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「ロジスティックスの観点から見たインドネシア産業の輸出競争力」

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「ロジスティックスの観点から見たインドネシア産業の輸出競争力」
国際協力銀行・インドネシア大学共同調査
「ロジスティックスの観点から見たインドネシア産業の輸出競争力」
−第2回共催セミナー「インドネシアの輸出競争力強化に向けて:産業発展への挑戦に応じて」の報告−
環境審査室次長
*1
米田 篤裕
*2
大出 一晴
と(輸出志向の)海外直接投資(FDI)招聘に努
はじめに
めるべきで、これにより高い経済成長と雇用機会
2005年9月12日、国際協力銀行(JBIC)とイン
ドネシア大学経済学部社会経済研究所(以下
*3
の創出が期待できることから、FTAの早期締結、
健全な金融財政政策の遂行をはじめとして、輸出
LPEM-FEUI )は、第2回の公開共催セミナー
志向の直接投資を一層招聘するような施策を採用
「インドネシアの輸出競争力強化に向けて:産業
し、インドネシア経済の「高コスト体質」を是正
発展への挑戦に応じて」を、ジャカルタにおいて
開催した。
する必要がある、という共通認識であった。
第1回共催セミナーにおいて、①中間投入財に
*4
本セミナーは、マリー・パンゲスツ貿易大臣 、
対する関税率の緩和、②インフレの抑制、③投資
慶応大学木村福成教授他の参加を得て行われた昨
法の改正など、他の東アジア諸国と相対的に劣る
年9月の第1回共催セミナー「インドネシアの貿
投資環境の改善が指摘された。3つの指摘につい
易・投資政策:インドネシアと国際生産ネットワ
て検討をすすめたうち、①については、EPA協
ーク」において得られた共通認識に基づき、課題
議等が既に開始されていること、②については、
解決に向けての具体的施策の提言を目指したもの
健全な金融財政政策の前提として、時限立法で設
である。
立された銀行再生庁(IBRA)が活動を終え、イ
すなわち、1990年代に構築された東アジア地域
ンドネシアの銀行部門は財務的に健全性が回復さ
の生産・物流ネットワークにより、多国籍企業の
れたのか、また、銀行部門を利用するインドネシ
巨大な投資資金の流入と技術伝播が域内各国に高
アの企業は銀行部門からの資金調達についていか
い経済成長をもたらしたが、インドネシア経済の
に評価しているのか、という点で別途の調査を本
現況については、投資家によるインフラの状態、
行が行ったこと(後述セミナー概要、第1セッシ
貿易・投資政策への評価が低かったことから、い
ョン参照)から、③について、いかにしてインド
わば乗り遅れた状態にあると言える。天然資源輸
ネシアからの輸出競争力を高めるかを念頭に、イ
出や国内市場規模にもっぱら期待するのではな
ンドネシアにおけるロジスティクス(物流)コス
く、アジア周辺諸国と同じように、東アジア域内
トの実態分析を行い、必要な問題解決策に関し、
の生産・物流ネットワークを活用して、輸出拡大
JBICとLPEM-FEUIでの共同調査による提言を行
*1
開発金融研究所 前次長
*2
株式会社 日通総合研究所 経営コンサルティング部 研究主査
*3
インドネシア語正式名称 Lembaga Penyelidikan Ekonomi dan Masyarakat Fakultas Ekonomi Universitas Indonesia
*4
当時、インドネシア戦略国際問題研究所に所属。
2005年11月 第27号
15
うべく検討をすすめた(後述、同第2セッション
(報告2)
「アジア危機後のインドネシアの経
参照)
。ロジスティクス・コストの削減は、輸出
済改革と上場企業の財務分析−企業
価格競争力の強化に直接的に効果を及ぼすため、
の資金調達の問題点と対応策」
インドネシア企業のみならず、本邦企業にとって
一橋大学大学院 奥田英信教授
もインドネシアにおける立地条件の改善を示すも
*6
(コメント)国際協力銀行 西沢利郎国際金融
のであり、FDIの受け入れ環境改善でもある。尚、
第一部次長
本共同調査で行ったロジスティクス・コストに関
インドネシア輸出入銀行
する現地実地調査及び実態分析はインドネシアで
Tri Utami R. Nugroho副総裁
*7
Mrs.
