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通商政策局(PDF形式:2288KB)

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通商政策局(PDF形式:2288KB)
第3節
通商政策局 ·················································································· 202
1.2012 年度の通商政策に関する主な動き(総論) ······················································ 202
1.1.アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の構築を通じた経済連携戦略 ···························· 202
1.2.独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO) ················································ 202
2.世界経済の動向 ··················································································· 203
3.多国間通商交渉 ··················································································· 204
3.1.世界貿易機関(WTO) ···································································· 204
3.2.アジア太平洋経済協力(APEC) ·························································· 207
3.3.G8サミットG20 サミット ·································································· 210
3.4.OECD(経済協力開発機構) ······························································ 211
4.経済連携協定(EPA/FTA)、投資協定、二国間関係等 ············································ 212
4.1.経済連携協定、投資協定 ···································································· 212
4.2.アジア大洋州各国関係 ······································································ 216
4.3.米州関係 ·················································································· 221
4.4.欧州・ロシア関係 ·········································································· 223
4.5.日・中東アフリカ諸国関係 ·································································· 226
第3節 通商政策局
在外企業支援については、海外進出や現地での企業経営
1.2012 年度の通商政策に関する主な動き(総論)
上の問題等に関する相談対応や現地政府への提言、日本企
1.1.アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の構築を
業専用工業団地の開発への協力や情報発信等を通じて、経
通じた経済連携戦略
済成長著しいASEANやインド等の新興国における日
少子高齢化・人口減少社会を迎え、国内生産力と内需の
系企業の海外事業展開を支援した。また、日本企業の海外
両面において成長が緩やかにとどまることが予想される
における知的財産の保護活動を支援するために、知財法制
我が国経済にとって、今後も急速な成長が見込まれるアジ
度や運用についての改善要望や、中国、アジアの各国政府
ア太平洋地域の需要を取り込むことは非常に重要である。
等との連携による知財セミナーやシンポジウムを開催し
2010 年 11 月の横浜APECでは、首脳宣言において、
た。
APECの地域統合の進展のため、アジア太平洋自由貿易
また、地域経済活性化を図るため、国内外のネットワー
圏(FTAAP)の実現に向けて具体的な手段をとること
クとその機能を活用し、海外調査、ミッション派遣、海外
が合意された。FTAAPはASEAN+3、+6、TP
企業・有識者の招へい等によって国内地域と海外地域との
P等の現在進行している地域的な取組を基礎としてさら
産業交流を支援する「地域間交流支援事業(RIT事業)」
に発展させることにより、包括的な自由貿易協定として追
を実施した。
求されている。
海外ビジネス情報提供については、在外日系企業の活動
実態調査など日本企業の海外における活動状況などを定
1.2.独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)
点的に調査し情報提供したほか、2013 年1~3月にアル
(1) 沿革
ジェリア情勢等に関して情報提供を行うなど、突発的な状
JETROは 2003 年 10 月、日本貿易振興機構法に基づ
況変化に対応して機動的に海外情報を収集し、情報提供し
き、前身の日本貿易振興会を引き継いで設立された。貿
た。
易・投資促進と開発途上国研究を通じ、日本の経済・社会
(イ)対日投資促進
の更なる発展への貢献を目指して、日本企業の海外展開支
日本経済を活性化するため、海外からのビジネス拠点や
援、外国企業の日本への誘致、アジア等の経済連携強化に
高付加価値機能の呼び込みを中心に、雇用維持・創出効果、
資する調査・研究、開発途上国の支援等を行っている。
アジア拠点化への貢献、内需拡大等の面で経済波及効果が
高い案件に重点を置いて対日投資促進事業を実施した。
(2) 事業の概要
「企業発掘から企業設立、事業拡大までをシームレスに
(ア)中小企業を中心とする日本企業の海外展開
つなぐための支援」、すなわち外国企業誘致のワンストッ
中堅・中小企業の輸出促進を図るべく、貿易・投資相談
プサービスを果たすとともに、地域経済活性化に資する投
への対応、海外バイヤー・有識者の招へいや海外における
資誘致活動として、国内外企業のマッチング支援、自治体
展示会への出展支援など従来から実施している各種支援
の首長トップセールス・海外誘致活動支援、既進出外資系
事業に加え、特に農林水産物・食品分野の輸出促進を重点
企業による地域への投資(二次投資)の支援等を実施した。
的に実施すべく「農林水産物・食品輸出促進本部(2012
国内有力展示会に併せ、外国企業に対し日本企業のパー
年1月設置)
」の下で、農林水産省や関係団体と連携した
トナー企業候補等との商談機会を提供することを目的と
各種取り組みを実施するとともに、関係省庁に政策提言を
した商談会や、日本政府・地方自治体と連携し、震災後の
行った。また、2012 年 11 月より、サービス産業に特化し
日本経済等に関する最新情報、投資促進の制度・インセン
た個別企業の海外進出支援を開始した。
ティブ等の紹介を行うセミナーを国内外で開催すること
こうした各種輸出支援により、これまで内需に依存して
で、対日投資への関心を喚起することに努めた。これらの
いた業界における海外市場開拓意欲を喚起、また、中小企
活動を通じ、日本市場の魅力を再認識する外国企業の増加
業単独では困難な海外市場開拓を強力に後押しし、個別企
に寄与し、740 社に対する対日投資支援を行うとともに、
業の商談や成約に貢献した。
94 社の対日進出を実現した。
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(ウ)アジア等の経済連携の強化に向けての貢献等
アジア等の経済連携の強化に向けた貢献として、FT
2.世界経済の動向
A・EPAなど我が国の通商政策に寄与するととともに、
世界経済は、2009 年の春先を底に立ち直りつつあった
相手国政府や産業界に対しては、経済・社会発展、ビジネ
が、2010 年の欧州債務危機の発生によって再び失速し、
ス機会の創出に係る積極的な政策提言及び支援事業を実
その後、2012 年時点でもなお、世界経済危機前の経済成
施した。
長率を回復していない。
日EU経済連携協定(EPA)では、JETROの欧州
各事務所が日本商工会や日本大使館と連携し、EU各国の
政府首脳に民間の要望を取りまとめた意見書を提出して
EPA推進を求めたことに加え、数か国で直接閣僚級へ働
きかけたことが 2013 年3月の交渉開始合意の一助となっ
た。さらに、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)で
は、JETROを中心にタスクフォースを立ち上げ、参加
国政府及び産業界団体等のRCEPに対するスタンスな
どについて情報収集し、政府にインプットしたことが交渉
のスムーズな進展に貢献した。
また、EPA等締結国との間で合意された協力事業を実
施したほか、国際的な合意事項である TICAD IV のフォロ
2012 年の年初、世界経済に回復の兆しが見受けられ
ーアップとして、アフリカ有望産品の発掘から日本市場参
たものの、欧州債務危機や米国の財政問題等の先行き不
入までの支援を行った。
透明感が重石となり、年央にかけて、回復のモメンタム
が徐々に低下した(第Ⅲ-1-1-2図)。
国際機関との共同研究として、JETROアジア経済研
究所が 2011 年度にWTOと実施した「付加価値貿易」に
まず、欧州では、3月まで小康状態だったが、4月以
ついて、世界各国で開催された国際会議でその重要性の普
降、欧州債務問題の先行き不透明感が再び高まった。例
及啓蒙を行い、また同概念を基にしたグローバルバリュー
えば、スペインでは、健全性に懸念のある金融セクター
チェーンの最新理論構築を目指す連携研究を米国国際貿
への資本注入の可能性に加え、7月以降 10 月末までに、
易委員会(USITC)と立ち上げた。
国内の 17 州のうち9州が中央政府に財政支援を要請する
(エ)組織の見直し
など、国内自治州の財政問題が表面化した。こうした背
景もあり、スペイン国債の利回りの上昇1や、格付機関に
我が国企業による国際展開の進展に伴い、特に新興国を
中心にJETROの体制や機能強化への期待が高まって
よる相次ぐスペイン国債の格下げなどにみられるように、
いる。海外事務所については、先進国から新興国シフトの
スペイン財政の先行きに対する市場の懸念が高まった。
一環として、事務所を設置していないアジア新興国、急成
また、5、6月のギリシャの総選挙の際には、同国のユ
長により日本企業の情報ニーズが高まりつつあるアフリ
ーロ圏離脱の懸念が強まり、金融市場の不安定化に拍車
カにおいて、経済状況や内外ニーズ等の情報収集、比較検
をかけた。選挙後も、実体経済の落ち込みもあり、財政
討等を行い、ネットワークのあり方を検討した。この結果、
再建が計画通りに進まず、IMF及びEUによる支援の
2012 年 10 月にコートジボワール・アビジャン事務所への
継続を巡り協議が長期化した。
また、中国では、欧州向けの輸出減少が重石となって、
駐在員の再派遣を行った。
また、国内事務所(貿易情報センター)については、震
2011 年第 1 四半期以降、2012 年に入ってからも減速が続
災復興支援が必要な福島を1名増員し体制を強化したほ
き、第3四半期まで回復が遅れた。さらに、米国では、
か、企業を発掘し裾野拡大を図るために海外ビジネスに詳
しいコーディネーターを配置した。
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スペイン国債の利回りは、一時、7%台後半まで急上昇した。
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2012 年第1四半期は、住宅市場と雇用の堅調な増加、こ
般協定)のもとで、締約国は過去8度にわたり多角的交渉
れを受けた個人消費の堅調さから、回復への期待が高ま
を行い、自由かつ公正な貿易ルールの策定を目指してきた。
ったものの、その後、夏頃には、同年 11 月の大統領選や、
数次のラウンド交渉を経て、次第に関税引下げが実現され、
いわゆる「財政の崖」と呼ばれた財政問題を巡る政治の先
また、関税以外の貿易関連ルールも整備され、1993 年の
行きの不確実性が高まり、企業の景況感は悪化し、設備
ウルグアイ・ラウンド妥結後はGATTを発展的に改組し
投資意欲が低下した。さらに、世界的な景気の減速感を
てWTOが成立した。
背景に、米国の輸出は幅広い地域向けで減速し、設備投
WTOはこれまでGATTが担ってきた、ラウンド交渉
資の低下と併せて企業活動の足かせとなった。
を通じた物品の貿易に係る関税及び非関税障壁の削減や
そうした中、秋口には、ユーロ圏、米国における政策
予見可能性を高めるための通商ルールの強化・充実に加え、
2
対応 が奏功し、国債利回りの低下を中心に、金融市場を
規律範囲を拡大し、新たにサービス貿易、知的所有権の貿
とりまく緊張が緩和され、株価も安定的に推移した。第
易的側面についても対象としている。また、紛争処理機能
4四半期に入ると、新興国は高い伸びが見られた一方、
も抜本的に強化しており、GATTに比べて、対象範囲は
先進国の回復は国により様相が異なり、不安定な足取り
拡大し実効性も向上している。
を示した。
(イ)ドーハ・ラウンド交渉の特徴・経緯
このように、世界経済は緩やかな回復傾向にあるものの、
2001 年にカタールのドーハで行われた第4回WTO定
引き続き緩慢な状況が続いており、その足取りはいまだ弱
期閣僚会議において立ち上げが宣言されたドーハ開発ア
い。
ジェンダ(以下、
「ドーハ・ラウンド」という。)は、モノ
の貿易自由化のみならず、サービス貿易、アンチダンピン
グや補助金などの貿易ルール、環境及び途上国問題も含む、
グローバリゼーションやIT化が進んだ新たな時代の要
請に対応した幅広い分野が扱われていることが特徴であ
る。日本にとっての本ラウンドの推進は、
[1]他の先進国
及び主要途上国の関税を引き下げさせる、
[2]我が国のサ
ービス産業が海外の市場に参入しやすくなる、
[3]通商ル
ールの強化により予見可能性を高め、通商上の紛争を未然
に防止する、
[4]加盟国・地域の国内構造改革を推進する
きっかけとなる、等の意義がある。
ドーハ・ラウンドは、経済発展段階や利益・関心の異な
る加盟国・地域間での合意を目指すという、複雑かつ困難
なものである。先のウルグアイ・ラウンドでは8年間の歳
月をかけ、一進一退を繰り返しつつ、関係者の粘り強い交
3.多国間通商交渉
渉により合意が達成された。ドーハ・ラウンドは、2008
3.1.世界貿易機関(WTO)
年7月の閣僚会合の決裂以後、先進国と新興途上国の対立
(1) WTOドーハ・ラウンドの推進
により交渉が停滞していたが、2010 年秋に一旦は交渉機
(ア)GATT/WTOのこれまでの発展
運が盛り上がり、2011 年を「機会の窓」として議論が行
1948 年に発足したGATT(関税及び貿易に関する一
われ、2011 年4月 21 日には、全交渉分野で交渉の進捗を
反映した議長文書が発出された。
2
具体的には、同年9月に欧州中央銀行(ECB)が新たな国債購
入プログラム(OMT)の枠組みを公表、また、10 月には、欧州
安定メカニズム(ESM)が発足した。ギリシャでは支援の継続及
