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災害用無人ティルトローター機の研究
平成23年度 修士論文 災害用無人ティルトローター機の研究 高知工科大学大学院 工学研究科 基盤工学専攻 修士 2 年 知能機械システム工学コース 筒井研究室所属 1145052 三鑰 善裕 目次 第1章 序論 1.1 研究背景 1.1.1 1.1.2 1.1.3 1.1.4 1.2 日本の災害状況と災害救援ヘリコプター 無人機の利用と動向 災害用無人機の種類と性能 研究室での災害用無人機システム開発への取り組み 研究目的 1.2.1 VTOL 機とは 1.2.2 災害用 VTOL 機の選定 1.2.3 機体コンセプトと飛行プロセス 第2章 2.1 2.2 災害用無人機の製作 安定した VTOL(垂直降下)とホバリングの実現 2.1.1 ハンチングの解決(運動方程式の導出) 2.1.2 2.1.3 2.1.4 プロペラの製作と性能試験 モーターの選定と性能試験 機体の形状とサイズの選定 ティルト機構部の製作(飛行方法切り替えの実現) 2.2.1 2.2.2 2.2.3 2.3 モーターマウントの製作 サーボモーターとリンクの設置 各パーツの実装と飛行試験 翼型の選定と製作(水平飛行の実現) 2.3.1 主翼の平面形と翼型の選定 2.3.2 2.3.3 2.3.4 翼の揚力計算(翼のサイズの選定) 翼の製作 完成機体紹介 第3章 飛行試験 3.1 飛行試験の実施 3.1.1 飛行試験の概要 3.1.2 滑空からの水平飛行試験 3.1.3 垂直離陸とホバリング試験 3.1.4 遷移飛行試験 第4章 謝辞 参考文献 結論 図一覧 図.1-1 災害ネットワークの概要 図.1-2 FS-G1 図.1-3 FBD-1 図.1-4 推進機構部のティルト図(ティルトローター機の場合) 図.1-5 機体コンセプト 図.1-6 飛行プロセス 図.2-1 QTW-2 図.2-2 QTW-3 図.2-3 QTW-3 パーツ構成図 図.2-4 QTW-3 簡易配置図(側面) 図.2-5 ミキシングを用いた制御 図.2-6 ハンチング状態(ベンチテスト) 図.2-7 製作プロペラ一覧 図.2-8 試験用モーターマウント 図.2-9 厚紙プロペラ 図.2-10 回転試験 図.2-11 ハンチングの抑制試験(プロペラ①) 図.2-12 プロペラ④ 図.2-13 プロペラ⑤ 図.2-14 GAUI 330X 8in (4g) 図.2-15 計測装置構成図 図.2-16 最大スラスト量(距離:70 mmの場合) 図.2-17 最大スラスト量 (距離:110 mmの場合) 図.2-18 距離を変更した際のスラスト量変化(回転数5000rpm固定) 図.2-19 木製機体(X型) 図.2-20 木製機体(X型)の骨組み 図.2-21 木製機体飛行試験 図.2-22 カーボン製機体(X型) 図.2-23 カーボン製機体(X型)飛行試験 図.2-24 木製機体(井型) 図.2-25 木製機体(井型)飛行試験 図.2-26 モーターマウントと機体骨組みコンセプト図(組み立て前) 図.2-27 モーターマウントと機体骨組みのコンセプト図(組み立て後) 図.2-28 モーターマウントと機体骨組みのコンセプト図(ティルト状態) 図.2-29 ティルト用モーターマウントのモックアップ 図.2-30 モックアップマウント図 図.2-31 モーターとプロペラをマウントしての可動調査 図.2-32 布製ヒンジの取り付け図 図.2-33 カーボン製モーターマウント 図.2-34 ティルト可動部のコンセプト 図.2-35 最大スラスト時のティルト可動試験 図.2-36 モックアップ機体(ティルト機構搭載) 図.2-37 カーボン角パイプ機体 図.2-38 ティルト機構(機体前部)の可動の様子 図.2-39 ティルト機構(機体前部)の各寸法 図.2-40 ティルト機構(機体後部)の可動の様子 図.2-41 ティルト機構(機体後部)の各寸法 図.2-42 各パーツ実装後 図.2-43 カーボン角パイプ機体飛行試験 図.2-44 翼の平面形の種類 図.2-45 薄翼(平板翼の前縁と後縁を削いで製作) 図.2-46 製作翼一覧 図.2-47 製作尾翼一覧 図.2-48 ヘッド 図.2-49 離陸用マウント台 図.2-50 QTRシリーズ完成機体一覧 図.3-1 手持ちからの滑空、水平飛行試験 図.3-2 QTR-1 図.3-3 遷移直後 図.3-4 遷移からの滑空 図.3-5 前進速度を得て翼に揚力が発生 図.3-6 翼の揚力により水平飛行へ 図.3-7 QTR-1 垂直離陸試験 図.3-8 QTR-2 図.3-9 QTR-2 改良型 図.3-10 QTR-2とQTR-2改良型の飛行試験の様子 図.3-11 QTR-3 (試作機) 図.3-12 離陸直後 図.3-13 垂直上昇 図.3-14 上空にてホバリング 図.3-15 QTR-3 図.3-16 垂直離陸からのホバリング 図.3-17 ホバリングから遷移し滑空状態へ 図.3-18 滑空からの水平飛行 表一覧 表.1-1 年度別有感地震発生回数 表.1-2 防災に寄与するヘリコプターの数 表. 1-3 災害用無人機におけるタイプ別性能比較表 表.1-4 ティルトローター機とティルトウィング機の簡易性能比較 表.2-1 プロペラ試験結果 表.2-2 ブラシレスモーター 表.2-3 リチュームポリマーバッテリー 表.2-4 JR社製 9ch プロポ 表.2-5 JR社製 7ch 受信機 表.2-6 GUEC社製 10A ESC 表.2-7 GAUI社製 330X用ジャイロ 表.2-8 最大スラスト試験結果(距離:70 mm) 表.2-9 試験全体の平均値(距離:70 mm) 表.2-10 最大スラスト試験結果 (距離:110 mm) 表.2-11 試験全体の平均値(距離:110 mm) 表.2-12 スラスト試験(距離:50 mm) 表.2-13 試験全体の平均値(距離:50 mm) 表.2-14 スラスト試験(距離:70 mm) 表.2-15 試験全体の平均値(距離:70 mm) 表.2-16 スラスト試験(距離:110 mm) 表.2-17 試験全体の平均値(距離:110 mm) 表.2-18 スラスト試験(距離:150 mm) 表.2-19 試験全体の平均値(距離:150 mm) 表.2-20 スラスト試験(距離:200 mm) 表.2-21 試験全体の平均値(距離:200 mm) 表.2-22 スラスト試験(距離:250 mm) 表.2-23 試験全体の平均値(距離:250 mm) 表.2-24 各スラストの集計結果 表.2-25 ティルト用サーボモーター 表.2-26 前翼(前部の2枚で1つの翼とする)で発生する揚力L(N) 第1章 序論 序論 日本は世界的に見ても地震の多い国であり、いつ大地震に見舞われてもおかしくない状 況にある。2011年3月11日に発生した東日本大震災はまだ記憶に新しく、かつ大きな傷跡を 残したままだ。地震はライフラインに多大な被害を及ぼすので、救助・復興支援等には迅 速な対応が求められる。そのため、地上の状況によらずに即応できる空の利用が必要不可 欠なものとなっており、被災地情報の収集、救援物資運搬、救助活動支援等に利用できる 災害用無人飛行機の開発が求められている。 現在使用されている無人飛行機は、大きく分類すると、固定翼機(飛行機型)と回転翼 機(ヘリコプター型)に分けることができるが、それぞれに長所・短所があり、用途に合 わせて機体を使い分ける必要がある。しかし、災害という非常事態に対応するためには、 一つの機体で多目的に運用できる方が望ましいのではないかとの考えから、本研究室では、 飛行機型の特徴である飛行速度と航続距離、ヘリコプター型のホバリング能力と発進回収 の簡便さを併せ持つVTOL(Vertical Take-Off and Landing)機に着目し、このタイプでの 災害用無人機の開発を行っている。