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平成 21 年度ヒートアイランド現象による環境影響等に関する

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平成 21 年度ヒートアイランド現象による環境影響等に関する
2章
2.1
適応策の技術に関する調査
霧噴 射装置の 概要
微 細 な ノ ズ ル か ら 水 を噴 射 す る こ と に よ り 、大 気 中 へ 微 細 な ミ ス トを 噴 霧 し 、 噴 霧 直
後に蒸発する ことで気 化熱を利用し て気温を 低下させる装 置である 。
ミ ス ト 噴 射 の シ ス テ ムは 、 水 を 高 圧 で 送 り 出す ポ ン プ 、 高 い 圧 力 の水 を 送 水 す る 耐 圧
管もしくはホ ース、そ してノズルが 基本的な 構成要素とな る。地上 3m 程度の高さか ら
ミ ス ト を 噴 霧 す る こ とで 、 ミ ス ト が 降 下 す る際 に 気 化 し て 気 温 が 低下 す る 。 人 の 位 置 に
到 達 す る ま で に は ミ スト が ほ ぼ 気 化 す る こ とで 、 人 が 濡 れ る こ と なく 暑 熱 を 緩 和 す る こ
とができると されてい る。
図 2-1
ミスト噴射装置のシステム図
資料)ヒートアイランド対策ガイドライン、環境省
図 2-2 ミスト噴射装置
資料)三菱地所(株)提供
1)ノズルと ミスト粒 径
ミ ス ト の 粒 径 は ノ ズ ルの タ イ プ に よ っ て 異 なり 、 高 い 圧 力 の 水 の みを 噴 射 す る タ イ プ
の1流体ノズ ルでは粒 径のばらつき があり 10~40μm 程度と なって いる。一 方、空 気と
水 を 使 う 2 流 体 ノ ズ ルは 、 水 に 高 い 圧 力 は 加え な い で 圧 搾 空 気 と とも に 水 を 放 出 す る こ
とで超微細な 10μm 程 度の比較的均 一な粒径 のミストを噴 射する 。なお、ミス ト粒径の
計測にはザウ ター平均 粒径 1が使われ る。
2 流体ノズルは圧搾 空 気を作り出す ためのコ ンプレッサー のエネル ギー消費が大 きく、
水 1ℓを噴霧する のに 80kWh のエネルギ ーを 要する。一方 、 1 流体 ノズルでは高 圧ポン
プの動力が同 じく水 1ℓを噴霧するの に 2.2kWh と 2 流体に比 較して 圧倒的に必要 電力量
が小さい。( 表 2-1)
1
ザウター平均粒径:総体積/総表面積
23
表 2-1
水 1t を加湿す るのに要する エネルギ ー 2
また、加圧せ ずに水道 直圧のみで数 百μ m 程 度の粗いミス トを対象 物に散布して 表面
を冷却する直 圧型ミス ト 3は、夏季の 屋外運動 競技などで活 用される など、熱中症 予防策
として使われ ている事 例が見られる 。
2)霧(ミス ト)噴射 の導入と運転
ミスト装置の 運転には 、手動で ON-OFF する ものと気象セ ンサーを 備え、一定の 条件
下で稼動する ように設 定する方法が ある。後 述するが、ミスト の効 果は気温、湿度、風、
降 雨 の 状 況 な ど に よ って 異 な る こ と か ら 、 効果 的 に ミ ス ト を 活 用 する た め に は 一 定 の 条
件下で運転す ることが 望まれる。
気象センサー としては 、温度計、湿 度計、風 速計及び降雨 センサー を設けている こと 4
が一般的であ る。ただ し、例えばノズル 50 個程度で 2.5ℓ/min の噴霧を行う標準的なシステ
ムでは自動制御システ ムを組み込ま ない場合 で 300 万円程度の シス テムが、気象 センサ
ー及び自動制 御システ ムを組み込む ことで工 事費を含めて 500 万円 以上のイニシ ャルコ
ス ト が か か る と さ れ 、多 く 普 及 し て い る も のは 価 格 の 安 い 手 動 運 転タ イ プ と な っ て い る
(メーカーヒ アリング)。
自動運転を実 施した場 合でも、上 水道や電気 代 を含めたラン ニングコ ストは月に 5,000
円程度(夏季の 3 ヶ月 で約 500 時間程 度の運 転をした場合 の 1 月分 )とのことである(メ
ーカーヒアリ ング)。
ま た 、 研 究 事 例 と し ては 、 ミ ス ト が 気 化 せ ずに 床 ま で 到 達 し て し まう 状 態 で は 運 転 を
