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No110(5.17)

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No110(5.17)
2011.5.17
北海道大学保健センター
第 110号
津波のはなし
北海道大学総長
今年の3月11日、三陸海岸沖でマグニチュード9.0
の巨大海底地震が発生しました。これにより北海道
の太平洋岸から、本州の太平洋岸は巨大な津波に襲
われ、死者・行方不明者は24,000人を越え、多くの
都市が壊滅的な被害を受けました。被害の多くは津
波によるものでした。また、福島県にある東京電力
の原子力発電所は、襲われた津波により、原子炉や
使用済燃料棒の冷却水の循環ができず、現在は放射
能のため、かなりの範囲が近づけない状態となって
います。今回の大震災は、地震動によるものより、
津波による被害の方がはるかに大きかったわけです。
津波の発生要因を列挙すると次の5つとなります。
1)地震に伴う海底の断層の発生、2)海底火山の
爆発、3)島火山の爆発、4)山の崩落などによる
海面への衝撃、それに、5)原水爆の海上・海中爆
発。
海底地震による海底の断層生成により発生する津
波は、我が国で最も多く発生する津波です。太平洋
を取り囲むように、ユーラシア大陸の東側から、北
太平洋、北米、南米の西側に沿い、さらに南太平洋
の島々を通って、インドネシア南側に沿って、ユー
ラシア大陸東側に続く環太平洋地震帯は、いわゆる
プレートの境界であり、常に地震発生の危険を有し
ています。このプレート境界に発生するプレート破
壊とその時の運動により津波が発生しますが、過去
の数多くの観測データから、地震のマグニチュード
が6.4以下では、津波が発生しないことが知られてい
ます。
また、同一のマグニチュードでも、震央の深さが
浅いほど津波の危険度は高まることになります。震
央の深さが80㎞を越えると、地震のマグニチュード
が7.8程度でようやく小規模な津波が発生することに
なります。
震央の深さは、地震計と震央までの距離に較べる
とはるかに小さいため、得られる誤差が大きく、深
さを特定するには時間がかかることになります。こ
のため、津波の規模の予報には時間がかかることに
なります。このことは、沿岸域に近いところに住ん
でいる方々の、地震発生時のとるべき行動について、
示唆を与えることになります。
海底火山の爆発による津波は、1952年の明神礁の
爆発による津波がありましたが、津波の規模は大き
くありませんでした。島火山の爆発を原因とする津
波については、噴火した火山の噴出物が起こす津波
と、噴出物と同時に火山の一部が振動などで崩壊を
佐 伯
浩
起こす、山体崩壊と一体となって大きな津波を起こ
すことになります。
代表的な例では、インドネシアのクラカトア火山
が1883年に大噴火し、それにより大規模山体崩壊も
引き起こしました。それにより、大規模津波が発生
し、死者36,417人を出しました。噴出量は25立方
㎞と膨大で、これによる津波は日本をはじめ、世界
中に伝播しました。我が国の周りにも火山島がある
ので要注意です。
山の崩落などによる海面へ衝撃的な力が作用する
ことによる津波も、過去に数多く発生しています。
北海道の駒ヶ岳は、1640年の大噴火により、山頂部
が崩壊して今の形になりましたが、噴火の前に大規
模な山体崩壊が発生し、多量の土砂が噴火湾に流入
し、大津波を発生させました。対岸の有珠沿岸を直
撃し 、700人の人命が失われました 。一般に火山は 、
その噴出物で覆われているため、山体崩壊が起こり
易く、沿岸部に火山がある場合は要注意です。
同じような例は、1792年、現在の長崎県の雲仙普
賢岳の火山活動により、地盤がゆるんでいたところ
に大地震が発生し、眉山が大規模崩壊を起こし、そ
の土砂は島原の町を通って有明海に流れ込みました。