VTOL機は推進機構部を任意の方向に傾けることで、飛 行機型、ヘリコプター型両方の特徴を併せ持つ事を可能にした機体であり、災害用多目的 無人機に最適といえる。そこで、本講演では、災害用無人機実現に向けて現在取り組んで いる基礎研究の概要と、実験結果を報告する。 1.1 研究背景 1.1.1 日本の災害状況と災害救援ヘリコプター 世界で発生している大規模地震の約20%は日本であり、2010 年だけで1313 回もの地震 が国内で観測されている。また、これに加えて活火山の数も世界の7%を占めており、2011 年1月には、宮崎県の霧島(新燃岳)が噴火し、その火山灰は風下に大量に流れ、数十キロ 先の町まで灰が10センチ近く積もるといった被害に出ており、我が国は、地震・火山大国 といえる。地震災害による死者数の統計を見ると、阪神・淡路大震災以降は減尐傾向には あるが、大都市を含む大規模地震がひとたび発生すると、その数は極端に跳ね上がる可能 性は否定できない。地震以外では、台風に代表される風水害と雪害による被害が毎年発生 しており、防災インフラの継続的整備が必要である。表.1-1 に、近年発生した有感地震回 数のグラフを示す。 1 表.1-1 年度別有感地震発生回数 災害にかかわるインフラのひとつに、地上の状況によらずに即応できるものとして、有 人ヘリコプターによる上空からの救援活動や監視が挙げられる。表.1-2 に防災に使用され ているヘリコプターの数を示す。表.1-2 に示すように、全国の消防機関、地方自治体の保 有する消防・防災ヘリコプターは69 機、警察95 機、海上保安庁46 機、自衛隊660 機とな っている。さらに、近年成立した「ドクターヘリ特措法」の成立もあって、全国各地で、 ドクターヘリ導入に向けた動きが活発になってきており、社会問題となっている救急医の 不足、救急病院の減尐といった医療過疎の解決策として期待されている。 これらの有人ヘリコプターの多くは、人命救助を第一の目的として運用されているわけ だが、その反面、災害監視や被災情報の報道に関して言えば、災害の状況によっては有人 ヘリコプターの搭乗者が危険にさらされ、二次被害を及ぼす恐れがある場合には、危険区 域を避けた上で、被災直後からある程度時間がたってから行われることが多い傾向にある。 一方で、被災者救助活動により被害を最小限に食い止めるには、危険区域も含めた迅速な 情報収集及び、救助活動が必要不可欠であり、二次被害を避けつつ、人に代わって危険区 域での救助支援を行う、無人の情報収集システムの開発が期待されている。 2 表.1-2 防災に寄与するヘリコプターの数 1.1.2 無人機の利用と動向 無人航空機(Unmanned Air Vehicle)は、主に軍事機と民間機とに分かれており、軍用 機としては、軍事訓練用の標的機(Target Drone)などから始まり、現在は 偵察 (Reconnaissance)、戦闘(Combat)、兵站(Logistics)、研究開発(Research and development) などに実用化されている。サイズは手の平にのるくらいの物から、人が搭乗して操縦する ような大きさの機体までのあらゆる大きさのものが存在している。 民間機としては、農業散布、写真撮影、架線工事、災害調査、科学観測等で実用化され ている。特に我が国では、農薬散布の分野での2000機程度の無人ヘリコプターが使われる など、民間での無人機利用の先頭を走っている。このように、無人機の利用は今後増える ことが予測されるが、これら無人機の多くが無人地帯での利用を前提にしており、安全性 の面でまだまだ問題がある。 一般に無人機は 3D(Dull:単調な繰り返し、Dirty:原子力災害など人体に有害、 Dangerous:戦場などで危険)でのミッションに使用され、その理由に有人機に比べ低コス トであることや、人的被害がないことが特徴として挙げられるが、今後さらに民間での無 人機利用を進めるには、安全性・信頼性、運用性(簡便性、コスト)の向上、利用に関す る法整備が必要などといった様々な課題を解決しなければならない。 1.1.3 災害用無人機の種類と性能 災害用無人機は大きく分けて、固定翼無人機(飛行機タイプ)、回転翼無人機(ヘリコ プタータイプ)の2 種類に分類できる。(その他には気球、飛行船タイプがある。)表.1-3 に、固定翼機型、回転翼機型の簡易性能表を示す。 3 表. 1-3 災害用無人機におけるタイプ別性能比較表 固定翼無人機の特徴は、飛行速度と航続距離にあり、災害発生時に即座に被災地に向か えるなど、即応性にとんでいる。小型の無人機ならば、発進は手投げ方式、回収はパラシ ュートや回収用ネットを用いればすむので非常に使い勝手がいいが、一方で、搭載する計 測機器などが増えるに連れて機体重量が重くなり、そのために専用のカタパルトや、離着 陸スペースが必要となってしまい、必ずしも運用しやすいとはいえない。 回転翼無人機の特徴としては、垂直離着陸ができるので、離着陸のスペースが小さくて すむので、発進・回収の簡便である上に、ホバリング能力などによる定点観測が非常にや りやすいといった点が挙げられる。また、日本では農薬散布用の機体が多く使われている ことからもわかるように、搭載能力のも優れたものが多い。その反面、固定翼機に比べて 飛行速度、航続距離が务る上に、構造が複雑で操作が難しくコストが掛かるといった問題 がある。 1.1.4 研究室での災害用無人機システム開発への取り組み これまで研究室では、災害時の情報収集や、その災害情報の発信を目的とした機体 FS-G1(Frontier Sky-eye Glider1)による災害情報ネットワークの開発や、災害地への救援 物資運搬用の機体FBD-1(Flying Board for Disaster)を開発してきた。図.1-1 に災害ネッ トワークの概要と、図.1-2 にFS-G1,図.1-3 にFBD-1 を示す。 4 図.1-1 災害ネットワークの概要 図.1-2 FS-G1 図.1-3 FBD-1 5 1.2 研究目的 1.1.3 で示したように、現在の災害用無人機はそのタイプによって使い分けて運用され ているわけだが、大規模災害が全国的に発生するわが国では、もっと汎用性が高く多目的 に運用できる災害用無人機を開発するのが望ましいと考える。そのためには、新たなタイ プの飛行機が必要となる。よって本研究室では、これまで研究室で研究開発してきた、固 定翼型(飛行機タイプ)の災害用無人機の技術に加えて、新たに回転翼機型(ヘリコプタ ータイプ)の能力をうまく融合させることによって、固定翼機型と回転翼機型の特徴を併 せ持つ、新たなタイプの飛行機による災害用無人機の開発を目的とする。 そこで以下に、災害用の機体選定に利用したいと考えているVTOL機について説明を記す。 1.2.1 VTOL機とは VTOL機とは、推進機構部を任意の角度傾けることで、飛行形態を固定翼機型にも回転翼 機型のどちらにも切り替えることが可能な機体であり、ヘリコプターのように垂直離着陸 ができるので滑走路を必要とせず、かつ通常の固定翼機のような飛行速度、航続距離の実 現を目指した機体のことを言う。 長所としては、先に述べた通り小スペースでの離着陸ができること、ヘリコプターと比 較して飛行速度や航続距離がよいといった点が挙げられる。一方短所は、同等の固定翼機 と比較すると、搭載能力や、航続距離が务ることや、ヘリコプターと同様に、構造的に複 雑になるという点である。通常の飛行機は、滑走して前進速度を持つことで翼に発生する 揚力を利用して飛行するので、翼が生み出す揚力は機体重量の8~15 倍になるので、必要 なエンジン等の推力は機体重量の1/8~1/15 でよいことになる。