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USリサーチ - みずほ総合研究所

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USリサーチ - みずほ総合研究所
NO.31
2002 年 11 月 12 日
USリサーチ
MIZUHO US RESEARCH
中間選挙後の米国をどうみるか
<要旨>
„
11 月 5 日の米議会中間選挙では、共和党が上下両院で多数党を確保した。民主党が有効な代
案を示せなかったこともあり、経済問題は最後まで民主党の「追い風」にはならなかった。
„
議会を共和党が制したことによって、ブッシュ共和党政権が、自らの政策を積極的に推進する
素地が整った。一方で、勝利を過大評価し、歳出削減やビジネス寄りの政策に傾斜しすぎた場
合には、かえって国民の反感を買う危険性は残る。
„
ブッシュ政権は、景気回復の足取りを確かにすると同時に、成長力を高める施策を講ずること
が喫緊の課題だととらえており、その中心は減税・税制改革になると考えられる。かねてから
主張している「ブッシュ減税の恒久化」のみならず、景気対策に重点を置いた個別減税や、抜
本的税制改革も俎上に上る可能性がある。
„
具体的な減税案の行方については、①「大企業・高額所得者寄り」との批判をどう避けるか、
②財政の悪化との兼ね合いをどう考えるか、③議会対策、とくに議席差の少ない上院対策をど
うするかという点がポイントである。このうち、議会対策については、議会ルールの有効活用
という観点からみて、税制論議の本格化が春先以降になる可能性がある。
„
共和党の勝利は、一般的にはビジネス界にとって好ましい方向性である。しかし、急速な政策
転換は難しく、例えば、サーバンス・オクスレー法の見直しなどは考えにくい。個別セクター
では、製薬、エネルギー業界などにはプラスである一方で、弁護士・法律事務所にとっては、
訴訟の乱発を防ぐ司法改革が促進される懸念がある。金融業界にとっては、新しい上院銀行委
員会委員長の出方が気になるところである。
„
外交については、ブッシュ政権が、今回の選挙結果を対イラク強硬姿勢の信認ととる可能性が
ある。一方で、外交・通商問題に関する議会運営に限れば、民主党が勝っていてもあまり違い
はなかったのではないかという指摘もある。
主任研究員
安井 明彦
Tel: 212-898-2938
E-mail: [email protected]
http://www.mizuho-ri.co.jp/frame/macro.html
1
ニューヨーク事務所
MHRI
New York
1.予想以上の勝利を収めた共和党
11 月 5 日に行われた米議会中間選挙は、共和党の勝利に終わった。共和党は、
「中間選挙では大統領政
党が議席を減らす」とのジンクスを破り、下院での民主党との議席差を広げただけでなく、困難といわれ
た上院多数党の座を奪回した(図表1)。とくに上院では、接戦が伝えられた選挙区での優劣が明白に現
れる結果となった(図表2)。
今回の選挙では、景気回復の遅れや企業会計スキャンダルが、民主党の「追い風」になるのではないか
と言われてきた1。しかし、選挙戦が本格化した 9 月中旬から 10 月中旬にかけて、対イラク武力行使問題
が国民の関心を集めたため、経済問題が鮮明な争点になることが妨げられた。加えて、民主党は、ブッシ
ュ政権の経済・財政政策を批判しつつも、その中核である「ブッシュ減税」を攻撃するには至らないなど、
明確な代案を示せなかった2。こうしたこともあり、選挙戦終盤になり、経済問題への関心の高まりが伝
えられたにもかかわらず、民主党への「追い風」は最後まで吹かなかった。むしろ、世論調査などでは、
「経済状況は良い方向に進んでいる」との回答が終盤でやや増えるなど、むしろ、共和党・ブッシュ政権
