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日本スコットランド学術交流講演会で講演しました
報 告 日本スコットランド学術交流講演会で講演しました 太田 広* 松田 泰明** 1.はじめに 2011年6月28日 (火)に、英国エディンバラ市におい て開催された「Japan – Scotland Academic Exchange Lecture(日本スコットランド学術交流講演会)」にお いて講演を行うとともに、ヘリオット・ワット大学等 関係機関を訪問する機会を得ましたので、その概要を 報告します。なお、この講演会は、日本とスコットラ ンドの間の学術交流の促進を図ることを目的に、在エ ディンバラ日本国総領事館が主催したものです。 2.講演会 「日本スコットランド学術交流講演会」には、エデ ィンバラ大学、ヘリオット・ワット大学等大学関係者、 スコットランド政府関係者のほか、各界より多彩な聴 講者が集まりました。講演会は「景観資源の保全と活 用」をテーマとしており、まず初めに地域景観ユニッ トリーダーの太田広総括研究監が寒地土木研究所の概 要 を 紹 介 し た 後、 「History and Development of Landscape Conservation System in Japan(日本にお ける景観保全制度の沿革と発展) 」と題し、約40分間 講演しました。続いて、地域景観ユニットの松田泰明 写真-1 講演する松田総括主任研究員(上)と 講演後、聴講者の質疑に答える太田総括研究監(下) 総括主任研究員が「Regional Development based on Driving Tourism and Michi-no-eki(ドライブ観光に なくても運営が可能か等活発な質疑が交わされ、スコ よる地域振興と「道の駅」)」をテーマに、約30分間の ットランドにおける「道の駅」の可能性などに対する 講演を行いました。 関心の高さが示されました。 講演後には質疑応答が行われました(写真-1)。風 今回、講演の冒頭に行った寒地土木研究所の研究や 致地区制度に始まり、景観法の成立に至る日本の景観 活動の紹介の中で、土木研究所では東日本大震災直後 保全の歴史を紹介した太田総括研究監の講演に対して より災害対策本部を設置して、専門技術者を被災地に は、景観法の意義などについて質問があり、これに対 派遣したことなどを写真等で紹介したところ、講演後 しては、都市に限らず、農山漁村等も含めた全国の地 の意見交換でも大震災の被害や復興について、多くの 域を対象に、良好な景観の形成を図るための新しいフ 質問や心配する声がありました。 レームを提供した意義は大きいと説明しました。次に、 地域振興のほか、交通安全や防災面など「道の駅」の 3.関係機関への訪問 多様な機能や世界に広がる道の駅を紹介した松田総括 主任研究員の講演に対しては、交通事故の防止効果に 3.1 ヘリオット・ワット大学 ついて統計的なデータはあるか、政府からの補助金が 講 演 会 の 前 日、27日( 月 )に は、Heriot-Watt 寒地土木研究所月報 №700 2011年9月 69 University(ヘリオット・ワット大学)建設環境学部 携 わ っ た18世 紀 の ス コ ッ ト ラ ン ド 人 土 木 技 術 者 長 Gareth Pender 教授を訪問し、当所の研究内容の Thomas Telford の名にちなんでいます。 紹介を行うとともに、同大学における土木工学研究に 意見交換後は、同学部の研究部長 Lynne Jack 博士 に実験水路や造波水槽等の実験施設などを案内してい ただきました(写真-2)。当所の実験施設と比べて、 規模の点では大きな施設ではありませんが、実験手法 や携帯電話を利用したフィールド試験装置の開発など 興味深い実験装置の説明も受けることができました。 3.2 在エディンバラ日本国総領事館 同じ27日(月)には、在エディンバラ日本国総領事館 において、田良原政隆総領事を表敬訪問するとともに、 広報文化担当の本山憲司領事より、日本とスコットラ ンドの文化交流、学術交流の状況についてブリーフィ ングを受けました(写真-3)。 写真-2 Pender 教授との意見交換の状況(上)と 実験施設の説明をする Jack 博士(下) ついて説明を受けました(写真-2)。