...

英語教育(長期研修員)

by user

on
Category: Documents
21

views

Report

Comments

Transcript

英語教育(長期研修員)
平成20年度
研 究 紀 要
(第811号)
G9-01
コミュニケーション能力の素地を養う
英語活動の研究
―高学年児童がコミュニケーションの楽しさを味わう
カリキュラムの作成と活用を通して―
本研究では,昨年度の研究をもとに高学年児童がコミュニケーションの
楽しさを味わうカリキュラムの作成と活用に取り組んだ。具体的には,ま
ず,コミュニケーション能力の素地を三つの観点から分析し,それに沿っ
た評価規準を策定した。次に,単元を開発し,他教科や学校行事との関連
を図り,カリキュラムを作成し活用した。その結果,小学校段階で育成す
べきコミュニケーション能力の素地を養う英語活動の在り方が明らかにな
った。
福岡市教育センター
英語教育
長期研修員
田中
恵子
目
第Ⅰ章
1
次
研究の基本的な考え方
主題設定の理由
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 英・長研
1
(1) 教育の動向から
(2) 福岡市の現状と課題から
(3) 昨年度の研究から
2
主題・副主題の意味
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 英・長研
4
(1) 「コミュニケーション能力の素地」とは
(2) 「コミュニケーションの楽しさを味わうカリキュラム」とは
3
研究の目標
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 英・長研
5
4
研究の仮説
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 英・長研
5
5
研究の内容
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 英・長研
5
(1) カリキュラムの作成について
(2) カリキュラムの活用について
(3) コミュニケーション能力の素地として養いたいこと
第Ⅱ章
研究の実際とその考察
1
カリキュラムの考え方
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 英・長研
2
児童の実態
3
実践1(第5学年「コミュニケーションマスターへの道」)
8
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 英・長研11
‥‥‥ 英・長研12
(1) 単元の考え方
(2) 授業の実際と考察
4
実践2(第5学年「アルファベットで遊ぼう」)
‥‥‥‥‥‥‥‥ 英・長研14
(1) 単元の考え方
(2) 授業の実際と考察
5
実践3(第5学年「数や形で遊ぼう」)
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 英・長研16
(1) 単元の考え方
(2) 授業の実際と考察
6
全体考察
第Ⅲ章
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 英・長研19
研究のまとめ
1
研究のまとめ
2
今後の課題
引用・参考文献
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 英・長研23
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 英・長研23
いる(資料-1)。
第Ⅰ章
研究の基本的な考え方
素地とは,基礎・基本の下でそれを支える
土台だととらえることができる。土台は,強
1
主題設定の理由
固なだけではなく,上が揺らいだ時には倒れ
(1) 教育の動向から
たり折れたりしないようにするために,柔軟
平成20年3月28日,小学校学習指導要領告
な部分も必要となってくる。英語活動で言え
示により,小学校第5学年及び第6学年にお
いて外国語活動が位置付けられた。
コミュニケーション
能力の素地
その教育課程上の位置付けは,これまで総
合的な学習の時間の中で行われてきたものと
は違い,第5,6学年において年間35単位時
外国語を通じて,
積極的にコミュニケーションを
図ろうとする態度の育成を図る
外国語を通じて,
言語や文化について
体験的に理解を深める
外国語を通じて,
外国語の音声や基本的な
表現に慣れ親しませる
間の授業時間数を確保するものである。また,
その取り扱う言語は,英語を原則とするもの
としている。
図-1
新学習指導要領で示されている外国語活動
の目標は以下の通りである。
資料-1
外国語を通じて,言語や文化について
体験的に理解を深め,積極的にコミュニ
菅正隆氏による外国語活動の目標の
三つの柱の関係図
小学校外国語活動と中学校外国語の
目標比較
波線部分の上段が小学校,下段が中学校,他は共通
ケーションを図ろうとする態度の育成を
図り,外国語の音声や基本的な表現に慣
れ親しませながら,コミュニケーション
【目標】
外国語を通じて,
能力の素地を養う。
①
この目標は,①言語や文化について体験的
言語や文化
について体験的に
理解を深め,
中
○(に対する)
に理解を深めること,②積極的にコミュニケ
②
ーションを図ろうとする態度の育成を図るこ
積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の
育成を図り,
と,③外国語の音声や基本的な表現に慣れ親
③
しませること,の三つの柱からなる。
小学校外国語(英語)活動のねらいは,こ
の三つの柱を,いずれも「外国語を通じて」
体験的に行うことで,「コミュニケーション
外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませながら,
中
○(聞くこと,話すこと,読むこと,書くことなどの)
コミュニケーション能力の 素地 を養う。
中
○(基礎)
能力の『素地』を養う」ことである。
菅正隆氏は,この「素地」は,三つの柱が
絡み合い補完する形でつくられるものである
高等学校英語
ことを図-1のように示している。したがっ
て,どれか一つに偏ったりしては,素地をつ
くることにはならないということが言える。
中学校英語
また,中学校英語のねらいが,「コミュニ
ケーション能力の『基礎』を養う」ことであ
小学校英語活動
るから,これは,小学校英語活動が中学校英
菅正隆氏(2008)の図を研修員が一部加工
語教育へとつながるものであることを示して
図-2
英・長研-1
小学校英語活動と英語教育の接続イメージ
ば,中学校以降の英語教育を,その下でしっ
かりと支えるものだととらえることができる
(P1
図-2)。
資料-2
教師の意識・実態調査より
【対象者】
市内小学校5・6年生担任
つまり,これからの小学校英語活動では,
英語でのコミュニケーションを体験させなが
91人(12校抽出)
【実施時期】
7月上旬
ら,中学校英語へスムーズに接続するための,
【アンケート内容】
「コミュニケーション能力の基礎を養う」土
① 年間計画の有無,時数とその作成者
台をつくることが求められていると言える。
② 主となる英語活動の指導者と授業形態
(2) 福岡市の現状と課題から
③ 評価への取組状況
本市においては,福岡市教育改革プログラ
④ 必修化への不安や悩み
ムの中で「21世紀の福岡らしい教育」として
【結果】
国際理解教育の充実を図ることが述べられ,
①「年間計画の有無,時数とその作成者」について
「子どもの教育に係る現状と背景」には,他
平均指導時間
25.6時間
者とのコミュニケーション能力の不足が挙げ
平均ALT招聘時間
7.6時間
られている。
年間計画
また,平成15年度からの本市英会話活動G
9/12校
(作成者-学校7,学年2)
T支援事業による小学校英語活動への支援も
後押しとなり,福岡市全小学校(146校)が英
有
無
3/12校
②「主となる英語活動の指導者と授業形態」について
語活動に取り組んでいる。福岡市としての指
担任自身
58%
導方針,構想(年間指導計画例)を示すもの
担任以外の教師
27%
としては,本市教育委員会作成による「英会
ALT
14%
話活動の手引き(平成18年度)」「福岡市小
その他(地域ボランティア等)
1%
学校英語活動指導事例集(平成20年度)」が
TTの時,T1をするのは?
