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CHEMISTRY: ART, SCIENCE, FUN THEORETICAL EXAMINATION PROBLEMS JULY 20, 2007 MOSCOW, RUSSIA Official version team of Japan 一般的な注意 • 名前(Name)と受験番号(student code)を全ての解答用紙に書き入れること。 • 試験時間は 5 時間である。試験終了の合図の後も解答を続けると,本課題は零点と なる。 • 解答および計算式は解答用紙の該当する解答欄の中に書きなさい。 • 渡されるペンと計算機のみを使用しなさい。 • 問題冊子は 22 ページ(表紙カバーと元素の周期表を含む),解答用紙は 22 ページ (表紙カバーを含む)からなる。 • 参照用に公式英語版を利用することができる。 • トイレ休憩の際は許可を得ること。 • 試験終了の合図の後,問題冊子と解答用紙の全てを封筒に入れ,封をしなさい。 • 退出の許可が出るまで着席しておくこと。 Official version team of Japan 物理定数と有用な公式 気体定数 アボガドロ定数 プランク定数 真空中の光速 R = 8.314 J⋅K–1⋅mol–1 NA = 6.022·1023 mol–1 h = 6.626·10–34 J⋅s h = 1.055·10–34 J⋅s c = 3.00·108 m⋅s–1 不確定性原理 圧力 p における凝縮相のギブズエネル ギー(Gibbs energy of a condensed phase at pressure p) 表面過剰圧(Excess pressure caused by surface tension) ∆x ⋅ ∆p ≥ h 2 G = pV + const ∆Pin = 2σ / r 平衡定数とギブズエネルギーの関係 RT ln K = −∆ r G o 等温でのギブズエネルギー 溶液の浸透圧 ∆G = ∆H − T ∆ S ∆G = ∆G° + RT·ln Q product of c(products) with Q = product of c(reactants) E k = A exp − A RT p =c RT Beer- Lambert の法則 A = log 等温での化学反応における∆G アレニウスの式 P0 = ε·lc P 円柱の体積 = πr2h 球の表面積 = 4πr2 4 球の体積 = πr3 3 Official version team of Japan 問題 1. プロトントンネル現象 エネルギー障壁を通過するプロトントンネル現象は,水素結合が存在する多くの複 合化合物(DNA,タンパク質など)の中で見られる重要な効果である。プロパンジア ール(マロンアルデヒド)は,分子内プロトン移動が可能な最も単純な化合物の1つ である。 プロパンジアールの構造式とその異性体(isomer)の構造を2つ記しなさい。2つ の異性体はプロパンジアールと平衡状態にある。 1.1.1 1.1.2 水溶液中ではプロパンジアールは弱酸であり,その強度は酢酸と同程度である。 酸性を示す水素原子に丸印を付けなさい。また,酸性度の説明として適切なものを選 択肢の中から1つ選びなさい。 Energy, arb. units 下の図には分子内プロトン移動のエネルギー状態図が示されている(プロトン移動 の距離は nm で,エネルギーの値は概略で表されている)。エネルギー曲線は対称的な 井戸型が2つ組み合わさった形をしている。 -0,06 1.2.1 -0,04 L -0,02 0,00 Distance, nm 0,02 R 0,04 0,06 この曲線の2つの極小値に相当する構造を書きなさい。 ひとつのプロトンは2つの原子の間に非局在化していて,角振動数ω = 6.48⋅1011 s–1 で 2つの極小点 L と R の間を振動している。プロトンの確率密度は次式のように時間に 依存している。 1 Ψ 2 ( x, t ) = Ψ 2L ( x) + Ψ 2R ( x) + ( Ψ 2L ( x) − Ψ 2R ( x) ) cos ( ωt ) , 2 波動関数 Ψ L ( x) と Ψ R ( x) は,左と右の井戸にそれぞれ局在化しているプロトンを表して いる。 