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歩行者自律航法(PDR)ベンチマークの一手法とその評価 A method of

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歩行者自律航法(PDR)ベンチマークの一手法とその評価 A method of
HCGシンポジウム2014CD-ROM論文集, 電子情報通信学会, pp.A-1-4 (2014)
一般社団法人 電子情報通信学会
THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
信学技報
IEICE Technical Report
歩行者自律航法(PDR)ベンチマークの一手法とその評価
興梠 正克†
蔵田 武志†
†産業技術総合研究所サービス工学研究センター 〒305-8568 茨城県つくば市梅園 1-1-1 中央第 2
E-mail: †{m.kourogi, t.kurata}@aist.go.jp
あらまし シームレスな屋内外測位を実現する技術の一つとして、歩行者自律航法(PDR)が注目されている。
近年、世界的に普及したスマートフォンには PDR に必要とされるセンサ(加速度・角速度・磁気)がすべて搭載さ
れており、世界中の人々が常時持ち運ぶスマートフォンによって、PDR が急速に広まる可能性を持っている。PDR
を実現する手法はすでに数多く提案され、それぞれ異なる特徴・要素技術の組み合わせを備え、最終的な測位精度
に与える要因もその手法ごとに異なる。PDR を屋内外測位技術として利用する上で、多数の既存 PDR 手法から一
つの最適な手法を選ぶには、応用例・利用シーンが前提とする条件ごとに PDR の測位性能を統一的な測定基準下で
計測されたベンチマークとなる評価スコアが必要である。本稿では、PDR を測位手法として利用する上で、その測
位性能に影響を及ぼす要因を分解・特定して、測位精度の評価スコアを算定する測定基準の試案を提示し、筆者ら
が研究・開発を進めている PDR 手法に対して、本ベンチマークを適用して実際に評価する。
キーワード 歩行者自律航法(PDR)、屋内測位、ベンチマーク、標準化
A method of benchmarking on pedestrian dead reckoning and its evaluation
Masakatsu KOUROGI† and
Takeshi KURATA†
†Center for Service Research, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
Tsukuba Central 2, 1-1-1 Umezono, Tsukuba, Ibaraki, 305-8568 Japan
E-mail: †{m.kourogi, t.kurata}@aist.go.jp
Abstract Pedestrian dead reckoning (PDR) is one of the most attractive methods to achieve seamless indoor/outdoor
positioning. Since sensors prerequisite for PDR are all equipped with smartphones globally sold to millions of world-wide
consumers, it is highly expected that PDR can be adapted as a part of localization mechanism for consumers. While many
previous works have been proposed to realize PDR localization, there are several differences in factors to affect overall
performance since each method uses a different combination of technologies for PDR. Benchmark scores on each PDR
localization are required to select the best method to match with the developer’s application at hand. This paper presents a draft
proposal of standard metrics to provide a method evaluating benchmark scores by discomposing and specifying the factors to
influence performance of PDR, and then evaluates our own PDR localization system by the proposed benchmark method.
Keywords Pedestrian Dead Reckoning (PDR), indoor positioning, benchmark, standardization.
1. は じ め に
ったが、センサ搭載型のスマートフォンの登場で状況
シームレスな屋内外測位を実現する技術の一つと
が 一 変 し た 。 2010 年 に 登 場 し た iPhone 4 に は PDR に
し て 、歩 行 者 自 律 航 法( PDR)が 注 目 さ れ て い る [12]。
必要とされるセンサ(加速度・磁気・角速度)がすべ
自律動作するセンサ群(加速度・磁気・角速度 など)
て 搭 載 さ れ [11]、 こ れ を 皮 切 り に 先 進 的 な ス マ ー ト フ
を情報源として一定の移動範囲内において 歩行者の位
ォンにはこれらのセンサが搭載されることが一般的と
置を自律推定できるこの技術を導入することで 、特に
な っ た た め で あ る [15][16]。世 界 中 の 一 般 消 費 者 が こ の
衛星測位技術の利用が難しい屋内環境において、イン
センサ搭載型のスマートフォンを電源投入した状態で
フラとして 設置すべき位置情報提供手段の密度を大幅
常時持ち歩いており、 そのような利用者を対象とした
に削減できるためである。
研究・開発がここ数年では 非常に活発になっている。
こ の PDR の 適 用 対 象 は 、一 般 消 費 者 向 け と そ れ 以 外
PDR に 基 づ く 屋 内 測 位 技 術 の サ ー ベ イ 論 文 [1]で は 、
( 産 業 用 途 や 消 防 ・ 警 察 な ど first-responders 向 け ) の
そ の 実 現 手 法 を INS( Inertial Navigation System) 型 の
用途に分類 され、計測装置 の装着・保持が必要である
3 次 元 位 置 を 推 定 す る 手 法 と 、 SHS( Steps and Heading
た め 、 後 者 を 主 た る 対 象 と し た 従 来 研 究 例 [13]が 多 か
System) 型 の 2 次 元 位 置 を 推 定 す る 手 法 の 二 つ に 分 類
This article is a technical report without peer review, and its polished and/or extended version may be published elsewhere.