13%
配布されている。
その他
実施状況調査(平成19年3月)によると,
福岡市内の全小学校が英語活動を実施してお
担任
ALT
54%
り,高学年においては100%,平均21.9時間
(全国平均14.8時間)と,全国を上回る結果
33%
が明らかになった(表-1)。このことは,
各学校において,必修化に向けて研修や準備
③「評価への取組状況」について
を行い,積極的に取り組んでいる成果だと言
評価している
31%
える。
評価していない
69%
④「必修化への不安や悩み」について(多い順に記述)
表-1 福岡市小学校英語活動
実施状況調査結果(平成19年度)
・ 自分の英語力に自信がないため,指導にとまどいを
実施校
(校)
年間指導時間数
(平均時間)
全国平均時間数
(平均時間)
差
第1学年
126
12.2
8.5
第2学年
126
12.7
第3学年
143
19.6
第4学年
145
19.7
11.5
+8.2
第5学年
146
21.9
14.5
+7.2
第6学年
146
21.9
14.8
+7.1
感じる。(37人)
+3.7
・ ALTの派遣を増やして欲しい。(14人)
8.7
+4.0
・ どのようなねらいや内容で,活動を仕組めばいいか
11.4
+8.2
分からない。(12人)
・ 評価は必要なのか,どのような方法でするのか知り
英・長研-2
たい。(9人)
など
しかし課題として,活動内容や指導方法,
もある。しかし,それは,歌やゲーム自体の
人材活用等に学校間のばらつきがあることや,
楽しさであって,コミュニケーションをする
活動の成果を判断する基準が明確になってい
ことで得られる楽しさとは違う。
ないことなどが挙げられている。
また,与えられた英語表現を練習し,それ
このことは,本研究にて行った教師へのア
に当てはめた「会話ごっこ」をすることで,
ンケート調査においても,不安や悩みとして
コミュニケーションを楽しんでいるととらえ
表れている(P2
資料-2)。年間計画を
る考えもある。しかし,それは,児童の本当
立て,学校や学年で共通理解のもとに指導が
に「聞きたい・伝えたい」こととは異なる場
なされているのだが,評価するかどうかにつ
合があり,言えた喜びはあったとしても,コ
いては個々の教師の判断によって違いがある。
ミュニケーションを楽しんだとは言えない。
今回の調査対象においては,「③評価への
その上,その表現を覚えて発話できなければ
取組状況」について「評価している」と回答
ならないという思いを児童にもたせ,結果と
したのは3割であった。その評価の方法は,
して英語嫌いをつくってしまうことも考えら
コミュニケーションへの関心・意欲を中心に
れる。
様相観察や振り返りカードの記述分析である。
そこで,より自然に近いコミュニケーショ
また,「評価していない」と回答している中
ンの場面を設定することで,英語活動の「楽
には,「『関心・意欲』を大切にしているか
しさ」の質を変えたいと思い,研究を行った。
ら評価は必要ない」という場合も多く含んで
成果として,児童がコミュニケーションの
いる。これは「数値による評価をしなくては
楽しさを味わうには,児童の興味・関心に沿
ならない」とのとらえ方が強いからだと推測
った教材とその出会わせ方の重要性が明らか
できる。
になった。
つまり,関心・意欲を大切にした英語活動
言語材料を先に練習し,それを使って活動
を進めたいと考えてはいるが,それを達成す
するのではなく,まず,児童の「聞きたい・
ることができたかどうを教師が判断しないま
伝えたい」という気持ちを引き出す活動を仕
まで終わっている場合が多いということが言
組むことが大切であることが分かった。それ
える。その結果,目標と活動にずれが生じ,
により,言語・非言語の必要感や有用感も高
「覚えたか,言えるようになったか」などに
まった。その後,言語や非言語を駆使してコ
意識が向いてしまうこともあるものととらえ
ミュニケーションする活動を仕組むことで,
ることができる。
達成感や満足感を得ることができ,コミュニ
また,多くの教師が抱えている「英語力不
足」「活動の仕組み方が分からない」という
不安や悩みも,英語活動のねらいが「英語を
教えることではない」ことを共通理解してい
くことで軽減できると考える。
ケーションの楽しさを味わう英語活動ができ
ることが明らかになった。
今年度の研究につながる課題として,以下
のような課題が残されている。
○
(3) 昨年度の研究から
児童の興味・関心に合った教材のさら
なる開発の必要性
昨年度は,「コミュニケーションの楽しさ
を味わう」ための単元開発と指導法の研究を
行った。
○
成果を見取る評価の在り方の検討
高学年の知的好奇心を刺激しながら,コミ
ュニケーションの楽しさを味わうには,どの
英語活動は,歌やゲームを中心とした活動
ような活動が可能なのかを,さらに探る必要
にさえすれば,楽しいものになるという考え
がある。その際,他教科等で得た知識や体験
英・長研-3
などを生かして英語活動を展開することも,
蓄えていくことと,興味・関心を高めること
児童の知的好奇心を刺激することにつながる
が大切だと考える。
と考える。そのためには,他教科との相互の
関連について検討し,指導計画の中に適切に
位置付けた取組が必要となってくる。
(2) 「コミュニケーションの楽しさを味わう
カリキュラム」とは
さらに,学校教育として英語活動を行うか
この研究でいう「コミュニケーションの楽
らには,目標に沿った活動がなされているか
しさ」とは,相手と直接かかわる体験の中で,
を判断するための評価についても考えていか
言語・非言語を使い,自分や相手が伝えよう
なければならない。英語活動では,数値によ
とする内容や感情を「何となく分かった・分
る評価は望ましくないとされている。今後,
かってもらえた」という経験を味わっていく
どのような観点や方法で,目標を達成したか
ことである。
どうかを見取っていけばよいのかを探ってい
く必要がある。
それにより,その人やその人のもつ文化に
興味・関心が高まり,「もっと知りたい・か
以上,(1)~(3)の三つの視点から,新学習
指導要領で示されている英語活動の目標を具
現化し,求められている英語活動の在り方を
明らかにする必要があると考え,本主題を設
定した。
かわりをもちたい」という意欲を育てること
ができると考える。
具体的には,楽しさとは,次のようなとき
に味わうものである。
○
相手の伝えようとしていることが,知
っている英語やジェスチャーなどから推
2
主題・副主題の意味
測して分かったとき
(1) 「コミュニケーション能力の素地」とは
○
児童が使える英語や身振り手振りを駆使し
語やジェスチャーなどを駆使しながら伝
ながら,実際にコミュニケーションを図る体
験を通して,「コミュニケーション能力の素
わったとき
○
地」は養われる。中学校以降の英語教育では,
コミュニケーションをするための技能習得を
コミュニケーションをするには,そのため
の技能習得の前に,まずは,「コミュニケー
人やものと粘り強くかかわったことで
達成感を得たとき
○
主な目的としているが,それを支えるための
ものが「素地」である。
自分の伝えたいことが,知っている英
友達や自分のよさを再認識・再発見し
たとき
○
自分の存在を他者に認められたとき
○
いろいろなことに興味をもつことで視
野が広がった(発見,納得)とき
ションをしたい」という意欲がなければなら
コミュニケーションをするときには,「相
ない。さらにコミュニケーションを続けるた
手」が存在する。ゆえに,ここでいう「楽し
めには,困難なことに出会っても,あきらめ
さ」とは,自己満足のものではなく,相手と
ずにコミュニケーションをしようとする態度
共に味わうものである。
が必要となる。それには,「相手の言ってい
このような「楽しさを味わう」ためには,
ることを分かりたい」「自分の思いを伝えた
高学年児童の知的好奇心を刺激することがで
い」という必要感をもった場で,実際に英語
きる内容や,相手(人や文化)や自分への新
でのコミュニケーションを体験する必要があ
たな気付きが生まれるような内容を含んだ活
る。英語を聞き慣れたり,言い慣れたりしな
動を仕組んでいく必要がある。具体的には次
がら「分かった」「伝わった」という自信を
のような活動が考えられる。
英・長研-4
○
○
他教科や行事との関連を図り,児童の
評価の観点を,次に挙げる三つとした。
知っている知識や情報を使うことができ
【評価の観点】
る活動
○
コミュニケーションへの積極性
活動の中に目標(タスク)を設定し,
○
言語や文化への体験的な理解
それを達成することで自信や満足感が得
○
外国語の音声や基本的な表現への慣れ
られるような活動
○
○
親しみ
友達と協力し活動することを通して,
この三つの観点より,小学校英語活動で
人とかかわる楽しさや大切さに気付くこ
養うことができる「コミュニケーション能
とができる活動
力の素地」を分析し,それに沿った評価規
ALTなどを通して,外国の言語や文
化に直接触れる体験の場があり,「もっ
準を策定することとする。
イ
児童の意識・実態調査と分析
と知りたい」と思うことができる活動
児童の興味・関心やニーズを把握し,単
「コミュニケーションの楽しさを味わうカ
元開発やカリキュラムの構成要素に生かす。
リキュラム」とは,上記に述べた活動を,児
(ア) 調査内容
童の実態や他の教育活動との関連,実施時期
○
を考えながら適切に教材(題材)を配列した
い」と感じた経験とその理由の分析
ものである(P9,10)。その際,目標の設
○
定に加え,指導内容と方法,評価も含んだも
ので,単元計画のようにより具体性をもたせ
これからの英語活動で,児童が「やっ
てみたい」と思っている活動内容
(イ) 調査対象
調査協力校
たものとする。
ウ
3
これまでの英語活動で,児童が「楽し
第5・6学年児童(281人)
単元開発と配列
ア,イを加味しながら,体験的な活動を
研究の目標
高学年児童がコミュニケーションの楽しさを
重視した単元を開発し,他の教育活動との
味わうカリキュラムを作成し,その内容と配列
関連や実施時期を考え,配列を工夫する。
の妥当性について検証することを通して,小学
校段階で育成すべきコミュニケーション能力の
(2) カリキュラムの活用について
カリキュラムの中から選出した単元の具体
素地を養う英語活動の在り方を明らかにする。
的な英語活動指導案を作成し,研修員自身に
4
よる検証授業,研究協力者による検証授業を
研究の仮説
コミュニケーション能力の素地を「コミュニ
行う。また,その中で,授業観察による意見
ケーションへの積極性」「言語や文化への体験
を集約し,カリキュラムの修正を加えていく。
的な理解」「外国語の音声や基本的な表現への
ア
評価規準に沿った活動か
慣れ親しみ」の三つとし,それらを系統的に配
イ
カリキュラムが有効か
列したカリキュラムを作成し活用すれば,コミ
ュニケーション能力の素地を養う英語活動の在
り方を明らかにすることができるであろう。
(3) コミュニケーション能力の素地として養
いたいこと
P1で述べたように,小学校英語活動では,
5
中学校以降の英語教育をその下でしっかりと
研究の内容
(1) カリキュラムの作成について
支えるための「素地」を養うことが求められ
