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定量下限値の求め方 - Thermo Fisher Scientific
TR015YS-0083 200006 200901 イオンクロマトグラフ Q & A その 4 検出限界、定量下限値の求め方 S/N = 3 を検出限界として計算すると、検出限界濃 【はじめに】 検出限界および定量下限を知ることは、データの信頼 度は以下のようになります。 検出限界濃度 (μg/L) = 0.6 × 3 × 16 / 25 性を高めるうえで重要です。 = 1.152 検出限界や定量下限の定義や算出方法は分野や測定 対象によって異なります。この資料では、一般にクロマトグ ラフィーでよく使われる方法についてまとめました。 検出限界濃度を求める場合は、シグナルにはクロマト グラムで得られるピーク高さを用います。ピーク高さがノ イズレベルの 10 倍程度になるような濃度に試料を調製 【検出限界の定義】 検出限界は、JIS1) では「検出できる最小量(値)」と定 義されています。つまり、クロマトグラフィーでは、ベースラ し、その試料を測定したときの実際のピーク高さをピーク のシグナルとします。 インノイズ (N) に対して有意な差があるピークのシグナル (S) が検出限界ということになります。 「有意な差」とは具体的にどの程度の差を示すのでしょう ノイズを測定する方法には 2 種類あります。いずれか の方法で測定してください。 か?簡易的には、ノイズの 3 倍の強度のシグナル (S = 3N) を検出限界としています。ベースラインの変動がない 場合や、不純物のピークが検出されない場合はこの方法 ◎ノイズの測定方法 1 がよく用いられています。しかし、ベースラインの変動があ 15~20 分間ベースラインを記録します。次に、得ら る場合や、不純物のピークが検出される場合には、一般に れたベースラインを 0.5~1 分間単位で分割し、各区 シグナルの標準偏差の 3 倍を検出限界とします。これは、 画(X )内のノイズを含む最小幅の平行線を引きます。 上水試験方法 2) 各区画における平行線の幅の平均値をノイズ(Y ) とし における検出限界の定義「試験対象の ます 3)。計算には、10 区画程度用います。 物質量又は濃度を統計学理論により相当に高い信頼性 で確認し得る最少量」にも沿う方法です。 X = 0.5 ~ 1.0 min 【検出限界の求め方】 X1 から求める方法、B.ブランクの標準偏差と検量線の傾きか ら求める方法、C.残差の標準偏差と検量線の傾きから求 X2 X3 応答 ここでは 3 種類の求め方すなわち、A.ベースラインノイズ Y1 Y2 Y3 める方法について説明します。 A.ベースラインノイズから求める方法 時間 測定イオンのシグナル (S)とベースラインノイズ (N) を測定し、S と N の比が 2:1 または 3:1 となるときのイオ ンの濃度を検出限界とします。この方法は、ベースライン の変動がある場合や、近傍に不純物のピークが検出さ れる場合には適していません。 例)NO2- 16 μg/L のシグナルが 25 nS/ cm、この条件 におけるベースラインノイズが 0.6 nS/ cm のとき。 図-1 ノイズの測定方法 1 ◎ノイズの測定方法 2 ブランクが検出しない場合は、推定検出限界濃度の試 検出限界付近のピークを含むベースラインを記録し 料の測定をおこない、そのときの標準偏差と平均値を使用 ます。ピーク前後のベースラインのうち、ピーク半値幅 します。応答値の検出限界は Yb = 0 であるため、Yd = k の 10~20 倍の時間幅においてピーク以外の信号の σとなります。検出限界濃度は式 2 から求めます。 (N)とします。 検量線 Y =Yb + a X 応答 最大値と最小値の振れ幅 hN を求め、その 1/2 をノイズ 応答 Yq σ Yq=Yb + 10σ σ hN = 2N シグナル (S) 10σ Yd σ α β σ Yb 時間 σ Yd=Yb + 3σ 3σ σ 図-2 シグナルとノイズの関係 B.ブランクの応答値の標準偏差と検量線の傾きから求め る方法 Xb Xq Xd 濃度 図-3 検出限界、定量下限の概念図 ブランクの測定を、複数回(20 回程度が望ましい)おこ なった結果が平均値 Yb、かつ標準偏差σで正規分布す るとします(図-3 の破線分布参照)。 同じく、検出限界と仮 定される濃度の成分を複数回測定したときの応答が、平 均値 Yd、かつ標準偏差σで分布する(太実線)とした場 合、Yd と Yb がσの k 倍以上離れていれば、両者を取り 違える確率が低い(どの程度低くすべきかは目的による)、 という統計的な考え方を利用します。式に表すと次のよう になります。 