Copyright ©2014 by IEICE
し て い る 。 前 者 の 手 法 [13]は 加 速 度 の 二 重 積 分 に 基 づ
初期条件(初期位置と方位)と各離散時刻 でのローカ
くため精度の高いセンサが必要であるほか、その装着
ル座標系(センサ座標系)における加速度・角速度・
位 置 が ゼ ロ 速 度 更 新( ZUPT)を 可 能 と す る 足 先・靴 な
磁気ベクトル(各 3 軸)と タイミング(離散データ間
どに限定され、一般消費者向けとはなりにくい。一方
の 時 刻 差 Δt) の 4 つ が 与 え ら れ 、 そ の 出 力 と し て 世 界
で後者の手法は平面上の 2 次元位置を推定する 制限が
座 標 系 で 記 述 さ れ た 平 面 上 の 2 次 元 位 置 (𝑥, 𝑦)と 方 位 角
あ る も の の 、い く つ か の 手 法 [3][5]は そ の 装 着・保 持 状
θの 二 つ が 得 ら れ る 処 理 と し て 定 義 で き る 。そ の 概 要 を
態の要件がスマートフォン の利用シーンに適用可能で
図 1 に示す。
ある。
初期条件
す で に 多 く の PDR を 実 現 す る 測 位 手 法 が 提 案 さ れ 、
そ の 一 部 [8][9][10]は す で に 実 用 化・製 品 化 さ れ て お り 、
加速度(3軸)
PDR を ソ リ ュ ー シ ョ ン の 一 部 と し て 利 用 す る 開 発 者
角速度(3軸)
か ら は 、異 な る PDR 手 法 を 統 一 的 な 評 価 方 法 と 基 準 に
よりベンチマークする枠組みが待ち望まれている。
PDR 手 法 に 基 づ く 測 位 技 術 を 利 用 す る 上 で は 、複 数 の
PDR 手 法 を 横 断 的 に 比 較 す る た め に は 、 同 一 の 方 法 ・
基準に基づく性能の評価結果を算出するベンチマーク
が必要だからである。
位置(2D)
PDRの処理
磁気(3軸)
姿勢(方位角)
タイミングΔt
入力
(ローカル座標系)
図 1
出力
(世界座標系)
PDR の デ ー タ 入 出 力
PDR の ベ ン チ マ ー ク に 利 用 可 能 な 既 存 の デ ー タ セ
な お 、PDR へ の 入 力 デ ー タ と し て セ ン サ 温 度 を 補 正
ッ ト と し て は 、 HASC-IPSC(Indoor Pedestrian Sensing
処理に用いることが有効であり、特に角速度センサ単
Corpus)[6][7]が 挙 げ ら れ る 。 セ ン サ デ ー タ と そ の 歩 行
体ではセンサ温度を計測する出力が取得可能な製品も
軌跡の真値等のデータ 収集を大規模に実施 しており、
多い。これはセンサの誤差要因は温度による影響を強
そ の デ ー タ セ ッ ト は オ ー プ ン に 提 供 さ れ て い る [7]。
く 受 け る た め 、温 度 に 基 づ く 補 正 が 有 効 な た め で あ る 。
し か し な が ら 、PDR の 測 位 誤 差 に 影 響 す る セ ン サ 誤
し か し な が ら 、本 研 究 で は 、PDR の 入 力 と し て 温 度
差について、その校正に関する要素が 勘案されていな
データを利用しない。まず、現時点において、 スマー
い。すなわち、データセットに含まれるセンサデータ
トフォンのソフトウェア開発キットでは各センサの温
は収集したスマートフォンが未校正の状態であり、 そ
度の取得手段が提供されておらず、仮にセンサ温度が
のセンサ誤差によって 発現する測位誤差に関しては公
取得できたとしても補正の温度テーブルを すべてのス
正な評価が難しい 状況である。
マートフォンのために 事前に作成するには 煩雑な手順
そ こ で 、 本 稿 で は 、 こ の よ う な 背 景 を 踏 ま え 、 PDR
