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ケータイビジネス 平塚元明/株式会社博報堂インタラクティブ局
第 9章 インフラ別収益モデル研究 ケータイビジネス 国内のインターネット利用者人口は、 この1年で驚くべき伸長を見せたが、そ 携帯ネットビジネス独自の収益モデル確立へ ユビキタスポータルとしての大きな可能性に期待 る力のある伝統的なライセンシー企業間 ほどの成功はもたらさないだろう。携帯 の競争へと収斂していくと見られる。 電話の狭い画面内で一連の購買行動を完 の大きな要因として真っ先に挙げられな くてはならないのが、インターネット接続 結させるという発想にはやはり無理があ ③音楽・映像販売モデル る。マス広告やPC経由のウェブページ、 型の携帯電話の爆発的な普及ということ テレビ局やレコード会社、映画会社と になる。その未曾有の普及スピードに並 いったプレイヤーの動向が注目される領域 要素とのリンケージ/ミックスによって、 行して、ケータイ周辺のビジネスも実に だ。ドコモの「M-stage visual/music」 携帯電話の対消費者マーケティングの可 めまぐるしい動きを見せている。本稿で は正面からこの領域へ分け入った野心的 能性は追及されていくことになるだろう。 は、いくつかの注目すべきビジネス事例 な試みである。著作権保護など機構上の を引きながら、ケータイビジネスの概況 整備は進んでいるが、通信速度、パケッ を把握する海図を描く。 ケータイはPC経由のネットアクセスに 比して個人への課金が容易であり、これ ケータイビジネスには、当初からB2B チャネルとの折り合い、著作権問題の解 に狙いを絞ったプレーヤーの登場が目立 釈による収益の折半方法の不整合など、 つ。PC経由のネットビジネスがもつ可能 業界構造上の課題もあり、こちらの着地 性の中心が、B2CからB2Bに移行したと 点はまだ混沌としている。 いう歴史を踏まえたものであろう。純粋 がビジネスプレーヤーにとって非常に魅力 的なポイントとなっている。キャリアが通 企業間の収益モデル ト課金体系との折り合いといったインフ ラ水準での課題が残る。また、料金設定、 消費者からの直接収益モデル リアル店舗など、複数のマーケティング なバックエンド領域を除外して、フロン ④ネットワークゲームモデル トに注目してみると、大きく2領域が主戦 話料との一括請求を行うことで、手間な iアプリなど、アプレットの実行可能な 場になっている。1つはいわゆる狭義の く確実に数百円単位で課金できるシステ 携帯電話の登場で、にわかに注目される ASP、もう1つは広告マーケティングサー ムが実現したことは、次に挙げる多くの ようになった分野だ。現時点ではスタン ビスである。 データ販売ビジネスを生んだ。 ドアローンのゲームアプレットの販売が中 心だが、この段階では広義において②の ①狭義のASPモデル アクセサリー販売モデルと解釈できる。新 ASPモデルとしては、掲示板サービス、 しい可能性は、ネットワークゲームという 決済システム、メール配信エンジンなど、 PC環境下で実現しにくかった情報閲覧 形態にある。メールや出会い系サイトの PC経由のウェブベースで定着した仕組み の有料化に成功している。一度申し込め ように携帯電話と親和性の高いC2Cコミ の携帯電話サイト版が数の上では中心に ば、自発的な解約が無い限り月次の購読 ュニケーションを活かしたアイデアの競争 なっている。ビジネスモデルもPC時代の 料が落ちてくる仕組みの、いわば定期購 に焦点が集まる。ゲーム専用機に通信機 ものをそのまま適用しているから、基本 読スタイルである。今後は、時刻指定の 能を追加するという形態での参入(プレ 的には新鮮味はない。携帯サイトならで プッシュメール、アプレットによる待ち受 イステーション2+ iモードの「Check-i- はというものに注目してみると、たとえば け画面型の閲覧方式など、機能面での差 TV」や携帯型ゲーム機の動向など)も HTMLファイルを異機種間、異キャリア 別化が競争の焦点になりそうだ。 あり、携帯電話単体での可能性は未知数 間の書式に自動変換してくれるページ変 だが、今後さまざまな実験が盛んになっ 換エンジンといったものがピックアップで てくると思われる。 きる。だが、PC時代がそうであったよう ①情報販売モデル 新聞社や出版社などの情報サイトは、 ②アクセサリー販売モデル iモード普及初期に注目を集めた、い に、最終的にはコスト競争ということに わゆる着メロ・待ち受け壁紙などのデー その他、コンシューマーからの直接収 タダウンロード販売を指す。情報という 益モデルという点では、EC、つまりモバ よりは、ストラップや筐体に貼るシール イル・コマースの可能性も多く語られて ②広告マーケティングモデル といったケータイを彩るアクセサリーのデ いる。たしかに航空券等のチケット予 1)キャリア+広告会社の動き ータ版と解釈するのが適当だろう。その 約・販売など、携帯電話との親和性が高 PC経由のウェブでは、複数のネット専 意味では、魅力的なコンテンツを調達す い商品分野もあるが、多くは期待される 業広告会社が設立されて注目を集めた。 なるだろう。 インターネット白 書 2 0 0 1 163 ビジネス 第 第 2 部 9章 インフラ別収益モデル研究 それらの広告会社がPCと同じビジネスス れた電話番号を押して普通に電話をかけ 見込めず、体力勝負の段階に入ってきた キームのまま、取り扱う広告物件を拡張 ればいい。