(第2セッション)
は初めての調査である。
「ロジスティクスの観点から見たインドネシ
1.第2回共催セミナーの概要
ア産業の輸出競争力」
議長:LPEM-FEUI Dr. Arianto A. Patunru
共催セミナーには、現地日系企業駐在員をはじ
め、インドネシア中央銀行、EKUIN(経済金融
産業調整庁)などのインドネシア政府部門、民間
研究部長
挨拶 BAPPENAS Dr. Komara Djaja調査部
長
企業、金融機関、学識経験者、報道関係者など
(報告)
「
(LPEM-FEUI/JBIC共同調査)ロジ
100名程の参加者を得た。午前と午後の2つのセ
スティクスの観点から見たインドネシ
ッション(以下プログラム参照)を設ける形式で、
ア産業の輸出競争力−輸出産業のロジ
インドネシアの輸出競争力強化に向けての意見交
スティクスにおける非効率性」LPEM-
換が行われた。
FEUI Dr. Maddremmeng Panennungi
教授
第2回JBIC/LPEM-FEUI共催セミナー・プロ
(コメント)慶応大学経済学部 木村福成教授
グラム
事業競争監督委員会 Dr. Faisal
(開会の辞)国際協力銀行 ジャカルタ事務所
Basri委員長
広田幸紀首席駐在員、EKUIN Edy
インドネシア商工会議所
(KADIN)
Putra Irawadi SH副調整大臣
Dr. Tulus Tambunan理事
(第1セッション)
国際協力銀行 広田幸紀首席駐在
「インドネシアの銀行部門の財務健全性と期
待される役割」
議長:LPEM-FEUI
員
(閉会の辞)インドネシア中央銀行
Dr. Widyono Soetjipto研
Dr. Miranda Goeltom上級副総裁
究部長
挨拶 インドネシア中央銀行 Dr. Hartadi A.
Sarwono調査部長
Irawadi SH副調整大臣が、前月に発表された「経
(報告1)
「インドネシア銀行部門の再生−銀
*5
*5
第1セッションおいては、EKUINのEdy Putra
済政策パッケージ」の紹介をはじめ、政府・中央
行統合の経済的分析と効果」
銀行が協力して金融財政政策を遂行する姿勢を確
東京大学大学院 伊藤隆敏教授、中
認した。また、2009年までの今期5ヵ年計画下で
央大学専門職大学院 原田喜美枝助
の(1)輸出促進と投資招聘を通じての経済成長
教授
促進、
(2)雇用創出、
(3)農業及び農村部の活
報告1の内容は、国際協力銀行「開発金融研究所報」2005年7月(第25号)及び“JBIC Review August 2005(No.12)
”に該当論
文が掲載されているので参照されたい。
*6
報告2の内容は、国際協力銀行「開発金融研究所報」2005年7月(第25号)及び“JBIC Review August 2005(No.12)
”に該当論
文が掲載されているので参照されたい。
*7
16
PT.Bank Ekspor Indonesia
開発金融研究所報
性化を通じた所得格差の是正と貧困の削減への政
インフラの不足等があっても、インドネシアの繊
策が解説された。伊藤教授・原田助教授による報
維衣料産業の国際競争力が、市場の拡散などによ
告1では、2003年までの時限立法による銀行再生
り近年向上しているとする調査の報告を行なっ
庁(IBRA)の活動の後、銀行セクターの回復基
た。質疑応答では、Dr. Chatib Basri LPEM-FEUI
調が実質ベースで確認されたこと、銀行部門の民
所長も議論に加わり、製品の入手可能性・品質・
営化が必ずしも事業及び市場評価の改善に結びつ
費用原価・現地調達比率などインドネシアの輸出
くとは限らないことが報告された。奥田教授は報
競争力はどこに求められるべきか、インドネシア
告2で、上場企業は合理的な資金調達行動が認め
のロジスティクス・コストの非効率性はどこまで
られるものの、担保が十分に提供できないことか
インドネシア企業の責に帰されるのか、日本の対
ら銀行部門を通じた資金調達ができていないこ
米輸出とインドネシアの対米輸出を例にとった場
と、長期借り入れが困難であること等の現状での
合の要因比較、インフラ整備に関するインドネシ
問題点を調査結果として報告した。また、回復途
ア政府の姿勢などにつき、議論がなされた。また、
上にある民間銀行部門を補完し、輸出金融での支
ロジスティクス・コストの具体的改善にかかる調
援を行うPT.Bank Ekspor Indonesiaの業務につい