の用途として一般消費者向けの利用シーンを想定し、
そ の 実 現 方 法 と し て SHS 型 の 2 次 元 位 置 を 推 定 す る
と操作が必要であり、 現実的に困難なためである。
3. PDR 手 法 に 基 づ く 測 位 精 度 を 決 定す る 要 因
PDR に よ る 測 位 精 度 を 決 定 づ け る 主 た る 要 因 と し
手法を対象とした 上で、その測位精度を統一的に評価
て、以下の 5 つが挙げられる。
する基準と方法を示し、サンプルとして収集・作成し
(1)センサの要因
たデータセットを用いた評価結果について述べる。
(2)保持・装着状態の要因
本 稿 の 構 成 は 以 下 の 通 り で あ る 。2 節 で PDR 手 法 の
(3)歩行者特性の要因、
入出力を定義し、どのような手法が本研究の対象とな
(4)外部環境の要因
る か を 特 定 す る 。3 節 で は PDR に 基 づ く 測 位 手 法 の 精
(5)初期条件の要因
度 が 影 響 を 受 け る 要 因 を 概 説 し 、PDR の ベ ン チ マ ー ク
以 下 の 節 で は 、こ れ ら の 要 因 を 概 説 し 、PDR ベ ン チ マ
で考慮すべき要素 について述べる 。4 節では、筆者ら
ークを構成するデータセットを作成する上で、これら
が 提 案 す る PDR の 評 価 指 標 に つ い て 述 べ る 。5 節 で は
をどのように扱うべきかを述べる。
PDR ベ ン チ マ ー ク を 構 成 す る デ ー タ セ ッ ト に 求 め ら
3.1. センサの要 因
れる要件と収集条件を定義 する。6 節では、その評価
PDR に お い て 、セ ン サ デ ー タ( 加 速 度 ・ 角 速 度・ 磁
指標を得るための基礎となるデータセット のサンプル
気)がその情報源であり、 これに含まれる誤差は当然
を 実 際 に 収 集 し 、筆 者 ら が 提 案 、実 装 し た PDR 手 法 に
ながらその測位精度に影響を及ぼす。
対してベンチマークを 適用して評価した。 7 節では、
ここで、センサの 誤差はランダム誤差と系統的な誤
まとめと今後の課題について述べる。
差に分類され、特に後者は測位精度に大きな影響を与
2. PDR の 入 出 力 デ ー タ の 定 義
える。前者はセンサの素子のデータシート から予測可
SHS 型 の PDR に お い て は 、そ の 入 力 と し て 、一 定 の
能であり、フィルタ処理などによって軽減できるが、
後者は動作条件によって変化するため予測が難しい上
は、歩行者の典型的な 歩行軌跡の制約条件 を利用して
に 、単 純 な フ ィ ル タ 処 理 で は 除 去 で き な い た め で あ る 。
いるため、その条件を満たさない と測位精度が大幅に
加速度・角速度・磁気センサにおける系統的誤差 と
低下する。ここでの制約条件とは 、歩行者 はほとんど
して、各センサにつき オフセット誤差とスケール係数
の場合直進して歩行移動し、建物などの人工的な構造
(感度)誤差の二つが 存在し、これらが最も支配的で
物内では曲がり角 の多くは直角に設計されているため 、
ある。なお、より高次の誤差項も存在することが知ら
歩行者の旋回運動は直角と する拘束条件のことである 。
れ て い る が [17]、こ こ で は 軽 微 な も の と し て 除 外 す る 。
そのような影響を調べるために、歩行軌跡の複雑さ に
し た が っ て 、PDR の 情 報 源 と な る セ ン サ の 誤 差 の 要
因として、これらの系統的誤差を考慮したデータセッ
関してデータセットの多様性が必要である。
次に、
( 2 )に つ い て は 、そ の 依 存 度 に よ っ て は 、地
トの設計が必要である。
磁気が利用できない環境下ではほとんど機能しない 可
3.2. 保 持 ・装 着 状 態の要因
能性もあるため、 地磁気が観測可能性の可否に関して