び財政健全化目標の達成期限の延長等が承認された。米国では、
量的緩和第 3 弾(いわゆる「QE3」
)などが講じられた。
全分野でまとまった文書がそろうのはドーハ・ラウンド
において初めてのことであり、交渉妥結に向けた必要な一
歩ではあったが、内容は交渉の厳しい現状を反映したもの
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となった。また、ラミー事務局長は冒頭文書で、非農産品
つ技術的な議論が継続的に重ねられ、徐々に進捗が見られ
の関税交渉を巡り、現状では「橋渡しできない」明確な政
る。農業交渉については、新興国を中心とする開発途上国
治的ギャップがあると指摘し、「ラウンドにとって危機的
グループが、9月にはブラジルが主導する形で関税割当枠
状況である」と明言、今後の進め方について熟考するよう
の透明性の確保や運用方法の規律強化に関する提案を行
問題提起を行った。各方面で 2011 年の交渉の新たな着地
うとともに、11月にはインドが主導する形で公的備蓄や国
点を巡る議論がされたものの、パッケージによる部分合意
内食糧援助の目的で低所得農家から食料を買い上げるた
は困難という結論に至り、ドーハ・ラウンドの 2011 年 12
めの政府支払を削減義務の対象外とする提案が行われ、こ
月以降の行動計画に関する議論を中心に進められること
れらについて進展可能な項目であるとして合意を求めた。
となった。
2013年1月26日、スイス・ダボスで開催されたスイス主催
政治レベルでは、2011 年 11 月のカンヌ G20 サミットや
WTO非公式閣僚会合には日本から茂木経済産業大臣、江
ホノルルAPEC閣僚・首脳会合において、ドーハ・ラウ
藤農水副大臣が出席し、第9回WTO閣僚会合で目指す成
ンドの斬新で信頼性のあるアプローチの探求を、第8回W
果とその達成方法について議論がなされた。同会合では、
TO定期閣僚会議で開始する決意が確認された。
第9回WTO閣僚会合の成果として貿易円滑化、一部の農
2011 年 12 月の定期閣僚会議では、議長総括における「政
業関連提案、開発分野が挙げられ、春頃に進捗状況を評価
治ガイダンスの要素」として、ドーハ・ラウンドについて、
することで一致した。
近い将来の一括受諾の見通しがないことを認めつつも、
2013年3月末現在、ジュネーブでは、スイス主催WTO
「新たなアプローチ」を見出す必要性を共有し、進展が可
非公式閣僚会合の結果を踏まえ、貿易円滑化、農業の一部、
能な分野で、先行合意を含め議論を進めることが合意され
開発などの分野で議論が続けられている。世界経済危機後、
た。
各国が内向きになりかねない今こそ、自由貿易の価値を各
G4決裂
G6中止
ドーハ・ラウンド
立ち上げ
カンクン
会合決裂
枠組み合意
香港会合
02
03
04
05
06
×
01年11月
03年9月
05年12月
化に向け取り組むことが重要であり、我が国としても引き
交渉再開
07
×
04年7月
有望な個別分野
の交渉を進めるこ
とに合意
会合見送り
交渉再開
交渉中断
01
国が共有し、WTOによる多角的自由貿易体制の維持・強
合意に至らず
08
×
09
10
11
12
13
続き、交渉前進に向け取り組んでいく。
× ×
06年7月
6月 7月 08年7月 12月
07年1月
11年12月
(ウ)2012 年4月以降の動き
(2) ロシアWTO加盟
4月 19 日~20 日にかけてメキシコ・プエルトバジャル
WTOの成立から、これまで加盟国・地域が拡大してい
タで開催された G20 貿易大臣会合では、OECD、WTO
る。WTOの原加盟国・地域は 128 か国・地域だったが、
からグローバル・バリュー・チェーンについての研究報告
2013 年3月現在の加盟国数は 159 の国・地域である。2012
がなされ、貿易円滑化の重要性について参加国間で一致し、
年から 2013 年3月末までに6か国の新規加盟が実現し、
貿易円滑化は進展が見込まれる有望分野であるとの共通
ロシアのほか、バヌアツ、サモア、モンテネグロ、ラオス、
認識が形成され、他の交渉分野とリンクさせずに進めるこ
タジキスタンがWTOに加わった。今後も加盟国数は更に
とで一致した。その後、5月 23 日にフランス・パリで開催
増える見込みであり、引き続き世界の自由貿易体制の根幹
されたオーストラリア主催WTO非公式会合、6月4日~
を支えていくと考えられる。
5日にロシア・カザンで開催されたAPEC貿易担当大臣
ロシアについては、1993 年6月にWTOの前身である
会合、9月5日~6日にロシア・ウラジオストクで開催さ
GATTへの加盟を申請し、同年、加盟作業部会が設立さ
れたAPEC閣僚会議等を通じて、主要国間で貿易円滑化
れた。
交渉の技術的議論を進展させることで一致する一方で、一
二国間加盟交渉については、我が国を含む 58 の既加盟
部の途上国からは貿易円滑化の進展には、農業分野での成
国と二国間交渉を実施した。我が国とは 2005 年 11 月に交
果が必要と強く主張された。
渉を終了、他の国とは 2011 年 11 月のグルジアを最後に終
こうした情勢も踏まえて、貿易円滑化交渉では、統合テ
結した。他方、多国間交渉の場である加盟作業部会につい
キスト案(事実上の貿易円滑化協定案)について具体的か
ては、2008 年8月にロシアとグルジアの間で軍事紛争が
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勃発した影響や 2009 年6月に、ロシアが、カザフスタン、
具体的には、技術進歩により高機能化、デジタル化して
ベラルーシとの3か国で構成される関税同盟としてのW
いる医療機器やデジタルビデオカメラ、高機能化・多機能
TOへの参加を表明(関税同盟そのものは 2010 年1月に
化した新型集積回路等を新たにITAの対象とする品目
発効)したことの影響を受け、中断が生じた。2010 年5
リストの拡大や、範囲を巡って過去にWTOの紛争解決手
月にロシアが関税同盟でのWTO加盟ではなく、同盟3か
続に付託されたこともある、ITAの対象等(現行協定の
国がそれぞれ加盟を目指すと正式に表明し、検討作業が再
附属書 B から附属書 A への移行を含む)の明確化を目的と
開。2011 年 12 月の第8回WTO定期閣僚会議でロシアの
している。
加盟が承認され、2012 年8月 22 日にWTOに正式加盟し
(イ)拡大交渉立ち上げまでの経緯
た。
2011 年3月に、日米韓台等の 17 か国・地域の 39 業界
ロシアがWTOに加盟したことにより、我が国にとって
団体(その後、同年5月に 18 か国・地域 41 団体)がIT
次のようなメリットが見込まれる。
A拡大を要請する共同声明を発表。これを受け、ITAの
関税については、現在、工業製品の実行関税率は平均
主要参加国(日米中韓台など)がほぼ全て参加するAPE
9.5%であるが、WTO加盟後、最終的には 7.3%に削減
Cで、日米が連携してWTOでのITA拡大交渉に向けた
され、農産物等を含む全品目では、平均 10%から平均
機運の醸成を開始した。具体的には、2011 年 11 月のAP
7.8%に削減される。
ECホノルル首脳会議で、
「APECエコノミーが品目及
サービス分野については、電気通信分野について、外資
びメンバーシップ拡大に向けた交渉開始にリーダーシッ
制限をWTO加盟後4年以内に撤廃することや、流通サー
プを発揮していく」旨に合意した。
ビスについて、WTO加盟時に卸売、小売、フランチャイ
このAPEC首脳宣言を受けて、日米連携の下、2012
ズ分野に携わる外資 100%の現地法人の設立の自由化な
年前半の交渉開始を目指して協定参加国間の意見調整を
どを約束している。
行った。その中で、交渉立ち上げの最終局面まで、EUが
関税交渉と非関税障壁交渉をリンクさせてITA拡大交
(3) ITA拡大交渉
渉を行うべきと強く主張し、ドーハ・ラウンドが停滞する
(ア)拡大交渉の背景
中、産業界の期待に応え、WTOでのITA拡大において
ITA(情報技術協定)は、IT製品 144 品目(HS6 桁
迅速に結果を出すためには、関税交渉に集中すべきと主張
ベース:附属書 A 掲載品目のみ)について、参加国の譲許
する日米等各国と協議が続いた。日米は、各国と連携して
税率をゼロにする取決めである。1996 年 12 月のシンガポ
EUに対する働きかけを行い、最終的には関税交渉と非関
ールWTO定期閣僚会議の際に日米EU韓など 29 か国・
税障壁交渉を切り離すことでEUも合意し、交渉立ち上げ
地域で合意し、1997 年に発効した。それ以降、中国、イ
の道筋ができた。
ンド、タイなど参加国数が増加し、2013 年3月現在、76
2012 年5月には、日米等が共同で拡大交渉の開始を呼
か国・地域が協定に参加している(ただしメキシコ、ブラ
びかけるコンセプトペーパーをWTOに提出し、5月 14
ジル等中南米の主要国や南アフリカ等は未参加)
。これら
日にジュネーブのWTO事務局で開催されたITA15 周
の国のITA対象物品の世界貿易総額に占める割合は
年記念シンポジウムの翌日に開催されたITA委員会公
97%以上となっており、ITAは世界貿易総額の約 15%
式会合で、ITA拡大及びそのための作業を開始していく
(4.8 兆ドル(2011 年))の関税撤廃に貢献している。主
ことに各国の強い支持があり、実質的な交渉が開始される
な対象品目は、半導体、コンピューター、通信機器、半導
こととなった。
体製造装置等である。
(ウ)拡大交渉の現状
現行協定の発効から 16 年が経過し、その間の技術進歩
2012 年5月末以降、月に1回の頻度で日米EU韓台マ
を受け、現行協定の品目リスト拡大と品目リストの対象範
レーシア等の関心国による交渉会合がジュネーブで開催
囲の明確化への世界各国の産業界からの期待が高まって
され、関心国の要望品目を積み上げ、整理した「候補品目
いる。
リスト」の作成が進んだ。
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2012 年秋以降の交渉会合には、フィリピン、シンガポ
APEC(Asia-Pacific Economic Cooperation)は、
ール、そしてIT製品の最大の貿易国である中国が参加し
日本とオーストラリアが主導して 1989 年に創設した、ア
たことで、個別品目を巡る具体的な調整が開始された。
ジア太平洋地域の持続的発展に向けた地域協力の枠組み
2013 年3月現在で現行ITA対象品目の世界貿易額の
である。発足時には 12 であった参加国・地域は徐々に拡
90%以上をカバーする、47 か国・地域(EUは 27 か国)
大し、2013 年3月現在では 21 か国・地域が参加しており、
が交渉に参加している。
世界全体のGDP、貿易額、人口の約半分を占めている。
アジア太平洋地域における自由で開かれた貿易・投資の実
現に向けて、ビジネス活動の円滑化や経済・技術協力など
(4) 新サービス貿易協定の検討
の取組を推進している。
1995 年のGATS発効以来長期間が経過し、この間に
インターネットの普及を始めとする技術革新の影響を受
APECは、参加国・地域の自主性を重んじ、域外に対
け、サービスの提供・消費の実態も大きく変化してきてい
しても貿易・投資の自由化・円滑化の成果を分け合うこと
ることを背景に、WTOにおいても状況変化に対応した約
を目的とした「開かれた地域主義(open regionalism)」
束の改訂や新たなルールの策定が求められてきた。しかし
を標榜しており、また、NAFTA(North American Free
ながら、ドーハ・ラウンドは膠着し、急速な進展は見込め
Trade Agreement:北米自由貿易協定)諸国、ASEAN
ない状況となり、各国はFTA/EPAの締結等を通じて
7か国、ロシア、中南米をも含む広範な地域をカバーして
サービス貿易の自由化を推進してきた。
いることから、地域統合間の連携としての側面も持ってい
る。
こうした中、2011 年 12 月に開催された第8回WTO閣
僚会議では、
[1]途上国が強く支持するドーハ開発アジェ
(参考)2013 年3月現在のAPECメンバー
ンダは打ち切らない一方、
[2]一括妥結は当面実現不可能
(*は発足時の 12 メンバー)
であることを認め、部分合意、先行合意等の可能な成果を
・ASEAN(フィリピン*、インドネシア*、マレーシ
積み上げる「新たなアプローチ」を試みることで一致した。
これを受けて、2012 年初頭から、「新たなアプローチ」
ア*、タイ*、シンガポール*、ブルネイ*、ベトナム)
・米州(米国*、カナダ*、メキシコ、チリ、ペルー)
・オセアニア(オーストラリア*、ニュージーランド*、
の一環として、有志国・地域によるサービス貿易自由化を
目的とした新たな協定の策定に関する議論が開始された。
パプアニューギニア)
・その他(日本*、韓国*、中国、中国香港、チャイニー
2012 年7月5日には、交渉のモメンタムの維持・拡大、
ズ・タイペイ、ロシア)
有志国・地域以外の国々に対する透明性の確保と議論への
参加の奨励を目的として、それまでの約半年間の議論で方
(1) 首脳会議
向性の一致したものを取りまとめたメディア・リリース
「サービス貿易交渉の進展」が公表された。日本を含む有
首脳会議は、APEC参加国・地域の首脳が参集し、そ
志国・地域は、自由化の約束方法、新たなルール、参加国
の年の成果を確認するとともに、その後にAPECが取り
の拡大方法など、21 世紀にふさわしい新たなサービス貿
組むべき課題と解決に向けた取組の方向性を議論するも
易協定に向けた議論を進めてきた。同年 12 月には、2013
のである。年1回開催され、毎回、首脳宣言が発出されて
年の早期に交渉開始を目指すことで一致した。2013 年3
いる。
月末現在のメンバーは、22 か国・地域(日本、米国、E
(ア)第 20 回APEC首脳会議
U、オーストラリア、カナダ、韓国、香港、台湾、パキス
2012 年9月8日及び9日に、ロシア・ウラジオストク
タン、イスラエル、トルコ、メキシコ、チリ、コロンビア、
にてAPEC首脳会議が開催された。我が国からは、野田
ペルー、コスタリカ、パナマ、ニュージーランド、ノルウ
内閣総理大臣(当時)が出席し、「貿易投資の自由化及び
ェー、スイス、アイスランド及びパラグアイ)である。
地域経済統合」や「革新的成長のための緊密な協力」
、
「信
頼できるサプライチェーンの構築」などについて議論を行
い、会議の成果として、APEC首脳宣言「成長のための
3.2.アジア太平洋経済協力(APEC)
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統合、繁栄のための革新」を採択した。
また、イノベーションの促進に関して、野田総理から、
首脳宣言には、2012 年のAPEC優先4分野([a]貿易
APEC地域が革新的成長を遂げていくためには、オープ
投資の自由化及び地域経済統合、[b]食料安全保障、[c]
ンで市場志向型のイノベーション政策が実施されること
サプライチェーン、[d]イノベーション)に沿って、アジ
が必要である旨指摘した。
ア太平洋ワイドで取り組むことに合意された施策が記載
されている。主な内容として、グリーン成長及び持続可能
(2) 閣僚会議
な開発に直接的かつ積極的に貢献する「APEC環境物品
閣僚会議は、首脳会議の直前に開催される経済・貿易担
リスト」
(太陽光発電パネル、風力発電設備を始めとする
当大臣及び外務大臣による会議のことである。分野別の大
54 品目から構成。2011 年のAPEC首脳会議における合
臣会合(貿易、エネルギー、中小企業、電気通信・情報産
意(ホノルル宣言)に従い、各エコノミーにおける関税が、
業等)などから、その年の議論の内容について報告を受け、
2015 年までに5%以下に引き下げられる)の合意や、2011
成果を確認するとともに、今後APEC参加エコノミーが
年のAPEC首脳会議で合意された保護主義抑止のため
重点的に取り組むべき課題について議論が行われ、共同閣