査の継続を希望する声も聞かれた。
ての説明が行われた。以上の報告に続き、インド
以下に、JBICとLPEM-FEUIとの共同調査報告
ネシア商工会議所、元中銀総裁、本邦企業駐在員
「ロジスティックスの観点から見たインドネシア
などから質疑が出され、企業部門からの要望と銀
産業の輸出競争力」の概要を示す。
行部門の想定する与信限度との差異、銀行部門の
再生に関して民営化自体が全てを改善できるか、
2.共同調査報告の概要
などについての議論がなされた。
第2セッションにおいては、共同調査の成果
(後述2.参照)が発表された。昨年度のセミナ
(1)調査概要
イ.目的
ーで基調講演を行った木村教授より、インドネシ
インドネシアにおける天然資源部門以外の輸出
アのロジスティクス・コスト情報を得た本共同調
産業の輸出競争力強化を検討するに際し、①ロジ
査の意義についての評価がなされるとともに、東
スティクス・コストがどの程度障害となり、②ど
アジアの生産・物流ネットワークにインドネシア
のような要素がロジスティクス・コストの高額化
が参加することで、ロジスティクス・コストの削
を招き、③どのような解決策が提言できるのか、
減が図られ、東アジアに存在する位置の優位性が
を分析・検討することが当調査の目的である。イ
より発揮され得ること、中堅中小企業を含めた
ンドネシアにおいてはこれ迄経済効果に関しての
FDIの招致をすすめることが今後の産業分化によ
マクロ的分析例はあったものの、個別企業の財務
る経済発展の基となる、といった提言がなされた。
データベースのいわばミクロ的視点にたった実態
また、インドネシア商工会議所のDr. Tambunan
調査が無かったことから、日本での事例を参考に
理事は、貿易金融の脆弱性や政治的社会的不安定
調査票を作成し、輸出業者に対して回答及び追加
性、人的資源の不足、政策による市場のゆがみ、
聴取調査行い、生産価格に対するロジスティク
図表1
調査対象企業
ジャカルタ周辺
スラバヤ
メダン
マカサ
合計
(地域別産業別:社)
加工食品
繊維
電気
自動車
合計
5
4
7
4
20
36
1
1
0
38
9
2
0
0
11
3
2
1
0
6
53
9
9
4
75
出所)LPEM-FEUI&JBIC
2005年11月 第27号
17
また、米国では日本より1994年以降高く推移して
ス・コスト情報を収集した。
おり、2004年は前年の7.52%から8.37%へと上昇
*10
ロ.収集情報
したが、それでも10%以下である 。このような
インドネシアの天然資源部門以外の主要輸出産
事例から、発展途上国がロジスティクスの効率化
業であり、輸出奨励産業である①食品加工、②繊
を議論する場合、10%程度をベンチマークとする
維、③電機、④自動車部品を、調査対象産業とし
場合が多い。例えば中国のケースでは、ロジステ
た。
ィクス・コストがGDPの20%を占める(内陸部で
また、インドネシア全土を調査対象とすること
は約3割に達する)という認識が、ロジスティク
は困難であるため、輸出取り扱い量の大きな上位
ス改革への大きなインパクトになり、タイのケー
4港湾を抱える①ジャカルタ周辺、②スラバヤ、
スでも砂糖産業のロジスティクス・コストが20%
③メダン、④マカサを、調査対象地域とした。
に達するという調査結果 が、ロジスティクス効
尚、この種の調査では企業内コストに関する調
*11
率化に取り組む大きな契機になった。
査であるため十分な回答が得られないことが危惧
もちろん、ロジスティクス・コスト比率は各産
されたことから、調査票の質問事項につき事前に
業・各企業の視点からみると、商品価格や地域性、
吟味したことはもとより、調査票の回答を求める
商流特性を反映するものであるため、比率の低い
のみでなく、電話や直接訪問による追加インタビ
ことが、必ずしも優秀性を示すものではない。し
*8
ューを行なった結果、75社のデータ を得ること
かしながら、インドネシアでは、この種のロジス
ができた。原資料収集を行ったLPEM-FEUIの努
ティクスの効率性等を議論とするための実態デー
力を付記するとともに、深く敬意を表したい。ま
タが収集されてこなかったことから、初めての実
た、対象地域の商工会議所、フォワーダー他から
地調査がなされた意義は高いと考える。
のヒアリングによる側面情報の収集も行った。当
該実態調査が今後とも継続され、さらにデータ内
ロ.ロジスティクス・コスト分析