Official version team of Japan Ψ 2 2 2 ΨL -0,06 -0,04 -0,02 ΨR 0,00 0,02 0,04 0,06 Distance, nm 1.3.1 次の3つの時間の確率密度の式を書きなさい: (a) t = 0, (b) t = π/(2ω), (c) t = π/ω. これらの3つの関数を図示しなさい。 計算によらず,t = π/(2ω)のとき,左の井戸の中にプロトンを見出す確率を求め なさい。 1.3.2 1.3.3 プロトンが1つの井戸からもう1つの井戸に動くために必要な時間はどれだけか。 また,移動の間のプロトンの平均の速さはいくらか。 エネルギー曲線から,水素結合を形成するプロトンの位置の不確かさを見積も りなさい。また,プロトンの速さの最小不確かさを見積もりなさい。1.3.3 で得られた 値と比較し,プロトンのトンネル現象についての結論として適切なものを選択肢の中 から1つ選びなさい。 1.3.4 Official version team of Japan 問題2. ナノ化学 鉄族の金属類は,СО の水素化の有効な触媒である(Fischer-Тropsch 反応)。 CO + 3H 2 Fe, Co CH 4 + H 2O 触媒(例えばコバルト)は球状構造(Fig.1)の固体ナノ粒子の形でよく使われる。触媒 のサイズを小さくすると触媒活性がかなり増加する。しかしながら,触媒の酸化とい う望ましくない副反応も起こっている: Co(s) + H2O (gas) CoO(s) + H2 (gas) (1) 固体酸化コバルト(バルク相)は反応容器中で生成する。これは触媒の質量という 面で,取り返すことができない損失を引き起こすことになる。固体酸化コバルトはま た,Co(s)の表面に形成させることもできる。この場合新しい球面状の層が触媒の表面 の上に生成されることになり(Fig.2 参照),触媒活性が低下する。 CoO-Gas 界面 Co-CoO 界面 Co-Gas 界面 さて,ナノ粒子の生成が平衡反応式(1)にどのように影響するか見てみよう。 有用な式: 2σ G 0 (r ) = G 0 (bulk) + V r 2.1.1 500 K における,反応式(1)についての標準ギブズエネルギー ∆ r G 0 (1) と平衡定数 を計算しなさい。 コバルト触媒が球状粒子の形(Fig.1)で分散しているとき,次の2つの半径におけ る反応(1)の平衡定数を計算しなさい。 2.1.2 (a) 10–8 m (b) 10–9 m CoO-gas 界面での表面張力は 0.16 J/m2 である。CoO はバルク相を生成している。 Fischer-Tropsch (CO, CН4, Н2, Н2O) 反応に含まれている混合ガスを,コバルト触媒が 入った反応容器中に入れた。全圧 р = 1 bar,温度 T = 500 K とする。水素(%)のモル分率 は 0.15%である。 Official version team of Japan 2.2.1 望ましくない触媒酸化が自発的に起こり,固体バルク相の CoO が系に現れてく るとき,気体混合物中の水の最小割合(%)はいくらになるかそれぞれ求めなさい。ここ で,コバルト触媒が次の二つの形をとっていると仮定しなさい。 (a)バルク相 (b) 球状ナノ粒子, ra = 1 nm (Fig. 1) p (H 2 O) / p (H 2 ) の比と温度が一定のとき,コバルトナノ粒子が自発的な酸化によ って CoO バルク相を生成することを防ぐために,どのようなことが考えられるか1つ 選び,その解答欄に印(mark)をつけなさい。 (a) ra を大きくする。 (b) ra を小さくする。 (c) ra の変化は影響がない。 2.2.2 さて,酸化コバルトがコバルトナノ粒子の周りに球面状の層を生成していると仮定 する。この場合,ナノ粒子は反応物(Co)と生成物(CoO)の両方を含んでいる(Fig.2)。以 下の問題で,表面張力はσCoO-gas, σCoO-Co,半径は ra, rb,モル体積 は V(Co), V(CoO)とす る。 2.3.1 CoO の標準モルギブズ関数の式を書きなさい。 2.3.2 Co の標準モルギブズ関数の式を書きなさい。 ヒント もし,2つの球面状界面がナノ粒子を取り巻いているとすると,中心での過 剰圧力は次式で与えられる。 