にとって、経済面での「微風」が吹いた形となった(図表3)。
(図表1)中間選挙による議席の変化
所属政党
共和党
民主党
無所属・諸派
上院
49→51
49→47
2→1
下院
223→228
211→204
1→1
(注)上院1議席、下院2議席が決選投票などのため未決。下院旧議席のうち、空席(3)は旧議員所属政党(民主党)に加算。
(資料)11 月 9 日付 Congressional Quarterly 誌。
(図表2)接戦選挙区の結果(上院)
前評判
苦戦
やや苦戦
共和党保有議席
コロラド→当選
ニューハンプシャー→当選
テキサス→当選
アーカンソー→落選
ノースカロライナ→当選
オレゴン→当選
サウスカロライナ→当選
テネシー→当選
民主党保有議席
ニュージャージー→当選
サウスダコタ→当選
ミネソタ→落選
ミズーリ→落選
アイオワ→当選
モンタナ→当選
ルイジアナ→決選投票
ジョージア→落選
(注)「前評判」は 9 月 28 付 National Journal 誌の評価。
安井(2002 年 7 月)
民主党がブッシュ減税を徹底的に批判できなかった背景には、今回再選の対象となった民主党上院議員のうち、接戦区の議員にブ
ッシュ減税に賛成していたケースが多かったという背景がある。本件については、ブッシュ大統領が党派を超えて支持してくれた民
主党議員の選挙区でも積極的に共和党議員のために遊説を行うなどしたため、今後民主党が態度を硬化させるとの見方もある(Hitt
et al, November 2002)。
1
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2
MIZUHO US RESEARCH
November 12, 2002
MHRI
New York
図表3
ブッシュ政権にとって、今回の選挙結果は大きな
60
政治的勝利といえる。
ブッシュ大統領は、2000 年の選挙では総得票数
50
でゴア大統領に敗れ、かつ、議会選挙も拮抗した結
40
果に終わるなど、必ずしも国民の「強い信託」を得
「経済の方向性」に関する世論調査
(%)
良い方向に向かっている
30
てはいなかった。政権運営の点でも、政権発足当時
20
は上下両院を共和党がおさえていたものの、昨年 6
10
月にジェフォーズ上院議員が共和党を離脱し、民主
党が多数党になって以降、議会対策に苦しむ局面が
0
6/3-6 6/17- 7/9-11 7/22- 7/29- 8/5-8 8/19- 9/5-8 9/23- 10/3-6 10/3119
24
31
21
26
11/3
多かった。このため、ブッシュ政権は、上下両院多
(資料)ギャロップ社世論調査により作成.
数党の獲得に力を注ぎ、候補者の選定に直接携わっ
ただけでなく、大統領自ら選挙資金集めや遊説を積極的に行った。
大統領の積極的な議会選挙戦への参画は、敗戦したときに大統領の政治力を殺ぐリスクがある。ブッシ
ュ政権は、敢えてその大きなリスクを犯し、結果的に大きな成果を得たことになる。好例がジョージア州
である。大統領は、選挙の直前には勝利が確実な選挙区を訪れ、選挙後にその成果を誇示するのが常であ
る。しかし、ブッシュ大統領は、勝敗の行方が定かではないジョージア州での遊説を選んだ。そして、結
果的には、現職民主党上院議員の議席を奪うことに成功したのである。
2.整った積極的政策運営の素地とその落とし穴
ブッシュ政権としては、共和党が議会を制したことで、自らの政策を積極的に推進する素地が整った。
多数党に転じたとはいえ、とくに上院での議席差は少ない。共和党は、議事進行妨害(フィリバスター)
を阻止するのに必要な 60 議席を獲得しておらず、民主党との妥協を迫られる局面は残る。それでも、多
数党になれば、どのような法案をいつ議会で審議するかを決められる。共和党にとって好ましくない法案
は、一切取り上げないことも可能である。また、法案の内容についても、最初に審議する各委員会の委員