ア
ている。言い換えれば,英語を耳にしたとき
評価規準の検討・策定
英・長研-5
に分からないから聞かないのではなく,「分
葉」を蓄え,異文化への興味を膨らませてか
かろうとして聞く態度」と,知らないことに
ら中学校での英語教育に出会う。そのことに
出会う喜びを感じながら「前向きにとらえて
より「英語は思っていたほど難しいものでは
いく心」をつくることではないかと考える。
ない」という安心感と「知らないことを知る
また,小学校英語活動では,身近な場面や
ことは自分の世界が広がり楽しい」という期
人とのかかわりを通して,体験的に英語や自
待感をもって学習を進めていけると考える。
分とは異なる文化と出会う。そのことにより,
このような「素地」を次の三つとし,図に
これまで「知らなかった言葉」が「聞いたこ
表すと下の図のようになる(図-3)。
とのある言葉」や「使ったことのある言葉」
○
コミュニケーションへの積極性
に変わっていったり,自文化・異文化への新
○
言語や文化への体験的な理解
しい発見などを経験する。
○
外国語の音声や基本的な表現への慣れ
さらに,小学校2年間でたくさんの「聞い
親しみ
たことのある言葉」や「使ったことのある言
コミ ュニケ ー シ ョンへ 言 語 や 文 化 への
の積 極 性
体験的な理解
第5学年
第6学年
友達やALTと積極的にかかわり,協力しながら一緒に活動しようとする
自分とは異なる価値観を否定することなく,相手の考えや文化を知ろうとする
相手の言っていることに興味をもち,何を伝えたいのか推測しながら聞こうとする
相手の質問や発話に対し,ジェスチャーや聞き慣れた表現を使って応答しようとする
日本語と
の違い
言葉の面白さ
豊かさ
多様な文化
の存在
日本語と
の違い
多様なものの
見方・考え方
言葉の面白さ
豊かさ
多様な文化
の存在
多様なものの
見方・考え方
(P7 資 料 ‐3参 照 )
外 国 語 の音 声 や 基 本 的 な
表 現 への 慣 れ 親 し み
聞き慣れる
相手との関係を
円滑にする
気持ちを
伝える
事実を伝える
考えや意図
を伝える
言い慣れる
図-3
養われる「コミュニケーション能力の素地」のイメージ
英・長研-6
相手の行動
を促す
○「コミュニケーションへの積極性」につい
2語で話すことというようにゆっくりと習得
て
していく実態が見られる。生活の中で親の話
知っている友達や気の合う友達とだけ,仲
す言葉をたっぷり聞いて,場の状況とその言
良く活動できるのは,積極的にコミュニケー
葉の意味をつないでいく作業を頭の中で行っ
ションができているとはいえない。同じグル
ているのである。それから,自分からその言
ープの友達,同じクラスの友達やALTと少
葉を使ってみようとするのである。
しずつ視野を広げ,自分とは異なる価値観を
小学校英語活動が5,6年生の2年間であ
否定することなくかかわれるようになってい
ること,それも週一回,計70時間という少な
くことが大切である。
い時間であること,日常生活では,なかなか
そのためには,相手の話を「分かろう」と
英語を使う機会がないことなどを合わせて考
して耳を傾けることと,それに「どうにか応
えると,聞き慣れることを中心にし,少しず
答しよう」「自分の思っていることを伝えよ
つ使ってみるという過程を踏むことが大切だ
う」とする姿を育てていく必要がある。
と考える。もしも,教師が,覚えて言えるよ
うになることを急いてしまうと,「できない
○「言語や文化への体験的な理解」について
・難しい・分からない」などという英語への
ここでいう理解とは,単に英語や外国の文
苦手意識をもったまま中学校へ進むことにな
化を知ることだけではない。知識として記憶
る。
していくことではなく,それに触れることに
その場面に応じた英語表現を,意味を推測
より,自分と比べたり,生活経験とつなげた
できるように絵や動作を加えながら,繰り返
りして,違いや共通点を感じ取っていくこと
し聞かせ,「自分にも分かる」「使ってみた
が大切である。
い」という気持ちをもてるようにしていける
英語という外国語に触れることで,日本語
との違いだけでなく,普段何気なく使ってい
る日本語にも,新たな発見が生まれ,言葉の
もつ面白さや豊かさに気付いていく。さらに
ようにする。
資料-3 慣れ親しませたい基本的な表現とその例
(新学習指導要領解説外国語活動編参照)
〔相手との関係を円滑にする〕
は,自分たちとは異なる価値観をもった人々
Hello. / Excuse me. / That's right. /
がたくさんいるということや,言語や文化が
Sorry? / ~please. / How about you? /
違っても,共通点があることなどにも気付い
See you.
ていく。この体験が,また新たな場面で積極
など
〔気持ちを伝える〕
的にコミュニケーションをしようとする原動
Thank you. /I'm happy. / Good job.
力につながると考える。
I'm sorry.
○「外国語の音声や基本的な表現への慣れ親
など
〔事実を伝える〕
It's~. / This is~. /
しみ」について
慣れ親しむとは,抵抗感をもつことなく聞
〔考えや意図を伝える〕
いたり,口に出したりできることである。そ
のためには,まずは,聞き慣れることが大事
である。母語の習得過程を考えてみても,聞
など
Yes(No). /I like ~. / I want ~.
など
〔相手の行動を促す〕
くことから始まり,それに表情や動作で反応
すること,まねて口に出してみること,1~
英・長研-7
What's this?/ Who is this?/
Can you ~?/ ~please.
How many~?
など
○
第Ⅱ章
研究の実際とその考察
友達と協力し活動することを通して,人
とかかわる楽しさや大切さに気付くことが
できる活動
1
カリキュラムの考え方
○
カリキュラム作成にあたって,「コミュニケ
に直接触れる体験の場があり,「もっと知
ーション能力の素地」として考えられる三つの
りたい」と思うことができる活動
観点に沿って,評価規準を策定した(表-2)。
活動として扱う内容は,次のことを考慮し決
定した(P4参照)。
ALTなどを通して,外国の言語や文化
また,児童のこれまでの英語活動の経験や他
教科の学習内容,学校行事などを考慮し,単元
を配列して各学年のカリキュラムを作成した
(P9,10
○
○
他教科や行事との関連を図り,児童の知
これは,児童の実態や他教科,学校行事など
っている知識や情報を使うことができる活
により,単元を入れ替えて利用できるようにし
動
ている。
活動の中に目標(タスク)を設定し,そ
このカリキュラムの中から,いくつかの単元
れを達成することで自信や満足感が得られ
を選び,研究協力校の児童の実態に合わせ検証
るような活動
を行った。
表-2
考えられる評価規準
評価の観点
A
資料-4,5)。
コミュニケーションへ
の積極性
言語や文化への体験的
B
な理解
外国語の音声や基本的
C
な表現への慣れ親しみ
評価規準
①
友達と進んでかかわろうとしている
②
友達と協力して活動を進めている
③
外国の人に話しかけられても,臆せずに対応している
④
外国の人に自分から進んでかかわろうとしている
⑤
自分とは異なる考えや習慣に対して,柔軟に対応しようとしている
⑥
相手の目を見て,聞いたり話したりしようとしている
⑦
知っている英語や動作などを手がかりに,話の内容を推測しながら聞こう
としている
⑧
相手の気持ちを考えながら聞こうとしている
⑨
英語での質問や発話に対し,日本語や動作などで応答しようとしている
⑩
英語での質問や発話に対し,簡単な英語表現や動作などで応答しようとし
ている
①
世界には様々な言語や文化をもっている人がいることに気付く
②
日本と外国の言語や文化の違いに興味をもつ
③
言語や文化が違っても,共通するところもあることに気付く
④
普段何気なく使っている日本語や文化を振り返ったり,新たな発見をした
りする
⑤
日本語や文化を大切にしようとする気持ちをもつ
⑥
外国の言語や文化について興味をもったことを,自分でも調べようとする
①
英語表現を楽しみながら聞いている
②
簡単な英語表現を聞こえたとおりに言ってみようとしている
③
知っている英語表現を使ってみようとしている
英・長研-8
資料-4
月
コミュニケーションマス
ターへの道 【実践1】
世界の言葉でこんにちは いろいろな言語
あいさつ・名前の言い方
名札をつくろう【実践2】
ALTの先生と仲良くなろう ALTの紹介(イマジネーションビンゴ)
数
で
3遊
ぼ
う
いくつかな?【実践3】
数(1~100)いろいろな国の数え方
(How many BINGO)
測ってみよう(インチ)
インチ
身体の部位をもとにした単位
いろいろな数(ローマ数
字)【実践3】
ローマ数字
足し算 引き算
いろいろなジャンケン
いろいろな国のジャンケン
オニの決め方
(
)
世
界
3の
遊
び
(
)
いろいろな国の遊び
に興味をもち,友達
と仲良く遊ぶ
(A-②,B-①)
ヘボン式ローマ字
友達のことを良く知ろう② 好きなこと(動物 食べ物 スポーツなど)
好きなこと・誕生日など 誕生日 月の言い方
仲
良
く
3
な
ろ
う
一緒に歌おう
歌「If you're happy and know it」
感情・動作
絵本をつくろう②
絵本「Brown Bear Brown Bear What
do you see?」 色 動物 果物
何色になるのかな?②
文化によって違う色で表現するもの
(ポスト・虹など) 肌の色
(
10
形
で
4遊
ぼ
う
タングラムに挑戦②【実践 形(三角形・四角形・円など)
3】
線を引く,切る,などの指示
)
世界でひとつだけの絵を 形を使った共同絵画
描こう②
貼るなどの指示
こ
れ
11
外来語を調べること
を通じて,言葉に興
味をもつ
(A-②,B-④)
季節を表す英語表現
に親しみながら,作
業をし,季節へのイ
メージを広げる
(A-⑨,B-②)
カ
く
レ
ろ
ン
う
ダ
友達とクイズをしな
がら,日本の地形や
特産物などについて
興味をもつ
(A-②,B-⑤)
クイズやゲームをし
ながら,友達との英
語でのやり取りを楽
しむ
(A-⑩)
外国の学校の様子に
ついて知り,日本と
の違いや共通点に気
付く
(A-⑤ B-③)
第5学年Lesson1
第6学年巻末資料
4年国語
「ローマ字」
第5学年Lesson4
第5学年Lesson3
第5学年Lesson2
カタカナ語を集めよう
外来語を探す
第5学年Lesson3
5年道徳ぬくもり
「People Colors」
5年算数
「タングラム」
5年国語「漢語・
和語・外来語」
英語かどうか聞いてみよ 外来語,和製英語
う
英語との音の違い
5年国語「漢語・
和語・外来語」
どこの国の言葉かな?② 調べ学習 クイズ
海外で通用する日本語
5年国語「漢語・
和語・外来語」
第5学年Lesson6
日本の行事
月・曜日
行事や祝日の言い方
第6学年Lesson3
季節のイメージ
季節・行事
外国との違い
第6学年Lesson3
カレンダーづくり②
月・曜日・行事・祝日
第6学年Lesson3
有
名
な
3 も
の
は
?