容の充実が図られることを期待したい。
調査の結果(図表2)
、生産価格に占めるロジ
スティクス・コスト総額(調達ロジスティクス・
(2)調査結果概要
コスト+内部ロジスティクス・コスト+製品ロジ
イ.ロジスティクス・コスト
スティクス・コストの合計)は、回答全企業の平
本調査で、調査対象としたロジスティクス・コ
均で、14.08%という数値を得た。これは、タイ
ストは、外部に支払う費用に加え、自社内で発生
や中国を考えるとかなり低めの数値で、ポジティ
する費用(物流部門や自社倉庫の人件費、運搬・
ブな評価が与えられよう。しかしながら内訳は、
倉庫施設等)を加えた総費用で、日本の場合、全
調達ロジスティクス・コスト
産業ベースでは2004年度は5.01%で、業種により
ス・コスト総額の51%と極めて大きな割合を占め
*9
差はあるが、おしなべて10%以下 の水準である。
図表2
がロジスティク
*13
ている。これは日本をはじめSCM コンセプト
ロジスティクス・コストの生産価格対比内訳
生産価格に占める割合
ロジスティクス・コストに占める割合
18
*12
調達ロジスティクス 内部ロジスティクス 製品ロジスティクス
・コスト
・コスト*16
・コスト*17
7.22%
2.82%
4.04%
51%
20%
29%
*8
対象企業約600社に対して12%程度の規模ではあるが、母集団特性は十分に反映していると認識される。
*9
日本ロジスティクスシステム協会(JILS)『2004年度物流コスト調査報告書』3ページ
*10
同書 11ページ
*11
チュラロンコン大学調査による
*12
ベンダーから輸出者に調達品が到着するまでのコスト。製品価格に含まれる場合には、その割合から算出した。
*13
Supply Chain Management
開発金融研究所報
合計
14.08%
100%
が浸透している国とは全く異なった実態である。
くしているが、依然輸入部材のロジスティック
*14
日本や米国ではSCMマインドによるJIT の進展
ス・コストの比率は高い。日系企業の場合は、自
*15
により調達部門においてVMIやミルクラン とい
社の競争力を維持することと、ローカルコンテン
った手法で調達ロジスティクス・コストの削減を
ト要求に応じるために、日本で起用しているベン
成し遂げたが、インドネシアでは、こうした部分
ダー企業に自社の工場の近辺に進出を求め、日本
の改善がなされていないことが想起される。
と同様のスタンダードでの部品納入を求めてきた
また、調達ロジスティックス・コストは輸入部
歴史がある。その結果、ローカル調達といっても
品・部材にも大きく影響を受けており、55%が輸
近距離からの実質日本
(外資)
企業からの調達が主
入コストであった。ASEAN域内統合あるいは
である。ところが、ローカル企業の場合は、日系
2010年を目途にした経済統合を目指し、既にイン
企業ほど関連企業の集積が果たされている訳では
ドネシアでは域内関税を5%にし、輸入障壁を低
なく、遠距離のローカル企業からの調達は、ロジ
図表3
地域別ロジスティクス・コスト内訳
マカサル
5.53
0 2.7 3.46
メダン 2.63 4.62
4.95
15.62
2.95 2.55
13.66
4.80
2.57
0
図表4
11.69
5.33
3.04
スラバヤ 1.84 6.32
ジャカルタ 2.99
(%)
国内調達
海外調達
内部
製品
15.31
10
20
産業別ロジスティクス・コスト内訳
食品
3.95
繊維
3.28
電気
3.95
3.43
3.81
3.21
(%)
2.16
4.15
2.59
4.31
2.59
4.27
13.69
13.99
14.02
国内調達
海外調達
内部
製品
14.60
自動車 1.81
0
5.44
5
3.92
10
3.43
15
20
*14
just-in-time
*15
VMI(Vender Managed Inventory):各ベンダーがセットメーカーへ個別に納入してきたものを、集約化し一括してコントロー
ルしようとする手法。そのための具体的方法として、複数のベンダーを一台の車両でルート・時間を決めて立ち寄ち、必要部分の
みを集荷する方法を、
「牛乳の集配」に似ていることから「ミルクラン方式」と呼ぶ。
*16
外部に支払われる物流費用でなく、自社で発生する物流コスト(物流部門の人件費等)
*17
輸出者から製品が出庫され、港湾に搬入され船積みされるまでの物流コスト
