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人口急増地域の持続的な流域水政策シナリオ 2006年研究成果概要集

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人口急増地域の持続的な流域水政策シナリオ 2006年研究成果概要集
(独)科学技術振興機構・戦略的創造研究推進事業 (CREST)
研究領域: 「水の循環系モデリングと利用システム」
平成15年度採択課題
人口急増地域の持続的な流域水政策シナリオ
-モンスーン・アジア地域等における地球規模水循環変動への対応戦略-
2006年研究成果概要集
2006 年 10 月
人口急増地域の持続的な流域水政策シナリオ研究チーム
はじめに
(独)科学技術振興機構・戦略的創造研究推進事業(CREST)における研究領域:「水の循
環系モデリングと利用システム」での平成15年度採択課題として 「人口急増地域の持
続的な流域水政策シナリオ -モンスーン・アジア地域等における地球規模水循環変動へ
の対応戦略-」 の研究を鋭意実施中である. 急激な人口増加と開発に伴う深刻な水問題
が顕在化しているモンスーン・アジア地域等の水問題解決への貢献をめざし,湿潤地帯か
ら乾燥地帯にわたるアジア地域において条件の異なる典型的な水問題を抱える 8 河川流域
を選び,気候変動の影響を考慮しながら,それぞれの流域での水問題の実態を構造的に把
握・分析して,問題解決のための水政策シナリオの提言を目的としている.また,その成
果を集約しながら,いわゆる「統合的水資源管理と流域管理」を実現するための水政策シ
ナリオ作成支援のためのナレッジマイニングシステムの開発もめざしている.
水問題・水科学に関わる研究者・技術者の役割の一つに,流域の水循環に関わる継続的
現実的な対応や計画について誤りのない選択を支援することにあると考えられる.その目
標に近づくためには,個別の「地域」の視点が不可欠であるとの視点から,平均値ではな
く,当初より地域固有の事情や特性を考慮するところから特徴的な8河川流域を対象とし
ている.当然のことながら,これらの流域の自然的・社会的条件(地理,水文,社会,経
済,文化など)はさまざまである.個別の流域での水問題を深く掘り下げる一方で,それ
らの水問題の時代的な変遷や貴重な経験を議論し,相互の比較や整理をしながら,持続的
な流域水管理の方策構築への貢献をめざしたいと考えている.
本概要集は,研究開始後満3年にあたる平成18年9月の研究チーム全体ミーティング
(2006.9.7~8・つくば)での成果発表の内容を収録したものである.前報告同様、現時点
では領域・チーム内での研究実施上の情報交換と研究推進を概要集の目的としたが,研究
成果のうち、各流域の水問題の実態についてはより詳細な内容を持つ書籍のかたちで近く
発刊を予定している.
「人口急増地域の持続的な流域水政策シナリオ
-モンスーン・アジア地域等における地球規模水循環変動への対応戦略-」
研究代表者
山梨大学大学院
砂田憲吾
i
目
次
研究の現況と成果の概要
1
第1章 洪水問題が中心の流域研究
1.1 中国における水害補償制度と現地調査の留意点
8
1.2 メコン河流域における土砂・栄養塩収支の把握について
10
1.3 Assessment of Knowledge Generation and Consumption for Sustainable Development in
the Mekong River Basin
12
1.4 タイ国チャオプラヤ川流域とバンコク首都圏東部郊外部の治水対策に関する研究
14
1.5 水需要管理の課題
16
-チャオプラヤ川流域のモデルケース-
1.6 ブランタス川上流域における放射性同位体を用いた土砂動態の把握
18
1.7 ブランタス川流域における地形特性について
20
第2章 水不足問題が中心の流域研究
2.1 シルダリア川下流域における農地の土壌水分変動に与える水ストレス・塩ストレスの影響 22
2.2 小アラル・シルダリア川流域における上下流間の利水競合と調整
24
-ソ連崩壊後の水問題-
2.3 ユーフラテス川にみる国際河川管理問題
2.4 協調に向けての知識と認識の共有
-トルコとハーマン・ドクトリン
-専門家会合によるアプローチ-
2.5 ヨルダン川流域水政策シナリオ
26
28
30
第3章 水質問題が中心の流域研究
3.1 ガンジス川流域(インド国ニューデリー)における現地調査に関する報告
32
3.2 サイゴン川上流域における養殖漁業と水質汚濁への影響
34
3.3 サイゴン川流域における地下水汚染と地下水の過剰揚水の現状
36
3.4 モンスーンアジア・沖積平野の地下水
38
-その資源管理と規制法制の比較-
第4章 外力の変動評価と政策シナリオ横断的評価,流域比較
【気候変動】
4.1 60キロメッシュモデルによる降水・河川流量の再現とその将来変化
40
4.2 60キロメッシュモデルによる陸面状態の将来変化
42
【流域比較】
ii
4.3 首都圏の人口急増に対応した水資源確保政策が持つ一般性,個別性,今日性について
44
4.4 アジア地域における水管理のための Knowledge Mining System (KMS)
46
iii
研究の現況と成果の概要
【研究項目】
A.外力変動の評価
(A-1)人口変動に起因する外力変動の評価.
(A-2)気候モデルによる気候変動外力の評価.
B.水政策シナリオの作成
(B-1)洪水問題が主な河川流域での水政策シナリオの作成
対象流域:
長江,メコン河,チャオプラヤ川,ブランタス川
(B-2)水不足問題が主な河川流域での水政策シナリオの作成
対象流域:
シルダリア川・アムダリア川,ユーフラテス川・チグリス川
(B-3)水質問題が主な河川流域での水政策シナリオの作成
対象流域:
ガンジス川(ヤムナ川)
,サイゴン・ドンナイ川
C.アジア地域における水管理のためのナレッジマイニングシステムの開発
(C-1)わが国河川流域の水政策の歴史的経緯およびその評価と対比
(C-2)ナレッジマイニングシステムの開発と水管理の支援手法
【研究の現況・主な成果】
(1)流域横断評価グループの研究進捗状況と研究結果
A-1、 C-1 の研究状況を同時に示す。
日本の首都圏河川流域での「人口増加外力~応答(施策群展開)」の関係を、水資源確保の側面か
ら分析し、それが持つ一般性、今日性の度合いを考察することにより、モンスーン・アジア地域に
おける水政策を検討するための比較対照流域としての位置づけを明確にしたいと考えている。
人口急増への応答にかかわる諸事象・施策の展開と相互作用: 首都圏の人口急増への対応は、大
きく、1)新規の都市用水の開発、2)工業用水の回収率向上による需要急増の吸収、3)水利用の転用
(農業用水から都市用水へ)、4)生活用水の節水、に分けられるが、問題解決への実質的寄与度は
前二者が大きかったと言える。これらの対応策にいたる流れを整理した。その結果、1950 年代後
半から顕著になった首都圏への人口・経済活動の集中に対応できた理由を考える上でのポイントは
以下のようである。
1964 年の危機的状況での利根導水路緊急活用など、直接的には 1960 年代前半を乗り切ったこと、
それに先立つ 10 年ほど前から、戦後復興と治山治水を軸とする国土開発計画が立てられ、多目的
ダムを主役とする河川総合開発が実質上始められていたことなどが考えられた。工業用水について
は、地盤沈下の要因となった地下水汲み上げ規制や水質汚濁防止の取り組みが、回収水率向上に寄
与していたと考えられる。このように並行して生起した他の問題への取り組みが施策推進に同期的
に作用したことも重要なポイントと考えられる。これまでの考察を踏まえ、首都圏人口急増に応答
した施策群展開に関わる構造、および一般性という意味で課題になりうる項目の抽出と検討を進め
ている。
A-2 について、地球規模の水循環変動の程度を直接考慮するために、2004~2005 年度にはまず様々
な機関で開発された大気海洋結合モデル(水平解像度 200~300km)を用いて、将来(2081-2100
1
年)のモンスーン・アジア地域の気候及び河川流量の予測を行っている。用いたモデルは、気象研
究所で開発された大気海洋結合モデルを含む世界の様々な気候研究機関で開発された 19 個のモデ
ルによる予測結果を統合するアンサンブル平均が用いられた。続いて、水平解像度 60km メッシュ
の気象庁・気象研究所統一全球大気モデルを用いて、20 世紀末(1990 年頃、以下、現在)と 21 世
紀半ば(2050 年頃、将来)のシミュレーションを行った。積分期間は各 30 年である。また河川モ
デルを用いて、大気モデルで得られた流出量から河川流量を求め、アジアの主な河川における将来
の変化を予測して以下の結果を得た。
・観測と比べると、現在ランはユーフラテスとメコンを除いて概ね観測の標準偏差内に収まってい
る。
・月変化について見てみると、観測に見られる長江の 9 月頃のピークがモデルで再現されていない
が、他の河川では概ね月変化の傾向も良く再現されている。
・将来変化について見てみると、長江+8.7%、メコン河+6.8%、チャオプラヤ川+4.2%、ガンジス
川+6.6%、ユーフラテス川-3.9%、シルダリア川+3.3%となった。
・長江では7月~10月にかけて流量が増大しており、洪水などが増える可能性が示唆される。
・ユーフラテスやアムダリア川では冬から夏にかけての降水が増える一方、夏から冬にかけては減
少する傾向がうかがえる。
C-2 について、各流域では別項のように、政策シナリオ素案が考察されてきている。今後の研究後
半では、課題のさらに十分な見極めと流域固有のシナリオ提案をめざしていく。その過程で、各流
域で得られた知識や経験を集約して、他の地域での今後の水管理政策樹立のために活かしていくこ
とを考えている。政策立案に関わる人が、多くの事例から水問題解決のための参考事例や知恵を発
掘して、活用することができるようなシステムという意味を込めて、このシステムを Knowledge
Mining System (ナレッジマイニングシステム:KMS)と名づけた。
Knowledge Mining System (KMS) の基本構造は、政策立案者等が流域における水関連の政策シナ
リオを立案する際の支援となる事例集と位置づけられる。そのためには、様々な地域に適応できる
こと、多様な課題に応えること、特定の課題の解決に役立つこと、などが必要である。そこで、ア
ジア地域を対象として水管理政策を立案するにあたって、一般的に考慮しなければならない項目と
して 45 項目を設定した。全体は、政策実施環境、組織の機能・活動・情報の共有、水問題に関す
る現状・課題・評価という3大カテゴリーから構成され、各カテゴリー内に、さらに別途設定され
るような仔細な項目が含まれる。これらの項目が、流域ごとの事例研究で得られた知見をつなぐ横
糸になる。
KMS では、政策立案者が適切な項目を選択することにより、自分が直面している課題に類似し
たいくつかの事例を即座に選択でき、それらを参考に政策シナリオを立案できるよう設計する。ま
た、テキスト形式のデータベース内で、キーワードに関して Wiki の技術を用いて、データベース
間がリンクする仕組みについても別途検討することにしている。
(2)洪水問題中心の流域研究グループ(B-1)の研究進捗状況と研究結果
長江: 主な研究対象地は湖南省洞庭湖地区である。中国では遊水地は通常は農地および居住地と
して使用し、大洪水時に洪水を貯留する施設という認識が一般的である。この認識は 1930 年代に
出された「蓄洪墾殖」政策に起因する。長江全流域を対象とした最初の治水計画(1959 年)で、三峡
ダムの建設、堤防の嵩上げ、遊水地の建設が計画された。一方で、
「蓄洪墾殖」政策を背景に、1950
年代~70 年代にかけて食糧増産を目的とした干拓により湖面面積が大幅に低下した。1998 年に発
2
生した長江全流域の大洪水時には、洞庭湖地区の遊水地の多くの地点において遊水地に洪水を導く
ための分洪水位を超えていたが、遊水地内の予想される被害の大きさのために、分洪されなかった。
しかし、同年 1 月に制定された防洪法においては、遊水地の適切な利用を目的とした条項が定めら
れ、法的な整備がなされつつある。さらに、1998 年大洪水を契機として、中国政府は治水政策の
転換をはかり、
「平垸行洪、退田還湖、移民建鎮」政策が実施されるようになった。これは、
「垸(輪
中堤)を取り壊して洪水を円滑に流す;垸田を湖に戻す;垸内の農家を垸外へ移住させ新しい町を
建設する」というものである。これに加えて、2000 年に制定された洪水抑制強化区域の補償運用
に関する暫定規定」にしたがって、水害補償制度が施行されている。現在までに得られた結論をま
とめると以下のようになる。
1) 中国においては、遊水地は治水施設としての機能だけでなく、平常時は農地・居住地としての
機能も果たすものである。 2)同じ土地を農地として利用しながら遊水地としても利用することは
農業政策と治水政策とのコンフリクトの可能性を内在するものである。中国政府は最近、水害補償
制度を通して遊水地利用を進めていく方針をとる中で解決を図っている。 3)洞庭湖地区の遊水地
には、三峡ダム運用後にも一定の役割が期待されている。それらは、洪水に対応した作付け体系の
導入、3 市にわたって分布する遊水地を効果的に利用する方法の策定、持続的な水害補償制度の確
立などである。
メコン河: メコン河は中国、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムを経て、南シナ
海に注ぐ。総延長 4,900km、流域面積 795,500km2の国際河川である。メコン河流域については本
CRESTプロジェクトでも丹治チームによりシナリオ研究が採り上げられ、幅広く精力的な研究が
進められている。本研究では研究の効率化と重複を避けるために、これらのフォローを行うと共に、
丹治CRESTでは深く検討されていない重要な課題として河道の問題と国際河川の水管理に重点を
おき、調査研究を行っている。調査によると、メコン河流域では流量変動、漁業の生産性と生態系
機能、水質悪化、河岸侵食と河床変動、航行障害、森林破壊、政策目標・評価手法・利益分配の不
調和についての問題がある。このうち、河道の管理は複数の課題、流域全体に関わる重要な課題で
ある。本研究ではこの点について、不十分であるが現存する観測資料を用いて、メコン河下流域の
土砂および栄養塩の動態の推定を試みた。その結果、上流からの土砂生産・輸送がメコン河下流域
における土砂量に大きく寄与していること、栄養塩は土砂の場合と異なり、支川または河道から大
量に流入していることなどが分かった。
一方、国際河川として不可欠な総合的な流域管理の視点から、基本的かつ客観的な知識・情報の
共有の方向について具体的な提案に向けて検討している。前述の最後の課題(政策目標・評価手法・
利益分配の不調和)は、流域の開発や環境整備の計画や将来の方向の合意についての共通基盤を支
える、「知識・情報」の共有に関わる課題である。この点に関して、現存するメコン河本川情報収
集に関わる国際機関のうちの主な機関として、MRC(Mekong River Commission:メコン河委員会)
、
GMS(Greater Mekong Sub region:拡大メコン圏)
、UMN(Upper Mekong Navigation:上流メ
コン河舟運) について、データ収集努力と収集範囲、人員・知識の結集、意思決定への反映、他
の学術研究機関との連携の状況について検討した。その結果、設置目的がほぼ該当する MRC でも
GMS でもデータ収集や人員の投入において、十分とは言い難い。研究では、さらにどのようなデ
ータ内容が必要か、さらに重要かつ効率的な知識情報の項目について政策シナリオとしての提案を
めざしている。
チャオプラヤ川: アジアを代表する氾濫原であるタイ国・チャオプラヤ川流域(バンコク首都圏
3
域を含む)において策定された総合治水対策の効果について、わが国の場合と比較しながら分析し
ている。研究対象とした河川は近年都市化の進展が著しい低平地緩流河川であり、その流域の大半
が氾濫平野である。このようにもともと洪水の危険のある土地での市街化により被害ポテンシャル
が増大したことが洪水被害を増大させてきた。バンコク首都圏域に関してはこれに加え、都市化に
伴う地下水の汲み上げにより進行した地盤沈下が被害ポテンシャルを増大させている。バンコク首
都圏域およびチャオプラヤ川流域での構造物対策、非構造物対策について、その計画内容を追跡検
証した。構造物対策では、1983 年の大洪水の後、緊急対策として外周堤防の設置、チャオプラヤ
川への排水施設の増強がなされた。これにより以前は数ヶ月間続いた浸水期間が、緊急対策後は数
日にまで減少した。また 1983 年以降のチャオプラヤ川での洪水の際にはバンコク域への浸水はみ
られない。これより構造物対策の効果は大きかったことがわかる。非構造物対策では、市街化地域
の中に 20 の保水地が登録されたり、開発に際し一定の流出量確保を義務付けたりしている。検討
の結果、構造物対策と非構造物対策を組み合わせた総合治水対策は有効であり、モンスーン・アジ
ア地域の他の同様な流域においても有効であると考えられる。
人口の急増する都市域(バンコク周辺)の水需要予測は今後の水管理政策のもう一つの重要な課
題である。この課題について、タイ政府各機関の協力により得られている産業、生活用水に関わる
各種統計をもとに、チャオプラヤ川下流域の7県における産業用水、生活用水の需要構造を分析す
るため、アンケート調査を実施した。水需要分析の対象とするタイ国 7 県の産業連関表を作成する
とともに、工業用水需要のGDP産業連関表とのリンクモデルを作成した。結果をもとに、戦後の
日本における水需要動向を参照しながら、タイ国が将来取り得る政策的手段の効果について分析し、
タイ国の将来水需要予測を試みている。
ブランタス川:
インドネシア・東部ジャワ州に位置するブランタス川流域は、流域面積は
11,800km2で、流路延長は 320kmである。ブランタス川流域では火山活動などの激しい自然現象に
加え、人間活動も拡大している点に注目し調査研究を行っている。流域では、第 2 次世界大戦後現
在まで、第 1 次から 4 次のマスタープランに沿った形で流域管理が行われてきている。1962 年に
まとめられた第 1 次マスタープランは主として洪水対策が目的とされ、中流域ではダム建設、下流
域で河道掘削などの河川改修が実施された。第 2 次(1972 年策定)、第 3 次(1986 年策定)のマスタ
ープランはそれぞれ農業用水確保、工業・生活用水確保を目的としたものであり、灌漑施設の強化
等が実施された。2000 年までの間のGDP、米の生産量、人口の変遷を流域内のダムの総貯水量等
の相互の比較検討により、次のような傾向が見出された。 1)ブランタス流域内の人口は単調に増
加しており、2000 年の人口は 1960 年の人口に比べてほぼ2倍となったこと、2)流域のGDPはさ
らに急激に増大し、1970 年から 1993 年にかけておよそ 75 倍になったこと、3)第 2 次マスタープ
ランに沿った流域管理が行われた時期(1970 年代)に、米の生産量は、水田面積がほとんど増大
しないにもかかわらずほぼ2倍になったこと、4)この時期は、スタミダムなどのダムが建設され、
流域のダムの総貯水量が急激に増加した時期と一致していたこと、などである。これらのことから
米の生産量の増大は、ダム整備の結果、乾季にも米作が出来るようになったことに起因すると考え
られる。さらに、第 3 次マスタープランの策定後、工業のGDPが急増し、農業と逆転した。以上の
ように、過去 40 年間、人口、GDPとも増加し続け、各マスタープランの主目的は達成されてきた
とみなすことができる。
一方、ブランタス川流域では流域管理の問題として、中流域のダムでの堆砂による有効貯水量の減
少が最重要課題の1つであることが指摘されている。土砂の問題として、①中流域のダム群の堆砂
及び②下流域の河床低下の2問題が重要な問題であることが知られている。この問題を解決すべく
4
政策提言を行うためには流域の詳細な土砂動態の把握が必要である。中流域のダムへの主な土砂生
産源は活火山であるクルー火山とスングルダム上流域である。このうち、スングルダム上流域にお
ける土砂動態に関しては十分に把握されていないため、同流域に含まれる水系に沿って放射性同位
体を用いて土砂動態の把握を試みた。その結果、森林からの土砂流出はほとんどなく、耕作地から
の土砂流出が卓越していることが推測された。このことから、特にブランタス川源流域では耕作地
での土砂生産源対策が有効であることが示唆された。
(3)水不足問題中心の流域研究グループ(B-2)の研究進捗状況と研究結果
シルダリア川: 水不足および上下流間の利水競合と下流域の深刻な水環境・生態系の劣化に直面
している国際流域小アラル・シルダリア川流域を対象として、水需給の実態、流域関係国の水政策、
水環境の現状掌握・将来動向の評価を行い、水・環境問題解決のための将来像と改善対策を明らか
にし、同流域の水政策シナリオを提案することを目的に研究を進めている。ソ連の統合計画経済の
下で構築されたこの流域の水利システムは、独立後、各共和国におけるその運用・管理方針の大幅
な変更に伴い上下流間に大きな水問題、環境問題を生じた。キルギスタンは、自国の水資源を自国
の利益のために活用する方針を選択し、流域最大の規模を誇るToktogulダム(貯水量 195 億m3)
を冬期の発電のために運転するようになった。夏期の同ダムへの貯留は下流域の灌漑水の不足を生
じ、冬期の発電のための放流は下流域の洪水の原因となった。シルダリア川は冬期に凍結するため、
河川の通水能力は減少し、このことが被害を一層大きくした。カザフスタンはChardaraダム(貯
水量 57 億m3)を運用して洪水調節を試みたが、すぐに満水になってしまい、越流した水はウズベ
キスタンのArnasai低地を経てAidar湖(塩湖)に流入し続けている。Aidar湖は拡大の一途をたど
り、巨大な湖となっている。この低地へ流入した水は小アラルへ流入することはなく、塩水と混合