の措置の再確認、IT関連製品の関税撤廃を定めた情報技
僚声明が発出される。
術協定(ITA)の対象品目及び参加国拡大交渉の早期妥
(ア)第 24 回APEC閣僚会議
結に向けた取組の指示、イノベーションの促進に向け、産
2012 年9月5日及び6日に、ロシア・ウラジオストク
官学による政策協議及びイノベーションの担い手のネッ
においてAPEC閣僚会議(共同議長:ベロウソフ露経済
トワーク促進の枠組みとして、科学技術イノベーション政
発展大臣、ラヴロフ露外務大臣)が開催された。我が国か
策パートナーシップ(PPSTI)の設立などに合意した。
らは、枝野幸男経済産業大臣(当時)、玄葉光一郎外務大
(A)「貿易投資の自由化及び地域経済統合」及び「サプラ
臣(当時)が出席し、
「貿易投資の自由化・地域経済統合」
、
イチェーン」
「環境物品の貿易自由化」、
「イノベーションの促進」など
野田総理から基調発言として、[1]FTAAP(アジア
について議論が行われ、会議の成果として、「閣僚声明」
太平洋自由貿易圏)の実現に向け、我が国として、引き続
が発出された。会合における成果と議論の概要は以下のと
き域内の貿易・投資のルールづくりを主導し、議論を牽引
おりである。
していく考えである旨、[2]グリーン成長促進のため、閣
(A)環境物品の貿易自由化
僚会議で合意された「APEC環境物品リスト」を首脳会
地域経済統合とグリーン成長に貢献する取組として、各
議でも承認すべき旨、[3]保護主義抑止に向けてAPEC
閣僚が真摯な議論を2日間にわたり実施。その結果、
「首
が世界の先頭に立って強いメッセージを発出すべき旨を
脳による承認を求めて、54 品目からなる環境物品リスト
述べた。
を提案する」ことが決定された。
各エコノミーからは、APECが保護主義抑止の断固と
(B)イノベーションの促進
した態度を示すことの重要性、東アジア地域の包括的経済
イノベーションの促進については、我が国より、[a]知
連携(RCEP)や環太平洋パートナーシップ(TPP)
的財産権保護や内外無差別のビジネス環境の整備を含め
等のFTAAPへの地域的取組の進展を評価、WTOで成
た自由で開かれた貿易投資環境を整備し、域内の信頼醸成
し得なかった具体的成果として、グリーン成長及び持続可
を構築すること、[b]女性や若者、高齢者等の多様なプレ
能な開発に貢献する「APEC環境物品リスト」に合意し
イヤーの参加促進が、APEC域内のイノベーション促進
たこと等について発言があった。
に必要である旨主張し、賛同を得ることができた。
(B)「食料安全保障」及び「イノベーション」
(C)信頼できるサプライチェーンの構築
野田総理から食料安全保障に関する基調発言を行い、昨
災害の影響を受けやすいアジア太平洋地域において、サ
今の食料の国際価格の高騰に対し、世界の穀物生産量の半
プライチェーンの効率性、信頼性等を向上させるためには、
分を占めるAPEC地域が冷静かつ適切な対応をするこ
APECにおいてサプライチェーンの可視化を含めた取
とが重要であることなどを指摘した。
組の推進が必要である旨発言し、賛同を得ることができた。
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への支援について、各エコノミーが自らの取組状況を報告
(D)多角的貿易体制の支持
枝野大臣から、[a]APECカザン貿易担当大臣会合で
し、今後の取組について議論した。我が国からは、小規模
合意した保護主義抑止のコミット(
[a]2015 年末までに
企業の重要性及びこれを受けた今後の中小・小規模企業対
新たな貿易制限措置を控える(スタンドスティル)旨のホ
策、海外展開支援策の推進及び事業環境整備に向けた各国
ノルル合意を再確認、
[b]既に導入された保護主義的措置
共同での取組の必要性、2010 年のAPEC中小企業大臣
の是正(ロールバック)。[c]WTO整合的であっても保
会合において合意された「岐阜イニシアティブ」に基づく
護主義的影響が強い措置の実施の自制)、[2]ITA拡大交
我が国の取組状況等を説明し、議論の結果は共同声明とし
渉の早期妥結を目指すことを呼びかけたところ、多くのエ
て取りまとめられた。
コノミーの支持を受け、閣僚宣言に盛り込まれた。
(ウ)APEC女性と経済フォーラム
2012 年6月 28 日~30 日、ロシア・サンクトペテルブル
(3) 分野別大臣会合
クにおいて、APEC女性と経済フォーラムが開催され、
(ア)APEC貿易担当大臣会合
APECの各国・地域の閣僚や国会議員、ビジネスリーダ
2012 年6月4日及び5日、ロシア・カザンにおいてA
ー、起業家、研究者などが一同に集い、
「女性と革新的経
PEC貿易担当大臣会合(MRT)が開催された。我が国
済成長」をテーマに議論を行った。我が国からは、中川正
からは、枝野経済産業大臣(当時)及び山口外務副大臣(当
春内閣府特命担当大臣(男女共同参画)
(当時)、林横浜市
時)が出席し、貿易投資の自由化・地域経済統合、環境物
長などが出席し、アジア太平洋地域の経済成長の源泉とな
品の貿易自由化、イノベーションの促進などについて議論
るのはイノベーションであり、経済における女性の潜在能
を行い、議論の成果は閣僚声明として取りまとめられた。
力を最大限に引き出し、イノベーションを誘発するオープ
貿易投資の自由化については、FTAAPの実現に向け
ンな社会を築いていくことが重要である旨や、女性のビジ
て、我が国としてTPPやRCEPなどを通じた域内の経
ネス機会を増やしたり、女性のリーダーシップ発揮を促し
済連携の取組を強化する決意を表明し、各国とも同様の認
ていくことが重要であることなどが議論され、当フォーラ
識を共有した。2011 年のホノルル首脳会議で方針が合意
ムで採択された声明の中に具体的取組が盛り込まれた。
された環境物品の貿易自由化については、2012 年9月の
(エ)APECエネルギー大臣合同会合
2012 年6月 24 日及び 25 日、ロシア・サンクトペテル
APEC閣僚会議までに「APEC環境物品リスト」を作
ブルクにおいてAPECエネルギー大臣会合が開催され、
成するため、あらゆる手段を尽くすことで合意した。
我が国からは、枝野経済産業大臣(当時)が出席した。
イノベーションについては、国境や組織の枠を超えた連
携が重要であり、このため、知財保護や内外無差別のビジ
APEC地域におけるエネルギー需要の増大、中東にお
ネス環境など、APEC域内の「信頼」の基盤を築くこと
ける地政学的リスクの高まりを受け、APEC地域におけ
の重要性を指摘した。
るエネルギー安全保障について議論を行った。我が国から
枝野大臣から、[a]保護主義に対抗するため、昨年のホノ
は、福島第一原子力発電所における事故の経験から得た知
ルルの約束を維持すること、[b]ITA拡大交渉の早期妥
識と経験を共有し、世界の原子力安全への貢献に対する決
結を目指し、取組を強化すること等を呼びかけた。閣僚声
意を示した。また、省エネルギーや再生可能エネルギーを
明とは別に、
「多角的貿易体制の支持と保護主義抑止に関
技術開発等により普及させるとともに、天然ガスの上流開
する閣僚声明」が発出され、日本の主張は、両成果文書に
発・自由貿易拡大に向けた取組が重要であるとの認識を示
盛り込まれた。
した。さらに、我が国からエネルギーの供給途絶といった
(イ)APEC中小企業大臣会合
緊急時の対応についての提案を行い、各国・地域等からの
2012 年8月3日、ロシア・サンクトペテルブルクにお
賛同を得た。
いてAPEC中小企業大臣会合が開催され、各エコノミー
今回の合意は、閣僚声明(サンクトペテルブルク宣言-
の中小企業大臣等が参加した。中小企業の国際化及び輸出
"エネルギー安全保障:挑戦と戦略的選択")としてとりま
への支援や革新的な中小企業の育成、創業及び若年起業家
とめられた。
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(D)食料安全保障(アフリカ)
3.3.G8サミットG20 サミット
アフリカの食料安全保障改善のために民間投資の活性
(1) G8キャンプ・デービッド・サミット
化を目指す「ニュー・アライアンス」につき、アフリカ首
(ア)日程・場所
脳及び民間関係者を交えて議論した。
2012 年5月 18 日~19 日、米国・キャンプ・デービット
我が国は、2013 年G8議長国である英国とも協力しつ
にてG8サミットが開催された。
つ、2013 年6月に横浜で開催される第5回アフリカ開発
参加国・地域は、G8(日本、米国、カナダ、イギリス、
会議(TICADV)を成功させるとの決意を表明した。
ドイツ、フランス、イタリア、ロシア、EU)。この他、
ベナン(アフリカ連合議長国)、エチオピア、ガーナ、タ
(2) G20 ロスカボス・サミット
ンザニアが招待された。
(ア)日程・場所
(イ)主な論点
2012 年6月 18 日~19 日にメキシコ・ロスカボスにてG
(A)世界経済
20 サミットが開催された。
欧州債務危機への対処や、財政健全化と経済成長の両立
参加国・機関は、日本、メキシコ、米国、イギリス、ド
の重要性について議論し、経済の強化・再活性化及び金融
イツ、フランス、イタリア、カナダ、ロシア、ブラジル、
ストレスとの闘いのためにあらゆる措置を採ることに合
インド、中国、南アフリカ、オーストラリア、インドネシ
意した。また、ギリシャがユーロ圏に残ることへのG8の
ア、韓国、トルコ、サウジアラビア、アルゼンチン、EU、
関心を確認した。
OECD、IMF、国際連合、世界銀行、WTO、ILO、
また、石油市場の状況を注視し、IEAに対して適切な
FAO、FSB(金融安定化理事会)であった。この他、
行動をとるよう要請する用意があるとの声明を発出した。
スペイン、カンボジア(ASEAN議長国)、ベナン(ア
我が国は社会保障と税の一体改革に関する法案の成立
フリカ連合議長国)、チリ、コロンビア、エチオピアが招
に向けて取り組むことを説明した。また、成長のためには
待された。
自由貿易が重要であり、経済連携の推進やWTO体制の維
(イ)主な論点
持・強化、保護主義抑止の重要性を主張した。
(A)ロスカボス成長と雇用のアクションプラン
(B)地域・政治情勢
成長と雇用の促進のための決意の下で団結し、成長強化
イランの核問題、シリアの人道危機、北朝鮮のミサイル
と金融安定化のため「ロスカボス成長と雇用のアクション
発射問題、ミャンマーにおける民主化の進展等について議
プラン」に合意し、各国が取り組むべき措置を提示した。
論した。また、中東・北アフリカ地域における「アラブの
我が国は、震災からの復興の加速、財政赤字の安定的低
春」から一年が経過し、地域の人々への改革の促進への願
下、サービス部門の更なる自由化、環境・医療分野等での
望に応えるためには、改革の継続が必要との認識で一致し
新産業の創出、女性の社会進出等をアクションプランに明
た。
記した。
(C)エネルギー・気候変動
(B)世界経済情勢
従来の燃料源、再生可能エネルギー及びクリーンな技術
強固で持続可能かつ均衡ある成長はG20 の最優先事項
に至る幅広いエネルギー源から適切な構成比を追求する
であり、成長、雇用創出、失業減少のためのすべての必要
とともに、既存の原子力施設の安全性に関する包括的評価
な政策措置の採用にコミットした。
や、関連条約の実施強化のためのイニシアティブを支持し
さらに、経済通貨統合の完成に向かって前進するユーロ
た。
圏の行動を支持し、銀行の監督、破綻処理及び資本強化等
また、エネルギー効率の向上、再生可能エネルギー及び
の欧州の意向を支持した。
クリーンな技術は、エネルギー安全保障、省エネ、気候変
石油価格の変動について、引き続き警戒し、必要な場合
動対策の観点からも重要であり、これらの普及促進に向け
に追加的行動を実施することを確認した。
た政策を歓迎した。
資金フローの過度の変動や為替レートの無秩序な動き
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(1) 沿革
は、経済及び金融の安定に悪影響を与えることを再確認し
第二次大戦後の欧州各国の深刻な経済的混乱を救済す
た。
べきとの米国マーシャル国務長官の提案を契機として、
(C)貿易
開かれた貿易及び投資、保護主義抑止に強くコミットし
1948 年4月、欧州の 16 か国でOEEC(欧州経済協力機
スタンドスティルのコミットメントを 2014 年まで更新す
構)が発足した。その後 1961 年9月に米国及びカナダが
ることを約束した。WTO、OECD及びUNCTADの
加わり、世界的視野に立った国際機関としてのOECD
監視活動を支持し、作業の深化を奨励した。
(経済協力開発機構)へ発展的に改組。我が国は 1964 年
に 21 か国目として加盟。2013 年現在、34 か国が加盟。
また、G20 貿易大臣会合における、グローバルバリュ
ーチェーンの国際貿易への関連性に関する議論を評価す
※OECD加盟国:イギリス、ドイツ、フランス、イタ
るとともに、WTO、OECD等に対し、本件機能分析に
リア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、フィンラン
かかる作業を加速させ、2013 年のG20 議長国ロシアの下
ド、スウェーデン、オーストリア、デンマーク、スペイン、
で進捗につき報告するよう要請した。
ポルトガル、ギリシャ、アイルランド、チェコ、ハンガリ
ー、ポーランド、スロバキア、エストニア、スロベニア、
WTOドーハ・ラウンド交渉妥結に向けて、貿易円滑化
等、進展が可能な特定の分野における作業を継続すること
日本、米国、カナダ、メキシコ、オーストラリア、ニュー
を約束し、貿易担当代表に対し、グローバル化した経済に
ジーランド、スイス、ノルウェー、アイスランド、トルコ、
おける多角的貿易体制の課題と機会について更なる議論
韓国、チリ、イスラエル
OECDの目的は、加盟国間の自由な意見交換及びピア
を行うよう指示した。
レビュー、統計の整備等を通じて、[a]経済成長、[b]貿易
(D)金融規制改革・国際通貨システム改革
IMFの利用可能資金を増加させるとのコミットメン
自由化、[c]途上国支援、の3点に貢献すること(OEC
トを歓迎し、2012 年IMF・世銀年次総会までに、2010
Dの三大目的)である。理事会の下、政策分野毎の約 30
年IMFクォータ・ガバナンス改革を完全に実施するとの
の委員会で議論が行われるとともに、閣僚理事会が年1回
コミットメントを再確認した。
開催される。サミット直前の開催が慣例であり、閣僚理事
(E)一次産品
会における経済成長、多角的貿易等についての議論はサミ
国際一次産品市場の安定を維持することの重要性を認
ットの議論に影響を与える。我が国からは、これまで、経
識した。エネルギー商品の過度な価格変動は経済不安定性
済産業大臣が外務大臣及び経済財政担当大臣とともに出
の重要な要素であることから、共同機関データ・イニシア
席している。
ティブ(JODI)石油及びガスの改善に向けて作業を行
うことを約束した。また、金融の一次産品市場において透
(2) 閣僚理事会
明性を高め、乱用を防ぐとのコミットメントを再確認した。
この他、非効率な化石燃料補助金の合理化及び段階的廃
2012 年5月 23 日~24 日、フランス・パリにおいて、
OECD加盟国の閣僚等により議論が行われた。我が国か
止へのコミットを再確認した。
らは古川経済財政政策担当大臣、山根外務副大臣及び牧野
(F)開発(包摂的グリーン成長、インフラ、食料安保)
経済産業副大臣他が出席した。今次閣僚理事会では、
「全
持続可能な経済成長、貧困削減及び雇用創出においてイ
員参加-あまねく広がる成長と雇用のための政策」(All
ンフラ投資は重要であり、途上国のインフラ開発における
on Board – Policies for Inclusive Growth and Jobs)
民間投資活用の取組を重視するよう約束した。
をメインテーマとし、
「経済的課題に対する新たなアプロ
また、リオ+20 及びUNFCCCでの合意を踏まえ、
ーチ」、成長・雇用・格差、ジェンダー平等の促進、OE