停止するよう 、床濡れ センサーによ る制御で も効果的な運 転ができ るとされてい る 5。
3)霧(ミス ト)噴霧 装置の設置場 所
メーカーへのヒアリングによると、設置場所としては屋外の地上部が多く、ショッピングセン
ターやアミューズメント施設、パーキングエリア、市役所、鉄道駅などの人が多く集まる場所で
2
植村聡「加湿冷房技術の進展」空気調和・衛生工学、第 82 巻、8 号、2008 年
山崎弘太郎「大阪市水道局における水道システムを活用したヒートアイランド対策」水道協会雑誌、第 77 巻、
9 号、2008 年
4 平井弘毅「都市空間を冷やす微細な霧(ドライミスト)
」資源環境対策、第 44 巻、11 号、2008 年
5 石井智洋、紅谷真司、戸張彩香、辻本誠「実験住宅におけるドライミスト噴霧に関する研究(第 2 報)
」日本建
築学会学術講演梗概集 D-2、環境工学 2、2009 年
3
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の設置が多い。半屋外空間のような建物のエントランスでの設置も見られる。
製鉄所など暑熱環境の厳しい労働作業環境や、半屋外のような造船所や車両整備場などの作業
環境での熱中症対策としての導入も進んでいる。
人だけでなく、動物園や水族館など動物の暑熱緩和を目的とする施設での設置も見られる。
自 治 体 で の 導 入 が 増 えて い る が 、 ド ラ イ ミ スト は 視 覚 的 に 強 く 訴 える 効 果 が あ り 、 市
民 に 施 策 の 目 的 を 説 明し や す い こ と が 導 入 の理 由 と し て 考 え ら れ る( メ ー カ ー ヒ ア リ ン
グ)。
4)霧(ミス ト)噴霧 装置の製品概 況
現在、多 くの製品が 開発され、販売もしく はレンタル等 により市 場に提供され ている。
ここでは、調 査した関 連製品につい て、その 概況をまとめ る。
市 場 に 出 回 っ て い る 製品 の う ち 、 屋 外 で の 暑熱 対 策 等 を 目 的 と し てい る も の で は 、 そ
の多くが1流 体ノズル を採用してお り、ミ ス ト粒径は 10~30μm 程 度となってい る。2
流 体 ノ ズ ル に つ い て は選 択 可 と し て い る 製 品が 多 少 見 ら れ る が 、 メー カ ー に ヒ ア リ ン グ
し た と こ ろ 、 屋 外 に 設置 す る 場 合 に は コ ス トの 安 い ( 製 品 価 格 の 安い ) 1 流 体 ノ ズ ル が
選 ば れ る と の こ と で あっ た 。 2 流 体 ノ ズ ル につ い て は 、 粒 径 が 小 さく 安 定 し て い る こ と
か ら 、 暑 熱 緩 和 と は 目的 が 異 な る が 屋 内 で 消臭 薬 剤 等 を 噴 霧 す る こと で 消 臭 な ど の 用 途
に使われてい るとのこ とであった。
現 在 販 売 さ れ て い る もの は 可 搬 式 で か つ フ ァン が 装 備 さ れ て い る (可 搬 式 の も の は 多
く の ノ ズ ル か ら 局 所 的に ミ ス ト を 噴 霧 す る ため 、 フ ァ ン で 強 制 的 に拡 散 さ せ る ) も の が
多 く 、 夏 季 の イ ベ ン ト時 な ど に 暑 熱 対 策 と して 地 上 に 設 置 し て 使 われ て い る と 考 え ら れ
る。
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2.2
霧噴 射装置の ヒートアイラ ンド緩和 効果
1)気象条件 による気 温低減効果の 違い
ミスト噴射装 置による 効果は一般的 に 2~3℃ 程度といわれ ている。屋外と半屋外 でミ
スト噴射 による 気温低 下効果を 測定し た事例 6では、屋 外空間 では 1.5℃程度、 半屋外 空
間では 2~3℃程 度の気 温低下効果が 確認され ている。
図 2-3
ミス ト噴射効 果(左:屋外 、右:半 屋外) 6
屋 外 については 2003 年 夏 季 に名 古 屋 駅 近 くの駐 車 場 敷 地 (100m×40m)に 25 本 のミストツリーで高 さ 6m か
ら噴 霧 (6.0cc/min・㎡)。半 屋 外 については 2004 年 夏 季 に愛 知 県 日 進 市 のグランドに 2 つの大 型 テント(12m
×20m)に 12 本 のミストツリーで高 さ 3.5m から噴 霧 (10.0cc/min・㎡)。