するため、水資源としての価値は消滅してしまう。このような状況のもとで、流域関係国は 1992
年以来、事態の収拾に向けた調停作業を進めている。基本的には、旧ソ連時代に形成された上流国
と下流国の間で、水資源とエネルギー資源のバーター取引を踏襲する方向で進められてきた。しか
しながら、何度か協議が繰り返され合意に至っても、各国とも自国の利益を最優先し、相互に義務
を軽視する傾向が強いため結局は不調に終わっている。
本川下流の地域では圃場での深刻な塩類集積問題が生じている。これに対処するため、代表的な灌
漑ブロックの水稲作付圃場を対象として現地実験を実施し、上層土中水の灌漑期間中における塩類
濃度の変動特性の分析を行って、本流域の土壌・気象条件下における水ストレス、塩ストレスの発
生が農地の土壌水分変動に及ぼす影響について検討した。その結果、シルダリア川下流域の農地で
は塩ストレスが消費水量に与える影響は大きく、塩ストレスの影響を受けた農地において、除塩な
しに作物蒸発散量を灌漑水量として採用した場合、余剰水が土壌に残存し、二次的塩類集積の危険
性が高くなることなどを明らかにした。
ユーフラテス・チグリス川: ユーフラテス川とチグリス川は一つの河川流域として捉えられるこ
とが多いが、両河川を比較すると、ユーフラテス川において水資源はより逼迫している。ユーフラ
テス川の主要な流域国であるトルコ、シリア、イラクの間で「水争い」が 1960 年代より顕在化し
ており、現在に至るまで協調の為の体制(たとえば流域機関設立)は確立されておらず、流域国間
での確執が解決する目処は立っていない。河川を流下する水量が乾期と雨期では大幅に異なり、雨
期の水を利用することで資源としての水の総量を増加することが可能なモンスーン・アジアとは違
って、ユーフラテス川流域では一定量の水を流域国が争奪するというゼロサム的な状況にある。こ
のように水資源の付属が顕在化している国際河川流域であるユーフラテス川流域において、どのよ
5
うな水資源管理が為されるべきかについて、関係国専門家と協議しながら検討している。
ユーフラテス川流域の水資源管理への寄与として、本研究の枠組みの中で流域国から各1名の専門
家(大学の研究者)が参加する「専門家会合」を年に2回の割合で日本において開催してきた。参
加する専門家は固定されており、同じメンバーが定期的に顔を合わせることで、相互の理解と信頼
が深まることを期待している。「専門家会合」では流域横断的な研究と各流域国内での研究を含む
研究計画を作り、それを流域国内の研究者による参加を得て実施する。そのことで流域の現状につ
いて共通の認識を形成すること、および学術的な知見を得ることを目的としている。
「専門家会合」
は個人の資格での参加であり、かつ専門家間での信頼と共通認識の育成を目的としている。「専門
家会合」には以下のような効用がある。 1)他の流域の研究者と「接触」する機会は、過去に珍し
くはないが、第三国(日本)で定期的に同じ顔ぶれでの会合を重ねることにより「交流」を深める
機会は、これまでに存在しなかった。 2)流域内での地名の英語(アルファベット)表記が、流域
国によって異なるなど、簡単な技巧的事項のレベルで、相互の理解を妨げていた要素が多々あるこ
とが実感された。 3)先進国の研究者が研究計画を「押しつける」のではなく、流域国の研究者に
よる研究計画の策定を先進国の研究者が側面支援するという形態で共同研究が策定されることは、
専門家間での信頼と共通認識を育成する上では有用である。以上の専門家会議を通じ、現時点で確
定している共同計画案として、1)イラク国内に於ける農業用水使用の最適化、2)ユーフラテス・チ
グリス川流域におけるイベント・データベースの構築
が掲げられ、現在実施段階にある。
(4)水質問題中心の流域研究グループ(B-3)の研究進捗状況と研究結果
ヤムナ川(ガンジス川支川):
ガンジス川流域を対象とし、水質問題に重点をおいた水政策シナ
リオを提示するための調査を行っている。調査に際して、ガンジス川流域は広大であること、焦点
が都市化に伴う水環境変化におかれているため、代表的な都市であるインド国ニューデリーについ
て詳細な調査を行い、その結果と他の地域の基礎的な情報を元に、流域の水政策シナリオを提示す
ることを目標としている。まず、河川の水質汚濁状況について現状把握のため、ニューデリー近郊
のヤムナ川(ガンジス川支流)の河川水質調査を実施した。調査場所は、ニューデリー上流のパラ
付近と下流のマジョーリ(下流 40km 付近)、ブリンダヴァン(下流 106km 付近)である。調査は、
雨季 9 月、乾季 2 月の 2 回実施した。調査結果によると、乾季については、すべての水質項目で下
流に比べ上流の値の方が低い傾向にあった。雨季には、若干、BOD、T-N の値が下流で高いものの、
上流、下流でほとんど変化がない傾向であった。これは、雨季には降雨による水量の増加および多
数の洪水があるため、河川における滞留時間が短くなるとともに、河川の汚濁が押し流されたもの
と考えられる。調査を行った河川においては、乾季において汚濁負荷が蓄積され、雨季に押し流さ
れる工程を 1 年周期で繰り返していることになる。
一方、汚濁負荷量原単位調査によると、生活排水系排水の調査結果からは、都市部に関しては、
スラムの値が全体的に低い傾向にある以外、高、中、低所得者間での傾向の違いが見られなかった
こと、他方、スラムは、すべての項目において値が低く、高、中、低所得者の傾向とはまったく違
う傾向にあったことなどが得られた。家を借りることができない収入であるため、食生活や生活様
式が大きく異なったものと考えられる。農村部に関しては、ほとんどの負荷量原単位が小さく、使
用水量も少ない傾向にあった。牛舎排水の調査結果からは、都市部排水が河川へ与える影響が大き
いこと、都市部では所得による負荷量原単位の大きな違いはないが、スラム、農村部では生活様式
の違いにより都市部の原単位とは大きく違う傾向にあることが分かった。これらの結果を踏まえた
水質改善のための基本的かつ効果的な方策提案を検討していく。
6
サイゴン・ドンナイ川: サイゴン・ドンナイ川流域は、流域面積 40,683 km2、流域人口は約 1,600
万人であり、年率2%以上で人口が増加している。同流域にはベトナム最大の都市ホーチミン市が
あり、ベトナムのGNPの3分の1を生産する重要地域である。過去 20 年近く、ホーチミン市の人
口は年率6%で増加しており、1980 年代の終わりの 200 万人程度の人口から、今日では 600 万人
近くの人口になっている。人口の増加に伴い、農業用水、都市用水、工業用水の需要が急速に伸び
ているが、ダムなどによる水資源開発は 1980 年代に行われたものの、近年は様々な制約により困
難となっている。本流域においては、塩水の遡上による淡水資源の塩水化、都市排水や工業排水な
どによる汚染、農業や養殖漁業、砂の採掘による汚染などの水質問題を抱えており、これらの問題
は水利用に対する大きなストレスとなっている。本研究では、サイゴン・ドンナイ川流域における
水需要の変化と、水利用における制約因子を調べ、将来の水需給の問題を解明するとともに、水を
めぐる利害対立を解消するために必要な管理手法の確立を目的としている。
サイゴン川上流にはドウティン貯水池があり、サイゴン川右岸流域に農業用水を供給するととも
に、ホーチミン市の水道水源となっている。この貯水池は、雨季と乾季で面積が大きく変わり、乾
季の湖岸では、家鴨などの養殖や、牛の放牧が行われるほか、水面には 1200 程度の養殖生簀が浮
かんでいる。また、貯水池の一部では砂の採取が行われており、高い濁度となっている。養殖生簀
の所有者 45 世帯にインタビューを行ったところ、ここ数年で水質が悪化したと答えた回答者が多
かったが、生簀が貯水池の水質に影響を与えていると考えている養殖業者は少ないことが分かった。
さらに、インタビューの結果から、魚の市場価格の変動が生簀の数に最も大きな影響を与えること
も分かり、環境規制への実効性が経済的側面も考慮される必要があることが知れた。貯水池での水
質調査を行い、養殖生簀が集中している地域とそれ以外の地域での BOD の違いを調べた結果、季
節による変動はあるものの、養殖生簀の集中地域は他の地域に比べて有意に高い BOD を示してお
り、特に乾季に貯水池の水量が減少すると高い BOD を示した。この流域では、水資源管理、塩水
遡上、住民の生活、経済消費動向ほかのさまざまな要因が錯綜しているが、緊急かつ着実な方策と
してのシナリオ提案を進める予定である。
7
1.1 中国における水害補償制度と現地調査の留意点
Flood Compensation Scheme in China and How to Conduct a Field Survey
総合地球環境学研究所
大西健夫
水資源機構徳山ダム建設事務所
山口昌広
独立行政法人土木研究所
吉谷純一
1.目的
流域面積 180 万 8,500km2,流路延長 6,300kmをもつ長江流域(Figure 1(a))では,治水対策として遊水地
の建設が古くから行われてきた.近年は遊水地をより効率的に運用するために水害補償と組み合わせた新た
な土地利用管理施策を実施している.この施策の課題などを他国への適用性の観点から分析した.
2.研究の概要
研究対象地は湖南省洞庭湖地区であり湖南省全体の概要をFigure 1(b)に示す.湖南省洞庭湖地区は,長江
の土砂堆積と湖岸域の垸(yuan)堤(di)(輪中堤)築堤による農地(垸(yuan)田(tian))造成により,湖面面積が
大幅に低下し(1825 年の約 6,000km2が,1980 年に 3,000km2以 (a)
下),洪水調節機能が低下した.1998 年に発生した大洪水を契
Ji a
an
g
Qujiang
Ya lo
Shanghai
g
an g
Jinshaji
Lishui
Chongqing
Nanchang
ian g
Ganj
X in
ag
jian
g
i
hu
Yu
an
g ji
an
g
Changsha
Z is
Wujiang
外へ移住させ新しい町を建設する」というものである.本研究
たに生じてくる問題,を仔細に検討することを通じて,治水政
Wuhan
ang
流す;垸(yuan)田(tian)を湖に戻す;垸(yuan)内の農家を垸(yuan)
ではこの政策を実施することによって改善した点,およびあら
Yichang
Chengdu
o ji
Tu
Min jian
ang
Dad uh e
ng ji
るようになった.これは、
「垸(yuan)を取り壊して洪水を円滑に
Nanjing
Hangjiang
g
an
Fu
ji
n ji
nli
機に、
「平垸行洪、退田還湖、移民建鎮」という政策が実施され
Kunming
Upper reach
(b)
Middle reach
0
200
400
Lower reach
600
800
1000km
Changjiang river
策が成功する秘訣の事例的な研究を進めている.本報告におい
Lishui river
Dongting Lake
ては,退田還湖政策実施に遅れること 2 年後(2000 年)から実
施に移された水害補償制度の内容と問題点を報告する.
Xiangjiang river
3.水害補償制度
Yuanjiang river
3.1 遊水地の役割と水害補償制度
長江,黄河,淮河,海河の中流・下流地区に国が管理する遊
Zishui river
水地 97 ヶ所が設けられている.中華人民共和国成立以降に上流
域に多くのダムが建設されたが,主要河川の流域面積は広大で
あり,ダムの運用のみでは洪水に充分に対応することができな
watershed boundary
water body
Figure 1. Description of the study area
い.したがって,中国の大河川においては治水上遊水地が重要な役割を果たす.また,遊水地内には豊富な
水資源と優良な農地が存在し,かつ数 1,000 万人の居住地ともなっている.中国の国家目標である「貧富の
差の縮小」,「調和的な社会構築」を達成するため,洪水貯留による遊水地内の農地および居住地へのダメー
ジからの適切な回復を目的として,水害補償制度の確立が進められてきた.
3.2 補償制度の概要
水害補償制度が実施にうつされたのは 2000 年からであるが,1980 年代から水害保険導入のためのパイロ
ット試験が淮河を対象として 3 回にわたって様々な方法が検討されてきた.パイロット事業からは必ずしも
最適な方法が抽出されたわけではなかったが,1998 年に長江で発生した大洪水を契機として,実施への機運
が高まり現在にいたっている.
キーワード:長江,洞庭湖,輪中堤,遊水地,水害補償制度
連絡先
〒305-8516
茨城県つくば市南原 1-6
TEL:029-879-6808
8
水害補償制度は,「遊水地運用補償暫定弁法」(国発第 286 号)によって運用されている(弁法はガイドラ
イン・規則のこと).また,この「遊水地運用補償暫定弁法」は,防洪法第 32 条の規定「・・・国務院と関
係各省、自治区、直轄市人民政府は、洪水氾濫区、遊水地の安全建設管理弁法及び遊水地に対する扶助、補
償、救助弁法を制定することができる。」にもとづいて策定されたものである.
補償の対象となる被害は,1)農作物・養殖・経済林の被害,2)住居,3)移動のできない家庭農業生産機械・
役蓄・家庭の主要な耐久消費財,であり,被害額のうち一定の割合の金額が補償される(栗城,2004)。補償
の手順は,住民の財産登録とその公表による相互チェックの後,県政府に正式に登録され,補償金額は,国
と省との共同負担による.補償が必要となった際の世帯ごとの補償金額が決定すると,この金額も村民委員
会を通じて公表され,住民に異議がないことを確認して各世帯に支給される仕組みとなっている.
3.3 補償制度の課題
水害補償制度は,2000 年に開始されたばかりの新しい制度のため,まだ実施例は少ない.2003 年に淮河
で発生した洪水時に大規模に実施された事例からの教訓によると,次のような問題が明らかになっている.
①財産登記時に家庭財産,作付け済み農作物などに関して虚偽報告がある.
②現行補償制度においては,毎年 1 回,遊水地住民の財産変更登記が要求され,登記作業は 4 月上旬に終了
する.ここで登記される農作物は夏季作物であるが,分洪によって損失を受けるのは秋季作物である場合
が多い.したがって,遊水地が運用された場合,登記情報の参考価値が低い.
③損失査定が煩雑であり,査定が完了するまでに長い時間がかかる.
④現行制度では,作物被害額は,過去 3 年間の作物生産額の 50~70%として算定されるために,高価格の作
物ほど補償額が高くなる.これが,遊水地内の住民に対して,より高価格の作物を生産することを促し,
国による補償額の増大を招くことになっている.
⑤④に示した現行の被害額算定法は,また,住民を遊水地内にとどまらせる方向に作用するため,1998 年の
洪水を契機に始められた退田還湖政策の一環として実施されている「移民建鎮」政策(遊水地内の住民を
安全な場所に移転させる政策)と矛盾する結果を引き起こしている.
4.本年度の現地調査
本年度は,洞庭湖地区における社会・経済的な実態をより詳細に調べることを目的として現地調査の実施
を計画した.現地調査を実施するにあたっては,中国水利部の許可が必要であるため,調査計画書を提出し
調査の許可を依頼した.その結果,住民へのアンケートや聞き取りといった,より実体に迫れる調査に関し
ての許可は出なかった.これは我々のような海外の研究者だけでなく,中国国内の研究者でも同様である.
一方で,中国水利水電科学研究院の協力を得て,長江水利委員会のメンバーとともに「洪水期の長江の調査」
といった名目のもとに,君山遊水地の分洪地点,洪水時の指揮本部,安全楼,などを確認した.遊水地外の
水位が定められた分洪水位(君山遊水地の南門水文ステーションでモニタリングされている)を超えると爆
破によって分洪されることがわかった.国際的な研究を進めるためには,類似した研究目的を持った中国国
内の大学や研究機関との連携が必要であることはもちろんであるが,中国においては,社会・経済調査を行
うことが非常に難しいものと思われる.
5.おわりに
中国における水害補償制度の成立経緯,内容,そして課題を整理した.補償制度は実施に移されて間もな
い制度であり,今後多くの修正が必要な制度であるが,特に,水害のよる損失査定の方法,補償金額の決定
法,補償金額の負担方法に問題があることが明らかとなった.特に補償金額の決定法においては,付加価値
の高い作物被害への補償金額が高くなるため,時として住民の定住を促進する効果がある.したがって,退
田還湖政策にともなう「移民建鎮」政策の推進に対してはマイナスの効果があることがわかった.
引用文献
栗城稔・江原竜二(2004):中国における洪水の最近の状況について,国際建設防災,第 14 号,pp.68-78
9
1.2 メコン河流域における土砂・栄養塩収支の把握について
BALANCE OF SEDIMENT AND NUTRIENTS IN THE MEKONG BASIN
山梨大学大学院
砂田憲吾・宮沢直季・柿澤一弘
1.はじめに
総合流域水管理が目指されているが,そのためには基本的な水環境条件としての,水量,土砂および水質の
動態が適正に把握され管理されなければならない.国際河川流域ではその必要性も高いが,メコン河などでは
そのための資料も十分とは言えない.本研究では,不十分であるが現存する観測資料を用いて,メコン河下流
域の土砂および栄養塩の動態の推定を試みた.
2.メコン河流域と使用データ
本研究の検討対象地域はメコン河下流域(Chiang Saen~
Pakse)である.メコン河は流域面積 795,500km2,流路延長は
4,620kmである.図1にメコン河流域と観測所の位置を示す.
解析に用いるデータには,メコン河委員会のhydrological
database (HYMOS)1)の流量データと浮遊砂濃度データおよび
Water Quality Monitoring Network (WQMN) database2)の水質濃
度データを使用した.
3.水文・環境量の推定
メコン河本川をChiang Saen – Luang Prabang区間,Luang
Prabang – Vientiane区間,Vientiane – Nakhon Phanom区間,
Nakhon Phanom – Mukdahan区間,Mukdahan – Pakse区間の 5
区間に区分し,支川からの土砂流入を考慮して土砂収支を把
握する.既知の観測データから浮遊砂量Qsと流量Qの関係式
Qs=KsQpsの係数Ksとpsを決定し,浮遊砂量を推定した.同様
に,得られている観測データからの栄養塩負荷量Qnと流量Q
の関係式Qn=KnQpnの係数Knとpnを決定し,栄養塩負荷量を推
Figure1 The Mekong Basin and measurement
定した.なお,栄養塩収支においては,支川の観測データが
stations.
存在しないため支川からの栄養塩流入を考慮していない.
4.推定結果
推定された浮遊砂量及び栄養塩負荷量より,土砂動態マップ(図2)と総リン(図3),アンモニア態窒素,
リン酸態リンの動態マップを作成した.土砂動態マップの年間土砂量の値は,1980 年以降の各年の年間通過
土砂量の平均値を用いた.また従来の土砂動態マップと異なり,浮遊砂のみの土砂量であり,掃流砂は考慮し
ておらず,粒径で分けられていない.栄養塩動態マップの年間負荷量の値は,1985 年から 2000 年の年間通過
負荷量の平均値を用いた.
図2から,線の太さが細くなる区間は堆積傾向にあり,太くなる区間では侵食傾向であることから,メコン
河本川における堆積・侵食の傾向がわかった.またメコン河本川で流れる浮遊砂量の多くは Chiang Saen より
キーワード
メコン河下流域,土砂動態マップ,栄養塩動態マップ,浮遊砂,総リン
連絡先
〒400-8511 甲府市武田 4-3-11 山梨大学大学院医学工学総合研究部
10
TEL:055-220-8523
Figure2 Map of average annual transport rates of
Figure3 Map of annual total phosphorus (total-P)
sediment from Chiang Saen to Pakse.
transport from Chiang Saen to Pakse.
も上流である中国で生産されていることがわかる.Pakseの流域面積(545,000km2)はChiang Saenの流域面積
(189,000km2)の 2.9 倍であるのに対し,年間通過土砂量はChiang Saenで 612 万ton,Pakseで 728 万tonと推定
され,1.2 倍の増加にとどまっている.限られたデータであるが,支川の流入土砂量は本川の通過土砂量と比
べるととても小さいことがわかる.中国での生産量がメコン河下流域における土砂量に大きく寄与している.
図3から,全ての区間で溶解傾向にあるが,Vientiane – Nakhon Phanom 区間での増加が大きいことがわかる.
Pakse の年間通過総リン負荷量(15,139ton)は Chiang Saen のそれ(4,251ton)よりも 3.6 倍大きい.土砂の場
合と異なり,支川または河道から大量のリンが流入しているものと推定させる.
5.まとめ
現存する観測資料からメコン河下流域の土砂および栄養塩動態の把握を試みた結果,以下の結論が得られた.
(1) 観測データから推定式を求め,その式を用いて浮遊砂量および栄養塩負荷量を算出した.またその結果か
ら土砂動態マップと栄養塩動態マップを作成した.
(2) Chiang Saen – Luang Prabang 区間,Vientiane – Nakhon Phanom 区間,Mukdahan – Pakse 区間は堆積傾向にあ
り,逆に Luang Prabang – Vientiane 区間,Nakhon Phanom – Mukdahan 区間は侵食傾向にあることがわかっ
た.また,Chiang Saen 上流からの浮遊砂供給量が大きく,支川からの流入量は小さいことがわかった.
