...

2 身体活動の現状と評価方法

by user

on
Category: Documents
17

views

Report

Comments

Transcript

2 身体活動の現状と評価方法
48 Ⅲ 研究ノート/2 身体活動の現状と評価方法
2
身体活動の現状と評価方法
志村 広子(研究員)
キーワード:身体活動、運動、健康、体力
1.本稿の目的
「からだを動かすことは健康によい」と思い
ながらも、それを実践するのはなかなか難し
い。
自分の家族や友人、
職場で会う人たちなど、
周りをみても、積極的にからだを動かすこと
を心がけている人はそれほど多くないだろう。
本稿では、まず始めに身体活動と運動という
言葉の違いをおさえ、身体活動の現状につい
て概観した後、疫学的な調査などでよく使わ
れる身体活動の評価方法について紹介する。
2.身体活動と運動
身体活動という言葉は、運動だけでなく、
身体的動作を広くとらえたものである。定義
の一例を紹介すると以下のようになる1。
・身体活動(physical activity):エネルギー
消費をもたらすような、骨格筋が生み出す
あらゆる身体的動作。
・運動(exercise):体力の一つ以上の要素
を向上または維持するために、計画的、構
造的に、繰り返し行われる身体の動き。
言葉の使われ方は時代とともに変わること
もあるが、少なくとも現時点では、身体活動
という言葉は運動だけでなく、身体的動作を
広くとらえたものであると言えるだろう。例
えば、通勤時に歩いたり、買い物に行く時に
自転車に乗ったりすることなども身体活動に
含まれる。
身体活動というのは、一般にはあまり馴染
みのない言葉かもしれないが、健康科学や公
衆衛生などの分野では、運動とは区別して用
いられている。米国の例を挙げると、健康づ
くりのための推奨基準を示す際、1970-1980
年代は運動という言葉が使われていたが、
1990年代になると身体活動という表現が使わ
れるようになった。
3.身体活動の現状
身体活動が健康によい効果をもたらすこと
は多くの研究により報告されているにもかか
わらず2、望ましいと考えられる身体活動を
行っている人の割合は多くない。
例えば、以下に挙げる海外の先進工業国に
おいては、身体活動の推奨基準を満たしてい
る成人の割合は50%に達していない3-5。なお、
ここでいう推奨基準とは、有酸素的(持久的)
な身体活動を少なくとも30分間×5日/週(中
等度以上の身体活動の場合)
、あるいは少な
くとも20分間×3日/週(高強度以上の身体
活動の場合)を行うことを指している6。
・アメリカ合衆国(男性49.7%、女性46.7%)
・オーストラリア(男性46.7%、女性45.5%)
・EU15か国(スウェーデン23%∼オランダ44%)
日本人成人については、海外と同じ基準で
調べたものがないため、直接比べることはで
きない。別の指標として一日当たりの歩数で
みると、平成22年の平均値は、男性7,136歩、
女性6,117歩であり7、健康日本218で目標とさ
れている値(男性9,200歩、女性8,300歩)に
は達していない。さらに、平成15年からの推
移をみても、この状況はそれほど大きくは変
わっていない(図1)
。
7
図1 歩数の平均値の年次推移(20歳以上)
4.身体活動の評価方法
身体活動をどのように評価(測定)するか
は、
研究の目的に応じて選択することになる。
実験室で行う場合には、二重標識水法、呼気
ガス分析法などが用いられることもある。一
方、
日常生活の中で長時間測定する場合には、
心拍数や歩数、活動の強度を測るための小型
の測定機器を利用したり、質問紙を用いたり
する場合が多い。ここでは、疫学的な調査な
どでよく使われる評価方法の例として、歩数
や活動の強度を測るための機器、および質問
紙について紹介する。
⑴ 歩数や活動の強度を測るための機器
最近は、歩数と活動強度の両方を測定する
機器(加速度センサー)が使われるようになっ
Ⅲ 研究ノート/2 身体活動の現状と評価方法 49
てきた。小型で、腰部に装着したり、ポケッ
トの中に入れて使ったりするタイプのものが
多いので、一日中つけていても生活にそれほ
ど支障は出ない。この機器は加速度を測定す
るものであり、得られた波形を処理すること
によって、歩数と活動強度を算出する。運動・
スポーツなどの強度の高い活動だけでなく、
座っているとみなされる時間(デスクワーク、
テレビを見ている時間など)がどのぐらいあ
るかについても、
数値として出すことができる。
かつては歩数のみを測る機器(加速度セン
サーを使っていない歩数計)がよく使われて
いた。こちらの場合は、歩いても走っても歩
数が同じであれば得られる値も同じであり、
活動の強さを区別することができない。
泳のような運動は評価できない。また、測定
期間が長い場合には装着コンプライアンスが
悪くなり(被測定者が装着をやめてしまう)、
身体活動を過小評価してしまう可能性もある。
質問紙は、対象者の数が多い場合や予算が
限られている場合には便利であるが、子ども