ただし、気温や湿度などの条件によってミストによる効果が異なることも指摘されて
いる。気温、湿 度、風速 などとミスト による気 温低減効果と の関係を 測定した事例 7では、
気温 は 比較 的 低い 温 度 帯か ら ミス ト 効果 ( 温 度差 ) が見 ら れる が 、 31℃ を超 え る辺 りか
ら効果が大き くなる傾 向が見られた。相対湿 度については 湿度 60% を超えないと ころで
効果が見られ た。
図 2-4
温湿 度の違い がミストの効 果に及ぼ す影響(左: 気温、右 :湿度) 7
2003/7~ 8 に か け て 名 古 屋 市 の 駐 車 場 約 3,080 ㎡ に 24m×24m の 区 画 で 6.0ml/min・㎡ の ミ ス ト を 噴 霧
6
奥宮正哉「建物周辺微気候の調整・制御-ドライミストを用いた環境制御」日本建築学会環境工学委員会熱シ
ンポジウム、2007 年
7 林啓紀、児玉奈緒子、辻本誠、奥宮正哉、原田昌幸、一瀬茂弘、奥山博康、進藤義一「ドライミスト散布によ
るヒートアイランド抑制システムの開発(その1)ミスト散布条件、気象条件と気温低下の関係」日本建築学会
学術講演梗概集(北海道)2004 年
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ま た 、 風 速 に つ い て は複 数 の 測 定 事 例 が 見 られ る が 、 そ の 結 果 に は大 き く 違 い が 見 ら
れる。図 2-5 で は 3m/s を越えると ころでは 効果が全く見 られず、 風速 2.1m/s 以下では
効果が大きく なってい た。図 2-6 では 1.5m/s を超える辺り から効果 が期待できな くなっ
ている。さら には図 2-7 では風速が増す こと で効果が少な くなるこ とは同様であ るが、
比較的大きな 風速でも 1℃以上の効果 が確認さ れている。
図 2-5
風速 がミスト 効果に及ぼす 影響① 7
図 2-7
図 2-6
風速 がミスト 効果に及ぼす 影響② 6
風速 がミスト 効果に及ぼす 影響③ 8
こ の よ う に 、 気 象 条 件に よ っ て は ミ ス ト の 効果 が 期 待 で き な い 場 合が あ り 、 ミ ス ト 噴
射 装 置 を 気 象 セ ン サ ー等 と 連 動 さ せ て 一 定 の条 件 の も と で 自 動 運 転さ せ る こ と の 意 味 が
ここにある。
た だ し 、 特 に 風 速 が ミス ト の 効 果 に 及 ぼ す 影響 が 研 究 事 例 に よ っ て異 な る こ と は 、 都
市 内 の 建 物 近 傍 等 で の風 速 分 布 は 均 一 で は なく 非 常 に 大 き な ム ラ があ る こ と を 考 慮 す る
と 、 一 律 の 風 速 の 閾 値を 持 っ て 効 率 的 な 自 動運 転 の 条 件 と す る こ とは 難 し い こ と が 分 か
る 。 ミ ス ト 装 置 の 設 置場 所 ご と に 風 速 な ど の運 転 条 件 を 検 討 す る こと で 、 効 果 の 高 い ミ
スト噴射装置 の活用が 可能となると 考えられ る。
例えば、熊谷 駅の事例では、毎日7時から 21 時までで「気温 27℃以上・湿度 70%未満・風
速3m未満・降雨なし」を稼動の条件としている。
8
辻本誠「ドライミストの効果について」給排水設備研究、第 25 巻、2 号、2008 年
27
東京 23 区 でヒ ー トア イラ ン ド現 象 の 原因 で ある 顕 熱量 の 削 減に ミ スト を 活用 す る方
法も提案され ている。一般家庭への ミスト噴 射装置の導入 を検討し た研究事例 9では、東
京 23 区の 7.6%の世 帯 に普及するこ とで、23 区全体の住宅 からの顕 熱を潜熱化す ること
ができるとし ている。
な お 、 ミ ス ト 噴 射 に よる 気 温 低 下 効 果 の 測 定に お い て は 、 熱 電 対 を用 い た も の が 主 流
で あ る 。 多 く の 温 熱 環境 等 の 測 定 を 実 施 し てい る 日 本 工 業 大 学 成 田健 一 教 授 に ヒ ア リ ン
グ し た と こ ろ 、 ド ラ イミ ス ト 噴 霧 時 の 気 温 測定 で は 、 水 滴 が 熱 電 対に 付 着 し 、 結 果 と し