しかしVTOL 機では、離着 陸時に前進速度がないので、機体重量以上の上向きの推力が必要となるうえに、水平飛行 を行うためのエンジンも必要になる。従ってVTOLは、通常の飛行機と同じ機体重量として 比較すると、非常に大きな推進システム(VTOL用の推進システム)が必要不可欠な飛行機 と言える。また、普通の飛行機は一定の飛行速度以上において、主翼と尾翼に生じる力の 自動的なバランスにより安定して飛行できるのに対して、VTOL機では空中に浮いた際に何 のバランスも働かない状態なので、強制的に機体の安定を保つ制御システムが必要となる。 さらに、垂直上昇してから水平飛行に移る状態(遷移飛行)では、この強制安定化状態か ら自動安定化状態に変化して行くため、大変複雑な制御必要となる。また、この際に垂直 方向の推力と水平方向の推力を同時に円滑に切り換えることも必要である。図.1-4 に、水 平飛行時とVTOL時の推進機構部のティルト状態の簡易図を示す。 6 図.1-4 推進機構部のティルト図(ティルトローター機の場合) 【ティルトローター機】 VTOL機の代表的なタイプのひとつが、ティルトローター機である。(図.1-4 参照)主翼 の端にティルト機構を有した推進機構部が付いており、この部分を可動させて、飛行形態 を切り換えることができる。このタイプはすでに、課題であった遷移飛行制御も解決され ており、V-22 オプスレイの名で、アメリカ軍での配備が進んでいる。民間では、BA609 が 現在開発中である。問題点としては、VTOLを行うために必要な推力を得るために方翼と同 じ程度の長さのブレードプロペラを使用しなくてはならない上に、ブレードと胴体との接 触を避けるために、推進機構部を主翼の端に取り付ける必要があり、これを支えるために 翼と胴体の接合部が非常に大きなものになり、搭載スペースが尐ないことが挙げられる。 【ティルトウィング機】 ティルトウィング機はその名の通り、推進機構部の付いた翼ごとティルトさせて飛行形 態を切り換えるものである。ティルトウィング機構を装備した飛行機は、外見はプロペラ 機に似ている。主な特徴はティルトローター機と同じであるが、翼ごとティルトさせるの で、VTOL時にダウンウォッシュを受けにくいという利点がある。また、その反面遷移飛行 時に、翼の迎え角が大きくなるため、風の影響を受けやすいといった問題もある。ティル トウィング機は、ティルトローター機のように機構が複雑でないことと、4 発ティルトウ ィング方式を用いれば、重心位置を広く取り、搭載能力を高める事ができるという点で今 後の発展が期待されている。表.1-4 に各機体の簡易性能比較表を示す。 7 表.1-4 ティルトローター機とティルトウィング機の簡易性能比較 1.2.2 災害用VTOL機の選定 これらのことから、本研究ではVTOL機の中でも搭載能力の向上が期待でき、かつ翼によ る巡航が可能な、ティルトウィング型を参考にしつつ、災害時に多目的に運用できる災害 用無人機の開発を行っていく。また、今回は双発ではなく4発のQuad方式(推進機構部を前 部に2つ、後部に2つ配置して、重心位置を機体中央にし、搭載能力を大幅に向上させた機 体)を導入し搭載能力の向上をはかることとする。 1.2.3 機体コンセプトと飛行プロセス 以下(図.1-5)に機体コンセプトを記す。 図.1-5 機体コンセプト 8 以下(図.1-6)に飛行コンセプトを示す。 図.1-6 飛行プロセス ① ローター回転面を水平方向にした状態で垂直離陸 ② 上空にてローター回転面を前方に 90°ティルト ③ 上空にて前進速度を得つつ水平飛行(巡航) ④ 目的地上空にてティルト角を戻してホバリングを行い観測の実施 ⑤ 観測後は③→②→①の順でスタート地点へ垂直着陸 ⑥ 着陸後、帰投する場合は①~④同様のプロセスで行う(④の観測は除く) このような飛行を実現するためには、大きく4つの課題がある。それは以下の通りである。 ・ 安定したVTOL、ホバリングの実現 ・ 飛行方法を切り換えるためのティルト機構の開発 ・ 水平飛行を可能にする翼の選定製作 ・ 安定した遷移飛行の実現 新しい災害用の機体を実現するためにはこの課題をクリアせねばならない。よって次項 でその取り組みについて、機体の製作をメインにしながら説明していく。 9 第2章 2.1 災害用無人機の製作 安定したVTOL(垂直上昇降下)とホバリングの実現 今回の機体で特徴となるのが、課題の1つでもあるVTOL(垂直離着陸)能力である。この 部分に関しては、VTOL、ホバリング能力に特化した飛行体であるQuad Rotor機の製作を参 考にしつつ、実現を目指す。以下図.2-1,図.2-2に、私が学部時に製作したQuad Rotor 機であるQTW-2と QTW-3を記す。 図.2-1 QTW-2 図.2-2 QTW-3 これらの機体は、四方に4発のモーターを持ち、重心が機体中央にある特殊な飛行体であ り、その形状特性からVTOLとホバリングの実現を目指して製作したものである。この機体 の各パーツは左右対称になるよう配置されており、今回私が製作の参考にしている4発のテ ィルトウィング機(ヘリコプターモード時)の各パーツの配置と同様になっているだけで なく、このタイプの飛行体を飛行させる中で、安定した飛行に必要な事柄が抽出できれば、 それを新たな機体にも導入できるといった強みがある。 学部での製作時には、VTOL はなんとかできたものの、上空で機体がハンチングを起こす といった問題があった、そこでまずはその原因を探り、解決を図る中で Quad 方式の機体の 安定飛行の実現から始める。 補助資料として、QTW-3 の機体構成と制御方法について次ページに示す。 10 図.2-3 QTW-3 パーツ構成図 図.2-4 QTW-3 簡易配置図(側面) 図.2-5 ミキシングを用いた制御 この機体QTW-3基本的に、ラジコン飛行機に用いられるコントローラー(プロポ)や機器 を使用して構成されている。 11 2.1.1 ハンチングの解決(運動方程式の導入) ハンチングとは、機体が上空で滞空時に上下左右に大きく振れて安定しない状態を指す。 このハンチングは、4ローターの飛行体の安定性において解決しなければならない重要なフ ァクターである。そこで今回は、ハンチングの原因が何であるのか調べるために、QTW-3 を 用いて、この運動について、ローターと機体(body)それぞれについての運動方程式をた てて、その解決法を探った。また、その解決法がハンチングの抑制につながるかどうかに ついては、機体をテストベンチにセットして、その挙動を撮影するなどして確認を行った。 以下(図.2-6)にテストベンチ上でハンチングを起こしている機体の写真を示す。ベン チテストでは、写真中央に映っている2つのローターでのハンチングを見られるように残り 2つのローターをはずして設置している。 図.2-6 ハンチング状態(ベンチテスト) 飛行時に図.2-6のような状態が続き、場合によっては機体ひっくりかえることもあった。 12 この問題解決法として導出した式を以下に式(1),(2)としていかに示す。 機体(Body)本体の運動方程式 𝐼𝐵 𝑑2 𝜃 𝑑𝑡 2 + dθ𝐵 𝐶𝐵 𝐼𝐵 + dt 𝑑2 𝜃 𝑑𝑡 2 dθ𝐵 𝐶𝐵 dt = − 𝐶𝑎 𝑑𝜃𝑅 𝑑𝑡 ・・・ (1) : Body の慣性 : 空気抵抗 : Body 重心による復元力 kθ𝐵 𝐶𝑎 kθ𝐵 𝑑𝜃𝑅 𝑑𝑡 : ローター回転による空気力 (2)ローターの運動方程式 𝐼𝑅 𝑑2 𝜃 𝑑𝑡 2 + 𝐶𝑅 dθ𝐵 𝐼𝑅 = dt 𝑑2 𝜃 𝑑𝑡 2 𝐶𝑅 dθ𝐵 𝐶𝐺 𝑑𝜃𝑅 dt 𝑑𝑡 − 𝐶𝐺 𝑑𝜃𝑅 𝑑𝑡 ・・・ (2) : ローターの慣性 : 空気抵抗 : Gyro からの制御量 これらの高階の連立微分方程式を Runge-Kutta 法で解く。 