包摂的なグリーン成長を引き続き重視することで合意し
CD技能(スキル)戦略、開発戦略、OECD非加盟国と
た。
の関係、貿易等について議論された。これらの議論を通じ
て、特に、各国が必要な構造改革を進め、信頼できる財政・
3.4.OECD(経済協力開発機構)
社会政策等の適切な施策を通じて、あまねく広がる成長・
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雇用を達成することの重要性が確認された。
我が国は、2012 年度末時点でシンガポール、メキシコ、
牧野副大臣から、貿易が雇用と成長にいかに貢献するか
マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、アセ
というテーマの下、まず、貿易の果実を国民一人一人が実
アン、フィリピン、スイス、ベトナム、インド、ペルーの
感できるように、貿易自由化とともに、構造政策やマクロ
12 か国1地域との間でEPAを発効させている。また、
政策など必要な国内改革を一体的に進めることについて
韓国、GCC(湾岸協力会議)、オーストラリア、モンゴ
発言があった。また、再燃する保護主義に対抗するため、
ル、カナダ、コロンビア、日中韓の5か国2地域と交渉を
新たな保護主義的措置を執らない「スタンドスティル」と、
行っている(ただし、韓国とは 2004 年 11 月以降、交渉は
導入した保護主義的措置を是正する「ロールバック」をO
中断している)。さらに、RCEP及び日EU・EPAの
ECD諸国で決意することを主張した。上記日本の主張は、
交渉開始に合意しているほか、TPPについては交渉参加
参加国の支持を得て、閣僚声明に盛り込まれた。なお、保
を表明している。なお、現在トルコともEPA交渉に向け
護主義抑止の具体的行動について、OECDで合意するこ
共同研究を行っているところ。EPA/FTAを推進する
とは初めてのことである。
意義は、次のとおりである。
[1]域内企業間の競争と、全域内での経営資源の最適配
4.経済連携協定(EPA/FTA)、投資協定、二国間関
置が可能になることにより、企業の収益力が改善されると
係等
ともに、国内の経済構造の改革が促進される。また、相手
4.1.経済連携協定、投資協定
国・地域の我が国にとっての直接投資先としての魅力が向
(1) 経済連携協定(EPA/FTA)
上する。
経済連携協定(Economic Partnership Agreement、以下、
[2]関税の撤廃、投資の自由化、諸制度の調和等を通じ
「EPA」という。)とは、特定の二国間又は複数国間で、
て、我が国にとって重要な市場への優先的アクセスが得ら
自由貿易協定(Free Trade Agreement、以下、「FTA」
れることにより、貿易・投資の機会が拡大するとともに規
という。)の主要な要素である関税の相互引下げに加え、
模の経済による利益を享受することが可能になる。
域内のヒト、モノ、カネの移動の更なる自由化、円滑化を
[3]基本的な考え方を共有する国・地域との間で通商ル
図るため、サービス、投資、競争、人の移動の円滑化、電
ールの策定を迅速に行うことにより、WTOにおいてルー
子商取引、その他経済諸制度の調和など幅広い分野を対象
ルが形成されていない分野での制度構築を先取りするこ
とし、経済全般の連携強化を目指す協定である。
とが期待できる。また、当該ルールの浸透により、WTO
1990 年代以降、地域統合の動きは一層加速し、2013 年
での同一分野の議論において主導権を確保しやすくなる。
1月時点で、WTOのCRTA(地域貿易協定委員会:
Committee on Regional Trade Agreements)に報告されて
以下、2012 年度までの取組について説明する。
いる地域貿易協定の数は 546 件にまで達している。その背
景には、以下の理由等が考えられる。
[1]欧米諸国が経済
的関係の深い近隣諸国との間で貿易・投資の自由化・円滑
化等による経済連携を図る動きを活発化させたこと。[2]
NIEsやASEANがいち早く経済開放を推し進める
ことにより高成長を果たす中、チリ・メキシコ・ペルー等
の新興国が貿易・投資の自由化や市場メカニズムの導入へ
と経済政策を転換させ、その中でEPA/FTAを活用す
る戦略を採ったこと。
[3]2000 年代以降、WTOドーハ・
ラウンド交渉が停滞する中、世界の主要国が貿易・投資の
拡大のために積極的にEPA/FTAをむすぶようにな
ったこと。
(ア)「包括的経済連携に関する基本方針の閣議決定」以後
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の取組(総論)
のの、2004 年 11 月以降事実上中断していた。その後、李
国内市場の縮小が見込まれている中でも持続的な成長
明博大統領の就任を機に、交渉再開に向けた動きが見られ
を遂げるためには、市場としての成長が期待できるアジア
る。2008 年2月の福田総理と李明博大統領就任の日韓首
諸国や新興国、欧米諸国、資源国等のとの経済関係をより
脳会談では、日韓EPA交渉再開を検討していくことが合
深化させることで成長を取り込み、我が国の将来に向けた
意された。さらに、同年4月の日韓首脳会談では、「日韓
成長・発展基盤を再構築していくことが必要である。しか
EPA交渉再開に向けた検討及び環境醸成のための実務
し、WTOドーハ開発アジェンダ交渉が停滞する中、主要
協議」を開催することで一致した。この合意に基づき、2008
貿易国間において高いレベルのEPA/FTA網が拡大
年6月と 12 月に、課長級による実務者協議が開催された。
している一方で、我が国の取組は遅れている。
2009 年1月の日韓首脳会談では、実務者協議代表のレ
このような状況の下で、我が国は、2010 年 11 月9日に
ベルを格上げし、検討を促進していくことが合意され、同
「包括的経済連携に関する基本方針」(以下、「基本方針」
年7月と 12 月に審議官級による実務者協議が開催された。
という。)を閣議決定し、
「世界の主要貿易国との間で、世
2010 年5月の日韓首脳会談では、交渉再開に向けたハイ
界の潮流から見て遜色のない高いレベルの経済連携を進
レベルの事前協議を行うことで一致し、同年9月と 2011
める」と同時に、「そのために必要となる競争力強化等の
年5月に、交渉再開に向けた局長級事前協議が開催された。
抜本的な国内改革を先行的に推進する」ことを決定した。
さらに 2011 年 10 月には、野田総理と李明博大統領の間で
特に、「政治的・経済的に重要で、我が国に大きな利益を
行われた首脳会談で、交渉再開に必要な実務的作業を本格
もたらすEPAや広域経済連携については、センシティブ
的に行わせることが合意された。
品目について配慮を行いつつ、すべての品目を自由化交渉
日韓は、産業構造が比較的類似していると同時に、国際
対象とし、交渉を通じて、高いレベルの経済連携を目指す」
水平分業関係にある。韓国は対日貿易赤字の是正を主張し
ことが政府内で合意された。
ており、交渉再開にはまだ至っていないが、日韓EPAは、
2011 年3月 11 日に東日本大震災及び原子力発電所事故
両国企業の国境を越えた競争・協力を促進することを通じ
が発生し、震災・原発事故対応に注力したため、経済連携
て両国の生産性・効率性を向上させ、更には二国間関係に
に関する議論は一時中断したものの、震災からの復興の方
留まらず、アジア地域経済全体の一層の発展に貢献すると
針を提示した「政策推進指針」(2011 年5月 17 日閣議決
いう意味で大変重要である。
定)では、「国と国との絆の強化による開かれた経済再生」
また、日本から韓国への輸出における有税品目は総額の
が明記され、EPA/FTAについて「基本方針」を維持
62.7%を占める一方、韓国から日本への輸出における有税
していくことが確認され、経済連携に関する議論が再開さ
品目は 32.1%にとどまっており、韓国が輸入する品目の
れた。
多くに関税がかけられているため、日本にとっては、日韓
そして、国家戦略会議での議論を経て 2012 年7月に閣
EPAによる関税削減効果というメリットも期待できる。
議決定された「日本再生戦略」においては、「アジア太平
なお、韓国への輸出における主要な有税品目及びその関税
洋地域を始めとするグローバル需要の取り込みは、我が国
率は、自動車(8~10%)、化学工業製品(1~385%)、一
が経済成長を維持・増進していくためにも不可欠である」
般機械(3~13%)、電気機器(3~13%)となっており、
として、
「我が国が率先して高いレベルの経済連携を進め、
韓国の鉱工業品の関税率は概ね 6.5~8%である(2011
新たな貿易・投資ルールの形成を主導していくことが重要」
年)。
との認識が改めて示され、
「我が国として主要な貿易相手
(B)日GCC・FTA(交渉中)
を始めとする幅広い国々と戦略的かつ多角的に経済連携
バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジ
を進める」ことが定められた。
アラビア、アラブ首長国連邦からなるGCC(湾岸協力会
(イ)我が国の経済連携取組状況
議)諸国とのFTAについては、2006 年3月に物品とサ
(A)日韓EPA(交渉中断中)
ービスの分野を対象とした交渉開始に合意、4月に小泉総
日韓EPAは、2003 年 12 月にEPA交渉を開始したも
理(当時)とスルタン・サウジアラビア皇太子の共同声明
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で交渉入りを発表、2006 年9月に交渉を開始し、2007 年
12 月に第2回交渉会合を開催した。また、2013 年3月の
1月に第2回交渉を実施した。
日モンゴル首脳会談では、早期妥結に向けて精力的に交渉
この地域は、我が国の原油輸入量全体の約 75%(2011
を進めることにつき一致した。
年)を占め、また我が国からの総輸出額も 1.6 兆円に達す
日モンゴルEPAが締結されれば、モンゴルにとって初
る(2011 年)など、同諸国との間で経済関係を含めた友
めてのEPA/FTAとなるものであり(2013 年3月現在、
好的な関係を形成・維持することが、我が国のエネルギー
モンゴルはいずれの国ともEPA/FTAを締結していな
安全保障及び貿易拡大の観点から重要である。
い)、両国間の政治的・経済的つながりの強化に資するだ
さらに、日・GCC間のFTAに含まれていない分野に
けでなく、2010 年 11 月の日本・モンゴル共同声明に掲げ
ついては、GCC各国とそれぞれ二国間の枠組みを設置・
る「戦略的パートナーシップ」の構築に向けた重要なステ
強化している。例えば、カタールとはエネルギー分野や投
ップとなる。
資・ビジネス環境分野を協議する日カタール合同経済委員
(E)日カナダEPA(交渉中)
会の第7回を 2012 年 10 月に開催し、投資協定の早期締結
2011 年2月に日カナダEPAの可能性に関する共同研
を目指すことを要請した。また、オマーンとは 2013 年2
究の開始が発表され、2011 年1月までに4回の共同研究
月より投資協定交渉を開始している。
を開催し、共同研究報告書が作成された。同共同研究の報
(C)日豪EPA(交渉中)
告書をうけ、2012 年3月の日カナダ首脳会談において、
日豪EPAについては、2005年11月に開始した「日豪経
両国の実質的な経済的利益に道を開く二国間EPAの交
済関係強化のための共同研究」が2006年12月にとりまとめ
渉を開始することで一致した。第1回交渉会合は 2012 年
られた後、2007年4月に第1回交渉が開催され、2012年6
11 月に行われた。
月までに16回の交渉が行われた。日豪EPAのメリットと
日本からカナダへの輸出における有税品目は総額の
しては、関税撤廃による貿易の拡大(日豪EPAにより、
42.5%、カナダから日本への輸出における有税品目は
オーストラリアに対する輸出国との間での価格競争力が
31.5%となっている。また、カナダへの輸出における主要
向上する)、鉄鉱石及び石炭等をオーストラリアに大きく
有税品目及びその関税率は、乗用車(6.1%)、自動車部品(6
依存している我が国として、オーストラリアとのEPA締
~8.5%)、タイヤ(6.5~7%)となっている。
結により、エネルギー・鉱物資源や食料の安定確保など更
(F)日コロンビアEPA(交渉中)
なる経済関係の強化を図ることができる、といった要素が
コロンビアとの間では、まず投資協定の交渉が 2010 年
挙げられる。なお、オーストラリアへの輸出における主要
12 月に実質合意に至り、2011 年9月のサントス大統領訪
な有税品目及びその関税率は、乗用車(完成車(5%)
)、
日時に署名を行った。この機会に行われた日コロンビア首
商用車(完成車(5%)
)、自動車部品(乗用車)(5%)、
脳会談において、EPA共同研究立ち上げが合意された。
ショベルローダー(5%)など。
2011 年 11 月から 2012 年5月まで共同研究が行われ、同
(D)日モンゴルEPA(交渉中)
年7月に報告書がとりまとめられたことを受けて、同年9
モンゴルとのEPAについては、日モンゴル双方から産
月に行われた日コロンビア首脳会談にて、両国はEPA交
学官の代表の参加を得て、2010 年6月、11 月、2011 年3
渉を開催することで一致、同年 12 月に第1回交渉会合が
月の3回にわたって日モンゴルEPA官民共同研究を開
開催された。
催し、日モンゴル両国首脳にEPAの早期の交渉開始を提
(G)日中韓FTA(交渉中)
言する内容の報告書が完成した。
今後さらなる成長が見込まれるアジア太平洋地域の中
同共同研究の報告書を受け、2012 年3月の日モンゴル
で、我が国にとって中国及び韓国の経済は極めて重要な地
首脳会談において、互恵的かつ相互補完的な経済関係の構
位を占めている。特に中国は、巨大な成長市場としてます
築に向けて、日モンゴル経済連携協定(EPA)交渉を開
ますその重要性を増している。
始することで一致した。
日本との貿易を見ると、中国及び韓国はそれぞれ我が国
その後、両国は 2012 年6月に第1回交渉会合を、同年
の輸出入の 19.7%、6.1%を占めており(2012 年財務省貿易
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統計による)
、両国への輸出品目のうち、中国向けは約7
2012 年8月のASEAN+FTAパートナーズ経済大
割、韓国向けは約6割が有税品目である。
臣会合ではRCEPの交渉の目的や原則を示した「RCE
このように日中韓三か国の貿易・経済関係は非常に緊密
P交渉の基本指針及び目的」がとりまとめられた。これを
であり、FTAの枠組みを研究・模索する動きが 2000 年
受け、2012 年 11 月のASEAN関連首脳会議において、
代初頭から活発になった。2009 年に産官学共同研究の開
「RCEP交渉の基本指針及び目的」が 16 か国(ASE
始が合意され、2010 年5月の第1回会合を皮切りに、計
AN10 か国及び日本、中国、韓国、インド、オーストラ
7回の会合が開催された。2011 年 12 月の第7回研究会に
リア、ニュージーランド)の首脳によって承認され、RC
て三か国による共同研究報告書がとりまとめられ、2012
EPの交渉立ち上げが宣言された。
年3月に公表された。
基本方針には、物品・サービス・投資以外に、知財・競
同報告書は同年5月の日中韓サミットに報告され、3か
争・経済協力・紛争解決・その他事項を交渉分野とするこ
国の首脳は年内の交渉開始について一致した。その後事務
と、2015 年末までの交渉完了を目指すことが盛り込まれ
レベルの協議を経て、2012 年 11 月の日中韓経済貿易大臣
ている。
会合にて、日中韓FTAの交渉開始を宣言した。2013 年
(I)日EU・EPA(交渉開始に合意)
3月に第1回交渉会合が開催され、交渉の進め方や交渉分
EUは日本にとってアジア太平洋地域以外の最大の貿