(3) 総リンでは全ての区間で溶解傾向にあり,Vientiane – Nakhon Phanom 区間の増加量が大きい.土砂とは対
照的に,支川または河道からのリン流入量が大きい.
謝辞:資料を提供されたメコン河委員会および JST の Sokhem Pech 氏に感謝の意を表します.
参考文献
1) Mekong River Commission (MRC): hydrological database (HYMOS), CD-ROM, 2004.
2) Mekong River Commission (MRC): Water Quality Monitoring Network (WQMN) database, CD-ROM, 2004.
11
1.3 Assessment of Knowledge Generation and Consumption for Sustainable
Development in the Mekong River Basin
University of Yamanashi
Kengo SUNADA
Japan Science and Technology Agency Pech SOKHEM
1. Introduction
There is a general agreement that the formulation of adequate policy and implementation of effective management
cannot be expected if the relevant knowledge not available. The paper is to kick start a structured process to identify
knowledge generation and consumption issues, and strategy for making required knowledge available for the sustainable
basin management in the Mekong River Basin.
2. Methodology
The paper scrutinizes the whole process of knowledge management starting from data collection, information and
knowledge products management and access of three Inter-governmental organizations – Greater Mekong Sub-Region
(GMS), Mekong River Commission (MRC), and Upper Mekong Navigation. It relies on a strictly logical and rigorous
process of collecting and analyzing simple, unbiased, unprejudiced observation presented above. The levels of
interactions are assigned a numerical score to provide measures of their level and depth (0 = neutral, 1 = very low; 2 =
low; 3 = fair, 4 = high; 5 = very high (key determinants & parameters are listed in Box 1).
Box 1
Key determinants, parameters and code numberings
Determinants
Parameters
Code Number
A. Constant efforts for data collection & core datasets Constant investigation and data collection/collation and achievements
Coverage of core datasets in their disposal
coverage
Data quality and gaps
Availability of improvement plans (quality and gap filling)
B. Capacity in mobilizing, using knowledge
Capacity of relevant staff at the regional office
Capacity of relevant staff at the national office
Efforts in knowledge transfer to national/riparian
C. Efforts in promoting Actual application in informed Efforts in transforming data into information products
Development and application decision making support tools
decision-making
Making information production available in the public domain
Means for transfer of and access to data, information products
Success and effectiveness in using knowledge in decision-making
D. Linkage with to academic Institutions and Research Availability of its own research facilities
Partnership with various research and academic communities
communities
Effectiveness in linking scientific knowledge into action
Existing plans for improvement of interaction and effectiveness
A.1
A.2
A.3
A.4
B.1
B.2
B.3
C.1
C.2
C.3
C.4
C.5
D.1
D.2
D.3
D.4
3. Discussion of results
Figure 1 shows the result of the analysis. In spite of a long history of the hydrological data collection and investigation
works in the MRB (A 1) that dated back to 1894, there are still a huge data gaps and quality issues (A.2 and A 3). The
biggest data gap is from the upper Mekong Basin, mainly due to communication problems and other barriers.
Overall Score of know ledge management
performance (B )
R elative sco res o f each p aram eters (A)
4
4
5 = max score level
5 = maximum score
5
3
2
1
2
3
A.
A.
A.
4
B.
1.
B.
2.
B.
3.
C.
1
C.
2
C.
3
C.
4
D.
1
D.
2
D.
3
D.
4
D.
5
1
A.
0
M RC
GMS
Upper Navigation
3.8
3.5
3
2.5
3.5
3.25
2.67
2
3
2.6
2.5
A
2.00
B
1.67
1.5
C
1
D
0.5
0
0
0
0
M RC
GMS
Navigation
Figure 1
Relative and Global Score of each organizations knowledge management performance
On a positive side, both MRC and GMS have developed programmes and activities to gear toward further
improvement in data and information management for supporting their growing demands (A4).
Keywords: Mekong River Basin, Knowledge Generation and Consumption, Sustainable Water Policy.
Address: University of Yamanashi, Takeda 4-3-11, Kofu, Yamanashi 400-8511 TEL: 055-220-8523
12
The long-term sustainability of the knowledge management is threatened by inadequate resources and institutional
capacity constraints, and lack of proper policy and guidelines (B.1 & 2). Another greatest challenge is to provide
appropriate transfer of knowledge (B 3) as the problems lie both in the attitudes and capabilities of those who are
supposed to transfer the knowledge (mainly international consultants), and also in the absorbing capacities of riparian
staff and other institutional constraints that leads to high staff turn-over or brain-drainage.
MRC and GMS have made great efforts in transforming data into information products, improving information
handling systems and knowledge base (C.1, 2 and 3). They have gradually improved access to data and information. But
some data accessibility remains fairly complicated (C. 4). Both organizations are facing challenges in integrating this
information so that it is useful for decision-making, and further improving the data base and tools/models (C.5).
GMS and MRC have enjoyed some forms of partnership with academic institutes and research groups (D1 & 2).
However, the relationship between Science-Policy-Management does not always conform to the linear model, where
researchers and research scientists play the traditional role of information providers for policy-makers, who make policy
decisions and then hand these decisions down to administrators (managers) for implementation through various
management arrangements (D3). Figure 2 below summarizes well established reasons of that gap and suggested ways for
improving linking knowledge to action.
Figure 2
Conceptual framework for overcoming boundary issues between science and policy
Causes
Possible interventions
Limited capacity for
mobilizing & using
generated knowledge
Building & strengthening national
capacity & capabilities
Poor articulation of
knowledge need
Domination of
Traditional scientific
research approach
Countries assisted by
donors and partners
Improving ability to translate
knowledge into acceptable form
Regional Collaborative demand-driven
sustainable research partnership
North-South demand-driven research
partnership
Narrow disciplinary
functioning of research
entities & publication
Multidisciplinary networking and
multidisciplinary research/exchange
Poor appreciation of
political context and
characterization of
limitation and uncertainty
Collaborative mapping of research
topical areas and questions
Poor defining of
credibility, salience,
trust/validity & legitimacy
of information
Responsible parties for action
Accredited regional
knowledge generation
networks f acilitated by
“Regional Mekong
Research Institution f or
IW RM”
Interfacing Science-Policy-Basin
Management thru improved
communication and feedback
mechanism
Developing dynamic knowledge
management system/ knowledge
mining system (KMS)
4. Conclusions
The MR, especially the MRB, has been the main focus of attention of the research and scientific communities both
from within and outside the region for many years. Knowledge on their principal properties of the relevant ecosystem(s)
and the bio geophysical contours of the problem and challenges has been generated. There are limited opportunities for
knowledge sharing even among those leading knowledge generation that would allow for a comparative perspective and
avoiding duplication of efforts. The gap between science-policy-management must be addressed urgently. From a close
examination of the Herculean task listed in Figure 3 above, it is cleat that it is well beyond the capacities of individual
nations and institutions. The study suggests that the region needs to consider establishing a Regional Research Institute for
IWRM for directing the future research works, managing knowledge mining system (KMS), and doing other coordinating
tasks listed in Figure 3.
Reference
1)
Pech S and Sunada K (B). “The Governance of the Tonle Sap Lake, Cambodia: Integration of Local, National and International
Levels”, Int’l Journal of Water Resources Development, Vol. 22 No. 3, pp. 299-416, (2006).
2)
Pech S & Sunada K., “Multi-Dimensional Analytical Framework for Fitting Research Agenda with Actual MRB Needs”, Proc. Int’l
Conf. On “Mekong Research for the People of the Mekong”, Chiang Rai, Thailand, (2006).
13
1.4 タイ国チャオプラヤ川流域とバンコク首都圏東部郊外部の治水政策に関する研究
Study on Flood Damage Mitigation Measures of the Chyao Phraya River Basin and the Eastern
Suburban Area of Bangkok Metropolitan Areas in Thailand
日本大学/慶応義塾大学大学院
吉川勝秀
1.目的
本研究は、人口急増地域での治水を中心とした水政策シナリオについて、大国のチャオプラヤ流域、そし
てその氾濫原に位置する大都市バンコクの東郊外部を対象として研究を行うものである。研究は、治水を中
心とした水政策シナリオと、その実践を通じた有効性・妥当性の検証および類似する流域への普遍的な適用
の可能性について検討を行っている。このため、この研究の比較対象河川として、日本の首都圏の代表的な
河川流域である中川・綾瀬川流域を取り上げて比較研究を行っている。
研究は、いわゆる科学・技術面のみならず、都市計画などの人文社会科学的な視点も加えて行っている。
2.研究の手法と過程
研究の進め方としては、日本の技術協力(JICA の技術協力)によって問題を調査するとともに提示した対
応シナリオ(計画)に基づいて実践され、あるいはそれを参考に実践された対策を中心に調査研究を進め、
研究の目的を達成することを目指している。研究は、タイ国の国、バンコク首都圏庁等の行政関係者、研究
者等と連携して行っている。実質的な議論と検討を行うために、毎年、中国における治水を中心とした研究
チームと合同で、タイ、中国、日本の国際ワークショップを開催している。
人口急増地域を含む治水の問題は、その概念を次のように理論化、定式化できる1)、2)。
D = D(F , F0 , S )
(1)
∞
D = ∫ Pr (F ) ⋅ D (F , F0 , S )dF
F0
(2)
ここに, D :被害額, F :外力(降雨や流量,水位等で与えられる), F0 :治水施設の能力(無被害で対
, D :年平均
応できる治水の容量), S :被害ポテンシャル(氾濫等の水害により被害を受ける対象物の量)
(確率平均)想定被害額である.
式(1)から,被害額(年平均想定被害額)の増減に関して,式(3)が導かれる.
⊿D =
∂D
∂D
⋅ ⊿F0 +
⊿S + ε (⊿F0 , ⊿S )
∂F0
∂S
(3)
式(1),(3)から,年平均想定被害額の増減対策は,①治水施設の対応能力を向上させることによる年平均
想定被害額の軽減,②被害ポテンシャルの増減による年平均想定被害額の増減,③それらが複合した年平均
想定被害額の増減より構成されることが知られる.
この基本式により、人口増加等による洪水被害額の増加とその原因(要因)の分析ができる。
式(2),(3)より導かれるように,治水の基本的・本質的な対策(治水の政策シナリオ)は,①治水施設の対
応能力の向上による被害額の減少(構造物対策による減少)
,②被害ポテンシャルの減少あるいは増加を抑制
することによる被害額の減少あるいは増加の抑制(非構造物対策による減少あるいは増加の抑制),③①と②
を複合させた総合的な治水対策となる.
3.結論
2006 年 8 月時点での研究の結論の概要は以下のようである1)、2)。
①
バンコク首都圏東郊外の都市化が急激に進んだ流域およびそれを含むチャオプラヤ川流域において上記
の治水理論に基づき洪水被害の増大要因を分析し、対策シナリオを検討し、その実践という観点から事
後評価を含めてその対策シナリオ(水政策シナリオ)の有効性、普遍的な適用可能性などを検討した。
14
② バンコク首都圏東郊外の都市化が急激に進んだ流域(流域面積約 500 平方キロ)を対象とし、1980 年代
半ばに提案された構造物対策と非構造物対策を含めた対策シナリオ(総合的な治水対策)は、上流域か
ら流入するグリーンベルトで軽減するとともに対象流域内での構造物対策を中心にほぼ計画に基づいて
進められた(図-1)。その結果、1983 年には約 3 ヶ月継続した浸水は解消され、浸水しても時間単位、日
単位であるといった短時間しか浸水しないように大幅に軽減されている。
③ 流域での構造物対策は、流域の洪水災害の発生原因に対応して実施されている。非構造物対策の一つで
ある土地利用の誘導・規制に関しては、治水のために洪水を遊水させるグリーンベルトの保全(農地に
土地利用を規制)など、現地の土地利用部局の状況に照らして、比較的よく実施されてきたといえる。
④ この都市化流域での治水対策シナリオ(総合的な治水対策)は、日本でも首都圏の中川・綾瀬川流域な
どの流域でも実施されており、比較対象研究を実施したところ、合理的で効果を発揮していると評価で
きる。このことから、バンコク首都圏での実績も考慮して、この人口急増地域での治水についての対策
シナリオは、都市化が著しい河川流域(特に低平地の緩流河川)で有効な治水の水政策シナリオである
ことが事後評価的にも検証された。
⑤ タイ国の経済活動(GNP)の約 6 割を占めるチャオプラヤ川流域(流域面積約 16.3 万平方キロ)の中・
下流部についても、同様の治水理論で分析し(図-2)、3つの代替的な対策シナリオ(下流の能力の向上
に合わせて上流の開発等を規制する案、川沿いに堤防を設けて氾濫を防止する案、放水路を設け下流の
氾濫を軽減する案をその骨子とした総合的な治水対策案)を提示し、その実施状況を調査した。その総
合的な治水対策への理解は進んでいるものの、提示した代替的なシナリオのうち、川沿いに堤防を設け
て水害を防止する対策がほぼ下流域で実施されてきている。この面で、総合的な治水対策の理念は理解
されているものの、大河川流域における土地利用の誘導・規制は、日本と同様に容易でないことが知ら
れる(日本では、大河川流域での総合的な治水対策は実施されていない。世界的にもほとんどない)。
図-2
チャオプラヤ川流域の洪水被害増加とそ
の原因の分析
図-1
Fig.2 Increase of Flood Damage in the Chao
バンコク首都圏の東郊外流域と治水対策
Fig. 1 Eastern-Suburban Bangkok Metropolitan
Phraya River Basin and Analysis of its Cause
キーワード
治水、都市化、総合的な治水、構造物対策、非構造物対策、対策シナリオ、水政策シナリオ
連絡先
〒2704-8501 千葉県船橋市習志野台 7-24-1
TEL047-469-5228
参考文献
1)吉川勝秀・本永良樹:低平地緩流河川流域の治水に関する事後評価的考察、水文・水資源学会誌、原著論文、Vol.19、No.42006、
pp.267-279
2)Yoshiki MOTONAGA, Katuhide Yoshikawa: Post-Evaluative Study of Flood Mitigation in the Basins of Gentle Flowing
Rivers on Lower Lying Plains, APHW, 2006
15
1.5 水需要管理の課題 -チャオプラヤ川流域のモデルケース-
Water Demand forecast Model : the case of Thailand
高知工科大学
不二グラウト工業
村上雅博
高知工科大学
辻和毅
那須清吾
1.目的
タイ国の様な東南アジアで発展期にある国では、従来の農業水需要に加えて工業、生活などの水需要も急激
に伸びてきている。特にタイ国では、乾季においても稲作が行われることから既に水不足の状態にある。
今後の国の発展を考えた場合、限りある水資源を如何に有効に利用するかがポイントであり、その為には産
業政策、経済計画、生活水準、水価格政策その他の水需要の要因を勘案した水需要予測モデルが必要となる。
これらの各要因の影響を予測するとともに、政策的にコントロールすることで将来の水需要を予測することは、
水政策シナリオを立案する上で重要な前提を与えることになる。本研究においては農業を含む産業、生活用水
の需要予測モデルを作成し、水需要に関わる政策立案に寄与することを目的とする。
2.研究活動成果
①農業、その他の産業、生活用水に関わる存在する各種統計は、タイ政府各機関の協力により得られている。
②タイ国のチャオプラヤ川下流域の7県における工業用水、生活用水の需要構造を分析するため、アンケー
ト調査を実施した。
③水需要分析の対象とするタイ国 7 県の産業連関表をRAS法により作成するとともに、工業用水需要の
GDPベースの原単位を作成し、産業連関表とのリンクモデル(GCモデル)を作成した。
④戦後の日本における水需要動向(トレンド)を分析することにより、タイ国が将来取り得る政策的手段の
効果について分析した。
⑤以上の成果を踏まえて、タイ国の将来水需要予測を試みた。
3.水需要の将来予測方法
研究対象としたのは図―1に示すタイ南部のチャオプラヤ川下流域のバンコク県を中心とする経済発展の
著しい7県をである。タイ国には全国ベースの産業連関表しか存在しないことから、各県の投入産出量に合わ
せてRAS法により県毎の産業連関表を作成した。タイ国では5年毎に産業連関表を作成しており、今回の分
析では2000年の産業連関表を使用した。また、タイ国の産業統計に基づく産業毎のGDPおよび各産業毎
の水需要量から現時点での固定的な水需要原単位を導出した。
分析の対象としたのは西暦2025年であり、1984~2004 年の年平均経済成長率6.2%が25年間継続
すると仮定した。また、タイ国政府の経済政策である将
来の産業クラスターおよびFTA(グローバルな自由貿易
協定、および、米国・日本・中国との限定的な協定)の
有無による産業構造の変化(国内外のシェアーを含む)
を考慮した4ケースについて、各県の2025年の産業
連関表を導出した。
図-1 対象としたチャオプラヤ川南部7県
図―2
16
研究の流れ
4.分析結果
図―3は分析した結果であり、以下の各シナリオについて示しているが、バンコク県およびサムットプラカ
ン県などの工業化が著しい県での需要が大きくなることが予測されるなど、ほぼ7県で需要が倍増することが
判明した。また、図―4は、産業毎の水需要予測であるが、主要産業である繊維産業や今後成長が期待される
化学産業などの水需要が大きいことを示しており、特定産業における水需要政策の必要性を示している。
C1:過去の経済成長のみを考慮した場合
C2:タイ国政府の将来産業政策(産業クラスター)を前提とした場合
C3:C2のケースにおいて、全ての国を対象にFTAを締結した場合
C4:C2のケースにおいて、米国・日本・中国のみとFTAを締結した場合
図―3
産業政策シナリオ毎の2025年の水需要予測
5.今後の研究の展開
①これまでの研究で、タイ国の産業政策を踏まえた産業
連関表による水需要予測が行えることがわかったが、
水需要原単位は固定的に扱っている。今後、既に実施
したアンケート調査を踏まえた水需要の価格弾力性
モデル、産業の付加価値レベル等に応じた原単位低減
モデルなどをCGモデルに組み込むことにより、より
現実に近い予測を可能にすることで、価格や使用制限
などの政策的なアプローチのシミュレーションを予
定している。
②上記のアプローチについては、農業用水および生活用
水に同様に展開していく予定である。特に、タイ国の
水需要の約80%は農業用水であることから、米市場
の価格変化による需要変化モデルなどを準備してい
る。
③各県の産業連関表に基づくシミュレーションから各
産業のGDP予測が得られるが、各産業毎のGDPに
対する資本・労働を関数とする生産関数から、各県の
労働に需要が導出される。従って、生活用水の分析に
当たっては、産業連関表をベースとした予測モデルと
のリンクモデルを検討している。
図―4
産業毎の水需要予測結果
④水需要分析において需要供給モデルを導入する場合、提供側の上水道整備、水源開発などのサプライサイド
マネジメントを導入する必要が有る。また、気候変動などの条件を踏まえた政策的なリスク分析についても導
入し、タイ国政府が総合的な政策的判断を実施できるツールとする予定である。
17
1.6 ブランタス川上流域における放射性同位体を用いた土砂動態の把握
Behavior of sediment dynamics using radio isotope tracer at upstream of Brantas river basin
京都大学大学院地球環境学舎
筑波大学
国土技術政策総合研究所
高橋史
恩田裕一
林真一郎・伊藤英之・水野秀明・小山内信智・綱木亮介
1.目的
Table 1. Comparison of reservoirs in middle
インドネシア共和国・ブランタス川流域では第二次世界大戦
stream of Brantas river
後から現在まで、第 1 次から 4 次までのマスタープランに沿っ
て開発が進められてきた。開発の内容は主に中流域におけるダ
ム建設による治水機能の強化、農業・工業用水の確保、発電で
あり、開発は概ね成果を挙げている1)。しかしながら、ブラン
タス川流域は火山を多く抱えるなど土砂生産の激しい流域で
カランカテス
スタミ
ラホール
ウリンギ
ロドヨ
スングル
完成年
1972
1977
1976
1980
1988
総貯水量
3
(百万m )
343.0
36.1
24.0
5.8
21.5
残存容量
(%)
51
89
17
35
16
あり、近年、中流域のダム堆砂問題が顕在化してきており、将
※スタミ、ロドヨは 1999 年、その他は 2001 年の
来、治水、農業・工業用水の確保などに支障を来す恐れが出て
データ
きている(Table 1)。中流域のダムへの主な土砂生産源は活火
山であるクルー山とスングルダム上流域である。クルー火山に影響に
関しては多くの調査がなされているが、スングルダム上流域における
土砂動態に関しては十分に把握されていない。また、最大の貯水量を
持つスタミダムはクルー火山の影響をほとんど受けない位置にあり、
スングルダム上流域の土砂動態を把握することは堆砂問題を考える上
で非常に重要である。本研究はスングルダム上流域において放射性同
位体を用いて土砂動態の把握を試みるものである。
2.試料の採取と土壌侵食量の算出
2005 年 12 月にスングルダム上流域のブランタス川源流域(以下、
UB流域)、レスティ川・アンポロン川流域(以下、LA流域)において、
資料採取を行い、放射性同位体Pb210-ex濃度を測定した。手法につい
ては加藤ら2)の文献を参考にされたい。Figure 1、2 に資料採取地点を
示す。流域の土地利用は森林 21.7%、水田 24.5%、耕作地 31.8%、
Figure 1. Indicating the sampling
points at the UB basin
市街地 18.1%である。このうち土砂の主たる生産源となると考え
られるのは耕作地と森林であり、資料採取は森林と耕作地におい
て行った。得られた資料のPb210-ex濃度から土壌侵食量を推定し
た。森林土壌(未攪乱土壌)における土壌侵食量の推定には
Diffusion Migration Model(拡散・移動モデル)3)を適用し、耕作
地における土壌侵食量の推定にはMass balance Model with tillage
(耕作地の影響を考慮した多変量モデル)4)を適用した。各地点
でのモデルによって推定された侵食速度(t/ha/year)をtable 2 に
示す。森林における平均侵食速度は 0.3t/ha/year、耕作地における
平均侵食速度は 21.7t/ha/yearであり、森林からの土砂流出はほと
んどなく、耕作地からの土砂流出が卓越していることが結果から
18
Figure 2. Indicating the sampling points at the
LA basin
Table 2. Estimation of erosion velocity
侵食速度(t/ha/yr)
-0.2
森林
LA
-0.49
UB
推測される。しかしながら、今回得られた侵食速度から推定
したスングルダムへの年間堆砂量と実際のダムへの年間堆砂
量を比較すると実測値よりも推定値の方が1オーダー大きく
なっており、大きく過大評価となっている。
耕作地
3.土砂流出起源の推定
一方で、スングルダム、河床堆積物の Pb-210ex 濃度は
Figure3 で示すように森林、耕作地の Pb-210ex 濃度より低い
-16.73
-53.9
-14.8
-8.9
-14.3
LA-1
LA-2
UB-1
UB-2
UB-3
ことが分かる。このことから、森林、耕作地以外にも Pb-210ex
濃度が低い土砂生産源があることが推測される。本研究では、その生産源を Pb-210ex の降下の影響を受けに
Pb-210ex activity(Bq/Kg)
くいガリー・崩壊地と仮定し、以下の式によって土砂の生産の
寄与率を推定した。
APc + BPg = Pr
(1)
A+ B =1
(2)
ここで、Pc、Pg、Prはそれぞれ各流域における耕作地、ガリー・
崩壊地、河床堆積物のPb-210ex濃度とする。今回の資料採取で
はガリー・崩壊地のPb-210ex濃度は測定していないが、現地の
スングルダム
森林(平均)
耕作地(平均)
河床堆積物(平均)
30
25
20
15
10
5
0
0.40
0.50
0.60
0.70
Fe2O3/Al2O3
状況と既往の研究からPb=0 として取り扱うこととする。森林
については算出した侵食速度から、土砂生産は無視できるもの
Figure 3. Radio isotopic and chemical
として考えている。算出結果をFigure4 に示す。UB流域では耕
composition of the samples in Brantas
作地の寄与率が4割程度であるのに対し、LA流域では非常
river basin (Pb-210ex, Fe2O3/Al2O3)
100
る。この結果からとくにUB流域では耕作地での土砂生産源
80
対策が有効である可能性を示唆している。
4.まとめ
本研究では放射性同位体を用いて侵食速度および土砂生
寄与率(%)
に小さい。上流域全体では耕作地の寄与率が2割程度にな
は把握できたと考えられる。放射性同位体を用いる手法は
データ収集が困難な発展途上国において有効な手法であり、
40
0
土砂動態の把握を試みた。その結果、 森林より耕作地の
砂生産の寄与率が高いことが判り、上流域の大まかな動態
60
20
産の寄与率を推定することによってブランタス川上流域の
侵食速度の方が大きい UB 流域において耕作地からの土
ガリ・崩壊地
耕作地
UB
LA
上流域全体
Figure 4. Estimation of sediment sources
using Pb-210ex concentration ratio at the
upstream of Brantas river basin
政策シナリオを考えて行く上で今後も検討を進めていくことが重要である。
参考文献
1) 内田ら:ブランタス川流域における水・土砂管理シナリオの変遷とその効果.人口急増地域の持続的な流域水政策シナリオ
2005 年研究成果概要集、2005, pp.17-18
2) 加藤ら:吉野川上流長沢ダム流域における放射性同位体を用いた微細土砂供給源の推定.砂防学会誌、58(2)、2005, pp.5-14
3) Walling and He (1999):Improved models for estimating soil erosion rates from Cesium-137 measurements, J. Environ. Qual. 28,
pp.611-622
4) Walling and Quine (1990):Calibration of Caesium-137 measurements to provide quantitative erosion rate data, Land degradation &
rehabilitation, Vol.2, pp.161-175
キーワード
ブランタス川、ダム堆砂、土砂動態、放射性同位体
連絡先
〒305-0804
つくば市旭 1 番地 国土技術政策総合研究所危機管理技術研究センター TEL:029-864-0387
19
1.7 ブランタス川流域における地形特性について
Geographical properties of the Brantas river area.- volcanic disasters at Kelut volcano in
historical time-
国土技術政策総合研究所
林真一郎・伊藤英之・水野秀明・小山内信智・綱木亮介
1.目的
ブランタス川流域においては,火山から供給される土砂はしばしば流域管理上,深刻な影響を与える.特に
流域に直接的な影響を与えると考えられるクルー火山は,10 世紀以降,断続的に噴火活動を続けており,主
として降下火砕物やラハールにより大量の土砂を流域内に供給している.近年,当該流域においては,土砂動
態環境が著しく変化し,特にダム堆砂と大幅な河床変動に起因する治水経済活動への影響が懸念されている.