長を獲得できるため、好ましい方向に導き易くなる。これに対し、少数党の場合は、多数党が設定・提案
した法案を、一つ一つ修正していかなければならないのである。
中間選挙前の議会運営をみると、上院での多数党交代の「重さ」が再認識される。議席数が拮抗してい
た点では、上下両院共に変わりはない。しかし、党議拘束の厳しい下院では、重要法案については、共和
党議員が結束してブッシュ政権の法案をことごとく通してきた。ところが、民主党が多数を握っていた上
院では、ブッシュ政権の意向とは異なる内容の法案が審議されるケースが少なくなく、最終的には上下両
院で法案内容のすりあわせができないケースが目立っていた。国内資源開発の推進が争点となったエネル
ギー法案や、公務員の労働権が争点となった国土安全保障省設立法案などが、その好例である。
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こうしたことから、ロット共和党上院院内総務やフライシャー大統領報道官は、選挙後の記者会見で、
共和党が上下両院を獲得したのは「国民が議会での党派対立に飽き飽きし、結果を出すことを望んだから
だ」として、ブッシュ政権・共和党の政策方針を押し進める方針を示唆している。
もっとも、今回の勝利が共和党にマイナスに働く可能性もある。勝利を過大評価し、社会福祉関係の歳
出削減やビジネス寄りの政策を前面に押し出した場合、国民の反感を買う可能性があるからだ。とくに、
今年夏の企業会計スキャンダルに端を発する大企業批判は、相変わらず国民の間にくすぶっている3。
参考になるのが、共和党が大幅な議席増で下院多数党を獲得した 1994 年の中間選挙である。選挙結果
を受けて、ギングリッチ下院議長(当時)を中心にした下院共和党は、大幅な歳出削減によって、選挙の
公約に謳っていた「小さな政府の実現」を早急に実現しようとした。しかし、次第に「医療保険や年金制
度をないがしろにしている」との国民の批判が強まり、結局 1996 年のクリントン大統領再選を助ける結
果となってしまったのである。
確かに共和党は前評判を上回る勝利をおさめたが、各政党に対する国民の支持は引き続き拮抗している。
共和党関係者などは、「ブッシュ政権はギングリッチ氏の失敗から十分に学んでいる」として、過剰反応
はないと発言しているが、今後の動向が注目されるところだ。
3.経済政策の中心は減税・税制改革
ブッシュ政権は、景気回復の足取りを確かなものにすると同時に、成長力を高める施策を講ずることが
喫緊の課題だととらえている。実際に、11 月 7 日の記者会見でブッシュ大統領は、新議会では「新たな
経済成長・雇用に関するパッケージ」を議論したいと述べている。
今回の選挙によって議会を掌握したことにより、ブッシュ政権は景気回復の遅れを民主党の責任と主張
することができなくなった。2004 年大統領選挙での再選を狙うブッシュ大統領にとって、景気の停滞は
何としても避けたいところである。
具体的なパッケージの内容は定かではないが、新議会においてブッシュ政権が推進すると考えられる経
済政策の中核は、減税・税制改革であろう。
具体的には、まずブッシュ減税の恒久化である。ブッシュ減税は 2010 年末までの時限減税となってお
り、ブッシュ政権はこの恒久化を繰り返し主張してきた。11 月 7 日の記者会見でも、ブッシュ大統領は
ブッシュ減税の恒久化を経済政策面での最優先課題にあげている。
もっとも、足元の景気との関係からは、ブッシュ減税恒久化がどの程度の効果を持つか疑問を呈する向
きもある。このため、議会筋では、景気動向によっては投資家向け減税や法人税減税など、より景気対策
としての性格が強い減税案が俎上に上る可能性が指摘されている4。
3
4
Walsh, November 2002.
Stimmel, November 2002.
