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相乗的サービス連携に基づく屋内歩行者トラッキングシステム
電子情報通信学会技術研究報告 PRMU2009-192, Vol.109, No.374, PP.249-254 (2010) 社団法人 電子情報通信学会 THE INSTITUTE OF ELECTRONICS, INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS 信学技報 IEICE Technical Report 相乗的サービス連携に基づく屋内歩行者トラッキングシステム 石川 智也† 興梠 正克† 大隈 隆史† 蔵田 武志† †独立行政法人 産業技術総合研究所 サービス工学研究センター E-mail: †{tomoya-ishikawa, m.kourogi, takashi-okuma, t.kurata}@aist.go.jp あらまし 本報告では,3 次元屋内環境モデリングやセキュリティ等のサービスと連携することで,相乗的にそ れらのサービスの品質や価値,そしてトラッキング性能の向上を実現する屋内歩行者トラッキングシステムを提案 する.提案トラッキングシステムにより推定された歩行者の位置・方位情報は,3 次元環境モデリングサービスや セキュリティサービスにおいて,モデリング作業の効率化や付加価値の実現に貢献し,作成された 3 次元環境モデ ルや監視カメラ映像はトラッキングシステムのトラッキング性能の向上に利用される.このような相乗的サービス 連携を考慮することで,トラッキング性能の向上のみ成らずサービスの品質・価値の向上をも実現する. キーワード 歩行者トラッキング,屋内環境,サービス,自蔵センサモジュール Indoor Pedestrian Tracking System Based on Synergistic Service Linkages Tomoya ISHIKAWA† Masakatsu KOUROGI‡ Takashi OKUMA‡ and Takeshi KURATA‡ †National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Center for Service Research E-mail: †{tomoya-ishikawa, m.kourogi, takashi-okuma, t.kurata}@aist.go.jp Abstract We propose an indoor pedestrian tracking system that synergistically enhances quality and value of services and the tracking performance by linkages of services such as 3D indoor modeling and security services. The tracking data, position and orientation of a pedestrian, estimated by the tracking system can be used for realizing efficient 3D modeling and additional functions. Inversely, the created 3D models and videos from surveillance cameras are utilized for improving tracking performance. In consideration of the service linkages, we aim at realizing improvements of quality and value of services synergistically. Keyword Pedestrian tracking,Indoor environment,Service,Self-contained sensors このシステムの被験者実験を実施しており,実運用に 1. は じ め に 人の位置や向いている方向を計測する技術は,ロケ 向けた改善と検討を行っている. ーションアウェアサービスの実現や,サービスに対す このようなナビゲーションサービスでは,まずサー る人の行動を客観的な指標の基に分析するための重要 ビス実施のための準備として,コンテンツとなる地図 な基礎技術である. や注釈情報の作成と配置を行い,サービス実施時にそ これまで我々は,歩行者に対するナビゲーションサ れらのコンテンツを利用者の位置・方位情報に基づい ービスの実現や,人の動作・行動を計測・解析するこ て提示する.