日本のこと知ってる?
都道府県の名前・位置・ 地形など
日本クイズをしよう
都道府県クイズ
誰
の
2 こ
と
?
家族紹介
家族の言い方 好きなもの
△△を探せ!
服装 動作
学
校
2の
こ
と
好きな教科
教科 好きな教科ベスト10
外国の学校
外国の学校の様子(給食・遊びなど)
ー
(
4
)
を
つ
(
)
(
)
(
)
3
)
2
っ
(
1
)
12
(
何
色
4か
な
?
4て
英
語
?
第5学年Lesson1
第5学年巻末資料
ALTの国の遊びを教えて 外国の遊び
もらおう
色の英語表現に親し
みながら作業をし,
色に対する感覚を磨
く
(A-⑨,B-②
簡単な英語での指示
を聞いて活動する
(A-⑦)
9
他教科等との 英語ノート〔試
関連
作版〕との関連
絵本「世界がもし100人の村だったら」
何のために英語活動をするのか
)
7
英
ま
語
る
活
よ
動
が
3
は
じ
扱う内容や教材例
(
6
いろいろな数の表し
方に興味をもつ
(A-⑦)
単元名(時間)
)
5
友達やALTに興味
をもち,相手のこと
を知ろうとする
(A-①③)
研修員作成によるカリキュラム(全35時間)
(
4
ねらい
(評価規準)
これからの英語活動
について見通しをも
つ
(A-⑥,B-①)
第5学年
5年社会「国土の
環境を守る」
調べてみよう(自然・特産 調べ学習(有名な建物や食べ物など) 5年社会「国土の
物など)
環境を守る」
英・長研-9
5年社会「国土の
環境を守る」
第5学年Lesson8
資料-5
月
大
き
3
な
数
っ
く ど
?
ち
3に
行
)
平
を和
こへ
3
めの
て祈
り
(
)
私
は
の
?
イ
メ
4
(
ー
)
大きさ・長さ比べ (反対語)
ロボットを操縦しよう
方向の言い方
冒険地図をつくって遊ぼ
う②
方向を選ばせながら進む地図をつ
くって遊ぶ
平和への願い
VTR「つるにのって」英語版
メッセージを入れて鶴を
折ろう
鶴の折り方
平和・愛・戦争・兵器などの言葉
動物にとっても平和な世
界
絵本「Panda Bear Panda Bear What
do you see」 絶滅危惧種の動物
色のもつイメージ
色 イメージを表す言葉
第6学年Lesson5
修学旅行
平和学習
オリジナルフラッグをつく 色 形
ろう②
オリジナルフラッグを発表 旗に込めた思いを伝える
しよう
6年家庭科「まかせ
てね今日のごはん」
献立を考えよう
食品・料理の名前
6年家庭科「まかせ 第5学年Lesson9
てね今日のごはん」
買い物をしよう②
買い物で使う表現
第5学年Lesson9
いろいろな記号
道路標識などのマーク
色のもつ意味
オリジナルをつくろう②
場所や行動
ピ
ク
ト
4
グ
ラ
ム
6年国語「みんな 第6学年巻末資料
で生きる町」
何のマークか当ててみよ つくったマークでクイズ
う
ALTの国のクリスマス②
ク
リ
ド
ス
4 を
マ クリスマスカードづくり②
贈
ス
ろ
世 世界の国旗
界
を
3 広 ワールドトリビア
げ
よ 世界旅行に行こう
う (時差・気候・名所など)
大文字と小文字【実践2】
ぼベ
ア
う
ル
ト
フ 身近にあるアルファベット
2で
探し【実践2】
遊
カ
クリスマスの過ごし方の違い
う
(
)
4年図工「ハッ
ピーカード」
メッセージの書き方
カードづくり
国名 色 形 模様 位置
(
)
ッ
世界の食べ物 お金 オリンピックなど
世界遺産 有名なもの
アルファベットの形遊び 線つなぎ
6年社会「世界の 第6学年Lesson6
中の日本とわた
したち」
6年社会「世界の
中の日本とわた
6年社会「世界の
中の日本とわた
第6学年Lesson1
(
ァ
)
3
中学校への期待を膨
らませる
(A-⑥⑩)
比べてみよう
栄養素(赤・黄・緑) 食品
ー
2
アルファベットに興
味をもつ
(B-②,C-②)
大きな数で表せるもののクイズ
)
1
いろいろな国・文化
があることに興味を
もち,自分で調べよ
うとする
(B-①⑥)
何の数?
栄養バランス
喜
かん
なで
も
4 ら
え
る
(
12
ALTの国のクリス
マスの過ごし方に興
味をもち,心をこめ
てカードをつくる
(A-⑦,B-③)
100以上の数の表し方
)
11
文字がなくても伝わ
るピクトグラムにつ
いて知り,クイズを
出し合ことを楽しむ
(A-⑩,B-③)
どうやって読むの?
