-Sceppa C(2007)
: Physical activity and public health in older adults: recommendation from the American College of Sports Medicine and
the American Heart Association. Circulation, 116, 10941105.
が形成されたと推察される。体力については、追
7)Pettee KK, Brach JS, Kriska AM, Boudreau R, Richardson
跡期間中も下肢の体力が両群で維持されていた。
CR, Colbert LH, Satterfield S, Visser M, Harris TB,
今後は、教室期間終了から 1 年後の運動アドヒア
ランスと体力の推移を追跡し、配偶者と運動を実
践する有用性について、更に知見を蓄積する予定
である。
status on physical activity levels among older adults. Med
Sci Sports Exerc, 38, 541-546.
8)Rikli RE, Jones CJ(2000)
: Senior Fitness Test Manual.
Human Kinetics, Champaign, USA.
謝 辞
本研究課題に対して、多大な助成を賜りました公益財
団法人明治安田厚生事業団に深く感謝申し上げます。ま
た、本研究を遂行するにあたりご協力いただきました金
泰浩氏、大久保善郎氏をはじめとする田中研究室スタッ
フの皆様、金ウンビ氏、そして研究参加者の皆様に感謝
の意を表します。
Ayonayon HN, Newman AB(2006)
: Influence of marital
9)Sallis JF, Grossman RM, Pinski RB, Patterson TL, Nader
PR(1987)
: The development of scales to measure social
support for diet and exercise behaviors. Prev Med, 16,
825-836.
10)Wallace JP, Raglin JS, Jastremski CA(1995)
: Twelve
month adherence of adults who joined a fitness program
with a spouse vs without a spouse. J Sports Med Phys Fitness, 35, 206-213.
(75)
第 30 回若手研究者のための健康科学研究助成成果報告書
2013 年度 pp.75~80(2015.4)
持久的運動トレーニングは白色脂肪細胞のブライト
脂肪細胞化を促すか
小 笠 原 準 悦*
石 橋 義 永*
櫻 井 拓 也*
野 村 幸 子**
中 野 法 彦*** 大 野 秀 樹*
木 崎 節 子*
EFFECT OF HABITUAL EXERCISE ON TRANSDIFFERENTIATION
FROM WHITE ADIPOCYTE TO BRITE FAT CELLS
Junetsu Ogasawara, Takuya Sakurai, Sachiko Nomura, Yoshinaga Ishibashi,
Norihiko Nakano, Hideki Ohno, and Takako Kizaki
Key words: exercise training, brite adipocyte, white adipocytes, transdifferentiation.
緒 言
し、成人にも多く存在し、生体エネルギーの代謝
調節作用と密接な関係にある事実が次々と明らか
哺乳類には白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞が存在
となり 9)、「古くて新しい褐色脂肪細胞」の研究
する。白色脂肪細胞は、余剰なエネルギーを中性
は 1 つのブレイクスルーを迎えている。最近では、
脂肪として細胞内へ蓄積し、必要に応じて遊離脂
白色脂肪組織において褐色脂肪細胞と機能を同じ
肪酸とグリセロールに変換して各細胞へ再分配す
くするブライト(brown-in-white)脂肪細胞が発
るエネルギーの出納とアディポカインの分泌を司
現することがほぼ断定され、ブライト脂肪細胞の
る。一方、褐色脂肪細胞は、細胞内に蓄積した中
由来8)や機能7)に関する研究も盛んに行われてい
性脂肪をミトコンドリアにおいて酸化分解し、ミ
る。現在では、ブライト脂肪細胞には前駆細胞が
トコンドリア膜に発現する Uncoupling protein 1
存在することや8)、成熟した白色脂肪細胞から形
(UCP1)の機能を介して熱を産生しエネルギー消
質転換を経てブライト脂肪細胞が形成されること
費を促す。そのため、褐色脂肪細胞のエネルギー
が明らかとなっている8)。
消費能を介した新たな抗肥満療法の確立が期待さ
Peroxisome Proliferator-Activated Receptor γ(P-
れている。
PARγ)は、白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の終末
長らく、褐色脂肪細胞は胎児や新生児のみに存
分化を規定するばかりではなく、ブライト脂肪細
在し、成長に伴い減少するか、成人ではたとえ存
胞の形成に中心的な役割を果たす1)。興味深いこ
在したとしてもごく微量であり、その生理的意義
とに、我々は長期間の持久的運動トレーニング
は無視できるものであると考えられてきた。しか
(TR)によって白色脂肪細胞における PPARγ の
* ** ***
杏林大学医学部衛生学公衆衛生学教室
Department of Molecular Predictive Medicine and Sport Science, Kyorin University, School of
Medicine, Tokyo, Japan.
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 National Agriculture and Food Research Organization, Institute of Vegetable and Tea Science, Shizuoka,
野菜茶業研究所
Japan.
藍野大学藍野再生医療研究所
Institute of Regeneration and Rehabilitation, Aino University School of Nursing and Rehabilitation,
Osaka, Japan.
(76)
機能が著しく亢進することを見いだしている6)。
は200 μm のナイロンメッシュを通して濾過し、
そのため、TR は PPARγ に調節されるブライト脂
100× g で 1 分間遠心した。遠心後に浮遊してい
肪細胞の分化機構を修飾する可能性がある。本研
る上層部分の脂肪細胞を Krebs-Ringer 溶液により
究では、白色脂肪細胞のブライト脂肪細胞化に及
3 回洗浄後回収し、単離脂肪細胞として実験に供
ぼす TR の効果について解剖学的部位差を考慮
した。
し、調節因子群の mRNA 発現の変化を中心に検
C.RNA の抽出および RT-PCR と DNA アレ
イ解析
討した。
研 究 方 法
脂 肪 細 胞 か ら の 総 RNA の 抽 出 は、Direct-zol
RNA miniPrep(ZYMO RESEARCH)を用いて調
A.動物の取り扱いと運動トレーニングプログラム
製した。すなわち、遠心用チューブに移した単離
5 週齢の雄性 Wistar ラット(日本エスエルシー)
脂肪細胞を100× g で 1 分間遠心し、下層にある
を 2 匹 も し く は 3 匹 ず つ 飼 育 ケ ー ジ に 入 れ、
Krebs-Ringer 溶液を取り除きパックされた脂肪細
23℃、12時間の明暗サイクルの室内で飼育した。
胞を調製した。パック脂肪細胞100 μl を100μl の
飼料と水は自由摂取とした。ラットを無作為にコ
Isogen(ニッポンジーン)に懸濁し細胞を破壊し
ントロール(C)群(n = 5 )と運動トレーニン
た。破壊された細胞溶液に同量の99.9%エタノー
グ(TR)群(n = 5 )に分配した。TR ラットは、
ルを加え混合し、スピンカラムに充填し12000×
傾斜 5 度のトレッドミル走を週 5 日、 9 週間行わ
g で30秒間遠心した。その後カラムを 3 回洗浄後、
せることにより作製した。TR の初期は15 m /分の
DNase / Rsnase-Free の超純水を添加し、12000× g
速度で20分間の走運動を負荷し、その後は走速度
で 1 分間遠心した。得られた溶液を回収し、総
と時間を漸増的に増加させた。TR 開始 6 週間後
RNA 濃度を測定後 RT-PCR と DNA アレイ解析へ
における走速度と走行時間は、それぞれ30 m /分
供した。DNA アレイ解析は、北海道システムサ
と90分間であった。この運動強度は、残り 3 週間
イエンス社に依頼した。
の TR 終了まで負荷した。一方、C ラットは TR
上記の総 RNA を鋳型として cDNA を調製し、
ラットと同様の環境下で飼育し、TR を行わない
PCR 解 析 を 行 っ た。 Cited1、CD137、Tbx1、
のもとした。TR ラットは最終運動36時間後に腹
Tmem26、PRDM16 の mRNA は 30 サ イ ク ル、
腔内に体重100 g 当たり 5 mg 量のペントバルビ
UCP1 と PPARγ の mRNA は 25 サ イ ク ル、β-actin
タールナトリウム(大日本製薬)を投与すること
の mRNA は20サイクル数で増幅した。DNA の変
により安楽死させた。その後、精巣上体、後腹壁、
性は94℃で10秒間、プライマーと DNA の結合は
鼠径皮下より白色脂肪組織を摘出し、脂肪細胞へ
55 ºC で10秒間、プライマーの伸長は72℃で30秒
と単離した。一連のプロトコールは、杏林大学大
間行った。使用したプライマーの配列を以下に示
学院医学研究科動物実験委員会の審査により承認
す。
されている(承認番号:160)
。
Cited1:
B.脂肪細胞の単離
白色脂肪組織は、あらかじめ200 nM のアデノ
シンと 3 mg / ml のコラゲナーゼタイプⅠを含む
5 '-ACTCTCTGGCCTACTCTAAC- 3(sense)
'
5 '-ACAGCTCGGGAAGCTCATTG- 3(antisense)
'
CD137:
Krebs-Ringer 溶 液(10 mM HEPES,5.5 mM グ ル
5 '-AGCTGTTACAACATAGTAGC- 3(sense)
'
コース, 2 %(w / v)の脂肪酸フリー牛血清アル
5 '-CCATTCACAAGCACAGACTT- 3(antisense)
'
ブ ミ ン,pH 7.4) の 入 っ て い る プ ラ ス チ ッ ク
Tbx1:
チューブへと投入し、ハサミを用いて細かく破砕
5 '-AAGAACCCGAAGGTGGCCAG- 3(sense)
'
した。その後、37℃のウォーターバス内で60分間
5 '-ATGGAATCGGGGCTGATATG- 3(antisense)
'
振とうさせることによりコラゲナーゼによる消化
を行った。消化した脂肪細胞を含む脂肪組織溶液
Tmem26:
5 '-TGGTATGTGAACCGGTCTGG- 3(sense)
'
(77)
5 '-GCCATAATCAAAGCCACAAG- 3(antisense)
'
に増加した(図 1 )。この状況下では、ヘマトキ
シリン・エオシン染色により、鼠径皮下および後
PRDM16:
5 '-AGAAACCATGACGGAGAAGC- 3(sense)
'
腹壁の白色脂肪組織の一部に褐色脂肪細胞様な細
5 '-TCTCATCTAAAAGTGCATGG- 3(antisense)
'
胞塊が出現することを観察している(データ非表
示)。一方、精巣上体脂肪組織より単離した白色
UCP1 :
5 '-GAACCCGACAACTTCCGAAG- 3(sense)
'
脂肪細胞では、C、TR ともに25サイクル数では
5 '-ATTAGATTAGGGGTCCTCCC- 3(antisense)
'
発現を確認することができなかった(データ非表
示)。
PPARγ:
5 '-ACTGCCTATGAGCACTTCAC- 3(sense)
'
5 '-GATGGCATTGTGAGACATCC- 3(antisense)
'
B.ブライト脂肪細胞のマーカー分子の発現変
化
β-actin:
TR により増加した UCP1の発現が、ブライト
5 '-ACCTGACAGACTACCTCATG- 3(sense)
'
脂肪細胞の発現変化を反映していることを確認す
5 '-ACTCATCGTACTCCTGCTTG- 3(antisense)
'
るために、ブライト脂肪細胞のマーカー分子の発
D.統計処理
現 変 化 に つ い て 検 討 し た。 Cited1、CD137、
結果は、群ごとに平均値±標準偏差で示した。
Tbx1、Tmem26の mRNA の発現は、いずれも C
検定には Student t 検定を用いた。有意水準は 5 %
と比べて TR で有意な増加が観察された(図 2 )。
C.TR による鼠径皮下および後腹壁白色脂肪
とした。
細胞における PPARγ の発現の変化
結 果
PPARγ はブライト脂肪細胞の形成に中心的な
A.TR による白色脂肪組織における UCP1 の
発現変化
役割を果たす。そこで、PPARγ の発現変化につ
いて検討したところ、TR により鼠径皮下および
褐色脂肪細胞のマーカーである UCP1 mRNA
後腹壁の白色脂肪細胞内では PPARγ mRNA の発
の発現は、TR より単離した鼠径皮下および後腹
現が有意に増加することが明らかとなった
(図 3 )
。
壁の白色脂肪細胞では、C と比較して発現が有意
D.TR による鼠径皮下および後腹壁白色脂肪
細胞における PRDM16の発現の変化
Inguinal
Retroperitoneal
UCP1
れている。そこで、鼠径皮下および後腹壁白色脂
*
6
5
Relative density
(C=1)
Relative density
(C=1)
ブライト脂肪細胞の形成には転写調節因子である
PRDM16分子の活性化が重要であることが報告さ
β-actin
4
3
2
1
0
骨格筋筋芽細胞からの褐色脂肪細胞の形成や、
C
TR
8
7
6
5
4
3
2
1
0
肪細胞における PRDM16 mRNA を検討したとこ
*
ろ、TR は C と比べて PRDM16 mRNA の発現を
有意に増加させることが明らかとなった(図 4 )。
E.DNAアレイ解析による液性因子の網羅的
検索
C
TR
図 1 .TR による鼠径皮下および後腹壁部の白色脂肪細胞
における UCP1 mRNA 発現の変化
Fig.1.Effect of TR on levels of UCP1 mRNA in inguinal and
retroperitoneal adipocytes.
The mRNA band of UCP1(upper panel)
with relative density of
each band( lower panel)are shown( C = 1, n = 5 for each
group). Results were representative of three independent experiments. Bars and vertical lines indicate mean ± SD. * P < 0.05.
C; control, TR; exercise training.
褐色脂肪細胞化には多くのさまざまな液性因子
の関与が報告されている。白色脂肪細胞はアディ
ポカインを産生する分泌細胞であるため、オート
クリン・パラクリン作用がブライト脂肪細胞化に
関与している可能性がある。実際、born morphologic protein(BMP)ファミリーは脂肪細胞から
分泌され 3)、BMP7はブライト脂肪細胞化を誘導
することが報告されている5)。そこで、DNA アレ
(78)
B
Cited1
CD137
β-actin
β-actin
2
1
0
3
*
2
1
0
TR
C
4
Relative density
(C=1)
*
3
Relative density
(C=1)
Relative density
(C=1)
4
C
4
C
2
1
Retroperitoneal
3
2
1
0
TR
C
TR
Tmem26
β-actin
β-actin
*
2
1
3
*
2
1
0
TR
C
4
Relative density
(C=1)
3
Relative density
(C=1)
4
C
TR
Retroperitoneal
Inguinal
Tbx1
Relative density
(C=1)
C
*
4
D
Inguinal
0
*
3
0
TR
Retroperitoneal
Inguinal
Relative density
(C=1)
Retroperitoneal
Inguinal
4
*
3
Relative density
(C=1)
A
2
1
0
C
4
2
1
0
TR
*
3
C
TR
図 2 .TR による鼠径皮下および後腹壁部の白色脂肪細胞における Cited1、CD137、Tbx1、Tmem26 mRNA 発現の変化
Fig.2.Effect of TR on levels of Cited1, CD137, Tbx1, and Tmem26 mRNAs in inguinal and retroperitoneal adipocytes.