一般消費者を対象とする場合、スマートフォンは
も同様にデータセットに多様性があることが必要であ
様々な保持・装着状態に置かれることが想定される。
る。
図 2 には典型的なスマートフォンの保持・装着状態に
3.5. 初 期 条 件 の要 因
関 す る 調 査 結 果 [2]の ま と め を 示 す 。こ の 結 果 か ら 明 ら
PDR は 初 期 条 件 と し て 方 位 角 の 初 期 値 を 必 要 と し 、
かなように、スマートフォンの利用シーンを網羅する
場合によっては姿勢も必要であるため 、この初期値の
ためには、ここに列挙されている 保持・装着状態で得
正確さによっては 、全体の測位精度に大きな影響を与
られたデータを含むデータセットが必要である。
えることがある。 たとえば 地磁気観測と角速度による
男性
方位角の更新結果を融合する手法においては、 初期方
女性
位角の誤差は大きな測位誤差の要因とならないが、地
磁気の利用が限定的な手法においては、初期方位角の
正確さに影響を受ける 可能性がある。
したがって、初期方位角として正確な値を提供する
だ け で は な く 、ば ら つ き を 導 入 す る こ と が 必 要 で あ る 。
一般消費者がスマートフォンで方位を手動で初期化す
図 2
ス マ ー ト フ ォ ンの 典 型 的な 保 持 位置 [2]
3.3. 歩 行 者 特 性の要 因
同じ軌跡上の歩行であって も、その歩行者によって
異 な る 特 性 を 持 つ 運 動 が 引 き 起 こ さ れ て お り [14]、 そ
る利用シーンを想定すると、高い精度で方位角を初期
化できる見込みは低く、無視できない 誤差が入ること
が前提となるからである。
4. PDR の 評 価 指 標
の特性を網羅するためには、異なる特性の歩行者のデ
2 節 で 述 べ た よ う に 、 PDR の 各 離 散 時 刻 に お け る 出
ータが含まれていることが必要である。たとえば、筆
力 は 二 つ あ り 、そ れ ぞ れ 平 面 上 の 2 次 元 位 置 (𝑥, 𝑦)と 方
者 ら の 従 来 研 究 [4]に お い て は 、歩 行 者 の 速 度 推 定 に お
位 角 θで あ り 、本 稿 で は こ れ ら に つ い て そ れ ぞ れ 評 価 指
いて加速度振幅と歩行速度の相関関係を利用している
標 を 作 成 す る 。PDR の 利 用 者・開 発 者 に と っ て 必 要 な
が、その相関関係においても個人差による特性の相違
出力情報は位置のみであることも多いが、方位角の推
の存在が確認されている。 主として身長差による要因
定 誤 差 は PDR の 測 位 誤 差 に 直 結 し 、そ の 処 理 内 部 の 評
が大きく、また性別差 の要因も見られる。
価指標として有用な情報を提供するためである。
したがって、歩行者特性として代表的な要素である
身長・性別・年齢について ばらつきのあるデータセッ
トが必要である。
4.1. 位 置 に関する評 価 指 標
PDR に 基 づ く 測 位 精 度 を 示 す 方 法 と し て 、移 動 距 離
あたりの誤差比率 がしばしば従来研究においても評価
さらに、これらの 3 つの要因による特性は歩行速度
結果として 使われており、 これは直観的でわかりやす
として発現するため、歩行速度についても ばらつきの
く 、異 な る PDR 手 法 間 で の 比 較 に 利 用 可 能 な 指 標 で あ
あるデータセットが必要となる。
る 。PDR に 基 づ く 測 位 で は 、歩 行 動 作 の 誤 検 出 ・未 検
3.4. 外 部 環 境 の要 因
出がない限り、一般的には 移動距離に比例して 誤差が
PDR の 測 位 精 度 に 影 響 を 及 ぼ す 外 部 環 境 の 要 因 と
して、以下の二つが挙げら れる。
(1)歩行軌跡(正解ルート)の複雑さ
