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新興国・途上国の課題解決に 日本の「経験」

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新興国・途上国の課題解決に 日本の「経験」
海外の方に見てもらえる非常にいい機会
国民が一丸となって復興する日本の姿を
ールしました。今回は東日本大震災から
成長が一定段階進んだ国に起こりがちな
小寺 現在、アジアの新興国では、経済
構造的には底堅いといえるでしょう。
度なので、財政で支えることができます。
程度なのに対し、新興国はいまだ %程
債務は国内総生産︵GDP︶比で110%
熊谷 おっしゃる通りです。先進国の
されていると思います。
りませんが、それを食い止める手段は残
速が今後どのような形で波及するかわか
多分に残されています。欧州や中国の減
すか。財政事情を見るとまだ拡大余地が
小寺 東南アジアに関してはいかがで
必要です。
す。日中関係の悪化もあり、少し警戒が
少で、マクロ経済には減速感が出ていま
とっていたところに欧州向けの輸出の減
インフレ懸念から金融の引き締め政策を
ことを期待します。心配なのは中国です。
いう問題はありますが、何とか回避する
シートも改善しています。
﹁財政の崖﹂と
えた可能性が高く、家計部門のバランス
していません。住宅価格の調整が峠を越
っている状況です。米国はそれほど悲観
興国・途上国の経済にもブレーキがかか
輸出を通じて欧州以外の国へ波及し、新
主流にする狙いです。
る場合、防災の観点を盛り込んだ開発を
興国・途上国で今後、インフラ整備をす
た﹁仙台レポート﹂を発表しました。新
ステムといったテーマを体系的にまとめ
や建築基準などの各種規制、早期警報シ
の会合で世界銀行は、防災のための投資
本の経験が生かされるでしょう。仙台で
をどう盛り込んでいくかに関しても、日
小寺 さらに今後は、開発の中に防災
ています。
理を徹底的に研究し、迅速に対策を講じ
米の金融当局が日本のバブル崩壊後の処
子高齢化の問題も同様です。昨今では欧
とっては大いに参考になるでしょう。少
高度成長期に突入する新興国・途上国に
す。日本の戦後復興の軌跡は、これから
熊谷 確かに日本は〝課題先進国〟で
決に役立つはずです。
の新興国が現在、直面している課題の解
いました。こうした日本の経験がアジア
時は政策的に中間層を育成しようとして
には国民皆医療保険を達成するなど、当
に、所得税の累進性を高め、1961年
うしたインフラの整備を進めるのと同時
鉄鋼や電力、運輸などが中心でした。こ
今年度はヨルダンに対し、産業育成と公
雇用機会にうまく転化されていません。
金があるにもかかわらず、それが若者の
います。中近東は域内に一定の市場や資
小寺 中近東やアフリカにも注目して
ばしいことです。
な国が成長することは日本にとっても喜
民性も非常にまじめなミャンマーのよう
を長年支援しています。親日国家で、国
取引所を設立するなど、証券市場の育成
ビスを購入する、という流れが開発のあ
生まれる中間層が日本企業の商品やサー
える取り組みにほかなりません。新たに
にわたってその国の貧困層を中間層に変
小寺 同感です。開発援助とは中長期
活性化につながるのです。
務であり、それが巡り巡って日本経済の
官民挙げてサポートするのが、日本の責
とが期待されています。そうした国々を
市場として世界経済のけん引役になるこ
小寺 清氏
こ で ら ・き よ し
いくために必要な開発資金を貸し出すというもので、
途上国は資金を返済する義務を負う。ただし、貸出金
利は低く抑えられており、返済期間も長期で設定され
る。主に開発途上国の経済発展に欠かせないインフラ
整備に活用される。
所得格差の拡大や成長の鈍化など、いわ
。今後
――
これにより、ようやく開発援助のスタ
大きな成果でした。
について国際的な合意がなされたことは
これまでの債務の延滞をどう解消するか
が今後、国際社会に復帰していく上で、
煎りで開催されたことです。ミャンマー
マーに関する支援国会合が日本政府の肝
会におけるトピックスの一つは、ミャン
