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ローズオイルの源を訪ねる - その1

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ローズオイルの源を訪ねる - その1
「香りの迷宮を訪ねて」
(ローズオイルの源を訪ねる - その1)
山本芳邦
ローズオイルが大変なブームである。
しかも、
スキンケア化粧品や香水にとどまらず、
カ
プセルに充填して飲む商品までもが出現して大いに話題を呼んでいる。ローズオイルを
少量飲むことにより体臭がバラの香りになると評判で、
まさに飲むパルファンである。若
い女性のみならず、加齢臭に悩むシルバーエイジの方々にもひそかなブームを呼んで
いるらしい。バラの香りは昔も今も人々を魅了して止まないとても高級感と高揚感をか
もしだす不思議な香りだ。古い逸話だが、ローマ皇帝ネ口やクレオパトラがこよなく愛し
、バラの花を水に漬けたローズ水を飲んでいたらしいからバラの成分が美容と健康に霊
験あらたかなることはいにしえ人もご存知であったようだ。
さて、精油の中で最も高級とされるローズオイル(ローズ・オッ卜ー)の生産国は、
ブルガ
リア、
トルコ、イラン、そして僅かではあるがインド、ロシアである。歴史を辿ると香り豊か
なバラの栽培は今のシリアのダマスカスから卜ルコへと渡り、やがてブルガリアやイラン
地方へと伝えられていったようだ。現在、バラの学名をローザ・ダマセナ
(ダマスクローズ
)
と呼ぶのもこの流れを物語っている。オスマントルコが大帝国を築き上げ、その勢力が
拡大すると同時にバラ作りもまた広まって行ったのであろう。ローズオイルの蒸留の際
に採れるローズウォーターも貴重な香り豊かな産物で、
スキンケアローションや食品の
フレーバーとして活用されている。ローズウォーターを飲料とする習慣はバラ生産国で
は定着しており、イランではローズウォーターを作るためにバラを蒸留しており、ローズ
オイルは副産物として扱われているほどだ。
日本人の感覚としてはちょっと香水を飲んでいる感じがするが現地の人は飲みなれてい
るのか平気で飲んでいる。
ウォッカのような蒸留酒にもバラの香り付けがされているも
のがあり、
まさに"酒とバラの日々"が堪能できるに遣いない。
トルコのIspartal(イスパルタ)近郊では、現在でも昔ながらの蒸留釜で自ら収穫したバ
ラの花びらを蒸留し、ローズオイルを製造している農家が多く残っている。勿論、新式の
蒸留タンヲで蒸留する工場もあるのだが、未だに伝統的な頭の丸い蒸留器で蒸留して
生計を立てている人々も多い。驚いたことに、
この地ではバラの畑に隣接してなんとケシ
の畑が広がっていた。麻薬でもあり強力な鎮痛剤のモルヒネの原料となるアヘン(オピ
ューム)を採るためのケシが栽培されているのである。勿論、れっきとした薬用の畑だが
、あまりにもあっけらかんと咲いているのには驚いた。真っ赤なケシの花とピンクのバラ
の花が美しいコントラストを描いて咲いているとは。ローズとオピューム。想像するだけ
で何だか頭がくらくらしそうな組み合わせであるが、
トルコにとってはどちらも外貨を稼
ぐ貴重な農産物である。のどかな田園風景からはうかがい知れないお国の経済事情が
隠されているのだろうなと少し神妙な面持ちになった途端、ローズ畑の片隅から何だか
かわいらしい声が聞こえてきた。畑の古い潅水路の土管の中から何匹もの子犬が飛び
出してきたのだ。
こんなところに産み落とされてよく生きていられるものだと手を伸ばし
たとたん、同行してくれたトルコ人の友人アティラが叫んだ。
「ママがやってくるよ!」見る
と遠くから一目散に駆けてくる黒い母犬とおぼしき姿が。
とりあえず慌てて彼らをカメラ
に収めてこちらも一目散に退散することにした。
トルコローズの香りを嗅ぐたびにあの
子犬たちを思い出す。
山本香料株式会社 代表取締役社長(薬学博士)
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