The mRNA bands of(A)Cited1,(B)CD137,(C)Tbx1,(D)Tmem26(upper panel)with relative density of each band(lower panel)are
shown(C = 1, n = 5 for each group)
. Results were representative of three independent experiments. Bars and vertical lines indicate mean
± SD. * P < 0.05. C; control, TR; exercise training.
PRDM16
β-actin
β-actin
3
2
1
0
C
TR
3
*
Relative density
(C=1)
*
Relative density
(C=1)
Relative density
(C=1)
PPARγ
4
2
1
0
C
TR
図 3 .TR による鼠径皮下および後腹壁部の白色脂肪細胞
における PPARγ mRNA 発現の変化
Fig.3.Effect of TR on levels of PPARγ mRNA in inguinal and
retroperitoneal adipocytes.
The mRNA band of PPARγ(upper panel)with relative density
of each band(lower panel)are shown(C = 1, n = 5 for each
group). Results were representative of three independent experiments. Bars and vertical lines indicate mean ± SD. * P < 0.05.
C; control, TR; exercise training.
Retroperitoneal
Inguinal
Retroperitoneal
*
4
Relative density
(C=1)
Inguinal
3
2
1
0
C
TR
*
2
1
0
C
TR
図 4 .TR による鼠径皮下および後腹壁部の白色脂肪細胞
における PRDM16 mRNA 発現の変化
Fig.4. Effect of TR on levels of PRDM16 mRNA in inguinal
and retroperitoneal adipocytes.
The mRNA band of PRDM16
(upper panel)with relative density of each band
(lower panel)
are shown
(C = 1, n = 5 for each
group)
. Results were representative of three independent experiments. Bars and vertical lines indicate mean ± SD. * P < 0.05.
C; control, TR; exercise training.
(79)
表 1 .DNA アレイ解析による BMP とアクチビン受容体
の発現変化
Table 1.DNA array analysis of levels of BMP and Activin receptor mRNA.
Inguinal
Retroperitoneal
胞化には、白色脂肪細胞から分泌される BMP7に
よる調節作用が関与する可能性がある。一方、鼠
径皮下部の白色脂肪細胞のブライト脂肪細胞化
は、血中アクチビン量の変化というよりはむしろ
C
TR
C
TR
アクチビン受容体の発現増加に伴う感受性の増加
BMP4
1
0.46
1
1.1
が関与している可能性もある。この結論の詳細に
BMP5
1
1
0.95
BMP7
1
0.49
1
2.98
関しては、現在培養細胞への過剰発現系の構築を
Activin receptor
1
2.4
1
1.1
19.4
DNA array analysis was performed by using total RNAs obtained from both inguinal and retroperitoneal adipocytes. The
number of list shows change in levels of mRNAs compared
with control(levels of control = 1). C; control, TR; exercise
training.
イ解析により白色脂肪細胞から分泌される液性因
介した検討を進めている。TR がなぜ鼠径皮下部
の白色脂肪細胞のアクチビン受容体の発現を調節
するのかについては明確に言及できないが、TR
による毛細血管の増加などが関与しているのかも
しれない。今後の更なる検討が必要である。
総 括
子の mRNA 発現変化について検討したところ、
TR は鼠径皮下と後腹壁部の白色脂肪細胞の一
BMP フ ァ ミ リ ー に 関 し て は BMP4、BMP5、
部をブライト脂肪細胞化することが示唆された。
BMP7の発現変化が観察された。興味深いことに、
成人に残されている褐色脂肪細胞の多くはブライ
TR は C と比べて鼠径皮下白色脂肪細胞における
ト脂肪細胞であるとの報告もある2)。継続的な運
BMP7 mRNA の発現を 2 倍以下に減少させたが、
動はブライト脂肪細胞の形成を助け、体内に余剰
後腹壁白色脂肪細胞における BMP7 mRNA 発現
なエネルギーをため込むことを阻止するのかもし
を約 3 倍増加させることが明らかとなった。加え
れない。“Exercise is Medicine”の一端であろう。
て、アクチビンはブライト脂肪細胞化を誘導する
謝 辞
ことが報告されているが4)、アクチビン受容体の
mRNA 発現は、C と比べて TR により鼠径皮下白
色脂肪細胞で2.4倍増加するにもかかわらず、後
腹壁白色脂肪細胞では両群間に顕著な変化は観察
されなかった(表 1 )
。
考 察
鼠径皮下と後腹壁部の脂肪組織に存在する白色
脂肪細胞は、一部、ブライト脂肪細胞へと変化し、
TR はこの変化機構への修飾能を有することが明
らかとなった。実際、TR は C と比べて褐色脂肪
細胞やブライト脂肪細胞のマーカー分子の発現変
化を有意に増加させる結果は(図 1 ~ 4 )、この
結論を後押しするものであろう。
公益財団法人明治安田厚生事業団より本研究へ研究助
成を賜りましたことに深謝いたします。
参 考 文 献
1)García-Alonso V, López-Vicario C, Titos E, MoránSalvador E, González-Périz A, Rius B, Párrizas M, Werz
O, Arroyo V, Clària J(2013)
: Coordinate functional regulation between microsomal prostaglandin E synthase-1
(mPGES-1)and peroxisome proliferator-activated receptor γ(PPARγ)in the conversion of white-to-brown adipocytes. J Biol Chem, 288, 28230-28242.
2)Giralt M, Villarroya F(2013)
: White, brown, beige / brite:
different adipose cells for different functions? Endocrinology, 154, 2992-3000.
3)Gustafson B, Hammarstedt A, Hedjazifar S, Hoffmann JM,
Svensson PA, Grimsby J, Rondinone C, Smith U(2015):
本研究結果の注目すべき点は、BMP7とアクチ
BMP4 and BMP antagonists regulate human white and
ビン受容体の mRNA 発現変化にある。すなわち、
beige adipogenesis. Diabetes, in press.
TR による鼠径皮下と後腹壁部の白色脂肪細胞の
ブライト脂肪細胞化のメカニズムは両部位で異な
4)Koncarevic A, Kajimura S, Cornwall-Brady M, Andreucci
A, Pullen A, Sako D, Kumar R, Grinberg AV, Liharska K,
Ucran JA, Howard E, Spiegelman BM, Seehra J, Lachey J
る可能性が大きい。推測の域を超えないが、TR
(2012): A novel therapeutic approach to treating obesity
による後腹壁部の白色脂肪細胞のブライト脂肪細
through modulation of TGFβ signaling. Endocrinology,
(80)
153, 3133-3146.
5)Obregon MJ(2014)
: Changing white into brite adipocytes. Focus on“BMP4 and BMP7 induce the white-tobrown transition of primary human adipose stem cells".
Am J Physiol Cell Physiol, 306, C425-C427.
6)Ogasawara J, Sakurai T, Kizaki T, Ishibashi Y, Izawa T,
Terao A, Kimura K, Saito M(2013)
: Thermogenic ability
of uncoupling protein 1 in beige adipocytes in mice. PLoS
One, 8, e84229.
8)Rosenwald M, Wolfrum C(2014)
: The origin and definition of brite versus white and classical brown adipocytes.
Adipocyte, 3, 4-9.
Sumitani Y, Ishida H, Radak Z, Haga S, Ohno H(2012)
:
9)van Marken Lichtenbelt WD, Vanhommerig JW, Smulders
Higher levels of ATGL are associated with exercise-in-
NM, Drossaerts JM, Kemerink GJ, Bouvy ND, Schrauwen
duced enhancement of lipolysis in rat epididymal adipo-
P, Teule GJ(2009): Cold-activated brown adipose tissue
cytes. PLoS One, 7, e40876.
in healthy men. N Engl J Med, 360, 1500-1508.
7)Okamatsu-Ogura Y, Fukano K, Tsubota A, Uozumi A,
(81)
第 30 回若手研究者のための健康科学研究助成成果報告書
2013 年度 pp.81~86(2015.4)
定期的運動による動脈硬化症予防の新規分子メカニズムの解明
奥 津 光 晴*
MOLECULAR MECHANISMS IN EXERCISE TRAININGINDUCED ATHEROPROTECTION
Mitsuharu Okutsu
Key words: exercise training, atherosclerosis, autophagy.
緒 言
ことで予防が期待できる。近年注目されている蛋
白質分解システムであるオートファジーは、不要
我が国の死因の第 1 位は悪性新生物、第 2 位は
な蛋白質を素早く分解することで生体の恒常性を
心疾患、第 3 位は肺炎、第 4 位は脳血管疾患であ
維持しており5)、オートファジー不全は代謝性疾
る4)。しかし、動脈硬化性疾患を基盤とする心疾
患や骨格筋萎縮などのさまざまな疾患に関連する
患と脳血管疾患の死因の合計は、悪性新生物の死
ことが報告されている3,7)。しかしながら、運動に
因に匹敵することから、動脈硬化症の発症機序の
よる動脈硬化症予防の分子メカニズムについて、
解明と予防方法の確立は急務である。定期的運動
大動脈のオートファジーに着目した報告はない。
は、動脈硬化症などの循環器系疾患の予防に効果
そこで本研究では、運動トレーニングによる動脈
があることが近年の運動介入研究や疫学調査によ
硬化症の抑制と大動脈のオートファジーとの関連
り報告されている
について検討した。
。動脈硬化症の予防を目的と
1,9)
した運動プログラムの開発は、健康寿命の延伸や
研 究 方 法
医療費削減の観点からも重要な課題であるが、運
動が動脈硬化症を予防する分子メカニズムを解明
A.実験動物
し効果的な運動プログラムの開発を試みた報告は
8 週齢の雄性アポリポプロテイン E 欠損マウ
少ない。
スを日本エスエルシーより購入し実験に使用し
動脈硬化症は、血管内皮細胞や血管平滑筋が酸
た8)。本研究で遂行した動物実験は、名古屋市立
化ストレスや炎症性サイトカインにより損傷を受
大学動物実験倫理委員会の承認の下で実施された
け、単球やマクロファージなどの免疫細胞が大動
脈の損傷部位から産生される細胞誘導因子により
(承認番号:H26M-32)。
B.飼育条件
損傷部位に集積し、血管内皮細胞下へ浸潤後、酸
購入したマウスは、 1 週間の予備飼育後、体重
化 LDL など取り込み泡沫化することで発症する。
が均等になるよう運動トレーニング(Ex)群と
したがって、動脈硬化症は損傷した血管内皮細胞
安静(Sed)群の 2 群に分けた。Ex 群は自発走行
や平滑筋を素早く排除し、正常な血管を構築する
運動装置(MED 社)を設置した飼育ケージにて
* 名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科 Graduate School of Natural Sciences, Nagoya City University, Nagoya, Japan.
(82)
16週間飼育した。その間、Sed 群は運動装置を設
tor-activated receptor-γ coactivator 1α(PGC-1α)、
置していない Ex 群と同じサイズの飼育ケージに
manganese superoxide dismutase(MnSOD)、LC3、
て通常飼育した。マウスの運動パターンと走行距
Atg7、Becli-1および p62を使用した。また、内因
離は専用の解析ソフトにて解析した。餌は45%の
性コントロールとして β actin を使用した。一次
脂肪を含有する高脂肪食(Research Diet)を自由
抗体反応終了後、それぞれの一次抗体に対応した
摂取させた。体重と摂餌量は毎週計測した。
horseradish peroxidase 標識された二次抗体にてイ
C.検体採取
ンキュベーションした後、化学発光検出試薬にて
運動トレーニング期間終了後、マウスをイソフ
発色しルミノイメージアナライザ(LAS3000mini,
ラン麻酔下で採血し頸椎脱臼にて安楽死させた。
GE)で観察した。
E.動脈硬化層の評価
安楽死後、生理食塩水を環流し体内に残留した血
液をすべて取り除き、胸部大動脈、心臓および足
動脈硬化層の評価は、OCT コンパウンドに包
底筋を採取した。採取した血液は、遠心分離にて
埋した検体の大動脈弁が観察できる部位を薄切後
血清を単離しコレステロールとサイトカインの濃
オイルレッド O にて染色し、光学顕微鏡に接続
度の測定に使用した。胸部大動脈と足底筋は、解
したデジタルカメラ(DS-Fi2,Nikon)を用い撮
剖直後に蛋白解析用の溶液にてホモジネイトし蛋
影後、動脈硬化層を ImageJ にて計測した。
F.コレステロールの測定
白の発現の評価に使用した。心臓は、 4 %パラ
フォルムアルデヒドに一晩浸しスクロールにて置
血中コレステロールの測定には高速液体クロマ
換した後、OCT コンパウンドに包埋し動脈硬化
トグラフィーを使用した。
G.サイトカインの測定
層の評価に使用した。
D.骨格筋および大動脈の蛋白発現の評価
血中サイトカインの測定には Proteome Profiler
蛋白の発現の評価にはウェスタンブロット法を
Antibody Arrays(R&D)を使用した。
H.統計解析
使用した。 8 %と12%のポリアクリルアミドゲル
を作成後、ウェスタンブロットに使用する骨格筋
各項目の測定結果は平均値±標準誤差で表した。
と胸部大動脈の検体をポリアクリルアミドゲルに
各項目の測定結果の群間比較は対応のない t 検定
ロードし十分に分離されるまで泳動した。泳動
を使用し、有意水準 P < 0.05以下を有意とした。
後、PVDF メンブレンに転写し 5 %スキムミルク
結 果
にてブロッキングした。ブロッキング後、評価す
A.自発運動走行距離、体重および摂餌量
る蛋白の一次抗体にてメンブレンをインキュベー
ションした。使用した一次抗体は、Myosin heavy
自発運動は野生型のマウス同様に暗期に走行し
chain(MHC)IIa、MHCIIb、Peroxisome prolifera-
明期に休息しており(図 1 A)、運動トレーニン
800
600
400
200
0
0
2
Day
4
6
30000
20000
10000
0
D
50
Body weight (g)
1000
C
40000
5
10
wks
15
40
Sed
Ex
40
30
20
***
0
4
8 12 16
wks
Food intake (g/week)
B
: Dark period
: Light period
Running activity (counts/day)
Running activity (counts/5min)
A
***
35
30
25
20
Sed
Ex
図 1 .自発運動、体重および摂餌量の比較
Fig.1.Voluntary exercise training, body weight and food intake in sedentary
(Sed)and exercise-trained
(Ex)apolipoprotein E deficient mice.