高階の微分方程式と同様に 一階、二階の微分を新たな変数としておいて、連立一階常微分方程式に置き換えて解く。 13 この高階の微分方程式の解法により、ハンチングを抑えるためには以下の3つの解決法が あることがわかった。 ・ ローターの慣性を小さくする ・ 機体(body)の慣性を小さくする ・ ジャイロの応答性をよくする よってこれを基に、機体(body)とローターに関しては軽量化への取り組みで、ジャイロ に関しては、ラジコンヘリコプターに使用され、複数のモーター制御が可能な3軸ジャイロ を使用することで解決を図った。各取り組みについては以下の項目でそれぞれ見ていく。 2.1.2 プロペラの製作と性能試験 先に示したように、ハンチングを抑制するにはローターの慣性を小さく抑える必要があ ることがわかった。使用していたプロペラの重量(15g)が原因の一つと分かった。とそ こで、軽量なプロペラを自作(3g)してハンチングの抑制効果についてベンチテストで検 証を行った。以下(図.2-7)に製作プロペラ一覧を示す。左上から順に試作・試験・改良 を継続しておこない、右下がもっとも新しい形状になっている。 図.2-7 製作プロペラ一覧 14 プロペラ試作の方針決定に際して、まずは図.2-8に示すように試験用モーターマウント を製作し、薄翼プロペラを模した厚紙プロペラ(翼根にねじりを付けたもの)を用いて回 転試験を行った。回転試験では、高速回転時に翼端でフラッター現象によるバタツキや、 強度不足による反り返り等を確認した。その結果、翼根本の強度強化や、軽量な素材での 製作の必要性を確認した。図.2-8に製作した試験用モーターマウントを、図.2-9に厚紙 プロペラを示す。 図.2-8 試験用モーターマウント 図.2-9 厚紙プロペラ 試験用モーターマウントを利用した回転試験の様子を図.2-10に示す。 図.2-10 回転試験 15 プロペラは、軽量化と加工のしやすさから、スチレンボードを加工し、表面をビニール テープで補強して製作した。プロペラの重さは2g~5gで、薄翼(翼厚1.5mm)で、かつ幅広 なタイプ(翼幅20cmで翼弦長2cmのプロペラ①と翼弦長3cmのプロペラ②のようなもの)と、 前縁・後縁を削いだプロペラ③のような竹トンボタイプの物を複数作成した。以下(図. 2-10)にその製作例を示す。 ① 2g ② 4g ③ 3.5g 図.2-10 プロペラ製作例 図.2-10に示す幅広のプロペラ②,③は翼面積を大きくせいさくして、揚力の増大と、 ハンチングの際にこれが抵抗となりその動きを抑制することを狙っている。また、プロペ ラ③については、このプロペラサイズのレイノルズ数Reが低レイノルズ数域であることか ら、翼断面は翼型ではなく、翼特性のよい平板翼を用い、かつ前縁と後縁を削いで鋭くし、 前縁での剥離の再付着と後縁でのスムーズな流れの実現をはかったものである。これらの プロペラは、実機に乗せてのベンチテストと試験用モーターマウントに設置して、回転挙 動や推力等について試験を行った。回転挙動については、高速度カメラ、連続写真等にて 確認を行った。 試験結果は、表.2-1のようになった。 表.2-1 プロペラ試験結果 16 プロペラ①については、ハンチング抑制度合いが一番大きく、ベンチテストで機体にの せてハンチング試験を実施した際に、外乱を与えて2~3秒で、ハンチングが収まった。ま たジャイロ感度が30%ほどでも、外乱を与えて1秒以内に初期位置に戻ることも可能になっ た。以下にその実験時の写真(図.2-11)を示す。 図.2-11 ハンチングの抑制試験(プロペラ①) プロペラ②については、翼面積を大きくした分、スラストの向上は見られたが、翼根に かかる力が大きくなるため補強が必要となり、重量が増加した。それによりプロペラ①に 比べてハンチング抑制の度合いが尐し下がった。 プロペラ③については、この3つのプロペラのうちでもっともスラスト量が多かったが、 ハンチングの抑制度合いはもっとも低かった。 以上の結果を踏まえて、プロペラ②の幅広の形状を踏襲しつつ、根本の補強と、軽量化 を図ったのが以下(図.2-12)のプロペラ④である。 17 ④ 3g 図.2-12 プロペラ④ プロペラ④は、翼根の補強にはバルサ材、翼表面はビニールで補強し、重量も3gに抑 えてプロペラ②での問題点解決を図っている。また、剥離が生じやすい前縁の翼端方向の 一部分と、後縁の翼端方向一部分をそいで重量軽減を狙ったプロペラ⑤も図.2-13に示す。 ⑤ 3g 図.2-13 プロペラ⑤ 結論として、今回のプロペラの製作では、軽量化とハンチングの抑制には至ったが、VTOL /ホバリングに必要な200g以上の推力の発生には至至らなかった。よって今回は応急手段と して、軽量で、強度の十分な市販のプロペラを代用することとした。以下にそのプロペラ 図.2-14を示す。 図.2-14 GAUI 330X 8in (4g) 18 2.1.3 モーターの選定と性能試験 モーターに関しても、ローター慣性を小さくとの考えから、軽量で飛行機ラジコンに用 いられるブラシレスモーターを採用し、今回採用したプロペラでの回転試験を行った。 試験項目としては、推力測定(最大スラスト)、回転数測定(最大スラストの時と5000rpm 近辺)、モーター軸にかかる最大軸力の測定、吹きおろしの影響調査等である。また、今 回使用するモーターはラジコン飛行機メーカーでも非常にモーター性能に定評のあるもの を選んでいるが、モーター(Hyperion社製 Z2205-38×4個)自身と、使用するバッテリー の種類や状態により性能にばらつきが出る。よって今回は使用するバッテリーは、同種類 のバッテリーを複数用意しそれぞれフル充電した上で試験に用いる事とした。バッテリー の種類としては、軽量で高出力なリチュームポリマーバッテリーで、バッテリー内の各セ ルのバランスを取ることのできるバランス充電用コネクター付の物を採用する。以下にモ ーター(表.2-2)とバッテリー(表.2-3)を示す。 表.2-2 ブラシレスモーター 表.2-3 リチュームポリマーバッテリー 19 先に示したモーターとバッテリーの他に、今回から新たに機体に使用する機器も含めて 以下に示す。 表.2-4 JR社製 9ch プロポ 表.2-5 JR社製 7ch 受信機 表.2-6 GUEC社製 10A ESC 表.2-7 GAUI社製 330X用ジャイロ ジャイロに関しては、従来用いていた1軸ジャイロ(×3)から4ローターに適した3軸ジ ャイロ(表.2-7)を用いて、応答性(感度)の向上を図る。 20 これらをモーターやバッテリーと組み合わせて、各試験を実施した。以下(図.2-15) に 計測装置構成図を示す。 図.2-15 計測装置構成図 計測装置は、デジタル秤の上にモーターマウントを乗せ、これにモーターとプロペラを 設置した構成になっている。計測時は、吹き降ろしの影響を秤が受けないように、疑似の グランドを設けて使用する。これにより、吹き降ろしの影響を排除し、モーター軸にかか る軸力のみを測定することが可能となる。また、この疑似グランドの高さをかえて測定す る中で、吹き降ろしの影響を受ける高さや、プロペラ回転面と疑似グランドの間の圧力変 化が測定に及ぼす影響も知ることができる。回転数の計測には、赤外線回転計測器を用い てスラスト試験と同時に計測する。 試験では、製作する機体のプロペラ回転面の高さを70 mm、110 mmの2通りとしてまず は計測をスタートさせる。加えて、実際の飛行時のプロペラ回転数を5000 rpmとし、その 近辺でのスラスト量も合わせて計測していく。 使用するバッテリーは、表.2-3で示したものを4個(1~4と番号を付けて管理)用いて、 1つのバッテリーつき10回、1つの実験につき計40回の測定を実施し、5000 rpmのときのス ラスト量の平均値を算出を行う。また、各試験を実施するに当たり、バッテリーはフル充 電した上で用いている。 