...

電波の生体影響に関する最新動向 ~安全な電波利用に向けて

by user

on
Category: Documents
12

views

Report

Comments

Transcript

電波の生体影響に関する最新動向 ~安全な電波利用に向けて
電波の生体影響に関する最新動向
~安全な電波利用に向けて~
一般財団法人
電気安全環境研究所
電磁界情報センター
大久保千代次
電磁波の健康影響
科学的に立証されている影響
電波防護のための指針
これまで50年以上の研究の蓄積
1刺激作用
2
熱作用
電波によって体内に生じた誘導電流等
より刺激を感じる(100kHz程度以下)
人体に吸収された電波のエネルギーが
熱となり、全身の又は部分的な体温を
上昇させる(100kHz程度以上)
これらの作用を及ぼす電波の強さ
十分な安全率
人体に影響を及ぼさない電波の強さの指針
電波防護指針(平成2年策定、平成9年追加)
電波法に基づく規制(平成11年10月、14年6月)
電波防護指針の構成
基礎指針
人体が電磁界にさらされるとき人体に生じる各種の生体作用(体温上昇に伴う熱
ストレス、電流刺激、高周波熱傷等)に基づいて、人体の安全性を評価するため
の基本となる指針
管理指針
基礎指針を満たすための実測できる物理量(電界強度、磁界強度、電力密度、電
流及び比吸収率)で示した、実際の評価に用いる指針
基地局、放送局等
携帯電話端末等
管理環境(職業的な環境等)
5倍の安全率
一般環境(一般の住居環境等)
電磁界強度指針
局所吸収指針
対象とする空間における電界強度、磁
界強度、電力密度によって、当該空間
の安全性を評価 するための指針
身体の一部が集中的に電磁界にさらさ
れる場合において、基礎指針に従った
詳細評価を行うために使用する指針
電波防護指針値の科学的根拠
全身に電波ばく露する場合、体重1キログラム当たり4ワット
(W)のエネルギーを吸収すると、深部の体温が1度上昇して、動
物での摂餌行動が緩慢となることから、これを健康根拠とする。6
分間の平均値で4W/kg
動物(サル)の影響をそのまま人間に当てはめることは出来ないの
で、10倍の安全率を設けて、職業環境の基準値を定めて、職業者
を防護する。6分間の平均値で0.4W/kg
生活環境では、子供、老人、病人など、感受性が高い人々もいるの
で、更に5倍の安全率を設けて、一般環境の基準値を定めて、一般
の人々を防護する。6分間の平均値で0.08W/kg
電波防護に関する規制
電波の強度に対する安全施設の設置
電波の強さが基準値を超える場所に一般の人
々が容易に出入りできないよう、安全施設の設
置を義務付け。(平成11年10月)
【電波法施行規則第21条の3】
安全施設
【一般環境の電磁界強度(6分間平均値)の指針値】
周波数
f
電界強度の実効値
E(V/m)
磁界強度の実効値
H (A/m)
電力密度
S(mW/cm2)
10kHz - 30kHz
30kHz - 3MHz
3MHz - 30MHz
30MHz - 300MHz
300MHz - 1.5GHz
1.5GHz - 300GHz
275
275
824f-1
27.5
1.585f1/2
61.4
72.8
2.18f-1
2.18f-1
0.0728
1/2
f /237.8
0.163
0.2
f/1500
1
※fはMHzを単位とする周波数
携帯電話基地局からの電波の実測値
電波防護指針の構成
基礎指針
人体が電磁界にさらされるとき人体に生じる各種の生体作用(体温上昇に伴う熱
ストレス、電流刺激、高周波熱傷等)に基づいて、人体の安全性を評価するため
の基本となる指針
管理指針
基礎指針を満たすための実測できる物理量(電界強度、磁界強度、電力密度、電
流及び比吸収率)で示した、実際の評価に用いる指針
基地局、放送局等
携帯電話端末等
管理環境(職業的な環境等)
5倍の安全率
一般環境(一般の住居環境等)
電磁界強度指針
局所吸収指針
対象とする空間における電界強度、磁
界強度、電力密度によって、当該空間
の安全性を評価 するための指針
身体の一部が集中的に電磁界にさらさ
れる場合において、基礎指針に従った
詳細評価を行うために使用する指針
携帯電話端末からの電波の強度
市販されているすべての携帯電話端末は、技術基準への適合審査の過程において、最大出力
時に比吸収率(SAR)の規制値を超えていないことを確認。
端末は、基地局と通信するために必要最低限の強さの電波を出力する仕組みになっており、