A: Representative running activity recording. B: Voluntary exercise activity. C: Change of body weight during 16 weeks
of intervention. D: Food intake. Results are represented as means ± SE
(n = 8-14/group)
. ***P < 0.001.
(83)
A
B
MHCIIa
***
250kd
10
5
0
PGC-1α
100kd
MnSOD
25kd
β-actin
37kd
Fold change
15
MHCIIb
Sed
***
1.0
0.5
Sed
0.5
Sed
**
1.5
1.0
0.5
0.0
Ex
Ex
MnSOD
2.0
1.5
0.0
***
1.0
0.0
Ex
PGC-1α
2.0
MHCIIb
1.5
Fold change
MHCIIa
Fold change
250kd
Sed Ex
Fold change
20
Sed
Ex
図 2 .運動による骨格筋蛋白の発現変化
Fig.2. Immunoblot analyses for fiber-type, PGC-1α and MnSOD protein in
plantaris muscles of sedentary(Sed)
and exercise-trained
(Ex)
apolipoprotein
E deficient mice.
A: Representative immunoblot images of MHCIIa, MHCIIb, PGC-1α, MnSOD
and β-actin. B: Quantification of MHCIIa, MHCIIb, PGC-1α and MnSOD. Results are represented as means ± SE
(n = 5/group)
. **P < 0.01, ***P < 0.001.
Sed
B
Ex
Mean lesion area(x104µm2)
A
*
50
40
30
20
10
0
Sed
Ex
図 3 .動脈硬化層の比較
Fig.3. Atherosclerotic plaque lesions in sedentary(Sed)and exercisetrained
(Ex)apolipoprotein E deficient mice.
A: Representative Oil red O stained sections of atherosclerotic lesions. B:
Quantification of atherosclerotic lesion area. Results are represented as
means ± SE(n = 3/group)
. *P < 0.05.
Sed
Ex
20
10
0
Sed
Ex
800
VLDL-C (mg/dl)
500
LDL-C (mg/dl)
1000
0
200
30
HDL-C (mg/dl)
Total (mg/dl)
1500
150
100
50
0
Sed
Ex
600
400
200
0
Sed
Ex
図 4 .血中コレステロールの比較
Fig.4.Serum cholesterol concentration in sedentary
(Sed)
and exercise-trained
(Ex)
apolipoprotein E deficient mice.
Results are represented as means ± SE
(n = 5/group)
.
(84)
A
B
*
Sed
Ex
IL-1ra
Reference
Fold change
1.5
1.0
0.5
0.0
Sed
Ex
図 5 .血中サイトカインの比較
Fig.5. Immunoblot analyses for cytokine in serum of sedentary(Sed)and exercise-trained(Ex)apolipoprotein E deficient mice.
A: Representative immunoblot images of IL-1ra and reference.
B: Quantification of IL-1ra. Results are represented as means
± SE(n = 3/group). *P < 0.05.
LC3-I
LC3-II
Atg7
β-actin
37kd
0.5
Sed
0.5
0.0
Sed
Ex
1.5
0.5
1.5
1.0
LC3-I
1.0
0.0
Ex
Atg7
1.5
Fold change
Beclin-1
50kd
1.0
0.0
p62
50kd
75kd
1.5
Fold change
15kd
LC3
P = 0.06
Sed
Beclin-1
0.5
0.0
Sed
*
0.5
Sed
Ex
Ex
p62
1.5
P = 0.07
1.0
LC3-II
1.0
0.0
Ex
Fold change
Sed Ex
Fold change
1.5
Fold change
B
Fold change
A
1.0
0.5
0.0
Sed
Ex
図 6 .大動脈のオートファジー関連蛋白の発現の比較
Fig.6.Immunoblot analyses for autophagy protein in aorta of sedentary
(Sed)
and exercise-trained
(Ex)apolipoprotein E deficient mice.
A: Representative immunoblot images of LC3-I, LC3-II, Atg7, Beclin-1, p62 and β-actin. B: Quantification of
LC3-I, LC3-II, Atg7, Beclin-1, p62. Results are represented as means ± SE
(n = 5/group)
. *P < 0.05.
グ期間中の走行距離は低下する傾向を示した(図
よび MnSOD の発現は Sed 群に比べ有意に高く、
1 B)
。体重は、Sed 群、Ex 群ともに増加したが、
MHCIIb の発現は有意に低かった(図 2 A・B)。
増加率は Ex 群のほうが Sed 群よりも有意に低
C.動脈硬化層の評価
かった(図 1 C)。摂餌量は、Ex 群のほうが Sed
運動トレーニングによる動脈硬化症の抑制を確
群よりも有意に多かった(図 1 D)
。
認するため、大動脈を Oil red O にて染色し Ex 群
B.運動トレーニングの評価
と Sed 群の動脈硬化層の形成を比較した。その結
本研究で使用した自発走行運動モデルが適切な
果、Ex 群の大動脈硬化層は Sed 群に比べ有意に
トレーニングモデルであることを確認するため、
小さかった(図 3 A・B)。
運動トレーニングにより変動することが知られて
D.コレステロールの評価
いる骨格筋の蛋白の変動を評価した。その結果、
コレステロールは動脈硬化層の形成を促進する
先行研究と同様
一因であるため、Ex 群と Sed 群の血中コレステ
、Ex 群の MHCIIa、PGC-1α お
6,10)
(85)
ロール濃度を比較した。その結果、Ex 群の total
イトカインが変動したものの、大動脈のオート
cholesterol、LDL および VLDL は Sed 群に比べ低
ファジーは骨格筋とは異なる変化を示したことか
い傾向を示したが有意差はなく、HDL に違いは
ら、サイトカイン以外のオートファジーを調節す
なかった(図 4 )
。
る因子の存在が考えられる。骨格筋は、運動によ
E.サイトカインの評価
る伸縮などの物理的刺激を受けるが血管平滑筋の
血中サイトカインは、測定した40項目のうち
物理的刺激は骨格筋に比べ小さいことから、物理
IL-1ra が最も顕著な違いを示し、Ex 群は Sed 群
的刺激に対する細胞内情報伝達経路の活性化が
に比べ48%低かった(図 5 )
。
オートファジーを調節する因子である可能性があ
F.オートファジー蛋白の変動
る。今後、運動によるオートファジーの変動を調
大動脈のオートファジーの変動を検討するた
節する細胞内情報伝達経路の解明が必要である。
め、動脈硬化層が形成されやすく解析に十分な組
本研究では、採取した大動脈をホモジネイトし
織量がある胸部大動脈を用い、オートファジー蛋
ウェスタンブロットに使用した。大動脈は主に血
白である LC3、Atg7および Beclin-1とオートファ
管内皮細胞と血管平滑筋から構成されているが、
ジーによる分解の指標となる p62の発現をウェス
本研究で観察されたオートファジーの変化は血管
タンブロットにて測定し Ex 群と Sed 群で比較し
内皮細胞と血管平滑筋のどちらの現象かを解明す
た。その結果、Ex 群の LC3-II は Sed 群に比べ有
ることができなかった。マウスから採取できる血
意に低かった。Atg7と Beclin-1は低い傾向を示す
管内皮細胞は少なくウェスタンブロットは困難な
ものの有意差はなかった。また、オートファジー
ため微量でも評価が可能な mRNA の発現による
蛋白は低下するが p62は変化しなかったことか
検討を計画したが、マウス動脈からの血管内皮細
ら、単なるオートファジー蛋白の増加ではなく
胞の分離は費用がかかることが判明し予算不足か
オートファジーによる分解が抑制されたことを示
ら遂行できなかった。また、免疫組織化学染色に
した(図 6 A・B)
。
よりこれを補うことができると考え実施したが、
考 察
良い染色像を得ることができなかった。今後、新
たな予算獲得や実験手法を工夫するなどにより、
本研究は、定期的運動はオートファジーを促進
運動によるオートファジーの変動がどこで起きた
することで機能低下した大動脈の血管内皮細胞や
かを詳細に検討する必要がある。
平滑筋細胞を排除し、正常な細胞を補充すること
総 括
で大動脈の恒常性を維持し動脈硬化症を予防する
と仮説を立て検証した。その結果、運動トレーニ
運動トレーニングによる動脈硬化症の抑制は、
ングは動脈硬化症を軽減したが、仮説とは異なり
大動脈のオートファジーの抑制が関与する可能性
大動脈のオートファジーは抑制された。先行研究
がある。
では、定期的な運動が骨格筋のオートファジーを
促進し、骨格筋の代謝機能を改善することや持久
的運動能力を向上することが遺伝子改変動物を用
いた研究により立証されている2,6)。本研究では、
謝 辞
本研究の遂行に対し多大な助成を賜りました公益財団
法人明治安田厚生事業団に深く感謝申し上げます。また、
MHCIIa および MHCIIb 抗体を供与いただきました東京大
大動脈の恒常性が改善されたにもかかわらずオー
学大学院医学系研究科附属疾患生命工学センターの秋本
トファジーは抑制されたことから、運動トレーニ
崇之先生とご協力いただきました先生方に心よりお礼を
ングによる大動脈の恒常性維持は、オートファ
ジーを抑制することが一因である可能性を示唆し
ている。
申し上げます。
参 考 文 献
1)Gielen S, Schuler G, Hambrecht R
(2001)
: Exercise train-
オートファジーを調節する因子として内分泌因
ing in coronary artery disease and coronary vasomotion.
子があげられる。本研究では、運動により血中サ
Circulation, 103, E1-E6.
(86)
2)He C, Bassik MC, Moresi V, Sun K, Wei Y, Zou Z, An Z,
8)Okutsu M, Lira VA, Higashida K, Peake J, Higuchi M,
Loh J, Fisher J, Sun Q, Korsmeyer S, Packer M, May HI,
Suzuki K(2014): Corticosterone accelerates atherosclero-
Hill JA, Virgin HW, Gilpin C, Xiao G, Bassel-Duby R,
sis in the apolipoprotein E-deficient mouse. Atherosclero-
Scherer PE, Levine B(2012)
: Exercise–induced BCL2-
sis, 232, 414-419.
regulated autophagy is required for muscle glucose homeostasis. Nature, 481, 511-515.
9)Thompson PD, Buchner D, Pina IL, Balady GJ, Williams
MA, Marcus BH, Berra K, Blair SN, Costa F, Franklin B,
3)Komatsu M, Kominami E(2006)
: Autophagic-lysosomal
Fletcher GF, Gordon NF, Pate RR, Rodriguez BL, Yancey
system: physiology and pathology. Nihon Shinkei Seishin
AK, Wenger NK; American Heart Association Council on
Yakurigaku Zasshi, 26, 75-81.
Clinical Cardiology Subcommittee on Exercise, Rehabili-
4)厚生労働省(2015)
:平成 26 年
(2014)
人口動態統計の
年間推計.
tation, and Prevention; American Heart Association Council on Nutrition, Physical Activity, and Metabolism Sub-
5)Levine B, Klionsky DJ(2004): Development by self-di-
committee on Physical Activity( 2003)
: Exercise and
gestion: molecular mechanisms and biological functions of
physical activity in the prevention and treatment of athero-
autophagy. Dev Cell, 6, 463-477.
sclerotic cardiovascular disease: a statement from the
6)Lira VA, Okutsu M, Zhang M, Greene NP, Laker RC,
Council on Clinical Cardiology(Subcommittee on Exer-
Breen DS, Hoehn KL, Yan Z(2013): Autophagy is re-
cise, Rehabilitation, and Prevention)and the Council on
quired for exercise training-induced skeletal muscle adap-
Nutrition, Physical Activity, and Metabolism(Subcommit-
tation and improvement of physical performance. FASEB
J, 27, 4184-4193.
tee on Physical Activity)
. Circulation, 107, 3109-3116.
10)Yan Z, Okutsu M, Akhtar YN, Lira VA(2011): Regulation
7)Masiero E, Agatea L, Mammucari C, Blaauw B, Loro E,
of exercise-induced fiber type transformation, mitochon-
Komatsu M, Metzger D, Reggiani C, Schiaffino S, Sandri
drial biogenesis, and angiogenesis in skeletal muscle. J
M(2009): Autophagy is required to maintain muscle mass.
Appl Physiol, 110, 264-274.
Cell Metab, 6, 507-515.
(87)
第 30 回若手研究者のための健康科学研究助成成果報告書
2013 年度 pp.87~92(2015.4)
認知機能向上を目指した発達期運動効果の解明
木 田 裕 之*
THE EFFECT OF EXERCISE IN IMMATURE STAGE ON
IMPROVEMENT OF COGNITIVE FUNCTION
Hiroyuki Kida
Key words: motor learning, AMPA receptor, glutamic acid, plasticity.
ル学習・認知課題に関する AMPA 受容体シナプ
緒 言
ス移行のダイナミクスは不明である。
「運動は脳にどのような影響を及ぼすのか?」。
環境エンリッチメントと脳機能の向上の関係に
これまでこの問いに対して多くの研究者が挑んで
ついてはこれまでにさまざまな報告がされてきた
きた。マクロな点からは身体運動は海馬の神経新
が5)、活動量まで定量化することは難しい。更に、
生を促進し、海馬の重量を増加させる2)。また分
運動野と前頭葉も機能的な結合を有していること
子レベルでは神経栄養因子を増加させ 、次いで
が知られているため、まず運動野の可塑的変化を
シナプス可塑性や神経回路再編を誘導する。この
明らかにすることが重要と考えられた。そこで本
ように運動は細胞レベルでの学習に直接影響し、
研究では、 1)定量化された運動トレーニング下
新しい情報を記録し分析する脳の機能を高めてい
での運動学習のメカニズムを明らかにし、次いで、
ることが分かってきた。しかしながら、これらの
2)運動学習が前頭前野のネットワークにどのよ
研究は成熟あるいは老齢動物を用いたもので幼若
うな効果を及ぼすのかという点を電気生理学的に
動物の研究はあまり知られていない。
検討した。
1)
グルタミン酸は中枢神経系における主要な興奮
研 究 方 法
性神経伝達物質であり、課題関連運動には AMPA
型グルタミン酸受容体(AMPA 受容体)および
A.動物
NMDA 型グルタミン酸受容体(NMDA 受容体)
すべての実験は山口大学動物使用委員会の承認
を介した神経伝達が必須である。特に AMPA 受
を受け(承認番号:04-074, 04-079)、動物実験ガ
容体はシナプス後部の細胞膜上にダイナミックに
イドラインに基づいて実施された。実験には 4 週
輸送され、学習を成立させることが近年明らかと
齢 SD ラット(体重120~150 g)を用いた(n =
なった 。また AMPA 受容体のシナプス移行は、
66)。飼育ケージ内では食餌および水を自由に摂
発達期における適切な神経回路形成や恐怖条件付
取させ、一定気温(25℃)のもと12時間の明暗サ
け学習に必須である
イクル下で飼育した。
3)
* 。しかしながら、運動スキ
6,4)
山口大学大学院医学系研究科システム神経科学分野 Departments of Systems Neuroscience, Yamaguchi University Graduate School of Medicine,
Yamaguchi, Japan.
