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ロシア航空機産業の現況について - 一般社団法人 日本航空宇宙工業会

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ロシア航空機産業の現況について - 一般社団法人 日本航空宇宙工業会
工業会活動
ロシア航空機産業の現況について
(MAKS2011出展報告)
JA2012国際航空宇宙展の出展勧誘活動の一環として、8月16日(火)~21日(日)
の間、モスクワZhukovsky(ジコースキー)飛行場にて開催された国際航空宇宙展示会
MAKS2011に参加し、ロシア航空機産業の現況について調査したので報告する。
今回、日本からの出展参加は当日本航空宇宙工業会1社のみであったが、本報告が今
後ロシアとのビジネス開拓を検討されている方々の資となり、またロシアの現況を伝え
ることでロシア企業がJA2012へ出展していくための環境づくりができればと考える。
1.MAKS 2011の概要
するための国有の試験施設となっている。
MAKS2011はロシアの国際航空宇宙展示会
開催期間は6日間でトレードデー4日間とビ
で1992年に第1回を開催して以降、
近年は2年に
ジネス中心の展示会であり、40ヵ国から842
1回の開催間隔により奇数年に開催されている。
社(内海外220社)が参加、11万人が来場し、
会場はロシア中心部から南東40㎞程の郊外
160億ドルの取引があったと報じられている。
にあるZhukovsky飛行場の敷地や施設を利用し
ま た 3 日 間(19 日 は ト レ ー ド / パ ブ リ ッ ク
て、
定期的な開催を行っている。
このZhukovsky
デー)のパブリックデーの入場者数は44万人
飛行場は航空機の地上試験や飛行試験を実施
とロシア国民の関心も高い。
さらに当然のことながら、ロシア産業貿易
省や空軍が強力な支援を行っており、プーチ
ン首相の挨拶や視察があるなど、参加者やメ
ディアに対するパフォーマンスも万全であ
る。今年の目玉は、軍用機では米国のF22戦
闘機に対抗して開発したとされるスホーイ
T-50最新鋭ステルス戦闘機の公開、民間機で
はスホーイSuperJet 100(SSJ)の商談や、新
世代中型旅客機MC-21の開発状況発表などで
MAKS2011会場配置図
SJACブースでの商談
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あった。
T-50ステルス戦闘機
プーチン首相の視察
平成23年9月 第693号
2.ロシア航空機産業の体制構築
けては、一企業が設計、製造、販売を担う体
ロシアは旧ソ連時代に米国と並び大量の航
制が望ましく、現在、ツポレフ社、イリュー
空機を製造してきた。この時代の大量生産は
シン社、スホーイ社等で航空機の開発が行わ
国の要請にもとづき、商品企画は航空工業省、
れているものの、これらの企業を除き、固定
開発はツポレフ社やイリューシン社等の設計
翼 機 で は、統 一 航 空 機 製 造 企 業(United
局が開発、製造はクイビシェフ社(現サマラ
Aircraft Corporation)、回転翼機はロシア・ヘ
社)の第18工場(現Aviakor社)や各地の量産
リコプター、エンジンは統一エンジン製造企
工場が行うというように、分業体制で航空機
業(United Engine Corporation)に航空企業を
を生産してきた。
統一する試みが進んでいる。
(表1∼3参照)
しかしながら、航空機販売への事業化に向
表1 統一航空機製造企業(United Aircraft Corporation)に属する主な企業と役割
企業名
スホーイ設計局
ミグ
スホーイ民間機
KnAAPO
NAPO
NAZ Sokol
ヤコブレフ設計局
イリューシン
アビアスタルSP
VASO
ツポレフ
ベリエフ
ミャシチェフ設計局
KAPO
イリューシンファイナンス
イルクート
主な業務内容
航空機の開発
戦闘機の開発 スーパージェットインターナショナルの主要メンバー
スホーイ系航空機の製造(SSJ含む)
スホーイ系軍用機の製造
ミグ系航空機の製造
輸送機、練習機の開発
輸送機の開発
Tu-204の製造
Il-96系、An-148の製造
旅客機、爆撃機の開発
飛行艇(Be-200)の開発・製造
航空機の開発
Tu-214、Tu-160の製造
航空機のリース
輸送機の開発、Su-30の製造
表2 ロシア・ヘリコプターに属する主な企業と役割
企業名
ミル
カモフ
ウランウデ航空機工場
カザンヘリコプター
ロストベルトル
主な業務内容
回転翼機の開発、改造、オーバーホール等
回転翼機の開発、製造
ミル171、Su-25攻撃機の製造
ミル17、ミル38などの製造
ミル26、24、28の製造、ローターブレードの製造
表3 統一エンジン製造企業(United Engine Corporation)に属する主な企業と役割
企業名
ペルミスキーモートル
チェルニシェフ
クリモフ
クズネツォフ
サトゥルン
UMPO
主な業務内容
輸送機用エンジン、ガスタービンの開発、製造
航空機用エンジン、ガスタービンの製造
航空機用エンジン、ガスタービンの開発
航空機用エンジン、ロケットエンジンの開発
航空機用エンジンの開発、
SaM146プロジェクト主要メンバー
航空機用エンジンの製造
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工業会活動
3.民間機開発の歴史と現況
ソ連崩壊後、民間機分野では、旧ソ連時代
末期に開発されたTu-204、IL-96などの生産が
継続され、両機は90年代前半に就航した。し
かし航空会社は、経営改善の施策として、欧
米の飛行機に代替えしていったためロシア国
内の需要が激減した。
また、経済混乱で生産体制そのものが大き