σ1 σ +2 2 r1 r2 ここで,ri,σi はそれぞれ球面状界面 i における半径と表面張力である。 Pin − Pex = ∆P = ∆P1 + ∆P2 = 2 2.3.3 反応(1)の標準ギブズエネルギー ∆ r G 0 (1, ra , rb ) を次の文字を用いて表しなさい。 σCoO-gas, σCoO-Co, ra, rb, V(Co), V(CoO) , ∆ r G 0 (1) . Official version team of Japan 2.3.4 Co の自発酸化が始まると,ナノ粒子(Fig.2)の2つの層の半径がほとんど等しく なる。このとき,ra = rb = r0, , ∆ r G 0 (1, ra , rb ) = ∆ r G 0 (1, r0 ) である。 σCoO-gas = 2σCoO-Co である ことを仮定したとき,解答用紙のどのプロットが ∆ r G 0 (1, r0 ) の r0 への依存性を正しく表 しているか,記号で答えなさい。 p (H 2 O) / p (H 2 ) と温度が一定の時に,Co ナノ粒子を外側の CoO 層の自発的生成 から防ぐためには,次のどれが適当か,1つ選び,その解答欄に印(mark)をつけなさい。 a) r0 を大きくする。 2.3.5 b) r0 を小さくする。 c) r0 の変化は影響がない。 . 参照データ: 物質 Co (s) CoO (s) H2O (gas) ρ, g/cm3 8.90 5.68 o , kJ/mol ∆ f G500 –198.4 –219.1 Official version team of Japan 問題 3. 不安定な複数の化学反応 多くの化学反応は不安定な反応速度挙動を示す。様々な条件(濃度や温度)では, 反応はいろいろなモードで進んでいく:一定に,振動しながら、あるいは無秩序に。 これらの反応のほとんどは自己触媒的な素反応段階を含んでいる。 自己触媒段階を含む単純な反応機構を考えよう: k1 B + 2X → 3X k2 X + D →P (В と D は反応物,X は中間体,そして P は生成物である。) 3.1.1 この二段階機構の全体の反応式を書きなさい。X についての反応速度式を書きな さい。 定常状態の近似を用いて反応速度式を導きなさい。次の3つの反応次数を求め なさい。 (i) B に関しての反応次数 (ii) D に関しての反応次数 (iii)反応の全体の反応次数 3.1.2 反応物 B と D が絶えず系に加えられているような,開放系で起こっていると考える と,それらの濃度は一定で等しく保たれている。つまり [B] = [D] = 一定。 3.2.1 反応速度式を解くことなしに,次の二つの条件で[X](t)の速度曲線を描きなさい。 1) [X]0 > k2/k1; 2) [X]0 < k2/k1 反応速度式を解くことなく,密閉容器内で初期濃度 [B]0 = [D]0, [X]0 > k2/k1 の 条件の下で反応が進行する場合の[X](t)の速度曲線を描きなさい。 3.2.2 より複雑な反応速度挙動が,いくつかの中間体がある反応では起こりうる。酸素中 でのエタンの冷燃焼(cold burning)の単純化された反応機構を考えてみよう: k1 C2 H 6 + X + ... → 2X k2 X + Y → 2Y + ... k3 C2 H 6 + Y + ... → 2P 特定の条件下では,この反応は振動的挙動を示す。 中間体は過酸化物 C2H6O2 とアルデヒド C2H4O であり,P は安定な生成物である。 3.3.1 X, Y,及び P を同定しなさい。反応機構中のブランクをうめなさい。 Official version team of Japan 不安定な反応の挙動は,反応速度に影響を与える温度によって,しばしば制御され る。上の反応機構において,濃度の振動は k1 ≥ k2 のときにのみ可能である。アレニウ ス式のパラメータは,次のように実験的に求められている: A, cm3⋅mol–1⋅s–1 EA, kJ⋅mol–1 段階 90 1 1.0⋅1011 12 100 2 3.0⋅10 3.4.1 振動機構が起きる温度の中でもっとも高い温度は何度であるか。計算過程を示 して答えなさい。 Official version team of Japan 問題 4. フィッシャー(Fischer)滴定による水の定量 古くから行われているフィッシャー法による水の定量では,メタノールに溶解した 試料溶液(あるいは懸濁液)を,過剰量の SO2 とピリジン (C5H5N, Py)を含むヨウ素の メタノール溶液(フィッシャー試薬)で滴定する。