2005年11月 第27号
19
スティクスの面での、優位性が保つことが難しい
ニ.産業別特徴
*18
ことが想定される 。
自動車部品産業の場合、輸入部材調達の多さが
コストの大きな要素となっている。同産業以外の
ハ.地域的特長
約6割の企業が、調達距離は10キロメートル以内
ジャカルタ周辺地区のロジスティクス・コスト
と回答しているなかで、繊維産業は70%が中長距
は、他の地域より高い。対象企業数の70%がこの
離の調達が多いとしており、輸送距離の長さに特
地域であることが示すように、インドネシアの輸
徴がある。しかし繊維産業はそのほとんどの輸送
出集積はジャカルタ周辺にあり、特に、外資系企
業務をアウトソーシングしており、国内調達コス
業が多い。しかし、このように産業集積が行われ
トが高いものとはなっていない。
ている場所であるなら、調達ロジスティックス・
食品加工産業は近距離ではあるものの、原材料
コストが下げられ、ロジスティクス・コスト全体
を毎日調達しているものが65%となっており(全
が下げられるはずであるにもかかわらず、平均よ
体では39%)となっており、高頻度納入が、コス
り高い数値となっている。
ト上昇要因と考えられる。
図表5
資本別ロジスティクス・コスト内訳
国内企業
3.42
4.17
(%)
3.23
4.18
15.00
国内調達
海外調達
内部
製品
外資系企業 3.08
0
図表6
3.78
2.40
5
3.90
10
13.16
15
20
規模別ロジスティクス・コスト内訳
中小企業
3.33
3.39
(%)
3.20
4.25
14.14
国内調達
海外調達
内部
製品
大企業
3.09
0
*18
20
4.45
5
2.30
3.72
10
インドネシアの産業集積は、タイや中国に比較して低いという見解が多い。
開発金融研究所報
13.56
15
ホ.資本別特徴
を提供し競争的な運賃や輸送に付加したサービス
外資系とローカル企業を比較すると、外資系企
で、輸出業者をサポートしているためである。
業の方が、ロジスティクス・コストが低い。外資
インドネシアにおいては、国内陸運においても
系企業の場合は、
(特に日本企業では)進出の際
少量貨物を輸送するシステムが十分に発達してお
にベンダーをも同時に進出させることが多く、近
らず、
「混載業者」の育成は、輸出促進の観点か
距離からの調達が多いことが、この結果を生んで
ら重要な検討課題と指摘できる。
いるとみられる。今回の調査では、日系企業は3
社しか含まれておらず、日系企業は(2)ロ で
ト.製品ロジスティックス・コストの内訳
述べたように、自身のベンダーを近くに立地させ
本実地調査において、製品ロジスティックス・
ており、調達コストの低減が図られている。日系
コストの構成要素として、フォワーダーの請求項
企業の回答比率が高くなれば、海外調達比率はま
目を知ることができた。それによると、請求項目
すます下がり、それに比例してトータルコスト比
の多く7∼8割を占めるのがターミナルハンドリ
率も下がっているのではと推測でき、ローカル企
ングチャージ(THC)とトラック輸送費である。
業との競争力の差は大きく示されるものと考えら
①THC
れる。
THCは、荷主側の立場からすると、コンテナ
へ.規模別特徴
荷役料金として海上運賃に含められるべきチャー
当然ではあろうが、バーゲニングパワーを生か
ジが、高額になったため「外だし」されたもので
している大企業が中小企業よりコスト比率が小さ
ある。そのため、不要なチャージとみなされやす
い結果となっている。本調査では、大企業を従業
く、割高感としては一番感じられやすいチャージ
員200人以上としたが、インドネシアでは50人以
ではある。実際、インドネシアのTHCは、アセ
上が大企業に分類されることから、今回の調査企
アン諸国のなかでも最も高く、タイの2倍程度に
業の91%が50人以上の大企業であった。日本では、
*20
なっている 。高額なTHCの原因としては、港
大企業は運輸会社と直接運賃交渉を行いバーゲニ
湾作業の独占による非効率性によるものという見
ングパワーを生かすことはもとより、中小企業も
方が、もっとも良く聞かれる。ジャカルタの外港
競争力のある運賃が取得可能である。なぜなら、
であるタンジュンプリオク港では、香港のポート
中小企業向けのニッチ産業としてのフォワーダー
*19
「混載サービス」
やNVOCC といった事業者が、
図表7