(88)
B.行動テスト
1 .Voltage clamp
定量化されたトレーニング下での運動学習の効
電流刺激によるシナプス後電流を記録するため
果 を 評 価 す る た め に、 ロ ー タ ー ロ ッ ド テ ス ト
に、電位固定法によるスライスパッチ実験を行っ
(ENV577, Med Associates Inc)を行った。運動試
た。記録チャンバー内にはピクロトキシン(Sig-
験は 1 日10試行とし、最長で 2 日連続行った(図
ma, 100 μM)とクロロアデノシン(Sigma, 4 μM)
1 A)
。加速モード( 4 ~40 rpm)で 1 試行当た
を還流させた。刺激電極(ユニークメディカル)
りの運動時間は最大 5 分間とした。
はタングステン電極を用い、一次運動野 II/III 層
長期間、環境エンリッチメント下で飼育した動
(外側 2 mm)、記録部位から200~300 μm 内側に
物の可塑性を調べるために、回転盤付イグルーや
設置した。-60 mV に電位固定したときのピーク
トンネル等の玩具(アメニック)下で 2 週間飼育
の電流値を AMPA 電流とし、+40 mV に固定し
した。直後に、新奇物体認識試験を行った。訓練
たときの刺激オンセットから150ミリ秒後の電流
試行として、 2 つのオブジェクトを置いた装置内
値を NMDA 電流として記録した。記録は50~100
で10分間自由に探索させた。 1 時間後、片方を新
回繰り返し、平均化した。NMDA 電流値に対す
奇オブジェクトに置換した装置内で更に 5 分間自
る AMPA 電流値を AMPA / NMDA 比として算出
由に探索させた。訓練試行および保持試行では、
した。
2 つのオブジェクトに対するそれぞれの接触回数
2 .Miniature EPSC
を測定した。保持試行における総接触回数に対す
シナプス前終末から自発的に放出される 1 シナ
る新奇オブジェクトの接触回数の割合を判別指数
プス小胞当たりのグルタミン酸放出による AMPA
(Discrimination index)として算出した。
C.電気生理学実験
受容体由来の微小興奮性シナプス後電流(miniature EPSC; mEPSC)を記録するため、電位依存性
運動学習課題では最終試行から30分後、エン
Na チャネル選択的阻害剤であるテトロドトキシ
リッチメントでは急性期の影響を除くために 1 日
(TTX, Wako, 0.5 μM)および NMDA 受容体選択
後、動物に深麻酔を行って、急性脳スライスを作
的阻害剤 APV(Sigma, 100 μM)を ACSF に加え、
製した。動物を断頭後、脳を素早く取り出して混
mEPSC を記録した。電位は-60 mV に固定し、
合ガス( 5 % CO2/95% O2)を飽和させた氷冷ダ
記録時間は 5 分間とした。同様のプロトコールで
イセクションバッファー内に浸した。ビブラトー
電位を+15 mV に固定し、微小抑制性シナプス後
ムを用い(Leica)
、厚さ350 μm の脳の冠状断を作
電流(miniature IPSC; mIPSC)を記録した。いず
製し、混合ガスで飽和させた人工脳脊髄液(22~
れも10 pA 以上の EPSC/IPSC を解析対象データと
25℃)で満たしたインターフェイスチャンバー内
し、平均振幅と 5 分間における頻度を調べた。
に移した。ノマルスキー微分干渉装置を備えた正
D.データ解析
立顕微鏡(BX51, Olympus)に装着した、赤外線
本研究の実験データは平均±標準誤差で表記し
高感度カメラ(Hamamatsu Photonics)を通して脳
た。 統 計 に 関 し て は、 2 群 間 の 比 較 に お い て
スライス標本を観察し、大脳皮質一次運動野また
Mann-Whitney test を用い、 3 群間の比較には一元
は前辺縁皮質の II/III 層の細胞からホールセル・
配置分散(ANOVA)に次いで多重比較検定(post
パッチクランプ記録を行った。
hoc analysis with Fisher's test)を実施した。有意水
電極内部は実験に応じた細胞内液で充填し、抵
準はそれぞれ0.05以下とした。
抗は 4 ~ 7 MΩ のものを用いた。記録中のチャ
ンバーの温度は22~25℃に保った。電流・電圧は
結 果
細胞内記録用増幅器(Axoclamp 1 D)にて増幅し、
A.運動トレーニング後の運動スキルの向上
A-D コンバータ(Digidata 1440A)でデジタル化
回数を経るごとに回転棒上の滞在時間は延長が
した後、ハードディスクに取り込んだ(Clampex
みられ、 2 日目の試行後には運動スコアはプラ
10)
。
トーになった(図 1 B)。テストした動物すべて
(89)
*
*
AMPA/NMDA ratio(%)
図 1 .行動テスト
Fig.1.Behavioral test.
A, An experimental design. B, Mean latency for each trial
(10 trials/day)
to fall from the accelerating rotor rod barrel in 2-days trained rats
(n = 22)
. C, Average scores at the first trial,
the final trial on the 1st day and the 2nd day. * P < 0.05(ANOVA, Fisher's PLSD test). All
animals improved the motor performance.
*
図 2 .電気刺激に対する応答
Fig.2.AMPAR- and NMDAR-mediated EPSCs evoked by the electrical stimulation in the layers
II/III.
A, Example traces of average EPSCs for the AMPA response at -60 mV and the NMDA response
at +40 mV, and AMPA/NMDA ratios of EPSCs for untrained trained rats
(n = 57)
, 1-day trained
rats
(n = 52)and 2-days trained rats
(n = 51). * P < 0.05(ANOVA, Fisher's PLSD test). B, Cumulative probability distributions of AMPA/NMDA ratios for untrained trained rats(open circle),
1-day trained rats
(gray filled circle)
and 2-days trained rats
(filled circle)
.
において、滞在時間の延長がみられ、平均の滞在
B.運動学習のメカニズム
時間は前日よりも有意に増加した(F(2, 63) = 52.0,
運動学習後のシナプス結合の変化を観察するた
P < 0.05, ANOVA, 図 1 C)
。
め、電位固定下で運動野 II/III 層電気刺激を行い
AMPA 電流と NMDA 電流を同一ニューロンより
**
Frequency
(Events/5 min)
(90)
*
*
図 3 .微小シナプス電流
Fig.3.Analysis of mEPSCs and mIPSCs.
A, Example traces of mEPSCs and mIPSCs. B, Mean amplitude
(left)and mean frequency
(right)for untrained trained rats
(n = 64)
, 1-day trained rats
(n = 57)
and 2-days trained rats
(n = 69).
Duration(sec)
Discrimination index
C
3000
2000
1000
0
6
6
Control Enrichiment
300
*
27
0
B
100
0
50 ms
Control
Enrichiment
200
10 pA
200
NMDA/AMPA ratio(%)
B
A
*
23
Control Enrichiment
1
*
6
6
6
peripheral
6
Central
1
Distribution
Total activity(cm)
A
Control
Enrichiment
0.5
0
0
6
6
Control Enrichiment
図 4 .運動後の行動テスト
Fig.4.Behavioral test after motor training.
A, Total activity of the sham group(n = 6)and the group exposed to environmental enrichment
(n = 6)in the open field test.
B, Activity between in the central area and in the peripheral
area in the open field test. C, Novel object recognition behavior.
* P < 0.05(Mann-Whitney test)
.
0
NMDA/AMPA ratio
(%)
250
図 5 .運動後の電気刺激応答
Fig.5.AMPAR- and NMDAR-mediated EPSCs in layers II/III
neuron in the prelimbic cortex evoked.
A, Example traces of average EPSCs for the AMPA and the
NMDA response by the electrical stimulation in deep layers,
and NMDA/AMPA ratios for control group
(n = 27)and the exposed to environmental enrichment
(n = 23)
. * P < 0.05
(ManWhitney test). B, Cumulative probability distributions of
NMDA/AMPA ratios for the control group(open circle)
and the
environmental enrichment group
(filled circle)
.
(91)
記録した。運動後は、AMPA 電流の増加が観察
mEPSC の振幅・頻度ともに増加し、プレシナプ
され、2 日後には NMDA 電流の増加を示すニュー
スからのグルタミン放出も増加したことが分かっ
ロンもみられた(図 2 A)
。NMDA 電流に対する
た。このように運動学習成立において、プレ・ポ
AMPA 電流の割合は運動学習 1 日目直後のみコ
ストシナプス両側で学習段階に応じた興奮性・抑
ントロール群に対し、有意に増加した(F(2, 148) =
制性シナプスによるダイナミックな可塑的変化が
4.96, P < 0.05, ANOVA, 図 2 A・B)
。
起こることが判明した。
次にシナプス前細胞側の可塑性とシナプス後細
同時に一次運動野と機能結合している前頭葉細
胞側を細胞ごとに網羅的に解析するため、-60
胞でも可塑的変化がみられることが予想される
mV に膜電位を固定して mEPSC を記録した(図
が、長期運動後(環境エンリッチメント下)の前
3 A)
。コントロール群と比較して、運動 1 日目
頭葉細胞内記録では NMDA 電流の有意な増加が
では振幅のみ、運動 2 日目では頻度・振幅ともに
観察されたことから、可塑性に必要な Ca 流入が
有意な増加が観察された(振幅,F(2, 187)= 7.21, P
考えられる。今後は、前頭葉細胞を標識した遺伝
< 0.05;頻度,F(2, 187)= 2.37, P < 0.05, ANOVA, 図
子改変動物等を用い、形態学的なアプローチを進
3 B)
。 更 に、 膜 電 位 を + 15 mV に 固 定 し て、
める予定である。
mIPSC を 同 一 細 胞 か ら 記 録 し た と こ ろ(図
総 括
3 A)
、 1 日目では頻度のみが低下したが、 2 日目
では頻度、振幅ともに有意差は観察されなかった
本格的な少子高齢化を迎えた現代社会におい
(振幅,F(2, 187)= 9.23, P < 0.05, 頻度,F(2, 187)= 0.02,
て、次世代を担うべき子どもたちの健康・教育支
P < 0.98, ANOVA, 図 3 B)
。
援は必須である。幼少期の運動体験と認知機能発
C.環境エンリッチメントによる行動への効果
達の関連性を明らかにしようとする本研究の意義
次に長期間、環境エンリッチメント下( 2 週間)
は、身体能力・技能向上だけでなく頭脳の発達に
で飼育した動物における可塑性を調べた。オープ
寄与する運動の重要性を検討することであり、教
ンフィールドテストにおいて、エンリッチメント
育の場への提言として波及効果が見込める。今回
群では単位時間の走行距離が有意に上昇し、中心
の助成期間では、形態学的アプローチまでは踏み
部での滞在時間の延長がみられた(P < 0.05, 図
込むことができなかったが、今後、多光子顕微鏡
4 A・B)
。一方で、認知テストとして用いた物体
を用いたイメージング技術等と組み合わせること
認識試験では、新奇物体に対する関心度を示す識
により直接的な運動効果が明らかになると思われ
別指数において両群に有意な差は観察されなかっ
る。
た(P = 0.66, 図 4 C)
。
D.環境エンリッチメント後に引き起こされる
可塑性
参 考 文 献
1)Abel JL, Rissman EF(2013)
: Running-induced epigenetic
and gene expression changes in the adolescent brain. Int J
前辺縁皮質 V/VI 層電気刺激による II/III 層細胞
の 活 動 を 記 録 し た。 顕 著 な 増 加 が み ら れ た
NMDA 電流の変化に着目し、NMDA / AMPA 比を
算出した。コントロール群より、エンリッチメン
ト群で有意に増加した(P < 0.05, 図 5 A・B)。
考 察
運動学習 1 日目直後、mEPSC は振幅のみ増加
したことから、ポストシナプス側の可塑性、すな
わち AMPA 受容体がシナプスへ挿入されたこと
が示唆される。これに対し、運動 2 日目直後には
Dev Neurosci, 31, 382-390.
2)Erickson KI, Voss MW, Prakash RS, Basak C, Szabo A,
Chaddock L, Kim JS, Heo S, Alves H, White SM, Wojcicki
TR, Mailey E, Vieira VJ, Martin SA, Pence BD, Woods
JA, McAuley E, Kramer AF(2011): Exercise training increases size of hippocampus and improves memory. Proc
Natl Acad Sci U S A, 108, 3017-3022.
3)Malinow R, Malenka RC(2002)
: AMPA receptor trafficking and synaptic plasticity. Annu Rev Neurosci, 25, 103126.
4)Mitsushima D, Ishihara K, Sano A, Kessels HW, Takahashi
T(2011): Contextual learning requires synaptic AMPA receptor delivery in the hippocampus. Proc Natl Acad Sci U
(92)
S A, 108, 12503-12508.
5)Nithianantharajah J, Hannan AJ(2006): Enriched environments, experience-dependent plasticity and disorders of
the nervous system. Nat Rev Neurosci, 7, 697-709.
6)Takahashi T, Svoboda K, Malinow R(2003): Experience
strengthening transmission by driving AMPA receptors
into synapses. Science, 299, 1585-1588.
(93)
第 30 回若手研究者のための健康科学研究助成成果報告書
2013 年度 pp.93~97(2015.4)
居住地域環境が高齢者の日常における身体活動に及ぼす影響
佐 々 木 幸 子*
鵜 川 重 和*
近 藤 克 則**,***
玉 腰 暁 子*
RELATION BETWEEN NEIGHBORHOOD ENVIRONMENT AND
PHYSICAL ACTIVITY AMONG OLDER PEOPLE
Sachiko Sasaki, Shigekazu Ukawa, Katsunori Kondo,
and Akiko Tamakoshi
Key words: physical activity, geographic information system, older people.