野等について議論が行われた。
易相手であり、EUには約 2,400 社進出している。また、
(H)RCEP(交渉開始に合意)
2011 年7月には、韓国EU・FTAが暫定発効されたこ
我が国と東アジアの国々との間には、日本企業の生産拠
とから、我が国産業界には、欧州市場の競争上不利になる
点の展開を始めとして、実態として既に深い経済的な相互
ことへの懸念があり、日EU・EPAの早期実現について
依存関係が構築されている。東アジア域内では、工程間分
産業界からの要望は高い。
業や産業内貿易が拡大しており、地域全体を覆う広域EP
2011 年5月の日EU定期首脳協議において、交渉のた
Aが実現すれば、企業は最適な生産配分・立地戦略を実現
めのプロセスの開始についての合意がなされ、日本政府と
した生産ネットワークを構築することが可能となり、東ア
欧州委員会との間で、交渉の「範囲(scope)」及び「野心
ジア地域における産業の国際競争力の強化につながるこ
(ambition)」のレベルを定める「スコーピング作業」を実
とが期待される。また、ルールの統一化や手続の簡素化に
施することとなった。
よってEPAを活用する企業の負担軽減が図られる。
スコーピング作業は 2012 年5月に実質的に終了し、同
東アジア地域では、ASEAN各国との二国間EPA/
年 11 月 29 日のEU外務理事会において、欧州委員会が加
FTAや、ASEAN全体とのEPA/FTA(AJCE
盟国より交渉権限(マンデート)を取得した。
P、中ASEAN等)と同時並行で、以下の2つの広域の
これを受けて、2013 年3月に行われた日EU電話首脳
経済連携について検討が行われてきた。ひとつは、「AS
会談において、日EUのEPA/FTA及び政治協定の交
EAN+3(ASEAN10 か国+日中韓)
」による東アジ
渉開始に合意した。
ア自由貿易圏(EAFTA:East Asia Free Trade Area)
(J)TPP(交渉参加表明)
構想、もう一つは「ASEAN+6(日、中、韓、インド、
TPPは元々、シンガポール、ニュージーランド、チリ、
オーストラリア、ニュージーランド)」による東アジア包
ブルネイの四国間で 2006 年に発効した P4協定に、2008
括 的 経 済 連 携 ( C E P E A : Comprehensive Economic
年に米国、オーストラリア、ペルーが新たな交渉を行うこ
Partnership in East Asia)構想である。2011 年 11 月の
とを発表して加わり、2011 年3月より更にベトナムを加
東アジアサミットでは、ASEAN側からEAFTA及び
えて、TPP交渉として8か国で交渉が開始された。
CEPEAを踏まえた概念として、既存のASEANと6
我が国においては、2011 年 11 月のハワイAPEC首脳
か国とのEPAを統合する東アジア地域包括的経済連携
会議を前に、国内で活発な議論が行われ、APECに臨む
の枠組み(RCEP:Regional Comprehensive Economic
総理の会見において、
「TPP交渉参加に向けて関係国と
Partnership)が提案された。
の協議に入る」旨が表明された。総理の表明を受け、我が
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国は 2012 年1月からTPP交渉参加国と個別に交渉参加
度末時点で 2,833 件に達している。中でも、欧州諸国や中
に向けた協議を開始した。
国等は既に 100 件前後の投資協定を締結しており、我が国
2013 年2月に行われた日米首脳会談では、
[a]日本に
も更なる取組の推進が必要である。今後は、資源国や新興
は一定の農産品、米国には一定の工業製品というように、
経済国を中心に、実際のニーズに基づいて交渉相手国の優
両国ともに二国間貿易上のセンシティビティが存在する
先順位を付け、迅速かつ柔軟に投資協定の締結を進めるこ
こと[b]最終的な結果は交渉の中で決まっていくもので
とが求められている。
あること[c]TPP交渉参加に際し、一方的にすべての
関税を撤廃することをあらかじめ約束することは求めら
我が国の投資協定の取組状況(2012年度末時点)
れないことの3点が首脳間で明示的に確認された。
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※
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25
※
2013 年3月 15 日には安倍総理が記者会見を行い、我が
国としてTPP交渉に参加することを表明し、その旨関係
国に通知した。本記者会見において、安倍総理からは、T
PPに参加し、自由、民主主義、基本的人権、法の支配と
いった普遍的価値を共有する国々とともに、アジア太平洋
地域における新たなルールを作り上げていくことは、日本
の国益となるだけではなく、世界に繁栄をもたらす旨、発
言した。加えて、日米の二大経済大国が参画してつくられ
る新たな経済秩序はTPPの中だけでなく、RCEPやF
TAAP(アジア太平洋自由貿易圏)のルールづくりのた
たき台となるはずであると指摘した。
(K)日トルコEPA(共同研究中)
2012 年7月に第1回日・トルコ貿易・投資閣僚会合を
開催し、日トルコEPAの共同研究立ち上げに合意した。
相手国・地域
エジプト
スリランカ
中国
トルコ
香港
パキスタン
バングラデシュ
ロシア
モンゴル
シンガポール(経済連携協定)
韓国
ベトナム
メキシコ(経済連携協定)
マレーシア(経済連携協定)
フィリピン(経済連携協定)
チリ(経済連携協定)
タイ(経済連携協定)
カンボジア
ブルネイ(経済連携協定)
インドネシア(経済連携協定)
ラオス
ウズベキスタン
ペルー
ベトナム(経済連携協定)
署名
1977年1月20日
1982年3月1日
1988年8月2日
1992年2月12日
1997年5月15日
1998年3月10日
1998年11月10日
1998年11月13日
2001年2月15日
2002年1月13日
2002年3月22日
2003年11月14日
2004年9月14日
2005年12月13日
2006年9月9日
2007年3月27日
2007年4月3日
2007年6月14日
2007年6月18日
2007年8月20日
2008年1月16日
2008年8月15日
2008年11月21日
2008年12月25日
発効
1978年1月14日
1982年8月4日
1989年5月14日
1993年3月12日
1997年6月18日
2002年5月29日
1999年8月25日
2000年5月27日
2002年3月24日
2002年11月30日
2003年1月1日
2004年12月19日
2005年9月17日
2006年7月13日
2008年12月11日
2007年9月3日
2007年11月1日
2008年7月31日
2008年7月1日
2008年7月1日
2008年8月3日
2009年9月24日
2009年12月10日
2009年10月1日
スイス(経済連携協定)
インド(経済連携協定)
ペルー(経済連携協定)
2009年2月19日
2010年10月25日
2011年5月31日
2009年9月1日
2011年8月1日
2012年3月1日
※ベトナム、ペルーとの経済連携協定には投資協定を準用している
これを受けて、同年 11 月に第1回、2013 年2月に第2回
の共同研究が開催された。
4.2.アジア大洋州各国関係
(1) 日中関係
(2) 投資協定
2006 年 10 月に日中双方で発表した「日中共同プレス発
投資協定とは、特定の二国間又は複数国間で投資家及び
表」には、
「共通の戦略的利益に立脚した互恵関係」
(戦略
投資財産の保護を図ることにより、投資の円滑化を目指す
的互恵関係)を構築するため努力していくことが盛り込ま
協定である。
れ、その後、戦略的互恵関係構築のための様々な取組が進
2012 年度末現在、我が国はEPAの投資章を含めて 25
められている。
の投資協定を発効させている(参照図:我が国の投資協定
2012 年度においては、2011 年 12 月の野田総理の訪中時
の取組状況)。このほか、パプアニューギニア、コロンビ
の日中首脳会談の成果を踏まえ、経済面での互恵関係のグ
ア、クウェート、日中韓三国間、イラクとの投資協定に署
レードアップに向けて、まず、2012 年4月に東京で経済
名しており、サウジアラビア、カザフスタン、モザンビー
産業省と中国国家発展改革委員会との間で第 30 回日中高
クとは実質合意、アンゴラとは大筋合意に至っている。
(他
級事務レベル協議(次官級)が開催され、日中の経済情勢・
にも5か国と交渉中。経済連携協定については、前述のと
経済政策、省エネ・環境協力、自動車事業規制等に関して
おり。)
意見交換を行った。また、5月に北京で経済産業省と中国
一方で、世界的に投資協定は近年大幅に増加しており、
UNCTAD(国連貿易開発会議)の調べでは、2011 年
工業信息化部との間で第1回次官級定期協議が開催され、
IT、自動車、鉄鋼、化学等の個別産業政策等について意
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見交換を行った。
は、中国のレアアース等の輸出規制がWTO協定に違反す
そして、中国がサービス産業発展を重要課題に掲げる中、
る疑義があるため、米国及びEUとともに、WTO協定に
2012 年5月に北京で開催された第1回中国国際サービス
基づく政府間協議を要請した。その後、協議では解決に至
貿易交易会の記念式典に柳澤副大臣が出席し、中国商務部
らないため、日本・米国・EUの要請により、同年7月に
副部長との会談等を通じて、日本の高品質のサービスの魅
パネルが設置され、審理が開始された。
力をアピールした(ジェトロが国別最大のブースを出展)。
日本製鉄鋼製品(高性能ステンレス継目無鋼管)に対す
しかし、2012 年9月の日本政府による尖閣諸島の取得・
るアンチダンピング(AD)調査に関しては、中国製品と
保有後、中国各地で反日デモが発生し、一部暴徒が日系企
の競合性がなく、対話による解決を図ってきたが、中国側
業への破壊行為を行い、中国国内での日本製品の販売にも
はAD措置を行い解決に至らなかったので、2012 年 12 月
影響が出るなど、日中経済関係も大きな影響を受けた。
にWTO協定に基づく協議要請を行った。
2012 年9月以降、首脳級、経済分野の閣僚・次官級等の
このほか、各種対話等を通じて、日系企業のビジネス環
二国間対話・交流は実施されていない。
境改善に関する諸課題について中国側に改善を要請した。
(ア)省エネルギー・環境協力
中国は急速な経済発展に伴い、消費するエネルギー量や
(2) 日韓関係
環境負荷等が大きくなる中、省エネルギー・環境改善を一
日韓経済関係は、貿易額・投資額ともに年々増加傾向に
層促進することが国家的な目標となっているが、これは日
ある。2012 年の日韓貿易の総額は、前年に続き2年連続
中関係の発展にとっても重要な政策課題である。2012 年
で 1000 億ドルを突破し、同年の日本からの対韓投資につ
度は、8月に東京で「第7回日中省エネルギー・環境総合
いても、投資額が前年比倍増となる中、これまで主流だっ
フォーラム」が開催された。本フォーラムは、2006 年か
た部品素材分野に加え、サービス分野などにまで、分野が
ら毎年開催されているもので、日中両国の官民のリーダー
拡大した。併せて人の往来や、日韓企業のビジネスアライ
が参加し、省エネルギー・環境分野に関する政策、経験、
アンスも、ますます緊密化している。
技術などについて意見交換等を行っている。第7回フォー
経済分野における政府間のハイレベルな対話について
ラムには、日本からは枝野経済産業大臣及び細野環境大臣、
は、2012 年の5月に行われた日中韓サミットのマージン
中国からは張平・国家発展改革委員会主任が出席した。ま
において野田総理と李明博(イ・ミョンバク)大統領が、
た、日中双方の官民の代表者により、スマートグリッド、
また日中韓経済貿易大臣会合のマージンにおいて、枝野経
スマートコミュニティ等の省エネルギー分野から、水・汚
済産業大臣と朴泰鎬(パク・テホ)外交通商部通商交渉本
泥処理、リサイクル等の環境分野に至るまで、計 47 件の
部長が、それぞれバイ会談を行い、日韓EPAを含むさら
多様な協力について覚書の署名・交換が行われた。
なる強固な経済関係の構築の必要性について認識を共有
(イ)貿易投資環境上の諸課題
した。しかし、その後、同年8月の李明博大統領の竹島上
日中間の経済関係を維持・拡大するためには、貿易投資
陸問題を契機に、日韓の政治的な関係は冷え込み、困難な
におけるビジネス環境を整備する必要がある。そのため、
首脳・閣僚間の会談や次官級定期協議をはじめ、様々なレ
局面を迎えることとなった。
一方で、民間のビジネスにおいては冷え切った政治
ベル、機会を活用し、中国側に働き掛けを行っている。
関
係にそれほど大きな影響を受けることなく、2012 年の 11
レアアースを始めとするレアメタルは、我が国ハイテク
月に行われた、「第4回日韓部品素材調達・供給商談会」
産業等にとって重要な原材料であり、その安定供給は必要
では 44 社の日本企業、178 社の韓国企業が参加し、323
不可欠であるが、中国政府は環境・資源保護を理由に輸出
件の商談が行われるなど、緊密な経済関係を維持していた。
規制や生産規制を実施した。そのため、中国からの輸入依
しかし 2012 年の年末から、ウォンの対円レート上昇によ
存度が特に高いレアアースについて、我が国は、首脳級・
り、対日輸出産業への影響が懸念され始めることとなった。
閣僚級のハイレベル会談において、中国側の輸出規制の改
2012 年 12 月、韓国では5年に一度の大統領選挙が行わ
善等安定供給を要請してきた。2012 年3月には、我が国
れ、初の女性大統領である朴槿恵(パク・クネ)政権が誕
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生した。朴政権の通商政策の中でも、日中韓FTA、RC
(4) 日インド関係
EPなど日韓が中心となる地域経済連携交渉は重視され
IT産業を始めとするサービス業や製造業を中心に経
ることとなり、2013 年3月には日中韓FTAの交渉がス
済成長目覚ましいインドは、BRICsの中でも特に成長
タートした。
(1.1経済連携協定(EPA/FTA)
(キ)
が期待される国。こうした中、近年我が国との関係も急速
日中韓FTAを参照)
に緊密の度を増している。
枝野大臣は4月に訪印し、2011 年末の野田首相訪印時
(3) 日モンゴル関係
における日印間合意事項を前進させるべく、関係大臣・副
1990 年以降、民主化、市場経済化を進め、急速に発展
大臣と日印閣僚級経済対話に出席するとともに、シャルマ
するモンゴルは、石炭、レアメタル等豊富な鉱物資源に恵
商工大臣との会談や産業界を交えた政策対話を実施。主な
まれていることから、更なる成長が期待され、我が国にと
成果は以下の通り。
っても重要な資源国である。
(ア)DMIC(デリー・ムンバイ間産業大動脈構想)
安倍総理は 2013 年3月に我が国総理として7年振りに
[1]DMIC開発公社への出資に関する手続きの早期
モンゴルを訪問して首脳会談を行い、3つの精神(平和、
実施、
[2]スマートコミュニティに関する新たな政策対話
自由・民主、助け合い)を共有の上、2010 年に日モンゴ
の設置とニムラナ太陽光発電実証事業の開始、
[3]国家製
ル間で打ち立てられた「戦略的パートナーシップ」の強化
造業政策に係る人材育成等の協力に合意した。
を図るため、政治・安全保障、経済、人的交流の3本柱を
(イ)インド南部の開発
中心に具体的取り組みの進展を首脳間で合意した。経済分
日系企業の集積地である南部回廊(チェンナイ~バンガ
野における主な成果は以下の通り。
ロール)開発構想に係る基本計画(マスタープラン)につ
[1]活力ある経済のための日モンゴル経済イニシアティ