製品ロジスティックス・コストの内訳
通関書類作成・申告
通関EDI
税関審査料
THC
トラック輸送費
B/L作成料金
コンテナあげおろし料金
ハンドリングチャージ
サービス料金
合計
*19
オペレーターであるハチソン社に運営を委ねる
「民営的」プロセスを導入はしているが、ポート
料金(Rp)
コスト割合
20フィートコンテナ 40フィートコンテナ 20フィートコンテナ 40フィートコンテナ
25,000
25,000
1%
1%
100,000
100,000
4%
3%
60,000
60,000
2%
2%
700,000
1,000,000
25%
26%
1,350,000
2,070,000
48%
53%
360,000
360,000
13%
9%
75,000
125,000
3%
3%
35,000
45,000
1%
1%
100,000
125,000
4%
3%
2,805,000
3,910,000
100%
100%
NVOCCとは、非実運送業者(Non Vessel Ocean Common Carrier)のこと。自分では船を持たないものの、顧客より貨物を集荷
し、自身が荷主となって実運送業者の運送手段を利用する。実運送業者にとっては荷主であり、荷主にとっては輸送業者という役
割を果たす。
*20
タイでは20フィートコンテナ:60ドル 40フィート100ドルに対し、インドネシアはそれぞれ150ドル、240ドルとなる。
2005年11月 第27号
21
オペレーターとしては、港湾部門を(コストセン
フォワーダーの請求書からは、他の諸国の例か
ターとしてではなく)プロフィットセンターとし
らは、あまり「なじみ」のないコストがみられる。
て捉えなければならず、アジア危機後、貨物量が
例えば、請求項目のなかにある 1)通関EDI
増えていない現状とあいまって、荷主側にTHC
2)B/L作成料金、3)コンテナあげおろし料
として付加的料金を請求せざるをえないといった
金(リフトオン/オフチャージ)といったもので
状況であることが推察される。
ある。
②トラック輸送費
関書類作成・申告」の4倍という高い水準は特異
仮に、通関EDI料金が徴収さえるにしろ、
「通
トラック輸送費自体は、単価ベースではタイや
と言えようし、B/L作成料金も、船会社の運賃
マレーシアよりは安価であり優位をもっていると
に包含している例が多く、他国では例がほとんど
いえる。しかし、タンジュンプリオク港から、工
無い。また、コンテナあげおろし料金は、本来海
業団地への道路はバイパスが無くほとんど全ての
上運賃やTHCに含まれているものであろう。こ
工業団地が同じ道路に面しているために、1)朝、
れら、3者を合わせたコスト比率は、20フィート
港から空コンテナを輸送し、東に向かう、2)到
で20%、40フィートで15%に達する。これは、グ
着後、コンテナ詰め作業、3)昼休み後、午後に
ローバルスタンダードでは、徴収自体が疑問視さ
積載済みコンテナを港湾に輸送、船会社に引渡し、
れる項目であったり、高い金額であると指摘でき
という1日1回(よくて、1回半)程度の車両ロ
よう。
ーテーションを余儀なくされている。その結果、
同時間帯に同方向の貨物の流れが発生し、渋滞を
発生させる要因にもなっている。同様に、車両の
回転率の悪さは当然、コストに跳ね返り、本来の
コスト優位性を活用できていない。
根本的解決は、需要量を凌ぐ道路インフラの一
(3)政策提言−期待される「即時性や実効性」
のある改善策への取組み−
ロジスティクス問題の解決策としては、インド
ネシア側から多分に聞かれることは①インフラの
*21
不足 ②不公正な支払い
③政府による規制の
層の充実ではあろうが、主要幹線道路は、片側3
排除である。これらが問題視されることは否定で
車線の自動車専用道路である。交通量が道路容量
きない。
に不十分であることとは別に、路肩走行・走行レ
最重要課題と目される①のインフラ不足の指摘
ーンを守らないこと、車齢の高い車両が利用され
についてであるが、タンジュンプリオク港につい
ていることなども更なる渋滞の起因となっている
てみれば、ガントリークレーンも導入され、最低
という指摘もできる。車両走行ルールは、アジア
限のコンテナ施設は導入されており、幹線道路に
のなかでは悪い水準といえる。また、上記の幹線
ついても同港から東部への工業団地はほとんどの
部分と工業団地との連絡道路(連結道路)は、地
