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No4 - スポーツ法政策研究会

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No4 - スポーツ法政策研究会
連載 基礎から学ぶ「スポーツと法」
No. 4
スポーツ事故における
学校の責任
山本雄祐
1.はじめに
スポーツ法政策研究会、法律事務所あすか、弁護士
徒の年齢等の具体的状況によって定まると
裁判例では、
最近、学校内でのスポーツ事故につき、
しており、個々のケースごとに判断をせざ
①高校の体育祭での騎馬戦に参加した生徒
学校(学校設置者)が民事訴訟を提起され、
るを得ませんが、大きく、
「危険防止措置
が他の騎馬に押されて倒れ、頚椎脱臼
民事責任を負う事例が増えてきています。
義務」
「説明指導義務」および「救護措置
の重症を負った事故につき、指導教師
そこで、本稿では、学校内でのスポーツ事
義務」に分類することができます(もっと
には、練習段階で生徒に対し、騎馬の
故において、学校が民事責任を負う根拠、
も、この分類に当てはまらない事例もあり
倒壊の仕方、組み手の外し方等につい
損害額等について説明をいたします。
ます)
。
て説明、指導すべき義務を怠った過失
があるとして、学校設置者に損害賠償
2.学校が民事責任を負う根拠
学校が民事責任を負う根拠は、学校自体
(1)危険防止措置義務
学校または教師は、安全な環境を保持し、
に過失や安全配慮義務がある場合と教師に
危険防止措置を採るべき義務を負っていま
過失がある場合に区別されます。
す。
私立・国公立を問わず、一般的に、学校
裁判例では、
責任を認めています(松山地方裁判所
平成11年8月27日判決 判例時報1729
号75頁)
。
②高校の体操部員が難度の高い跳馬の練習
中に頭部を強打して受傷した事故につ
は、生徒の生命・身体の安全を保護すべき
①学校の授業としてのソフトボールの試合
き、体操競技の実技練習を行うクラブ
義務を負っており、学校がこの義務に違反
に防護マスクを着けずに審判として参
活動においては、生徒の試みる技が高
(過失)して、生徒の生命・身体に損害を
加していた小学校6年生にファウルチ
度なものであるほど重大事故につなが
与えた場合、
「不法行為責任」を負います。
ップのボールが左眼に当たって失明し
る危険性を伴うものであるから、指導
また、学校は、生徒との間の在学契約に付
た事故につき、指導教師に過失がある
を担当する教師には、生徒がこのよう
随する義務として、生徒の安全を配慮する
として、学校設置者に損害賠償責任を
な技を試みる場合、生徒の体操競技に
義務を負い、安全配慮義務に違反して、生
認めています(浦和地方裁判所平成4
関する一般的な技量だけでなく生徒の
徒の生命・身体に損害を与えた場合、
「債
年4月22日判決 判例タイムズ792号
当該技についての習熟度を考慮し、こ
務不履行責任」を負います。もっとも、裁
199頁)
。
れに伴う危険性を生徒に周知徹底する
判例においては、不法行為責任と債務不履
②高校のクラブ活動としてのサッカーの試
等事故防止のための適切な指導、監督
行責任の具体的義務違反の判断基準は大き
合中に落雷により負傷した事故につき、
すべき義務を怠った過失があるとして、
な違いはありません。
教師に落雷事故発生を回避する義務を
学校設置者に損害賠償責任を認めてい
また、学校は、教師の過失によって生徒
怠った過失があるとして、学校設置者
ます(横浜地方裁判所平成9年3月31
の生命・身体に損害を与えた場合、
「損害
に損害賠償責任を認めています(高松
日判決 判例時報1631号109頁)
。
賠償責任」を負います。
高等裁判所平成20年9月17日判決 判
この安全配慮義務の具体的判断基準につ
例タイムズ1280号第72頁)
。
学校または教師は、生徒が体調不良とな
いて、裁判例は、当該活動の内容とそれに
内在する危険性、危険を回避・軽減するた
(2)説明指導義務
めの指示や物的設備の有無、被害および加
学校または教師は、生徒に対し、適切な
害生徒等の技能、体力および体調、被害生