通信の状態が良好なときのSAR値は、最大出力時の1/10以下になる。
比吸収率(SAR)
体に影響を与える
レベル(白内障)
省令における規制値
市販端末の値※
(最大出力時)
10gあたり
10gあたり
138 W/kg
2 W/kg
0.183W/kg ~ 1.60W/kg
(平均 0.693 W/kg)
※:平成23年6月調査時点。通信の状態によって端末からの電波の強さは大きく変わるの
で、公表されているSAR値の大きな端末は、それが小さな端末と比較していつも強い電波
を出しているわけではない。
一方、国民の電磁波へのリスク認知は・・
Googleのキーワードツール機能による
検索キワードの分析 健康影響+α
紫外線:0.01%
飲酒:0.11%
健康食品:
3.22%
食品安全:
3.78%
電磁波
9.75%
汚染食品
13.40%
放射線食品
47.82%
放射線/被ばく/
原子力:
21.87%
長期的影響
(科学的に立証されていない影響)
長期的な携帯電話使用による発がん、生殖機能、脳神経系機能、
行動、心臓血管系機能、免疫・血液系などへの健康影響は?
総務省の調査研究への取組
疫
学
研
疾病者
究
動
物
実
験
細
胞
実
験
健康な人
【ラットの頭部への電波ばく露】 【多世代ラットへの電波ばく露】
○主な成果
インターフォン研究(国際共同症例対
照研究)に参加。全体として、携帯電話
の使用により脳腫瘍の発生リスクは増
加しなかったと結論。
○主な成果
ラット頭部に、2年間(ラットの一生に相当)、電
波(携帯電話の周波数)を照射した結果、脳腫
瘍発生に影響を与えないことを確認。
【免疫細胞を用いた実験】
○主な成果
免疫細胞及び神経膠細胞への電波
ばく露実験の結果、電波がこれらの
細胞に対し、統計学的に有意な影
響を及ぼさないことを確認。
現時点では、安全基準を超えない強さの電波により、健康に悪影響を及ぼす明確な証拠は
ないことを確認。 詳細は生体電磁環境に関する検討会第一次報告書で公表予定
これらの成果を世界保健機関(WHO)が行う無線周波数電磁界のリスク評価に反映。
今後とも、携帯電話の長期的な使用による影響など継続して安全性の検証を進め、その
研究成果を広く提供していく方針。
携帯電話の疫学研究
インターフォン研究(国際的な共同研究)
WHO国際電磁界プロジェクトの一貫として携帯電話と
頭部・頚部の腫瘍発生との関連性を調査する
国際がん研究機関(IARC)が中心となって13ヶ国で
共通のプロトコールで症例・対象研究を実施(英、仏、
独、伊、ノルウェー、フィンランド、スウェーデン、デ
ンマーク、豪、ニュージーランド、加、イスラエル、日
本)。2010年5月に神経膠腫と髄膜腫の調査結果
を発表。リスクの上昇は確認されなかったと報道発
表。
携帯電話の累積通話時間
ここだけ神経膠腫が40%増加
累積通話時間
IARCの発がん性評価では
2011年5月31日にタスク会議は、無線周
波電磁界の発がん性を評価。携帯電話と脳
腫瘍(神経膠腫、聴神経鞘腫)の疫学研究
の限定的な証拠と、動物の長期ばく露実験
研究の限定的な証拠から、IARCは無線周波
電磁界を、「発がん性があるかもしれない
(2B)」とハザード評価。
分類およびその基準と例
分類及び分類基準
グループ1:発がん性がある
ヒトへの発がん性を示す十分な証拠がある場合。
グループ2A:おそらく発がん性がある
(probably)
ヒトへの発がん性を示す証拠は限定的であるが、動
物への発がん性を示す十分な証拠がある場合。
分類例 [980]
ベンゼン、アスベスト、たばこ、
アルコール飲料、X線 、紫外線、
太陽光、PCB、大気汚染、粒子
状物質 [116]
クレオソート、高熱の揚げ物作
業、 日内リズムを乱すシフト
労働、熱いマテ茶、理容・美容
労働 [73]
クロロホルム、コーヒー、ガソ
グループ2B:発がん性があるかもしれな
い(possibly) ヒトへの発がん性を示す証拠が限定的 リン、漬物、ドライクリーニン
であり、動物実験での発がん性に対して不十分な証
拠や限定的な証拠がある場合。
グ労働、超低周波磁界、無線周
波電磁界 [287]
カフェイン、原油、水銀、お茶、
ヒトへの発がん性を示す証拠が不十分であり、動物 蛍光燈、静磁界、静電界、超低
実験での発がん性に対しても十分な証拠が無い場合。 周波電界 [503]
グループ3:発がん性を分類できない
グループ4:おそらく発がん性がない
カプトラクタム[1]