増やし始めているところです。今回の総
協力中心の支援から、少しずつ円借款を
このような国では、これまでの無償資金
ンフラ整備を求める声が強まっています。
スといった、より所得の低い国からもイ
輸出﹂の具体的推進策でもあり、今後も発
の重要施策である﹁パッケージ型インフラ
これは日本政府の掲げる日本再生戦略上
PPインフラ事業調査を実施しています。
JICAは、 年より、民間提案型のP
ていきたいと思います。
フラ整備、教育、農業の支援等を強化し
かに進出できる環境を整えるため、イン
い。JICAとしては、日本企業が速や
ますが、日本企業の進出がまだまだ少な
少ないながらも4年前よりは倍増してい
かれました。確かに日本の公的な支援は
日本からの民間投資だ﹂といった声が聞
要なのは円借款や公的資金だけでなく、
のかと驚いたのと同時に、その気持ちに
つけて考える個人投資家がこれほど多い
を申し上げます。投資と社会貢献を結び
をいただきました。この場を借りて御礼
投資家向けの﹁JICA債﹂は大変好評
小寺 おかげさまで昨年発行した個人
にマッチするでしょう。
を目指す商品は、日本的な﹁中庸の道﹂
経済的リターンと社会的リターンの両方
は一過性になりがちです。その意味で、
社会貢献だけでは長続きしないし、寄付
持たないのはやはりむなしい。とはいえ、
利益を追求するだけで投資対象に関心を
された﹁JICA債﹂もその対象でした。
機運が高まっています。昨年 月に発行
はそれがJICAにとって大きなテーマ
ート地点に立ちました。JICAは民主
展途上国・民間セクター・政府開発援助
応えるため引き続き努力していかなけれ
︵TICAD Ⅴ︶が横浜で開催されます。
るべき姿です。円借款や海外投融資がど
になりました。
ゆる﹁中進国の罠︵わな︶﹂に陥らないため
になるでしょう。
共サービスの改善に向けた取り組みを円
小寺 総会全体としては、世界的な経
の方策について活発な議論がなされ、イ
それに先立ち今般のIMF・世界銀行年
熊谷 その一方で、個人投資家の間で
う民間投資の土台になるか。そして官民
熊谷 2012年 月に 年ぶりに東
済成長の鈍化や欧州債務問題への懸念と
ンフラ整備と格差の是正が不可欠との認
小寺 すでに多くの実績があるインド
次総会でアフリカ諸国の代表団と話す機
借款で支援することを決定しました。2
京で開催された国際通貨基金︵IMF︶
・
いった課題を共有しました。世界経済の現
識が共有されています。振り返ってみる
やインドネシア、ベトナム以外にも、最近
連携の事業をどう展開するか
世界銀行年次総会では、JICAも数多
状をどのようにご覧になっていますか。
と、わが国も高度経済成長のきっかけと
013年6月に第5回アフリカ開発会議
くのセミナーやミーティングを開催・共
熊谷 やはり欧州情勢が非常に厳しい
化以前からミャンマーに事務所を構え、
︵ODA︶がWIN W
‐IN W
‐INとなれる
な案件を進めながら発展に貢献していき
ンフラ整備から地方の民生向上など様々
ンマー政府や関係者との対話を通じ、イ
関係構築に努めてきました。今後もミャ
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民間の投資も必要
インフラ支援を強化
催するなど、重要な役割を果たされまし
いま投資を通じて社会貢献したいという
小寺 海外に向け、日本の存在感を大
きくアピールできた総会だったと思いま
す。まず東京が清潔で洗練された世界有
数の大都会であることに世界銀行の元同
僚たちの多くが感激していました。仙台
では、防災と開発に関する特別な会合が
開かれました。IMFのラガルド専務理
事、世界銀行のキム総裁が出席し、東日
本大震災から力強く復興する日本の姿を
発信できたことも非常に有意義でした。
また、JICAは総会期間中、約100
の国・機関等とミーティングを実施しま
した。その中でアジアはもちろん、中近
東やアフリカ等の新興国・途上国の開発
において日本の果たす役割を再確認しま
した。
熊谷 私もさまざまな会合に出席し、
日本ならではの﹁おもてなしの心﹂やサ
たいと思います。
熊谷 新興国・途上国は今後、安価な