部分で往復6車線の高速道路が整備されており、
方政府が管轄しているためか連続性と整備が不十
こうした例で見ればハードの拡充が全ての解決策
分であり、料金所渋滞も含め、短距離にもかかわ
*22
であるとは言えない 。加えて、従前よりこの3
らず、長時間を要する要因となっている。ハード
つの対応すべき課題については、現地駐在員から
インフラの充実が強調されるあまり、付随する周
は「10年前から変わらず」と言われており、なん
辺インフラやソフト面での対応が放置されていて
ら期待される様な変化がないといった指摘がある
いることも要因と指摘できる。
ことも傾聴されるべきである。
政治的・戦略的課題解決の前に、前述の「混載
③「見慣れないコスト」
*21
*22
業者」の育成や道路行政に加えて、小規模でも
いわゆる賄賂。それを支払うことで便宜を図ってもらい、希望に応じた処理が可能である点、実務上は容認されてきた。
インフラは存在するにしろ、それが適正にメンテナンスされ使われているかという観点からみると、港湾施設は故障が多く使用さ
れていないといったケースが多い。日系企業の現地駐在員には、ハードそのものより、このような点を問題視する意見も多い。
22
開発金融研究所報
「即時性や実効性」のある改善策にも目を向ける
必要がある。
最後に
先ず、製品ロジスティックス・コストの削減に
グローバリゼーションの深化により、
「生き残
ついては、トラック輸送費用の改善について実務
り」をかけた世界的な競合が生じ、SCM志向か
的な対応策として「インランド・コンテナ・デポ」
らロジスティクス部門に対しては高頻度、迅速な
での対応を提言とした。内陸部に税関管轄のコン
サービスを低コストでサービス提供することが求
テナターミナルを作り、コンテナの引渡し、受け
められている。先進国企業に限らず、タイのみな
取りを行う構想であるが、港湾のコンテナ機能を
らずアセアン諸国のローカル企業にも見られるよ
一部内陸に移転することで、貨物の集中を避けう
うになっており、本調査の前述聴取結果を見る限
るというメリットがあり、日本やタイでも成果を
りローカル業者との間では大きな温度差がある。
あげた実例のある手法である。但し、多くの先進
天然資源のみならず、東アジア域内の生産・物流
事例では船会社が内陸と港湾輸送料金を運賃に含
ネットワークを活用して、輸出拡大と(輸出志向
む形式で費用吸収をはかっており、インドネシア
の)海外直接投資(FDI)招聘に努め、これによ
での適用を想定する場合、さらなる金額負担を顧
り高い経済成長と雇用機会の創出を検討するので
客に求める結果にもなりかねないので、空コンテ
あれば、このような温度差が放置されることは、
ナのみを扱うコンテナ・デポの設置策でも効果が
益々世界競争のなかで、インドネシアの事業環境
得られるのではないか、との提案とした。この場
への評価が高まらないとの懸念を払拭できない。
合、保税の管理等税関ハンドリングも不用で、か
インフラの質的改善に関してのインドネシア国内
つ、朝夕の道路混雑緩和にも有効であり、なによ
での今後の一層の議論を期待するとともに、議論
り空コンテナを置くだけであるので、初期投資所
を反映したインドネシアの利点を生かした競争力
要額も大きく無く、比較的、低コストで効率化サ
強化への早急な対応を期待したい。
ービスを提供できる可能性を持つ手法である。
調達ロジスティックス・コストの削減について
も、ハブ&スポーク方式を可能とする「物流拠点
の構築」や、日本、欧州などで行われているRORO船の導入によるトラック輸送とのリンクを活
用した「内航貨物システムの改善」など、ハード
インフラの改善のみでなく、ソフトを含めたロジ
スティクス・システム全体の改善の事例が諸外国
で多くなされ効果をあげていることから、インド
ネシアにこのようなロジスティクス・システムの
移転が可能であるのか検討されるべきと提言す
る。
また、改革を可能にするには、ロジスティク
ス・ユーザー(荷主)からの協力やニーズの高ま
りが必要である。残念ながら本調査での聴取では、
とりたててロジスティクスに対してのニーズがな
く、迅速性や定時性、あるいは在庫削減といった
段階で輸出者の評価は「妥当(Fair)
」とする回
答が過半となっており、先ず、本調査に基づく情
報の提供と議論の活性化が求められる。
2005年11月 第27号
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