4
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実際に、既に下院共和党は、中間選挙前に2種類
図表 4
の減税案を検討済みである。第一は、個人所得税に
140
下院共和党減税案の規模
(億ドル)
ついて、損金算入できるキャピタル・ロスの金額を、
120
現行の年 3,000 ドルから同 8,250 ドルへ引き上げる
100
という内容。第二は、退職資金積み立てに関する優
遇税制の強化である。両者を併せた減税額は、2003
80
∼2012 年度の 10 年間で約 650 億ドルとなる(図表
60
4)。
40
この他にも、リンゼー経済担当大統領補佐官は、
20
企業配当に対する課税の見直しや、航空産業などの
0
キャピタル・ロス関連
退職資金関連
2003
個別産業への減税が含まれる可能性を指摘している
4
5
6
7
8
9
10
11
12
(年度)
(資料)議会合同税制委員会試算.
5
。このうち、配当課税の見直しは、今年夏の経済サ
ミットでも指摘されていたものである6。
さらに、より大きな視点では、税制の簡素化などを目指した抜本的税制改革案が、財務省を中心に検討
されている。その中では、現行の個人所得税から、付加価値税・売上税などへの移行、フラット・タック
スの導入なども議論の対象になっていると言う7。
こうした減税案の行方を考えるにあたっては、3つのポイントがある。
第一に、ブッシュ政権が国民の反応をどう考えるか、という点である。これまでブッシュ政権は、「大
企業・高額所得者寄り」という批判を極力避けてきた。このため、ビジネス界の度重なる要求にもかかわ
らず、法人税減税には消極的であった。どのようなパッケージによって、こうした批判を避けようとする
かが、注目されるところだ。
第二に、財政との兼ね合いである。2002 年度には 1590 億ドルの財政赤字を計上するなど、米財政は悪
化基調にある。「景気対策」を全面に押し出せば短期的な赤字拡大は容認できるとしても、中長期的な財
政バランスの悪化に関しては、共和党内からも批判がでる可能性がある。
第三に、議会対策である。ポイントとなるのは、民主党との議席差が小さい上院での取り扱いだ。上院
では少数党でも議事進行妨害(フィリバスター)を仕掛けることが可能であり、共和党はこれを阻止する
のに必要な 60 議席を確保していない。したがって、民主党が要求するような、中低所得者層に厚い減税
などがパッケージにされる可能性はある。
5
6
7
Ognanovich, November 2002.
安井、2002 年 8 月。
McKinnon, October 2002.
5
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もっとも、上院対策という意味では、春先まで待てば幾つかの点で活路が見えてくる。第一に、来年 4
月 15 日をもって、
「『財源なき減税』の実施には 60 票以上の賛成が必要」という上院ルールが失効する(い
わゆるPAYGO原則)8。第二に、春先に審議される予算決議の中に減税の実施を書き込めれば、上院
でのフィリバスターを避けられる9。議会ルールを有効に活用するという視点からは、税制議論が本格化
するのは、春先以降になると考えることも可能なのである。
抜本的税制改革については、リンゼー補佐官も認めるように10、一朝一夕に合意を獲得するのは難しい。
したがって、①小規模な簡素化案を個別に提案していく、②実現よりも議論を重視し、2004 年大統領選
挙の争点にしていく、という2つのルートも考えられる。
4.セクター毎の損得勘定
その他の政策において、選挙結果がビジネス界や個別のセクターに与える影響はどうなるであろうか。
概して言えば、共和党の勝利は、規制などの面でビジネス界に好ましい環境が期待できる。ただし、ブ
ッシュ政権は「大企業寄り」と見られることを避けてきており、急激にビジネスよりに舵をとることは難
しい。例えば、企業会計に関するサーバンス・オクスレー法について11、ビジネス界には緩和を期待する
雰囲気もあるが、その可能性は低いであろう。
次に、個別セクター毎の影響を、上院の委員長人事などを絡めつつ、概観してみたい。なお、セクター
別の献金額をみると、製薬、石油/ガス、弁護士などは、いずれかの政党に大きく偏った献金をしている
が、これらの業界については、とくに選挙の結果が大きなインパクトをもつ可能性がある(図表5)
。
(図表5)2002 年選挙におけるセクター別献金額及び内訳
業界
弁護士/法律事務所
退職者
証券/投資
不動産
TV/映画/音楽
保険
医療専門職
コンピューター
製薬
石油/ガス
献金額(万ドル)
5,931
5,022
3,943
3,852
2,937
2,618
2,475
1,825
1,808
1,763
民主党向け(%)
72
36
46
47
77
31
37
49
27
20
共和党向け(%)
28
64
54
53
23
68
62
50
73
80
(資料)Center for Responsive Politics.
