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The new experimental ulcerative colitis model in

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The new experimental ulcerative colitis model in
日薬理誌(FoliαPharmαcol.
Jpn.)
118,
123~130 (2001)
新たな酢酸誘発潰蕩性大腸炎モデルの基礎的研究
ーラット紫膜内酢酸注入潰傷性大腸炎モデルー
小島僚太郎I), 浜本
昇ーヘ森脇
正彦ヘ岩館
日清キョーリン製薬 株式会社
株式会社ラビトン研究 所
克治ヘ大脇
達也4)
創薬研究所II
非 臨床試験部門2)
株式会社新薬開発研究所 中央研究所'll
日清キョーリン製薬 株式会社
開発部11
(2001 年5 月14日)
要約:潰蕩性大腸炎(ulcerative colitis, UC)を対象とした薬理研究の分野で繁用されている酢酸注腸による
ラット大揚炎モデルの優れた特性に加え, さらに客観性, 定量性を備えた新たなラット紫膜内酢酸注入潰蕩性大
陽炎モデルを確立したので報告する. 本モデルは, ラット大腸紫膜下への酢酸注入(20%, 0.02 ml)により,
限局した部位に円形ないしは楕円形状のUC様病変を作製するものである. 作製した潰蕩の大きさはノギスを
用いて直接的に測定することが可能で, 結果は潰蕩面積(mm2)として数値であらわされる. 臨床的に重要な
炎症ファクターの一つである口イコ卜リエンB4について, 本モデルの潰蕩部位における存在量を経時的に測定
したところ, 潰蕩面積の変化と良く相関していた. また, 潰蕩部位には炎症性細胞の組織浸潤など典型的な炎症
組織像が認められ, ヒトUCの病態との類似性が示された. UCの治療に広く用いられる5-アミノサリチル酸
あるいはリン酸プレドニソ口ンナトリウムの注腸投与による作用を本モデルにて検討したところ, ほぼ臨床用量
の範囲で有意な潰蕩面積の縮小効果が認められた. 以上の結果, 本モデルは従来の大腸管腔内への酢酸注入によ
るモデルと同様にヒトUCの病態を反映し, さらに従来のモデルよりも客観性, 定量性に優れた新たな薬物の
評価システムとして今後のUCに対する薬理研究に役立 つものと考えた.
緒
とによる TNBS大腸炎モデル( 5), そして勝管内に酢酸を
注 入して作製する酢酸注腸大腸炎モデル(6)が挙げられる.
炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease, IBD) は
従来の酢酸注腸によるラットの大腸炎モデルは , 病理組
原因不明の難病であり, 主として潰傷性大腸炎( ulcerative
織像やアラキ ドン酸代謝物の産生パターンがヒトUCの
colitis, UC)とクローン病 ( Crohn’s disease, CD)に分
病態を比較的良く反映することから(6~8), UC類似のモ
類される . IBD の成因や病態に未解明の部分 が多い事も
デルとして位置付けられ ている. 化学的発症機序による一
一因として, これらの研究には自然発症大腸炎モデル , 化
過性の障害であることがヒトUCの病態との違いとして
学的 , 免疫学的機序による大腸炎モデル , 遺伝子改変によ
指摘されるものの , 安価に, 容易に, かっ確実に潰蕩を作
る大腸炎モデルに至るまで , 多種多様なモデル(1 ~3)が
製出来ること , さらに薬剤投与に対する良い反応性など優
考案 され ている. このうち特に薬理研究の分野で繁用され
れ た性質を持つことから(1), UCに対する薬理研究の分
ているものとしてはデキストラン硫酸ナトリウム (D SS)
野で現在 も多用され ている.
