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リスク評価の失敗学
“規制科学”リテラシーを醸成しよう!
(独)産業技術総合研究所 安全科学研究部門
小野 恭子
若手による次の時代のリスク評価を考えるワークショップ
−ポスト3.11.のリスクガバナンスの失敗学−
2011年11月18日(金),於:静岡大学工学部(浜松)
内容はあくまで発表者個人の見解に基づくものであり,必ずしも組織の見解と一致するものではありません.
1
はじめに
~リスク研究者としての失敗
• 3.11直後~1ヶ月:とにかくショックで,全く仕事が手につかな
かった,それじゃだめじゃん!という思いとの戦い
• 3.11, pm2:46には,東北新幹線の車内にいた(栃木県小山市付近で
被災)
• 自分の命が助かったのはJRの技術のおかげ(新幹線が緊急停止,直
後に本震),一晩避難所に泊まる.
• 友達からリスクについて相談を受けても何も答えられない
• 高校物理の復習,半減期計算,セシウムは長引くなあ
• 5月くらいから:やっぱり何も貢献できず
• 放射線の有害性評価が非常に難しいことを知る
• 暴露評価で何か貢献できるかな?でも誰か絶対やってるだろうし.
2
リスク評価の失敗学
~取り上げる事例
• 事故直後の評価
– 放射線濃度推定ツールSPEEDI:使われず実測値ベースに
• 事故直後の迅速な評価ができることがウリだったのに,なぜ使われな
かったのだろう
• 長期的影響の評価
– 食品安全委員会が低用量の放射線影響について指標値出さず
• 意思決定がミッションだったはず.なぜ?
3
SPEEDI
(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)
• 原発事故後,周辺の放射
能濃度を拡散計算
• 原研の開発
• 放出量データがあれば1
時間後の濃度計算できる
迅速さがウリ.
ここが震災時に
動かなくなった
ため,放出量の
情報が欠落した
• 避難すべき濃度に達する
場所を予測できる
http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09030301/04.gif
4
SPEEDI
• 3.12-15 福島第一原発が(水素)爆発
• 3.17-19 米国エネルギー省が周辺上空の放射能を実測(公表は
3.25)http://energy.gov/downloads/radiation-monitoring-data-fukushima-area-32511
– 実測値があるなら,それに基づく評価になる.この時点でSPEEDIの存在
意義が大幅に薄れる.
• 3.24 SPEEDIの結果が限定的だが初めて公表.3/14あたりに出てい
れば,ヨウ素の被曝はだいぶ防げた??
• 4.26 SPEEDIの結果が公表(実際の測定値にもとづきキャリブレーショ
ンしたもの)
• 原子力安全委員会コメント
–
これらの試算結果は、放出源情報の推定におけるものを始めとして種々の不確かさを含んで
おり、実際の測定値と一致するものではありません。原子力安全委員会では、補助的な参考
情報と位置づけ、(中略)限定的な目的で利用しています。
http://www.nsc.go.jp/mext_speedi/
そんなこと,モデルなんだ
から当たり前!
それでも予測が必要な時 5
があるんだよ!
MOGRA(汎用環境負荷物質移行予測コード)
• 放射性物質等の環境負
荷物質の陸域生態圏にお
ける挙動を解析・予測す
るための汎用コード
• 原研の開発
• SPEEDIの結果ありきの
ツールなので,使われて
いない.個人的には期待
していたのに残念.
• 今からでも使えると思うけ
ど・・・
Migration Of GRound Additions
http://jolisfukyu.tokai-sc.jaea.go.jp/fukyu/tayu/ACT04J/09/0902.htm
6
なぜなぜ分析!!!
なぜSPEEDIの結果はすぐ
出なかったか
なぜ?2
なぜ?3
純粋な科学に固執
することが
科学者の誠意
リスク評価は予測の科
学であることを
理解していなかった
なぜ?1
実測値が出て
キャリブレーションし
てから出そう
不確実性を含む
結果は混乱の元
と思い込んだ
不確実な推定値でも
必要なタイミングがあることを
理解していなかった
なぜなぜ分析をしてみた感想
タイミング逃すと
SPEEDIの重要性
低下
“不確実でもないよりマシ”が共
通認識としてあれば、発信でき
ただろう。
しかし、それが受け入れら
れるには大衆の理解(リテ
ラシー)が必要だったかも
7
7
放射線の健康影響評価
• 食品安全委員会委員長からのメッセージ
~食品に含まれる放射性物質の食品健康影響評価につい
て~ (2011年7月26日)
(抜粋)
4 なお、100mSv未満の線量における放射線の健康への影
響については、(中略)追加的な被ばくによる発がん等の健
康影響を証明できないという限界があるため、現在の科学で
は影響があるともないとも言えず、
http://www.fsc.go.jp/sonota/emerg/fsc_incho_message_radiorisk20110726.pdf
え?