そして,利用者からのアンケート・イン とでサービスの質の向上に役立てることを目的として, タビューによる主観評価結果やトラッキングログに基 屋 内 外 で の シ ー ム レ ス な 位 置 /方 位 推 定 を 可 能 に す る づく利用者の行動分析結果から,より良いサービスの 装着型自蔵センサモジュールを用いた歩行者デッドレ ための改善方法を検討する.このサービス更新サイク コ ニ ン グ ( Pedestrian Dead-Reckoning: PDR) に 基 づ く ルの各ステップにおいて,より効率的なコンテンツ作 歩 行 者 ト ラ ッ キ ン グ シ ス テ ム [1]の 開 発 を 行 っ て い る . 成,優れたユーザ体験および行動分析の実現が望まれ また,このトラッキングシステムを利用することで, て い る .実 際 ,我 々 は 過 去 の 実 験 で の サ ー ビ ス 提 供 者・ 広 域 屋 内 環 境( 5 階 建 て ,各 階 2500~ 2700m )に お い 利用者からのフィードバックに基づいて,歩行者トラ て利用者の位置・方位情報に基づく推薦ルート案内や ッキングシステムを利用した環境地図作成のための効 2 コンテンツ提示を可能とするミュージアムガイドシス 率 的 な 3 次 元 環 境 モ デ リ ン グ シ ス テ ム [3]や ,iPhone3G テ ム [2]を 開 発 し て い る .過 去 3 年 間 ,実 証 フ ィ ー ル で を利用したナビゲーション・コンテンツ表示用クライ Copyright ©2009 by IEICE iPhone 3G セキュリティ 歩行者トラッキング インフラからの計測データ 3次元屋内環境モデリング サービス連携 トラッキング情報 3次元環境モデル 屋内ナビゲーション 自蔵センサモジュール 行動分析 図 1. 自 蔵 セ ン サ モ ジ ュ ー ル と iPhone3G を 利 用 し たミュージアムガイドシステム. ア ン ト ( 図 1) の 開 発 を 行 い , サ ー ビ ス 提 供 の 効 率 化 図 2. サ ー ビ ス 連 携 の 概 要 . とユーザ体験の改善を行っている.しかし,未だ多く の課題を残している. その中でも特に,利用者に負担をかけている要因と して,歩行者トラッキングに要する歩行パラメータの 校正が挙げられる.我々のトラッキングシステムは, 自蔵センサモジュールの計測に基づいて認識した歩行 動作に対応する歩行速度を推定し,その歩行速度と方 位から相対的な移動量を推定する.そのため正確な測 位を行うためには,正確な歩行速度を推定するための パラメータ(歩行パラメータ)の校正が必要となる. その校正には,事前に各利用者が一定距離間を数回, 異なる歩行速度で歩行する必要があり,利用者にとっ て負担となっている.また,利用者の歩行パラメータ は,事前校正により推定した歩行パラメータから変動 している場合があり,必ずしも事前校正が有効とは限 らない.従って,利用者に負荷をかけることなく,歩 行パラメータを利用者の状態に応じて校正することが 既存インフラの利用により,追加のインフラ設置・維 持コストを抑え,利用者に負担をかけることなくトラ ッキング性能を向上させる. 既存インフラを利用した歩行パラメータ推定と測 位誤差補正は,トラッキングサービスとセキュリティ サービスとの連携による低コストでの付加価値の実現 例と言える.同様にその他のサービスについても連携 を行うことで,トラッキング性能の向上やその他のサ ービスの品質向上や付加価値を実現する.そして,そ の品質・価値の向上により,サービス全体での低コス ト化を狙う.本研究では,図 2 に示す歩行者トラッキ ング・3 次元屋内環境モデリング・セキュリティ・屋 内ナビゲーション・行動分析サービスにおいて連携を 行い,各サービスに以下のような付加価値を与える. z 的 な 歩 行 パ ラ メ ー タ 推 定 と 測 位 誤 差 補 正 ,お よ び 望ましい.また,そのような歩行者トラッキングサー ビスにおける性能向上に要するコストや,トラッキン グサービスの導入自体にかかるコストは,低コストか つ合理的でなければサービスの現場への適用は難しい. 