く乱れたため、仮に受注があっても製造がで
きない状況であったようである。
Tu-204は90年代後半にTu-204-200、Tu-204-
SuperJet100型機
まずはスホーイ社が、Superjet 100(SSJ)の
120、Tu-204-220などの派生の開発が行われ、
開発に着手した。2009年に初飛行、2011年に
2004年にはTu-204-300が就航した。
アエロフロートに就航した。SSJは西側のパー
90年代は、旧ソ連時代に開発、計画された
トナーに広く協力関係を求め、開発、販売で
機種の継続、改良が中心であり、新規に開発
はイタリアのアレニア社、エンジン、アビオ、
された機種もビジネス上の成功をもたらさな
システムの開発や製造等でフランスのスネク
かったようであるが、2000年以降のロシアの
マ社、タレス社などの協力を求めている。スー
経済復興により、開発後のビジネスも視野に
パージェットインターナショナル社は、アエ
入れた新機種開発の機運が生まれた。
ロフロートへの30機をはじめ、100機以上を
受注しているとしている。
現在、統一航空機製造企業は新世代旅客機
MC-21の開発を行っている。この機体はエア
バ ス A-320 シ リ ー ズ と ほ ぼ 同 等 の キ ャ パ シ
テ ィ の 旅 客 機 で、150 人 乗 り の MC-21-200、
181人乗りのMC-21-300、212人乗りのMC-21400が計画されており、旧ソ連を代表する中
距離旅客機だったTu-154やTu-204を置き換え
IL-96-300型機
ていく計画にある。
(表4参照)
またこの機体は新開発のエンジン、最新の
空力研究の成果を取り入れた層流翼、複合材
使用の拡大などにより、経済性、環境性能で
十分な競争力を発揮することを目指してい
る。UACによると現在の機種に対して、15∼
25%のCO2削減、ICAOチャプター4の騒音規
制に対応し、エアラインでの運航では15%経
済性に勝るとしている。旧ソ連諸国の型式証
明を担当するIACのみでなく米国FAA、欧州
Tu-204-300型機
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EASAの型式証明取得を目指すとしている。
平成23年9月 第693号
MC-21のモックアップ
MC-21(UACブースにて)
表4 MC-21シリーズ緒元一覧表
全幅
全長
全高
貨物室体積
エンジン数
最大離陸重量
巡航速度
航続距離
*単一クラス満席 シートピッチ32インチ
座席数
*単一クラス シートピッチ32インチ
座席数
*単一クラス シートピッチ29-30インチ
4.民間エンジン開発の歴史と現況
MC-21-200
MC-21-300
35.9m
35.9m
41.5m
11.4m
11.5m
37.4㎥
53.3㎥
2
67.6t
76.18t
マッハ0.8
5,000㎞
MC-21-400
36.8m
46.7
12.7
70.1㎥
87.23t
5,500㎞
150席
181席
212席
162席
198席
230席
バイパス比エンジンの開発努力がなされ、ソ
高バイパス比ターボファンエンジンが1970
ロヴィエフ設計局が開発したPS-90エンジン
年以降、欧米旅客機の大型化や燃費の向上を
が1980年代に実用化された。旧ソ連では燃費
もたらしたが、旧ソ連では高バイパス比ター
と出力に優れた旅客機用大型エンジンがな
ボファンエンジンの開発が遅れた。
かったために、長距離飛行可能な大型旅客機
旧ソ連末期にプログレス社(現ウクライナ
の開発ができなかったが、PS-90エンジンの
のイフシェンコ−プログレス社)及びソロ
開発により本格的な長距離大型機IL-96-300や
ヴィエフ設計局(現アヴィアドヴィガチェリ
Tu-204の開発が可能となった。そしてPS-90エ
社)は、高バイパス比ターボファンエンジン
ンジンは、その後も能力向上の努力が続けら
の開発を行った。そしてイフシェンコ・プロ
れ、改良型エンジンPS-90A1、PS-90A2等のエ
グレス社の開発したエンジンは、70年代後半
ンジンは、IL-96-400TやTu-204SMといった航
から80年代にかけ小型旅客機Yak-42、大型輸
空機に搭載されている。
送機An-124に搭載された。
一方、ロシアのソロヴィエフ設計局でも高
昨今では、戦闘機のエンジンを開発してい
たサトゥルン社が、フランスのスクネマ社と
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工業会活動
リージョナル機スホーイSuperJet(SSJ)のエ
ンジンを共同開発した。
5.所感
旧ソ連時代は、高バイパス比ターボファン
さらに新世代中型旅客機MC-21への搭載を
エンジン開発の遅れによる航空機大型化や燃
予定しているPD-14エンジンは欧米のエンジ
費改善の遅れ、電子部品の性能が悪いことに
ン性能水準を目指し開発を行っているようで
よるアビオニクスの遅れ、材料開発の遅れに
ある。
よる複合材適用部位が少ない等々、多くの要
因によりロシア航空機の性能は欧米に肩を並
べることができなかった。
しかし、これらの分野での技術開発の努力
と欧州からの部品やシステムの導入により、
性能は改善しつつあり、さらに安価な航空機、
豊富な製造工場や工員数とメリットを活か
し、世界の民間航空機市場に参入しつつある。
今後、技術的な蓄積に加え、タイムリーな
カスタマーサポート等、顧客の満足をいかに
勝ち取っていくかが大きな課題である。言語
の問題、旧体制を引きずった習慣等、まだま
SSJ機搭載エンジン(スネクマ社ブースにて)
だ乗り越えなければならない課題は多いと感
じた。
〔(社)日本航空宇宙工業会 JA事務局兼国際部 部長 宮 修一〕
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