て 湿 球 温 度 を 計 測 し てい る 可 能 性 を 指 摘 さ れた 。 実 際 に 成 田 教 授 が計 測 し た と ろ 、 超 音
波 風 速 計 で 測 定 し た 温度 に く ら べ 、 熱 電 対 によ る 測 定 値 は 低 下 し てお り 、 厳 密 な ド ラ イ
ミ ス ト の 効 果 測 定 に は熱 電 対 は 不 適 切 で あ り、 適 切 な 効 果 測 定 の ため に は 、 超 音 波 風 速
計による音仮 温度 10の測定と赤外吸収 湿度計に よる水蒸気量 の測定が 必要としてい る。
2)ミストに よる体感 、心理・生理 的改善効 果
ミストを空気中に噴霧することで湿度が上昇し蒸し暑くなることが懸念される。
ASHRAE などの研究成果 11では、相対湿度 75%までは温冷感 は気温に よって決まる とさ
れる。そのため、ミス ト噴射により 相対湿度 が上昇しても 75%以内 で運転すれば、ミ ス
ト の 効 果 が 得 ら れ る こと が 分 か る 。 す な わ ちミ ス ト に よ る 温 度 降 下で 暑 さ が 和 ら げ ら れ
る効果が、湿度上 昇で 暑さが増す効 果を上回 ると予測でき る 12。ミストの自動運転 条件と
して湿度 70%以 下とし ているケース が多いの は、気化し やすさと い う視点の他に も、体
感的な快適性 を保つ観 点からも理解 できる。
ま た 、 ミ ス ト 噴 射 は 視覚 的 で 涼 し げ な 印 象 を与 え る と い っ た 心 理 的な 効 果 も あ り 、 ミ
ス ト に よ る 快 適 感 の 向上 を 調 べ る 事 例 が 見 られ る 。 心 理 反 応 や 生 理反 応 が 比 較 的 近 い と
考 え ら れ る 一 卵 性 双 生児 等 を 対 象 と し て ミ スト に よ る 快 適 感 の 向 上に つ い て 研 究 し た 事
例 13では、ミス ト噴霧あ りとなしのテ ントでの 快適感申告の 結果、不 快・やや不快 の申 告
がミス トなし では 40% 程度で あるの に対 しミ ストあ りで は 20% 以下 となっ ていた (図
2-8)。
9
大手山亮、辻本誠、石井智洋「ドライミスト装置の開発と環境勘定」日本建築学会大会学術講演梗概集(九州)
、
2007 年 8 月
10 音波の速度は気温以外にも水蒸気量にも影響されるため、超音波温度計で測定される温度は大気中の水蒸気量
で補正する必要があるが、この水蒸気補正を行っていない超音波温度計による温度を音仮温度という(大阪府立
大学生命環境科学部大気環境学研究室)。
11 Koch, Jenning and Humphrey : Sensation Responses to Temperature and Humidity, ASHRAE trans,
66(1960)
12 辻本誠「ドライミストによる蒸発冷房の現状」クリーンエネルギー、第 17 巻、1 号、2008 年
13 尹奎英、奥宮正哉「都市におけるクールスポット ライミスト」空気調和・衛生工学、第 83 巻、8 号 2009 年
28
図 2-8
ミス トあり・ なしの快適感 申告
12
ミ ス ト 環 境 下 で の 温 熱快 適 性 に つ い て 、 気 温や 相 対 湿 度 を 変 化 さ せた 場 合 の 申 告 を 調
査した事例 14では、気温 の上昇ととも に不快の 申告が増加し ているこ とが分かる。一方 で
相対湿度は変 化しても 快適感にはほ とんど影 響がないよう に見える としている。
図 2-9
2.3
気温 (右)・相 対湿度(左) と温熱感 覚の関係
13
霧噴 射装置の 使用上の課題
ミスト噴射で使用する水は、人の体と接触したり、人の口から体内に取り込まれることも考え
られる。そのため、衛生面に配慮し、使用する水は上水道が適している。
また、重要なことであるが、運転停止時に配管内の水が長期間、配管に溜まることがないよう、
夜間などに水入れ替えのための運転を自動で行うよう設定するなどの工夫が必要である。また、
配管の素材にも配慮し、ステンレスなどを使用することが望ましい。
14児玉奈緒子、林啓紀、原田昌幸、奥宮正哉、辻本誠、佐藤治朗、山田英貴「ドライミスト散布によるヒートア
イランド抑制システムの開発(その5)万博パビリオンにおける温熱快適性に関するアンケート調査」日本建築
学会東海支部研究報告集、第 44 号、2006 年 2 月
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