Yb:ブランク試験の応答 Yd:検出限界試験の応答 Yq:定量下限試験の応答 Xb:ブランク試験の濃度 Xd:検出限界試験の濃度 Xq:定量下限試験の濃度 α:ブランクの応答であるにも関わらずブランク の応答と判定されない領域 β:成分の応答であるにも関わらずブランクの応 答と判定される領域 検出限界濃度の平均応答値: Yd = Yb + kσ ----- 式 1 濃度 X に対する応答値 Y の検量線が、傾き a で正比例 するのであれば、検量線の式は Y = aX + Yb となりますの 例)NO3-の推定検出限界濃度が 4 μg/L 付近であるとし ます。この濃度を繰り返し 5 回測定し、表-1 のような 面積値が得られたときの検出限界は? で、式1を次のように変換できます。 表-1 NO3- 4 μg/L の面積値 検出限界濃度: Xd = kσ / a ------ 式 2 Yb と Yd の両者を取り違える確率には、第一種の誤り(ブ ランクの応答であるにも関わらず成分が検出されたと判断 されてしまう確率:図-3 のα)と第二種の誤り(成分の応答 であるにも関わらずブランクと判断されてしまう確率:図-3 のβ)が含まれます。IUPAC4) (INTERNATIONAL UNION OF PURE AND 繰り返し測定回数 面積値 N=1 842 N=2 732 N=3 700 N=4 867 N=5 989 標準偏差 115.345 APPLIED CHEMISTRY) はαとβがともに 5 %としたと きの Yd を検出限界と定義しています。αとβがともに 5 % としたときの k は統計的な計算から 3.29 と求められます。 一般的には、3.29 を有効数字一桁に丸めた 3 が用いられ ますが、IUPAC では 3.29 を推奨しています。 表-1 は推定検出限界濃度のときの面積値であるた め、ブランクの標準偏差 (σ) の代わりに、表-1 の 値から計算したσを用います。σは 115.345 で、表 -1 より最小二乗法で求めた検量線の傾きが 206.50 です。k=3.29 としたとき、式 2 より検出限界は次のよ うになります。 検出限界(濃度): 検量線の式(y = 192.295 x + 113.74)に各濃度を代入 Xd (μg/L) = 3.29 × 115.345 / 206.50 = 1.84 して求めた、各濃度における推定応答値 (a xi + Yb) は表-3 のようになります。 C.残差の標準偏差と検量線の傾きから求める方法 5) この方法は、残差の分散をブランク試験の分散とみなす 表-3 検量線から求めた推定応答値 4 方法です。ここでいう残差とは、検量線と各校正点(検量 8 12 16 20 推定値 882.9 1652.1 2421.3 3190.5 3959.6 点)のずれを示します。 濃度の異なる 3 点以上の標準液を調製し、各濃度で 4 回以上の測定をおこなって検量線を作成します。検量線 実測値から推定値を引いた値の 2 乗を n – 2 (表-2 では の回帰式から得られる残差の標準偏差 (s y/x) の 3.29 倍 25 回の測定をおこなっているため、25 – 2=23) で割っ を検量線の傾き (a) で割った値を検出限界とします。 た値を求め、その総和の平方根が残差の標準偏差となり ます。 検出限界(濃度):X d = 3.29 s y/x / a ----- 式 3 表-2 の残差の標準偏差は、135.558 になります。式 3 よ 式 3 と式 2 は同じ考え方ですが、式 2 がブランクの応答 り検出限界は次のようになります。 値の標準偏差を用いているのに対して、式 3 は検量線の 残差の標準偏差を用いている点が異なります。 検出限界(濃度): この方法は多くの測定を必要としますが、グラジエント分 X d (μg/L) = 3.29 × 135.558/ 192.295 = 2.319 析などでベースライン変動がある場合や、不純物のピーク が検出するような場合にも適用できる利点があります。た だし、検量線が線形回帰する場合にしか使えません。 検 出 限 界 は 、 機 器 の 検 出 限 界 (IDL ; Instrument Detection Limit)、各種操作を含む分析方法の検出限 界 (MDL ; Method Detection Limit)、実試料のマトリッ 例)4~16 μg/L の 4 点の NO3 を繰り返し 5 回測定し、 - 表-2 のような面積 (応答) 値が得られたときの検出 クスを考慮した検出限界 (PDL ; Practical Detection Limit) に分けられます。 限界は? 