音声応答の後、電話を切って ことが見てとれる。 する形態での参入が見られる。 数秒後(CTIサーバーの発信者番号検出 携帯電話環境下でのポータルは、文字 ここではしかし、キャリアが既存広告 機能を使って特定された)自分のメール 通りの意味で各キャリアの主宰する公式 会社と共同出資して立ち上げた新タイプ アドレスにメールが送られてくる。そのメ メニューであり、日々大きなトラフィック の広告会社に注目したい。ドコモ+電通 ールには勝手サイトのURLが記載されて が発生している。前項で挙げたとおり の「D2コミュニケーションズ」 、KDDI+ いて、それをクリックすれば、そのままサ 「キャリア+広告会社」の設立した新し 博報堂等の「A1アドネット」 、Jフォン+ イトに接続される仕組みである。電話を い広告会社の専売物件として、それぞれ CCIの「Jモバイル」がそれである。いず かけるだけ、というのが幅広い層に受け 収益が上がりはじめたところだ。 れも当該キャリアの公式メニュー、公式 入れられるポイントとなりそうだ。2001年 これだけを考えると非常にスタティック サイト部の広告マーケティング商品を一 4月には東芝EMIが椎名林檎の新曲プロ な状況に見えるが、将来的にはここのポ 手に取り扱う。キャリアの手にあるメニ モーションに活用。新聞広告や街頭ビジ ータル編成権がキャリア以外の広く一般 ュー(=ポータル)機能・(利用の許可 ョンとの組み合わせで話題を集めた。 の事業者に公開される可能性も出てくる を得た)ユーザー情報などとの深い階層 3) メールニュース問題 だろう。そうなればPC経由の有力ポータ での連携で、高い商品価値をもつ独自の メールニュースはPC経由のマーケティ ルサイトやISPといったプレーヤーが参入 広告マーケティング戦略が開発されるだ ングでも最も基本的なメニューとして定着 し、非常にダイナミックな状況に移行す ろう。 している。当然、携帯電話にも敷衍され る。 「ユビキタス型のポータル」 、つまり遍 2)独自エンジンの登場 ているが、ここへきてスパムメール問題が 在するポータルというコンセプトでの競争 一方、キャリアにとらわれない中立的 大きくクローズアップされていることには が本格化するだろう。 な広告マーケティングサービスのために独 注目しておきたい。PC経由でも悪質な業 自のエンジンを提供する会社も登場して 者によるスパムは存在したが、着信音を テレビから──どのデバイスの液晶窓を きている。携帯サイトでは公式以外のい 鳴らして時間も場所も問わずに割り込ん のぞいても、同じ業者が提供するあなた わゆる勝手サイトには、アルファベット入 でくるうえに受信料金が発生する携帯ス のマイ・ポータルページが表示されるとい 力が不便な携帯電話のテンキーでURLを パムメールを送られたときの心象の悪さた うイメージだ。あらゆるデバイスをバーテ 入力してアクセスせねばならない。国内 るや、その比ではない。近々業界あげて ィカル(垂直)に統合したポータルサイ の主要広告主の大部分が公式メニューに の何らかの対策が必要になるだろう。 トである。携帯電話が一日中ユーザーに 入り込めていない現在、この問題点への PCから、PDAから、情報家電から、 最も密着して動くデバイスだとすると、そ 効果的なソリューションには大きな需要 ユビキタスポータルという の液晶窓はユビキタスポータル事業者の があるだろう。 収益モデルへ 主戦場になるはずだ。そうなると、ポー たとえば、勝手サイトにコードナンバー タルというビジネスモデルは現在語られて を発行し、ユーザーが自社サイトでその 「ポータル」という言葉が人口に膾炙し いる次元とは異なった次元でとらえなお 番号を数字入力するだけでリンクを発生 て久しいが、 「とにかく大量のアクセス数 す必要がでてくる。その変容の可能性に させる「短縮番号システム提供型」や、 を稼いで広告スペースを販売する」とい ついて、今あらためて一考しておくことは 携帯電話の充電ソケットに小さな機器を う広告収入依存型の収益モデルには、疑 無駄ではないだろう。 挿入すると、自動で特定の勝手サイトを 問を呈する声が高くなってきている。た 表示する「ハードウェアアタッチメント型」 しかにPC経由のポータルサイトの収益状 が挙げられる。前者は番号発行料金が、 況を見ると、これまでのような急成長は (平塚元明 株式会社博報堂 インタラクティブ局) www.keitaiget.com (携帯電話専用サイト) 後者はアタッチメント機器のカスタマイズ 主要プレーヤー 販売が収益モデルとなる。しかし若干煩 雑さが残るためか、いずれも採用実績は 増えていないようだ。 ここでは、注目したい新サービスとし て「ケータイGET」 を挙げてお きたい。URLの代わりに電話番号を用い るアイデアが面白い。URLをタイプする のではなく、各勝手サイトごとに発行さ 164 インターネット白 書 2 0 0 1 消費者 情報販売 新聞社・出版社・通信社 アクセサリー販売 ライセンシー企業・芸能プロダクション 音楽・映像販売 テレビ局・レコード会社・映画会社 ネットワークゲーム ゲーム制作会社 EC 航空会社・チケット販売代行会社・各種小売業 図 1 携帯電話におけるB2C(対消費者)収益モデル