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中央アルプス北部の地形発達史的考察 山地環境防災研究所 北澤秋司

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中央アルプス北部の地形発達史的考察 山地環境防災研究所 北澤秋司
中央アルプス北部の地形発達史的考察
山地環境防災研究所 北澤秋司
キーワード:撓曲崖,付加帯,接峰面図,破砕帯,地形発達史
1.
研究の概略
木曽山脈の主稜部では,領家変成岩を貫いた木曽駒花崗岩の大
岩体が占めその北部域では,中・古生層がプレートテクトニクスでいういわゆ
るメランジ(付加帯)が分布する.北部域標高 1,500
2,000mの東側斜面の地形
は,断層を伴う撓曲部(写真 1)がみられる,本研究では,この現象を地形発達
史的に解明しよ
うと試みた.
2.
地形発達史
1)山地形成初
期における谷形
成期
領家帯の
隆起が,中生代白
亜紀後半に起こ
った.領家花崗岩
類活動期の長くゆるやかな隆
起活動によって山地形成が始
まり,木曽山脈東西側斜面の
河川は真東または真西へ流れ,
天竜川または木曽川に合流し
ている.
2)地塁山脈形成途上における
撓曲部出現期
領家花崗岩類
が白亜期後期に貫入する時期,
あるいは新生代に入って木曽
谷・伊那谷両断層群の活動期
の初期のころに,この地域一
帯に何らかの歪みが働き,木
曽谷・伊那谷に沿って横ずれ
もしくは傾動が起こり,真西
または真東に直進していた河川が一斉に南または北にたわむような流路をとる
ようになった.この関係で撓曲部が現れ,撓曲崖が生じたと考えられる.ただ
し,この考えは仮説の段階を脱していない(図 1 参照).
3.
調査地域の地形・地質の概要
1)地 形
調査地域は,経ヶ岳山麓から小黒川右岸である.経ヶ岳山塊は木
曽山脈最北部の山塊であり,中央アルプスの主要部である木曽駒ケ岳山塊とは,
境峠断層を境界として西へ 3km ほどずれている.中央アルプスには,ケルンバ
ットとよばれる,断層運動独特の地形があちこちに見られるが(上松ケルンバ
ット,飯田ケルンバット),調査地域でも同様のもが確認できる(写真 1 参照).
2)地 質
調査地域では,断層活動によるものと思われる破砕帯が存在した.
破砕帯は領家変成岩のひとつであるホルンフェルスから構成されている.そし
て,その上には,御嶽山起源の噴出物が堆積している.このことから,断層活
動は,御嶽山の噴火活動の時期よりも古い時期に行われていたと考えられる.
4.
接峰面図
谷埋め法によ
る 100m−500m
谷埋め接峰面
図を作成し(図,
地形解析を試
み,古水系を推
定してみた.ま
た,研究対象地
のヒプソメト
リック曲線を
描いた.これに
よって研究対
象地は,晩壮年
期の地形を示
していること
がわかった.
5.
地形発達史についての考察 かつて片田ら(1961)が研究した領家帯の地質
構造発達史に沿って考察を加えると,次のようにまとめることができる.
1)山地形成初期における谷形成期 中生代白亜紀におこった領家花崗岩類の
活動に伴って領家帯が緩やかに隆起を始め,山地形成が起こる.この時,河川
は最高部から真西または真東へ流れ,木曽川または天竜川に合流した.
2)地塁山脈形成途上における谷変形期 中生代末期あるいは新生代に入って,
木曽谷断層群・伊那谷断層群の活動が始まる頃,木曽谷または伊那谷に沿って
横ずれ,もしくは傾動が起こって真西または真東に直進していた河川は一斉に
南または北に撓む流路をとるようになる.たとえば,木曽川支流の滑川および
天竜川支流の黒川(太田切川支流)にみられる.
6. まとめ
研究対象地の地形は,撓曲部が現れ,撓曲崖が生じた地形が現存し,
断層と小規模な破砕帯を伴い,ところどころに崩壊が出現している.木曽山脈
を南部の木曾峠と北部の境川峠で境して,南部,中部,北部と 3 区分すれば地
形発達史的には,木曽山脈東部域の扇状地形成過程から見て,北部から南部に
向かう順序で発達したものと考えられている.この考えを取り入れれば,研究
対象地の撓曲崖が生じた地形発達史は,整合性をもつものと考えている.
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