安井、2002 年 11 月。フィリバスターの可能性は残るが、「PAYGO 原則違反」という大義名分はなくなる。
いわゆる財政調整法(Budget Reconciliation Act)の活用。詳しくは、安井(2002 年 11 月)脚注 24 参照。財政調整法の利用は、
ブッシュ減税の時にも採られた手法である。ただし、議会ルール上、恒久減税には財政調整法は使えない。
10 Organovich, November 2002.
11 相吉他、2002 年 7 月。
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①製薬会社∼処方薬代対策の行方∼
製薬会社は、今回の選挙戦での共和党への積極的な献金活動がしばしば報道された。とくに、接戦区で
の共和党候補支援は、民主党からもやり玉にあがった。
製薬会社は、民主党の勝利によって、選挙の争点ともなっていた処方薬代問題に関する議論が、業界に
不利な方向に進むことを恐れていた。民主党は、公的保険(メディケア)を拡充し、処方薬も公的保険の
対象にしたい方針だった。製薬会社は、公的保険の拡充を将来的な価格統制のさきがけと捉えたのである。
これに対して、共和党は、優遇税制を通じ、処方薬代をカバーする民間保険の購入を促進するというのが
基本的な方針であり、製薬会社にとっても好ましい方向性であった。
処方薬代対策を巡る両党の意見対立は厳しい。「民間保険の重視」という共和党の方針は、将来的なメ
ディケア自体の改革にもつながってくるからだ。他方で、早急に処方薬代問題を解決して欲しいという国
民の希望も強い。処方薬代問題は、新議会でも重要案件の一つとなる可能性は高い。
②エネルギー産業∼エネルギー政策は仕切り直し?∼
エネルギー産業も、共和党に大きく偏った献金をしてきた業界の一つである。その見返りは、新議会に
おけるエネルギー法案の行方にかかっている。ブッシュ政権は、国内エネルギー資源の開発促進を軸とし
たエネルギー政策を提唱してきた。しかし、アラスカでの資源開発などが民主党の強い反対にあい、包括
的なエネルギー法案は暗礁に乗り上げたままだ。今回の選挙を経て、ブッシュ政権は改めて同法の成立に
力を入れる方針である。その過程では、これまでの審議の中で上院民主党に譲ってきた部分についても、
「仕切り直し」が予想される。
微妙な影響を与えてくるのが、上院の委員長人事である。これまで上院エネルギー委員会では、アラス
カ州選出のマコウスキー上院議員が共和党のトップだった。しかし、マコウスキー議員はアラスカ州知事
に転出しており、新たな委員長にはニュー・メキシコ州選出のドメニチ議員(共和党)が就任する見込み
だ。アラスカ資源の開発やパイプラインの建設推進に極めて熱心だったマコウスキー議員の交代が、どの
ような影響を与えるかが注目される。ちなみに、ニュー・メキシコ州は核エネルギーの研究で有名なロス・
アラモス研究所を抱えており、核エネルギーやエネルギー関連の研究開発が重視される可能性も指摘され
ている。
また、環境規制の面でも、共和党の勝利はエネルギー産業にとってプラスである。上院環境・公共事業
委員会の委員長は、環境問題に熱心なジェフォーズ議員(独立系)から、環境規制の効果に懐疑的なイン
ホフ議員(共和党)に移る。ジェフォーズ議員は、ブッシュ政権による発電所の増改築に関する環境基準
12
の緩和に強く反対してきたが、こうした議会の動きにはストップがかかりそうだ。
12
New Source Review と呼ばれる。
7
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③弁護士∼司法改革に本腰?