21 【最大スラスト実験①】 ➡疑似グランドからプロペラ回転面までの距離が70 mmの場合の最大スラスト量の測定 表.2-8 最大スラスト試験結果(距離:70 mm) 表.2-9 試験全体の平均値(距離:70 mm) 22 【最大スラスト実験②】 ➡疑似グランドからプロペラ回転面までの距離が110 mmの場合の最大スラスト量の測定 表.2-10 最大スラスト試験結果 (距離:110 mm) 表.2-11 試験全体の平均値(距離:110 mm) 23 以下に、最大スラスト試験結果をグラフ化したものを示す。 410 バッテリー1 バッテリー2 バッテリー3 バッテリー4 400 スラスト[g] 390 380 370 360 350 340 330 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 試験回数 スラスト[g] 図.2-16 最大スラスト量(距離:70 mmの場合) 400 バッテリー1 390 バッテリー2 380 バッテリー3 370 バッテリー4 360 350 340 330 320 310 300 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 試験回数 図.2-17 最大スラスト量 (距離:110 mmの場合) これらの結果から、最大スラストは疑似グランドからプロペラ回転面までの距離が70mm の方が大きくなっている。これは吹き降ろしによるグランドエフェクト(地面効果)によ るものと考えられる。よって今回は、地面から距離の大きい方の110mmの場合をメインに 考えて、モーター1つの最大スラストは340g(6300rpm)とする。また、今回は4個セット のモーターとプロペラを用いるので、機体全体での最大スラストは1360gとなる。 24 【5000 rpmでのスラスト試験①】 ➡疑似グランドからプロペラ回転面までの距離が50 mmで、プロペラ回転数が5000 rpm近 傍のときのスラスト試験 表.2-12 スラスト試験(距離:50 mm) 表.2-13 試験全体の平均値(距離:50 mm) 25 【5000 rpmでのスラスト試験②】 ➡距離が70 mmで、プロペラ回転数が5000 rpm近傍でのスラスト試験 表.2-14 スラスト試験(距離:70 mm) 表.2-15 試験全体の平均値(距離:70 mm) 26 【5000 rpmでのスラスト試験③】 ➡距離が110 mmで、プロペラ回転数が5000 rpm近傍でのスラスト試験 表.2-16 スラスト試験(距離:110 mm) 表.2-17 試験全体の平均値(距離:110 mm) 27 【5000 rpmでのスラスト試験④】 ➡距離が150 mmで、プロペラ回転数が5000 rpm近傍でのスラスト試験 表.2-18 スラスト試験(距離:150 mm) 表.2-19 試験全体の平均値(距離:150 mm) 28 【5000 rpmでのスラスト試験⑤】 ➡距離が200 mmで、プロペラ回転数が5000 rpm近傍でのスラスト試験 表.2-20 スラスト試験(距離:200 mm) 表.2-21 試験全体の平均値(距離:200 mm) 29 【5000 rpmでのスラスト試験⑤】 ➡距離が250 mmで、プロペラ回転数が5000 rpm近傍でのスラスト試験 表.2-22 スラスト試験(距離:250 mm) 表.2-23 試験全体の平均値(距離:250 mm) 30 以下に、プロペラ回転数5000 rpmで、疑似グランドからプロペラ回転面までの距離を変 更した際の各スラスト試験の集計結果表とそれをグラフ化したものを示す。 表.2-24 各スラストの集計結果 235 スラスト[g] バッテリー1 230 バッテリー2 225 バッテリー3 バッテリー4 220 215 210 205 50 70 110 150 200 250 疑似グランドからの高さ[mm] 図.2-18 距離を変更した際のスラスト量変化(回転数5000rpm固定) このグラフから、回転数一定(5000rpm)の場合、プロペラ回転面が疑似グランドから 離れるほどに、スラスト量が減尐していることがわかる。これはグランドエフェクト(地 面効果)によるものと考えられる。 この効果は、機体が離陸する際には役に立つが、高度が高いと地面効果分のスラストは なくなるので、機体設定の際にはこの効果を考慮に入れずにスラストと機体重量の設定を 行う必要がある。 グラフからは、プロペラ回転面から100mm前後までの範囲で地面効果 が働いていると考えられる。 31 2.1.4 機体の形状とサイズの選定 これまで製作してきた機体は、アルミ材で製作してたが、機体重量が重くなり、機体(body) の慣性が大きくなってしまう。そこで、QTW-3 の機体を、軽量な木材等に変更して、機体 の軽量化により機体の慣性を小さくすると、どの程度ハンチングの抑制になるかを確かめ た。 機体の形状としては、これまでの機体同様にX型のものと、コンセプト機体に用いる井 型ものを使用した。機体のサイズとしては、人が持ち運びできる1m四方の大きさをめざし ている。(ただしコンセプト機は翼がつくので、2m四方に収まる範囲とする)まずはX型 を木材とカーボン材のハイブリッドに変更した。製作機体を図.2-19に、機体骨格を図. 18示す。 図.2-19 木製機体(X型) 図.2-20 木製機体(X型)の骨組み 32 機体骨組み重量は114gと非常に軽量になり、飛行試験ではハンチングを起こすことなく 安定した飛行を見せた。図.2-21に飛行験の様子を示す。 ※この飛行試験ではJR 社製7ch X2720プロポと72MHz 7ch R770S受信機を使用※ 図.2-21 木製機体飛行試験 木製機体では、ハンチングの抑制はできたが、強度不足で機体が破損しやすかったため、 次号機(図.2-22)ではカーボン板材のみの機体を製作した。この機体でも木製機体同様 の安定飛行を見せた。図.2-23に飛行試験の様子を示す。 図.2-22 カーボン製機体(X型) 図.2-23 カーボン製機体(X型)飛行試験 33 このようにX型はアルミから木材、カーボンへと変更しつつ、機体(Body)の慣性を小 さくする中で、ハンチングの抑制に成功している。これに倣い、コンセプト機体の骨組み になる井型状の機体でも同様の流れで、製作を行った。以下にその機体と飛行試験の様子 を示す。機体素材として、9mm×9mmの角柱を使用している 図.2-24 木製機体(井型) 図.2-25 木製機体(井型)飛行試験 飛行試験では、井型はX型同様に安定した飛行を見せたが、構造上機体の重心バランスを 取るのが難しく、飛行中に生じた機体の捻じれや歪みが飛行を不安定にさせる場面も見ら れた。また、今後は新たにティルト機構やそれを可動させるサーボモーターなども載せて 重量が増えることも考えると、機体の強度の向上と軽量化をさらに進める必要がある。 よって最終的には、機体をカーボン板材やカーボン角パイプを用いてこの両立を図ること とする。 ※この後に製作した改良機体については、試作したティルト機構をのせているので、次項 のティルト機構の説明の際に、改めて紹介することとする※ 34 2.2 ティルト機構部の製作(飛行方法切り換えの実現) 今回製作する災害用無人機の特徴としてVTOLが可能であり、また飛行形態を飛行機型か らヘリコプター型に切り替えられる点にあることは先に述べたが、それを実現するために は、ティルト機構が必要不可欠である。そこでこの項目では、ティルト機構実現に向けて の取り組みを報告する。ティルト機構の製作手順としては、簡易モデルの試作、可動試験、 問題があれば改良するといったサイクルを繰り返し行い最終的に機構の実現を図る。 