(
10
Who am I? クイズ
ALTの先生と仲良くなろう ALTの紹介 (イマジネーションビン
ゴ)
ジ
食べ物などの英語表
現に親しみながら,
相手を思いやったも
てなし方について考
える
(A-⑤,B-⑤)
友達クイズをしよう
(
9
名前 好きなもの 得意なこと
)
7
自己紹介をしよう
他教科等との 英語ノート〔試
関連
作版〕との関連
(
6
方向を表す英語表現
に親しみながら,友
達と協力して活動す
る
(A-②⑨)
ビデオを見たり,折
り鶴にメッセージを
入れて折ったりしな
がら,平和について
考える
(A-⑧,B-⑤)
色の表現に親しみな
がら,作業をし,色
に対する感覚を磨く
(A-⑤⑧)
仲
良
く
3
な
ろ
う
扱う内容や教材例
)
5
数や大きさを表す英
語表現に親しみなが
ら,友達と協力して
活動する
(A-②,B-④)
研修員作成によるカリキュラム(全35時間)
単元名(時間)
(
4
ねらい
(評価規準)
友達やALTに興味
をもち,相手のこと
を知ろうとする
(A-①④)
第6学年
1~3文字のアルファベットで表わし
てあるもの
(
どんなことをするのかな 中学校についての話を聞く
も
中学校の先生の話を聞こう
中
う
2学
す 部活動人気ランキング
入りたい部活動インタビュー
生
ぐ
)
英・長研-10
第6学年Lesson1
2
児童の実態
資料-6
検証授業を行うにあたって,児童の実態を把
(調査対象
事前アンケート結果
研究協力校
第5学年
141人)
握するため,下のような事前アンケートを行っ
よくあてはまる
た。
0%
1,次の質問で自分にあてはまる番号を○でか
こんでください。(4択)
1
よくあてはまる
2
だいたいあてはまる
3
あまりあてはまらない
4
あてはまらない
だいたいあてはまる
20%
40%
あまりあてはまらない
60%
あてはまらない
80%
100%
ア
イ
ウ
エ
ア
友達に自分からよく話しかける
イ
あまり親しくない友達とも話したり,作業
オ
をしたりできる
ウ
カ
あいさつやお礼は,いつもきちんと言うよ
キ
うにしている
エ
話をするとき,相手の目を見て話をするよ
ク
うにしている
オ
ケ
むずかしいことにも,あきらめないでチャ
レンジする
カ
コ
相手の気持ちを考えて,行動することがで
サ
きる
キ
ALTが来ていたら,自分から話しかけよ
シ
うとする
ク
ス
ALTや先生が話している英語をよく聞い
て分かろうとしている
ケ
セ
自分の思っていることが伝わっていないと
ソ
思ったら,もう一度言ったり,違う言い方を
したりして分かってもらおうとする
タ
コ
英語を話すのははずかしい
サ
英語を話すのは難しい
シ
習った英語や知っている英語は使ってみよ
できた(資料-6)。
うとする
ス
その結果,次のような実態を把握することが
外国の暮らしや様子などの話を聞くのは楽
しい
・「イ
あまり親しくない友達とも話したり,
作業をしたりできる」の項目では「あてはまる,
セ
外国と日本とを比べてみることがある
ソ
英語で言ってみたいことがある
だいたいあてはまる」を合わせても70%を下回
タ
これから(中学校も)の英語活動でどんな
っており,新しい人間関係を築くことを苦手と
ことを習うのか楽しみにしている
している。
2,あなたは英語活動の時間が好きですか。
とても好き
2
好き
3
あまり好きでない
4
好きではない
友達に自分からよく話しかける」「ス
外国の暮らしや様子などの話を聞くことは楽
一つを○でかこんでください。
1
・「ア
しい」の項目は高いが,「キ
たら自分から話しかける」の項目が低い。
・「コ
英語を話すのははずかしい」とは思っ
ていないが,「サ
3,2でそう答えたのはなぜですか。詳しく分
かるように書いてください。(記述式)
ALTが来てい
英語を話すのはむずかし
い」と感じている児童が60%を超えている。
これらは,「オ
英・長研-11
むずかしいことにもあきら
資料-7
(調査対象
3
「英語活動は好きですか 」
研究協力校
第5学年
141人)
実践1(第5学年「コミュニケーションマ
スターへの道」)
(1) 単元の考え方
好きではない
11 人 8%
本単元は,英語活動を始める前のオリエン
テーションにあたり,「何のために英語活動
25 人 18%
あまり好き
ではない
とても好き
47 人
33%
をするのか」を考え,これからの英語活動の
見通しをもたせることをねらいとしている
(表-3)。カリキュラムでは4月に配列し
好き
ているが,研究上,9月に行ったものである。
英語活動は,ただ単に「英語を習うため」
58 人 41%
にするのではなく,英語活動を通して「様々
めないでチャレンジする」の項目で,「あては
な考えをもった人とも上手くコミュニケーシ
まる,だいたいあてはまる」を合わせても80%
ョンを図りながら,仲良くなろうとする人に
を下回っていることに関連があることが推測で
なってほしい」という教師の願いを最初に伝
きる。ALTに関心はあるが,コミュニケーシ
えることにより,これからの活動中の児童の
ョンをとることを難しいと感じ,行動に移せな
意識が英語習得へと傾かないようにしていき
いでいるのではないか。また,その機会があっ
たいと考えた。
ても,「セ,ソ,タ」の項目のように,日本と
まず,絵本「世界がもし100人の村だったら
比べてみたり,さらに知りたいと思ったりする
(マガジンハウス)」の挿し絵を見せ,たく
ことは少なく,受け身で終わっているのではな
さんの「違い」をもった人々が集まっている
いかということが推測できる。
ことを知らせる。この絵本は,世界の人口を
また,「英語活動が好きですか」の問いには,
100人という児童にも身近に感じることができ
「好きではない,あまり好きではない」と答え
る数値に置き換え,表現してあるため,どの
ている児童がすでに26%もいることが分かった
ような人々が世界にいるのかを把握しやすい
(資料-7)。その理由は,「むずかしくて何
ものとなっている。さらに,これは,社会科
を言っているか分からない(17人),覚えられ
の教科書や道徳の副読本で取り上げられたり,
ない(14人),役に立たない(3人),恥ずか
翻訳され様々な国で出版されたりもしている。
しい(1人),退屈(1人)」などであった。
表-3
単元計画(全1時間)
この「好きではない」と答えた児童は,これ
時
からの英語活動の在り方によっては,「好き」
に変わることが期待できるのではないかと考え
活動名(活動形態)
とねらい
主な活動内容と英語表現
コミュニケーション
1 英語活動についてのアンケー
た。そのためには,教師が,何を言っているの
マスターへの道(H
トに記入する
か推測しやすい方法で英語を使い,児童に「そ
RT)
2 「何のために英語活動をする
○これからの英語活
動に見通しをもたせ
のか」を考える
る
たら」を参考にする
んなに難しいものではない」という体験をさせ
1
ることが必要である。また,英語を覚えるので
はなく使ってみようとすること,言語や文化の
違いを楽しもうとすることがねらいであること
を児童に伝え,今まで以上に友達やALTとか
かわる活動を仕組むことが必要である。
・「世界がもし100人の村だっ
・グループで話し合う
・本文中の言葉を紹介する
3 これからの英語活動の時間で
大切にしたいことをまとめる
・「コミュニケーションマスタ
ーへの道」を読む
・「今日の学習で」を書く
英・長研-12
資料-8
本文からの抜粋
(2) 授業の実際と考察
「あなたとは違う人を理解すること,相手をあ
授業の初めに,「英語活動は,どんなこと
るがままに受け入れること,そして何よりそうい
を学ぶために,始まったのかな。考えたこと
うことを知ることがとても大切です。」
資料-9
がある人はいますか。」と児童に尋ねてみた。
「コミュニケーションマスターへの道」
1.Heart
ほとんどの児童は,「そんなこと考えたこと
がない。」「英語が話せようになるためじゃ
相手の気持ちも,自分の気持ちも大切にしよ
う。
アイコンタクト,優しい表情,あいさつ,忘
ないのかな。」という想像していた通りの反
応が返ってきた。
れずに!