次の反応が滴定中に起こっている。 SO2 + CH3OH + H2O + I2 = 2HI + CH3OSO3H Py + HI = PyH+IPy + CH3OSO3H = PyH+CH3OSO3- ヨウ素の量は,1 mL の滴定試薬と反応する水の mg 単位の量で表される(以下 T, mg/mL) 。この値は,1.00 mL のヨウ素溶液と反応する水の質量(mg)に等しい。T は あらかじめわかっている量の水を含む試料を滴定することにより,実験的に決定する。 試料は,たとえば水和物や水の標準メタノール溶液である。後者の場合は,メタノー ル自身もある程度の水をふくむことを忘れてはならない。 以下の計算では小数点以下 2 桁の原子量を用いること。 場合によっては,水の滴定はメタノールを用いずにピリジン中で行われる。この 場合,I2 は SO2 及び H2O とどのように反応すると考えられるか,化学量論式を書きな さい。 4.1 以下の場合におけるヨウ素溶液(フィッシャー試薬溶液)の T 値を計算しなさい。 4.2.1 1.352 g の 酒石酸ナトリウム二水和物 Na2C4H4O6·2H2O の滴定に,12.20 mL のフ ィッシャー試薬溶液を要した。 4.2.2 量がわかっている水(21.537 g)を 1.000 L メスフラスコに入れ,メタノールを標線 まで加えた。得られた溶液を 10.00 mL とり滴定を行ったところ,22.70 mL のフィッシ ャー試薬溶液が必要であった。一方,メタノールだけ 25.00 mL を滴定したところ, 2.20 mL のフィッシャー試薬溶液が使われた。 4.2.3 5.624 g の水をメタノールで希釈し体積を 1.000 L とした(溶液 A)。15.00 mL のフィッシャー試薬(溶液 B)を溶液 A で滴定したところ,22.45 mL の溶液 A が消費 された。次に,25.00 mL のメタノール(溶液 A を調製する時に用いたものと同じ瓶の もの)と 10.00 mL の溶液 B を混合し,得られた混合溶液を溶液 A で滴定した。この時 10.79 mL の溶液 A が消費された。 4.3 経験の浅い分析化学者がフィッシャー試薬を用いて CaO 試料中の水の定量を試み た。考えられる誤差の原因を示す反応式を書きなさい。(式が複数あれば複数書くこ と) 0.6387 g の水和物 Fe2(SO4)3·xH2O の滴定を行ったところ,10.59 mL のヨウ素溶液(フ ィッシャー試薬溶液)が消費された。 問題に与えられている反応以外に,どのような反応が滴定中に起こりうるだろ うか。2つの可能な反応式を書きなさい。 4.4.1 Official version team of Japan 4.4.2 Fe2(SO4)3·xH2O とフィッシャー試薬との全体の反応式を書きなさい。 4.4.3 水和物 Fe2(SO4)3·xH2O の組成を計算しなさい(x は整数)。 Official version team of Japan 問題5. 不思議な混合物(有機化合物のかくれんぼ遊び) X は,3 種類の無色液状の有機化合物 A, B, C の,等モル量の混合物である。X に,1 滴の塩酸を垂らした水を加えて加熱し,水から分離したところ,酢酸とエタノールの 1:2(モル比)混合物が得られ,そこに他の成分は含まれていなかった。加水分解後 の混合物に,触媒量(1~2 滴)の濃硫酸を加え,長時間還流(還流冷却器を付けた沸 騰操作)したところ,快い香りのする揮発性の液体である化合物 D が 85%の収率で得 られた。化合物 D は A, B, C のいずれとも同一の化合物ではなかった。 化合物 D の構造を描きなさい。 化合物 D はどのような有機化合物群に分類されるか。解答用紙に示されている 選択肢の中から適切なものを選びなさい。 5.1.3 仮に還流を2倍の時間続けても,D の収率は 85%を超えないであろう。エタノ ールと酢酸の 1:1 混合物(モル比)を用いたとして,D の収率の予想値を計算しなさ い。その際,以下のことを仮定しなさい。a) 反応中に体積は変わらない,b)溶媒効果, 混合による体積の不確かさ,温度変化等の付随する要因は全て無視できる。