溶液を飲水させるこ とによる DSS大腸炎モデル(4), ト
リニト ロベンゼンスル ホン酸 ( TNBS)溶液を注腸するこ
一方 , このモデルは注腸する酢酸の濃度, 量 , 腸内での
分布 , 腸粘膜への酢酸の接触時間 , 洗浄の有無などにより,
作製される潰蕩の深さや大きさなど が様々に変化する
キーワード:潰蕩性大勝炎 , 疾患モデル , ラット , 酢酸 ,
潰蕩面積
I)干35 6 圃85 11 埼玉県 入間郡大井町鶴ヶ岡5ふ1
21干677・0032 兵庫県西脇市中畑町338
3)〒061-140 5北海道恵庭市戸磯452 -1
41干101-00 54東京都千代田区神田錦町3 ・1
(6 , 7). 従っ て, 微妙な条件の変化が病態の個体差に反映
して, しばしば研究者を悩ませることになる. ま た, この
モデルを用いた薬理評価では , 主として肉眼的所見などを
基とした数段階のスコアを指標としているが , 研究者によ
って大腸炎の作製条件が微妙に変わるのと同様 , スコア化
小島僚太郎, ほか
124
の方法も種々多様である.
これらのことから我々は , より客観的 , 定量的な指標を
用いた評価系を確立することによって酢酸を用いた大腸炎
モデルの有用性はさらに増すと 考え, 新たなラット 柴膜内
酢酸注 入潰傷性大腸炎モデルを作製し, UC治療薬に対す
る評価系の構築を試み た.
実
1.
験
方
A: length
法
動物
7週齢の Wistar系雄性ラット (日本チヤール ス ・ リバ
• :ul即
日 :耐r area(mm2)
ー株式会社, 神奈川)を購入し, 一定期間の予備飼育の後
に異常のみられない発育順調なものを 8週齢で試験に 供し
た. ラット は温度22± 3 C, 湿度 50± 15%, 1日 12 時間
照明に 設定した動物室にて,
=A (mm)×B (mm)
固形 飼料 ( MF;オリ エンタ
ル酵母工業 株式会社, 東京)と水道水を与 えて 飼育した.
2.
B: width
使用薬物
Fig. 1 D etermination of the ulcer area. The length
and the width of the ulcer were measured by the
caliper gauge, and the ulcer area was calculated as
shown in the figure.
モデル作製には酢酸 ( 特級, 和光純薬工業株式会社, 大
阪)を局方注 射用水 (株式会社
大塚製薬工場, 徳島)にて
20%に 希釈 ( vol 1vol)して用いた. ロイコトリエン B4( 以
下LTB4) は市販のキット (Leukotriene B4 E IAシス テ
ム ;アマシャム
ファルマシア
バイオテク株式会社, 東
京)を用いて測定した. 薬効評価にはら アミノサリチル
酸 ( メサラ ジ ン 原末;Ferring社, デ ンマ ー ク ;以 下5・
ASA), 局方カル メロースナトリウム ( 第一工 業製薬 株式
会社, 新 潟;以下CMC), 局方注 射 用水 , リン酸プレ ド
理的食塩液で 洗浄して 腹腔内に 戻し, 開腹した. 酢酸注 入
から1 8時間は絶食を継続した.
4.
ニゾロンナトリウム注 射液 (ドージロン注 ;同仁医薬化工
株式会社, 東京;以下PDL), 局方 生理食塩液 (株式会社
潰蕩面積の測定
ラットを解剖し, 大腸の潰蕩作製部位を中心に 摘出して
腸間膜付着部位に 添って 縦に 切開し 内面 が見えるように
大塚製薬工場)を使用した . 5・ASA は 投 与日 毎 に 1. 2%
ろ紙上に 展開した. 円形ないしは楕円形状をなす潰蕩の最
CMCを基剤として所定の量を含む懸濁液を調製し, PDL
大の長さ (長径 , mm)と幅 ( 短径 , mm)をノギスを用
は投与日 毎に 生理的食塩液で所定濃度に 希釈して用いた.
3.
ラット紫膜内酢酸注入潰蕩性大揚炎モデルの作製
2 4 時間絶食したラットにエーテル麻酔を施して 剃毛,
開 腹した. エーテル吸入による維持麻酔下, 盲腸から大腸
を露出し, 盲腸から 5 cm紅門側の粘膜下組織に柴膜側か
らガラス製マイクロシリン ジ (0 .05 ml用 ;Hamilton杜,
いて 測定し, その積を潰蕩面積( mm2)として算出した.