そこで,「英語が話せるようになることだ
2.Guess
けがねらいではない。」ということを告げ,
何を伝えたいのかな?しっかり聞いて,表情
や動作からもヒントをもらい,想像しながら
絵本の挿し絵を提示した。児童は,これまで
の経験上,外面的なことだけでなく,内面的
聞いてみよう。
3.Reaction
な「違い」をもつ人々がいることは知ってい
相手の言っていることに反応しよう。伝わっ
たよ。なるほど。すごいね。どうして?「聞
たが,「英語を話す人が9人しかいない」こ
とについては,驚いた様子だった。
いているよ」とメッセージを送ろう。
4.Try
グループで話し合う中で,言葉が通じない
いろいろな方法で自分の気持ちを伝えよう。
絵や動作も強い味方。知っている言葉は,ど
んどん使ってみよう。
のならば,「何を言おうとしているのか,想
像する。」「相手の使っている言葉を教えて
もらう。」など,絵本の本文と同じような考
5.Fun
いろいろな考えの人や知らなかったことに出
えにたどり着くことができていた。
会うことを楽しもう。自分の世界を広げよう。
振り返りカードには,「英語を覚えるだけ
本文を紹介しながら,肌,髪,目の色など
ではいけないことが分かった。」「いろんな
の表面的な違いだけでなく,言語,宗教など
人とも仲良くできるようになりたい。」など
の内面的な違いがあることに気付かせていく。
の意見が見られ,積極的にコミュニケーショ
特に,この村の中では,英語を話す人は9人
ンを図ることを意識して,これからの英語活
しかいないことを告げ,英語が話せるように
動を行っていこうという気持ちになっている
なるだけでは,他の人とコミュニケーション
ことが分かった(資料-10,11,12)。
がとれないということを知らせていく。
資料-10
振り返りカードの記述から
資料-11
振り返りカードの記述から
資料-12
振り返りカードの記述から
次に,グループで「このような違いをもっ
た人々がたくさんいる村で,みんなが仲良く
暮らすためにはどうしたらよいか」を話し合
わせる。本文から抜粋した文章を紹介し,こ
れからの英語活動の時間で大切にしたいこと
を「コミュニケーションマスターへの道」と
してまとめる(資料-8,9)。
また,コミュニケーションマスターへの道
で取り上げた五つの要素(Heart・Guess・
Reaction・Try・Fun)を,これから先の英
語活動において,自己評価などに取り入れて
いく。
英・長研-13
4
実践2(第5学年「アルファベットで遊ぼ
街中の看板などを見たときに,これまで習っ
う」)
たものとは違い,「読めない」「難しい」と
(1) 単元の考え方
感じる原因となっているのではないかと考え
本単元は,アルファベットを身近に感じる
たからである。さらに,ローマ字と英語の綴
ようになることをねらいとしている。カリキ
りとを混同し,「英語への苦手意識」へとも
ュラム上は,中学校での英語教育につなげる
つながりかねない。ここで,ローマ字とはア
ために第6学年の2月に配列している。しか
ルファベットを使って日本語の音を書き表す
し,事前アンケートによると,これまでの英
方法であることを押さえておくこととする。
語活動で,アルファベットを耳にしたり目に
次に,アルファベット26文字の中で,ロー
したりすることが多く,「よく分からないま
マ字では使われない文字(L,Q,X,V)
ま活動するのは不安」と感じている児童がい
を探したり,大文字や小文字の形の違いなど
ることが分かった。その苦手意識を軽減する
に触れながら,ローマ字とアルファベットの
ために,検証においては,第5学年で行うこ
比較を行っていく。その後,これからの英語
ととした。その際,第5学年4月に配列して
活動で「ALTに名前を呼んでもらえるよう
いる「名札をつくろう」と合わせて2時間を
に」見やすさや,自分らしいデザインを考え
1単元とし,指導することにした(表-4)。
ながら,名札をつくる活動を行う。
第1時「名札をつくろう」は,第4学年国
この活動は,ローマ字表を見ながら,自分
語科で学習した「ローマ字」と関連する内容
の名前が正しく書けているか点検する際,“
である。はじめに,歌「BINGO」を歌っ
What's your name?”と名前を尋ねることや,
たり,駅の看板などを見ながら,ローマ字を
名札に描かれたイラストを手がかりに“D o
想起させることにした。
you like baseball?”などと自然に話しかけ
ここでは,「ヘボン式ローマ字」を扱うこ
ることができる活動である。
ととする。それは,第4学年の国語科教科書
第2時「アルファベットで遊ぼう」は,A
では「訓令式」が紹介されているが,実際,
LTとのTTで行う。アルファベットの形に
街中の看板やパスポートの氏名表記は「ヘボ
着目し,いくつかのゲームを通して,アルフ
ン式」が使われているからである。そのため,
ァベットに慣れ親しむ活動を行う。
表-4
時
まず,「アルファベット探しゲーム」をす
単元計画(全2時間)
る。ALTの発話するアルファベットを聞き
活動名(活動形態)
とねらい
主な活動内容と英語表現
アルファベットとロ
1 歌「BINGO」を歌う
ーマ字
2 アルファベットとローマ字を
(HRT)
比べる
1 ○英語での指示をよ
く聞き,名札を作る
分け,絵の中に隠れているアルファベットに
次に,「アルファベットマイム」をする。
3 自分の名札をつくる
これは,ペアを組み,友達と協力しながらア
/What’s your name?/
ルファベットの形を身体表現する活動である。
/My name is ○○./
アルファベットクイ
1 歌「BINGO」に他の名前を当
ズ
てはめて歌う
(HRT+ALT)
2 身の回りにあるアルファベッ
身の回りからアルフ
ト探しをする
2 ァベット探しをした
指示通りに色を塗る活動である。
3 アルファベットマイムをする
り,ペアでアルファ
/Where is ○. Here!/
ベットマイムをした
りして,英語でのや
/What’s this? / You’re ○.
/That’s right!/ I’m sorry.
りとりを楽しむ
英・長研-14
資料-13 ALTの質問で「身の回りのアルフ
ァベット探し」をしている様子
“What's this?”“It's Y.”“That's
資料-14
振り返りカードの記述から
資料-15
振り返りカードの記述から
right.”と声を掛け合いながら,クイズ形式
で進めていく。最後に,写真を使って,身の
回りにあるアルファベット(H,HBの鉛筆
・駐車場のPの看板など)を探すクイズを行
う(P14
資料-13)。
このような活動を通して,英語での簡単な
指示や発問に聞き慣れ,「自分にも英語が分
かった」という思いをさせていくとともに,
友達と協力する場面を多く取り入れていきた
資料-16
いと考え,指導にあたった。
友達と協力して絵の中から
アルファベットを探す児童の様子
(2) 授業の実際と考察
第1時「名札をつくろう」では,「ヘボン
式」と「訓令式」の表記の違いにすぐ気が付
き,「これで読める看板が増える」と喜ぶ姿
が見られた。“What's your name?”と尋ね
られた時,“My name is ~.”とはじめから
答えることができた児童は少なかった。しか
し,友達が答えている姿を見たり,日本語で
答えても“Your name is ~.”と返されたり
資料-17
友達と協力して「Y」を身体表現する
児童の様子
することで,少しずつまねして言おうとする
姿が見られた。
また,自分の名札をつくったことで,AL
Tに名前を呼んでもらえるのを楽しみにして
いる感想や英語やローマ字への興味が高まっ
た感想が見られた(資料-14,15)。
第2時「アルファベットで遊ぼう」では,
「アルファベット探し」「アルファベットマ
イム」でペアになった友達と協力しながら活
資料-18
振り返りカードの記述から
動ができていた(資料-16)。高学年にもな
ると,男女のペア活動は恥ずかしさからなか
なか活発にならないことが多い。今回も,初
めはなかなか意見もまとまらなかったが,活
動が進むにつれ男女関係なく夢中になって取
り組む姿が見られた(資料-17)。
資料-19
振り返りカードの記述からは,アイディア
を出し合うよさに気がついている様子がうか
がわれた(資料-18)。また,これらの活動
を通して,アルファベットを身近に感じるよ
うになったことがうかがわれた(資料-19)。
英・長研-15
振り返りカードの記述から
5
実践3(第5学年「数や形で遊ぼう」)
たり,第6学年では「世界の数字」としてロ
(1) 単元の考え方
ーマ数字が資料として紹介されていたりと,
本単元は,数や形を表す英語表現を使って
児童の知的好奇心を刺激するような内容が載
クイズやゲームをしたり,作業を行ったりす
っている。これらを英語活動の中に取り入れ
る中で,英語での指示や質問を推測しながら
ることで,高学年でも飽きることなく取り組
聞こうとする態度を育てることをねらいとし
める活動が仕組めるのではないかと考え,3
ている(表-5)。
時間を1単元とし,指導することとした。
数や形を表す英語表現は,比較的親しみや
まず,第1時は「ローマ数字」を紹介し,
すく,日頃よく耳にするものである。そのた
その数字の読み方を考えたり,身近なところ
め,低・中学年でもよく扱われる題材である。
にある数字をクイズ形式(「H ow many
他の題材を扱った活動でも,数や形について
BINGO」)で考えていく活動である(資
は触れることが多いため,できるだけ早い時
料-20)。“What's this number?”“How
期に出会わせたい題材である。高学年で初め
many ○○ in ~?”などの表現を繰り返し使
て扱う場合,「いかに活動が単調で幼稚にな
用し,数を尋ねる表現に聞き慣れるようにし
ることを避けるか」ということが課題である
ていく。
と考える。
第2時は「タングラム」を使って,形づく
算数科教科書を見てみると,第5学年では
りをする。タングラムは算数科学習の発展と
「タングラム」を使った形作りが扱ってあっ
して,教科書に載っていない形に挑戦させる
表-5
時
ことにする(資料-21)。基本的な形(三角
単元計画(全3時間)
形,四角形など)の英語表現に触れることと,
活動名(活動形態)
とねらい
主な活動内容と英語表現
これ,いくつ?
(HRT+ALT)
1 歌「Seven steps」を歌う
2 いろいろな数字(ロー数字)
○英語での質問をよ
で遊ぶ
く聞き,身の回りの
1 数字をあてる
3 「How many BINGO」をする
/1~100までの英語表現
/What's this number?
タングラム自体をつくることで,「線を引く,
資料-20
(2)
(3)
(4)
(5)
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
Ⅴ
(6)
(10)
(50)
(100)
(20)
Ⅵ
Ⅹ
L
C
ⅩⅩ
/This is two.
/How many ○○in~? /Let's count.It's ○○.
タングラムで遊ぼう
(HRT+ALT)
☆1 次の数字は,いくつ?上のローマ数字を参考に考えよう。
○タングラムを使っ
1 タングラムをつくる
2 ペアでタングラムで形づくり
をする
て形をつくり,ヒン
トをもらうなどの英
2
語でのやりとりを楽
/Please draw a line like this.