康日本21」の最終評価では日本人の 1 日の歩数は
緒 言
減少傾向にあることが明らかとなった7)。その要
我が国の平均寿命は世界でも最高水準にある
因として、身体活動を促進するためには個人の意
が、平均寿命の延伸に伴い平均寿命と健康寿命の
識や動機付けだけでは困難であることが指摘され
差が社会的問題となっている。この平均寿命と健
ており、今後の課題として身体活動の増加に関連
康寿命の差の拡大は介護が必要な高齢者の増加を
する近隣環境の把握・改善といった取り組みが重
意味しており、2012年の介護給付実態調査では要
要であると提言されている7)。
介護度の進行に伴う施設入所者の増加が示されて
近隣環境は居住地域の物的環境要因と社会環境
いる。しかし、高齢者の 6 割は介護が必要となっ
要因に大別される1)。日常における歩行と物的環
ても自宅で生活したいと考えており、施設入所を
境要因との関連を検討した先行研究では、居住地
希望する者は 2 割にも満たない。高齢者が住み慣
域の住宅密度の高さ、および目的地までのアクセ
れた地域で自立した日常生活を送ることができる
スの良さが一貫して関連する項目として報告され
ような支援体制の構築は、社会保障負担の軽減の
ている9)。一方、社会環境要因では、夜間の治安
みならず、高齢者の尊厳の保持にもかかわる重要
や交通の安全性、地域社会への参加、自動車の保
な課題である。
有が歩行と関連を示すことが指摘されている2,3)。
高齢者の日常生活自立度の維持、および要介護
しかし、先行研究の多くは物的環境要因を質問紙
状態への移行の抑制に寄与する要因として定期的
を用いて主観的に評価していることから、対象者
な身体活動の促進が挙げられる。身体活動の促進
の環境の認知と実際の環境が一致しないといった
は介護予防のみならず糖尿病や虚血性心疾患と
課題が挙げられる10)。更に、先行研究の多くは都
いった生活習慣病の予防などさまざまな健康上の
市部に居住する中高年者を対象としており、地域
効果があることが知られている 。しかし、「健
在住高齢者における近隣環境と日常の歩行に関す
8)
*
**
***
北海道大学大学院医学研究科社会医学講座公衆
衛生学分野
千葉大学予防医学センター環境健康学研究部門
日本福祉大学健康社会研究センター
Department of Public Health Sciences, Hokkaido University Graduate School of Medicine, Sapporo,
Japan.
Social Epidemiology and Health Policy at Center for Preventive Medical Sciences, Chiba University
Graduate School of Medicine, Chiba, Japan
Center for Well-being and Society, Nihon Fukushi University, Aichi, Japan.
(94)
る報告は限られている。そこで、本研究では地理
という設問に対し、「全く当てはまらない・やや
情報システム(geographic information system; GIS)
当てはまらない」と「やや当てはまる・非常によ
を用いた客観的な物的環境要因評価と質問紙を用
く当てはまる」の 2 群に分類した。地域社会への
いた社会環境要因評価の両面から近隣環境を評価
参加については、地域社会において参加している
し、地域在住高齢者の日常における歩行との関連
グループや会について質問し、参加している会・
を明らかにすることを目的とした。
グループの数により「 0 、 1 ~ 2 、≥ 3 」の 3 群
研 究 方 法
A.対象
に分類した。現在の自動車運転の有無は「あり、
なし」の 2 群に分類した。
C.歩行評価
本研究は、日本老年学的評価研究(Japan Geron-
3 軸加速度計付リストバンド型生活モニタ装置
tological Evaluation study; JAGES Study)との共同
(ライフレコーダー,日立製作所)を用いて 1 日
プロジェクトとして2014年より実施している「地
の歩数を計測した。本装置では加速度を0.05秒周
域在住高齢者の介護予防、健康寿命延伸を目的と
期でサンプリングし、最大± 4 G までの計測が
した生活習慣と健康状態の実態調査」の一部を
可能である。装着に関しては対象者に対面で説明
データとして用いている。対象地域とした北海道
を行い、24時間の装着を依頼した。測定期間は連
東川町、東神楽町、美瑛町は北海道の中央部に位
続した14日間とした。
置する平地(東神楽町)および中間(東川町・美
D.共変量
瑛町)農業地域である。対象地域 3 町に居住する
標準的な方法で身長、体重を測定し、body mass
介 護 認 定 を 受 け て い な い 70~74 歳 の「JAGES
index(BMI)を算出した(体重 kg / 身長 m2)。就
Study 2013」回答者1150名のうち、加速度計装着
労状況および教育歴は質問紙により評価した。就
による歩行評価の参加に同意した者245名を対象
労は「あり、なし」の 2 群に、教育歴は「< 12年、
とした。最終的な解析対象者は睡眠時間を除く加
> 12年」の 2 群に分類した。
速度計の装着時間が 1 日10時間以上かつ 3 日以上
E.統計解析
の測定データが得られなかった者 4 名を除外した
諸外国および国内の先行研究より、近隣環境と
241名である。
歩行の関連には性差が影響することが示唆された
B.近隣環境評価
ことから6)、すべての解析は男女別に実施した。
物的環境要因は、先行研究において日常の歩行
世帯密度および居住地から最も近いバス停までの
に関連することが報告されている世帯密度、公共
距離は 3 分位に分類し解析を実施した。各近隣環
交通機関へのアクセスについて GIS を用いて評
境項目を独立変数、 1 日の平均歩数を従属変数、
価した 。世帯密度は2010年度国勢調査データを
年齢、就労の有無、教育歴を共変量として一般線
もとに、 1 / 2 地域メッシュ( 1 辺約500 m)区分
形回帰モデルを用いて解析を実施した。統計学的
ごとの世帯数を算出し、対象者の居住地における
有意水準は P < 0.05とし、統計解析には JMP for
世帯密度とした。公共交通機関へのアクセスは国
Macintosh version 10.0(SAS Institute, USA) を 用
土地理院発行の数値地図(2012)をもとに対象者
いた。
9)
の居住地に最も近いバス停までの距離を算出し
F.倫理的配慮
た。これらすべての解析は ArcGIS 10.2(ESRI ジャ
本研究は、北海道大学大学院医学研究科医の倫
パン株式会社)を用いて行った。 理 委 員 会 の 承 認 を 得 て 実 施 し(承 認 番 号:14-
社会環境要因は先行研究により日常の歩行との
024)、全対象者から文書による同意を得た。対象
関連が報告されている夜間の安全性、地域社会へ
者のプライバシーには最大限の配慮を行い、デー
の参加、自動車運転の有無について質問紙で評価
タはすべて匿名化して解析を実施した。データは
した
北海道大学大学院医学研究科公衆衛生学分野にお
。夜間の安全性は「近所では犯罪の危険度
2,3)
が高く、夜間に外を歩くのは安全とは言えない」
いて厳重な配慮の下で管理された。
(95)
長いほど、女性ではバス停までの距離が短いほど
結 果
歩数が上昇する傾向を示した(P for trend < 0.01
A.対象者の基本属性
for men, < 0.05 for women)。住居密度、運転の有無、
男女別の基本属性を表 1 に示す。対象者の61%
夜間の安全性は男女ともに歩数との関連を示さな
が男性であり、平均年齢は男性71歳、女性72歳で
かった。
あった。教育歴が高い者、現在就労している者の
考 察
割合は男性で高かった。住居密度、居住地から最
も近いバス停までの距離、地域社会において参加
先行研究では、高齢者の地域社会への参加が身
しているグループの数は男女で相違がみられな
体活動量の増加に寄与することが報告されてい
かった。現在、自動車の運転を行っている者は男
る2)。本研究においても同様に、男女ともに地域
性で98.0%、女性で50.5%であった。居住地域の
社会への参加が客観的に測定された日常の歩数の
夜間の安全性については、男性と比較し女性で安
増加に関連していることが示唆された。また地域
全と認識している者の割合が低かった。測定期間
活動への参加は身体活動の増加に加え、心理社会
中における 1 日の平均歩数は男性5320歩、女性
的効果をもたらし高齢者の要介護度の進行を抑制
4401歩であった。
することも報告されていることから5)、本研究の
B.歩数に関連する近隣環境要因
結果は介護予防施策における社会環境要因に対す
年齢、教育歴、就労の有無で調整した後の各近
る取り組みの重要性を支持するものである。
隣環境における男女別歩数を表 2 に示す。男女と
一方で、物的近隣環境に関して、男性において
もに地域において参加しているグループの数が多
は居住地からのバス停までの距離が長いほど歩数
いほど、歩数が高値を示した(P for trend < 0.05)。
が増加する傾向がみられた。男女ともに居住地か
男性では居住地から最も近いバス停までの距離が
らバス停までの距離が長い対象者は居住地の住居
表 1 .対象者の基本属性
Table 1.Baseline characteristics.
Total
Men
Women
(n = 241)
(n = 148)
(n = 93)
Age
71.8 ± 1.3
71.6 ± 1.3
72.0 ± 1.3
BMI
23.9 ± 3.3
24.1± 3.2
23.5 ± 3.5
≤ 12 years
195(81.2)
113
(76.3)
82
(89.1)
> 12 years
45(18.8)
35
(23.7)
10
(10.9)
74(32.2)
53
(36.6)
21
(24.7)
Education
Employment status
Employed
Not employed
156(67.8)
92
(63.4)
64
(75.3)
Residential density
147 ± 122
146 ± 120
148 ± 126
Distance to the nearest bus stop
(m)
No. of participation of social group
437.8
438.7
437.8
(304.7, 712.0)
(305.2, 712.0)
(304.7, 681.9)
2.7 ± 2.1
2.7 ± 1.9
2.7 ± 2.3
191(79.9)
145
(98.0)
46
(50.5)
48(20.1)
3(2.0)
45
(49.5)
167(71.1)
111
(77.1)
56
(61.5)
68(28.9)
33
(22.9)
35
(38.5)
4965.3 ± 2707.8
5319.7 ± 2906.3
4401.2 ± 2259.9
Driving status
Driver
Non-driver
Crime safety
Safe
Not safe
No. of step(/ day)
Variables are presented as mean ± standard deviation, median
(interquartile range)
, or number(percentage)
.
(96)
表 2 . 1 日の歩数に関連する近隣環境要因
Table 2.Adjusted means for daily step according to objective and subjective neighborhood environments.
Men
Women
Adjusted mean
(95%CI) P-value P for trend Adjusted mean
(95%CI) P-value P for trend
Residential density *
0.26
0.48
1st tertile
6181.3(5395.5, 6967.2)
5083.3
(3966.8, 6199.7)
2nd tertile
4623.8(3810.1, 5437.5)
4032.5
(2744.9, 5320.0)
3rd tertile
5479.1(4648.4, 6309.9)
4580.5
(3353.3, 5807.6)
Distance to the nearest bus stop
(m)**
< 0.01
< 0.05
1st tertile
4943.8(4088.6, 5779.0)
5601.6
(4344.3, 6858.9)
2nd tertile
5437.5(4502.3, 6372.8)
4802.3
(3609.7, 6031.0)
3rd tertile
6486.9(5654.8, 7318.9)
4075.9
(3068.5, 5083.3)
No. of participation of social group
< 0.05
< 0.05
0
4377.4(2578.9, 6175.8)
3392.2
(1772.1, 5012.3)
1-2
4931.8(3942.7, 5921.0)
3947.3
(2620.8, 5273.9)
≥ 3
6096.5(5454.9, 6738.2)
4864.8
(3930.2, 5799.3)
Driving status
0.87
Driver
5686.5(5115.4, 6257.6)
Non-driver
5967.9(2706.9, 9228.9)
Crime safety
0.81
4603.2
(3640.0, 5566.3)
4472.3
(3319.1, 5625.6)
0.32
0.40
Safe
5782.2(5160.9, 6403.4)
4728.0
(3841.2, 5714.8)
Not safe
5214.1(4165.8, 6242.5)
4275.5
(3160.5, 5390.5)
Adjusted for age, employment, and education.
* Tertile
(mean)1st tertile: < 67
(15), 2nd tertile: 67-243
(132)
, 3rd tertile: ≥ 244
(293)
for men, 1st tertile: < 68
(18)
, 2nd tertile: 68237(123), 3rd tertile: ≥ 238
(306)for women.
** Tertile
(mean)1st tertile: < 347.1
(266.2), 2nd tertile: 347.1-585.9
(453.0)
, 3rd tertile: ≥ 586.0
(1753.8)
for men, 1st tertile: < 345.3
(248.0), 2nd tertile: 345.3-583.1
(453.5), 3rd tertile: ≥ 583.2
(1768.9)
for women.
密度が低く(data not shown)
、また住居密度が最
因果も想定できるため、今後は追跡研究による検
も低い群では有意ではないものの男女ともに高い
討も必要である。第二に、本研究では先行研究で
歩数を示していた。つまり公共交通機関へのアク
身体活動量との関連が指摘されている他の近隣環
セスが悪く住居密度の低い地域に居住している男
境指標について客観的な評価を行っていないこと
性は、日常の歩行量が維持されていることが推測
が挙げられる。地域在住高齢者を対象として主観
される。その要因として、これらの地域に居住し
的な評価に基づく近隣環境と歩行時間について検
て い る 者 で は 就 労 者 の 割 合 が 高 く(data not
討した先行研究によると、本研究で検討した近隣
shown)
、そのほとんどが農林業に従事していた
環境の他、商店へのアクセス、運動施設へのアク
ことが結果に影響したと考えられる。一方、女性
セス、土地利用の多様性が歩行時間との関連を示
では先行研究の結果と同様にバス停へのアクセス
すことが報告されている4)。本研究の対象地域は
の良さが歩数の増加に寄与していた。これは対象
農業地域であり既存のデータベースのみを利用し
者の約半数が非自動車運転者である女性では、自
た近隣環境評価は困難であったため、今後は対象
動車運転者が98%を占める男性と比較して公共交
者が普段利用している商店や、運動・レクリエー
通機関の利用が日常の歩行量に関与していること
ションを行っている小規模な施設について聞き取
を示しているものと考える。
りおよび現地の視察を行ったうえで、GIS を利用
本研究の限界として、以下のことが考えられる。
した客観的近隣環境評価を行う必要があると考え
第一に本研究は横断研究であり、近隣環境が歩数
る。第三に近隣環境と身体活動の関連は、身体活
に及ぼす影響についてその因果関係を検討するこ
動の種類や目的によって異なる可能性が示唆され
とができない。地域社会への参加については逆の
ているため、歩数以外の身体活動量評価および、
(97)
身体活動の目的別検討を行う必要が挙げられる。
Okada S, Oka K, Kitabatake Y, Nakaya T, Sallis JF,
最後に、本研究の対象者は JAGES Study 回答者
Shimomitsu T(2011): Perceived neighborhood environ-
のうち本研究の参加に同意した者であり、健康へ
の意識が高い者が対象となっている、いわゆる外
的妥当性の問題が挙げられる。しかし、研究参加
ment and walking for specific purposes among elderly Japanese. J Epidemiol, 21, 481-490.