すなわち, 長径の長さを長辺とし, 短径の長さを 短辺とす
る長方形の面積を潰傷面積とした (図 1 ).
5. LTB4の測定
潰傷部位を含む大腸組織 ( 潰蕩を中心とした長軸方向に
3 cmの範囲)を氷冷したリン酸緩衝液(100 mM, pH7 .4, 10
米国)およびデ ィスポーザブル注 射針 (26 G×L2 ;テル
ml g tissue)にて ホモ ジナイズ (Polytron PT3000 型ホ
モ株式会社, 東京)を用いて, 20% 酢酸 0 .02 mlを注 入し
モ ジ ナ イザー;Kinematica社 ス イス )し た. こ れを
た. 注入する際には低倍率 (2 ~3 倍)のルーペ ( 眼鏡フ
15 ,000 rpm, 4℃, 10 分間遠心分離し, 上 清を 測定用サン
レームにクリップで装着するものなど )を用いると針先の
確認が 容易である. 注入の成功は注 入部位が ドーム状に ふ
くらむことで 容易に 判定することが可能であり, 酢酸が外
部に 漏れ たり, 針先が大腸管腔内に 貫通するなどした失敗
例は試験から除外した. 成功例は注 入部位周辺の組織を 生
プルとした. 以下, キットの使用法に従って測定を行った.
6.
病理組織標本の作製
10%中性緩衝 ホルマリンに て 固定した組織は常法にて
パラフイン包埋後, 組織 切片を作製して ヘマトキシリン ・
ラット柴膜内酢酸注入潰傷性大腸炎モデル
125
エ オ ジン染色を行った.
7.
5・ASA は 6. 25, 12. 5, 25. 0 mg/kg/回と し て 1日 2回,
PDLは 0. 1, 0. 3, 1. 0 mg/kg/回と して 1日 1回 そ れ ぞ れ
投与した. ま た , 5・ASAの対 照群には 1. 2%CMCを 1日
2回, PDLの対 照群には 生理的食塩液を 1日 1回 それぞ
れ投与した. 投与は経旺門投与とし, ラット用ス テンレス
製経口投与ゾンデ (長さ1 2 cm;株式会社夏日製作所 , 東
京)を用いて旺門より約lOcmの大腸内に注入した. 投
一----- ulcer area
�o
LTB1
60
50
薬効評価
20口
§ 40
5』 30
8コ" 20
10
回
〆’旬、
ロ
C\l
。
与 容 量 は 5 -ASAについては 3 ml/kg, PDLについては 2
ml/kgとし, 潰蕩作製日を含め て 5日間 連続して投与し
15民
F千
C/l
ω
(Jq
10
。
。
た. なお, 初回の投与は潰蕩作製の直後に行っ た.
にて行った.
8.
統計処理
結果は平均値± 標準誤差で示した. 対 照群と薬物投与群
間
において D unnettの多重比較検定を行っ た. 有意水準
は 5% 以下とした.
実
1.
験
結
己
�
5
10
5
2
time after operation (days)
潰蕩作製から 5日後に解剖して潰蕩を含む大腸組織を 摘
出し, 潰蕩面積の 測定を行った. 測定はブラインド条件下
25
2 Time dependent changes of the ulcer area
and the concentration of LTB4・ Colitis was induced
via a subserosal injection of acetic acid(20%, 0. 02
ml) into the middle colon. The ulcer areas and the
LTB4 concentrations were measured before colitis
induction(day 0 ) and on day 2, 5 and 10 after in­
jection. E ach point represents the mean ± S. E. of
10 rats.
Fig.
果
潰蕩面積および潰蕩部位を含む組織中のLTB4の
変化
潰場作製から 2, 5, 10日後の潰蕩面積と組織中の LTB4
を 測定した (図 2). 潰蕩面積は 2日後をピークとし, 5日
後まではほぼ横ばい, ないしは緩やかな
回復傾向を示した.
の少ないもの , マクロファー ジを主としてこれに好酸球を
混じるものなどもみられ た.