いて、年末までに骨子を策定することに合意した。
ブとして「エルチ・イニシアティブ」
(※「エルチ」
(ERCH)
(ウ)ビジネス環境の整備
とは、モンゴル語で「活力」を意味し、ここでは「活力あ
JETROによるチェンナイでのビジネスサポートセ
る経済」の含意がある。)に首脳間で合意した。
ンター新設や、ラジャスタン州ニムラナやグジャラート州
具体的には、投資促進のための環境を整備し、鉱物資源
での日系企業専用工業団地への進出支援等、日系企業のイ
等の安定的かつ持続可能な供給に向けた取り組みを積極
ンド進出支援に対する取組を歓迎した。
的に進める(投資・ビジネス環境の整備)とともに、環境
(エ)クリエイティブ産業協力
に配慮しつつ、社会の担い手を育成し、基盤整備等を支援
クリエイティブ産業協力を新しい時代の日印協力の柱
することにより、モンゴルの成長を強力に後押しする(モ
として立ち上げることに合意。あわせて、民間企業間でも
ンゴルの持続可能な経済発展への協力)こととした。
ファッション、食、アニメ、生活雑貨、ラグジャリーなど
[2]日モンゴルEPA交渉の早期妥結に首脳間で合意し
6つの協力覚書を締結し、官民一体でクール・ジャパン輸
た。
出を促進。
[3]次回日モンゴル官民合同協議会の重要性について合
(オ)エネルギー協力
意するとともに、モンゴルへの投資環境整備について首脳
第5回日印エネルギー対話を行い、省エネ、電力・石炭、
間で合意した。
原子力等の二国間協力の深化を図るとともに、共同声明を
[4]安倍総理から、タバントルゴイ炭田開発について日
発出。レアアース協力についてはインド政府の早期承認を
本企業に対する支援の期待を表明し、モンゴル側から、長
求めた。
期かつ安定的に日本に石炭を供給できるようにしたい、と
また、10 月に第6回日印エネルギー対話を行い、枝野
の意向が表明された。
大臣とアルワリア計画委員会副委員長が議長を務め、省エ
[5]第4火力発電所に対する円借款供与、二国間オフセ
ネルギー、再生可能エネルギー、電力・石炭、原子力、石
ットクレジット制度の運用、大気汚染に対する支援等モン
油・天然ガスの各分野における日印間の協力の進展を確認
ゴルの環境問題に対する支援を表明した。
し、今後も包括的に協力を深化させていくことに合意した。
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ある協定を目指し互いに協力して引き続き協議を行うこ
とを確認。
(5) 日豪関係
2012年5月東京において、枝野経済産業大臣(当時)
[2]2022 年までに日ASEANの貿易・投資を倍増する
とエマーソン貿易大臣との間で、第3回貿易大臣会合を開
こと等を目的に「日ASEAN10 年間戦略的経済協力ロ
催し、日豪EPA、資源・エネルギー、TPP、地域的経
ードマップ」を策定。
[a]互恵的な方法によるASEAN及
済連携、WTO等、二国間・多国間/地域の貿易・経済政
策について幅広い意見交換を行い、それぞれの分野におい
び東アジア地域の市場統合、
[b]より高度化された産業構
て両国が協力して前進させていくことを確認した。また、
造を目指した産業協力の強化、
[c]経済成長及び生活の質
両国間のインフラ協力を推進することを目的として、日豪
の向上を3つの柱とし、日ASEANの関係を拡大、深化
官民政策対話(第2回2011年10月東京、第3回2012年11
していくことを確認。
月キャンベラ)を開催し、両国の官民が一体となって今後
(イ)ASEAN+3(日中韓)の取組
の協力の方向性等について議論を行った。
2012 年8月 29 日にカンボジア・シェムリアップにおい
また、枝野大臣は、カー外務大臣、ファーガソン資源エ
て、第 15 回ASEAN+3経済大臣会合が開催された。
ネルギー・観光大臣及びスミス国防大臣とも会談し、日豪
概要は以下の通り。
経済関係強化につき議論を深めた。
[1]ASEAN+3の産業団体(東アジアビジネス・カ
ウンシル)と対話を実施し、中小企業政策の重要性等を確
(6) 日中韓関係
認。
2012 年5月、北京で第9回日中韓経済貿易大臣会合及
[2]日中韓FTAやRCEP等、この地域における経済
び第5回日中韓サミットが開催された。
連携について意見交換を実施。これらが域内の経済統合の
経済貿易大臣会合では陳徳銘・中国商務部長が議長を務
深化に資する重要なものであることを確認。
め、枝野経済産業大臣、朴泰鎬・韓国外交通商部通商交渉
(ウ)ASEAN+6(日中韓印豪 NZ)の取組
本部長が出席し、三国間のFTA、投資協定、そしてG20、
2012 年8月 30 日にカンボジア・シェムリアップにおい
WTOやAPECなど国際的・地域的枠組みの協力や、知
て、第 1 回ASEAN+FTパートナーズ(日中韓印豪
財分野や業界レベルの協力について議論を行った。
NZ)経済大臣会合が開催された。概要は以下の通り。
また、サミットには、日本からは野田佳彦総理、中国か
2012 年 11 月の首脳会合での正式なRCEP交渉立ち上
ら温家宝国務院総理(議長)
、韓国からは李明博大統領が
げに向け、RCEP交渉の目的や原則をまとめた「RCEP
出席し、三国間協力の進捗と今後の方向や地域・国際情勢
交渉の基本指針及び目的」をとりまとめ。高いレベルの自
等について議論をした。サミット終了後には三国首脳立会
由化を目指すこと、物品・サービス・投資のみならず、競
いのもと、関係閣僚(日本:枝野経済産業大臣及び山口外
争や知財等も含めた包括的な協定とすること、2013 年早
務副大臣、韓国:朴泰鎬外交通商部通商交渉本部長、中国:
期に交渉を開始し、2015 年末までの交渉完了を目指すこ
陳徳銘商務部長)により日中韓投資協定が署名された。
と等について合意。
(エ)ASEAN+8(日中韓印豪 NZ 米露)の取組
(7) 東アジア関係
2012 年8月 30 日にカンボジア・シェムリアップにおい
(ア)日ASEAN関係
て、第1回東アジア(ASEAN+日中韓印豪 NZ 米露)
2012 年8月 30 日にカンボジア・シェムリアップにおい
経済大臣会合が開催された。概要は以下の通り。
て、第 18 回日ASEAN経済大臣会合が開催された。概
[1]ERIAより、エネルギーユニットの立ち上げ、
要は以下の通り。
ASEAN経済共同体ブループリントの中間レビュー及
[1]2008 年に署名した日ASEAN包括的経済連携(A
びミャンマーの開発等の取組を紹介。ERIAによる活動
JCEP)協定の投資章及びサービス貿易章については
の進展が歓迎されるとともに、ASEAN及び東アジア地
2010 年 11 月より交渉が行われているところ、付加価値の
域の経済統合に向けたERIAの更なる貢献への期待が
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表明された。
ネルギー需給見通しの策定、
[2]クリーン・コール・テク
[2]東アジア地域及び世界経済の発展に向け、連結性の
ノロジーによる石炭の戦略的活用、
[3]電力インフラの最
強化、貿易・投資の円滑化・自由化の促進等の重要性につ
適化、
[4]原子力発電の安全管理、
[5]スマート都市交通
いて確認。
による運輸部門の省エネルギーの5つの調査研究に取り
(オ)日メコン関係
組むこととなった。
2012 年8月 30 日にカンボジア・シェムリアップにおい
これらERIAの活動についてはASEANや東アジ
て、第4回日メコン(日本、ベトナム、カンボジア、ラオ
アの経済閣僚及び首脳からも高く評価されており、引き続
ス、ミャンマー及びタイ)経済大臣会合が開催された。概
き、ERIAがASEAN首脳会合・東アジア首脳会合な
要は以下の通り。[1]メコン進出日系企業等のニーズと
どに貢献していくことが期待されている。
して、[a]経済回廊の活用によるメコン地域の生産ネッ
(キ)その他バイ関係
トワーク拡大、[b]ハードインフラ整備や税関手続きの
(A)日インドネシア関係
簡素化など更なる事業環境整備の必要性等が報告された。
2012 年 10 月8日、東京において、第4回「日インドネ
[2]メコン地域のさらなる経済発展のため、「メコン開
シア経済合同フォーラム」が開催され、枝野経済産業大臣、
発ロードマップ」を策定。産業界からのニーズも踏まえつ
インドネシアのハッタ経済担当調整大臣が、インドネシア
つ、2015 年までに優先的に取り組むべき案件を選定した。
におけるインフラ開発や投資環境整備、産業協力について
(カ)ERIA
議論し、両閣僚は、インドネシア政府が 2011 年に発表し
東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)は、
た「経済開発加速化・拡大マスタープラン(MP3EI)」
2006 年8月の日ASEAN経済大臣会合等において、日
の実現を後押しするため、東アジア・ASEAN経済研究
本が「東アジア版OECD」構想として設立を提案したも
センター(ERIA)による経済開発加速化・拡大委員会
のである。その後、東アジア各国の首脳級及び閣僚級の会
(KP3EI)への支援を通じてフォローアップし、2013
合等で議論され、2007 年 11 月の第3回東アジアサミット
年秋には中間報告することに合意し、インフラ整備の進捗、
(EAS)の議長声明等を踏まえ、2008 年6月3日に、
連結性の強化、個別分野における産業交流の強化等につい
スリンASEAN事務総長及び東アジア 16 か国の代表者
て取組を推進していくことを強調した。
の出席のもと設立総会が開催され、ERIAが正式に設立
2012 年 10 月9日、東京において、第3回MPA運営委
された。設立以来、
「経済統合の深化」、
「経済格差の是正」
員会を開催し、2020 年までの完工を目指す 45 件の優先事
及び「持続的経済成長」を主要な政策分野とする調査・研
業と、そのうち 2013 年末までの着工を目指す 18 件の早期
究、シンポジウム等を実施しており、東アジア首脳会議等
実施事業を定めたMPAマスタープランを承認し、そのう
の場を活用した政策の実現を目指している。
ち、ジャカルタ都市高速鉄道(MRT)建設、チラマヤ新
上記3つの柱に基づき、
FTAの比較研究を通じてRCEP
国際港整備、スカルノ・ハッタ国際空港拡張整備、アカデ
交渉に向けた検討課題を提示するとともに、ASEAN経
ミック・リサーチ・クラスター整備、ジャカルタ首都圏下
済共同体ブループリント(行動計画)の中間レビューを実
水道整備事業の5件をMPAフラッグシップ・プロジェク
施。さらに、2010 年度に策定した「アジア総合開発計画」
トとすることで一致した。
や「ASEAN連結性マスタープラン」の実行に向けたフ
2013 年1月、安倍総理はインドネシア・ジャカルタを
ォローアップや支援を実施し、ASEAN及び東アジア地
訪問し、ユドヨノ大統領と日尼首脳会談を実施。両首脳は、
域の経済統合及び経済格差の是正に大きく貢献してきた。
ジャカルタ首都圏のインフラ整備に関し、両国で合意した
さらに、2007 年1月の第2回東アジアサミット(EAS)
「MPA戦略プラン」の迅速かつ円滑な実施に向けて協力
で採択されたセブ宣言に基づいてエネルギー分野の研究
を進めていくことで一致した。
を開始しており、2012 年9月に開催されたEASエネル
(B)日ベトナム関係
ギー大臣会合では、昨今のアジアでのエネルギー情勢の変
2011 年1月、ベトナム共産党にて社会経済開発 10 か年
化を踏まえ、新たなエネルギー協力として、
[1]中長期エ
戦略の中で「2020 年までに工業国化を達成する」目標が
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決定された。我が国は外国政府として唯一のパートナーと
洋地域の平和と安定、そして繁栄の構築に向けて共に歩ん
して、[1]2020 年までのベトナム工業化に向けた戦略産
でいくこと、日タイ経済連携協定の円滑な運用やタイにお
業案の策定(産業を選択・集中的に創設・強化する方針)、
けるインフラ整備も含めて緊密に連携すること、日ASE
[2]行動計画の策定、[3]ベトナム政府・首相の決定を
AN友好協力 40 周年に当たり、ASEANの連結性強化
得た上、工業化に向けた政策の実装に関して協力。2011
を含め両国が協力すること等について合意し、また、メコ
年9月には日越間の作業部会を設置し、2011 年 10 月にベ
ン地域の連結性強化においてダウェー開発が重要である
トナム・ズン首相が来日した際に署名した日ベトナム共同
との認識を共有した。
声明においてベトナム工業化戦略への日本の協力及びベ
(D)日ミャンマー関係
トナム副首相が主宰するハイレベル委員会の設置に合意。
2012 年1月、急速に民主化が進展するミャンマーを枝野
2012 年3月、工業化を図る業種としての9業種(第1グ
経済産業大臣(当時)が訪問。経済関係の独立行政法人や
ループ:電気電子、食品加工、環境・省エネ、造船、農業
産業界の参加の下、第1回日ミャンマー閣僚級経済産業対
機械。第2グループ:繊維、二輪、自動車、製造業用鉄鋼)
話を開催。インフラ開発支援、ビジネス環境整備、資源・
を日越間で合意した。
エネルギー利用の3分野について意見交換を行い、各種支
2012 年8月、枝野経済産業大臣(当時)はベトナムを
援を進めていくことを表明。
訪問。工業化戦略ハイレベル委員会に出席し、工業化戦略
策定プロセスへの我が国の参画に合意。第二回日越閣僚級
4.3.米州関係
官民政策対話に出席し、[1]小売規制の透明性向上、電
(1) 日米関係
力の安定供給、通関・税制等の制度改善を図るとともに、
2012 年4月 30 日、訪米中の野田総理大臣(当時)は、
[2]地球観測衛星、空港、道路、発電などの重要なイン
オバマ大統領との間で日米首脳会談及び日米首脳昼食会
フラ案件の実施を加速化していくことで合意。ズン首相を
を行った。
表敬するともに、ヴィン計画投資大臣、ホアン商工大臣等
本会談では、野田総理大臣から、日米同盟が日本外交の
と会談し、戦略的パートナーシップの強化、経済・貿易・
基軸との信念を有しており、それが故に本日「日米共同声
投資等の分野における協力、インフラ案件への支援、工業
明:未来に向けた共通のビジョン」を発表できることは大
化戦略策定への協力等について意見交換を行った。
変喜ばしい、この文書には日米両国が果たす役割と責任へ
2013 年1月、安倍総理はベトナムを訪問し、ズン首相
の決意が明確に記されており、自身(野田総理)の考えも
と日越首脳会談を実施。戦略的パートナーシップを更に発
よく反映されている旨述べ、両首脳は、このビジョンを共
展させ、協力関係を強化していくこと、貿易・投資・イン
有し、日米同盟を更に深化・発展させていくことで一致し
フラ整備等の分野で協力を一層進展させること、日越友好
た。
年及び日ASEAN友好協力 40 周年に当たり、国民レベ
2012 年 11 月 20 日、ASEAN関連首脳会議出席のた
ルの交流を今後、更に強化すること等について合意した。
めカンボジア・プノンペンを訪問中の野田総理大臣は、オ
(C)日タイ関係
バマ大統領と会談を行った。
2011 年 10 月にタイ中心部を中心に発生した洪水の影響
オバマ大統領より、今回の会談を日米の特別な同盟関係
でバンコク北方アユタヤ周辺の工業団地7か所で浸水被
(extraordinary alliance)を再確認する機会としたい、
害が発生した。日本政府は、タイ洪水に関し、タイの日系
日米同盟はこの地域の繁栄と安全にとっての礎石
企業に勤務するタイ人従業員の受入れ、タイ人技術者の日
(cornerstone)であり、4月に発表した「日米共同声明:
本での研修受入れ支援、企業再建・復興・高度化のための
未来に向けた共通のビジョン」を踏まえ関係を更に強化し
人材育成支援等を実施した。
ていきたい、また経済分野でも日米は経済大国として、効
2013 年1月、安倍総理はタイを訪問し、インラック首
果的に協力を進め、雇用や経済発展の分野で世界に大きく
相と日タイ首脳会談を実施。戦略的パートナーシップをさ
インパクトを与えていくよう協力していきたいとの発言