2.2.1 モーターマウントの製作 ティルト機構部の構成としては、モーターマウントと一体型のティルト部をリンクを介 してサーボモーターに接続し、プロポの操作により任意の角度にモーターマウントをティ ルト(傾斜)させ、プロペラ回転面を変化させ飛行方法の切り替えを行うといった方法を 考えている。このモーターマウントは機体の骨格にヒンジ(下図の黄色い部分)をもうけ て機体の骨組みに接続し、下図に示す赤線部分を軸に任意の角度まで回転できるように製 作する。 モーターマウントと機体骨組みとの接合に関しては、以下の図.2-26,図.2-27,図. 2-28のコンセプト図にて説明する。 図.2-26 モーターマウントと機体骨組みコンセプト図(組み立て前) 35 図.2-27の状態は、水平飛行時のモーターマウントの配置を表している。 図.2-27 モーターマウントと機体骨組みのコンセプト図(組み立て後) 組み立てた状態から、ティルトした状態でのモーターマウントの位置を以下に示す。 このモーターマウント位置はVTOLとホバリング飛行時を想定している。 図.2-28 モーターマウントと機体骨組みのコンセプト図(ティルト状態) 36 モータマウントは、モックアップ(図.2-29)を製作後、機体にマウントして可動できそ うか検証したのちに、軽量で強度の高いカーボン材で製作する。以下にバルサ材(厚さ2m m)で製作したモックアップを示す。 図.2-29 ティルト用モーターマウントのモックアップ 図.2-30に、モックアップを機体骨組みに組んでの可動時のマウント位置を示す。 図.2-30 モックアップマウント図 37 モックアップを製作後は、実際に使用するモーターとプロペラを搭載して、可動に関し ての問題の抽出を行った。その結果、モーターのモーター軸(マウント面側)がティルト 時に機体骨組みと接触してしまうという問題があることが分かったが、モーターのマウン ト高さを調整することで解決を図った。また、接合部にかかる力を分散させるために、ヒ ンジの数を増やすなどの対策を行った。 図.2-31 モーターとプロペラをマウントしての可動調査 ヒンジに関しては、金属製の物は使用せず、厚手の布にビニール加工を施したものを織 り込むようにして接着し、軽量で折り返しに強い仕様にしている。図.2-32にヒンジの取 り付け図を示す。実機にもこの布製ヒンジを採用する。 図.2-32 布製ヒンジの取り付け図 これまで述べてきた、モックアップでの可動調査を基に、実際にプロペラを最大で回し た状態でモーターマウントにかかる曲げモーメント、応力を計算し、それに耐えうるよう にカーボン板材(厚さ2mm)を加工してモーターマウントを製作した。加工はジグソーを 使用し、金鑢で仕上げを行った。図.2-33に製作したカーボン製モーターマウントを示す。 図.2-33 カーボン製モーターマウント 38 2.2.2 サーボモーターとリンクの設置 ティルト機構を実現させるために、モーターマウントとサーボモーターをリンクを介し て接続し、可動させる。以下にティルト機構の可動部のコンセプトを示す。 図.2-34 ティルト可動部のコンセプト 以下に今回使用するサーボモーターを示す。 表.2-25 ティルト用サーボモーター 上に示したコンセプト図に基づいて、木製機体にマウントして可動試験を実施した。試 験ではモーターをフル回転させた最大スラスト340gの状態で試験を行っている。 図.2-35 最大スラスト時のティルト可動試験 39 図.2-35の可動試験で、最大スラスト時でも安定した可動が確認できたので、このティ ルト機構を搭載したモックアップ機体を製作した。図.2-36にその機体を示す。このモッ クアップ機体の製作により、モーターマウントやサーボモーターなどの増設による機体重 心位置のずれが生じやすいということや、機体のたわみやねじれも合わせて対策をとる必 要があることがわかった。これらについては、機体素材の変更(カーボン材)や機体骨組 みをトラス構造にして強度の向上などて対処する。 図.2-36 モックアップ機体(ティルト機構搭載) モックアップ機体で得た問題点を解決して製作したのが図.2-37に示す機体である。機 体骨組みには外径が10mm×10mmのカーボン角パイプを使用して軽量化と強度の向上を 図っている。機体骨組みに関しては、この機体形状を実機に採用する。 図.2-37 カーボン角パイプ機体 40 今回製作する機体では、図.2-37に示すように機体の前後に2つのティルト機構を持って いる。よって以下に、機体の前後それぞれののティルト機構の詳細を示す。 図.2-38 ティルト機構(機体前部)の可動の様子 単位:mm 図.2-39 図.2-40 ティルト機構(機体前部)の各寸法 ティルト機構(機体後部)の可動の様子 単位:mm 図.2-41 ティルト機構(機体後部)の各寸法 41 2.2.3 各パーツの実装と飛行試験結果 前後2つのティルト機構は、最大スラスト時でも問題なく可動することを確認しており、 このティルト機構を実機に採用し、飛行試験を実施する。以下に今回採用した機体骨組み やティルト機構をはじめとする各パーツのマウントしたものを図.2-42に示す。 図.2-42 各パーツ実装後 各パーツを実装後に、体育館にて飛行試験を実施した。飛行に関しては離陸後に機体が 左右にながれてしまっていたが、各パーツのマウント位置の調整、アンプの再設定等によ り解決し安定したVTOLを実現した。図. 2-43に飛行試験の様子を示す。 図.2-43 カーボン角パイプ機体飛行試験 42 2.3 翼型の選定と製作(水平飛行の実現にむけて) 機体の飛行プロセスでも示したように、今回製作する機体は4つの主翼を持ち、その揚力を 用いて水平飛行を行い、航続距離を稼ぐことをコンセプトの1つにしている。よって、製作 する翼に求められるのは以下の3点である。 ① アスペクト比が大きく、航続性能の良い翼の平面形であること ② 水平飛行を可能にするだけの揚力を生み出せること ③ 複数の翼を製作するので、コストがかからず、製作が容易であること これら3つの項目を達成するためにおこなった取り組みについて説明していく。 2.3.1 翼の平面形と翼型の選定 翼を真上から見たときの形状を翼の平面形といい、複数存在する。以下の図.43に示す。 図.2-44 翼の平面形の種類 この3種類の中で、今回は矩形翼を採用する。採用の理由としては、アスペクト比が大き く、航続性能の向上がは図れるという点と、製作が容易でコストが抑えられるといった点 が挙げられる。アスペクト比が大きいことの利点としては航続性能の向上の他に、風圧中 心が移動しにくく飛行が安定しやすいといった点が挙げられる。以下に、アスペクト比の 計算式を示す。 b2 A S A:アスペクト比 b :翼幅 S :翼面積 アスペクト比はこの式で求まるが、矩形翼の場合は翼根と翼端の翼弦長が同じなので、単 純に翼幅÷翼弦長で求めることができる。 43 矩形翼の翼弦長については、機体に翼を設置した際の機体骨組とやプロペラとのクリア ランスを考慮して、0.2mとした。以下に、この翼弦長を用いて計算したレイノルズ数を示 す。レイノルズ数の算出には以下の式を用いた。 Re U:流速 U :代表長さ(翼弦長) :動粘性係数 ここでの流速は飛行速度5m/secとし、代表長さは翼弦長の0.2m、動粘性係数は20℃の乾燥 空気の1.512×10-5 m2/secを用いた。以下に計算結果を示す。 (概略計算では数値をmmに単位換算し、空気の動粘性係数を15として計算すればよい) Re=6.6×104 結果としては、レイノルズ数Reは6.6×104となり、低レイノルズ数での飛行となること がわかる。よって、低レイノルズ数での飛行となることを考えた翼型を選定する必要があ る。よって今回は、そりの大きな一般的な翼型は採用せず、低レイノルズ数での翼特性の 良い、前縁と後縁を削いで鋭くした薄翼(平板翼)を採用する。