3.
薬効評価
潰蕩作製の直後から 5日間 , 5 -ASA(図 4,5, 6)あるい
その後は回復が進行して, 10日後の潰蕩面積はピーク時
は PDL(図 7)を投与した . 5・ ASA投与群 (6. 25, 12. 5,
のおよ そ 20%であった. 潰傷部位を含む組 織中の LTB4
25. 0 mg/kg/回, 1日 2回)の平均潰蕩面積は対 照群の 5 1. 3
の 量は潰蕩作製の 2日後をピークとして以後緩やかに減少
± 2. 5(mm2)に対し, それぞれ 38. 0± 1. 9, 2 7. 8 ±2. 1, 12. 2
し, 潰蕩面積と同様の推移を示した.
± 1. 8(mm2)であり, 用 量依存的で有意な潰蕩面積の縮
2.
潰蕩部位および潰蕩周囲の組織学的評価
小作用が認められ た . PDL投与群 (0. 1, 0. 3, 1. 0 mg/kg/
回, 1日 1回)で は 対 照群の 72. 0± 6. 0(mm2)に対し て
潰蕩作製から 5日後の組織を病理組 織学的に評価した
それぞれ 31. 4 ± 3. 6, 11. 7± 2. 2, 37. 1± 3. 4となり, 有意な
(図 3). 潰蕩部位には粘膜から筋層に至る腸壁全体の壊死
潰蕩面積の縮小作用が認められ, その効果 は 0.3 mg/kg/
を示す潰蕩形成がみられ , 表層から順に粘膜上皮欠損, 炎
症性細胞浸潤, 浮腫および筋層部肉芽組織形成が時に出血
を混じて認められ た. 潰場周囲には上皮の丈が高く, 好塩
回が最も顕著 であっ た.
考
察
基性細胞質を示す再 生性粘膜上皮が明らかな粘液細胞減少
MacPhersonと Pfeifferによる酢酸誘発大腸炎モデルの
を伴ってみられ, 陰商膿蕩や腺腔の嚢胞形成なども観察さ
報告には 2 つの作製方法について述べられ ている(6). 経
れ た. さらに, 粘膜から粘膜下層には浮腫 , 炎症性細胞浸
日工門的に酢酸溶液を注腸する作製法は 容易に, かつ確実に
潤 , 血管拡張, 粘膜下肉芽組織形成などの変化がみられ た.
大腸炎を作製できる方法として, その後も様々な条件検討
浸潤した炎症性細胞 は , ほとんどの 例では好酸球および好
が加えられながら現在 では最も多用される大腸炎モデルの
中球を主としていたが , 一部の 例には好中球優位で好酸球
ーっとなっ た. 一方で開 腹術を必要とする大腸紫膜への酢
小山僚太郎. ほか
126
Fig.
colonic ulcer observed on day 5 after subser osal injection of acetic acid. A: Centr al
& Eosin, x5). Necrotize d mucosa, inflammatory cell in5ltration, granulation
tissue formation in the muscle layer and r巴generative mucosa] ep ithel i um in the peri-ulcerated area were ob­
served. B: High magnification of the ulcerated area in the photo A (x25). C: Peri-ulcerated area of the photo A
3
Microphotographs o f
region of the ulcer (Hematoxylin
(x25). Decrease of mu cous cells, loss of mascularis mucosae, edema, inflammatory cell infiltration and dilata ­
tion of blood vessels were observed. D: Granulation tissue formation in t he muscle layer in the ulcerated area,
showing transitional area from normal muscle (x25).
酸溶液絵布による作製法は顧みられることが少ない.
デルとして補体成分(peptidoglycan-polysaccha1吋e)を
MacPhersonらの酢椴塗布による作製法はT必至agiら(9).
ラットの阿腸,
またOkabeら(10~12)の胃壁への酢酸注入による胃itt錫
て発症させる方法が知られている(15, 16).