同大学は、1821 年にエディンバラ工芸学校として創設され、1966年に 科学技術に関する実践教育や先端研究を中心とする高 等教育機関に移行した大学です。その名称は、16世紀 のスコットランド人慈善家 George Heriot と蒸気機関 の改良などで知られる18世紀の発明家 James Watt の 名にちなんだものです。 同学部では、研究スタッフ70人のうち、土木工学分 野の研究者は約20人で、構造工学、材料工学、地盤工 学、河川工学、環境工学などの研究を進めており、当 所の研究分野との共通項があることがわかりました。 写真-3 総領事館での田良原総領事への表敬(上)と 本山領事からのブリーフィング(下)の状況 近年では、高速鉄道の建設計画に対応して、スコット 日本とスコットランドの文化交流、学術交流につい ランドに広く分布する泥炭性軟弱地盤に関する研究に ては、工学分野での交流の歴史は長く、明治時代に多 も力を入れているとのことでした。また、将来の研究 くのスコットランド人技術者がお雇い外国人として訪 交流の可能性としては、スコットランドにおいて土木 日しました。例えば、日本各地で灯台の設計に携わっ 工学分野を有するグラスゴー大学、ストラスクライド たスコットランド人技術者 Richard Henry Brunton 大学等7大学の連合研究機関である National Telford やグラスゴー大学工学部を卒業後に来日し、工部大学 Institute が良いのではないかとの提案を受け、後日、 校(東京大学の前身)の教授を長く務めた Henry Dyer 情報提供していただけることになりました。この連合 などが知られているほか、日本からも多くの技術者が 研究機関の名称も、英国で多くの運河や橋梁の建設に スコットランドで科学技術を学びました。中でも、工 70 寒地土木研究所月報 №700 2011年9月 部大学校を卒業後、グラスゴー大学で土木工学などを 学び、フォース鉄道橋建設に携わった日本人土木技術 者渡邊嘉一は、スコットランド紙幣にその当時の姿を 見ることができます。 3.3 ジョン・ミュア・トラスト 講演会翌日の29日 (水)には、当初、環境保全 NPO である John Muir Trust(JMT:ジョン・ミュア・ト ラスト) の本部 (パース及びキンロス行政区)を往訪し、 同トラストが所有、管理するフットパスの整備や維持 管理手法等についてヒアリング調査する予定でした が、面会を申し入れた Helen McDade 政策部長が講 演会に参加してくださったことから、エディンバラ市 内で約1時間、ミーティングを行うことになりました (写真-4) 。ボランティアによる維持管理活動などに ついて説明を受けるとともに、今後行われる予定の参 加者へのアンケート調査結果についても、後日、情報 を提供していただけることになりました。 3.4 スコットランド自然遺産庁 30日 (木) には、スコットランドにおける景観政策を 写真-4 JMT の McDade 部長との意見交換(上)と SNH の Macpherson 氏との意見交換(下)の状況 含 む 環 境 政 策 の 実 施 機 関 で あ る Scottish Natural Heritage(SNH:スコットランド自然遺産庁)の本部(イ 4.おわりに ンバネス市)を往訪し、都市や田園地域における良好 な景観や環境の利活用に関する政策について、Alan 今回の講演会には、大学関係者、行政関係者だけで Macpherson 氏と3時間以上に渡りヒアリング及び意 な く、 ス コ ッ ト ラ ン ド 日 本 協 会 名 誉 顧 問 で あ る 見交換を行いました(写真-4)。公共空間の有効活用 Charles Bruce 卿など多彩な聴講者の参加を得ること について、観光面を含めた政策効果の継続的な把握や ができ、これらの参加者との意見交換を通じて、一定 きめ細かい普及啓発活動を熱心に行っていることなど の人的リンクを築くことができました。 大変印象深い話しを聞くことができました。 今後、今回の講演会を契機とした関係機関との情報 交換を進めるとともに、収集した情報を今後の研究活 動に活かして行きたいと考えています。 太田 広* Hiroshi OTA 寒地土木研究所 総括研究監 技術士(総合、建設) 松田 泰明** Yasuaki MATSUDA 寒地土木研究所 地域景観ユニット 総括主任研究員 寒地土木研究所月報 №700 2011年9月 71