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「足らざるを知る」研修でめざす お客様から選ばれる携帯シ ョ ッ プ
「足らざるを知る」研修でめざす お客様から選ばれる携帯ショップ 人材教育最前線 プロフェッショナル編 人 材 教 育 November 2015 コネクシオ 経営管理部門 人事部 人財開発課 課長 平山 鋼之介 氏 取材・文/髙橋真弓 写真/編集部 携帯電話の卸売・販売および、携帯 電話を利用したソリューションサービ スを事業とするコネクシオ。2012 年の企業統合を機に制定した理念に は、 「主体的に」、 「フェアに」、 「誠実 に」、 「チームワークのもとに」、 「現 場を起点に」などがある。この制定プ ロジェクトのメンバーでもあった人 財 開 発 課 課 長 の 平 山 鋼 之 介 氏 は、 「みんなの想いを込めた理念が文化 として浸透し、お客様から選ばれ続 ける携帯ショップになれば」と話す。 「現場で生かされる教育」を追求し、 「足らざるを知る研修」と「学びの手 段」の提供を実現しているという。 Kounosuke Hirayama 2005 年入社。代 理店営業部(家電量販 店 担当)を経て、2010 年人事部に異動。人財開 発担当として教育・研修および昇格制度の企 画・運営に携わる。翌年より新卒採用、内定 者教育を兼務し、以降、女性活躍推進や合 併・統合に伴う企業理念の再制定・浸透活動 にも関わる。2014 年人財開発課課長に就任。 販売現場のマネジメント 売の経験はゼロ。量販店の現場がど 携帯販売代理店として、 ドコモや したら売れるのか、知識も知恵もまる au、 ソフトバンクのキャリア認定ショッ でなかった。 プの運営などを行うコネクシオ。平 「自分以外の営業担当は現場たた 山鋼之介氏が同社に中途入社したの き上げのメンバーばかり。売り場の状 は 2005 年。家電量販店での携帯電 況を熟知しており、人脈も持っていま 話コーナーの営業担当に配属された。 す。一方、私は何もかも手探り状態で 前職も通信関係の業界にいたが、販 現場を動かさなければならない。何 のような仕組みで動いているか、どう よりまず現場スタッフの信頼を得なけ 「優秀なリーダーがいる店舗では 面接など新卒採用の仕事も手伝うよ ればと思いました」 人が育ち、数字も上がる。しかし “現 うになっていた。 そこで、仕事に関わることを手当た 場任せ”という一面もあって、異動や そこで出会ったある学生が、入社 り次第に勉強した。特に商品・サービ 退職でそうしたリーダーのノウハウは 後、同じチームの部下として働くこと スについては「平山に聞けば何でもわ 継承されづらく、会社としての武器に になった。何事にも一生懸命だった かる」と言われるほどの知識を身につ なっていなかったのです」 彼は新人ゆえに失敗も多かったが、そ けた。例えば、当時、スマートフォンは 入社から3年。常々育成への注力 の真摯な姿勢は取引先や周囲のメン まだ数機種しか販売されていなかっ に必要性を感じていた平山氏は、20 バーの心を動かさずにはいなかった。 たため、十分な知識を持った販売ス 名前後いる営業担当者の中でリー そしてついにある時、難しい商談をま タッフも少なかった。そうした商品 ダー職を与えられたことを機に、販売 とめ、周囲を驚かせた。 を得意とすることで、頼られる存在と スタッフと営業担当者を育成するプロ この体験から、現在、人財開発課 なっていった。 ジェクトのメンバーとなった。 の課長である平山氏は、毎年、新卒の 現場を回すためのマネジメントスキ 販売スタッフには、入店前研修に加 研修で「青いカワカマス」の話をする。 ルについても、さまざまな書籍を読ん えて、新たに入店数カ月後のフォロー 上司でもあった前任者から引き継い では実践することを繰り返した。その アップ研修と中堅スタッフ向けのブ だ話だが、初めて聞いた時、思い出し 1つが「ビジョンの設定」だ。 ラッシュアップ研修をスタートさせ、各 たのは、ほかでもないこの新卒社員の 「 “地域で一番店になる”など、わか 店舗での底上げを図った。一方、営 ことだった。 りやすい店舗目標やビジョンを掲げ、 業担当者向けには外部の協力を得て、 「カワカマスは肉食の魚です。水槽 そのために何をすべきかをスタッフ全 マネジメントの基本を学び直すプロ に餌を落とすとすぐ食いつくのです 員で考えるといった取り組みを進めま グラムを取り入れた。