この時、島原で約5,000人の方が土砂で、対岸の天
草で約1万人の方々が津波で亡くなりました。
このほか、1954年の南太平洋ビキニ環礁での原水
爆実験によっても、我が国等で津波が観測されまし
たが、その規模は極めて小さいものでした。
以上述べたように、津波の発生要因はいろいろあ
りますが、頻度が高いのは、プレート境界で発生す
る地震によって誘発される津波です。我が国の沿岸
部の地形は複雑ですし、正確な津波の高さや到達時
間を予測するためには、津波の波源域の正確な位置
と、その変状量の分布が明らかにならねばなりませ
ん。この情報を得るには、地震が起こった後、少な
くとも一ヶ月くらいかかります。
このことは、地震及びそれに伴って起こる津波の
詳細な情報のない中で、我々は自分の安全を守るた
めの行動を取らねばならないことになります。その
ため、沿岸部において大きな地震動を感じた場合に
は、まず津波襲来を念頭におき、すぐ近くの高台に
逃げることです。高台がなければ、できるだけ高い
鉄筋コンクリート造りの建物の上に逃げることです。
過去の津波の経験や知識に基づいた行動は、かえっ
て身を危険にさらすことになります。
2011.5.17
放射線の健康への影響
−福島第一原発事故を受けて
保健センター長
武藏
学
現代科学の象徴とも言える福島第一原子力発電所が大地震とその後の大津波によって大きな被害を受け、放射線の漏洩が
続いています。原子炉の制御のために懸命の努力が行われていますが、避難を余儀なくされた市民の中には多くの震災・津
波被災者の方もおられます。二重、三重の受難にお見舞いの言葉もありません。一日も早い解決をお祈り致します。
さて、この事故に不安を感じている学生諸君も少なくないと思いますので、放射線の健康への影響について概説します。
もとより私は原子力や放射線生物学の専門家ではありませんが、本学の放射性同位元素等取扱者の健康診断を担当する者と
して、これまで学んできたことをなるべく分かり易く示したいと思います。ニュースを見たり聞いたりする時の参考になれ
ば幸いです。
Ⅰ
基本専門用語
放射性元素=放射能(放射線を出す能力)をもつ元素。原子核が不安定なため自然に放射線を放出して崩壊します。
放射線=放射性元素の崩壊や人工線源(X線発生装置など)により放射される高エネルギーの電磁波(X線、ガンマ線)や
粒子(アルファ線、ベータ線、中性子)を指す。
被曝=放射線に曝露されることを言います。
被爆=爆弾、特に原水爆の被害を受けた場合を指します。
ベクレル= 1秒間当たり何個の原子核が崩壊するかを示す単位。1秒間に放出される放射線の数とは必ずしも一致しませ
(Bq)
ん。放射能を発見したフランス人物理学者H.Bequerelに由来します。
グレイ= 吸収線量の単位。電離放射線によって物質に与えられるエネルギーが1kgあたり1J(ジュール)の時を1Gyと
-1
(Gy) する。1Gy =1 Jkg 。また、1Gy =100 rad。英国人物理学者L.H. Greyに由来する単位です。
シーベルト= 放射線の被曝量(実効線量)の単位で、被曝した放射線の種類によらず、その全身への影響の程度を表しま
(Sv)
す。吸収線量(Gy)当たりの生物学的損傷は放射線の種類、組織により変わるため、それぞれの組織ごとに
-1
吸収線量に放射線荷重係数と組織過重係数を掛け、それを全身に渡って合計したもの。1 Sv=1 Jkg 。スウ
ェーデンの放射線物理学者R.M. Sievertに由来する単位です。
Ⅱ
放射線量と人体への影響
放射線は細胞を通過しながら原子や分子を電離し、直接またはフリーラジカルを生じて間接的にDNA、mRNA、蛋白を損
傷します。その結果、細胞の損傷や細胞死を生じます。まず、被曝量と人体への影響を概観しておきましょう。
0.05 mSv
0.19 mSv
~0.5 mSv
1.0 mSv
2.4 mSv
6.9 mSv
100 mSv
500 mSv
1
Sv
2~6
Sv
4
Sv