そのため,当該地域における細粒土砂を含む土砂移動実態を把握し,適切な流域管理へ向けての検討が急務と
なっている.本研究においては,流域における土砂生産の基本となる地形および地質特性,および周辺火山に
おける土砂生産特性について検討を行い,噴火に起因する土砂生産シナリオ作成の基礎データに資することを
目的としている.
2.ブランタス川流域における地形特性
Figure 1 にブランタス川の位置図を示す.当該地域南端部には鮮新世の若い石灰岩類が露出しており,石
灰岩と第四紀更新世火山を避けるようにブランタス川が回りこんで流下している.
更新世火山のうち,スメル火山,ブロモ火山およびクルー火山は現在も活発な活動を継続している.これら
の火山のうち,スメル火山は 1967 年以降,現在まで断続的に火砕流や溶岩流を主体とした活動を行っている
が,それらの流下方向は主として山体東~南東側であり,当該流域に直接的な影響は極めて少ない.また,ブ
ロモ火山においても水蒸気爆発を主体とした活動であるため,土砂供給等の影響は火口周辺に限られている.
一方,クルー火山においては,噴火に伴う火口湖溢流による一次ラハール,火砕流および大量の降下火砕物が
山体西側を広く覆い,これら火山砕屑物が直接ブランタス川へ土砂を供給している1).
3.クルー火山の噴火と土砂供給特性
Figure 2 にAster-3Dによる衛星画像から作成したクルー火山周辺の赤色立体図2)を示す.クルー火山は複合
成層火山で,山体東側は厚い溶岩,火砕流堆積物およびラハール堆積物から構成されているのに対し,西側は,
それらの上を数 100mにも及ぶ厚い岩屑なだれ堆積物で覆われ,さらに新期に噴出した火砕流堆積物およびラ
ハール堆積物で被覆されている.このため,山体西側山麓には広大な火山麓扇状地が形成され,農地として利
用されている.一方,山頂付近には複数の溶岩ド
ームと特徴的な火口湖が認められ,山頂東側に位
置する溶岩ドームが地形的障害となり,少なくと
も 10 世紀以降の噴火堆積物のほとんどは,降下火
砕物を除き,山体北西側~南西側に分布し,しば
しばブランタス川まで直接到達している.
Figure 3 に 10 世紀以降の噴出物階段ダイヤグ
ラムを示す.10 世紀以降の噴火は現在明らかにな
っているものだけでも 33 回あり,全て山頂噴火で
ある.多くの場合,火砕物の噴出に加え,火口溢
流型のラハールと火砕流を伴う.1 回の噴火にお
ける平均的な火砕物の総噴出量は 106-107m3程度で
あることが多いが,1586 年,1641 年には 108m3を
超える大規模噴火を発生させており,特に 1586 年
Figure 1.Distribution map of volcanoes around the
Brantas river basin. Kelut volcano is located at the
center of the basin.
20
噴火では火砕流と大規模な火口溢流泥流により,
15,000 人以上の犠牲者をだした1).近年では 1990 年
に 107m3オーダーの噴火が発生し,32 名が犠牲とな
っている.Bourdier, et.al(1997)は,1990 年噴出物
の粒度組成を計測した.それによると,火砕流堆積物,
火口溢流型ラハール堆積物ともに試料採取地点に係
わらず 2mmの細粒物質が卓越し,また,降下火砕物に
ついても火口から 4km以上では 2mm以下の細粒物質が
卓越することを明らかにした.
4.クルー火山の噴火シナリオ
Thouret,et.al(1998)3)は,クルー火山における 10 世
紀以降の噴火形態,マグマ組成,噴出物の粒度組成等
から,噴火の推移予測を以下の通りとしている.
Figure 2. Red relief image map of Kulet volcano
(1) 水蒸気爆発あるいはマグマ-水蒸気爆発と火口湖
based on image data from Aster – 3D.
溢流型ラハールの発生
(2) それに引き続くプリニー式噴火と Intra-plinian
9
型火砕流(火砕サージを含む)
3
Average eruptive rate =0.008 km /ka
8
(3) 降雨型ラハールの発生
7
Cumlative Volume (km )
噴火の規模については,10 世紀以降の噴火傾向が
3
継続するという前提においては,Figure.3 を見ても
明らかな通り,106-107m3オーダーの噴火規模が卓越す
る公算が大きいと考えられるが,1586 年には 5.5×
8 3
10 m 規模の噴火実績もあることから,それらの規模
の噴火についても視野に入れてシナリオを構築する
必要がある.
6
5
4
3
2
1
5.結論(まとめ)
0
1000
Aster-3D 画像よりクルー火山周辺の高解像度赤色
1200
1400
1600
1800
2000
Eruptive age (A.D)
立体地図を作成し,地形判読を行った.また,既存文
献より噴火シナリオについても概略検討を行った.そ
Figure 3. Cumlative volume (km3 DRE) of erupted
の結果以下の点が明らかになった.
matericals during the past 1000 years. Based on
(1) 地形的特徴より,降下火砕物を除く噴出物は山体
database of GVP website.
の北西~南西方向に分布する傾向が認められる.
(2) 噴出物の粒度組成は 2mm 以下の細粒物質が卓越する.
(3) 10 世紀以降の噴火傾向が継続することを前提とすると,総噴出量 106-107m3規模の噴火が発生する傾向が
あり,噴火の推移は,火口湖溢流型ラハール→プリニー式噴火(火砕流を伴う)→降雨型ラハールの発生
と推移する可能性が高い.
参考文献
1) Bourdier JL. Pratomo, I.Thouret, JL, Boudon G., Vincent, P.M: Observations, stratigraphy and eruptive processes of the 1990 eruption of
Kelut volcano, Indonesia. Jour, Volcanol, Geotherm Research 79, pp181-203, 1997.
2)千葉達郎・鈴木雄介:赤色立体地図-新しい地形表現手法-.応用測量論文集
vol.15 pp81-89,2004.
3)Thouret.J.C., Abdurachman, K.E., Bourdier. J.L and Bronto. S.: Origin, characteristics, and behavior of lahars following the 1990 eruption
of Kelud volcano, eastern Java (Indonesia). Bull Volcanol 59, pp460-480.1998.
キーワード
ブランタス川、火山、地形特性
連絡先
〒305-0804
つくば市旭 1 番地 国土技術政策総合研究所危機管理技術研究センター TEL:029-864-0387
21
2.1 シルダリア川下流域における農地の土壌水分変動に与える水ストレス・塩ストレスの影響
Influence of water and salinity stresses on soil moisture change of farm land
in the Lower Syr Darya River Basin
鳥取大学農学部
猪迫耕二・北村義信・山本定博
1.目的
アジア地域等の流域水政策シナリオ研究チーム(砂田 CREST)では,人口急増地域の諸特性を明確にし,
総合的・系統的な水循環システムの分析に基づく最適な水管理のための政策シナリオの提示を目的としている.
鳥取大学グループは,その一環として,水不足と下流域の深刻な水土環境の劣化に直面しているシルダリア川
流域を対象として,水需給の実態,流域関係国の水政策,水環境の現状掌握・将来動向の評価を行い,同流域
の水政策シナリオを提案することを目的に研究を進めている.本研究では特にシルダリア川流域における水土
環境の改善と持続可能な農業展開のための政策シナリオの提言を目的としている.
シルダリア川の流入先であるアラル海の回復はもはや不可能と認識されており,小アラル海の水環境の維持
が現実的な目標となっている.そのためには唯一の流入河川であるシルダリア川からの流入量を維持しなけれ
ばならない.シルダリア川流域面積の53%は乾燥地帯に属しており,河川水は同地域の貴重な淡水資源となっ
ている.同地域の人口増加は水利用の多様化を生むと思われる.現在,シルダリア川の取水量の80~90%が農
業利用されているが,将来的にこの比率の見直しが必要になると思われる.すなわち,合理的な政策決定のた
めには,農業用水量の再設定を組み込んだ水政策シナリオの策定が必要と思われる.
そのためには農地の土壌水分変動を推定する.その際,乾燥気候に属する同流域では,農地で発生する水ス
トレスや塩ストレスが土壌水分変動の重要な支配因子である消費水量(Consumptive Use, CU)に与える影響は
大きく,これを無視することはできない.そこで,本研究では,政策シナリオ立案のための基礎資料として,
本流域の土壌・気象条件下における水ストレス,塩ストレスの発生が農地の土壌水分変動に及ぼす影響につい
て検討した.なお,ここでは土壌水分量として土壌水分欠損量(Soil Moisture Deficit, SMD)を用いた.
2.消費水量の推定
(1)対象流域と作物,土壌
本研究では,シルダリア川沿岸の 9 地点での消費水量の推定を
試みた(Figure1).本流域では,Kzyl-Orda を境に上流側が綿花地
Aral'sk
Aral Sea
Kazalinsk
Dzusaly
Kzyl–Orda
帯,下流側が水田を中心とした輪作地帯となっている.主要作物
Sy
r
は rice,cotton, alfalfa, wheat, maize である.土壌データには,
Kzyl-Orda の水田(Soil1),アルファルファ畑(Soil2),および Turkestan
Da
ry
aR
iv
Ciili
Acisaj
Turkestan
er
Cimlent
の綿花畑(Soil3)で採取した土壌の実測値を用いた(Table1).
Cardara
(2)作物蒸発散量の推定
Penman-Monteith法を用いて基準蒸発散量(ETo)を算出し,作
物係数(Kc)を乗じて作物蒸発散量(ETc)を求めた1).
⎛ 900 ⎞
0.408∆ (Rn − G ) + γ ⎜
⎟u (e s − ea )
T + 273 ⎠
⎝
ETo =
∆ + γ (1 + 0.34u )
(1),
Figure 1
ETc = Kc ⋅ ETo
Research area
(2)
ここで,Rn,G:純放射量,地中熱伝達量(ただし,今回はG=0),T:日平均気温,u:風速,es,ea:気温T
における飽和水蒸気圧ならびに水蒸気圧,∆:気温-飽和水蒸気圧曲線の勾配,γ:乾湿計定数である.各都市
キーワード
蒸発散,Penman-Monteith 法,塩ストレス,水ストレス,SMD モデル
連絡先
〒680-8553 鳥取市湖山町南 4-101 鳥取大学農学部
22
TEL:0857-31-4204
の気象データには(財)気象業務支援センターが発行している世界気象資料のうち,1999 年 4 月~2004 年 6
月までの月平均値を用いた.
Table1
(3)SMD モデル
ETcは好適な条件下における蒸発散量であり,ストレス発生が危
惧される地域では,ETcが直ちにCUとはならない.そこで,土壌水
分欠損量(SMD)モデル2)による水収支シミュレーションを行い,
水ストレスと塩ストレスの影響を加味した日単位のCUを推定した.
Soil data
Soil 1
Soil 2
Soil 3
飽和透水
係数(cm/s)
7.4x10-6
2.0x10-5
4.2x10-4
有効水分量
0.132
0.133
0.236
ECe (dS/m)
2.44
6.61
1.39
なお,各作物の栽培期間中の合計を総消費水量(GCU)とした.
(3)
SMDi +1 = SMDi + CU i − I i + Gi
ここで,I:灌漑水量,G:降下浸透水量である.なお,乾燥地であることから降雨は 0 とした.SMDi+1がある
閾値(SMDt)を超えると水ストレスが発生するものとし,抑制関数R(SMD)を用いてCUを推定した2).
CU = R(SMD )K s ETc
ここで,Ksは塩ストレス係数であり,次式で決定した1).
Ks = 1−
(4)
b
(ECe − ECt )
100Ky
(5)
ここで,ECe:飽和抽出水のEC,ECt:作物の収量減が発生する閾値,b:ECの増加量当りの収量の減少率,
Ky:収量反応係数(ここではKy=1.0)である.
水収支シミュレーションでは,TRAM を畑地における 1 回の灌水量とし,水田では飽和水分量の 20%(水
田 TRAM と称する)に湛水深 30cm を加えた量を灌水量とした.また,畑地は定時定量灌漑,水田は水田 TRAM
と湛水深が消費された段階で灌漑する随時定量灌漑とした.なお,間断日数の計算には全生育期間の平均蒸発
散量を使用した.
Table2
3.結果と考察
Table 2 に栽培期間の総作物蒸発散量(GETc)を示し
Aral'sk
た.rice,cotton,alfalfa の GETc は非常に大きくなった. Kzyl-Orda
一方,消費水量(Table 3)についてみると,Soil1,Soil3 Turkstan
Cardara
では GETc とほぼ同じ値であり,適切な灌漑計画で水ス
トレスの影響は回避可能と思われる.一方,Soil2 におけ
Gross crop evapotranspiration
Rice Cotton Alfalfa Wheat Maize
1229 1084
930
648
664
1364 1194 1037
712
740
1358 1188 1038
701
721
1449 1258 1086
752
764
Table3
Soil 1
Aral'sk
耐塩性の高い cotton では低下していないことから,塩ス Kzyl-Orda
Turkstan
トレスの影響は大きいといえる.
Cardara
る cotton 以外の作物の GCU は GETc の 60%まで低下した.
塩ストレスの影響を受けた農地において,除塩なしに
(mm)
Gross consumptive use
(mm)
Rice Cotton Alfalfa Wheat Maize
1229 1084
903
647
608
1364 1194 1007
712
677
1358 1188 1007
701
660
1449 1258 1055
751
700
Soil 2
Rice Cotton Alfalfa Wheat Maize
Aral'sk
698
1084
617
619
274
れない余剰水が土壌に残存し,二次的塩類集積をもたら Kzyl-Orda 775
1194
688
681
305
Turkstan
771
1188
689
670
297
す危険性が高くなるといえる.
Cardara
823
1258
721
720
315
作物蒸発散量を灌漑水量として採用した場合,消費しき
5.おわりに
Soil 3
Aral'sk
に与える影響は大きく,水ストレスは適切な灌漑計画で Kzyl-Orda
回避できることが明らかとなった.今後,さらに詳細な Turkstan
Cardara
シルダリア川下流域の農地では塩ストレスが消費水量
検討を行い,シナリオ策定を行いたい.
Rice Cotton Alfalfa Wheat Maize
1112 1026
930
613
606
1335 1130 1037
654
697
1288 1118 1017
642
672
1384 1205 1086
712
709
参考文献
1)Allen et al.: Crop Evapotranspiration, FAO Irrigation and Drainage Paper No.56, 1999
2)猪迫ら,畑地における土壌水分欠損状況の推定モデル,農土論集 165,55-64,1993
23
2.2 小アラル・シルダリア川流域における上下流間の利水競合と調整 -ソ連崩壊後の水問題-
Competition for Water-Use between Riparian Countries in the Basin of the Small Aral and
Syr Darya River and Adjustment Measures -Water issues after the Collapse of Soviet Union鳥取大学農学部
北村義信・猪迫耕二・山本定博
1.目的
アジア地域等の流域水政策シナリオ研究チーム(砂田 CREST)では,アジアの特徴を有する8河川流域を
対象に,各流域における地理的条件,水文条件および水循環や水利用の特性を明確にし,総合的・系統的な水
循環システムを分析した上で,最適な水管理のための政策シナリオを提示することを目的としている.本課題
では,その一環として水不足および上下流間の利水競合と下流域の深刻な水環境・生態系の劣化に直面してい
る国際流域小アラル・シルダリア川流域を対象として,水需給の実態,流域関係国の水政策,水環境の現状掌
握・将来動向の評価を行い,水・環境問題解決のための将来像と改善対策を明らかにし,同流域の水政策シナ
リオを提案することを目的に研究を進めている.