(薄翼であれば、前縁で 剥離しても再付着し、境界層が厚くなり、乱流に遷移しやすい。) 以下に、今回使用する平板翼の翼断面を示す。 単位:mm 図.2-45 薄翼(平板翼の前縁と後縁を削いで製作) 翼の平面形と翼型についてまとめると、今回の機体では航続性能の向上と低コストで製 作が容易な矩形翼を採用する。翼型に関しては、低レイノルズ数であることを考慮して薄 翼(平板翼の前縁と後縁を削いで鋭くした形状)を採用する。これらをふまえて、翼の製 作時には、空力中心を翼弦線の前縁から25%として主桁を設置する。また、翼厚について は5mmとする。(飛行試験後に翼厚:3mmの翼も製作した。) 44 2.3.2 翼の揚力計算(翼サイズの選定) 機体の飛行プロセスでは、上空からの滑空時に得た機体の前進速度から翼の揚力を発生 し、水平飛行に遷移する。よって、機体重量を支えるに足るだけの揚力を機体前後の翼に て生み出す必要ある。以下に揚力の計算式を示す。 L:揚力 1 L AU 2 C L 2 :密度 A:翼面積 U:飛行速度 C :揚力係数 L 翼面積Aについては、翼弦長の範囲を0.1m~0.2m、翼幅の範囲を0.5m~1.5mとした上で、 それぞれ組み合わせて、揚力L≧機体重量となる組合せを採用する。機体重量としては600g ~650g(5.88N~6.37N)とする。計算ではCL:1,ρ:1.25kg/m2,U:5m/secを使用。 以下に実際の計算結果を示す。 表.2-26 前翼(前部の2枚で1つの翼とする)で発生する揚力L(N) 後翼についても同様に後部の2枚で1つの翼とみなす。よって、上の表の数値を2倍したもの が機体の翼全体での揚力となる。 表.2-26での計算結果と、前項で述べたアスペクト比の大きな翼を選択するといった観 点から、翼弦長0.2m、翼幅1.0mと1.2mを今回採用する。 ※翼幅は一般的に右翼端と左翼端を結んだ距離(胴体部も含む)をいうが、今回製作する 機体は胴体に位置する部分の幅が大きいため、この部分は含まず、前部2つの翼の幅だけを 考えて計算している※ 45 2.3.3 翼の製作 選定を行った翼の平面形、翼型、サイズに基づいて翼を製作する。翼の素材としては、3 ~5mm厚のスチレンボード、バルサ、ビニール製翼フィルム、翼紙などを使用し飛行試験 と合わせて重量や形状を変更、改良しながら製作にあたった。以下に製作した翼を示す。 ※表内の( )は前部の翼2つを1つとみなした場合を意味する、後部も同様※ 図.2-46 製作翼一覧 46 先に示した主翼の製作と並行して、水平尾翼と垂直尾翼の製作も行った。水平尾翼と垂 直尾翼の役割は、その揚力によって機体を空中に支える事よりもむしろ、機体の安定を保 つためのモーメントや、機体の姿勢を変えるためのモーメントを発生させる働きにある。 本機体に採用する理由についても同様である。特に今回は翼が平板翼であるため、水平飛 行時に、翼の迎角の増大に比例して揚力もまた増加しやすい、そのため機首が持ち上がり やすく、水平飛行を持続できなくなる恐れがある、よって飛行姿勢の維持という点で尾翼 の果たす役割は大きい。以下に製作した水平、垂直尾翼についての詳細を示す。 図.2-47 製作尾翼一覧 尾翼の機体への取り付け方法は、機体の後部のカーボン角パイプ内部に、尾翼と一体化 した径の一回り小さいカーボン角パイプを挿入してのマウントや、バルサ材にて機体のカ ーボン角パイプを挟み込んで接着すなどを用いている。また、尾翼重量とのバランスを取 るために、機首にヘッドを装着する。ヘッドには重りを取り付け可能で、これにて機体の バランス調整を行う。素材はEPPで、落下時の衝撃吸収も兼ねている。以下に、ヘッドと、 飛行試験用に、スチレンボードで製作した離陸用マウント台を示す。 図.2-48 ヘッド 図.2-49 離陸用マウント台 47 2.3.4 完成機体紹介 以下に、今回製作した機体を示す。(1つの機体を改良しながら使用する。) 図.2-50 QTRシリーズ完成機体一覧 ※飛行試験を繰り返し実施しながら、改良を加えてQTR-1からQTR-3に至っている。※ 48 第3章 3.1 飛行試験 飛行試験の実施 製作した機体の飛行試験を実施する。ここでは、QTR-1からQTR-3に至る過程を追いな がら、どのように機体を改良し、いかに飛行プロセスの ①限られたスペースからの垂直離陸、 ②ティルト機構を用いたホバリングからの遷移飛行、 ③遷移滑空からの水平飛行などの実現 の実現を図ったかを述べていく。以下に改めて飛行プロセスを示す。 (図.1-6) 図飛行プロセス 3.1.1 飛行試験の概要 飛行試験場所は、外乱の尐ない屋内空間という事で大学の体育館を使用した。理由とし ては、屋外では飛行時の天候や風向き、風速など、同一の条件下で飛行試験を実施するこ とが難しく、飛行時に問題が生じたさいに、それが機体自身の問題なのか、外乱によるも のなのか比較や検討が難しいという点があるためだ。最終的には、屋外での使用に耐えう る機体に仕上げていくが、処女飛行の段階では、飛行中の問題抽出や比較検討が容易にな るように、外乱の尐ない屋内という飛行条件下で飛行試験を実施した。 飛行試験場所 : 高知工科大学 体育舘 (バスケットコート2面分を使用) 試験項目 : 垂直離陸とホバリング,滑空からの水平飛行,遷移飛行 評価方法 : 各試験項目を写真・動画の撮影により検証(飛行プロセスの達成度) 安全対策 : 飛行試験中の墜落による機体破損を防ぐため、機体下部に釣り糸を 結び、緊急時には釣竿で機体を釣り上げて衝突を回避する。 49 3.1.2 滑空からの水平飛行試験 カーボン角パイプ機体での飛行については、前章にて確認しているので、飛行試験を行 うにあたり、今回の機体の特徴の一つである滑空からの水平飛行についての試験からスタ ートさせる。試験方法としては以下の通りである。 滑空からの水平飛行試験は、体育館の2階で機体を手で水平に持ち上げた状態にし、(垂 直上昇後にホバリングしている状態と想定)ティルト部可動する直前をねらって手をはな して、滑空状態にして前進速度を稼がせ、翼の揚力により水平飛行をさせる方法で実施す る。以下に、機体の手持ち状態を示す。 図.3-1 手持ちからの滑空、水平飛行試験 【 QTR-1 】 まず最初にQTR-1にて滑空からの水平飛行試験を実施した。QTR-1は機体構想時の機体 コンセプトにもっとも近い形状とティルト方式になっている。以下にQTR-1を示す。 図.3-2 QTR-1 50 以下に、遷移滑空からの水平飛行試験の様子を示す。 図.3-3 遷移直後 図.3-4 遷移からの滑空 図.3-5 前進速度を得て翼に揚力が発生 51 図.3-6 翼の揚力により水平飛行へ 以下にQTR-1での試験結果を示す。 試験結果 : ホバリング状態を想定した手持ちの状態からティルトに合わせて手 を放すと、滑空状態に入り、前進速度を得て翼の揚力により体育館 の端近くまでの、直線的な20数mの水平飛行に成功した。ただし飛 行時の用力が大きかったのか、機体の高度が高めになっていった。 考察 : 機体高度の上昇については、当初想定していた機体速度5m/secより も機体速度が速かったためと考えられる。 機体速度が違えば、生 じる揚力も変わってくるので、翼のサイズを変更し翼の重量を減ら すことができる。 対策 : さらなる飛行安定化のために、主翼に上反角を付けたり、ウイング レットの装着、尾翼の調整等を行う。 このようにQTR-1 を用いての、滑空からの水平飛行については多尐の改良点はあった ものの、実現することができた。よって次の飛行試験に移ることにする。 ※他の機体については、翼の製作や離陸試験を中心に行っていたため、滑空試験は多く行 っていないため割愛する。ただし、飛行については、このQTR-1 の成功を十分に考慮し て、製作並びに改良を実施した。