説明、指導をすべき義務を負っています。
Sportsmedicine 2009 NO.109
(3)救護措置義務
った場合、応急措置や病院への搬送をする
等の適切な救護措置を採るべき義務を負っ
ています。
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裁判例では、
定しますが、先程の積極損害とは異なり、お
を残す場合や3歯以上に対し歯科補綴を加
県立高校相撲部の合宿練習中、生徒が
金に評価するのが難しい性質のものである
えた場合は第14級に該当します。そして、
熱中症による急性心不全により死亡し
ため、その算定は容易ではありません。
先程の日弁連の基準によれば、第1級に該
た事故につき、学校設置者の履行補助
そのため、交通事故における損害賠償額
当する場合の後遺症慰謝料額は 2,500 ∼
者である顧問教師としては部員の健康
算定の運用基準を用いて算定をする例が少
3,000 万円の間、第2級に該当する場合の
状態に留意し、運動中、部員に何らか
なくありません。交通事故は、件数が多く、
後遺症慰謝料額は2,100∼2,500万円の間、
の異常を発見した場合、速やかに容態
画一かつ迅速に処理する必要性があること
第14級に該当する場合は80∼110万円の
を尋ね、応急措置を採り、必要な場合
から、損害賠償額算定の運用基準が作成さ
間で、後遺症の程度等を勘案して算定され
には医療機関による処置を求めるべく
れ、運用基準に従った処理がなされてきま
ます。また、第14級に該当しない場合であ
手配する注意義務があり、また、顧問
した。入通院をしたことにより被った精神
っても、第14級に準じる場合として後遺
教師としては相撲部員である生徒が異
的肉体的苦痛に対する賠償という意味で
症慰謝料が認められる場合もあります。
常な行動をした時点において熱中症を
は、スポーツ事故も交通事故も本質的には
予防するため異常がないか否かに注意
変わらないと考えられることから、スポー
し、水分・塩分の補給を図り、さらに
ツ事故においても、交通事故における損害
死亡慰謝料は、先程の日弁連の基準によ
意識喪失等の障害がみられた場合には、
賠償額算定の運用基準に従った処理がなさ
れば、死亡者が一家の支柱であった場合は
直ちに医療機関へ搬送すべき義務があ
れているようです。
2,500 ∼3,000万円の間、一家の支柱に準
(4)死亡慰謝料
ったにもかかわらずこれらを怠った過
入通院慰謝料は、入通院の期間や傷害の
ずる場合は 2,200 ∼ 2,500 万円までの間、
失があるとして、学校設置者に損害賠
部位・程度が算定の重要な要素となりま
その他の場合は2,000∼2,400 万円の間で、
償責任を認めています(東京高等裁判
す。損害賠償額算定の運用基準は、自動車
被害者の年齢や家族構成等を勘案して算定
所平成6年 10 月 26 日判決 判例時報
賠償責任保険の損害算定要綱・任意保険お
されます。
1555号57頁)
。
よび共済の損害査定基準・財団法人日弁連
交通事故相談センターが公表している損害
3.損害
賠償額算定基準等があります。
4.過失相殺
過失相殺とは、被害者の過失が加害者の
日弁連の基準によれば、入院1カ月の場
行為と競合して損害の発生、拡大に寄与し
い、学校が民事責任を負う場合、一般的に、
合は33 ∼60万円の間、2カ月の場合は63
た場合に、損害額を減縮する制度です。過
学校は治療費・入院付添費・通院交通費・
∼117万円の間、通院1カ月の場合は16
失相殺が認められるのは、被害者の行為と
入通院慰謝料等の損害を賠償する責任を負
∼29万円の間、通院2カ月の場合は31∼
因果関係のある損害について加害者は責任
います。さらに、スポーツ事故により後遺
57万円の間で、傷害の部位や程度を勘案
を負わない、または損害の発生、拡大に被
症が残った場合、後遺症慰謝料・逸失利益
して算定されます。ただし、傷害の程度が
害者の行為が寄与した場合には被害者に責
を賠償する責任を負い、生徒が死亡した場
重い場合は2割程度増額することができる
任を負担させるのが公平であるという理由
合、死亡慰謝料・逸失利益を賠償する責任
こととされており、反面、通院期間が長期