2.研究の手法と過程
ソ連崩壊後の上下流間の利水競合の経緯と問題点について分析を行うため,文献調査を行うとともに,ウズ
ベキスタン,カザフスタンを中心にシルダリア川流域の現地調査を実施し,水需給の実態,流域関係国の水政
策方針,水環境の現状等についてのデータ・資料を収集し,分析を行った.さらに下流域に存在する1つの灌
漑ブロックを対称に,圃場レベルでの土壌中の水・塩類動態を明らかにした.
[ソ連崩壊後の上下流問題と水利調整の状況]
ソ連の統合計画経済の下で構築された水利システムは,ソ連崩壊後,各共和国におけるその運用・管理方針
の大幅な変更に伴い上下流間に大きな水問題,環境問題を生じた.キルギス共和国は,自国の水資源を自国の
利益のために活用する方針を選択し,流域最大の規模を誇るToktogulダム(貯水量 195 億m3)を冬期の発電用
運転に切り替えた.同ダムの夏期貯留操作は下流域の灌漑水の不足を生じ,冬期の発電放流は下流域の洪水の
原因となった.シルダリア川の冬期凍結による通水能力の減少が被害を一層大きくした.カザフスタンは
Chardaraダム(貯水量 57 億m3)の運用により洪水調節を試みるものの,貯留し切れない流下洪水(毎年約 30
億m3)はウズベキスタンのArnasai低地を経て,Aidar湖(塩湖)への放水を余儀なくされている.Aidar湖は拡
大の一途をたどり,第二のアラル海と呼ばれるほどに巨大化している(Figure 1).この低地への流入水は,小
アラル流域へ戻ることはなく,塩水と混合するため水資源としての価値を喪失してしまう.
流域関係国は 1992 年以来,旧ソ連時代に形成された上下流国間での水資源とエネルギー資源のバーター合
意を基本的に踏襲する方向で,単年度協定を締結してきた.1998 年にはシルダリア流域における水とエネル
ギー使用に関する長期協定が締結されたが,上下流国間で水資源の利用目的・時期が異なり,かつ渇水年と豊
水年の間で水需給に対する供給可能水量が大きく変動するため利害が対立し,この協定の実施は極めて困難な
状況にある.各年度協議も合意に至っても,各国とも自国の利益を最優先し,相互の義務を軽視する傾向が強
いため,結局は失敗に終わっている.2003,2004 年の単年度協定も相次いで失敗に帰して後,ウズベキスタ
ンは従来のバーター制に見切りを付け,単独での問題解決に向けて政策転換したように見受けられる.すなわ
ち,ウズベキスタンは自国内に5つのダム(Table 1)を建設し,新たに約 2.5 km3の貯水能力を創設するとい
う水政策の選択である.このことの関係国に及ぼす影響は甚大である.カザフスタンは,Koksarai調整池(3.0
km3)の建設を検討している.この方向で進めば,キルギスは孤立し,独自にエネルギー問題を解決していか
キーワード
中央アジア,国際河川,利水競合,水利調整,塩類集積
連絡先
〒680-8553 鳥取市湖山町南 4-101 鳥取大学農学部
24
TEL:0857-31-5394
Table 1. Proposed construction of a series of regulating
reservoirs in downstream countries, which could
replace the equivalent additional discharge from
Toktogul dam
小アラル
シルダリア川
(Uzbekistan)
ダム名
有効貯水量
Karamansay
0.69 km3
Razaksay
0.70 km3
Kangkulsay
0.30 km3
Arnasai 1
0.80 km3
Arnasai 2
Total
2.50 km3
(Kazakhstan)
ダム名
有効貯水量
Koksarai
3.00 km3
カザフスタン
大アラル
キジルクム沙漠
トクトガルダム
キルギスタン
ウズベキスタン チャルダラダム
アイダール湖
アムダリア川
フェルガナ盆地
カイラクムダム
Figure 1. Map of the Syr Darya basin
Layer(0-0.6m)
Layer(0.6-1.15m)
Layer(1.15-1.8m)
Layer(1.8-3.0m)
60
50
40
30
20
建設中
状況
立案段階
30
25
10
Ponding
0
20
-10
-20
4/15
5/15
6/14
7/14
8/13
EC (dS m-1)
-2
Hydraulic gradient (x10 )
70
状況
設計中
建設中
建設中
9/12
Date (1998)
0.6m
1.15m
15
1.8m
3.0m
10
Figure 2. Change in hydraulic gradient at each soil layer
in a rice plot
Drain
5
0
4/15
5/15
6/14
7/14
8/13
9/12
Date (1998)
なければならず,非常に困難な挑戦を余儀なくされる.
[水稲作付圃場における塩類移動のメカニズム]
Figure 3. Change in EC of groundwater in a rice plot
シルダリア川下流域における塩類集積問題に対処するため,代表的な灌漑ブロック(716ha)の水稲作付圃
場を対象として現地実験を行った.上層土中水の灌漑期間中における塩類濃度の変動特性(Figure 3)や下層
土の集積塩類が上方に移動するメカニズムについて分析を行った.特に,下層土の集積塩類は,圃場給水停止
後の再給水時に下層土で生ずる上向きのフラックスにより,上方に移動することを明らかにした(Figure 2).
さらに,湛水条件下で形成されるスポット状の塩類集積の成因についても明らかにした.これらの結果をもと
に,灌漑農地における二次的塩類集積の原因を明らかにし,その防止対策を提案した.
3.結論(まとめ)
ソ連崩壊後の上下流間の利水競合とその調整の経緯と問題点について分析を行った.また,水稲灌漑地域の
末端圃場における水・塩類動態を解明し,灌漑農地における二次的塩類集積の原因を究明し,その防止対策を
提案した.流域関係国は独立後もソ連時代の水資源とエネルギー資源の国家間相互補填協定をベースに,水利
調整を試みてきた.特に,1998 年の水とエネルギー使用に関する長期協定の締結は評価できる.しかし,上
下流国間の利害の対立は根深く,各国それぞれ目指すところの経済活動を優先させてきた.2001 年には,キ
ルギスは自国に源を発する水資源はすべてキルギスに帰属し,下流域国はそれを使用する場合,その対価を支
払うべきであるとする法律を制定している.このことや,近年の単年度協定の相次ぐ失敗から,下流域国は調
整用ダムを建設することによって,独自に問題解決に当たろうとする水政策の方針変更の動きが顕著に見られ
る.この方向で進めば,キルギスは孤立し,独自にエネルギー問題を解決していかなければならず,非常に困
難な挑戦を余儀なくされる.下流域国の経済的負担も当然増大する.したがって,関係国には,水資源とエネ
ルギー資源の相互補填をベースにした地域協力関係を強化すべく,いっそうの対話が求められる.
25
2.3 ユーフラテス川にみる国際河川管理問題 -トルコとハーモン・ドクトリン-
総合地球環境学研究所
遠藤崇浩
「次の世紀の戦争は水をめぐるものになるであろう。」1995 年、世界銀行高官がこのよう
な見解を示し話題となった。この見解の妥当性はさておき、水は偏在性の高い資源であり、
その稀少性が高まっているところでは、水をめぐる利害対立が存在することは否定し得な
い。それは国内における利害対立というばかりでなく、国際河川が流れるところでは国家
間の利害対立という形を取ることも考えられる。本報告で取り上げるユーフラテス川をめ
ぐるトルコ、シリア、イラクの利害対立もその一例である。
一般的に言えば、国際河川をめぐる国家間の利害対立は、河川の主な利用方法が船の航
行から、例えば「ダム建設」「大規模な灌漑のための取水」といった非航行的なものに変化
したことで助長されている。というのも、上流国が後者の形で河川を利用する場合、下流
国の水量・水質は概して好ましくない影響を受け、従って沿岸各国の利害対立が顕在化し
やすいためである。とりわけ上流国がハーモン・ドクトリン―自国領域内を流れる河川に
対して排他的な管轄権を主張する考え―に基づいて河川開発を行う場合、そうした対立は
さらに強められる。だが、このハーモン・ドクトリンという考えについて、その実例の存
在を否定する論者もいる。本報告の目的は、ユーフラテス川を事例として、ハーモン・ド
クトリンの実践をめぐる論争に一つの見解を示すことにある。
ハーモン・ドクトリンとは国際河川の管理方法の一形態である。理論的に言えば、国際
河川の管理方法は、①絶対的領域主権の原理(The principle of absolute territorial
sovereignty )、②絶対的領域一体性の原理(The principle of absolute territorial integrity)
③水の共同体原理(The principle of community in water)④限定的領域主権の原理(The
principle of restricted territorial sovereignty)の四つに分類されるが、ハーモン・ドクト
リンは、このうち絶対的領域主権の原理に相当するものである。
それは、国際河川のうち一国の領域内を流れる部分に関しては、その国の排他的管轄権
が及ぶという考えである。この考えが特にハーモン・ドクトリンと呼ばれるようになった
のは次の事情による。19 世紀後半、リオ・グランデ川をめぐって上流のアメリカ合衆国と
下流のメキシコの間で利害対立が表面化した。リオ・グランデ川上流に位置するコロラド
州とニューメキシコ州で分水が行われ、メキシコに流れてくる水量が著しく減少したため、
メキシコがこれに抗議したのである。この争いの中で、当時のアメリカ側の司法長官ハー
モン(Judson Harmon)は、アメリカ側が自国の領域内を流れるリオ・グランデ川をどの
ように利用しようと、それはアメリカの主権の問題であることを主張し、その水の利用を
正当化した。これは国際河川のうち一国を流れる部分に関しては、その国の排他的管轄権
が及ぶという考え、すなわち絶対的領域主権の原理と合致する考えである。ハーモンの意
見はその典型的事例とされ、ここから絶対的領域主権の原理は別名ハーモン・ドクトリン
26
と呼ばれることになった。排他的管轄権を強調するこの考えは、裏を返せば、各国は自国
の河川を利用する際に下流に与える影響を考える必要がないということを含意していると
され、このためハーモン・ドクトリンは上流の論理と位置付けられている。
このような上流の利己的な河川利用を正当化するハーモン・ドクトリンについては、様々
な意見が交わされている。たとえばマッカフレイ(Stephen C.McCaffrey)はハーモン・ド
クトリンの考えは外交交渉などで唱えられたときこそあれ、それが実際に一国の行動に反
映された例があるかどうか疑わしいとの立場をとる。彼はハーモン・ドクトリンという表
現を生むことになったリオ・グランデ川のケースにおいてさえ実際の発動はなかったとし
ている。彼はさらにインダス川、ドラヴァ川等々の紛争事例においてもこの考えが成り立
つとしているが、ユーフラテス川の事例については何も検討を加えていない。またユーフ
ラテス川の事例、特に最上流国であるトルコの河川政策を扱ったものを挙げれば、タケリ
(Sahim Takeli)、クリオット(Nurit Kliot)の研究があるが、これによればトルコの河川
政策は下流国であるシリアやイラクへの影響を考慮したものであり、下流国に対して協調
的なものであるとされる。これらに対しコーエン(Jonathan E.Cohen)、チャラビ、マズ
ジョウブ(Hasan Chalabi and Tareke Mazjoub)といった論者は、トルコはハーモン・ド
クトリンの立場を保持していると述べているものの、残念ながら彼らはその理由を系統立
てて説明していない。ユーフラテス川のケースにおいては、果たしてどちらの言い分が妥
当性をもつのか。
この問いを以下の手順で考えていく。まずユーフラテス川をめぐるトルコ、シリア、イ
ラクの利害対立の概況を説明する。次にトルコの過去のユーフラテス川河川政策から、対
立する二つの側面―すなわちハーモン・ドクトリン的な色彩の強い河川利用、逆に下流国
への影響に配慮した河川利用―をそれぞれ例示する。そして最後に今後の国際河川の利用
枠組みに大きな影響を与えるとされる国際規約(「国際水路の非航行的利用の法に関する条
約」)制定過程におけるトルコの言動を拠り所に、トルコの河川政策がハーモン・ドクトリ
ンを基底としていることを明らかにする。
27
2.4 協調に向けての知識と認識の共有〜専門家会合によるアプローチ〜
Common Knowledge and Perception Development towards Collaboration through Expert Meetings
東京大学大学院
中山幹康
1.「専門家会合」の目的
ユーフラテス川流域の水資源管理への寄与として,砂田 CREST の枠組みの中で過去に数回の「専門家会合」
を実施している.具体的には,流域国から各 1 名の専門家(大学の研究者)が参加する「専門家会合」を,年
に 2 回の割合で日本において開催している.参加する専門家の顔触れは固定されており,同じメンバーが定期
的に顔を合わせることで,相互の理解と信頼が深まることを期待している.
「専門家会合」に期待される主要な成果は,具体的な研究計画である.研究には,流域横断的な研究と各流
域国内での研究が含まれる.研究計画を確定し,それを流域国内外の研究者による参加を得て実施することで,
流域の現状について共通の認識を形成すること,および.学術的な知見を得ることを目的としている.
2.ファースト・トラックとセカンド・トラックの役割分担
国際流域における水資源管理は,流域国間での交渉に依存するところが多い.国家間の交渉には,正式の外
交ルートによる通称「ファースト・トラック」と,実務者・研究者レベルでの「セカンド・トラック」がある.
「専門家会合」は後者の「セカンド・トラック」であり,
「ファースト・トラック」とは相互補完的な関係に
ある.「ファースト・トラック」と「セカンド・トラック」の違いは,国際流域管理の文脈では以下の通りで
ある.
(1)国家間での正式な合意は「ファースト・トラック」で行われる.
「セカンド・トラック」は.合意
に向けての信頼や共通認識の育成に寄与すると共に,合意の内容について示唆を行う.
(2)「ファースト・トラック」は組織としての公式な場での対応であるのに対して,「セカンド・トラ
ック」の多くは非公式な場での対応であり,組織ではなく個人の資格による参加もあり得る.
(3)「ファースト・トラック」による交渉は,何らかのゴールが事前に設定されている場合が多いが,
「セカンド・トラック」では「集まって話し合うこと自体が目的」にように,明確なゴールが設
定されていない場合も多々ある.
「専門家会合」は,個人の資格での参加であり,かつ専門家間での信頼と共通認識の育成を目的としている.
また,その当初においては,目的が明確に設定されていなかった(成果として何が得られるかは,専門家同士
の話し合いの進捗による部分が大きいと考えられていた)という観点からは,典型的な「セカンド・トラック」
である.しかし,ユーフラテス川流域の流域国に限らず,一般的に開発途上国で国際河川を扱っている研究者
は,政府機関へのアドヴァイザー的な役割を有しているなど,自国政府との関係が深い場合が多いことから,
「ファースト・トラック」への影響力が皆無ではないと考えられる.
3.「専門家会合」の効用
流域国間には共通の言語が存在しない為,「専門家会合」は英語で行われる.専門家同士の会話を傍らで聴
いての感想,および,専門家自身による感想から,「専門家会合」には以下のような効用があることが実感さ
れる.
(1)他の流域国の研究者と「接触」する機会は,流域国で開催される国際会議への参加などの形で過
去にも存在したが,第三国(日本)で定期的に同じ顔触れでの会合を重ねることにより「交流」
を深める機会は,これまでには存在しなかった.
(2)流域内での地名の英語(アルファベット)表記が,流域国によって異なるなど,簡単な技術的事
28
項のレベルで,相互の理解を妨げていた要素が多々あることを改めて実感した.
「セカンド・トラ
ック」により,この様な一件些細ではあるが重大な認識の相違を埋めていく作業は,
「ファースト・
トラック」への交渉を推進する為の下地として不可欠である.
(3)先進国の研究者が研究計画を「押しつける」のではなく,流域国の研究者による研究計画の策定
を先進国の研究者が側面支援するという形態で共同研究が策定されることは,専門家間での信頼
と共通認識を育成する上では有用である.
「専門家会合」への流域国からの参加者は,流域国では数少ない国際流域に関する専門家であることから,
ユーフラテス川流域に関する国際会議などに招待される機会も多い.そのような折りに,彼等によって「専門
家会合」の存在と内容が他の研究グループあるいは国際機関に伝達されることも,「専門家会合」の多き効用
である.既に,ケント州立大学(米国)が推進している「ユーフラテス・チグリス川流域における国際協力」
プログラムとの協調など,幾つかの同様な計画との連携が行われつつある.
3.策定された共同計画案
現時点で確定している共同研究計画案は以下である.
(1)「イラク国内に於ける農業用水使用の最適化」
(2)「ユーフラテス・チグリス川流域におけるイベント・データベースの構築」
前者はイラクからの「専門家会合」参加者と流域国外からの参加者による提案であり,水資源(農業用水)
の不足が顕在化しているイラク国内,特にその南部に於ける農業用水の最適化を目的としている.具体的には,
イラク国内での水量・水質モデルを構築し,衛星リモートセンシングにより灌漑農業の実情(品種毎の作付け
面積および)を把握することで,実現可能な幾つかの「政策オプション」を呈示することを意図している.ま
た,イラク国内の貯水池を最適運用することによる,乾期の水量増強についても検討する.
後者はトルコからの専門家と流域国外からの参加者による提案である.外国分析の分野では,各種のマスメ
ディアで報じられる情報に基づいて「イベント(国家間での接触/交渉)
・データベース」を構築し.それに基
づいて国家間の関係を分析することが行われている.国際流域の分野では,世界的な傾向を把握する為のイベ
ント・データベースがオレゴン州立大学(米国)で構築されているのみで,個別の流域に関するイベント・デ
ータベースは存在しない.ここでは,ユーフラテス・チグリス川流域に特化したイベント・データベースを構
築することで,過去に於ける流域国間での接触/交渉に関する「共通の知識」を育成すると共に,流域国間の
関係とその変遷についても認識の共有を促すことを目的としている.
3.今後の展開
上記のように,砂田 CREST の枠組みの中で推進されている「専門家会合」は,ユーフラテス・チグリス川
流域において(特にイラクに対して)先進国により立案・実施されている多くのプロジェクトの中でも,ユニ
ークな地位を確保すると共に,流域国より参加している専門家間の交流を通じて,信頼の醸成と共通認識の育
成という観点で成果を上げている.
「専門家会合」による確定された共同研究計画は,実施段階にあり,半年から 1 年以内には有意な成果を得
ることが期待されている.共同研究の成果は,幾つかの「政策提言」選択肢として呈示することが計画されて
いる.ウェブサイトを通じて「政策提言」の選択肢を,その策定プロセスと共に公開することで,広く国際社
会に対して,ユーフラテス川流域の水資源管理への関心を啓蒙する効用も期待されている.
キーワード
連絡先
国際河川,セカンド・トラック,ファースト・トラック,ユーフラテス川
〒277-8563
柏市柏の葉5−1−5 環境棟 768 号室 東京大学大学院
29
新領域創成科学研究科
TEL:04-7136-4869
2.5 ヨルダン川流域水政策シナリオ
Policy Scenario Development of Jordan River Basin
村上雅博(高知工科大学)
・辻
和毅(不二グラウト工業)
・那須清吾(高知工科大学)
1. 背景と目的
イスラエルとヨルダンを中心とするヨルダン川上流部の集中的な水資源開発によって死海の水位は
20 世紀初期の-391m から 2000 年の-410m まで低下の一途をたどり、UNESCO の絶滅環境危惧湖沼
の一つとして登録されている。今後のイスラエル/パレスチナ/ヨルダンとの三極中東和平交渉のフレー
ムのなかでヨルダン川と死海(運河)の水資源配分は共通の経済的な利益にインセンティブを与えて長
年に亘る紛争問題が解決される可能性を有している。国際流域であるヨルダン川の水政策シナリオの
鍵をヨルダンが握っていることから、具体的な総合的流域水資源管理政策シナリオを示して、日本と
ヨルダン・イスラエル・パレスチナの 4 者協議における国際協力の信用醸成の方向性を探ることが目
的である。
2.ヨルダン川流域の政策シナリオ
ヨルダンの水資源の総合的かつ持続的な管理に対する具体的な政策シナリオを、短期・中期的戦略
(1~5)と長期的戦略の視点(6)から整理して以下に示す。
(1) 循環性地下水の適正利用(削減)計画
現在、ジョルダン国で利用されている循環性地下水の揚水量(424MCM、1998 年)は持続可能な開発量
(274MCM)を遙かに超えているため、深刻な水位低下による枯渇化と広域的な水質の悪化(塩分・硝酸性
窒素濃度の上昇)を招いている。貴重な水資源である循環性地下水の保全は水資源管理上の最優先の課
題であることから、以下の施策を早急に実行することを提言する。
持続的な地下水の適正利用のために、高原地域での農業用水としての地下水揚水を 30%程度削減すべ
きである.