我々は,この歩行者トラッキングサービスの性能向 上とそれに伴うコストの問題を解決するために,次の ようなアプローチを提案する. z 監 視 カ メ ラ や RFID タ グ 等 の 既 存 イ ン フ ラ を 利 用 した動的な歩行パラメータ推定と測位誤差補正 z 歩行者トラッキングサービスやその他のサービ ス と の 連 携 に よ る サ ー ビ ス の 品 質 ・価 値 の 向 上 と それに伴う総合的なサービスの低コスト化 利用者の歩行パラメータ推定については,セキュリテ ィ サ ー ビ ス に 利 用 さ れ て い る 監 視 カ メ ラ や RFID タ グ 等の既存インフラを利用することで,利用者がトラッ キングサービスを利用しながら,その歩行パラメータ を動的に推定可能とする.さらに,トラッキング時に 生じる測位誤差も同様のインフラを利用して補正する. 歩 行 者 ト ラ ッ キ ン グ :既 存 イ ン フ ラ を 利 用 し た 動 3 次元環境モデルを利用したマップマッチング z 3 次元屋内環境モデリング:トラッキング情報を 利用した効率的な環境モデリング z セ キ ュ リ テ ィ : 監 視 カ メ ラ や RFID タ グ の 配 置 の 効率化と自動ビデオタグ付け z 屋 内 ナ ビ ゲ ー シ ョ ン :写 実 的 3 次 元 環 境 モ デ ル を 利 用 し た 位 置 /方 位 に 基 づ く 直 感 的 な 情 報 提 示 z 行 動 分 析: ト ラ ッ キ ン グ ロ グ と 環 境 の 可 視 化 に よ る直感的行動分析 以上のアプローチにより,トラッキング性能向上だ けでなく,他のサービスの品質・価値の向上を行い, 総合的なサービスの低コスト化を実現する.以下,2 節では関連研究について述べ,3 節で提案する歩行者 トラッキングシステムについて述べる.そして,4 節 でトラッキングサービスとのサービス連携によって実 現されるサービスについて紹介する.最後に 5 節で本 論文をまとめる. 2. 関 連 研 究 AR や MR の 研 究 分 野 で は , 屋 内 環 境 に お け る 利 用 者の位置・方位推定手法として,環境に設置した画像 マーカや環境の自然特徴を利用したカメラ画像に基づ く ト ラ ッ キ ン グ 手 法 が 数 多 く 提 案 さ れ て い る [4,5]. こ れらカメラ画像によるトラッキング手法では,安価な カメラを利用できる反面,画像を処理するための計算 自蔵センサモジュール 気圧センサ 気圧 磁気/加速度/ ジャイロセンサ RFIDリーダ 磁気ベクトル/ 加速度/ 角速度 移動速度ベクトル 相対高度変化量 動作種別 と信号強度を基に測位を行うものであり,安価なレシ ーバと計算機が利用可能である.しかし,方位につい ては別途計測手段が必要となることや密にインフラが 設置されていなければ著しく測位精度が低下するとい った問題がある. Wi-Fi の AP や RFID タ グ 等 の 既 存 イ ン フ ラ と 利 用 者 が装着する自蔵センサモジュールからの計測情報及び 環境情報を統合して確率的にトラッキングを行う手法 [8]も 提 案 さ れ て い る .こ の 手 法 で は ,利 用 者 の 足 に 装 着 し た 自 蔵 セ ン サ モ ジ ュ ー ル に よ っ て PDR に 基 づ く トラッキングを行うことで,インフラが疎な環境にお い て も 継 続 的 な ト ラ ッ キ ン グ を 可 能 と す る .そ の た め , インフラの追加設置・維持コストを低減することが可 能である. 我 々 の ト ラ ッ キ ン グ シ ス テ ム も 文 献 [8] と 同 様 に PDR に 基 づ く シ ス テ ム で あ る が ,単 に 既 存 サ ー ビ ス の インフラを利用するだけでなく,トラッキングシステ ムからの位置・方位情報を既存サービスやその他のサ ービスの高付加価値化に利用することや,総合的なサ ービスの低コスト化を実現する点が大きく異なる. ビデオ 軌跡照合/ 歩行速度推定 絶対位置推定 位置 軌跡情報 センサ/データフュージョン (パーティクルフィルタ) 既 存 の イ ン フ ラ を 利 用 し た 手 法 [6,7]も 提 案 さ れ て い る . こ れ ら の 手 法 は , Wi-Fi の AP や RFID タ グ か ら の ID RFIDタグ 監視カメラ タグID/ RSSI 歩行速度 歩行者デッドレコニング コ ス ト が 高 く ,計 測 結 果 の 安 定 性 に も 未 だ 課 題 が 多 い . Wi-Fi の ア ク セ ス ポ イ ン ト ( AP) や RFID タ グ 等 の タグID 位置/方位 位置/方位の出力 3Dモデル 3次元環境モデル 図 3. 