注1)分類基準は通常用いられるもの。注2)表中[ ]内の数字は2015年3月時点の評価数
健康リスク評価のスケジュール
静電磁界
低周波電磁界
ELF
(>0 Hz – 100 kHz)
Static
(0 Hz)
高周波電磁界
RF
(>100 kHz – 300 GHz)
IARC
2001-2002
IARC
2001-2002
IARC
2011
EHC
2003-2006
EHC
2003-2007
EHC
2016
INTERPHONE 研究
2010年
IARC
RF-EMFの発がん性評価
WHO
RF-EMFの総合的な健康リスク評価 2016年
2011年
リスク評価の判断基準
ばく露とリスクとの間の
✓ 関連性の強さ
相対危険度はどの程度か
✓ 関連性の一貫性
✓ 量-反応関係
研究結果は一致しているか否か
ばく露量が増えると影響も増えるか
✓ 関連性を支持する実験的証拠
動物でも影響があるか
✓ 関連性を示す信頼できる生物学的メカニズム
どの様な作用で影響するか説明できるか
米国:上段は携帯電話利用者数
下段は脳腫瘍の罹患率(1984-2006)
Inskip P D et al. Neuro Oncol 2010;12:1147-1151
英国:脳腫瘍の罹患率の経年変化
de Focht , Bioelectromagnetics 32:334-339 (2011)
脳腫瘍罹患率
スウェーデン,1970-2008, 男性
人口10万人当たり
(年齢による標準化)
携帯電話の導入(1987)
出典:
スウェーデン
社会保険庁
がん登録
スウェーデン,1970-2008, 10-24歳
人口10万人当たり
(年齢による標準化)
脳腫瘍罹患率
携帯電話の導入(1987)
出典:
スウェーデン
社会保険庁
がん登録
0.0
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
10万人当たりの罹患率
脳・中枢神経系腫瘍罹患率の
年次推移
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
「がん情報サービス」
宮城・山形・福井・長崎県のデータに基づく
WHOファクトシートのリスト
181: 国際電磁界プロジェクト
(1998/5)
182: 物理的特性と生態系への影響
183: 無線周波電磁界の健康影響
(1998/5)
(1998/5)
184: 電磁界リスクの一般市民の認知
193: 携帯電話
(2014/10)
201: ビデオディスプレーユニット
205: 超低周波
226: レーダ
(1998/5)
(1998/7)
(1998/11)
(1999/6)
263: 超低周波電磁界とがん
296: 電磁過敏症
(2001/10)
(2005/12)
299: 静的な電界および磁界(2006/3)
304: 携帯電話基地局と無線ネットワーク (2006.5)
322: 超低周波の電界と磁界のばく露(2007.6)
WHOファクトシート和訳集
http://www.jeic-emf.jp/International/who/list/factsheets.html
WHO ファクトシート193
携帯電話
1998年5月
作成
2000年6月
更新
2010年5月
更新
2011年6月
更新
2014年10月
2014年10月 更新
何らかの健康影響はあるのでしょうか?
携帯電話が潜在的な健康リスクをもたらす
かどうかを評価するために、これまで20年
以上にわたって多数の研究が行われてきま
した。今日まで、携帯電話使用を原因とす
るいかなる健康影響も確立されていません。
WHO国際電磁界プロジェクトの
ホームページ
電磁界情報センターのHPから、WHO国際電磁界
プロジェクトのHPの和訳文が閲覧できます。
http://www.jeic-emf.jp/note_WHO_JAPANESE.html
WHOは近年実施した科学論文の詳細なレビューに基
づき、現在の証拠からは低レベル電磁界ばく露により
健康への影響があることは確認出来ないと結論しまし
た。ただし生物学的作用に関する知識にはなお欠落部
分があり、さらに研究する必要があります。
結
語
科学的に証明されている電波ばく露
の健康影響は電波防護指針で十分に
担保されている。
電波防護指針値を下回る電波環境の
長期的な健康影響については、今日
まで、その有害性は科学的に確認さ
れていない。
ご静聴ありがとうございました。
Fly UP