もしあな たが定量的な見積もりができない場合は,収率が a) 同じである (85%); b) 85%より高い; c) 85%より低い,から選んで示しなさい。 5.1.1 5.1.2 化合物 A, B, C の 1H NMR スペクトルはよく似ており,一重線,三重線,四重線を示 していて,それらの積分強度比は 1:3:2 となっている。 同じ混合物 X の塩基による加水分解を行った。A は変化せず,そのまま分離された。 残りの溶液を酸性にして短時間沸騰させたところ,酢酸とエタノールの 2:3(モル 比)の混合物を与え,その際気体の発生がみられた。 混合物 X の 3.92 g をジエチルエーテルに溶かして,活性炭に担持したパラジウム触 媒の存在下水素添加を行った。この操作では 0.448 L(標準状態での体積で)の水素が 吸収されたが,反応後 A と C は未反応のまま単離された(3.22 g の混合物が回収され た)。水素添加後は,B もジエチルエーテル以外の他の有機化合物も検出されなかった。 化合物 A, B,および C の構造を決定して描きなさい。 C の酸による加水分解および B の塩基による加水分解において,どのような中 間体が生成しているか,それぞれ構造を記しなさい。 5.2.1 5.2.2 B または C とアセトンとの反応(塩基存在下)を行い,続いて希塩酸で酸性にして 緩やかに加熱すると,同一の生成物を与え,それは天然に広く存在する senecioic acid (SA)とよばれる化合物である。別の方法として,senecioic acid はアセトンに濃塩酸を作 用させ,続いてヨウ素の塩基性溶液で中間生成物を酸化することにより得られる。後 者の反応では,senecioic acid のナトリウム塩とともに,濃い黄色の沈殿 E(scheme 2 を 参照のこと)が得られる。 Official version team of Japan B or C O 1. Me2CO/base 2. HCl, t 1. HCl cat. 2. I2, NaOH (1) SA C5H8O2 SA (sodium salt) + E (2) senecioic acid の構造を決定し,アセトンから senecioic acid のナトリウム塩が得 られる反応の一連の反応式(scheme)を描きなさい。 5.3.2 E の構造を記しなさい。 5.3.1 Official version team of Japan 問題 6. 地殻の主成分であるケイ酸塩 シリカ(二酸化ケイ素)とシリカから誘導される化合物は,地殻中の物質の約 90% を占める。シリカから美しいマテリアルが得られる-ガラスである。ガラスがどのよ うに発見されたかは,誰にも正確なところはわからない。よく言われる話は,海の砂 とソーダ灰をたまに融かしていたフェニキア人の船乗りに関するものである。彼らが 水ガラス(LGL),水溶性のメタケイ酸ナトリウム(Na2SiO3) の秘密を明らかにしたという のはありそうな話である。 6.1.1 LGL 溶液はかつて仕事場の接着剤として用いられていた。LGL が空気中で固ま ることを説明する全体のイオン反応式を書きなさい。 LGL を加水分解するとケイ酸のコロイド溶液が得られる。 6.1.2. 解答用紙の表を完成させなさい。表に列挙してあるプロセスに適合する全体の イオン反応式を書きなさい。それぞれのプロセスについて,pH 変化をもたらすようで あれば“Yes”のボックスにチェックを入れなさい。そうでなければ“No”のボックスにチ ェックを入れなさい。 水溶液中に存在するケイ酸イオンの構造はやや複雑である。しかしながら,全ての 溶存種に対して,主な構成最小単位(ビルディングブロック, building block),オルト ケイ酸イオン正四面体(SiO44-, 1),を見出すことは可能である。 (1) 以下は ケイ酸塩水溶液中に見出される[Si3O9]n- イオンに関する設問である。 電荷 (n)を決定しなさい。 隣接する正四面体との間を架橋している酸素原子の数を決定しなさい。 いくつかの正四面体(1)をつなぎ合わせることでできる,このイオンの構造を描 きなさい。どの隣接する一つの正四面体とも1つの頂点を共有していることを考慮す ること。 6.2.1 6.2.2 6.2.3 [Si4O10]m- で表される電荷を帯びた単一の厚みを持つ二次元層がカオリナイトと呼ば れる粘土の中に見出されている。 