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核不拡散・核セキュリティ科学技術開発 - 国立研究開発法人日本原子力
11 核不拡散・核セキュリティ科学技術開発 原子力平和利用を支える核不拡散・核セキュリティに関する技術開発・人材育成 核不拡散・核セキュリティ総合支援センターは、国内外 の関係機関と連携し、核不拡散・核セキュリティに関し、 以下の技術開発や人材育成等を実施しています (図11-1) 。 日本のための、そして世界のための技術開発 東京電力福島第一原子力発電所事故の溶融燃料等 の核物質定量のための測定技術開発や使用済燃料を 直接処分した場合の保障措置*技術の検討を実施して います。また、核セキュリティ及び保障措置の高度化 に資する測定・核検知技術開発に関し、核共鳴蛍光 (NRF)による核物質探知技術、外部パルス中性子源 を用いた非破壊測定技術、核分裂生成物を含むプルト ニウム溶液モニタリング技術の開発を行うとともに、核 鑑識技術の開発については、技術の高度化を進めてい ます。トピックス 11-1 は、核鑑識の手段の一つであ るウラン精製年代測定技術に関する国際共同比較分 析試験結果をまとめたものです。 * 核物質が平和目的だけに利用され、核兵器等に転用されないこと を担保するために行われる検認活動のこと 技術的知見に基づいた政策立案支援 原子力施設における核不拡散(保障措置: Safeguards) と核セキュリティ(Security)の相乗効果にかかわる検 討を実施しています。両者(英語の頭文字から 2S と 称する)をともに強化,推進していく観点から、将来 施設において各々の S に使用する計測・監視技術や 機器及び情報を 2S 間で共有する可能性を視野に入 れ、基礎的検討として、2S の相乗効果にかかわる国 際的な動向調査や、国際機関等が例示する 2S の共用 方策について、混合酸化物(MOX)燃料加工施設及 び燃料貯蔵施設への適用性調査を実施しました。 人材育成支援 2010 年 4 月の核セキュリティ・サミットでの日本政府 の表明に基づき、2011 年 4 月からアジア諸国を始めと する各国の核セキュリティ強化に貢献するための人材 育成支援事業を開始しました。2015 年度は核セキュ リティや保障措置に関して国内外で実施したセミナー, トレーニング等には、国内外から約 530 名(内アジア 諸国等からの参加者は約 300 名)が参加しており、ア ジアを中心とした地域で人材育成に貢献しています。 技術的知見・経験をベースとした国際貢献 国際的な核実験監視体制の確立に向けて、包括的 核実験禁止条約(CTBT)国際監視制度施設や国内 データセンター(NDC)の暫定運用を実施しています。 2016 年 1 月の第 4 回北朝鮮核実験では、CTBT 放射 性核種観測所データの解析評価結果を国等へ適時に 報告し、CTBT 国内運用体制に基づく国の評価に貢 献しました。 原子力機構が計画する核物質輸送及び研究炉燃料に かかわる業務支援 各研究開発拠点が行う核物質輸送を支援するとと もに、試験研究炉用燃料の需給及び使用済燃料の処 置方策の検討を実施しています。高濃縮ウラン燃料 の対米返還輸送を計画的に推進することにより、世 界的な核セキュリティを強化してきた地球規模脅威 削減イニシアティブ(GTRI)に貢献しています。 連携機関 米国エネルギー省 (DOE) 携 連 政策調査研究 原子力の平和利用と核不拡散・ 核セキュリティに関する今日的課題について 技術的知見をもとに政策研究を実施 核物質の輸送・ 研究炉燃料業務支援 原子力機構が行う核物質輸送支援 試験研究炉用燃料の需給及び 処理処分の検討を実施 アジア諸国を中心とした 人材育成支援 CTBTにかかわる 国際検証体制への貢献 トレーニング, セミナー, ワークショップ等 によるキャパシティ ・ビルディング 機能の強化 CTBT核実験検証技術の高度化開発 及び国際的な監視体制の確立 携 連 連 核不拡散・核セキュリティ強化に 貢献する技術開発 携 携 国内関係機関 連 欧州原子力共同体 (EURATOM) 国際原子力機関 (IAEA) 東京電力福島第一原子力発電所の溶融燃料計量管理技術等の 先進保障措置技術, 核検知・非破壊測定技術, 核鑑識技術 アジア諸国の 原子力関連 ネットワーク CTBT機関 (CTBTO) 世界核セキュリティ 協会 (WINS) 豪州保障措置・核不拡散局 (ASNO) 関係府省 図 11-1 核不拡散・核セキュリティ総合支援センターの実施体制と連携体制 IAEA 等の国際機関や、各国における技術開発及び核物質の管理と利用にかかわる透明性確保に資する活動を行っていま す。