10~30
Sv
20~300 Sv
胸部X線撮影(直接撮影)1回分
原子力発電所周辺の線量目標値(年間)
東京〜ニューヨーク航空機旅行(往復)による被曝量
胸部X線撮影(間接撮影)1回分
一般公衆の年間被曝限度(医療被曝は除く)
胃のX線集団検診(1回分)
自然放射線からの年間被曝量の世界平均
胸部CTスキャン(1回分)
有害な反応が惹起される被曝線量(しきい値)
末梢血中のリンパ球の減少
全身被曝で悪心、嘔吐(10 % の人に出現)
全身被曝で造血機能破壊による死(骨髄死)
50 % の人が骨髄死。この線量をLD50とする。
全身〜腹部の被曝で1~2週以内には100 % が死亡(腸死)。
全身〜頭部の被曝で1~2日以内には100 % が死亡(中枢神経死)
Ⅲ 放射線の健康への影響
1. 症状の出現時期による分類
放射線の健康への影響は、症状が出るまでの期間により早期反応(被曝後数日から数週の間に症状が出現)と遅発性反応
(数ヶ月 〜 数年内に症状が出現)に分けられます。テレビなどで「直ちには健康への影響は無い」と言う場合は早期反応を
指すと考えられますので、「直ちには無い」と言っても数ヶ月〜数年後に症状が出る遅発性反応を除外している訳ではないと
判断しましょう。
2. 細胞の機能と突然変異への影響
放射線の人体への影響は高線量被曝後の細胞死または細胞の機能不全による確定的影響と、体細胞の突然変異による癌の
発生または生殖細胞の突然変異による被曝した個人の子孫への遺伝的影響をもたらす確率的影響の2つに大別されます。確
定的影響=有害な組織反応、確率的影響=癌および遺伝的影響と言い換えることもできます。
1)確定的影響 Deterministic effect
「先立つ現象(被曝)により(有害な反応の)原因が確定されている」という意味で確定的影響と言われます。有害な反
応が惹起される被曝線量(「しきい値」と呼ばれる)は1回の被曝による場合も、低線量を反復した年間被曝の場合も100m
Svと考えられています。
早期(数日 〜数週間)の組織反応は細胞からのサイトカインの放出による炎症または細胞喪失に起因する反応です。皮膚
では赤くなったり、毛が抜けたり、ただれや潰瘍ができます。遅発性反応には早期反応の結果として現れるものと(結果的
反応)、直接的なもの(一般的反応)があります(次面に続く)。
2011.5.17
組
織
早期反応
晩発性反応
皮膚
発赤、脱毛、びらん、潰瘍
色素沈着、萎縮、癌など
消化管
嘔吐、出血(急性炎症)
狭窄、閉塞、穿孔、癌など
肺/腎臓
毛細血管拡張、浮腫、上皮脱落
肺線維症/放射線腎臓炎
造血組織
リンパ球や白血球などの減少
白血病、再生不良性貧血
2)確率的影響 Stochastic effect
放射線による体細胞の突然変異に基づく癌の発生や生殖細胞の突然変異による子孫への遺伝的影響を言います。100mSv
以上では、線量の増加はそれに正比例して放射線起因の発癌または遺伝性影響の確率の増加を生じることが証明されていま
すが、100mSv以下の低線量域における影響は専門家によっても意見が異なります。しかし、国際放射線防護委員会の勧告
では「直線しきい値無し」仮説(LNTモデル)に基づいて、100mSv以下の低線量域においても被曝線量の増加はそれに比
例して放射線起因の発癌または遺伝性影響の確率の増加を生じるとしています。従って100mSv以下の低線量だからと言っ
て、癌または遺伝性影響は皆無とは言えません。
1Svの被曝を100人が受ければ、5.5人に癌が発生(遺伝性影響は0.2人に発現)すると算定されていますので(名目確
率係数 )、100mSv (0.1 Sv)の被曝では100人当たり0.55人に癌が発生することになり、少ないとは言えゼロではないの
です。また、癌は複数の原因が重なって多段階的に発生すると考えられており(発癌多段階説 )、放射線はDNAに障害を生
じるイニシエーターの一つと考えられていますので、その影響を避けるにこしたことはありません。放射線による悪性腫瘍