表-2 NO3- の濃度 (μg/L)と面積値の実測値 NO3 - 補足 1 -Microsoft excel を使った計算- の濃度 (μg/L) 統計計算式に対応する Microsoft Excel の関数の一部 4 8 12 16 20 N=1 842 1856 2599 2970 3932 N=2 732 1831 2376 3203 4065 統計用語 対応する Excel 関数 N=3 700 1630 2327 3173 4187 平均値 AVERAGE N=4 867 1732 2514 3048 3949 分散 VARP N=5 989 1622 2556 2934 3898 標準偏差 STDEV 平均値 826 1734 2474 3066 4006 検量線の傾き SLOPE 切片 INTERCEPT 残差の平方和 DEVSQ 表-2 より、検量線の傾き (a) は 192.295、切片 (Yb) を列挙しました。詳細は Excel で調べてください。 は 113.74 です。まず、残差の標準偏差を求めます。残 差の標準偏差を求める式を式 4 に示します。 s x/y = [Σ{yi– (a xi +Yb)}2 / (n – 2)] 1/2 ----- 式 4 式 4(残差の標準偏差を求める式)と 1 組の繰り返し測定 【定量下限値の求め方】 A.応答値のバラツキと濃度から求める方法 要求される応答値の再現性を満たす最小の濃度を定量 値の標準偏差を表す式はよく似ています。前者は後者と、 下限とするという考えに基づいた方法です。応答値の再 偏差が残差に置きかえられている点と分母が (n – 1) 現性(バラツキ)は相対標準偏差: RSD(または変動係数: であるのに対して(n – 2) である点が異なります。これは CV)で表します。RSD と濃度の回帰式から定量下限値を 線形回帰の計算では自由度が (n – 2) であるためで 求めます。測定にあたっては、推定定量下限値付近の濃 す。 度を含む 3 つ以上の濃度段階の標準液を調製し、濃度 回帰式 y = 34.589 x –0.7721 より、CV = 10 %のときの 段階ごとに繰り返し回数 5 回以上の併行試験をおこないま 濃度は 5.0 μg/L です。(グラフから読み取っても構いませ す。 ん。) 上水試験方法 2)では、主な化合物については、定量下限 >回帰式 y = a xb の展開 値を 10 %としています。 xb = y/ a 例)4~16 μg/L の 4 点の NO3-を繰り返し 5 回測定し、 表-4 の面積(応答)値が得られたときの、定量下限値 はいくらになりますか? x = (y/ a)(1/b) B.応答値の標準偏差から求める方法 推定定量下限付近濃度の標準液およびブランクを数 回以上分析し、得られた応答値の標準偏差 (σ) を算出 表-4 NO3 - の濃度 (μg/L)と面積値の関係 NO3 - します。標準液とブランクのσのうち、値の大きい方を 10 の濃度 (μg/L) 倍した値が定量下限値です。概念図を図-3 の一点破線で 4 8 12 16 20 40 N=1 842 1856 2599 2970 3932 8291 N=2 732 1831 2376 3203 4065 8722 N=3 700 1630 2327 3173 4187 8207 CV (Coefficient of Variation/ 変動係数) も RSD N=4 867 1732 2514 3048 3949 8508 (Relative Standard Deviation/ 相対標準偏差) も標 N=5 989 1622 2556 2934 3898 8519 準偏差を平均値で割って 100 を掛けた値です。分野によ 平均値 826 1734 2474 3066 4006 8449 って表記方法が異なるようです。 標準偏差 115 109 117 120 119 204 13.96 6.29 4.75 3.90 2.97 2.41 RSD 各濃度における面積値の RSD(標準偏差/平均値 x 示します。 補足 2 -CV と RSD- CV or RSD = sは標準偏差、 x は平均値です。 100)を求め、濃度と RSD の関係図をプロットすると、図-4 ∑ (xi − x ) 2 のようになります。 s= 20.0 = 15.0 RSD (%) s × 100 x n −1 n ∑ xi 2 − (∑ xi ) 2 n (n − 1) -0.7721 y = 34.589x 10.0 【参考文献】 1) JIS K 0211, 1987 5.0 2)日本水道協会: “上水試験方法 解説編”, 7-8p, 1993 3) JAIMA S 0005-1984, ASTEM E 1657, 1994 4) L. A. Currie: Pure Appl. Chem., 67, 1699-1723, 0.0 0 10 20 30 濃度 (μg/L) 図-4 濃度と RSD の関係図 40 1995 5) ISO/ CD 11843-2 “Capability of detection Part 2: Methodology in the linear calibration”, 1994