高原地域では依然として循環性地下水の開発が進められているが、新規の開発は渇水年等
に生じる水不足に対応するための緊急避難的手段として捉えるべきである。この計画では地
下水揚水の削減に伴い農業用水・都市用水ともに供給不足となる可能性がある。したがって代
替水源を確保するため、次に述べる施策を同時に実行することで総合的かつ持続的な水資源
管理計画としての性格を持つことになる。
(2) 下水処理水の再利用による農業・工業用水の確保
首都圏で発生する下水処理水は人口増に比例して増大し、その規模は 100MCM/年に達するため、処理
水の農業用水への循環再利用は適正な下水処理を行えばフィージブルである。プレ-F/S を実施した高
原地帯における5カ所の既設下水処理場における農業用水への再利用計画は経済的・技術的に実施が
容易である。したがって、
循環利用を前提とした下水処理システムを導入し、処理水を農業・工業用水として再利用すべきであ
る。
ただし、下水処理水の農業用水への再利用に当たっては、処理水中に含まれる糞便性大腸菌等に起
因する人体への健康上の問題や、作物の生育に影響を与える微量元素の問題などが発生するおそれが
ある。したがって、複数機関による下水処理水の水質の管理・監視、下水処理水利用の適正運用、利用
促進の情報公開・啓蒙活動を同時に実施する必要がある。
(3) 循環性地下水適正利用(削減)計画に伴う農業開発計画のリストラクチャリング
a. 地下水揚水量削減に伴う農業用水需要の再調整
農業セクター(農業省(MOA)及びジョルダン渓谷公団(JVA))では、セクター間における需要調整の枠
外で農業開発計画が策定されているが、この計画による農業用水の目標需要は現況の 600MCM に対して
900MCM を越えており、現実に直面している国家レベルの構造的な水供給不足の状況下では実現不可能
であるため、以下の施策調整を提言する。
本調査のマスタープランでの水配分計画に基づき、MWIとMOA/JVAとの間で農業開発発計画に関わる水
需要を総合的に調整すべきである。
しかし、揚水の削減については監督省庁のみではなく農業者の参加による対応が不可欠である。削
減の対策として灌漑用井戸の買い上げがもっとも受け入れられやすい手段だと考えられるが、現在、
削減対策の予算措置や実施のために組織や制度については具体的な計画が立てられていないことから、
農業開発計画との調整を図りながら早期に対策計画の立案を行うべきである。
b. 代替水源による持続的農業開発計画の策定
首都圏で発生した大量の下水を処理した再生水を高原地帯にポンプアップして農業用水に転用する
オプションは経済的な適正を欠くが、高原地帯の下水処理場から発生する処理水は灌漑用地下水揚水
削減の代替水源の一部になる。しかし、現在の灌漑用水需要を満たすものではなく、結果として高原
地域での灌漑農業は縮小せざるを得ないことになる。一方で、首都圏からの下水処理水を下流のジョ
ルダン渓谷に流下させて農業用水として再利用することで農地拡大の余地が残されている。このオプ
30
ションは経済的・技術的な適正があり持続的な営農を可能にするものである。したがって、
地下水適正利用(削減)計画に基づく水資源の適正な配分を考慮すると農業用地を高原地域からジョ
ルダン渓谷への移転すべきである。
水灌漑省では本調査の水配分計画に沿って”Digital Master Plan”ツールを用い、行政区
単位での農業用水利用計画を策定している。これにより農業地域、水源、及び作物を適切に
選定することで、この移転の実施が可能であることが示されている。ただし、農業地の転換
には、高原地域の農民の生活保障、ジョルダン渓谷の農民の受け入れ意志など、重大な社会
的問題をはらむものであるため、農業開発計画の見直しには、社会環境に及ぼす影響を軽減
するための対策が含まれるべきである。
(4) ディシ化石水の都市用水への転換と導水プロジェクト
非循環性の淡水地下水であるディシ化石水は総揚水量(約 65MCM、1998 年)のうち、約 46MCM が南部高
原地帯で農業用水として利用されている。ジョルダン国における国家レベルの水配分政策では都市用
水に水資源を優先的に配分し、農業用水については現状の水準を維持させる(約 620MCM/年)という
基本方針をとっている。この方針に従い、最も問題が緊迫している首都圏での水需要を暫定的(50 年
程度)に満たすために、
ディシ化石水を農業から首都圏への都市用水に全面的に転換する施策をとり、首都圏への導水プロジ
ェクトを早期に実施すべきである。
ただし、非循環性の化石地下水開発であるために慎重な地下水変動のモニタリングが不可欠であり、
次世代への資源の共有というサステイナブルな配慮も必要であろう。 一方、首都圏で発生する大量
の下水処理水はディシ化石水からの導水(100MCM/年)相当分だけでも 70~80MCM/年に及ぶ。これを
農業用水に再利用することで農業セクターの保全を図りながらより総合的・効率的な国レベルの水資
源管理が可能になる。
(5) 表流水の水質保全のための水質モニタリング
1998 年の大渇水期、イスラエルとの和平交渉(1994 年)によりチベリアス湖から配分された 500MCM/
年の導水に大量のアオコが混在していたため浄水場で処理しきれずにアンマン首都圏において水道水
の水質汚染問題(異臭騒ぎ)が発生し、大きな社会不安問題に発生し大臣が更迭される事態に到った。
表流水の水質悪化問題を事前に察知し、適切な予防措置がとられるためには、
チベリアス湖、ヤルムーク川及びKACの常時・連続水質管理モニタリングシステムを可能な限り早急に
確立するべきである。
ただし、このシステムを有効に機能させるためには、水質化学のみならず水界生態系(プランクトン
-クロロフィル等)のモニタリング項目を追加すること、ならびにイスラエルと技術連携したデータベ
ースの統一化などを含めた総合的な水質環境管理体制を水灌漑省(MWI)の下で一元的に整備する必要
がある。
(6) 海水淡水化 - 紅海-死海運河計画紅海-死海運河計画の概要は、1) 死海の実蒸発量 16-19 億m3/年に相当する紅海の深層水を夜間の余
剰電力を使ってブースタ-ポンプで 200m引き上げ、2) 自然の地形の落差 400mと合わせて海水の逆浸
透プロセスに必要な水圧 60kg/cm2をつくり、3) トンネルを通じて 600mの自然落差を利用して、4) 年
間 12 億kWh(ピ-ク電力:500MW)の水力発電と 1-8 億m3の飲料用の海水淡水化を同時に行う。運河を通
じて死海の水収支をバランスさせることから元の自然の水位に回復させて安定させる環境保全的な意
味を含んだ中東和平プロセスにリンクした政策的なオプションの一つである。よって、関係流域国の
長期的協調シナリオ戦略の根幹として
紅海-死海運河プロジェクト・コスト 35 億ドルは、21 世紀の包括的中東和平への投資(Investing to
Peace)の一部と位置づけ、国際技術協力と協調資金協力の枠組みを軸に早急にヨルダン川流域の総合
的水資源管理計画の企業化適性調査(Feasibility Study)を実施すべきである。
死海(発電)運河の建設に伴うアカバ湾の海洋深層水を原水とすれば 1/3 のコストに相当する前処理費
用を削減し、400mの地形落差による位置エネルギーを直接に逆浸透圧に置き換えることにより、逆浸
透淡水化におけるコストの 1/3 を占める加圧のためのエネルギー費用が削減されるため造水単価は
0.5 米ドル/m3と算定され、21 世紀の石油エネルギーの長期的緊張状況を視野に入れると技術的・経済
的にもフィージブルなオプションとして浮上してきている。
3.国際流域の総合的水資源管理政策と信用情勢装置としての役割
前世紀後半から始まった人口の急激な増加と人間活動の拡大は、グローバルからリージョナル、ロ
ーカルにわたる様様な水問題を提起し、
「21 世紀は、水の世紀」という表現に象徴されるように、今世
紀に入って問題はさらに深刻さを増すと懸念されている。世界的な広がりをもつ水問題は、国家間の
紛争を引き起こす要因となる可能性を秘めており、上水の供給や食糧生産などのための安定した水資
源の確保は我が国を含め、世界の安定と福祉の向上に資する重要な課題である、という認識のもとに、
平成 13 年度に戦略目標「水の循環予測および利用システムの構築」が設定された。ヨルダン川流域の
総合的水資源管理政策のシナリオが今後の4者協議(日本、ヨルダン、イスラエル、パレスチナ)に
おける信用醸成の機会をつくるきっかけになれば幸いである。
31
3.1 ガンジス川流域(インド国ニューデリー)における現地調査に関する報告
Research of the Sanitary Wastewater in the GANGES River basin of INDIA New Delhi
国土交通省国土技術政策総合研究所 研究官 平出亮輔
研究員 桜井健介
室 長 南山瑞彦
1.目的
アジアを中心とした地域では、急激な人口増加や都市化による水問題や、人間活動による水循環の変動などの
問題が進行している。このため、アジアの特徴を有する流域を対象として、様々な水問題解決のための政策シナ
リオを提示することを目的として、山梨大学砂田教授を研究代表者としたチーム型研究(科学技術振興機構:
CREST タイプ)を実施している。当研究室では、ガンジス川流域を対象とし、水質問題に重点をおいた水政策シ
ナリオを提示するための調査を行っている。
調査に際して、ガンジス川流域は広大であるため、流域全域の詳細な調査が難しい。そのため、代表的な都市
であるインド国ニューデリーをモデル地域として詳細な調査を行い、
その結果と他の地域の基礎的な情報を元に、
流域全体を対象とした水政策シナリオを提示することを目標としている。ニューデリーの調査では、現地住民の
生活様式や河川の汚濁状況、汚濁源、排出原単位などの基礎データを収集するため、まずインド政府に確認をと
ったところ、各地域の河川の水質データはあるものの、個々の汚濁源やその排出原単位などを把握していないこ
とが判明した。そのため、現在当研究室において基礎データ収集のための現地調査、水質分析を現地において行
っており、下にその調査結果を報告する。
2.河川の水質汚濁状況
T-P
T-N
SS
CODcr
BOD
mg/L
河川の現状把握のため、ニューデリー
近郊のヤムナ川(ガンジス川支流)の河
300
川水質調査を実施した。調査場所は、ニ
250
ューデリー上流のパラ付近と下流のマジ
上流(乾季)
ョーリ(下流 40km 付近)
、ブリンダヴァ
200
上流(雨季)
下流1(乾季)
ン(下流 106km 付近)である。調査は、
150
下流2(雨季)
下流1(雨季)
下流2(乾季)
下流2(乾季)
雨季 9 月、乾季 2 月の 2 回実施した。
100
下流1(雨季)
下流2(雨季)
乾季の調査では、パラ付近のヤムナ川
50
下流1(乾季)
上流(雨季)
は都市の汚濁物が河川に流入する前であ
0
上流(乾季)
るため、水が透きとおり、良好な状態で
あった。しかし、都市部通過後は、水が
黒くにごり、ゴミが流下しており、都市
Figure 1 Water quality of Yamuna River
部汚濁の影響を強く受けていた。特に都
市部に近い下流のマジョーリ付近では、河川から硫化水素臭が発生していた。さらに下流のブリンダヴァンにお
いては、水は黒いものの、臭気はマジョーリに比べかなり弱く感じられた。雨季には、パラ付近では水が白濁し
ているものの、臭気がなく、ゴミもまったくない状態であった。白濁の原因は、雨水による増水等により河川水
に土が混ざっているものと考えられる。乾季同様、牛、人間が河川で水浴びを行っていた。下流に関しても臭気
がなく、水が白濁していた。乾季に岸に溜まっていたゴミもほぼなくなっており、見た目は良好な状態であった。
Figure 1 に水質分析結果を示す。上流がパラ、下流 1 がマジョーリ、下流 2 がブリンダヴァンである。
乾季に関して、すべての水質項目で下流に比べ上流の値の方が低い傾向にあった。マジョーリとブリンダヴァ
ンでは、マジョーリ(下流 1)の値の方がすべてにおいて高かった。マジョーリは都市部に近いため、その影響
を大きく受けているものと考えられる。さらに下流のブリンダヴァンでは、マジョーリに比べすべての項目で値
キーワード ガンジス川、衛生、インド、下水、沐浴
連絡先
〒305-0804 茨城県つくば市旭 1 番地 国土交通省国土技術政策総合研究所下水道研究部 TEL:029-864-3933
32
の低下が見られ、河川における沈殿・自然浄化の効果がうかがえた。
雨季には、若干、BOD、T-N の値が下流で高いものの、上流、下流でほとんど変化がない傾向であった。これは、
雨季には降雨による水量の増加および多数の洪水があるため、河川における滞留時間が短くなるとともに、河川
の汚濁が押し流されたものと考えられる。調査を行った河川においては、乾季において汚濁負荷が蓄積され、雨
季に押し流される工程を 1 年周期でくりかえしていることが伺えた。
3.汚濁負荷量原単位調査の結果
生活排水系排水の調査結果を Table 1 に示す。都市部に関しては、スラムの値が全体的に低い傾向にある以外、
高、中、低所得者間での傾向の違いが見られなかった。都市部の高、中、低所得者層の調査箇所では、調査時期、
日変動、地域差等の理由によりデータがばらついたものと考えられることに加え、低所得者であっても小さな部
屋が借りられる程度の収入があるため、食事や生活様式には大きな違いがなかったものと考えられる。一方、ス
ラムは、すべての項目において値が低く、高、中、低所得者の傾向とはまったく違う傾向にあった。家を借りる
ことができない収入であるため、食生活や生活様式が大きく異なったものと考えられる。
農村部に関しては、ほとんどの負荷量原単位が小さく、使用水量も少ない傾向にあった。値としては、都市部
のスラムとほぼ同じ値である。農村部の家庭では、腐敗槽が設置されていた。使用水量が少ないことから HRT が
長く、処理が十分に進んでいたものと考えられる。家庭での使用水量に関しては、日中、畑で働いているため、
屋内で生活していないことが、使用
水量が少ない原因であると考えられ
Table 1
る。また、場所によっては水道の利
高所得者
中所得者
都市部
牛舎排水の調査結果をTable 2 に
低所得者
示す。
平成 15 年のガジプールの値が
スラム
全体的に低いものの、それぞれ同じ
ような傾向にあることがわかる。イ
農村
ンドは、ミルクティーなどの乳製品
を多く使うため、牛乳の生産量が非
1)
排水量
BOD
CODcr
SS
T-N
T-P
L/人/日
g/人/日
g/人/日
g/人/日
g/人/日
g/人/日
ゴルフ・リンクス1
H16
500
82.6
219.0
130.3
8.4
17.7
ゴルフ・リンクス2
H17
436
75.5
302.5
42.5
37.9
4.8
ジョル・バーグ
H16
140
24.4
50.8
130.6
8.9
2.2
パチクイアン・ロード
H15
216
24.3
41.8
9.6
10.9
1.3
パハル・ガンジ
H15
73
36.7
46.6
4.4
5.9
1.0
サリマール・バーグ1
H16
154
39.2
102.3
54.7
13.1
5.5
地名
用時間が制限されている場合もある
ない原因であると考えられる。
調査
年度
区分
ため、これも、使用水量、負荷が少
サリマール・バーグ2
H17
222
197.4
378.8
27.9
22.9
2.8
モーラー・バン
H17
14
4.2
10.7
2.9
1.1
0.1
パラ
H15
47
4.9
8.2
2.6
3.0
0.7
ラトプール・チャテラ
H16
17
3.3
6.0
3.3
2.3
0.9
ムジェーリ
H16
37
9.6
23.5
8.0
2.8
0.9
Table 2
搬が主流なため、牛舎が都市部の近
Pollutant load per unit activity of the cow
調査
年度
排水量
BOD
CODcr
SS
T-N
T-P
L/人/日
g/人/日
g/人/日
g/人/日
g/人/日
g/人/日
ガジプール
H15
123
183.0
878.0
59.0
60.1
5.0
バールサワ1
H16
71
875.0
1849.0
1536.0
83.8
9.1
地名
常に多い 。しかし、冷蔵機器の整
備が進んでおらず、自転車による運
Pollutant load per unit activity of the human
バールサワ2
H17
59
1062.0
1749.0
585.0
147.0
3.5
辺にあることが多い。今後、都市部
マダヌプル1
H16
97
879.0
1529.0
1099.0
118.8
12.5
の人口増加に伴い、負荷がさらに増
マダヌプル2
H17
117
742.0
1418.0
1272.0
231.0
2.0
加する可能性が高い排水の 1 つと考
マダヌプル3
H17
142
983.0
1910.0
466.0
263.0
4.0
える必要がある。
4.結論(まとめ)
河川の汚濁の現状を把握し、各排出源の汚濁負荷原単位を算出した。その結果、都市部排水が河川へ与える影
響が大きいこと、都市部では所得による負荷量原単位の大きな違いはないが、スラム、農村部では生活様式の違
いにより都市部の原単位とは大きく違う傾向にあった。今後の調査に関して、これまで原単位調査や現地の現状
把握の調査を中心に行ってきたことで、ある程度の数の現地データを入手してきた。このため、今後はシナリオ
作成に向けたインドおよびガンジス川流域国の背景、環境条件、人口分布、土地利用等の文献調査や、実際に処
理場を建設するための費用等の費用や処理方法選定のための調査に重点をおいた調査を行う予定である。
参考文献
1) 世界の統計 1999 年版、編集 総務庁統計局、発行 大蔵省印刷局、p.111
33
3.2 サイゴン川上流域における養殖漁業と水質汚濁への影響
Impact of Fish Cages on Water Pollution in the Upper Saigon River
東京大学大学院工学系研究科
東京大学大学院工学系研究科
滝沢
智
Micha Sigrist
Ho Chi Minh City Univ. of Technology
NTV Ha
1.目的
本研究はベトナムにおいて最も人口及び経済成長率の高いサイゴン・ドンナイ川流域を対象に、人口変動や経
済活動が水資源と水利用に及ぼす影響を評価することを目的とし、水の量のみならず質的側面に着目して、水
資源と地域経済との関連性を明らかにすることを目的としている。研究対象流域では、先進国とは異なる経済
活動が行われており、特に人口の 7 割を占める農村人口の経済振興と水資源の利用とが密接に結びつき、下流
の都市用水・工業用水としての水利用と深刻な対立を引き起こしている。本研究ではその一例として、サイゴ
ン川上流の養殖漁業の問題を取り上げた。
2.研究の手法と過程
サイゴン川上流域にあるゾウティン貯水池は 1985
年に竣工した貯水容量 17 億m3の灌漑用貯水池である。計
画では 84,000haの水田を灌漑する予定であったが、用水
路の問題などから現状ではその半分の 42,000haしか灌
漑できていない。乾季には、サイゴン川の塩水遡上を防
ぐためにサイゴン川下流で最低 5m3/sの水を維持するよ
う放流することになっているが、サイゴン川中流での水
使用量の増加とともに、最低流量の維持が困難となって
いる。このため、2005 年には 7 ヶ月間にわたりホーチミ
ン市水道用水の取水が塩水化により中断した。ゾウティ
ン 貯 水 池 で は 、 多 数 の 養 殖 生 簀 が Oreochromis
mossambicaを養殖し、また、建設資材として固定か
ら砂の採取が行われている。
Figure 1 はゾウティン貯水池の集水域(サイゴン川上
流域)と、ゾウティン貯水池における水質サンプリング
地点(赤色)を示している。ゾウティン貯水池における
養殖漁業は 2000 年以降急激に拡大し、2004 年には養殖
生簀の数が 1000 を越えるまでになった。このため、養殖
Fig.1. Map of Dau Tieng reservoir catchment and
による水質の悪化を懸念したベトナム政府とダム管理公社
sampling locations.
は、2005 年 6 月にダム内での養殖生簀を前面的に禁止した。
本研究では、2005 年 3 月から 1 年間に渡り、月に 1 回の定期モニタリングにより貯水池の水質を調べるとと
もに、養殖生簀の創業者にインタビューを行うことにより、彼らの経済的な背景、収益率、養殖生簀が禁止さ
れた場合の対応などについて調査した。また、養殖生簀の水質への影響については、上流域からの栄養塩類の
流入量を推計し、それと比較することによって評価した。
キーワード ホーチミン,ゾウティン貯水池,養殖漁業,リン,BOD
連絡先
〒113-8656 文京区本郷 7-3-1 東京大学大学院工学系研究科
34
TEL:03-5841-6241
3.結論(まとめ)
1400
互いに結ばれて1つの筏(float)となっている。
1200
これらの筏には2~3人の養殖業者(多くは家族
1000
経営)が乗り込み、そこで生活をしている。Fig.
Fish price (USD/kg)
Number
養殖生簀(cage)は縦横約 4m で、複数の生簀が
2.0
Number of floats
1.5
Price (USD/kg)
800
2 は、2001 年からの養殖生簀と筏の数、養殖魚の
価格変化と養殖漁業への影響因子を矢印で示す。
1.0
600
図中(1)は 2003 年にドンナイ川流域のチアン貯
400
水池での養殖生簀が禁止されたため、生簀の一部
200
がゾウティン貯水池に移ってきたことを示す。同
0
0.5
0.0
2001
様に(2)2004 年には、生簀の収穫毎に米ドル換算
May-03
Aug-04 Sep-04
Nov-04
Apr-05
Sep-05
Mar-06
Time
13 ドルの課金が行われ、(3)2004 年 11 月には魚
の生餌の使用が禁止され、(4)2005 年 4 月には生簀
Number of cages
1
3
2
4
5
Fig. 2. Trends of fish cage culture in DT reservoir.