5)Kanamori S, Kai Y, Aida J, Kondo K, Kawachi I, Hirai H,
Shirai K, Ishikawa Y, Suzuki K(2014): Social participa-
者のうち解析不能者は約 2 %であり、内的妥当性
tion and the prevention of functional disability in older
は高いと考えている。
Japanese: the JAGES cohort study. PLoS One, 9, e99638.
謝 辞
6)Kondo K, Lee JS, Kawakubo K, Kataoka Y, Asami Y, Mori
K, Umezaki M, Yamauchi T, Takagi H, Sunagawa H,
本研究を遂行するにあたり、公益財団法人明治安田厚
Akabayashi A(2009)
: Association between daily physical
生事業団第 30 回健康科学研究助成の支援を賜りました。
activity and neighborhood environments. Environ Health
ここに記して深謝いたします。また本研究にご参加下さっ
Prev Med, 14, 196-206.
た皆様およびご協力いただきました皆様に心より感謝申
7)厚生労働省(2014):第 1 部 健康長寿社会への実現
に向けて―健康・予防元年―.平成 26 年度版厚生労
し上げます。
参 考 文 献
1)Diez Roux AV, Mair C(2010): Neighborhoods and health.
Ann N Y Acad Sci, 1186, 125-145.
2)Greiner KA, Li C, Kawachi I, Hunt DC, Ahluwalia JS
(2004): The relationships of social participation and community ratings to health and health behaviors in areas with
働白書.
8)Lee IM, Shiroma EJ, Lobelo F, Puska P, Blair SN,
Katzmarzyk PT, Group LPASW(2012)
: Effect of physical
inactivity on major non-communicable diseases worldwide: an analysis of burden of disease and life expectancy.
Lancet, 380, 219-229.
9)Saelens BE, Handy SL(2008): Built environment corre-
high and low population density. Soc Sci Med, 59, 2303-
lates of walking: a review. Med Sci Sports Exerc, 40,
2312.
S550-S566.
3)Inoue S, Murase N, Shimomitsu T, Ohya Y, Odagiri Y,
10)Shibata A, Oka K, Harada K, Nakamura Y, Muraoka I
Takamiya T, Ishii K, Katsumura T, Sallis JF(2009): Asso-
(2009)
: Psychological, social, and environmental factors
ciation of physical activity and neighborhood environment
to meeting physical activity recommendations among Jap-
among Japanese adults. Prev Med, 48, 321-325.
anese adults. Int J Behav Nutr Phys Act, 6, 60.
4)Inoue S, Ohya Y, Odagiri Y, Takamiya T, Kamada M,
第 30 回若手研究者のための健康科学研究助成成果報告書
(98)
2013 年度 pp.98~102(2015.4)
社会環境と生活習慣の交互作用が膝・腰痛に及ぼす影響
濱 野 強*
北 湯 口 純**
武 田 美 輪 子*
ASSOCIATIONS OF LIFESTYLE AND RESIDENTIAL ENVIRONMENT
WITH KNEE AND LOW BACK PAIN
Tsuyoshi Hamano, Jun Kitayuguchi, and Miwako Takeda
Key words: knee pain, low back pain, social capital, elevation, social epidemiology.
緒 言
う社会環境からの視座に基づき、個人の行動変容
を支える環境づくりから議論を展開する研究であ
国民生活基礎調査(2008年)の報告によると、
る。社会環境の一側面である物理的環境(physical
男性の4.1%、女性の7.1%が膝痛の自覚症状を有
environment)に関しては、特に地理情報システム
し、腰痛では男性の8.9%、女性の11.8%と報告さ
(geographic information systems; GIS)を活用した
れている。こうした現状に比して我々が中山間地
研究の興隆を指摘できる。例えば、地理情報シス
域で実施した健康調査(2011年)においては、男
テムを活用して居住地に隣接する健康増進・非増
性の51.9%、女性の57.0%が膝痛の自覚症状を有
進施設へのアクセシビリティが健康指標に及ぼす
しており、腰痛についても男性の55.6%、女性の
影響の検討3,9)、標高が膝痛、腰痛に及ぼす影響2)
50.4%と全国調査に比べて高値であることが明ら
といった地理的な視座に基づく議論が展開されて
かになっている。我々の研究は、高齢化の進展が
いる。加えて、社会環境の議論には、地域の文化・
著しい地域の結果であることから、個人属性の差
慣習・人間関係という社会的環境(social environ-
異を踏まえた解釈が必要であるが、中山間地域に
ment)に基づく知見も示されている。例えば、地
おいて膝痛、腰痛は解決すべき健康課題の 1 つと
域に固有の人間関係の表現系であるソーシャル・
言っても過言ではないと考えられる。
キャピタルは、こころの健康4,6)、血圧5)、更には
膝痛、腰痛のリスク要因としては、従来、個人
7 年後の死亡リスク 10) など多様な健康アウトカ
要因を主として議論が進められてきた8)。一連の
ムとの関連が示されている。これらの知見が意味
議論は、個人の行動変容を意図した介入における
するところは、個人の健康の維持・増進には、個
エビデンスとして位置付けられている。そうした
人要因に限らず社会環境も視座に入れた取り組み
議論に加えて近年では、社会環境に着目した議論
が不可欠であることを示唆している。
も示され始めている 。すなわち、従来の「どの
しかしながら、膝痛、腰痛について社会環境に
ような個人であるか」という個人要因の議論に加
基づく議論は、いまだ十分になされておらず、主
えて、
「どのような地域に住んでいるのか」とい
として個人要因に着目した議論が進められてい
1)
*
**
島根大学
Shimane University, Shimane, Japan.
身体教育医学研究所うんなん Physical Education and Medicine Research Center, Shimane, Japan.
(99)
る。そこで、本研究では、先行研究を踏まえて社
高を算出した。社会的側面であるソーシャル・
会環境を物理的環境・社会的環境の両面からとら
キャピタルは、先行研究を踏まえて地域の信頼
え、膝痛、腰痛との関係を明らかにするとともに、
感、および地縁組織への参加を用いた6)。地域の
その影響について生活習慣を踏まえて考察し、地
信頼感は、対象者に 1 ~ 9 点の範囲でご近所の住
域の特徴に応じた予防活動を提案することを目的
民に対する信頼感を評価してもらい、分析では中
とした。
央値に基づき地域の信頼感高( 8 ~ 9 点)
、地域
研 究 方 法
A.研究対象
の信頼感低( 1 ~ 7 点)とした。地縁組織への参
加は、参加の有無について「はい」「いいえ」で
回答を得た。
本研究では、島根県雲南市において島根大学疾
膝痛は、対象者に 0 ~10点で現在の痛みを評価
病予知予防プロジェクトセンターが実施してきた
してもらい、得点が高いほど痛みが強いとした。
健康調査のデータを活用した。具体的には、2006
腰痛については、対象者に現在の腰痛の有無につ
年以降、雲南市と共同で健康診査に併せて健康調
いて「はい」
「いいえ」で回答を得た。その他には、
査を実施し、住民の健康維持・増進を目指した取
年齢(歳)、性別、学歴(年数)、body mass index
り組みを進めてきた。本稿では、雲南市掛合町、
(BMI)、運動習慣の有無( 1 回30分以上の軽く汗
三刀屋町で実施した健康調査のデータを活用し
をかく運動を週 2 日以上かつ 1 年以上実施してい
た。雲南市掛合町は、雲南市のなかでも山間部に
るか)、喫煙習慣の有無、飲酒習慣の有無(毎日,
位置していることから旧来の農村地域の文化を有
ときどき,ほとんど飲まない・飲めない)を用い
する一方、三刀屋町は平地に位置しており都市的
た。
な様相を備えた地域である。このように、対照的
C.解析方法
な両市を研究対象とすることで、社会環境の影響
膝痛の解析では、目的変数を膝痛評価(中央値
をより明確にできると考えられた。
に基づき「痛みあり」
「痛みなし」の 2 値を用いた)
解析では、健康調査において膝痛、腰痛の問診
として、年齢、性別、学歴、BMI、運動習慣、喫
を実施した2011年(掛合町439名)
、2012年(三刀
煙習慣、飲酒習慣、標高、およびソーシャル・
屋町285名)の受診者を対象とした。なお、調査
キャピタルを説明変数としたロジスティック回帰
体制の都合上、問診の実施が毎年ではなく地域に
分析を行った。同様に腰痛の解析では、目的変数
よって異なっている。分析対象者は、解析に用い
を腰痛評価としたロジスティック回帰分析を行っ
たすべての変数に欠損値を有しない掛合町101名、
た。なお、オッズ比は、膝痛、腰痛ともに「痛み
三刀屋町90名である。
なし」をレファレンスとして解析を実施した。更
B.変数
には、社会環境と生活習慣が膝痛、腰痛に及ぼす
本研究では、社会環境について物理的側面、お
影響を検討するため、日常生活における活動状況
よび社会的側面より把握を行った。物理的側面
別(日常生活において歩行または同等の身体活動
は、先行研究に基づき対象者の居住地標高を用い
を 1 日 1 時間以上実施しているか否か)に検討を
た 。標高は、中山間地域において傾斜度を反映
実施した。解析では、有意水準を 5 %として、
する変数として用いることが可能であると考え、
IBM SPSS Statistics 21を用いた。
2)
標高が高い地点に居住する住民の膝痛、腰痛のリ
D.倫理上の配慮
スク要因になることが考えられた。標高の算出方
研究のプロトコールは、島根大学医学部医の倫
法は、分析対象者の自宅住所に基づき地理座標
理委員会で承認を得ている(承認番号:1555)。
(緯度・経度)を特定し、ESRI ジャパン株式会社
ArcGIS for Desktop エクステンション Spatial Analyst と ArcGIS データコレクション地形に含まれ
るメッシュ数値標高モデルを活用して住所地の標
結 果
A.分析対象者の特性
分析対象者の特性を表 1 に示す。平均年齢は
(100)
71.3 ∓ 5.9歳、女性が122名(63.9%)、喫煙習慣が
(38.2%)、BMI の平均は21.9 ∓ 3.1 kg/m2、教育歴
ある者は 5 名(2.6%)、毎日の飲酒習慣がある者
の平均は10.4 ∓ 2.1年であった。膝の痛みを感じ
は 42 名(22.0 %)
、 運 動 習 慣 が あ る 者 は 73 名
ている者は84名(44.0%)、腰の痛みを感じてい
る者は93名(48.7%)であった。社会環境である
ソーシャル・キャピタルについては、地域内の信
表 1 .分析対象者の特性
Table 1.Characteristics of the study participants.
n
% or Mean
(SD)
Knee pain, % yes
84
44.0
Low back pain, % yes
93
48.7
Age, years(SD)
191
71.3(5.9)
Sex, % female
122
63.9
Educational attainment, years
(SD)
191
10.4(2.1)
頼感を中央値により区分した場合に否定的に回答
した者は109名(57.1%)、地縁組織に参加してい
Pain
Smoking, %
ると回答した者は166名(86.9%)であった。また、
回答者の居住地標高の平均値は、191.1 ∓ 125.6 m
であった(表 1 )。
B.社会環境と膝痛・腰痛の検討
標高とソーシャル・キャピタルを説明変数とし
5
2.6
Everyday
42
22.0
Sometimes
47
24.6
的変数とした場合、標高のオッズ比は1.003(95%
Rarely(including can't drink)
102
53.4
confidence interval; CI = 1.000-1.006, P = 0.025)で
BMI, kg/m(SD)
191
21.9
(3.1)
73
38.2
あり、統計学的に有意な関係が認められた。なお、
191
191.1
(125.6)
Neighbourhood trust, % low trust
109
57.1
に有意な関係は認められなかった。
Neighbourhood association, % yes
166
86.9
また、腰痛を目的変数とした場合には、地縁組
て、膝痛、または腰痛を目的変数としたロジス
Alcohol consumption, %
2
Exercise habit, % yes
Elevation, m
ティック回帰分析の結果を表 2 に示す。膝痛を目
ソーシャル・キャピタルでは、地域内の信頼感、
および地縁組織への参加において膝痛と統計学的
Social capital
表 2 .ロジスティック回帰分析
Table 2.Multivariate logistic regression models.
Knee pain
aOR
Elevation
(continuous)
1.003
Low back pain
95% CI
1.000
–
1.006
0.338
–
1.321
aOR
0.999
95% CI
0.997
–
1.002
0.805
–
2.818
Social capital
Neighbourhood trust
High
1.000
Low
0.668
1.000
1.506
Neighbourhood association
Participating
1.000
Not participating
1.174
0.433
–
3.178
3.139
1.117
–
8.815
Age
1.097
1.026
–
1.172
1.010
0.954
–
1.069
Sex
1.567
0.644
–
3.814
0.989
0.422
–
2.316
Smoking
2.596
0.251
–
26.849
4.241
0.394
–
45.658
1.000
Alcohol consumption
Rarely(can't drink)
1.000
Sometimes
1.983
0.838
–
4.692
0.955
0.421
–
2.166
Everyday
0.852
0.293
–
2.473
0.880
0.322
–
2.411
Exercise habit
0.852
0.434
–
1.671
2.030
1.072
–
3.845
Body mass index
1.322
1.170
–
1.494
1.073
0.968
–
1.190
Educational attainment
1.180
0.997
–
1.397
0.881
0.751
–
1.034
aOR; adjusted odds ratio. CI; confidence interval.
1.000
(101)
表 3 .日常生活における活動状況別でのロジスティック回帰分析
Table 3.Multivariate logistic regression models by physical activitiy in daily life.
Physically active
(n = 107)
Knee pain
aOR
Elevation
(continuous)
95%CI
1.004 1.000 – 1.008
Physically inactive
(n = 84)
Low back pain
aOR
95%CI
0.998 0.994 – 1.001
Knee pain
aOR
95%CI
1.002 0.998 – 1.007
Low back pain
aOR
95%CI
1.002 0.998 – 1.007
Social capital
Neighbourhood trust
High
1.000
1.000
1.000
1.000
Low
0.792 0.315 – 1.991
1.950 0.779 – 4.880
0.464 0.148 – 1.459
1.649 0.605 – 4.495
Participating
1.000
1.000
1.000
1.000
Not participating
0.700 0.163 – 3.005 10.614 1.754 – 64.240
2.200 0.460 – 10.517
1.677 0.392 – 7.171
Neighbourhood association
aOR; adjusted for age, sex, educational attainment, smoking, alcohol consumption, BMI, exercise habit. CI; confidence interval.