モ デル, および Okabeらの皆あるいは十一指腸紫膜への
から我々は, 大協紫牒内への1カ所の酢酸溶液作入によっ
酢酸般触によるi覧板モデルの作製法(10, 13, 14)を基とし
て作製 さ れる単 の出減の大き さを指標 と し た, 新たな 薬
ている. これらの報作では粘膜1、層への酢酸注入により,
物評仙iシステムの開発が可能であると考えた.
あるいは円筒形の線共で酢酸の接触音II伎を限局させること
百腸あるいは大腸紫膜内の数カ所に注入し
これらの事実
一
フットの大腸淡朕内にiYt阪を注入したところ, 肉II民的に
によって単 -のi首都を作製し, その大きさを評価の指標と
明瞭な境界を有する門形ないし椅円形状の潰揚が形成され,
しかし, 組織の構造L 胃壁に比べては
その大きさ(およびそこから算出される積場開桔)はノギ
して用いている.
るかに薄 い ラット 大腸続映内への酢酸注入による 大腸炎 モ
スを用いて符易にiJ!IJ定することが可能であった.
デルはこれまで報告されていない. -)J, 別の消化管炎モ
場の人;きさは|直像解析のための装簡を用いてt下山すること
また, 出
ラット柴膜内酢酸注入潰傷性大腸炎モデル
127
ハU
氏U
として認められ ている . 我々は紫膜内酢酸注入潰傷性大腸
炎モデルについても同様の検討を試み た.
LTB4はUCの病態を左右する重要な炎症ファクターと
考えられ ている . 患者患部における LTB4の産生 量と病態
50
g 旬 』ωυち
EE)
N
(
の推移には相関性がみられ, 活動期には 増大すること , ま
40
た薬物投与による薬効発現に伴い減少することが知られて
30
LTB4の 量を 測定したとこ ろ , j貴蕩作製後 2日をピークと
20
高い相向性を示してい た. この こと は , 本モデルのヒト
いる(17~20). 本モデルの潰傷部位を中心とした組織中の
して経時的に減少し, その変化は潰場面積の変化と 非常に
UC病態に対する類似性を示す ーっの事象であると 考えら
10
れ た.
活動期のヒトUCで は , 組 織学的に粘膜への著明な炎
。
Control
6.25
12.5
25.0
5-ASA (mg/kg)
Fig. 4 Eff ect of 5 -ASA on this model. 5 ・ASA was
intracolorectally administered twice daily fo r 5
days. The ulcer areas were measured on day 5 af­
te r colitis induction. Each column represents the
mean ± S.E. of 12 rats. 付P<0.01 vs. control
(Dunnett’s test)
症性細胞の浸潤 (リンパ球 , 形質細胞に加えて好中球 , 好
酸球が混在 ), 陰街上皮の杯細胞減少 , 陰宵膿揚がみられ
る(21). 従来の酢酸注腸大腸炎モデルでは , 適当な条件( 4%
酢酸 , 15秒接触 , 4日後の評価 )におい てヒトUCの組
織像の 特徴である粘膜への著明な炎症性細胞浸潤 (多 量の
リンパ球 , 形質細胞と少 量の頼粒球), 杯細胞減少 , 陰寓
膿蕩などが認められる. ま た, 酢酸注腸の 2日後では , 粘
膜下層に強度の浮腫とともに多核白血球浸潤や線維化を認
め , さらにより高濃度の酢酸を注腸した場合は壊死性 , 穿
孔性の潰蕩形成がみられる(7). 柴膜内酢酸注入潰傷性大
腸炎モデル (20% 酢酸 , 0.02 ml注入 , 5 日後の評価 )の
潰蕩部位では , 高度の炎症性細胞浸潤や杯細胞減少 , 粘膜
も可能である. 比較の ためらASAを投与したラット大腸
上皮壊死, 浮腫や筋層部肉芽組織形成が認められ, 従来の
について潰蕩部位のみの面積(図1 の楕円にあ たる部分 )
酢酸注腸による大腸炎モデルと同様にヒトUC病態に対
を画像解析にて算出したとこ ろ , 5 -ASA投与群(6.25 , 12.5 ,
する類似性が示され た. 本モデルにみられる浸潤細胞は好
25.0 mg/kg/回, 1日 2回)の平均面積および 標準誤差 は
中球 , 好酸球を 主とすることから , 比較的急性期の病態を
対 照群の 37.2± 4.3(mm2)に対し, それぞれ 21.7± 2 . 7,
反映するものと推察され た. ま た本モデルの潰蕩周囲の粘
16.3
±
1.6, 6.8 ±1.3(mmつであり, 用 量依存的で有意な
膜の変化には , 従来の酢酸注腸大腸炎モデルにおける組織
潰蕩の縮小作用が認められ た (Pく 0.01). それぞれの方法
像との 一致がみられ, さらに潰傷部位については高濃度の
で 算出する範囲は 異なるものの得られ た 結果は同様の傾向
酢酸注腸による場合と同 ーと 考えられ たことから , 柴膜内
を示したことから , 我々は操作が簡便でより普遍的に実施
酢酸注入j貴蕩性大腸炎モデルの組織像は 従来の酢酸注腸モ
することが可能なノギスによる 測定法を選択した.