民主党に多額の献金を行っている弁護士業界は、ブッシュ政権が主張する司法改革に強く反対してきた。
しかし、共和党の勝利によって、
「訴訟の乱発を防ぐ」というブッシュ政権の方針に拍車がかかりそうだ。
ブッシュ政権は、訴訟の乱発が経済効率を損ねていると繰り返し主張してきた。今年 4 月には、経済諮
問委員会を通じて、米国の訴訟コストは、消費に対して 2%、賃金に対して 3%、投資収入に対して 5%
の税金を課しているのと同じ効果があるとの試算も発表している13。ビジネス界からも、訴訟抑制の希望
は極めて強く、既に議会で議論が進んでいる医療過誤訴訟問題だけでなく、アスベスト関連訴訟14なども
議論の対象になる可能性がある。
④金融産業∼新委員長の関心はプライバシー問題?∼
金融産業にとっては、上院銀行委員会の委員長交代が気になるところだ。現在の委員長であるサーバン
ス上院議員(民主党)は、企業会計スキャンダル対策を取りまとめるなど、ビジネス界に厳しい姿勢で臨
んできた。共和党の多数党奪回は、金融産業にとって規制緩和などの期待を抱かせるところである。
もっとも、新しく委員長になるシェルビー上院議員(共和党)も、必ずしも規制緩和至上主義ではない。
とくに、金融業界については、顧客のプライバシー保護についての関心が高く、現行のグラム・リーチ・
ブライリー法の規定には大きな不満を抱いていると言われる。また、エンロン問題などを通じて論点とな
っている投資銀行内の利益相反問題についても、厳しい追及姿勢が続く可能性も指摘されている15。
⑤通信産業∼地域電話会社に追い風?∼
通信産業にとっては、担当委員会である上院商業・科学・運輸委員会の委員長交代が、大きな影響を持
つ可能性がある。現在のホリングス上院議員(民主党)は、地域電話会社による寡占強化に批判的で、特
にブロードバンド分野における規制緩和に対しては、地域電話会社の勢力拡大につながるとして、強硬に
反対していた。これに対して、新しく委員長になるマッケイン上院議員(共和党)は、規制緩和に前向き
な姿勢である。現在ブッシュ政権は、パウエル連邦通信委員会委員長を中心に、規制緩和を進める方針だ
が、マッケイン委員長の誕生はこうした動きに追い風となる可能性がある。
5.外交・通商政策への影響は?
外交政策の分野では、ブッシュ大統領が今回の選挙結果を対イラク強硬方針への信認だと捉え、単独で
の武力行使も辞さないという強硬姿勢が強化されるとみる向きが少なくない。
13
14
15
Council of Economic Affairs, 2002.安井(2002 年 6 月)
安井(2002 年 3 月)。
Heller, November 2002.