/Cut this line.
/triangle/spuare/big/middle/
しむ
/small/parallelogram/
/Please ake a big square with
(
(
1 絵描き歌に挑戦する
2 グループで協同絵画をする
/triangle/square/circle/oval/
/rectangle/
/There are two circles./
/What's this? It's~.
り紹介したりして英
語でのやりとりを楽
しむ
英・長研-16
(
)
(
LⅩⅩ
)
ⅩLⅢ
/Hint please./
(HRT+ALT)
○友達と協力して一
3 枚の絵をつくり,つ
くったものを尋ねた
)
Ⅷ
these shapes./
アーティストになろ
う
ローマ数字の問題
(1)
(
)
ⅩCⅡ
)
(
ⅩⅣ
(
)
(
ⅩⅩV
)
ⅩⅩⅩⅣ
(
)
ⅩLⅠⅩ
)
LⅤ
(
)
XCVⅡ
資料-21 タングラムで作る形(抜粋)
切る」などの指示する言葉にも触れることが
答えが見つからないものばかりを集めた。
できる。作業を入れることで,英語での指示
「難しかったけど楽しかった。」とあきらめ
を「しっかり聞く」ということを意識させた
ずにチャレンジできた達成感や相談したから
い。また,指定された形をつくる過程で,自
できた喜びを感じている感想が見られた(資
然に“Hint, please.”などの表現を紹介す
料-23,24,25)。
ることができる活動である。
第2時「 タ ン グ ラ ム を つ く ろ う 」では,
第3時はグループで共同絵画をする。「円,
“Which color do you like?”“I like~.”
三角形,四角形,ひし形」などの基本的な図
などのやりとりをしながら,タングラムの台
形を組み合わせ,ものの形を表し,それをグ
紙の色を選んでいった(資料-26)。また,
ループで1枚の紙の中に並べて作品をつくる
友達とALTのやりとりを見ることにより,
(資料-22)。何をどのような分担でつくる
資料-23
振り返りカードの記述より
か,どこに並べるのかなど,全体のバランス
を考えながらグループで相談して決めるよう
にしていく。足りなくなった図形を前時に紹
介した“○○,please.”の表現を使ってもら
い,できた絵をみんなで鑑賞しながら,何を
資料-24
振り返りカードの記述より
表したかなどのやりとりを英語やジェスチャ
ーなどで行っていくようにする。
これらの活動を通して,英語での指示や質
問を推測して聞こうとする態度や,知ってい
る英語やジェスチャーなどを使って,何とか
資料-25
振り返りカードの記述より
伝えようとする態度を育てていくようにする。
(2) 授業の実際と考察
第1時「ローマ数字」では,「Ⅰ,Ⅱ,Ⅴ,
Ⅹ」を基本とし,左側に付け加えたら引き算
(Ⅳ=Ⅴ-Ⅰ),右側に付け加えたら足し算
資料-26
タングラムの台紙の色を選ぶ児童
資料-27
教え合いながら形作りをする児童
(Ⅵ=Ⅴ+Ⅰ)で考えると他の数も読めるこ
とを楽しんでいた。並ぶ数字が増えると,や
や難易度が高くなり,すらすらと解くことは
できなかったようだった。
クイズ形式で行った「How many BINGO」
も,「この学校の4階にある教室はいくつ」
「10月生まれの人は何人」などと,簡単には
資料-22
形を使った共同絵画の見本
英・長研-17
台紙を受け取ったら,“Thank you.”と自然
に返せる児童も徐々に増えていった。
資料-30 “○○,please.”を使って
欲しい形を伝えている児童
ペアで形作りに取り組ませることにより,
教え合いながら活動でき,友達のよさに気付
く感想も見られた(資料-27,28)。
第3時「共同絵画」では,アイデアを出し
合い,楽しみながら1枚の絵を完成させてい
た(P18
資料-29)。
欲しい基本図形をなかなか英語で言えない
児童も,グループの中で「なんて言うんだっ
資料-31
振り返りカードの記述より
資料-32
振り返りカードの記述より
け。」と確認しながら,英語を使おうとする
姿が見られた(資料-30)。何度も,同じ形
をもらうたびに,結果として,形の言い方を
覚えてしまったようだった。形の受け渡しを
繰り返すたびに,返ってくる“Thank you.”
の声が大きくなり,自信をもって発話してい
ることがうかがわれた(資料-31)。
また,絵をつくっている時,ALTに
“What's this?”と尋ねられ,“Caterpillar”
“Dragon”など,知っている単語を並べたり,
動作などを駆使して答えようとする姿も見ら
れた。英語で説明できなかったところも言え
資料-33
絵を説明している児童
るようになりたいという気持ちが高まったよ
うだった(資料-32)。
最後に,でき上がった絵をみんなで見てみ
ると,グループごとにそれぞれアイデアが違
い,個性的な絵ができ上がった。自分のグル
ープの絵だけでなく,他のグループのよさに
も気付くことができていた。(資料-33,34,
資料-34
振り返りカードの記述より
資料-35
振り返りカードの記述より
35)。
資料-28
振り返りカードの記述より
資料-29
共同絵画の様子
英・長研-18
6
全体考察
資料-36
(1) 自己評価から
自己評価に使用した振り返りカ-ド
「Let’s Enjoy The Alphabet!」2/2
実践1(オリエンテーション)を除くすべ
Name(
ての検証授業後(5時間)に,振り返りカー
Reflection card
ドによる自己評価を行った。その項目は,評
価規準をもとにして作成し,各項目ごとに4
)
今日の英語活動は楽しかったですか
それは、なぜですか
段階評価を行った(資料-36)。
・
楽しかったか
・
英語で話していることが大体分かった
ALTの先生が話していたことが大体わかりましたか
知っている英語や動作などを使って伝
ALTの先生や友達に、自分の思っていることを
か
・
工夫して伝えようとしましたか
えようとしたか
友達と協力することができましたか
・
友達と協力することができたか
・
面白いな,もっと知りたいなと思った
おもしろいなと思ったことやもっとしりたいなと
思ったことがありましたか
ことがあったか
それはどんなことですか
選択肢に対して,1~4までのポイントを
つけて得点化し,その平均値の推移を見てい
くと次のような結果になった(資料-37)。
はい
今日の英語活動で (もう少し、くわしくみんなの気持ちをかきまとめてくださいね)
いいえ
(選択肢)
(ポイント)
4
3
資料-37
2
1
振り返りカード(自己評価)の推移
(対象児童141人 )
実 践 3
実 践 2
各検証授業後の4段階評価の平均値
3.9
3.7
3.5
3.3
3.1
2.9
2.7
2.5
楽しかったですか
話していたことがだいたい分
かりましたか
知っている英語や動作などを
使って伝えようとしましたか
友達と協力できましたか
面白いな・もっと知りたいなと
思うことはありましたか
①10月9日
②10月15日
③10月22日
④10月29日
⑤11月5日
3.7
3.0
3.7
3.4
3.6
3.3
3.7
3.4
3.8
3.5
2.5
3.0
3.1
3.2
3.4
項目なし
3.6
3.4
3.5
3.3
3.5
3.5
3.7
3.5
3.1
英・長研-19
まず,すべての項目において,平均値が上
数字クイズ」と難易度の高いものに挑戦する
がっていることが分かる。これは,本研究に
ものであったためだと考えられる。しかし③
おいて考えた,小学校で養いたい「素地」が,
においても,「伝えようとしましたか」の項
次第に身に付いている結果だと言える。
目は,前時と比べ平均値が上がってる。この
特に変化が大きかったのは,「知っている
ことから,難しいとは感じながらも,「ロー
英語や動作などを使って伝えようとしました
マ数字の仕組みを発見する」「意外と知らな
か」の項目である。その理由として考えられ
い新しい事実に出会う」など,知的好奇心が
ることは,活動内容を考える際に,児童が思
刺激され,難しいものに挑戦する楽しさを感
いを伝えたくなるような場面を,徐々に増や
じながら活動していたことがうかがわれる。
すよう設定したことである。まずは,クイズ
このようなことから,「素地」というもの
などの全体の中でつぶやくことからはじめ,
は,短期間で身に付くものではなく,継続的
次にペアで一緒に活動しながらヒントをもら
な活動により,上がり下がりしながら,少し
ったり,グループで作成したものを説明した
ずつ養われていくものではないかと考える。
りなど,少しずつ試行錯誤で英語を使ってみ
(2) 教師の見取りから
る経験をさせていった。そのことと関連して,
単元が児童の実態に合ったものになってい
児童自身も伝わる達成感を感じ,自信をもち
るか,活動が評価規準に沿ったものになって
ながら活動を進めていった結果ではないかと
いるかを見取るため,研究協力者による授業
考える。
観察を行った。
また,資料-37の③では,「伝えようとし