屋 内 歩 行 者 ト ラ ッ キ ン グ シ ス テ ム の 構 成 . 外部インフラに依存せず自律的な位置・方位の推定が 可能である.しかし,各歩行動作に対応する移動速度 ベクトルの積算による測位を行っているため,歩行動 作時に推定される利用者の方位と,歩行パラメータか ら計算した歩行速度に含まれる誤差に起因する蓄積誤 差が発生する.そこで,その推定誤差の補正や動的な 歩行パラメータ推定及び,基準位置の初期化に環境中 のセンサインフラと 3 次元環境モデルを用いる. 本システムの構成では,センサインフラとして,セ キュリティサービスで利用されている監視カメラと RFID タ グ を 利 用 す る .こ れ ら の イ ン フ ラ は ,工 場 や オ フ ィ ス ,そ の 他 の 商 業 施 設 で 普 及 が 進 ん で い る .ま た , 人の移動の要所に設置されることが明らかであるため, 低コストで利用可能であり,歩行者のトラッキングに 利用するのに都合の良い特徴を有する.監視カメラの 映像は,自蔵センサモジュールを装着した利用者の照 合・識別に利用され,その識別情報と映像から推定さ れた移動軌跡は,歩行パラメータ推定や測位誤差補正 及び,セキュリティサービスの強化に利用される. 3. 屋 内 歩 行 者 ト ラ ッ キ ン グ シ ス テ ム RFID タ グ か ら 発 信 さ れ る 信 号 は ,自 蔵 セ ン サ モ ジ ュ ー 3.1. 概 要 ル 内 の RFID リ ー ダ で 受 信 さ れ , タ グ の 位 置 と 受 信 信 我々が提案する屋内歩行者トラッキングシステム 号 強 度 ( Received Signal Strength Indicator: RSSI) に 基 は,システム利用者が装着する自蔵センサモジュール づく測位に利用される.そして,その測位結果を基に と環境中に設置されているセンサインフラからの計測 測位誤差を補正する. データを,3 次元環境モデルを制約として用いながら さらに,ナビゲーションサービス等の地図コンテン 融 合 す る こ と で ,そ の 利 用 者 の 位 置・方 位 を 推 定 す る . ツとなる 3 次元環境モデルを用いてマップマッチング 図 3 に提案するトラッキングシステムの構成を示す. を行うことで測位性能の向上が実現できる.また,3 継続的かつ安定なトラッキングのために提案シス 次 元 環 境 モ デ ル は 監 視 カ メ ラ や RFID タ グ の パ ラ メ ー テムでは,利用者が装着する自蔵センサモジュールに タ設定にも利用可能であり,システム導入の簡易化が 内蔵されている加速度・ジャイロ・磁気・気圧センサ で き る .以 下 で は ,PDR に 基 づ く 位 置 ・ 方 位 推 定 手 法 か ら の 計 測 デ ー タ を 入 力 と し た PDR に よ る 基 準 位 置 と,センサインフラによる計測と 3 次元環境モデルの からの相対移動量と絶対方位推定及び動作認識を行う 利用法及びそれらの情報の融合方法について述べる. [1].PDR で は ,規 則 性・再 現 性 の 高 い 人 間 の 歩 行 動 作 3.2. 歩 行 者 デッドレコニング を利用することで,安定なトラッキングを実現可能で あ り ,自 蔵 セ ン サ モ ジ ュ ー ル か ら の 計 測 デ ー タ に よ り , 歩行者デッドレコニングでは,利用者が装着してい る自蔵センサモジュール内の加速度・ジャイロ・磁気 センサ(各 3 軸)及び気圧センサからの計測データに カメラは高い空間分解能を有するセンサであるため, 基づいて,基準位置からの相対移動量と絶対方位の推 利用者の位置を比較的高精度に計測することが可能で 定 及 び ,動 作 認 識 を 行 う .な お ,相 対 移 動 量 の 推 定 は , ある.また,時系列計測データから利用者の歩行速度 水平・垂直(高度)方向について独立に行う. を推定することで,その利用者の歩行パラメータを推 水平方向の相対移動量は,各歩行動作に対応する移 定可能となる.そのような機能を実現するためには, 動速度ベクトルの積算によって計算される.