人の投資を通じた社会貢献活動とを結ぶ、
べき日本、そしてJICAの責務と、個
ています。今回も国際社会の中で果たす
る﹁JICA債﹂を発行することになっ
てこのたび、個人向けとしては2回目とな
ばと、身が引き締まる思いでした。そし
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画期的な橋渡し役になるはずです。
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社会貢献の機運高まる
第2回﹁JICA債﹂発行
ような関係の構築に努めたいと思います。
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しますか。
会が多くありました。
﹁いまアフリカに必
J I C A 債 …日本の政府機関として昨年に引き続き 2
度目の発行となる個人投資家向けの円建て債券。調達
された資金は、全額が円借款に代表される有償資金協
力業務に充当される。
ではバングラデシュやカンボジア、ラオ
有償資金協力(円借款)…開発途上国が発展して
なった世界銀行からの借入資金の使途は、
国 際 協 力 機 構(JICA)… 日 本 の政 府 開 発 援 助
(ODA)の実施機関として、
2国間援助の「技術協力」
「有
償資金協力」「無償資金協力」を一元的に担う独立行政
法人。JIC Aは、これらの援助手法を、発展途上国のニー
ズに応じ有機的に組み合わせることで、より効果的・
効率的な援助を行うことにより、発展途上国の社会・
経済開発に寄与し、日本政府の政策や国際公約の達成
に向けて貢献している。
というのが最大の懸念材料です。それが
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日本の存在感を世界へ
防災を含めた開発主流に
国際協力機構(JICA)理事
東京大学法学部卒。大蔵省(現財務省)入省。国際金融畑を歩み、2006年から日本
人初の世界銀行・IMF合同開発委員会事務局長(兼世界銀行副官房長)
として世界
10年4月より現職。国
の財務・開発大臣の開発援助への意見の取りまとめにあたる。
アジア開発銀行等の国際シンポジウムでの議長・プレゼン多数。
連、世銀、
た。改めて今回の総会をどのように総括
KEYWORD
労働力による生産拠点から、巨大な消費
企画・制作=日本経済新聞社クロスメディア営業局
広 告
ービス水準の高さを痛感しました。ホス
熊谷 大和総研もミャンマーの開発に
は注力してきました。 年にミャンマー
最大の国営銀行とともに初の株式の店頭
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ト国として日本の魅力は十分に伝わった
と思います。前回東京で開催した 年前
くま が い・み つ ま る
48
30
熊谷 亮丸氏
東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。日本興業銀行(現みず
ほフィナンシャル・グループ)入行。同行調査部などを経て、2005年メリル
リンチ日本証券・チーフ債券ストラテジスト。07年大和総研・シニアエコ
ノミスト。10年より現職。
大和総研 チーフエコノミスト
10
は日本の戦後の復興を世界に向けてアピ
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新興国・途上国の課題解決に
日本の「経験」と「支援」を
対談 世界の開発援助と日本の責務
個人投資家の資金で後押し
2011年12月に発売された国際協力機構債券(JICA債)は、新興国・途上国の経済発展を目指す円借款に個人が
参加できる仕組みとして大きな話題を呼んだ。
2回目となる個人投資家向けの「JICA債」が販売されることを受け
て、独立行政法人 国際協力機構(JICA)の小寺清理事と大和総研の熊谷亮丸チーフエコノミストが、世界の開発援
助とその中で果たす日本の役割などをテーマに対談した。
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