や高齢者など、対象によってはうまく回答で
きないこともある。研究目的で質問紙を使う
場合には、先行研究により信頼性や妥当性が
検証されたものを使うべきであり、また、そ
れらがどのような対象者において検証された
のかを確認しておく必要がある。
加速度センサーで得られるような客観的指
標を用いるのか、本人が回答する質問紙のよ
うな主観的指標を用いるのかについては、研
究の目的、対象者の年齢や数などの条件を考
慮した上で選ぶことになる。一般には、客観
的に得られたデータを用いるほうが望ましい
とされている。
参考文献
図2 歩数や活動強度を測るための機器の例
(上:ActiGraph社GT3X、
下:スズケン社Life-corderEX)
⑵ 質問紙
大規模調査など、対象者の数が多い場合に
よく使われる。例えば、身体活動関連の研究
でよく使われている、International Physical
Activity Questionnaire(IPAQ)という質問
紙があり9、日本語翻訳版として、国際標準
化身体活動質問票(短縮版)が出されてい
る10。
「平均的な1週間では、中等度の身体
活動(軽い荷物の運搬、子供との鬼ごっこ、
ゆっくり泳ぐこと、テニスのダブルス、カー
トを使わないゴルフなど)を行う日は何日あ
りますか?歩行やウォーキングは含めないで
お答えください。
」など、数項目の質問で構
成されている。得られた回答は、マニュアル
に従ってスコア化する。
⑶ どれを使うか?
歩数計や活動量計は、客観的なデータを取
ることができるというのが一番の利点であ
る。ただし、水中では使用できないため、水
1.Caspersen, C. et al.(1985)
. Physical activity,
exercise, and physical fitness: definitions and
distinctions for health-related research. Public
Health Rep 100(2)
:126-131.
2.U.S. Department of Health and Human
Services(1996). Physical activity and health:
a report of the Surgeon General. USDHHS,
CDC, National Center for Chronic Disease
Prevention and Health Promotion.
3.B a u m a n , A . e t a l . ( 2 0 0 1 ). T r e n d s i n
population levels of reported physical activity
in Australia, 1997, 1999 and 2000. Canberra:
Australian Sports Commission.
4.Sjöström, M. et al.(2006)
. Health-enhancing
physical activity across European Union
countries: the Eurobarometer study. J Public
Health 14(5)
:291-300.
5.Kruger, J. et al.(2007). Prevalence of regular
physical activity among adults: United States,
2001 and 2005. MMWR Morb Mortal Wkly
Rep 56(46)
:1209-1212.
6.Haskell, W. et al.(2007)
. Physical activity
and public health: updated recommendation
for adults from the American College of
Sports Medicine and the American Heart
Association. Circulation 116(9)
:1081.
7.厚生労働省(2012). 平成22年国民健康・栄養調
査結果の概要.
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000
0020qbb-att/2r98520000021c0o.pdf
8.http://www.kenkounippon21.gr.jp/
(平成12年3月に厚生省事務次官通知などにより
開始された国民健康づくり運動。)
9.Craig, C. L. et al. (2003)
. International
physical activity questionnaire: 12-country
reliability and validity. Med Sci Sports Exerc
35(8)
:1381-1395.
10.村瀬訓生ら(2002). 身体活動量の国際標準化―
IPAQ 日本語版の信頼性,妥当性の評価―. 厚生
の指標 49⑾:1- 9.
Fly UP