歩行動作 監視カメラ映像中の人物の内,自蔵センサモジュール 時には,ジャイロ・磁気センサの計測から推定した歩 を装着した利用者を識別する必要がある.そのため, 行者の絶対方位と,ジャイロ・加速度センサの計測か 本 シ ス テ ム で は PDR か ら の 移 動 速 度 ベ ク ト ル を 基 に ら推定した重力の方向の加速度成分に特徴的なパター 推 定 し た 利 用 者 の 移 動 軌 跡( PDR 軌 跡 )と ,監 視 カ メ ンが現れるため,これを検知することで歩行動作を認 ラ映像から推定された移動軌跡(映像軌跡)とを照合 識する.また歩行動作時の重力方向の加速度成分の振 することで,映像中の利用者を識別する. 幅は,歩行速度と高い相関関係があることが過去の実 単一のカメラ映像からその映像に映る歩行者の移 験から分かっており,その関係を表すパラメータを歩 動軌跡を推定するには,撮影環境とカメラ間の幾何学 行 パ ラ メ ー タ と 呼 ぶ [1].そ し て ,こ の 歩 行 パ ラ メ ー タ 的関係を表すカメラ外部パラメータや,より精度の高 により,歩行動作時の加速度から歩行速度が推定可能 い計測には焦点距離等のカメラ内部パラメータも必要 となり,水平方向の移動速度ベクトルが得られる.な となる.本システムでは,そのようなカメラパラメー お ,移 動 速 度 ベ ク ト ル の 積 算 処 理 は 後 述 の セ ン サ /デ ー タを特殊な機器を使用することなく,3 次元環境モデ タフュージョンにおいて行われる. リ ン グ サ ー ビ ス で 用 い る モ デ ラ [3]を 利 用 す る こ と で , 鉛直方向の相対移動量は,気圧センサからの時系列 単一の写真から容易に推定することが可能である.こ 気圧変化量の検出や利用者の動作認識によって推定す れらのカメラパラメータにより,映像上で検出された ることができる.気圧センサからの時系列気圧変化量 歩行者の足元の座標を環境中の床面へと変換すること の検出による方法では,歩行者は屋内のフロア間に長 で歩行者の移動軌跡を推定する. 時間留まることはないという仮定の基で,長期気圧平 推 定 し た 映 像 軌 跡 と PDR 軌 跡 に つ い て ,両 軌 跡 中 の 均値と短期気圧平均値を計算し,その平均気圧値の差 各サンプリング時刻での移動速度ベクトルを計算また を高度変化量に変換することで相対移動量を推定する. は取得し,軌跡中の同時刻の移動速度ベクトルの差を ま た ,こ の 気 圧 変 化 量 に 対 す る 高 度 変 化 量 の 変 換 に は , 指 標 と し て 照 合 処 理 を 行 う .PDR 軌 跡 に は ,蓄 積 誤 差 文 献 [9]の 標 準 大 気 モ デ ル を 用 い る . が含まれるため位置を指標とした照合処理では誤対応 利用者の動作認識による方法では,屋内環境におい が生じ易い.しかし,移動速度ベクトルの差を照合の てフロア間の移動は主に階段・エレベータ・エスカレ 指標にすることで,位置に依存しない照合を行う.照 ータに限られることを利用して,これらの屋内設備を 合の結果,移動速度ベクトルの差が閾値以下であれば 利用する動作を認識することで高度変化を検出する. 検出された映像軌跡は自蔵センサモジュールを装着し これらの動作は,加速度・ジャイロセンサの計測デー た歩行者のものであると認識することができるため, タから,階段昇降動作では進行方向周りの角速度と加 映像中の利用者の識別が可能となる.識別に成功した 速度の鉛直成分,エレベータ・エスカレータの乗降で 場 合 ,映 像 軌 跡 か ら 推 定 し た 利 用 者 の 歩 行 速 度 と ,PDR は加速度の鉛直成分に現れる特徴的なパターンを検出 軌跡上での加速度から歩行パラメータを推定する.歩 することで認識できる.また,屋内環境中でこれらの 行 パ ラ メ ー タ の 推 定 方 法 の 詳 細 に つ い て は , 文 献 [1] 設備の位置が既知であれば,この動作認識により得ら を 参 照 さ れ た い .ま た ,映 像 軌 跡 は 後 述 の セ ン サ /デ ー れた認識結果から,対応する設備周辺に利用者が存在 タフュージョンにおいて測位誤差補正に利用される. する確率が高いという情報を利用することが可能とな さらに,識別結果はセキュリティサービスの強化に利 る. 用される. 3.3. 