の検査が強化され、(5)2005 年 6 月には生簀の操業
が全面的に禁止された。この間、魚価は鳥インフルエン
Income (1,000VND
per m3.harvest)
2500
ザの影響により 2003 年から 04 年にかけて急激に上昇し
た。このため、生簀の数は 2004 年に急増しており、養
2000
殖への参入には経済的な動機が強く働いていた。2005
年に入ると魚価は急落し、それに合わせて筏の数も減少
1500
している。2005 年 6 月の全面禁止は、養殖業者に追い
討ちをかけるものであり、その後は養殖生簀の数は急激
1000
に減少した。
Fig.3 は聞き取り調査による魚の養殖密度と所得を
500
in baby phase
in growing phase
in harvest phase
表したものである。一般に、養殖期間は約 4 ヶ月で年に
3 回の収穫があるため、縦軸は年収に相当する額となっ
0
0
50
100
ている。この年収相当額は魚の養殖密度に比例しており、
より多くの魚を効率よく培養することが収集の増加と関
150
200
250
300
350
Fish density (individual/m3)
Fig. 3. Fish density vs. annual income.
連している。しかし、中には養殖に失敗して全く収入が得られ
ない例や、稚魚から成魚への成長割合が低い場合もあり、聞き
取りにより利益があったと答えたのは約半数にとどまった。養
殖漁業は参入が容易と考えられているが、ゾウティン貯水池の
場合、零細な家族経営で、生簀の製作に借金をしている家族が
BOD5
mg/l
3
2
1
多く、養殖生簀の禁止により経済的な損失を受ける家族が多い。
0
また、養殖業者により養殖技術の巧拙の違いが大きく、所得に
1
2
3
4
5
6
7
8
9
sites
大きな開きがあることも明らかとなった。
貯水池での水質調査を行い、養殖生簀が集中している地域
Fig. 4. BOD variation at sampling sites.
(Site6 と 7)とそれ以外の地域での BOD の違いを Fig.4 に示す。季節による変動はあるものの、Site6 と 7
は他の地域に比べて有意に高い BOD を示しており、特に乾季に貯水池の水量が減少すると高い BOD を示した。
参考文献
1) Nguyen, T. V. Ha, Takizawa, S., Impacts of Policy Changes on Fish Cage Culture and Water Quality in Dau Tieng Reservoir, Vietnam,
WSEAS Transactions on Environment and Development, Issue 6, Vol. 2, pp. 800-807, 2006.
35
3.3 サイゴン川流域における地下水汚染と地下水の過剰揚水の現状
Groundwater Contamination and Overdraft in the Saigon River Basin
東京大学大学院工学系研究科
東京大学大学院工学系研究科
滝沢
智
Micha Sigrist
Ho Chi Minh City Univ. of Technology NTV Ha
Ho Chi Minh City EPA (HEPA), Le Van Khoa
1.目的
サイゴン川流域では表流水の不足を補うため、また、清澄な水質を求めて地下水が大量に使われている。サ
イゴン川及びドンナイ川からの表流水の供給量には限りがあり、水道施設などの都市基盤施設が貧弱であるこ
とも地下水の利用が拡大している一因である。しかし、サイゴン川流域の地下水には、硫酸酸性土壌の存在に
よるpH の低下、過剰揚水による地下水水位の低下、塩水の浸入、廃棄物の処分場などからの地下水汚染など、
多くの問題がある。本研究は、サイゴン川流域における地下水利用の現状を把握するとともに、地下水利用に
おける課題を定量的に把握し、将来の地下水管理の政策を提言することを目的としている。
2.研究の手法と過程
本研究では、ホーチミン市環境局及び水資源
局などから得られた地質・地下水に関する情報
を収集し、地下水の流動に関するシミュレーシ
ョンモデルを構築するとともに、地下水サンプ
ルを採取し、地下水水質や汚染の状況について
評価する。最終的には、これらの情報をもとに
地下水帯水槽の汚染に対する脆弱性を判定し、
脆弱性地図を作成する。これと廃棄物の処分施
設、産業立地などの地理情報を重ね合わせるこ
とにより、将来の地下水汚染や水質変化のリス
クを推定するとともに、地下水の利用及び地下
水水源保護を目的とした土地利用計画につい
て提言を行う。
Figure 1. Map of the study area.
サイゴン川の流域の調査体調流域を図-1に示す。サイ
ゴン川はドンナイ川の支流であり、上流にはゾウティン貯
水池がある。調査対象地域の北東辺は山岳地帯になってお
り、自然の地形により地下水の流域境界が定められている。
しかし、南西部は東及び西ヴァムコ川を含む低平地であり、
メコンデルタまでつながっている。図-2は当該流域の地
下水流動モデルである。ここでは、基盤の深さを MSL-600m
とし、帯水層を5層に分けている。流域全体は極めて平ら
であり、特にサンゴン川の右岸からヴァムコ川にかけては、
Figure 2. 3D hydrogeological model.
低地のため海水の浸入を受けやすくなっている。
キーワード 硫酸酸性土壌、塩水浸入、ホーチミン市、pH、アンモニア性窒素
連絡先
〒113-8656 文京区本郷 7-3-1 東京大学大学院工学系研究科 TEL:03-5841-6241
36
サイゴン・ドンナイ川流域で地下水が多量に使
0
1000
-200
900
の低平地である。ホーチミン市の水道での利用は
800
日量 5 万 m3 程度であるが、ホーチミン市近郊で
700
被圧帯水層から少なくとも日量 50 万 m3 が揚水さ
れている。また、水道が未普及の郊外や農村部で
-600
rainfall (mm)
は、このほかに産業用水などに 45 万 m3 が使われ、
-400
-800
600
-1000
500
-1200
400
-1400
-1600
300
waterlevel (cm)
われているのは、ホーチミン市を中心とした下流
-1800
は不圧・被圧の地下水を生活用水として利用して
200
いる。このように地下水は地表水と並んで重要な
100
-2200
0
-2400
Rainfall
10/03
04/03
4/02
10/02
4/01
10/01
4/00
10/00
4/99
water table at Q015030
10/99
4/98
10/98
4/97
10/97
4/96
10/96
4/95
10/95
4/94
図-3に示すように、地下水水位が年間 2m ずつ
10/94
水源となっているが、ホーチミン市中心部では、
-2000
Linear (water table at Q015030)
減少しており、地下水資源の枯渇と地盤沈下の顕
Figure 3. Salt water intrusion in the unconfined aquifer.
在化が懸念されている。
また、ホーチミン市の地下水は水質的にも幾つ
かの問題をかかえている。ホーチミン近郊を含む
南部ベトナムには硫酸酸性土壌が分布しており、
地下水のpH を低下させている。このような地下
水は、硫酸イオンだけでなく様々な金属を溶解し
ているため(全国農業改良普及支援協会 2006)、
直接飲用には適していない。また、ホーチミン市
は沿岸域に立地していることもあり、地下水も塩
水化が進んでいる(図-4)。特に、ホーチミン市
の南部は著しく塩水が浸入しており、今後も地下
水の利用が続けば、塩水の界面が北上する可能性
が指摘されている。更に、図に示したようにスポ
Figure 4. Salt water intrusion in the unconfined aquifer.
ット的に塩分濃度が高い地下水が存在している。
これらの水質問題とは別に、ホーチミン市内及びその近郊を流れる運河は、生活排水及び産業排水により汚
染が進んでいることから、これらの運河から地下水への汚染が広がる可能性がある。特に、埋め立て処分場近
くの地下水では、高濃度の有機炭素(DOC)やアンモニアが検出されており、地下水汚染が進んでいる。
3.結論(まとめ)
サイゴン川流域の、地下水水位はゾウティンダムの建設によって大きく変化した。ホーチミン市の北部では
地下水水位が上昇する一方、ホーチミン市の近郊では過剰揚水が進み地下水水位が低下するとともに、南部か
ら塩水の浸入が進んでいる。また、ホーチミン市内の地下水は鉄、アンモニア、硝酸性窒素などが検出されて
おり、水質の悪化が進みつつある。地下水資源を保護し、将来にわたって利用を続けるためには、地下水の保
全計画をたて、土地利用の規制、産業立地の適正化などを進める必要がある。
参考文献
1)
Sigrist, M., Tokunaga , T., Takizawa, S., Large Scale Groundwater Flow Model for Ho Chi Minh City and its Catchment Area,
Southern Vietnam., Annual Convention of American Geological Union, Dec. 2005.
2)
全国農業改良普及支援協会、ベトナムにおける持続的な農業技術を推進するための手引き、2006.
37
3.4 モンスーンアジア・沖積平野の地下水―その資源管理と規制法制の比較
Groundwater in the alluvial plains in monsoon Asia-management and control laws
辻
和毅(不二グラウト工業)
・村上雅博(高知工科大学)・那須清吾(高知工科大学)
1.目的
本論は、アジアのモンスーン地域における沖積平野の地下水保全政策について比較研究を試みたものである。数多い沖積平
野のなかで、代表的なハノイ平野、メコンデルタ、ホーチミン平野、チャオプラヤ平野、バングラデシュ平野を取り上げた。
これらはいずれもユーラシア大陸の縁辺に位置し、人口が集中する平野である。
これらの平野には人口が稠密で、農業や商工業の生産活動が活発に行なわれている。そのため地下水が多量に利用されて社
会の発展に寄与してきている。その反面、近年地下水の過度の汲み上げにより各種の地下水障害が発生して関係者がその対策
に心を砕いていることも共通している。
2.基本的な現状の認識と課題
ここに取り上げた平野について地下水問題を取り上げる場合、次のような現状と課題が指摘できると思われる。まず、現状
は以下の通りである。
①地下水はモンスーンアジアにおいて、特に人口が集中する沖積平野において、安全で清浄な水資源として貴重である。
②地下水は必ずしもすべての平野において水資源のなかで量的に大きな割合を占めるものではないが、生活用水について
は地下水に対する依存度は非常に高い。
③平野では河川水が主要な水資源となっているが、河川は乾期と雨期による季節変動があり、予期せぬ渇水が到来し、ま
た水質の劣化によって供給面で不安定さを伴う。
④河川水は貯水池の建設や配水の施設、加えて水質浄化のコスト面から供給に至るまで多額の投資が必要で、また実施ま
でに時間がかかる。
⑤その点、地下水は地下水が賦存する沖積平野においては、渇水年や乾期でも安定した水資源として利用価値が高い。し
かも供給地と消費地が直結しており、比較的安い投資で効果がすぐに現れる利点がある。灌漑農業用水は大規模な水源
を必要とするため、別の考え方が必要である。
⑥また、水質が比較的よく、季節を通して水温が安定している利点がある。
⑦井戸を掘削して地下水を利用する際、水利権や法律的な問題が比較的少なく利用しやすい。
次に、課題は、以下の通りである。
①その一方で、とりあげた平野では近年過剰な地下水開発により種々の地下水障害が発生している。
②その障害のありようは地域によって様々だが、将来も持続的に利用するため、地域それぞれで現在対策に苦労している。
③対策の政策立案の基本となる法律や指針の整備は、各国で足並みが揃っていない。
したがって、これまで経てきた日本の経験と施策を基本的視点として、取り上げた地域をいろんな面から比較検討して、
モンスーンアジアの地下水資源の現況と問題点を整理することは有用である。日本の経験は上記の3点の課題の軽減に役
に立つと思われ、次のように要約される。
①日本はいち早く産業が発展し人口が増加した。特に 第二次世界大戦後地下水の開発とのちに発生した地下水障害を他
に先行して経験した。
②現在、日本ではこれらの障害に対して対症療法的な規制の段階を過ぎ、環境保全の一環として地下水管理と有効利用に
積極的に取り組む段階にきている。
その結果を組み入れて今後適正な管理方策を考えていけば、地下水を将来にわたって持続的に安全に利用していくため、
共通する施策の方向性とシナリオが浮かび上がってくるのではないかと思われる。同時にその際地域性に配慮することは
必須である。
3. 地下水管理政策の変遷に関する考察
日本における地下水開発と地下水障害への対策、地下水に対する社会的な認識と施策の歴史的な変遷を Fig.1(発表時に図
示)にまとめ、以下に考察する。全般的に供給側からの視点で考察しているが、需要側の対応についても適時述べている。
また、Fig.1の左側の欄は、地下水を開発する側の側面であり、右側は開発に対する反作用や対策を中心にまとめている。
以下の説明文の数字①~⑤は Fig.1の数字の流れにほぼ対応する。括弧内の年代はおおよその変遷の目安を示したものである
が、地域や事業、実施機関によって変わり、また当然重複する期間がある。
① 井戸単位での開発と地下水障害(~1970 年頃)
当初、地下水開発は井戸の水理学に基づき、1 本の井戸の地下水量と降下水位との関係で「限界楊水量」が決められそれと
水質が調査された。そうして井戸が個々別々に開発され先行した井戸から優先的に揚水された。井戸掘削による地下水開発は
比較的容易で安価であったことと、表流水を利用した工業用水の整備が遅れたため、とくに恒温で清浄な水を必要とした工場
は個々に独立して長い間開発を進めた。その結果、大都市沿岸など井戸が集中する地域が現れ、過剰な地下水低下が広域にわ
たって起こり、地盤沈下や塩水浸入等の障害が各地で発生し大きな社会問題となった。
② 地下水揚水の法的規制や人工涵養が試みられた時代(1960 年頃~1980 年頃)
これに対し、国はまず大量の地下水を利用していた工場の揚水を規制するため法律を制定し、各地方自治体は 10 年ほど遅れ
38
て 1970 年代初め相次いで条例を制定した。しかし最初の法律であった工業用水法は地域限定で、代替水源が確保できる地域と
いう工場側の事情を配慮した特別法であったため、制限を受けない周辺地域や地方に同じ障害が波及する結果をもたらした。
条例もみなし認可で既得権は守り、新規の開発は井戸の吐出面積に応じた届出制や許可制の範囲内であったため、実質的に量
的な規制までは至らなかった。
ここから学びうる重要な教訓は、地下水問題の根本的な解決のためには、地下水盆単元で地下水流動を把握し、水収支を算
定して地下水盆で総量規制することの必要性であった。
一方、公共事業として工業用水や流域下水道の建設が進み、使用者に水の利用料に加え排水料という二重の負担がかかるこ
と、工場排水は指定有害物質の総量規制という形で公害対策基本法で規制されたため地下水の揚水量に抑制効果を上げた。需
要サイドではさらに、大量消費者であった工場は水のリサイクル施設に投資する等の企業努力により利用量を抑制した。ここ
では、水が産業の発展に大きな役割を果たしてきたことと、水のもつ経済性が利用に対して大きな抑制効果をあげることを教
えている。とくに、表流水による代替水源への転換と回収水利用の促進が果たした抑制効果は日本の経験として貴重な示唆を
与えている。
現在タイでは地下水法(1977 年制定)によって、国が工場から利用料金を徴収している。1984 年から開始されたが、当初十
分な削減効果をあげなかったため、現在まで価格は改定され漸次値上げされた。地下水の利用に顕著な削減効果が現れたのは、
その料金が水道料金に近づいた時点であった。現在その料金は地下水の利用が多い低地チャオプラヤ平野では 8.5 バーツ(23
円)/m³である。ちなみに、日本の工業用水の平均的な料金は 23 円/m³であるから、物価から比べるとタイの地下水料金は随
分高いように思われる。この例は水道を含む水資源の利用を抑制する料金制度を考える時に、非常に重要なことを教えている。
すなわち、代替ないし同等の水源の料金に近くなるまで、安い地下水は利用されるということである。
一方、この時代日本では利用抑制だけでなく、地下水の人工的な強化策として、人工涵養や雨水浸透が試みられた。井戸注
入や平地に拡水する、雨水枡を利用するなどの方法であったが、いろいろな技術的問題やコスト面で今日まで継続してうまく
機能している例はほとんどない。
さらに、1974~1975 年頃日本で地下水の法的な位置づけをめぐって地下水法に関る論議が盛んに行なわれた。しかし関係す
る省庁間の調整がつかず、結局現在まで制定に至っていない。
Fig.1の①と②のあいだに縦に示した矢印は①が進行した時間と、②の対策がとられた時間に、時代的なギャップがあるこ
とを示しており、これが長ければそれだけ、地下水障害の問題は大きくなり、回復への投資も膨大なものになったことは、過
去の経験が教えている。
③ 地下水盆単元での地下水収支の評価(1980 年頃~1990 年頃)
地下水障害は被害が顕著な大都市周辺の地域では緩和したものの、規制外区域へ波及する傾向は続いた。このため、根本的
に地下水問題を解決するためには、地下水を井戸の揚水量や新規掘削の規制だけではなく、地下水盆単元で把握する重要性が
認識された。新しく開発された水収支と地盤沈下モデルを組み込んだシミュレーション手法によって、地下水流動が広域的な
水循環の一環として捉えられるようになった。ここには、1940 年代アメリカで考えられた、開発揚水量と涵養条件のみを考慮
した「安全揚水量」の考え方から、開発に伴って望ましくない事態、1)水資源の進行的な減少、2)揚水に経済性な損失を生ず
る、また 3)水質の悪化を生じないことという、社会経済的な条件が考慮された「持続的開発量」の概念が使われるようになっ
た。こうして、障害の対症療法的な対策から、障害の予測や予防へ踏み込んだ段階に入った。
④ 流域の水循環を考慮した持続的開発(1990 年頃~2000 年頃)
一連の規制や対策によって地下水障害は緩和したが、地下水が貴重な水資源であることに変わりはない。地下水を主要な水
資源とする地域では、地下水位の低下や湧水の減少、地盤沈下といった問題を緩和しながら、持続的に利用する方策を考え始
めた。また親水空間や生態系を考慮した地下水や湧水の重要性が社会的に認識された。旧公害対策基本法やそれに代わった環
境基本法に則り、地方自治体では地域に適応した条例や要綱を制定し、それに基づいて実効的な地下水管理を進めるようにな
った。そのなかでは地下水を流域単位の水環境の一単元として捉え、取水の抑制や中止勧告に留まらず、その保全を流域の後
背山地や土地利用にまで踏み込んでより具体的な方策を規定している。
「最近では環境規則に関する
法律の内容に新たな条項を盛り込む、いわゆる条例の「上乗せ条例」については議論があるが、
条例については、これを禁ずる規定がない限り、
(中略)上乗せ条例の合憲性を認める」とある。次に述べる熊本県と熊本市の
場合、条例の規定内容は、保全のため違反者に対する勧告や公報、地下水採取の制限条項が明記され、具体的で実効的な地下
水管理を進める上で、法的な裏づけを与えられている。
⑤ 自然の水循環と人間生活の調和 (2000 年代)
最近では、地下水の保全に関して、単に水理地質的な安全揚水量の考え方から、社会経済的な条件はもとより、地域住民へ
の損失、親水空間を条件に加味した「許容揚水量」という考え方のもとに、地下水盆管理が行なわれている。例えば熊本県の
地下水保全条例に示されるように、
「地下水が欠くことのできない地域共有の貴重な資源である」という基本認識のもとに、地
下水揚水の抑制のみならず、上流域の地下水浸透を守る土地利用、強化に結びつく人工涵養を地域住民の合意の下で進めてい
る。これは昔から存在する流域の自然な水循環(表流水~灌漑施設~土地利用)を生かした形であり、無理がなく継続性が期
待される事業である。また、熊本市民のアンケート調査によれば、地下水を守るために、新たな金銭的負担をしてもよい(い
わゆる Willingness to pay)という結果があり、地域住民への啓蒙と意識も地下水保全を推進する重要な要素であることを示
している。いわば、地下水は自然も人も「流域ぐるみ」で取り組む問題であって、地下水の利用や強化が、自然の水循環や人
の生活パタンと結びつくかたちとなったとき、初めて持続的な有効利用が達成されると思われる。
39
4.1 60 キロメッシュモデルによる降水・河川流量の再現とその将来変化
Future change of precipitation and streamflow simulated by a 60-km-mesh climate model
気象研究所気候研究部
上口賢治・鬼頭昭雄・保坂征宏
1.目的
気象研チームでは、気象研究所で開発を進めている高解像度全球気候モデルを用いて、降水と河川流量の将
来変化のシミュレーションを行っている。ここで得られたデータは、各河川流域を担当する他チームに提供さ
れ、流域水政策シナリオを作成するために必要な基本データである「気候変動外力」として使用される。ここ
では、気候モデルで得られた降水と河川流量の再現性とその将来変化についての解析結果を簡単に述べる。
2.研究の手法
使用したモデルは、水平解像度約 60kmメッシュの気象研究所全球大気モデルである。このモデルを用いて
Table 1 の条件で、現在と将来のランを各 30 年分行った。温暖化気体はCO2以外にCH4 やN2Oも扱っている。
SST (海面水温)は季節変化を含むが年々変動はしない。
Table 1. Experiment settings for the present-run and the future-run
ターゲット
とする期間
現在
ラン
将来
ラン
20 世紀後半
CO2=348.0ppm
SRES A1B シナリオ
21 世紀中頃
SST(海面水温)
温暖化気体の濃度
CO2=528.8ppm
1982 年から 1993 年の 12 年平均観測海面水温
気象研究所大気海洋結合モデル CGCM2.3 による現在ラン
の SST(1979-1998 の平均)と温暖化ラン(A1B シナリオ)で得
られた SST(2040-2059 の平均) との差を、今回の現在ラン
に使う SST に加えたもの
河川流量については、河川モデル(GRiveT)に気候モデルの計算結果を与えて計算した。GRiveT は気候モ
デルで計算された水の流出量を、河川経路網に沿って河口まで流している。河川 流路データは TRIP(Total
Runoff Integrating Pathway; Oki and Sud, 1998)を使用した。
3.実験結果
Figure 1 は観測(GPCP-1DD の 1997-2005 の 9 年平均)と現在ランによる年平均降水量、及び年平均降水量
Figure 1. Annual mean precipitation (mm/day) of the observation (left), the present-run (middle) and
future change (future-run minus present-run: right).