(2)歩行した環境における地磁気の観測可能性
ま ず 、( 1 ) に つ い て は 、 い く つ か の PDR の 手 法 で
増 加 す る 傾 向 が あ り 、こ の 傾 向 が PDR の 性 質 を 捉 え て
いる。
そ こ で 、 各 サ ン プ ル 点 𝑖に お け る 真 値 の 位 置 (𝑥𝑖 , 𝑦𝑖 )と
推 定 位 置 (𝑥̂𝑖 , 𝑦̂𝑖 )の ユ ー ク リ ッ ド 距 離 𝑒𝑖 を 移 動 距 離 𝑑𝑖 で 正
規 化 し た 項 に 重 み 係 数 𝑤𝑖 を 乗 じ て 累 積 す る 評 価 関 数 e𝑃
を指標とする。すなわち、 以下の式で表せる。
𝑁
e𝑃 = ∑
𝑖=1
5.1.1. 歩 行 時 の セ ン サ デ ー タ
歩行時のセンサデータは、歩行者に装着・保持され
𝑒𝑖
𝑤
𝑑𝑖 𝑖
た ス マ ー ト フ ォ ン に よ っ て 収 集 さ れ る 加 速 度・角 速 度・
磁 気 ベ ク ト ル ( 各 3 軸 ) と 離 散 時 刻 差 Δtの 4 つ か ら 成
こ こ で 、 重 み 係 数 𝑤𝑖 を 移 動 距 離 𝑑𝑖 に 比 例 し た 係 数 と す
り、センサデータの開始もしくは終了した絶対時刻を
ると、以下のようになる。
付 与 す る 。 な お 、 ス マ ー ト フ ォ ン の OS で は 自 動 的 な
w𝑖 =
𝑑𝑖
校正処理が実行される ため、データロガーアプリはこ
∑𝑁
𝑗=1 𝑑𝑗
れ を 無 効 に す る 必 要 が あ る( Android 4.3 か ら こ の よ う
し た が っ て 、 評 価 関 数 e𝑃 は 以 下 の 式 に 簡 素 化 さ れ る 。
𝑁
e𝑃 = ∑
𝑖=1
𝑁
𝑁
𝑖=1
𝑖=1
𝑒𝑖 𝑑𝑖
𝑒𝑖
1
=∑ 𝑁
= 𝑁
∑ 𝑒𝑖
𝑑𝑖 ∑𝑁
∑
∑
𝑑
𝑑
𝑗=1 𝑗
𝑗=1 𝑗
𝑗=1 𝑑𝑗
ここで得られた指標は、歩行移動距離に比例して 増
加する測位誤差の 比率を表している。
4.2. 方 位 角 に関する評 価 指 標
方 位 角 θは 角 速 度 ベ ク ト ル の 時 間 積 分 に よ っ て 更 新・
な 未 校 正 デ ー タ の 取 得 を 指 示 で き る [19])。
5.1.2. 各 セ ン サ の 校 正 用 デ ータ
歩行時に収集されたセンサデータには、各センサに
ついてオフセット・感度誤差が存在しているため、 こ
れらの効果を除外するためには、別途これらの誤差を
補正する仕掛けが必要である。
そこで、各センサに関する校正用データを 歩行デー
タの収集の前後に別途校正用データとして 収集する。
推定されるため、 誤差の支配的要因は経過時間と考え
こ こ で 収 集 さ れ た デ ー タ は 最 終 的 に PDR ベ ン チ マ ー
られる。地磁気が観測可能であるときのみ、磁気によ
クで用いるセンサデータについて校正済みデータを 生
る方位補正が実行 できるが、これは間欠的なものであ
成するために用いる。
り、環境によっては補正が期待できない。
5.1.3. 歩 行 軌 跡 の 真 値 デ ー タ
そ こ で 、 本 稿 で は 経 過 時 間 𝑇𝑖 で 正 規 化 し た 以 下 の 重
歩 行 軌 跡 の 真 値 デ ー タ は 、サ ン プ ル 点 𝑖に お け る 世 界
み 係 数 付 き 誤 差 評 価 式 e𝑑 を 方 位 角 出 力 に 関 す る 評 価 指
座 標 系 に お け る 位 置 (𝑥𝑖 , 𝑦𝑖 )と そ の 時 刻 𝑇𝑖 が 記 録 さ れ て
標とする。
いるものであり、真値データの時刻とセンサデータの
𝑁
e𝑑 = ∑
𝑖=1
|𝜃̂𝑖 − 𝜃𝑖 |
𝑤𝑖
𝑇𝑖
こ こ で 、 𝜃̂𝑖 は PDR に よ る 方 位 角 の 推 定 結 果 で あ り 、 𝜃𝑖
は 方 位 角 の 正 解 値 、𝑇𝑖 は 経 過 時 間 で あ る 。重 み 係 数 𝑤𝑖 を
経 過 時 間 𝑇𝑖 に 比 例 し た 係 数 と す る と 、 前 節 と ほ ぼ 同 様