は白血病、乳癌、脳腫瘍、甲状腺癌、肺癌が一般的です。
3. 放射線感受性
同じ量の放射線であっても、人や臓器によってその影響は異なります。これを放射線感受性と言いますが、発生の初期ほ
ど(若いほど)、細胞分裂の盛んな臓器ほど感受性は高くなります。従って、胎児や子供への影響を十分考慮しなければなり
ませんし、細胞分裂の盛んな生殖細胞、消化管粘膜、骨髄、皮膚などへの影響は大きいのです。細胞レベルでは細胞分裂能
の高い未熟な細胞ほど感受性が高くなります。実は成熟リンパ球が最も放射線感受性が高い細胞ですが、形態の上では成熟
しているリンパ球もマイトージェンと呼ばれる刺激が存在すると旺盛に細胞分裂する能力を持っているからと考えられます。
最後に、いたずらに怖がるのでは無く、根拠に基づいて注意することが重要です。今回の大震災は、想定すべきリスクに
ついて再度考え直す必要性ももたらしました。これを教訓により安全な社会を造っていく責務が生き残っている者にはある
と思います。
参考文献 日本アイソトープ協会 『国際放射線防護委員会の2007年勧告』、2009年
福井次矢、黒川清監修 『ハリソン内科学 第3版』、MEDSi、2009年
北海道大学 『北海道大学放射性同位元素等取扱者 教育訓練テキスト』
舘野之男 『放射線と健康』、岩波新書、2001年
佐藤満彦 『“放射能”は怖いのか 放射線生物学の基礎』、文春新書、2001年
謝辞:専門的な部分については北海道大学放射性同位元素等管理委員会委員長の幸田敏明教授に御多忙なところを御校閲
頂きました。感謝申し上げます。
Intermission
「春の光 」
坂田
勲 氏 Isao Sakata
元北方生物圏フィールド科学センター事務長
2011.5.17
インフルエンザについて(2011.3.18現在)
2009年6月から流行したパンデミック2009H1N1(AH1)は2010年春には沈静化しましたが、2010年末から第2
波が流行し始め、2011年1月中旬にピークとなりました。その後は減少し、2月下旬からは保健センター外来でのA型イン
フルエンザ例は認められていません。全国的にも1月第3週をピークに報告数は減少し、現在は1定点医療機関当たり10人
余/週です(但し、山口、広島、青森各県では増加傾向)。AH1の減少に伴い香港型(AH3)とB型の検出割合が増加しつつ
あります。引き続き手洗い/うがいを行い、十分な睡眠、適切な湿度の維持を心がけて下さい。
<インフルエンザと診断されたら>
1)所属部局の教務係へ報告、2)講義、部活、アルバイトは休んで安静と十分な水分補給、3)解熱後も2日間は自宅静
養、4)タミフルが投与された時には症状が軽快しても5日間服用し、タミフル耐性ウイルスの出現を抑える、 5)治療し
ていても解熱しない、強い咳、胸痛などが出る時には肺炎の可能性があるので病院を受診。
1.うがい、手洗い 及びマスク の着用の励行
2.咳やくしゃみの時にはテイッシュやハンカチで口や鼻をおおうこと
(関連情報)
○外務省海外安全ホームページ
○厚生労働省ホームページ
○国立感染症研究所
http://www.anzen.mofa.go.jp/
http://www.mhlw.go.jp/
http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/index.html
○WHO
http://who.int/csr/disease/swineflu/en/index.html
○CDC
http://www.cdc.gov/swineflu
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月刊 ほけかんだより第110号
平成23年(2011)5月17日発行
編集・発行 国立大学法人北海道大学
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