キーワード
気候モデル,降水量,河川流量,温暖化, 将来変化
連絡先
〒305-0052 茨城県つくば市長峰 1-1 気象研究所気候研究部
40
TEL:029-853-8681
の将来変化(将来ラン-現在ラン)を表している。現在ランと観測を比較すると、中国南部などで若干の違い
が見られるが、両者は概ね良く一致している。次に将来変化を見ると、図示した領域のほとんどの場所で降水
量の増加が見られるが、中国南部、中国北東部、トルコやイラン北部では減少している。Nohara et al. (2006)
が行ったマルチアンサンブルの結果では、西アジアと中東で乾燥化していたが(図省略)、この実験ではそれ
らの場所でも湿潤化し
ていた。
次に、現在の河川流
量について解析を行っ
た。Figure 2 は各河川の
河川流量の月変化を示
している。黒の実線は
観 測 デ ー タ (Global
River
Discharge
Center: GRDC)で、影
のついた領域は±σを
表している。また青線
は現在ラン、赤線は将
来ランである。
観測と比べると、現
在ランはユーフラテス
とメコンを除いて概ね
観測の標準偏差内に収
まっている。また月変
化について見てみると、
観測に見られる長江の
Figure 2. Monthly variations of streamflow (m3/s). A black-line shows the observation and
9 月頃のピークがモデ
shaded area denotes ±1 standard deviation of interannual variations. A blue-line and a
ルで再現されていない
red-line show present-run and future-run, respectively.
が、他の河川では概ね
月変化の傾向も良く再現されている。次に将来変化について見てみると、長江では 7 月から 10 月にかけて流
量が増大しており、洪水などが増える可能性が示唆される。またユーフラテスやアムダリア川では冬から夏に
かけての降水が増える一方、夏から冬にかけては減少する傾向がうかがえる。
4.まとめ
全球気候モデルによる現在ランでは、年平均降水量、河川流量とも観測と概ね一致していた。将来変化につ
いては、マルチモデルアンサンブルを使った Nohara et al. (2006)といくつかの点で違いが見られた(詳細は
割愛した)。Nohara の研究は多数のモデルを用いている点で利があるが、水平解像度はほとんどが約 200km
〜300km 格子の低解像度モデルであるため、山岳などの影響を受けた地形性降水などの再現性は低いと考え
られる。今後は、本実験の結果を詳細に解析し、将来変化予測に対するモデル解像度の影響を評価したい。
参考文献
1) Nohara, D., A. Kitoh, M. Hosaka, and T. Oki, 2006: Impact of climate change on river discharge using multi-model
ensemble. J. Hydrometeorol. (in press)
2) Oki, T., and Y. C. Sud, 1998: Assessment of annual runoff from land surface models using Total Runoff Integrating
Pathways (TRIP). J. Meteorol. Soc. Japan, 77, 235-255.
41
4.2 60 キロメッシュモデルによる陸面状態の将来変化
Future change of land surface condition simulated by a 60-km mesh climate model
気象研究所気候研究部
保坂征宏・鬼頭昭雄・上口賢治
1.目的
気象研チームでは高解像度全球大気モデル(水平解像度約 60km 版)を用いて、20 世紀末と 21 世紀半ばで
の気候シミュレーションを行った。このデータは気候変動外力として他チームに提供され、流域水政策シナリ
オ作成において使用される。ここではアジア域における地上気象要素および陸面状態の変化を紹介する。
2.研究の手法と過程
使用したモデルは水平解像度約 60km メッシュの気象庁・気象研究所統一全球大気モデルであり、20 世紀
末(1990 頃。以下、現在)と 21 世紀半ば(2050 頃。同将来)の設定で計算を行った。詳細は上口らの発表
資料を参照していただきたい。
また参考資料として、IPCC 第 4 次報告書作成に向けて提出された 19 の大気海洋結合モデルの結果から、
20 世紀再現計算の 20 世紀末(1981-2000、同現在)および 21 世紀半ば(2041-2060、同将来)の月平均値
を 2.5 度に内挿したデータ、及び ECMWF40 再解析のデータ(2.5 度格子)の 1981-2000 年平均値を用いた。
3.実験結果
Figure 1 は地上気温とその温暖化による変化である。上段は気象研モデル、IPCC モデルアンサンブル、
ERA40 による現在条件での年平均気温分布である。今回使ったモデルは地形表現がよく、チベットの高度が
Figure 1. Upper: Annual mean surface air temperature (Unit:℃). Left: the present run. Center:
IPCC model ensemble. Right: ERA40. Lower left and center: The changes due to the global
warming (Unit: K). Left: Future run minus present run. Center: IPCC multi model ensemble.
Lower right: The same as the lower left, but DJF.
キーワード
気候モデル,気候変動、地上気象要素、地表面状態
連絡先
〒305-0052 茨城県つくば市長峰 1-1 気象研究所気候研究部
42
TEL:029-853-8681
高いことによる違いが見えるが、概してほぼ一致している。下段の左と中はそれぞれ気象研モデルと IPCC モ
デルアンサンブルでの年平均気温の変化である。気象研モデルでの昇温量は IPCC モデルアンサンブルに比べ
てやや小さいものの、高緯度側での昇温が大きいなどの傾向は一致している。下段右は北半球冬季の昇温量で、
積雪の変化などが反映した変化を見てとることができる。
Figure 2(a) は土壌第二層(根圏)の土壌水分量の変化率、(b) は河川流出の変化率である。いずれも降水
の変化(上口らの発表資料参照)と同様の変化傾向を示しており、降水の増加域で水循環が活発になることが
わかる。(b) からは、乾燥域でも河川流出の変化が大きいように見えるが、それは現在ランとの割合の比較の
ためである。(c) は降水の変化に対する河川流出の変化の割合を示しているが、乾燥域では降水が増加してい
ても河川流出の変化はそれに比べて小さい。(d) は現在ランでの放射乾燥度(年平均の地表面での正味放射を
降水で規格化した量)の分布で、これが大きいところでは降水のほとんどは蒸発してしまうため、降水の変化
(あるいは予測誤差)は河川流出の変化(同)にはそれほどにはつながらない。
Figure 2. (a)-(b) The percentage changes in soil moisture and runoff (Unit: %). (c): The absolute value of
the ratio of runoff change to precipitation change(Unit:%). (d): Radiative dryness index (Rnet/LP).
4.まとめ
全球高解像度大気モデルを用いて 20 世紀末と 21 世紀半ばでの気候シミュレーションを行った。地上気温
は、現在条件ではよく再現されており、その温暖化に伴う変化も IPCC のマルチモデルアンサンブルと定性的
に傾向が一致している。土壌水分や河川流出の変化は降水の変化傾向と対応している。ただし乾燥域の河川流
量は、変化率が大きくても、変化量としては降水のそれに比べてごくわずかであるので注意が必要である。
43
4.3 首都圏の人口急増に対応した水資源確保政策が持つ一般性,個別性,今日性について
Applicability of water policies for coping with rapid increase in the population and urban water
demand in Tokyo metropolitan area
国土交通省国土技術政策総合研究所
藤田光一
1.研究の目的
日本の首都圏河川流域での「人口増加外力~応答(施策群展開)」の関係を,水資源確保の側面から分析し,それ
が持つ一般性,今日性の度合いを考察することにより,モンスーン・アジア地域における水政策を検討するた
めの比較対照流域としての位置づけを明確にし,日本の経験からツールボックス等に役立つ情報を抽出・加工
する際の一助とする.
2.研究内容
2.1
人口急増への応答にかかわる諸事象・施策の展開と相互作用の全体像
首都圏の人口急増への対応は,大きく,1)新規の都市用水の開発,2)工業用水の回収率向上による需要急増
の吸収,3)水利用の転用(農業用水から都市用水へ),4)生活用水の節水,に分けられるが,問題解決への実
質的寄与度は前二者が大きかったと言える.これらの対応策にいたる流れを図 1 にまとめた.1950 年代後半
から顕著になった首都圏への人口・経済活動の集中に対応できた理由を考える上でのポイントは以下のようで
ある.
関東平野地盤沈下
1964 年の危機的状況で
オリンピック渇水
都市住民が肌で
水質汚濁
感じる渇水被害
の利根導水路緊急活用
戦争に
よる
荒廃
(建設着手後わずか1
年)など,直接的には 1960
年代前半を乗り切ったこ
とが大きいと考えられる.
1930
1940
一人当たり水道使用量急増
首都圏人口急増・経済活動急伸長
1950
1960
1970
草木ダムFNAWIP
下久保ダムFNWIP
矢木沢ダムFNAWP
薗原ダムFNP
しかし,利根導水は単独
ではあり得ず,利根川水
系水資源開発基本計画と
実調
予備調
許す基本条件(ダムによ
と,さらに,それに先立
つ 10 年ほど前から,戦後
完成
藤原ダムFNP
五十里ダムFNP
五十里
ダム
計画
奥利根
河水統制
調査(含;
矢木沢ダム)
河水統制
思想
・続発水害に
対応した
治山治水重視
・戦後復興→
食糧増産,
エネルギー
確保重視
TVAの
影響
多目的ダムを
主役とする
河川総合開発
特定多目的
ダム法('57)
利根導水路
一部通水
建設着手
利根川水系
水資源開発
基本計画
('62)
荒川緊急取水('64)
利根川余剰水通水('65)
ダム群開発用水を
本格取水('68~)
工業用水回収水率
工業用水回収水率
急伸
・水資源開発
促進法('61)
・水資源開発
公団法('62)
水質汚濁防止法
(1970)
工業用水法('56) ビル用水法('62)
地下水規制条例('70~)
復興と治山治水を軸とす
る国土開発計画が立てら Figure 1. 首都圏人口急増に対応した水資源確保にかかわる諸事象・施策の展開,相
互作用に関する考察図
れ,多目的ダムを主役と
する河川総合開発が実質上始められていたことも,外力への応答を早める上で重要だったと考えられる.
一方,工業用水については,地盤沈下による地下水汲み上げ規制や水質汚濁防止の取り組みが,回収水率向
上に寄与していたと考えられる.このように並行して生起した他の問題への取り組みが施策推進に同期的に作
用したことも重要なポイン
キーワード
連絡先
人口急増,首都圏,水資源確保,外力~施策応答分析,水政策,利根川,一般性,今日性
〒305-0804
つくば市旭一番地
国土技術政策総合研究所
44
環境研究部河川環境研究室
TEL:029-864-2246
農業用水等の転換
にできて,利根川取水を
画)が整備されていたこ
建設着手
治水 国土総合 利根川特定地域
総合開発計画
調査会 開発法
('57)
('49)
('50)
いう枠組みが直前(1962)
る都市用水新規開発の計
漸減
トと考えられ
る.
八斗島
古戸
川俣
栗橋
300
濃度 (mg/l)
200
6
4
100
2
0
2002/2/13
2001/12/25
2001/11/5
2001/9/16
2001/7/28
2001/6/8
2001/4/19
2001/2/28
2001/1/ 9
2000/11/20
1998
1993
1988
1983
1978
1973
1968
1963
1958
0
1953
る利根大堰を
CASE7 BOD
8
川からの導水
が行われてい
利根大堰取水無し
CASE6 BOD
10
3
流量(m /s)
2.2 環境影
響の可能性に
ついて
図2は,利根
栗橋地点(利根川・江戸川)
BOD濃度
400
利根大堰を挟む利根川各点の平水
流量(古戸と川俣の間に利根大堰) Figure 3. 水物質循環モデル1)による水質
平水流量の経
計算(流域条件は 1976 年当時)
外
問題認知レ 施策検討・実行
道具立ての状況
追い風要 向かい風要因
出力
年変化を表したものである.1968 施策群
挟む各点での
Figure 2.
力
そ
の
強
度
年から始まった導水によると考え
られる下流流量の減少が見られる.
しかし, 図3 からわかるように,
これによる下流水質変化はあまり
ベル
予
測
か
ら
の駆動力/各
Playerの応答性
発生
状況
から
政
府
産
業
界
国
民
住
民
因
技
術
資
金
制
度
水資源開
発/流域
拡大
維持流量の観点での問題も少なく
低水消費
型生活ス
タイル
なかったと推定される.以上から,
低水消費
型産業
利根川流域の容量と相まって,導
水というインパクトが環境上の観
人
口
急
増
/
強
烈
2.3 適用された施策群の一般
性,今日性についての考察
図4で,今までの考察を踏まえ,
首都圏人口急増に応答した施策群
国家政
策との
整合性
環境
への
イン
パクト
同
期
[地下水規
制,水質汚
濁防止]
水利用の
転用
農業の合
理化等
点で懸念される状況は無かったと
考えられる.
利害関
係者間
の合意
形成
慣性[河水
統制~]
同期[治水・
多目的ダ
ム]
地理的条
件[利根川]
無かったと考えられ,今日で言う
とも当時の状況下ではさほどでは
誘
導
人口配置
制御(国
土計画)
施策群推進への力の大きさ
施策群推進への隘路の度合い
問題解決への寄与度
今日性,一般性という点で,課題になりうる項目
Figure 4. 首都圏人口急増に対応した施策群展開の構造の整理例
展開に関わる構造の整理を試みた.ここでは,施策群適用に伴う出力(成果出現)までの展開を,問題認知,
施策実行の駆動力(各 player の応答性),施策遂行のための道具立ての状況,追い風/向かい風要因に分け,
それぞれについて当該施策群を推進する力(「向かい風」の場合は隘路の度合い)を定性的に表現した.さら
に図中で,推進力あるいは隘路の度合いが今日と大きく異なり,一般性という意味で課題になりうる項目を抽
出した.
この図から,インフラ整備あるいは事業所ベースの施策に,結果として重点が置かれ,逆に,“ノンポイン
トベース”の施策は,量的には占める役割が小さくなる構造があると言えそうである.また,今日性,一般性
という点では,当時あった治水対策や地下水規制,水質汚濁対策との同期性が必ずしも一般的でないこと,環
境影響への評価が今日においてははるかに重要視されており,対象流域の容量と人口増加圧力との相対関係に
よっては,環境影響にかかわる対応が大きな課題になりうると考えられる.
3.まとめ
首都圏の人口急増に対応するために展開された施策群の基本部分を広く適用しようとした場合,環境影響へ
の対応,当時促進要因となった他事象との同期性が必ずしも確保できないことを考慮する必要がある.
参考文献
1) 福田晴耕,藤田光一,伊藤弘之,長野幸司,小路剛志,安間智之: 自然共生型流域圏再生のための東京湾とその流域における政策シ
ナリオの検討,第 33 回環境システム研究論文発表会,土木学会,Vol.33 365-374 2005.
45
4.4 アジア地域における水管理のための Knowledge Mining System(KMS)
Knowledge Mining System for Water Management in Asia
国土技術政策総合研究所
福田晴耕
中村徹立
土木研究所
栗城稔,吉谷純一
総合地球環境学研究所
大西健夫
1.目的
砂田 CREST においては,洪水,渇水,水質といった水関連の課題を抱える 8 流域を選択し,課題解決の
ための政策シナリオ策定を目標とした事例的研究を進めている.これらの流域から得られた個別の知見を,
他の流域での水管理政策の立案に役立つものとして整理するシステムを開発している.政策立案に関わる人
が,多くの事例から水問題解決のための参考事例や知恵を発掘することができるようなシステムという意味
を込めて,このシステムを Knowledge Mining System(以下 KMS)と名づけた.
2.必要性
水問題の解決に向けた活動目標として「情報・経験の共有」の促進が多くの国際会議で提唱されている.
統合水資源管理を手助けするパッケージとして開発された Toolbox は,意思決定者や実務者へ情報・経験の
共有を目的としているが,目的どおりに利用できるには至っていない.その原因は,収録されている情報が
漠然としているあるいは断片的なため,他流域への適用を考察できない,水不足問題を解決しようとすると
き競合する他の政策をどう同定しどのように調整したかといった配慮事項に関する情報がないなどが考えら
れる.流域ごとに検討されるマスタープランは,通常,上記の検討がなされ記載されるので,マスタープラ
ンでの検討項目を体系的に整理し,必要なときに関連事項をマイニングできる KMS を作成することにした.
なお,KMS は当初 toolbox と呼んでいたが,この名称は水問題に関して対処療法的問題解決が可能でそれを
推奨するかの印象を与えるため,KMS と改名することにした.
3.Knowledge Mining System(KMS)の基本構造
KMS の基本構造作成に当たっては,既存のマスタープラン報告書での検討項目を網羅できるよう Figure
1に示す構造を作成した.使用した報告書は,バングラデシュ人民共和国:ダッカ首都圏,ベトナム社会主
義人民共和国:ドンナイ川流域,タイ王国:チャオプラヤ川
流域,フィリピン共和国:カガヤン川流域,スリ・ランカ
民主社会主義共和国:コロンボ首都圏などを対象とする報
に示した 45 項目は,対策を実施するにあたって考慮しな
ければならない社会・経済的条件を示したものである.全
体は,政策実施環境,組織の機能・活動・情報の共有,水
問題に関する現状・課題・評価という 3 大カテゴリーから
構成され,さらに各カテゴリー内に,Table1に示すよう
な仔細な項目が含まれる.これらの項目が,流域ごとの事
例研究で得られた知見をつなぐ横糸になる.
ツ ー ル ボMining
ッ ク ス
Knowledge
System
告書である.Figure1の詳細を Table1に示した.こここ
上位目標
政策実施環境
法制度・条例等の制定・整備・強化
様々な組織の役割
組織の機能・活動
情報の共有
組織の活動と能力
情報の共有
社会環境・生活環境
水問題に関する
現状・課題・評価
空間・流域管理・土地利用
水資源管理
KMS の基本構造としては,Figure2に示すような構造
洪水対策
を考えている.流域事例ごとに主要課題(洪水対策、渇水対
46
Figure 1
Basic Structure of KMS
策、水質対策等)が異なるため,政策立案者が適切な項目を選択することにより,自分が直面している課題に
類似したいくつかの事例を即座に選択でき, それらを参考に政策シナリオを立案できるようにする.たとえ
ば,洪水対策が主要な課題となる流域は流域 1 および 2 であり,これらの事例を参考に課題解決を図ること
となる.KMS はエクセルで作成され,Figure2に相当するマトリックス上のある項目をクリックすると,
その具体的な記述をしたテキストによるデータベースにリンクし,それがすぐに表示されるようになってい
る(Figure3).
Table 1
A.政策実施環境
[上位目標]
A.1国家政策
A.2地方政策,計画,枠組み
[法制度・条例等の制定・整備・強化]
A.3土地利用に関る法制度
A.4都市開発に関る法制度
A.5農業開発に関る法制度
A.6河川管理に関る法制度
A.7水資源開発に関る法制度
A.8治水・災害復旧に関る法制度
A.9環境に関る法制度
Issues of KMS
B.組織の機能・活動・情報の共有
[様々な組織の役割]
B.1国,行政の役割
B.2地方政府,地方自治体の役割
B.3河川管理機関の役割
B.4環境関連機関の役割
B.5水資源開発実施機関の役割
B.6国際機関の役割
B.7民衆組織,NGOの役割
[組織および社会における活動]
B.8組織の設備,能力
B.9組織の予算
B.10組織への技術移転,訓練
B.11組織の設立
B.12市民社会と地域社会の参加
B.13パートナーシップの構築
[情報の共有]
B.14水管理に関する教育カリキュラム
B.15利害関係者とのコミュニケーション
B.16意識向上のための情報および透明性
B.17対立の解決
B.18ビジョンの共有
B.19合意形成
C.水問題に関する現状・課題・評価
[生活環境]
C.1社会環境
C.2公衆衛生
C.3開発に伴う生活環境変化
[空間・流域管理・土地利用]
C.4都市開発
C.5村落開発
C.6自然の保全・評価
[水資源管理]
C.7水質管理
C.8水需要,利水,配水全般
C.9塩分遡上
[洪水関係]
C.10洪水被害の現状および再現
C.11ダム,貯水池
C.12流域対策
C.13河道,河川構造物
C.14排水施設
C.15土壌侵食,がけ崩れ,地すべり
C.16予警報システム
C.17洪水時対応
流域
流域1 流域2 ・・・ 流域5 ・・・
・該当項目をクリック
流域7 流域8
・該当データの閲覧
項目1
項目2
評価項目
・・・
渇水対策
洪水対策
項目i
・・・
水質対策
項目44
項目45
Figure2 Matrix Structure of KMS
Figure3 Automatic Display of problem solving example
of selected issue in the selected river basin
47
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