デルの傷害形成期 , あるいは高濃度の酢酸注腸による病態
本モデルでは化学的な発症機序による 一 過性の障害が形
とも類似するものと推察され た. なお, 本モデルでは酢酸
成される. 潰蕩の面積は作製後 2日をピークとして経時的
注入部位の全層に壊死性の変化がみられ , 粘膜を病変の 主
に変化し, 肉眼的には約 2週間で、消失に至った. 従って,
座とするヒトUCとの希離が認められ たが , これは紫膜
本モデルの発症機序と治癒に至るまでの経時的変化 は , 従
側から酢酸を注入することに起因するものと 考えた.
来の酢酸注腸による大腸炎モデルと同様であると推察した
酢酸注入部位の 柴膜側では小腸など周辺組織と軽度の癒
(6, 7). 酢酸を用いた大腸炎はこの ように, 化学的発症機
着を認める場合が多かっ たが , そのほとんどは 容易に分離
序による 一 過性の障害であることがヒトUCの病態と大
され, 評価への影響は無視で、きるものであっ た. ま た , 従
きく 異なっている . その 一方で , 従来の酢酸注腸大腸炎モ
来の酢酸注腸大腸炎モデルでしばしばみられるような穿孔
デルは LTB4などのアラキドン酸代謝物産生パターンがヒ
性の大腸病変は認められなかっ た. さらに, 本モデルの障
トUCに類似していること(8 ), 病理組織学的にヒトUC
害部位は限局的であって周囲の組織は正常に保 たれ , 便の
の病態に近い組織像がみられること(6, 7)などが優れ た点
性状にも大きな変化はあらわれなかっ た. 従って, 柴膜内
128
小島俊太郎, ほか
lcm
Control
6.25
12.5
25.0
5-ASA (mg/kg)
Fig. 5 Macroscopic observation of col itis induced by subserosal injection of acetic acid. Rats were treated with
5・ASA tw ice a day for 5 days. Areas of the ulcer were reduced on dose dependent manner.
.B
Fig. 6 Histological appearance of central region of colitis induced by subserosal injection of acet ic acid. After
induction of colitis, rats were treated intrarectally with 5-ASA twice daily for 5 days. A: Control (vehicle); B: 5・
ASA, 6.25 mg, kg; C: 5-ASA, I 2.5 mg/kg; D: 5-ASA, 25.0 mg kg (He m atoxylin & Eosin, x5)
ラット紫膜内酢酸注入潰傷性大腸炎モデル
129
は 従来の酢酸注腸による大腸炎モデルと同様にヒトUC
80
の病態との類似性を有し, さらには従来の酢酸注腸大腸炎
モデルよりも 客観性, 定量性に優れた評価を可能とする新
たな大腸炎モデルとして, 今後UCに対する薬理研究に
S 見 』ωυ吉
EE)
N
(
60
有用であると 考えた.
文
40
20
。
Control
0.3
0.1
PDL
1.0
(mg/kg)
7 Effect of PDL on this model. Rats were
treated intracolorectally with PDL once a day fo r 5
days. The ulcer areas were measured on day 5 af­
ter colitis induction. E ach column represents the
mean± S.E. of 5 rats. * * P<0 .01 vs. control(Dun­
nett’s test)
Fig.