織に参加している者に比べて参加していない者の
地縁組織に参加していない人で腰痛の確率が上昇
オッズ比が3.139(95% CI = 1.117-8.815, P = 0.030)
していた。更にその関係は、日常生活において一
であり、統計学的に有意な関係が認められた。な
定時間以上の活動を行っている群に限り認められ
お、地域内の信頼感、および標高では、腰痛と統
たことから、社会環境が生活習慣を介して膝、腰
計学的に有意な関係は認められなかった(表 2 )。
の痛みにつながっている可能性が推察された。
C.日常生活における活動状況別での社会環境
と膝痛・腰痛の検討
日常生活で一定時間以上の活動を行っている群
において標高と膝痛の間に関係が認められた理由
社会環境と膝痛、腰痛の関係を生活習慣の影響
として、中山間地域に特有の傾斜が考えられる。
を踏まえて明らかにするため、日常生活における
すなわち、対象地域では、標高が上がるにつれて
活動状況別に解析を実施した(表 3 )。その結果、
傾斜が急峻になることから、そうした土地で日常
日常生活において一定時間以上の活動(日常生活
的に活動を行うことにより膝に負荷が生じている
において歩行または同等の身体活動を 1 日 1 時間
ことが推察された。標高と膝痛の関係について
以上実施)をしている群(107名)では、標高と
は、先行研究でも同様の知見が報告されているこ
膝痛において統計学的に有意な関係が認められた
とから2)、盆地型ではない急峻な地形を有する地
が(オ ッ ズ 比 = 1.004, 95% CI = 1.000-1.008, P =
域においては居住地の傾斜を加味した地域別の予
0.036)
、日常生活において一定時間以上の活動を
防活動が有用であることが考えられた。
していない群
(84名)では両者に関係を認めなかっ
また、腰痛と地縁組織への参加の間に関係が認
た。また、地縁組織でも日常生活において一定時
められた理由として地域での健康づくり活動の実
間以上の活動をしている群(107名)では、腰痛
践が考えられる。雲南市には、身体活動の普及・
と統計学的に有意な関係を認めたものの(オッズ
啓発を目的として活動している身体教育医学研究
比 = 10.614, 95% CI = 1.754-64.240, P = 0.010)、活
所うんなんが地域住民を対象として腰痛予防等の
動をしていない群(84名)では両者間に統計学的
体操を実践してきた経緯がある。地域の集会やサ
に有意な関係を認めなかった(表 3 )
。
ロン等で活動し、また、地域運動指導員(運動普
考 察
及の地域ボランティア)の育成にも努めており、
こうした地域での活動が地縁組織の会合等を利用
本研究では、中山間地域に居住する住民を対象
しながら実践されてきたことを鑑みると地域活動
として社会環境と膝痛、腰痛の関係について検討
へ参加していない者における腰痛のオッズ比の上
を行った。その結果、膝痛については、標高が高
昇が理解できる。本研究では、一定時間以上の活
くなるほど膝痛の確率が上昇し、腰痛については、
動を行っている群についてその活動量を詳細に検
(102)
討することができなかったが、過活動が腰痛のリ
スクになることが指摘されている7)。したがって、
腰痛を生じやすい日常生活で活動的な群におい
て、地域での健康づくり活動がより影響を及ぼし
ていると推察される。
参 考 文 献
1)Diez Roux AV, Mair C(2010)
: Neighborhoods and health.
Ann N Y Acad Sci, 1186, 125-145.
2)Hamano T, Kamada M, Kitayuguchi J, Sundquist K,
Sundquist J, Shiwaku K(2014)
: Association of over-
本研究の限界として、以下の 4 点がある。第一
weight and elevation with chronic knee and low back pain:
に本研究は、縦断研究でないことから因果関係を
a cross-sectional study. Int J Environ Res Public Health,
明らかにすることはできない。しかしながら、膝
痛、腰痛と 2 つの側面に基づく社会関係の影響を
検討した初めての研究であり、今後の予防活動を
検討するうえで有益な知見を提起できたと考え
11, 4417-4426.
3)Hamano T, Kawakami N, Li X, Sundquist K(2013)
:
Neighbourhood environment and stroke: a follow-up study
in Sweden. PLoS One, 8, e56680.
4)Hamano T, Yamasaki M, Fujisawa Y, Ito K, Nabika T,
る。第二に本研究は、島根県の中山間地域で実施
Shiwaku K(2011): Social capital and psychological dis-
している健康診査に併せた健康調査で得たデータ
tress of elderly in Japanese rural communities. Stress and
を用いている。したがって、サンプリングバイア
スが生じていることは否めない。したがって、今
後、知見の一般化を図るために、研究デザインの
更なる精緻化が望まれる。第三には、分析対象者
数が限られていることから、対象地域を拡大した
追試が望まれる。最後に膝痛、腰痛の評価につい
ては、本研究では主観的な評価に基づく質問項目
をそれぞれ採用した。痛みの評価については、先
行研究で評価法が示されているものの高齢者を対
象とした場合にはより簡便な方法が望まれる。し
たがって、今後、痛みの評価についても検討が必
要と考える。
Health, 27, 163-169.
5)Hamano T, Fujisawa Y, Yamasaki M, Ito K, Nabika T,
Shiwaku K(2011)
: Contributions of social context to
blood pressure: findings from a multilevel analysis of social capital and systolic blood pressure. Am J Hypertens,
24, 643-646.
6)Hamano T, Fujisawa Y, Ishida Y, Subramanian SV,
Kawachi I, Shiwaku K(2010)
: Social capital and mental
health in Japan: a multilevel analysis. PLoS One, 5,
e13214.
7)Hootman JM, Macera CA, Ainsworth BE, Martin M, Addy
CL, Blair SN(2001)
: Association among physical activity
level, cardiorespiratory fitness, and risk of musculoskeletal
injury. Am J Epidemiol, 154, 251-258.
8)Kamada M, Kitayuguchi J, Lee IM, Hamano T, Imamura F,
総 括
本研究では、膝痛、腰痛ともに影響を及ぼす社
会環境変数は異なるものの、生活習慣を介して痛
みにつながっている可能性が考えられた。した
がって、今後は、個人要因にとどまらず、地域の
急峻な地形や住民間のつながりを考慮した予防活
動が有益であると考える。
謝 辞
本研究の実施に対して助成を賜りました公益財団法人
明治安田厚生事業団に記して深く感謝申し上げます。
Inoue S, Miyachi M, Shiwaku K(2014)
: Relationship between physical activity and chronic musculoskeletal pain
among community-dwelling Japanese adults. J Epidemiol,
24, 474-483.
9)Kawakami N, Li X, Sundquist K(2011): Health-promoting and health-damaging neighbourhood resources and
coronary heart disease: a follow-up study of 2 165 000
people. J Epidemiol Community Health, 65, 866-872.
10)Sundquist K, Hamano T, Li X, Kawakami N, Shiwaku K,
Sundquist J(2014): Linking social capital and mortality
in the elderly: a Swedish national cohort study. Exp Gerontol, 55, 29-36.
(103)
第 30 回若手研究者のための健康科学研究助成成果報告書
2013 年度 pp.103~108(2015.4)
筋の記憶を司るエピジェネティクス制御機構の探索
―筋は若年期の運動習慣を記憶しているのか?―
吉 原 利 典*
町 田 修 一**
後 藤 佐 多 良*
柿 木 亮***
THE EPIGENETIC MECHANISM OF MUSCLE MEMORY
Toshinori Yoshihara, Shuichi Machida, Sataro Goto,
and Ryo Kakigi
Key words: epigenetics, histone deacetylase, muscle memory, physical activity.
緒 言
生活習慣病の罹患率を高めることが指摘されてい
る。したがって、若年期における運動刺激・不活
トレーニングによって得られた効果は、その中
動刺激は、DNA 配列の変化を伴わない遺伝子情
止によって容易に失われるが、再びトレーニング
報として筋に記憶され、その後の筋の適応、すな
を開始すると速やかな応答が認められることがあ
わちトレーニング効果の獲得や筋肥大・筋萎縮の
る。実際、若年女性における30週間の脱トレーニ
生じやすさに多大な影響を与える可能性が高いと
ングは、過去20週間のレジスタンストレーニング
考えられる。しかし、若年期の運動経験の有無が
によって増加した筋力や筋線維横断面積を低下さ
エピジェネティックな遺伝子発現制御機構を介し
せるが、再びトレーニングを行うとわずか 6 週間
て骨格筋に記憶されているか否かはこれまで明ら
で同様の効果が得られる 。このことから、骨格
かにされていない。
筋には適応する過程で運動刺激やトレーニング効
そこで本研究は、若年期の運動経験が筋内に記
果を何らかの形で筋内に記憶し、再び刺激が与え
憶されるか否かについて、ヒストン修飾によるエ
られた際に速やかに適応する仕組みが備わってい
ピジェネティクス制御機構から明らかにすること
ると考えられる。
を目的とした。
6)
近年、筋が運動刺激を記憶するメカニズムとし
て、 生 育 環 境 や 栄 養 な ど の 環 境 要 因 に よ っ て
DNA 配列の変化を伴わない後天的なゲノム修飾
研 究 方 法
A.実験動物および飼育条件
(DNA のメチル化やヒストンのアセチル化など)
若齢( 3 週齢)の雄性マウス104匹(日本エス
によるエピジェネティクス制御機構が注目されて
エルシー)を用い、 1 週間予備飼育した後、体重
いる。例えば、若年期における過剰なエネルギー
が等しくなるように以下の群に分けた。
の摂取はこれらの機構を介して成人期の肥満症や
*
**
***
① コントロール群(SED,n = 39): 4 (n =
順天堂大学スポーツ健康医科学研究所 Institute of Health and Sports Science & Medicine, Juntendo University, Chiba, Japan.
順天堂大学スポーツ健康科学研究科
Graduate School of Health and Sports Science, Juntendo University, Chiba, Japan.
順天堂大学医学部
School of Medicine, Juntendo University, Tokyo, Japan.
(104)
10)
、16(n = 8 )
、28(n = 10)または40(n
に従って分析し、反応開始後 5 分から分光光度計
= 11)週齢時まで通常飼育。
を用いて吸光度の変化を測定した。
② ト レ ー ニ ン グ 群(WR,n = 33)
:16(n =
F.ミオシン重鎖(MyHC)アイソフォーム組成
12)
、28(n = 10)および40(n = 11)週齢時
MyHC アイソフォームの分離は Sugiura & Mu-
まで、それぞれ12、24または36週間の自発走
rakami の方法 7) を改変した SDS-PAGE により分
トレーニングを実施。
離した。泳動後のゲルは coomassie brilliant blue 染
③ 若年・中年期トレーニング群(YMWR,n
= 21)
:16週齢までトレーニングを実施し、
色を施して蛋白質を可視化した。
G.統計処理
16~28週齢時まで通常飼育した後(28週齢時
得られたデータは、すべて 4 週齢時(PRE)の
n = 10)
、28~40週齢時までトレーニングを
平均値を 1 とした場合の発現率で示した(平均値
実施(40週齢時 n = 11)
。
±標準誤差)。統計学的分析は、各週齢について
④ 中年期トレーニング群(MWR,n = 11):
対応のない t 検定または一元配置の分散分析を行
28週齢時まで通常飼育した後、28~40週齢時
い、分散分析により有意差が認められた場合に
までトレーニングを実施。
は、Fischer 法による多重比較を行った。有意水
トレーニング群のマウス(②~④)は、 4 また
準は危険率 5 %未満とし、10%未満を傾向ありと
は28週齢から運動したいときに自由に回転ホイー
した。
ルにアクセスできる直径14.5 cm(幅 5 cm)の回
結 果
転式自発運動量測定装置で12~36週間の自発走ト
A.体重および腓腹筋相対筋重量
レーニングを行った。
なお、本研究のすべてのプロトコルは、順天堂
16週齢時の体重は、SED 群と比較して WR 群
大学の動物実験委員会の承認を得て行われた(承
で有意に低値を示した。また、40週齢時では、
認番号:H24-02)。
SED 群および MWR 群と比較して YMWR 群で有
B.骨格筋サンプリング
意に低値を示した。各週齢時において腓腹筋重量
各実験期間終了後( 4 ,16,28または40週齢時)、
に群間で有意な差は認められなかった(データ未
マウスの体重を測定し、麻酔下で屠殺した後、両
記載)。
脚から下肢骨格筋を摘出し、左脚の腓腹筋を被検
筋として分析を行った。
B.ミオシン重鎖(MyHC)アイソフォーム組成
16週齢時のタイプ IId/x MyHC は SED 群と比較
C.ウェスタンブロット
して WR 群で有意に高値を示した(図 1 A)。ま
凍結されたマウスの腓腹筋を液体窒素存在下で
た、28週齢のタイプ IId/x MyHC は、WR 群と比
パウダーにし、Senf et al. の方法 を改変した方
較して、YMWR 群で有意に低い値を示した。40
法により可溶性分画および核分画の蛋白質をそれ
週齢時には、中年期にのみトレーニングを行った
ぞれ抽出した。蛋白質は電気泳動により分離させ
MWR 群は WR 群と比較してタイプ IId/x MyHC
た後、メンブレンに転写し、抗原抗体反応を用い
が有意に低値を示した。また、SED 群と比較し
て検出した。
て WR 群のタイプ IId/x MyHC は増加、IIb MyHC
4)
D.遺伝子発現
は低下する傾向がみられた(P = 0.078)。
Okamoto et al. の方法 に基づき、凍結されたマ
3)
C.CS 活性
ウスの腓腹筋の筋パウダーから総 RNA を抽出し
16週齢時において WR 群は SED 群と比較して
た。RNA(2000 ng)は逆転写反応を行った後、
有意に高い CS 活性を示したが、28週齢時では群
TaqMan Universal PCR Master Mix II(Applied Bio-
間に有意な差は認められなかった(図 1 B)。また、
systems)を用いて定量的 PCR 解析を行った。
40週齢時ではトレーニングにより CS 活性は高
E.Citrate Synthase(CS)活性(CS, EC 4.1.3.7)
クエン酸合成酵素活性の測定は、Srere の方法
5)
まったが、YMWR 群でのみ SED 群と比較して高
値を示す傾向が認められた(P = 0.067)。
(105)
4wks
PRE
16wks
SED
28wks
WR
SED
40wks
WR YMWR SED
4wks
WR YMWR MWR
SED
Type IId/x
16wks
SED
WR
28wks
SED
WR
40wks
YMWR
SED
WR
YMWR
MWR
Hsp72
Type IIb
*
*
P = 0.078
*
*
*
*
*
*
Hsp72(A.U.)