6.2.1-6.2.3 と同じ考え方により,16 個の正四面体(1) をつなぎ合わせることでで きる層状構造の一部を描きなさい。10 個の正四面体(1)は,おのおの 2 つの隣接する正 四面体(1)と頂点を共有しており,残りの 6 個の正四面体は,おのおの 3 つの隣接する 正四面体(1)と頂点を共有していることを考慮すること。 6.2.4 遷移金属の塩を LGL 溶液中に入れると,対応する遷移金属の塩の色に関連する色が ついた一風変わった“樹”が生えてくる。CuSO4·5H2O の結晶からは青色の“樹”が, NiSO4·7H2O からは緑の“樹”ができる。 Official version team of Japan 0.1 M の硫酸銅の 25℃における pH を決定しなさい。加水分解はごくわずかしか 進 行 し な い と 仮 定 す る こ と 。 な お , [Cu(H2O)4]2+ の 第 一 酸 性 度 定 数 ( first acidity constant)は KaI=1·10-7 M を用いなさい。 6.3.1 6.3.2 CuSO4 水溶液とメタケイ酸ナトリウム(LGL)水溶液の間の反応式を書きなさい。こ れらの溶液の pH 値を考慮すること。 Official version team of Japan 問題7.アテローム性動脈硬化症とコレステロールの生合成中間 体 コレステロールは天然の生体中に広く存在する脂質の一つである。その代謝が行わ れなくなることはアテローム性動脈硬化症や関連して発生する致命的になりうる疾病 を引き起こす。 物質 X と Y は動物体内でのコレステロールの生合成の2つの重要な中間体である。 Х は 3 種類の元素のみから構成される光学活性なモノカルボン酸である。生体内で, このカルボン酸は(S)-3-ヒドロキシ-3-メチルペンタンジオイル-補酵素 A 結合体 (HMGCоА)[ (S)-3-hydroxy-3-methylpentanedioyl-coenzyme A (HMG-CоА) ]から生成する。この 反応は酵素 E1(この酵素は 2 種類の反応を触媒する酵素である)により触媒され,E1 の反応は基質として水が関与しない。X はさらに代謝されて,酵素 E2, E3, および E4 を必要とする 3 段階の変換により,X1 となる。なお,ここで関与する3つの酵素はた だ一つの種類の反応を触媒するものである。最終段階で,X1 は自発的に(非酵素触媒 的 に ) ピ ロ リ ン 酸 イ ソ ペ ン チ ル ( 3- メ チ ル ブ タ -3- エ ニ ル ジ ホ ス フ ァ ー ト , IPP ) [isopentenyl pyrophosphate (3-methylbut-3-enyl diphosphate, IPP)]と無機生成物を与える。 HO S O OH O HMG-CoA CoA E1 X E2, E3, E4 X1 Scheme 1 * O O OP P O * O O OIPP Е1 と Е3 に対応する反応の種類を解答用紙の選択肢から選びなさい。 X の構造をその立体化学がはっきり分かるように描きなさい。そして,不斉中心 の絶対配置(R または S)を示しなさい。 7.1.1 7.1.2 Y は不飽和の非環式炭化水素である。これをオゾン分解して還元的処理を行うと 3 種 類のみの有機物質 Y1, Y2 と Y3 の混合物を 2:4:1 のモル比で与える。Y は異性関係 にある2つの物質:IPP とピロリン酸ジメチルアリル(DAP)[dimethyl allyl pyrophosphate (3-methylbut-2-enyl diphosphate, DAP)] ,の何段もの連続的なカップリング反応と,最終 的なカップリング生成物 Y5 のひとつの二重結合の還元の結果得られる。Y の生合成の 中の炭素―炭素結合生成に関与する IPP と DAP の炭素原子はアスタリスクを付けて示 してある。 O O OP P * O O O- ODAP ジメチルスルフィドが還元剤として使われるとして,DAP のオゾン分解―還元 的処理の全体の反応式を書きなさい。 7.2.1 最終的なカップリング反応の生成物(炭化水素 Y5,hydrocarbon Y5)は中間体 Y4 の 炭化水素残基(R)が2つ結合して生成する。 