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人工湿地(Constructed Wetland)による排水処理 ハ イ ブ リ ッ ド シ ス
第13回日本水環境学会シンポジウム講演集(2010年9月) 人工湿地(Constructed Wetland)による排水処理 東北工業大学環境情報工学科 矢野 篤男 Treatment of Waste Water using Constructed Wetland by Tokuo YANO (Tohoku Inst. of Tech.) 1. はじめに あたりの浄化能が高く冬期の浄化能が優れている。主に,生 近年,欧米を中心に人工湿地(Constructed Wetland)を利用し 活排水や工場排水などの経済的な浄化法として広く EU 各国に た排水処理は低コスト,省エネルギーの処理技術と考えられて て普及している。酸化的なタテ型人工湿地と還元的な人工湿 おり,これらの国々では水質改善の手法として人工湿地に関す 地を組合わせたシステムは,特に「ハイブリッドシステム」 1) るガイドラインを作成し ,生活排水,産業排水,農業排水等の と呼ばれ,1970 年代後半にドイツで開発され,窒素除去能力 数多くの排水処理に適用している。現在,わが国では点源対策 が高いシステムとして現在,ドイツ,北欧を中心に実用化さ として小規模事業場排水,面源対策として農畜産排水について れている。 安価でエネルギーコストのかからない処理技術が求められてい 3.世界における人工湿地の取組み るが,現状では適用できる技術がないのが現状である。このよ 図 2 に EU における人工湿地の設置数を示す。 うな状況の中,わが国においても人工湿地の取組みが始まった。 そこで今回,人工湿地の海外の紹介とわが国における取組みの 現状について紹介する。 2.人工湿地について (1) 人工湿地とは わが国では現在,欧米で盛んに適用されている人工湿地につ いての研究例ならびに紹介事例は非常に少ないため,その概要 についてはほとんど知られていない。人工湿地は自然の湿地で の浄化メカニズム(沈殿,生物分解,酸化反応と還元反応の連 動)を原理として,人工的に制限条件をコントロールすること で水質浄化性能を高めたシステムである。その特徴として①省 エネルギー(低炭素) ・省メンテナンス・低コスト,②, 自然な 図 2 EU における人工湿地の設置数 景観を与える,③生物の生息場になるがあげられる。 現在,EU を中心に多くの人工湿地が普及している。特にドイ (2)人工湿地の種類 ツでは 5,500 を超える人工湿地が普及している。次いでオース 人工湿地の種類には,排水が湿地表面を流れる表面流れ方 トリアが 1,000 そしてイギリスの 800 が運転されている。さら 式と湿地表面下を流れる伏流水式がある。図 1 では A.表面流 にフランスの400,イタリアの300,デンマークの200,ポルトガル 人 工 湿 地 の 種 類 ハイブリッドシステム( ①+②) 式,B.伏流式ヨコ型,C.伏流式タテ型を示した。 の 120 の人工湿地が運転している。 この他,スイス,エストニア, ポーランド,ノールウェーなどでも多くの人工湿地が運転中で A.表面流式 ある。また,近年,アフリカ,東南アジアなどの開発途上国に スゲ,ガマなど おいても人工湿地の適用が試みられている。 4フランスの実例 ② 脱窒(還元) NO3-N → N2↑ B.伏流式横型 嫌気的(還元的) フランスでは最近の 10 年間では伏流式のタテ型人工湿地の事 例が多くなっている 2)。 ヨシ,リ-ドカナリーグラ スなど C.伏流式縦型 ① 硝化(酸化) 好気的(酸化的) Org- or NH4-N→NO3-N ヨシ,リ-ドカナリーグラ スなど 図 1 人工湿地の種類 人工湿地の技術の流れは A→B→C の順で研究開発が進んで きた。伏流式の人工湿地は従来の表面流れ式に比べ単位面積 図 3 フランス国内のタテ型人工湿地の数 155 写真 1,2 にフランス・ルシオン市の人工湿地を示す。ルシオ ある。表 1 に北海道・別海町ならびに遠別町の人工湿地での畜 ン市では市内の下水のほぼ全量を人工湿地で処理している。 産排水処理の結果を示す 3)。表で示したように別海町ならびに遠 別町の人工湿地処理水では概ね排水基準を下回っており,この 他の人工湿地においても同様な結果を得ている。 写真 1 流入水―サイフォンで流量を調節 図 4 わが国で稼働中の人工湿地 表1 別海町・遠別町人工湿地の処理水の水質 写真2 一段目のタテ型人工湿地 4.人工湿地による排水処理の適用分野 人工湿地よる排水処理法は産業,生活排水の高度処理とし て米国をはじめてとして世界各国 20 年以上適用されてきた。 従来のシステムと比べて初期投資,維持管理において低コス 6.まとめ ト,省エネルギーであり,汚濁物質の負荷変動に適応能力が高 今後,わが国の水環境保全に当たり環境基準の全国一律規制 い。欧米の事例では人工湿地による浄化の対象は下記のよう の改正,総量規制,面源対策の推進,未規制小規模事業場の規 に環境水の多岐にわたる。 制強化が必要となる。また, エネルギー問題や地球温暖化が顕在 化している現在,低コスト,省エネルギーの排水処理技術が求 □有害汚濁物質含有排出水 められる。人工湿地による排水処理法は次世代の技術としてま ○石油炭化水素 ○最終処分場浸出水 汚濁物質を含む全て ○有害金属 の排水が処理の対象 □生活排水・地表水・雨水流出水 となる。 すます重要となる。分散型の排水処理手法としての人工湿地の 実用化・普及を今後,一層進める必要がある。関係する多くの 学会・業界が連携して人工湿地に関わる情報を交換,共有しな がら,わが国,各地方の環境条件,社会的条件に適応する人工 □工業排水 湿地の開発を進めることが求められる。 □農業排水・畜産排水 参考文献 5.わが国における人工湿地の取組み わが国では 2005 年に北海道別海町にわが国初の人工湿地処理 システムが完成し,本格的な人工湿地が稼動した。その後, 2007 年に北海道遠別町に搾乳舎排水処理を行うため人工湿地が完成 した。また,2009 年 4 月に東北大学に畜産排水処理用人工湿地が 完成した。 図 4 にわが国において現在稼働中の人工湿地を示す。 図に示すように現在稼動中の人工湿地は北海道で 6 施設,東北 で 2 施設であるが,現在,施工中・検討中のものは 5,6 箇所で 156 1) H. Brix: IWA 9th International Conference on Wetland Systems for Water Pollution Control, pp.1-9, Avignon, France(2004) 2) P. Molle, A.Lienard, IWA 9th International Conference on Wetland Systems for Water Pollution Control,pp.11-18,Avignon, France (2004) 3) 加藤邦彦,井上京: Dairy Japan,57-61(2008.8)