P = 0.078
*
4wks
SED
16wks
SED
WR
28wks
SED
WR
40wks
YMWR
*
YMWR
16wks
SED
WR
28wks
SED
WR
図 2 .Hsp72
(A)
および SOD1
(B)
発現量
Fig.2.The expression of heat shock protein 72
(A)and superoxide dismutase (
1 B).
The values are means ∓ SE. 16wks: unpaired t-test, 28 and
40wks: one-way ANOVA. * P < 0.05.
40wks
YMWR
SED
WR
YMWR
MWR
p-HDAC4/5/7(A.U.)
*
SED
*
16wks
SED
WR
PGC-1α mRNA(A.U.)
p-HDAC4/5/7
4wks
28wks
SED
WR
40wks
YMWR
SED
WR
YMWR
4wks
MWR
SED
16wks
SED
WR
28wks
SED
WR
40wks
YMWR
SED
WR
PGC-1α
*
*
PGC-1α protein(A.U.)
*
SIRT1(A.U.)
MWR
P = 0.053
図 1 .ミオシン重鎖アイソフォーム組成(A)およびクエ
ン酸合成酵素活性(B)
Fig.1.Myosin heavy chain isoform composition(A)and Citrate synthase
(CS)activity
(B).
The values are means ∓ SE. 16wks: unpaired t-test, 28 and
40wks: one-way ANOVA. * P < 0.05.
SED
WR
SOD1
P = 0.067
4wks
SED
*
*
図 3 .p-HDAC4/5/7
(A), SIRT1(B), PGC-1α mRNA(C)
および PGC-1α 蛋白質
(D)
発現量
Fig.3.p-HDAC4/5/7(A), SIRT1(B), PGC-1α mRNA(C), and PGC-1α protein(D)expressions.
The values are means ∓ SE. 16wks: unpaired t-test, 28 and 40wks: one-way ANOVA. * P < 0.05.
YMWR
MWR
(106)
4wks
SED
16wks
SED
WR
28wks
40wks
SED WR YMWR SED WR YMWR MWR
Ac-Histone H3
p-HDAC4/5/7発現量と同様に、WR 群の SIRT1
発現量は16週齢時において SED 群と比較して有
意に高値を示した(図 3 B)。また、40週齢時にお
Histone H3
P = 0.083
*
いて YMWR 群および MWR 群は、SED 群および
WR 群と比較して有意に低値を示した。
F. PGC-1α、Atrogin-1、Gadd45α mRNA お
よび蛋白質発現量
PGC-1α mRNA 発現量は、16、28および40週齢
のいずれの群においても有意な差は認められな
4wks
SED
16wks
SED
WR
28wks
40wks
SED WR YMWR SED WR YMWR MWR
H3
(K4me3)
Histone H3
か っ た(図 3 C)。16 お よ び 28 週 齢 時 に お い て
PGC-1α 蛋白質発現量は SED 群と比較して WR 群
で有意に高値を示した(図 3 D)。また、40週齢
時の YMWR 群および MWR 群は、WR 群と比較
して有意に低値を示した。一方、Atrogin-1および
Gadd45α の mRNA および蛋白質発現量に群間で
有意な差は認められなかった(データ未記載)。
G.アセチル化ヒストン H3およびトリメチル
化リジン 4 発現量
図 4 .アセチル化ヒストン H3
(A)およびトリメチル化リ
ジン 4(B)発現量
Fig.4.The expression of acetylated histone H3
(A)and histone
H3 trimethyl-lysine4
(B).
The values are means ∓ SE. 16wks: unpaired t-test, 28 and
40wks: one-way ANOVA. * P < 0.05.
16週齢時の WR 群におけるアセチル化ヒスト
ン H3発現量は、SED 群と比較して高値を示す傾
向がみられた(P = 0.083, 図 4 A)。また、40週齢
時では、SED 群および WR 群と比較して YMWR
群で有意に高値を示し、SED 群と比較して MWR
群で有意に高値を示した。トリメチル化リジン 4
D.熱ショック蛋白質72(Hsp72)およびスー
発現量は、40週齢時の YMWR 群で最も高値を示
パーオキシドジスムターゼ 1(SOD1)発現量
したが、群間で有意な差は認められなかった(図
16および28週齢時において WR 群の Hsp72発現
量は SED 群と比較して有意に高値を示した(図
2 A)
。また、28週齢時における YMWR 群は WR
4 B)。
考 察
群と比較して有意に低値を示した。40週齢時では、
本研究において若年期の自発走トレーニング
MWR 群は SED 群および YMWR 群と比較して有
は、 ミ ト コ ン ド リ ア の 主 要 な 調 節 因 子 で あ る
意に高値を示した。
PGC-1α 発現量、そしてミトコンドリア活性の指
一方、40週齢時の MWR 群における SOD1発現
標となる CS 活性を増加させたことから、持久的
量は、YMWR 群と比較して高値を示す傾向が認
なトレーニングとして十分な運動刺激であったと
められた(P = 0.053)
(図 2 B)
。
考えられる。興味深いことに、28週齢から40週齢
E.p- ヒストン脱アセチル化酵素4/5/7
(HDAC
時までの中年期のトレーニングによる CS 活性の
4/5/7)
およびサーチュイン 1(SIRT1)発現量
増加は、若年期に運動経験がある YMWR 群での
16週齢時において WR 群の p-HDAC4/5/7発現
み高まる傾向が認められた。また、一般的に持久
量は SED 群と比較して有意に高値を示した(図
的なトレーニングでは、MyHC アイソフォームに
3 A)
。また、40週齢時において YMWR 群および
は IIb ⇒ IId/x ⇒ IIa ⇒ I へのタイプシフトが起こ
MWR 群は、SED 群および WR 群と比較して有意
り、酸化系の代謝能力の向上が認められることが
に低値を示した。
知られている。本研究においても若年期の運動経
(107)
験により MyHC アイソフォームは IIb/ ⇒ IId/x へ
考えられる。すなわち、若年期のトレーニングに
とシフトしたが、若年期以降トレーニングを中止
よる長期的なヒストン H3のアセチル化は、中年
すると IId/x は有意に低下した(データ未記載)。
期 以 降 の 骨 格 筋 の 代 謝 能 力 や MyHC ア イ ソ フ
しかし、若年期に運動経験を有する群では、タイ
ォームのタイプシフトを調節するうえで重要な役
プ IIb から IId/x への MyHC アイソフォームのシ
割を担っているのかもしれない。今後は、若年期
フトの程度が中年期のみトレーニングを行った群
のトレーニングによる長期的なヒストンのアセチ
と比較して大きい結果となった。このことは、若
ル化が、どの遺伝子プロモーター領域に特異的に
年期の運動経験は、その後運動を中止したとして
生じているのかについて明らかにする必要がある。
も、中年期におけるトレーニング効果の獲得に有
ところで、若年期の運動習慣は、ストレスに対
利に働く可能性を示している。
し誘導される Hsp72発現量を高めるが、その後運
HDAC4/5/7 は リ ン 酸 化 さ れ る こ と で myocyte
動を継続させることによって低下していった。こ
enhancer factor-2(MEF2)から解離し、解離され
れは、長期間のトレーニングに対する適応による
た MEF2は PGC-1α のプロモーター領域に結合す
ものであり、若年期運動経験を有する YMWR 群
ることで PGC-1α 発現量が増加する 。我々は若
においても同様の傾向が認められた。しかしなが
年 期 の ト レ ー ニ ン グ に よ る HDAC を 介 し た
ら、中年期にのみトレーニングを行った MWR 群
MEF2の調節が、エピジェネティックな遺伝子情
では WR 群および若年期にも運動を経験してい
報として筋内に記憶され、中年期のトレーニング
る YMWR 群と比較して Hsp72発現量は高く、同
によるトレーニング効果の獲得に貢献していると
時に SOD1発現量から評価した酸化ストレスも
考えたが、PGC-1α の mRNA 発現量および蛋白質
MWR 群でのみ亢進していた。このことから、若
発現量には若年期の運動経験の影響は認められな
年期の運動習慣によって、ストレスに対する Hsp
かった。また、SIRT1は PGC-1α を脱アセチル化
の働きが筋に記憶されている可能性が考えられる
することによりその発現量を正に調節しており、
が、本研究では明らかではない。
2)
若 年 期 の ト レ ー ニ ン グ で 増 加 し た も の の、
HDAC4/5/7と同様の結果であった。つまり、少な
総 括
くとも若年期の運動経験による40週齢時の CS 活
本研究の結果、若年期の運動経験は、中年期に
性の亢進には、HDAC や SIRT1を介した PGC-1α
おいてミトコンドリア活性のマーカーである CS
の調節は関与している可能性は低いのではないか
活性の増加や MyHC アイソフォームのタイプ IIb
と考えられる。
から IId/x へのタイプシフトに貢献している可能
蛋白質のアセチル化、特にヒストンのアセチル
性が認められた。その背景として、若年期のト
化はエピジェネティックな遺伝子の発現を調節す
レーニングによってヒストン H3のアセチル化が
る核内の主要な翻訳後修飾であることは現在よく
亢進する傾向がみられ、その後の中年期の運動に
知られている。本研究では、トリメチル化リジン
おいても、若年期に運動経験を有することにより
4 の発現量に有意な変化は確認できなかったが、
顕著な亢進が認められた。このことから、長期的
ヒストン H3のアセチル化量は、若年期のトレー
なヒストン H3のアセチル化が“筋の記憶”とし
ニングによって増加する傾向がみられ、若年期に
て残され、そのことが中年期のトレーニング効果
運動経験を有する群ではその亢進が顕著であっ
の獲得に一部貢献している可能性が考えられる。
た。これまで、脳においてはヒストン H3のアセ
チル化亢進が記憶の再固定や想起の際に誘導さ
れ、記憶に密接にかかわっていることが示されて
いる1)。このことから、骨格筋が若年期の運動経
験を記憶するメカニズムとして、このヒストン
H3のアセチル化の亢進が関与している可能性が
謝 辞
本研究に助成いただきました公益財団法人明治安田厚
生事業団に深く感謝申し上げます。研究の遂行にあたり、
ご協力いただきました放送大学准教授の関根紀子先生な
らびに順天堂大学スポーツ健康科学研究科博士後期課程
(108)
の棗寿喜君、都築孝允君、高嶺由梨さんには厚く御礼申
し上げます。
4)Senf SM, Dodd SL, Judge AR(2010)
: FOXO signaling is
required for disuse muscle atrophy and is directly regulated
参 考 文 献
1)Lubin FD, Sweatt JD(2007): The IkappaB kinase regulates chromatin structure during reconsolidation of conditioned fear memories. Neuron, 55, 942-957.
2)McGee SL, Hargreaves M(2010): Histone modifications
by Hsp70. Am J Physiol Cell Physiol, 298, C38-C45.
5)Srere P(1969)
: Citrate synthase. Methods Enzymol, 13,
3-11.
6)Staron RS, Leonardi MJ, Karapondo DL, Malicky ES,
Falkel JE, Hagerman FC, Hikida RS,(1991)
: Strength and
skeletal muscle adaptations in heavy-resistance-trained
and skeletal muscle metabolic gene expression. Clin Exp
women after detraining and retraining. J Appl Physiol, 70,
Pharmacol Physiol, 37, 392-396.
631-640.
3)Okamoto T, Torii S, Machida S(2011): Differential gene
7)Sugiura T, Murakami N(1990)
: Separation of myosin
expression of muscle-specific ubiquitin ligase MAFbx/
heavy-chain isoforms in rat skeletal-muscles by gradient
Atrogin-1 and MuRF1 in response to immobilization-in-
sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel-electrophore-
duced atrophy of slow-twitch and fast-twitch muscles. J
sis. Biomed Res(Tokyo)
, 11, 87-91.
Physiol Sci, 61, 537-546.
Contents
Outstanding Research Award
Designated Theme
The relationship between depression tendency and regional cerebral
glucose metabolism in older adults.
Hiroyuki Suzuki, et al.
1
Designated Theme
Effects of exercise training on mental health and arterial stiffness
- Insight from biochemical approach -.
Nobuhiko Akazawa, et al.
6
The effects of a single bout of exercise on mental health.
Soichi Ando, et al.
11
Facilitating daily physical activity, cognitive executive function, and
mental health among elderly people: A one-year intervention.
Ken Kimura, et al.
16
Rule factor of“depression”and the effect of cardiac rehabilitation in
the young patients with acute myocardial infarction: Retrospective
cohort study.
Leon Kumasaka, et al.
22
The impact of cardiac rehabilitation on depression and anxiety in
patients with cardiovascular diseases and lifestyle-related diseases.
Takashi Kohno, et al.
28
New method for evaluating the mental and physical stress using
salivary protein to maintenance and improvement of mental health.
Yukichi Hanaoka, et al.
33
Effects of daily amount of spontaneous running on monoaminergic
systems and antidepressant effects of physical exercise.
Shinya Yanagita, et al.
39
The effect of cognitive-motor dual-task training on cognitive function
and plasma amyloid β peptide 42/40 ratio in healthy elderly persons.
Hisayo Yokoyama, et al.
45
General Theme
The association between frequency of breakfast intake and type 2
diabetes mellitus incidence among about 6600 middle-aged
Japanese men and women in 10 years follow-up study.
Mayu Uemura, et al.
50
Effect of periodontal treatment on impaired glucose tolerance:
A randomized controlled trial.
Eri Eguchi, et al.
57
Crosstalk between voluntary exercise and eating rhythm: A putative
mechanism related to ghrelin, an eating promotion hormone.
Tsuyoshi Ohki, et al.
64
Long-term effects of exercise intervention for older married couples
on exercise adherence and physical fitness.
Yosuke Osuka, et al.
69
Effect of habitual exercise on transdifferentiation from white
adipocyte to brite fat cells.
Junetsu Ogasawara, et al.
75
Molecular mechanisms in exercise training-induced atheroprotection.
Mitsuharu Okutsu
81
The effect of exercise in immature stage on improvement of cognitive
Function.
Hiroyuki Kida
87
Relation between neighborhood environment and physical activity
among older people.
Sachiko Sasaki, et al.
93
Associations of lifestyle and residential environment with knee and
low back pain.
Tsuyoshi Hamano, et al.
98
The epigenetic mechanism of muscle memory.
Toshinori Yoshihara, et al.
103
第30回 若手研究者のための 健康科学研究助成 成果報告書
発行日
2015 年 4 月 30 日
発行者
公益財団法人 明治安田厚生事業団
〒160-0023
東京都新宿区西新宿 1-8-3
電話
(03)3349-2828
印 刷
東京六法出版株式会社
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