の式の変形により、以下の 式に簡素化される。
e𝑑 =
1
𝑁
̂ − 𝜃𝑖 |
∑|𝜃𝑖
∑𝑁
𝑗=1 𝑇𝑗 𝑖=1
この指標 は 1 秒あたりに累積する方位角誤差 の増加
割 合 [rad/s]を 表 し て い る 。
5. PDR ベ ン チ マ ー ク 用 デ ー タ セ ッ ト
各時刻に基づいて これらの データ間が 紐付けられるよ
うに準備されている必要がある。
5.1.4. 移 動 方 位 角 の 真 値 デ ータ
移 動 方 位 角 の 真 値 デ ー タ は 、サ ン プ ル 点 𝑖に お け る 移
動 方 位 角 𝜃𝑖 と そ の 時 刻 𝑇𝑖 の 二 つ が 記 録 さ れ て い れ ば 十
分であり、 位置の真値データと同様に 時刻によってセ
ンサデータ間と対応づけられれば良い。
しかしながら、歩行者の方位角は歩行移動中には 大
き く 変 動 す る た め 、PDR か ら の 瞬 間 的 な 方 位 角 の 出 力
と単純な離散的な真値データとの比較に基づく評価は
適切ではない。歩行動作時にはヨー軸周りの旋回運動
が作り出されており、これは見かけ上 の方位角出力の
大きな変動として現れるためである。
本 節 で は 、PDR ベ ン チ マ ー ク の デ ー タ セ ッ ト に 必 要
そ こ で 、ま ず PDR の 位 置 出 力 に 基 づ い て 移 動 ベ ク ト
な構成要素を述べ 、これらの要素から成る データセッ
ルを算出することでその移動方位角を 求め、その結果
トを収集する条件について述べる。
と方位角の真値を比較して評価する。
5.1. データセットの構 成 要 素
5.2. データセットの収 集 条 件
PDR ベ ン チ マ ー ク の デ ー タ セ ッ ト と し て 準 備 す べ
3 節 で 述 べ た PDR の 測 位 精 度 に 影 響 を 与 え る 5 つ の
き必要な構成要素 となるデータは以下の通りである。
要因を考慮し、各項目については以下に述べる条件で
(1)歩行時のセンサデータとタイミングデータ
データを収集する。
(2)加速度・角速度・磁気センサの校正用データ
5.2.1. セ ン サ 要 因 に 関 す る 収集 条 件
(3)歩行軌跡の真値データ
(4)移動方位角の真値データ
本 節 で は 、こ れ ら の 構 成 要 素 の デ ー タ に つ い て 述 べ る 。
センサデータには収集した端末の 機種・個体の違い
や、同一端末であっても収集した条件によって、デー
タ中に存在するオフセット・感度誤差は異なる 。利用
するセンサ の素子や計測条件(特に温度) の違いによ
と直角ではないターンのあるコースを含む軌跡を歩い
り、これらの誤差は大きく変化する性質がある ためで
たデータを収集することが必要である。次に、磁場の
ある。
環境に関しては、地磁気が利用できる環境(たとえば
そこで、これらの要因を制御下に 置いて評価する た
屋外環境)と利用が困難な環境( 屋内で構造物や電子
め、計測の前後に別途収集する校正用のデータに基づ
機器などにより地磁気が歪む環境 など)においてデー
く校正処理 によりデータ中のオフセット・感度誤差を
タを収集することが必要である。
ほぼ取り除いた上で、 後処理で人工的に誤差を 付与し
5.2.5. 初 期 条 件 の 要 因 に 関 する 収 集 条 件
たデータを生成する。実際に得られる 計測値を使う場
初 期 条 件 の 要 因 を 考 慮 す る 上 で は 、各 デ ー タ に お い
合、そのデータに含まれる誤差の大きさは偶然の要素
て、初期方位角の真値に一定のばらつきで 誤差を付与
によって決定され て制御できないため、合成データを
することが 必要である。これは、 初期方位角の 精度へ
用いる方が 誤差を制御する観点で は適している。
の依存度を効果的 に評価するためである。
実際に印加する誤差の 大きさを表 1 に示す。この範
