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Ti-Ni-Cu形状記憶合金の機能および疲労特性に及ぼす加工・記憶熱処理
背 景 センサ機能とアクチュエータ機能を合わせ持つ形状記憶合金は,様々な分野で実 用されている。原子力プラントにおいては配管の継手などの補修部品として,また, 火力プラントにおいても適用が試行され,今後さらなる適用拡大が期待されている。 当所では,Ti-Ni-Cu合金を対象に温度ヒステリシスに及ぼすCu添加の効果を調べ, 適正量を明らかにしてきた(注1)。同合金を利用した機器の性能向上や一層の利用拡 大を図る上で,さらに加工や熱処理の効果を明らかにしておく必要がある。 目 的 Ti-Ni-Cu合金を対象に,熱・力学サイクル条件下で,機能および疲労特性に及ぼ す冷間加工および記憶熱処理の効果を調べ,合金が保有する機能を最大限に利用で きる処理条件および使用条件を明らかにする。 主な成果 形状記憶合金をサーマルアクチュエータ(熱エネルギーを力学エネルギーに変換) として応用する場合の利用する機能と応用例を表1に示す。 1. 変態温度差に及ぼす処理条件の影響を調べた結果,低加工率ほど,また,記憶 熱処理温度を高くするほど変態温度差が縮小する(図1)。 2. 温度ヒステリシスは,加工,記憶熱処理条件によらずほぼ一定であり,Cu添加 の効果を保持できる。 3. 回復力(締結力)は,加工率を低くすることにより増大し(図2),記憶熱処理 温度条件の影響は小さい。 4. 力学エネルギー(有効ひずみエネルギー)が最大となる加工,熱処理条件は, 疲労寿命を考慮すると,低加工率で673~723Kの記憶熱処理温度が最適であり(図 3),これは変態温度差が小さく応答性が向上する条件にも適合する。また,合 金素子については,低加熱温度(約20Kの昇温幅),ひずみ約4%の使用条件で力 学エネルギーが最大となる。 以上をまとめると,Ti-Ni合金へのCuの添加は作動温度幅の縮小に有効であり(Ti-Ni 合金の約1/3),8~10%が適切である。また,サーマルアクチュエータの性能を向上 する合金の処理条件は,必要最小限の加工率,673~723Kの熱処理条件である。ま た,合金素子は約4%のひずみ条件で使用することが最適である。 注1 電力中央研究所研究報告,T98046 表1 サーマルアクチュエータの用途と利用する機能 図1 変態温度差と冷間加工率および記憶熱処理温度との関係 [Af-As:逆変態終了(Af), 開始(As) 温度差 Ms-Mf:変態開始(Ms), 終了(Mf) 温度差] 図2 回復応力と冷間加工率との関係 図3 力学エネルギー(有効ひずみエネルギー)と冷間加工率および記憶熱処理温度との関係