Official version team of Japan O O 2 R O P O P OOO- Y4 Y5 +2H R R Y 2PPi Scheme 2 Scheme2 に示されているカップリングの段階で,ピロリン酸イオンがカップリング生 成物に対して 1:1 のモル比で放出される。 7.2.2 Y2 と Y3 がそれぞれ 5 個と 4 個の炭素を含んでいることが分かっているとして, Y の分子式を決定しなさい。 7.2.3 ピロリン酸エステルの2つの異性体のすべての炭素原子が Y に含まれるとして, Y5 を与えるのに必要な IPP と DAP の分子の数を計算しなさい。 カップリング反応の生成物のオゾン分解と還元的処理により Y1,Y2,およびリンを 含むもう一つの生成物が得られることが分かっているとして,IPP 分子と DAP 分子の カップリング反応の生成物を描きなさい。この時,炭素―炭素結合はアスタリスクの 付いた炭素でのみ生成するとして考えること。 7.2.4 Y5 が Y に変換される代謝において,Y5 の二重結合のうち還元されるただ一つの二 重結合が,Scheme 2 に示されている反応によって生成する。Y と Y4 のすべての二重結 合は trans 配座をとっている。 7.2.5 Y と Y4 の構造式を,立体化学がはっきり分かるように描きなさい。 Official version team of Japan 問題8. ATRP が新しいポリマーを与える ATRP(原子移動ラジカル重合,Atom Transfer Radical Polymerization)は,ポリマー 合成を指向する新しい手法のうちで最も期待されるものの一つである。このラジカル 重合を一部変更した方法は,有機ハロゲン化物と遷移金属錯体(特に Cu(I)であるが) とのレドックス(酸化還元)反応に基づいている。この過程は次の scheme で表すこと ができる(ここでは M はモノマー(monomer), Hal は ハロゲン(halogen)を示す): R-Hal+Cu(+)Hal(Ligand)k . kact R +Cu(2+)Hal2(Ligand)k kdeact R-M-Hal+Cu(+)Hal(Ligand)k kact kP +M . R-M +Cu(2+)Hal2(Ligand)k kdeact ... kp kact R-Mn-Hal+Cu(+)Hal(Ligand)k . . R-M y +R-M x +(n-1)M . R-Mn +Cu(2+)Hal2(Ligand)k kdeact kt R-M (y+x)R 反応速度定数は次のように定義されている: kact – 全ての活性化反応(all activation reactions),kdeact – 全ての可逆的な不活性化反応(all reversible deactivation reactions), kp - 高分子鎖生長反応(chain propagation), および kt – 非 可逆の停止反応(irreversible termination) ATRP の各素反応段階: 活性化 (vact), 不活性化 (vdeact), 高分子鎖生長 (vp) そして 停止 (vt),の反応速度式を書きなさい。なお,ここではただ一つの活性種 R’X を仮定し た一般式を書きなさい。表記 R’X において,X はハロゲン(Hal)を,R’は R- や R-Mn-を 8.1.1 表している。 鎖状高分子の全分子数が開始剤分子の数と等しいと考えなさい。また,重合反応の 間中,その各瞬間において,すべての高分子鎖が同じ分子鎖の長さをしていると仮定 しなさい。 8.1.2 不活性化の反応速度を ATRP の各素反応段階の速度と比較しなさい。 ATRP における,反応時間(t)に対するモノマー濃度 ([M]) (monomer concentration ([M])) の依存性を表すと次のようになる。 Official version team of Japan [M ] = − k p ⋅ [ R ⋅ ] ⋅ t , ln [ M ]0 [M]0 - 最初のモノマー濃度(initial monomer concentration), kp – 生長段階の反応速度定数 (rate constant of propagation), [R·] – 活性なラジカルの濃度(concentration of active radicals) ATRP 法を用いてポリマーのサンプルを調製するために,触媒量の CuCl,有機化合 物の配位子(L),そして 31.0 mmol のモノマー(メタクリル酸メチル,MMA,methyl methacrylate) を混合した。