そ こ で 、初 期 方 位 角 に 関 し て は 、真 値 に 対 し て -10~
囲の誤差を オフセット誤差と感度誤差について それぞ
10[deg]の 範 囲 の 誤 差 を ラ ン ダ ム に 印 加 し て デ ー タ セ
れランダムに校正済みデータに印加して生成した合成
ットを生成する。
データをベンチマークのデータセットとして用いる。
6. 評 価 実 験 と そ の 結 果
表 1
各センサ出力に印加する誤差
オフセット誤差
感度誤差
5 節 で 述 べ た PDR ベ ン チ マ ー ク 用 デ ー タ セ ッ ト の 要
件を満たすサンプルデータを実際に収集し、予備的な
評価実験を行った。
角速度センサ
-0.01~0.01[rad/s]
-1.0~1.0 [%]
磁気センサ
-0.05~0.05 [Gauss]
-1.0~1.0 [%]
サンプルデータセットの収集には、1 台のスマート
加速度センサ
-0.1~0.1 [G]
-1.0~1.0 [%]
フ ォ ン Nexus 4( Android 4.4.4) [18]を 使 用 し た 。 こ の
6.1. サンプルデータセットの収集 条 件
スマートフォン上で動作するデータロガーアプリでは、
5.2.2. 保 持 ・ 装 着 状 態 の 要 因に 関 す る 収 集条 件
内 部 の OS に よ る 校 正 処 理 を 経 ず に 得 ら れ る デ ー タ 取
保持・装着状態に起因する測位精度の違いを評価す
得の指定を行っている。また、収集する指定サンプリ
るために、 以下の 5 つの状態に置かれたスマートフォ
ンからのデータを収集する。
ン グ レ ー ト は 100Hz で あ る 。
収集するセンサデータは、 1 データセットにつき 歩
(1)ハンドバッグに入れる。
行時に収集するものと、その歩行の前後に収集する角
(2)ズボン・スカートのポケットに入れる。
速 度・磁 気 ・加 速 度 セ ン サ の た め の 校 正 用 デ ー タ の 計 3
(3)シャツの胸ポケットに入れる。
つ で あ る 。収 集 し た 歩 行 時 の セ ン サ デ ー タ に は 、 5.2.1
(4)手に保持する。
節で述べたように 、オフセット誤差と感度誤差を合成
(5)ベルトケースに入れて装着する。
して、印加する。
図 2 から明らかなように、 これらで典型的な保持・装
着 状 態 の 9 割 以 上 を 占 め [2]、一 般 消 費 者 の 日 常 的 な 利
用シーンをほぼ網羅している。
5.2.3. 歩 行 者 特 性 の 要 因 に 関す る 収 集 条 件
保 持・装 着 状 態 に 関 し て は 、5.2.2 節 で 挙 げ た 5 つ の
状態について歩行したデータをそれぞれ収集した。
歩行者特性に関しては、今回の試行では十分な人数
のデータを収集できておらず、計 4 人(男性 2 人・女
歩 行 者 の 個 人 差 に よ る 特 性 を 考 慮 す る に は 、で き る
性 2 人)分のデータセットを収集している にとどまっ
だけ多くの 被験者からのデータを収集することが望ま
ている。また、歩行速度についても、標準的な歩行速
しい。具体的には、歩行者の身長・性別・年齢の 3 つ
度で歩行する指示 のみでデータセット を収集している。
の要素に関して十分に ばらついた被験者の構成が理想
外部環境に関しては、定型的な形状を持つ 屋内環境
的 で あ る 。た と え ば 、HASC-IPSC で は 、被 験 者 の 年 齢
(地磁気をほとんど観測できない環境)での歩行軌跡
と 性 別 に 関 し て 均 等 に 100 人 分 の デ ー タ を 収 集 し て い
( 242m)と 非 定 型 な 形 状 を 持 つ 屋 外 環 境( 広 範 囲 に わ
る [6]。
た っ て 地 磁 気 を 観 測 で き る 環 境 )で の 歩 行 軌 跡( 350m)
これらの特性が発現する歩行速度についてもばら