8
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他方で、外交問題に関する議会運営に限っていえば、どちらの政党が勝ったとしても、大きな違いはな
いとの見方もある。第一に、外交は大統領の専管事項という認識が米国では強く、第二に、武力行使に関
する決議案審議で明らかなように、イラク問題については、民主党も最終的には大統領の方針に賛成する
と見られるからである16。また、上院外交委員会では、これまで「タカ派」と目されるヘルムズ上院議員
が共和党のトップだったが、同議員の引退に伴い、新委員長にはルーガー上院議員(共和党)が着任する
見込みである。ルーガー議員は、ヘルムズ議員と比べて国際協調を重視する立場といわれる。
なお、選挙戦では、イラク問題が共和党にとって「追い風」になるとの意見があった。確かに、イラク
問題への関心の高まりは、経済問題が争点化するのを妨げたという効果はあった。しかし、イラク武力行
使の是非自体が、全国的に選挙戦の争点になることはなかった。むしろ、世論調査によっては、単独武力
行使に対する懐疑的な見方が若干高まったケースもあった17。こうしたことから、ブッシュ政権が国連重
視の姿勢に転じた背景には、こうした選挙戦からのフィードバックがあったとも言われる18。
最後に、通商政策は、今回の選挙では大きな争点にはならなかった。鉄鋼産業保護など、選挙区によっ
ては争点になり得る問題についても、ブッシュ政権は早々に産業保護の姿勢を示し、争点化を避けた格好
である。したがって、上下両院を共和党が確保したといっても、個別産業に対する保護策が急速に弱まる
可能性は低い。もっとも、民主党が勝利した場合には、現在進められている二国間自由貿易圏交渉におい
て、労働基準や環境基準も議題に乗せるべきだという圧力が高まった可能性がある。従って、共和党が議
会をおさえたことによって、通商政策については、ブッシュ政権のフリーハンドが強まったといえよう。
<主要参考文献>
Council of Economic Affairs, Who Pays for Tort Liability Claims?, April 2002.
Heller, Michele, “For Industry, Victory But Less Than a Landslide”, American Banker, November
7, 2002.
Hitt, Greg and Jeanne Cummings, “Bush’s Push for GOP Congress Could Hurt Long-Term Agenda”,
The Wall Street Journal, November 6, 2002
McKinnon, John D., “Treasury Weighs Huge Changes in U.S. Tax Code”, The Wall Street Journal,
October 30, 2002.
Milbank, Dana and Jonathan Weisman, “White House Maps Ambitious Plans”, Washington Post,
November 6, 2002.
10 月 31 日のブルッキングス研究所でのシンポジウムにおけるスタインバーグ同研究所研究員の発言など。
例えば、Pew Research Center の調査では、
「対イラク武力行使を支持する」との回答が、8 月の 64%から 10 月には 55%に低下
しており、逆に「支持しない」との回答が 21%から 34%に増えている。CBS/New York Times の調査でも、対イラク武力行使につ
いて、「国連にもっと時間を与えるべきだ」との回答が、9 月初めの 56%から 10 月末には 63%まで増えている。
18 10 月 31 日のブルッキングス研究所でのシンポジウムにおけるスタインバーグ同研究所研究員の発言など。
16
17
9
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November 12, 2002
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New York
Ognanovich, Nancy, “Bush Lays Out Priorities for 108th Congress; Tax Package, Homeland Bill Among
Items”, Daily Report for Executives, November 8, 2002.
Stimmel, Katherine M., “Hill Aides Say Stimulus Bill Likely If Economy Still Lagging This
Spring”, Daily Report for Executives, November 8, 2002.
Walsh, Mary Williams, “Republican Victory Sets Stages for Pro-Business Agenda”, New York Times,
November 7, 2002.
相吉宏二、安井明彦「企業会計問題関連法の成立」、みずほUSリサーチ、2002 年 7 月 31 日
(http://www.mizuho-ri.co.jp/macro/MUR023.pdf)
安 井 明 彦 、「 米 国 に お け る 財 政 ル ー ル の 形 骸 化 」、 み ず ほ U S リ サ ー チ 、 2002 年 11 月 11 日
(http://www.mizuho-ri.co.jp/macro/MUR030.pdf)
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(http://www.mainichi.co.jp/life/eco/ny/020819.html)
安 井 明 彦 、「 中 間 選 挙 を み る 視 点 」、 み ず ほ US リ サ ー チ 、 2002 年 7 月 1 日
(http://www.mizuho-ri.co.jp/macro/MUR020.pdf)。
安井明彦、「米国経済のリスクは『政策』にあり?」、 欧米情報アナリシス 、2002 年 6 月 17 日
(http://www.mizuho-ri.co.jp/macro/pdf0102_fric/an0223.pdf)
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(http://www.mainichi.co.jp/life/eco/ny/020311.html)。
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MIZUHO US RESEARCH
November 12, 2002
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