反応は 0.12 mmol の tosyl chloride (TsCl)(p-トルエンスルホ ン酸塩化物,トシルクロリド)を加えることにより開始した。重合は 1400 秒間行った。 kp は 1616 L·mol-1s-1, そしてラジカル種の定常状態濃度は 1.76·10-7mol·L-1 であった。 H2 C CH3 CH3 O O CH3 O H2 C O OSi(CH 3 ) 3 SO2Cl MMA 8.2.1 H3 C TsCl HEMA-TMS 得られたポリマーの質量(m)を計算しなさい。 別の実験において,残りの反応条件は同じにして,MMA の重合時間を変えた。この 時得られたポリマーの質量は 0.73 g であった。次に,メタクリル酸 2-(トリメチルシリ ロキシ)エチル[2-(trimethylsilyloxy)ethyl methacrylate], HEMA-TMS (23.7 mmol)をこの反応 混合物に加え,重合をさらに 1295 秒間続けた。MMA と HEMA-TMS の反応性はこの 条件下では同じであった。 得られたポリマーの重合度を計算しなさい。 MMA 単位および HEMA-TMS 単位をそれぞれ A および B として,得られたポリ マーの構造を示しなさい(このとき末端基を含むことを忘れないこと)。必要であれ ば,共重合構造(copolymer structure)を表すのに次の記号を用いなさい: block (ブロ ック構造, block), stat (確率的~ランダム構造, statistical), alt (交互構造, alternating), grad (徐々に変化する構造,gradient), graft (グラフト構造,grafted). 例えば, (A65-graftC100)-stat-B34 は繰返し単位 A と繰返し単位 B のランダム共重合体の繰返し単位 A にポ リマーC の高分子鎖がグラフトされていることを表している(単位の数は省略されてい る)。 8.2.2 8.2.3 ATRP が P1 および P2 の2つのブロック共重合体を合成するのに用いられた。2つの ブロック共重合体構造について,ブロック部分の一つは同一で,それはポリエチレン オ キ シ ド の モ ノ (2- ク ロ ロ プ ロ ピ オ ニ ル ) 化 体 [mono(2-chloropropionyl)-poly(ethylene oxide)]を高分子開始剤(macroinitiator)として用いて合成された。 O O H 3C CH3 58O Cl もう一方のブロック部分は,P1 がスチレン単位(C と略す)で,P2 が p-クロロメチル スチレン単位(D と略す)で構成されていた。 Official version team of Japan 高分子開始剤(macroinitiator),P1,および P2 の 1H NMR スペクトルを下に示す。特徴 的なシグナルの積分強度は表で見ることができる。 8.3.1 解答用紙に示されている部分構造に帰属できる 1H NMR シグナルを示しなさい。 8.3.2 P1 と P2 について,繰返し単位 C と D のモル分率およびそれぞれの分子量を決 定しなさい。 P1 と P2 の合成を通して起こりうる全ての活性化反応をそれぞれについて書きな さい。ここで,記号 R を高分子内の反応に関与しない任意の部分として示すことがで きるが,R をどの部分構造として用いているかを特定しなければいけない。 8.3.3 ポリ(エチレンオキシド)高分子鎖を波線で表し,共モノマー(co-monomers)繰返 し単位をそれぞれ C と D で表して,P1 の構造と P2 として考えうる構造の1つを描き なさい。 8.3.4 (シグナルの記号 と積分強度) ポリ(エチレンオキシド)と p-クロロ メチルスチレンの共重合体 ポリ(エチレンオキシド)とスチレ ンの共重合体 強度比 (縦軸) 化学シフト(ppm 単位) Official version team of Japan Official version team of Japan Official version team of Japan