つきがあるデータセットが 望ましい。
5.2.4. 外 部 環 境 の 要 因 に 関 する 収 集 条 件
外部環境の 要因を考慮するためには、まず、歩行軌
跡の直線性と旋回角に関してデータの 多様性を持たせ
ることが効果的である。すなわち、直線以外のコース
の 2 コースについて、データセットを収集した。
初 期 条 件 に つ い て は 、5.2.5 節 に 述 べ た 方 法 で 初 期 方
位角の真値に対して誤差をランダムに印加してデータ
セットを作成した。
6.2. 評 価 実 験 とその結 果
筆 者 ら の PDR 手 法 [3][4]を 用 い て 、 そ の 地 磁 気 方 位
補正と進行方向推定の二つの機能について 活性化/不
活性化することで、計 4 通りのサブ手法を仮想的に作
り出して、 それぞれについて評価を実施して指標を算
出した。その結果 を表 2 に示す。
表 2 評価指標の算出結果
屋内定型的コース
PDR-1
PDR-2
PDR-3
PDR-4
𝑒 =
𝑒𝑑 =
[%]
𝑒 =
𝑒𝑑 =
[%]
1
𝑒 =
𝑒𝑑 = 1
1
−
−
屋外非定型的コース
[rad/s]
𝑒 = 1 [%]
𝑒𝑑 = 1 1
1
−
[rad/s]
[rad/s]
𝑒 =
𝑒𝑑 =
−
[rad/s]
[%]
1
[%]
1
−
[rad/s]
𝑒 = 1 1 [%]
𝑒𝑑 =
1
𝑒 =
[%]
𝑒𝑑 = 1 1 1
−
[rad/s]
𝑒 = 1 [%]
𝑒𝑑 = 1
1
−
−
[rad/s]
[rad/s]
こ こ で 、PDR-1,2,3,4 は そ れ ぞ れ 以 下 の 表 3 に 示 す 通 り
のサブ手法となっている。
表 3 PDR の サ ブ 手 法 の 組 み 合 わ せ
進行方向推定有 進行方向推定無
地磁気方位補正有
PDR-1
PDR-3
地磁気方位補正無
PDR-2
PDR-4
保持・装着状態が異なるデータセットが含まれてい
るため、今回の評価指標とデータセットによるベンチ
マークでは進行方向推定機能の有無が 決定的となって
いることが読み取れる。
位 置 誤 差 の 指 標 e𝑃 が 10% を 超 え る 結 果 は 、実 質 的 に
測位結果が破綻しており、その原因は 主として 移動方
位 角 の 誤 差 指 標 e𝑑 が 1
1
−
[rad/s]を 超 え る よ う な
方位角の推定誤差によっている。
7. ま と め と 今 後 の 課 題
本 稿 で は 、PDR ベ ン チ マ ー ク の た め の 評 価 指 標 の 試
案を提示し、その評価のためのデータセットが満たす
べき要件について 述べ、実際に筆者らが収集したデー
タ セ ッ ト を 用 い て 、 PDR 手 法 を 評 価 し た 。
しかしながら、本研究において収集された データセ
ットは歩行者特性の観点において、被験者の人数が著
しく不足しているため、評価実験としてはまだ試行の
段 階 で あ る 。 た と え ば HASC-IPSC に お い て 提 供 さ れ
ているデータセットと融合するなど、既存のデータセ
ットとの連携が必要である。
今後の課題としては、 収集・利用する 評価用のデー
タセットを拡充させることにより、3 節で述べた測位
精度に影響を与える 5 つの要因を網羅した評価を実現
することが挙げられる。
文
献
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frequency domain anal ysis on patterns of ac celeration
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[4] Masakatsu Kourogi and Takeshi Kurata, “Personal
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