その中で平山 が、水槽に透明の壁を入れ、壁の向こ した」 。ビジョンの明確化はマネジメ 氏が強く認識したのが、 “意識改革” う側に餌を落とすと、面白いことがわ ントの原理・原則である、という考え だった。特に学習の必要性を感じて かります。最初は餌を食べようと壁に は現在も変わらない。 いない人への働きかけには苦労した。 ぶつかるのですが、繰り返すうち餌を 「そうした相手には、自分自身の今 入れても反応しなくなる。そうなると、 後のキャリアを考えてもらい、 『実現の 壁を外して餌を落としても、もう食べ ためにはこの仕事で信頼を築き、結果 ようとしません」 営業担当にとって、販売スタッフの を残していく必要がある』と話しまし 研修では、 「このカワカマスに、 再び餌 教育も業務のひとつである。 た」 。将来の自分をつくるために今や を食べさせるにはどうしたらいいか」 当時、現場では、各店舗での接客 るべきことは何か、という問いかけは、 というクイズを出す。 「餌を変える」 「新 レベルの差が課題となっていた。基 営業担当者の意識を変えるうえで有 しい水槽に入れる」などさまざまな意 礎的な知識の習得については、店舗 効だったという。 見が出るが、 ここでの正解は、 「別のカ 知識と意識を高める育成 によって知識量にばらつきが出ないよ う、入店前の集合研修などで標準化 “カワカマス文化”の浸透 ワカマスを新たに水槽に入れる」だ。 新しい青いカワカマスは壁があった ことを知らないため、餌を与えられれ されていた。一方、接客スキルなどは OJTを通じて学ぶことが多く、現場の リーダーという役割から一歩踏み出 ばすぐ食べに行く。それを見て他のカ 先輩スタッフや教育担当の力量に左 し、育成分野に携わるようになった平 ワカマスは自分が固定概念や既成概 右されがちだったという。 山氏は、一方で会社説明会や座談会、 念にとらわれ、動けなくなっていたこ November 2015 人 材 教 育 とに気づく。青いカワカマスは新入社 青いカワカマスを会社の文化にしてい う店を思い浮かべられる人はそうい 員、反応しなくなったカワカマスは先 くことが、平山氏の願いだという。 ないでしょう。しかし接客の際、目の 輩社員に当たる。 「だから、できることを一生懸命や 営業から人事の視点へ 前のお客様からどれだけ売り上げを 上げるか、それともすぐ売り上げに直 結しなくても、またこの店に来たいと りなさいと話します。たとえ挨拶や掃 除しかできなくても、それによって間 営業部から人事部に異動したのは 思っていただくようにするかで、対応 違いなく職場や売り場は元気になる 2010 年だった。人財開発担当として は大きく変わってきます」 から、と」 教育、研修、昇格制度の企画・運営に 短期的な目標の達成も重要だが、 1年後のフォロー研修で、 「君たち、 携わるようになった。それまで営業と それだけを追求し続けた場合、3年 カワカマスってるかい(周りによい影 いう目線から教育を捉えていた平山 後、5年後の商売はどうなっていくの 響を与えているか)」と聞くと、参加者 氏だが、異動してまず変わったのは、 か。 「成長している企業はやはり“お からは「新商品をお客様にアピールし 会社全体について考えるようになった 客様を大切にする”というスタンスを たら、 その商品の売り上げ1位が取れ ことだという。会社の中長期的なビ 堅持しています。これからのコネクシ た」 「 、元気に挨拶をしていたら先輩た ジョンも意識するようになった。 オもそうあるべきではないか、と考え ちも声を出すようになった」といったエ 「例えば携帯電話販売店の世界は るようになりました」 。 ピソードが上がってくるという。一通り 競合が多い。お客様からすると正直、 あらゆるお客様にとっての“お気に 報告が出揃ったところで、新入社員た どの店で購入してもさほど変わりはな 入りの携帯ショップ” 、 さらに従業員に ちには、 「周りによい影響を与えること いのでは。誰にでも馴染みのレストラ とって“いい会社”をめざすためにも、 がリーダーシップだ。新入社員にもで ンや美容室があると思いますが、 『こ 教育面では「気づきの機会」と「学び きるリーダーシップがある」と伝える。 の携帯ショップなら間違いない』とい の手段」を提供したい、と平山氏。重 人 材 教 育 November 2015 人材教育最前線 プロフェッショナル編 要なのは、研修を参加者にとって「の に立ち上がった研修プログラム “コネ どが渇いている」と感じさせる機会に クシオカレッジ”の旗振り役を務めつ することだという。 