授業観察で使用する見取り表については,
ましたか」以外の項目が,一度下がっている。
試行錯誤で作成したため,実践2と実践3で
これは,③が実践3の第1時目であったこと
はその形式が異なってしまった(資料-38,
と,活動内容が「ローマ数字」「身近にある
39)。
資料-38
実践2で使用した見取り表
資料-39
英・長研-20
改善後,実践3で使用した見取り表
資料-40
今回の研究では,研修員,協力校の学級担
授業観察者の評価例(一部抜粋)
任,専科教員と,2~3人で見取り表をもと
にした評価を行った。しかし,担任一人で指
導している場合などは,なかなか細かく記述
することが難しいのではないかと感じた。見
取り表の改善や,学校単位での研修体制づく
りなど,まだまだ課題が残る部分である。
(3) 事前事後アンケートの比較から
検証の事前事後で行ったアンケートの結果
比較からも,次のような変容が見られた。
まず,事前アンケートでは,英語活動が
「好きではない,あまり好きではない」と答
えていた児童が26%いたのだが,検証後では
12%という結果になった(資料-41)。少し
ずつだが英語への苦手意識を軽減することが
できた。
その他の項目を細かく見ていくと「イ
実践2の見取り表では,項目の設問が漠然
まり親しくない友達とも話したり,作業をし
としており記入しにくいという意見があった。
たりできる」「サ
それを受け,実践3の見取り表では,指導案
「シ
に記載している活動展開や評価規準に照らし
みようとする」「セ
合わせながら記入できるよう改善した。
みることがある」「タ
この見取り表をもとに,評価が低かった部
分については,単元やその活動内容の見直し
英語を話すのは難しい」
習った英語や知っている英語を使って
外国と日本とを比べて
これからの英語活動
でどんなことを習うのか楽しみにしている」
の項目に顕著な変化が見られた。
を行った。具体的には,実践3「数や形で遊
資料-41
ぼう」の単元の難易度を少し下げ,それぞれ
「英語活動は好きですか 」
(対象児童141人)
の活動に十分な時間を確保するため,カリキ
ュラムを修正し,「数」「形」を別々の単元
にすることにした(資料-40)。
観察者が見取り表に記述したものを見てい
くと,「少しの英語しか習わなかったのが不
安」「(児童が)日本語で言っていてもいい
のだろうか」など,これまで自分が行ってい
た「言えるようにたくさん練習する」指導法
あ
資料-42 「イ あまり親しくない人とも話し
たり作業をしたりできる」(対象児童141人)
との違いに戸惑う意見があった。しかし,評
価規準として目指す児童像を提示していたこ
とで,活動のねらいが言語習得ではないこと
を共通理解するきっかけにすることができた。
また,児童は英語ばかりの指示でも,抵抗
なく活動していることに驚く意見も多かった。
英・長研-21
検証授業において,ペアやグループでの活
資料-44
動を仕組んだことで,普段ではあまりかかわ
「シ
習った英語や知っている英語は使
ってみようとする」(対象児童141人)
りのない友達ともかかわる機会を増やすこと
ができたと考える(P21
資料-42)。
また,一緒に活動する中で,分からないこ
とを教え合い,お互いの姿を見ることで,英
語を使ってみようという気持ちが高まってい
ったのではないかと考える(資料-43,44)。
このように,わずかな期間での検証ではあ
ったが,「英語は思っていたほど難しいもの
ではない」という安心感と「知らないことに
資料-45
出会うことは自分の世界が広がり楽しい」と
「セ 外国と日本とを比べてみることが
ある」(対象児童141人)
いう期待感をもって学習を進めていくための
「素地」が養われていったことが分かる(資
料-45,46)。
さらに,「キ
ALTが来ていたら,自分
から話しかけようとする」の項目では,わず
かだが,変化が見られた(資料-47)。「あ
てはまる」が5%増え,「あてはまらない」
が7%減っている。このことから,全体的に
積極的に自分から話しかけようとする方へと
移行していることがうかがわれる。これは,
資料-46 「タ これから(中学校も)の英語活動
でどんなことを習うのか楽しみにしている」
(対象児童141人)
上で述べたような安心感や期待感をもって学
習を進めた結果,「ALTと話してみたい」
という興味・関心が「自分から話しかける」
という積極的な態度へと育っていったからで
はないかと考える。今後,長期的な取組を行
うことにより,コミュニケーションへの積極
性はさらに高まるであろう。
資料-43
「サ
英語を話すのは難しい」
(対象児童141人)
資料-47 「キ ALTが来ていたら,自分から
話しかけようとする」(対象児童141人)
英・長研-22
どは,今後検討すべき部分が多々残った。
第Ⅲ章
研究のまとめ
また,本研究において作成したカリキュラ
ムを活用することによって,高学年児童の知
本研究では,カリキュラムの作成と活用を通
的好奇心を刺激し,コミュニケーションの楽
して,小学校段階で育成すべきコミュニケーシ
しさを味わう活動がどのようなものかを探る
ョン能力の素地を養う英語活動の在り方につい
ことができた。
て模索した。
以上のことから,本研究において評価の観点
そのことにより,次のようなことが明らかに
を決め,評価規準を策定し,カリキュラムの作
なった。
成と活用を行ったことは,必修化に向けて来年
1
度からの各学校の取組の方向性を示すことにつ
研究のまとめ
(1) カリキュラムの作成について
ながると考える。
カリキュラムの作成にあたって,「コミュ
ニケーション能力の素地」として考えられる
2
今後の課題
三つの観点に沿って,評価規準を策定した。
今回作成した評価規準やカリキュラムは,あ
この評価規準と児童の実態や他の教育活動と
くまでも一つのモデルである。このままでは,
の関連を図りながら,2年間分のカリキュラ
使用できない場合も多い。今後,取り組む際に
ムを作成した。
は,各学校の児童の実態をよく分析し,学校独
その結果,「コミュニケーションへの積極
自でカリキュラムを編成する必要がある。そし
性」の高まり,「言語や文化への体験的な理
て,組織的に取り組んでいく体制を整えること
解」の深まり,「外国語の音声や基本的な表
が求められる。
現への慣れ親しみ」の広がりを「コミュニケ
特に,学習指導要領の改訂では,外国語活動
ーション能力の素地」のイメージとして図式
は高学年だけでの実施になるため,「外国語の
化することができた。さらに,それをもとに
音声や表現への慣れ親しみ」の部分については
評価規準を策定し,各単元のねらいとともに
体験が十分ではない。他学年においても,各学
表記したカリキュラムを作成することができ
校の工夫により,高学年の英語活動のために招
た。
聘したALTの来校日を利用するなどして,機
また,各教科や学校行事などと関連した単
会をとらえて英語とふれ合う場を設定する必要
元をカリキュラムの中に配列することもでき
があると考える。絵本の読み聞かせや,一緒に
た。
遊んだり給食を食べたりするなど,ALTとの
(2) カリキュラムの活用について
ふれ合いを大切にしながら,英語を聞く機会を
活用にあたっては,振り返りカードによる
増やしていくことが必要であると考える。
自己評価と授業観察による見取り表を用い,
観察者の意見を取り入れながら,部分的では
あるがカリキュラムの修正を行うことができ
た。
このことにより,活動が児童の実態に沿っ
たものになっているか,評価規準に沿ったも
のになっているかを見取るための評価の一方
策を見出すことができた。しかし,自己評価
表や見取り表の形式,内容項目,実施方法な
英・長研-23
引用文献
1
文部科学省
小学校学習指導要領
2
菅
すぐに役立つ!小学校英語活動ガイドブック P1,P3
正隆
P107
(平成20年)
ぎょうせい
(平成20年)
参考文献
1
文部科学省
小学校英語活動実践の手引き(平成13年4月)
開隆堂出版
(平成13年)
2
樋口
忠彦
これからの小学校英語教育―理論と実践―
研究社
(平成17年)
3
渡邉
寛治
子どもが変わる!小学校英語活動
新学社
(平成18年)
4
久埜
百合他
ここがポイント!小学校英語
三省堂
(平成18年)
5
岡
成美堂
(平成19年)
文溪堂
(平成19年)
東洋館出版社
(平成20年)
秀夫他
小学校英語教育の進め方
-「ことばの教育として」-
6
宗
誠
小学校ならではの英語活動
7
文部科学省
小学校学習指導要領解説
8
文部科学省
中学校学習指導要領
9
福岡市教育委員会
10
佐賀県教育センター
外国語活動編
(平成20年)
福岡市小学校英語活動指導事例集
(平成20年)
外国語活動の指導の手引き
http://www.saga-ed.jp/kenkyu/kenkyu_chousa/h19/h19eigokatsudo/top/top.html
(平成20年)
研究指導者
大
場
隆
一 (主任指導主事)
恵
子 (美和台小学校教諭)
長期研修員
田
中
英・長研-24
Fly UP