※ 52 3.1.3 垂直離陸とホバリング試験 遷移滑空からの水平飛行試験に続いて、同様の機体QTR-1にて、垂直離陸とホバリング 試験を実施した。以下に試験の様子を示す。 図.3-7 QTR-1 垂直離陸試験 試験結果 : 離陸当初は、機体が垂直に1mほ持ち上がったが、この段階でローターの 出せる最大スラストになってしまい、機体を上空まで垂直離陸させホバ リングするまでには至らなかった。また、離陸時に機首が持ちあがり、 後方に機体が流れることもあった。 原因 : 想定していた以上に、ローターから生み出す吹き降ろしの影響範囲が広 く、吹き降ろしが翼を押さえつける結果となってしまっていた。また、 翼の重量が重く、機体重心が機体後方に移ってしまっていた。(確証は 得ていないが、機体が離陸後、後方に流れる原因には、機体バランスの 問題に加えて、離陸時に生まれた吹き降ろしの空気は、地面にほぼ水平 (迎角は5℃ほどついている)に設置した翼下を高速で流れているが、そ れが、一瞬ではあるが翼下に負圧が生じさせて、翼を地面に吸い付かせ ようとしたためではないかとも考えている。) 解決策 : 翼をティルトさせるティルトローター方式から、翼とティルトローター 部を一体にしてティルトさせるティルトウイング方式に切り替えて、吹 き降ろしの対策をとる。加えて、翼重量の軽減のために、一回り小さい 翼である05025Sやその肉抜きを実施してさらに軽量化を図った05025SL を搭載した軽量な機体で飛行試験を行う。 53 さきの実験結果から得た解決策を盛り込み、QTR-1に改良を加えた機体での垂直離 陸、ホバリング飛行試験を実施した。以下にその機体と飛行試験の様子をしるす。 【 QTR-2 】 図.3-8 QTR-2 ティルト方式をティルトウィング方式に切り替えた機体となっている。この方式では、 ローター部と一体となって翼がティルトする。 【 QTR-2 改良型 】 図.3-9 QTR-2 改良型 翼を一回り小さくした上に、肉抜きを実施、尾翼はバランス調整のため取り外した機体 形状となっている 54 以下に、飛行試験の様子をしるす。 図.3-10 QTR-2とQTR-2改良型の飛行試験の様子 飛行試験結果は以下のようになった。 試験結果 : QTR-2、QTR-2 改良型の両方とも、垂直離陸とはいかないまでもQTR-1 と比較して、5m前後の離陸に成功した。だが、飛行コンセプトの遷移 飛行を行うだけの十分な高度には達していない。また、QTR-2改良型 は、軽量化による翼の強度不足がたたり、飛行時に翼が折れるなどし た。 考察 : 軽量化による重量の軽減が、機体の慣性を抑え、機体の安定化につな がっただけでなく、ジャイロの反応とローターの生み出すスラストが うまくかみ合うようになり、離陸時の機体姿勢の安定性が向上した。 また、翼ついては十分に強度を考慮した上で、軽量化を実施しなけれ ば、飛行試験に耐えうるものとはならない。 対策 : 飛行に耐えうる強度をもち、かつ軽量化も図れる材料で翼を再製作す ることで解決を図る(製作した翼の05023Bに該当)。また、機体バラ ンスを崩す原因が何であるのか知るために、ヘッドや重り、尾翼等を 付け替え、取り外しを行い、原因を探る。(ジャイロの感度調整やプ ロポのスロットル操作も含む) 55 これらのことを考慮して改良した機体、QTR-3の試作機を示す。 【 QTR-3 試作機 】 図.3-11 QTR-3 (試作機) この機体は、機体バランスを再考するために、機体ヘッドと重り、尾翼を外して実験に 用いている。飛行試験の様子を以下に示す。 図.3-12 離陸直後 図.3-13 垂直上昇 56 図.3-14 上空にてホバリング 試験結果を以下にしるす。 試験結果 : 垂直離陸10m前後と不完全だがホバリング7秒間に成功した。 考察 : 機体の垂直上昇、ホバリングについては、機体(翼)の軽量化と、ジャイ ロの応答性とをうまく調整することができれば可能という事がわかった。 この飛行では、機体のヘッドと重り、尾翼を取り外していた。よってこれ らの重量や機体バランス調整が不十分であったことが分かった。 対策 : 尾翼の軽量化(軽量化した尾翼は040143Bに該当)と、機首ヘッドとのバ ランス調整をおこない、さらなる飛行安定化を図る。(QTR-3に該当) これまでの改良によって、水平飛行試験と垂直離陸とホバリング試験については、それ ぞれ個別の試験としてではあるが成功することができた。よって次ページでは、垂直離陸 から水平飛行までの飛行プロセスを一つの試験として、この試作機を完成させ、QTR-3と して飛行試験を実施する。 57 3.1.4 遷移飛行試験 遷移飛行試験では、これまで実施してきた、垂直離陸とホバリング試験から遷移滑空に よる水平飛行試験までを、1つの試験としてまとめて実施する。 試験機体としては、QTR-1の水平飛行試験とQTR-3(試作機)の垂直離陸とホバリング で得た成功例と、これまで試験結果から得た解決策を盛り込んで製作したQTR-3を使用す る。(この機体は主翼・尾翼とも軽量で機首ヘッドと尾翼のバランス調整済みである。) 図.3-15 QTR-3 以下に、QTW-3での飛行試験結果と飛行試験の様子を示す。 試験結果 : 離陸スペースから高高度まで垂直離陸して、その地点で数秒ホバリン グその後、ティルト機構の可動に合わせて、滑空後すぐに水平飛行に 遷移することに成功した。遷移時には機首が尐し上がったが、問題な く水平飛行に遷った。 考察 : 主翼と尾翼の軽量化とバランス調整、尾翼による飛行安定性の向上、 ジャイロの応答性の良い範囲でのプロポのスロットル操作等により、 安定した遷移飛行が実現できたのだと考えられる。遷移時に一瞬機種 が上がったが、尾翼により姿勢が維持され水平飛行に遷れたのだと考 えられる 58 以下に、飛行試験の様子を示す。 図.3-16 垂直離陸からのホバリング 図.3-17 ホバリングから遷移し滑空状態へ 図. 3-18 滑空からの水平飛行 このように、問題なく垂直離陸から水平飛行に遷移が可能となった。試験場所の都合上 20m前後までしか水平飛行させられなかったが、十分な距離まで飛行可能と考えている。 59 第4章 結論 今回の機体製作では、飛行の安定化に向けて以下に示す3つのポイントを重視して取りく む必要があった。 (1)ローターの慣性を小さくする (2)機体の慣性を小さくする (3)ジャイロの応答性を良くする これらの問題解決については (1)は軽量なプロペラやモーターの製作と選定 (2)は軽量で強度のある素材での翼や機体の製作 (3)は応答性の良い3軸ジャイロの導入 という方法で解決を図り、飛行の安定化を実現した。 飛行試験では、外乱のない体育館という環境下ではあるが、飛行プロセスの実現に必要 な3つの項目について重点的に飛行試験を実施し ① 限られたスペースからの垂直離陸とホバリング、 ② ティルト機構を用いての遷移飛行と滑空、 ③ 翼の揚力を用いての水平飛行の実現 各項目について、一定の成果を得ることができた。 研究全般としては、一定の成果を得ることができた。しかし、今回実現できたのは全飛 行プロセスの半分であり、かつ外乱の多い屋外での飛行を考えるとまだまだ解決しなけれ ばならない問題点が多い。よって今後さらなる機体の見直し、軽量化をはかり、災害時に 多目的に運用できる災害用無人機の実現に向けて研究開発を継続する必要がある。 60 謝辞 本研究を行うに当たり、本研究全体にわたってご指導いただきました高知工科大学 筒井康賢先生にこころより深く御礼申しあげます。 本研究を行うに当たり初期の段階から一緒に研究を進めた橋本皓大君に深く感謝す るとともに、深夜にわたり飛行試験にご協力いただいた筒井研究室のメンバー全員に深 く感謝いたします。 61 参考文献 (1) 牧野光雄,航空力学の基礎,(2001),産業図書 (2) 長谷川克,ラジコン飛行機を科学する,(1999),電波実験社 62