「人はのどが渇い つ、会社の拡大と共に浮かび上がって ていなければ水を飲みません。一方 きた課題に取り組む。 的に『これをやりなさい』と押しつけ 「経営メッセージでも、 “人”で他社 ても、本人が必要性を感じていなけれ との差別化を図ることを明確に打ち ば受け入れてくれませんし、身につき 出しており、改めて教育体系を見直し、 ません」 。 人事・人財育成を競争力に変えていこ 研修を通し、現状の能力や考え方 うとしています。そのためにスタート と、求められている役割との間にどれ したのがコネクシオカレッジです」 だけのギャップがあるかに気づけば、 従来の現場スタッフの教育プログ 「勉強しなければ」と危機感を持って ラムは主に、接客やコミュニケーショ くれるだろう。そこですかさず、書籍 ン、販売・マーケティングなど、営業部 やeラーニング、通信教育といった学 や現場が主管する「実務に関する教 びのツールを与える。 育・研修」と、ビジネスマナーや企業 「足らざるを知る」研修と、学びたい 理念、リーダーシップ、組織管理など、 と思った人が道に迷わないための「学 人事部が主管する「全社共通の教育・ びの手段」を提供することが、めざす 研修」の2つで構成されていた。 教育のあり方と話す。 だが、ここに課題があると平山氏は いい会社、強い組織をつくる 話す。実務教育と共通教育を分ける 手法は合理的だが、組織の拡大や外 部環境の変化があると、双方の間に 平山氏が率いる人財開発課は、 「新 ギャップが生じがちだ。また、全国の 卒採用」 、 「教育・研修」 、 「評価・昇格 店舗のナレッジを共有する必要性も 制度の運用」の3つの柱を担ってい 感じている。コネクシオカレッジの名 る。その中で現在、注力しているの のもとにてこ入れする計画だ。 が教育や制度の改善だ。 「具体的なカリキュラムはまだ練りこ 例えば、評価・昇格制度では年功 んでいるところですが、今後コネクシ 序列ではなく、現在の資格/ 役割ごと オカレッジを育てていくことも、私の の基準書に照らした能力・行動の発 大きなミッションだと思っています」 揮度合いに加え、上位資格に必要とさ 「いい会社にする」 、 「強い組織をつ れる知識を習得するための通信教育 くる」 。この2つが自分自身、そして人 やアセスメント試験への主体的な取り 財開発チームの使命と語る。採用か 組みが必要とされる。努力しなけれ ら教育・研修、その後の評価・処遇ま ば昇格できず、厳しい制度といえるが、 でをつなげ、連動させていくことで、 「頑張っている人が報われる組織をつ 社員一人ひとりが自信と誇りを持てる くりたい」という営業部時代からの想 会社になる。その先にこそ「お客様 いが形になりつつある。 から愛されるショップ」があると平山 一方、教育・研修面では、2014 年末 氏は信じている。 会社紹介 コネクシオ 1997年設立。ドコモショップ1号店の開 設以降、全国400店舗以上のキャリア認定 ショップを運営。家電量販店への携帯電話 の卸売や販売支援、法人向けの携帯電話の 販売や運用支援、モバイルを活用した各種 ソリューションサービスを提供。資本金:27 億7844万円(2015 年 3月31日現在) 、売 上高:2829 億 6100万円 (2015 年 3月期) 、 従業員数:4828 名 (2015 年 3月31日現在) とっておきの書籍 『ビジョナリーカンパニー』 ジム・コリンズ、 ジェリー・I.ポラス/著 山岡洋一(翻訳) 日経BP社/刊 「ビジョナリーカンパニー」 「ビジョナリーカ ンパニー2」共に、人事の視点から読んで も腹に落ちる内容でした。 「永続する組織 をつくるためには、ミッションを決めるより も人を決めるほうが先だ」という話はまさに 目から鱗でした。また、 「組織として常にパ フォーマンスを出せるような仕組みをつくる ことが重要」という一節を読み、人事にお いては、評価制度や昇格制度、採用の仕組 みづくりが重要だと痛感しました。この本 を通じて制度と仕組みをどのように一体化 させるかを学びました。 座右の銘 自ら機会を創り出し、 機会によって自らを変えよ リクルートの旧社訓で、同社の創業者・江 副浩正氏の言葉です。私自身のキャリア 形成もまさにこの通りだと共感を覚えまし た。その場、その場で、全力でやったこと が次の機会をつくってきたと思っています。 これからも日々、機会をつくり出すことを 意識したいです。 November 2015 人 材 教 育