マジ?
8
放射線の健康影響評価(食安委)
発がん
リスク
ここまでは
科学
200人に1
人
?
↑↑↑
知りたいのはこ
のへん
100 mSv
放射線の生涯
累積曝露量
9
なぜなぜ分析!!!
なぜ食安委は指標値を出せな
かったか
なぜ?1
健康影響を証明で
きない
健康影響を証明できな
い場合の適切な決め方
があるのは知っていた
が,適用しなかった
なぜ?2
純粋な科学に固執
することが
科学者の誠意
なぜ?3
純粋な科学だけでは
指標値を決められない
ことを理解していな
かった
仮定や判断を含む
指標値は混乱の元
と思い込んだ
食品分野と放射線分野に
よる方法の違い?
エキスパートの
情報交換不足,
省庁の縦割り
なぜなぜ分析をしてみた感想
“科学じゃない部分が含まれる
のは当然”という共通認識があ
れば出せただろう.
ルーチンの手続きが決
まっていれば自信を持っ
て出せたかも.
ゼロリスク管理(閾値あり)が基本の食品分野
で,閾値なし物質の評価をしろと言われると辛
いだろうなあ
10
規制科学とは
科学的知見に
もとづく予測
・推定
(純粋)
科学
時間的制約あり,
不確実性ありの条
件下での意思決定
橋渡しとなる研究
政策(規制措置等)
これを「規制科学」と定義
11
リスク評価は規制科学!
• 化学物質のリスク評価
– (純粋)科学の知見+そこから導かれる知見に基
づく予測・推定が重要
– 不確実性のもとで何らかの定量的判断を下す
– 場合によっては政策オプションの比較結果を提
示
– 意思決定を支援
• このプロセスは,まさに規制科学だ!
12
化学物質の健康影響評価
ベンゼン(発がん物質)の場合
発がん
リスク
ここまでは
科学
科学では分からない
しかし定量的判断が
必要
100000人
に1人
0.001 ppm
(3 μg/m3)
~~~~~~~
環境基準値
1 ppm
ベンゼンの濃度
13
放射線の健康影響評価
発がん
リスク
ここまでは
科学
(20000人
に1人)
1 mSv
100 mSv
放射線の生涯
累積曝露量
14
規制科学
=科学×約束事
約束事:
え,科学じゃない部
分もあるの?!
不確実性アリの条件下で合理的な判断を行うための先
人の知恵の集積.
従来の科学とは違って,誰にでも100%信頼してもらえ
る性質のものではない.
しかし,手続きや方法論が科学的根拠・科学的推論に
より展開される(単なる“思いつき”とは明らかに異な
る!)
規制科学は,「約束事」も科
学的に取り扱う,メタな科学な
のだ!
15
「約束事」があることを認識していれば,
意思決定が合理的に
• 予測・推定の結果を(「不確実性がある」と割
りきって)合理的に使うことができる
• 意思決定手続きの透明性が担保され,合意
形成がスムーズに!
– 「どこまでが科学で」「どこまでが約束事か」を意
識した議論が可能
– 科学の進展があればいつでも(誰でも)目標値などを算出し
なおせる
• より良い約束事が出てきたら,以前の約束事を潔く捨
てること!
16
ポスト3.11のリスク評価
どうすればよい?
一度混乱すると,あとから政府(のような信頼できる機関)が
何を言っても/何をやっても信用されない
• 平時から
– 全ての人へ:リスク評価とは何かを伝える,すなわち
規制科学リテラシーの醸成(われわれの力不足だった!)
– 研究サイド:リスク推定手法の精度の向上,基準値の意
味説明
– ガバナンスサイド:リスク推定の方法と結果を,シナリオを
設定して公表しておく.許容リスクレベルの合意形成
ガバナンスの体制に関する話は,
• 非常時
永井さんヨロシク!
– ガバナンスサイド:事故時シミュレーション結果の迅速な
公表,基準値の意味説明
17
成功?(よかったこと)
• セシウム長期曝露などの対策は,これから議論して合理的な管
理を目指しても,まだ間に合う.
• その間に,規制科学リテラシーを日本に根付かせたい!
ご清聴ありがとうございました
18
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