らに発展させ、協力関係を強化していくこと、アジア太平
があった。
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これに対し野田総理より、大統領の再選に祝意を表明し
会合、2011 年2月の第2回会合、2012 年1月の第3回会
た上で、米国がアジア太平洋地域を重視する政策をとって
合に続き、2012 年5月に第4回会合、2012 年 10 月に日米
いることを歓迎し、4月に発表した共同声明に基づきお互
起業シンポジウムを開催した。「次代を担うベンチャー企
いの政策が相乗効果を出せるようにしたいと述べた。また、
業の創出を目指して」のテーマのもとに開催した上記シン
野田総理は、東アジアの安全保障環境が厳しさを増す中で、
ポジウムでは、起業家、ベンチャーキャピタリスト、有識
日米同盟の重要性はかつてないくらい高まってきており、
者などの議論を通じて、起業を目指す人達へのメッセージ
具体的な協力を進めて同盟を発展させていきたい旨発言
を発信するとともに、これまでの協議会での議論結果をと
した。
りまとめた報告書を公表した。ベンチャーは、成熟した先
2013 年2月 22 日、米国出張中の安倍総理は、オバマ大
進国経済の成長に不可欠な推進力であり、政府は、力強く
統領との間で首脳会談及びワーキングランチを行った。
急成長する新たな企業の創設に資する環境を作り上げる
安倍総理より、日本外交の基本方針を説明し、日米同盟
ことを目標とすべきとした本報告書の政策提言の一部は、
の強化は我が国の外交の基軸である旨述べた。また、より
政府の成長戦略でも取り上げられた。
強い日本は米国にとっての利益であり、より強い米国は日
本にとっての利益であることから、日本として、防衛力の
(2) 日・カナダ関係
強化や力強い経済の再生に取り組むと同時に、幅広い分野
ハイレベルの意見交換として、2012 年6月と9月に枝
で日米間の協力を強化していきたい旨述べた。また、TPP
野経済産業大臣(当時)とファスト国際貿易大臣が会談を
に関して、安倍総理から、
[1]日本には一定の農産品,米
行った他、2012 年5月にブリティッシュコロンビア州の
国には一定の工業製品というように、両国ともに二国間貿
クラーク首相の枝野大臣訪問、同9月にオリバー連邦政府
易上のセンシティビティが存在すること、
[2]最終的な結
エネルギー大臣の枝野大臣訪問、同 10 月に連邦下院国際
果は交渉の中で決まっていくものであること、
[3]TPP交
貿易常任委員会議員団の近藤経済産業副大臣(当時)訪問、
渉参加に際し、一方的に全ての関税を撤廃することをあら
及び同 11 月にカナダ商工会議所のビーティー会頭の松宮
かじめ約束することは求められないこと、の三点について
経済産業副大臣(当時)訪問等があり、両国間の経済関係
述べ、これらについてオバマ大統領との間で明示的に確認
の発展等について議論した。
し、その結果、日米の共同声明を発出、首脳間で認識を一
日カナダ政府間においては、2012 年7月に日カナダ次
致した。
官級経済協議(JEC)、2013 年1月に日カナダ貿易投資
(ア)日米クリーンエネルギー政策対話
対話(TID)を開催し、両国の貿易政策や資源エネルギ
2009 年 11 月の日米首脳合意にて設立に合意。2011 年7
ー協力等について意見交換を行った。
月の第2回対話、2012 年3月の第3回対話に引き続き、
日カナダ経済連携に関しては、2012 年3月の日カナダ
2012 年 12 月に開催された第4回対話では、東北エリアで
首脳会談において交渉を開始することで一致した後、同
の再生可能エネルギー協力等のアクションプラン、日米ク
11 月に第1回交渉が開催された。
リーンエネルギー協力のこれまでの成果の確認及び今後
の拡充について議論を行った。加えて、日米両国のエネル
(3) 日・中南米関係
ギー政策の現状に係る議論として、日本側から「革新的エ
(ア)日墨関係
ネルギー・環境戦略」の概要説明等を行い、米国側からは
2005 年に発効した日墨EPAの改善を図るため再協議
LNGの輸出許可の進捗状況などについて説明があった。
が行われ、その結果、市場アクセスの条件の更なる改善及
(イ)イノベーション・起業・雇用創出促進のための日米対
び原産地の証明手続の改正(認定輸出者による原産地申告
話
制度の導入)等を盛り込んだ日墨EPA改正議定書が
イノベーション・起業の支援、投資促進等を通じた日米
2012 年4月に発効した。
間での連携を促進し、新たな雇用を創出することを目指す
2012 年4月、東京で第7回日墨EPAビジネス環境整
日米対話が創設(2010 年5月)され、2010 年5月の第1回
備委員会が開催され、治安問題、知的財産、基準認証など
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日本側関心のメキシコにおけるビジネス上の課題の解決
鉱物資源への協力等について意見交換が行われた。
策について議論された。
枝野経済産業大臣(当時)とフェラーリ経済大臣(当時)
4.4.欧州・ロシア関係
は 2012 年6月、9月にAPEC会合の場でバイ会談を行
(1) 日欧関係
い、墨伯自動車協定見直しなど双方の関心事項についての
欧州連合(EU)は、2013 年3月現在 27 か国が加盟、
意見交換を行い、双方の貿易投資関係の更なる強化の重要
人口約5億人、GDPは世界全体の約3割を占める政治・
性を確認した。首脳レベルでも 2012 年6月に野田総理(当
経済統合体である。EUは、共通の通商政策、農業政策な
時)とカルデロン大統領(当時)がG20 の場で会談した。
どを有する世界最大の単一市場であり、単一通貨のユーロ
(イ)日伯関係
には、17 か国が参加している。我が国とEUは、民主主
2008 年7月の甘利経済産業大臣(当時)訪伯時にミゲ
義や市場経済という基本的価値観を共有するとともに、高
ル・ジョルジ開発商工大臣との間で開催について合意した、
い技術やイノベーションを有するグローバルパートナー
日伯貿易投資促進合同委員会の第6回会合が 2012 年 11
である。
月に東京で開催され、貿易投資促進、ビジネス円滑化、知
2012 年度のEU経済は、キプロス支援問題や新政権樹
的財産権といった各分野について議論が行われた。
立が難航したイタリア政局などに伴い、引き続き、経済成
2012 年、5月及び 11 月にピメンテル開発商工大臣が来
長率、失業率ともに低迷が続いたが、重債務務国の長期金
日され、枝野経済産業大臣(当時)との間で電気料金の引
利など金融面では比較的安定を保った。
き下げ等投資操業等にかかるブラジルコスト是正を求め
EUは、エネルギー・環境問題などグローバルな課題へ
る同時に日伯合弁企業の署名立会い等、日伯間の貿易投資
の対応に大きな影響力を有しており、我が国がEU及びE
促進に合意した。
Uを構成する諸国との間で戦略的な関係を構築していく
(ウ)日ペルー関係
ことは、重要である。
2012 年3月、日ペルーEPA発行。同年5月、ウマラ大
また、EUの東方拡大に伴い東欧諸国はその戦略的重要
統領が来日し野田総理(当時)と会談し 2012 年3月に発
性を増しており、EU未加盟国も含めた東欧諸国との経済
効した日ペルーEPAの円滑運用等を通じた経済関係の
関係は、日系企業の進出などを通じて、より緊密なものと
進展、二国間関係をより一層進化・発展させる等意見交換
なっている。
が行われた。
良好な日欧経済関係を維持することは、日欧双方及び世
また、ウマラ大統領訪日に合わせて東京で開催された第
界経済の発展のために不可欠であり、日EU経済連携協定
10 回日ペルー経済協議会において、二国間の経済関係強
(EPA:Economic Partnership Agreement)を通じた日
化について意見が交換行われた。
欧経済関係の強化やグローバルな課題に対する日欧共同
同年 11 月、ペルーにおいて日ペルーEPAビジネス環
での取組は、近年さらに重要となっている。
境整備小委員会が開催され、日ペルーの官民間関係者で日
(ア)日EU経済連携協定(EPA)
ペルー間のビジネス環境の改善について議論が行われた。
2007 年5月より行われていたEU韓国FTA交渉が終
2013 年3月、メリノ・エネルギー鉱山大臣が菅原副大
了し、2011 年7月に暫定発効した。欧州市場における我
臣(当時)を訪問し再生可能エネルギーの協力等について
が国企業のビジネス環境整備、及び日EU経済関係の更な
意見交換を行った。
る深化に向けて、日EU経済連携協定(EPA)の実現に
(エ)日ベネズエラ関係
向けた取組を進めている。
2009 年4月、チャベス大統領来日時に設置について合
2011 年5月の日・EU定期首脳協議において、関税、
意した、エネルギー協力会合が 2012 年4月、東京で開催
非関税措置、サービス、投資、知的財産、競争及び政府調
され、枝野経済産業大臣(当時)出席の下、石油、天然ガ
達を含む双方の全ての共有された関心事項を取り扱う、深
ス、ファイナンス等のエネルギー関連分野における協力関
くかつ包括的なFTA/EPA交渉のためのプロセスを開
係強化及び個別事項における問題解決に向けた意見交換、
始することに合意。これを受け、日・EU当局は経済連携
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の強化に向け、交渉の範囲及び野心のレベルを定める「ス
(b)日・EUビジネス・ラウンドテーブル開催
コーピング作業」を実施し、2013 年3月の日EU首脳電
日・EUの双方の主な民間企業のCEOが参加し、ビジ
話会談において、日EU経済連携協定(EPA)の交渉開
ネス環境の整備及び投資交流の促進を目的として、2012
始を合意した。
年4月3日~4日の2日間、東京において「日・EUビジ
(イ)日・EU定期首脳協議
ネス・ラウンドテーブル(BRT)
」本会合を開催(詳細
日・EU間では、首脳協議が定期的に行われており、随
後述)。本会合の事務局を担当。
時懸案事項について意見交換を行っている。
(c)研修生派遣事業(Vulcanus Program)
第 21 回日・EU定期首脳協議(日・EUサミット)は、
日・EU間の人的交流の活発化を通じて産業協力を推進
2013 年3月 25 日に予定していたが、キプロス情勢により
すべく、理工系の学部学生・大学院生を相互に派遣し、企
急遽延期となり、同日に安倍総理大臣、ファン=ロンパイ
業において研修を実施。2012 年度は、計 20 名の学生をE
欧州理事会議長及びバローゾ欧州委員会委員長による電
U7か国に派遣し、EUからは計 20 名の学生を受入れ(派
話会談が行われた。その中で、日EU両首脳は、スコーピ
遣期間は双方とも1年間)。
ング作業において到達した交渉の範囲と野心レベルに関
(B)日・EU
する共通見解に基づき、政治、グローバル、分野別協力を
BRT
日・EU産業界の対話・両政府への政策提言の場として、
対象とする協定(政治協定)及び経済連携協定(EPA)
1999 年に設置された日・EUBRTが、2012 年4月3日
の交渉の立ち上げを決定、両協定の 2013 年4月の交渉開
に第 14 回会合を東京において開催。経済産業省からは枝
始を歓迎し、両協定の可能な限り早期の締結についてのコ
野経済産業大臣、牧野経済産業副大臣(当時)が出席した
ミットメントを表明した。
他、ペルトマキ欧州委員会企業・産業総局次長、山根外務
また、日EU両首脳は、キプロス情勢、及び経済通貨同
副大臣(当時)等が出席。貿易関係・投資と規制の協力、
盟の枠組みを強化するためのより幅広い取り組みについ
ライフサイエンスとバイオテクノロジー・健康と福祉、 イ
て意見交換を行うとともに、世界経済の回復に向けた努力
ノベーション・情報通信技術(航空宇宙含む)、金融サー
として、日EU双方によりとられている政策措置の重要性
ビス・会計・税制、環境と持続可能な発展、の各テーマに
を認識しつつ、全てのG20 におけるコミットメントを履
ついて、日・EUそれぞれの代表者より報告及び討議を実
行する必要性を再認識し、この目標へ向け、G20 で協力
施した。その中で、日・EU経済関係の潜在的な成長力を
することへの期待を表明した。
更に高め、顕在化させるために、野心的でバランスの取れ
(ウ)日・EU間の通商政策・産業政策に関する対話・協力
た、互恵的かつ包括的な日EU・EPAを実現すること及
の仕組み
び中小企業支援、ライフサイエンスとバイオテクノロジー、
(A)日欧産業協力センター
ヘルスケア、情報通信技術(ICT)、航空宇宙産業、エ
1986 年に開催された日EC閣僚会合における通商産業
ネルギー及び環境などの幅広い成長分野において協力関
省(当時)と欧州委員会との合意に基づき日欧産業協力セ
係の強化について提言をとりまとめ、後日、日欧両首脳に
ンターが設立され、1987 年より事業を開始した。日本と
対しBRT議長より提言書を手交した。
EUの貿易・投資活性化、経済関係の緊密化を目指し、日
(C)その他(日EU産業政策・産業協力ダイアログ)
EUにおける産業協力を促進するため、以下の事業を実施
日EU間の産業政策やビジネス環境整備推進等に関す
している。
る意見交換、及び、産業協力の進展のレビューを目的に、
(a)日・EU経済連携強化事業
「日EU産業政策・産業協力ダイアログ」を開催している。
日・EUの経済連携の深化に向けて、日・EU双方が関
2013 年1月に実施したダイアログは、佐々木経済産業
心を有する個別政策分野ごとにセミナーを実施。2012 年
審議官(当時)及びカレハ欧州委員会企業・産業総局長の
度は、日EU・EPA、日欧省エネルギー政策、中小企業
共同議長により、ブリュッセルにおいて開催。双方の産業
の国際化等をテーマに、東京及びブラッセルにおいて計7
政策や中小企業政策の紹介、企業の社会的責任(CSR)
回のセミナーを開催し、約 680 名が参加。
と企業報告政策、原材料政策、化学政策、宇宙政策等にか
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かる協力の促進、日EUBRT及び日欧産業協力センター
うることが表明された。
にかかる支援強化につき議論がなされた。この中で、日本
(E)その他
とEUは、共通の課題に直面しているという認識の元に、
枝野経済産業大臣(当時)と 2012 年上半期のEU議長
知財、原材料、貿易など、日EU政府レベルの協力枠組み
国であった、デンマーク・デュア貿易投資大臣との間の
を構築する可能性を追求していくことが重要であること
2012 年4月、5月及び6月の3度の電話会談を通じて、
の認識共有を図った。
日EU・EPAの進め方等について議論を行い、早期交渉
(エ)日欧二国間関係
開始の方向性について認識を共有した。また、スイス・シ
日欧二国間では、EU主要国を含む各国との閣僚レベル
ュナイダーアマン経済大臣、ノルウェー・ギスケ貿易産業
での往来や、事務レベルでの定期協議等を通じて、関係の
大臣、フィンランド・カタイネン首相等の来日機会を利用
強化を図っている。
し、枝野経済産業大臣(当時)と二国間経済関係の強化、
(A)日仏関係
日EU・EPA等について意見交換を行った。
日仏間では、2013 年2月にシュヴァイツァー外相特別
また、2013 年3月 25 日、東京において、茂木経済産業
代表が来日し、茂木経済産業大臣と、産業協力や日EU・
大臣とデグフト欧州委員(貿易担当)との間で会談を行い、
EPA等について意見交換を行った。
直前に行われた日EU首脳電話会談における日EU・EP
また、2012 年 12 月7日に、生産復興省との間で、第 26
A交渉開始の合意を受け、貿易担当閣僚間でEPA交渉早
回日仏産業協力委員会をパリで開催し、経済情勢や産業政
期妥結への意思を確認した。
策等に関する意見交換を実施するとともに、新たなスキー
ムとして、繊維・ロボット・スマートコミュニティ/スマ
(2) ASEM
ートグリッドについて、WGの設置を合意した。
ASEM(アジア欧州会合:Asia-EUrope Meeting「A
(B)日独関係
