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CEA手術時のゴアテックス® スーチャーを用いた頸動脈

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CEA手術時のゴアテックス® スーチャーを用いた頸動脈
CEA手術時のゴアテックス® スーチャーを用いた頸動脈縫合
岩手医科大学 脳神経外科学講座 教授
小笠原 邦昭 先生
はじめに
頸部頸動脈狭窄症に対し、本邦では近年、
ステントを用いた血管形成術(CAS)が盛んに行われている。
しかし、
この病変に対する基本的
治療手段は内膜剥離術(CEA)である。CASの適用はいわゆるCEAハイリスク例であり、基本的にはCEAが第一選択として行われていて、
はじめてCASの有効性を主張できると考える。CEAの手技において、
これまで頸動脈露出法、
シャントの挿入法、
プラーク摘出・断端の処理
法、パッチグラフトのあて方等が述べられてきたが、血管縫合に関するポイントを述べたものは少ない。
これまで、著者はゴアテックス®
スーチャーを用いたCEAにおけるprimary sutureによる血管縫合を400例以上経験した。
その方法と利点を紹介する。
1. 体位・皮膚切開
頸部を伸展することがポイントである。経鼻挿管を行うとより伸展できる。皮膚切開は皮膚線に
沿った横切開、縦切開のどちらでも大きな差はない。
2. 皮切・胸鎖乳突筋の剥離
皮切より顕微鏡下で行い、
しっかりと皮切部を止血する。
最初から丹念に止血していくことが、
最終的に合併症のない短時間の手術に繋がる。胸鎖乳突筋は鈍的に剥離し、筋肉の中に入らない
ようにする。
3. 頸動脈の剥離・露出
術野を浅くするため、
ゴムフックを用い何ヶ所かを牽引して頸動脈を持ち上げる。総頸動脈から
その後、
ガーゼを敷き詰め、
頸動脈全体を
内頸動脈にかけては裏面を全長にわたり剥離する。
持ち上げる。
これにより術野はさらに浅くなり、
外頸動脈の真裏に位置した内頸動脈も表面に
出すことが出来る。
ブルドック
鉗子
有窓
クリップ
4. 頸動脈遮断
ブルドック鉗子を用いて外頸動脈、総頸動脈の順に単純遮断する。内頸動脈は、
くの字クリップ
を用いて遮断する。
ブルドック鉗子のみで総頸動脈の遮断が不完全な場合は、直の有窓クリップ
を用いて反対側の動脈壁を閉鎖すれば、多くは完全遮断できる。
内圧測定
5. 動脈硬化巣の剥離
顕微鏡下で剥離面を確認しながら、
プラークの摘出を行う。内頸動脈末梢断端の切除範囲が
問題となるが、
黄色で硬いプラークと白色の正常内膜の区別は顕微鏡下では容易である。
ハサミでトリミングを行えばTucking sutureは必要ない。
6. 血管壁へのステイ・スーチャー
ゴアテックス® スーチャー(CV-7/9mm弱彎 両端針)を2等分して使用する。
この時ゴアテックス®
スーチャーは顕微鏡下で視野に治まり、
コントロールのしやすい8cm長に切る。
通常の長さの
動脈切開であれば、
ステイ・スーチャーを切開部の遠位端・近位端及びdebris抜き用の穴を
開けておくための中央2点の計4点に置く。縫合の順序は左写真①、②、③の順とする。
7. 動脈縫合
この時、針は血管壁に対し直角に入れ、外膜
まず遠位端から心臓側に向かって連続縫合を行う。
及び中膜あるいは残っている内膜を1層にして貫く。針を直角に入れなければ中膜や残っている
内膜を貫くことができず、固定ができない。
その結果、血流再開後の塞栓症や手術部閉塞の原因
となる可能性がある。
また、血管の縫い代・幅は共に縫合針直径の3∼5倍を目安とする。
さらに、
この連続縫合は後に縫縮するため、緩めに縫合しておく。
8. 縫合糸の縫縮
右手に鋭マイクロフック、
左手に結紮用摂子を用いて縫合した糸を
縫合を中央まで行ったら、
2∼3間ずつ牽引しながら締めていく。
ゴアテックス® スーチャーは強度があるが愛護的に扱う。
9. 縫合糸の結紮
縫合糸の縫縮が終了したら、中央のステイ・スーチャーと結紮する。
ゴアテックス® スーチャーは
滑りが良いため、
ノットは7回以上作成する。
10. 血管内腔の洗浄
中央にかけた2本のステイ・スーチャーのいずれかを用い、残りの部分を緩めに連続縫合する。
この間から、
debris除去のため血管内腔をヘパリン加生理食塩水で十分洗浄する。
最後に