既 存 のセンサインフラを利 用 した 動 的 歩 行 パラメータ推 定 と測 位 誤 差 補 正 環境中に設置されているセンサインフラである監 RFID タ グ か ら の 信 号 に よ り ,タ グ の 位 置 と RSSI に 基づいて利用者の測位を行い,その測位結果を利用し て セ ン サ /デ ー タ フ ュ ー ジ ョ ン に よ る 測 位 誤 差 補 正 や 視 カ メ ラ や RFID タ グ を 利 用 し て , PDR に 用 い る 歩 行 基 準 位 置 の 初 期 化 を 行 う . 多 く の RFID タ グ に は , そ パラメータの動的な推定や,蓄積誤差の補正及び,基 の信号出力に指向性があるため,二つのタグをペアと 準位置の初期化を行う. して扱い,両タグの信号を受信できた場合のみ測位を トラッキングシステムにおいて,監視カメラは動的 行 う .こ れ に よ り ,RFID リ ー ダ に よ り セ ン シ ン グ す る な歩行パラメータの推定と測位誤差補正に利用される. 領域を特定することができ,測位結果の不確かさを減 少 さ せ る こ と が で き る .ま た ,PDR と の 併 用 に よ り 広 範囲に信号を出力する必要がないため,省電力でタグ 推奨撮影視点位置 を動作させることができる. 3.4. 3 次 元 環 境 モデルからの環 境 マップ生 成 本システムでは,ナビゲーション等の地図コンテン ツとして作成された 3 次元環境モデルをトラッキング 利用者の位置・方位 にも利用することでマップマッチングによる測位性能 の向上を行う.さらに,トラッキングとモデリングサ 図 4. ト ラ ッ キ ン グ に よ る テ ク ス チ ャ の 撮 影 支 援 . ービスの連携により,複数の写真からの 3 次元環境モ デル作成を効率化することが可能となる.トラッキン グに基づく屋内環境の 3 次元モデリングには,我々が 提 案 し て い る 3 次 元 モ デ ラ [3]を 用 い る .図 4 に ト ラ ッ キングとモデリングサービスの連携により,モデリン グにおけるテクスチャ欠損領域の撮影支援の例を示す. 作成された 3 次元環境モデルは複数の 3 次元ポリゴ ンで表現されたモデルであり,このモデルを 3 次元の ままマップマッチングに利用することは高い計算コス ト を 要 す る . そ こ で , 本 シ ス テ ム で は Woodman ら の シ ス テ ム [8]と 同 様 に ,各 フ ロ ア 内 で は 高 さ 情 報 を 持 た 図 5.マ ッ プ マ ッ チ ン グ の 例( 左 列 は 存 在 確 率 分 布 , ず , 各 フ ロ ア に 高 度 情 報 を 付 加 し た 2.5 次 元 の ポ リ ゴ 右 列 は 歩 行 者 の 様 子 , 下 段 は 上 段 か ら 約 1 秒 後 ). ンで環境マップを表現する.そして,モデル中の利用 者が歩行可能なポリゴンと,歩行可能かつ高度変化が に存在するサンプルも無効化する.このマップマッチ 発 生 す る ポ リ ゴ ン に そ れ ぞ れ 「 Floor 」, ングにより,移動速度ベクトルの不確かさによって存 「 Staircase/Elevator/Escalator」の 属 性 情 報 を 付 加 す る . 在確率分布の不確かさが増加することを防止し,より また,壁等の歩行の障害となるポリゴンと床面ポリゴ 正 確 な ト ラ ッ キ ン グ が 実 現 で き る( 図 5).ま た ,セ ン ン と の 交 線 に 「 Wall」 属 性 を 与 え る . 生 成 さ れ た 環 境 サインフラからの推定位置が得られた場合には,その マ ッ プ は 後 述 の セ ン サ /デ ー タ フ ュ ー ジ ョ ン に お い て 位置と推定の不確かさを基にサンプルを発生させるこ マップマッチングに利用される. とで,測位誤差補正と基準位置の初期化を行う.動作 3.5. センサ/データフュージョン 認識の結果により,階段等の設備周辺に利用者が存在 PDR や セ ン サ イ ン フ ラ か ら の 計 測 デ ー タ や 環 境 マ する確率が高いことが分かる場合にも同様に,その設 ップを確率的状態推定手法であるパーティクルフィル 備周辺にサンプルを発生させる,以上のような,確率 タによりフュージョンする,パーティクルフィルタ 的枠組みによるトラッキングを行うことで,頑健かつ [10]は , マ ル コ フ 過 程 と 確 率 分 布 の モ ン テ カ ル ロ 近 似 環境との整合性の高いトラッキングを実現する. により過去の計測データから効率よく現在の状態を推 4. 