SEM」
)は、アジア側参加メンバー(20 か国1機関)、
日独間では、2012 年8月にカウダー連邦議会キリスト
EU側参加メンバー(29 か国と1機関)が参加するフォ
教民主・社会同盟院内総務が来日し、枝野経済産業大臣(当
ーラムであり、アジアと欧州の政治・経済・文化といった
時)と、日EU・EPA、エネルギー政策等について意見
広範な分野にわたる協力を推進する目的で、1996 年に設
交換を行った。
立された。首脳会合は2年に1度開催されている。2012
また、2013 年2月 13 日に、連邦経済技術省との間で、
年 11 月、第 9 回ASEM首脳会合がラオス(ビエンチャ
第 15 回次官級協議(省庁間政策対話)を東京で開催し、
ン)で開催され、経済的パートナーシップの強化、政治対
経済情勢や通商政策等に関する意見交換を行った。
話の促進、地球規模の課題及びASEMパートナーシップ
(C)日英関係
の更なる強化に関し、活発に議論され、
「議長声明」及び
日英間では、2013 年2月にファロン・ビジネス・イノ
「平和と開発のためのパートナーシップの強化に関する
ベーション・技能省閣外大臣が来日し赤羽経済産業副大臣
ビエンチャン宣言」を採択した。
と、日EU・EPA、原子力協力等について意見交換を行
った。
(3) 日露・中央アジア・コーカサス関係
(D)日伊関係
(ア)日露関係
2012 年6月、APEC貿易大臣会合の開催に併せ、第
日伊間では、2012 年 10 月にイタリア・シチリア島のカ
ターニャで開催された日伊ビジネスグループにおいて、本
5回日露投資フォーラムがカザン(ロシア)で開催された。
多経済産業大臣政務官(当時)が、開会のスピーチを行っ
当省からは、経済産業大臣として初めて枝野大臣が参加し、
たほか、同会合では日伊関係者双方からEPAの両国市場
全体会合において基調講演を行い、日露経済関係が互恵的
における重要性、両国関係の発展に向け、交渉開始を求め
であることを強調した。その後、大臣立会いの下で、日露
るコメントが示されるとともに、共同コミュニケにおいて、
企業による各種プロジェクト合意書への署名(合計6件)
日EU・EPAは経済的利益を提供し、経済成長に貢献し
が行われ、また、「自動車産業と部品生産の現地化」等、
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8つの分科会が実施され、日露経済協力の可能性を追求し
開催され、両国間の経済関係の発展に向けた石油・ガス及
た。
び化学分野等における協力や、トルクメニスタンの経済発
日露間の貿易・投資は、拡大傾向にあるものの、両国の
展政策に即した両国間の協力の可能性について意見交換
経済規模を考慮すると小規模であり、拡大の余地は大きい
が行われた。
ことから、こうしたフォーラムを通じた日露ビジネスマン
の交流や、日本側ビジネスマンの意見を踏まえた上でのロ
4.5.日・中東アフリカ諸国関係
シアの貿易・投資環境整備が重要な鍵となる。
(1) 中東・北アフリカ地域
(イ)日本と中央アジア・コーカサス諸国との関係
(ア)総論
日本と中央アジア・コーカサス各国は、貿易・投資環境
中東・北アフリカ地域は大成長市場である一方で、文
整備や経済交流の活性化を図るため、経済会議の開催など
化的・地理的要因から我が国企業の進出が相対的に遅れて
二国間の経済対話を実施している。
いる市場でもある。日本としては、産業多角化・雇用創出
ウズベキスタンとの関係では、2013 年3月、タシケン
に関する協力を中心として官民一体となって日本企業の
トにおいて「第2回日本ウズベキスタン投資環境に係るワ
進出促進を図るほか、官民ハイレベルが参加する対話の場
ーキング・グループ」を開催した。ウズベキスタンにおけ
を設定し、緊密な協力関係の構築を図ってきた。その結果、
る投資環境問題に進展が見られないことを踏まえ、日本側
中東・北アフリカ地域への我が国企業の進出及び同地域か
より、現地ベースでの情報・意見交換の緊密化を目的とし
らの石油資源の安定的な確保に繋がっている。
た「実務者連絡会」の設置を提案し、同会議が設置された。
(イ)多国間関係の強化
また、その翌日には「第 11 回日本ウズベキスタン経済合
GCC諸国との間で二国間経済委員会、投資ミッション、
同会議」が開催され、ウズベキスタンの経済発展における
セミナーの開催や産業協力等を実施し、総合的な二国間関
施策についての情報交換や投資有望分野における協力等
係の構築に向けた取組を実施した。また、GCC6か国の
について意見交換が行われた。
国営石油会社等の職員を日本に招聘し、経営管理手法に関
カザフスタンとの関係では、2012 年5月、枝野大臣が
する研修事業を実施した。
出張し、アスタナにおいてマシモフ首相、イセケシェフ副
2012 年 12 月に予定されていた第3回日アラブ経済フォ
首相兼産業・新技術大臣、ムィンバエフ石油・ガス大臣等
ーラムは、同月の日本の政権交代を受け、2013 年に延期
の政府要人等と会談した。一連の会談を通じ、日・カザフ
することとなった。
スタン投資協定の交渉妥結に向けた作業の加速化、投資環
(ウ)二国間関係
境整備や経済関係強化の重要性が確認されるとともに、レ
サウジアラビアについては、2007 年に設立された「日
アアース資源、カシャガン油田開発を始めとする鉱物資
本・サウジアラビア産業協力合同タスクフォース」により、
源・エネルギー分野での協力の更なる強化が確認された。
6案件の投資の実現、3つの研修所の設立・運営、中小企
また、2013 年2月、イセケシェフ副首相参加の下で、
業政策立案の支援を実施した。2012 年5月にはナイミ石
東京において「第4回日本カザフスタン経済官民合同協議
油大臣が訪日し、茂木経済産業大臣と会談し、日本への石
会」及び「第 13 回日本カザフスタン経済合同会議」が開
油の安定供給に合意するとともに、サウジでの省エネや再
催され、イノベーション技術・産業協力分野における協力、
生可能エネルギーの普及に日本が技術協力することに合
資源開発・環境・エネルギー分野における協力及びカザフ
意した。2012 年 11 月には第4回日サ・エネルギー協議が
スタン地方開発における協力等について意見交換が行わ
リヤドにて実施され、日本とサウジアラビアのエネルギー
れた。その後、経済産業大臣室において、茂木大臣とイセ
政策や協力の枠組み等について意見交換を行った。2013
ケシェフ副首相とのバイ会談が行われ、両国間の互恵的経
年2月には茂木経済産業大臣がサウジアラビアを訪問し、
済関係の強化に関する共同声明が発出された。
ジャーセル経済企画大臣、タウフィーク商工大臣、アブド
トルクメニスタンとの関係では、2012 年7月、東京に
ルアジズ石油鉱物資源副大臣、ファラジKACARE(ア
おいて「第 10 回日本トルクメニスタン経済合同会議」が
ブドラ国王原子力・再生可能エネルギー都市(公団)
)副
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総裁と会談し、我が国への石油の安定供給や、世界の石油
給、水・鉄道等のカタールのインフラ整備への協力等につ
市場の安定化に向けたこれまでの協力関係の維持及び省
いて議論した。
エネルギー協力の強化を確認した。また、原子力分野での
バーレーンについては、2012 年4月、枝野経済産業大
人材育成や再生可能エネルギー分野での研究開発等の幅
臣が、来日したハマド国王を表敬し、二国間の経済関係の
広い協力及び、石油以外の分野での日本企業の更なる進
強化について意見交換を実施するとともに、同国王立会の
出・活動支援を行うことで一致しました。ジャーセル経済
もと、ファハロ工業・商業大臣及びミルザ・エネルギー大
企画大臣、タウフィーク商工大臣との会談では、二国間の
臣とともに、経済分野での協力に関する「バーレーンにお
産業協力タクスフォースの枠組みについて、5年間の枠組
ける製造活動の拡大に係る協力覚書」に署名した。また、
み延長の要請に応じることとした。また、2013 年2月に
2013 年3月には、茂木経済産業大臣が、来日したサルマ
は第 13 回日本・サウジアラビアビ・ジネスカウンシルを
ン皇太子と会談し、製油所等に係る二国間協力について意
ダンマンにて開催し、二国間関係について幅広く議論を行
見交換を実施した。
った。
イラクについては、2012 年5月にズィーバーリー外務
UAEについては、2012 年 11 月に本多経済産業大臣政
大臣が来日し、枝野経済産業大臣、玄葉外務大臣と経済合
務官が第2回日本・アブダビ経済協議会に出席するためア
同委員会を開催した。その際、イラクにおけるビジネス環
ブダビを訪問し、ハルドゥーン執行関係庁長官、スウェイ
境について協議した。11 月に開催されたバグダッド国際
ディ国営石油会社総裁、スウェイディ経済開発庁長官と会
見本市では、ジェトロが 1989 年以来 23 年ぶりの大規模な
談し、二国間関係の強化について議論した。また、2013
ジャパン・パビリオンを設置、日本企業 17 社・3団体が
年1月には高原資源エネルギー庁長官がワールド・フュー
同パビリオン内で電化製品、事務機器、医療機器、輸送機
チャー・エナジー・サミット出席のためアブダビを訪問し、
器などの展示を行った。翌2月には、経済産業省は、イラ
アミン国際再生可能エネルギー機関(IRENA)事務局
ク・バスラに、官民のメンバーで構成される水ミッション
長と会談した。2013 年2月には、茂木経済産業大臣がア
を派遣し、現地にて日イラク両政府主催による「日イラク
ブダビを訪問し、マンスール副首長、ハルドゥーン執行関
合同水セミナー」を行った。日本からは当省宮本製造産業
係庁長官、ダーヒリ最高石油評議会事務局長、スウェイデ
局審議官を中心に、民間企業4社が参加、イラクからは地
ィ国営石油会社総裁、スウェイディ経済開発庁長官と会談
方自治公共事業省大臣、バスラ県政府からは知事等が参加
し、二国間経済交流の更なる強化について議論した。
し、水分野での日・イラク間ビジネスの活性化に向けて意
クウェートについては、2012 年9月に、第 17 回日本・
見交換を行った。
クウェート民間合同委員会が開催され、二国間の経済分野
トルコについては、2012 年5月に枝野経済産業大臣は、
における関係強化について議論した。
来日中のエルギュン科学産業技術大臣と会談。産業、貿易、
カタールについては、2012 年4月、柳澤経済産業副大
インフラなどの分野における協力について意見交換を行
臣がカタールを訪問し、上下水管理技術に関するセミナー
った。7月には、チャーラヤン経済大臣が来日。枝野経済
に出席し、アティーヤ行政監督庁長官(首相級)
、アル・
産業大臣は玄葉外務大臣と共に、「日本国及びトルコ共和
サダ・エネルギー工業大臣を始め、カタールの水政策関係
国間の経済関係における協力枠組み設立に関する覚書」に
要人と意見交換を実施した。また、同長官及び同大臣、さ
署名し、この覚書により立ち上げられた日・トルコ貿易投
らに、ジャーシム・ビジネス通商大臣と会談し、東日本大
資閣僚会合(TRINS)を実施。日トルコEPAについ
震災に係る支援への謝意を伝えるとともに、LNG市場、
て共同研究を立ち上げることに合意した。
カタールのビジネス環境整備等について議論した。2012
イランについては、核開発問題の解決に向け、国際社会
年 10 月には、アティーヤ行政監督庁長官(首相級)、アル・
と協調し、対話と圧力の両面で働きかけを進めている。
サダ・エネルギー工業大臣が来日した際、枝野経済産業大
2010 年6月、国連安保理の対イラン制裁決議(1929 号)
臣が、榛葉外務副大臣とともに、第7回日本・カタール合
の採択に伴い、我が国は同8月に同決議の履行のための措
同経済委員会閣僚会合を行い、低廉かつ安定的なLNG供
置を閣議了解し、同9月には同決議に付随する金融資産凍
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結等の措置を実施、2011 年 12 月、2012 年3月、2013 年
における協力強化を目指して、各国の鉱物資源担当大臣と
2月には資産凍結等の対象となる法人・個人の追加指定を
の会談及び講演を行った。
行った。2011 年 12 月、米国大統領は、イランから輸入す
(注) 世界から 800 以上の資源企業、アフリカ 40 か国以上の政
る原油等の代金決済のため、イラン中央銀行等と金融取引
府が出席。2013 年は約 8000 名が参加。菅原副大臣は、南アフリ
を行った外国金融機関に、米金融機関とのドル取引を禁じ
カ、アンゴラ、モザンビーク、マラウィ、ザンビア、マダガスカ
る制裁措置を含む「国防授権法」に署名し成立 (ただし、
ルの6か国の鉱業担当大臣と会談を行った。
イラン産原油の購入を相当程度削減した国について、180
(イ)TICADフォローアップ
日間制裁の適用を免除する例外規定あり)
。我が国は米国
2008 年5月、横浜にて開催された第4回アフリカ開発
との協議の結果、2012 年3月 20 日に例外規定の適用を受
会議(TICADⅣ)を受けた動きとして、2012 年8月、
けた。一方、2012 年7月、EUはEU域内へのイランか
コンゴ民主共和国及びジンバブエ共和国にアフリカ貿易
らの原油等の輸送及びEU域内の保険会社によるイラン
投資促進官民合同ミッションが派遣された。加藤外務大臣
産原油を輸送するタンカーへの再保険の引受けが禁止さ
政務官を団長に、経済産業省、政府関係5機関(JICA,
れた。そのため、現行の再保険に代わり政府による交付金
JBIC,JETRO,JOGMEC,NEXI)、民間企業
交付契約の締結を可能とする「特定タンカーに掛かる特定
9社の計 31 名が参加し、元首クラス及び多数の閣僚との
賠償義務履行担保契約等に関する特別措置法」を 2012 年
会談や関係機関・企業関係者等との意見交換を行った。こ
6月に制定した。
うした会談や投資セミナーを通じて、各国の投資環境等に
アルジェリアについては、2013 年1月にイナメナスの
係る理解を深めるとともに、今後の対アフリカ貿易・投資
天然ガス精製プラント建設現場にて人質拘束事件が発生
促進へとつながる機会を得た。
し、エンジニアリング大手・日揮株式会社及び関連会社よ
(ウ)二国間・地域共同体との関係
り従事していた邦人 10 名を含む多数が犠牲となった。同
2007~2012 年度事業として、ボツワナにおいて、南部
年3月にユースフィーエネルギー鉱業大臣が来日し、同社
アフリカ開発共同体(SADC)諸国を対象とした地質リ
の合同慰霊式に出席したほか、大臣と会談し、当地におけ
モートセンシングセンターが開設された(2012 年2月ま
る企業活動の安全対策等について意見交換を行った。
でにJOGMECと南部アフリカ地域 10 ヶ国との間でM
その他、オマーン、イエメン、リビア、チュニジア等の
OUを締結)。2012 年5月、南部アフリカ・フォーラム
要人訪問や、経済産業省幹部出張の機会を捉え、政府要人
が東京で開催され、柳澤経済産業副大臣が出席した。SA
と、経済関係の強化に資する議論を行う等、多面的な資源
DC諸国との貿易・投資分野での関係強化について意見交
外交を実施した。
換を行った。その他アフリカ諸国からの要人の表敬を受け、
二国間の経済・資源エネルギー関係強化に資する議論を実
(2) アフリカ諸国(サブサハラ地域)
施した。
(ア)貿易・経済関係
アフリカ諸国は、豊富な天然資源を有し、人口は 2010
年に 10 億人を突破、2030 年には 15.6 億人市場になると
見込まれている。IMF見通しによれば 2016 年まで約5
~6%の高成長が続くと予測。欧米の石油メジャー、中国
企業の進出が拡大しており、日本としても資源エネルギー
の安定供給を始め、アフリカとの更なる関係強化に努めて
いる。
2013 年2月には菅原副大臣が南アフリカを訪問し、
「ア
フリカ鉱山投資会議(マイニング・インダバ)」(注)に
日本政府代表として出席。日本とアフリカの鉱物資源分野
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