ヘパリン加生理食塩水を圧をかけながら注入しつつ、
ステイ・スーチャーを締める。
11. 頸動脈開放・止血
頸動脈遮断開放の手順は種々あるが、最初に内頸動脈の遮断を解除し、大きなリークがないこと
を確認した後に再び遮断を行う。次に外頸動脈、総頸動脈、内頸動脈の順に開放する。
ゴアテックス® スーチャーは糸と針の直径比が小さいため、針穴からの出血は少ないが、出血
なお、
が生じた際は止血剤のスポンゼル(アステラス製薬)
とサージセル(ジョンソン・エンド・ジョンソン)
を用いて圧迫止血をする。Vaso vasorumからの出血はバイポーラで止血し、縫合糸間から出血が
生じた場合は追加縫合を必要とする。顕微鏡下に出血点を確認し、
どこから出血しているのかを
確認することが重要である。
12. 閉創
止血を確認後、閉創し手術を終了する。
おわりに
ゴアテックス® スーチャーはこれまでの経験上、強度があり切れにくく、滑りがよい糸のため、今回紹介した縫合法には最適である。
また、
PTFEの融点は327℃とされており、PP糸に比べ熱に強く、バイポーラで縫合部周囲のVaso vasorumからの出血を焼灼してもこれまで
ゴアテックス® スーチャーが切れた経験はない。
また、
これまでに経験した400例以上のCEA症例では、術後のゴアテックス® スーチャー
断裂や縫合部からの出血は経験していない。なお、通常のCEAではゴアテックス® スーチャー(CV-7/9mm 弱彎 両端針)を使用しているが、
当院では血管径が細い場合、特に女性では一段細い糸であるゴアテックス® スーチャー(CV-8/9mm 弱彎 両端針)を使用している。
著者プロフィール:
小笠原 邦昭 先生(Kuniaki Ogasawara)
岩手医科大学脳神経外科学講座 教授
昭和59年 弘前大学医学部を卒業。同年東北大学脳神経外科入局。広南病院脳神経外科病棟医長、岩手医科大学脳神経外科学講座
講師等を経て平成20年より現職。
・ (社)日本脳神経外科学会代議委員、専門医認定委員 ・ 日本脳卒中学会幹事、専門医試験委員 ・ 日本脳循環代謝学会幹事 ・ 日本脳神経核医学研究会運営委員 ・ The Mt. Fuji Workshop on CVD運営委員
・ 日本脳卒中の外科学会運営委員 ・ スパズム・シンポジウム世話人 ・ 日本核医学会評議員
・ 日本脳神経超音波学会評議員 ・ Congress of Neurological Surgeons
ゴアテックス® スーチャー
ゴアテックス® スーチャーは、PTFE(Polytetrafluoroethylene)に特殊延伸加工を施し、連続多孔質構造にしたモノフィラメントの
非吸収性合成縫合糸です。
・ 糸の曲がり癖やハネが少なく操作が容易です
ゴアテックス スーチャーは柔軟でパッケージメモリーがほとんどつきません。
・ 針穴からの漏れを軽減します
糸と針の直径が近い規格 (直径比1:1など) を使用することで、針穴からの血漏れの軽減や止血時間の短縮に寄与します。
ゴアテックス® スーチャー
糸のサイズ
近似のU.S.P.サイズ
CV-5
CV-5
4-0
CV-6
5-0
CV-7
6-0
CV-8
7-0
品番
5M02
5M12
6K02
一般の縫合糸(糸と針の直径比が1:2もしくは1:3)
糸の長さ
針の種類
糸と針の直径比
61cm
13mm(弱彎)
13mm(強彎)
1:1.0
9mm(弱彎)
12mm(弱彎)
1:1.0
9mm(弱彎)
1:1.4
9mm(弱彎)
1:1.9
61cm
6M10
76cm
7J02
7K02
8J02
8K02
46cm
61cm
46cm
61cm
※ゴアテックス® スーチャーは針穴からの出血を最小限に抑える糸と針の直径比が1:1の規格がありますが、縫合時の抵抗を減らすために
糸と針の直径比が大きい(針糸に段差がある)規格の使用を好まれる先生もいます。
販売名:ゴアテックス スーチャーS
承認番号:21200BZY00633000
一般的名称:ポリテトラフルオロエチレン縫合糸
ゴアテックス ® 、および記載のデザイン(ロゴ)は、W. L. Gore & Associates の商標です。
© 2013 W. L. Gore & Associates, Inc. / 日本ゴア株式会社 AS3623-JP1 JUNE 2013
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