相 乗 的 サ ー ビ ス 定可能な手法である. 提案システムでは,パーティクルフィルタの状態ベ 本節では,歩行者トラッキングサービスと連携する クトルを,水平面上の 2 次元位置とその 2 次元位置に ことで品質や付加価値を向上することが可能なサービ 対 応 す る 環 境 マ ッ プ 中 の ポ リ ゴ ン ID,絶 対 方 位 の 4 次 スの例を紹介する. 元で表す.そして,各計測時刻における利用者の存在 4.1. 屋 内 歩 行 者 ナビゲーションサービス 確 率 分 布 を PDR か ら の 移 動 速 度 ベ ク ト ル と そ の 不 確 屋内歩行者ナビゲーションでは,サービス連携によ かさ及び,センサインフラからの推定位置とその不確 り高精度化された歩行者トラッキングと効率的に作成 か さ か ら 推 定 す る .PDR か ら の 移 動 速 度 ベ ク ト ル を 基 された写実的 3 次元環境モデルにより,直感的なナビ に各時刻の存在確率分布を予測する際,その確率分布 ゲーションを実現する.図 6 にナビゲーションサービ を 表 す サ ン プ ル 集 合 の う ち 環 境 マ ッ プ 中 の Wall 属 性 スの利用者(図 6 左)とシステムの画面例(図 6 右) の 直 線 と 交 差 す る サ ン プ ル も し く は Floor 属 性 の ポ リ を示す.トラッキングシステムからの位置・方位情報 ゴンでない位置に移動するサンプルは無効化する.ま に基づいて表示される写実的 3 次元環境モデルと注釈 た 情報により直感的にナビゲーション情報と現実環境を , 高 度 変 化 が 生 じ た 際 に , 「 Staircase/Elevator/Escalator 」 属 性 で な い ポ リ ゴ ン 上 対応付けることができる. 図 6. 屋 内 歩 行 者 ナ ビ ゲ ー シ ョ ン . 図 7. 直 感 的 可 視 化 に よ る 行 動 分 析 サ ー ビ ス . 4.2. 行 動 分 析 サービス サービス提供者・利用者の行動分析に,歩行者トラ ッキングからのトラッキングログと 3 次元環境モデル を利用することで,質の良いアンケートやインタビュ ー,情報可視化による直感的な行動分析を支援する. アンケートやインタビューでは,利用者がサービス利 用中に何を考えていたかを想起させることが重要とな る.そこで,トラッキングログと 3 次元環境モデルを 用いて,サービス提供者・利用者が見ていたと思われ る視界を擬似的に再現し,それを提示することで記憶 想 起 を 支 援 す る こ と が 可 能 と な る( 図 7 左 ).ま た ,行 動分析者は,サービス提供者・利用者の行動を没入型 ウォークスルーシミュレータによって追体験すること で,サービス提供者・利用者の行動の原因を調査する こ と が で き る( 図 7 右 列 ).こ の よ う な 行 動 分 析 サ ー ビ スにより,サービスの品質を向上させるための分析・ 検討を行う. 4.3. セキュリティサービス 監視カメラ映像中の人物を自動認識できれば監視 カメラを入退室管理に利用することや特定の人物の映 像のみを容易に検索することが可能になる.我々のト ラ ッ キ ン グ シ ス テ ム で は ,PDR 軌 跡 と 映 像 軌 跡 の 照 合 により利用者を識別することが可能なため,図 8 に示 すように監視ビデオ中の人物にタグ付けを自動で行う ことが可能になる. 5. ま と め 本論文では,サービスの連携によりトラッキング性 能のみならず,連携するサービスの品質や価値をも向 上させる屋内歩行者トラッキングシステムを提案した. 提案システムでは,多くの施設でセキュリティインフ ラ と し て 利 用 さ れ て い る 監 視 カ メ ラ や RFID タ グ を 利 用することで追加コストを抑えたまま,利用者に負荷 をかけることなくトラッキング性能の向上が可能とな る.さらにサービス連携により,サービスの価値を高 め総合的にサービスの低コスト化を実現する. 今後,提案した歩行者トラッキングシステムのトラ ッキング性能の定量的評価やサービス連携によって得 られる効果を評価する予定である. 図 8. 監 視 ビ デ オ へ の 自 動 ビ デ オ タ グ 付 け . 謝 辞 本研究の一部は,経済産業省の支援を受け行われた. 文 献 [1] M. 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