に基づきます。スポーツは多かれ少なかれ
を負います。
間に及ぶ場合や不定期な場合、通院実日数
危険性が伴いますが、被害者が安全措置を
の3.5倍を通院期間として算定することに
採ることにより危険が回避されることか
より調整を図っています。
ら、被害者自身にも危険回避措置が期待さ
スポーツ事故によって生徒が傷害を負
(1)治療費・入院付添費・通院交通費
れており、被害者の危険回避措置が不十分
治療費・入院付添費・通院交通費は、
「積極損害」と呼ばれますが、積極損害は、
一般的には、必要性、相当性が認められる
実費を賠償する責任を負います。
(3)後遺症慰謝料
後遺症慰謝料は、後遺症の程度や内容に
応じて、後遺障害等級ごとに慰謝料額が算
な場合、過失相殺が問題となり、損害額が
減縮されることになります。
学校におけるスポーツ事故においては、
定されます。後遺障害等級は第1級から第
被害者が生徒であり、小学生の場合もある
14級まであり、たとえば、両眼を失明した
ことから、被害者に損害の一部を負担させ
入通院慰謝料は、被害者が入通院をした
場合や両上肢を肘関節以上で失った場合は
てよいのか、すなわち被害者に危険回避能
ことにより被った精神的肉体的苦痛に対す
第1級に該当し、両眼の視力が0.02以下
力があるかが問題となります。一般的には、
る賠償です。慰謝料は、被害の内容や程度、
になった場合は第2級に該当し、1眼のま
小学1年生(5・6歳)程度を基準にして
加害者の行為態様等の諸事情を考慮して決
ぶたの一部に欠損を残しまたはまつげはげ
被害者の危険回避能力を認め、過失相殺が
(2)入通院慰謝料
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基礎から学ぶ「スポーツと法」
認められています。
被害者に危険回避能力が認められるとし
所昭和 60 年2月 20 日判決 判例時報
1153号206頁)があります。
ても、過失相殺の対象である過失は損害の
この結論の差は、過失相殺を肯定した判
発生、拡大に寄与したものでなければなら
例は、学校の教師が危険な飛び込みの禁止
ないため、常に過失相殺が認められるとは
を注意していたこと、飛び込み方の具体的
限りません。また、同様の事案であっても、
指導をしていたこと、被害者が飛び込みを
具体的事実によって過失相殺が認められる
上手にできる組に属していたことから被害
か否かが異なりますので注意が必要です。
者が教師の注意や指導を理解し、相当程度
裁判例でも、
その注意や指導を実行することができたこ
小学校6年生の生徒が水泳の授業の際、
とを重視したことによるものと考えられま
飛び込みの練習中にプールの底に頭部
す。
を打ちつけて受傷したという同様の事
案につき、25%の過失相殺を肯定した
判例(山口地方裁判所岩国支部平成3
年8月26日判決 判例タイムズ779号
128頁)と否定した判例(大分地方裁判
Sportsmedicine 2009 NO.109
〔参考文献〕
『スポーツ法』神谷宗之介著 『スポーツの法律相談』伊藤尭、濱野吉生、浦川道
太郎、菅原哲朗編著
『商品スポーツ事故の法的責任』中田誠著
スポーツ法政策研究会
代表幹事/菅原哲朗・キーストーン法律事務所
幹事/竹之下義弘・東京六本木法律特許事務所、
白井久明・京橋法律事務所、伊東 卓・新四谷法
律事務所
会計/高木宏行・横松・高木総合法律事務所
●入会方法
参加資格/幹事の承認を得たうえで参加していた
だきます。
年会費/5,000円
入会申し込み/会入会希望の旨を下記事務局ま
で、電話、FAX、E-mail にて申し込み、所定の申
込書に必要事項を明記し返送する。
●事務局
〒104-0031
東京都中央区京橋1-3-3 柏原ビル2階
京橋法律事務所内「スポーツ法政策研究会」
事務局長/片岡理恵子
TEL:03-3548-2073
FAX:03-3548-2071
E-mail:[email protected]
http://www.keystone-law.jp/sports/sports-index.htm
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