酢酸注入潰蕩性大腸炎モデルは, 従来の酢酸注腸による大
腸炎モデルや他の実験的大腸炎モデルにみられるような全
身への広範な影響を排除し, j貴蕩に対する作用を直接的に
評価することの出来るモデルとも 考えられた.
UCの治療に広く用いられるらASA製剤や ス テロイド
製剤 は, さまざまな実験的大腸炎モデルに対しても有効性
を示すことが知られ ている(22 ~2 4). 柴膜内酢酸注入潰蕩
性大腸炎モデルに対して 5・ASA, あるいは PDLを潰傷作
製の直後から 5日間経虹門的に投与したとこ ろ, 両薬剤は
ほぼそれぞれの 臨床用量の範囲で有意に潰蕩面積を縮小さ
せた. この 結果は本モデルの薬剤投与に対する優れた反応
性を明確に示すものと 考えた. また, 連続した数値である
潰蕩面積を指標とした評価法は, 客観性, 定量 性において
従来の スコアによる方法よりも優れ ているものと 考えた.
薬物投与による潰蕩面積の縮小に伴い, 組織学的にも粘膜
上皮, 粘膜筋板, および筋層の傷害領域の縮小, ならぴに
潰蕩辺縁部の再 生性粘膜上皮の 増加などが観察された.
PDLの評価では高用量の投与で作用の減弱傾向がみられ
たが, これは高用量の ス テロイド剤投与によって発現しう
る副次的機序によって炎症治癒の遷延がみられたものと 考
えた(2 5) .
以上の 結果, ラット紫膜内酢酸注入潰傷性大腸炎モデル
献
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Abstract - The new experimental ulcerative colitis model in rats induced by subserosal injection of acetic
acid. Ryotaro KOJIMAヘShoichi HAMAMOT02>, Masahiko MORIWAK.12), Katsuharu IWADATE3) and
5-3・1, Tsurugaoka,
356・8511, Japan, 2)Non-Clinical Study Division, RABITON Institute, Inc.,
338, Nakahata-cho, Nishiwaki, Hyogo 677・0032, Japan, 3)Central Research Laboratories, New Drug Devel­
opment Research Center, Inc., 452・1, Toiso, Eniwa, Hokkaido 061・1405, Japan, and 4)Clinical Development
Department, Nisshin Kyorin Pharmaceutical Co., Ltd., 3・1, l仁anda司nishiki
Japan). FoliαPhαrmαcol. Jpn. (Nippon Yakurigaku Zasshi) 118, 123~130 (2001)
Tatsuya OHWAK.14) (1lResearch Laboratories, Nisshin Kyorin Pharmaceutical Co., Ltd.,
Oi-machi, Iruma-gun, Saitama
We have developed a new experimental ulcerative colitis model in rats. Topical pathological change of a
round or a ellips shape was induced by subserosal injection of acetic acid
(20%, 0.02 ml)
into the middle
colon of rats. The size of the induced ulcer could directly be measured using a caliper gauge, and the result
was expressed as the ulcer area (mm2). We determined the concentration of leukotriene B4 (LTB4), which
is one of important clinical factors, in the ulcer region and found that the quantity of LTB4 was well corre­
lated with the size of the ulcer area. Histopathological studies of the ulcer region demonstrated that there
were some morphological similarities to the human form of ulcerative colitis, characterized by edema, ne­
crosis,
inflammatory cell
infiltration,
crypt
abscess
and granulation tissue formation. Effects of
5・
aminosalicylic acid and sodium prednisolone phosphate were investigated by intrarectal administration in
this colitis model. The predominant improvement of colitis was obtained from both treatments in the
ranges of the clinical doses of each drug. In conclusion, we suggest that this colitis model provides a new
way for quantitative evaluation of the efficacy of new therapeutic agents for ulcerative colitis.
Keywords: ulcerative colitis; experimental model; rat; acetic acid; ulcer area
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