また、アジア諸国に対して、能力構築に貢献する人材育成支援事業を継続しています。 120 原子力機構の研究開発成果 2016-17 核不拡散・核セキュリティ科学技術開発 11 - 1 核物質が製造された日を明らかにする -核鑑識のためのウラン年代測定に関するラウンドロビン- 1959/10/27 1958/12/3 推定された分離精製日 JAEA 1958/1/9 実際の分離精製日 1957/2/16 1956/3/25 * CEA LLNL 1955/5/2 LANL 1954/6/9 図 11-2 ウラン標準物質(U-050)を用いた年代測定の結果 ラウンドロビンの結果、U の製造日を、各国の機関が一定の誤差範囲内で推定できること が分かりました。原子力機構は、欧米と比べても高い水準の核鑑識分析技術を有すること が示されました。 (* CEA: フランス原子力・代替エネルギー庁) 核物質・放射性物質を用いたテロが発生する懸念が 高まる中、国際原子力機関(IAEA)は、 「核鑑識」を 国家が備えるべき重要な核セキュリティ基盤と位置付け ています。核鑑識とは、捜査当局によって押収,採取さ れた核物質あるいは放射性物質に関する元素組成,物理・ 化学的形態等を分析し、その物品の出所,履歴,輸送経 路、目的等を分析・解析する技術的手段です。 核鑑識で行われる年代測定とは、核物質が製造された 日を明らかにする技術であり、分析した物質の起源の特 定に非常に有効であると考えられています。原理として は、例えば、ウラン(U)試料の製造過程において、U 以外の元素は分離されるため、製造時の U 試料中には、 その子孫核種のトリウム(Th)は含まれないと仮定で きます。一方で、時間の経過とともに、分離精製された U 試料中に再び子孫核種の Th が一定の速度で生成され ていきます。したがって、試料中の親核種 U と子孫核 種 Th の比を測定することで、製造日を明らかにするこ とができます。 私たちは、米国のローレンスリバモア国立研究所 (LLNL) 、ロスアラモス国立研究所(LANL)との共 同研究として、ウラン年代測定に関する分析法の比較及 びラウンドロビン(同一の試料を複数の分析者が分析 し、結果を比較する)を実施してきました。原子力機 構(JAEA)では、分析対象の 234U と 230Th の定量には、 同位体希釈質量分析法を用いました。この分析では、極 微量に存在する 230Th を高精度に測定するための課題と して、主成分の U を効率良く除去できる分離精製方法 の確立が必要でした。このために、既成の分離カラムよ りも口径の細いカラムを自作し、カラムの流量を制御 することで、高い除去率(10-8 = Th フラクション中の U/ 初期試料中の U)を実現しました。また、この分離カ ラムの容量は 0.3 mℓと少量のため、試料の液量も少量 に抑えることができ、分離操作及び試料の蒸発乾固にか かる時間を短縮することができました。U の同位体比標 準物質である U-050 を用いたラウンドロビンでは、各研 究機関の結果は誤差の範囲で一致し、また、原子力機構 は世界トップレベルの核鑑識分析技術を有する欧米の研 究所の結果と比較しても良好な結果が得られ (図 11-2) 、 実際に核鑑識事案が発生した場合に、適用可能であるこ とが示されました。 ●参考文献 Gaffney, A. M., Okubo, A. et al., Round-Robin 230Th- 234U Age Dating of Bulk Uranium for Nuclear Forensics, Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry, vol.307, issue 3, 2016, p.2055-2060. 原子力機構の研究開発成果 2016-17 121